説明

接点材料、その製造方法及び真空バルブ

【課題】本発明は、内部のTeの分散性が均一で且つ低サージ性能に優れた接点材料を得ることを目的とする。
【解決手段】本発明による接点材料は、Cuを主体とした母材中に、WC粒子と、CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相とが分散した組織とし、且つ相対密度を理論密度の90%以上とする。この接点材料は、1μm以上10μm以下の平均粒径を有するCu粉末と、75μm以上150μm以下の平均粒径を有するWC粉末と、1μm以上50μm以下の平均粒径を有するTe粉末とを混合する工程と、得られた混合物を圧縮し、600℃以上700℃以下の温度で焼結する工程と、得られた焼結体を再度圧縮し、600℃以上700℃以下の温度で再焼結する工程とを有する製法により得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接点材料、その製造方法及び真空バルブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
遮断器、特に真空遮断器の大容量化、高耐圧化、小型化への要求が一段と厳しくなっており、真空遮断器に搭載されている真空バルブの性能向上が望まれている。真空バルブは、高真空に保たれた絶縁容器内で固定電極と可動電極が同軸対向配置されており、可動電極はベローズを介して操作機構部に接続され、軸方向に移動するようになっている。過負荷電流や短絡電流が発生した場合、電極を瞬時に開極することで電流を遮断する。このような真空バルブの固定電極と可動電極の接触部に使用されている接点材料には、主に、遮断性能、耐電圧性能、低溶着性能及び低サージ性能が要求されている。
【0003】
これらの接点材料に対する要求特性は互いに相反する性質を要求するため、接点材料を単一の材料で製造することは困難であり、従来、二種以上の元素を組み合わせた材料により製造されている。低サージ性能に優れた接点材料として、溶浸法により製造されたCu−WC−Te接点材料(例えば特許文献1)や、焼結法により製造されたCu−Cr−Te接点材料(例えば特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−108223号公報(特に請求項1)
【特許文献2】特開2009−252550号公報(特に請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような接点材料にあっては、溶浸法により製造されたCu−WC−Te接点材料の場合、接点材料表面のTeが気化損失し、内部組織におけるTeの分散性が不均一になるという問題があった。また、焼結法により製造されたCu−Cr−Te接点材料の場合、含有されるTe化合物の融点が高いため、低サージ性能に改善の余地があった。
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、内部組織におけるTeの分散性が均一であり且つ低サージ性能に優れた接点材料を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る接点材料は、Cuを主体とした母材中に、WC粒子と、CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相とが分散しており、且つ相対密度が理論密度の90%以上であることを特徴とするものである。
本発明に係る接点材料の製造方法は、1μm以上10μm以下の平均粒径を有するCu粉末と、75μm以上150μm以下の平均粒径を有するWC粉末と、1μm以上50μm以下の平均粒径を有するTe粉末とを混合する工程と、得られた混合物を圧縮し、600℃以上700℃以下の温度で焼結する工程と、得られた焼結体を再度圧縮し、600℃以上700℃以下の温度で再焼結する工程とを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、内部組織におけるTeの分散性が均一であり且つ低サージ性能に優れた接点材料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態に係る接点材料を適用した真空バルブの一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る接点材料の内部組織構造を示す模式断面図である。
【図3】比較例1及び2で得られた接点材料の内部組織構造を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による接点材料を適用した真空バルブの一例を示すも式断面図である。真空バルブ1は遮断室2を備えている。この遮断室2は、円筒状に形成された絶縁容器3とその両端に封止金具4a,4bにより固定された金属蓋5a、5bとで構成され、真空気密となっている。遮断室2内には、固定電極棒6と可動電極棒7とが対向するように取り付けられている。固定電極棒6及び可動電極棒7の端部には、固定電極8及び可動電極9がそれぞれロウ付により取り付けられ、それぞれの接触部には、固定接点10及び可動接点11がロウ付により取り付けられている。可動電極棒7には、ベローズ12が取り付けられ、遮断室2の内部を真空気密に保持しながら可動電極9の軸方向の移動を可能にしている。ベローズ12の上部には、金属製のベローズ用アークシールド13が設けられ、ベローズ12にアーク蒸気が付着することを防止している。また、固定電極8及び可動電極9を覆うように、遮断室2内に金属製の絶縁容器用アークシールド14が設けられ、絶縁容器3がアーク蒸気で覆われることを防止している。
【0010】
固定電極8及び可動電極9にそれぞれ取り付けられた固定接点10及び可動接点11には、本実施の形態による接点材料が使用されている。本実施の形態による接点材料は、Cuを主体とした母材中に、WC粒子と、CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相とが分散した組織構造を有している。図2は、本実施の形態による接点材料の内部組織構造を示す模式断面図である。図2に示されるように、Cuを主体とした母材15中に、WC粒子16と、CuTe相17の周囲をCuTe相18が囲んだ相19が分散している。また、原料に含まれる微量の不可避の不純物(Ag、Al、Fe、Si、P、O、N、Hなど)も含有されている。本実施の形態による接点材料は、特許文献1による接点材料とは異なり、CuTeより融点の低いCuTe相17の周囲をCuTe相18で囲んだ相19を内部組織に分散させているので、低サージ性能が向上されている。
更に、本実施の形態による接点材料の相対密度は、理論密度の90%以上とされており、好ましくは理論密度の93%以上とされる。相対密度が理論密度の90%以上であれば、内部の残留ガスが十分に少ないので、接点材料を真空バルブに適用した場合であっても遮断性能にばらつきを生じることがない。
【0011】
このような内部組織構造及び相対密度を有する接点材料は、所定の平均粒径を有する原料粉末の混合物を圧縮し、600℃以上700℃以下の温度で焼結する工程、及び得られた焼結体を再度圧縮し、600℃以上700℃以下の温度で再焼結する工程を経て製造される。従来技術による焼結法では十分な相対密度を得られないが、本発明のような再圧縮及び再焼結工程を経ることで、電気特性に悪影響を与えない程度まで相対密度を向上させることができる。
なお、相対密度は下式により求められる。
相対密度(%)=(接点材料の測定密度/組成分析値から求めた接点材料の理論密度)×100
【0012】
また、焼結法を適用しているため、溶浸法において問題となる接点材料表面側のTeの気化損失を解消することができ、Teの分散性の均一な接点材料を得ることができる。その結果、本実施の形態による接点材料を適用した真空バルブの電気特性のばらつきを抑制することができる。
【0013】
原料粉末混合物の圧縮工程及び焼結体の圧縮工程のいずれにおいても成形圧力は、特に限定されるものではないが、640MPa以上800MPa以下であることが好ましい。
【0014】
いずれの焼成工程においても焼結温度が600℃未満の場合、焼結性が低下して接点材料自体が脆くなるため、適当でない。また、焼結温度が700℃を超える場合、本実施の形態による接点材料に特有の組織構造であるCuTe相が得られないため、不適当である。
【0015】
また、いずれの焼成工程においても焼結時間は、Cuを主体とした母材中に、WC粒子と、CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相とが分散するのに十分な条件であればよく、例えば4時間から10時間程度が適当である。
【0016】
本実施の形態による接点材料の製造に使用する原料粉末は、平均粒径が1μm以上10μm以下の範囲のCu粉末、平均粒径が75μm以上150μm以下の範囲のWC粉末、及び平均粒径が1μm以上50μm以下の範囲のTe粉末である。Cu粉末の平均粒径が1μm未満の場合、成形性が低下するため、好ましくない。Cu粉末の平均粒径が10μmより大きい場合、接点材料内部の気孔が大きくなり、相対密度が低下するため、不適当である。また、WC粉末の平均粒径が75μm未満の場合、WCの比表面積が大きくなることで、WC粒子間のCu量が少なくなり、成形性が低下するため、望ましくない。WC粉末の平均粒径が150μmより大きい場合、接点材料内部の気孔が大きくなり、相対密度が低下するため、不適当である。また、Te粉末の平均粒径が1μm未満の場合、低溶着性能が乏しくなるため、不適当である。Te粉末の平均粒径が50μmより大きい場合、耐電圧性能のばらつきが大きくなり、不適当である。
更に、原料粉末混合物におけるCu粉末の含有量は、40質量%以上50質量%以下であることが好ましく、WC粉末の含有量は、50質量%以上60質量%以下であることが好ましく、Te粉末の含有量は、0.1質量%以上2質量%以下であることが好ましい。Cu粉末の含有量が、40質量%未満である場合、遮断性能が低下することがあり好ましくない。Cu粉末の含有量が、50質量%を超える場合、耐電圧性能が不十分となることがあり好ましくない。また、WC粉末の含有量が、50質量%未満である場合、耐電圧性能が不十分となることがあり好ましくない。WC粉末の含有量が、60質量%を超える場合、遮断性能が低下することがあり好ましくない。また、Te粉末の含有量が、0.1質量%未満である場合、低溶着性能が乏しくなることがあり好ましくない。Te粉末の含有量が、2質量%を超える場合、低溶着性能は向上するが、材料自体が脆くなることがあり、接点材料としては実用上不適当である。
【0017】
本実施の形態による接点材料は、融点の低いCuTe相を有するため、優れた低サージ性能を実現し得るという効果がある。また、本実施の形態による接点材料の製造方法は、再圧縮及び再焼結の工程を含むため、Teの分散性が均一で、相対密度の高い接点材料を得ることができる。本実施の形態による接点材料を、真空遮断器等に搭載される真空バルブに適用した場合、電気特性ばらつきを抑えることができるという効果がある。
【0018】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0019】
〔実施例1〕
平均粒径が1μm以上2μm以下の範囲のCu粉末を44質量%と、平均粒径が125μmのWC粉末を54質量%と、平均粒径が0.1μm以上0.5μm以下の範囲のTe粉末を2質量%とを混合し、所定量を圧力800MPaで加圧成形した。次に、成形体を温度700℃の水素雰囲気下で4時間焼結した。その後、焼結体を圧力800MPaで再圧縮し、温度700℃の水素雰囲気下で4時間再焼結して、相対密度95%のCu−WC−Te接点材料を得た。接点材料の内部組織について顕微鏡観察を行った結果、Cuを主体とした母材中に、WC粒子と、CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相とが分散していることが確認された。
【0020】
〔実施例2〕
成形体の焼結温度及び焼結体の再焼結温度を600℃に変更した以外は実施例1と同様にして、Cu−WC−Te接点材料を得た。得られたCu−WC−Te接点材料の相対密度は94%であった。また、接点材料の内部組織について顕微鏡観察を行った結果、Cuを主体とした母材中に、WC粒子と、CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相とが分散していることが確認された。
【0021】
〔実施例3〕
成形体の焼結温度を600℃に変更した以外は実施例1と同様にして、Cu−WC−Te接点材料を得た。得られたCu−WC−Te接点材料の相対密度は95%であった。また、接点材料の内部組織について顕微鏡観察を行った結果、Cuを主体とした母材中に、WC粒子と、CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相とが分散していることが確認された。
【0022】
〔実施例4〕
焼結体の再焼結温度を600℃に変更した以外は実施例1と同様にして、Cu−WC−Te接点材料を得た。得られたCu−WC−Te接点材料の相対密度は95%であった。また、接点材料の内部組織について顕微鏡観察を行った結果、Cuを主体とした母材中に、WC粒子と、CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相とが分散していることが確認された。
【0023】
〔実施例5〕
原料粉末として平均粒径が150μmのWC粉末を使用した以外は実施例1と同様にして、Cu−WC−Te接点材料を得た。得られたCu−WC−Te接点材料の相対密度は97%であった。また、接点材料の内部組織について顕微鏡観察を行った結果、Cuを主体とした母材中に、WC粒子と、CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相とが分散していることが確認された。
【0024】
〔実施例6〕
原料粉末として平均粒径が75μmのWC粉末を使用した以外は実施例1と同様にして、Cu−WC−Te接点材料を得た。得られたCu−WC−Te接点材料の相対密度は93%であった。また、接点材料の内部組織について顕微鏡観察を行った結果、Cuを主体とした母材中に、WC粒子と、CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相とが分散していることが確認された。
【0025】
〔比較例1〕
成形体の焼結温度を900℃に変更し、再圧縮工程及び再焼結工程を省略した以外は実施例1と同様にして、Cu−WC−Te接点材料を得た。得られたCu−WC−Te接点材料の相対密度は87%であった。また、接点材料の内部組織について顕微鏡観察を行った結果、図3に示すようなCuを主体とした母材15中に、WC粒子16と、CuTe相18とが分散している組織となっており、CuTe相は形成されていないことが確認された。
【0026】
〔比較例2〕
成形体の焼結温度及び焼結体の再焼結温度を900℃に変更した以外は実施例1と同様にして、Cu−WC−Te接点材料を得た。得られたCu−WC−Te接点材料の相対密度は96%であった。また、接点材料の内部組織について顕微鏡観察を行った結果、図3に示すようなCuを主体とした母材15中に、WC粒子16と、CuTe相18とが分散している組織となっており、CuTe相は形成されていないことが確認された。
【0027】
〔比較例3〕
再圧縮工程及び再焼結工程を省略した以外は実施例1と同様にして、Cu−WC−Te接点材料を得た。得られたCu−WC−Te接点材料の相対密度は85%であった。また、接点材料の内部組織について顕微鏡観察を行った結果、Cuを主体とした母材中に、WC粒子と、CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相とが分散していることが確認された。
【0028】
〔比較例4〕
原料粉末として平均粒径が60μmのWC粉末を使用した以外は実施例1と同様にして、Cu−WC−Te接点材料を得た。得られたCu−WC−Te接点材料の相対密度は80%であった。また、接点材料の内部組織について顕微鏡観察を行った結果、Cuを主体とした母材中に、WC粒子と、CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相とが分散していることが確認された。
【0029】
〔比較例5〕
原料粉末として平均粒径が10μmのWC粉末を使用した以外は実施例1と同様にして、Cu−WC−Te接点材料を得た。得られたCu−WC−Te接点材料の相対密度は75%であった。また、接点材料の内部組織について顕微鏡観察を行った結果、Cuを主体とした母材中に、WC粒子と、CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相とが分散していることが確認された。
【0030】
実施例1〜6及び比較例1〜5の接点材料を12kVクラスの真空バルブに組み込んで裁断電流値を評価した。結果を表1に示す。表1の裁断電流値から、実施例1〜6(裁断電流値0.5A)は、比較例1〜2(裁断電流値0.8〜0.9A)よりも低サージ性能に優れていることが分かる。比較例1〜2では、本発明による接点材料に特有の組織構造であるCuTeよりも融点の低いCuTe相が形成されていないため、低サージ性能が不十分だったと考えられる。また、遮断性能ばらつき(アーク時間が0.3以上0.5以下の範囲で10回遮断した場合の遮断失敗回数)については、同表に示すように、実施例1〜6(遮断失敗回数0回)は、比較例1及び3〜5(遮断失敗回数4〜6回)よりも遮断性能安定性に優れていることが分かる。比較例1及び3では、再焼結工程を省略したため、また、比較例4及び5では、WC粉末の平均粒径が適当でなかったため、それぞれ十分な相対密度が得られず、遮断性能にばらつきが生じたと考えられる。
【0031】
【表1】

【符号の説明】
【0032】
1 真空バルブ、2 遮断室、3 絶縁容器、4a、4b 封止金具、5a、5b 金属蓋、6 固定電極棒、7 可動電極棒、8 固定電極、9 可動電極、10 固定接点、11 可動接点、12 ベローズ、13 ベローズ用アークシールド、14 絶縁容器用アークシールド、15 Cu母材、16 WC粒子、17 CuTe相、18 CuTe相、19 CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuを主体とした母材中に、WC粒子と、CuTe相の周囲をCuTe相が囲んだ相とが分散しており、且つ相対密度が理論密度の90%以上であることを特徴とする接点材料。
【請求項2】
1μm以上10μm以下の平均粒径を有するCu粉末と、75μm以上150μm以下の平均粒径を有するWC粉末と、1μm以上50μm以下の平均粒径を有するTe粉末とを混合する工程と、得られた混合物を圧縮し、600℃以上700℃以下の温度で焼結する工程と、得られた焼結体を再度圧縮し、600℃以上700℃以下の温度で再焼結する工程を有することを特徴とする接点材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の接点材料からなる接点を備えることを特徴とする真空バルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−248521(P2012−248521A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121945(P2011−121945)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】