排ガス浄化触媒及びこれを用いた排ガス浄化装置
【課題】従来に比してより低温でPMを燃焼できるとともに、高温でのPM燃焼速度が大きい排ガス浄化触媒及びこれを用いた排ガス浄化装置を提供する。
【解決手段】酸素放出能を有する複合酸化物に、Ag及び貴金属を共担持してなる排ガス浄化触媒及びこれを用いた排ガス浄化装置1によれば、高温でのPM燃焼速度が増大するとともに、従来に比してより低温でPMを燃焼できる。また、強制再生による燃費ロス、EM悪化、触媒劣化を抑制でき、自動車への負担を軽減できる。
【解決手段】酸素放出能を有する複合酸化物に、Ag及び貴金属を共担持してなる排ガス浄化触媒及びこれを用いた排ガス浄化装置1によれば、高温でのPM燃焼速度が増大するとともに、従来に比してより低温でPMを燃焼できる。また、強制再生による燃費ロス、EM悪化、触媒劣化を抑制でき、自動車への負担を軽減できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒及びこれを用いた排ガス浄化装置に関し、特に、排ガス中の粒子状物質を従来に比して低温で燃焼できる排ガス浄化触媒及びこれを用いた排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル排ガス中に含まれる粒子状物質(PM:particulate matter)の浄化には、ディーゼル微粒子除去装置(DPF:diesel particulate filter)が通常用いられている。PMは、主として燃料に由来するものであり、易燃焼成分である有機物質と、難燃焼成分であるsoot等から構成される。有機物質の燃焼温度はおよそ200℃〜550℃であるが、sootの燃焼にはおよそ550℃〜700℃の高温を要する。このため、DPFに貴金属系触媒を担持してなる従来のキャタライズドスートフィルタ(CSF:catalyzed soot filter)では、有機物質に対しては高い浄化性能を示すものの、sootに対する浄化性能は低い。
【0003】
このようなことから、PMの浄化に際しては、再生や添加剤等の付加技術を用いてsootの燃焼を強制的に行っているのが現状である。しかしながら、DPFによるPM捕集は排ガスの圧損の原因となるうえ、強制再生を行うことによる燃費のロスや、PM燃焼熱によるDPFの溶損、触媒の劣化といった不具合が生じる。従って、sootを含めたPMの燃焼温度の低温化を図ることにより、自動車への負担の軽減が望まれている。
【0004】
自動車への負担を軽減させる方法としては、再生頻度の低下や高効率付加技術の他、DPFを用いることなく、触媒のみでPMを連続燃焼させる方法等が考えられる。また、このような方法に用いられるPM低温燃焼触媒として、貴金属系触媒や複合酸化物触媒等が提案されている。これらの触媒によれば、sootの燃焼に対して効果が認められるものの、燃焼温度は450℃〜600℃と依然として高温である。
【0005】
例えば、Ag及び/又はCoで安定化されたセリア(CeO2)を、Ag当量で5〜90mol%有する白金族金属非含有触媒組成物が提案されている(特許文献1参照)。この発明では硝酸塩分解法により触媒組成物が調製されており、このような触媒組成物を備えたDPFによれば、低温下であっても、従来の触媒付DPFに比して活性であり、経済性と効率の両面で優れるとされている。
【0006】
また、銀、銅及びそれらの酸化物とセリアとを含む触媒を備えたDPFクリーニング装置が提案されている(特許文献2参照)。この発明によれば、PMを濾過除去するのに用いられるフィルタを、ディーゼルエンジンの全運転領域に亘り効率的に浄化することができるとされている。
【0007】
また、ガス流中の液体又は固体の汚染物質を酸化する方法において、触媒活性化合物としてAg2Oを含む複合酸化物を用いることが提案されている(特許文献3参照)。この発明では、固相反応法によりAg2Oを含む複合酸化物が調製されており、この方法によれば、排ガス中から液体又は固体の汚染物質を分離して燃焼することにより、汚染物質の放出を減少、防止することができるとされている。
【0008】
また、多孔質性の耐火性3次元構造体と、耐火性3次元構造体の表面に担持されたLiAlO3からなる中間層と、中間層の上面に担持された触媒層と、を備え、複合酸化物に貴金属を担持してなる触媒が用いられたディーゼルパティキュレート浄化用フィルタが提案されている(特許文献4参照)。この発明によれば、低温域でSOFを効率よく吸着、酸化燃焼してSOFの排出を防止できるとともに、SOFの燃焼熱を利用してドライスーツを燃焼させることができるとされている。
【0009】
また、PMの燃焼には二酸化窒素(NO2)が高活性を示すことから、DPFの上流にNO2生成触媒を配置する方法や(特許文献5参照)、DPFにNO2生成触媒を塗布する方法(特許文献6参照)等が提案されている。これらの方法によれば、通常ではPMが自己燃焼しない温度域であっても、NO2を利用することによりPMを燃焼除去できるとされている。ただし、NOxが少ない条件下では、PMを燃焼促進する効果が小さく無意味であり、高温条件下では、NOとNO2の濃度平衡がNO側に偏るため、NO2によるPM燃焼促進効果は極めて小さくなる。
【0010】
また、NO2でのPM燃焼効率をさらに高めるため、NO2生成触媒とPM燃焼触媒とを組み合わせた技術も公知である。例えば、NO2生成用の第1触媒と、転化されたNO2をPMと反応させる第2触媒とを、2層又は混合層の状態で担持させたフィルタを備えるディーゼルエンジンの排気浄化装置が提案されている(特許文献7参照)。この発明によれば、第1触媒で生成したNO2とPMとを第1触媒で反応させることにより、PMを効率的に除去させることができるとされている。ただし、この発明では、第2触媒が第1触媒に被覆されている、又は混合されている状態でコートされているため、実際にはPMと第2触媒は接触確率が非常に低く、効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0011】
また、貴金属を無機酸化物に担持させた貴金属触媒層を表層に有し、遷移金属を含む遷移金属触媒層を内層に有する被覆層を備える排ガス浄化材が提案されている(特許文献8参照)。この発明によれば、パティキュレートの燃焼に対して高い触媒活性が得られるとされている。ただし、PMの燃焼は固体−固体反応であるため、表層触媒とPMは接触できるものの、内層触媒とPMは接触できず、内層触媒の性能を十分に発揮することができない。
【特許文献1】特開2004−42021号公報
【特許文献2】特開2001−73748号公報
【特許文献3】特表2000−502598号公報
【特許文献4】特開平8−173770号公報
【特許文献5】特開平1−318715号公報
【特許文献6】特開2003−293730号公報
【特許文献7】特開2001−263051号公報
【特許文献8】特開2001−157845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、内燃機関から排出される排ガス温度は、200℃〜450℃と低温であることから、再生処理等を行わずして、排ガス温度域でPMを連続燃焼することは困難である。このため、PMの浄化に際しては、高温下での再生処理が不可欠であり、十分な耐熱性を有する触媒が必要である。
【0013】
しかしながら、従来の貴金属系触媒では、ガソリン排ガスの場合と同様に貴金属の凝集が起こるうえ、担体として用いられる酸化物等の構造破壊により性能が低下するため、耐熱性が良好であるとは言えない。また、従来の複合酸化物触媒は、それ自体が高温焼成により構造形成されるものであるため、耐熱性に関しては問題無いものの、sootの燃焼に対する初期性能の向上が課題となっている。
【0014】
また、運転条件によってはsootが全く燃焼しない場合がある。このときに蓄積したPMはDPFの目詰まりを引き起こし、ひいてはDPFによる圧力損失の増大を招くことから、蓄積したPMを定期的に除去する必要がある。例えば、外部エネルギーによりDPFの温度を600℃付近まで上昇させて燃焼除去することにより、DPFの再生処理が行われている。
【0015】
しかしながら、このような再生処理に伴い、燃費悪化やエミッション悪化、システムの複雑化等、多くのデメリットが生じているのが現状である。このようなデメリットを低減するためには、再生時の温度を低下させること、又は再生時間を短くすることが必要である。
【0016】
従って、低温度域でPMを燃焼することができ、且つ耐熱性に優れた材料の開発が求められている。ディーゼル排ガスでは、ガソリン排ガスに比して耐熱条件は緩いものの、今後の大排気量/高出力ENGや、直下レイアウト構造等を考慮すればなおのことである。
【0017】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、より低温でPMを燃焼できるとともに、高温でのPM燃焼速度が大きい排ガス浄化触媒、及びこれを用いた排ガス浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、酸素放出能を有する複合酸化物にAg及び貴金属を共担持してなる排ガス浄化触媒によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0019】
(1) 内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質を浄化するための排ガス浄化触媒であって、酸素放出能を有する複合酸化物と、この複合酸化物に共担持されたAg及び貴金属と、を有し、前記複合酸化物が、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素よりなる群から選ばれる少なくとも2以上の元素を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒。
【0020】
(2) 前記貴金属が、Ru、Pd、及びPtよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の元素を含み、前記排ガス浄化触媒に対する前記貴金属の含有量が、0.1質量%〜3.0質量%である(1)記載の排ガス浄化触媒。
【0021】
(3) 内燃機関の排ガス経路に配置され、前記内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質を浄化する排ガス浄化装置であって、フィルタと、このフィルタの表面に形成された触媒層と、を有する浄化部を備え、前記触媒層が、(1)又は(2)記載の排ガス浄化触媒を有することを特徴とする排ガス浄化装置。
【0022】
(4) 前記触媒層が、前記内燃機関から排出される排ガス中のNOをNO2に変換するNO2生成触媒をさらに有する(3)記載の排ガス浄化装置。
【0023】
(5) 前記触媒層が、前記排ガス浄化触媒により形成された下層と、前記NO2生成触媒により形成された上層と、を有する(4)記載の排ガス浄化装置。
【0024】
(6) 前記NO2生成触媒が、Pt、Pd、及びRhよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の元素を高比表面積担体上に担持してなるものである(4)又は(5)記載の排ガス浄化装置。
【0025】
(7) 前記高比表面積担体が、アルミナ、シリカ、チタニア、セリア、ジルコニア、及びマグネシアよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の担体である(6)記載の排ガス浄化装置。
【0026】
(8) 前記上層中に空隙を有する(5)から(7)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【0027】
(9) 前記空隙が1μm以上である(8)記載の排ガス浄化装置。
【0028】
(10) 前記フィルタが、多孔質の耐火性セラミックスからなるウォールフロータイプのフィルタである(3)から(9)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素よりなる群から選ばれる少なくとも2以上の元素を含み且つ酸素放出能を有する複合酸化物に、PMに対して活性の高いAg及び貴金属が共担持されているため、複合酸化物の酸素放出能をより低温下で引き出すことができる結果、PM燃焼温度をより低温化することができる。より詳しくは、複合酸化物にAgが担持されているため、活性種であるAgをPMとの接触界面に配置することができる結果、PMとの反応性がより向上する。また、Agとともに貴金属が共担時されているため、貴金属による酸素供給能の増加及び貴金属によるブロッキング効果によるAgの微粒子化が可能となり、Ag及び貴金属を共担持した酸素放出能を有する複合酸化物触媒の酸素放出能を大幅に向上させることができる。
【0030】
また、複合酸化物の耐熱性が高く、Agを複合酸化物に担持したことによる相互作用や貴金属によるブロッキング効果でAg凝集及び揮発を抑制可能であることから、本発明に係る排ガス浄化触媒は耐熱性に優れる。このため、今後のさらなる大排気量/高出力ENGを想定した場合の高耐熱条件のおいても、排気レイアウトに左右されることなく、床下はもちろん直下での使用にも耐え得る。さらには、低温で燃焼できるので、強制再生による燃費ロス、EM悪化、触媒劣化を抑制でき、自動車への負担を軽減できる。
【0031】
酸素放出能を有する複合酸化物はNO2吸着能も高いことが分かっていることから、NO2生成触媒と共存させた場合にあっては、生成したNO2が酸素放出能を有する複合酸化物表面に吸着することにより、表面のNO2濃度が高く保たれる。このため、本触媒による酸素とPMによる反応に加えて、AgによるNO2とPMの反応がより促進され、PM燃焼速度がさらに向上する。特に、本触媒とNO2生成触媒との2層構造を採用した場合にあっては、NO2生成触媒層内の空隙を1μm以上とすることにより、PMが本触媒へ接触することが容易になり、燃焼速度がさらに向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0033】
<排ガス浄化触媒>
本実施形態に係る排ガス浄化触媒は、内燃機関から排出される排ガス中のPMを浄化するために用いられ、酸素放出能を有する複合酸化物と、この複合酸化物に共担持されたAg及び貴金属と、を有し、複合酸化物が、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素よりなる群から選ばれる少なくとも2以上の元素を含むことを特徴とする。
【0034】
[複合酸化物]
本実施形態に係る排ガス浄化触媒で用いられる複合酸化物は、酸素放出能を有することを特徴とする。例えば、ペロブスカイト型、スピネル型、ルチル型、デラフォサイト型、マグネトプランバイト型、イルメナイト型、及びフルオライト型よりなる群から選ばれる複合酸化物を用いることができる。これらのうち、耐熱性の観点から、ぺロブスカイト型、フルオライト型の複合酸化物が好ましく用いられる。
【0035】
また、上記複合酸化物は、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素よりなる群から選ばれる少なくとも2以上の元素を含むことを特徴とする。好ましい遷移金属元素としては、Zr、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Ta、Mo、W、Ce、Pr、Sm、Eu、Tb、Yb、Pt、Pd、Rh、Ir、Ruが挙げられる。
【0036】
上記複合酸化物は、原子の価数を変化させて酸素の放出を行うものである。酸素の放出は、構成原子の価数の変化に応じて電荷のバランスを保つために、複合酸化物の格子中の酸素が脱離する現象である。このため、複合酸化物に酸素放出能を付与する観点から、多原子価を有する元素のうち少なくとも1種が複合酸化物中に含まれていることが好ましい。また、構造安定性の観点から、価数の変化がなくイオン半径の比較的大きなLa、Nd、Y、Sc、Hf、Ca、Sr、Baが含まれることが好ましい。
【0037】
上述した通り、複合酸化物は高温焼成により構造形成されるものであるため、耐熱性に優れる。ここで、耐熱性の優れた複合酸化物とは、ある程度高温の耐熱条件に対してPM燃焼特性が変化しない、又は変化が少ない複合酸化物を意味する。また、PM燃焼特性の変化とは、実用排ガス温度域で十分にPMを燃焼可能な領域内での変化を意味する。
【0038】
上記複合酸化物の調製方法については、特に限定されず、従来公知の調製方法が採用される。例えば、硝酸塩分解法、有機酸錯体重合法等が好適に採用される。
【0039】
[Ag及び貴金属]
本実施形態に係る排ガス浄化触媒は、上述したような酸素放出能を有する複合酸化物に、PMに対して高い活性を示すAg及び貴金属が共担持される。Agとともに共担持される貴金属は特に限定されず、貴金属元素の中から選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む。特に、酸素放出能の増加やAg微細化の観点から、Ru、Pd、及びPtよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の元素を含むことが好ましい。
【0040】
上記貴金属の含有量は、排ガス浄化触媒に対して0.1質量%〜3.0質量%と微量であることが好ましい。より好ましくは、0.5質量%〜2.0質量%である。上記貴金属の含有量が0.1質量%より少ない場合には、酸素放出能が低下し、3.0質量%より多い場合には、貴金属と複合酸化物の相互作用が強くなり、Agの担持効果が損なわれるため好ましくない。
【0041】
上記複合酸化物にAg及び貴金属を共担持させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法が採用される。例えば、含浸法や析出沈殿法等が好適に採用される。
【0042】
<排ガス浄化装置>
本実施形態に係る排ガス浄化装置1を図1及び図2に示す。本実施形態に係る排ガス浄化装置1は、内燃機関2(例えばディーゼルエンジン)の排ガス経路3に配置され、内燃機関2から排出される排ガス中のPMを浄化するために用いられる。本実施形態に係る排ガス浄化装置1の具体的構成は、フィルタと、このフィルタの表面に形成された触媒層と、を有する浄化部10を備え、触媒層が上記の排ガス浄化触媒(以下、Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒ともいう)を有することを特徴とする。なお、浄化部10の上流に参加触媒を有する酸化触媒部20を備えたものであってもよい。
【0043】
[フィルタ]
上記フィルタとしては、三次元網目構造を有し、十分なPM捕集機能を有するものであれば特に限定されず、従来公知のフィルタが用いられる。具体的には、発泡金属や発泡セラミックス、金属やセラミックス繊維を重ね合わせた不織布、ウォールフロータイプのフィルタ等が挙げられる。これらのうち、捕集効率、及びPMと触媒との接触性の観点から、ウォールフロータイプのフィルタが好ましく用いられる。
【0044】
上記フィルタの好適な一例を、図3及び図4に模式的に示す。図3、4に示されるように、フィルタ11はハニカム構造をなしており、互いに平行に延びる多数の排ガス流入路12及び排ガス流出路13を備えている。より詳しくは、フィルタ11の下流端が栓14により閉塞された排ガス流入路12と、上流端が栓14により閉塞された排ガス流出路13とが前後左右に交互に設けられている。また、排ガス流入路12と排ガス流出路13とは、薄肉の隔壁15を介して隔てられている。
【0045】
フィルタ11は、フィルタ11本体が炭化珪素やコージライト等のような多孔質材料から形成されており、排ガス流入路12内に流入した排ガスは、図4において矢印で示されるように、周囲の隔壁15を通って隣接する排ガス流出路13内に流出する。即ち、図5に示されるように、隔壁15は排ガス流入路12と排ガス流出路13とを連通する微細な細孔16を有し、この細孔16が排ガス流路となって排ガスが流通する。排ガス流入路12、排ガス流出路13、及び細孔16の壁面には触媒層17が形成されている。
【0046】
[触媒層]
触媒層17は、フィルタ11の基材表面に形成され、上記のAg−貴金属共担持複合酸化物触媒を含む。また、触媒層17は、2層構造を有していることが好ましい。2層構造を有する触媒層17の断面を図6に模式的に示す。フィルタ11の基材側にある下層18が上記のAg−貴金属共担持複合酸化物触媒により形成されるのが好ましく、上層19がNO2生成触媒により形成されるのが好ましい。
【0047】
上記NO2生成触媒としては特に限定されず、従来公知のものが用いられる。好ましくは、貴金属であるPt、Pd、及びRhよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の元素が、高比表面積担体であるアルミナ、シリカ、チタニア、セリア、ジルコニア、及びマグネシアよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の担体に担持されたNO2生成触媒が用いられる。
【0048】
通常、排ガス中の窒素酸化物のほとんどは、NOの状態で排出される。上記のような2層構造を採用した場合にあっては、上層のNO2生成触媒の作用によりNOがNO2に変換された後、生成したNO2が下層のAg−貴金属共担持複合酸化物触媒に供給される。このため、Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒による酸素とPMの反応に加え、AgによるNO2とPMの反応が促進される結果、PM燃焼速度が増大する。
【0049】
ただし、Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒の上層に、NO2生成触媒が全面に亘って均一に塗布された場合にあっては、PMがAg−貴金属共担持複合酸化物触媒に十分接触できず、十分な効果が得られないおそれがある。このため、NO2生成触媒により形成される上層内に、空隙19aが形成されていることが好ましい(図6参照)。これにより、PMをAg−貴金属共担持複合酸化物触媒に十分に接触させることができる結果、PMを効率よく燃焼させることができる。なお、一般的にPMの粒子径分布は、大半が1μm以下に分布していることが知られていることから、空隙19aの径は1μm以上であればよい。
【0050】
また、600℃付近の高温領域下では、高温になるにつれて2層化の効果が大きくなることが分かっている。これは、特許文献6に示されているようなNO2生成触媒のみの構成であった場合には、600℃付近の高温下では平衡の関係でNO2濃度は極端に低くなるため、NO2とPMの反応が進行し難くなるからである。しかしながら、上記のように、NO2生成触媒とAg−貴金属共担持複合酸化物触媒の2層構造を採用した場合には、生成したNO2がNOに戻る前にAg−貴金属共担持複合酸化物触媒中の酸素放出能を有する複合酸化物に吸着する。これにより、Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒の近傍にNO2が多量に存在する状態となり、PM燃焼が促進される。
【0051】
触媒の塗布量は特に限定されず、本発明の効果が奏される範囲内で適宜設定される。下層のAg−貴金属共担持複合酸化物触媒の塗布量は、例えば、フィルタ11の1Lあたり20g〜100gであることが好ましい。20g未満である場合には、フィルタ11の気孔内部の表面を十分覆うことができず、PMとの接触性が悪くなり、また、100gを超える場合には、気孔の目詰まりにより圧力損失が増大する。一方、上層のNO2生成触媒の塗布量は、フィルタ11の1Lあたり10g〜30gであることが好ましい。10g未満である場合には、NO2生成能力が不十分であり、また、30gを超える場合には、層の厚さが大きくなりすぎてAg−貴金属共担持複合酸化物触媒にPMが接触し難くなる。
【実施例】
【0052】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、%は質量%を表し、比率は質量比を表す。
【0053】
<実施例1>
[1%Pd30%Ag/LaMnO3+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸ランタン、硝酸マンガンを0.01molずつ、及び蒸留水を適量秤量して溶液Aとした。次いで、炭酸ナトリウムを3.6g、蒸留水を適量秤量して溶液Bとした。溶液Bを60℃、300回転で混合しながら、溶液Aを7ml/minで滴下した(逆共沈法)。沈殿物をpHが中性になるまで蒸留水で濾過洗浄し、200℃×2Hrで乾燥させた後、350℃×3Hrで乾燥固化させた。これを整粒し、2μm以下とした後、800℃×10Hrで焼成を行ったものを触媒Aとした。
【0054】
触媒Aを6.9g、硝酸銀を4.72g、硝酸パラジウムを1.99g、及び蒸留水を適量秤量して溶液Cとした。溶液Cをエバポレータで蒸発乾固したものを200℃×2Hrで乾燥した後、700℃×2Hrで焼成した(含浸法)。これを整粒し、2μm以下としたものを触媒Bとした。この触媒B9.5mgを0.5mgのPMと混合し、タイトコンタクト化したものを実施例1とした。
【0055】
<実施例2>
[1%Pd30%Ag/CeZrO2+PM(5%)]
市販の高比表面積セリアジルコニア(Ce:Zr=2:8、阿南化成製71m2/g)を触媒Cとし、触媒C、硝酸銀、及び硝酸パラジウムを上記触媒Bと同様に調製したものを触媒Dとした。触媒Dを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例2とした。
【0056】
<実施例3>
[1%Pd30%Ag/CoTa2O6+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸コバルト、酸化タンタル、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を、上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒Eとした。触媒E、硝酸銀、及び硝酸パラジウムを、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒Fとした。この触媒Fを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例3とした。
【0057】
<実施例4>
[1%Pd30%Ag/PtCoO2+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸コバルト、ジニトロジアンミン硝酸白金、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を、上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒Gとした。触媒G、硝酸銀、及び硝酸パラジウムを、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒Hとした。この触媒Hを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例4とした。
【0058】
<実施例5>
[1%Pd30%Ag/ZnCo2O4+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸コバルト、硝酸亜鉛、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を、上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒Iとした。触媒I、硝酸銀、及び硝酸パラジウムを、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒Jとした。この触媒Jを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例5とした。
【0059】
<実施例6>
[1%Pd30%Ag/W0.67Ca0.67Mn0.67O3+PM(5%)]
市販の特級試薬であるタングステン酸アンモニウム、硝酸カルシウム、硝酸マンガン、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒Kとした。触媒K、硝酸銀、及び硝酸パラジウムを、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒Lとした。この触媒Lを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例6とした。
【0060】
<実施例7〜10>
[x%Pd30%Ag/CeZrO2+PM(5%)(x=0.1、0.5、2、3)]
上記触媒C、硝酸銀、及び硝酸パラジウムを所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に調製したものを、触媒M〜Pとした。触媒M〜Pを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例7〜10とした。
【0061】
<実施例11、12>
[1%X30%Ag/CeZrO2+PM(5%)(X=Pt、Ru)]
上記触媒C、硝酸銀、及び硝酸塩(XNO3、X=Pt、Ru)を、所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒Q、Rとした。触媒Q、Rを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例11、12とした。
【0062】
<実施例13>
[1%PtPd(2:1)30%Ag/CeZrO2+PM(5%)]
上記触媒C、硝酸銀、及び、硝酸白金又は硝酸パラジウムを、所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒Sとした。触媒Sを上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例13とした。
【0063】
<実施例14>
[1%Pd30%Ag/LaMnO3+PM(5%)−800℃Aging]
上記触媒Bを、800℃×20Hr、大気中でエージングをしたものを触媒Tとした。この触媒Tを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例14とした。
【0064】
<実施例15>
[1%Pd30%Ag/CeZrO2+PM(5%)−800℃Aging]
上記触媒Dを、800℃×20Hr、大気中でエージングをしたものを触媒Uとした。この触媒Uを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例15とした。
【0065】
<実施例16>
[1%Pd30%Ag/LaMnO3+PM(5%)−900℃Aging]
上記触媒Bを、900℃×20Hr、大気中でエージングをしたものを触Vとした。この触媒Vを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例16とした。
【0066】
<実施例17>
[1%Pd30%Ag/CeZrO2+PM(5%)−900℃Aging]
上記触媒Dを、900℃×20Hr、大気中でエージングをしたものを触媒Wとした。この触媒Wを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例17とした。
【0067】
<比較例1>
[PM]
ディーゼル発電機より収集したPM粉末そのものを比較例1とした。
【0068】
<比較例2>
[0.76%Pt/Al2O3+PM(5%)]
市販の特級試薬のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を1.51g、Al2O3を9.92g、及び蒸留水を適量秤量し、これらをエバポレータにて蒸発乾固させてAl2O3に白金を担持させた。200℃で乾燥後、600℃×2Hrで焼成したものを触媒AAとした。この触媒AAを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例2とした。
【0069】
<比較例3>
[LaMnO3+PM(5%)]
上記触媒Aを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例3とした。
【0070】
<比較例4>
[CeZrO2+PM(5%)]
上記触媒Cを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例4とした。
【0071】
<比較例5>
[CoTa2O6+PM(5%)]
上記触媒Eを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例5とした。
【0072】
<比較例6>
[PtCoO2+PM(5%)]
上記触媒Gを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例6とした。
【0073】
<比較例7>
[ZnCo2O4+PM(5%)]
上記触媒Iを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例7とした。
【0074】
<比較例8>
[W0.67Ca0.67Mn0.67O3+PM(5%)]
上記触媒Kを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例8とした。
【0075】
<比較例9>
[30%Ag/LaMnO3+PM(5%)]
上記触媒A、硝酸銀、及び蒸留水を、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒ABとした。この触媒ABを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例9とした。
【0076】
<比較例10>
[30%Ag/CeZrO2+PM(5%)]
上記触媒C、硝酸銀、及び蒸留水を、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒ACとした。触媒ACを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例10とした。
【0077】
<比較例11>
[30%Ag/CoTa2O6+PM(5%)]
上記触媒E、硝酸銀、及び蒸留水を、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒ADとした。この触媒ADを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例11とした。
【0078】
<比較例12>
[30%Ag/PtCoO2+PM(5%)]
上記触媒G、硝酸銀、及び蒸留水を、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒AEとした。この触媒AEを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例12とした。
【0079】
<比較例13>
[30%Ag/ZnCo2O4+PM(5%)]
上記触媒I、硝酸銀、及び蒸留水を、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒AFとした。この触媒AFを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例13とした。
【0080】
<比較例14>
[30%Ag/W0.67Ca0.67Mn0.67O3+PM(5%)]
上記触媒K、硝酸銀、及び蒸留水を、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒AGとした。この触媒AGを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例14とした。
【0081】
<比較例15>
[Ag2O+PM(5%)]
市販の特級試薬の酸化銀を、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例15とした。
【0082】
<比較例16、17>
[x%Pd30%Ag/CeZrO2+PM(5%)(x=5、14)]
上記触媒C、硝酸銀、硝酸パラジウム、及び蒸留水を、所定の組成となるように上記触媒Bと同様に調製したものを触媒AH、AIとした。触媒AH、AIを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例16、17とした。
【0083】
<比較例18>
[30%Ag/LaAlO3+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸ランタン、硝酸アルミニウム、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を、上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒AJとした。触媒AJ、硝酸銀、及び蒸留水を所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に含浸法にて調製したものを触媒AKとした。この触媒AKを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例18とした。
【0084】
<比較例19>
[30%Ag/La2O3+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸ランタン、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を、上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒ALとした。触媒AL、硝酸銀、及び蒸留水を、所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に含浸法にて調製したものを触媒AMとした。この触媒AMを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例19とした。
【0085】
<比較例20>
[30%Ag/MnO2+PM(5%〉]
市販の特級試薬である硝酸マンガン、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を、上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒ANとした。触媒AN、硝酸銀、及び蒸留水を、所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に含浸法にて調製したものを触媒AOとした。この触媒AOを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例20とした。
【0086】
<比較例21>
[30%Ag/(La2O3+MnO2)+PM(5%)]
上記触媒ALを1g、及び触媒ANを1g、乳鉢乳棒にて粉砕混合し、800℃で10Hr、焼成したものを触媒APとした。触媒AP、硝酸銀、及び蒸留水を、所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に含浸法にて調製したものを触媒AQとした。この触媒AQを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例21とした。
【0087】
<比較例22>
[1%Pt/CeZrO2+PM(5%)]
上記触媒C、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液、及び蒸留水を、所定の組成となるよう秤量し、上記と同様に含浸法にて調製したものを触媒ARとした。この触媒ARを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例22とした。
【0088】
<比較例23>
[1%Pd/CeZrO2+PM(5%)]
上記触媒C、硝酸パラジウム、及び蒸留水を、所定の組成となるよう秤量し、上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒ASとした。この触媒ASを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例23とした。
【0089】
<比較例24>
[Ag0.8La0.2MnO3+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸銀、硝酸ランタン、硝酸マンガンをそれぞれ0.04mol、0.01mol、0.05mol、及び蒸留水を適量秤量し溶液Dとした。溶液Dを250℃、300回転で混合しながら蒸発乾固した後、200℃×2Hrで乾燥、350℃×3Hrで仮焼した。その後、2μm以下となるように整粒し、800℃×10Hrで焼成を行ったものを触媒ATとした。この触媒ATを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例24とした。
【0090】
<比較例25>
[(30%Ag2O+LaMnO3)+PM(5%)]
上記触媒Aを7g、及び酸化銀を3g秤量し、乳鉢乳棒にて物理混合した。これを800℃、10Hrで焼成し、固相反応させたものを触媒AUとした。この触媒AUを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例25とした。
【0091】
<比較例26>
[1%Pd30%Ag/CeO2+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸セリウム、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を、上記実施例1と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒AVとした。触媒AV、硝酸銀、硝酸パラジウム及び蒸留水を、所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に含浸法にて調製したものを触媒AWとした。この触媒AWを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例26とした。
【0092】
<比較例27>
[1%Pd30%Ag/CeO2−800℃Aging+PM(5%)]
上記触媒AWを、800℃×6Hr、大気中でエージングをしたものを触媒AXとした。この触媒AXを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例27とした。
【0093】
<比較例28>
[1%Pd30%Ag/CeO2−900℃Aging+PM(5%)]
上記触媒AWを、900℃×6Hr、大気中でエージングをしたものを触媒AYとした。この触媒AYを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例28とした。
【0094】
実施例1〜17及び比較例1〜28により得られた各触媒について、担体の種類、担体に担持されている金属の種類を表1、2にまとめて示す。また、各触媒について、後述するような条件でPM燃焼特性評価、及び結晶構造評価を行った。その評価結果をあわせて表1、2に示す。さらには、一部の触媒について、後述するような条件下で酸素脱離特性の評価を行った。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
[PM燃焼特性評価]
各実施例及び比較例で調製した触媒について、以下のような条件でTG/DTA測定を行い、発熱特性(DTA)及びそのピーク温度を指標として、PM燃焼特性の評価を行った。具体的には、PMの燃焼における発熱量がピークとなるときの温度(PM燃焼ピーク温度)の調査を行った。
測定装置:セイコーインスツルメンツ社製「EXSTER6000TG/DTA」
昇温条件:20℃/min
雰囲気:Dry Air
サンプル量:10mg
流量:空間速度(SV)=60000h−1
タイトコンタクト:乳鉢乳棒にて2μm以下に粉砕混合
【0098】
[結晶構造評価]
各実施例及び比較例で調製した触媒について、以下のような条件でX線回折測定を行い、その結晶構造の評価を行った。また、測定して得られたX線回折スペクトルの半値幅から、結晶子径を算出した。
測定装置:株式会社リガク製X線回折装置「RINT TTRIII」
X線管:Cu−Kα
管電圧:60kV
管電流:300mA
測定法:水平ゴニオメータ、固定モノクロメータ、連続スキャンモード
測定範囲:2θ=10°〜90°
測定間隔:0.02°
【0099】
[酸素脱離特性評価]
O2−TPD(昇温脱離試験)による酸素脱離特性の評価を以下のような条件下で行った。
測定装置:日本ベル社製TPD1TPR分析装置「MS−Q−MS」
サンプル:O220%気流中で800℃×30min前処理後、大気下50℃まで降温
雰囲気:50ml/minのHe気流中
昇温条件:10℃/minで800℃まで昇温
【0100】
[考察]
〔Ag−貴金属共担持について〕
図7に、PMそのもの(比較例1)、0.76%Pt/Al2O3+PM(5%)(比較例2)、及びペロブスカイト型複合酸化物のLaMnO3+PM(5%)(比較例3)のPM燃焼特性を示す。比較例1より、PMそのもののみの燃焼ピーク温度は668℃であることが分かった。これに対し、比較例2のような貴金属系材料では、1stPeakは247℃、2ndPeakは561℃とピークが二つに分かれていた。それぞれの燃焼ピークは、発生ガス分析からも1stPeakが有機成分、2ndPeakがsootに由来することが分かっている。このことから、貴金属系材料では、有機成分の燃焼には効果があるものの、sootに関してはそれほど低温で燃焼できていないことが分かった。これらは、HCガスと同様に活性種表面での酸化反応であることから、sootより熱的に不安定な有機成分は早期に活性種への解離吸着が起こり易いためであると推定された。また、これらPtやPd等の貴金属系触媒の場合、性能は貴金属量の影響をほとんど受けない。
【0101】
一方、LaMnO3+PM(5%)(比較例3)のような遷移金属系複合酸化物では、貴金属系材料のように燃焼ピークの分離がほとんど認められなかった。このため、このような複合酸化物においては、有機成分は早期燃焼せず、sootとともに燃焼していると考えられた。また、複合酸化物の場合は、貴金属系材料とは異なり、sootの燃焼は比較的低温で可能であった。従って、遷移金属系複合酸化物は、sootの燃焼に対して効果的であるといえる。これらの結果は、複合酸化物の価数変化に伴う酸素放出能に依存していると考えられ、酸素放出しない低温側での有機成分の燃焼はなく、燃焼がsootと同時に起こる。即ち、酸素放出能が高いほど、低温でPMを燃焼することが可能となると考えられた。
【0102】
ところで、現状の内燃機関から排出される排ガス温度は。200℃〜450℃と低温である。このため、有機成分に関しては、貴金属系材料を用いることで排ガス温度域内での燃焼が十分に可能である。しかしながら、sootの燃焼は、比較例3のような触媒材料等によりいくらか低温で燃焼可能であるものの、やはり再生処理等を行わずして排ガス温度域で連続燃焼することは難しいと言える。
【0103】
これに対して、本実施例では、酸素放出能を有する複合酸化物に、Ag及び貴金属を共担持することにより、複合酸化物の酸素放出能を大幅に向上させ、PM燃焼特性を向上させることに成功したものである。
【0104】
図8に、1%Pd30%Ag/LaMnO3+PM(5%)(実施例1)の燃焼特性を示す。図8にあわせて示した比較例3に比して、PM燃焼特性が大幅に低温化していることが分かる。表1に示すように、PM燃焼ピーク温度は、比較例3の454℃から369℃と85℃の低温化が達成されている。これは、酸素放出能を有する複合酸化物にAg及び貴金属としてPdを共担持したことによる効果である。そもそもAg2Oは、PMに対して非常に高活性である(表1の比較例15参照)。Ag2Oは、PMと接触することで還元反応を起こすと考えられる。しかしながら、Ag2Oは、還元反応により揮発する特性を有しているため、耐熱性の観点では単独で用いることができない。
【0105】
そこで、複合酸化物にAgを担持することにより、Agの凝集及び揮発を抑制する方法がある。複合酸化物上で、Agは、Ag又はAg2Oとして存在すると考えられるが、反応により還元されたAgは、複合酸化物に担持されていることにより効果的に作用する。具体的には、還元されたAgの揮発を抑制しつつ、Agは再び活性化するために複合酸化物の価数を変化させ、強制的に酸素を取り込もうとする。これらが繰り返されることにより、触媒全体の酸素放出能が高められる結果、PM燃焼温度の低温化が達成されると推察される。即ち、酸素放出能を有する複合酸化物に、PMに対して活性の高いAgを担持させることにより、複合酸化物の酸素放出能をより低温で引き出すことが可能であると言える。
【0106】
これらAg担持複合酸化物は、酸素過剰雰囲気においては酸素を吸収保持し、酸素濃度が低下すると酸素を放出する性質を有する。即ち、排ガス中の酸素濃度が低下、あるいは触媒上に含炭素浮遊微粒子が堆積して周囲の酸素濃度が低下すると、活性酸素を放出して触媒上の含炭素浮遊微粒子を燃焼させることが可能である。この点については、図9に示されるように、比較例3〜8の様々な構造(ぺロブスカイト型複合酸化物、フルオライト型複合酸化物、ルチル型複合酸化物、デラフォサイト型複合酸化物、スピネル型複合酸化物及び元素を単純混合しただけの複合酸化物)を有する単独複合酸化物に対して、比較例9〜14のAg担持複合酸化物のPM燃焼ピーク温度が低下しており、活性が向上していることからも証明される。
【0107】
一方、図9に示されるように、比較例9〜14のAg担持複合酸化物に対して、実施例1〜6ではPM燃焼特性が大幅に向上していることが分かる。本発明では、酸素放出能を有する複合酸化物へのAgの担持に加え、Ag以外の元素として貴金属元素を共担持させたことを特徴とする。このため、酸素放出能を有する複合酸化物にAg及び貴金属を共担持させることにより、PM燃焼特性が大幅に向上することが確認された。
【0108】
Ag−貴金属共担持複合酸化物では、PMとの反応性はAg単独のときほどではないものの、酸素の活性化に有効な貴金属がAg周辺に微量に共担時されることにより、Agへの酸素供給の助触媒として働くと考えられる。また、貴金属がAg周辺に微量に共担時されることでAg粒子の凝集を抑制し、Agナノ粒子を保持する役割を果たすと考えられる。結果として、Ag−貴金属共担持複合酸化物の酸素放出量が増加し、PM燃焼特性が大幅に向上する。これは、図10に示されるX線回折による構造解析結果から算出されたAgの結晶子径、及び図11に示されるO2−TPD解析による酸素脱離量測定結果から証明される。即ち、図10では、Pd添加によりAg粒子径が微細化していることが証明され、図11では、Pd添加により酸素脱離量が増加していることが証明される。このように、PM燃焼特性の向上のためには、Ag粒子を微細化し、酸素脱離量を増大させるべく、Ag−貴金属共担持複合酸化物であることが必要であると言える。
【0109】
〔貴金属の添加量について〕
Ag−貴金属共担持複合酸化物における貴金属の含有量について考察する。図12に、PdAg/CeZrO2におけるPd含有量の影響を示す。図12に示されるように、Pd量が0.1〜3.0質量%である実施例2、7〜10において高特性である一方、Pd量が0質量%、及び5質量%以上(比較例10、16、17)では低活性である。このことから、Pdの添加量が多い場合には、添加元素の影響が強く支配的になる結果、Pd/CeZrO2の性能に近付くと考えられる。Pdの添加量が0である場合には、Ag凝集抑制、及び酸素脱離量を増加することができなくなると推測される。従って、Ag−貴金属共担持複合酸化物での貴金属の含有量は、0.1質量%〜3.0質量%であることが好ましく、0.5質量%〜2.0質量%であることがより好ましいことが確認された。
【0110】
〔貴金属種について〕
Ag−貴金属共担持複合酸化物における貴金属種について考察する。図13に、比較例10のAg/CeZrO2に対して、貴金属を1質量%添加した場合(実施例2、11〜13)のPM燃焼ピーク温度を示す。貴金属を1質量%添加したことにより、添加前に比して活性が向上することが分かった。これにより、貴金属から選ばれる少なくとも1種以上の元素を添加することにより、PM燃焼特性の向上効果が発揮されることが確認された。
【0111】
また、図13に示される各触媒について、O2−TPDによる酸素脱離特性から算出される酸素脱離量と、PM燃焼ピーク温度との関係を図14に示す。図14に示されるように、各元素の添加により、Agの酸素脱離量が増加し、PM燃焼特性が向上していることが分かった。これらは、添加元素によるAg微細化、及び酸素供給補助効果によるものと推測される。
【0112】
〔酸素放出能について〕
次に、酸素放出能を有さない複合酸化物(比較例18)、酸素放出能を有する単独酸化物、及びその物理混合酸化物(比較例19〜21)について、それぞれAgを担持した場合の性能を比較した。結果を図15に示す。図15に示されるように、比較例18のPM燃焼ピーク温度は521℃と高温でPM燃焼特性が不良であり、これはAgのみによる特性と考えられた。また、比較例19、20もそれぞれ468℃、435℃と実施例1と比べると高温で性能は劣るものの、これは担体である単独酸化物の酸素放出能が低いためであると考えられた。さらには、これらを物理混合した比較例21は445℃と、それほど燃焼温度を低温化することはできなかった。従って、ディーゼル排ガス温度域でのsootの燃焼を考えた場合、酸素放出能を有さない複合酸化物、酸素放出能の低い単独酸化物、及び単独酸化物の物理的な組み合わせでは期待する性能を得ることができないと言える。このため、比較例9のような酸素放出能を有する複合酸化物を用いることが重要であることが確認された。
【0113】
ここで、酸素放出能を有する酸化物の定義について具体的に説明する。He雰囲気での昇温脱離試験(TPD)及び/又は水素による昇温還元試験(TPR)において、酸素脱離開始温度/水素消費開始温度が低いほど酸素が脱離し易いとし、脱離/消費特性の面積を酸素脱離量とする。これらの脱離し易さ及び酸素脱離量を酸素放出能とし、特に複合酸化物等のような酸化物が雰囲気の変化によって価数変化を引き起こし、酸化物中の酸素が吸放出することを、酸素放出能を有する酸化物と定義する。
【0114】
図16に、La2O3、MnO2、LaMnO3、及びLaAlO3の酸素放出能をO2−TPDで測定した結果を示す。横軸は温度、縦軸は酸素脱離量を表し、He雰囲気中での熱的な酸素の脱離し易さを示す。La2O3は360℃付近で酸素を放出するが、ピーク面積は小さく、酸素放出量が少ないと考えられる。一方、MnO2は400℃付近から酸素の放出を開始し、そのまま高温になるに従い放出量が増加する。また、これらの複合酸化物であるペロブスカイト構造のLaMnO3では、酸素の放出を開始する温度が更に低下し、250℃付近からである。ところが、これらに対し、LaAlO3は全温度域において酸素放出能を有さないことが分かる。このように、各酸化物、複合酸化物は酸素放出能を有するものと全く有さないものとがあり、それぞれの酸素放出性能は相違する。ここで、Mn2O3は600℃付近から酸素放出能が大幅に向上しているのに対し、La2O3は600℃以上の酸素放出能を有さないことが分かる。これらの事実から比較例19、20の結果を考察すると、PM燃焼特性に600℃以上の酸素放出能が寄与していないことが推測される。これは、触媒における酸素の放出量よりは、低温での酸素の脱離のし易さ、即ち酸素脱離エネルギーがPM燃焼において重要なファクターとなっているからであると推測される。従って、He雰囲気での昇温脱離試験(TPD)においては、600℃以下で酸素の脱離が開始され、且つ酸素脱離量が多いものを、酸素放出能を有すると定義できる。
【0115】
〔Ag以外の貴金属について〕
酸素放出能を有する複合酸化物に、Ag以外の貴金属を担持した場合(特許文献4参照)について考察する。図17に、CeZrO2にPt及びPdを担持した場合(比較例22、23)の燃焼特性を示す。実施例2と比べると、いずれもPM燃焼特性が劣ることが分かり、PM活性において、貴金属元素ではAgは特異的に性能が高いと言える。また、比較例22、23のPtやPdの担持量は少ないものとなっており、担持量が多いとさらに活性が低下することが分かっている。複合酸化物との相互作用を考えた場合、比較例4及び10からの性能の向上という観点では、より複合酸化物の価数変化を引き出すことが可能なのはAgであり、PtやPd単独では高い活性は得られない。従って、PtやPd等をAgと共担持させることにより、はじめて高活性を得ることができると言える。
【0116】
〔Agの添加方法について〕
複合酸化物へのAgの添加方法について考察する。比較例24は複合酸化物にAgを固溶した場合(特許文献1参照)であり、比較例25は複合酸化物にAgを固相反応させた場合(特許文献3参照)である。これらの燃焼特性を図18に示す。実施例1と比べ、比較例24及び25は性能が悪いことが分かる。比較例24に関しては、LaMnO3の結晶構造にAgが固溶しているために活性種が埋没し、還元剤となるPMと接触することができず、Agの価数変化を引き出すことができない結果、含浸した場合と比べて性能が劣ると考えられる。一方、比較例25に関しては、耐熱性がないため活性種が揮発してしまい、LaMnO3のみの性能となっていると考えられる。従って、実施例1のように、LaMnO3の最表面に活性種を露出しつつ、複合酸化物との相互作用により酸素放出能を低温化する必要があり、さらにAgの凝集及び揮発を抑制するため、複合酸化物へのAgの添加は、担持でなくてはならないと考えられる。
【0117】
〔耐熱性について〕
Ag−貴金属共担持複合酸化物における耐熱性の観点から、エージング処理を行った結果について考察する。比較例26、27、及び28は、1%Pd30%Ag/CeO2の耐熱前後(特許文献2参照)、実施例14、15は1%Pd30%Ag/LaMnO3の耐熱後、及び実施例16、17は1%30%Ag/CeZrO2の耐熱後(耐熱条件はそれぞれ、800℃×20Hr、900℃×20Hrの大気中熱処理)であり、これらの燃焼特性を、図19に示す。図19において、横軸は大気エージング処理温度であり、各例のエージング前の処理温度は試料調製時の焼成温度を用いた。CeO2は酸素放出能では非常に優れた酸化物であることが広く知られているため、酸素放出能の高いCeO2へのAg及びAg以外の微量の元素の共担持も効果があると考えられる。ところが、エージング前はPM燃焼ピーク温度が318℃(比較例26)と良好な性能を示しているものの、エージング後では358℃、445℃(比較例27、28)と大幅に劣化している。これは、ベース酸化物であるCeO2の熱的構造破壊、Agの凝集及び揮発によるものと推測される。このため、エージング条件によってはAg/CeO2は性能が劣化して実用排ガス温度域で十分にPMを燃焼できなくなることが分かる。これに対し、実施例1、2と実施例14〜17で示される、1%Pd30%Ag/LaMnO3、及び1%Pd30%Ag/CeZrO2のエージング前後でのPM燃焼特性は大きく変化しないことが分かる。これは、複合酸化物の構造形成温度が600℃〜1000℃の高温であるため、エージング温度域で構造破壊が起き難いうえ、複合酸化物とAgの相互作用によりAgの凝集及び揮発が起こり難いためであると推察される。従って、耐熱性を有する複合酸化物へのAg及びAg以外の元素の共担持により、期待する性能を発揮することができると言える。以上のことから、今後さらなる大排気量/高出力ENGを想定した場合の高耐熱条件においても、排気レイアウトに左右されることなく、床下はもちろん、直下での使用にも耐え得る排ガス浄化触媒を提供できる。
【0118】
次に、本発明のより実用的な実施例について説明する。
【0119】
<実施例18>
[触媒粉末調製]
Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒としては、上記触媒Dを用いた。
【0120】
[酸化触媒粉末の調製]
所定量の硝酸白金を含有する水溶液を調製した。γアルミナと水溶液をナスフラスコに入れ、ロータリーエバポレータにて含浸担持を行った。生成物を200℃×1Hr乾燥後、700℃×2Hr焼成を行い、Pt/Al2O3を調製した。
【0121】
[DPFへの担持]
Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒(粉末)、水、SiO2ゾル、アルミナボールを容器に入れ、ボールミルで湿式粉砕を一晩行い、触媒スラリーとした。触媒スラリーにDPFを浸した後引き上げ、エアブローで余剰スラリーを除去した。これを200℃×2Hr乾燥させ、重量測定を行った。所定量担持されるまでこの操作を繰り返した後、700℃×2Hr焼成を行った。
【0122】
[酸化触媒のハニカム担持]
酸化触媒粉末、水、SiO2ゾル、アルミナボールを容器に入れ、ボールミルで湿式粉砕を一晩行い、触媒スラリーとした。触媒スラリーにコージェライトハニカムを浸した後引き上げ、エアブローで余剰スラリーを除去した。これを200℃×2Hr乾燥させ、重量測定を行った。所定量担持されるまでこの操作を繰り返した後、700℃×2Hr焼成を行った。
【0123】
[コンバータ作製]
作製した触媒付のDPFと酸化触媒を、上流から酸化触媒、触媒付きのDPFとなるように、一つのコンバータに組み付けを行った。
【0124】
<実施例19>
[触媒粉末調製]
Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒として、上記触媒Dを用いた。
【0125】
[NO2生成触媒粉末の調製]
所定量の硝酸パラジウムと硝酸白金を含有する水溶液を調製した。γアルミナと水溶液をナスフラスコに入れ、ロータリーエバポレータにて含浸担持を行った。生成物を200℃×1Hr乾燥後、700℃×2Hr焼成を行い、PtPd/Al2O3を調製した。
【0126】
[DPFへ担持]
〔下層〕
Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒(粉末)、水、SiO2ゾル、アルミナボールを容器に入れ、ボールミルで湿式粉砕を一晩行い、触媒スラリーとした。触媒スラリーにDPFを浸した後引き上げ、エアブローで余剰スラリーを除去した。これを200℃×2Hr乾燥させ、重量測定を行った。所定量担持されるまでこの操作を繰り返した後、700℃×2Hr焼成を行った。
【0127】
〔上層〕
NO2生成触蝶粉末、水、SiO2ゾル、アルミナボール、及び造孔剤として1μmの粒子径のでんぷんを容器に入れ、ボールミルで湿式粉砕を一晩行い、触媒スラリーとした。触媒スラリーにDPFを浸した後引き上げ、エアブローで余剰スラリーを除去した。これを200℃×2Hr乾燥させ、重量測定を行った。所定量担持されるまでこの操作を繰り返した後、700℃×2Hr焼成を行った。
【0128】
[コンバータ作製]
作製した触媒付のDPFと実施例21の酸化触媒を、上流から酸化触媒、触媒付きのDPFとなるように、一つのコンバータに組み付けを行った。
【0129】
<比較例29>
NO2生成触媒のみを直接DPFに担持したこと以外は、同様の操作を行い作製した。
【0130】
<比較例30>
NO2生成触媒を担持する際、造孔材を用いずに担持した以外は、同様の操作を行い作製した。
【0131】
<比較例31>
触媒担持なしDPFを使用した。
【0132】
[実用的評価]
実用条件に近い評価として、エンジンベンチテストを実施した。エンジンは2.2Lディーゼルエンジンを用い、図1、2に示されるような、直下位置に触媒付きDPFと酸化触媒の一体型コンバータを配置した形態でテストを行った。用いたエンジンは、2.2Lディーゼルエンジンであり、DPFボリュームは2L、酸化触媒ボリュームは1Lであった。具体的には、後述するような低温連続燃焼性能評価、及び強制再生性能評価を実施した。評価結果を表3に示す。
【0133】
【表3】
【0134】
〔低温連続燃焼性能評価〕
酸化触媒前温度が350℃程度となる条件下で、8時間保持した後の重量の増加量をPM堆積量として低温連続燃焼性能の評価を行った。
【0135】
〔強制再生性能評価〕
予め低温でPMを蓄積させた後、DPF前温度が600℃での強制再生を行った場合の燃焼終了までの時間の比較により、強制再生性能の評価を行った。強制再生においては、ポストインジェクションにより燃料添加を行い、酸化触媒での燃焼反応熱でDPF温度を目的温度まで上昇させ、所定時間ごとに停止し、重量測定を行った。また、PMの蓄積は、DPF前温度150℃程度で保持して行った。測定時間は2分、10分、30分、60分とし、この結果を元にPMが90%燃焼するまでの時間の比較を行った。
【0136】
[考察]
低温連続燃焼性能の評価結果を図20に示す。図20に示されるように、350℃連続燃焼試験において、実施例18及び19のPM堆積量が、比較例29〜31に比して少ないことが確認された。これにより、実施例18及び19によれば、運転中に排出されるPMを効率良く燃焼除去できることが分かる。実施例19の方が優れるのは、2層化による効果であると考えられる。
【0137】
強制再生性能の評価結果を図21に示す。図21に示されるように、600℃強制再生試験において、実施例18及び19は再生終了までの時間が比較例29〜31に比して短いことから、再生時の燃焼速度が大きいことが分かる。実施例19の方が優れるのは、2層化による効果であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】排ガス浄化装置10の模式図である。
【図2】排ガス浄化装置10を説明するための図である。
【図3】フィルタ11の模式図である。
【図4】フィルタ11の模式図である。
【図5】フィルタ11の部分拡大図である
【図6】触媒層17の模式図である。
【図7】貴金属系触媒及び遷移金属系複合酸化物の燃焼特性を示す図である。
【図8】Ag−貴金属共担持の効果を説明するための図である。
【図9】各種複合酸化物の燃焼特性を示す図である。
【図10】X線回折測定による構造解析結果を示す図である。
【図11】O2−TPDによる酸素脱離特性を示す図である。
【図12】貴金属の添加量を説明するための図である。
【図13】貴金属元素の添加の必要性を説明するための図である。
【図14】貴金属元素の添加による効果を説明するための図である。
【図15】複合酸化物の酸素放出能の必要性を説明するための図である。
【図16】各種複合酸化物の酸素放出能を示す図である。
【図17】Ag以外の貴金属の必要性を説明するための図である。
【図18】複合酸化物へのAgの添加方法を説明するための図である。
【図19】Ag−貴金属共担持複合酸化物の耐熱性を説明するための図である。
【図20】低温連続燃焼性能の評価結果を示す図である。
【図21】強制再生性能の評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0139】
1 排ガス浄化装置
2 内燃機関
3 排ガス経路
10 浄化部
11 フィルタ
12 排ガス流入路
13 排ガス流出路
14 栓
15 隔壁
16 細孔
17 触媒層
18 下層
19 上層
19a 空隙
20 酸化触媒部
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒及びこれを用いた排ガス浄化装置に関し、特に、排ガス中の粒子状物質を従来に比して低温で燃焼できる排ガス浄化触媒及びこれを用いた排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル排ガス中に含まれる粒子状物質(PM:particulate matter)の浄化には、ディーゼル微粒子除去装置(DPF:diesel particulate filter)が通常用いられている。PMは、主として燃料に由来するものであり、易燃焼成分である有機物質と、難燃焼成分であるsoot等から構成される。有機物質の燃焼温度はおよそ200℃〜550℃であるが、sootの燃焼にはおよそ550℃〜700℃の高温を要する。このため、DPFに貴金属系触媒を担持してなる従来のキャタライズドスートフィルタ(CSF:catalyzed soot filter)では、有機物質に対しては高い浄化性能を示すものの、sootに対する浄化性能は低い。
【0003】
このようなことから、PMの浄化に際しては、再生や添加剤等の付加技術を用いてsootの燃焼を強制的に行っているのが現状である。しかしながら、DPFによるPM捕集は排ガスの圧損の原因となるうえ、強制再生を行うことによる燃費のロスや、PM燃焼熱によるDPFの溶損、触媒の劣化といった不具合が生じる。従って、sootを含めたPMの燃焼温度の低温化を図ることにより、自動車への負担の軽減が望まれている。
【0004】
自動車への負担を軽減させる方法としては、再生頻度の低下や高効率付加技術の他、DPFを用いることなく、触媒のみでPMを連続燃焼させる方法等が考えられる。また、このような方法に用いられるPM低温燃焼触媒として、貴金属系触媒や複合酸化物触媒等が提案されている。これらの触媒によれば、sootの燃焼に対して効果が認められるものの、燃焼温度は450℃〜600℃と依然として高温である。
【0005】
例えば、Ag及び/又はCoで安定化されたセリア(CeO2)を、Ag当量で5〜90mol%有する白金族金属非含有触媒組成物が提案されている(特許文献1参照)。この発明では硝酸塩分解法により触媒組成物が調製されており、このような触媒組成物を備えたDPFによれば、低温下であっても、従来の触媒付DPFに比して活性であり、経済性と効率の両面で優れるとされている。
【0006】
また、銀、銅及びそれらの酸化物とセリアとを含む触媒を備えたDPFクリーニング装置が提案されている(特許文献2参照)。この発明によれば、PMを濾過除去するのに用いられるフィルタを、ディーゼルエンジンの全運転領域に亘り効率的に浄化することができるとされている。
【0007】
また、ガス流中の液体又は固体の汚染物質を酸化する方法において、触媒活性化合物としてAg2Oを含む複合酸化物を用いることが提案されている(特許文献3参照)。この発明では、固相反応法によりAg2Oを含む複合酸化物が調製されており、この方法によれば、排ガス中から液体又は固体の汚染物質を分離して燃焼することにより、汚染物質の放出を減少、防止することができるとされている。
【0008】
また、多孔質性の耐火性3次元構造体と、耐火性3次元構造体の表面に担持されたLiAlO3からなる中間層と、中間層の上面に担持された触媒層と、を備え、複合酸化物に貴金属を担持してなる触媒が用いられたディーゼルパティキュレート浄化用フィルタが提案されている(特許文献4参照)。この発明によれば、低温域でSOFを効率よく吸着、酸化燃焼してSOFの排出を防止できるとともに、SOFの燃焼熱を利用してドライスーツを燃焼させることができるとされている。
【0009】
また、PMの燃焼には二酸化窒素(NO2)が高活性を示すことから、DPFの上流にNO2生成触媒を配置する方法や(特許文献5参照)、DPFにNO2生成触媒を塗布する方法(特許文献6参照)等が提案されている。これらの方法によれば、通常ではPMが自己燃焼しない温度域であっても、NO2を利用することによりPMを燃焼除去できるとされている。ただし、NOxが少ない条件下では、PMを燃焼促進する効果が小さく無意味であり、高温条件下では、NOとNO2の濃度平衡がNO側に偏るため、NO2によるPM燃焼促進効果は極めて小さくなる。
【0010】
また、NO2でのPM燃焼効率をさらに高めるため、NO2生成触媒とPM燃焼触媒とを組み合わせた技術も公知である。例えば、NO2生成用の第1触媒と、転化されたNO2をPMと反応させる第2触媒とを、2層又は混合層の状態で担持させたフィルタを備えるディーゼルエンジンの排気浄化装置が提案されている(特許文献7参照)。この発明によれば、第1触媒で生成したNO2とPMとを第1触媒で反応させることにより、PMを効率的に除去させることができるとされている。ただし、この発明では、第2触媒が第1触媒に被覆されている、又は混合されている状態でコートされているため、実際にはPMと第2触媒は接触確率が非常に低く、効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0011】
また、貴金属を無機酸化物に担持させた貴金属触媒層を表層に有し、遷移金属を含む遷移金属触媒層を内層に有する被覆層を備える排ガス浄化材が提案されている(特許文献8参照)。この発明によれば、パティキュレートの燃焼に対して高い触媒活性が得られるとされている。ただし、PMの燃焼は固体−固体反応であるため、表層触媒とPMは接触できるものの、内層触媒とPMは接触できず、内層触媒の性能を十分に発揮することができない。
【特許文献1】特開2004−42021号公報
【特許文献2】特開2001−73748号公報
【特許文献3】特表2000−502598号公報
【特許文献4】特開平8−173770号公報
【特許文献5】特開平1−318715号公報
【特許文献6】特開2003−293730号公報
【特許文献7】特開2001−263051号公報
【特許文献8】特開2001−157845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、内燃機関から排出される排ガス温度は、200℃〜450℃と低温であることから、再生処理等を行わずして、排ガス温度域でPMを連続燃焼することは困難である。このため、PMの浄化に際しては、高温下での再生処理が不可欠であり、十分な耐熱性を有する触媒が必要である。
【0013】
しかしながら、従来の貴金属系触媒では、ガソリン排ガスの場合と同様に貴金属の凝集が起こるうえ、担体として用いられる酸化物等の構造破壊により性能が低下するため、耐熱性が良好であるとは言えない。また、従来の複合酸化物触媒は、それ自体が高温焼成により構造形成されるものであるため、耐熱性に関しては問題無いものの、sootの燃焼に対する初期性能の向上が課題となっている。
【0014】
また、運転条件によってはsootが全く燃焼しない場合がある。このときに蓄積したPMはDPFの目詰まりを引き起こし、ひいてはDPFによる圧力損失の増大を招くことから、蓄積したPMを定期的に除去する必要がある。例えば、外部エネルギーによりDPFの温度を600℃付近まで上昇させて燃焼除去することにより、DPFの再生処理が行われている。
【0015】
しかしながら、このような再生処理に伴い、燃費悪化やエミッション悪化、システムの複雑化等、多くのデメリットが生じているのが現状である。このようなデメリットを低減するためには、再生時の温度を低下させること、又は再生時間を短くすることが必要である。
【0016】
従って、低温度域でPMを燃焼することができ、且つ耐熱性に優れた材料の開発が求められている。ディーゼル排ガスでは、ガソリン排ガスに比して耐熱条件は緩いものの、今後の大排気量/高出力ENGや、直下レイアウト構造等を考慮すればなおのことである。
【0017】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、より低温でPMを燃焼できるとともに、高温でのPM燃焼速度が大きい排ガス浄化触媒、及びこれを用いた排ガス浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、酸素放出能を有する複合酸化物にAg及び貴金属を共担持してなる排ガス浄化触媒によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0019】
(1) 内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質を浄化するための排ガス浄化触媒であって、酸素放出能を有する複合酸化物と、この複合酸化物に共担持されたAg及び貴金属と、を有し、前記複合酸化物が、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素よりなる群から選ばれる少なくとも2以上の元素を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒。
【0020】
(2) 前記貴金属が、Ru、Pd、及びPtよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の元素を含み、前記排ガス浄化触媒に対する前記貴金属の含有量が、0.1質量%〜3.0質量%である(1)記載の排ガス浄化触媒。
【0021】
(3) 内燃機関の排ガス経路に配置され、前記内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質を浄化する排ガス浄化装置であって、フィルタと、このフィルタの表面に形成された触媒層と、を有する浄化部を備え、前記触媒層が、(1)又は(2)記載の排ガス浄化触媒を有することを特徴とする排ガス浄化装置。
【0022】
(4) 前記触媒層が、前記内燃機関から排出される排ガス中のNOをNO2に変換するNO2生成触媒をさらに有する(3)記載の排ガス浄化装置。
【0023】
(5) 前記触媒層が、前記排ガス浄化触媒により形成された下層と、前記NO2生成触媒により形成された上層と、を有する(4)記載の排ガス浄化装置。
【0024】
(6) 前記NO2生成触媒が、Pt、Pd、及びRhよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の元素を高比表面積担体上に担持してなるものである(4)又は(5)記載の排ガス浄化装置。
【0025】
(7) 前記高比表面積担体が、アルミナ、シリカ、チタニア、セリア、ジルコニア、及びマグネシアよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の担体である(6)記載の排ガス浄化装置。
【0026】
(8) 前記上層中に空隙を有する(5)から(7)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【0027】
(9) 前記空隙が1μm以上である(8)記載の排ガス浄化装置。
【0028】
(10) 前記フィルタが、多孔質の耐火性セラミックスからなるウォールフロータイプのフィルタである(3)から(9)いずれか記載の排ガス浄化装置。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素よりなる群から選ばれる少なくとも2以上の元素を含み且つ酸素放出能を有する複合酸化物に、PMに対して活性の高いAg及び貴金属が共担持されているため、複合酸化物の酸素放出能をより低温下で引き出すことができる結果、PM燃焼温度をより低温化することができる。より詳しくは、複合酸化物にAgが担持されているため、活性種であるAgをPMとの接触界面に配置することができる結果、PMとの反応性がより向上する。また、Agとともに貴金属が共担時されているため、貴金属による酸素供給能の増加及び貴金属によるブロッキング効果によるAgの微粒子化が可能となり、Ag及び貴金属を共担持した酸素放出能を有する複合酸化物触媒の酸素放出能を大幅に向上させることができる。
【0030】
また、複合酸化物の耐熱性が高く、Agを複合酸化物に担持したことによる相互作用や貴金属によるブロッキング効果でAg凝集及び揮発を抑制可能であることから、本発明に係る排ガス浄化触媒は耐熱性に優れる。このため、今後のさらなる大排気量/高出力ENGを想定した場合の高耐熱条件のおいても、排気レイアウトに左右されることなく、床下はもちろん直下での使用にも耐え得る。さらには、低温で燃焼できるので、強制再生による燃費ロス、EM悪化、触媒劣化を抑制でき、自動車への負担を軽減できる。
【0031】
酸素放出能を有する複合酸化物はNO2吸着能も高いことが分かっていることから、NO2生成触媒と共存させた場合にあっては、生成したNO2が酸素放出能を有する複合酸化物表面に吸着することにより、表面のNO2濃度が高く保たれる。このため、本触媒による酸素とPMによる反応に加えて、AgによるNO2とPMの反応がより促進され、PM燃焼速度がさらに向上する。特に、本触媒とNO2生成触媒との2層構造を採用した場合にあっては、NO2生成触媒層内の空隙を1μm以上とすることにより、PMが本触媒へ接触することが容易になり、燃焼速度がさらに向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0033】
<排ガス浄化触媒>
本実施形態に係る排ガス浄化触媒は、内燃機関から排出される排ガス中のPMを浄化するために用いられ、酸素放出能を有する複合酸化物と、この複合酸化物に共担持されたAg及び貴金属と、を有し、複合酸化物が、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素よりなる群から選ばれる少なくとも2以上の元素を含むことを特徴とする。
【0034】
[複合酸化物]
本実施形態に係る排ガス浄化触媒で用いられる複合酸化物は、酸素放出能を有することを特徴とする。例えば、ペロブスカイト型、スピネル型、ルチル型、デラフォサイト型、マグネトプランバイト型、イルメナイト型、及びフルオライト型よりなる群から選ばれる複合酸化物を用いることができる。これらのうち、耐熱性の観点から、ぺロブスカイト型、フルオライト型の複合酸化物が好ましく用いられる。
【0035】
また、上記複合酸化物は、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素よりなる群から選ばれる少なくとも2以上の元素を含むことを特徴とする。好ましい遷移金属元素としては、Zr、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Ta、Mo、W、Ce、Pr、Sm、Eu、Tb、Yb、Pt、Pd、Rh、Ir、Ruが挙げられる。
【0036】
上記複合酸化物は、原子の価数を変化させて酸素の放出を行うものである。酸素の放出は、構成原子の価数の変化に応じて電荷のバランスを保つために、複合酸化物の格子中の酸素が脱離する現象である。このため、複合酸化物に酸素放出能を付与する観点から、多原子価を有する元素のうち少なくとも1種が複合酸化物中に含まれていることが好ましい。また、構造安定性の観点から、価数の変化がなくイオン半径の比較的大きなLa、Nd、Y、Sc、Hf、Ca、Sr、Baが含まれることが好ましい。
【0037】
上述した通り、複合酸化物は高温焼成により構造形成されるものであるため、耐熱性に優れる。ここで、耐熱性の優れた複合酸化物とは、ある程度高温の耐熱条件に対してPM燃焼特性が変化しない、又は変化が少ない複合酸化物を意味する。また、PM燃焼特性の変化とは、実用排ガス温度域で十分にPMを燃焼可能な領域内での変化を意味する。
【0038】
上記複合酸化物の調製方法については、特に限定されず、従来公知の調製方法が採用される。例えば、硝酸塩分解法、有機酸錯体重合法等が好適に採用される。
【0039】
[Ag及び貴金属]
本実施形態に係る排ガス浄化触媒は、上述したような酸素放出能を有する複合酸化物に、PMに対して高い活性を示すAg及び貴金属が共担持される。Agとともに共担持される貴金属は特に限定されず、貴金属元素の中から選ばれる少なくとも1種以上の元素を含む。特に、酸素放出能の増加やAg微細化の観点から、Ru、Pd、及びPtよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の元素を含むことが好ましい。
【0040】
上記貴金属の含有量は、排ガス浄化触媒に対して0.1質量%〜3.0質量%と微量であることが好ましい。より好ましくは、0.5質量%〜2.0質量%である。上記貴金属の含有量が0.1質量%より少ない場合には、酸素放出能が低下し、3.0質量%より多い場合には、貴金属と複合酸化物の相互作用が強くなり、Agの担持効果が損なわれるため好ましくない。
【0041】
上記複合酸化物にAg及び貴金属を共担持させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法が採用される。例えば、含浸法や析出沈殿法等が好適に採用される。
【0042】
<排ガス浄化装置>
本実施形態に係る排ガス浄化装置1を図1及び図2に示す。本実施形態に係る排ガス浄化装置1は、内燃機関2(例えばディーゼルエンジン)の排ガス経路3に配置され、内燃機関2から排出される排ガス中のPMを浄化するために用いられる。本実施形態に係る排ガス浄化装置1の具体的構成は、フィルタと、このフィルタの表面に形成された触媒層と、を有する浄化部10を備え、触媒層が上記の排ガス浄化触媒(以下、Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒ともいう)を有することを特徴とする。なお、浄化部10の上流に参加触媒を有する酸化触媒部20を備えたものであってもよい。
【0043】
[フィルタ]
上記フィルタとしては、三次元網目構造を有し、十分なPM捕集機能を有するものであれば特に限定されず、従来公知のフィルタが用いられる。具体的には、発泡金属や発泡セラミックス、金属やセラミックス繊維を重ね合わせた不織布、ウォールフロータイプのフィルタ等が挙げられる。これらのうち、捕集効率、及びPMと触媒との接触性の観点から、ウォールフロータイプのフィルタが好ましく用いられる。
【0044】
上記フィルタの好適な一例を、図3及び図4に模式的に示す。図3、4に示されるように、フィルタ11はハニカム構造をなしており、互いに平行に延びる多数の排ガス流入路12及び排ガス流出路13を備えている。より詳しくは、フィルタ11の下流端が栓14により閉塞された排ガス流入路12と、上流端が栓14により閉塞された排ガス流出路13とが前後左右に交互に設けられている。また、排ガス流入路12と排ガス流出路13とは、薄肉の隔壁15を介して隔てられている。
【0045】
フィルタ11は、フィルタ11本体が炭化珪素やコージライト等のような多孔質材料から形成されており、排ガス流入路12内に流入した排ガスは、図4において矢印で示されるように、周囲の隔壁15を通って隣接する排ガス流出路13内に流出する。即ち、図5に示されるように、隔壁15は排ガス流入路12と排ガス流出路13とを連通する微細な細孔16を有し、この細孔16が排ガス流路となって排ガスが流通する。排ガス流入路12、排ガス流出路13、及び細孔16の壁面には触媒層17が形成されている。
【0046】
[触媒層]
触媒層17は、フィルタ11の基材表面に形成され、上記のAg−貴金属共担持複合酸化物触媒を含む。また、触媒層17は、2層構造を有していることが好ましい。2層構造を有する触媒層17の断面を図6に模式的に示す。フィルタ11の基材側にある下層18が上記のAg−貴金属共担持複合酸化物触媒により形成されるのが好ましく、上層19がNO2生成触媒により形成されるのが好ましい。
【0047】
上記NO2生成触媒としては特に限定されず、従来公知のものが用いられる。好ましくは、貴金属であるPt、Pd、及びRhよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の元素が、高比表面積担体であるアルミナ、シリカ、チタニア、セリア、ジルコニア、及びマグネシアよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の担体に担持されたNO2生成触媒が用いられる。
【0048】
通常、排ガス中の窒素酸化物のほとんどは、NOの状態で排出される。上記のような2層構造を採用した場合にあっては、上層のNO2生成触媒の作用によりNOがNO2に変換された後、生成したNO2が下層のAg−貴金属共担持複合酸化物触媒に供給される。このため、Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒による酸素とPMの反応に加え、AgによるNO2とPMの反応が促進される結果、PM燃焼速度が増大する。
【0049】
ただし、Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒の上層に、NO2生成触媒が全面に亘って均一に塗布された場合にあっては、PMがAg−貴金属共担持複合酸化物触媒に十分接触できず、十分な効果が得られないおそれがある。このため、NO2生成触媒により形成される上層内に、空隙19aが形成されていることが好ましい(図6参照)。これにより、PMをAg−貴金属共担持複合酸化物触媒に十分に接触させることができる結果、PMを効率よく燃焼させることができる。なお、一般的にPMの粒子径分布は、大半が1μm以下に分布していることが知られていることから、空隙19aの径は1μm以上であればよい。
【0050】
また、600℃付近の高温領域下では、高温になるにつれて2層化の効果が大きくなることが分かっている。これは、特許文献6に示されているようなNO2生成触媒のみの構成であった場合には、600℃付近の高温下では平衡の関係でNO2濃度は極端に低くなるため、NO2とPMの反応が進行し難くなるからである。しかしながら、上記のように、NO2生成触媒とAg−貴金属共担持複合酸化物触媒の2層構造を採用した場合には、生成したNO2がNOに戻る前にAg−貴金属共担持複合酸化物触媒中の酸素放出能を有する複合酸化物に吸着する。これにより、Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒の近傍にNO2が多量に存在する状態となり、PM燃焼が促進される。
【0051】
触媒の塗布量は特に限定されず、本発明の効果が奏される範囲内で適宜設定される。下層のAg−貴金属共担持複合酸化物触媒の塗布量は、例えば、フィルタ11の1Lあたり20g〜100gであることが好ましい。20g未満である場合には、フィルタ11の気孔内部の表面を十分覆うことができず、PMとの接触性が悪くなり、また、100gを超える場合には、気孔の目詰まりにより圧力損失が増大する。一方、上層のNO2生成触媒の塗布量は、フィルタ11の1Lあたり10g〜30gであることが好ましい。10g未満である場合には、NO2生成能力が不十分であり、また、30gを超える場合には、層の厚さが大きくなりすぎてAg−貴金属共担持複合酸化物触媒にPMが接触し難くなる。
【実施例】
【0052】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、%は質量%を表し、比率は質量比を表す。
【0053】
<実施例1>
[1%Pd30%Ag/LaMnO3+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸ランタン、硝酸マンガンを0.01molずつ、及び蒸留水を適量秤量して溶液Aとした。次いで、炭酸ナトリウムを3.6g、蒸留水を適量秤量して溶液Bとした。溶液Bを60℃、300回転で混合しながら、溶液Aを7ml/minで滴下した(逆共沈法)。沈殿物をpHが中性になるまで蒸留水で濾過洗浄し、200℃×2Hrで乾燥させた後、350℃×3Hrで乾燥固化させた。これを整粒し、2μm以下とした後、800℃×10Hrで焼成を行ったものを触媒Aとした。
【0054】
触媒Aを6.9g、硝酸銀を4.72g、硝酸パラジウムを1.99g、及び蒸留水を適量秤量して溶液Cとした。溶液Cをエバポレータで蒸発乾固したものを200℃×2Hrで乾燥した後、700℃×2Hrで焼成した(含浸法)。これを整粒し、2μm以下としたものを触媒Bとした。この触媒B9.5mgを0.5mgのPMと混合し、タイトコンタクト化したものを実施例1とした。
【0055】
<実施例2>
[1%Pd30%Ag/CeZrO2+PM(5%)]
市販の高比表面積セリアジルコニア(Ce:Zr=2:8、阿南化成製71m2/g)を触媒Cとし、触媒C、硝酸銀、及び硝酸パラジウムを上記触媒Bと同様に調製したものを触媒Dとした。触媒Dを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例2とした。
【0056】
<実施例3>
[1%Pd30%Ag/CoTa2O6+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸コバルト、酸化タンタル、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を、上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒Eとした。触媒E、硝酸銀、及び硝酸パラジウムを、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒Fとした。この触媒Fを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例3とした。
【0057】
<実施例4>
[1%Pd30%Ag/PtCoO2+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸コバルト、ジニトロジアンミン硝酸白金、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を、上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒Gとした。触媒G、硝酸銀、及び硝酸パラジウムを、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒Hとした。この触媒Hを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例4とした。
【0058】
<実施例5>
[1%Pd30%Ag/ZnCo2O4+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸コバルト、硝酸亜鉛、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を、上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒Iとした。触媒I、硝酸銀、及び硝酸パラジウムを、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒Jとした。この触媒Jを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例5とした。
【0059】
<実施例6>
[1%Pd30%Ag/W0.67Ca0.67Mn0.67O3+PM(5%)]
市販の特級試薬であるタングステン酸アンモニウム、硝酸カルシウム、硝酸マンガン、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒Kとした。触媒K、硝酸銀、及び硝酸パラジウムを、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒Lとした。この触媒Lを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例6とした。
【0060】
<実施例7〜10>
[x%Pd30%Ag/CeZrO2+PM(5%)(x=0.1、0.5、2、3)]
上記触媒C、硝酸銀、及び硝酸パラジウムを所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に調製したものを、触媒M〜Pとした。触媒M〜Pを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例7〜10とした。
【0061】
<実施例11、12>
[1%X30%Ag/CeZrO2+PM(5%)(X=Pt、Ru)]
上記触媒C、硝酸銀、及び硝酸塩(XNO3、X=Pt、Ru)を、所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒Q、Rとした。触媒Q、Rを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例11、12とした。
【0062】
<実施例13>
[1%PtPd(2:1)30%Ag/CeZrO2+PM(5%)]
上記触媒C、硝酸銀、及び、硝酸白金又は硝酸パラジウムを、所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒Sとした。触媒Sを上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例13とした。
【0063】
<実施例14>
[1%Pd30%Ag/LaMnO3+PM(5%)−800℃Aging]
上記触媒Bを、800℃×20Hr、大気中でエージングをしたものを触媒Tとした。この触媒Tを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例14とした。
【0064】
<実施例15>
[1%Pd30%Ag/CeZrO2+PM(5%)−800℃Aging]
上記触媒Dを、800℃×20Hr、大気中でエージングをしたものを触媒Uとした。この触媒Uを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例15とした。
【0065】
<実施例16>
[1%Pd30%Ag/LaMnO3+PM(5%)−900℃Aging]
上記触媒Bを、900℃×20Hr、大気中でエージングをしたものを触Vとした。この触媒Vを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例16とした。
【0066】
<実施例17>
[1%Pd30%Ag/CeZrO2+PM(5%)−900℃Aging]
上記触媒Dを、900℃×20Hr、大気中でエージングをしたものを触媒Wとした。この触媒Wを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを実施例17とした。
【0067】
<比較例1>
[PM]
ディーゼル発電機より収集したPM粉末そのものを比較例1とした。
【0068】
<比較例2>
[0.76%Pt/Al2O3+PM(5%)]
市販の特級試薬のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を1.51g、Al2O3を9.92g、及び蒸留水を適量秤量し、これらをエバポレータにて蒸発乾固させてAl2O3に白金を担持させた。200℃で乾燥後、600℃×2Hrで焼成したものを触媒AAとした。この触媒AAを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例2とした。
【0069】
<比較例3>
[LaMnO3+PM(5%)]
上記触媒Aを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例3とした。
【0070】
<比較例4>
[CeZrO2+PM(5%)]
上記触媒Cを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例4とした。
【0071】
<比較例5>
[CoTa2O6+PM(5%)]
上記触媒Eを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例5とした。
【0072】
<比較例6>
[PtCoO2+PM(5%)]
上記触媒Gを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例6とした。
【0073】
<比較例7>
[ZnCo2O4+PM(5%)]
上記触媒Iを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例7とした。
【0074】
<比較例8>
[W0.67Ca0.67Mn0.67O3+PM(5%)]
上記触媒Kを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例8とした。
【0075】
<比較例9>
[30%Ag/LaMnO3+PM(5%)]
上記触媒A、硝酸銀、及び蒸留水を、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒ABとした。この触媒ABを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例9とした。
【0076】
<比較例10>
[30%Ag/CeZrO2+PM(5%)]
上記触媒C、硝酸銀、及び蒸留水を、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒ACとした。触媒ACを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例10とした。
【0077】
<比較例11>
[30%Ag/CoTa2O6+PM(5%)]
上記触媒E、硝酸銀、及び蒸留水を、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒ADとした。この触媒ADを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例11とした。
【0078】
<比較例12>
[30%Ag/PtCoO2+PM(5%)]
上記触媒G、硝酸銀、及び蒸留水を、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒AEとした。この触媒AEを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例12とした。
【0079】
<比較例13>
[30%Ag/ZnCo2O4+PM(5%)]
上記触媒I、硝酸銀、及び蒸留水を、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒AFとした。この触媒AFを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例13とした。
【0080】
<比較例14>
[30%Ag/W0.67Ca0.67Mn0.67O3+PM(5%)]
上記触媒K、硝酸銀、及び蒸留水を、上記触媒Bと同様に調製したものを触媒AGとした。この触媒AGを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例14とした。
【0081】
<比較例15>
[Ag2O+PM(5%)]
市販の特級試薬の酸化銀を、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例15とした。
【0082】
<比較例16、17>
[x%Pd30%Ag/CeZrO2+PM(5%)(x=5、14)]
上記触媒C、硝酸銀、硝酸パラジウム、及び蒸留水を、所定の組成となるように上記触媒Bと同様に調製したものを触媒AH、AIとした。触媒AH、AIを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例16、17とした。
【0083】
<比較例18>
[30%Ag/LaAlO3+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸ランタン、硝酸アルミニウム、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を、上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒AJとした。触媒AJ、硝酸銀、及び蒸留水を所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に含浸法にて調製したものを触媒AKとした。この触媒AKを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例18とした。
【0084】
<比較例19>
[30%Ag/La2O3+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸ランタン、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を、上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒ALとした。触媒AL、硝酸銀、及び蒸留水を、所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に含浸法にて調製したものを触媒AMとした。この触媒AMを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例19とした。
【0085】
<比較例20>
[30%Ag/MnO2+PM(5%〉]
市販の特級試薬である硝酸マンガン、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を、上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒ANとした。触媒AN、硝酸銀、及び蒸留水を、所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に含浸法にて調製したものを触媒AOとした。この触媒AOを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例20とした。
【0086】
<比較例21>
[30%Ag/(La2O3+MnO2)+PM(5%)]
上記触媒ALを1g、及び触媒ANを1g、乳鉢乳棒にて粉砕混合し、800℃で10Hr、焼成したものを触媒APとした。触媒AP、硝酸銀、及び蒸留水を、所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に含浸法にて調製したものを触媒AQとした。この触媒AQを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例21とした。
【0087】
<比較例22>
[1%Pt/CeZrO2+PM(5%)]
上記触媒C、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液、及び蒸留水を、所定の組成となるよう秤量し、上記と同様に含浸法にて調製したものを触媒ARとした。この触媒ARを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例22とした。
【0088】
<比較例23>
[1%Pd/CeZrO2+PM(5%)]
上記触媒C、硝酸パラジウム、及び蒸留水を、所定の組成となるよう秤量し、上記と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒ASとした。この触媒ASを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例23とした。
【0089】
<比較例24>
[Ag0.8La0.2MnO3+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸銀、硝酸ランタン、硝酸マンガンをそれぞれ0.04mol、0.01mol、0.05mol、及び蒸留水を適量秤量し溶液Dとした。溶液Dを250℃、300回転で混合しながら蒸発乾固した後、200℃×2Hrで乾燥、350℃×3Hrで仮焼した。その後、2μm以下となるように整粒し、800℃×10Hrで焼成を行ったものを触媒ATとした。この触媒ATを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例24とした。
【0090】
<比較例25>
[(30%Ag2O+LaMnO3)+PM(5%)]
上記触媒Aを7g、及び酸化銀を3g秤量し、乳鉢乳棒にて物理混合した。これを800℃、10Hrで焼成し、固相反応させたものを触媒AUとした。この触媒AUを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例25とした。
【0091】
<比較例26>
[1%Pd30%Ag/CeO2+PM(5%)]
市販の特級試薬である硝酸セリウム、炭酸ナトリウム、及び蒸留水を、上記実施例1と同様に逆共沈法にて調製したものを触媒AVとした。触媒AV、硝酸銀、硝酸パラジウム及び蒸留水を、所定の組成となるように秤量し、上記触媒Bと同様に含浸法にて調製したものを触媒AWとした。この触媒AWを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例26とした。
【0092】
<比較例27>
[1%Pd30%Ag/CeO2−800℃Aging+PM(5%)]
上記触媒AWを、800℃×6Hr、大気中でエージングをしたものを触媒AXとした。この触媒AXを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例27とした。
【0093】
<比較例28>
[1%Pd30%Ag/CeO2−900℃Aging+PM(5%)]
上記触媒AWを、900℃×6Hr、大気中でエージングをしたものを触媒AYとした。この触媒AYを、上記実施例1と同様にタイトコンタクト化したものを比較例28とした。
【0094】
実施例1〜17及び比較例1〜28により得られた各触媒について、担体の種類、担体に担持されている金属の種類を表1、2にまとめて示す。また、各触媒について、後述するような条件でPM燃焼特性評価、及び結晶構造評価を行った。その評価結果をあわせて表1、2に示す。さらには、一部の触媒について、後述するような条件下で酸素脱離特性の評価を行った。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
[PM燃焼特性評価]
各実施例及び比較例で調製した触媒について、以下のような条件でTG/DTA測定を行い、発熱特性(DTA)及びそのピーク温度を指標として、PM燃焼特性の評価を行った。具体的には、PMの燃焼における発熱量がピークとなるときの温度(PM燃焼ピーク温度)の調査を行った。
測定装置:セイコーインスツルメンツ社製「EXSTER6000TG/DTA」
昇温条件:20℃/min
雰囲気:Dry Air
サンプル量:10mg
流量:空間速度(SV)=60000h−1
タイトコンタクト:乳鉢乳棒にて2μm以下に粉砕混合
【0098】
[結晶構造評価]
各実施例及び比較例で調製した触媒について、以下のような条件でX線回折測定を行い、その結晶構造の評価を行った。また、測定して得られたX線回折スペクトルの半値幅から、結晶子径を算出した。
測定装置:株式会社リガク製X線回折装置「RINT TTRIII」
X線管:Cu−Kα
管電圧:60kV
管電流:300mA
測定法:水平ゴニオメータ、固定モノクロメータ、連続スキャンモード
測定範囲:2θ=10°〜90°
測定間隔:0.02°
【0099】
[酸素脱離特性評価]
O2−TPD(昇温脱離試験)による酸素脱離特性の評価を以下のような条件下で行った。
測定装置:日本ベル社製TPD1TPR分析装置「MS−Q−MS」
サンプル:O220%気流中で800℃×30min前処理後、大気下50℃まで降温
雰囲気:50ml/minのHe気流中
昇温条件:10℃/minで800℃まで昇温
【0100】
[考察]
〔Ag−貴金属共担持について〕
図7に、PMそのもの(比較例1)、0.76%Pt/Al2O3+PM(5%)(比較例2)、及びペロブスカイト型複合酸化物のLaMnO3+PM(5%)(比較例3)のPM燃焼特性を示す。比較例1より、PMそのもののみの燃焼ピーク温度は668℃であることが分かった。これに対し、比較例2のような貴金属系材料では、1stPeakは247℃、2ndPeakは561℃とピークが二つに分かれていた。それぞれの燃焼ピークは、発生ガス分析からも1stPeakが有機成分、2ndPeakがsootに由来することが分かっている。このことから、貴金属系材料では、有機成分の燃焼には効果があるものの、sootに関してはそれほど低温で燃焼できていないことが分かった。これらは、HCガスと同様に活性種表面での酸化反応であることから、sootより熱的に不安定な有機成分は早期に活性種への解離吸着が起こり易いためであると推定された。また、これらPtやPd等の貴金属系触媒の場合、性能は貴金属量の影響をほとんど受けない。
【0101】
一方、LaMnO3+PM(5%)(比較例3)のような遷移金属系複合酸化物では、貴金属系材料のように燃焼ピークの分離がほとんど認められなかった。このため、このような複合酸化物においては、有機成分は早期燃焼せず、sootとともに燃焼していると考えられた。また、複合酸化物の場合は、貴金属系材料とは異なり、sootの燃焼は比較的低温で可能であった。従って、遷移金属系複合酸化物は、sootの燃焼に対して効果的であるといえる。これらの結果は、複合酸化物の価数変化に伴う酸素放出能に依存していると考えられ、酸素放出しない低温側での有機成分の燃焼はなく、燃焼がsootと同時に起こる。即ち、酸素放出能が高いほど、低温でPMを燃焼することが可能となると考えられた。
【0102】
ところで、現状の内燃機関から排出される排ガス温度は。200℃〜450℃と低温である。このため、有機成分に関しては、貴金属系材料を用いることで排ガス温度域内での燃焼が十分に可能である。しかしながら、sootの燃焼は、比較例3のような触媒材料等によりいくらか低温で燃焼可能であるものの、やはり再生処理等を行わずして排ガス温度域で連続燃焼することは難しいと言える。
【0103】
これに対して、本実施例では、酸素放出能を有する複合酸化物に、Ag及び貴金属を共担持することにより、複合酸化物の酸素放出能を大幅に向上させ、PM燃焼特性を向上させることに成功したものである。
【0104】
図8に、1%Pd30%Ag/LaMnO3+PM(5%)(実施例1)の燃焼特性を示す。図8にあわせて示した比較例3に比して、PM燃焼特性が大幅に低温化していることが分かる。表1に示すように、PM燃焼ピーク温度は、比較例3の454℃から369℃と85℃の低温化が達成されている。これは、酸素放出能を有する複合酸化物にAg及び貴金属としてPdを共担持したことによる効果である。そもそもAg2Oは、PMに対して非常に高活性である(表1の比較例15参照)。Ag2Oは、PMと接触することで還元反応を起こすと考えられる。しかしながら、Ag2Oは、還元反応により揮発する特性を有しているため、耐熱性の観点では単独で用いることができない。
【0105】
そこで、複合酸化物にAgを担持することにより、Agの凝集及び揮発を抑制する方法がある。複合酸化物上で、Agは、Ag又はAg2Oとして存在すると考えられるが、反応により還元されたAgは、複合酸化物に担持されていることにより効果的に作用する。具体的には、還元されたAgの揮発を抑制しつつ、Agは再び活性化するために複合酸化物の価数を変化させ、強制的に酸素を取り込もうとする。これらが繰り返されることにより、触媒全体の酸素放出能が高められる結果、PM燃焼温度の低温化が達成されると推察される。即ち、酸素放出能を有する複合酸化物に、PMに対して活性の高いAgを担持させることにより、複合酸化物の酸素放出能をより低温で引き出すことが可能であると言える。
【0106】
これらAg担持複合酸化物は、酸素過剰雰囲気においては酸素を吸収保持し、酸素濃度が低下すると酸素を放出する性質を有する。即ち、排ガス中の酸素濃度が低下、あるいは触媒上に含炭素浮遊微粒子が堆積して周囲の酸素濃度が低下すると、活性酸素を放出して触媒上の含炭素浮遊微粒子を燃焼させることが可能である。この点については、図9に示されるように、比較例3〜8の様々な構造(ぺロブスカイト型複合酸化物、フルオライト型複合酸化物、ルチル型複合酸化物、デラフォサイト型複合酸化物、スピネル型複合酸化物及び元素を単純混合しただけの複合酸化物)を有する単独複合酸化物に対して、比較例9〜14のAg担持複合酸化物のPM燃焼ピーク温度が低下しており、活性が向上していることからも証明される。
【0107】
一方、図9に示されるように、比較例9〜14のAg担持複合酸化物に対して、実施例1〜6ではPM燃焼特性が大幅に向上していることが分かる。本発明では、酸素放出能を有する複合酸化物へのAgの担持に加え、Ag以外の元素として貴金属元素を共担持させたことを特徴とする。このため、酸素放出能を有する複合酸化物にAg及び貴金属を共担持させることにより、PM燃焼特性が大幅に向上することが確認された。
【0108】
Ag−貴金属共担持複合酸化物では、PMとの反応性はAg単独のときほどではないものの、酸素の活性化に有効な貴金属がAg周辺に微量に共担時されることにより、Agへの酸素供給の助触媒として働くと考えられる。また、貴金属がAg周辺に微量に共担時されることでAg粒子の凝集を抑制し、Agナノ粒子を保持する役割を果たすと考えられる。結果として、Ag−貴金属共担持複合酸化物の酸素放出量が増加し、PM燃焼特性が大幅に向上する。これは、図10に示されるX線回折による構造解析結果から算出されたAgの結晶子径、及び図11に示されるO2−TPD解析による酸素脱離量測定結果から証明される。即ち、図10では、Pd添加によりAg粒子径が微細化していることが証明され、図11では、Pd添加により酸素脱離量が増加していることが証明される。このように、PM燃焼特性の向上のためには、Ag粒子を微細化し、酸素脱離量を増大させるべく、Ag−貴金属共担持複合酸化物であることが必要であると言える。
【0109】
〔貴金属の添加量について〕
Ag−貴金属共担持複合酸化物における貴金属の含有量について考察する。図12に、PdAg/CeZrO2におけるPd含有量の影響を示す。図12に示されるように、Pd量が0.1〜3.0質量%である実施例2、7〜10において高特性である一方、Pd量が0質量%、及び5質量%以上(比較例10、16、17)では低活性である。このことから、Pdの添加量が多い場合には、添加元素の影響が強く支配的になる結果、Pd/CeZrO2の性能に近付くと考えられる。Pdの添加量が0である場合には、Ag凝集抑制、及び酸素脱離量を増加することができなくなると推測される。従って、Ag−貴金属共担持複合酸化物での貴金属の含有量は、0.1質量%〜3.0質量%であることが好ましく、0.5質量%〜2.0質量%であることがより好ましいことが確認された。
【0110】
〔貴金属種について〕
Ag−貴金属共担持複合酸化物における貴金属種について考察する。図13に、比較例10のAg/CeZrO2に対して、貴金属を1質量%添加した場合(実施例2、11〜13)のPM燃焼ピーク温度を示す。貴金属を1質量%添加したことにより、添加前に比して活性が向上することが分かった。これにより、貴金属から選ばれる少なくとも1種以上の元素を添加することにより、PM燃焼特性の向上効果が発揮されることが確認された。
【0111】
また、図13に示される各触媒について、O2−TPDによる酸素脱離特性から算出される酸素脱離量と、PM燃焼ピーク温度との関係を図14に示す。図14に示されるように、各元素の添加により、Agの酸素脱離量が増加し、PM燃焼特性が向上していることが分かった。これらは、添加元素によるAg微細化、及び酸素供給補助効果によるものと推測される。
【0112】
〔酸素放出能について〕
次に、酸素放出能を有さない複合酸化物(比較例18)、酸素放出能を有する単独酸化物、及びその物理混合酸化物(比較例19〜21)について、それぞれAgを担持した場合の性能を比較した。結果を図15に示す。図15に示されるように、比較例18のPM燃焼ピーク温度は521℃と高温でPM燃焼特性が不良であり、これはAgのみによる特性と考えられた。また、比較例19、20もそれぞれ468℃、435℃と実施例1と比べると高温で性能は劣るものの、これは担体である単独酸化物の酸素放出能が低いためであると考えられた。さらには、これらを物理混合した比較例21は445℃と、それほど燃焼温度を低温化することはできなかった。従って、ディーゼル排ガス温度域でのsootの燃焼を考えた場合、酸素放出能を有さない複合酸化物、酸素放出能の低い単独酸化物、及び単独酸化物の物理的な組み合わせでは期待する性能を得ることができないと言える。このため、比較例9のような酸素放出能を有する複合酸化物を用いることが重要であることが確認された。
【0113】
ここで、酸素放出能を有する酸化物の定義について具体的に説明する。He雰囲気での昇温脱離試験(TPD)及び/又は水素による昇温還元試験(TPR)において、酸素脱離開始温度/水素消費開始温度が低いほど酸素が脱離し易いとし、脱離/消費特性の面積を酸素脱離量とする。これらの脱離し易さ及び酸素脱離量を酸素放出能とし、特に複合酸化物等のような酸化物が雰囲気の変化によって価数変化を引き起こし、酸化物中の酸素が吸放出することを、酸素放出能を有する酸化物と定義する。
【0114】
図16に、La2O3、MnO2、LaMnO3、及びLaAlO3の酸素放出能をO2−TPDで測定した結果を示す。横軸は温度、縦軸は酸素脱離量を表し、He雰囲気中での熱的な酸素の脱離し易さを示す。La2O3は360℃付近で酸素を放出するが、ピーク面積は小さく、酸素放出量が少ないと考えられる。一方、MnO2は400℃付近から酸素の放出を開始し、そのまま高温になるに従い放出量が増加する。また、これらの複合酸化物であるペロブスカイト構造のLaMnO3では、酸素の放出を開始する温度が更に低下し、250℃付近からである。ところが、これらに対し、LaAlO3は全温度域において酸素放出能を有さないことが分かる。このように、各酸化物、複合酸化物は酸素放出能を有するものと全く有さないものとがあり、それぞれの酸素放出性能は相違する。ここで、Mn2O3は600℃付近から酸素放出能が大幅に向上しているのに対し、La2O3は600℃以上の酸素放出能を有さないことが分かる。これらの事実から比較例19、20の結果を考察すると、PM燃焼特性に600℃以上の酸素放出能が寄与していないことが推測される。これは、触媒における酸素の放出量よりは、低温での酸素の脱離のし易さ、即ち酸素脱離エネルギーがPM燃焼において重要なファクターとなっているからであると推測される。従って、He雰囲気での昇温脱離試験(TPD)においては、600℃以下で酸素の脱離が開始され、且つ酸素脱離量が多いものを、酸素放出能を有すると定義できる。
【0115】
〔Ag以外の貴金属について〕
酸素放出能を有する複合酸化物に、Ag以外の貴金属を担持した場合(特許文献4参照)について考察する。図17に、CeZrO2にPt及びPdを担持した場合(比較例22、23)の燃焼特性を示す。実施例2と比べると、いずれもPM燃焼特性が劣ることが分かり、PM活性において、貴金属元素ではAgは特異的に性能が高いと言える。また、比較例22、23のPtやPdの担持量は少ないものとなっており、担持量が多いとさらに活性が低下することが分かっている。複合酸化物との相互作用を考えた場合、比較例4及び10からの性能の向上という観点では、より複合酸化物の価数変化を引き出すことが可能なのはAgであり、PtやPd単独では高い活性は得られない。従って、PtやPd等をAgと共担持させることにより、はじめて高活性を得ることができると言える。
【0116】
〔Agの添加方法について〕
複合酸化物へのAgの添加方法について考察する。比較例24は複合酸化物にAgを固溶した場合(特許文献1参照)であり、比較例25は複合酸化物にAgを固相反応させた場合(特許文献3参照)である。これらの燃焼特性を図18に示す。実施例1と比べ、比較例24及び25は性能が悪いことが分かる。比較例24に関しては、LaMnO3の結晶構造にAgが固溶しているために活性種が埋没し、還元剤となるPMと接触することができず、Agの価数変化を引き出すことができない結果、含浸した場合と比べて性能が劣ると考えられる。一方、比較例25に関しては、耐熱性がないため活性種が揮発してしまい、LaMnO3のみの性能となっていると考えられる。従って、実施例1のように、LaMnO3の最表面に活性種を露出しつつ、複合酸化物との相互作用により酸素放出能を低温化する必要があり、さらにAgの凝集及び揮発を抑制するため、複合酸化物へのAgの添加は、担持でなくてはならないと考えられる。
【0117】
〔耐熱性について〕
Ag−貴金属共担持複合酸化物における耐熱性の観点から、エージング処理を行った結果について考察する。比較例26、27、及び28は、1%Pd30%Ag/CeO2の耐熱前後(特許文献2参照)、実施例14、15は1%Pd30%Ag/LaMnO3の耐熱後、及び実施例16、17は1%30%Ag/CeZrO2の耐熱後(耐熱条件はそれぞれ、800℃×20Hr、900℃×20Hrの大気中熱処理)であり、これらの燃焼特性を、図19に示す。図19において、横軸は大気エージング処理温度であり、各例のエージング前の処理温度は試料調製時の焼成温度を用いた。CeO2は酸素放出能では非常に優れた酸化物であることが広く知られているため、酸素放出能の高いCeO2へのAg及びAg以外の微量の元素の共担持も効果があると考えられる。ところが、エージング前はPM燃焼ピーク温度が318℃(比較例26)と良好な性能を示しているものの、エージング後では358℃、445℃(比較例27、28)と大幅に劣化している。これは、ベース酸化物であるCeO2の熱的構造破壊、Agの凝集及び揮発によるものと推測される。このため、エージング条件によってはAg/CeO2は性能が劣化して実用排ガス温度域で十分にPMを燃焼できなくなることが分かる。これに対し、実施例1、2と実施例14〜17で示される、1%Pd30%Ag/LaMnO3、及び1%Pd30%Ag/CeZrO2のエージング前後でのPM燃焼特性は大きく変化しないことが分かる。これは、複合酸化物の構造形成温度が600℃〜1000℃の高温であるため、エージング温度域で構造破壊が起き難いうえ、複合酸化物とAgの相互作用によりAgの凝集及び揮発が起こり難いためであると推察される。従って、耐熱性を有する複合酸化物へのAg及びAg以外の元素の共担持により、期待する性能を発揮することができると言える。以上のことから、今後さらなる大排気量/高出力ENGを想定した場合の高耐熱条件においても、排気レイアウトに左右されることなく、床下はもちろん、直下での使用にも耐え得る排ガス浄化触媒を提供できる。
【0118】
次に、本発明のより実用的な実施例について説明する。
【0119】
<実施例18>
[触媒粉末調製]
Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒としては、上記触媒Dを用いた。
【0120】
[酸化触媒粉末の調製]
所定量の硝酸白金を含有する水溶液を調製した。γアルミナと水溶液をナスフラスコに入れ、ロータリーエバポレータにて含浸担持を行った。生成物を200℃×1Hr乾燥後、700℃×2Hr焼成を行い、Pt/Al2O3を調製した。
【0121】
[DPFへの担持]
Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒(粉末)、水、SiO2ゾル、アルミナボールを容器に入れ、ボールミルで湿式粉砕を一晩行い、触媒スラリーとした。触媒スラリーにDPFを浸した後引き上げ、エアブローで余剰スラリーを除去した。これを200℃×2Hr乾燥させ、重量測定を行った。所定量担持されるまでこの操作を繰り返した後、700℃×2Hr焼成を行った。
【0122】
[酸化触媒のハニカム担持]
酸化触媒粉末、水、SiO2ゾル、アルミナボールを容器に入れ、ボールミルで湿式粉砕を一晩行い、触媒スラリーとした。触媒スラリーにコージェライトハニカムを浸した後引き上げ、エアブローで余剰スラリーを除去した。これを200℃×2Hr乾燥させ、重量測定を行った。所定量担持されるまでこの操作を繰り返した後、700℃×2Hr焼成を行った。
【0123】
[コンバータ作製]
作製した触媒付のDPFと酸化触媒を、上流から酸化触媒、触媒付きのDPFとなるように、一つのコンバータに組み付けを行った。
【0124】
<実施例19>
[触媒粉末調製]
Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒として、上記触媒Dを用いた。
【0125】
[NO2生成触媒粉末の調製]
所定量の硝酸パラジウムと硝酸白金を含有する水溶液を調製した。γアルミナと水溶液をナスフラスコに入れ、ロータリーエバポレータにて含浸担持を行った。生成物を200℃×1Hr乾燥後、700℃×2Hr焼成を行い、PtPd/Al2O3を調製した。
【0126】
[DPFへ担持]
〔下層〕
Ag−貴金属共担持複合酸化物触媒(粉末)、水、SiO2ゾル、アルミナボールを容器に入れ、ボールミルで湿式粉砕を一晩行い、触媒スラリーとした。触媒スラリーにDPFを浸した後引き上げ、エアブローで余剰スラリーを除去した。これを200℃×2Hr乾燥させ、重量測定を行った。所定量担持されるまでこの操作を繰り返した後、700℃×2Hr焼成を行った。
【0127】
〔上層〕
NO2生成触蝶粉末、水、SiO2ゾル、アルミナボール、及び造孔剤として1μmの粒子径のでんぷんを容器に入れ、ボールミルで湿式粉砕を一晩行い、触媒スラリーとした。触媒スラリーにDPFを浸した後引き上げ、エアブローで余剰スラリーを除去した。これを200℃×2Hr乾燥させ、重量測定を行った。所定量担持されるまでこの操作を繰り返した後、700℃×2Hr焼成を行った。
【0128】
[コンバータ作製]
作製した触媒付のDPFと実施例21の酸化触媒を、上流から酸化触媒、触媒付きのDPFとなるように、一つのコンバータに組み付けを行った。
【0129】
<比較例29>
NO2生成触媒のみを直接DPFに担持したこと以外は、同様の操作を行い作製した。
【0130】
<比較例30>
NO2生成触媒を担持する際、造孔材を用いずに担持した以外は、同様の操作を行い作製した。
【0131】
<比較例31>
触媒担持なしDPFを使用した。
【0132】
[実用的評価]
実用条件に近い評価として、エンジンベンチテストを実施した。エンジンは2.2Lディーゼルエンジンを用い、図1、2に示されるような、直下位置に触媒付きDPFと酸化触媒の一体型コンバータを配置した形態でテストを行った。用いたエンジンは、2.2Lディーゼルエンジンであり、DPFボリュームは2L、酸化触媒ボリュームは1Lであった。具体的には、後述するような低温連続燃焼性能評価、及び強制再生性能評価を実施した。評価結果を表3に示す。
【0133】
【表3】
【0134】
〔低温連続燃焼性能評価〕
酸化触媒前温度が350℃程度となる条件下で、8時間保持した後の重量の増加量をPM堆積量として低温連続燃焼性能の評価を行った。
【0135】
〔強制再生性能評価〕
予め低温でPMを蓄積させた後、DPF前温度が600℃での強制再生を行った場合の燃焼終了までの時間の比較により、強制再生性能の評価を行った。強制再生においては、ポストインジェクションにより燃料添加を行い、酸化触媒での燃焼反応熱でDPF温度を目的温度まで上昇させ、所定時間ごとに停止し、重量測定を行った。また、PMの蓄積は、DPF前温度150℃程度で保持して行った。測定時間は2分、10分、30分、60分とし、この結果を元にPMが90%燃焼するまでの時間の比較を行った。
【0136】
[考察]
低温連続燃焼性能の評価結果を図20に示す。図20に示されるように、350℃連続燃焼試験において、実施例18及び19のPM堆積量が、比較例29〜31に比して少ないことが確認された。これにより、実施例18及び19によれば、運転中に排出されるPMを効率良く燃焼除去できることが分かる。実施例19の方が優れるのは、2層化による効果であると考えられる。
【0137】
強制再生性能の評価結果を図21に示す。図21に示されるように、600℃強制再生試験において、実施例18及び19は再生終了までの時間が比較例29〜31に比して短いことから、再生時の燃焼速度が大きいことが分かる。実施例19の方が優れるのは、2層化による効果であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】排ガス浄化装置10の模式図である。
【図2】排ガス浄化装置10を説明するための図である。
【図3】フィルタ11の模式図である。
【図4】フィルタ11の模式図である。
【図5】フィルタ11の部分拡大図である
【図6】触媒層17の模式図である。
【図7】貴金属系触媒及び遷移金属系複合酸化物の燃焼特性を示す図である。
【図8】Ag−貴金属共担持の効果を説明するための図である。
【図9】各種複合酸化物の燃焼特性を示す図である。
【図10】X線回折測定による構造解析結果を示す図である。
【図11】O2−TPDによる酸素脱離特性を示す図である。
【図12】貴金属の添加量を説明するための図である。
【図13】貴金属元素の添加の必要性を説明するための図である。
【図14】貴金属元素の添加による効果を説明するための図である。
【図15】複合酸化物の酸素放出能の必要性を説明するための図である。
【図16】各種複合酸化物の酸素放出能を示す図である。
【図17】Ag以外の貴金属の必要性を説明するための図である。
【図18】複合酸化物へのAgの添加方法を説明するための図である。
【図19】Ag−貴金属共担持複合酸化物の耐熱性を説明するための図である。
【図20】低温連続燃焼性能の評価結果を示す図である。
【図21】強制再生性能の評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0139】
1 排ガス浄化装置
2 内燃機関
3 排ガス経路
10 浄化部
11 フィルタ
12 排ガス流入路
13 排ガス流出路
14 栓
15 隔壁
16 細孔
17 触媒層
18 下層
19 上層
19a 空隙
20 酸化触媒部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質を浄化するための排ガス浄化触媒であって、
酸素放出能を有する複合酸化物と、この複合酸化物に共担持されたAg及び貴金属と、を有し、
前記複合酸化物が、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素よりなる群から選ばれる少なくとも2以上の元素を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記貴金属が、Ru、Pd、及びPtよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の元素を含み、
前記排ガス浄化触媒に対する前記貴金属の含有量が、0.1質量%〜3.0質量%である請求項1記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
内燃機関の排ガス経路に配置され、前記内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質を浄化する排ガス浄化装置であって、
フィルタと、このフィルタの表面に形成された触媒層と、を有する浄化部を備え、
前記触媒層が、請求項1又は2記載の排ガス浄化触媒を有することを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記触媒層が、前記内燃機関から排出される排ガス中のNOをNO2に変換するNO2生成触媒をさらに有する請求項3記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記触媒層が、前記排ガス浄化触媒により形成された下層と、前記NO2生成触媒により形成された上層と、を有する請求項4記載の排ガス浄化装置。
【請求項6】
前記NO2生成触媒が、Pt、Pd、及びRhよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の元素を高比表面積担体上に担持してなるものである請求項4又は5記載の排ガス浄化装置。
【請求項7】
前記高比表面積担体が、アルミナ、シリカ、チタニア、セリア、ジルコニア、及びマグネシアよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の担体である請求項6記載の排ガス浄化装置。
【請求項8】
前記触媒層が、上層中に空隙を有する請求項5から7いずれか記載の排ガス浄化装置。
【請求項9】
前記空隙が1μm以上である請求項8記載の排ガス浄化装置。
【請求項10】
前記フィルタが、多孔質の耐火性セラミックスからなるウォールフロータイプのフィルタである請求項3から9いずれか記載の排ガス浄化装置。
【請求項1】
内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質を浄化するための排ガス浄化触媒であって、
酸素放出能を有する複合酸化物と、この複合酸化物に共担持されたAg及び貴金属と、を有し、
前記複合酸化物が、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、第12族元素、及び第13族元素よりなる群から選ばれる少なくとも2以上の元素を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記貴金属が、Ru、Pd、及びPtよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の元素を含み、
前記排ガス浄化触媒に対する前記貴金属の含有量が、0.1質量%〜3.0質量%である請求項1記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
内燃機関の排ガス経路に配置され、前記内燃機関から排出される排ガス中の粒子状物質を浄化する排ガス浄化装置であって、
フィルタと、このフィルタの表面に形成された触媒層と、を有する浄化部を備え、
前記触媒層が、請求項1又は2記載の排ガス浄化触媒を有することを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記触媒層が、前記内燃機関から排出される排ガス中のNOをNO2に変換するNO2生成触媒をさらに有する請求項3記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記触媒層が、前記排ガス浄化触媒により形成された下層と、前記NO2生成触媒により形成された上層と、を有する請求項4記載の排ガス浄化装置。
【請求項6】
前記NO2生成触媒が、Pt、Pd、及びRhよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の元素を高比表面積担体上に担持してなるものである請求項4又は5記載の排ガス浄化装置。
【請求項7】
前記高比表面積担体が、アルミナ、シリカ、チタニア、セリア、ジルコニア、及びマグネシアよりなる群から選ばれる少なくとも1以上の担体である請求項6記載の排ガス浄化装置。
【請求項8】
前記触媒層が、上層中に空隙を有する請求項5から7いずれか記載の排ガス浄化装置。
【請求項9】
前記空隙が1μm以上である請求項8記載の排ガス浄化装置。
【請求項10】
前記フィルタが、多孔質の耐火性セラミックスからなるウォールフロータイプのフィルタである請求項3から9いずれか記載の排ガス浄化装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2009−45584(P2009−45584A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215785(P2007−215785)
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月22日(2007.8.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]