成膜方法及び成膜装置
【課題】マスクと基板との隙間を介して侵入する蒸着物質によって生じる輪郭ボケや回り込み等のない、高品位な薄膜パターンを得ることができる成膜装置を提供する。
【解決手段】基板20の裏面の、マスクフレームの内側であって、マスクの開口領域10の外側の領域を、基板の対向する2辺に沿った線状に、押圧体30によって押圧することにより、マスク開口部の変形を招くことなく、基板とマスクとを略水平状態にして密着させることができる。
【解決手段】基板20の裏面の、マスクフレームの内側であって、マスクの開口領域10の外側の領域を、基板の対向する2辺に沿った線状に、押圧体30によって押圧することにより、マスク開口部の変形を招くことなく、基板とマスクとを略水平状態にして密着させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面に密着配置したマスクの開口パターンに応じて、基板上に所定の薄膜パターンを形成するための成膜方法及び成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機エレクトロルミネッセンス(EL)薄膜の製造工程には、所定の開口パターンを有するマスクをガラス基板に密着するよう配置して成膜するマスク成膜法が多く採用されている。このようなマスク成膜法の一例として、以下のマスク蒸着法が知られている。
【0003】
マスク蒸着法とは、基板表面(被成膜面)を下側に向けて配置し、基板表面と対向して配置した蒸着源から蒸発される蒸着物質をマスクを介して基板表面に蒸着させ、基板表面に所定の有機EL薄膜を成膜させる方法である。このような有機EL薄膜をカラー表示パネルとして適用する場合、表示パネルの画素ピッチの大きさと同程度の薄膜パターンを成膜するため、それに応じた開口部を有するマスクを使用する。表示パネルの画素ピッチは数十μmであり、赤、緑、青の3色の画素が規則的に配置されているため、マスクの開口部もこれらに対応して形成されている。例えばマスク開口部の形状として、複数の画素に渡って開口しているスリット形状や、画素毎に開口しているドット形状のものが適用される。
【0004】
近年では、有機ELパネルの高解像度化が進んでおり、画素ピッチはますます微細化している。このためマスクの開口部の大きさが微小となっており、マスクの厚さが比較的厚いもの(0.5mm乃至1.0mm)であると、マスク開口内の蒸着パターン周辺部は、マスクの陰になり、中央部よりも膜厚が薄くなる現象が生じる。このような膜厚分布(輪郭ボケ)による不均一性を低減或いは解消するために、マスクはできるだけ薄い方が良く、例えば厚さが0.01乃至0.4mmの薄いマスクが使われている。また、有機EL薄膜が成膜される基板の大判化も進んでおり、大型のフラットパネルディスプレイとして、基板サイズが例えば370mm×470mm程度、或いはそれ以上のサイズのものが用いられるようになってきている。
【0005】
一方、上述したような有機EL薄膜を形成する蒸着方法では、マスクと基板とがそれぞれ撓みを生じており、その撓みの程度が異なるため、マスクと基板との間に隙間を生じ易くなる。特に大型基板となると、マスクと基板との相対的な撓みの違いも大きくなり、マスクと基板の間に生じる隙間は数十μm以上(画素ピッチ或いはマスク開口部の幅に近い)となる。このようにマスクと基板との間に隙間ができると、蒸着物質がこの隙間に入り込み、蒸着パターンの輪郭がぼけて不明瞭な蒸着パターンとなることで、蒸着精度が低下する。或いは隣接する画素へ蒸着物質が回り込む不良が生じる等の問題があった。
【0006】
このため、特許文献1にて開示されるように、基板表面に磁性材で形成されたマスクを取り付け、基板裏面側に設置した磁石保持体による磁気吸引力でマスクを基板表面に水平状態で密着させるようにした真空成膜装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−158605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、磁石による磁気吸引力のみを用いて基板とマスクを密着させる場合には次のような問題があった。有機ELパネルの画素に対応した蒸着パターンを形成するマスクの開口部は、磁石を近接させると形状が変形する問題があり、所定の薄膜パターンを形成することができない。その理由は、磁力によりマスクを吸引させる場合、磁性材のマスクとしてFe、Ni、Co等の強磁性金属を含有させる必要があるからである。このような強磁性金属は磁化されやすく、適用する磁石の磁界に対応して、微細なマスクパターン間で力(たとえば斥力)を生じてしまう。この結果として、マスク開口部が局所的に広くなる、或いは狭くなる等の変形を招く不具合となる。また、このようなマスク開口形状の変形は有機ELパネルにおいて、画素欠陥やライン欠陥等の表示異常による不具合を生じさせることになる。特に、大型化により基板自身の重さが増える一方で、表示パネルの高解像度化に伴い薄膜化したマスクを適用する場合、基板裏面から薄いマスクを引き上げ、マスクによって基板を密着状態で保持するには強力な磁石が必要になる。従って、マスク開口部の変形問題がより生じ易くなる。
【0009】
本発明は、上述のようなマスク開口部の変形を招くことなく、基板とマスクとを略水平状態にして密着させることができる成膜装置及びそれを用いた成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1は、複数の開口部を備えたマスクを、少なくとも一方向に張力をかけた状態でマスクフレームに固定し、前記マスクを前記マスクの上方に配置した基板の被成膜面に密着させて、前記マスクの複数の開口を介して前記基板の被成膜面に成膜する成膜方法であって、
少なくとも前記マスクフレームの内側であって、少なくとも前記基板の対向する2辺に沿った線状に、基板の裏面側から押圧することを特徴とする。
【0011】
本発明の第2は、張力をかけた状態でマスクを固定するためのマスクフレームと、
被成膜面を前記マスクに向けて、前記マスクの上方において基板を保持するための基板支持部材と、
少なくとも前記マスクフレームの内側であって、少なくとも前記基板の対向する2辺に沿った線状に、基板の裏面側から押圧する押圧体と、
を備えたことを特徴とする成膜装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マスク開口部の変形を招くことなく、マスクと基板を略水平状態で密着させることができるようになる。このため所定のマスク開口パターンに従い、薄膜パターンを形成することができる。また、マスクと基板との隙間を介して侵入する蒸着物質によって生じる輪郭ボケや回り込み等のない、高品位な薄膜パターンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の成膜装置の一実施形態における、基板とマスクと押圧体との位置関係を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の成膜装置の一実施形態において、基板とマスクとを密着させた状態を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の成膜装置の一実施形態において、基板裏面に押圧体を押圧した状態を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の成膜装置の他の実施形態における、基板とマスクと押圧体との位置関係を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の成膜装置の一実施形態における、基板とマスクと押圧体との位置関係を模式的に示す斜視図である。
【図6】本発明の成膜装置の一実施形態における押圧体の押圧位置を模式的に示す平面図である。
【図7】本発明の成膜装置の他の実施形態における押圧体の押圧位置を模式的に示す平面図である。
【図8】本発明の成膜装置の他の実施形態における押圧体の押圧位置を模式的に示す平面図である。
【図9】本発明の成膜装置の他の実施形態における押圧体の押圧位置を模式的に示す平面図である。
【図10】本発明の成膜装置の他の実施形態における押圧体の押圧位置を模式的に示す平面図である。
【図11】本発明の成膜装置の他の実施形態における押圧体の押圧位置を模式的に示す平面図である。
【図12】本発明の成膜装置の他の実施形態における押圧体の押圧位置を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。図1乃至図3は、本発明の一実施形態の成膜方法及び成膜装置を説明するための概略断面図であり、成膜装置内における基板とマスクと押圧体の位置関係を示している。図5は図1に対応する斜視図である。本例では、ガラス基板の表面に有機EL薄膜を蒸着により成膜する場合を説明する。
【0015】
蒸着装置内に設置されたマスク10及びマスクフレーム11を保持するマスク保持台(不図示)にはマスク姿勢制御装置(不図示)が連結されている。そして、このマスク姿勢制御装置の駆動によって、マスク保持台に保持されたマスクのXY軸の移動と、Z軸周りの回転を独立して制御することができる。尚、本発明で用いられるマスク10は、所定の開口部を複数備え、少なくとも一方向に張力をかけた状態で、四角形の剛直なマスクフレーム11に固定されたものである。マスクにかけられる張力は、少なくとも基板20の対向する2辺に沿った方向であり、通常は、少なくともマスク開口部の長尺方向である。
【0016】
また、基板20を支持する基板支持部材(不図示)には基板姿勢制御装置(不図示)が連結されており、この基板姿勢制御装置の駆動によって、基板支持部材に支持された基板20のXY軸の移動と、Z軸周りの回転を独立して制御することができる。
【0017】
図1に示したように、基板20とマスク10とを密着させる押圧体30の基板20側の平面には、複数の球状体31が突出するように取り付けられている。球状体31は直接基板20と接触して必要な外力を印加する部材である。図3で示したように、押圧体30を移動させて球状体31が基板20の裏面と接触した状態では、基板20と接触する球状体31の位置は、破線11aで示されるマスクフレーム11の内側となるように配置されている。即ち、図1中で示したマスクフレーム11内側の幅Mと、対向する辺に配置された球状体31同士の距離Tとは、M>Tの相対関係をとる。
【0018】
図5に、本例の斜視図を示した。基板20の4辺に沿って線状に配置された複数の球状体31は、マスクフレーム11近傍に配置されている。尚、マスクフレーム11近傍とは、マスクフレーム11からマスク10の中央に向かってマスクフレーム11内側の幅(図中M)の1/4の範囲に該当する領域に相当する。また、図中のX方向、Y方向において、それぞれ、マスクフレーム11内側の幅Mx,My、対向配置する球状体31同士の距離Tx,Tyが、それぞれ、Mx>Tx,My>Tyの関係となっている。尚、図5においては、便宜上、押圧体30から球状体31を外した状態で図示している。また、図5中の12はマスク10の開口領域であり、図5においては、5×5の25領域がそれぞれ矩形で示されているが、各開口領域には、微細な開口部がドット状或いはストライプ状に複数形成されている。本例は、各開口領域が一つの有機EL表示装置に相当し、5×5の多面取りを行う例である。
【0019】
図6は、押圧体30の球状体31の押圧位置を示す平面模式図であり、図中の符号は図1乃至図3と共通である。特にマスク開口パターンが微細な場合には、図6に示すように、基板20に対して球状体31を当接させる位置は、マスク開口部と重ならない非開口領域に対応させるのが望ましい。これにより押圧作用によって微細なマスク開口を変形させてしまうリスクを抑制することができる。
【0020】
尚、本発明において、基板20を裏面から押圧する押圧体30の押圧位置としては、少なくとも基板20の対向する2辺に沿った線状である。ここで、線状とは、連続であっても不連続であっても良い。押圧体30の押圧位置のレイアウトの例を、図6乃至図12に示す。図7は図6に比べて、球状体31の配列ピッチを短くしたものである。また図8は、基板20の対向する2辺のみに沿って配列させた例を示している。また図9及び図10は、基板20の4辺に沿って線状に球状体31を2周配置させた例である。さらに図11、図12では、基板20と当接する部材を基板20の辺方向に伸びた棒状の構造体32とする例を、示した。尚、どのような押圧体30の形態を装置に適用するかは、実際に使用するマスクの大きさ、開口パターンレイアウト、張力等の状態と、基板20の大きさ、厚さ、撓み等を考慮して密着効果のある最適な組み合わせを選定することが可能である。また押圧体30が基板20に加える押圧力も、適宜調整することができる。
【0021】
尚、押圧体30に配置されている球状体31は、回転機能を備えているのが望ましい。その理由は、基板20面内方向での球状体31と基板20との摩擦を緩和でき、前工程で調整してある基板20とマスクとの位置精度に影響を及ぼすことを防止することができるためである。また押圧体30の内部において球状体31を弾性体と組み合わせ、球状体31から基板20に働かせる力を任意に調整できるような構成とすることが望ましい。
【0022】
上記した押圧体30では、基板20と接触する部材として球状体31を例に示したが、特にその構造を制限するものではない。基本的な機能として選択した領域に押圧を加えられる構造体であれば良く、基板20へ傷をつけないために、基板20との接触面が曲面形状を有する構造体であることが望ましい。
【0023】
また上記においては基板20の裏面内において、押圧体30は基板20と複数の点で接触している例を示したが、環状の構造体を用いて基板20の4辺に沿って線状に接触させても良い。また上記基板20と接触する部材(例えば球状体31)の材質として、金属、樹脂、或いはガラスなどを適宜用いることができる。
【0024】
本発明において、より好ましい実施形態としては、前記基板20の裏面から押圧する圧力が、マスクにかけられた最大張力の方向に平行な方向よりも、垂直な方向に沿った線状に大きくかけられている構成である。具体的には、図5,図6の例において、X方向にマスクに張力がかけられている場合、或いは、X方向にY方向より大きな張力がかけられている場合を例に挙げる。この場合に、X方向に沿って線状に配置した押圧体30よりも、Y方向に沿って線状に配置した押圧体30により大きな圧力をかけるようにする。これにより、マスク10全体をより均一に基板20に密着させることができる。尚、この場合、X方向に沿って線状に基板20を押圧する押圧体30と、Y方向に沿って線状に基板20を押圧する押圧体30とをそれぞれ独立して押圧力を調整できるように分割構成する。尚、密着に必要となるX方向に沿って加える圧力とY方向に沿って加える圧力の比は、マスク面内の基板への反力及び反力分布とのバランスにより決定される。よって、マスクにかけられている張力の比、マスクの開口パターンレイアウト及び開口パターンサイズに依存するものである。例えばマスクの張力比(Y/X)の範囲を0.5乃至0.9とした場合には、押圧体の押圧力の比(Y/X)の範囲を1.1乃至2.0とするのが好ましい。
【0025】
またこの場合、X方向に沿って線状に基板20を押圧する押圧体30と、Y方向に沿って線状に基板20を押圧する押圧体30とをそれぞれ独立して押圧力を調整できるように分割構成する。さらに各方向に線状に配列された複数の押圧体は個別に押圧力を調整できるように分割構成してもよい。この場合、マスク及び基板の撓み具合に応じた調整もできるようになる。これにより余分な力で押しつけることもなく、基板やマスクへのダメージを回避することができる。
【0026】
次に、本発明の実施形態にかかる蒸着方法について図1乃至図3を用いて説明する。先ず、基板20の表面に有機EL薄膜を蒸着する前段階として、基板20の表面に対してマスク10を位置合わせして密着させる。即ち、図1の状態から移動装置を駆動して、基板支持部材に支持されている基板20を下降させてマスク10に近接させる。この時、複数のCCDカメラ(不図示)で基板20とマスク10にそれぞれ形成されているアライメントマークを画像認識して、両アライメントマークの位置が一致するように、基板支持部材に連結された姿勢制御装置を駆動する。この姿勢制御装置の駆動により、基板20をXY軸に移動させ、且つ、Z軸周りに回転させて、基板20とマスク10のアライメントマークの位置ずれを補正して所定の精度に追い込む。この状態では、マスク10及び基板20は、それぞれの自重により中央付近が最も沈み込むように撓んでいる。
【0027】
上記位置合わせが完了した後に、基板20をさらにマスク10側に下降させ、図2で示すように、基板20表面をマスク10に接触させる。接触後、複数のCCDカメラで基板20とマスク10のアライメントマーク間での位置ずれを計測し、所定の精度以下であることを確認する。この状態では、押圧体30は基板20裏面側の上方で停止しており、基板20表面がマスク10に隙間なく密着している領域が限られている。特に基板20周辺の広い領域で、基板20とマスク10との間には10μm乃至100μmの大きな隙間が生じている。
【0028】
その後、図3で示すように、押圧体30を下降させて基板20の裏面に当接させる。この際、押圧体30の基板20側面に突出している球状体31が基板20裏面の4辺に沿って基板20の裏面を押圧する。押圧する場所はマスクフレーム11の内側としているため、基板20と共にマスク10にも下方向に力が作用する。そのため、張力をかけた状態でマスクフレーム11に固定されているマスク10上に基板20を載せた状態で、基板20の4辺に沿った押圧体30による下方向の力が、基板20及びマスク10には反作用の力を発生させる。この反作用の力は、基板20の押圧位置近傍から基板20中央方向にかけて、基板20及びマスク10を上方に持ち上げる力として作用する。そして、この反作用の力により、基板20とマスク10の中央付近が同じように上方に持ち上げられることで、基板20とマスク10の中央付近の撓みが低減或いは解消され、両方を同時に略水平状態とすることができる。即ち、基板20に作用するマスク10の反力に逆らう外力をマスクフレーム11の内側において基板20の各辺に沿って線状に印加し、基板20面の広い範囲で基板20とマスク10を水平状態にすることができる。
【0029】
よって、本発明においては、微細なマスク開口パターンを変形させることなく、基板20の広い領域において基板20とマスク10とを隙間なく密着させることができる。またサイズの大きい基板20を用いた場合でも、上述の方法により自重による中央付近の撓みを抑制して水平状態を保つことができるので、大型の基板20の広い領域において基板20とマスク10とを隙間なく密着させることができる。
【0030】
また本発明においては、支持体によって基板20の成膜面側から基板20を支持する形態が挙げられる。その様子を図4に模式的に示す。図4中の40が支持体である。図4に示すように、支持体40を、押圧体30に備えられた球状体31が基板20に当接する位置よりも、相対的に基板20中央側に配置する。これにより、押圧体30で基板20裏面に力を加えた時に、支持体40を支点とする「てこの原理」を用いて、基板20の自重による中央付近の撓みを抑制する。これにより押圧によって基板20及びマスク10を水平状態とするのに必要とする押圧力を低減することができる。
【0031】
上記した支持体40には、マスク10と接触する部材として断面が円形の部材を例に示したが、特にその構造を制限するものではない。基本的な機能として選択した領域を支えられる、或いはさらに押し上げられる構造体であれば良く、基板20或いはマスク10を傷つけないために、接触面が曲面形状を有する構造体であることが望ましい。また支持体40が当接する部分においてマスク10の損傷を防止するために、該当する部分においてマスク10の厚さを局所的に厚くしても良い。
【0032】
また、ここでは支持体40はマスク10と当接させているが、当接部材を基板20に接触させても良い。この場合に使用するマスク10には、支持体40が基板20に当接する部分のマスク10には開口部を形成しておく。また上記支持体40の材質としては、金属、樹脂、或いはガラスなどを適宜用いることができる。
【0033】
上記した方法により、基板20の被成膜面の広い範囲で基板20とマスクを水平状態にし、基板20とマスク10とを隙間なく密着させた状態において、複数のCCDカメラで基板20とマスク10のアライメントマーク間での位置ずれを計測する。そして、該位置ずれが所定の精度以下であることを再度確認する。尚、図2或いは図3で説明する工程においてアライメント誤差が所定の範囲を逸脱した場合には、基板20及び押圧体30を図1の初期状態に戻して、再度上記したアライメント工程を繰り返すことになる。
【0034】
次に、押圧体30を基板20の裏面に当接させて基板20の被成膜面にマスク10を密着させた状態で、マスク10の下方に設けた蒸着源(不図示)で有機EL材料を蒸発させ、所定の開口パターンが形成されたマスク10を介して、基板20の表面に蒸着させる。尚、カラー表示用の有機EL薄膜を基板20の表面に成膜する場合には、赤色用、緑色用、青色用に対応したマスク10を用いて、マスク毎に上述したマスクの位置合わせ、マスクと基板20の密着、及び成膜を実施する。
【0035】
このようにして、所定のマスク開口部に応じたパターン形状に従い、薄膜パターンを形成することができる。また、マスク10と基板20との隙間を介して侵入する蒸着物質によって生じる輪郭ボケや回り込み等のない、高品位な薄膜パターンを得ることができる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
図5に例示した成膜装置によって、ガラス基板上に有機EL表示装置を製造した。本例においては、本発明にかかる有機EL薄膜を形成する工程について説明する。尚、下記以外の有機EL表示装置の製造工程については、公知の方法を適用した。
【0037】
成膜装置内に配置された蒸着源(不図示)の中に有機EL材料を充填し、成膜装置内には基板20を被成膜面が下方を向くように設置した。また成膜装置内の真空度は2×10-4Paとした。基板20には無アルカリガラスの0.5mm厚で、サイズが400mm(X)×500mm(Y)のガラス基板を用いた。この基板20上には、配列された複数の薄膜トランジスタ(TFT)や電極配線が形成されている。表示領域に配列される画素の大きさは30μm(Y)×120μm(X)とし、これら画素を複数備えた有機EL表示装置の表示領域の大きさを60mm(X)×70mm(Y)となるようにした。図5の開口領域12と対応するように、基板20内には25個の上記表示装置を5行×5列のマトリクス状に配置した。
【0038】
マスク10は板厚40μm、サイズが460mm(X)×560mm(Y)で、張力を加えて、厚みが20mm、フレーム内側の幅が396mm(X)×496mm(Y)としたマスクフレーム11に溶接で固定化した。張力はマスク10の開口部の長手方向であるX方向が、Y方向に対して1.5倍となるように調整した。マスク及びマスクフレーム11にはインバー材を用いた。またマスク10の開口領域12には、X方向に60mm、Y方向に30μmの開口部を複数設けた。
【0039】
押圧体30は、球状の回転体を弾性体で押圧できる構成とした。球状の回転体にはSUS304の直径10mmの球状体31を用い、弾性体にはSUS304のバネを適用した。バネの強さは、成膜中に球状体31が基板20と当接した時に約0.196N(20gf)の押圧力を加えられるものを選択した。このような球状体31はマスクフレーム11の内側にて、図5に示したようにマスク開口部のピッチに合わせて20箇所に配置した。尚、球状体31同士の距離は、それぞれTxを380mm、Tyを480mmとした。尚、押圧体30のX方向とY方向の押圧力の比(Y/X)は約1.2であった。
【0040】
次に有機EL材料を成膜する工程について説明する。先ず前段階の工程において、基板20上の各画素領域に対応した位置に、駆動用TFTと電気的に導通した画素電極を形成した。また画素電極と同一層でアライメントマークも同時に形成した。
【0041】
次に成膜装置において上記マスク10を使用し、パネル内の所定の画素に対してアライメントを行い、その後有機EL材料の成膜を実施した。尚、以下では有機EL材料を成膜する一工程について説明するが、有機EL素子を構成するその他の材料の成膜においても同様の方法を適用することができる。
【0042】
先ず図1の状態から移動装置を駆動して、基板支持部材に支持されたガラス基板を下降させ、基板20とマスク10の間隔が0.1mmとなる距離まで近接させた。この状態では、マスク10及び基板20は、それぞれの自重により中央付近が最も沈み込むように撓んでいるが、互いは接触しない状態となっている。次に複数のCCDカメラ(不図示)で基板20とマスク10にそれぞれ形成されているアライメントマークを画像認識して、両アライメントマークの相対位置誤差が±2μm以下となるように、基板支持部材に連結された姿勢制御装置を駆動した。
【0043】
上記位置合わせが完了した後に、図2で示すように、基板20をさらにマスク10側に下降させ、基板20表面をマスク10に接触させた。接触後、複数のCCDカメラで基板20とマスク10のアライメントマーク間での位置ずれを計測し、所定の精度以下であることを確認した。この状態では、押圧体30は基板20裏面側の上方で停止させている。
【0044】
その後、図3で示すように、押圧体30を下降させて基板20の裏面に当接させた。この時、押圧体30の基板20側面に突出している球状体31が基板20裏面の4辺に沿って基板20の裏面を圧接した。この結果、基板20及びマスク10には反作用の力が生じ、基板20及びマスク10が上方に持ち上げられ、基板20及びマスク10が中央付近から周辺にかけて広い範囲で略水平な状態となった。この状態で、複数のCCDカメラで基板20とマスク10のアライメントマーク間での位置ずれを計測し、所定の精度以下であることを再度確認した。
【0045】
押圧体30を基板20の裏面に当接させた状態で基板20の被成膜面とマスクとの隙間は10μm以下とした。このようにして基板20の被成膜面にマスク10を密着させた状態で、マスク10の下方に設けた蒸着源から蒸発させた有機EL材料をマスク10を介して、基板20の表面に蒸着した。蒸着後、基板20上に成膜した約50nmの有機EL層の膜形状を調べたところ、着膜幅はほぼマスク開口幅と等しく輪郭ボケはなかった。また隣接して配置される画素への回り込みはないことも確認した。
【0046】
以上の成膜工程を適用して製造した有機EL表示装置においては、発光不良による画素欠けや、動作不良は認められなかった。
【0047】
(実施例2)
球状体31の配置を図8に示すように基板20の長辺(Y方向)に沿った位置とし、球状体31が基板20に当接した時に加わる押圧力を0.294N(30gf)とした。マスク10は板厚40μm、サイズが460mm(X)×560mm(Y)で、張力を加えて、厚みが20mm、フレーム内側の幅が396mm(X)×496mm(Y)としたマスクフレーム11のY方向に沿って溶接で固定化した。このため張力はマスク10の開口部の長手方向であるX方向にのみかかっている。尚マスク及びマスクフレーム11にはインバー材を用いた。またマスク10の各開口領域12には、X方向に60mm、Y方向に30μmの開口部を複数設けた。上記以外は、実施例1と同様にして蒸着工程を行った。この時、押圧体30を基板20の裏面に当接させた状態で、基板20の被成膜面とマスクとの隙間は10μm以下であった。
【0048】
蒸着後、基板20上に成膜した約50nmの有機EL層の膜形状を調べたところ、着膜幅はほぼマスク開口幅と等しく輪郭ボケはなかった。また隣接して配置される画素への回り込みはないことも確認した。
【0049】
以上の成膜工程を適用して製造した有機EL表示装置においては、発光不良による画素欠けや、動作不良は認められなかった。
【0050】
(実施例3)
図4に示すような支持体40を用いた以外は実施例1と同様にして蒸着工程を行った。支持体40の支持位置は押圧体30の球状体31よりも内側とし、球状体31に対応して基板20面内で20箇所に配置した。尚、支持体40は、25箇所の開口領域12に相当する蒸着領域への成膜を邪魔することのないよう、マスクフレーム11近傍に設置した。上記支持体40は基板20との当接箇所として、SUS304の直径10mmの球状体41を用い、弾性体にはSUS304のバネを適用した。バネの強さは、成膜中に該球状体がマスク10と当接した時に約0.196N(20gf)の外力を上方に加えられるものを選択した。
【0051】
次に有機EL材料を成膜する工程について説明する。
【0052】
実施例1と同様に、マスク10と基板20とのアライメントマーク間の位置ずれを計測し、±2μm以下となるようにし、その後基板20をマスク10側に下降させて、基板20表面をマスク10に接触させた。接触後、複数のCCDカメラで基板20とマスク10のアライメントマーク間での位置ずれを計測し、±2μmの精度以下であることを確認した。この状態では、押圧体30はガラス基板20裏面側の上方で停止させている。また支持体40は基板20被成膜面側の下方で停止させている。
【0053】
その後、支持体40を上方に昇降してマスク10と接触させた状態で停止し、さらに押圧体30を下降させて基板20の裏面に当接させて図4の状態とする。この際、押圧体30の基板20側面に突出している球状体31が基板20裏面の4辺に沿って基板20の裏面を圧接した。また支持体40は先端の球状体41が基板20の4辺に沿ってマスク10及び基板20を押し上げた状態で支持した。この状態で、複数のCCDカメラで基板20とマスク10のアライメントマーク間での位置ずれを計測し、所定の精度以下であることを再度確認した。
【0054】
このように本例では、支持体40と押圧体30を併用したことにより、基板20の自重による中央付近の撓みを抑制することができた。これにより基板20及びマスク10を略水平状態とすることができた。
【0055】
次に、押圧体30を基板20の裏面に当接させ、支持体40でマスク10を支持することにより基板20の被成膜面とマスクとの隙間は10μm以下とした。このようにして基板20の表面にマスク10を密着させた状態で、マスク10の下方に設けた蒸着源から蒸発させた有機EL材料をマスク10を介して、基板20の表面に蒸着した。
【0056】
蒸着後、基板上に成膜した約50nmの有機EL層の膜形状を調べたところ、着膜幅はほぼマスク開口部の幅と等しく輪郭ボケはなかった。また隣接して配置される画素への回り込みはないことも確認した。
【0057】
以上の成膜工程を適用して製造した有機EL表示装置においては、発光不良による画素欠けや、動作不良は認められなかった。
【0058】
(実施例4)
図12に示したような、基板辺方向に沿って長尺の構造体32を有する押圧体を用いた。各構造体32はそれぞれ独立して押圧力を調整することができる。マスク10は板厚40μm、サイズが460mm(X)×560(Y)mmで、張力を加えて、厚みが20mm、フレーム内側の幅が396mm(X)×496mm(Y)としたマスクフレーム11に溶接で固定化した。張力はマスク10の開口部の長手方向であるX方向が、Y方向に対して1.5倍となるように調整した。マスク及びマスクフレーム11にはインバー材を用いた。またマスク10の開口領域12には、X方向に60mm、Y方向に30μmの開口部を複数設けた。マスクにかかる張力が最大であるX方向に垂直なY方向に沿った構造体32の押圧力が、X方向に沿った構造体32の押圧力の1.4倍となるように調整した。その他は実施例1と同様にして蒸着工程を行った。この時、構造体32を基板20の裏面に当接させた状態で、基板20の被成膜面とマスクとの隙間は5μm以下であった。
【0059】
蒸着後、基板上に成膜した約50nmの有機EL層の膜形状を調べたところ、着膜幅はほぼマスク開口部の幅と等しく輪郭ボケはなかった。また隣接して配置される画素への回り込みはないことも確認した。
【0060】
以上の成膜工程を適用して製造した有機EL表示装置においては、発光不良による画素欠けや、動作不良は認められなかった。
【符号の説明】
【0061】
10:マスク、11:マスクフレーム、20:基板、30:押圧体、40:支持体
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面に密着配置したマスクの開口パターンに応じて、基板上に所定の薄膜パターンを形成するための成膜方法及び成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機エレクトロルミネッセンス(EL)薄膜の製造工程には、所定の開口パターンを有するマスクをガラス基板に密着するよう配置して成膜するマスク成膜法が多く採用されている。このようなマスク成膜法の一例として、以下のマスク蒸着法が知られている。
【0003】
マスク蒸着法とは、基板表面(被成膜面)を下側に向けて配置し、基板表面と対向して配置した蒸着源から蒸発される蒸着物質をマスクを介して基板表面に蒸着させ、基板表面に所定の有機EL薄膜を成膜させる方法である。このような有機EL薄膜をカラー表示パネルとして適用する場合、表示パネルの画素ピッチの大きさと同程度の薄膜パターンを成膜するため、それに応じた開口部を有するマスクを使用する。表示パネルの画素ピッチは数十μmであり、赤、緑、青の3色の画素が規則的に配置されているため、マスクの開口部もこれらに対応して形成されている。例えばマスク開口部の形状として、複数の画素に渡って開口しているスリット形状や、画素毎に開口しているドット形状のものが適用される。
【0004】
近年では、有機ELパネルの高解像度化が進んでおり、画素ピッチはますます微細化している。このためマスクの開口部の大きさが微小となっており、マスクの厚さが比較的厚いもの(0.5mm乃至1.0mm)であると、マスク開口内の蒸着パターン周辺部は、マスクの陰になり、中央部よりも膜厚が薄くなる現象が生じる。このような膜厚分布(輪郭ボケ)による不均一性を低減或いは解消するために、マスクはできるだけ薄い方が良く、例えば厚さが0.01乃至0.4mmの薄いマスクが使われている。また、有機EL薄膜が成膜される基板の大判化も進んでおり、大型のフラットパネルディスプレイとして、基板サイズが例えば370mm×470mm程度、或いはそれ以上のサイズのものが用いられるようになってきている。
【0005】
一方、上述したような有機EL薄膜を形成する蒸着方法では、マスクと基板とがそれぞれ撓みを生じており、その撓みの程度が異なるため、マスクと基板との間に隙間を生じ易くなる。特に大型基板となると、マスクと基板との相対的な撓みの違いも大きくなり、マスクと基板の間に生じる隙間は数十μm以上(画素ピッチ或いはマスク開口部の幅に近い)となる。このようにマスクと基板との間に隙間ができると、蒸着物質がこの隙間に入り込み、蒸着パターンの輪郭がぼけて不明瞭な蒸着パターンとなることで、蒸着精度が低下する。或いは隣接する画素へ蒸着物質が回り込む不良が生じる等の問題があった。
【0006】
このため、特許文献1にて開示されるように、基板表面に磁性材で形成されたマスクを取り付け、基板裏面側に設置した磁石保持体による磁気吸引力でマスクを基板表面に水平状態で密着させるようにした真空成膜装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−158605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、磁石による磁気吸引力のみを用いて基板とマスクを密着させる場合には次のような問題があった。有機ELパネルの画素に対応した蒸着パターンを形成するマスクの開口部は、磁石を近接させると形状が変形する問題があり、所定の薄膜パターンを形成することができない。その理由は、磁力によりマスクを吸引させる場合、磁性材のマスクとしてFe、Ni、Co等の強磁性金属を含有させる必要があるからである。このような強磁性金属は磁化されやすく、適用する磁石の磁界に対応して、微細なマスクパターン間で力(たとえば斥力)を生じてしまう。この結果として、マスク開口部が局所的に広くなる、或いは狭くなる等の変形を招く不具合となる。また、このようなマスク開口形状の変形は有機ELパネルにおいて、画素欠陥やライン欠陥等の表示異常による不具合を生じさせることになる。特に、大型化により基板自身の重さが増える一方で、表示パネルの高解像度化に伴い薄膜化したマスクを適用する場合、基板裏面から薄いマスクを引き上げ、マスクによって基板を密着状態で保持するには強力な磁石が必要になる。従って、マスク開口部の変形問題がより生じ易くなる。
【0009】
本発明は、上述のようなマスク開口部の変形を招くことなく、基板とマスクとを略水平状態にして密着させることができる成膜装置及びそれを用いた成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1は、複数の開口部を備えたマスクを、少なくとも一方向に張力をかけた状態でマスクフレームに固定し、前記マスクを前記マスクの上方に配置した基板の被成膜面に密着させて、前記マスクの複数の開口を介して前記基板の被成膜面に成膜する成膜方法であって、
少なくとも前記マスクフレームの内側であって、少なくとも前記基板の対向する2辺に沿った線状に、基板の裏面側から押圧することを特徴とする。
【0011】
本発明の第2は、張力をかけた状態でマスクを固定するためのマスクフレームと、
被成膜面を前記マスクに向けて、前記マスクの上方において基板を保持するための基板支持部材と、
少なくとも前記マスクフレームの内側であって、少なくとも前記基板の対向する2辺に沿った線状に、基板の裏面側から押圧する押圧体と、
を備えたことを特徴とする成膜装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マスク開口部の変形を招くことなく、マスクと基板を略水平状態で密着させることができるようになる。このため所定のマスク開口パターンに従い、薄膜パターンを形成することができる。また、マスクと基板との隙間を介して侵入する蒸着物質によって生じる輪郭ボケや回り込み等のない、高品位な薄膜パターンを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の成膜装置の一実施形態における、基板とマスクと押圧体との位置関係を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の成膜装置の一実施形態において、基板とマスクとを密着させた状態を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の成膜装置の一実施形態において、基板裏面に押圧体を押圧した状態を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の成膜装置の他の実施形態における、基板とマスクと押圧体との位置関係を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の成膜装置の一実施形態における、基板とマスクと押圧体との位置関係を模式的に示す斜視図である。
【図6】本発明の成膜装置の一実施形態における押圧体の押圧位置を模式的に示す平面図である。
【図7】本発明の成膜装置の他の実施形態における押圧体の押圧位置を模式的に示す平面図である。
【図8】本発明の成膜装置の他の実施形態における押圧体の押圧位置を模式的に示す平面図である。
【図9】本発明の成膜装置の他の実施形態における押圧体の押圧位置を模式的に示す平面図である。
【図10】本発明の成膜装置の他の実施形態における押圧体の押圧位置を模式的に示す平面図である。
【図11】本発明の成膜装置の他の実施形態における押圧体の押圧位置を模式的に示す平面図である。
【図12】本発明の成膜装置の他の実施形態における押圧体の押圧位置を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を図示の実施形態に基づいて説明する。図1乃至図3は、本発明の一実施形態の成膜方法及び成膜装置を説明するための概略断面図であり、成膜装置内における基板とマスクと押圧体の位置関係を示している。図5は図1に対応する斜視図である。本例では、ガラス基板の表面に有機EL薄膜を蒸着により成膜する場合を説明する。
【0015】
蒸着装置内に設置されたマスク10及びマスクフレーム11を保持するマスク保持台(不図示)にはマスク姿勢制御装置(不図示)が連結されている。そして、このマスク姿勢制御装置の駆動によって、マスク保持台に保持されたマスクのXY軸の移動と、Z軸周りの回転を独立して制御することができる。尚、本発明で用いられるマスク10は、所定の開口部を複数備え、少なくとも一方向に張力をかけた状態で、四角形の剛直なマスクフレーム11に固定されたものである。マスクにかけられる張力は、少なくとも基板20の対向する2辺に沿った方向であり、通常は、少なくともマスク開口部の長尺方向である。
【0016】
また、基板20を支持する基板支持部材(不図示)には基板姿勢制御装置(不図示)が連結されており、この基板姿勢制御装置の駆動によって、基板支持部材に支持された基板20のXY軸の移動と、Z軸周りの回転を独立して制御することができる。
【0017】
図1に示したように、基板20とマスク10とを密着させる押圧体30の基板20側の平面には、複数の球状体31が突出するように取り付けられている。球状体31は直接基板20と接触して必要な外力を印加する部材である。図3で示したように、押圧体30を移動させて球状体31が基板20の裏面と接触した状態では、基板20と接触する球状体31の位置は、破線11aで示されるマスクフレーム11の内側となるように配置されている。即ち、図1中で示したマスクフレーム11内側の幅Mと、対向する辺に配置された球状体31同士の距離Tとは、M>Tの相対関係をとる。
【0018】
図5に、本例の斜視図を示した。基板20の4辺に沿って線状に配置された複数の球状体31は、マスクフレーム11近傍に配置されている。尚、マスクフレーム11近傍とは、マスクフレーム11からマスク10の中央に向かってマスクフレーム11内側の幅(図中M)の1/4の範囲に該当する領域に相当する。また、図中のX方向、Y方向において、それぞれ、マスクフレーム11内側の幅Mx,My、対向配置する球状体31同士の距離Tx,Tyが、それぞれ、Mx>Tx,My>Tyの関係となっている。尚、図5においては、便宜上、押圧体30から球状体31を外した状態で図示している。また、図5中の12はマスク10の開口領域であり、図5においては、5×5の25領域がそれぞれ矩形で示されているが、各開口領域には、微細な開口部がドット状或いはストライプ状に複数形成されている。本例は、各開口領域が一つの有機EL表示装置に相当し、5×5の多面取りを行う例である。
【0019】
図6は、押圧体30の球状体31の押圧位置を示す平面模式図であり、図中の符号は図1乃至図3と共通である。特にマスク開口パターンが微細な場合には、図6に示すように、基板20に対して球状体31を当接させる位置は、マスク開口部と重ならない非開口領域に対応させるのが望ましい。これにより押圧作用によって微細なマスク開口を変形させてしまうリスクを抑制することができる。
【0020】
尚、本発明において、基板20を裏面から押圧する押圧体30の押圧位置としては、少なくとも基板20の対向する2辺に沿った線状である。ここで、線状とは、連続であっても不連続であっても良い。押圧体30の押圧位置のレイアウトの例を、図6乃至図12に示す。図7は図6に比べて、球状体31の配列ピッチを短くしたものである。また図8は、基板20の対向する2辺のみに沿って配列させた例を示している。また図9及び図10は、基板20の4辺に沿って線状に球状体31を2周配置させた例である。さらに図11、図12では、基板20と当接する部材を基板20の辺方向に伸びた棒状の構造体32とする例を、示した。尚、どのような押圧体30の形態を装置に適用するかは、実際に使用するマスクの大きさ、開口パターンレイアウト、張力等の状態と、基板20の大きさ、厚さ、撓み等を考慮して密着効果のある最適な組み合わせを選定することが可能である。また押圧体30が基板20に加える押圧力も、適宜調整することができる。
【0021】
尚、押圧体30に配置されている球状体31は、回転機能を備えているのが望ましい。その理由は、基板20面内方向での球状体31と基板20との摩擦を緩和でき、前工程で調整してある基板20とマスクとの位置精度に影響を及ぼすことを防止することができるためである。また押圧体30の内部において球状体31を弾性体と組み合わせ、球状体31から基板20に働かせる力を任意に調整できるような構成とすることが望ましい。
【0022】
上記した押圧体30では、基板20と接触する部材として球状体31を例に示したが、特にその構造を制限するものではない。基本的な機能として選択した領域に押圧を加えられる構造体であれば良く、基板20へ傷をつけないために、基板20との接触面が曲面形状を有する構造体であることが望ましい。
【0023】
また上記においては基板20の裏面内において、押圧体30は基板20と複数の点で接触している例を示したが、環状の構造体を用いて基板20の4辺に沿って線状に接触させても良い。また上記基板20と接触する部材(例えば球状体31)の材質として、金属、樹脂、或いはガラスなどを適宜用いることができる。
【0024】
本発明において、より好ましい実施形態としては、前記基板20の裏面から押圧する圧力が、マスクにかけられた最大張力の方向に平行な方向よりも、垂直な方向に沿った線状に大きくかけられている構成である。具体的には、図5,図6の例において、X方向にマスクに張力がかけられている場合、或いは、X方向にY方向より大きな張力がかけられている場合を例に挙げる。この場合に、X方向に沿って線状に配置した押圧体30よりも、Y方向に沿って線状に配置した押圧体30により大きな圧力をかけるようにする。これにより、マスク10全体をより均一に基板20に密着させることができる。尚、この場合、X方向に沿って線状に基板20を押圧する押圧体30と、Y方向に沿って線状に基板20を押圧する押圧体30とをそれぞれ独立して押圧力を調整できるように分割構成する。尚、密着に必要となるX方向に沿って加える圧力とY方向に沿って加える圧力の比は、マスク面内の基板への反力及び反力分布とのバランスにより決定される。よって、マスクにかけられている張力の比、マスクの開口パターンレイアウト及び開口パターンサイズに依存するものである。例えばマスクの張力比(Y/X)の範囲を0.5乃至0.9とした場合には、押圧体の押圧力の比(Y/X)の範囲を1.1乃至2.0とするのが好ましい。
【0025】
またこの場合、X方向に沿って線状に基板20を押圧する押圧体30と、Y方向に沿って線状に基板20を押圧する押圧体30とをそれぞれ独立して押圧力を調整できるように分割構成する。さらに各方向に線状に配列された複数の押圧体は個別に押圧力を調整できるように分割構成してもよい。この場合、マスク及び基板の撓み具合に応じた調整もできるようになる。これにより余分な力で押しつけることもなく、基板やマスクへのダメージを回避することができる。
【0026】
次に、本発明の実施形態にかかる蒸着方法について図1乃至図3を用いて説明する。先ず、基板20の表面に有機EL薄膜を蒸着する前段階として、基板20の表面に対してマスク10を位置合わせして密着させる。即ち、図1の状態から移動装置を駆動して、基板支持部材に支持されている基板20を下降させてマスク10に近接させる。この時、複数のCCDカメラ(不図示)で基板20とマスク10にそれぞれ形成されているアライメントマークを画像認識して、両アライメントマークの位置が一致するように、基板支持部材に連結された姿勢制御装置を駆動する。この姿勢制御装置の駆動により、基板20をXY軸に移動させ、且つ、Z軸周りに回転させて、基板20とマスク10のアライメントマークの位置ずれを補正して所定の精度に追い込む。この状態では、マスク10及び基板20は、それぞれの自重により中央付近が最も沈み込むように撓んでいる。
【0027】
上記位置合わせが完了した後に、基板20をさらにマスク10側に下降させ、図2で示すように、基板20表面をマスク10に接触させる。接触後、複数のCCDカメラで基板20とマスク10のアライメントマーク間での位置ずれを計測し、所定の精度以下であることを確認する。この状態では、押圧体30は基板20裏面側の上方で停止しており、基板20表面がマスク10に隙間なく密着している領域が限られている。特に基板20周辺の広い領域で、基板20とマスク10との間には10μm乃至100μmの大きな隙間が生じている。
【0028】
その後、図3で示すように、押圧体30を下降させて基板20の裏面に当接させる。この際、押圧体30の基板20側面に突出している球状体31が基板20裏面の4辺に沿って基板20の裏面を押圧する。押圧する場所はマスクフレーム11の内側としているため、基板20と共にマスク10にも下方向に力が作用する。そのため、張力をかけた状態でマスクフレーム11に固定されているマスク10上に基板20を載せた状態で、基板20の4辺に沿った押圧体30による下方向の力が、基板20及びマスク10には反作用の力を発生させる。この反作用の力は、基板20の押圧位置近傍から基板20中央方向にかけて、基板20及びマスク10を上方に持ち上げる力として作用する。そして、この反作用の力により、基板20とマスク10の中央付近が同じように上方に持ち上げられることで、基板20とマスク10の中央付近の撓みが低減或いは解消され、両方を同時に略水平状態とすることができる。即ち、基板20に作用するマスク10の反力に逆らう外力をマスクフレーム11の内側において基板20の各辺に沿って線状に印加し、基板20面の広い範囲で基板20とマスク10を水平状態にすることができる。
【0029】
よって、本発明においては、微細なマスク開口パターンを変形させることなく、基板20の広い領域において基板20とマスク10とを隙間なく密着させることができる。またサイズの大きい基板20を用いた場合でも、上述の方法により自重による中央付近の撓みを抑制して水平状態を保つことができるので、大型の基板20の広い領域において基板20とマスク10とを隙間なく密着させることができる。
【0030】
また本発明においては、支持体によって基板20の成膜面側から基板20を支持する形態が挙げられる。その様子を図4に模式的に示す。図4中の40が支持体である。図4に示すように、支持体40を、押圧体30に備えられた球状体31が基板20に当接する位置よりも、相対的に基板20中央側に配置する。これにより、押圧体30で基板20裏面に力を加えた時に、支持体40を支点とする「てこの原理」を用いて、基板20の自重による中央付近の撓みを抑制する。これにより押圧によって基板20及びマスク10を水平状態とするのに必要とする押圧力を低減することができる。
【0031】
上記した支持体40には、マスク10と接触する部材として断面が円形の部材を例に示したが、特にその構造を制限するものではない。基本的な機能として選択した領域を支えられる、或いはさらに押し上げられる構造体であれば良く、基板20或いはマスク10を傷つけないために、接触面が曲面形状を有する構造体であることが望ましい。また支持体40が当接する部分においてマスク10の損傷を防止するために、該当する部分においてマスク10の厚さを局所的に厚くしても良い。
【0032】
また、ここでは支持体40はマスク10と当接させているが、当接部材を基板20に接触させても良い。この場合に使用するマスク10には、支持体40が基板20に当接する部分のマスク10には開口部を形成しておく。また上記支持体40の材質としては、金属、樹脂、或いはガラスなどを適宜用いることができる。
【0033】
上記した方法により、基板20の被成膜面の広い範囲で基板20とマスクを水平状態にし、基板20とマスク10とを隙間なく密着させた状態において、複数のCCDカメラで基板20とマスク10のアライメントマーク間での位置ずれを計測する。そして、該位置ずれが所定の精度以下であることを再度確認する。尚、図2或いは図3で説明する工程においてアライメント誤差が所定の範囲を逸脱した場合には、基板20及び押圧体30を図1の初期状態に戻して、再度上記したアライメント工程を繰り返すことになる。
【0034】
次に、押圧体30を基板20の裏面に当接させて基板20の被成膜面にマスク10を密着させた状態で、マスク10の下方に設けた蒸着源(不図示)で有機EL材料を蒸発させ、所定の開口パターンが形成されたマスク10を介して、基板20の表面に蒸着させる。尚、カラー表示用の有機EL薄膜を基板20の表面に成膜する場合には、赤色用、緑色用、青色用に対応したマスク10を用いて、マスク毎に上述したマスクの位置合わせ、マスクと基板20の密着、及び成膜を実施する。
【0035】
このようにして、所定のマスク開口部に応じたパターン形状に従い、薄膜パターンを形成することができる。また、マスク10と基板20との隙間を介して侵入する蒸着物質によって生じる輪郭ボケや回り込み等のない、高品位な薄膜パターンを得ることができる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
図5に例示した成膜装置によって、ガラス基板上に有機EL表示装置を製造した。本例においては、本発明にかかる有機EL薄膜を形成する工程について説明する。尚、下記以外の有機EL表示装置の製造工程については、公知の方法を適用した。
【0037】
成膜装置内に配置された蒸着源(不図示)の中に有機EL材料を充填し、成膜装置内には基板20を被成膜面が下方を向くように設置した。また成膜装置内の真空度は2×10-4Paとした。基板20には無アルカリガラスの0.5mm厚で、サイズが400mm(X)×500mm(Y)のガラス基板を用いた。この基板20上には、配列された複数の薄膜トランジスタ(TFT)や電極配線が形成されている。表示領域に配列される画素の大きさは30μm(Y)×120μm(X)とし、これら画素を複数備えた有機EL表示装置の表示領域の大きさを60mm(X)×70mm(Y)となるようにした。図5の開口領域12と対応するように、基板20内には25個の上記表示装置を5行×5列のマトリクス状に配置した。
【0038】
マスク10は板厚40μm、サイズが460mm(X)×560mm(Y)で、張力を加えて、厚みが20mm、フレーム内側の幅が396mm(X)×496mm(Y)としたマスクフレーム11に溶接で固定化した。張力はマスク10の開口部の長手方向であるX方向が、Y方向に対して1.5倍となるように調整した。マスク及びマスクフレーム11にはインバー材を用いた。またマスク10の開口領域12には、X方向に60mm、Y方向に30μmの開口部を複数設けた。
【0039】
押圧体30は、球状の回転体を弾性体で押圧できる構成とした。球状の回転体にはSUS304の直径10mmの球状体31を用い、弾性体にはSUS304のバネを適用した。バネの強さは、成膜中に球状体31が基板20と当接した時に約0.196N(20gf)の押圧力を加えられるものを選択した。このような球状体31はマスクフレーム11の内側にて、図5に示したようにマスク開口部のピッチに合わせて20箇所に配置した。尚、球状体31同士の距離は、それぞれTxを380mm、Tyを480mmとした。尚、押圧体30のX方向とY方向の押圧力の比(Y/X)は約1.2であった。
【0040】
次に有機EL材料を成膜する工程について説明する。先ず前段階の工程において、基板20上の各画素領域に対応した位置に、駆動用TFTと電気的に導通した画素電極を形成した。また画素電極と同一層でアライメントマークも同時に形成した。
【0041】
次に成膜装置において上記マスク10を使用し、パネル内の所定の画素に対してアライメントを行い、その後有機EL材料の成膜を実施した。尚、以下では有機EL材料を成膜する一工程について説明するが、有機EL素子を構成するその他の材料の成膜においても同様の方法を適用することができる。
【0042】
先ず図1の状態から移動装置を駆動して、基板支持部材に支持されたガラス基板を下降させ、基板20とマスク10の間隔が0.1mmとなる距離まで近接させた。この状態では、マスク10及び基板20は、それぞれの自重により中央付近が最も沈み込むように撓んでいるが、互いは接触しない状態となっている。次に複数のCCDカメラ(不図示)で基板20とマスク10にそれぞれ形成されているアライメントマークを画像認識して、両アライメントマークの相対位置誤差が±2μm以下となるように、基板支持部材に連結された姿勢制御装置を駆動した。
【0043】
上記位置合わせが完了した後に、図2で示すように、基板20をさらにマスク10側に下降させ、基板20表面をマスク10に接触させた。接触後、複数のCCDカメラで基板20とマスク10のアライメントマーク間での位置ずれを計測し、所定の精度以下であることを確認した。この状態では、押圧体30は基板20裏面側の上方で停止させている。
【0044】
その後、図3で示すように、押圧体30を下降させて基板20の裏面に当接させた。この時、押圧体30の基板20側面に突出している球状体31が基板20裏面の4辺に沿って基板20の裏面を圧接した。この結果、基板20及びマスク10には反作用の力が生じ、基板20及びマスク10が上方に持ち上げられ、基板20及びマスク10が中央付近から周辺にかけて広い範囲で略水平な状態となった。この状態で、複数のCCDカメラで基板20とマスク10のアライメントマーク間での位置ずれを計測し、所定の精度以下であることを再度確認した。
【0045】
押圧体30を基板20の裏面に当接させた状態で基板20の被成膜面とマスクとの隙間は10μm以下とした。このようにして基板20の被成膜面にマスク10を密着させた状態で、マスク10の下方に設けた蒸着源から蒸発させた有機EL材料をマスク10を介して、基板20の表面に蒸着した。蒸着後、基板20上に成膜した約50nmの有機EL層の膜形状を調べたところ、着膜幅はほぼマスク開口幅と等しく輪郭ボケはなかった。また隣接して配置される画素への回り込みはないことも確認した。
【0046】
以上の成膜工程を適用して製造した有機EL表示装置においては、発光不良による画素欠けや、動作不良は認められなかった。
【0047】
(実施例2)
球状体31の配置を図8に示すように基板20の長辺(Y方向)に沿った位置とし、球状体31が基板20に当接した時に加わる押圧力を0.294N(30gf)とした。マスク10は板厚40μm、サイズが460mm(X)×560mm(Y)で、張力を加えて、厚みが20mm、フレーム内側の幅が396mm(X)×496mm(Y)としたマスクフレーム11のY方向に沿って溶接で固定化した。このため張力はマスク10の開口部の長手方向であるX方向にのみかかっている。尚マスク及びマスクフレーム11にはインバー材を用いた。またマスク10の各開口領域12には、X方向に60mm、Y方向に30μmの開口部を複数設けた。上記以外は、実施例1と同様にして蒸着工程を行った。この時、押圧体30を基板20の裏面に当接させた状態で、基板20の被成膜面とマスクとの隙間は10μm以下であった。
【0048】
蒸着後、基板20上に成膜した約50nmの有機EL層の膜形状を調べたところ、着膜幅はほぼマスク開口幅と等しく輪郭ボケはなかった。また隣接して配置される画素への回り込みはないことも確認した。
【0049】
以上の成膜工程を適用して製造した有機EL表示装置においては、発光不良による画素欠けや、動作不良は認められなかった。
【0050】
(実施例3)
図4に示すような支持体40を用いた以外は実施例1と同様にして蒸着工程を行った。支持体40の支持位置は押圧体30の球状体31よりも内側とし、球状体31に対応して基板20面内で20箇所に配置した。尚、支持体40は、25箇所の開口領域12に相当する蒸着領域への成膜を邪魔することのないよう、マスクフレーム11近傍に設置した。上記支持体40は基板20との当接箇所として、SUS304の直径10mmの球状体41を用い、弾性体にはSUS304のバネを適用した。バネの強さは、成膜中に該球状体がマスク10と当接した時に約0.196N(20gf)の外力を上方に加えられるものを選択した。
【0051】
次に有機EL材料を成膜する工程について説明する。
【0052】
実施例1と同様に、マスク10と基板20とのアライメントマーク間の位置ずれを計測し、±2μm以下となるようにし、その後基板20をマスク10側に下降させて、基板20表面をマスク10に接触させた。接触後、複数のCCDカメラで基板20とマスク10のアライメントマーク間での位置ずれを計測し、±2μmの精度以下であることを確認した。この状態では、押圧体30はガラス基板20裏面側の上方で停止させている。また支持体40は基板20被成膜面側の下方で停止させている。
【0053】
その後、支持体40を上方に昇降してマスク10と接触させた状態で停止し、さらに押圧体30を下降させて基板20の裏面に当接させて図4の状態とする。この際、押圧体30の基板20側面に突出している球状体31が基板20裏面の4辺に沿って基板20の裏面を圧接した。また支持体40は先端の球状体41が基板20の4辺に沿ってマスク10及び基板20を押し上げた状態で支持した。この状態で、複数のCCDカメラで基板20とマスク10のアライメントマーク間での位置ずれを計測し、所定の精度以下であることを再度確認した。
【0054】
このように本例では、支持体40と押圧体30を併用したことにより、基板20の自重による中央付近の撓みを抑制することができた。これにより基板20及びマスク10を略水平状態とすることができた。
【0055】
次に、押圧体30を基板20の裏面に当接させ、支持体40でマスク10を支持することにより基板20の被成膜面とマスクとの隙間は10μm以下とした。このようにして基板20の表面にマスク10を密着させた状態で、マスク10の下方に設けた蒸着源から蒸発させた有機EL材料をマスク10を介して、基板20の表面に蒸着した。
【0056】
蒸着後、基板上に成膜した約50nmの有機EL層の膜形状を調べたところ、着膜幅はほぼマスク開口部の幅と等しく輪郭ボケはなかった。また隣接して配置される画素への回り込みはないことも確認した。
【0057】
以上の成膜工程を適用して製造した有機EL表示装置においては、発光不良による画素欠けや、動作不良は認められなかった。
【0058】
(実施例4)
図12に示したような、基板辺方向に沿って長尺の構造体32を有する押圧体を用いた。各構造体32はそれぞれ独立して押圧力を調整することができる。マスク10は板厚40μm、サイズが460mm(X)×560(Y)mmで、張力を加えて、厚みが20mm、フレーム内側の幅が396mm(X)×496mm(Y)としたマスクフレーム11に溶接で固定化した。張力はマスク10の開口部の長手方向であるX方向が、Y方向に対して1.5倍となるように調整した。マスク及びマスクフレーム11にはインバー材を用いた。またマスク10の開口領域12には、X方向に60mm、Y方向に30μmの開口部を複数設けた。マスクにかかる張力が最大であるX方向に垂直なY方向に沿った構造体32の押圧力が、X方向に沿った構造体32の押圧力の1.4倍となるように調整した。その他は実施例1と同様にして蒸着工程を行った。この時、構造体32を基板20の裏面に当接させた状態で、基板20の被成膜面とマスクとの隙間は5μm以下であった。
【0059】
蒸着後、基板上に成膜した約50nmの有機EL層の膜形状を調べたところ、着膜幅はほぼマスク開口部の幅と等しく輪郭ボケはなかった。また隣接して配置される画素への回り込みはないことも確認した。
【0060】
以上の成膜工程を適用して製造した有機EL表示装置においては、発光不良による画素欠けや、動作不良は認められなかった。
【符号の説明】
【0061】
10:マスク、11:マスクフレーム、20:基板、30:押圧体、40:支持体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の開口部を備えたマスクを、少なくとも一方向に張力をかけた状態でマスクフレームに固定し、前記マスクを前記マスクの上方に配置した基板の被成膜面に密着させて、前記マスクの複数の開口を介して前記基板の被成膜面に成膜する成膜方法であって、
少なくとも前記マスクフレームの内側であって、少なくとも前記基板の対向する2辺に沿った線状に、基板の裏面側から押圧することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
さらに、基板の被成膜面側から基板を支持することを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記マスクが、少なくとも前記基板の対向する2辺に沿った方向に張力をかけられており、
前記基板の裏面から押圧する押圧力が、マスクにかけられた最大張力の方向に平行な方向よりも、垂直な方向に沿った線状に大きくかけられている請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項4】
張力をかけた状態でマスクを固定するためのマスクフレームと、
被成膜面を前記マスクに向けて、前記マスクの上方において基板を保持するための基板支持部材と、
少なくとも前記マスクフレームの内側であって、少なくとも前記基板の対向する2辺に沿った線状に、基板の裏面側から押圧する押圧体と、
を備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
前記基板の被成膜面側から前記基板を支持する支持体を備えた請求項4に記載の成膜装置。
【請求項1】
複数の開口部を備えたマスクを、少なくとも一方向に張力をかけた状態でマスクフレームに固定し、前記マスクを前記マスクの上方に配置した基板の被成膜面に密着させて、前記マスクの複数の開口を介して前記基板の被成膜面に成膜する成膜方法であって、
少なくとも前記マスクフレームの内側であって、少なくとも前記基板の対向する2辺に沿った線状に、基板の裏面側から押圧することを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
さらに、基板の被成膜面側から基板を支持することを特徴とする請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記マスクが、少なくとも前記基板の対向する2辺に沿った方向に張力をかけられており、
前記基板の裏面から押圧する押圧力が、マスクにかけられた最大張力の方向に平行な方向よりも、垂直な方向に沿った線状に大きくかけられている請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項4】
張力をかけた状態でマスクを固定するためのマスクフレームと、
被成膜面を前記マスクに向けて、前記マスクの上方において基板を保持するための基板支持部材と、
少なくとも前記マスクフレームの内側であって、少なくとも前記基板の対向する2辺に沿った線状に、基板の裏面側から押圧する押圧体と、
を備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
前記基板の被成膜面側から前記基板を支持する支持体を備えた請求項4に記載の成膜装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−92395(P2012−92395A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240759(P2010−240759)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]