説明

抜蝕加工用布帛及び抜蝕加工布帛の製造方法

【課題】本発明は、ファッションとしての繊維製品の高度化、多様化に伴い伸縮性のある抜蝕加工布帛への要求が高まっており、それに対応出来る抜蝕加工用布帛とその伸縮性と膨らみ感を有し、異色染め分けも可能な抜蝕加工布帛の製造方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属スルホン酸基を有する第三成分により変性されたポリエステル繊維を含む抜蝕繊維(1)と物性の異なるポリマーがサイドバイサイド型または偏芯鞘芯型に複合した捲縮を有する複合繊維(2)を含む非抜蝕繊維から構成され、抜蝕剤を含有する糊剤が付着している抜蝕加工用布帛、および該抜蝕加工用布帛に熱処理を施した後、NaOHの熱水溶液処理を施して、抜蝕糊剤印捺部の抜蝕繊維を溶解除去する抜蝕加工布の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抜蝕加工用布帛及び伸縮性抜蝕加工布帛の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、ファッションの高度化、多様化に伴い伸縮性を有する抜蝕加工布帛への要求が高まっているが、未だ満足なものが開発されているとは言えない。特開2000−282377号公報(特許文献1)には常圧可染型変性ポリエステル繊維を必須成分として含む繊維布帛シートに第4級アンモニウム塩を付与し、処理温度100〜110℃にて蒸熱処理を行った後、アルカリ水溶液にて蒸熱処理する繊維布帛シートの抜蝕加工方法が開示されており、この方法によれば、熱処理温度が低いためポリウレタン弾性糸のダメージが少ないことを謳っている。しかしこの方法は、ポリウレタン弾性糸による伸縮性布帛であるためにコスト高であり、分散染料染色時における汚染の問題があり、また、水着等の用途では塩素堅牢度や耐候性が弱い等の問題がある。
【0003】
また、特開2003−20562号公報(特許文献2)には、単繊維繊度が1dtex以下の低収縮糸と単繊維繊度が2dtex以上の高収縮糸からなるBWS差10%以上の異収縮混繊糸と単繊維繊度が2dtex以上の潜在捲縮糸を用いて製布した布帛に、アルカリ性物質を含有する糊剤を印捺して混繊糸の低収縮側を抜食する「伸縮性を有するポリエステル抜食布帛の製造方法」が開示されている。しかしこの方法は、抜蝕される繊維が「単繊維繊度が1dtex以下」の制約があるため、布帛の耐摩耗性、ピリングなどに配慮が必要であり、また、薄起毛調の外観を目的としたものしか得られない。更に、抜蝕剤がアルカリ性物質であり実施例に記載のNaOHを用いた条件では非抜蝕繊維のダメージも大きい。
【0004】
【特許文献1】特開2000−282377号公報
【特許文献2】特開2003−20562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題とするところは、ファッションとしての繊維製品の高度化、多様化に伴い伸縮性のある抜蝕加工布帛への要求が高まっており、それに対応出来る抜蝕加工用布帛と、その伸縮性と膨らみ感を有し、異色染め分けも可能な抜蝕加工布帛の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アルカリ金属スルホン酸基を有する第三成分により変性されたポリエステル繊維を含む抜蝕繊維(1)と物性の異なるポリマーがサイドバイサイド型または偏芯鞘芯型に複合した捲縮を有する複合繊維(2)を含む非抜蝕繊維から構成され、抜蝕剤を含有する糊剤が付着している抜蝕加工用布帛にある。
更に本発明は、上記記載の抜蝕加工用布帛に熱処理を施した後、NaOH水溶液の熱水処理を施して、抜蝕糊剤印捺部の抜蝕繊維を溶解除去する抜蝕加工布帛の製造方法にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、伸縮布帛に異色表現が可能で、意匠性に優れた複雑な表現が可能であり、伸縮性のある抜蝕加工布帛が得られ、伸縮布帛によるファッションの一層の高度化、多様化に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、抜蝕繊維と非抜蝕繊維から構成される布帛に、抜蝕剤を含有する糊剤が付着した抜蝕加工用布帛である。
本発明における抜蝕加工用布帛を構成する抜蝕繊維は、アルカリ金属スルホン酸基を有する第三成分により変性されたポリエステル繊維を含むことが必要である。該繊維の易抜蝕性により非抜蝕繊維や、他の抜蝕繊維のダメージを少なくでき、カチオン可染性であることにより異色効果が得られる。また、ポリエステルであることによる非抜蝕部の強度保持の効果も得られる。
抜蝕繊維において、アルカリ金属スルホン酸基を有する第三成分により変性されたポリエステル繊維以外の繊維としては、綿やレーヨン等のセルロース系繊維が好適に用いられ、また、ポリアミド系繊維など抜蝕可能の繊維であれば特に制約はないが、本発明において抜蝕繊維を抜蝕加工する条件としてNaOH水溶液の熱水処理を行うので絹、羊毛のような耐アルカリ性の弱いものは好ましくない。
抜蝕繊維に含まれるアルカリ金属スルホン酸基を有する第三成分により変性されたポリエステル繊維は、抜蝕繊維中50質量%以上含有されていることが、意匠性、異色性の点で好ましい。
なお、抜蝕繊維とは、抜蝕剤により少なくとも一部が溶解する繊維であればよく、芯鞘繊維の鞘部が溶解する場合であってもよい。
【0009】
一方、非抜蝕繊維としては、物性の異なるポリマーがサイドバイサイド型または偏芯鞘芯型に複合した捲縮を有する複合繊維を含むことが必要である。ここに物性の異なるポリマーとは、弾性回復、熱収縮、塑性変形等が異なるものである。
また、該非抜蝕繊維は、布帛の状態ですでに捲縮を有しており、布帛組織による拘束下でも染色等の熱処理によるさらなる捲縮の発現が良好であり布帛のストレッチ性、膨らみ感、ソフト感向上に有利である。
さらに、該非抜蝕繊維は、熱処理無しでの捲縮数≧熱処理有りでの捲縮数×0.5であることが好ましい。捲縮数がこの範囲であれば、加工安定性が向上しやすい。
【0010】
また、本発明に用いられる該非抜蝕繊維は、抜蝕加工前の布帛の状態で既に捲縮が発現しているため、必ずしも捲縮発現のためのリラックス処理を必要としないのでリラックス工程の無いポリウレタン弾性繊維交編、トリコット水着等の加工条件でも膨らみ感を有しながら、充分に伸縮性が得られる。また、撚糸した場合の解撚トルクを利用するためや、織編物製布時の歪みの開放のためにリラックス処理は有効であり、必要に応じて実施することができる。
【0011】
本発明の、物性の異なるポリマーがサイドバイサイド型または偏芯鞘芯型に複合した複合繊維としては、弾性回復、熱収縮、塑性変形等が異なるものであれば、同種のポリマー同士であっても、異なるポリマーの組み合わせであってもよい。
例えば、固有粘度の異なるポリエチレンテレフタレートポリマーからなる複合繊維や、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレート等の固有粘度の異なるポリマーの組み合わせが挙げられる。
【0012】
特に、ポリテトラメチレンテレフタレート成分とポリオキシテトラメチレングリコール成分からなる高固有粘度のブロック共重合ポリマーと、粘度差で0.5以上の低固有粘度のポリエチレンテレフタレートがサイドバイサイドに複合した複合繊維でポリオキシテトラメチレングリコールの割合が5質量%〜50質量%であるものが、抜蝕加工前の布帛の状態で十分な捲縮が発現している点で好ましい。
なお、本発明の抜蝕加工用布帛を構成している該複合繊維は、原糸の段階で捲縮が発現しているものであっても、熱処理により捲縮を発現したものであってもよい。
また、非抜蝕繊維中、物性の異なるポマ−がサイドバイサイド型または偏芯鞘芯型に複合した捲縮を有する複合繊維の含有量は40質量%〜100質量%の範囲が好ましい。
【0013】
本発明において、抜蝕剤を含有する糊剤としては特に限定するものではなく公知の糊剤が用いられ、小麦澱粉、トラガントガム、ローカストビーンガム、ポリビニールアルコール、ポリアクリル酸ソーダ等の天然、加工、半合成、合成の糊剤を単独でまたは2種以上混合して用いることが出来る。
【0014】
本発明において、抜蝕加工用布帛の抜蝕加工に用いられる抜蝕剤としては、非抜蝕繊維のダメージが少なく、抜蝕繊維が抜蝕されるものであれば硝酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、多価アルコールにエチレンオキシドを2モル以上付加した多価アルコールエチレンオキシド付加物、多価アルコールエチレンオキシド付加物と第四級アンモニウム塩を用いたもの等の公知の抜蝕剤が使用できるが、特に多価アルコールにエチレンオキシドを2モル以上付加した多価アルコールエチレンオキシド付加物と第四級アンモニウム塩を用いると非抜蝕繊維のダメージが少なくポリアミド系繊維やセルロース系繊維も非抜蝕繊維として使用が可能であり特に好ましい。
【0015】
また、本発明の抜蝕加工用布帛は、抜蝕剤を含有する糊剤が任意の柄に付着していればよく、任意の意匠表現や異色表現が可能である。
【0016】
次に、上述の抜蝕加工用布帛を用い抜蝕加工布帛を製造する方法について説明する。
本発明では、抜蝕加工用布帛に熱処理を施した後、NaOH水溶液の熱水処理を施して、抜蝕糊剤印捺部の抜蝕繊維を溶解除去することが必要である。
抜蝕加工用布帛の熱処理は、アルカリ金属スルホン酸基を有する第三成分により変性されたポリエステル繊維を充分に抜蝕するために必要であり、190℃の乾熱処理または170〜180℃の過熱水蒸気処理の条件が好ましい。また、抜蝕糊剤が印捺された抜蝕繊維を溶解除去するためのNaOH水溶液の熱水処理は、熱水温度70℃〜100℃、NaOH濃度5〜15g/lの熱水溶液を用い、30〜60分間抜蝕加工用布帛を浴中で動揺しながら行うことが好ましい。
【実施例】
【0017】
次ぎに、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各特性値の評価は、下記の方法により実施した。
(ポリマーの固有粘度[η]の測定)
ポリマーをフェノールとテトラクロロエタンの1:1の混合溶媒に溶解し、ウベローデ粘度計により25℃において測定した。
(熱処理無しでの捲縮数)
熱処理を行わない外は、JIS L1015に準じて測定した。但し、測定はパーンから解舒した糸を無緊張状態で20℃、湿度65%RHで72時間以上放置してから行った。
(熱処理有りでの捲縮数)
JIS L1015に準拠して測定した。但し、熱処理は下記方法によった。また、測定はパーンから解舒した糸を無緊張状態で20℃、湿度65%RHで72時間以上放置してから行った。
熱処理条件:検尺機にて5回カセ取りした複合繊維を二重にして0.0147mN/Texの荷重をかけスタンドに吊り、30分間放置し、次いでその状態を維持したまま沸水中に入れ30分間処理し、その後、風乾した。
【0018】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレートに5−Naスルホイソフタル酸2.25モル%及びアジピン酸5モル%を共重合したポリマーからなる84デシテックス×48フィラメントの三角断面糸を仮撚温度160℃で通常の仮撚加工を施した抜蝕繊維と、33デシテックス×12フィラメントの66ナイロン三角断面糸をエアー混繊したものをフロントに用いた。バックには非抜蝕繊維としてポリテトラメチレンテレフタレート成分70質量%とポリオキシテトラメチレングリコール成分30質量%からなる[η]が1.29のブロック共重合ポリマーと[η]が0.51のポリエチレンテレフタレートポリマーが1/1の複合比でサイドバイサイドに接合した56デシテックス×12フィラメントの複合繊維を用いてトリコット編機の28ゲージハーフを編成した。この複合繊維の熱処理無しでの捲縮数は23.3ケ/25mmであり熱処理有りの捲縮数は22.6ケ/25mmであった。
【0019】
得られたトリコット編地を拡布状で沸水精練浴の連続精練を通し、引続き190℃の中間セットを施した後、下記抜蝕糊剤を花柄に印捺し110℃で2分間乾燥し、抜蝕加工用布帛を得た。バックに用いた非抜蝕繊維には捲縮が発現していた。
引き続き190℃で2分間乾熱処理を行い、次いで湯洗い後NaOH10g/l水溶液にて80℃×30分で抜蝕処理した後、水洗し弱酸で中和洗浄し、更に下記の条件で染色を実施した。その結果、表面がカチオン染料と酸性染料により赤と青の異色に染色され、抜蝕された花柄部分には赤く染色された66ナイロン繊維と染色されていない捲縮繊維が残った柄際のクリヤーな透け感の良好な意匠性の高い伸縮性に優れたトリコット編地が得られた。
(抜蝕糊剤)
グリセリンエチレンオキシド10モル付加物 10部
第四級アンモニウム塩* 2.5部
ファインガムG17(第一工業製薬(株)社製 糊剤) 6部
水 81.5部
*[C1225N(CH2 6 5 )(CH2 CH2 O)m H](CH2 CH2 O)n H)]+Cl−(m+n=2〜8の混合品)
(染色条件)
Cathilon Blue CD−FBLH
(保土ヶ谷化学工業(株)製カチオン染料) 1%owf
Kayanol Red NB(日本化薬(株)製酸性染料) 0.5%owf
カチロンソルトWニューコンク(保土ヶ谷化学工業(株)製沈殿防止剤) 1%owf
100℃×40分
【0020】
[比較例1]
バックに、実施例1の非抜蝕繊維の代わりに44デシテックスのポリウレタン弾性糸(東レデュポン社製、商品名ライクラ)を用いたほかは実施例1と同じ条件で製編、抜蝕加工、染色加工を実施した結果、膨らみ感に乏しく、ポリウレタン弾性糸が脆化し黄変した。また、非抜蝕部の色も実施例1に比べて黄味を帯びたものとなった。
【0021】
[実施例2]
経糸にポリエチレンテレフタレートのホモポリマーからなる33デシテックス×12フィラメントの丸断面糸に、S撚り1500T/Mの撚糸後、撚糸セット80℃×40分のスチーム処理を行ったものを用い、緯糸に非抜蝕繊維であるイソフタル酸を8モル%共重合したエチレンテレフタレート主体の高収縮性共重合ポリエステルと実質的にエチレンテレフタレート単位よりなるポリエステルとを1:1にサイドバイサイドに複合紡糸してなる、56デシテックス×12フィラメントの捲縮性複合繊維にS撚り1200T/Mの撚糸を施し撚糸セット80℃×40分のスチーム処理を行ったものと、実施例1で用いた抜蝕繊維とを、S撚り120T/Mで合撚したものを用いて、平織物を製織した。
該平織物に110℃の熱水で60分間の精練リラックス処理を行い、190℃の中間セットを施した後、実施例1と同じ抜蝕糊剤を花柄に印捺し110℃で2分間乾燥し抜蝕加工用布帛を得た。非抜蝕繊維には捲縮が発現していた。
次いで後、190℃で2分間乾熱処理を行い、湯洗い後NaOH10g/lの水溶液にて100℃で30分間抜蝕処理した後、水洗し弱酸で中和、洗浄した。その結果、緯方向に良好な伸縮性があり経方向にも若干の伸縮のある柄際のクリヤーな透け感に優れた抜蝕加工布が得られた。尚、生機の経糸密度73本/吋、緯糸密度95本/吋、仕上の経糸密度115本/吋、緯糸密度105本/吋で加工した。
【0022】
[比較例2]
抜蝕糊剤として下記の抜蝕剤を印捺した外は、実施例2と同様の条件で抜蝕加工用布帛を得た。非抜蝕繊維には捲縮が発現していた。
次いで、NaOH水溶液の処理を常温で行った以外は実施例2と同じ加工を行った。その結果、抜蝕繊維が十分に抜蝕されない部分が存在し、印捺部の柄が明瞭に現れず商品としては劣るものであった。
(抜蝕糊剤)
NaOH 25部
SRKペーストC(古川化学(株)製) 70部
水 5部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属スルホン酸基を有する第三成分により変性されたポリエステル繊維を含む抜蝕繊維(1)と物性の異なるポリマーがサイドバイサイド型または偏芯鞘芯型に複合した捲縮を有する複合繊維(2)を含む非抜蝕繊維から構成され、抜蝕剤を含有する糊剤が付着している抜蝕加工用布帛。
【請求項2】
前記(2)の複合繊維が下記式を満足する請求項1記載の抜蝕加工用布帛。
熱処理無しでの捲縮数≧熱処理有りでの捲縮数×0.5
【請求項3】
請求項1または2に記載の抜蝕加工用布帛に熱処理を施した後、NaOH水溶液の熱水処理を施して、抜蝕糊剤印捺部の抜蝕繊維を溶解除去する抜蝕加工布帛の製造方法。

【公開番号】特開2007−146319(P2007−146319A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−341188(P2005−341188)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】