説明

接合体

【課題】切削中にロウ材が液相を生成する温度を越える高温となっても接合層の接合強度が低下することがなく、研削代の大きなcBN焼結体やダイヤモンド焼結体を準備する必要がない切削工具として好適な接合体を提供する。
【解決手段】超硬合金焼結体を第1の被接合材1とし、cBN焼結体またはダイヤモンド焼結体を第2の被接合材3とする接合体であって、第1の被接合材および第2の被接合材は、両者の間に設置された800℃を超え1000℃未満の温度で液相を生成する接合材2を介して接合されており、前記接合は0.1MPa〜200MPaの圧力で加圧しながら通電加熱することによって行われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合体に関するものであり、特に、切削工具に好適な接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、cBN(立方晶窒化硼素)もしくはダイヤモンド切削工具に代表されるように、先端に高硬度材料をロウ付けにより接合した切削工具が製造されており、特殊鋼材その他各種の切削加工に利用されている。
【0003】
具体的には、例えば、cBNと超硬合金をロウ付けにより接合した工具が製造・販売されている(例えば、非特許文献1)。あるいは、PCD(焼結ダイヤモンド)またはcBNと、セラミックスまたはサーメットとをロウ付けにより接合した接合体が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。また、超硬合金またはサーメットと、高速度鋼等とを、Cuロウ材を用いたロウ付けにより接合した切削工具も提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−36008号公報
【特許文献2】特許第3549424号公報
【特許文献3】特開平11−294058号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】住友電工ハードメタル株式会社発行、イゲタロイ 切削工具(’07−’08総合カタログ)、2006年10月、p.L4、コーティドスミボロンシリーズ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ロウ材の多くは、700〜800℃程度で液相が現れる。このため、ロウ付けによる接合体を用いた切削工具は、切削中に前述の温度を越えるおそれのある高速切削等には、使用することが困難であった。また、ロウ付け時に生成した液相が、浸み出して被接合材を汚し、後工程である加工時に悪影響を与えることがあった。
【0007】
また、ロウ材の溶融により、cBN焼結体やダイヤモンド焼結体が超硬基材に対して前後左右に移動したり、斜めになったりするため、超硬基材に対するcBN焼結体の位置決めが難しく、刃先位置を超硬基材に対して安定させることが難しかった。このため、接合後のcBN焼結体などの被接合材の研削量や研削時間が増加する問題点があった。そして、この問題点に対応するため、接合時に、cBN焼結体やダイヤモンド焼結体の移動量や、研削量を考慮して、大きめのcBN焼結体やダイヤモンド焼結体を準備する必要があった。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑み、切削中にロウ材が液相を生成する温度を越える高温となっても接合層の接合強度が低下することがなく、さらに研削代の大きなcBN焼結体やダイヤモンド焼結体を準備する必要がない切削工具として好適な接合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下に述べる各請求項の発明により、上記課題が解決できることを見出した。
以下、各請求項の発明につき説明する。
【0010】
請求項1に記載の発明は、
超硬合金焼結体を第1の被接合材とし、cBN焼結体またはダイヤモンド焼結体を第2の被接合材とする接合体であって、前記第1の被接合材および第2の被接合材は、両者の間に設置された800℃を超え1000℃未満の温度で液相を生成する接合材を介して接合されており、前記接合は0.1MPa〜200MPaの圧力で加圧しながら通電加熱することによって行われていることを特徴とする接合体である。
【0011】
請求項1の発明においては、焼結済みの超硬合金焼結体からなる第1の被接合材と焼結済みのcBN焼結体またはダイヤモンド焼結体からなる第2の被接合材が、両者の間に設置された800℃を超え1000℃未満の温度で液相を生成する接合材により接合されている。このため、800℃以下で液相を生成する従来のロウ材を用いた接合体と異なり、接合強度の低下を抑制することができ、高速切削に好適な切削工具等を提供することができる。
【0012】
また、加圧しながら通電加熱することで接合材の厚みを30μm以下好ましくは10μm以下に制御でき、cBN焼結体やダイヤモンド焼結体の接合位置を超硬基材に対して一定とできるため、ロウ付け接合の場合よりも接合後の研削加工量を小さくできるほか、cBN焼結体の移動量、研削量を必要最小限の大きさに設計でき、cBN焼結体等を小さくできることから、高価なcBN焼結体等の使用量を抑制することができる。
【0013】
第2の被接合材であるcBN焼結体やダイヤモンド焼結体は熱に弱く、高温で分解されやすいため、短時間で熱劣化しやすい。このため、800℃を超え1000℃未満の温度で液相を生成する接合材を用いて、接合に10分以上の長時間を要するロウ付け接合により第1の被接合材と第2の被接合材との接合体を得ることは困難であった。
【0014】
しかし、請求項1の発明では、接合は、第1の被接合材と第2の被接合材の間に0.1MPa〜200MPaの加圧力を働かせながら通電加熱することによって行われているため、数秒〜数分以内の極めて短時間で、強固な接合を得ることができる。好ましい通電時間は1分以内で、30秒以内が特に好ましい。この結果、高圧安定型の材料であるcBN焼結体やダイヤモンド焼結体の品質を劣化させることなく、800℃を超え1000℃未満の温度で液相を生成する接合材を用いて超硬合金と接合することが可能となる。
【0015】
加圧力が小さすぎると、被接合材であるcBN焼結体やダイヤモンド焼結体および超硬合金焼結体と電極との間の接触抵抗が多くなり、電流を流れないあるいは放電する等の問題がある。一方、加圧力が大きすぎると、cBN焼結体や超硬合金焼結体が変形する等の問題がある。請求項1の発明においては、好ましい加圧力として、0.1MPa〜200MPaの加圧力としたため、これらの問題が発生せず、好ましい接合体を得ることができる。1MPa〜100MPaであると、適度な接触抵抗となり、接合面での発熱が効率的に行われるためより好ましく、10MPa〜70MPaであると、さらに接触抵抗が適切になると共に、さらに被接合体が変形しにくくなるため、さらに好ましい。
【0016】
Coなどのメタルバインダーを含むcBN焼結体やダイヤモンド焼結体、および/またはcBN含有率が70%を超えるcBN含有率が大きい焼結体を被接合体として超硬合金に接合した工具では、1000℃以上の温度で通電加熱による接合を行うと、cBN焼結体やダイヤモンド焼結体に亀裂が生成し良好な接合を行うことが難しい問題点があった。これはcBNやダイヤモンドとメタルバインダーの熱膨張係数差が非常に大きいため、1000℃以上の加熱でメタルバインダーの体積膨張が大きくなってcBN焼結体に亀裂が生成したり、cBN含有率が70%を超えるcBN焼結体では基材となる超硬合金との熱膨張係数差が大きく、接合後の冷却過程でcBN焼結体に亀裂が生じてしまうことが原因と考えられる。また、1000℃以上の温度でcBN焼結体やダイヤモンド焼結体のメタルバインダーが液相を生成し、cBN焼結体やダイヤモンド焼結体に亀裂が生成することが原因とも考えられる。
【0017】
しかし、請求項1の発明においては、1000℃未満の温度で液相を生成する接合材を用いている。このため、Coなどのメタルバインダーを含むcBN焼結体やダイヤモンド焼結体、および/またはcBN含有率が70%を超えるcBN含有率の大きい焼結体と超硬合金を接合した場合でも、cBN焼結体やダイヤモンド焼結体に与えられる熱負荷は1000℃以上で接合した場合よりも小さくなり、熱膨張量も小さくなることから、メタルバインダーもしくは超硬合金とcBN、ダイヤモンドとの間で熱膨張係数差によって生じる熱応力が小さくなり、cBN焼結体やダイヤモンド焼結体への亀裂が導入されにくく良好な接合を行うことができる。また、cBN焼結体やダイヤモンド焼結体中のメタルバインダーが液相を生成することがないので、cBN焼結体やダイヤモンド焼結体に亀裂が生成することを防ぐことができる。
【0018】
請求項2に記載の発明は、
前記接合材が、900℃以上1000℃未満の温度で液相を生成する接合材であることを特徴とする請求項1に記載の接合体である。
【0019】
請求項2の発明においては、900℃以上1000℃未満の温度で液相を生成する接合材を用いているため、極めて耐熱性と接合力を備えた工具を提供することができる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、
前記通電加熱によって、前記第1の被接合材が、前記第2の被接合材よりも優先的に発熱して、接合されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接合体である。
【0021】
請求項3の発明においては、第1の被接合材である超硬合金焼結体は、第2の被接合材であるcBN焼結体やダイヤモンド焼結体よりも優先的に発熱して接合される。一般に、cBN焼結体やダイヤモンド焼結体は超硬合金焼結体よりも電気抵抗が高いため、通電加熱時、第2の被接合材であるcBN焼結体やダイヤモンド焼結体が第1の被接合材である超硬合金焼結体よりも優先的に発熱し、cBN焼結体やダイヤモンド焼結体の品質劣化(熱的劣化、分解、亀裂生成等)を招くことがある。
【0022】
このような第2の被接合材の品質劣化の発生を防ぐためには、通電加熱時、第2の被接合材よりも第1の被接合材が優先的に発熱するように、第2の被接合材と接合材の配置、通電方法を工夫する必要がある。具体的には、例えば、第2の被接合材に接する電極と第1の被接合材に接する電極の材質を変えることが挙げられる。電極の材質を変えることにより、第1の被接合材と第2の被接合材の各々に流れる電流の量が異なるため、それぞれの発熱を制御することができる。また、第2の被接合材よりも第1の被接合材を集中的に通電加熱して、間接的に第2の被接合材を加熱してもよい。
【0023】
このように、通電経路を工夫することにより、第1の被接合材を第2の被接合材よりも優先的に加熱することができる。この結果、第2の被接合材であるcBN焼結体やダイヤモンド焼結体を必要以上に高温加熱することなく、短時間、具体的には、例えば、1分以内、好ましくは30秒以内で接合材近傍を高温加熱することができるため、強固な接合が可能になると共に、cBN焼結体やダイヤモンド焼結体の品質劣化(熱的劣化、分解、亀裂生成等)を招くことなく、cBN焼結体やダイヤモンド焼結体の高硬度等の特徴を十分に生かすことができる。
【0024】
請求項4に記載の発明は、
通電加熱によって、前記接合材成分のうちの少なくとも1つの元素が、前記第1の被接合材および/または前記第2の被接合材中に元素拡散していることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の接合体である。
【0025】
請求項4の発明においては、接合材成分のうちの少なくとも1つの元素が、第1の被接合材や第2の被接合材中に元素拡散しているため、第1の被接合材や第2の被接合材との接合がより効率的に行われ、接合強度のより高い接合体を得ることができる。
【0026】
請求項5に記載の発明は、
加圧しながらの通電加熱によって変形する接合材を用いて接合されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の接合体である。
【0027】
請求項5の発明においては、加圧しながら通電加熱することによって変形する接合材が用いられているため、接合材の変形に伴う物質の移動が、被接合材と接合材との界面の結合に有効に働き、接合強度の高い接合体を得ることができる。また、加圧しながら通電加熱することにより、接合材は被接合材の形状に合わせて変形するようになるため、接着面積の増大を図ることができ、接合強度の向上効果を得ることができる。
【0028】
請求項6に記載の発明は、
前記接合材が、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、銅(Cu)の少なくとも1つを含む合金からなることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の接合体である。
【0029】
請求項6の発明においては、一般に第1の被接合材である超硬合金焼結体や第2の被接合材であるcBN焼結体やダイヤモンド焼結体の結合相成分として用いられるTi、Co、Ni、あるいはcBN焼結体やダイヤモンド焼結体と優れた濡れ性を示すAg、Cu、Zrの少なくともいずれかを含む合金からなる接合材を用いているため、接合強度のより高い接合体を得ることができる。
【0030】
このような接合材としては、例えば、Ag−Cu合金、Ag−Ti合金、Ag−Zr合金、Cu−Si合金、Cu−Ti合金、Cu−Zr合金、Ni−Ti合金、Ni−Zr合金、Cu−Mn合金、Ni−Zn合金およびこれらの固溶体、例えば、Cu−Ti−Zr合金、Ag−Cu−Ti合金、これらの金属間化合物等を挙げることができる。
【0031】
金属間化合物は、接合材に最初から含まれていても良い。また、金属間化合物を構成する元素が、接合材には別の状態で含まれており、接合完了後に反応生成されても良い。金属間化合物が反応生成される場合は、接合に反応熱を利用することができるため、接合にとってより有効である。
【0032】
請求項7に記載の発明は、
前記接合材が、チタン(Ti)を含むことを特徴とする請求項6に記載の接合体である。
【0033】
請求項7の発明においては、第2の被接合材であるcBN焼結体やダイヤモンド焼結体の結合相成分として用いられるTiを含む材料を接合材としているため、接合材中のTiが容易に第1の被接合材や第2の被接合材に元素拡散し、強固な接合を得ることができる。
【0034】
請求項8に記載の発明は、
前記接合材の少なくとも一部が、通電加熱時に液相を生成していることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の接合体である。
【0035】
請求項8の発明においては、接合材の少なくとも一部が、通電加熱時に液相を生成しているため、接合体成分が第1の被接合材や第2の被接合材に元素拡散しやすく、第1の被接合材と第2の被接合材を強固に接合できる。
【0036】
請求項9に記載の発明は、
前記接合材および/または前記第1の被接合材の結合相に含まれるニッケル(Ni)が、30vol%(体積百分率)以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の接合体である。
【0037】
請求項9の発明においては、接合材や第1の被接合材の結合相に含まれるニッケル(Ni)を30vol%以下としている。これは、30vol%を超えると、耐摩耗性を向上させることを目的にして接合体にCVDコーティングを施す際、CVDコーティング材料として用いられる塩素ガスと接合材や第1の被接合材とが反応してCVD膜が異常成長する可能性が高いからである。
【0038】
請求項10に記載の発明は、
前記接合材が、めっき法により前記第1の被接合材および/または前記第2の被接合材の表面上に設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の接合体である。
【0039】
請求項10の発明においては、接合材が、めっき法により第1の被接合材や第2の被接合材の表面上に設けられている。めっき法は、接合材を粉末やペーストの状態で塗布するよりも接合材厚みを制御しやすく、50μm以下に容易に制御することができる。この結果、加圧しながら通電接合する際、接合後の接合材厚みを30μm以下好ましくは10μm以下にすることができ、接合品質を安定化させることができる。さらに、本請求項に係る発明を接合体の量産において適用すると、工程を自動化しやすく、コスト面、品質安定面で好ましい。
【0040】
請求項11に記載の発明は、
前記接合材が、物理蒸着法により前記第1の被接合材および/または前記第2の被接合材の表面上に設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の接合体である。
【0041】
請求項11の発明においては、接合材が、物理蒸着法により第1の被接合材や第2の被接合材の表面上に設けられている。物理蒸着法は、接合材を粉末やペーストの状態で塗布するよりも接合材厚みを制御しやすく、50μm以下に容易に制御することができる。この結果、加圧しながら通電接合する際、接合後の接合材厚みを30μm以下好ましくは10μm以下にすることができ、接合品質を安定化させることができる。さらに、本請求項に係る発明を接合体の量産において適用すると、機械化、自動化しやすく、コスト面、品質安定面で好ましい。特に好ましいのは、スパッタ法やアーク蒸着法で成膜する場合である。
【0042】
請求項12に記載の発明は、
前記接合体が、切削工具であることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の接合体である。
【0043】
請求項12の発明においては、接合体は第1の被接合材としての超硬合金焼結体および第2の被接合材としてのcBN焼結体やダイヤモンド焼結体を被接合材としているため、上記接合材を介して接合することにより得られる接合体は、切削工具として好適に使用することができる。具体的な切削工具としては、例えば、切削チップの他、ドリル、エンドミル、リーマなどの回転工具を挙げることができる。本発明の工具はロウ材が液相を生成する温度以上となる高速切削においても、接合材の接合強度が低下することがない切削工具を提供することができる。
【0044】
以上、本発明においては、高圧安定型の材料であるcBN焼結体やダイヤモンド焼結体の品質劣化(熱的劣化、分解、亀裂生成等)を招くことなく、cBN焼結体やダイヤモンド焼結体の高硬度等の特徴を十分に生かすことができる工具を提供することができる。特に、耐摩工具、鉱山・土木工具、切削工具等の工具として好適に提供することができ好ましい。
【0045】
また、本発明においては、第2の被接合材は、バックメタル(切削面の反対側に設けられる薄い超硬合金層)を必ずしも必要とせずに第1の被接合材と接合することができるが、バックメタルを有する第2の被接合材と第1の被接合材の接合体を本発明から排除するものではない。
【発明の効果】
【0046】
本発明によって、切削中にロウ材が液相を生成する温度を越える高温となっても接合層の接合強度が低下することがなく、研削代の大きなcBN焼結体やダイヤモンド焼結体を準備する必要がなく、さらに接合時に亀裂を生じやすいcBN焼結体やダイヤモンド焼結体を接合しても切削工具として好適な接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】通電加圧接合における通電の一形態を説明する概念図である。
【図2】通電加圧接合における通電の他の形態を説明する概念図である。
【図3】回転工具の通電加圧接合における一形態を説明する概念図である。
【図4】回転工具の通電加圧接合における他の形態を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明を実施するための形態につき、以下に示す実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0049】
(通電加圧接合における通電について)
始めに、通電加圧接合における通電の形態について、図を用いて説明する。
1.第1の通電の形態
図1は、通電加圧接合における通電の一形態を説明する概念図である。図1において、被接合材1、3は、それぞれ第1の被接合材(超硬合金焼結体)および第2の被接合材(cBN焼結体またはダイヤモンド焼結体)であって、挟み込まれた接合材2を用いて接合される。
【0050】
具体的には、被接合材1、3および接合材2を、電極(黒鉛)4で挟み込み、加圧すると共に、電極4に電流を流す。電極4が被接合材1と被接合材3の両方にまたがっていることにより、被接合材のいずれかの電気抵抗が高くても、電気抵抗の低い方の被接合材を通して、接合に十分な電流を流す電気回路が形成できる。
【0051】
接合材2としては、請求項1に示した、通電加熱によって、800℃を超え1000℃未満の温度で液相を生成する材料を用いる。この時、請求項5〜11に示した特徴を有する材料であることが望ましい。
【0052】
電極4に電流を流すことにより、被接合材1、3と共に接合材2が抵抗発熱して、被接合材1、3が接合される。なお、2つの電極4の材料は、導電性を有するものであることはもちろんであるが、被接合材1、3、さらには接合材2と反応しないものが望ましい。ただし、反応するものであっても、被接合材1、3との間の各々に、カーボンシートを配置すると、電極との反応を抑えることができる。
【0053】
2.第2の通電の形態
図2は、通電加圧接合における通電の別の一形態を説明する概念図である。図2において、分割電極5は第2の被接合材3に接しており、電極4は第1の被接合材1に接している。電極4と分割電極5の材質を変えることで、それぞれの電気伝導度と熱伝導度を変えることができ、第1の被接合材と第2の被接合材にそれぞれ異なった電流を与えることが可能となり、それぞれの温度を極端に変えることが可能となる。これにより、熱劣化を起こしやすい被接合材でも、熱劣化を起こさずに接合することができる。さらに、電極を分割し、それぞれの電極を独立して加圧することにより、第1の被接合材と第2の被接合材に与える圧力を高精度に制御することができるため、接合強度を向上させることができ好ましい。
【0054】
3.第3の通電の形態
図3は、回転工具を通電加圧接合する際の一形態を説明する概念図である。図3において、接合材2を挟んで被接合材1と被接合材3が配置されており、電極4はそれぞれの被接合材に接している。電極間に電圧を印加することにより被接合材1,3と接合材2に電流が流れ、加熱されることによって接合される。加熱に十分な電流を流すためには、電極4と被接合材1.3はできるだけ密着していることが好ましい。被接合材3が電気抵抗の高い材料の場合、あらかじめ被接合材3の一部に電気抵抗の低い材料を加えておくことによって、電流経路を確保し、接合に十分な電流を流すことが可能となる。電極4と被接合材1,3は密着していることが好ましい。
【0055】
4.第4の通電の形態
図4は、回転工具を通電加圧接合する際の他の形態を説明する概念図である。図4において、接合材2を挟んで被接合材1と被接合材3が配置されており、電極はそれぞれの被接合材に接している。第3の通電の形態の場合と異なり、電極は、通電と共に加圧を行う電極7および電極9と主に通電を行う電極6および電極8に分かれている。これにより、電気抵抗が高い被接合材1、3であっても、被接合材1、3に電気抵抗の低い材料を加えておき、その部分に電極6および電極8から優先的に電流を流すことが可能となり、加圧と加熱を必要な部分にのみ行うことが可能となる。なお、電極7と電極6および電極9と電極8は接触していても良い。また、電極7および電極9には電流を流さなくても良い。さらには、電極6および電極8の位置、電流量をそれぞれ独立に調整できるように構成することが、形状や特性の変化に対応することができるため好ましい。また、電極6〜9の材質はすべて同じであっても、一部異なっていても、すべて異なっていても良い。あるいは、被接合材1,3と接触する部分のみ材質が異なっていても良い。
【0056】
(通電加圧接合による接合について)
次いで、上記図1〜図4に示された通電を用いた通電加圧接合について説明する。
通電条件は、使用される被接合材および接合材の材質等により、適宜決定されるが、接合材近傍以外で、被接合材材料の変形・溶融や、粒子の粗大化を招かないためには、1分以内、特に30秒以内程度が好ましい。
【0057】
通電加圧接合を行う接合材の形態としては、第1の被接合材や第2の被接合材の表面に粉末もしくはペースト状にして塗布する方法の他、めっき法や物理蒸着法で被覆する方法を採用することができる。めっき法や物理蒸着法で被覆する方法は、接合材を被覆した後に被接合材をハンドリングしやすく、接合工程の自動化に有利である他、被覆膜厚の制御も行いやすいため、接合強度を安定化させる上で特に好ましい。
【0058】
加圧しながら通電加熱することで、接合材は変形しやすくなり、接合材と被接合材の密着性は高まり、元素拡散しやすくなる。この結果、接合強度を飛躍的に高めることができる。特に、本発明の接合体を切削工具、例えば切削チップに適用する場合、基材である第1の被接合材と第2の被接合材の接合面は、図1の上下方向と水平方向の2方向となり、両方向で第1の被接合材と第2の被接合材がしっかりと接合されることが必要となる。このような場合では2方向からの加圧を行うことが好ましい。
【0059】
加圧力は弱すぎると電極と被接合材の接触抵抗が多くなり、電流を流せなくなる、あるいは放電してしまう等があり、不適当である。また、大きすぎると超硬合金焼結体が変形するため、不適当である。本発明では0.1MPa〜200MPaが適当である。
【0060】
接合中の雰囲気は、被接合材および接合材の両者とも金属を含むため、真空中あるいは不活性ガス中あるいは還元雰囲気中で行うことが望ましい。真空度は特に限定されないが、13.3Pa(0.1Torr)より高真空であることが望ましい。不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素、あるいはこれらの混合ガスを挙げることができる。還元雰囲気としては、前記不活性ガスに水素ガスを若干割合混合したガス雰囲気や、被接合材近傍に加熱した黒鉛を設置する方法を挙げることができる。
【0061】
通電する電流の形態は、被接合材および接合材を適切な温度に加熱できるための電流を流すことができるのであれば直流電流、交流電流とも使用できる。特に、直流パルス電流はピーク電流値とパルスのON、OFF比を変えることができるため、接合界面の瞬間的な加熱と被接合体の全体的な温度制御範囲を広げることができ、接合には有効である。
【0062】
(実施例1〜6および比較例1、2)
本実施例および比較例は、接合時の加圧力と接合強度との関係、および被接合材の変形との関係に関するものである。
ザグリを入れた超硬合金製の台金(第1の被接合材)に、厚さ10μmのNi−7wt%P(融点約900℃)めっきを表面に施した三角形状のバックメタル付きcBNチップ(第2の被接合材)を、図1に示すようにセットし、上下方向より、0.05MPa(比較例1)、0.1MPa(実施例1)、10MPa(実施例2)、30MPa(実施例3)、70MPa(実施例4)、100MPa(実施例5)、200MPa(実施例6)、250MPa(比較例2)の各圧力を加えた状態の下、真空中で通電加圧接合を行い、実施例1〜6および比較例1、2の接合体を得た。なお、電極として黒鉛を用い、電極との反応を防ぐため、黒鉛シートを電極と被接合材との間に挿入した。また、通電は、直流パルス電流により行い、パルス電流値1900A、パルスOn:Off比1:1、パルス幅10ms、通電時間10秒、荷重0.98kNで、接合体の温度が接合材の融点以上、1000℃未満の条件の下で行った。なお、超硬合金製の台金(第1の被接合材)は、WC−5%Co(被接合材A)とWC−10%Co(被接合材B)(いずれもwt%:質量百分率)の2種類を用いた。
【0063】
得られた各接合体の接合強度(せん断破壊強度)を測定し、また、接合層近傍における各被接合材の変形の有無を観察した。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示すように、0.1〜100MPaの加圧力の場合(実施例1〜5)には、従来のロウ付け品と同等の強度が得られていると共に、被接合材の変形が認められない。また、100〜200MPaの場合には、被接合材の組成によっては、変形が認められない。しかし、加圧力が極端に低い場合(比較例1)には、接合されず、200MPaを超える加圧を行った場合(比較例2)には、被接合材の組成によらず、接合層近傍の被接合材に変形が発生している。この結果、本発明において、好ましい加圧力は、0.1〜200MPaであることが確認できた。
【0066】
(実施例7)
次に、めっきの代わりに物理的蒸着法であるスパッタ法を用いて、厚さ5μmのTi−50wt%Cu層(融点約960℃)をバックメタルのあるcBN(第2の被接合材)に設け、超硬合金台金(第1の被接合材)と接合を行った。この時、超硬合金台金(第1の被接合材)としては、前記被接合材Aおよび被接合材Bを用い、接合条件は実施例3と同じとした。その結果、cBNと超硬合金はTi−Cu層を介して空隙なく接合されていることが確認できた。これは、接合中に液相を生成していたためと推測される。なお、その接合強度は、被接合材Aでは250MPa、被接合材Bでは270MPaであった。
【0067】
次に、第1の被接合材としてA、Bを用いた実施例3の各接合体および実施例7の各接合体の各々にダイヤモンド砥石を用いて研削加工を施し、その後、公知のCVD法により、870℃のコーティング温度で、TiCNを5μmの厚さで被覆し、CVD膜の成長の状況を観察した。その結果、接合材がNi−Pである実施例3の接合体では、第1の被接合材の種類に関係なく、CVD膜の異常成長が見られた。一方、接合材がNi−PでなくTi−Cuである実施例7の接合体では、第1の被接合材の種類に関係なく、CVD膜の異常成長は見られなかった。
【0068】
(実施例8)
次に、50vol%Cu−25vol%Ti−25vol%Zr粉末(融点約850℃)を溶媒で溶いた材料(接合材)を、超硬合金台金(被接合材A:第1の被接合材)に塗布し、バックメタル無しcBNチップ(第2の被接合材)とセットし、実施例3と同一の通電条件で通電加圧接合を行った。この接合体の接合強度は210MPaであり、従来のロウ付け品と同等の強度を有していることを確認した。この接合部分には緻密な厚み20μmのCu−Ti−Zr層が観察され、Cu−Ti−Zr粉末が溶融あるいは焼結していることが確認できた。
【0069】
(実施例9)
次に、前記実施例8を基に、通電時間の短縮化を目的として、実施例8に示した条件のうち通電時間を変化させて接合条件を求めた。その結果、通電時間を実施例8における10秒から8秒にした場合、パルス電流値を実施例8に示した電流値(1900A)よりも200A大きい電流において良好な接合が可能であった。さらに通電時間を6秒とした場合、パルス電流をさらに200A大きくすることによって良好な接合が可能であった。
【0070】
(実施例10)
次に、cBN(第2の被接合材)の背面も精度良く接合するため、2方向から加圧しながら接合を行った。これまでの例と同様、上下の電極で垂直方向の加圧を行うと共に、別途横から荷重を与えてcBNを水平方向に加圧できるようにした。なお、第1の被接合材としては、被接合材Aを用いた。実施例3に用いたと同じNi−Pめっきを施したバックメタル付きcBNを使用し、パルス電流3000A、パルスOn:Off比1:4、通電時間10秒として接合を行った。
【0071】
その結果、cBNの底面のみならず背面も、Ni−P層を介して超硬合金台金と接合されていた。この時の接合強度は320MPaであり、垂直方向のみ加圧する場合に比べ、より高い強度が得られた。
【0072】
(実施例11)
次に、通電加圧する電極の内、上部電極を分割し、超硬合金台金(被接合材A:第1の被接合材)を加圧する電極とバックメタル無しcBN(第2の被接合材)を加圧する電極の材質を変えた。これにより、電極に流れる電流が変化し、超硬合金台金とcBNに流れる電流値も変化する。その結果として、それぞれの温度を極端に変えることができ、高温において劣化が懸念されるcBNの温度を下げることができる。
【0073】
超硬合金台金を通電加圧する電極を黒鉛とし、cBNを通電加圧する電極をhBNとした。hBNは電気的に絶縁材料であり、電流はほとんど流れない。cBNは69vol%Ag−26vol%Cu−5vol%Ti(融点約820℃)をスパッタ法で10μm被覆したものを使用した。パルス電流2500A、パルスOn:Off比1:2、パルス幅10ms、通電時間10秒、荷重0.98kNで実験を行ったところ、cBNが熱劣化せずに接合することができた。これは、cBNに電流がほとんど流れず、cBNそのものはジュール発熱せずに、超硬合金台金が優先的に加熱することによって、cBNの温度を上げずに接合できたためと推測される。なお、接合強度は、200MPaであり、従来のロウ付け品と同等の強度を有していた。
【0074】
(実施例12)
上部電極を、分割されていない電極とした以外は、実施例11と同様にして、接合体を得た。得られた接合体の接合強度は、250MPaであり、従来のロウ付け品と同等以上の強度で実施例11における接合強度よりも高かった。しかし、得られた接合体のcBNには、一部亀裂が発生しており、熱による品質劣化が見られた。
【0075】
実施例11および実施例12の結果より、cBN(第2の被接合体)への電力供給を制御して、超硬合金(第1の被接合体)を優先的に加熱することにより、cBN(第2の被接合体)の熱劣化がない、接合強度の高い接合体を得ることができることが確認できた。
【0076】
(実施例13)
次に、実施例11に示した絶縁性のhBNの代わりに、cBN(第2の被接合材)を加圧する電極の材質を導電性を有するものとした。このとき、超硬合金台金(第1の被接合材)を加圧する電極の電気伝導度より高い電気伝導度を有する材料を使用した。これにより、超硬合金台金とcBNに流す電流を変えることができ、超硬合金台金に流す電流はcBN近傍の台金を加熱し、cBNに流す電流は接合材を優先的に加熱できるようにした。
【0077】
具体的には超硬合金台金には約1900A、cBNには約1000Aとし(電流は推定値)、通電加圧接合を行った。この時、超硬合金台金のザグリ深さとcBN高さの差は0.1mmあり、分割電極とすることで、ギャップが大きくても超硬合金台金とcBNの両方に加圧することが可能であった。通電の結果、cBNを劣化させることなく、かつ接合を強固に行うことが可能であった。
【符号の説明】
【0078】
1 第1の被接合材
2 接合材
3 第2の被接合材
4、6、7、8、9 電極
5 分割電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金焼結体を第1の被接合材とし、cBN焼結体またはダイヤモンド焼結体を第2の被接合材とする接合体であって、前記第1の被接合材および第2の被接合材は、両者の間に設置された800℃を超え1000℃未満の温度で液相を生成する接合材を介して接合されており、前記接合は0.1MPa〜200MPaの圧力で加圧しながら通電加熱することによって行われていることを特徴とする接合体。
【請求項2】
前記接合材が、900℃以上1000℃未満の温度で液相を生成する接合材であることを特徴とする請求項1に記載の接合体。
【請求項3】
前記通電加熱によって、前記第1の被接合材が、前記第2の被接合材よりも優先的に発熱して、接合されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接合体。
【請求項4】
通電加熱によって、前記接合材成分のうちの少なくとも1つの元素が、前記第1の被接合材および/または前記第2の被接合材中に元素拡散していることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の接合体。
【請求項5】
加圧しながらの通電加熱によって変形する接合材を用いて接合されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の接合体。
【請求項6】
前記接合材が、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、銅(Cu)の少なくとも1つを含む合金からなることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の接合体。
【請求項7】
前記接合材が、チタン(Ti)を含むことを特徴とする請求項6に記載の接合体。
【請求項8】
前記接合材の少なくとも一部が、通電加熱時に液相を生成していることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の接合体。
【請求項9】
前記接合材および/または前記第1の被接合材の結合相に含まれるニッケル(Ni)が、30vol%(体積百分率)以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の接合体。
【請求項10】
前記接合材が、めっき法により前記第1の被接合材および/または前記第2の被接合材の表面上に設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の接合体。
【請求項11】
前記接合材が、物理蒸着法により前記第1の被接合材および/または前記第2の被接合材の表面上に設けられていることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれかに記載の接合体。
【請求項12】
前記接合体が、切削工具であることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−274287(P2010−274287A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127850(P2009−127850)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】