説明

捲回型の蓄電デバイス

【課題】電極に対して均一にイオンをドーピングする。
【解決手段】電極シート群11の一方の最外層には負極シート13が設けられ、他方の最外層には負極シート14が設けられる。負極シート13は負極集電体21を備えており、負極集電体21の一方面には負極合材層22が塗工され、負極集電体21の他方面には導電層23を介して金属リチウム箔24が設けられる。同様に、負極シート14は負極集電体25を備えており、負極集電体25の一方面には負極合材層26が塗工され、負極集電体25の他方面には導電層27を介して金属リチウム箔28が設けられる。これにより、負極合材層22,26の全域に渡って金属リチウム箔24,28を対向して配置することができ、負極合材層22,26に対してリチウムイオンを均一にプレドープすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極シート群を巻いて形成される捲回型の蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車や電気機器等に使用される蓄電デバイスとして、リチウムイオンキャパシタやリチウムイオン二次電池等がある。このような蓄電デバイスの一形態として、正極シートおよび負極シートを積層して巻き取るようにした捲回型の蓄電デバイスがある(例えば、特許文献1参照)。また、特許文献1に記載される蓄電デバイスにおいては、蓄電デバイス内に金属リチウムが組み込まれている。これにより、金属リチウムから負極に対してリチウムイオンをドーピングすることができ、蓄電デバイスのエネルギー密度を高めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−156330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載される蓄電デバイスにおいては、負極に対して部分的に金属リチウムが貼り付けられている。しかしながら、部分的に金属リチウムを配置することは、各電極内におけるドーピング量のばらつきを招く要因となっていた。このように、各電極内でドーピング量をばらつかせることは、ドーピング速度を低下させてドーピング時間を増大させる要因となっていた。また、各電極内におけるドーピング量のばらつきは、負極電位のばらつきを招いて蓄電デバイスの品質を低下させる要因となっていた。
【0005】
本発明の目的は、電極に対して均一にイオンをドーピングすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の捲回型の蓄電デバイスは、複数枚の電極シートを重ねた電極シート群を巻いて形成される捲回型の蓄電デバイスであって、正極と負極との一方は、前記電極シート群の一方の最外層に設けられ、第1電極集電体の片面に第1電極合材層が塗工される第1電極シートと、前記電極シート群の他方の最外層に設けられ、第2電極集電体の片面に第2電極合材層が塗工される第2電極シートとを有し、前記正極と前記負極との他方は、前記第1電極シートと前記第2電極シートとの間に設けられ、第3電極集電体の両面に第3電極合材層が塗工される第3電極シートを有し、前記第1電極集電体と前記第2電極集電体との少なくともいずれか一方の未塗工面に、前記第1電極合材層と前記第2電極合材層との少なくともいずれか一方にイオンを供給するイオン供給シートを設け、前記電極集電体と前記イオン供給シートとの間には、前記電極集電体と前記イオン供給シートとを電気的に接続するとともに、前記イオン供給シートからのイオンを通過させる導電層が設けられることを特徴とする。
【0007】
本発明の捲回型の蓄電デバイスは、前記イオン供給シートは、前記第1電極集電体と前記第2電極集電体との双方に設けられることを特徴とする。
【0008】
本発明の捲回型の蓄電デバイスは、前記第1電極集電体および前記第2電極集電体に、複数の貫通孔が形成されることを特徴とする。
【0009】
本発明の捲回型の蓄電デバイスは、前記第1電極合材層および前記第2電極合材層は、前記第3電極シート側に塗工されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電極集電体の一方面に電極合材層を塗工し、電極集電体の他方面にイオン供給シートを設けるようにしたので、電極合材層とイオン供給シートとの間隔を一定にすることができ、電極合材層に対して均一にイオンをドーピングすることが可能となる。また、電極集電体にイオン供給シートを設けることにより、イオン供給シートを支持する集電体を削減することができ、蓄電デバイスのエネルギー密度を高めることが可能となる。しかも、電極集電体とイオン供給シートとの間に導電層を設けるようにしたので、電極集電体にイオン供給シートを設けた場合であっても、プレドープ速度を適度に抑制することが可能となる。さらに、導電層の電気抵抗を調整することでプレドープ速度を自在に調整することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態である捲回型の蓄電デバイスを概略的に示す断面図である。
【図2】蓄電デバイス内に収容される電極シート群を概略的に示す断面図である。
【図3】図1の範囲Xを拡大して示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施の形態である捲回型の蓄電デバイスが備える電極シート群を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施の形態である捲回型の蓄電デバイスが備える電極シート群を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は本発明の一実施の形態である捲回型の蓄電デバイス10を概略的に示す断面図である。また、図2は蓄電デバイス10内に収容される電極シート群11を概略的に示す断面図である。なお、図2には巻き取られる前の電極シート群11が示されている。図1に示すように、蓄電デバイス10の容器12には、長尺状の電極シート群11が巻かれた状態で収容されている。図2に示すように、電極シート群11は、交互に積層された負極シート13,14と正極シート15とによって構成されている。また、負極シート13,14および正極シート15の間にはセパレータ16が設けられている。なお、図1に示す電極シート群11は図2の左端から巻き取られているが、これに限られることはなく、図2の右端から電極シート群11を巻き取るようにしても良い。
【0013】
図2に示すように、電極シート群11の一方の最外層には、負極20を構成する負極シート(第1電極シート)13が設けられている。この負極シート13は、多数の貫通孔21aを備える負極集電体(第1電極集電体)21を備えている。負極集電体21の一方面(片面)には、負極合材層(第1電極合材層)22が塗工されており、負極集電体21の他方面(未塗工面)には、導電層23を介して金属リチウム箔(イオン供給シート)24が設けられている。また、電極シート群11の他方の最外層には、負極20を構成する負極シート(第2電極シート)14が設けられている。この負極シート14は、多数の貫通孔25aを備える負極集電体(第2電極集電体)25を備えている。負極集電体25の一方面(片面)には、負極合材層(第2電極合材層)26が塗工されており、負極集電体25の他方面(未塗工面)には、導電層27を介して金属リチウム箔(イオン供給シート)28が設けられている。さらに、負極集電体21,25の一端部には端子接合部21b,25bが設けられている。これらの端子接合部21b,25bは互いに接合されるとともに、端子接合部21b,25bには図示しない負極端子が接合される。
【0014】
なお、図示する金属リチウム箔24,28は、それぞれに対向する負極合材層22,26と同等の面積を有する大きさに形成されているが、これに限られることはなく、負極合材層22,26よりも小さく金属リチウム箔24,28を形成しても良い。また、イオン供給シートとして金属リチウム箔24,28を用いているが、これに限られることはなく、リチウム−アルミニウム合金等を用いてイオン供給シートを形成しても良い。さらに、金属リチウムを圧延した金属リチウム箔24,28を用いるだけでなく、蒸着処理を施して導電層23,27上に金属リチウム層を形成しても良い。
【0015】
また、負極シート13と負極シート14との間には、正極30を構成する正極シート(第3電極シート)15が設けられている。この正極シート15は、正極集電体(第3電極集電体)31と、正極集電体31の両面に塗工される正極合材層(第3電極合材層)32,33とによって構成される。また、正極集電体31の一端部には端子接合部31aが設けられており、この端子接合部31aには図示しない正極端子が接合される。なお、負極シート13,14の負極合材層22,26は、正極シート15側の負極集電体21,25に塗工されている。これにより、負極合材層22と正極合材層32とはセパレータ16を介して対向した状態となり、負極合材層26と正極合材層33とはセパレータ16を介して対向した状態となる。
【0016】
なお、図2に示すように、負極シート14の負極合材層26は、負極シート13の負極合材層22に比べて短く設定されている。また、正極シート15の両面に設けられる正極合材層32,33は、それぞれの面で異なる長さに設定されている。すなわち、図1に示すように、電極シート群11を巻き取った状態のもとで、負極合材層22,26と正極合材層32,33とが全周に渡って対向するように、負極合材層22,26や正極合材層32,33の長さ寸法が調整されている。
【0017】
負極シート13,14の負極合材層22,26には、負極活物質としてポリアセン系有機半導体(PAS)が含まれている。このPASにはリチウムイオンを可逆的にドーピング・脱ドーピングさせることが可能である。また、正極シート15の正極合材層32,33には、正極活物質として活性炭が含まれている。この活性炭にはリチウムイオンやアニオンを可逆的にドーピング・脱ドーピングさせることが可能である。このように、正極活物質として活性炭を採用し、負極活物質としてPASを採用することにより、蓄電デバイス10はリチウムイオンキャパシタとして機能することになる。なお、本発明が適用される蓄電デバイスとしては、リチウムイオンバッテリや電気二重層キャパシタであっても良く、他の形式のバッテリやキャパシタであっても良い。また、本明細書において、ドーピング(ドープ)とは、吸蔵、担持、吸着、挿入等を意味している。すなわち、ドープとは、正極活物質や負極活物質に対してリチウムイオン等が入る状態を意味している。また、脱ドーピング(脱ドープ)とは、放出、脱離等を意味している。すなわち、脱ドープとは、正極活物質や負極活物質からリチウムイオン等が出る状態を意味している。
【0018】
前述したように、負極シート13,14の負極集電体21,25には、導電層23,27が形成されるとともに、この導電層23,27上には金属リチウム箔24,28が貼り付けられている。負極集電体21,25と金属リチウム箔24,28との間に介在する導電層23,27は、ケッチェンブラック等の導電性材料とポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のバインダーとを混合することで形成されている。この導電層23,27は、負極集電体21,25と金属リチウム箔24,28とを電気的に接続する機能を有している。また、導電層23,27は多数の微細な隙間を有しており、導電層23,27は金属リチウム箔24,28からのリチウムイオン(イオン)を厚み方向に通過させる構造となっている。さらに、負極合材層と金属リチウム箔24,28との間の負極集電体21,25には、イオン通過用の貫通孔21a,25aが多数形成されている。このように蓄電デバイス10を構成することにより、電解液の注入に伴って金属リチウム箔24,28から負極合材層22,26に対するリチウムイオンのドープ(以下、プレドープという)が開始される。
【0019】
このように、負極シート13,14に対してリチウムイオンをプレドープすることにより、負極電位を低下させて蓄電デバイス10のセル電圧を高めることが可能となる。また、負極電位の低下によって負極シート13,14を深く放電させることが可能となり、蓄電デバイス10のセル容量(放電容量)を高めることが可能となる。さらに、プレドープによって正極シート15の静電容量が高められるため、蓄電デバイス10の静電容量を高めることが可能となる。このように、蓄電デバイス10のセル電圧、セル容量、静電容量が高められることから、蓄電デバイス10のエネルギー密度を向上させることが可能となる。なお、蓄電デバイス10の高容量化を図る観点から、正極30と負極20とを短絡させた後の正極電位が2.0V(対Li/Li)以下となるように、金属リチウム箔24,28の量を設定することが好ましい。
【0020】
ここで、図3は図1の範囲Xを拡大して示す断面図である。なお、図1〜図3においては、本発明の理解を容易にするため、負極シート13,14、正極シート15、セパレータ16の間に隙間を描いているが、実際の蓄電デバイス10においては、負極シート13,14、正極シート15、セパレータ16が互いに密着していることはいうまでもない。図3に矢印αで示すように、プレドープ時には、金属リチウム箔24,28から放出されるリチウムイオンが、導電層23,27および負極集電体21,25を通過して負極合材層22,26に移動する。前述したように、導電層23,27はリチウムイオンを通過させる構造を有しており、負極集電体21,25にはイオン通過用の貫通孔21a,25aが形成されている。これにより、金属リチウム箔24,28から負極合材層22,26に対して、スムーズにリチウムイオンがプレドープされることになる。
【0021】
また、負極集電体21,25の一方面には負極合材層22,26が設けられる一方、負極集電体21,25の他方面には導電層23,27を介して金属リチウム箔24,28が設けられている。すなわち、全域に渡って負極合材層22,26に対向するように金属リチウム箔24,28が配置されることから、図2に矢印αで示すように、負極合材層22,26と金属リチウム箔24,28との間隔が全域に渡ってほぼ一定となる。これにより、金属リチウム箔24,28から負極合材層22,26に移動するリチウムイオンの移動抵抗がほぼ一定となり、負極合材層22,26に対してリチウムイオンが均一にプレドープされることになる。したがって、負極シート13,14の各部位における電位のばらつきが抑制され、充放電時における局所的な過充電や過放電が回避される。また、局所的な過充電や過放電が回避されることから、蓄電デバイス10の性能向上や品質安定を図ることが可能となる。さらに、負極合材層22,26に対して満遍なくプレドープされることから、プレドープ時における負極合材層22,26の局部的な電位低下を回避することができ、プレドープ速度の低下を抑制することが可能となる。このように、プレドープ速度の低下を抑制することから、プレドープ時間を短縮することが可能となる。
【0022】
しかも、負極集電体21,25に金属リチウム箔24,28を貼り付けるようにしたので、金属リチウム箔24,28を支持するための集電体や、この集電体に設けられる端子接合部を削減することが可能となる。また、金属リチウム箔24,28および集電体からなるリチウム極を省くことができるため、これまでリチウム極用に設けられていたセパレータを削減することが可能となる。これにより、蓄電デバイス10のエネルギー密度を高めることが可能となる。また、負極集電体21,25と金属リチウム箔24,28との間に導電層23,27を介在させるようにしたので、負極シート13,14に金属リチウム箔24,28を貼り付けた場合であっても、プレドープ速度を適度に抑制することが可能となる。すなわち、負極集電体21,25に対して直に金属リチウム箔24,28を貼り付けた場合に比べて、導電層23,27を設けることで負極集電体21,25と金属リチウム箔24,28との間の電気抵抗を高めることができる。これにより、リチウム析出や腐食を招くことのないように、プレドープ速度を適度に抑制することが可能となる。さらに、導電層23,27に含まれる導電性材料の種類や比率を変更することにより、導電層23,27の電気抵抗を調整することが可能となる。このように、導電層23,27の電気抵抗を調整するだけで、プレドープ速度を自在に調整することも可能となる。
【0023】
前述の説明では、2枚の負極シート13,14によって負極20を構成し、1枚の正極シート15によって正極30を構成しているが、これに限られることはなく、2枚の正極シート(第1電極シート,第2電極シート)によって正極を構成し、正極シート間に配置される1枚の負極シート(第3電極シート)によって負極を構成しても良い。この場合には、正極シートの正極集電体(第1電極集電体,第2電極集電体)に対して多数の貫通孔が形成される。そして、正極集電体の一方面(片面)に正極合材層(第1電極合材層,第2電極合材層)が塗工され、正極集電体の他方面(未塗工面)に導電層を介して金属リチウム箔(イオン供給シート)が設けられる。また、負極シートが備える負極集電体(第3電極集電体)の両面に負極合材層(第3電極合材層)が塗工される。このように電極シート群を構成した場合であっても、前述した蓄電デバイス10と同じ効果を得ることが可能となる。なお、正極シートに金属リチウム箔を設けることにより、金属リチウム箔から正極合材層に対してプレドープが実施される。この場合には、後に蓄電デバイスを充電することにより、リチウムイオンを正極合材層から負極合材層に移動させることが可能となる。
【0024】
また、前述の説明では、負極集電体21,25の双方に対して金属リチウム箔24,28を設けるようにしているが、これに限られることはなく、一方の負極集電体21,25だけに金属リチウム箔24,28を設けても良い。ここで、図4は、本発明の他の実施の形態である捲回型の蓄電デバイスが備える電極シート群40を概略的に示す断面図である。なお、図4には、図2と同様に巻き取られる前の電極シート群40が示されている。また、図4において、図2に示す部材と同様の部材については、同一の符合を付してその説明を省略する。
【0025】
図4に示すように、電極シート群40の一方の最外層には負極シート13が設けられている。この負極シート13は負極集電体21を備えており、負極集電体21の一方面には負極合材層22が塗工され、負極集電体21の他方面には導電層23を介して金属リチウム箔24が貼り付けられる。また、電極シート群40の他方の最外層には、負極シート(第2電極シート)41が設けられている。この負極シート41は負極集電体25を備えており、負極集電体25の一方面には負極合材層26が塗工され、負極集電体25の他方面(未塗工面)は露出した状態となる。このように、一方の負極シート13だけに金属リチウム箔24を貼り付けた場合であっても、電極シート群40を巻き取ることにより、金属リチウム箔24はセパレータ16および負極集電体25を挟んで負極合材層26に対向することになる。このため、図4に矢印αおよびβで示すように、一枚の金属リチウム箔24から双方の負極合材層22,26に対してリチウムイオンをプレドープすることが可能となる。しかも、金属リチウム箔24と負極合材層22との間隔と、金属リチウム箔24と負極合材層26との間隔とは、ほぼ同じであることから、双方の負極合材層22,26に対して均一にプレドープすることが可能となる。なお、図示する場合には、負極集電体25の他方面は金属が露出した状態となっているが、これに限られることはなく、負極集電体25の他方面に前述した導電層27を形成しても良い。
【0026】
さらに、前述の説明では、図2に示すように、2枚の負極シート13,14と1枚の正極シート15とによって電極シート群11を構成しているが、これに限られることはなく、電極シート群を構成する正極シートや負極シートの枚数を変更しても良い。ここで、図5は本発明の他の実施の形態である捲回型の蓄電デバイスが備える電極シート群50を概略的に示す断面図である。なお、図5には、図2と同様に巻き取られる前の電極シート群50が示されている。また、図5において、図2に示す部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0027】
図5に示すように、電極シート群50は、負極51を構成する3枚の負極シート13,14,52と、正極53を構成する2枚の正極シート54,55とによって構成されている。電極シート群50の一方の最外層には負極シート13が設けられ、電極シート群50の他方の最外層には負極シート14が設けられる。また、電極シート群50の中心層には負極シート52が設けられる。この負極シート52は、負極集電体56と、負極集電体56の両面に塗工される負極合材層57,58とによって構成される。さらに、負極シート13,52の間には正極シート54が設けられ、負極シート14,52の間には正極シート55が設けられる。これらの正極シート54,55は、複数の貫通孔59a,60aが形成される正極集電体59,60と、正極集電体59,60の両面に塗工される正極合材層61,62とによって構成される。なお、正極シート54,55は負極シート13と負極シート14との間に設けられており、正極シート54,55のいずれかが第3電極シートを構成することになる。
【0028】
このように電極シート群50を構成した場合であっても、図5に矢印αで示すように、負極合材層22,26,57,58の各電極面内において、金属リチウム箔24,28との間隔はほぼ一定となる。すなわち、負極合材層22,26の各部位において金属リチウム箔24,28との間隔がほぼ一定となり、負極合材層57,58の各部位において金属リチウム箔24,28との間隔がほぼ一定となる。これにより、前述した蓄電デバイス10と同様に、各負極合材層22,26,57,58の電極面内におけるプレドープの均一化が図られる。したがって、各負極シート13,14,52の各部位における電位のばらつきが抑制され、蓄電デバイスの品質を向上させるとともにプレドープ時間の短縮を達成することが可能となる。
【0029】
なお、図2、図4および図5に示すように、電極シート群11,40,50の中心層に位置する正極集電体31や負極集電体56には貫通孔が形成されていない。このように、プレドープに必要な箇所にのみ貫通孔を形成することにより、貫通孔の加工コストや電極合材層の塗工コストを低減することができ、蓄電デバイスの製造コストを低減することが可能となる。なお、正極集電体31や負極集電体56に貫通孔を形成しても良いことはいうまでもない。
【0030】
以下、前述した蓄電デバイスの構成要素について下記の順に詳細に説明する。[A]正極シート、[B]負極シート、[C]正極集電体および負極集電体、[D]導電層、[E]セパレータ、[F]電解液、[G]容器。
【0031】
[A]正極シート
正極シートは、正極集電体とこれに一体となる正極合材層とを有している。蓄電デバイスをリチウムイオンキャパシタとして機能させる場合には、正極合材層に含まれる正極活物質として、リチウムイオン及び/又はアニオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能な物質を採用することが可能である。すなわち、リチウムイオンとアニオンとの少なくともいずれか一方を可逆的にドープ・脱ドープ可能な物質であれば特に限定されることはない。例えば、活性炭、遷移金属酸化物、導電性高分子、ポリアセン系物質等を用いることが可能である。
【0032】
例えば、活性炭は、アルカリ賦活処理され、かつ比表面積600m/g以上を有する活性炭粒子から形成することが好ましい。活性炭の原料としては、フェノール樹脂、石油ピッチ、石油コークス、ヤシガラ、石炭系コークス等が使用される。フェノール樹脂や石炭系コークスは比表面積を高くできるという理由から好適である。これらの活性炭のアルカリ賦活処理に使用されるアルカリ活性化剤は、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の塩類または水酸化物が好ましい。中でも、水酸化カリウムが好適である。アルカリ賦活の方法は、例えば、炭化物と活性剤を混合した後、不活性ガス気流中で加熱することにより行う方法が挙げられる。また、活性炭の原材料に予め活性化剤を担持させた後加熱して、炭化および賦活の工程を行う方法が挙げられる。さらに、炭化物を水蒸気などのガス賦活法で賦活した後、アルカリ活性化剤で表面処理する方法も挙げられる。このようなアルカリ賦活処理が施された活性炭は、ボールミル等の既知の粉砕機を用いて粉砕される。活性炭の粒度としては、一般的に使用される広い範囲のものを使用することが可能である。例えば、D50が2μm以上であり、好ましくは2〜50μm、特に2〜20μmが最も好ましい。また、平均細孔径が好ましくは10nm以下であり、比表面積が好ましくは600〜3000m/gである活性炭が好適である。中でも、800m/g以上、特には1300〜2500m/gであるのが好適である。
【0033】
また、蓄電デバイスをリチウムイオンバッテリとして機能させる場合には、正極合材層に含まれる正極活物質として、ポリアニン等の導電性高分子や、リチウムイオンを可逆的にドープ・脱ドープ可能な物質を採用することが可能である。例えば、正極活物質として五酸化バナジウム(V)やコバルト酸リチウム(LiCoO)を用いることが可能である。この他にも、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiFeO等のLi(x,y,zは正の数、Mは金属、2種以上の金属でもよい)の一般式で表されうるリチウム含有金属酸化物、あるいはコバルト、マンガン、バナジウム、チタン、ニッケル等の遷移金属酸化物または硫化物を用いることも可能である。特に、高電圧を求める場合には、金属リチウムに対して4V以上の電位を有するリチウム含有酸化物を用いることが好ましい。例えば、リチウム含有コバルト酸化物、リチウム含有ニッケル酸化物、あるいはリチウム含有コバルト−ニッケル複合酸化物が特に好適である。
【0034】
前述した活性炭等の正極活物質は、粉末状、粒状、短繊維状等に形成される。この正極活物質をバインダーと混合して電極スラリーが形成される。そして、正極活物質を含有する電極スラリーを正極集電体に塗工して乾燥させることにより、正極集電体上に正極合材層が形成される。なお、正極活物質と混合されるバインダーとしては、例えばSBR等のゴム系バインダーやポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリレート等の熱可塑性樹脂を用いることができる。また、正極合材層に対して、アセチレンブラック、グラファイト、金属粉末等の導電性材料を適宜加えるようにしても良い。
【0035】
[B]負極シート
負極シートは、負極集電体とこれに一体となる負極合材層とを有している。負極合材層に含まれる負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的にドープ・脱ドープできるものであれば特に限定されることはない。例えば、ケイ素、ケイ素化合物、グラファイト、種々の炭素材料、ポリアセン系物質、錫酸化物等を用いることが可能である。また、グラファイト(黒鉛)、ハードカーボン(難黒鉛化性炭素)、易黒鉛化性炭素、カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、カーボンブラック等は高容量化を図ることができるため負極活物質として好ましい。また、芳香族系縮合ポリマーの熱処理物であるポリアセン系有機半導体(PAS)は、高容量化を図ることができるため負極活物質として好適である。このPASはポリアセン系骨格構造を有する。このPASの水素原子/炭素原子の原子数比(H/C)は0.05以上、0.50以下の範囲内であることが好ましい。PASのH/Cが0.50を超える場合には、芳香族系多環構造が充分に発達していないことから、リチウムイオンのドープ・脱ドープがスムーズに行われず、蓄電デバイスの充放電効率が低下するおそれがある。PASのH/Cが0.05未満の場合には、蓄電デバイスの容量が低下するおそれがある。
【0036】
前述したPAS等の負極活物質は、粉末状、粒状、短繊維状等に形成される。この負極活物質をバインダーと混合して電極スラリーが形成される。そして、負極活物質を含有する電極スラリーを、負極集電体に塗工して乾燥させることにより、負極集電体上に負極合材層が形成される。なお、負極活物質と混合されるバインダーとしては、例えば、ポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリレート等の熱可塑性樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダーを用いることができる。これらの中でもフッ素系バインダーを用いることが好ましい。このフッ素系バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体、エチレン−4フッ化エチレン共重合体、プロピレン−4フッ化エチレン共重合体等が挙げられる。また、負極合材層に対して、アセチレンブラック、グラファイト、金属粉末等の導電性材料を適宜加えるようにしても良い。
【0037】
[C]正極集電体および負極集電体
正極集電体および負極集電体の材料としては、一般にバッテリやキャパシタに提案されている種々の材料を用いることが可能である。例えば、正極集電体の材料として、アルミニウム、ステンレス鋼等を用いることができる。負極集電体の材料として、ステンレス鋼、銅、ニッケル等を用いることができる。また、正極集電体や負極集電体に貫通孔を形成する場合において、貫通孔の開口率としては通常40〜60%である。なお、リチウムイオンの移動を阻害しないものであれば、貫通孔の大きさ、個数、形状等について特に限定されることはない。
【0038】
[D]導電層
導電層の材料としては、導電性が付与された多孔質材料を用いることが可能である。例えば、ケッチェンブラック等の導電性材料とポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のバインダーとを混合してスラリーを形成し、このスラリーを負極集電体や正極集電体に塗工することで導電層が形成される。導電性材料としては、アセチレンブラック、グラファイト、金属粉末等を用いることが可能である。また、バインダーとしては、ポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等の含フッ素系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリレート等の熱可塑性樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系バインダーを用いることが可能である。なお、導電性が付与されたセラミック材料によって導電層を形成しても良い。
【0039】
[E]セパレータ
セパレータとしては、電解液、正極活物質、負極活物質等に対して耐久性があり、連通気孔を有する電子伝導性のない多孔質体等を用いることができる。例えば、紙(セルロース)、ガラス繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなる布、不織布あるいは多孔体が用いられる。また、セパレータを留める際には粘着テープや接着剤を用いることが可能であるが、これら粘着テープや接着剤についても電解液、正極活物質、負極活物質等に対して不活性であることが好ましい。また、セパレータの材料として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンジフルオライド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステル等を用いることにより、熱融着処理を施してセパレータを留めることも可能である。なお、セパレータの厚みは、電解液の保持量、セパレータの強度、蓄電デバイスの内部抵抗等を勘案して適宜設定することができる。
【0040】
[F]電解液
電解液としては、高電圧でも電気分解を起こさないという点、リチウムイオンが安定に存在できるという点から、リチウム塩を含む非プロトン性有機溶媒を用いることが好ましい。非プロトン性有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、塩化メチレン、スルホラン等を単独あるいは混合した溶媒が挙げられる。また、リチウム塩としては、例えば、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LIN(CSO)等が挙げられる。また、電解液中の電解質濃度は、電解液による内部抵抗を小さくするため、少なくとも0.1モル/L以上とすることが好ましい。更には、0.5〜1.5モル/Lの範囲内とすることが好ましい。
【0041】
また、有機溶媒に代えてイオン性液体(イオン液体)を用いても良い。イオン性液体は各種カチオン種とアニオン種の組み合わせが提案されている。カチオン種としては、例えば、NメチルNプロピルピペリジニウム(PP13)、1エチル3メチルイミダゾリウム(EMI)、ジエチルメチル2メトキシエチルアンモニウム(DEME)等が挙げられる。また、アニオン種としては、ビス(フルオロスルフォニル)イミド(FSI)、ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド(TFSI)、PF、BF等が挙げられる。
【0042】
[G]容器
容器としては、一般に電池に用いられている種々の材質を用いることができる。例えば、鉄やアルミニウム等の金属材料を使用しても良い。また、アルミニウム層や樹脂層等を備えるラミネートフィルム材料を使用しても良い。また、容器の形状についても特に限定されることはない。円筒型や角型など用途に応じて適宜選択することが可能である。
【0043】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0044】
10 蓄電デバイス
11,40,50 電極シート群
13,41 負極シート(第1電極シート)
14 負極シート(第2電極シート)
15,54,55 正極シート(第3電極シート)
20,51 負極
21 負極集電体(第1電極集電体)
21a,25a 貫通孔
22 負極合材層(第1電極合材層)
23,27 導電層
24,28 金属リチウム箔(イオン供給シート)
25 負極集電体(第2電極集電体)
26 負極合材層(第2電極合材層)
30,53 正極
31 正極集電体(第3電極集電体)
32,33 正極合材層(第3電極合材層)
52 負極シート
56 負極集電体(第3電極集電体)
57,58 負極合材層(第3電極合材層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の電極シートを重ねた電極シート群を巻いて形成される捲回型の蓄電デバイスであって、
正極と負極との一方は、
前記電極シート群の一方の最外層に設けられ、第1電極集電体の片面に第1電極合材層が塗工される第1電極シートと、
前記電極シート群の他方の最外層に設けられ、第2電極集電体の片面に第2電極合材層が塗工される第2電極シートとを有し、
前記正極と前記負極との他方は、
前記第1電極シートと前記第2電極シートとの間に設けられ、第3電極集電体の両面に第3電極合材層が塗工される第3電極シートを有し、
前記第1電極集電体と前記第2電極集電体との少なくともいずれか一方の未塗工面に、前記第1電極合材層と前記第2電極合材層との少なくともいずれか一方にイオンを供給するイオン供給シートを設け、
前記電極集電体と前記イオン供給シートとの間には、前記電極集電体と前記イオン供給シートとを電気的に接続するとともに、前記イオン供給シートからのイオンを通過させる導電層が設けられることを特徴とする捲回型の蓄電デバイス。
【請求項2】
請求項1記載の捲回型の蓄電デバイスにおいて、
前記イオン供給シートは、前記第1電極集電体と前記第2電極集電体との双方に設けられることを特徴とする捲回型の蓄電デバイス。
【請求項3】
請求項1または2記載の捲回型の蓄電デバイスにおいて、
前記第1電極集電体および前記第2電極集電体に、複数の貫通孔が形成されることを特徴とする捲回型の蓄電デバイス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の捲回型の蓄電デバイスにおいて、
前記第1電極合材層および前記第2電極合材層は、前記第3電極シート側に塗工されることを特徴とする捲回型の蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−199210(P2011−199210A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67140(P2010−67140)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】