説明

成膜装置および成膜方法

【課題】筒状体の内周面への成膜に適したものであって、かつγ電子によるダメージを抑制することができる成膜装置および成膜方法を提供する。
【解決手段】ターゲットホルダ9は、スパッタ膜の材料としてのターゲット8を保持するためのものであって、相対的に負電位が印加されるように構成されている。筒状体ホルダ2は、筒状体1を保持するためのものであって、相対的に正電位が印加されるように構成された導電部2bを有する。導電部2bは、筒状体1が筒状体ホルダ2に保持された状態において筒状体1の内部空間へ露出するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置および成膜方法に関するものであり、より特定的には、筒状体の内周面にスパッタ膜を形成するための成膜装置および成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筒状形状を有する製品の製造方法において、筒状体の内周面上への成膜が行われることがある。たとえば、特開2009−206008号公報(特許文献1)によれば、有機EL(Electro Luminescence)を用いた発光装置の製造方法において、スパッタ法により円筒管の内面に透明陽極層を形成することが開示されている。
【0003】
スパッタ法による成膜においては、ターゲット表面から放出される2次電子(γ電子)によるダメージが生じることがある。たとえば、特開2008−240117号公報(特許文献2)によれば、スパッタ法による透明電極膜の成膜においてこのダメージを避けるために、スパッタリング装置に磁気シールド板が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−206008号公報
【特許文献2】特開2008−240117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のスパッタリング装置では、上述したγ電子によるダメージが生じることがあった。特許文献2のスパッタリング装置は、磁気シールド板を必要とするため、その構成が複雑であった。またこの特許文献2のスパッタリング装置は、特許文献1のスパッタリング装置と異なり、筒状体の内周面への成膜に特に適したものではなかった。
【0006】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、筒状体の内周面への成膜に適したものであって、かつγ電子によるダメージを抑制することができる成膜装置および成膜方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の成膜装置は、筒状体の内周面にスパッタ膜を形成するためのものであって、ターゲットホルダおよび筒状体ホルダを有する。ターゲットホルダは、スパッタ膜の材料としてのターゲットを保持するためのものであって、相対的に負電位が印加されるように構成されている。筒状体ホルダは、筒状体を保持するためのものであって、相対的に正電位が印加されるように構成された導電部を有する。筒状体ホルダの導電部は、筒状体が筒状体ホルダに保持された状態において筒状体の内部空間へ露出するように構成されている。
【0008】
本発明の成膜装置によれば、ターゲットホルダに対して筒状体ホルダの導電部が相対的に正電位とされつつ、筒状体の内部空間へ露出される。これにより、スパッタリングされているターゲットから放出されたγ電子を、導電部へ誘導しかつ導電部を経由して逃がすことができる。これにより筒状体の内周面上へ衝突するγ電子を少なくすることができるので、内周面上に形成された膜へのγ電子によるダメージを低減することができる。
【0009】
好ましくはターゲットホルダおよび筒状体ホルダは、筒状体の延在する方向に互いに相対的に移動することができるように構成されている。これによりターゲットホルダを筒状体の内部へ挿入することができるので、スパッタ粒子を筒状体の内周面に効率的に堆積させることができる。
【0010】
好ましくは筒状体は絶縁体からなる。筒状体が絶縁体からなる場合、入射されたγ電子によってその内周面に電子が蓄積される。これにより、新たにターゲット表面で発生したγ電子は、内周面に蓄積された電子から斥力を受ける。よって筒状体の内周面上へ衝突するγ電子をより少なくすることができるので、内周面上に形成された膜へのγ電子によるダメージをより低減することができる。
【0011】
筒状体ホルダは、導電部および筒状体の間を電気的に絶縁する絶縁部材を有してもよい。これにより、筒状体の内周面に入射したγ電子が導電部へと逃げることが防止されるので、内周面に電子が蓄積される。これにより、新たにターゲット表面で発生したγ電子は、内周面に蓄積された電子から斥力を受ける。よって筒状体の内周面上へ衝突するγ電子をより少なくすることができるので、内周面上に形成された膜へのγ電子によるダメージをより低減することができる。
【0012】
好ましくはターゲットの表面は、筒状体の延在する方向に垂直な面である。これにより、γ電子が最も向かいやすい方向に沿って筒状体の内部空間が延在するので、γ電子が筒状体の内周面に衝突しにくくなる。よって筒状体の内周面上へ衝突するγ電子をより少なくすることができるので、内周面上に形成された膜へのγ電子によるダメージをより低減することができる。
【0013】
上記の成膜装置は、ターゲットホルダおよび筒状体ホルダの相対位置に応じて導電部の電位を制御する制御部をさらに有してもよい。これにより、ターゲットホルダおよび筒状体ホルダの相対位置に応じて、導電部にγ電子を誘導する強さを制御することができる。
【0014】
本発明の成膜方法は、筒状体の内周面にスパッタ膜を形成するためのものであって、以下の工程を有する。ターゲットホルダによって、スパッタ膜の材料としてのターゲットが保持される。導電部を有する筒状体ホルダによって、筒状体が保持される。筒状体は、筒状体ホルダの導電部が筒状体の内部空間へ露出するように保持される。ターゲットホルダが相対的に負電位とされ、かつ筒状体ホルダが相対的に正電位とされることによって、ターゲットがスパッタされる。
【0015】
本発明の成膜方法によれば、ターゲットホルダに対して筒状体ホルダの導電部が相対的に正電位とされつつ、筒状体の内部空間へ露出される。これにより、ターゲットがスパッタされることで付与された運動エネルギーをともなってターゲット表面から放出される電子(γ電子)を、導電部へ誘導しかつ導電部を経由して逃がすことができる。これにより筒状体の内周面上へ衝突するγ電子を少なくすることができるので、内周面上に形成された膜へのγ電子によるダメージを低減することができる。
【0016】
好ましくは、ターゲットがスパッタされる際に、筒状体の内周面の電位が浮遊電位とされる。この場合、内周面に入射されたγ電子が蓄積されることによって、この浮遊電位は負の電位となる。これにより、新たにターゲット表面で発生したγ電子は、負の電位を有する内周面から斥力を受ける。よって筒状体の内周面上へ衝突するγ電子をより少なくすることができるので、内周面上に形成された膜へのγ電子によるダメージをより低減することができる。
【0017】
好ましくは、筒状体は絶縁体からなる。これにより、筒状体の内周面に入射されたγ電子が筒状体を通って外部に逃げることが抑制される。よって内周面に電子が蓄積されるので、新たにターゲット表面で発生したγ電子は、内周面に蓄積された電子から斥力を受ける。よって筒状体の内周面上へ衝突するγ電子をより少なくすることができるので、内周面上に形成された膜へのγ電子によるダメージをより低減することができる。
【0018】
好ましくは、筒状体を保持した筒状体ホルダとターゲットホルダとを筒状体の延在する方向に互いに相対的に移動させることによって、ターゲットホルダが筒状体の内部に挿入される。これによりスパッタ粒子を筒状体の内周面に効率的に堆積させることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上の説明から明らかなように、本発明の成膜装置および成膜方法によれば、筒状体の内周面への成膜において、γ電子によるダメージを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1における成膜装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1における成膜方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【図3】本発明の実施の形態1における成膜方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1における成膜方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【図5】図1の成膜装置の筒状体ホルダの第1変形例を概略的に示す部分断面図である。
【図6】図1の成膜装置の筒状体ホルダの第2変形例を概略的に示す部分断面図である。
【図7】本発明の実施の形態2における成膜装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態2における成膜方法の一工程を概略的に示す部分断面図である。
【図9】有機EL発光装置の一例を示す側面図(A)および正面図(B)である。
【図10】図9(B)のX−X線に沿う概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
(実施の形態1)
図1を参照して、本実施の形態の成膜装置30は、筒状体1の内周面ISにスパッタ膜を形成するためのものである。成膜装置30は、ターゲットホルダ9、筒状体ホルダ2、直流電源23、真空容器5、回転モータ3、および直線駆動機構11を有する。筒状体1は絶縁体からなり、たとえばガラスからなる。筒状体1の両端は開放されている。なお筒状体1の内周面ISには透明導電膜などの導電膜が形成されていてもよい。
【0022】
ターゲットホルダ9は、スパッタ膜の材料としてのターゲット8を保持し、かつターゲット8に印加される電位を制御するスパッタ源である。ターゲット8の材料は、導電体であり、たとえば、ITO(Indium Tin Oxide)または金属である。
【0023】
筒状体ホルダ2は把持部2aおよび導電部2bを有する。
把持部2aは筒状体1を保持するためのものである。たとえば筒状体ホルダ2は、筒状体1の外周端縁を把持することにより筒状体1を吊り下げて保持することができるよう構成されている。導電部2bは導体から作られている。この導体は、好ましくは金属であり、たとえばステンレス鋼である。なお把持部2aおよび導電部2bは、図1に示すように、一体に形成されていてもよい。回転モータ3は回転軸3sを介して筒状体ホルダ2に接続されている。回転軸3sは、図中矢印Rのように回転することによって、筒状体1の延在する方向UDの仮想の軸線Aを中心にして筒状体ホルダ2を回転させることができるように構成されている。よって筒状体ホルダ2およびターゲットホルダ9は、筒状体ホルダ2に対してターゲットホルダ9が軸線Aを中心として相対的に回転可能に構成されている。ターゲット8の表面であるターゲット表面SSは、筒状体1の延在する方向に垂直な面である。
【0024】
導電部2bは、筒状体1が取り付けられる側に、露出された面ESを有する。これにより導電部2bは、筒状体1が筒状体ホルダ2に保持された状態において、筒状体1の内部空間へ露出するように構成されている。また導電部2bは接地されている。
【0025】
直流電源23は、ターゲットホルダ9に接続された陰極と、接地された陽極とを有する。よって上述したように接地されている導電部2bは、ターゲットホルダ9に対して相対的に正電位が印加されるように構成されている。逆に言えばターゲットホルダ9は、導電部2bに対して相対的に負電位が印加されるように構成されている。
【0026】
直線駆動機構11は、ターゲットホルダ9に接続された変位部11sを有する。変位部11sは方向UDに沿って移動可能に構成されている。よってターゲットホルダ9および筒状体ホルダ2は、筒状体1の延在する方向に互いに相対的に移動することができるように構成されている。これによりターゲット8を保持したターゲットホルダ9を、筒状体ホルダ2に保持された筒状体1の内部に挿入、抜き出し可能であり、また筒状体1の内部で筒状体1の延在する方向に沿って移動可能である。
【0027】
真空容器5の電位は接地電位とされている。また真空容器5には、その内部の雰囲気を制御するために、ガス導入部および真空ポンプ(図示せず)が設けられている。
【0028】
次に成膜装置30を用いて筒状体1の内周面IS上にスパッタ膜を形成する方法について、以下に説明する。
【0029】
主に図2を参照して、まずターゲットホルダ9によって、スパッタ膜の材料としてのターゲット8が保持される。また筒状体ホルダ2によって筒状体1が保持される。筒状体1は、筒状体ホルダ2の導電部2bの面ESが筒状体1の内部空間へ露出するように保持される。また筒状体1が回転モータ3(図1)によって回転される。また真空容器5内の雰囲気がスパッタ法に適したものとされる。スパッタリングガスとしては、たとえばアルゴン(Ar)ガスを用いることができる。
【0030】
次に筒状体ホルダ2の電位が接地電位に維持されたままで、直流電源23によってターゲットホルダ9の電位が負電位とされる。これにより、ターゲットホルダ9の電位が相対的に負電位とされ、かつ筒状体ホルダ2の電位が相対的に正電位とされる。
【0031】
直流電源23による電圧印加によってプラズマが発生することでターゲット8がスパッタされる。これによりターゲット表面SSからスパッタ粒子が放出され始めることで成膜が開始される。すなわち筒状体1の内周面IS上に、ターゲット8を材料としてスパッタ膜が形成され始める。このようにスパッタ膜が形成された内周面ISは、筒状体1が絶縁体であるために、筒状体ホルダ2から電気的に絶縁されている。よってターゲット8がスパッタされる際に、筒状体1の内周面ISの電位は浮遊電位とされる。好ましくは、成膜中、直流電源23は出力電力が一定となるように制御される。
【0032】
ターゲット8がスパッタされる際、ターゲット表面SSからγ電子GEが放出される。γ電子GEは、導電部2bの面ESと、筒状体1の内周面ISとに入射する。
【0033】
図3を参照して、導電部2bの面ESに入射したγ電子GEは、導電部2bが接地されているので、蓄積され得ない。筒状体1の内周面ISに入射したγ電子GEは、筒状体1が絶縁体であることによって内周面ISと筒状体ホルダ2とが互いに電気的に絶縁されているので、内周面ISに蓄積される。内周面ISに蓄積された蓄積電子SEは、新たに内周面ISに向かってくるγ電子GEに対して斥力を及ぼす。
【0034】
主に図4を参照して、成膜中、ターゲットホルダ9と筒状体ホルダ2とが筒状体1の延在する方向に互いに相対的に移動されることで、ターゲットホルダ9が筒状体1の内部に挿入される。
【0035】
成膜完了後、筒状体ホルダ2とターゲットホルダ9とが筒状体1の延在する方向に互いに相対的に移動されることで、ターゲットホルダ9が筒状体1の外部へ取り出される。以上により筒状体1の内周面IS上へスパッタ膜が形成される。
【0036】
本実施の形態の成膜装置30によれば、筒状体ホルダ2の導電部2bの面ES(図3)がターゲットホルダ9に対して相対的に正電位とされつつ、筒状体1の内部空間へ露出される。これによりγ電子GEを、導電部2bへ誘導しかつ導電部2bを経由して逃がすことができる。よって筒状体1の内周面IS上へ衝突するγ電子を少なくすることができるので、内周面IS上に形成された膜へのγ電子によるダメージを低減することができる。
【0037】
またターゲットホルダ9および筒状体ホルダ2は、筒状体1の延在する方向UD(図1)に互いに相対的に移動することができるように構成されている。これによりターゲットホルダ9を筒状体1の内部へ挿入することができるので、スパッタ粒子を筒状体1の内周面ISに効率的に堆積させることができる。
【0038】
また筒状体1が絶縁体からなるので、入射されたγ電子GEによってその内周面ISに蓄積電子SEが蓄積される。これにより、新たにターゲット表面SSで発生したγ電子GEは、内周面ISの蓄積電子SEから斥力を受ける。よって筒状体1の内周面IS上へ衝突するγ電子をより少なくすることができるので、内周面IS上に形成された膜へのγ電子によるダメージをより低減することができる。
【0039】
またターゲット表面SS(図1)は、筒状体1の延在する方向UDに垂直な面である。これにより、γ電子GE(図2)が最も向かいやすい方向に沿って筒状体1の内部空間が延在するので、γ電子GEが筒状体1の内周面ISに衝突しにくくなる。よって筒状体1の内周面IS上へ衝突するγ電子をより少なくすることができるので、内周面IS上に形成された膜へのγ電子によるダメージをより低減することができる。
【0040】
本実施の形態の成膜方法によれば、筒状体ホルダ2の導電部2bの面ES(図3)がターゲットホルダ9に対して相対的に正電位とされつつ、筒状体1の内部空間へ露出される。これによりγ電子GEを、導電部2bへ誘導しかつ導電部2bを経由して逃がすことができる。よって筒状体1の内周面IS上へ衝突するγ電子を少なくすることができるので、内周面IS上に形成された膜へのγ電子によるダメージを低減することができる。
【0041】
またターゲット8がスパッタされる際に、筒状体1の内周面ISの電位が浮遊電位とされる。この場合、内周面ISに入射されたγ電子GEが蓄積電子SE(図3)となることによって、この浮遊電位は負の電位となる。これにより、新たにターゲット表面SSで発生したγ電子GEは、負の電位を有する内周面ISから斥力を受ける。よって筒状体1の内周面IS上へ衝突するγ電子をより少なくすることができるので、内周面IS上に形成された膜へのγ電子によるダメージをより低減することができる。
【0042】
また筒状体1は絶縁体からなる。これにより、筒状体1の内周面ISに入射されたγ電子GEが筒状体1を通って外部に逃げることが抑制される。よって内周面ISに蓄積電子SEが蓄積されるので、新たにターゲット表面SSで発生したγ電子GEは、内周面ISの蓄積電子SE(図3)から斥力を受ける。よって筒状体1の内周面IS上へ衝突するγ電子をより少なくすることができるので、内周面IS上に形成された膜へのγ電子によるダメージをより低減することができる。
【0043】
また筒状体1を保持した筒状体ホルダ2とターゲットホルダ9とを筒状体1の延在する方向UD(図1)に互いに相対的に移動させることによって、ターゲットホルダ9が筒状体1の内部に挿入される。これによりスパッタ粒子を筒状体1の内周面ISに効率的に堆積させることができる。
【0044】
次に筒状体ホルダ2(図1)の2つの変形例について、以下に説明する。
図5を参照して、第1変形例としての筒状体ホルダ2xは、開口部OPを有する導電部2bxを有する。開口部OPが設けられることによって、スパッタリングガスが筒状体1の内部をより抵抗なく通過することができる。これにより、筒状体1の内部の雰囲気をより安定化することができる。よってスパッタ成膜をより安定化することができる。
【0045】
図6を参照して、第2変形例としての筒状体ホルダ2yは、把持部2aおよび筒状体1の外周面との間に位置するように把持部2a上に絶縁部材2cを有する。絶縁部材2cが設けられることによって導電部2bおよび筒状体1の間が電気的に絶縁される。これにより筒状体1の内周面ISに入射したγ電子が導電部2bへと逃げることが防止されるので、内周面ISに蓄積電子SEが蓄積される。これにより、新たにターゲット表面SSで発生したγ電子GEは、内周面ISの蓄積電子SEから斥力を受ける。よって筒状体1の内周面IS上へ衝突するγ電子をより少なくすることができるので、内周面IS上に形成された膜へのγ電子によるダメージをより低減することができる。絶縁部材2cが設けられる場合、筒状体1の絶縁性の有無にかかわらず筒状体に電子を蓄積することができる。
【0046】
なおターゲットホルダ9および筒状体ホルダ2を筒状体1の延在する方向に互いに相対的に移動させるための構成は、ターゲットホルダ9のみを移動させる構成に限定されるものではなく、ターゲットホルダ9および筒状体ホルダ2の少なくともいずれかを移動させる構成であればよい。
【0047】
また筒状体ホルダ2およびターゲットホルダ9を軸線A(図1)を中心として互いに相対的に回転させるための構成は、筒状体ホルダ2のみを回転させる構成に限定されるものではなく、筒状体ホルダ2およびターゲットホルダ9の少なくともいずれかを回転させる構成であればよい。また筒状体ホルダ2を軸線A周りに回転させるための構成は必ずしも必要なものではない。特にターゲット表面SSが軸線Aに垂直な場合、スパッタ粒子が軸線Aの周りにおおよそ均等に放出されるので、成膜の均一性を特に高める必要がない場合は、回転のための機構が省略されてもよい。
【0048】
またターゲット表面SSは、筒状体1の延在する方向(図1の軸線Aの方向)に対して必ずしも垂直な面である必要はない。ターゲット表面SSを軸線Aに垂直な面に対して傾斜させるか、または軸線Aに平行とすることによって、導電部2bの面ES(図2)に入射するスパッタ粒子を減らすことで、筒状体1の内周面IS上にスパッタ粒子をより効率よく堆積させることができる。
【0049】
(実施の形態2)
図7を参照して、本実施の形態の成膜装置30zは、筒状体ホルダ2zと、制御部72と、移動量測定器71と、直流電源73と、フィードスルー74とを有する。筒状体ホルダ2zは、把持部2azおよび導電部2bzを有する。導電部2bzは、筒状体1が取り付けられる側に、露出された面ESzを有する。また回転モータ3は回転軸3szを介して筒状体ホルダ2zに接続されている。
【0050】
直流電源73は、フィードスルー74に接続された陽極と、直流電源23の陽極に接続された陰極とを有する。直流電源23および73の間の電位は接地電位とされている。フィードスルー74は導電部2bzおよび直流電源73を互いに電気的に接続している。フィードスルー74は、本実施の形態においては、常に静止しており、回転軸3szの内部を貫通している。
【0051】
移動量測定器71は、ターゲットホルダ9および筒状体ホルダ2zの相対位置を測定するものである。制御部72は、移動量測定器71からの情報に基づいて直流電源73の出力電圧を制御するものである。具体的には制御部72は、筒状体ホルダ2zの導電部2bzの面ESzとターゲットホルダ9とが相対的に離れるほど、直流電源73の出力電圧が大きくなるように直流電源73を制御するものである。
【0052】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0053】
図8を参照して、本実施の形態によれば、直流電源73によって導電部2bzに正電位が印加される。これによりγ電子GEに対して導電部2bzへの引力が加わることで、筒状体1の内周面ISへ入射するγ電子GEが減少する。
【0054】
また制御部72によって、ターゲットホルダ9および筒状体ホルダ2zの相対位置に応じて導電部2bzの電位が制御される。これにより、ターゲットホルダ9および筒状体ホルダ2の相対位置に応じて、導電部2bzにγ電子GEを誘導する強さを制御することができる。
【0055】
次に、実施の形態1または2の成膜方法を用いて製造することができる有機EL発光装置について、以下に説明する。
【0056】
図9(A)および(B)と図10とを参照して、有機EL発光装置7は、筒状体1と、筒状体1の両端に固定された封止部40と、電極50、51と、配線52、53と、乾燥剤45、46とを備えている。封止部40は、封止部材41、42と、Oリング43、44とを有する。
【0057】
筒状体1の筒状体1の延在する方向(図10中のLD方向)の両端側の領域は、陰極層37が形成されていない領域であるショート防止用スペースSPとなっている。ショート防止用スペースSPが設けられていることにより、陰極層37と透明陽極層32とが筒状体1の筒状体1の延在する方向の両端側の領域において短絡することが防止されている。また、封止部40は、筒状体1の内部空間を気密に防止している。これにより、透明陽極層32と有機物層OLと陰極層37とを含む領域が気密に封止されている。気密に封止された筒状体1の内部には、不活性ガスIGとして、たとえば窒素ガスが封入されている。
【0058】
筒状体1の内周面上には順に、保護層31と、透明陽極層32と、有機物層OLと、陰極層37とが形成されている。有機物層OLは、正孔輸送層33と、発光層34と、電子輸送層36とを含んでいる。保護層31と、透明陽極層32と、有機物層OLと、陰極層37とは、筒状体1の中心線(図10中のLD方向)から同心円状に配置されている。実施の形態1または2による成膜方法は、たとえば透明陽極層32および陰極層37の少なくともいずれかの形成に用いられる。
【0059】
上述した実施の形態1または2による成膜方法によって透明陽極層32が形成されることで、透明陽極層32へのγ電子によるダメージを軽減することにより、透明陽極層32の電気抵抗率を低減することができる。また実施の形態1または2による成膜方法によって陰極層37が形成されることで、陰極層37が形成される際にγ電子によって生じる有機物層OLへのダメージを軽減することができる。これにより、より性能の高い有機EL発光装置7を得ることができる。
【0060】
なお保護層31は、アルカリ金属イオンの移動を防止する機能を有している。よって、筒状体1の材質にソーダ石灰ガラスなどのアルカリ金属イオンを含む材質が用いられていても、筒状体1から透明陽極層32へアルカリ金属イオンが移動することを防止することができる。透明陽極層32は、透光性を有しており、且つ有機EL発光装置7の陽極としての機能を有している。透明陽極層32は、導電性の酸化物層であり、たとえばITOにより形成されている。有機物層OLの正孔輸送層33は、たとえば下記の式に示す有機材料(α−NPD)が用いられる。
【0061】
【化1】

【0062】
陰極層37は、たとえばアルミニウム(Al)または銀(Ag)よりなっている。電子輸送層36の材料としては、たとえば下記の式に示す有機材料(Alq3、BAlq)が用いられる。
【0063】
【化2】

【0064】
【化3】

【0065】
また有機物層OLの発光層34は、たとえば、ホスト材料である第1の蒸着材料と、ドーパント材料である第2の蒸着材料とを共蒸着することによって形成される。第1の蒸着材料にはホスト材料として下記の式に示す、CBP、mCPおよびTCTAのいずれかを、第2の蒸着材料にはドーパント材料として下記の式に示す、Ir(ppy)3、Ir(piq)2acacおよびFIrpicのいずれかを選択することができる。
【0066】
【化4】

【0067】
【化5】

【0068】
【化6】

【0069】
【化7】

【0070】
【化8】

【0071】
【化9】

【0072】
これらのホスト材料とドーパント材料との組み合わせは、発光輝度や発光寿命への効果を考慮して、任意に選択することができる。また、ドーパント材料のドープ濃度は、各ドーパント材料により異なっている。たとえば、Ir(ppy)3のドープ濃度は10%以下、Ir(piq)2acacのドープ濃度は2%以下、FIrpicのドープ濃度は15%以下程度である。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
1 筒状体、2,2x〜2z 筒状体ホルダ、2a,2az 把持部、2b,2bx,2bz 導電部、2c 絶縁部材、8 ターゲット、9 ターゲットホルダ、11 直線駆動機構、23,73 直流電源、30,30z 成膜装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状体の内周面にスパッタ膜を形成するための成膜装置であって、
前記スパッタ膜の材料としてのターゲットを保持するためのものであって、相対的に負電位が印加されるように構成されたターゲットホルダと、
前記筒状体を保持するためのものであって、相対的に正電位が印加されるように構成された導電部を有する筒状体ホルダとを備え、
前記筒状体ホルダの前記導電部は、前記筒状体が前記筒状体ホルダに保持された状態において前記筒状体の内部空間へ露出するように構成されている、成膜装置。
【請求項2】
前記ターゲットホルダおよび前記筒状体ホルダは、前記筒状体の延在する方向に互いに相対的に移動することができるように構成されている、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記筒状体は絶縁体からなる、請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記筒状体ホルダは、前記導電部および前記筒状体の間を電気的に絶縁する絶縁部材を有する、請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記ターゲットの表面は、前記筒状体の延在する方向に垂直な面である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記ターゲットホルダおよび前記筒状体ホルダの相対位置に応じて前記導電部の電位を制御する制御部をさらに備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項7】
筒状体の内周面にスパッタ膜を形成するための成膜方法であって、
ターゲットホルダによって、前記スパッタ膜の材料としてのターゲットを保持する工程と、
導電部を有する筒状体ホルダによって、前記筒状体を保持する工程とを備え、
前記筒状体は、前記筒状体ホルダの前記導電部が前記筒状体の内部空間へ露出するように保持され、さらに
前記ターゲットホルダが相対的に負電位とされ、かつ前記筒状体ホルダが相対的に正電位とされることによって、前記ターゲットをスパッタする工程を備える、成膜方法。
【請求項8】
前記スパッタする工程は、前記筒状体の内周面の電位を浮遊電位とする工程を含む、請求項7に記載の成膜方法。
【請求項9】
前記筒状体は絶縁体からなる、請求項7または8に記載の成膜方法。
【請求項10】
前記筒状体を保持した前記筒状体ホルダと前記ターゲットホルダとを前記筒状体の延在する方向に互いに相対的に移動させることによって、前記ターゲットホルダを前記筒状体の内部に挿入する工程をさらに備える、請求項7〜9のいずれか1項に記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−219275(P2012−219275A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82711(P2011−82711)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【特許番号】特許第4774550号(P4774550)
【特許公報発行日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(508016664)フジテック・インターナショナル株式会社 (7)
【出願人】(599048661)有限会社マイクロシステム (9)
【Fターム(参考)】