説明

成膜装置

【課題】プラズマ処理対象となるプラスチック等の3次元中空容器に発生する変形を防ぐこと。
【解決手段】3次元中空容器を収納する空隙を設けた誘電体で構成される治具が内部に配置され前記3次元中空容器にプラズマ処理を行って成膜する処理槽と、前記処理槽内部にプラズマを発生させる為の高周波電源と、前記3次元中空容器内部にガス導入管を介してプロセスガスを供給するプロセスガス供給装置と、前記処理槽内部から排気を行う真空排気装置とを備え、
導電性を有する部品を前記治具の一部に配置し前記ガス導入管と接続して同電位にしたことを特徴とする成膜装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックや紙を原料としたプラスチックボトルや紙容器等の3次元中空容器の表面に高周波電源を使用してPECVD法(Plasma Enhancement Chemical Vapor Deposition)でコーティングを行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス、金属、紙、プラスチック容器に代表される3次元中空容器は食品や医薬品など様々分野で一般的に利用されている。特にプラスチック容器に関しては、軽量、低コストといったメリットを生かし広く用いられるようになってきている。
【0003】
3次元中空容器には様々な機能が要求されているが、プラスチック容器に対しては内容物保護の面から炭酸ガスや酸素に対するバリア性を持たせる要求がなされている。
【0004】
このため、プラスチック容器に所定の物質をコーティングする技術が開発されてきている。このようなコーティング技術には、金属中空胴体内部にプロセスガスを注入したプラスチック等の3次元中空容器を配置して、金属中空胴体内に入力された高周波電力により発生したプラズマを利用して薄膜を成膜するものがある(例えば特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1のようにプラズマ対象容器が入る大きな金属筐体を外部電極として利用して、プラズマ対象容器の内側にプロセスガス導入管を接地した状態で内部電極として配置したプラズマを利用した容器処理装置では、プラズマ対象容器の形状によってはプラズマによる熱で容器が変形する事例があり、特に図6に示すように容器の胴回り寸法が開口部周辺で絞られたような形状では容器の肩部周辺で変形が発生しやすいといった問題があった。
【特許文献1】特開2000−230064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は斯かる背景技術に鑑みてなされたもので、プラズマ処理対象となるプラスチック等の3次元中空容器に発生する変形を防ぐことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明において上記課題を解決するために、まず請求項1の発明では、3次元中空容器を収納する空隙を設けた誘電体で構成される治具が内部に配置され前記3次元中空容器にプラズマ処理を行って成膜する処理槽と、前記処理槽にプラズマを発生させる為の高周波電源と、前記3次元中空容器内部にガス導入管を介してプロセスガスを供給するプロセスガス供給装置と、前記処理槽内部から排気を行う真空排気装置とを備え、
導電性を有する部品を前記治具の一部に配置し前記ガス導入管と接続して同電位にしたことを特徴とする成膜装置としたものである。
【0008】
また請求項2の発明では、
前記3次元中空容器はボトル形状であり、
前記導電性を有する部品は前記3次元中空容器の肩部全体又はその一部を取り囲んで配置されたことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置としたものである。
【0009】
また請求項3の発明では、
前記導電性を有する部品の材質はアルミニウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜装置としたものである。
【0010】
また請求項4の発明では、
前記3次元中空容器はプラスチック容器であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の成膜装置としたものである。
【0011】
また請求項5の発明では、
前記プラスチック容器がポリエチレンテレフタレートを使用した容器であることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置としたものである。
【0012】
[作用]
本発明は、成膜対象となるプラスチック等の3次元中空容器を固定する冶具の一部に導電性を有する部品を使用してガス導入管と同電位となるように電気接続することにより、プラズマの発生状態を調整して、その3次元中空容器の変形を抑える作用がある。その作用を、以下に詳しく説明する。
【0013】
プラスチック等の3次元中空容器にプラズマ処理を施した場合に発生する容器の変形は、容器内部で発生したプラズマガスが容器内面に熱エネルギーを与えて容器が過熱されることが原因となっている。
【0014】
ガス導入管から排出されたプロセスガスはプラズマガスとなり成膜対象となるプラスチック等の3次元中空容器の開口部より排出される。容器の胴回りに対して開口部を絞った形状の容器の場合、開口部周辺にプラズマガスが集中するため容器肩部周辺は発熱しやすい。
【0015】
そこで本発明では、容器変形が発生しやすい箇所に導電部品を配置してアース側となるガス導入管に電気的に接続することにより、容器変形が発生し易い箇所のプラズマの発生状態を制御して容器の変形を防ぐことを可能にした。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、プラズマ処理対象となるプラスチック等の3次元中空容器に発生する変形を防ぐことが可能になるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の最良の一実施形態を具体的に説明する。
【0018】
まず本実施形態の成膜装置の元となる従来の成膜装置について説明する。
【0019】
この従来の成膜装置では、図1〜3に示すように、形状の異なるプラスチック等の3次元中空容器(8)が入る大きさの外形を備えた金属空洞筐体(1)と金属蓋(2)とは、外部電極として使用されるために整合装置(3)を介して高周波電源(4)に接続されている。対向電極として使用されるガス導入管(5)と金属支持筐体(6)とは接地されており、金属空洞筐体(1)及び金属蓋(2)とは誘電体部品3(7)によって絶縁されている。尚、誘電体部品3(7)は、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート(以後PETと記載する)、セラミック等の誘電体材料を加工したものである。
【0020】
また図1〜3に示すように、プラズマ処理対象となるプラスチック等の3次元中空容器(8)と金属空洞筐体(1)との間に出来た空間には、テフロン(登録商標)、PET、
セラミック等の誘電体材料を加工した誘電体部品1(9)及び誘電体部品2(10)が配置される。この結果、金属空洞筐体(1)、金属蓋(2)、金属支持筐体(6)、誘電体部品1(9)、誘電体部品2(10)、誘電体部品3(7)から構成されるプラズマ処理槽が形成される。また、誘電体部品1(9)、誘電体部品2(10)、誘電体部品3(7)から、成膜対象の3次元中空容器が収納出来る空隙を設けた誘電体で構成される治具が形成される。誘電体部品1(9)及び誘電体部品2(10)は、プラスチック等の3次元中空容器(8)の形状に合わせて加工されており、容器の形状が変更された場合にそれぞれの容器に合わせた形状の部品を選択され使用される。
【0021】
また、プラスチック等の3次元中空容器(8)を固定する冶具は誘電体部品2(10)であって、図3に示すようにプラスチック等の3次元中空容器(8)開口部の端面や外周部の凹凸部分の端面部分が誘電体部品2(10)と接触することによりプラズマ処理槽内部に固定される。それ以外の箇所は容器の交換等の作業を行いやすくするために周囲の部品とは接触せず適当な間隙が空けられている。
【0022】
本発明の成膜装置は、この従来の成膜装置に、図4又は5に示すように、誘電体部品1(9)、誘電体部品2(10)それぞれの代わりに誘電体部品4(11)、誘電体部品5(12)を配置し、導電体部品1(13)又は導電体部品2(14)を、プラスチック等の3次元中空容器(8)と誘電体部品5(12)の間に挟むように挿入してガス導入管(5)又は金属支持筐体(6)に電気的に接続する改良を施したものである。それ以外の箇所は従来と同様に容器の交換等の作業を行いやすくするために、容器と周囲の部品とは接触せず適当な間隙が空けられている。導電体部品1(13)及び導電体部品2(14)の材質は特に放熱性を考慮してアルミニウムを加工した物がより望ましい。尚、誘電体部品5(12)も、テフロン(登録商標)、PET、セラミック等の誘電体材料を加工したものである。
【0023】
以後、本実施形態の成膜装置を詳細に説明する。
【0024】
図4に示す本実施形態の一例では、金属空洞筐体(1)、金属蓋(2)、金属支持筐体(6)、誘電体部品4(11)、誘電体部品5(12)、誘電体部品3(7)、導電体部品1(13)から、プラズマ処理槽が形成される。また図5に示す本実施形態の一例では、金属空洞筐体(1)、金属蓋(2)、金属支持筐体(6)、誘電体部品4(11)、誘電体部品5(12)、誘電体部品3(7)、導電体部品2(14)から、プラズマ処理槽が形成される。また図4又は5に示す本実施形態の何れの例でも、誘電体部品4(11)、誘電体部品5(12)、誘電体部品3(7)から、成膜対象の3次元中空容器が収納出来る空隙を設けた誘電体で構成される治具が形成される。
【0025】
ここで、図7に、導電体部品1(13)の形状の一例を示す。また、図8に、導電体部品2(14)の形状の一例を示す。
【0026】
図7に示す形状の一例では、ガス導入管(5)に直接固定する配置となるために、導電体部品1(13)の底面に排気用の貫通穴を多数設け排気穴とする。また底面中央部にガス導入管(5)の直径に等しい穴を空けてガス導入管(5)と導電体部品1(13)とが接触した状態にする。固定が不十分な場合は必要に応じてガス導入管(5)と導電体部品1(13)とにネジ加工等を施す方法により固定をする。
【0027】
図8に示す形状の一例では、導電体部品2(14)とガス導入管(5)とは直接接触しないため3次元中空容器(8)の開口部からの排気ガスはそのまま導電体部品2(14)の下部に設けた穴から排出される。導電体部品2(14)の底部をネジ等で金属支持筐体(6)に固定して接地される。
【0028】
ガス導入管(5)と導電体部品1(13)又は導電体部品2(14)とは接地され同電位となるために、導電体部品1(13)又は導電体部品2(14)に囲まれた3次元中空容器の部分には、電気エネルギーは供給されない。しかし実際にはプラズマガスが容器開口部に向かって流れているため、プラズマをある程度残した状態で導電体部品1(13)又は導電体部品2(14)に囲まれた部分を通過する。
【0029】
整合装置(3)はプラズマ発生時の反射電力を抑える目的で設置され、高周波電源(4)はプラズマ処理対象容器毎に200〜400W程度の電力供給が行える能力を有する物を使用する。1つの電源で複数のプラズマ処理槽に電力を供給する場合は、並列に接続した処理槽の数に見合う能力を有する電源を準備する必要がある。高周波電源(4)の電源周波数の一例としては工業用電源である13.56MHz等の物を使用することが可能である。
【0030】
プラスチック等の3次元中空容器(8)は金属空洞筐体(1)の内部に挿入され金属蓋(2)が閉められる。プラズマ処理槽内部は真空排気装置(図示せず)により処理槽内の気体は瞬時に吸引され、その内部を1.5Pa(パスカル)以下の減圧環境を保つ。その後プラズマ処理対象のプラスチック等の3次元中空容器(8)内面にバリア性の薄膜コーティングを行うための原料ガスを、プロセスガス供給装置(図示せず)からガス導入管(5)を介して供給する。
【0031】
原料ガスは、主ガスとしてヘキサ・メチル・ジ・シロキサン(以下HMDSOと記載)またはテトラ・メチル・ジ・シロキサンなどを用いることが可能であり、サブガスとして酸素、窒素といったものが用いられる。上記のガスを使用して形成される薄膜は、いわゆるセラミック層SiOxCy(x=1〜2.2、y=0.3〜3)を主成分とするものである。
【0032】
原料ガスの供給を行いながら高周波電源(4)により電力を供給しプラズマ処理槽内部にプラズマを発生させ、プラスチック等の3次元中空容器(8)内面に薄膜形成を行う。
【実施例】
【0033】
本装置によるプラズマ処理を行う容器はプラスチック等の3次元中空容器を対象としている。ここではポリエチレンテレフタレート等のポリエステル材料を原料とした容量500ml平均肉厚0.5mmの四角柱の形状をしたPETボトル容器(8)を対象にPECVD法により容器内面に薄膜を成膜した場合のプラズマガスによる変形防止効果について実施例を以下に示す。
【0034】
実施例の実験装置は、上記プラズマ処理槽を上記実施形態の成膜装置のように構成し、このプラズマ処理槽を4台並列に整合装置(3)を介して高周波電源(4)に接続したもので、金属空洞筐体(1)の内径は100mmである。誘電体部品3(7)及び誘電体部品4(11)の材質はテフロン(登録商標)を使用、誘電体部品5(12)についてはPET材を加工した物を使用した。導電体部品はアルミニウム材を開口部の直径に合わせてリング状に加工した物を使用した。
【0035】
比較例の実験装置は、導電体部品を使用せず、誘電体部品4(11)、誘電体部品5(12)それぞれの代わりに誘電体部品1(9)、誘電体部品2(10)を使用して、プラズマ処理槽を上記従来の成膜装置のように構成したこと以外実施例の実験装置と同じである。尚、誘電体部品1(9)の材質はテフロン(登録商標)を使用、誘電体部品2(10)についてはPET材を加工した物を使用した。
【0036】
プラズマ処理条件は原料ガスHMDSOを流量10ml/分にて、かつ酸素の流量を50ml/分にて注入してPETボトル容器(8)内の真空度を15Pa前後の真空圧力に調整した状態において、高周波電源(4)によりプラズマ処理槽あたり、実施例1及び比較例1では280W、実施例2及び比較例2では325Wにて電力供給を約10秒間行い、PETボトル容器(8)に変形が発生していないか目視による確認を行った。
【0037】
以下に、各実施例及び各比較例に共通する条件を列挙する。
【0038】
<共通条件>
高周波電源の周波数:13.56MHz。
対象容器:500mlのPETボトル。
プラズマ処理槽接続台数:4台。
【0039】
以下に、各実施例及び各比較例ごとに異なる条件を列挙する。
【0040】
<実施例1>
プラズマ処理回数:10回。
入力電力:1120W(各280W)。
【0041】
<実施例2>
プラズマ処理回数:10回。
入力電力:1300W(各325W)。
【0042】
<比較例1>
プラズマ処理回数:5回。
入力電力:1120W(各280W)。
【0043】
<比較例2>
プラズマ処理回数:5回。
入力電力:1300W(各325W)。
【0044】
実施例1、2においては、PETボトル(8)内部にプラズマの発生が確認され、PETボトル容器(8)にはいずれも容器の変形は確認されなかった。
【0045】
比較例1、2においては、PETボトル容器(8)の肩部分にプラズマの熱が原因と思われる容器変形が確認された。
【0046】
以下の表1に、各実施例及び各比較例ごとに各処理槽におけるプラスチック容器変形の発生件数を示す。
【0047】
[表1]
処理槽1 処理槽2 処理槽3 処理槽4
実施例1 なし なし なし なし
実施例2 なし なし なし なし
比較例1 なし 1件 なし なし
比較例2 2件 4件 2件 3件
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】改良前の従来の成膜装置の縦断面図。
【図2】図1の成膜装置で金属蓋を外し上から見た横断面図。
【図3】図1の成膜装置の拡大縦断面図。
【図4】本実施形態の一例の縦断面図。
【図5】本実施形態のもう一例の縦断面図。
【図6】3次元中空容器の形状の一例を示す投影図。
【図7】図4における導電体部品1(13)の形状の一例を示す斜視図。
【図8】図5における導電体部品2(14)の形状の一例を示す斜視図。
【符号の説明】
【0049】
(1)…金属空洞筐体
(2)…金属蓋
(3)…整合装置
(4)…高周波電源
(5)…ガス導入管
(6)…金属支持筐体
(7)…誘電体部品3
(8)…3次元中空容器
(9)…誘電体部品1
(10)…誘電体部品2
(11)…誘電体部品4
(12)…誘電体部品5
(13)…導電体部品1
(14)…導電体部品2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元中空容器を収納する空隙を設けた誘電体で構成される治具が内部に配置され前記3次元中空容器にプラズマ処理を行って成膜する処理槽と、前記処理槽にプラズマを発生させる為の高周波電源と、前記3次元中空容器内部にガス導入管を介してプロセスガスを供給するプロセスガス供給装置と、前記処理槽内部から排気を行う真空排気装置とを備え、
導電性を有する部品を前記治具の一部に配置し前記ガス導入管と接続して同電位にしたことを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記3次元中空容器はボトル形状であり、
前記導電性を有する部品は前記3次元中空容器の肩部全体又はその一部を取り囲んで配置されたことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記導電性を有する部品の材質はアルミニウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記3次元中空容器はプラスチック容器であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記プラスチック容器がポリエチレンテレフタレートを使用した容器であることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−102037(P2009−102037A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274949(P2007−274949)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】