説明

拭き取り用洗浄剤組成物及び洗浄方法

【課題】経時保存後においても良好な洗浄力を有すると共に、拭き跡残りも低減された拭き取り用洗浄剤組成物、及び当該拭き取り用洗浄剤組成物を用いる洗浄方法の提供。
【解決手段】過酸化水素(A)と、両性界面活性剤(B)と、pH5〜8の溶液において緩衝機能を有する化合物(C)0.3〜1.5質量%とを含有し、当該両性界面活性剤(B)と当該化合物(C)との混合割合[(B)/(C)]が質量比で2〜15であり、かつ、pHが8以下であることを特徴とする拭き取り用洗浄剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拭き取り用洗浄剤組成物、及び拭き取り用洗浄剤組成物をトリガー式スプレーヤーに収容して用いる洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素及び界面活性剤を含有する洗浄剤組成物(液体漂白剤組成物、液体洗浄剤組成物など)が、従来、衣料用又は硬表面用を中心に多く開発されている。
たとえば、トリガー式スプレーヤーに収容して用いる洗浄方法に好適な洗浄剤組成物が開発されている。
その一例としては、過酸化水素と、両性界面活性剤と、キレート剤とを含有し、さらに、組成物のpHを8超に保つためのpH緩衝剤を含有する液状水性洗浄組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−503814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
洗浄剤組成物を、たとえばトリガー式スプレーヤーに収容して用いる洗浄方法によれば、水で洗い流すことができる場所(浴室、トイレ等)だけでなく、水で洗い流すことが困難な場所(リビングの床、壁、家具、カーテン、ソファー、カーペット等)であっても、簡便に洗浄することができる。
【0005】
水で洗い流すことが困難な場所においては、洗浄剤組成物を、被洗物に対して薄く(少量で)広範囲に塗布でき、容易に拭き取ることができる、ことが必要である。かかる場合、洗浄剤組成物には、拭き取るだけで汚れを充分に取り除くことができる、良好な洗浄力を有することが求められる。
しかしながら、たとえば特許文献1に記載の技術においては、組成物のpHが8超に保たれているため、過酸化水素の分解が生じやすく、洗浄力が低下する問題がある。特に、経時保存後において洗浄力が低下してしまう。
【0006】
加えて、水で洗い流すことが困難な場所の洗浄においては、洗浄剤組成物をトリガー式スプレーヤーから吐出して汚れ部位を拭き取った後、拭き取られた部位に、当該洗浄剤組成物又は汚れ等の拭き跡残り(曇り)が生じやすい問題がある。この拭き跡残りは、特にガラス面において目立つため、洗浄剤組成物には、拭き跡残りが低減されることも重要な特性として求められる。
【0007】
この拭き跡残りを低減するには、洗浄剤組成物の配合成分の含有量を少なくする方法が考えられる。
しかしながら、たとえば、界面活性剤を減量しても、拭き跡残りを充分に低減することはできず、洗浄力も低下してしまう。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、経時保存後においても良好な洗浄力を有すると共に、拭き跡残りも低減された拭き取り用洗浄剤組成物、及び当該拭き取り用洗浄剤組成物を用いる洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らの検討によると、拭き跡残りを低減するため、界面活性剤以外の配合成分(pH緩衝剤、キレート剤など)を減量した場合、過酸化水素及び界面活性剤を含有するpHが酸性〜中性領域の洗浄剤組成物においては、当該洗浄剤組成物のpHが経時に伴って低下し、このpHの低下によって洗浄力が悪くなること、があらたに確認された。
【0010】
本発明者らは鋭意検討した結果、かかる経時に伴うpHの低下を抑制することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の拭き取り用洗浄剤組成物は、過酸化水素(A)と、両性界面活性剤(B)と、pH5〜8の溶液において緩衝機能を有する化合物(C)0.3〜1.5質量%とを含有し、当該両性界面活性剤(B)と当該化合物(C)との混合割合[(B)/(C)]が質量比で2〜15であり、かつ、pHが8以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物において、前記化合物(C)はクエン酸であることが好ましい。
また、本発明の拭き取り用洗浄剤組成物においては、キレート剤(D)(ただし、前記化合物(C)を除く)をさらに含有することが好ましい。
【0013】
また、本発明の洗浄方法は、前記本発明の拭き取り用洗浄剤組成物を、トリガー式スプレーヤーに収容し、当該トリガー式スプレーヤーから吐出して被洗物に塗布し、当該塗布した部位を拭き取ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、経時保存後においても良好な洗浄力を有すると共に、拭き跡残りも低減された拭き取り用洗浄剤組成物、及び当該拭き取り用洗浄剤組成物を用いる洗浄方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪拭き取り用洗浄剤組成物≫
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物は、過酸化水素(A)と、両性界面活性剤(B)と、pH5〜8の溶液において緩衝機能を有する化合物(C)0.3〜1.5質量%とを含有する。
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物においては、キレート剤(D)(ただし、前記化合物(C)を除く)をさらに含有することが好ましい。
【0016】
<過酸化水素(A)>
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物における過酸化水素(A)(以下「(A)成分」ということがある。)の含有割合は0.1〜5質量%であることが好ましく、0.5〜2質量%であることがより好ましい。
(A)成分の含有割合が0.1質量%以上であると、良好な洗浄力が得られやすくなる。一方、5質量%以下であれば、充分な洗浄力が得られる。また、当該拭き取り用洗浄剤組成物を、たとえばトリガー式スプレーヤーから噴霧した際にムセにくくなる。
【0017】
<両性界面活性剤(B)>
両性界面活性剤(B)(以下「(B)成分」ということがある。)は、特に限定されず、たとえばカルボン酸塩型のもの、硫酸エステル塩型のもの、スルホン酸塩型のもの、リン酸エステル塩型のもの及びアミンオキシド型のものからなる群から選択されるものが挙げられる。
なかでも、本発明の効果がより良好に得られることから、カルボン酸塩型のもの、アミンオキシド型のものが好ましい。
【0018】
(B)成分において、カルボン酸塩型のものとして具体的には、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等のアミノ酸型両性界面活性剤;ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシアルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリン酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシアルキルアミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等のベタイン型両性界面活性剤が挙げられる。
【0019】
また、(B)成分において、アミンオキシド型のものとして具体的には、ラウリルジメチルアミンオキシド、ヤシアルキルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、パルミチルジメチルアミンオキシド、オレイルジメチルアミンオキシド、ラウリルアミドプロピルジメチルアミンオキシド等が挙げられる。
【0020】
上記のなかでも、特に拭き跡残りを良好に低減できることから、カルボン酸塩型のものがより好ましく、ベタイン型両性界面活性剤が特に好ましく、ラウリン酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタインが最も好ましい。
【0021】
(B)成分は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物における(B)成分の含有割合は0.2〜3.5質量%であることが好ましく、1〜2質量%であることがより好ましい。
(B)成分の含有割合が0.2質量%以上であると、拭き跡残りを低減する効果が向上する。また、良好な洗浄力が得られやすくなる。また、当該拭き取り用洗浄剤組成物を、たとえば容器から泡状に吐出した際、ボリューム感のある泡が得られやすくなる。一方、3.5質量%以下であれば、本発明の効果が充分に得られる。また、当該拭き取り用洗浄剤組成物を、たとえば容器から泡状に吐出した際に拭き取りやすさ(泡の除去の容易さ)が向上する。
【0022】
<化合物(C)>
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物において、化合物(C)(以下「(C)成分」ということがある。)は、pH5〜8の溶液、好ましくはpH5〜7の溶液、より好ましくはpH5〜6の溶液、において緩衝機能を有する化合物である。
ここで、「緩衝機能を有する化合物」とは、溶液における水素イオン濃度の変化を小さくする作用をもつ化合物を意味し、たとえば経時に伴って溶液のpHが変化する場合、かかるpHの変化が起きないようにする効果、又はかかるpHの変化の割合を小さくする効果を発揮する化合物をいう。
かかる(C)成分を用いることにより、経時に伴う当該拭き取り用洗浄剤組成物のpHの低下を抑制でき、経時保存後においても良好な洗浄力を保つことができる。
【0023】
(C)成分は、pH5〜8の溶液において緩衝機能を有するものであればよく、たとえば酸解離指数(pKa)が5〜7であるものが好ましく、5〜6であるものがより好ましい。pKaが前記範囲であるものを用いると、洗浄剤組成物を調製した後、液安定性がより良好となり、経時に伴うpHの低下が抑制される。
また、pKaが下限値以上であると、経時に伴うpHの低下が抑制され、pKaが上限値以下であると、経時に伴うpHの上昇が抑制される。
たとえば多価の酸のように、複数のpKaをもつ化合物においては、いずれかのpKaが前記範囲にあるものであれば(C)成分として用いることができる。
【0024】
本明細書において、「酸解離指数(pKa)」とは、酸から水素イオンが放出される解離反応の平衡定数(酸解離定数,Ka)の負の常用対数(−logKa)を表す。pKaが小さい化合物ほど酸性が強い。
酸解離指数(pKa)の値は、社団法人日本化学会編集の化学便覧基礎編 改訂3版(丸善株式会社出版)に収載されているものである。
【0025】
(C)成分として具体的には、たとえばクエン酸(pKa=5.66(25℃))、アジピン酸(pKa=5.03(25℃))、コハク酸(pKa=5.24(25℃))、マレイン酸(pKa=5.83(25℃))、マロン酸(pKa=5.28(25℃))、グルタル酸(pKa=5.01(25℃))などが挙げられる。
上記のなかでも、(C)成分としては、経時に伴う当該拭き取り用洗浄剤組成物のpHの低下を抑制する効果に特に優れることから、クエン酸であることが好ましい。
なお、酸解離指数(pKa)の記載において、「pKa」は、三段目の解離平衡における酸解離定数の負の常用対数を表す。「pKa」は、二段目の解離平衡における酸解離定数の負の常用対数を表す。
【0026】
(C)成分は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物における(C)成分の含有割合は0.3〜1.5質量%であり、0.3〜1質量%であることが好ましい。
(C)成分の含有割合が0.3質量%以上であると、経時に伴う当該拭き取り用洗浄剤組成物のpHの低下が抑制され、経時保存後においても良好な洗浄力を保つことができる。一方、1.5質量%以下であれば、経時に伴う当該拭き取り用洗浄剤組成物のpHの低下が充分に抑制される。また、特にガラス面における拭き跡残りも良好に低減される。
【0027】
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物において、両性界面活性剤(B)と化合物(C)との混合割合[(B)/(C)]は、質量比で2〜15であり、2〜12であることが好ましく、2〜10であることがより好ましく、2〜5であることが特に好ましい。
(B)/(C)が前記範囲であると、特に拭き跡残りが低減される。
また、(B)/(C)が2以上であると、拭き跡残りを低減する効果が向上する。一方、(B)/(C)が15以下であると、経時に伴う当該拭き取り用洗浄剤組成物のpHの低下が抑制される。また、当該拭き取り用洗浄剤組成物を、たとえば容器から泡状に吐出した際、拭き取りやすさ(泡の除去の容易さ)が向上する。
【0028】
<キレート剤(D)>
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物においては、キレート剤(D)(以下「(D)成分」ということがある。)をさらに含有することにより、水中に存在する微量の金属イオン等が捕捉されて、特に(A)成分を安定に溶存できるようになるため、当該洗浄剤組成物の液安定性が向上し、洗浄力がより向上する。
ただし、本発明における(D)成分には、上述した(C)成分は含まれないものとする。
【0029】
(D)成分としては、金属イオンを捕捉する能力を有するものであれば特に制限されるものではなく、たとえば、エチレンジアミンテトラ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、ニトリロトリ酢酸、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP−H)、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、エチレングルコースビス(2−アミノエチルエーテル)テトラ酢酸、酒石酸、リンゴ酸、ポリアクリル酸、アクリル酸−マレイン酸共重合体、イソアミレン−マレイン酸共重合体、グルコン酸、ヒドロキシベンジルイミジノ酢酸、イミジノ酢酸、ピロリン酸、トリポリリン酸ヘキサメタリン酸又はそれらの塩等が挙げられる。
【0030】
上記のなかでも、(D)成分としては、液安定性及び洗浄力に優れることから、エチレンジアミンテトラ酢酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP−H)、アクリル酸−マレイン酸共重合体又はそれらの塩が好ましく、液安定性がより良好であることから、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP−H)又はその塩が特に好ましい。
【0031】
(D)成分は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物における(D)成分の含有割合は0.01〜2質量%であることが好ましく、0.1〜1質量%であることがより好ましい。
(D)成分の含有割合が0.01質量%以上であると、拭き取り用洗浄剤組成物の液安定性が向上する。また、より良好な洗浄力が得られる。一方、2質量%以下であれば、金属イオンを捕捉する効果が充分に得られ、良好な洗浄力が得られる。また、(D)成分自体の溶解性が向上する。
【0032】
<その他の成分>
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物には、前記(A)〜(D)成分以外に、必要に応じて通常、衣料用又は硬表面用等の洗浄剤組成物に用いられる成分を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜、配合することができる。
具体的には、エタノール、ハイドロトロープ剤、防腐剤、pH調整剤、ラジカルトラップ剤、除菌剤、香料、色素等を配合することができる。
【0033】
(エタノール)
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物においては、拭き取り後の乾きやすさが向上することから、又は、当該拭き取り用洗浄剤組成物をたとえば容器から泡状に吐出する際、低温時でもボリューム感のある泡を形成するため、エタノールを、拭き取り用洗浄剤組成物中に2〜20質量%含有することが好ましい。
【0034】
(ハイドロトロープ剤)
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物においては、香料等の油性成分を安定配合するために、ハイドロトロープ剤として有機溶媒が使用できる。具体的には、イソプロパノール、フェノキシエタノール等の1価のアルコール類;エチレングルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類が使用できる。
また、上述したエタノールを、ハイドロトロープ剤として使用することもできる。
【0035】
(防腐剤)
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物においては、防腐性能を向上するために、安息香酸ナトリウムを、拭き取り用洗浄剤組成物中に0.05〜1質量%含有することが好ましく、0.1〜0.5質量%含有することがより好ましい。1質量%以下であれば、充分な防腐性能が得られ、0.05質量%以上であれば、防腐力向上の効果が得られる。
【0036】
(pH調整剤)
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物のpHは、酸性物質又はアルカリ物質を適宜選択して添加することにより調整できる。
酸性物質としては、上記(D)成分の酸タイプのものの他に、硫酸、p−トルエンスルホン酸が好適なものとして挙げられる。
また、アルカリ物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、アルカノールアミンが好適なものとして挙げられる。
【0037】
(ラジカルトラップ剤)
ラジカルトラップ剤としては、好ましくはフェノール系ラジカルトラップ剤が使用できる。フェノール系ラジカルトラップ剤とは、フェノール及びフェノール誘導体であり、該フェノール誘導体としては、フェノール性のOH基を有する化合物、フェノール性のOH基のエステル誘導体、エーテル誘導体等が好ましく挙げられる。なお、置換位置は、オルト位、メタ位、パラ位のいずれでもよい。なかでも、フェノール性のOH基を有する化合物がより好ましい。そのなかでも、さらに好ましい化合物は、「G.E.Penketh,J.Appl.Chem」,7,512〜521頁(1957)に記載された酸化還元電位(O.P.)が1.25V以下の化合物であり、特に好ましくは0.75V以下の化合物である。これらのなかでも、さらに好ましくは、ジメトキシフェノール、カテコール、ハイドロキノン、4−メトキシフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)等が挙げられ、4−メトキシフェノールが特に好ましい。
拭き取り用洗浄剤組成物中のラジカルトラップ剤の含有割合は、過酸化水素(A)の分解抑制の効果や経済性などの観点から、0.01〜6質量%であることが好ましく、0.05〜1質量%であることがより好ましい。
【0038】
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物は、好適には水を溶剤として用い、常法に基づいて上述した成分を撹拌、混合することにより調製することができる。
【0039】
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物は、(A)成分の安定性の観点から、25℃でのpHが8以下であり、当該pHが5〜8であることが好ましく、当該pHが5〜7であることがより好ましく、当該pHが5.5〜6.5であることがさらに好ましい。
拭き取り用洗浄剤組成物のpHが8以下であると、(A)成分を安定に溶存でき、調製後から当該洗浄剤組成物の液安定性が向上する。これにより、経時保存後においても良好な洗浄力が得られやすくなる。一方、pHが5以上であると、特に、経時に伴う洗浄効果の低下が抑制され、経時保存後においても良好な洗浄力を保ちやすくなる。
本発明において、拭き取り用洗浄剤組成物のpHは、拭き取り用洗浄剤組成物を25℃に調温し、ガラス電極式pHメーター(製品名:HM−30G、東亜ディーケーケー(株)製)を用い、ガラス電極を、当該拭き取り用洗浄剤組成物に直接に浸漬し、1分間経過後に示すpHの値をいう。
【0040】
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物は、25℃での粘度が10mPa・s未満であることが好ましい。当該粘度が10mPa・s未満であると、拭き取り用洗浄剤組成物を、たとえばトリガー式スプレーヤーに収容して吐出した際、トリガー式スプレーヤーから当該洗浄剤組成物を良好に排出できる。たとえば容器から泡状に吐出した際、良好な泡が得られる。さらに、より良好な洗浄力が得られる。
本発明において、「25℃での粘度」とは、25℃に調温した拭き取り用洗浄剤組成物を、DV−I+VISCOMETER(製品名、BROOKFIELD社製)を用い、ロータNo.2で60rpm、60秒後の測定条件により測定した値(mPa・s)を示す。
【0041】
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物の使用方法は、特に限定されず、洗浄剤組成物を、たとえば各種の容器に収容し、当該容器から吐出して被洗物に塗布し、当該塗布した部位を拭き取る方法が挙げられる。なかでも、後述する本発明の≪洗浄方法≫が好適な方法として挙げられる。
【0042】
以上説明した、本発明の拭き取り用洗浄剤組成物は、経時に伴うpHの変化が抑制されて、経時保存後においても良好な洗浄力を有する。かかる効果が得られる理由は、以下のように推測される。
【0043】
本発明の拭き取り用洗浄剤組成物は、過酸化水素(A)と、両性界面活性剤(B)と、pH5〜8の溶液において緩衝作用をもつ化合物(C)の所定量とを含有し、かつ、(B)成分と(C)成分とを特定の混合割合で含有し、pHが8以下である。
過酸化水素を含有する洗浄剤組成物においては、pHが8を超えると、過酸化水素の分解が起こりやすくなり、経時に伴って洗浄力が低下する傾向にある。また、過酸化水素は、分解時に酸素ガスを生成するため、容器に収容した際、容器が膨らむおそれがある。
これに対して、本発明は、pHが8以下であることにより、過酸化水素の分解が抑制される。また、好ましくはキレート剤(D)を配合することにより、過酸化水素の安定化がより図られる。これにより、経時保存後においても良好な洗浄力を有する。
【0044】
本発明者らは、洗浄力の向上に加えて、拭き跡残りの低減化を図る検討のなかで、pHを弱酸性〜中性領域で調製した場合であっても、洗浄剤組成物のpHが経時に伴って低下する傾向にあること、かかるpHの低下によって洗浄剤組成物の洗浄力が悪くなることをあらたに確認した。これは、過酸化水素が、経時とともに、溶液中で安定に溶存し続けられず、分解を起こしてpHが低下し、このpHの低下に伴って過酸化水素の活性が低くなることにより、過酸化水素に寄与する洗浄効果が得られにくくなるため、と考えられる。
これに対して、本発明は、主として、前記緩衝作用をもつ化合物(C)の所定量を含有することにより、経時に伴うpHの変化、特にpHの低下が抑制される。これにより、過酸化水素に寄与する洗浄効果を発現可能な、できるだけ高いpHを保つことができるため、経時保存後においても良好な洗浄力が保たれると推測される。
【0045】
加えて、本発明の拭き取り用洗浄剤組成物は、良好な洗浄力を有すると共に、拭き跡残りも低減できる。たとえば、界面活性剤としてアニオン界面活性剤を用い、化合物(C)と併用する組み合わせでは、経時に伴うpHの変化を抑制でき、良好な洗浄力は得られるものの、拭き跡残りが生じてしまう。これに対して、両性界面活性剤(B)と、所定量の化合物(C)とを特定の混合割合で用いる本発明の構成によれば、良好な洗浄力と、拭き跡残りの低減とを両立することができるという固有の効果が得られる。
かかる効果が得られる理由は、定かではないが、たとえば、化合物(C)が乾燥して析出した白化物と考えられる拭き跡残りが、所定量の両性界面活性剤(B)を用いることにより、拭き取る道具(ティッシュペーパー、綿タオルなど)側に移りやすくなるため、又は、拭き取った後の被洗物面に残存した白化物が見えにくくなるため、と推測される。これらは、両性界面活性剤(B)がもつ、乾燥した際に結晶化しにくい性質、に起因すると推定される。
なお、アニオン界面活性剤を用いた場合には、拭き取った後、被洗物が着色する不具合を生じる場合があるが、両性界面活性剤を用いた場合には、そのような不具合を生じることがない。
【0046】
また、本発明の拭き取り用洗浄剤組成物は、たとえば容器から泡状に吐出した際、拭き取ることにより、その泡を容易に除去することができ、拭き取りやすさに優れる。
また、本発明の拭き取り用洗浄剤組成物は、たとえば容器から霧状に吐出(噴霧)した際、ムセにくいものである。
【0047】
≪洗浄方法≫
本発明の洗浄方法は、上記本発明の拭き取り用洗浄剤組成物を、トリガー式スプレーヤーに収容し、当該トリガー式スプレーヤーから吐出して被洗物に塗布し、当該塗布した部位を拭き取る方法である。
【0048】
トリガー式スプレーヤーとしては、特に制限されるものではなく、一般に、洗浄剤製品(トリガー式スプレーヤーに洗浄剤組成物が収容されたもの)に用いられているものが挙げられる。
具体的には、拭き取り用洗浄剤組成物を霧状に吐出できるものであればよい。また、泡形成機能を備え、霧状にも泡状にも吐出できる、これらの切り替えが可能なものでもよい。また、拭き取り用洗浄剤組成物を広範囲に吐出するワイドパターンと、狭範囲に吐出するナローパターンとの切り替えが可能なものでもよい。
【0049】
本発明の洗浄方法は、一例として、拭き取り用洗浄剤組成物を、トリガー式スプレーヤーに収容し、当該トリガー式スプレーヤーから泡状に吐出して被洗物に塗布し、その後すぐに又は適宜放置した後、該塗布した部位を拭き取ることにより被洗物を洗浄する方法が挙げられる。また、必要に応じて、水で洗い流すこともできる。
【0050】
本発明の洗浄方法における被洗物としては、拭き取り用洗浄剤組成物をトリガー式スプレーヤーから吐出して塗布することが可能であれば特に制限されず、たとえば、衣料、バスタオル、ハンカチ、テーブルクロス、ランチョンマット、カーテン、ソファー、カーペット等の繊維製品;台所用品、浴室、トイレ、リビングの床、壁、家具等の硬表面などが挙げられる。なかでも、本発明の洗浄方法は、水で洗い流すことが困難な場所や物において特に好適である。
【0051】
以上説明した、本発明の洗浄方法によれば、良好な洗浄効果が得られると共に、被洗物面の拭き跡残りも低減することができる。
本発明の洗浄方法は、従来の一般的な洗浄方法(たとえば、洗浄剤組成物を被洗物に塗布した後に水で洗い流す方法、洗濯機で洗濯する方法等)とは異なり、拭き取り用洗浄剤組成物を、トリガー式スプレーヤーから吐出し、被洗物に薄く(少量で)広範囲に塗布しても良好な洗浄力が得られる。さらに、水で洗い流すことが困難な場所や物における汚れを拭き取るだけで、容易に洗浄することができる。
また、本発明の洗浄方法は、狭い空間などで噴霧使用してもムセにくく、また、使用性及び簡便性にも優れた方法である。
【実施例】
【0052】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
<拭き取り用洗浄剤組成物の調製>
(実施例1〜16、比較例1〜9)
表1〜2に示す組成に従って、各成分を常法に準じて混合することにより、各例の洗浄剤組成物を調製した。
表中の配合量の単位は、洗浄剤組成物の全質量を基準とする質量%であり、各成分の純分換算量を示す。
各例の洗浄剤組成物は、イニシャルのpHになるように水酸化ナトリウムで調整した。
また、洗浄剤組成物は、総量が100質量%となるように、精製水で全体量をバランスした。
以下に、表中に示した成分について説明する。
【0054】
[表中に示した成分の説明]。
・過酸化水素(A)
過酸化水素:三菱ガス化学社製、商品名「35wt% 過酸化水素」。
【0055】
・両性界面活性剤(B)
LPB:ラウリン酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ライオン社製、商品名「エナジコールL−30B」。
LDB:ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、三洋化成社製、商品名「レボンLD−36」。
LAP:ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ライオンアクゾ社製、商品名「アンフォラックL−18」。
AX剤:ラウリルジメチルアミンオキシド、ライオンアクゾ社製、商品名「AX剤」。
【0056】
・(B)成分の比較成分[以下「(B’)成分」と表す。]
SAS:第二級アルカンスルホン酸ナトリウム、クラリアントジャパン社製、商品名「HOSTAPUR SAS 30」。
AES:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、テイカ社製、商品名「テイカポールNE1230」。
【0057】
・化合物(C)
クエン酸:扶桑化学工業社製、商品名「クエン酸」。
【0058】
・キレート剤(D)
HEDP:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、ローディア社製、商品名「BRIQUEST ADPA−60A」。
EDTA:エチレンジアミン四酢酸、アクゾノーベル社製、商品名「ディゾルビンZ」。
CP−5:マレイン酸アクリル酸共重合体、BASF社製、商品名「Sokalan CP−5 Granules」。
【0059】
<拭き取り用洗浄剤組成物の評価>
各例の洗浄剤組成物を用いて、以下に示す方法により、洗浄剤組成物のpHの測定、並びに、洗浄力の評価、拭き跡残りのなさの評価及び拭き取りやすさの評価を行った。
【0060】
[洗浄剤組成物のpHの測定]
各例の洗浄剤組成物について、調製した直後における初期(イニシャル)のpHと、50℃の雰囲気で1ヶ月間保存した後におけるpHを、以下の方法により測定した。その結果を表に示す。
なお、「50℃の雰囲気で1ヶ月間保存」の条件により、経時保存の影響を評価した。
【0061】
(調製した直後における初期(イニシャル)のpHの測定)
調製した直後の洗浄剤組成物を、25℃に調温した。そして、ガラス電極式pHメーター(製品名:HM−30G、東亜ディーケーケー(株)製)を用いて、ガラス電極を、当該調温後の洗浄剤組成物に直接に浸漬し、1分間経過後に示すpHの値を読み取ることによりpHの測定を行った。
【0062】
(50℃の雰囲気で1ヶ月間保存した後におけるpHの測定)
各例の洗浄剤組成物をそれぞれガラス瓶(製品名:SV−50)に入れ、50℃の恒温槽(製品名:Hot Air Rapid Drying Oven Soyokaze、(株)いすゞ製作所社製)にて1ヶ月間保存した。その後、保存後の洗浄剤組成物を25℃に調温した。そして、前記ガラス電極式pHメーターを用いて、ガラス電極を、当該調温後の洗浄剤組成物に直接に浸漬し、1分間経過後に示すpHの値を読み取ることによりpHの測定を行った。
【0063】
[洗浄力の評価]
調製した直後と、50℃の雰囲気で1ヶ月間保存した後の各例の洗浄剤組成物を、下記トリガー式スプレーヤーにそれぞれ収容し、25℃に調温したスプレー剤を用いて、以下に示す洗浄力の評価を行った。
トリガー式スプレーヤー:ライオン(株)製の商品名「ルックオーツークリーナー」の容器;スプレー量1回(1ストローク)当たり1.2mL。霧状にも泡状にも吐出できる切替えが可能なもの。
【0064】
洗浄力の評価:
ベージュ色のアクリル製カーペット(サンゲツサンフルーティFH−1)に、トマトジュース(キリンビバレッジ製の小岩井無添加野菜21種の野菜100%)1gを、直径約3cmの円状に滴下し、汚れ部位をつくった。
その汚れ部位に対して、前記スプレー剤を1回スプレーし、1分間放置した後、綿タオルでよく拭き取った。このときの汚れの落ち具合を、下記評価基準に基づいて目視判定した。その結果を表に示す。
評価基準(◎、○が合格範囲)
◎:汚れが全く残っていなかった。
○:よく見ると、汚れがわずかに残っている状態であった。
△:汚れ落ちにムラがあった。
×:ほとんど汚れが落ちていなかった。
【0065】
[拭き跡残りのなさの評価]
水平面に置かれた縦20cm×横20cmの鏡の面における、四辺のうちの対向する一組の辺のそれぞれ中点付近同士を結ぶ線上であって、かつ、その一組の辺のうちの一方の辺から2cm離れた位置に、洗浄剤組成物0.1mLを滴下した。
次いで、縦23cm×横18cmのティッシュペーパーを8等分に切り、その1/8のものを、さらに4つ折りにしたものを用いて、前記滴下した洗浄剤組成物0.1mLを、前記一組の辺のうちの一方の辺から2cm離れた位置と、前記一組の辺のうちの他方の辺から2cm離れた位置との間を、一往復するように、鏡の面を拭いた。
その後、5分間静置して乾燥し、鏡の面における拭き跡残りの状態を、下記評価基準に基づいて目視判定した。その結果を表に示す。
評価基準(◎、○が合格範囲)
◎:拭き跡が全く残っていなかった。
○:よく見ると、拭き跡がわずかに残っている状態であった。
△:拭き跡が残っているのが分かる状態であった。
×:拭き跡が筋状に白く残っているのがはっきり分かる状態であった。
【0066】
[拭き取りやすさの評価]
調製した直後の各例の洗浄剤組成物を、前記トリガー式スプレーヤーにそれぞれ収容し、25℃に調温したスプレー剤を用いて、以下に示す評価を行った。
ベージュ色のアクリル製カーペット(サンゲツサンフルーティFH−1)に、当該スプレー剤を1回スプレーし、洗浄剤組成物が噴霧塗布された部位を綿タオルで拭き取るときの拭き取りやすさを、泡の除去の容易さの観点から、下記評価基準に基づいて評価した。
評価基準(○、△が合格範囲)
○:泡を除去しやすかった。
△:泡が残って、やや除去しにくかった。
×:いつまでも泡が残って除去しにくかった。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
表1、2の結果から明らかなように、本発明に係る実施例1〜16の洗浄剤組成物は、経時に伴うpHの変化が抑制されて、経時保存後においても良好な洗浄力を有すると共に、拭き跡残りも低減されていることが確認できた。
【0070】
実施例2と実施例12、13、14との対比から、本発明においては、キレート剤(D)をさらに含有することにより、良好な洗浄力と拭き跡残りの低減との両立が図られることに加えて、洗浄力がより一層向上することが確認できた。これは、(D)成分の配合に伴って過酸化水素をより安定に配合できるため、と考えられる。
また、拭き取りやすさの評価結果から、実施例1〜16の洗浄剤組成物は、いずれもスプレー剤の容器に収容される内溶液として適していることが確認できた。
【0071】
一方、(A)成分を欠く比較例1の洗浄剤組成物は、洗浄力が悪いことが確認された。
また、界面活性剤を用いていない比較例2の洗浄剤組成物は、洗浄力と拭き跡残りのいずれも悪いことが確認された。
実施例2と比較例3、4との対比から、界面活性剤として両性界面活性剤を用いた場合、良好な洗浄力と拭き跡残りの低減との両立を図ることができるのに対し、アニオン界面活性剤を用いた場合、良好な洗浄力は得られるものの、拭き跡残りを充分に低減できないことが分かる。
また、比較例7、8の結果から、両性界面活性剤(B)と化合物(C)との混合割合である(B)/(C)が2未満であると、拭き跡残りを充分に低減できないことが確認された。
また、比較例5、6の結果から、化合物(C)が未配合又は0.3質量%未満であると、50℃の雰囲気で1ヶ月間保存した後における洗浄剤組成物のpHが5未満まで低下し、経時に伴うpHの低下を抑制できず、それに伴って洗浄力も悪くなることが確認された。
また、比較例9の結果から、組成物のpHが8を超えると、経時保存後において洗浄力が低下することが確認された。これは、過酸化水素の分解が生じたことに起因する、と考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素(A)と、
両性界面活性剤(B)と、
pH5〜8の溶液において緩衝機能を有する化合物(C)0.3〜1.5質量%とを含有し、当該両性界面活性剤(B)と当該化合物(C)との混合割合[(B)/(C)]が質量比で2〜15であり、
かつ、pHが8以下であることを特徴とする拭き取り用洗浄剤組成物。
【請求項2】
前記化合物(C)はクエン酸である請求項1記載の拭き取り用洗浄剤組成物。
【請求項3】
キレート剤(D)(ただし、前記化合物(C)を除く)をさらに含有する請求項1又は請求項2記載の拭き取り用洗浄剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の拭き取り用洗浄剤組成物を、トリガー式スプレーヤーに収容し、当該トリガー式スプレーヤーから吐出して被洗物に塗布し、当該塗布した部位を拭き取ることを特徴とする洗浄方法。

【公開番号】特開2010−195865(P2010−195865A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39575(P2009−39575)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】