説明

成膜装置及び成膜方法

【課題】基板の中央部と周縁部との膜厚のばらつきをより抑制することが可能な成膜装置及び成膜方法を提供する。
【解決手段】本発明の成膜装置は、スプレーノズル6がガラス基板4に液体を噴射する際に、制御部9が、ガラス基板4の周辺部Aから中央部Bまでは、スプレーノズル6を加速させながら移動させる。また、スプレーノズル6が中央部Bに達すると、制御部9は、ガラス基板4の中央部Bでは、スプレーノズル6を等速度で移動させる。さらに、制御部9は、中央部Bから周辺部Cまでは、スプレーノズル6の移動速度を中央部Bでの等速度から減速させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を基板上にスプレー塗布することで薄膜を形成する成膜装置及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板に薬液を噴霧して基板上に均一な膜厚の薄膜を形成するための成膜装置及び方法が開示されている。
【0003】
特許文献1には、ノズルと基板との距離を制御することにより、一定の膜厚の薄膜を形成する方法が開示されている。すなわち、特許文献1では、ノズルが基板の外方からその周縁端部に近づくときにはノズルと基板の表面との距離を縮め、基板の内方から周縁端部に近づき基板の外方に退避して行くときには当該距離を離すように動作させている。また、特許文献1では、ノズル移動速度を基板の中心部に比較して周縁部では速くするようにして塗布する制御についても開示されている。このように、特許文献1では、基板表面とノズルとの距離を離す、あるいは、移動速度を速くすることで基板周縁端部における薄膜の盛り上がりを抑制し、膜厚を均一にする方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、スプレーガンを所定速度で移動させることでガラス基板に均一な膜厚を形成する製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献3には、スプレーガンの移動速度に応じて塗膜厚さが均一になるように塗料ポンプの駆動モータを制御することで膜厚を均一にする方法が記載されている。
【特許文献1】特開2003−320299号公報
【特許文献2】特開2007−95362号公報
【特許文献3】特開平1−41386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている方法は、基板周縁端部における薄膜の盛り上がりを抑制することができるが、周縁端部以外の薄膜厚さのばらつきにおいて、より一層の向上が望まれていた。また、特許文献2に開示されている方法は、基板上に塗布した薬液の乾燥度合が基板端部と中央部で異なることで発生する薄膜厚さのばらつきにおいて、より一層の向上が望まれていた。さらに、特許文献3に開示されている方法は、吐出量を変動させると吐出量が安定するのに時間が係るエアスプレーを用いる場合、生産効率が低下してしまう場合がある。
【0007】
そこで、本発明は、基板の中央部と周縁部とにおける膜厚のばらつきを、より抑制することが可能な成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の成膜装置は、
基板に液体を噴射するスプレーノズルと、スプレーノズル及び基板のうちの少なくとも一つを所定の方向に移動させる移動手段とを有する成膜装置において、スプレーノズルが基板に液体を噴射する際に、移動手段は、基板の端部を含まない領域である基板の中央部では、基板に対するスプレーノズルの相対速度が一定となるように、スプレーノズル及び基板のうちの少なくとも一つを移動させ、端部を含み、かつ中央部に隣接する領域である基板の周辺部から中央部までは、基板に対してスプレーノズルが相対的に加速するように、スプレーノズル及び基板のうちの少なくとも一つを移動させ、中央部から周辺部までは、基板に対してスプレーノズルが相対的に減速するように、スプレーノズル及び基板のうちの少なくとも一つを移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基板の中央部と周縁部とにおける膜厚のばらつきを、より抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施の形態について、以下に図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1(a)は本実施形態の成膜装置の平面図であり、図1(b)は図1(a)に示すD−D線方向の矢視図である。
【0012】
成膜装置は、ガラス基板4にレジストを塗布する装置であり、チャンバ1内に、基板ステージ5と、スプレーノズル6と、XY直交ロボット10とを有する。
【0013】
本実施形態の成膜装置は、ガラス基板4に塗布したレジストが装置外に飛散しないように、チャンバ1内にて成膜が行われる。チャンバ1の上部にはHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタ2が配置され、下部には排気口3が設けられており、チャンバ1内の気流を乱さないようにチャンバ上方から下方へ層流を形成させている。これにより、ガラス基板4へのゴミの付着防止、吹付け後の霧状のレジストの再付着防止、あるいは噴霧されたレジストの流れが乱れて薄膜表面がまだらになったり膜厚が不均一となってしまうのを防止している。さらには、上記層流による換気は、チャンバ1内の有機溶剤の濃度を爆発限界以下に抑止している。
【0014】
基板ステージ5は、レジストの塗布面を上にした状態で載置されたガラス基板4を真空吸着により固定する。また、基板ステージ5は、回転駆動部11により、ガラス基板4を載置する面に対して垂直な中心軸周りに90度回動させることが可能である。基板ステージ5が中心軸O周りに回転可能であるため、ガラス基板4の縦横どちらの方向からもスプレーノズル6を走査させることができる。よって、例えば、ガラス基板4の表面に構造体が形成されていることでスプレーノズル6の走査方向が限定されている場合には、走査方向を変更させて対応することができる。
【0015】
スプレーノズル6は、不図示の薬液貯留タンクから供給される薬液をガラス基板4に対して噴射するものであり、XY直交ロボット10に搭載されている。ノズル移動手段であるXY直交ロボット10は、X軸アクチュエータ7、X軸アクチュエータ7と直交する方向に延びる2本のY軸アクチュエータ8を有し、制御部9により駆動制御される。各Y軸アクチュエータ8は、基板ステージ5の両外側に配置されており、X軸アクチュエータ7がこれら2本のY軸アクチュエータ8に掛け渡されている。
【0016】
スプレーノズル6は、X軸アクチュエータ7に搭載されており、X軸アクチュエータ7の長手方向に往復移動が可能である。また、X軸アクチュエータ7はY軸アクチュエータ8の長手方向に往復移動可能に搭載されている。なお、図1ではスプレーノズル6が1つのみX軸アクチュエータ7に搭載された例を示しているが、生産性を向上させるために複数個のスプレーノズル6を有する構成としてもよい。
【0017】
成膜装置は、スプレーノズル6から薬液を噴射させてガラス基板4上に薄膜を形成するが、スプレーノズル6は、図1に示した塗布軌跡Jを描きながら移動し、レジストの塗布がなされる。スプレーノズル6は以下のように駆動されることで、塗布軌跡Jを描く。スプレーノズル6をX軸アクチュエータ7の長手方向に往復走査させ、X軸アクチュエータ7を、X軸アクチュエータ7の長手方向と交差する方向であるY軸アクチュエータ8の長手方向に所定量ピッチ移動させる。この動作を繰り返す。これにより、図1に示した塗布軌跡Jを描きながら、レジストの塗布がなされる。なお、基板塗布時には、後述するように、スプレーノズル6は、加減速制御、あるいは等速制御されながらX軸アクチュエータ7の長手方向を往復走査する。
【0018】
制御部9は、XY直交ロボット10の動作制御を行うものであり、X軸アクチュエータ7及びスプレーノズル6の移動、特に速度制御等を行う。
【0019】
ここで、制御部9によるスプレーノズル6の速度制御について、図2及び図3を用いて説明する。
【0020】
図2は、スプレーノズル6の移動距離とスプレーノズル6の走査速度との関係を示すグラフである。また、図3は、ガラス基板4のX方向(図1参照)とガラス基板4上に形成された薄膜の膜厚との関係を示すグラフである。なお、図3に示す中央部Bとはガラス基板4の端部4bを含まない領域を指し、周辺部A、Cとは中央部Bに隣接し、かつ端部4bを含む領域を指すものとする。
【0021】
大型のガラス基板にスプレーノズルを一定の速度で走査させてレジスト塗布すると、レジストの乾燥度合が周辺部と中央部で異なることにより、レジストの吐着効率が変動する。その結果、図3に示される通り、周辺部A、Cは、中央部Bの膜厚T1と比較して20%程度薄くなることが分かっている(図3中t3)。
【0022】
そこで、本実施形態の制御部9は、スプレーノズル6の走査速度について、図2に示すグラフのような制御を行う。以下、制御部9によるこの制御について説明する。なお、スプレーノズル6は、図2中左側から右側へと移動するものとする。また、スプレーノズル6の走査領域は、ガラス基板4の端部4bより外側から開始し、ガラス基板4上を通過した後、端部4bより外側へと出た位置にて停止するものとする。
【0023】
制御部9は、ガラス基板4の端部4bより外側において停止状態のスプレーノズル6の駆動を開始するように、X軸アクチュエータ7に対して信号を出力する。これにより、X軸アクチュエータ7はスプレーノズル6の走査を開始する。
【0024】
制御部9は、周辺部A(加速領域)では、スプレーノズル6を所定速度まで加速させるように、X軸アクチュエータ7に対して信号を出力する。すなわち、スプレーノズル6を、ガラス基板4に対してスプレーノズル6が相対的に加速するように走査させ、かつ所定速度まで加速させる。所定速度とは、中央部Bにおいてスプレーノズル6が走査される速度である。
【0025】
スプレーノズル6が加速されながら周辺部Aを通過し、中央部Bに達すると、スプレーノズル6の等速制御を開始する。すなわち、制御部9は、X軸アクチュエータ7に対して加速制御を停止する信号を出力するとともに、スプレーノズル6を一定速度で駆動走査するように信号を出力する。これにより、中央部B(等速領域)では、スプレーノズル6はガラス基板4に対する相対速度が一定となるように走査される。
【0026】
スプレーノズル6が一定速度により走査されて中央部Bを通過し、周辺部Cに達すると、スプレーノズル6の減速制御を開始する。すなわち、制御部9は、X軸アクチュエータ7に対して等速制御を停止する信号を出力するとともに、スプレーノズル6を減速させながら駆動走査するように信号を出力する。これにより、周辺部C(減速領域)では、スプレーノズル6は、ガラス基板4に対して相対的に減速しながら走査される。
【0027】
スプレーノズル6が周辺部C(減速領域)より外側に移動すると、制御部9は、X軸アクチュエータ7に対して駆動を停止するように信号を出力する。これにより、スプレーノズル6は停止する。以上により、X軸アクチュエータ7によるスプレーノズル6の往復走査のうちの往走査が終了する。
【0028】
スプレーノズル6が停止した後、制御部9は、X軸アクチュエータ7を、Y軸アクチュエータ8の長手方向に所定量ピッチ移動させるように、Y軸アクチュエータ8に対して信号を出力する。
【0029】
X軸アクチュエータ7が所定量ピッチ移動した後、X軸アクチュエータ7によるスプレーノズル6の復走査が行われる。なお、この場合の制御は、周辺部Cが加速領域となり、周辺部Aが減速領域となる以外は、上述した往走査と同じであるため、詳細の説明は省略する。
【0030】
以上、本実施形態の成膜装置は、加速領域及び減速領域では、スプレーノズル6の移動速度が等速領域と比較して遅くなる。これにより、周辺部A、Cでのレジストの塗布量は中央部Bにおけるレジストの塗布量よりも多くなる。このため、レジスト乾燥後の膜厚の均一性が、図3のt3の状態からt2のように向上する。
【0031】
Y方向についても、周辺部A、Cの塗布量を多くするため、走査開始から数ラインと走査終了前の数ラインは、等速領域の速度を遅く設定することで、膜厚の均一性が向上する。
【0032】
以上、本実施形態によれば、スプレーノズル6を、周辺部A、Cでは加減速させ、かつ中央部Bでは等速度で移動させながらレジスト噴霧を行うことで、ガラス基板4上に均一な膜厚の薄膜を形成することができる。
【0033】
なお、上記説明においては、スプレーノズル6をガラス基板4に対して加減速、あるいは等速度で移動させる方法について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、本実施形態の成膜装置は、基板ステージ5を移動させるステージ移動手段を有し、基板ステージ5を動かす構成としてもよい。この場合、制御部9はステージ移動手段が基板ステージを移動させる移動速度を制御して基板ステージ5をスプレーノズル6に対して相対的に移動させることとなる。すなわち、スプレーノズル6が周辺部Aに対応する位置にあるときは、基板ステージ5を加速させながら移動させる。そして、制御部9は、スプレーノズル6が中央部Bに対応する位置にあるときは、基板ステージ5を等速で移動させ、スプレーノズル6が周辺部Cに対応する位置にあるときは、基板ステージ5を減速させながら移動させる。また、本発明は、スプレーノズル6及び基板ステージ5の双方を相対的に移動させ、同様な制御を行うものであってもよい。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0035】
本実施例は、図1に示す成膜装置を使用して、大きさ1300mm×800mmのFPD用のガラス基板4にレジストを塗布して成膜した例である。
【0036】
スプレーノズル6としては、2流体スプレーを使用し、レジストを霧化して基板表面に塗布した。
【0037】
なお、X方向における走査距離は1300mmであり、周辺部AのX方向の距離は約250mm、中央部Bは約800mm、周辺部Cは約250mmとした。制御部9にて、周辺部A、Cでの加速度及び減速度を320mm/s2、中央部Bでの走査速度を400mm/secに設定した。そして、1ライン走査するたびに、スプレーノズル6をピッチ移動させながら左右交互に走査させることで、基板全面にレジストを塗布した。
【0038】
塗布後、レジストの膜厚は図3のt3の位置で約2000nmとなり、T1の位置で約2250nmとなった。なお、この測定結果は、基板端より20mm程度は薄膜の均一性不問のため、膜厚を基板端より20mm位置から測定したものである。
【0039】
以上、基板の膜厚の均一性が向上することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の成膜装置の平面図及びD−D線矢視図である。
【図2】スプレーノズルの移動距離とスプレーノズルの走査速度との関係を示すグラフである。
【図3】ガラス基板のX方向とガラス基板上に形成された薄膜の膜厚との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
4 ガラス基板
6 スプレーノズル
7 X軸アクチュエータ
8 Y軸アクチュエータ
9 制御部
10 XY直交ロボット
A、C 周辺部
B 中央部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に液体を噴射するスプレーノズルと、前記スプレーノズル及び前記基板のうちの少なくとも一つを所定の方向に移動させる移動手段とを有する成膜装置において、
前記スプレーノズルが前記基板に液体を噴射する際に、前記移動手段は、
前記基板の端部を含まない領域である前記基板の中央部では、前記基板に対する前記スプレーノズルの相対速度が一定となるように、前記スプレーノズル及び前記基板のうちの少なくとも一つを移動させ、
前記端部を含み、かつ前記中央部に隣接する領域である前記基板の周辺部から前記中央部までは、前記基板に対して前記スプレーノズルが相対的に加速するように、前記スプレーノズル及び前記基板のうちの少なくとも一つを移動させ、
前記中央部から前記周辺部までは、前記基板に対して前記スプレーノズルが相対的に減速するように、前記スプレーノズル及び前記基板のうちの少なくとも一つを移動させることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記移動手段は、前記スプレーノズルを所定の方向に移動させるノズル移動手段と、前記基板が載置される基板ステージを移動させるステージ移動手段と、前記ノズル移動手段及び前記ステージ移動手段の速度制御を行う制御部と、を有する請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記移動手段は、前記スプレーノズル及び前記基板のうちの少なくとも一つを、前記所定の方向と交差する方向に所定量ピッチで移動させる、請求項1または2に記載の成膜装置。
【請求項4】
少なくとも、前記スプレーノズル、前記ノズル移動手段及び前記基板ステージを覆うチャンバを有し、前記チャンバの上部にフィルタが配置され、かつ前記チャンバの下部に排気口が形成されている、請求項2または3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記基板ステージを、前記基板を載置する面に対して垂直な中心軸周りに回動させる回転駆動手段を有する、請求項2ないし4のいずれか1項に記載の成膜装置。
【請求項6】
スプレーノズル及び基板のうちの少なくとも一つを移動させながら、前記スプレーノズルから液体を噴射することで前記基板上に薄膜を形成する成膜方法において、
前記基板の端部を含まない領域である前記基板の中央部では、前記基板に対する前記スプレーノズルの相対速度が一定となるように、前記スプレーノズル及び前記基板のうちの少なくとも一つを移動させ、
前記端部を含み、かつ前記中央部に隣接する領域である前記基板の周辺部から前記中央部までは、前記基板に対して前記スプレーノズルが相対的に加速するように、前記スプレーノズル及び前記基板のうちの少なくとも一つを移動させ、
前記中央部から前記周辺部までは、前記基板に対して前記スプレーノズルが相対的に減速するように、前記スプレーノズル及び前記基板のうちの少なくとも一つを移動させることを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−62500(P2010−62500A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229545(P2008−229545)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】