説明

接合方法および接合体の製造方法

【課題】 超短光パルスレーザービームにより非接合物質内で生じるフィラメント領域を用いて2つの部材を接合する方法において、環境温度や径時変化によってクラックや接合外れが生じることのない、安定した接合状態を維持できる接合方法、および、これを用いた接合体の製造方法を得ること。
【解決手段】 少なくとも一方が透明の部材である2つの部材1、2を積層して保持し、前記透明な部材1の側から超短光パルスレーザービーム4を入射して、前記超短光パルスレーザービーム4の自己集束効果によってフィラメント領域6を生成させ、前記フィラメント領域6を前記積層した2つの部材1、2の積層面7に位置させた状態で、前記超短光パルスレーザービーム4をその軌跡が互いに重なり合わないように走査して、前記2つの部材1,2を接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超短光パルスレーザービームの自己集束効果により生じるフィラメント領域を用いて、ガラスなどの透明部材とその他の部材とを接合する接合方法、および、接合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェムト(1×10-15)秒からピコ秒(1×10-12)オーダーの超短光パルスレーザービームにより、非線形吸収現象を生じさせて2つの物質を接合する方法として、発明者らは、レーザービーム入射側に位置する透明な物質内で、超短光パルスレーザービームの自己集束効果によってフィラメント領域を生成させ、このフィラメント領域を接合面に位置させ2つの物質の接合を行う方法を開発した(特許文献1参照)。
【0003】
この方法は、ビーム径が最小となった状態で所定の距離を進むというフィラメント領域の特性を用いることで、従来の超短光パルスレーザービームを用いる接合方法が有していたような、レーザービームの焦点を接合面に正確に一致させなくてはならないという課題を解決し、ガラスやアクリル樹脂などの透明部材同士、または、透明部材であるガラスと金属など他種類の部材とを、効率よく接合することができる実用性に富んだ方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開番号WO2008/035770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の接合方法は、超短光パルスレーザービームを透明部材に入射させることで生じたフィラメント領域を、積層された被接合部材の積層面に位置させて積層面内を走査することにより、2つの被接合部材を確実に、かつ、特に透明部材の透光性を著しく低減させることなく接合できる方法である。
【0006】
しかし、いままでに、上記の接合方法によって接合された接合体内に残留する応力についての検討はなされておらず、2つの物質が所定の接合強度で接合されていることを確認するに留まっていた。このため、環境温度の変化や接合後の時間経過を原因として、接合された部材の接合部分にクラックが生じたり、最悪の場合には接合が外れてしまったりするおそれがあった。
【0007】
そこで本発明は、上記した従来の課題を解決して、超短光パルスレーザービームにより非接合物質内で生じるフィラメント領域を用いて2つの部材を接合する方法において、環境温度や径時変化によってクラックや接合外れが生じることのない、安定した接合状態を維持できる接合方法、および、これを用いた接合体の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の第1の接合方法は、少なくとも一方が透明の部材である2つの部材を積層して保持し、前記透明な部材の側から超短光パルスレーザービームを入射して、前記超短光パルスレーザービームの自己集束効果によってフィラメント領域を生成させ、前記フィラメント領域を前記積層した2つの部材の積層面に位置させた状態で、前記超短光パルスレーザービームをその軌跡が互いに重なり合わないように走査して、前記2つの部材を接合することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第2の接合方法は、少なくとも一方が透明の部材である2つの部材を積層して保持し、前記透明な部材の側から超短光パルスレーザービームを入射して、前記超短光パルスレーザービームの自己集束効果によってフィラメント領域を生成させ、前記フィラメント領域を前記積層した2つの部材の積層面に位置させた状態で、前記超短光パルスレーザービームを走査して、前記積層した部材を接合する接合方法であって、前記透明の部材として、ヤング率が80kN/mm2以下の部材を用いることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の第3の接合方法は、少なくとも一方が透明の部材である2つの部材を積層して保持し、前記透明な部材の側から超短光パルスレーザービームを入射して、前記超短光パルスレーザービームの自己集束効果によってフィラメント領域を生成させ、前記フィラメント領域を前記積層した2つの部材の積層面に位置させた状態で、前記超短光パルスレーザービームを走査して、前記積層した部材を接合する接合方法であって、前記透明の部材として、ヤング率と常温における熱膨張係数の積が580×10-6kN/Kmm2以下の部材を用いることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の接合体の製造方法は、上記本発明の接合方法のいずれかを用いて、部品の接合を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の接合方法によれば、超短光パルスレーザービームのフィラメント領域を用いて接合された部材に残留する応力を小さくすることができ、環境温度の変化や径時変化に強い接合体を得ることができる。
【0013】
また、本発明の接合体の製造方法によれば、上記本発明の接合方法を用いることで、環境温度が変化したり接合から時間が経過した場合でも、接合された部品にクラックや接合外れが生じたりすることなく、信頼性の高い接合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】フィラメント領域の生成状態を示すイメージ図である。
【図2】本発明の接合方法に用いられる接合装置の構成の一例を示す概略図である。
【図3】超短光パルスレーザービーム照射後の、ガラス部材に蓄積された内部応力を測定するための試料の作成方法を示すイメージ図である。
【図4】熱サイクル試験におけるクラックの発生状況を示す図である。
【図5】接合強度試験器のイメージ図である。
【図6】ガラス部材の接合強度測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1のガラス部材の接合方法は、少なくとも一方が透明の部材である2つの部材を積層して保持し、前記透明な部材の側から超短光パルスレーザービームを入射して、前記超短光パルスレーザービームの自己集束効果によってフィラメント領域を生成させ、前記フィラメント領域を前記積層した2つの部材の積層面に位置させた状態で、前記超短光パルスレーザービームをその軌跡が互いに重なり合わないように走査して、前記2つの部材を接合する。
【0016】
このような本発明の第1の接合方法は、積層された2つの部材を接合するための超短光パルスレーザービームの軌跡が、互いに重なり合わないように走査されるため、超短光パルスビームのフィラメント領域によって、部材内部でプラズマが形成される部分が走査方向に垂直な方向で連続することがない。このため、被接合部材の組成が変質する領域が間隔を開けて形成されて、部材の内部応力の蓄積が緩和され、接合後の部材に残留する内部応力を低減することができる。
【0017】
また、本発明の第1の接合方法においては、前記超短光パルスレーザービームを、生成させたフィラメント領域におけるビーム径と等しい間隔を開けて走査することが、好ましい。このようにすることで、1回の超短光パルスレーザービームの走査によって被接合部材内部でプラズマ形成が生じる領域を、前後の走査によってプラズマ形成が生じる領域から確実に分離することができ、接合後の部材に蓄積される応力を低減することができる。
【0018】
また、本発明の第1の接合方法において、前記超短光パルスレーザービームのフィラメント領域におけるビーム径をr、前記超短光パルスレーザービームの走査間隔をdとしたとき、d/rの値が2以上4以下とすることが好ましい。このようにすることで、接合体における部材同士の接合力を十分に保ったまま、接合後の部材に蓄積される応力を確実に低減することができる。
【0019】
また、本発明の第2の接合方法は、少なくとも一方が透明の部材である2つの部材を積層して保持し、前記透明な部材の側から超短光パルスレーザービームを入射して、前記超短光パルスレーザービームの自己集束効果によってフィラメント領域を生成させ、前記フィラメント領域を前記積層した2つの部材の積層面に位置させた状態で、前記超短光パルスレーザービームを走査して、前記積層した部材を接合する接合方法であって、前記透明の部材として、ヤング率が80kN/mm2以下の部材を用いる。
【0020】
さらに、本発明の第3の接合方法は、少なくとも一方が透明の部材である2つの部材を積層して保持し、前記透明な部材の側から超短光パルスレーザービームを入射して、前記超短光パルスレーザービームの自己集束効果によってフィラメント領域を生成させ、前記フィラメント領域を前記積層した2つの部材の積層面に位置させた状態で、前記超短光パルスレーザービームを走査して、前記積層した部材を接合する接合方法であって、前記透明の部材として、ヤング率と常温時における熱膨張係数の積が580×10-6kN/Kmm2以下の部材を用いる。
【0021】
このようにすることで、超短光パルスレーザービームを走査して接合領域を塗りつぶすように加工領域を形成した場合でも、接合された部材に蓄積される応力を低減することができ、環境温度の変化や径時変化によって、クラックや接合外れが生じにくい接合体を得ることができる。
【0022】
また、上記本発明の接合方法において、前記透明の部材をガラスとすることができる。
【0023】
また、本発明の接合体の製造方法は、上記本発明の接合方法のいずれかを用いて、部品の接合を行う。
【0024】
このようにすることで、接合体に蓄積される応力が低減されるという上記本発明の接合方法の特長を活かし、環境温度が変化したり、接合から時間が経過した場合でも、接合された部品にクラックや接合外れが生じたりすることのない、信頼性の高い接合体を得ることができる。
【0025】
以下、本発明の接合方法の実施形態として、ガラス部材同士を接合する場合について図面を参照しながら説明する。
【0026】
まず最初に、具体的な実施形態の説明をする前に、本発明の接合方法における最も重要なポイントである、フィラメント領域とその生成の原理について説明する。
【0027】
パルス幅が、フェムト秒からピコ秒オーダーの超短光パルスレーザービームがガラスなどの透明物質に入射した際には、レーザービームが基本的にガウス型の空間強度分布を持っているために、非線形媒質中において光の強度が強い中心部分の屈折率が他の部分に比べて高くなって媒質自体が正のレンズとして働く。このため、入射光が一点に集中するようになるという自己集束作用が生じ、超短光パルスレーザービームは、透明物質中を有限距離伝搬した後にビーム径が極小になると考えられる。
【0028】
しかしながら、実際には、媒質の光イオン化が生じて物質内で電子とイオンとが自由に移動する状況となるプラズマ形成が生じ、媒質の屈折率が低減する。このような3次の非線形光学効果とプラズマ形成による屈折率の減少とが釣り合うと、超短光パルスレーザービームは、一定のビーム径のまま所定距離を伝搬する。この現象をフィラメンテーションと呼び、フィラメンテーションが起きている領域をフィラメント領域と呼ぶ。そして、このフィラメント領域では、プラズマ密度が一定に保たれて、破壊的な損傷が生じにくい状況となっていると考えられる。
【0029】
なお、発明者らが確認したところによると、パルスレーザービームのピークパワーが大きければ、パルス幅が100ナノ(1×10-9)秒ぐらいまではフィラメント領域が形成されることが分かった。本発明のガラス部材の接合方法では、フィラメント領域を生成させてこれを利用してガラス部材同士を接合するものであるから、フィラメント領域の生成が接合における超短光パルスレーザービームの生成条件となる。言い換えると、本実施形態にかかる物質の接合方法として定義される「超短光パルスレーザービーム」とは、100ナノ秒程度までのパルス幅を有するものを包含する。
【0030】
以上を踏まえ、本発明の定義においてフィラメント領域の生成とは、上記のように超短光パルスレーザービームが所定の長さに渡って最小のビーム径を保つ状態が生じたことを言う。また、このフィラメント領域が生成されたか否かは、ビーム照射後の透明部材を見ることによって確認することができる。フィラメント領域が生成された場合は、生成されたフィラメント領域の深さに相当する部分の屈折率が上昇して、光学顕微鏡で白く(明るく)見える。そして、この白い領域の上下端の境界部は、なめらかではあるもののある程度の急激な変化が生じていて、その上下の元々の透明部材自体の状態が残っている透明領域に繋がっている。言い換えれば、フィラメント領域が生成された深さに渡って、層状の変質部分が残存する。
【0031】
図1は、超短光パルスレーザービームでフィラメント領域を生成し、積層されたガラス部材を接合する状況を模式的に表したイメージ図である。
【0032】
図1に示すように、超短光パルスレーザービーム4は、集束レンズ3を透過した後、超短光パルスレーザービーム4の入射側に位置する第1のガラス部材1に入射して自己集束作用で最小径部分を形成した後、プラズマ現象と釣り合うことで最小径状況を一定の距離維持するフィラメント領域6を生成する。そして、このフィラメント領域6を第1のガラス部材1ともう一方の第2のガラス部材2との積層面7に位置させることで、2つのガラス部材1,2を接合する。第2のガラス部材2の内部に入った超短光パルスレーザービーム4は、レーザービームのエネルギー低減とともに自己集束作用が弱くなってビーム径が増大し、フィラメント領域6が消滅する。
【0033】
図2は、本発明の部材の接合方法に用いることができる、接合装置の主たる構成を示す概略構成図である。
【0034】
図2に示すように、本発明の接合方法に用いることができる接合装置は、図示しない固定用ジグによって所定の加圧条件で密着させた、第1のガラス部材1と第2のガラス部材2を、任意の方向に所定量、所定の速度で移動させることが可能なXYZステージ20上に載置している。
【0035】
チタンサファイヤ増幅レーザー装置11から出射された超短光パルスレーザービーム4は、NDフィルター12やシャッター13、凹レンズ14,凸レンズ15等の光学系を透過し、アパーチャ16で外形が規制される。そして、ミラー17で反射された後、集束レンズ3で所定の集束力を与えられて接合領域に入射する。この超短光パルスレーザービーム4の照射状況は、CCD等の撮像素子を備えた監視カメラ18により確認され、この情報に基づいてパソコンなどで構成される制御装置19が、シャッター13やXYZステージ20を調整することで装置全体をコントロールしている。
【0036】
レーザービームの照射条件や、集束レンズの諸元は、接合される部材の種類や厚さ、大きさなどにより適宜選択されるものである。一例としての超短光パルスレーザービームでは、中心波長が800nm、パルス幅が85fs、繰り返し周波数を1kHz、レーザービームの照射エネルギーは、1〜10μJ/パルスなどとすることができる。また、対物レンズ3は、例えば倍率が10倍で開口数(NA)が0.3のものを用いることができる。
【0037】
なお、図2に示す接合装置例では、レーザービームの生成装置として、チタンサファイヤ増幅レーザー装置11を用いたが、レーザービーム生成装置はこれに限られるものではなく、ガラス物質内部で自己集束作用によりフィラメント領域を生成することができるものであれば、その種類に制限はない。
【0038】
また、図2では、接合される第1のガラス部材1と第2のガラス部材2に対して、接合面の垂直上方から超短光パルスレーザービーム4が照射されているように図示されているが、超短光パルスレーザービーム4の照射方向を接合面に対して傾斜させることもできる。具体的には、超短光パルスレーザービーム4を照射するレーザービーム照射系自体を傾ける場合の他、被接合物質1および2を密着保持している図示しない固定用のジグに傾きを持たせることで、相対的に被接合物質に対する超短光パルスレーザービームの光軸を傾斜させることもできる。
【0039】
このようにすることで、超短光パルスレーザービーム4の照射系が照射点の真上に来なくなるので、照射点の位置や状況をその真上から確実に監視することができる。また、特に、ガラスと金属とを接合する場合のように、超短光パルスレーザービーム4が入射する側に位置する透明部材とは異なる側の部材が、レーザービームを反射する金属物質である場合には、接合面で反射したビームが、照射時のビームパスを逆にたどって、集光レンズやレーザー発生装置などに悪影響を与えることを防止することができる。
【0040】
また、超短光パルスレーザービームをビームの走査方向にほぼ垂直の方向に傾斜させてビーム照射させることもでき、この場合には、被接合物の形状が複雑になっていて、超短光パルスレーザービームを入射させる側に配置される透明材料からなる物質の、接合面の垂直上方の厚みが場所によって異なるようなものであったり、接合面の垂直上方にレーザービームを遮蔽したり、散乱させてしまうようなものが形成されているような場合には、これを避けて2つの物質を接合することができる。
【0041】
XYZステージ20は、接合部材を積層したまま保持固定する図2では図示しないジグを載置することができ、被接合物質に容易に振動等が伝わらないステージが、ピエゾ素子やステッピングモーターなどによって移動できるものであれば、その具体的な構成に制限はない。
【0042】
XYZステージ20は、その上に積層された被接合部材を保持固定するジグが載置された後に、2つの物質の接合面に超短光パルスレーザービーム4のフィラメント領域6が位置するように、まずZ方向の位置調整が行われる。その後、一定の方向、例えば図2中左右方向であるX方向に所定の移動量移動して、超短光パルスレーザービーム4が接合物質1、2の積層面を走査する。この時の走査速度、すなわち、XYZステージ20のX方向の移動速度は、超短光パルスレーザービーム4の繰り返し周期との関係で、ビームスポットがどの程度の割合で重複して照射されることが好ましいかの観点から適宜定められる。例えば超短光パルスレーザービーム4の繰り返し周波数が1kHzで、フィラメント領域6のビーム径が1μmである場合には、0.1mm/秒の移動速度で、スポット径の1/10ずつずれた状態で、逆の言い方をすれば、ビームスポットが9/10重複した状態で、ビーム照射されることとなる。
【0043】
このようにして、X方向への所定長さに渡ってビーム照射を行うことを、本発明ではビームの走査と称することとする。
【0044】
所定の長さに渡ってのビーム照射、すなわち、1回の走査が終了すると、XYZステージ20は、X方向に直交するY方向に所定量移動する。そして、再びX方向に移動して次の走査であるビーム照射が行われる。ここで、このY方向への移動量が、超短光パルスレーザービーム4の走査の間隔、別の言い方をすれば、超短光パルスレーザービームパルスビーム4の軌跡の間隔を定めることとなる。
【0045】
例えば、超短光パルスレーザービーム4の生成されたフィラメント領域の径が1μmの場合には、Y方向への移動量が1μmのとき、超短光パルスレーザービーム4の照射軌跡が間隔を開けることなく連続して形成される状態、すなわち、ビーム照射領域の全面に渡って、ビーム照射が行われた状態である。一方、例えば、同じくフィラメント領域の径が1μmの場合に、Y方向への移動量が2μmであったとすると、超短光パルスレーザービームの照射軌跡同士の間に1μmの間隔が生じることとなる。超短光パルスレーザービームパルスビーム4の照射軌跡の幅は、フィラメント領域の径の大きさと実質的に等しいから、この場合には、超短光パルスレーザービーム4の照射軌跡の幅と、隣り合う照射軌跡同士の間隔とが等しくなる。
【0046】
このように、所定の照射軌跡を描くように順次Y方向へビーム走査位置を移動させながら、例えば一例として、X方向とY方向とがともに100μmのビーム照射領域が形成される。そして、実際には、この一つ当たりのビーム照射領域が、所定の間隔を隔てて複数個形成されることで、第1のガラス部材1と、第2のガラス部材2との接合を行うための接合領域が形成される。
【0047】
例えば、フィラメント領域の径が1μm、X方向の走査線の長さが100μm、Y方向の走査の間隔を2μmとして50本のビーム走査を行うことで、100μm×100μmの正方形状のビーム照射領域が形成できる。そして、このビーム照射領域を、互いの間隔をそれぞれ10μm隔てて、X方向に3つ、Y方向に3つ、マトリクス状に形成することで、全体として、一辺が320μmの正方形の接合領域が形成される。
【0048】
次に、発明者らが行った、超短光パルスレーザービームの照射条件と、ガラス部材に蓄積された応力の大きさとの関係を測定した実験について説明する。
【0049】
本明細書の背景技術欄において説明したように、発明者らによって、超短光パルスレーザービームの自己集束作用によってフィラメント領域を形成し、このフィラメント領域を2つの部材の接合面に照射することで、ガラスやアクリル板などの透明な部材同士、または、透明部材と金属などの不透明な部材との接合を可能とする接合方法が開発された。この従来の接合方法では、フィラメント領域の軌跡が重複するように超短光パルスレーザービームを走査することで、平面状のビーム照射領域全体を塗りつぶすように加工領域を形成していた。そして、2つの部材が接合されることが確認できていたが、ビーム照射によって接合部材の内部に蓄積される応力についての検証はされていなかった。
【0050】
まず、本発明の接合方法の透明部材として使用される代表的な部材であるボロシリカガラスに、超短光パルスレーザービームを照射し、ビーム照射領域を偏光顕微鏡で観察してみた。この結果、クロスニコル像では、ビーム照射領域の周辺が明るく観察される一方、オープンニコル像ではビーム照射領域の透過率が大きく変化していないことが確認できた。これは、ビーム照射領域の周辺に応力が蓄積して、異方性が誘起されたことを示していると考えられる。
【0051】
そこで、ビーム照射条件の違いによる応力の蓄積量の大きさの違いを確認するために、ガラス素材、ビーム照射エネルギー、ビーム照射の走査間隔を異ならせた試料を作成し、熱サイクルテストを行うこととした。
【0052】
ガラス素材としては、ヤング率や熱膨張係数といった、本発明の物質の接合方法における応力の蓄積に関与すると考えられる特性が異なる素材として、いずれもボロシリカガラスであるSchott社のBK7(製品名)と、テンパックス(B33:製品名)との2種類を用いた。
【0053】
BK7は、ヤング率(E)が82kN/mm2で20℃〜300℃の熱膨張係数(α)が8.3×10-6/K、テンパックスのヤング率は64kN/mm2で20℃〜300℃の熱膨張係数は3.25×10-6/Kである。なお、測定に用いた試料の大きさは、BK7が15mm×7mmで厚さ3mm、B33が18mm×12mmで厚さ1.7mmであった。
【0054】
この二つのガラス試料に、超短光パルスレーザービームを照射してフィラメント領域を生成させ、ビーム照射領域を形成した。超短光パルスレーザービームの照射条件は、中心波長800nm、パルス幅が85fs(〜100fs)、繰り返し周波数1kHzとし、ビーム照射エネルギーは、それぞれの試料に対して2.5μJ/パルス、5μJ/パルス、10μJ/パルスの三種類とした。なお、レーザービームの生成には、チタンサファイヤレーザーシステムを用い、ビーム照射系の対物レンズは、倍率10倍、開口数(NA)0.3のものを用いた。
【0055】
図3は、ガラス片への超短光パルスレーザービームの照射の状態を示す図である。
【0056】
図3(a)は、一つのビーム照射領域32を形成している状態の平面図、図3(b)は、その断面図である。
【0057】
図3(b)に示すように、測定試料であるボロシリカガラス試料31に、対物レンズ3を介して超短光パルスレーザービーム4を照射する。そして、フィラメント領域6がガラス片の表面から深さ0.2mmの位置を中心として形成されるようにした。この状態で、図3(a)に示すように、一辺が100μmの正方形状のビーム照射領域32を形成するようにビームを走査した。ビームの走査方向は、図3(b)に矢印33で示すように、図3(a)、図3(b)における左から右の方向とした。このようにして、ビーム照射領域32の幅に相当する100μmのビーム走査を行った後、図3(a)における上下方向に試料31を移動させて、走査間隔を制御した。今回の測定でのビーム走査の間隔は、1μm、2μm、4μmの三種類とした。なお、ビーム照射後のビーム走査軌跡などから、今回の試料作成条件でのフィラメント領域6の径は、約1μmであったことを確認した。
【0058】
このようにして、形成された一つのビーム照射領域32を、ビーム照射後の平面状態を表す図3(c)に示すように、隣り合うビーム照射領域32同士の間隔を10μmとして、縦方向に3つ、横方向に3つの、合わせて9つ形成し、一つの接合領域34とした。
【0059】
今回の測定では、上記した3種類のビーム照射エネルギー条件と、3種類のビーム走査間隔との組み合わせに対して、図3(c)に示したように、一つ当たり9つのビーム照射領域32を有する接合領域34を、それぞれのボロシリカガラス試料31に所定間隔を隔てて形成した。すなわち、BK7とテンパックスそれぞれの試料には、図3(c)に示した9つのビーム照射領域32が形成された接合領域34が、所定間隔を隔てて、9つずつ形成されたこととなる。
【0060】
このように、9×3×3のビーム照射領域32がそれぞれ形成された2つのボロシリカガラス試料31を光学顕微鏡で200倍に拡大して観察した。その結果、BK7では、走査間隔が1μmで、照射エネルギーが5μJ/パルスのものの内の2つ(2/9)に、クラックが発生していた。
【0061】
図4は、クラックが入っていた走査領域の拡大写真である。図4に示すように、照射領域32の図中左上の角部から、対角線の延長方向にクラック35が生じていることが分かる。なお、この図4中の左上角部はビーム照射の終了部分であり、このことから、照射領域32に順次走査してビーム照射を行っていった課程で試料ガラスに応力が蓄積されて、最終の照射点からこの蓄積された応力がクラックという形で開放されたものと考えることができる。
【0062】
また、クラックの有無は、光学顕微鏡で200倍に拡大しての目視による観察で行ったが、ガラスにクラックが入った場合には一定以上の大きさとなることから、クラックの有無を確認する上では、200倍という倍率での目視観察で十分であると考えられる。
【0063】
試料BK7への各照射領域32に対する観察結果では、上記の通り、走査間隔1μmで照射エネルギーが5μJ/パルスで2つのクラックが認められたものの、他の2.5μJ/パルス、10μJ/パルスのものについては、いずれもクラックは見つからなかった。また、走査間隔が2μm、4μmのものについては、いずれの照射エネルギーによる照射領域の周囲にもクラックは発見されなかった。
【0064】
また、試料テンパックスでは、いずれの走査間隔、いずれの照射エネルギーのものにも、クラックは見つからなかった。
【0065】
次に、BK7とテンパックスのボロシリカガラス試料について、熱サイクルテストを行った。熱サイクルテストは、125℃で30分、−55℃で30分を1つのサイクルとして、繰り返し回数は100回とした。
【0066】
この熱サイクルテストの後、再び、光学顕微鏡で200倍に拡大して、それぞれの照射領域32周辺のクラックの有無を確認した。
【0067】
その結果、試料BK7への照射領域32に対する観察結果では、走査間隔1μmで照射エネルギーが2.5μJ/パルスのものについて新たに1つ、2.5μJ/パルスのものについても新たに1つ、10μJ/パルスのものについては新たに2つの照射領域32の周辺でクラックが発見された。また、熱サイクルテスト前にクラックが生じていた、照射エネルギーが5μJ/パルスの2つの照射領域32では、新たなクラックが見つかるなどの変化はなかった。また、走査間隔が2μm、4μmのものについては、いずれの照射エネルギーのものにもクラックは発見できなかった。
【0068】
試料テンパックスについては、熱サイクル試験後においても、いずれの走査間隔、いずれの照射エネルギーにおいても、クラックは発見されなかった。
【0069】
以上の確認結果から、2つのことが分かる。
【0070】
まず、ガラス材料の特性の観点からは、同じボロシリカガラスであっても、ヤング率が低く、また、熱膨張係数とヤング率との積の値も小さいテンパックスでは、超短光パルスレーザービームの照射による応力の蓄積は小さく、環境温度の変化や経時的変化が生じても、接合部に割れが生じたり接合剥がれが生じたりするおそれは極めて小さいことが分かる。
【0071】
すなわち、超短光パルスレーザービームの自己集束作用によって生じるフィラメント領域を用いて、2つの物質を接合する接合方法において、ヤング率が小さい部材を用いること、または、部材に対するビーム照射を行う環境下である常温での熱膨張係数と、ヤング率との積の値が小さい部材を用いることで、ビーム照射時の走査間隔に関係なく実用的に安定した接合物が得られることが分かる。
【0072】
なお、上記したとおり、今回の実験で用いたBK7のカタログデータ上のヤング率は82kN/mm2、常温、すなわち20℃〜300℃の熱膨張係数は8.3×10-6/Kである。そして、BK7でのヤング率と熱膨張係数との積の値は、680.6×10-6kN/Kmm2となる。一方、テンパックス(B33)のカタログデータ上のヤング率は64kN/mm2、常温、すなわち20℃〜300℃の熱膨張係数は3.25×10-6/Kである。そして、テンパックスでのヤング率と熱膨張係数との積の値は、208×10-6kN/Kmm2となる。
【0073】
実際の製品では、ヤング率と熱膨張係数の値に若干のばらつきがあることを踏まえ、今回の測定結果から、ヤング率が80kN/mm2以下の部材を用いること、または、ヤング率と常温時における熱膨張係数の積が600×10-6kN/Kmm2以下の部材を用いることが要件であると考えることができる。
【0074】
一方、BK7での結果を考えると、BK7では走査間隔が1μmの場合には、ビーム照射領域32への応力が蓄積して、ビーム照射直後、もしくは、熱サイクル試験後にクラックが確認されたものが見受けられた。一方で、走査間隔が2μm、4μmの場合には、ビーム照射エネルギーにかかわらずクラックが発見されなかった。このように、ビーム走査間隔を広げることでクラックの発生が抑えられたことは、ビームの走査間隔が広がることで、ビーム照射部分で発生した応力が平面的に分散され、ビーム照射領域32全体の応力の蓄積が小さくなったことが原因であると考えられる。
【0075】
このことから、ビーム走査の間隔として、隣り合うフィラメント領域の走査軌跡が重ならないようにすること、言い換えれば、走査方向と垂直な方向に隣り合うフィラメント領域の走査軌跡が、所定の間隔を有して形成されることで、応力の平面的分散が生じて照射領域全体としての応力の蓄積が小さい、良好な接合面が得られるものと考えられる。
【0076】
また、今回のビーム照射実験では、フィラメント領域の直径は約1μmであることが確認されているため、走査間隔を2μmとした場合には、フィラメント領域の走査軌跡の幅と、隣り合うフィラメント領域の走査軌跡同士の間隔が、ほぼ同じである状態となる。上記実験の結果、ビーム走査間隔が2μmの場合には、テンパックスに対して、応力の蓄積が生じやすいBK7においても、照射ビームのエネルギーの値にかかわらず、クラックの発生が認められなかったことから、このように、フィラメント領域の走査軌跡の幅と、隣り合う軌跡同士の間隔が同じ大きさとなる場合には、ビーム照射領域に蓄積された応力が小さい、信頼性の高い接合領域が得られると考えられる。
【0077】
この知見を踏まえ、次に、ビーム走査間隔を広げた場合の接合力の変化について確認する実験を行った。
【0078】
実験は、試料として3mm×10mm、厚さ1mmのテンパックス(B33)ガラス片を2枚重ねた状態で、超短光パルスレーザービームを照射してフィラメント領域を生成させて2枚のガラスを接合し、この接合体の一方のガラスに接着したワイヤで引きはがして、どれだけの力が加わったときにガラス剥がれが生じるかを測定した。
【0079】
超短光パルスレーザービームの照射条件は、チタンサファイヤレーザーシステムを用い、中心波長800nm、パルス幅が85fs(〜100fs)、繰り返し周波数1kHzとし、ビーム照射エネルギーは、5μJ/パルスであった。ビーム照射系の対物レンズは、倍率10倍、開口数(NA)0.3のものを用いた。
【0080】
2枚のガラスの接合時には、2枚のガラスがしっかりと密着するようにビーム照射部の周囲をジグで押圧し、干渉縞が観察されない程度、すなわち照射されるレーザービーム波長の1/4程度である200nm以下の間隔であるようにした。
【0081】
このようなビーム照射条件で、走査間隔1μm、2μm、4μmでビーム照射を行った。
【0082】
走査間隔が1μmの場合と、2μmの場合は、図3(c)に示したように、1辺が100μmの正方形状のビーム照射領域32を3×3の9ブロック形成して接合領域34を形成するように、1回の走査でのビーム照射長さを100μmとし、走査間隔1μmでは100回、走査間隔2μmでは50回のビーム照射を行って一つのビーム照射領域32を形成した。なお、それぞれのビーム照射領域32同士の間隔は10μmとした。この結果、接合領域34は、一辺が320μmの正方形となる。
【0083】
ビームの走査間隔が4μmのものについては、接合領域34をビーム照射領域32に細分化することなく、1本のビームの走査長さを300μmとして、走査間隔4μmで75回の走査を行い、結果として、ビーム照射領域の外形は、間隔1μmや間隔2μmのものとほぼ同じの300μm×300μmとなるようにした。
【0084】
これらのビーム照射を行った試料を、それぞれのビーム走査間隔について3つずつ作成し、図5に示す測定器具を用いてガラスの接合力を調べた。
【0085】
図5は、接合強度を測定した試験器の概略イメージ図である。図5に示すように、ベース41の上に支柱42を立て、自由に回転できるようにプーリーブロック43を設けた。そして、接合された2枚のボロシリカガラス(テンパックス)の、レーザービーム入射側のガラス部材1にワイヤ44を接着し、このワイヤの他端に設けられた皿45の上に荷重46を加えていき、接合したガラス試料が2つに割れるまでの荷重を測定した。そして、このとき得られた荷重の値を接合面積で割って接合強度を見積もった。
【0086】
このときの測定データを、図6に示す。
【0087】
図6は、走査間隔1μm、2μm、4μmの3種について、それぞれの3つの試料に対し、接合面積を接合領域と同じであると考えて、ビーム照射領域の全体、すなわち、300μm×300μmとして計算した結果と、接合面積をフィラメント領域の走査軌跡部分のみであると考え、フィラメント領域の軌跡の幅を1μmとして走査長さを掛けて計算した結果とを示している。
【0088】
なお、図6下段のグラフでは、接合面積をビーム照射領域の全体とした場合の標準偏差を黒丸で、接合面積をフィラメント領域の幅であるとした場合の標準偏差を白三角で示している。
【0089】
図6から明らかなように、ビーム照射領域全体を接合面積として考えた場合の接合力は、走査間隔が1μmの場合と、走査間隔が2μmの場合とがいずれも25MPa程度でほぼ一定である。これに対し、ビーム走査間隔が4μmの場合には、走査間隔が広い分全体の接合力が低下し、接合強度は20MPa以下となっている。
【0090】
一方、ビーム照射に伴ってガラスの組成が実際に変化した、フィラメント領域の軌跡部分を接合面積として考えた場合には、ビーム照射の走査間隔が広がるにつれて、接合強度が大きくなる傾向がある。これは、ビームの走査間隔が広がることで、隣り合うフィラメント領域の軌跡部分でのガラス組成の変質の影響を受けにくく、ビーム照射部分でより確実な接合が行われていることに起因すると考えられる。ただし、走査間隔が1μmから2μmになった場合には、接合強度が約25MPaから約50MPaと倍増しているのに対し、走査間隔が4μmの場合では、接合強度が約55MPaであることから、走査間隔を広げることによる、実際にビームが照射された部分における接合強度の向上の効果は、飽和する傾向にあることが分かる。
【0091】
このような結果から、接合体の内部に蓄積される応力を低減するために、フィラメント領域の径である1μmの倍の2μmの走査間隔とした場合でも、接合領域全体から得られる接合強度に変化が無いこと、すなわち、接合部の信頼性の観点からも、また、接合部における接合強度の観点からも、走査間隔dとフィラメント領域の径rとの関係をd/r=2とすることが、極めて実用的であることが理解できる。
【0092】
特に、d/rの数値を2以上とすることで、少ない走査回数で強固な接合強度が得られることから、接合作業のストロークの観点では実用的に好ましいことが分かる。
【0093】
以上、本発明の部材の接合について、2つの部材をいずれもボロシリカガラスを用いた場合について具体的に説明してきたが、本発明はこれに限られるものではなく、各種部材を用いることができるものである。
【0094】
なお、超短光パルスレーザービームによってフィラメント領域を生成するために、ビーム入射側の接合部材は、超短光パルスレーザービームに対して透明である必要がある。このため、ビーム入射側の部材としては、ボロシリカガラス以外にも、例えばシリカガラスやノンアルカリガラス(無アルカリガラス)などの各種ガラス、また、アクリル樹脂などを用いることができる。
【0095】
一方、ビーム入射側とは反対側の接合部材としては、シリカガラスをはじめとする各種のガラス、アクリル樹脂などのビーム入射側の部材と同じ透明な部材の他、ステンレス、鉄、鋼、アルミニウム、または、銅等の主として単体の金属からなる金属板や、これらの金属の少なくともいずれか一つを含む合金板、シリコン基板など超短光パルスレーザービームに対して透明ではない各種の部材を用いることができる。
【0096】
また、本発明は、常温下で透明部材の透過率の大幅な低下を生じさせることなく、気密を保った接合を行うことができる。したがって、本発明の接合方法を用いた接合体の製造方法によれば、主として透明なガラス部材を利用する各種の光学部材をはじめとして、さまざまな用途の部材を接合することができる。具体的な用途としては、水晶振動子、有機ELディスプレイや有機電池などの各種有機デバイス、CCDやC−MOSカラーフィルタなどのイメージセンサ、Siミラー光学素子や圧力センサ、加速度センサなどの各種MEMSデバイス、レーザーダイオードや発光ダイオード(LED)などの半導体光学素子などが考えられる。
【0097】
また、本発明の接合方法によれば、半導体デバイスが形成された状態の半導体ウェハと、その半導体ウェハ上にガラスや樹脂などの透明部材からなる光学レンズ素子やパッケージなどを積層して直接接合して、いわゆるウェハレベルパッケージングを行うことができる。
【0098】
なお、本発明の接合方法によって接合できる半導体基板としては、上記したシリコン基板に限らず、GaAs基板やGaN基板などの化合物系の半導体基板も含まれる。そして、本発明の接合方法を用いた製造方法により得られる接合体として、チップ単位に切断されたデバイスとして製造された光学半導体素子、または、半導体製造工程を経た内部に半導体領域が形成されたウェハ基板と、ガラスや透明な樹脂などからなるパッケージやレンズなどの透明部材とを備えた光学部材など、各種の接合体を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上本発明の接合方法、およひ、接合体の製造方法は、同種又は異種のガラスなどの透明部材同士や、透明部材と異種の樹脂基板、シリコン基板、金属板、半導体基板などとを接合することができ、光学分野を中心として幅広い分野での応用用途が期待できる。
【符号の説明】
【0100】
1 第1のガラス部材
2 第2のガラス部材
3 集束レンズ
4 超短光パルスレーザービーム
6 フィラメント領域
7 積層面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が透明の部材である2つの部材を積層して保持し、
前記透明な部材の側から超短光パルスレーザービームを入射して、前記超短光パルスレーザービームの自己集束効果によってフィラメント領域を生成させ、
前記フィラメント領域を前記積層した2つの部材の積層面に位置させた状態で、前記超短光パルスレーザービームをその軌跡が互いに重なり合わないように走査して、前記2つの部材を接合することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記超短光パルスレーザービームを、生成させたフィラメント領域におけるビーム径と等しい間隔を開けて走査する請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記超短光パルスレーザービームのフィラメント領域におけるビーム径をr、前記超短光パルスレーザービームの走査間隔をdとしたとき、d/rの値が2以上4以下である請求項1に記載の接合方法。
【請求項4】
少なくとも一方が透明の部材である2つの部材を積層して保持し、
前記透明な部材の側から超短光パルスレーザービームを入射して、前記超短光パルスレーザービームの自己集束効果によってフィラメント領域を生成させ、
前記フィラメント領域を前記積層した2つの部材の積層面に位置させた状態で、前記超短光パルスレーザービームを走査して、前記積層した部材を接合する接合方法であって、
前記透明の部材として、ヤング率が80kN/mm2以下の部材を用いることを特徴とする接合方法。
【請求項5】
少なくとも一方が透明の部材である2つの部材を積層して保持し、
前記透明な部材の側から超短光パルスレーザービームを入射して、前記超短光パルスレーザービームの自己集束効果によってフィラメント領域を生成させ、
前記フィラメント領域を前記積層した2つの部材の積層面に位置させた状態で、前記超短光パルスレーザービームを走査して、前記積層した部材を接合する接合方法であって、
前記透明の部材として、ヤング率と常温における熱膨張係数の積が600×10-6kN/Kmm2以下の部材を用いることを特徴とする接合方法。
【請求項6】
前記透明の部材がガラスである請求項1〜5のいずれか1項に記載の接合方法。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の接合方法を用いて、部品の接合を行うことを特徴とする接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−56519(P2011−56519A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206001(P2009−206001)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(300078431)エヌイーシー ショット コンポーネンツ株式会社 (75)
【Fターム(参考)】