説明

成膜用マスク及びそれを用いた成膜方法

【課題】成膜用マスクに光を照射して成膜用マスクの位置を認識する際、コントラストの高い画像が得られないためアライメントマーク位置の計測精度の再現性が安定せず、基板とマスクの位置合わせ誤差が生じる。
【解決手段】位置決め用開口106を有するマスクシート103と、マスクフレーム104とを有する成膜用マスク102において、前記位置決め用開口にマスクシートよりも反射率の高い反射部材を配置する。このような成膜用マスクの位置決め用開口に光を照射すると、前記マスクシートで反射される光と前記反射部材で反射される光と強度差が安定するため、再現性よく成膜用マスクの位置を計測することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜用マスク及びそれを用いた成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、有機EL表示装置の製造方法では、所定パターンが開口された成膜用マスクをガラス等の透明基板上に密着するように配置し、電極膜や有機薄膜等をパターン状に形成する方法が採用されている。
【0003】
成膜用マスクは、基板に成膜される部分に対応するパターン状の開口を有するマスクシートと、マスクシートを支持するマスクフレームとを有している。一般に、マスクシートには鉄、ニッケル、もしくはそれらの合金など、熱膨張率の小さい金属箔が用いられるため、蒸着時の熱による変形を防ぐことができ、高精細なパターンの成膜に好適に用いられる。
【0004】
基板と成膜用マスクとの位置合わせ方法は、有機EL表示装置の成膜形成だけでなく、従来から半導体装置の製造工程などに用いられてきた。しかし、近年は高精細な表示装置の開発が進み、特に有機EL表示装置の製造では、基板と成膜用マスクとの位置合わせ(アライメント)を高精度で行うことが求められている。
【0005】
特許文献1には、マスクのアライメントマークである開口(位置決め用開口)と基板のアライメントマークとを、CCDカメラで観察して両者の位置ずれ量を検出してアライメントする方法が開示されている。この位置ずれ量がゼロになるようにマスクを基板に対して移動させ、アライメントするとしている。
【0006】
マスクとマスクのアライメントマークである開口との反射光の強度差がマスクのアライメントマークとして認識される。特許文献1ではアライメントマークが単なる開口であるため、光は開口を通過するだけで反射はされない。しかし、開口を通過した光が装置内の各部材で反射され、その反射光が再び開口を通ってCCDカメラに認識されてしまう。また、装置内の各部材の材質やその配置によって反射光の強度は異なってしまい、マスクとマスクのアライメントマークである開口と反射光の強度差が安定せず、アライメントマークを常に精度良く認識することが難しい。そこで、特許文献2に開示の装置は、図6にように、アライメントマーク認識用のCCDカメラ301とマスク用光源307と反射板組立体304とを備えている。マスク用光源307の光を反射板組立体304で反射させて、CCDカメラ301と反対側からマスク303のアライメントマーク306を照らす。このような構成により、マスク303で反射される光とマスクのアライメントマークである開口を通過してくる光との強度差が安定し、アライメントマークを明確な画像として認識することができる。その結果、基板302とマスク303とを精度のよくアライメントすることができる。なお、305は、基板の位置を認識するための基板のアライメントマークである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11―158605号公報
【特許文献2】特開2006―176809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献2に記載のアライメント方法の場合、成膜時間の経過とともに反射板組立体304の反射面に膜が付着してしまう。そのため、反射板組立体304の反射率が変化して反射光量がばらつき、アライメントマーク位置の計測精度の再現性を安定せず、基板とマスクの位置合わせ誤差が生じることが懸念される。
【0009】
また、成膜時に蒸着物質が回り込んでマスクのアライメントマークである開口に膜が付着し、アライメントマークの形状が変化してしまう。その結果、位置情報のズレを生じる懸念もある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の成膜用マスクは、基板に膜をパターン状に形成するための開口を有する成膜用マスクにおいて、前記開口が設けられたマスクシートと、前記マスクシートを固定支持するマスクフレームと、前記マスクシートに設けられた位置決め用開口と、前記マスクシートの前記基板と対向する面とは反対側の面に配置され、前記位置決め用開口を塞ぐ反射部材と、を有し、前記反射部材の反射率は前記マスクシートの反射率よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マスクシートに形成された位置決め用開口に基板と対向する面と反対側の面に反射部材を設けることにより、マスクのアライメントマークの反射率の変化を抑えることができ、マスクのアライメントマークを安定して認識することができる。その結果、精度良く基板とマスクとのアライメントを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態による成膜用マスクを示す模式斜視図である。
【図2】実施例1に係る成膜用マスクを用いた真空蒸着装置を示す概略図である。
【図3】マスクマークのCCD画像の一例を示す図である。
【図4】実施例2に係る成膜用マスクを用いた真空蒸着装置を示す概略図である。
【図5】比較例1に係る成膜用マスクを用いた真空蒸着装置を示す概略図である。
【図6】一従来例に係る成膜用マスクを用いた真空蒸着装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る成膜用マスクを示す模式斜視図である。図1の成膜用マスク102は、1枚の大判基板から36枚のパネルを得るためのマスクで、パターン開口部105がパネル1枚の表示領域に対応している。マスクシート103は、張力が加えられた状態でマスクフレーム104に固定支持されており、パターン開口部105には、基板に膜をパターン状に形成するための複数の蒸気通過口が設けられている。さらに、マスクシートの周辺領域には、マスクのアライメントマークとして認識される複数の位置決め用開口106とが設けられている。
【0015】
複数の位置決め用開口(マスクのアライメントマーク)106には、マスクシート103よりも反射率の高い反射部材107が設けられている。反射部材107は、成膜物質の蒸気が位置決め用開口106に入射する側のマスクシート103の面に、位置決め用開口106を塞ぐように配置されている。つまり、反射部材107はマークシート103の基板と対向する面とは反対側の面に位置決め用開口を塞ぐように配置されている。成膜用マスク102の位置は、位置決め用開口106をCCDカメラ101で画像として認識して検知することができる。具体的には、位置決め用開口106近傍に反射部材を配置したマスクシート面とは反対側から光を照射する。そして、照射光が反射部材107によって反射された光とマスクシート103によって反射された光がCCDカメラ101で認識され、前記2つの光の強度差がマスクのアライメントマーク画像として認識される。成膜用マスクと基板とをアライメントする場合は、マスクのアライメントマークの画像中心と、基板のアライメントマークの中心位置をそれぞれ認識する。そして、その相対距離を不図示の計測器で計測し、予め設定しておいた距離にあわせることでアライメントすることができる。
【0016】
本発明では、反射部材107とその周辺のマスクシート103に照射される光の強度がほぼ同じであるため、反射部材107で反射される光の強度と、マスクシート103で反射される光との強度差は、それぞれの反射率差に置き換えることができる。このとき、お互いの反射率に15%以上の差がないと、一般的な感度のCCDカメラ101では、マスクのアライメントマークとその周辺とのコントラストが付いた画像が得ることができない。すなわち、本発明における反射部材とは、マスクシート103の反射率よりも15%以上高い反射率を有する部材を意味する。前述した様に、マスクシート103は、熱膨張率の小さい鉄、ニッケル、もしくはそれらの合金などから形成される。有機発光装置などの製造に用いられる高精細なパターンはシートをエッチングして形成されため、マスクシートの表面の反射率は20〜35%の範囲でばらついてしまう。一般的な1500ルクス程度のLED照明を用いた場合、反射部材の反射率は、マスクシート103の反射率よりも15%以上高い50%以上であるのが好ましい。反射部材は変形の少ない部材であるのが好ましく、ガラスや金属板等に、反射率を高めるため反射面にアルミニウムや銀などの高い反射率を有する材料を形成したものを用いても良いし、金属板の表面を平滑処理したものを用いても良い。反射部材の表面を平滑処理しておくと、反射部材に照射される光が反射部材の表面で乱反射しないため、強い反射光をCCDカメラに戻すことができ、マスクのアライメントマーク106の検出位置精度を上げることができる。
【0017】
図2には図示されていないが、成膜用マスク102の周縁はマスクホルダーで保持されている。このマスクホルダーが所定の駆動部に接続されており、駆動部がCCDカメラによって得られた成膜用マスク102の位置情報に基づいて成膜用マスクを移動させ、成膜用マスク102と基板との位置決めをするように構成されている。
【0018】
また、反射部材107をマスクシート103に接するように設けると、マスクシート103と反射部材107との並行度を保つことができ、反射部材107からの反射光をCCDカメラに確実に戻すことができる。その結果、アライメントマークの検出位置精度を向上させることができる。さらに、反射部材107が位置決め用開口106を塞ぐので、位置決め用開口106に膜が付着してアライメントマークの形状が変化して認識精度が低下するのを防ぐことができる。
【0019】
次に、他の実施形態による成膜用マスクについて説明する。図4に示すように、位置決め用開口106は、マスクシート103の周辺部のマスクフレーム108と接する箇所に設ける。そして、位置決め用開口106と接する部分のマスクフレーム108表面に、アライメント時に位置決め用開口106に照射される光を反射する反射面109を設ける。このような構成は、マスクフレーム108が反射部材109を兼ねるため、成膜用マスクの構成を簡略化することができる。マスクフレームの反射面には、反射率の高いAlやAgなどの膜を形成しても良いが、反射面109の表面を平滑処理することが好ましい。このようにすると、光源からの反射光が反射面109で乱反射しないため、強い反射光をCCDカメラに戻すことができ、マスクのアライメントマーク106の検出位置精度を上げることができる。以上のように、反射部材を設けることにより、マスクシート103の反射率が製造工程上ばらつきを持ったとしても、マスクシートと反射部材との反射率差を一定に保つことができる。これにより、マスクのアライメントマーク画像を安定して認識して成膜用マスク102の正確な位置情報を得ることができる。
【実施例1】
【0020】
図2は、実施例1に係る成膜用マスクとそれを配置した真空蒸着装置を示す概略図である。図2では省略されているが、マスクシート103にはパターン開口部が複数設けられている。
【0021】
鉄とニッケルとの合金であるインバー材からなる成膜用マスク102のマスクシート103に、エッチングにて複数の蒸気通過口からなるパターンを形成した。このとき、マスクシート103の基板203側の表面反射率は30%であった。
【0022】
マスクシート103の周辺部に、一対の位置決め用開口106を設けた。本実施例においてはφ0.5mmの丸穴を採用した。
【0023】
このマスクシート103の蒸着源202側には反射部材107がマスクシート103に密着して配置した。反射部材107には、ガラス表面にアルミニウム薄膜をスパッタ法にて形成したミラーを用い、マスクシート103側にミラー表面(アルミニウム薄膜を成膜した側)が来るようにグラファイトペーストで接着した。このとき、ミラー表面の反射率は90%であった。
【0024】
上記のような成膜用マスク102を不図示のマスクホルダーで真空蒸着装置201内に設置し、その上に基板ホルダに支持された基板203を設置して、成膜用マスク102と基板203とのアライメンと行った。真空蒸着装置201の外から、真空蒸着装置の壁面に設けられた窓ガラスを介して照明にて光を照射し、CCDカメラ101にてマスクの位置決め用開口106と基板のアライメントマーク204の画像情報を取得した。照明には、1300ルクスのLED同軸照明を用いた。
【0025】
図3に、本実施例に係る成膜用マスクの位置決め用開口106のCCD画像205の一例を示す。本実施例では、CCDカメラ101につながるモニター画面内に、マスクのアライメントマーク106の画像と基板のアライメントマーク204の画像とを一緒に表示させた。
【0026】
各アライメントマークの画像データをコンピュータ処理してそれぞれの位置関係を算出し、不図示の駆動部にて成膜用マスク102を移動させアライメントを行った。
【0027】
特許文献1に記載のマスクの場合、マスクのアライメントマークの画像情報を取得する際、通常はマスクマークの形状、大きさ、光源の設置場所による光量のばらつき、反射板の表面状態などの影響を受ける。その結果、画像状態が微妙に変化しその情報から算出する位置情報の精度がばらつくと言う不具合があった。しかし、本実施例にて使用した成膜用マスク102においては上記不具合を解決し、再現性の良い位置精度が得られるようになった。しかも、蒸着源202から発生する蒸着物質の付着によるマスクのアライメントマーク106への影響も無くなった。
【実施例2】
【0028】
図4は、実施例2に係る成膜用マスクと、それを配置した真空蒸着装置を示す概略図である。実施例1と同様でよい部分には同一の符号を付し,その説明は省略する。実施例1と同様に、図示されていないが、マスクシート103には一度に36枚の有機発光パネルが得られるように、36個のパターン開口部が設けられている。
【0029】
図4において、マスクシート103の周辺部であって、マスクシート103とマスクフレーム108と接する位置に位置決め用開口106を設けた。そして、位置決め用開口106と接するマスクフレーム108の表面に平滑処理を施し、アライメント時に位置決め用開口106に照射される光を反射する反射面を設けた。本実施例では、ステンレス製のマスクフレームを用いたため、反射面での反射率は50%であった。マスクシート103には実施例1と同様に作製したものを用い、マスクシート103の基板側の反射率は32%であった。本実施例では、マスクフレームの平滑処理面が、実施例1の反射部材を兼ねるため、反射部材107は不要となる。効果に関しては実施例1と同等の結果を得た。
【0030】
(比較例1)
図5は、比較例1に係る成膜用マスクを用いた真空蒸着装置を示す概略断面図である。
【0031】
本比較例では、反射部材107を成膜用マスク102から離した状態で設置した他は実施例1と同様の成膜用マスク102を使用し、マスクのアライメントマーク(マスクマーク)の画像を取得し繰返し再現精度を確認した。
【0032】
実施例1、2及び比較例1におけるマスクのアライメントマーク(マスクマーク)の画像情報については、キーエンス社CV−3500にて測定を行った。測定には1300ルクスのLED同軸照明をCCDカメラ側からマスクのアライメントマークを照射するように配置して用いた。測定個所は2箇所で行い、設計値に対するずれ量を評価した。10枚の基板についてアライメントを行い、その結果の位置精度の平均値を表1に示す。評価基準は以下の通りである。
◎:マスクマークの繰返し位置精度が0〜2ミクロン
○:マスクマークの繰返し位置精度が2〜5ミクロン
△:マスクマークの繰返し位置精度が5〜8ミクロン
×:マスクマーク繰返し位置精度が8ミクロン以上
【0033】
【表1】

【0034】
表1から分かるように、実施例1および2の成膜用マスクでは、反射部材を配備することによって、反射率の変化を押さえ、安定したコントラストを得ることでマスクのアライメントマークの検出位置の精度を向上させることができた。また、マスクのアライメントマーク(マスクマーク)が蒸着物質の付着等によって生じる汚れを防止し、蒸着回数を重ねる度に発生する検出位置精度の劣化を防ぐことが確認された。
【0035】
本発明の成膜用マスクは、簡単なマスク構成により、マスクのアライメントマークの検出位置精度が高く、素子製作時の歩留まりの向上や、製造コストの削減など生産性の向上が達成される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、有機発光素子の有機化合物膜の形成に好適に用いることができるが、これに限定されることはなく、マスクを用いて基板に薄膜を形成するものであれば特に制限は無い。例えば、蒸着プロセスやCVDプロセス等で基板とマスクとのアライメントを要する成膜にも本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0037】
102 成膜用マスク
103 マスクシート
104 マスクフレーム
106 位置決め用開口(マスクのアライメントマーク)
107 反射板
109 反射面
202 蒸着源
203 基板
204 基板のアライメントマーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に膜をパターン状に形成するための開口を有する成膜用マスクにおいて、
前記開口が設けられたマスクシートと、
前記マスクシートを固定支持するマスクフレームと、
前記マスクシートに設けられた位置決め用開口と、
前記マスクシートの前記基板と対向する面とは反対側の面に配置され、前記位置決め用開口を塞ぐ反射部材と、を有し、
前記反射部材の反射率は前記マスクシートの反射率よりも大きいことを特徴とする成膜用マスク。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜用マスクにおいて、前記反射部材が前記マスクシートに取り付けられていることを特徴とする成膜用マスク。
【請求項3】
請求項1に記載の成膜用マスクにおいて、前記マスクフレームが前記反射部材を兼ねていることを特徴とする成膜用マスク。
【請求項4】
請求項3に記載の成膜用マスクにおいて、
前記マスクフレームの反射部材を兼ねる部分の表面が平滑処理されていることを特徴とする成膜用マスク。
【請求項5】
請求項1に記載の成膜用マスクを用いる成膜方法であって、
前記マスクシートの前記反射部材に光を照射する工程と、
前記反射部材にて反射された前記光を画像として認識する工程と、
前記画像に基づいて前記成膜用マスクの位置を算出する工程と、
前記算出した位置に基づいて前記基板と前記成膜用マスクとの位置をアライメントする工程と、
前記基板に膜を成膜する工程と、
を有することを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−106358(P2010−106358A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207975(P2009−207975)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】