説明

成膜装置

【課題】 基板を巻き掛けて搬送しつつ成膜を行なう電極ローラ対を用い、誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDで成膜を行なう成膜装置であって、長時間に渡って安定したプラズマを生成することができ、これにより、長時間に渡って高品質な成膜を安定して行なうことを可能にする成膜装置を提供する。
【解決手段】 基板を巻き掛けて搬送しつつ成膜を行なう電極ローラ対を用いると共に、この電極ローラ対にプラズマ励起電力を供給する電源装置として、キャパシタンスおよびインダクタンスが可変であるLC共振回路を用いることにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧での誘電体バリア放電を利用する成膜装置に関し、詳しくは、大気圧下でプラズマを安定して生成して、長時間に渡って安定した成膜が可能な成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧下(大気圧近傍)でプラズマを生成して成膜を行なう、大気圧プラズマCVDによる成膜装置が知られている。また、大気圧プラズマによって、大きな面積の処理を可能にする方法として、プラズマを生成するための電極対(対向電極)の間に、誘電体(絶縁体)を存在させた状態で放電を行う誘電体バリア放電が知られている。
この大気圧プラズマCVDによる成膜装置は、大気圧下であるので、真空チャンバ等の高価な真空容器が不要であり、装置コストを低減できるという利点がある。また、真空下での処理が困難な基板でも処理が可能であるという利点も有る。特に、誘電体バリア放電を利用する大気圧プラズマCVDは、大面積の処理を可能にできるという利点を有する。
そのため、大気圧プラズマCVDによる成膜装置(プラズマ処理装置)が盛んに研究され、各種の装置が、提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、対向面に誘電体が設置された対向電極対と、この対向電極対の間に原料ガス(処理用ガス)を導入して、誘電体バリア放電を利用する大気圧プラズマCVDによって基板の表面に成膜を行なう成膜方法が記載されている。
この成膜方法では、対向電極対の間において、長尺な2枚の基板を、対峙する電極に密着した状態で長手方向に搬送すると共に、基板の間に原料ガスを導入することにより、2枚の基板に同時に成膜を行なう。この方法によれば、効率よく製品を製造できると共に、両電極が基板によって被覆されているため、プラズマ処理による堆積物が電極等に堆積することも、抑制できる。
【0004】
また、特許文献2には、誘電体バリア放電を利用する大気圧プラズマCVDでの成膜装置において、対向電極として、所定距離離間する一対のローラ(電極ローラ対)を用いる装置が記載されている。
この装置では、電極ローラ間に原料ガスを導入すると共に、一方の電極ローラに巻き掛けて電極ローラ対間を搬送した基板を、折り返して、再度、電極ローラ対間に搬送して、他方の電極ローラに巻き掛けて搬送する。この成膜装置によれば、基板ロールからの基板の送り出しと、成膜済みの基板の巻き取りを、1回、行なうのみで、基板に2層の成膜を行なうことができ、生産性および生産効率を向上できる。また、特許文献1と同様に、両電極が基板に覆われているので、電極への堆積物も低減できる。
【0005】
ところで、一般的な低圧力下でのプラズマ(容量結合型のプラズマ)では、13.56MHzの正弦波を発振する高周波電源(いわゆるRF電源)を用いて、電極対すなわち容量性の負荷に対して電力を供給してプラズマを生成するのが一般的である。
この場合、電源と電極対との間には、電極対から電源に戻る電力の反射を減少させるために、電源と電極対とのインピーダンス整合を取る整合器(マッチングボックス)が配置される。
【0006】
ここで、この低圧力でのプラズマに用いられる整合器は、電源と組み合わせるだけでは、大気圧にて放電を生成することはできない。
すなわち、大気圧プラズマは、pd積(圧力と、電極間の距離の積)が大きく、放電開始電圧が数kVとなり、低圧力でのプラズマに比べて非常に高い。そのため、一般的な低圧力用の整合器を、大気圧でのプラズマ生成用に利用しても、放電が開始しないなどの問題が発生し、適正な放電を行うことができない。
大気圧で絶縁破壊を起こすには、二つの周波数を重畳するなどの方法がある。この方法だと、二つの電圧の合計が放電開始電圧に到達すればよいので、高い電圧を容易に印加することができ、低圧力で用いられているマッチングボックスをそのまま流用して放電を開始、持続することができる。
【0007】
二周波重畳ではなく、単一周波数の正弦波を利用した大気圧プラズマでは、低圧プラズマに用いられるような整合器ではなく、逆ガンマ型と通常呼ばれる、電圧増幅作用を持つLC共振回路が、用いられることがある。
逆ガンマ型のLC共振回路とは、一例として、特許文献3に記載されるような、電極対と並列に設けられるコンデンサと、このコンデンサよりも電源側に、電極対と直列に設けられるコイルとを有するものである。このようなLC共振回路を用いることにより、電源(正弦波発振回路)からの入力電圧を増幅し、電極間、すなわち容量性の負荷に大きな電圧を掛けることができ、大気圧で放電を行うことができる。
ただし、これだけでは安定した放電を維持できない。すなわち、LC共振回路を用いても、ストリーマと呼ばれる糸状の放電の部分的な不均一性が過渡的に生じ、放電が不安定になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−212753号公報
【特許文献2】特許第4000830号公報
【特許文献3】特表2009−506496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、誘電体バリア放電を利用する大気圧プラズマCVDによる成膜(基板の処理)においては、適正な製品を作成するためには、成膜開始から終了まで、プラズマの状態が安定していることが重要である。
しかしながら、従来の大気圧プラズマCVDを行なう成膜装置では、往々にして、成膜中にプラズマが不安定になってしまい、甚だしい場合には、放電が停止してしまう場合も有る。
【0010】
特許文献1および特許文献2に示される装置のような、誘電体バリア放電を行なう大気圧プラズマCVDによる成膜において、プラズマ生成中の電極間は、図6の点線内に記すような等価回路で示すことができる。
すなわち、Cvが、電極対の間隙(電極間のギャップ)によるキャパシタンスであり、Cd1が、一方の電極に当接する基板(および成膜された膜)によるキャパシタンスであり、Cd2が、他方の電極に当接する基板によるキャパシタンスである。なお、特許文献1に示されるように、電極の表面に誘電体が貼着されている場合には、Cd1およびCd2には、この誘電体によるキャパシタンス分も加算する必要がある。
また、プラズマが生成(放電)されると、電極間には電流路が形成され、その電流路の抵抗がRpとなる。
【0011】
特許文献2に示されるように、一方の電極に当接して成膜した基板を、折り返して、再度、電極対間で成膜する場合には、基板搬送方向に対して下流側の電極(折り返し後に当接する電極)の電極に当接する基板は、成膜開始直後は、膜が形成されていない状態であり、その後、成膜された状態の基板が搬送される。
従って、この装置では、上流側の電極で成膜された基板が、下流側の電極に到達した時点で、下流側の電極のキャパシタンス、例えばCd1が大きく変化する。
【0012】
また、特許文献1および特許文献2にも記載されるように、成膜中には、電極への膜の堆積が生じてしまう。前述のように、特許文献1や特許文献2に記載される装置では、電極の表面を基板で覆っているものの、基板を安定して搬送するために、電極の、基板の幅方向(搬送方向と直交方向)両端部には、基板に覆われない領域が生じてしまう。そのため、電極の幅方向の両端部への膜の堆積を防ぐことは困難である。
そのため、連続的に成膜を行うと、両電極には、次第に膜が堆積され、この膜の堆積によってキャパシタンスCd1およびCd2が変動してしまう。
【0013】
また、大規模なプラズマプロセスでは、電極や被処理基板等の温度上昇を伴う。そのため、長時間、連続的に処理を行うと、温度の上昇によって、電極に接するように設けられる絶縁体の厚みが変化して、処理中に、少なくとも一方の電極に対応するキャパシタンスCd1および/またはCd2が、変化してしまう。
加熱によって金属製の電極の厚さが変化する場合もあり、この際には、電極間のギャップが変化して、処理中にキャパシタンスCvが、変化してしまう。例えば、放電開始時に対して、放電持続中にプラズマによる熱の付与によって50℃の電極温度変化が生じると、金属電極の厚さが数十cmの場合には、電極間距離の変化が100μmのオーダに達してしまう場合が有り、放電形態を変化させる原因となってしまう。
さらに、大気圧プラズマCVDによって成膜を行うと、電極の、被成膜基板で覆われていない領域に膜が堆積してしまい、その結果、成膜中に、電極に対応するキャパシタンスCd1および/またはCd2が、変化してしまう。さらに、特許文献1に示されるような、2枚の基板を同時に搬送させる成膜では、厚さや材料が異なる基板に成膜を行なう場合にも、両電極に対応するキャパシタンスの合成値が一定ではなくなる。
【0014】
加えて、連続的に成膜を行うと、電源装置も加熱してしまい、内部回路の温度変化によって、電源内部のインピーダンスが変化してしまう。
また、連続的に成膜を行うと、LC共振回路に用いられるコンデンサやコイルなども発熱し、キャパシタンスやインダクタンスが変動して、LC共振回路の共振条件がズレてしまう。この現象は、大電流を用いた処理では、特に顕著である。たとえばLC共振回路中のコイルに、極僅かに存在する数オームの抵抗分でさえ、大電流の場合には無視できない熱量が発生し、インダクタンスの変化が生じる。
【0015】
このような変化を生じると、反射波が大きくなって、入力電力の減少等を生じ、甚だしい場合には、放電に十分な電力を供給できず、放電の自動的な停止等が発生してしまう。
また、誘電体バリア放電による大気圧プラズマでは、電極間(すなわち放電部)において、不可避的に、ストリーマと呼ばれる電極間を糸状に結ぶ局所的プラズマが発生してしまう。このようなプラズマ生成領域周辺の環境変化は、ストリーマを増加させ、また、ストリーマの電流値を増加させてしまい、これによって、プラズマが、さらに不安定になり、加えて、アーク放電を生じて、基板や成膜した膜を損傷してしまう危険も有る。
【0016】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、ロール電極対を利用して、誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDで成膜を行なう成膜装置において、成膜の有無を含んだ基板の違い、電極への膜の堆積等による電極間の状態の変動等によらず、安定して適正な状態のプラズマで成膜を行なうことができ、これにより、適正な製品を安定して製造することができる成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明の成膜装置は、大気圧プラズマによって基板に成膜を行なう成膜装置であって、前記大気圧プラズマを生成するための電極対として作用する、所定の間隔を有して配置され2つ円筒状のローラからなり、少なくとも一方のローラに前記基板を巻き掛けて搬送する電極ローラ対と、前記電極ローラ対の間に、原料ガスを供給するガス供給手段と、前記電極ローラ対にプラズマ励起電力を供給する、インダクタンスおよびキャパシタンスが可変であるLC共振回路が組み込まれた電源装置と、電極ローラ対間のプラズマの状態に応じて、前記LC共振回路のインダクタンスおよびキャパシタンスを調整する制御手段とを有することを特徴とする成膜装置を提供する。
【0018】
このような本発明の成膜装置において、前記電極ローラ対の両方のローラに、前記基板を巻き掛けて搬送する基板搬送手段を有するのが好ましく、この際において、前記基板搬送手段は、前記電極ローラ対の一方のローラに巻き掛けて搬送した基板を折り返して、前記電極ローラ対の他方のローラに巻き掛けて搬送する搬送経路で、前記基板を搬送するのが好ましく、さらに、前記基板搬送手段は、前記基板の折り返しの際に、前記基板を表裏反転するのが好ましい。
また、前記LC共振回路が、前記電極ローラ対と並列に接続される可変コンデンサと、この可変コンデンサと直列に接続される可変コイルとを有するのが好ましい。
また、前記電源装置が、前記電極ローラ対に直列に接続されるパルス制御素子を有するのが好ましく、この際において、前記パルス制御素子は、前記電極ローラ対間にプラズマ励起電力を供給した際に、その半周期中に少なくとも1つの電圧パルスを生成し、これによって、前記電極ローラ対の間に変位電流パルスを生じさせるものであるのが好ましく、また、前記パルス制御素子は、前記電源装置の動作周波数と等しい共振周波数を有する素子を含むのが好ましく、また、前記パルス制御素子が、前記電極ローラ対と直列に接続されるチョークコイルを有するのが好ましい。
また、前記電源装置の電源が、20kHz〜3MHzで単一周波数の正弦波の電力を前記電極ローラ対に供給するのが好ましく、また、20〜110kPaの圧力範囲で成膜を行なうのが好ましい。
さらに、前記折り返しの際の基板の反転は、基板の搬送方向に対して45°の角度で配置される4本のローラによって行なうのが好ましく、もしくは、前記折り返しの際の基板の反転は、前記電極ローラ対の一方のローラに巻き掛けられた基板と共に、このローラを内包するように前記基板の搬送経路を折り返し、再度、基板の搬送経路を折り返して、前記一方のローラに搬入された基板と同方向に進行して、前記電極ローラ対の他方のローラに巻き掛けることによって行なうのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
上記構成を有する本発明の成膜装置は、誘電体バリア放電を利用する大気圧プラズマCVD装置において、ロール電極対にプラズマ励起電力を供給する電源装置が、キャパシタンスおよびインダクタンスが可変なLC共振回路を有し、ロール電極対の間に生成するプラズマの状態に応じて、プラズマが所定の状態で安定するように、LC共振回路のキャパシタンスおよびインダクタンスを調整する。
そのため、本発明によれば、各ロール電極対に巻き掛かる基板の膜の有無、各ロール電極対に巻き掛かる基板の種類や厚さの違い、電極に堆積する膜の状態や量、経時による基板や電極の温度変動、電源装置内部のインピーダンスの変化など、成膜プロセス中におけるプラズマ生成領域周辺の環境変化が生じた場合にも、安定して適正なプラズマを生成することができる。
従って、本発明によれば、長時間、安定して適正な成膜を行なうことができ、大気圧プラズマCVDによる成膜を利用する製品の製造、例えば、ガスバリアフィルム、各種の光学フィルム、磁気記録媒体用ベース、太陽電池用フィルム、電磁波遮蔽フィルム、導電性フィルム、帯電防止フィルムなどの製品の製造において、高品質な製品を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の成膜装置の一例を概念的に示す図である。
【図2】図1に示す成膜装置の反転エリアの一例を概念的に示す図である。
【図3】(A)および(B)は、本発明の成膜装置に利用可能なLC共振回路の一例を示す図である。
【図4】(A),(B)および(C)は、本発明の成膜装置に利用可能なパルス制御素子の一例を示す図である。
【図5】本発明の成膜装置の別の例を概念的に示す図である。
【図6】誘電体バリア放電を行なう電極対の一例の等価回路である。
【図7】本発明の実施例で用いた電磁波検出用共振回路を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の成膜装置について、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
図1に、本発明の成膜装置の一例を概念的に示す。
図1に示す成膜装置10は、長尺な基板Zを長手方向に搬送しつつ、誘電体バリア放電を利用する大気圧プラズマCVDによって、基板Zの両面に成膜を行なう装置であって、基本的に、成膜部12と、電源装置14と、制御手段16とを有する。
【0022】
成膜部12は、電極ローラ対18(その電極ロール)に基板Zを巻き掛けて長手方向に搬送しつつ、前述のように、誘電体バリア放電を利用する大気圧プラズマCVDによって成膜を行なうもので、電極ローラ対18と、ガス供給手段20と、ガス吸引手段24と、反転エリア26と、供給軸28と、巻取り軸30と、ガイドローラ34a〜34fとを有して構成される。
【0023】
図示例の成膜装置10において、長尺な基板Zは、ロール状に巻回されて、基板ロール32として供給軸28に装填される。
基板Zは、基板ロール32から送り出され、長手方向に搬送されつつ、電極ローラ対18に搬送されて大気圧プラズマCVDによって成膜され、次いで、反転エリア26で反転され、再度、電極ローラ対18に搬送されて大気圧プラズマCVDによって成膜され、巻取り軸30によって、ロール状に巻回されて、次の工程等に供給される。
すなわち、この成膜装置10は、基板ロールから基板Zを送り出し、長手方向に搬送しつつ電極ローラ対18(電極ローラ18aおよび18b)上の所定領域で成膜を行い、成膜済の基板Zをロール状に巻き取る、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll(以下、RtoRともいう))による成膜を行なう装置である。
【0024】
なお、成膜装置10は、基板Zの搬送ガイドや各種のセンサなど、図示した部材以外にも、RtoRによって大気圧プラズマCVDで成膜を行なう各種の成膜装置に配置される各種の部材を有してもよいのは、もちろんである。
【0025】
本発明の成膜装置10において、基板Zには、特に限定はなく、誘電体バリア放電を用いる大気圧プラズマCVDによって、目的とする膜が成膜可能なものであれば、各種の基板Zが利用可能である。
具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの有機物からなる高分子フィルム(プラスチックフィルム/樹脂フィルム)が、基板Zとして、好適に利用可能である。
また、本発明においては、このような高分子フィルム等を基材として、その上に、保護層、接着層、光反射層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等の、各種の機能を得るための層(膜)が形成されているシート状物を基板Zとして用いてもよい。
【0026】
前述のように、基板Zは、基板ロール32として供給軸28に装填される。
供給軸28は、基板ロール32を軸支して、回転することにより、基板Zを送り出すものである。また、ガイドローラ34(34a〜34f)は、RtoRによる成膜装置に用いられる公知のガイドローラである。
【0027】
基板ロール32から送り出された基板Zは、ガイドローラ34aに案内されて、電極ローラ対18に搬送される。
なお、基板Zが、表面に保護フィルムを貼着されている積層材である場合には、電極ローラ対18の手前で、剥離ローラ等によって、保護フィルムを剥離する。剥離した保護フィルムは、公知の巻取り手段でロール状に巻回すればよい。この点に関しては、後述する第2面への成膜に関しても、同様である。
【0028】
電極ローラ対18は、所定の間隙を有して配置される第1電極ローラ18aおよび第2電極ローラ18bから構成されるものであり、大気圧での誘電体バリア放電における電極対を形成すると共に、成膜時に、基板Zを巻き掛けて、所定の成膜位置に位置しつつ長手方向に搬送する搬送手段も兼ねる。
図示例の成膜装置10において、電極ローラ対18に搬送された基板Zは、まず、第1電極ローラ18aに巻き掛けられて搬送され、第1電極ローラ18aに当接しない面(以下、便宜的に、この面を第1面とする)に、誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDでの成膜を行なわれる。
【0029】
第1電極ローラ18aおよび第2電極ローラ18bは、共に、誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDを行なう装置に利用される、公知の電極ローラであり、例えば、金属製のローラ、あるいは、金属製のローラの表面に誘電体層(絶縁層)を形成してなるものである。
なお、両電極ローラは、成膜される基板Zの温度調節を行なうための温度調節手段を内蔵してもよい。温度調節手段には、特に限定はなく、温度調節用の媒体を循環させる方法、各種のヒータを用いる方法、ペルチェ素子等の冷却手段を用いる方法等、公知のローラの温度調節手段が、各種、利用可能である。両電極ローラの温度調節手段を有することにより、電極ローラ対18(すなわち、誘電体バリア放電を行う電極対)および基板Zの温度を安定させ、これにより、後述するLC共振回路40におけるキャパシタンスおよびインダクタンスの調整幅を小さくできる。
【0030】
図示例の成膜装置10において、電気ローラ対18には、プラズマ励起電力を供給する電源装置14が、接続される。
この電源装置14に関しては、後に詳述する。
【0031】
ガス供給手段20は、電極ローラ対18を構成する第1電極ローラ18aおよび第2電極ローラ18bの間(以下、単に『電極間』とも言う)に、プラズマを生成し、かつ、基板Zに成膜を行なうための原料ガス(反応ガス(プロセスガス))を供給するものである。ガス供給手段20は、プラズマCVD装置等の真空成膜装置に用いられる、公知のガス供給手段である。
また、ガス吸引手段24は、成膜に供されなかった、余分な原料ガス等を吸引するものであり、公知の気体吸引手段である。
【0032】
なお、本発明の成膜装置10で基板Zに成膜する膜には、特に、限定はなく、誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDで成膜可能な膜が、全て、利用可能である。
具体的な一例として、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム等のガスバリア膜、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム等の絶縁膜、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、フッ素化合物等の光反射膜や反射防止膜、インジウムスズ酸化物、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、インジウム・カドミウム酸化物、カドミウム・スズ酸化物、酸化カドミウム、酸化ガリウム等の透明導電膜などが例示される。
すなわち、本発明の成膜装置の用途としては、ガスバリアフィルムの製造、各種の光学フィルムの製造、太陽電池用フィルムの製造、磁気記録媒体用ベースの製造、電磁波遮蔽フィルムの製造、導電性フィルムの製造、帯電防止フィルムの製造、各種の光学部品の製造等が例示される。
【0033】
また、電極ローラ対18における成膜圧力にも、特に限定はなく、いわゆる大気圧プラズマCVDで利用される一般的な圧力であればよいが、好ましくは、成膜圧力は、20〜110kPaである。
【0034】
第1電極ローラ18aによって成膜された基板Zは、ガイドローラ34bおよび34cによって所定の搬送経路を案内され、反転エリア26に搬送される。
なお、成膜装置10においては、成膜した膜を保護するために、成膜した膜に当接するガイドローラ34bおよび34cは、段付きローラやエアによって基板Zを浮上させつつ搬送するローラなど、基板Zの表面(特に、製品として機能する領域)に接触することなく、基板Zをガイドしつつ搬送するものであってもよい。この点に関しては、他の成膜した膜に当接するガイドローラに関しても、同様である。
また、成膜した膜を保護するために、成膜した膜に当接するガイドローラ34b、または、反転エリア26の手前に、基板Zの第1面に保護フィルムを貼着するセパレータを有してもよい。セパレータは、例えば、保護フィルムを巻回する保護フィルムロールと、保護フィルムを第1面に貼着する貼り合わせローラ対、この保護フィルムロールから保護フィルムを引き出し、貼り合わせローラ対に供給する搬送手段等を有して構成すればよい。この点に関しては、第2面(第1面と逆面)に関しても、同様である。
さらに、電極ローラ対18と反転エリア26との間に、さらに、1以上の電極ローラ対を設け、基板ロール32から反転エリア26までの間で、2層以上の成膜を行なうようにしてもよい。
【0035】
反転エリア26は、基板Zを折り返して、再度、電極ローラ対18に向かう搬送経路に送ると共に、この折り返しの際に、基板Zを表裏反転させて、第1面と逆面の第2面への成膜を可能とする部位である。
【0036】
成膜装置10(成膜部12)においては、前述のように電極ローラ対18の第1電極ローラ18aに基板Zを巻き掛けて搬送して、第1面に成膜を行い、その後、基板Zを折り返して、再度、電極ローラ対18に搬送し、もう一方の第2電極ローラ18bに巻き掛けて搬送しつつ、成膜を行ない、その後、巻取り軸30で巻き取る。
ここで、特許文献2に記載される成膜装置のように、電極ローラ対18から搬送された基板Zの搬送経路を、単純に折り返して、再度、電極ローラ対18に搬送した場合には、基板ロール32から反転エリア26までの搬送時(以下、便宜的に『往路』ともいう)と同様、反転エリア26から巻取り軸30までの搬送時(同『復路』ともいう)も、第2電極ローラ18bに当接するのは、往路で成膜された第1面とは逆面の第2面(往路での非成膜面)であり、したがって、復路も第1面に成膜を行なうこととなる。
【0037】
これに対し、図示例の成膜装置10においては、反転エリア26において、基板Zの搬送を折り返すと共に、基板Zを表裏反転する。
これにより、復路において、電極ローラ対18に搬送した基板Zの第1面を第2電極ローラ18bに当接して、第2面に成膜することが可能になり、すなわち、基板ロール32からの巻出し〜巻取り軸30への1回の基板Zの搬送で、基板Zの両面に成膜を行なうことが可能になる。
【0038】
図2に、反転エリア26の一例を概念的に示す。
この反転エリア26は、4本のローラ26a〜26dによって構成されるものである。反転エリア26において、各ローラは、自身に搬送される基板Zの搬送方向に対して、45°(略45°)の角度で配置される。また、各ローラは、基板Zの搬送経路を、基板Zの表面に対して90°(略90°)折り曲げるように配置される。
これにより、基板Zは、図2(第1面に、搬送方向を示す矢印を付す)に示すように、4回、搬送経路を折り曲げられる間に、搬送経路を折り返されると共に、表裏反転され、第1面を第2電極ローラ18bに向けた状態で、電極ローラ対18に搬送される。
【0039】
なお、本発明において、反転エリア26は、図示例に限定はされず、長尺なシート状物の搬送経路を折り返し、かつ、表裏反転することができる、公知の各種の構成が利用可能である。
例えば、2本の搬送ローラ対間で基板Zのループを形成し、かつ、このループ内で、基板を合計で180°捻るように配置された、1本以上の搬送ローラ対を有する反転エリア等も利用可能である。
【0040】
反転エリア26で反転された基板Zは、ガイドローラ34dおよび34eに案内されて、再度、電極ローラ対18に搬送され、今度は、第2電極ローラ18bに巻き掛けられて搬送されつつ、成膜される。
前述のように、基板Zは、反転エリア26において、表裏反転しつつ折り返されているので、復路では、第2電極ローラ18bに第1面を当接して搬送されることになり、これにより、第2面に、誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDによる成膜が行なわれ、基板Zの両面に成膜が行なわれる。
【0041】
両面に成膜を行なわれた基板Zは、ガイドローラ34fに案内されて、巻取り軸30に搬送され、ロール状に巻回される。
【0042】
前述のように、電極ローラ対18には、電源装置14が接続される。
電源装置14は、電極ローラ対18にプラズマ励起電力を供給するものであって、LC共振回路40と、電源42と、パルス制御素子46とを有して構成される。
【0043】
電源42は、電極ローラ対18に供給するプラズマ励起電力の電源(電力供給装置)である。
本発明において、電源42には、特に限定はなく、誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDに利用される電源が、各種、利用可能である。
ここで、誘電体バリア放電では、パルス方式の放電と、単一周波数の正弦波を発振する電源を用いて、単一周波数で処理を行なう放電(以下、正弦波方式とも言う)とが知られているが、本発明においては、正弦波方式、特に、20kHz〜3MHzでの正弦波方式が好ましく利用される。これに応じて、電源42は、単一周波数の正弦波を発振する高周波電源が好適に利用され、特に、20kHz〜3MHzで単一周波数の正弦波を発振する高周波電源が、好適に利用される。
【0044】
パルス方式の放電では、最終段にトランスを配置して、電極間の負荷を軽減することにより、容易に放電を発生できるという利点が有る。その反面、パルス方式の放電では、スイッチング周波数に限度がある。特に、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)をスイッチング素子として用いた電源では、数10kHz程度の周波数が限界であり、それを大きく上回る周波数になると、素子内のキャリアの応答が悪くなり、十分なスイッチング能力を発揮できない場合が有る。
成膜速度の向上や膜の高密度化を図るためには、放電の周波数を高くして、活性種が成膜領域(すなわち、電極ローラ18aと18bの間)に常に残存しやすい状態を維持すると共に、大きな電流を流して、活性種の密度自体を増加させるのが好ましい。一方で、13.56MHzのRF波のように、周波数が高すぎると、放電形態が誘電体バリア放電から容量性結合性へと変化し、高周波の遮蔽などが必要になるほか、十分な発熱対策が必要になってくるなどの課題が残る。
【0045】
これに対して、正弦波方式によれば、誘電体バリア放電によって十分に高い周波数(数kHz〜数MHz)で、高い成膜速度で高密度な膜の成膜が可能となる。
特に、電源42として、20kHz〜3MHzで単一周波数の正弦波を発振する高周波電源を用いることにより、プラズマ電流パルスが0になってから、次のプラズマ電流パルスが生じるまでの間欠時間が短く、高密度な膜を高い成膜速度で成膜すると共に、大面積への成膜にも、十分に対応可能となる。
【0046】
なお、電源42の出力にも、特に限定は無く、用いる基板や成膜する膜等に応じて、電極ローラ対18間で、十分に大気圧での誘電体バリア放電を生じることができるプラズマ励起電力を、適宜、設定すればよい。従って、電源42は、用いる基板Zや成膜する膜等に応じて、電極ローラ対18間で、大気圧での誘電体バリア放電に必要な励起電力を供給可能な製品、好ましくは前記正弦波方式の誘電体バリア放電が可能な製品を、適宜、選択すればよい。
【0047】
電源42と電極ロール対18との間には、LC共振回路40が配置される。なお、本発明は、電源42とLC共振回路40との間に、または、LC共振回路40と電極ロール対18との間に、トランスを配置して、インピーダンス変換を行なうようにしてもよい。
図1に示すように、LC共振回路40は、電極ローラ対18と並列に接続される可変コンデンサ48と、可変コンデンサ48よりも電源42側で、電極ローラ対18に直列に接続される可変コイル50とから構成される。なお、可変コイル50は、固定コイルと可変コンデンサとの直列接続によって構成される可変インダクタンスであっても、同等の機能を果たすので、この構成であってもよい。
【0048】
このようなLC共振回路40を有することにより、電源42からの電圧を増幅して、電極ローラ対18の第1電極ローラ18aと第2電極ローラ18bとの間(すなわち、電極間のギャップ、2枚の基板Z、および、1枚の基板Zに成膜された膜、からなる容量性の負荷)に、放電開始電圧を超える電圧を印加することが、可能となる。
【0049】
ここで、本発明において、LC共振回路40は、通常のコンデンサおよびコイルを用いるのではなく、可変コンデンサ48および可変コイル50を用いる。すなわち、本発明の成膜装置10の電源装置14に用いられるLC共振回路40は、キャパシタンスおよびインダクタンスが可変である(電気回路定数が可変である)。
本発明の成膜装置10は、電極ロール対18を用いる、誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDでの成膜を行なう装置において、このようなLC共振回路40を用いることにより、用いる基板Zの種類、連続的な成膜による電極間ギャップの変動、連続的な成膜による第1電極ローラ18aおよび第2電極ローラ18bへの膜の堆積等に起因する、プラズマの変動を好適に防止し、適正かつ安定したプラズマで、連続的に適正な成膜を行なうことを可能にしたものである。
【0050】
通常の誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDと同様、本発明の成膜装置10においても、プラズマ生成中の電極ローラ対18は、図6で点線内に記すような等価回路で示すことができる。
すなわち、Cvが、第1電極ローラ18aと第2電極ローラ18bとの間隙(電極間ギャップ)によるキャパシタンスである。
また、Cd1が、第1電極ローラ18aに当接する基板Zによるキャパシタンスであり、Cd2が、他方の第2電極ローラ18bに当接する基板Z、および、第1面に成膜された膜によるキャパシタンスである。誘電体バリア放電では、これらの絶縁体が、キャパシタンスCdのコンデンサとして作用し、『Cd=Cd1×Cd2/(Cd1+Cd2)』となる。
なお、特許文献1に示されるように、第1電極ローラ18aおよび/または第2電極18b電極が、表面に誘電体が貼着されているローラである場合には、Cd1およびCd2は、この誘電体によるキャパシタンス分が加味される。
【0051】
誘電体バリア放電を利用する大気圧プラズマCVDでは、電極間の合計のインピーダンスが、電源42側から見た際に、十分に整合が取れている必要が有る。このインピーダンスの整合が取れていない場合には、反射波の増大を招き、放電の開始や、放電の持続に必要な電圧を電極間に供給できず、また電源側のオーバーロードを招く危険がある。
そのため、この整合条件を満たすように、LC共振回路の共振条件を設定する必要がある。すなわち、この整合条件を満たすように、LC共振回路のキャパシタンスおよびインダクタンスが決定される。
【0052】
ところが、前述のように、連続的に成膜を行なうと、第1電極ローラ18aや第2電極ローラ18b(特に、基板Zの幅方向(搬送方向と直交方向)の両端部)に膜が堆積してしまい、その結果、キャパシタンスCd1およびCd2が変動してしまう。
また、前述のように、成膜装置10では、電極ローラ対18(成膜領域)で成膜を行なった後、基板Zを折り返して、再度、電極ローラ対18に搬送して成膜を行なう。従って、この成膜装置10では、成膜開始直後は、復路でも、基板Zの第1面に成膜が行なわれていない状態で、成膜が行なわれることになる。そのため、往路で成膜を行なわれた基板Zが、復路で電極ローラ対18に搬送された時点で、キャパシタンスCd2が大きく変動する。
また、連続的な成膜での加熱によって、第1電極ローラ18aおよび第2電極ローラ18bも膨張し、これによって電極間の間隙が変化してキャパシタンスCvが変動し、さらに、基板Zの膨張によってキャパシタンスCd1およびCd2が変動する。加えて、第1電極ローラ18aおよび第2電極ローラ18bの加熱や、プラズマの熱によって、基板Zも加熱されて膨張し、この基板Zの膨張によって、キャパシタンスCd1および/またはCd2が変化する。
さらに、連続的に放電を行うと、電源装置も加熱してしまい、内部回路の温度変化によって、電源装置内部のインピーダンスが変化してしまう。
【0053】
単純に基板Zを折り返して同一面に2回の成膜を行なう成膜装置はもちろん、図示例の成膜装置10のように、基板Zを折り返し、かつ、表裏反転して両面に成膜を行なう、折り返し前後で電極ローラに当接する材料が異なる成膜装置でも、このような安定性への影響は、顕著である。
【0054】
すなわち、連続的な成膜を行なうと、次第に、電極ローラ対18の電極間における各キャパシタンスおよび抵抗Rpが変化し、LC共振回路40の共振条件に対して、ズレを生じてしまう。
このように、誘電体バリア放電を利用する大気圧プラズマでは、成膜中に、プラズマ生成領域周辺の環境が変化していく。このような変化を生じると、反射波が大きくなって、入力電力の減少等を生じ、甚だしい場合には、放電に十分な電力を供給できず、放電の自動的な停止などが発生し、すなわち、プラズマの状態が不安定になってしまう。
また、誘電体バリア放電による大気圧プラズマでは、電極間(すなわち放電部)において、不可避的に、ストリーマと呼ばれる電極間を糸状に結ぶ局所的プラズマが発生してしまう。このようなプラズマ生成領域周辺の環境変化は、ストリーマを増加させ、また、ストリーマの電流値を増加させてしまい、これによって、プラズマが、さらに不安定になり、加えて、アーク放電を生じて、基板や成膜した膜を損傷してしまう危険も有る。
このような不安定な状態のプラズマで成膜を行なうと、成膜速度の変動(膜厚のバラツキ)、膜質の劣化、膜の欠陥の発生等を生じ、適正な成膜を安定して行なうことができないのは、前述のとおりである。
【0055】
これに対し、本発明においては、LC共振回路40として、キャパシタンスとインダクタンスとを可変にした回路を用い、プラズマの状態すなわち電極ローラ対18の状態に応じて、可変コンデンサ48および可変コイル50を調整する。
【0056】
これにより、前述のような電極ローラ対18におけるキャパシタンス等の変動に好適等に対応して、LC共振回路40における共振条件を、電極ローラ対18の状態に対応した最適な条件とすることができ、電極ローラ対18の状態に応じた最適なプラズマ励起電力を供給して、適正なプラズマを安定して生成することが可能になり、第1面および第2面共に、高品質な膜を、安定して成膜することができる。
また、本発明の成膜装置10によれば、図示例のような、基板Zの折り返しを行なうのではなく、特許文献1に示されるような、2つの基板ロールおよび巻取り軸を利用して、2枚の長尺な基板を同時に搬送して、成膜を行なう装置において、厚さや材料が異なる基板を用いた場合でも、LC共振回路40の共振条件を適正に調整して、安定したプラズマで、適正な成膜を、長時間に渡って安定して行なうことができる。
さらに、本発明によれば、成膜中における電極ローラ対18からの電力の反射率の増加を抑制することができ、その結果、成膜速度も安定させることができる。
【0057】
一例として、以下にLC共振回路の調節機構の働きを示す。
まず、直列LC共振回路の共振条件は、よく知られる式
【数1】


で表される。ここで、本発明において、Lは電源から見たインダクタンスであり、Cは電源から見たキャパシタンス、ωは角周波数である。すなわち、インダクタンスLを構成するのはLC共振回路中の可変コイル50と、パルス制御素子46に内蔵されているコイルである。一方、キャパシタンスCを構成するのは、LC共振回路中の可変コンデンサ48、放電空間のキャパシタンスCvや誘電体のキャパシタンスCdである。この共振条件を固定の発振周波数において満たすためには、インダクタンスLとキャパシタンスCの積が一定である必要がある。よって、キャパシタンスCを増加させたらインダクタンスLを減少させる行為によって、常に発振周波数を一定に保つ制御を行う。
また、図1に示す電極ローラ対18において、プラズマ+電極ローラ対18の等価回路で示される合成インピーダンスZは、
Z=Rp+Xj=(Rp//1/jωCv)+1/jωCd
で示される。
ここで、基板の厚さの変化、膜厚の変化等によってキャパシタンスCdが減少すると、電極対18と、誘電体(誘電体層や基板等)とによって形成されたインピーダンスR+Xjのうち、リアクタンスXが減少し(リアクタンスXは負であり、それが増長される)、|Z|は大きくなる。この際に、電極対に対して並列に配置されるコンデンサが固定の物である場合には、このZとLC共振回路中のコンデンサとの合成インピーダンスZ2中にて、抵抗分Rが小さく、また、リアクタンスも小さく(C性)なっているため、このままだと電源から見たインピーダンスが低レジスタンスで、かつ、C性の負荷となってしまい、最適な共振条件を満たすことができない。
これに対し、本発明においては、可変コンデンサ48のキャパシタンスを減少させることによって、抵抗分RをR0(R0は、電源42によって決定される規格抵抗)に戻すことができる。また、同時に、可変コイル50のインダクタンスを増加させることにより、リアクタンスをゼロに戻すことができ、理想的には、反射波をゼロにすることができる。
【0058】
図示例の成膜装置10においては、制御手段16が、電極ローラ対18の状態すなわちプラズマの状態を検出して、この検出結果に応じて、可変コンデンサ48および可変コイル50を調整する。つまり、負帰還のフィードバックをかけることにより、目標値(電圧と電流の位相差ゼロ)に自動的に近づける調整を行う。こうすることで、微小な相差のズレも検知して補正することができ、手動の調節よりも好ましい安定化機構を構築することができる。
この点に関しては、後に詳述する。
また、本発明の成膜装置10においては、可変コンデンサ48および可変コイル50の調整に加えて、必要に応じて、プラズマ励起周波数を調整することにより、さらにプラズマを安定化してもよい。
【0059】
本発明の成膜装置において、LC共振回路は、図示例のLC共振回路40に限定はされない。
一例として、図3(A)に示すように、LC共振回路40において、可変コイル50よりも電源42側に、電極ローラ対18と並列な可変コンデンサ52を設けたLC共振回路が例示される。
また、図3(B)に示すように、LC共振回路40において、可変コイル50よりも電極ローラ対18側に、電極ローラ対18と直列な可変コイル54を設けたLC共振回路も、利用可能である。
さらに、成膜装置10においては、LC共振回路40の温度調節手段を有してもよい。LC共振回路40の温度調節手段を有することにより、LC共振回路40を構成する可変コイル50等の温度を安定させて、キャパシタンスおよびインダクタンスの調整幅を小さくできる。なお、LC共振回路40の温度調節手段は、電気回路等における公知の手段が、全て、利用可能である。
【0060】
ここで、本発明においては、LC共振回路40のキャパシタンスおよびインダクタンスの両者が可変であることが、重要である。
LC共振回路40のキャパシタンスおよびインダクタンスの一方でも、固定である場合には、発振周波数が変化してしまい、プラズマ励起電源の周波数と一致せず、所望の共振条件が得られない。従って、プラズマ励起電源の周波数を一定に保ちながらLC共振回路の調整を行うには、キャパシタンスとインダクタンスとの両方を可変にして、調整する必要が有る。
【0061】
なお、本発明においては、プラズマの生成中は、常時、キャパシタンスとインダクタとの両方を調整してもよく、あるいは、キャパシタンスとインダクタの一方を先に調整して、先に調整した方は、基本的に、この状態を維持するようにしてもよい。
例えば、後述するように、インピーダンスおよび位相を検出して、抵抗が規定値となるようにキャパシタンスを調整し、かつ、リアクタンスをゼロに戻すようにインダクタンスを調整する方法のように、常時、キャパシタンスとインダクタとの両方を、適宜、調整することにより、適正なプラズマを維持するようにしてもよい。
【0062】
あるいは、先に、可変コンデンサ48のキャパシタンスを調整して固定値として、この状態を維持し、このキャパシタンスに対応するように、可変コイル50のインダクタンスを、適宜、調整することにより、適正なプラズマを維持するようにしてもよい。この場合、先に示したLC共振回路の共振条件を満たすように、インダクタンスLと角周波数ωとを変化させる。また、この際には、プラズマの生成中、可変コンデンサ48のキャパシタンスは、基本的に、最初の設定値を維持するが、電極間におけるインピーダンスの変動等に応じて、可変コンデンサ48のキャパシタンスを、再調整してもよい。
【0063】
また、先に、可変コイル50のインダクタンスを調整して固定値とし、この状態を維持し、このインダクタンスに対応するように、可変コンデンサ48のキャパシタンスを、適宜、調整することにより、適正なプラズマを維持するようにしてもよい。この場合、先に示したLC共振回路の共振条件を満たすように、キャパシタンスCと角周波数ωとを変化させる。また、この際には、プラズマの生成中、可変コイル50のインダクタンスは、基本的に、最初の設定値を維持するが、電極間におけるインピーダンスの変動等に応じて、可変コイル50のインダクタンスを、再調整してもよい。
【0064】
なお、何れの場合であっても、キャパシタンスおよび/またはインダクタンスが適正である状態では、余分な調整は不要である。
【0065】
図示例の成膜装置10の電源装置14は、好ましい態様として、電極ローラ対18に直列に接続されたパルス制御素子46を有する。
パルス制御素子46を有することにより、成膜中におけるストリーマの発生を抑制して、より、安定したプラズマでの成膜が可能となる。
【0066】
前述のように、誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDでは、電極間(すなわち放電部)において、不可避的に、ストリーマと呼ばれる微弱局所電流が発生してしまう。成膜中に、ストリーマが発生すると、プラズマが不均一になって成膜が不均一かつ不安定になるばかりか、電流の一極集中を招き易く、アーク放電に至る危険性も高い。
【0067】
パルス制御素子46は、このストリーマの発生を抑制するものである。
具体的には、パルス制御素子46は、電極両端にかかる電圧の時間的制御を行うことにより、ストリーマの発生を抑制するものである。より具体的には、パルス制御素子46は、前記電極ローラ対18にプラズマ励起電力を供給した際に、その半周期中に少なくとも1つの電圧パルスを生成し、これによって、電極間(第1電極ローラ18aと第2電極ローラ18bとの間)に変位電流パルスを生じさせることにより、ストリーマの発生を抑制するものである。
好ましくは、電源42の動作周波数と等しい共振周波数を有するパルス制御素子46を用いることにより、より好適にストリーマの発生を抑制できる。
【0068】
前述のように、LC共振回路40のキャパシタンスおよびインダクタンスを可変することで、処理プロセス中におけるプラズマ生成領域周辺の環境変化に起因するストリーマの増加を、好適に抑制できる。
これに加え、図示例においては、より安定したプラズマでの処理が可能な、好ましい態様として、電源装置14において、パルス制御素子46も用いている。これにより、ストリーマの発生を、さらに抑制して、処理プロセス中におけるプラズマ生成領域周辺の環境変化に起因する放電の防止すなわちプラズマの安定化、ストリーマ発生防止によるプラズマの安定化、ストリーマ抑制によるアーク放電の防止等の効果を、より好適に発揮することができる。
【0069】
また、本発明では、キャパシタンスおよびインダクタンスが可変なLC共振回路40を用いているので、これらが非可変な通常のLC共振回路を用いる場合に比して、パルス制御素子46の作用効果も、高くなる。
すなわち、前述のLC共振回路40の調整により、反射波を減少させ、一定に保つことによって、電流値も一定に保つことができるようになる。この結果、パルス制御素子46中のフェライトなどコア中の磁束が飽和する時刻と、誘電体バリア放電による間欠的な電流の立ち上がり時刻の同期も容易になる。このことによって、ストリーマ抑制に効果的な急峻な電流の立ち上がり、立ち下がりが、効果的に行える。
さらに、LC共振回路40の調整により、共振条件のズレに起因するパルス制御素子46中のフェライトの飽和条件の変化も防止できる。そのため、パルス制御素子46中の磁束の飽和によるインピーダンスの急変と、プラズマ点火による放電空間のインピーダンスの急変とを好適に同期させて、パルス制御素子46による変位電流の時間的制御を確実に行うことを可能にし、反射波の増大、グロー状放電からフィラメント放電への移行などを好適に防止できる。
【0070】
そのため、本発明の成膜装置においては、キャパシタンスおよびインダクタンスが可変なLC共振回路40に、さらにパルス制御素子46を用いることにより、アーク放電を防止して、ストリーマが目で観測されない均一なグロー放電を長時間に渡って続けることができ、より安定した適正なプラズマによって、長時間に渡って、高品質な膜の成膜(高品位なプラズマ処理)を行うことが、可能となる。
【0071】
パルス制御素子46としては、図4(A)に概念的に示すように、電極ローラ対18に直列に接続されるチョークコイル46aが好適に例示される。
特に、電源42が電極ローラ対18に印加したプラズマ励起電力によって放電を開始する際に、電流パルスの立ち上がりの時にチョークコイル内の磁束が非飽和から飽和に遷移し、電流パルスの絶対値が減少する際には、逆に、飽和から非飽和に遷移するように調節されたチョークコイルが、好適に例示される。
【0072】
チョークコイル46aは、非線形応答をするので、或る電流において、電極ローラ対18の電極間の電圧を急激に変化させる。これによって、電極間の変位電流を変化させて、ストリーマの発生を抑制することができる。
特に、電源42が電極ローラ対18に印加したプラズマ励起電力によって放電を開始する際に、電流パルスの立ち上がりの時にチョークコイル内の磁束が非飽和から飽和に遷移し、電流パルスの絶対値が減少する際には、逆に、飽和から非飽和に遷移するように調節されたチョークコイル46aを用いることにより、迅速にプラズマのカットオフを誘起して残存ストリーマを排除できる、等の点で、好ましい結果を得ることができる。
【0073】
本発明において、パルス制御素子46は、図示例のようなチョークコイル46aに限定はされず、上記作用を有する、各種のパルス制御素子(パルス制御回路)が利用可能である。
【0074】
一例として、図4(B)に示すように、電極ローラ対18と直列に接続されたチョークコイル46aに加え、このチョークコイル46aに並列に接続された(パルス)コンデンサ46bとからなるパルス制御素子46が、好適に、例示される。
また、図4(C)に示すように、電極ローラ対18と直列に接続されたチョークコイル46aに加え、このチョークコイル46aに直列で接続された(共振器)コンデンサ46cと、このチョークコイル46aおよびコンデンサ46cの直列回路に並列に接続された(パルス)コンデンサ46bとからなるパルス制御素子46も、好適に、例示される。
このようなパルス制御素子に関しては、特表2007−520878号および同2009−506496号の各公報に詳述されている。
【0075】
前述のように、LC共振回路40の可変コンデンサ48および可変コイル50(LC共振回路40のキャパシタンスおよびインダクタンス)は、制御手段16によって調整される。制御手段16は、RFセンサ56と、サーボアンプ・モータ58と、ゼロバランス回路60とを有して構成される。
【0076】
RFセンサ56は、電圧、電流を計測するもので、(電圧の振幅)÷(電流の振幅)をインピーダンスとして出力し、また、電圧と電流の位相差を計測して出力する。成膜装置10において、RFセンサ56は、公知のものを使用すればよい。
成膜装置10においては、RFセンサ56が、電極ローラ対18の電極間のインピーダンス、および、電源42から供給される電圧と電流との位相差とインピーダンスとを検出し、ゼロバランス回路60に供給する。
【0077】
ゼロバランス回路60は、RFセンサ56から供給された前記インピーダンスおよび位相差を用いて、一例として、前述のように、電極間のインピーダンスRp+Xjの抵抗分が規格抵抗R0となる可変コンデンサ48のキャパシタンスの調整方向を検出して調整量を算出し、また、リアクタンスをゼロに戻すことができる可変コイル50のインダクタンスの調整方向を検出して調整量を算出する。
さらに、ゼロバランス回路60は、算出したキャパシタンスおよびインダクタンスの調整方向および調整量に応じた制御信号を、サーボアンプ・モータ58に供給する。
【0078】
サーボアンプ・モータ58は、制御信号を増幅して、モータの駆動信号とし、この駆動信号に応じて、可変コンデンサ48の調整モータ、および、可変コイル50の調整モータを駆動して、LC共振回路40のキャパシタンスおよびインダクタンスを調整する。
【0079】
以下、成膜装置10の作用を説明する。
基板ロール32が供給軸28に装填されたら、基板Zを引き出し、電極ローラ対18に搬送されて第1電極ローラ18aに巻き掛かり、反転エリア26で折り返しおよび表裏反転され、再度、電極ローラ対18に搬送されて第2電極ローラ18bに巻き掛かり、巻取り軸30に至る所定の経路で挿通する。
【0080】
基板Zを所定経路で挿通したら、ガス供給手段20からの原料ガスの供給、および、ガス吸引手段24の駆動を開始し、次いで、基板Zの搬送を開始する。
ガス供給手段20からの原料ガスの供給、および、基板Zの搬送が安定したら、電源42を駆動して、電極ロール対18にプラズマ励起電力を供給し、基板Zへの成膜を開始する。なお、成膜開始当初は、可変コンデンサ48および可変コイル50は、共に、予め設定された規定のキャパシタンスおよびインダクタンスに設定されている。
【0081】
基板Zは、電極ローラ対18に搬送され、まず、第1電極ローラ18aに巻き掛けて搬送されつつ、誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDによって第1面に成膜され、次いで、反転エリア26において、搬送経路を折り返され、かつ、表裏反転される。
表裏反転された基板Zは、再度、電極ローラ対18に搬送されて、第2電極ローラ18bに巻き掛けて搬送されつつ、誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDによって第1面とは逆面の第2面に成膜され、巻取り軸30によってロール状に巻回される。
【0082】
この誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDでの成膜中、電極ローラ対18の第1電極ローラ18aと第2電極ローラ18bとの間のインピーダンス、および、電源42から供給される電圧と電流との位相差とインピーダンスとが、RFセンサ56によって検出され、ゼロバランス回路60に供給される。
ゼロバランス回路60は、供給されたインピーダンスおよび位相から、前述のように、電極間の合成インピーダンスにおける抵抗Rが規格抵抗R0となる可変コンデンサ48の調整方向を検出して調整量を算出し、また、リアクタンスをゼロに戻すことができる可変コイル50の調整方向を検出して調整量を算出し、その制御信号をサーボアンプ・モータ58に送る。サーボアンプ・モータ58は、送られた制御信号に応じて、調整用モータを駆動して、可変コンデンサ48のキャパシタンスおよび可変コイル50のインダクタンスを調整して、LC共振回路40の共振条件を、電極ローラ対18の状態すなわちプラズマの状態に応じたものとする。
また、成膜中は、パルス制御素子46が、電圧パルスを生成して、電極間(第1電極ローラ18aと第2電極ローラ18bとの間)に変位電流パルスを生じさせることにより、ストリーマの発生を抑制している。
【0083】
従って、成膜装置10によれば、安定し、かつ、ストリーマの生成を十分に抑制した適正なプラズマによって、適正な成膜を、安定して、かつ、長時間に渡って続けることができる。
【0084】
図1に示す成膜装置10は、電極ローラ対18を通過して、再度、電極ローラ対18に搬送される基板Zの搬送経路に、反転エリア26を設けることにより、基板Zの搬送経路を折り返し、また、基板の表裏反転を行なったが、本発明は、これに限定はされず、各種の構成によって、電極ローラ対18から、再度、電極ローラ対18に搬送される基板の搬送経路の折り返し、および、表裏反転を行なうことが可能である。
【0085】
図5に、その一例を示す。
なお、図5に示す成膜装置70は、基板Zの搬送経路が異なる以外は、前述の成膜装置10と同じ部材を用いているので、同じ部材に同じ符号を付し、以下の説明は、異なる部位を主に行なう。
【0086】
図5に示す成膜装置70において、成膜部72では、基板ロール32から引き出した基板Zを、ガイドローラ34h〜34jによって電極ローラ対18に送る。電極ローラ対18に搬送された基板Zは、先と同様、第1電極ローラ18aに巻き掛けられて搬送され、第1面に成膜される。
第1電極ローラ18aに巻き掛けられて、第1面に成膜された基板Zは、ガイドローラ34k〜34oに案内されて、第1電極ローラ18aの上方(第2電極ローラ18bと逆方向)に搬送するようにして折り返し、再度、基板Zの電極ローラ対18に向けて折り返す搬送経路で搬送されて表裏反転され、ガイドローラ34pによって、再度、電極ローラ対18に搬送され、第2電極ローラ18bに巻き掛け、第2面に成膜を行なわれる。両面に成膜された基板Zは、先と同様、巻取り軸30によってロール状に巻回される。
【0087】
すなわち、成膜のために巻き掛けられた第1電極ローラ18aを内包するような搬送経路で、基板Zを2回折り返して、再度、電極ローラ対18に供給することにより、基板Zの搬送経路を電極ローラ対18に向けて折り返すと共に、基板Zを表裏反転して、第2電極ローラ18bに搬送する。
従って、前述の成膜装置10においては、往路と復路で電極ローラ対18における基板Zの搬送方向が逆方向となるが、この成膜装置70では、電極ローラ対18における基板Zの搬送方向は、第1電極ローラ18aと第2電極ローラ18bとで、同方向となる。
【0088】
図1および図5に示す成膜装置は、共に、電極ローラ対18に搬送して成膜した基板Zを、表裏反転して、再度、電極ローラ対18に搬送するものであるが、本発明は、これに限定はされず、電極ローラ対を用い、誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDで成膜を行なう各種の装置に、利用可能である。
例えば、特許文献2に示されるような、基板の表裏反転をせず、電極ローラ対18で成膜を行なった基板Zの折り返しのみを行なって、再度、電極ローラ対18に搬送することにより、基板Zの同一面に2層の成膜を行なう装置であってもよい。
また、特許文献1に示されるような、基板ロールと巻取り軸との組み合わせを2つ有し、2枚の基板に、同時に成膜を行なう装置であってもよい。この際において、基板の種類(材料等)や厚さが異なっても、本発明によれば、長期に渡って安定して適正な成膜を行なうことができるのは、前述のとおりである。
【0089】
しかしながら、前述のように、電極ローラに巻き掛かる基板Zのキャパシタンスが異なっても、長期に渡って適正な成膜が可能である等、本発明の効果が、より好適に発現できる等の点で、特許文献2に示されるような、基板Zを、表裏反転することなく折り返して、同一面に2回の成膜を行なう成膜装置や、図1や図5に示すような、電極ローラ対18で成膜した基板Zを、折り返し、かつ、表裏反転して、再度、電極ローラ対18に搬送して、両面に成膜を行なう成膜装置は、より好適に利用される。
【0090】
また、本発明は、成膜装置ではあるが、誘電体バリア放電による大気圧プラズマCVDを利用して、表面改質、粗面化処理、平滑化処理、活性化処理等の、基板Zの表面処理装置や、プラズマ表面反応装置としても利用可能であるのは、もちろんである。
【0091】
以上、本発明の成膜装置について詳細に説明したが、本発明は、上記実施例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0092】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
【0093】
[実施例1]
図1に示す成膜装置10を用いて、基板Zの両面に酸化ケイ素膜を成膜した。
基板Zは、厚さ100μmのポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いた。
可変コンデンサ48のキャパシタンスは、800pFを標準にした。また、可変コイル50のインダクタンスは、1mHを標準にした。さらに、パルス制御素子46として、インダクタンスが0.5mHのチョークコイルを用いた。
基板Zを挿通した状態における電極間のキャパシタンスは、120pFであった。
また、電極ローラ対18の第1電極ローラ18aおよび電極ローラ対18bは、内蔵する温度調節手段によって、温度を60℃±2℃に調整した。また、LC共振回路40も、空冷装置によって、温度を30℃±1℃に調整した。
【0094】
原料ガスとして、窒素ガス(流量10L/min)、酸素ガス(流量0.3L/min)、およびTEOS(テトラエトキシシラン)ガスを用いた。なお、TEOSは、2g/hrの速度で気化させてガス供給手段20に送り、窒素ガス等と共に原料ガスとして供給した。
電源42から供給するプラズマ励起電力は、4kV、800Wの、450kHzの単一正弦波のものとした。
【0095】
以上の条件の下、基板Zを0.3m/minの速度で搬送して、基板Zの両面に厚さ100nmの酸化ケイ素膜を成膜した。
なお、本例においては、まず最初に、基板Zの搬送を開始し、次いで、電源42からのプラズマ励起電力の供給を開始し、電極間の放電が安定した時点で原料ガスの供給を開始して、基板Zへの成膜を開始した。
【0096】
[実施例2]
反転エリア26での基板Zの表裏反転を行わない以外は(すなわち、基板Zの折り返しのみを行った以外は)、実施例1と同様にして、基板Zに酸化ケイ素膜を成膜した。
すなわち、本例では、基板Zの1面に、往路および復路での2回の成膜を行った。
【0097】
[実施例3]
反転エリア26での基板Zの折り返し搬送を行わない以外は、実施例1と同様にして、基板Zに酸化ケイ素膜を成膜した。
すなわち、本例では、基板Zの搬送を往路の1方向のみとして、基板Zの1面のみに、1回の成膜を行った。
【0098】
[実施例4]
電源装置14がパルス制御素子46を有さない以外は、実施例1と同様にして、基板Zの両面に酸化ケイ素膜を成膜した。
【0099】
[実施例5]
LC共振回路として、図3(A)に示されるものを用いた以外は、実施例1と同様にして、基板Zの両面に酸化ケイ素膜を成膜した。
なお、追加した可変コンデンサ52のキャパシタンスは、800pFを標準にした。
【0100】
[比較例1]
可変コンデンサ48を800pFの固定キャパシタンスのコンデンサに変更した以外は、実施例1と同様に、基板Zの両面に酸化ケイ素膜を成膜した。
【0101】
[比較例2]
可変コイル50を1mHの固定インダクタンスのコイルに変更した以外は、実施例1と同様にして、基板Zの両面に酸化ケイ素膜を成膜した。
【0102】
[比較例3]
可変コンデンサ48を800pFの固定キャパシタンスのコンデンサに、可変コイルを50を1mHの固定インダクタンスのコイルに、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、基板Zの両面に酸化ケイ素膜を成膜した。
【0103】
[評価]
以下の項目を評価することにより、各実施例および各比較例での成膜を評価した。
ここで、本発明の実施例は、全て、キャパシタンスおよびインダクタンスの調節幅に大きな違いは無く、2〜5pF/minおよび8〜20uH/minであった。
なお、電極ローラ対18およびLC共振回路40の温度調節を行わない場合には、両者の調節幅は大きく、5〜20pF/minおよび20〜60uH/min程度になると考えられる。しかしながら、キャパシタンスおよびインダクタンスの調節幅が大きくなることにより、可変コンデンサ48および可変コイル50、ならびに、制御手段16の負担は大きくなるものの、本発明によれば、電極ローラ対18およびLC共振回路40の温度調節を行わなくても、実施例1〜5等と、ほぼ同様の結果を得ることができる。
【0104】
[反射率変化度]
成膜中に、電源42から出力して電極ローラ対18(成膜部)に向かう入射波の電力と、電極ローラ対18から戻ってくる反射波の電力との比を取って反射率r(0<r<1)を定義した。この反射率rを、前記成膜開始直後から100分経過までの、合計100分間、発振回路付属の計器によってモニターし、それを下記式
【数2】


によって時間積分して、時間平均を取ったものをF(反射率変化度積分平均値)とした。T=100分とした。また、Rは、モニタ開始時間の反射率である。
【0105】
[ストリーマ発生数および表面粗さ]
コンデンサとコイルとの並列回路のみからなる簡単な電磁波検出用共振回路を作成し、共振周波数を5MHzとした。
図7に概念的に示すように、この電磁波検出用共振回路のコイル(L)に通る磁束の向きが、図中方向zで示すように電極間ギャップに発生する線状プラズマの電流が流れる向きと一致するように(すなわち、ガス供給手段20およびガス吸引手段24によるガス流方向xと直交するように)、コイルを配置した。コイルとプラズマ発生部との距離は1mであった。
なお、成膜は、電源42を駆動して放電が安定した後、気化させた液体材料をガス供給手段20に注入することで開始したが、気化させた液体材料の注入開始直後からの100分間、前記電磁波検出用共振回路に発生する電圧を、モニタした。
その電圧ピーク値が0.5Vを超えたものを、極大ストリーマが発生したとして、カウントした。
また、前記100分間成膜した直後の酸化ケイ素膜の表面粗さRa(算術平均表面粗さRa[nm])を測定した。なお、表面粗さRaは、JIS 0601−1976の表面粗さ評価方法に基づいて、セイコーインスツル社製の『Nano-Navi JS-1683』を用いて測定した。
【0106】
[密度]
前記成膜開始直後から100分間成膜した直後の酸化ケイ素膜の密度[g/cm3]を理学電気社製の『ATX-G』を用いて、X線反射率測定法(GIXR)によって測定した。
【0107】
[総合評価]
反射率変化度が0.005未満を3点; 同0.005以上0.01未満を2点; 同0.01以上0.05未満を1点; 同0.05以上を3点; とし、
ストリーマ発生数が300回未満を3点; 同300回以上1000回未満を2点; 同1000回以上3000回未満を1点; 同3000回以上を0点; とし、
表面粗さ0.5nm未満を3点; 同0.5nm以上2nm未満を2点; 同2nm以上5nm未満を1点; 同5nm以上を0点; とし、
密度が2.1g/cm3以上を3点; 同2.0g/cm3以上2.1g/cm3未満を2点; 1.9g/cm3以上2.0g/cm3未満を1点; 1.9g/cm3未満を0点; として、
合計点が9点以上を◎; 7点以上9点未満を○; 5点以上7点未満を△; 5点未満を×; と評価した。
以上の結果を、表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
上記表1に示されるように、インダクタンスとキャパシタンスとが可変なLC共振回路を用いる本発明によれば、通常の成膜方法に比して、反射率の増大を大幅に抑制できることが確認された。反射率の増大を抑制することにより、成膜速度を安定させることができるのは、前述のとおりである。
また、安定した放電によって成膜を行うことができる本発明によれば、高密度で高品質な膜を、安定して成膜することができる。
【0110】
また、パルス制御素子46を有することにより、ストリーマの発生を抑制できるのは、前述のとおりである。
LC共振回路のキャパシタンスおよびインダクタンスを固定した状態で、パルス制御素子46のみを有する電源装置でも、短時間の成膜であれば、パルス制御素子46の効果によって、ストリーマの発生を抑制して、安定化の効果を得ることができる。しかしながら、この構成では、100分などの長時間、連続的に成膜を行うと、前述のようなCd1やCd2などが刻々と変化していくので、コンデンサ48とコイル50とが実現していた共振状態が変化し、反射波の増大を招く。反射波の増大は、電流の減少を招き、パルス制御素子46を構成するチョークコイル等が飽和するタイミングが、一周期の中で変化してしまう結果となる。これにより、急峻な電流の立ち上がり、立ち下がりを生み出せなくなり、ストリーマの発生数が増加する結果となる。
【0111】
さらに、上述のような原因でLC共振回路の共振条件がズレてしまうと、このパルス制御素子46中のフェライトの飽和条件が変化する。そのため、放電開始時(プラズマ点火時)に合わせて磁束が飽和するように調節されていたパルス制御素子46の適正な働きが、連続処理による共振条件のズレによって阻害される。
パルス制御素子46中の磁束の飽和によるインピーダンスの急変と、プラズマ点火による放電空間のインピーダンスの急変とが同期しないと、パルス制御素子46の主要な働きである変位電流の時間的制御が困難になり、その結果、反射波の増大、グロー状放電からフィラメント放電への移行などの悪影響を生じてしまう。
【0112】
これに対し、LC共振回路のキャパシタンスおよびインダクタンスを可変にした本発明の成膜装置によれば、Cd1やCd2などの変化にも対応して、長時間に渡って適正なプラズマ励起電力を供給できるので、パルス制御素子46を有する効果を最大限に発揮して、長時間に渡って、ストリーマの発生を好適に抑制することができる。
また、成膜中におけるストリーマの発生は、基板表面や成膜した膜を荒らしてしまい、膜の表面平滑性を低下させてしまうが、ストリーマの発生を好適に抑制できる本発明によれば、上記実施例および比較例のRaにも示されるように、表面平滑性に優れた膜を、安定して成膜することができる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、高品質なガスバリアフィルム、各種の光学フィルム、磁気記録媒体用ベース、太陽電池用フィルム、電磁波遮蔽フィルム、導電性フィルム、帯電防止フィルム、各種の光学部品等の製造に、好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0114】
10,70 成膜装置
12,72 成膜部
14 電源装置
16 制御手段
18 電極ローラ対
18a 第1電極ローラ
18b 第2電極ローラ
20 ガス供給手段
24 ガス吸引手段
26 反転エリア
28 供給軸
30 巻取り軸
32 基板ロール
34a〜34p ガイドローラ
40 LC共振回路
42 電源
46 パルス制御素子
48,52 可変コンデンサ
50,54 可変コイル
56 RFセンサ
58 サーボアンプ・モータ
60 ゼロバランス回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧プラズマによって基板に成膜を行なう成膜装置であって、
前記大気圧プラズマを生成するための電極対として作用する、所定の間隔を有して配置される2つ円筒状のローラからなり、少なくとも一方のローラに前記基板を巻き掛けて搬送する電極ローラ対と、
前記電極ローラ対の間に、原料ガスを供給するガス供給手段と、
前記電極ローラ対にプラズマ励起電力を供給する、インダクタンスおよびキャパシタンスが可変であるLC共振回路が組み込まれた電源装置と、
電極ローラ対間のプラズマの状態に応じて、前記LC共振回路のインダクタンスおよびキャパシタンスを調整する制御手段とを有することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記電極ローラ対の両方のローラに、前記基板を巻き掛けて搬送する基板搬送手段を有する請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記基板搬送手段は、前記電極ローラ対の一方のローラに巻き掛けて搬送した基板を折り返して、前記電極ローラ対の他方のローラに巻き掛けて搬送する搬送経路で、前記基板を搬送する請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記基板搬送手段は、前記基板の折り返しの際に、前記基板を表裏反転する請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記LC共振回路が、前記電極ローラ対と並列に接続される可変コンデンサと、この可変コンデンサと直列に接続される可変コイルとを有する請求項1〜4のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項6】
前記電源装置が、前記電極ローラ対に直列に接続されるパルス制御素子を有する請求項1〜5のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項7】
前記パルス制御素子は、前記電極ローラ対間にプラズマ励起電力を供給した際に、その半周期中に少なくとも1つの電圧パルスを生成し、これによって、前記電極ローラ対の間に変位電流パルスを生じさせるものである請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記パルス制御素子は、前記電源装置の動作周波数と等しい共振周波数を有する素子を含む請求項6または7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記パルス制御素子が、前記電極ローラ対と直列に接続されるチョークコイルを有する請求項6〜8のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項10】
前記電源装置の電源が、20kHz〜3MHzで単一周波数の正弦波の電力を前記電極ローラ対に供給する請求項1〜9のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項11】
20〜110kPaの圧力範囲で成膜を行なう請求項1〜10のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項12】
前記折り返しの際の基板の反転は、基板の搬送方向に対して45°の角度で配置される4本のローラによって行なう請求項4〜11のいずれかに記載の成膜装置。
【請求項13】
前記折り返しの際の基板の反転は、前記電極ローラ対の一方のローラに巻き掛けられた基板と共に、このローラを内包するように前記基板の搬送経路を折り返し、再度、基板の搬送経路を折り返して、前記一方のローラに搬入された基板と同方向に進行して、前記電極ローラ対の他方のローラに巻き掛けることによって行なう請求項4〜11のいずれかに記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−102377(P2012−102377A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252829(P2010−252829)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】