説明

手動変速機付車両の坂道発進補助制御装置

【課題】シフトポジションセンサを用いることなく坂道でエンストした手動変速機付車両のずり下がりを抑制して運転者によるブレーキ操作や再始動操作を容易化することができる手動変速機付車両の坂道発進補助制御装置を提供すること。
【解決手段】坂道で停車した手動変速機付車両(MT車)のずり下がりが検知されると加圧ポンプを駆動してブレーキ液圧を車輪4L,4R,5L,5Rのブレーキ装置16に供給する坂道発進補助制御装置(ECU)13において、所定の勾配以上の坂道でMT車のブレーキペダル8の踏み込みによる停車が検知された後、ブレーキペダル8の踏み込みが解除され、アクセルペダル9の踏み込みが検知されて車速が所定値以上となった時点でエンジン回転数が所定値以下であるときには、加圧ポンプを駆動してブレーキ液圧をブレーキ装置16に供給してブレーキ力を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坂道で停車した手動変速機付車両のずり下がりを抑制して坂道での車両の発進を補助するための坂道発進補助制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上り坂で停車した車両のずり下がりを抑制してその発進操作を容易化するため、ブレーキ力を所定時間保持し、運転者が足をブレーキペダルからアクセルペダルへと踏み替える間の車両のずり下がりを防いで発進操作を容易に行うことができるようにしたヒルホールド制御装置が設けられている。
【0003】
自動変速機付車両(AT車)では、セレクトレバーのシフトポジションによって運転者の進行希望方向が容易に把握されるため、意図しない方向の車両の動きであるずり下がりを容易に判断することができ、ヒルホールド制御を適正に実行することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
又、車両のブレーキ装置には、運転者によるブレーキ操作とは無関係にブレーキ液圧を発生させる加圧ポンプを備え、車両の旋回時等においてオーバーステアが発生すると旋回外側の駆動輪にアクティブブレーキを掛けることによって旋回時の車体の姿勢変化を抑制する制御システムが装備され始めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−283980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、手動変速機付車両(MT車)においては、坂道の勾配を利用して車両を移動させることは良く行われている。例えば、前進段にシフトされた車両であっても、クラッチペダルを踏み込んだ状態(クラッチOFF状態)でブレーキを緩めることによって車両を坂道に沿って後方に移動させることが行われる。このような場合、シフトポジションを利用したヒルホールド制御は操作の邪魔になる。
【0007】
又、シフトポジションを検出するシフトポジションセンサを用いるとコストアップを招く。更に、ブレーキ力を解除するタイミングが難しく、発進のスムーズさに欠けて運転者に違和感を与えるという問題もある。
【0008】
更に、手動変速機付車両(MT車)特有のクラッチ操作ミスによるエンスト(エンジンストール)の発生がある。車両のブレーキ装置は、エンジンの吸気管負圧を利用して踏力を倍力するブレーキブースタを備えている関係上、エンストによってエンジンが停止するとブレーキブースタが機能しなくなってしまう。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、シフトポジションセンサを用いることなく坂道でエンストした手動変速機付車両のずり下がりを抑制して運転者によるブレーキ操作やエンジンの再始動操作を容易化することができる手動変速機付車両の坂道発進補助制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、運転者によるブレーキ操作とは無関係にブレーキ液圧を発生させる加圧ポンプを備え、坂道で停車した手動変速機付車両のずり下がりが検知されると前記加圧ポンプを駆動してブレーキ液圧を車輪のブレーキ装置に供給し、車輪に制動を加えて手動変速機付車両の坂道発進を補助する制御装置であって、所定の勾配以上の坂道で手動変速機付車両のブレーキペダルの踏み込みによる停車が検知された後、前記ブレーキペダルの踏み込みが解除され、アクセルペダルの踏み込みが検知されて車速が所定値以上となった時点でエンジン回転数が所定値以下であるときには、前記加圧ポンプを駆動してブレーキ液圧を車輪のブレーキ装置に供給して車輪に制動を加えることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記加圧ポンプの駆動を車速が所定値以下となった時点で終了させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、運転者によるアクセルペダルの踏み込みが感知されて発進の意思が確認され、車両の車速が所定値以上となっているにも拘わらずエンジン回転数が所定値以下のときには運転者が発進操作をミスしたものと判断して加圧ポンプを駆動して自動的にブレーキを作動させることによって車両のずり下がりを抑制するようにしたため、ポジションセンサを用いることなく運転者がブレーキ操作やエンジンの再始動操作をコストアップを伴うことなく容易に行うことができる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、加圧ポンプが駆動されてブレーキが自動的に作動して車両のずり下がりが抑制されたために車速が所定値以下となった時点で加圧ポンプの駆動を終了させるようにしたため、坂道での運転者によるブレーキ操作やエンジンの再始動操作がスムーズ且つ容易になされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る坂道発進補助制御装置を備える手動変速機付車両のブレーキ系の構成図である。
【図2】液圧制御ユニットのブレーキ操作時の状態を示す回路図である。
【図3】液圧制御ユニットの坂道発進補助制御時の状態を示す回路図である。
【図4】上り坂で停車している手動変速機付車両の側面図である。
【図5】本発明に係る坂道発進補助制御装置による手動変速機付車両の坂道発進補助制御のタイミングチャートである。
【図6】本発明に係る坂道発進補助制御装置による手動変速機付車両の坂道発進補助制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は本発明に係る坂道発進補助制御装置を備える手動変速機付車両のブレーキ系の構成図であり、本実施の形態に係る手動変速機付車両(以下、「MT車}と称する)は駆動源としてエンジン1を搭載しており、エンジン1の回転は、クラッチ2を介して手動変速機3に伝達され、手動変速機3によって変速されて駆動輪である左右の後輪5L,5Rに伝達される。ここで、手動変速機3のシフトレンジの切り替えは運転席近くに設けられたシフトレバー6によってなされる。又、クラッチ2のON/OFF(断接)は、運転席近くに設けられたクラッチペダル7によってなされ、該クラッチペダル7を運転者が足で踏み込むことによってクラッチ2がOFF(クラッチ断)され、クラッチペダル7から足を離すとクラッチ2がON(クラッチ接)されてエンジン1の回転が手動変速機3へと伝達される。
【0017】
又、運転席近くの前記クラッチペダル7の横にはブレーキペダル8が配され、更にその横にはアクセルペダル9が配されている。ここで、クラッチパダル7、ブレーキペダル8及びアクセルペダル9の近傍にはクラッチスイッチ10、ブレーキスイッチ11及びアクセル開度センサ12がそれぞれ設けられており、これらのクラッチスイッチ10、ブレーキスイッチ11及びアクセル開度センサ12は電子コントロールユニット(以下、「ECU」と称する)13に入力される。
【0018】
前記ブレーキペダル8は、ブレーキ操作時の運転者の踏力を軽減するためのブレーキブースタ14を介してマスタシリンダ15に連結されており、マスタシリンダ15は、運転者によるブレーキペダル8の踏込量に応じたブレーキ液圧を発生する。
【0019】
ところで、本実施の形態に係るMT車は後輪駆動車(FR車)であって、左右の前輪4L,4Rが従動輪、左右の後輪5L,5Rが駆動輪であって、左右の前輪4L,4Rと後輪5L,5Rにはブレーキ装置16がそれぞれ設けられており、各ブレーキ装置16は、ディスクロータ16aと該ディスクロータ16aの両面を挟持可能なキャリパ16bによって構成されている。そして、それぞれのブレーキ装置16の各キャリパ16bはブレーキ配管17,18,19,20、液圧制御ユニット21及び該液圧制御ユニット21から延びるブレーキ配管22,23を介して前記マスタシリンダ15に接続されている。
【0020】
上記液圧制御ユニット21は、運転者によるブレーキペダル8の踏み込みによるブレーキ操作とは無関係にブレーキ液圧を発生させるものであって、これには後述の各種バルブv1〜v12やブレーキ液圧を発生させる加圧ポンプ24,25(図2参照)が設けられており、各種バルブv1〜v12及び加圧ポンプ24,25を駆動するポンプモータ26は前記ECU13によって制御される。尚、液圧制御ユニット21の構成の詳細は後述する。
【0021】
上記ECU13は、本発明に係る坂道発進補助制御装置を構成するものであって、このECU13には、前輪4L,4Rと後輪5L,5Rにそれぞれ設けられた車輪速センサ27、車体に作用する加速度を検出するGセンサ28、マスタシリンダ15の圧力を検出する圧力センサ29等が電気的に接続されている。
【0022】
次に、前記液圧制御ユニット21の構成の詳細を図2に基づいて説明する。
【0023】
図2は液圧制御ユニット21の回路図であり、図示の液圧制御ユニット21は、前記ポンプモータ26によって駆動される2つの前記加圧ポンプ24,25を備えており、一方の加圧ポンプ24の吸入側にはリザーバ30から延びる液圧ライン31が接続され、前記マスタシリンダ15から延びる一方のブレーキ配管22は加圧ポンプ24の吐出側に接続されている。そして、液圧ライン31にはチェックバルブ32が設けられており、ブレーキ配管22にはチェックバルブ33と第1カットバルブv1が設けられている。又、ブレーキ配管22に第1カットバルブv1をバイパスして接続されたバイパスライン34にはリターンチェックバルブ35が設けられている。
【0024】
そして、ブレーキ配管22から分岐する液圧ライン36には前記圧力センサ29が接続されており、液圧ライン36から分岐する液圧ライン37は液圧ライン36のチェックバルブ32とリザーバ30の間に接続されており、この液圧ライン37には第1蓄圧バルブv2が設けられている。
【0025】
更に、ブレーキ配管22の第1カットバルブv1とチェックバルブ33の間から分岐して前記リザーバ30に接続された液圧ライン38にはFL保持バルブv3とFL減圧バルブv4が直列に設けられており、液圧ライン38に並列に接続された液圧ライン39にはRR保持バルブv5とRR減圧バルブv6が直列に設けられている。そして、液圧ライン38のFL保持バルブv3とFL減圧バルブv4の間からは前記ブレーキ配管17(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管17は左前輪(FL)4Lのブレーキ装置16のキャリパ116bに接続されている(図1参照)。又、液圧ライン39のRR保持バルブv5とRR減圧バルブv6の間からは前記ブレーキ配管20(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管20は右後輪(RR)5Rのブレーキ装置16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。
【0026】
他方、他方の加圧ポンプ25の吸入側にはリザーバ40から延びる液圧ライン41が接続され、前記マスタシリンダ15から延びる他方のブレーキ配管23はポンプ25の吐出側に接続されている。そして、液圧ライン41にはチェックバルブ42が設けられており、ブレーキ配管23にはチェックバルブ43と第2カットバルブv7が設けられている。又、ブレーキ配管23に第2カットバルブv7をバイパスして接続されたバイパスライン44にはリターンチェックバルブ45が設けられている。
【0027】
そして、ブレーキ配管23から分岐する液圧ライン46は前記液圧ライン41のチェックバルブ42とリザーバ40の間に接続されており、該液圧ライン46には第2蓄圧バルブv8が設けられている。
【0028】
更に、ブレーキ配管23の第2カットバルブv7とチェックバルブ38の間から分岐して前記リザーバ40に接続された液圧ライン47にはFR保持バルブv9とFR減圧バルブv10が直列に設けられており、液圧ライン47に並列に接続された液圧ライン48にはRL保持バルブv11とRL減圧バルブv12が直列に設けられている。そして、液圧ライン47のFR保持バルブv9とFR減圧バルブv10の間からは前記ブレーキ配管18(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管18は右前輪(FR)4Rのブレーキ装置16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。又、液圧ライン48のRL保持バルブv11とRL減圧バルブv12の間からは前記ブレーキ配管19(図1参照)が分岐しており、このブレーキ配管19は左後輪(RL)5Lのブレーキ装置16のキャリパ16bに接続されている(図1参照)。
【0029】
而して、以上のような回路構成を備えた液圧制御ユニット21はECU13によって制御されるが、以下、その制御の一例としてMT車50が図5に示すように上り坂で停車した場合の坂道発進補助制御について図2〜図7を参照しながら以下に説明する。
【0030】
図2は液圧制御ユニットのブレーキ操作時の状態を示す回路図、図3は同液圧制御ユニットの坂道発進補助制御時の状態を示す回路図、図4は上り坂で停車している手動変速機付車両の側面図、図5は本発明に係る坂道発進補助制御装置による手動変速機付車両の坂道発進補助制御のタイミングチャート、図6は同手動変速機付車両の坂道発進補助制御手順を示すフローチャートである。
【0031】
MT車50が図4に示すように所定勾配以上の上り坂で停車しているとき(図6のステップS1)、運転者によってブレーキペダル8が踏み込まれているときには、圧力センサ29によって検出されるマスタシリンダ15のブレーキ液圧は図5に示すように2MPaを示しており、ブレーキスイッチ11はON状態にある。尚、当然ながら、この停車状態は、クラッチペダル7が運転者によって踏み込まれてクラッチ2がOFF(クラッチ断)され、エンジン1が回転している状態である。
【0032】
上述のようにブレーキペダル8が踏み込まれている場合には、図2に示すように液圧制御ユニット21のバルブv1,v3,v5,v7,v9及びv11が開けられ、他のバルブv2,v4,v4,v6,v8,v10及びv12が閉じられる。この状態においては、マスタシリンダ15において発生したブレーキ液圧は、図2に太線にて示す経路、つまり、ブレーキ配管22,23からバルブv1,v7、液圧ライン38,47,39,48、バルブv3,v5,v9,v11及びブレーキ配管19,20,18,19を経て左前輪(FL)4L、右後輪(RR)5R、右前輪(FR)4R及び左後輪(RL)5Lの各ブレーキ装置16のキャリパ16bに供給されて各ブレーキ装置16が作動状態にある。
【0033】
そして、図5に示す時間t1において運転者がブレーキペダル8の踏み込みを緩め始め、それに伴って圧力センサ29によって検出されるブレーキ液圧は低下し始める。時間t2において運転者がブレーキペダル8から足を離すと、ブレーキ装置16によるブレーキ力が開放され、圧力センサ29によって検出されるブレーキ液圧は0となるとともに、ブレーキスイッチ11はOFF状態となる。このままの状態では、図4に示すMT車50は坂道を下る方向に動き出すこと(ずり下がり)になる。Gセンサ28は、上り坂で停車していること、及び、時間t2においてMT車50が動き出している変化を検知している。尚、図5に示すように、Gセンサ28は、上り坂で停車していること、及び、時間t2においてMT車50が動き出している変化を検知している。
【0034】
その後、図5に示す時間t3において運転者がクラッチペダル7から足を離したためにクラッチ2がOFF状態からON状態となってエンジン1と手動変速機3とが接続されるとともに、アクセルペダル9が踏み込まれて発進操作がなされる。そして、このようにクラッチ2をON状態としてアクセルペダル9を踏み込んでもエンジン回転数が低い回転数(アイドリング回転数よりも十分低い回転数)である場合には、時間t4においてエンストが発生したものと判断される(図6のステップS2)。これと同時に、運転者はエンストを察知し、クラッチペダル7を踏み込んでクラッチ2をOFF(クラッチ断)する。このとき、運転者によるブレーキペダル8の踏み込み操作が遅れると、MT車50に坂道に沿ったずり下がりが発生する。
【0035】
次に、本実施の形態における坂道発進補助制御の手順を図6に示すフローチャートに従って説明する。
【0036】
前述のように、エンストが発生すると(ステップS2)、Gセンサ28によって検出されるMT車50の加速度の変化が設定値以上であるか否かが判定され(ステップS3)、MT車50の動き出しが検出される。ステップS3の判定結果がYesである場合、アクセル開度センサ12によって検出されるアクセル開度が設定値以上であるか否か、MT車50のずり下がり速度が設定値以上であるか否かが判定され(ステップS4)、運転者の発進操作を検出する。
【0037】
ステップS4の判定結果がYesである場合、MT車50の速度(ずり下がり速度)が設定値以上であるか否かが判定され(ステップS5)、運転者の対応(ブレーキ操作)の遅れが発生しているか否か、又は、ブレーキ力不足を検出する。ステップS5の判定結果がYesである場合、エンジン回転数がアイドリング回転数以下であるか否かが判定され(ステップS6)、エンスト状態であるか再確認が行われる。
【0038】
ステップS6の判定結果がYesである場合、クラッチ2がOFF状態(クラッチ断状態)にあるか否かが判定される(ステップS7)。これらのステップS3〜S7が順次実行され、それらの判定結果が全てYesである場合、つまり、所定の勾配以上の坂道でMT車50のブレーキペダル8の踏み込みによる停車が検知された後、ブレーキペダル8の踏み込みが解除され、アクセルペダル9の踏み込みが検知されて車速が所定値以上となった時点でエンジン回転数が所定値以下であるときには、坂道発進補助制御がなされ(ステップS8)、この坂道発進補助制御はMT車50の車速が所定値以下となるまで継続され(ステップS9)、車速が所定値以下となった時点で坂道発進補助制御(加圧ポンプ24,25の駆動)が終了する(ステップS10)。尚、ステップS3〜S7での判定結果の少なくとも1つがNoである場合には坂道発進補助制御は実行されない(ステップS10)。
【0039】
坂道発進制御においては、図3に示すように、バルブv1,v7,v4,v6,v10,v12が閉じられ、他のバルブv2,v3,v5,v8,v9,v11が開かれ、図6に示す時間t5において図3に示すポンプモータ26によって加圧ポンプ24,25が駆動される。すると、加圧ポンプ24,25の駆動によって発生するブレーキ液圧は、図3に太線にて示す経路、つまり、液圧ライン38,47、バルブv3,v5,v9,v11及びブレーキ配管17,20,18,19を経て左前輪(FL)4L、右後輪(RR)5R、右前輪(FR)4R及び左後輪(RL)5Lの各ブレーキ装置16のキャリパ16bに供給されて各ブレーキ装置16が駆動され、各ブレーキ装置16に発生するブレーキ力によってMT車50のずり下がりが抑制され、車速が図5に示すように次第に低下する。
【0040】
そして、図5に示す例では車速が0となる時間t6において加圧ポンプ24,25の駆動が終了され、それ以降はブレーキペダル8を踏み込む通常のブレーキ操作が可能となると共に、エンジン1の再始動を行うことができる。
【0041】
以上のように、本実施の形態においては、運転者によるアクセルペダル9の踏み込みが感知されて発進の意思か確認され、MT車50の車速が所定値以上となっているにも拘わらずエンジン回転数が所定値以下のときには運転者が発進操作をミスしたものと判断して加圧ポンプ24,25を駆動して自動的にブレーキを作動させることによってMT車50のずり下がりを抑制するようにしたため、エンストした場合で運転者の対応(ブレーキ操作)の遅れが発生したときに、ずり下がりを抑制することや安全に停止させることができ、運転者の操作時間に余裕を持たせることができる。更に、ポジションセンサを用いることなく運転者がブレーキ操作やエンジン1の再始動操作をコストアップを伴うことなく容易に行うことができる。
【0042】
又、本実施の形態では、加圧ポンプ24,25が駆動されてブレーキが自動的に作動してAT車50のずり下がりが抑制されたために車速が所定値以下となった時点で加圧ポンプ24,25の駆動を終了させてブレーキ力を開放するようにしたため、坂道での運転者によるブレーキ操作やエンジン1の再始動操作がスムーズ且つ容易になされる。尚、本実施の形態では、車速0(停車)にて自動的なブレーキのブレーキ力を開放するようにしたが、ブレーキ力を開放する車速の所定値は、0でなくても良く、又、運転者によるブレーキ操作や、圧力センサ29によって検出されるマスタシリンダ15のブレーキ液圧の値を用いて、運転者によるずり下がりに対する操作が行われたことを検知して制御を終了させても良い。この場合でも、各部らー貴装置16にブレーキ液圧が供給された状態から、運転者の操作による加圧が開始されるため、必要となるブレーキ力を早期に得ることができる。
【0043】
更に、運転者が意図する方向にMT車50が動き出す前に加圧ポンプ24,25の駆動が終了してブレーキ力が開放されるため、運転者の操作に支障をきたすことがなく、AT車50の違和感のないスムーズな発進が可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1 エンジン
2 クラッチ
3 手動変速機
4L,4R 前輪
5L,5R 後輪
6 シフトレバー
7 クラッチペダル
8 ブレーキペダル
9 アクセルペダル
10 クラッチスイッチ
11 ブレーキスイッチ
12 アクセル開度センサ
13 ECU(坂道発進補助制御装置)
16 ブレーキ装置
17〜20 ブレーキ配管
21 液圧制御ユニット
22,23 ブレーキ配管
24,25 加圧ポンプ
27 車輪速センサ
28 Gセンサ
29 圧力センサ
50 手動変速機付車両(MT車)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によるブレーキ操作とは無関係にブレーキ液圧を発生させる加圧ポンプを備え、坂道で停車した手動変速機付車両のずり下がりが検知されると前記加圧ポンプを駆動してブレーキ液圧を車輪のブレーキ装置に供給し、車輪に制動を加えて手動変速機付車両の坂道発進を補助する制御装置であって、
所定の勾配以上の坂道で手動変速機付車両のブレーキペダルの踏み込みによる停車が検知された後、前記ブレーキペダルの踏み込みが解除され、アクセルペダルの踏み込みが検知されて車速が所定値以上となった時点でエンジン回転数が所定値以下であるときには、前記加圧ポンプを駆動してブレーキ液圧を車輪のブレーキ装置に供給して車輪に制動を加えることを特徴とする手動変速機付車両の坂道発進補助制御装置。
【請求項2】
前記加圧ポンプの駆動を車速が所定値以下となった時点で終了させることを特徴とする請求項1記載の手動変速機付車両の坂道発進補助制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−224128(P2012−224128A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91474(P2011−91474)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】