説明

成膜装置

【課題】パーティクルを十分に除去し、良質なダイヤモンドライクカーボン等より成る保護膜を形成しうる成膜装置を提供する。
【解決手段】基板10が載置される成膜室12と、基板上に成膜を行うための成膜原料14が載置され、成膜原料をターゲットとしてアーク放電を行うことにより、成膜原料のプラズマ28を生成するプラズマ生成部16と、プラズマ生成部と成膜室とを接続し、プラズマ生成部において生成されるプラズマを成膜室内に移動させるための移動経路18と、プラズマ生成部と成膜室との間に設けられ、移動経路を開閉するシャッター20、22とを有し、シャッターの開閉を時間的に制御することにより、成膜原料から飛散するパーティクル38をシャッターにより遮断しつつ、プラズマを基板上に到達させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置に係り、特にパーティクルの付着を防止しつつ、基板上に良質な膜を形成し得る成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置の磁気記録媒体の表面には、磁気記録媒体を保護するための保護膜が形成される。かかる磁気記録媒体において良好な磁気特性を実現するためには、良質で薄い保護膜を形成することが要求される。
【0003】
かかる保護膜の材料としては、例えばダイヤモンドライクカーボンが用いられている。
【0004】
ダイヤモンドライクカーボンより成る保護膜は、例えばCVD法により形成することが可能である。
【0005】
しかし、CVD法によりダイヤモンドライクカーボンより成る保護膜を形成した場合には、必ずしも十分な被覆率や硬度等を得ることが困難であった。
【0006】
そこで、近時では、アーク放電により炭素プラズマを生成し、かかる炭素プラズマを基板上に照射することにより、ダイヤモンドライクカーボンより成る保護膜を形成する技術が注目されている。
【0007】
かかる技術は、フィルタード・カソーディック・バキューム・アーク(FCVA:Filtered Cathodic Vacuum Arc)法と称されている。
【0008】
FCVA法によれば、硬くて丈夫なダイヤモンドライクカーボン膜を形成しうるとともに、高い被覆率で成膜しうるため更なる薄膜化が可能となる。
【0009】
しかしながら、FCVA法では、アーク放電の際にプラズマが生成されるとともに、ターゲットからパーティクルが飛散する。磁気記録媒体の表面にかかるパーティクルが付着している状態でハードディスク装置を用いた場合には、クラッシュの要因となってしまう。
【0010】
このため、パーティクルの付着を防止しつつダイヤモンドライクカーボンより成る保護膜を形成することが極めて需要である。
【0011】
特許文献1には、かかるパーティクルを除去しつつ、ダイヤモンドライクカーボンより成る保護膜を形成する技術が提案されている。
【特許文献1】特開2004−244667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載されている技術では、必ずしも十分にパーティクルを除去することはできなかった。
【0013】
本発明の目的は、パーティクルを十分に除去し、良質なダイヤモンドライクカーボン等より成る保護膜を形成しうる成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一観点によれば、基板が載置される成膜室と、前記基板上に成膜を行うための成膜原料が載置され、前記成膜原料をターゲットとしてアーク放電を行うことにより、前記成膜原料のプラズマを生成するプラズマ生成部と、前記プラズマ生成部と前記成膜室とを接続し、前記プラズマ生成部において生成されるプラズマを前記成膜室内に移動させるための移動経路と、前記プラズマ生成部と前記成膜室との間に設けられ、前記移動経路を開閉するシャッターとを有し、前記シャッターの開閉を時間的に制御することにより、前記成膜原料から飛散するパーティクルを前記シャッターにより遮断しつつ、前記プラズマを前記基板上に到達させることを特徴とする成膜装置が提供される。
【0015】
また、本発明の他の観点によれば、基板が載置される成膜室と、前記基板上に成膜を行うための成膜原料が載置され、前記成膜原料をターゲットとしてアーク放電を行うことにより、前記成膜原料のプラズマを生成するプラズマ生成部と、前記プラズマ生成部と前記成膜室とを接続し、前記プラズマ生成部において生成されるプラズマを前記成膜室内に移動させるための移動経路と、前記プラズマ生成部と前記成膜室との間に設けられ、前記移動経路を開閉する第1のシャッターと、前記第1のシャッターと前記成膜室との間に設けられ、前記移動経路を開閉する第2のシャッターとを有し、前記プラズマが生成されている状態で前記第1のシャッターを開き、前記第1のシャッターを開いてから所定時間後に前記第2のシャッターを閉じることにより、前記成膜原料から飛散するパーティクルを前記第2のシャッターにより遮断しつつ、前記プラズマを前記基板上に到達させることを特徴とする成膜装置が提供される。
【0016】
また、本発明の更に他の観点によれば、基板が載置される成膜室と、前記基板上に成膜を行うための成膜原料が載置され、前記成膜原料をターゲットとしてアーク放電を行うことにより、前記成膜原料のプラズマを生成するプラズマ生成部と、前記プラズマ生成部と前記成膜室とを接続し、前記プラズマ生成部において生成されるプラズマを前記成膜室内に流動させるための移動経路と、前記プラズマ生成部と前記成膜室との間に設けられ、前記移動経路を開閉するシャッターとを有し、前記プラズマを生成し始めてから所定時間後に前記シャッターを閉じることにより、前記成膜原料から飛散するパーティクルを前記シャッターにより遮断させつつ、前記プラズマを前記基板上に到達させることを特徴とする成膜装置が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、プラズマ生成部と成膜室との間におけるプラズマ流の移動経路にシャッターを適宜設け、シャッターの開閉を適宜制御するため、パーティクルをシャッターにより遮断しつつ、プラズマ流を成膜室内に載置された基板上に到達させることができる。基板上へのパーティクルの付着を防止しつつ、基板上にプラズマ流を到達させ得るため、ダイヤモンドライクカーボン等の良質な保護膜を基板上に形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[本発明の原理]
基板に所定バイアスを印加した際のプラズマ流の移動速度は例えば1.5〜2km/秒程度と比較的速いのに対し、アーク放電の際にターゲット(成膜原料)から飛散するパーティクルの移動速度は100m/秒程度と比較的遅い。
【0019】
このため、プラズマ流は比較的早いタイミングで成膜室内に載置された基板に達する一方、パーティクルは比較的遅いタイミングで成膜室に達する。
【0020】
本願発明者は鋭意検討した結果、プラズマ生成部と成膜室との間におけるプラズマ流の移動経路にシャッターを適宜設け、シャッターの開閉を適宜制御することにより、パーティクルをシャッターにより遮断しつつ、プラズマ流を成膜室内に載置された基板上に到達させることに想到した。本発明によれば、基板上へのパーティクルの付着を防止しつつ、基板上にプラズマ流を到達させ得るため、ダイヤモンドライクカーボン等の良質な保護膜を基板上に形成することが可能となる。
【0021】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態による成膜装置を図1乃至図7を用いて説明する。図1は、本実施形態による成膜装置を示す概略図である。
【0022】
本実施形態による成膜装置は、基板10が載置される成膜室12と;基板10上に成膜を行うための成膜原料14が載置され、成膜原料14をターゲットとしてアーク放電を行うことにより、成膜原料14のプラズマを生成するプラズマ生成部16と;プラズマ生成部16と成膜室12とを接続し、プラズマ生成部16において生成されるプラズマを成膜室12内に移動させるための移動経路18と;プラズマ生成部16と成膜室12との間に設けられ、移動経路18を開閉する第1のシャッター20と;第1のシャッター20と成膜室12との間に設けられ、移動経路18を開閉する第2のシャッター22と;本実施形態による成膜装置全体を制御する制御部24とを有している。
【0023】
成膜室12内には、基板10を載置するためのXYステージ26が設けられている。XYステージ26は、基板10を順次移動させるためのものである。基板10をXYステージ26により適宜移動させることにより、基板10上の全体に保護膜60(図5参照)を形成することが可能となる。基板10には、XYステージ26を介して負のバイアスが印加されるようになっている。基板10にバイアスを印加するのは、プラズマ生成部16において生成された炭素プラズマ28、より具体的にはイオン化された炭素を、基板10上に到達させるためである。成膜室12には、成膜室12内を真空にするための排気システム27が接続されている。排気システム27は、制御部24により制御される。基板10は、例えば、ハードディスク装置の磁気記録媒体に用いられるものである。本実施形態では、基板10上に、例えばダイヤモンドライクカーボンより成る保護膜60が形成される。
【0024】
プラズマ生成部16には、陽極(アノード)30と、ターゲット(成膜原料)14が取り付けられる陰極(カソード)31と、高純度のグラファイトより成るターゲット14と、ターゲット14の周囲に設けられたカソードコイル32と、アーク放電を開始させるためのストライカー34とが設けられている。アーク放電の際における陰極31の電圧は例えば20〜80Vであり、放電電流は例えば60〜100Aとする。陰極31は、陰極31を冷却するための冷却システム34に接続されている。また、陰極31は、アーク放電を制御するアーク源36に接続されている。アーク源36は、制御部24により制御される。
【0025】
プラズマ生成部16と成膜室12との間の移動経路18には、上述したように、第1のシャッター20と第2のシャッター22とが設けられている。第2のシャッター22は、第1のシャッターと成膜室12との間に位置している。
【0026】
図2は、第1のシャッターを示す平面図である。図2は、プラズマ生成部16側から成膜室10側に向かって第1のシャッター20を見た際の平面図を示している。第1のシャッター20は、回転可能な円盤状のアパーチャー38と、固定されたアパーチャー40とを組み合わせることにより構成されている。円盤状のアパーチャー38及び固定されたアパーチャー40のいずれも、アパーチャー38の回転中心から偏在した位置にそれぞれ開口部42、44が形成されている。回転可能なアパーチャー38は、ステッピングモータ45により制御される。回転可能なアパーチャー38の開口部42の位置が、固定されたアパーチャー40の開口部44の位置と一致した際には、第1のシャッター20が開いた状態となる。一方、回転可能なアパーチャー38の開口部42が固定されたアパーチャー40の開口部44の位置から外れた際には、第1のシャッター20が閉じた状態となる。
【0027】
図3は、第2のシャッターを示す平面図である。図3は、プラズマ生成部16側から成膜室10側に向かって第2のシャッター22を見た際の平面図を示している。第2のシャッター22は、回転可能な円盤状のアパーチャー46と、固定されたアパーチャー48とを組み合わせることにより構成されている。円盤状のアパーチャー48及び固定されたアパーチャー48のいずれも、アパーチャー48の回転中心から偏在した位置にそれぞれ開口部50、52が形成されている。回転可能なアパーチャー46は、ステッピングモータ54により制御される。回転可能なアパーチャー46の開口部50の位置が固定されたアパーチャー48の開口部52の位置と一致した際には、第2のシャッター22が開いた状態となる。一方、回転可能なアパーチャー46の開口部50が固定されたアパーチャー48の開口部52の位置から外れた際には、第2のシャッター22が閉じた状態となる。
【0028】
第1のシャッター20及び第2のシャッター22の開閉は、シャッター連動開閉制御部56により制御される。具合的には、シャッター連動開閉制御部56により第1のシャッター20及び第2のシャッター22のステッピングモータ45、54がそれぞれ制御され、これにより、第1のシャッター20及び第2のシャッター22の開閉がそれぞれ制御される。
【0029】
第1のシャッター20と第2のシャッター22との間の距離、第1のシャッター20の開閉のタイミング、第2のシャッター22の開閉のタイミング、プラズマ28の生成のタイミング等は、第2のシャッター22によりパーティクルを遮断しつつ、プラズマ流28を基板10に到達させ得るように適宜設定される。
【0030】
第1のシャッター20と第2のシャッター22との間の距離は、例えば1m程度とする。
【0031】
なお、ここでは、第1のシャッター20と第2のシャッター22との間の距離を1m程度に設定する場合を例に説明するが、第1のシャッター20と第2のシャッター22との間の距離は1m程度に限定されるものではない。例えば、第1のシャッター20と第2のシャッター22との間の距離を、0.5〜2m程度の範囲で適宜設定するようにしてもよい。
【0032】
こうして、本実施形態による成膜装置が構成されている。
【0033】
次に、本実施形態による成膜装置の動作を図4を用いて説明する。図4は、本実施形態による成膜装置の動作を示すタイムチャートである。
【0034】
図4における上段のタイムチャートは、アーク放電のオン、オフを示している。アーク放電がオンの際にはプラズマ28が生成され、アーク放電がオフの際にはプラズマ28は生成されない。また、アーク放電がオンの状態においては、ターゲット14からパーティクル58が飛散する。
【0035】
図4における中段のタイムチャートは、第1のシャッター20の開閉を示している。図4に示すように、第1のシャッター20は所定の周期で一定時間だけ開くようになっている。回転するアパーチャー38の回転数を例えば600rpm程度とする場合、アパーチャー38が1回転するのに要する時間は100msである。この場合、第1のシャッターを開く時間T1openは例えば20msとし、第1のシャッターを閉じる時間T1closeは例えば80msとする。なお、これらの時間T1open、T1closeは、第1のシャッター20と第2のシャッター22との間の距離、プラズマ流28の移動速度、パーティクル58の移動速度等によって適宜設定される。
【0036】
図4における下段のタイムチャートは、第2のシャッター22の開閉を示している。図4に示すように、第2のシャッター22は所定の周期で一定時間開くようになっている。回転するアパーチャー46の回転数を、第1のシャッター20と同様に、例えば600rpm程度とする場合、アパーチャー46が1回転するのに要する時間は100msである。この場合、第2のシャッター22を開く時間T2openは例えば20msとし、第2のシャッター22を閉じる時間T2closeは例えば80msとする。なお、これらの時間は、第1のシャッター20と第2のシャッター22との間の距離、プラズマ流28の移動速度、パーティクル58の移動速度等によって適宜設定される。
【0037】
図4に示すように、アーク放電が行われている状態で、第2のシャッター22が開かれる。この段階では、第1のシャッター20は閉じられているため、プラズマ流28は移動経路18内に導入されず、プラズマ流28は基板10上に到達しない。
【0038】
図4に示すように、第2のシャッター22が開かれてから、所定時間後、即ち、例えば10ms後に、第1のシャッター20が開かれる(図1参照)。第1のシャッター20を開くことにより、図5に示すように、プラズマ流28が移動経路18中を成膜室10に向かって移動することとなる。図5は、本実施形態による成膜装置の動作を示す概略図(その1)である。この際、パーティクル58も移動経路18中を移動することとなる。しかし、パーティクル58の移動速度はプラズマ流28の移動速度と比較して著しく遅いため、プラズマ流28がパーティクル58に著しく先行して移動経路18内を移動し、パーティクル58はプラズマ流28から著しく遅れて移動経路18内を移動する。
【0039】
そして、第1のシャッター20が開かれてから、所定時間Tdelay後、即ち、例えば10ms後に、図6に示すように、第2のシャッター22が閉じられる。図6は、本実施形態による成膜装置の動作を示す概略図(その2)である。第2のシャッター22を閉じると、プラズマ流28とパーティクル58とが第2のシャッター22により遮断されることとなる。この段階では、プラズマ流28は第2のシャッター22をある程度通過し終わっている一方、パーティクル58は第2のシャッター22まで到達していない。
【0040】
既に第2のシャッター22を通過したプラズマ流28は基板10に向かって進行し、パーティクル58は第2のシャッター22を通過することなく、第2のシャッター22により遮断される。
【0041】
図4及び図7に示すように、第2のシャッター22が閉じられてから、所定時間後、即ち、例えば10ms後に、第1のシャッター20が閉じられる。図7は、本実施形態による成膜装置の動作を示す概略図(その3)である。
【0042】
第2のシャッター22を通過したプラズマ流28は基板10上に到達する。パーティクル58を第2のシャッター22により遮断しつつ、例えば炭素プラズマ28を基板10上に到達させ得るため、例えばダイヤモンドライクカーボンより成る良質な保護膜60を基板10上に形成することができる。
【0043】
XYステージ26上に載置された基板10を順次移動させながら、上記のような成膜工程を繰り返し行うことにより、基板10上の全面に例えばダイヤモンドライクカーボンより成る保護膜60を形成することができる。
【0044】
このように、本実施形態によれば、プラズマ28が生成されている状態で第1のシャッター20を開き、第1のシャッター20を開いてから所定時間Tdelay後に第2のシャッター22を閉じるため、成膜原料14から飛散するパーティクル58を第2のシャッター22により遮断しつつ、プラズマ28を基板10上に到達させることができる。基板10上へのパーティクル58の付着を防止しつつ、基板10上に例えば炭素プラズマを到達させ得るため、例えばダイヤモンドライクカーボンより成る良質な保護膜60を基板10上に形成することができる。
【0045】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態による成膜装置を図8乃至図11を用いて説明する。図8は、本実施形態による成膜装置を示す概略図である。図9は、アパーチャーを示す平面図である。図1乃至図7に示す第1実施形態による成膜装置と同一の構成要素には、同一の符号を付して説明を省略または簡潔にする。
【0046】
本実施形態による成膜装置は、プラズマ28を生成してから所定時間後にシャッター22を閉じることにより、ターゲット14から飛散するパーティクル38をシャッター22により遮断させつつ、プラズマ流28を基板10上に到達させ得ることに主な特徴がある。
【0047】
図8に示すように、プラズマ流28を移動させるための移動経路18には、アパーチャー(絞り)21が設けられている。アパーチャー21は、プラズマ流28を所定の径に設定するためのものである。図9は、プラズマ生成部16側から成膜室10側に向かってアパーチャー21を見た際の平面図を示している。アパーチャー21は移動経路18に固定されており、中心から偏在した位置に開口部23が形成されている。
【0048】
シャッター22は、アパーチャー21と成膜室12との間に位置している。
【0049】
次に、本実施形態による成膜装置の動作を図10乃至図12を用いて説明する。
【0050】
図10は、本実施形態による成膜装置の動作を示すタイムチャートである。
【0051】
図10における上段のタイムチャートは、アーク放電のオン、オフを示している。アーク放電がオンの際にはプラズマ28が生成され、アーク放電がオフの際にはプラズマ28は生成されない。
【0052】
アーク放電を行う時間間隔は、例えば10Hzとする。アーク放電を行う時間Tonは例えば20msとし、アーク放電を行った後にアーク放電を中断する時間Toffは例えば80msとする。
【0053】
図10における下段は、シャッター22の開閉を示している。アーク放電を行う時間Tonを上述したように例えば20msとし、アーク放電を行った後にアーク放電を中断する時間Toffを上述したように例えば80msとする場合には、シャッター22を開く時間Topenを例えば20msとし、シャッター22を閉じる時間Tcloseを例えば80msとする。
【0054】
アーク放電を開始すると、図11に示すように、プラズマ流28が移動経路18中を成膜室10に向かって移動することとなる。図11は、本実施形態による成膜装置の動作を示す概略図(その1)である。この際、パーティクル58も移動経路18中を移動することとなる。しかし、パーティクル58の移動速度はプラズマ流28の移動速度と比較して著しく遅いため、プラズマ流28がパーティクル58に著しく先行して移動経路18内を移動し、パーティクル58はプラズマ流28から著しく遅れて移動経路18内を移動する。
【0055】
そして、アーク放電が開始されてから、所定時間Tdelay後、即ち、例えば10ms後に、シャッター22が閉じられる。第2のシャッター22を閉じると、プラズマ流28とパーティクル58とがシャッター22により遮断されることとなる。図12は、本実施形態による成膜装置の動作を示す概略図(その2)である。図12に示すように、パーティクル58はシャッター22により遮断されている。
【0056】
なお、これらの時間Ton、Toff、Topen、Tclose、Tdelay、及び、シャッター22の位置等は、プラズマ流28の移動速度、パーティクル58の移動速度等によって適宜設定される。
【0057】
シャッター22を通過したプラズマ流28は基板10上に到達する。パーティクル58をシャッター22により遮断しつつ、例えば炭素プラズマ28を基板10上に到達させ得るため、例えばダイヤモンドライクカーボンより成る良質な保護膜60を基板10上に形成することができる。
【0058】
XYステージ26上に載置された基板10を順次移動させながら、上記のような成膜工程を繰り返し行うことにより、基板10上の全面に例えばダイヤモンドライクカーボンより成る保護膜60を形成することができる。
【0059】
このように、本実施形態によれば、プラズマ28を生成し始めてから所定時間Tdelay後にシャッター22を閉じるため、成膜原料14から飛散するパーティクル38をシャッター22により遮断させつつ、プラズマ28を基板10上に到達させることができる。基板10上へのパーティクル58の付着を防止しつつ、基板10上に例えば炭素プラズマ等を到達させ得るため、本実施形態によっても、例えばダイヤモンドライクカーボン等より成る良質な保護膜60を基板10上に形成することができる。
【0060】
[変形実施形態]
本発明は上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0061】
例えば、第1のシャッター20を開く時間T1open、第1のシャッター20を閉じる時間T1close、第2のシャッター22を開く時間T2open、第2のシャッター22を閉じる時間T2close、及び、第1のシャッター20を開いてから第2のシャッター22を閉じるまでの時間Tdelayは、第1実施形態において上述した値に限定されるものではない。パーティクル38を第2のシャッター22により遮断しつつ、プラズマ流28を基板10上に到達させ得るように適宜設定すればよい。例えば、第1のシャッター20を開く時間T1openを10〜50msの範囲で適宜設定するようにしてもよい。また、第1のシャッター20を閉じる時間T1closeを例えば40〜200msの範囲で適宜設定するようにしてもよい。また、第2のシャッター22を開く時間T2openを例えば10〜50msの範囲で適宜設定するようにしてもよい。また、第2のシャッター22を閉じる時間T2closeを例えば40〜200msの範囲で適宜設定するようにしてもよい。また、第1のシャッター20を開いてから第2のシャッター22を閉じるまでの時間Tdelayを、例えば5〜40msの範囲で適宜設定してもよい。
【0062】
また、アーク放電の時間Ton、アーク放電を中断する時間Toff、シャッター22を開く時間Topen、シャッター22を閉じる時間Tclose、及び、シャッター22を開いてからシャッター22を閉じるまでの時間Tdelayは、第2実施形態において上述した値に限定されるものではない。パーティクル38を第2のシャッター22により遮断しつつ、プラズマ流28を基板10上に到達させ得るように適宜設定すればよい。例えば、アーク放電の時間Tonを10〜50msの範囲で適宜設定するようにしてもよい。また、アーク放電を中断する時間Toffを例えば40〜200msの範囲で適宜設定するようにしてもよい。また、シャッター22を開く時間Topenを例えば10〜50msの範囲で適宜設定するようにしてもよい。また、シャッター22を閉じる時間T2closeを例えば40〜200msの範囲で適宜設定するようにしてもよい。また、アーク放電を開始してからシャッター22を閉じるまでの時間Tdelayを、例えば5〜40msの範囲で適宜設定してもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、回転可能なアパーチャーと固定されたアパーチャーとを組み合わせることによりシャッター20、22を構成したが、回転可能なアパーチャーのみによりシャッター20、22を構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1実施形態による成膜装置を示す概略図である。
【図2】第1のシャッターを示す平面図である。
【図3】第2のシャッターを示す平面図である。
【図4】本発明の第1実施形態による成膜装置の動作を示すタイムチャートである。
【図5】本発明の第1実施形態による成膜装置の動作を示す概略図(その1)である。
【図6】本発明の第1実施形態による成膜装置の動作を示す概略図(その2)である。
【図7】本発明の第1実施形態による成膜装置の動作を示す概略図(その3)である。
【図8】本発明の第2実施形態による成膜装置を示す概略図である。
【図9】アパーチャーを示す平面図である。
【図10】本発明の第2実施形態による成膜装置の動作を示すタイムチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態による成膜装置の動作を示す概略図(その1)である。
【図12】本発明の第2実施形態による成膜装置の動作を示す概略図(その2)である。
【符号の説明】
【0065】
10…基板
12…成膜室
14…成膜原料、ターゲット
16…プラズマ生成部
18…移動経路
20…第1のシャッター
21…アパーチャー
22…第2のシャッター
23…開口部
24…制御部
26…XYステージ
27…排気システム
28…プラズマ流
30…アノード
31…カソード
32…カソードコイル
34…冷却システム
36…アーク源
38…アパーチャー
40…アパーチャー
42…開口部
44…開口部
45…ステッピングモータ
46…アパーチャー
48…アパーチャー
50…開口部
52…開口部
54…ステッピングモータ
56…シャッター連動開閉制御部
58…パーティクル
60…保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が載置される成膜室と、
前記基板上に成膜を行うための成膜原料が載置され、前記成膜原料をターゲットとしてアーク放電を行うことにより、前記成膜原料のプラズマを生成するプラズマ生成部と、
前記プラズマ生成部と前記成膜室とを接続し、前記プラズマ生成部において生成されるプラズマを前記成膜室内に移動させるための移動経路と、
前記プラズマ生成部と前記成膜室との間に設けられ、前記移動経路を開閉するシャッターとを有し、
前記シャッターの開閉を時間的に制御することにより、前記成膜原料から飛散するパーティクルを前記シャッターにより遮断しつつ、前記プラズマを前記基板上に到達させる
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
基板が載置される成膜室と、
前記基板上に成膜を行うための成膜原料が載置され、前記成膜原料をターゲットとしてアーク放電を行うことにより、前記成膜原料のプラズマを生成するプラズマ生成部と、
前記プラズマ生成部と前記成膜室とを接続し、前記プラズマ生成部において生成されるプラズマを前記成膜室内に移動させるための移動経路と、
前記プラズマ生成部と前記成膜室との間に設けられ、前記移動経路を開閉する第1のシャッターと、
前記第1のシャッターと前記成膜室との間に設けられ、前記移動経路を開閉する第2のシャッターとを有し、
前記プラズマが生成されている状態で前記第1のシャッターを開き、前記第1のシャッターを開いてから所定時間後に前記第2のシャッターを閉じることにより、前記成膜原料から飛散するパーティクルを前記第2のシャッターにより遮断しつつ、前記プラズマを前記基板上に到達させる
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
基板が載置される成膜室と、
前記基板上に成膜を行うための成膜原料が載置され、前記成膜原料をターゲットとしてアーク放電を行うことにより、前記成膜原料のプラズマを生成するプラズマ生成部と、
前記プラズマ生成部と前記成膜室とを接続し、前記プラズマ生成部において生成されるプラズマを前記成膜室内に流動させるための移動経路と、
前記プラズマ生成部と前記成膜室との間に設けられ、前記移動経路を開閉するシャッターとを有し、
前記プラズマを生成し始めてから所定時間後に前記シャッターを閉じることにより、前記成膜原料から飛散するパーティクルを前記シャッターにより遮断させつつ、前記プラズマを前記基板上に到達させる
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
請求項1記載の成膜装置において、
前記シャッターは、回転中心から偏在した位置に第1の開口部が形成され回転可能な円盤状の第1のアパーチャーと、前記回転中心から偏在した位置に第2の開口部が形成され固定された第2のアパーチャーとを有し、
前記第1の開口部の位置が前記第2の開口部の位置と一致した際に前記シャッターが開いた状態となり、前記第1の開口部の位置が前記第2の開口部の位置から外れた際に前記シャッターが閉じた状態となる
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の成膜装置において、
前記成膜原料は、グラファイトより成る
ことを特徴とする成膜装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−270273(P2007−270273A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97719(P2006−97719)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】