説明

抗アレルギー性組成物およびその用途

【課題】シトルラス属植物に含有される成分の解明を行う。
【解決手段】本発明は、シトルラス属植物から低級脂肪族アルコールもしくはその含水物による抽出によって得られる抽出液または抽出エキスを有効成分として含有することを特徴とする抗アレルギー性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シトルラス属植物の抽出物とその用途に関し、より詳細には、シトルラス属植物からの抽出液または抽出エキスを有効成分とする抗アレルギー性組成物、および該抽出液に含まれる新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
シトルラス・コロシンシス(Citrullus Colocynthis)は、北アフリカ原産でアフリカ北部からインド北西部にかけての砂漠地帯に自生しているウリ科(Cucurbitaceae)の一年生つる性草本である。果実は直径10cmほどで、強い瀉下作用、および胃粘膜保護作用があることが知られている。また、果実から果皮と種子を除いた果肉部を乾燥させて得られる白色スポンジ状のコロシント実(Colocynth pulp)またはこの煎剤もしくはエキスは、慢性の便秘症に用いられている。この瀉下作用を示す主成分は、「コロシンチン(Colocynthin)」とよばれる苦味配糖体であり、果実中に約0.6%含まれることが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
コロシント実は、上記の苦味配糖体の他にフラボノイド配糖体、ククルビン型トリテルペン配糖体、脂肪酸などを含有することも報告されている(非特許文献2)。
【非特許文献1】本多義昭著、日本薬学会編、健康とくすりシリーズ、ハーブ・スパイス・漢方薬−シルクロードくすり往来−、丸善、平成13年11月刊行
【非特許文献2】N.A.R. Hatam, D.A. Whiting, N.J. Yousif, Phytochemistry, 28, 1268〜1271 (1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今回、本発明者らは、シトルラス・コロシンシスの乾燥果肉のメタノール抽出液に含まれる機能性成分について鋭意研究を行った結果、今までに報告されたことがない新規化合物を見出し、その化学構造を決定するとともに、上記の抽出物に、抗アレルギー活性が認められることを新たに見出し、本発明の完成に至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
よって、本発明は、シトルラス属植物から低級脂肪族アルコールもしくはその含水物による抽出によって得られる抽出液または抽出エキスを有効成分として含有することを特徴とする抗アレルギー性組成物である。
また、本発明の抗アレルギー性組成物に使用される抽出液または抽出エキスには、少なくとも式(1):
【0006】
【化1】

で表される化合物、および式(2):
【0007】
【化2】

【0008】
で表される化合物が含まれる。
本発明は、上記の抗アレルギー性組成物を含有する健康食品でもある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、植物由来の天然抽出物を、抗アレルギー活性を有する抗アレルギー性組成物として使用することができる。また、新規な化合物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の抗アレルギー性組成物は、シトルラス属植物から低級脂肪族アルコールもしくはその含水物を用いて抽出した抽出液または抽出エキスを有効成分として含有する。シトルラス属植物としては、シトルラス・コロシンシス(Citrullus colocynthis)、シトルラス・ラナタス(Citrullus lanatus)、シトルラス・ブルガリス(Citrullus Vulgaris)、これらの類縁植物などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
シトルラス属植物は、一年生植物で、その産地は特に限定されるものではないが、一般に、中央アジアからアフリカ北部の砂漠地帯に分布する。特に、エジプト産のものが好ましい。これらの植物は、通常、果実が用いられる。果実は、果皮および種子を除いて果肉のみを用いてもよい。また、果実または果肉の一部を乾燥して用いてもよいし、そのままの形態で用いてもよい。
【0011】
シトルラス属植物から抽出液を得るために、例えば、果実から果皮および種子を取り除き、得られた果肉をそのまま、または乾燥し、あるいは粉砕して、1〜50倍(重量)程度、好ましくは1〜30倍程度の低級脂肪族アルコールまたはその含水物を用いて抽出することが適当である。低級脂肪族アルコールとしては、炭素数1〜4の脂肪族アルコールが挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール等が挙げられる。また、1〜30重量%程度の水を含有する低級脂肪族アルコール含水物であってもよい。
抽出は、温浸または熱浸等で行うことができる。例えば、50〜85℃程度の温度で、振盪下または非振盪下に、上記の果肉を上記の溶媒に浸漬することによって行うことが適当である。振盪下に浸漬する場合には、30分間〜10時間程度行うことが適当であり、非振盪下に浸漬する場合は、1日〜20日間程度行うことが適当である。なお、上記の温度より低い温度で浸漬することも可能であるが、その場合には、上記時間よりも長時間浸漬することが適当である。抽出処理は、同一原料について1回のみ行ってもよいが、複数回、例えば、2〜5回程度行うことが好ましい。
【0012】
得られた抽出液は、濃縮して抽出エキスとしてもよい。濃縮は、低温低圧下で行うことが好ましい。この濃縮は乾固するまで行ってもよい。なお、濃縮する前にろ過し、ろ液を濃縮してもよい。また、抽出エキスは、濃縮したままの状態であってもよいし、粉末状または凍結乾燥品等としてもよい。濃縮する方法、粉末状または凍結乾燥品とする方法は、当該分野で公知の方法を用いることができる。
得られた抽出液は、濃縮する前後に、精製処理に付してもよい。精製処理は、クロマトグラフ法、イオン交換樹脂を使用する溶離法、溶媒による分配抽出等を単独または組み合わせて採用することができる。例えば、クロマトグラフ法としては、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、遠心液体クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー等のいずれかまたはそれらを組み合わせて行う方法が挙げられる。この際の担体、溶出溶媒等の精製条件は、各種クロマトグラフィーに対応して適宜選択することができる。
【0013】
なかでも、抽出液を濃縮して抽出エキスとしたものを、酢酸エチルと水を用いて分配し、得られた水相をさらにブタノールを用いて分配抽出することが好ましい。分配抽出は、室温下、振盪下または非振盪下など、当該分野で通常行われる方法にしたがって行うことができ、さらに、得られた各可溶画分を上記の精製処理に付してもよい。
【0014】
本発明の抽出液または抽出エキスは、通常、上記の式(1)および(2)、ならびに下記の式(3)〜(15)に示す化合物のいずれか1つ含有することが好ましく、式(1)および(2)の化合物のいずれかを含有することがより好ましい。
【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
ここで、式(3)〜(15)の化合物は既知化合物であるが、式(1)および式(2)で表される化合物は、新規化合物として見出された。式(1)および式(2)で表される化合物は、マウスを用いた受動的皮膚アナフィラキシー(PCA)反応を阻害することが見出された。
【0018】
上記のような抽出液または抽出エキスおよび化合物は、それぞれそのままの状態または適当な媒体で希釈して、医薬品等の製造分野において公知の方法によって、固形製剤または液体製剤などの医薬品の形態で使用することができる。
これらの形態は、医薬的に許容される医薬品添加物を有効成分に添加して製造することができる。
【0019】
錠剤、散剤、顆粒剤のような固形製剤を製造する場合、医薬的に許容される医薬品添加物としては、賦形剤(例えば乳糖、ショ糖のような糖類、トウモロコシデンプンのようなデンプン類、結晶セルロースのようなセルロース類、アラビアゴム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸カルシウムなど)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコールなど)、結合剤(例えばマンニトール、ショ糖のような糖類、結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、崩壊剤(例えば馬鈴薯澱粉のようなデンプン類、カルボキシメチルセルロースのようなセルロース類、架橋ポリビニルピロリドンなど)、着色剤、矯味矯臭剤などを用いることができる。
錠剤は、通常の方法によりフィルムコーティングなどのコーティングを施すことができ、有効成分を即時、遅延または持続放出できるようにすることができる。
【0020】
カプセル剤は、有効成分を適当な賦形剤などと混合し、得られた混合物をゼラチンソフトまたはハードカプセルに充填することにより得ることができる。
【0021】
液体製剤は、例えば水性または油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップまたはエリキシルの形態であってもよく、使用前に水または他の適切な賦形剤で再生する乾燥製品として提供してもよい。
【0022】
このような液体製剤を製造する場合、医薬的に許容される医薬品添加物としては、溶剤(例えばオリーブ油、大豆油のような油性溶剤、水、アルコール、プロピレングリコールのような親水性溶剤など)、溶解補助剤(例えばポリエチレングリコール、コレステロールなど)、乳化剤(例えば界面活性剤など)、懸濁化剤(ポリビニル系化合物、セルロース類のような親水性高分子、界面活性剤など)、保存剤(例えばパラベン、ソルビン酸など)、着色剤、矯味矯臭剤などを用いることができる。
【0023】
また、上記抽出液または抽出エキスおよびそれらに含まれる個々の化合物は、健康食品に利用することができる。健康食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で、保健、健康維持・増進等の目的とした食品を意味し、例えば、液体または半固形、固形の製品、具体的には、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤または液剤等のほか、クッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、お茶類、栄養飲料、スープ等の形態が挙げられる。
【0024】
これらの食品の製造工程において、あるいは最終製品に、上記抽出液などを混合または塗布、噴霧などにより添加して、健康食品とすることができる。
上記抽出液または抽出エキスおよび化合物の使用量は、濃縮、精製の程度、疾患の重篤度、服用者の体重、年齢等によって適宜調整することができ、例えば、成人1回につき抽出液または抽出エキスでは精製度や水分含量等に応じて、100〜20,000 mg程度が挙げられ、化合物の状態では1〜200 mg程度が挙げられ、食前30分位に1日3回程度服用するのが望ましい。
また、健康食品としての使用時には、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1 kgに対し、上記抽出液または抽出エキス、あるいは化合物を、10〜100,000 mg程度の範囲で用いることが適当である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の抽出液、新規化合物およびそれらの作用についての実施例を具体的に説明する。
製造例1 シトルラス・コロシンシスの抽出液の製造
シトルラス・コロシンシスのメタノール抽出
シトルラス・コロシンシスの乾燥果肉2.5 kg(エジプト産)を粉砕し、メタノール[ナカライテスク社製、特級](10 L)を加え、加熱還流下3時間抽出した。抽出後、ひだ折りろ紙(アドバンテック社製、No. 2ろ紙)にてろ過し、抽出残渣にさらにメタノール(10 L)を加え、3時間加熱還流し、同様にろ過作業を行った。合計3回の抽出を行い、その抽出液をあわせ、ロータリーエバポレーターを用いて、減圧下、溶媒留去し、シトルラス・コロシンシスのメタノール抽出エキス347.2 g(生薬からの収率13.89%)を得た。
【0026】
シトルラス・コロシンシスのメタノール抽出エキスの溶媒分画
シトルラス・コロシンシスのメタノール抽出エキス(288.3 g)を酢酸エチル-水(1:1、v/v)混液に分配抽出した。
水層に、さらにブタノールを加えて溶媒抽出し、酢酸エチル移行部、ブタノール移行部および水移行部から真空下に溶媒留去して、各移行部についてそれぞれ131.0 g (6.31%)、57.8 g (2.78%)および99.5 g (4.79%)のエキスを得た。
【0027】
酢酸エチル移行部エキスの分離
酢酸エチル移行部エキスを順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー[富士シリシア社製、BW-200、150〜350メッシュ、540g、移動相:n-ヘキサン:酢酸エチル=20:1→15:1→10:1→5:1→2:1→1:1→1:2→酢酸エチル100%→メタノール100%]にて順次溶出して分離し、ククルビタシンE 2-O-β-グルコピラノシド(式(7)、41.89 g)を得た。
【0028】
ブタノール移行部エキスの分離・精製
ブタノール移行部エキスを順相シリカゲルカラムクロマトグラフィー[富士シリシア社製、BW-200、150〜350メッシュ、540g、移動相:クロロホルム(ナカライテスク社製、特級):メタノール:n-ヘキサン(ナカライテスク社製、特級)=20:3:1→15:3:1→10:3:1→7:3:1→6:4:1→0:1:0]にて順次溶出して分離し、11のフラクションを得た。
【0029】
得られたフラクション2を、ODS (オクタデシルシリル)カラムクロマトグラフィー(富士シリシア社製、Chromatorex ODS DM1020T、150〜350メッシュ)を用いたカラムクロマトグラフィーにより、移動相としてメタノール−水(メタノール30%→50%→75%→100%)を用いて分離し、ククルビタシンL 2-O-β-グルコピラノシド(式(11)、0.3464 g)およびククルビタシンE 2-O-β-グルコピラノシド(式(7)、0.0831 g)を得た。
【0030】
また、フラクション8を、ODSカラムクロマトグラフィーにより、移動相としてメタノール−水(メタノール30%→40%→60%→100%)を用いて分離し、イソビテキシン(式(4)、0.735 g)を得た。このODSカラムクロマトグラフィーにより得られたフラクション8-2をさらに10%アセトニトリルを移動相とする高速液体クロマトグラフィー(以下HPLCという)[検出器:島津示差屈折型検出器RID-6A、ポンプ:島津LC-10A、HPLCカラム:YMC社製、YMC-Pack ODS-A (250×20 mm, i.d.)]に付して、4-ヒドロキシベンジル β-D-グルコピラノシド(式(15)、0.0179 g)を得た。さらに、フラクション8-6を55%メタノールを移動相とするHPLCに付して、式(2)の化合物を得た(0.0782 g)。
【0031】
上記のブタノール抽出で得られたフラクション4および5を合わせてODSカラムクロマトグラフィーにより、移動相としてメタノール−水(メタノール15%→30%→50%→100%)を用いて分離し、得られたフラクション4,5-2をさらに25%メタノールを移動相とするHPLCに付して、4-(β-D-ガラクトピラノシルオキシ)-ベンズアルデヒドを得た(式(14)、0.0105 g)。また、フラクション4,5-4を55%メタノールを移動相とするHPLCに付して、フラクション4,5-4-2から式(1)の化合物を得た(0.0712 g)。さらに、フラクション4,5-4-6をポリアミンカラム[YMC社製、YMC-Pack Polyamine II (250×20 mm, i.d.)]を用いるHPLCに付して、ククルビタシンJ 2-O-β-グルコピラノシド(式(9)、0.0297 g)およびククルビタシンK 2-O-β-グルコピラノシド(式(10)、0.0146 g)を得た。
【0032】
上記のブタノール抽出で得られたフラクション6および7を合わせてODSカラムクロマトグラフィーにより、移動相としてメタノール−水(メタノール15%→30%→50%→100%)を用いて分離し、得られたフラクション6,7-3をさらに50%メタノールを移動相とするHPLCに付して、イソオレンチン3'-メチルエーテル(式(3)、0.0691 g)を得た。また、フラクション6,7-4を35%アセトニトリルを移動相とするHPLCに付して、(22,27)-ヘキサノククルビタシンI 2-O-β-グルコピラノシド(式(6)、0.0245 g)を得た。
【0033】
上記のブタノール抽出で得られたフラクション3を、ODSカラムクロマトグラフィーにより、移動相としてメタノール−水(メタノール30%→50%→100%)を用いて分離し、得られたフラクション3-1をさらに40%メタノールを移動相とするHPLCに付して、ベンジルβ-D-グルコピラノシド(式(12)、0.0141 g)を得た。また、フラクション3-2をさらに50%メタノールを移動相とするHPLCに付して、(22,27)-ヘキサノククルビタシンI 2-O-β-グルコピラノシド(式(6)、0.0569 g)を得た。また、フラクション3-3をさらに55%メタノールを移動相とするHPLCに付して、ククルビタシンI 2-O-β-グルコピラノシド(式(8)、0.3638 g)を得た。
【0034】
上記のブタノール抽出で得られたフラクション9を、ODSカラムクロマトグラフィーにより、移動相としてメタノール−水(メタノール15%→30%→50%→100%)を用いて分離し、ガストロジン(式(13)、0.070 g)を得た。
【0035】
上記のブタノール抽出で得られたフラクション10を、ODSカラムクロマトグラフィーにより、移動相としてメタノール−水(メタノール15%→30%→50%→100%)を用いて分離し、イソサポナリン(式(5)、0.0088 g)を得た。
【0036】
得られた化合物のうち、新規化合物である式(1)および(2)の化合物について、物性を以下に示す。化合物の構造式の決定は、NMR法により行った。
式(1)の化合物:
黄色の粉末;
[α]D27 -26.18°(c=0.58,CH3OH);
高分解能ポジティブFAB-MS
計算値C38H54O14(M+Na)+:757.3411
実測値 :757.3418;
UV(MeOH,nm,logε):236.0(4.041);
CD (MeOH,nm,Δε):229(-1.116), 279(+0.631), 330(-0.638);
IR(KBr,cm-1):3440,1718,1686,1680,1650,1637,1078;
FAB-MS:(M+Na)+:757 ネガティブFAB-MS:(M-H)-:733
【0037】
1H-NMR (500MHz,CD3OD,δ)
13C-NMR (125MHz,CD3OD,δc)
【化5】

【0038】
式(2)の化合物の物性:
黄色の粉末;
[α]D27 -26.18°(c=0.58,CH3OH);
高分解能ポジティブFAB-MS
計算値C42H62O15(M+Na)+:829.3986
実測値 :829.3978;
UV(MeOH,nm,logε):255(3.82);
CD (MeOH,nm,Δε):236(-0.343), 271(+0.409), 338(-0.364);
IR(KBr,cm-1):3569,1686,1655,1637,1037;
FAB-MS:(M+Na)+:829,ネガティブFAB-MS:(M-H)-:805
【0039】
1H-NMR(500MHz,CD3OD,δ)
13C-NMR(125MHz,CD3OD,δc)
【化6】

【0040】
式(1)の化合物とβ-グルコシダーゼとの反応
上記の式(1)の化合物(10 mg)を、2 mlの0.2M酢酸バッファー(pH 5.0)に溶解し、20mgのβ-グルコシダーゼ(アーモンド由来、オリエンタル酵母社製)を添加して37℃で1週間攪拌した。エタノールでクエンチして、真空下に溶媒を蒸発させ、メタノール100%を移動相とするシリカゲルカラム(1.0 g)およびメタノール:水=1:1〜メタノール100%を移動相とするODSカラム(1.0 g)で分離して、下記の式(1a):
【0041】
【化7】

【0042】
で表される化合物3.0 mg(収率38.5%)を得た。
【0043】
式(1)の化合物とヘスペリジナーゼとの反応
上記の式(1)の化合物(6.5 mg)を、2 mlの0.2M酢酸バッファー(pH 3.8)に溶解し、20mgのヘスペリジナーゼ(アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来、シグマ社製)を添加して40℃で48時間攪拌した。エタノールでクエンチして、真空下に溶媒を蒸発させ、メタノール100%を移動相とするシリカゲルカラム(1.0 g)およびメタノール:水=1:1〜メタノール100%を移動相とするODSカラム(1.0 g)で分離して、上記の式(1a)で表される化合物4.2 mg(収率83%)を得た。
【0044】
上記の式(1a)の化合物の物性は、以下のとおりであった。
白色の粉末;
[α]D27 +12.67°(c=0.05,CH3OH);
高分解能ポジティブFAB-MS
計算値C32H44O9(M+Na)+:595.2883
実測値 :595.2891;
UV (MeOH,nm,logε):256.6(3.580);
CD (MeOH,nm,Δε):227(-0.797), 290(+1.373), 328(-1.320);
IR(KBr,cm-1):2432, 1736,1701,1664,1648,1086;
FAB-MS:(M+Na)+:595 ネガティブFAB-MS:(M-H)-:571
【0045】
1H-NMR(500MHz,CD3OD,δ)
13C-NMR(125MHz,CD3OD,δc)
【化8】

【0046】
式(2)の化合物とβ-グルコシダーゼとの反応
上記の式(2)の化合物を、前記の方法と同様にしてβ-グルコシダーゼと反応させたが、式(2)の化合物がほぼ100%の回収率で回収され、反応が起こらなかった。
【0047】
式(2)の化合物とセルラーゼとの反応
上記の式(2)の化合物(10 mg)を、2 mlの0.2M酢酸バッファー(pH 5.0)に溶解し、20mgのセルラーゼ(アスペルギルス・ニガー由来、シグマ社製)を添加して37℃で15時間攪拌した。エタノールでクエンチして、真空下に溶媒を蒸発させ、クロロホルム:メタノール=4:1 (容量比)の混液を移動相とするシリカゲルカラム(1.5 g)で分離して、下記の式(2a):
【0048】
【化9】

【0049】
で表される化合物6.2 mg(収率76.0%)を得た。
上記の式(2a)の化合物の物性は、以下のとおりであった。
白色粉末;
[α]D27 +1.4°(c=0.36,CH3OH);
高分解能ポジティブFAB-MS
計算値C36H54O11(M+Na)+:683.3407
実測値 :683.3398;
UV(MeOH,nm,logε):257.4(1.94);
CD (MeOH,nm,Δε):240(-0.229), 274(+0.308), 332(-0.171);
IR(KBr,cm-1):3569,1686,1655,1560,1541,1508;
FAB-MS:(M+Na)+:683,ネガティブFAB-MS:(M-H)-:659
【0050】
1H-NMR(500MHz,CD3OD,δ)
13C-NMR(125MHz,CD3OD,δc)
【化10】

【0051】
さらに、上記の式(2a)の化合物を、前記と同様にしてβ-グルコシダーゼと反応させたが、反応は起こらなかった。
【0052】
上記の式(2a)の化合物(6 mg)を、前記と同様にしてヘスペリジナーゼと反応させたところ、下記の式(2b):
【0053】
【化11】

【0054】
で表される化合物4.0 mg (収率88.4%)を得た。
上記の式(2b)の化合物の物性は、以下のとおりであった。
白色粉末;
[α]D27 +45.15°(c=0.20,CH3OH)
高分解能EI-MS
計算値C30H42O6(M+):498.281
実測値 :498.2986;
UV (MeOH,nm,logε):268.2(3.67);
CD (MeOH,nm,Δε):245(-0.945), 285(+2.279), 330(-1.778);
IR(KBr,cm-1):3440, 1718, 1686, 1655, 1637, 1039;
EI-MS (70ev,%):498 (M+,9), 164 (100)
【0055】
1H-NMR(500MHz,CD3OD,δ)
13C-NMR(125MHz,CD3OD,δc)
【化12】

【0056】
上記の式(1)、(1a)、(2)、(2a)および(2b)の化合物についての13C-NMRデータを以下の表1に示す。なお、13C-NMRは、CD3OD中に125 MHzで測定した。
【0057】
【表1】

【0058】
実施例1
上記のようにして得られたシトルラス・コロシンシスのメタノール抽出液、その酢酸エチル移行部、酢酸エチル抽出での水移行部からのブタノール移行部および水移行部、ならびに式(1)の化合物および式(2)の化合物の抗アレルギー活性を調べるために、以下の方法に従ってマウスを用いてPCA反応試験を行った。
【0059】
マウス耳介を用いたPCA反応試験
Matsuda H. et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 13, 3197〜3202 (2003)に記載の試験を一部改変して行った。すなわち、ddY系雄性マウス(体重25〜30 g)の両側の耳介に、希釈した抗DNP IgE (20μg/ml-PBS)を10μlずつ皮内注射し、47時間後に試験物質をアラビアゴム末で懸濁したものを10 ml/kgの用量で経口投与した。但し、試験物質投与前の16〜20時間は絶食させた。1時間後に2%エバンスブルーと、抗原としてDNP-BSA (1 mg/ml)とを混合したものを0.25 ml/マウスの用量で静脈内投与した。30分後にマウスを安楽死させ、耳介を切り取り1M KOH溶液に溶解した。これに4.5 mlのアセトン/0.2 Mリン酸混液(13:5 v/v)を加えて混合した。遠心分離後、上清の吸光度を620 nmの測定波長で測定した。なお。比較対照物質として、抗アレルギー薬剤として知られるトラニラストを用いた。
【0060】
結果を表2に示す。吸光度の値は、平均値±標準誤差で表す。
【0061】
【表2】

【0062】
表2から、式(1)および式(2)の化合物は、PCA反応抑制活性を有することがわかる。
【0063】
実施例2
上記のようにして得られたシトルラス・コロシンシスのメタノール抽出液の胃粘膜保護作用を調べるために、以下の方法に従ってエタノールおよびインドメタシン誘発胃粘膜損傷に対する抑制作用を調べた。
【0064】
エタノール誘発胃粘膜損傷に対する抑制作用の測定
試験物質をアラビアゴム末に懸濁したものをスプレーグ-ドーリー系雄性ラット(体重約250 g、投与前に約24時間絶食)に経口投与(5 ml/kg)し、1時間後に99.5%エタノール(1.5 mL/ラット)を経口投与した。1時間経過後、ラットから胃を摘出し、1.5%ホルマリンで固定した後、胃を切り開き、胃粘膜に発生した損傷の長さ(mm、損傷係数)を測定した。比較対照物質として、胃炎・潰瘍治療薬剤として知られる塩酸セトラキサートを用いた。
得られた結果を以下の表3に示す。損傷係数の値は、平均値±標準誤差で表す。ED50はメタノール抽出液については8.0 mg/kg、塩酸セトラキサートについては15.3 mg/kgであった。
【0065】
【表3】

【0066】
インドメタシン誘発胃粘膜損傷に対する抑制作用の測定
試験物質をアラビアゴム末に懸濁したものをスプレーグ-ドーリー系雄性ラット(体重約250 g、投与前に約24時間絶食)に経口投与(5 ml/kg)し、1時間後にインドメタシン(20 mg/kg)を経口投与した。4時間経過後、ラットから胃を摘出し、1.5%ホルマリンで固定した後、胃を切り開き、胃粘膜に発生した損傷の長さ(mm、損傷係数)を測定した。比較対照物質として塩酸セトラキサートを用いた。
得られた結果を以下の表4に示す。損傷係数の値は、平均値±標準誤差で表す。
【0067】
【表4】

【0068】
上記の表3および表4の結果から、シトルラス・コロシンシスのメタノール抽出液は優れた胃粘膜保護作用を有することがわかる。
【0069】
実施例3
上記のメタノール抽出液を凍結乾燥し、得られた粉末をせんべいの製造工程において生地に練りこんで、せんべいを製造した。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、植物由来の天然抽出物を含む抗アレルギー性組成物を提供することができる。また、該組成物を用いて、天然抽出物を含む健康食品を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトルラス属植物から低級脂肪族アルコールもしくはその含水物による抽出によって得られる抽出液または抽出エキスを有効成分として含有することを特徴とする抗アレルギー性組成物。
【請求項2】
抽出液または抽出エキスが、少なくとも次の式(1):
【化1】

で表される化合物、および式(2):
【化2】

で表される化合物を含有する請求項1に記載の抗アレルギー性組成物。
【請求項3】
シトルラス属植物の果実を用いる請求項1または2に記載の抗アレルギー性組成物。
【請求項4】
シトルラス属植物が、シトルラス・コロシンシス、シトルラス・ラナタスおよびシトルラス・ブルガリスからなる群より選択される請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗アレルギー性組成物。
【請求項5】
次の式(1):
【化3】

で表される化合物。
【請求項6】
次の式(2):
【化4】

で表される化合物。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗アレルギー性組成物を含有する健康食品。

【公開番号】特開2006−206520(P2006−206520A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21818(P2005−21818)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(597161090)株式会社青粒 (1)
【Fターム(参考)】