説明

接着結合方法及びそれにより作製された車両用ガラス

エラストマー性部材をガラス基板に、結合の強度の増加を速めるようにして接着結合させる方法、及び、そのようなエラストマー性部材を有する車両用ガラスを提供する。このような加速された結合プロセスは、接着促進プライマーに求核及び/または求電子触媒を有益な量で混合し、その混合物をガラス基板の周縁部に塗布することにより実現することができる。結合強度の増加を速めることにより、「クリープ」率を大幅に減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー性部材をガラス基板に接着結合させる方法及びそれにより作製された車両用ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両本体の開口部にユニットとして取り付けられる、いわゆるモジュール式窓アセンブリの製造が行われてきた。このようなモジュール式窓アセンブリは、一般的に、車両ガラス窓の周縁部に成形された、あるいは別の方法によって結合されたポリマー製のフレームまたはガスケットを有している。ポリマー材料とガラスとの強力な結合を得るのは難しいことが分かっているため、ポリマー製のフレームまたはガスケットを成形する前にガラス窓の周縁部に接着促進プライマーを塗布して処理することが一般に行われている。この追加ステップを行った場合でも、ポリマー部材とガラスとの間の結合が十分な強度に達するまでには長時間ないし数日間を要することがモジュール式窓アセンブリの製造分野の当業者に知られている。ポリマー製フレームまたはガスケットは、最大結合強度に達する前に、製品包装や他の作業(例えば、バルブシールの取り付けや、単純にそれ自体の重量により重力に引っ張られること)などの比較的わずかな接触によって取付位置から変位し得る。この作用は、一般に「クリープ」として知られている。
【0003】
近代的な製造工程では、窓の製造メーカの工場で製造されたモジュール式窓アセンブリが製造後数時間のうちに車両メーカの工場へ供給されるためポリマー材料とガラスとの間の上述の結合強度が最大強度に達しないおそれがあり、そのためポリマー製のフレームまたはガスケットの変位すなわち「クリープ」が生じる可能性が高い。したがって、ポリマー材料とガラスとの結合が、最大とまではいかなくても、少なくとも、大幅な変位すなわち「クリープ」が生じる可能性がはるかに低くなる十分に強度になるまでに要する時間を短くすることが望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、フレームやガスケットなどのエラストマー性部材とガラス基板(好ましくは、ガラス基板の少なくとも周縁部)との間の結合の強度の増加を速める方法に関する。好ましい用途では、ガラス基板は車両窓であり、この車両窓にフレームやガスケットなどを結合させることによってモジュール式車両用ガラスが形成される。
【0005】
通常は、ガラス基板にポリマー材料を効果的に結合させるためには、例えば熱可塑性樹脂、有機シラン系化合物及びイソシアン酸塩含有化合物などを含む接着促進プライマーを使用する必要がある。前記プライマーの硬化を大気中で行い、かつ硬化を速めるための加熱を行わない場合は、前記プライマーが十分な結合強度を実現するのに要する時間(ここでは「硬化時間」と呼ぶ)は一般に24時間以上である。そのため、加熱等の追加的な処理ステップを行うことなく、硬化時間を24時間よりも短くすることが望ましい。
【0006】
本発明は、大気への露出だけで、プライマーの硬化時間を速めると共に、プライマーの結合強度を高めることを実現する。プライマー組成物に求核塩基触媒を混合し、その混合物の層をガラス板の少なくとも1つの主面に2〜40μm(0.1〜1.5ミル)の厚さで塗布することにより、硬化時間を速めることができる。プライマーに混合させる触媒の量を、プライマーに対して0.01〜0.5重量%の量にしたときに最良の結果が得られることが分かっている。本発明の触媒含有プライマーによって硬化時間を短縮することにより、同様の触媒非含有プライマーよりもクリープ率を50%以上減少させることができる。上述したようにして作製したガラス基板に、フレームやガスケットなどを公知の方法(好ましくは、射出成形法または反応射出成形法)を用いてモールド形成することによってモジュール式車両用ガラスを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】DABCO触媒含有GPI−300における予熱温度の影響を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、エラストマー性部材をガラス基板に結合させる方法に関する。より具体的には、本発明は、エラストマー性部材とガラス基板との間の結合の強度の増加を速める方法、及びそれにより作製されたモジュール式車両用ガラスに関する。
【0009】
モジュール式窓アセンブリを作製すべく車両窓にフレームやガスケットなどを成形するかまたは別の方法で結合させる前に、接着促進プライマー(例えば、熱可塑性樹脂、有機シラン化合物及びイソシアン酸塩化合物を含有しているプライマー)をガラス基板(好ましくは車両窓)の周縁部に塗布することは公知である。このような公知のプライマーはエラストマー性材料とガラスとの間に満足のいく強力な結合を経時的に形成するが、強力な結合が形成されるまでに長時間を要するために、その間にエラストマー性部材がその初期位置(すなわち目的位置)から移動してしまい、窓アセンブリをエンドユーザー(例えば車両メーカー)が利用できなくなることがある。
【0010】
この問題点は、上記のような公知のプライマーに求核塩基触媒を特定の割合で混合することによって最小限に抑えることができることが分かった。本明細書中で詳細に説明するように、モジュール式窓アセンブリの製造分野の当業者によって同様の有益な効果を有すると考えられ得る他の触媒材料は、明らかな効果や利点などを示さないように思われる。本発明によるプライマー及び触媒の混合物をガラス基板に一般的な厚さ(2〜40μm(0.1〜1.5ミル))で塗布した場合、硬化時間が大幅に短縮されると共に、上述した「クリープ」も大幅に減少する。何らかの特定の理論によって拘束されることは望まないが、上述の結果は、プライマーと触媒の混合物の化学反応における律速(rate limiting)ステップがイソシアン酸塩化合物内にポリマーネットワークを形成し、それによりプライマーの結合強度が増大するという発見に起因すると考えられる。本発明のプライマー及び触媒の混合物は、大気に露出させるだけで硬化させることが好ましい。また、本発明のプライマー及び触媒の混合物あるいはガラス基板を50℃(120°F)以上に加熱することも本発明の範囲に含まれる。大気中で硬化させるだけの場合、本発明のプライマー及び触媒の混合物を用いたときは、同様の触媒非含有プライマーを用いたときよりも、クリープ率が50%以上、好ましくは80%以上減少するという実験結果が示されている。
【0011】
熱可塑性樹脂、有機シラン系化合物及びイソシアン酸塩含有化合物を含む任意の適切なプライマーを本発明に関連して使用することができるが、少なくとも2つのイソシアネート基を有するプライマーを使用することが有利であることが分かっている。とりわけ好適なイソシアン酸塩化合物は、メチレンジフェニルイソシアネート(MDI)である。本発明において有用な例示的な熱可塑性樹脂には、ポリエステル、塩素化ポリオレフィン、そしてより一般的には、ある程度の極性を有する樹脂が含まれる。
【0012】
触媒に関しては、求核塩基触媒が本発明において有利であることが分かっている。例示的な求核塩基触媒には、1,4−ジアゾ−ビシクロ[2.2.2]オクタン、N−メチルモルホリン、テトラメチルブタンジアミン、及びビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテルが含まれ、1,4−ジアゾ−ビシクロ[2.2.2]オクタンが好適である。
【0013】
エラストマー性部材のガラス基板への結合を速めるべく、求核塩基触媒及び求電子触媒の両方を有機シラン系プライマーと混合させることも発明の範囲に含まれる。例示的な求核塩基触媒は上記したものであり、例示的な求電子触媒には、ジブチルスズジラウレート及びスズオクトアートが含まれる。
【0014】
ガラス基板の周縁部に結合されるエラストマー性フレーム、ガスケットまたは同様のものは、ポリウレタン材料、ポリ塩化ビニルまたは他の適切な材料などの熱硬化性材料または熱可塑性材料であり得る。
【0015】
エラストマー性フレーム、ガスケットまたは同様のものは、ガラス基板に成形する場合、反応射出成形法や射出成型法などの任意の適切な成形方法によって形成することができる。
【0016】
実施例
【0017】
前述したように、本発明によれば、硬化時間を短縮する、すなわち、結合強度の増加を速めることにより、「クリープ」量を大幅に減少させることができる。本発明によるクリープ減少量を定量化するために様々な実験を行った。
【0018】
ジョンソン・マッセイ社(Johnson Mathey)製の2TM050セラミックエナメルが予め塗布されているピルキングトン・ノースアメリカ社(Pilkington North America, Inc.)製のEZ-KOOLR太陽光調整ガラスの1インチ×6インチのピースを用いて試験材を作製した。C1〜C7と表されたいくつかの例は比較例であり、本発明には含まれない。例1〜7は、1,4−ジアゾ−ビシクロ[2.2.2]オクタン(「DABCO」)触媒をGPI-300 Part Aウレタンプライマーと混合させた混合物を様々な厚さのガラスに塗布したときの影響を試験したものである。さらに、いくつかのサンプルは空気に露出させただけであり、いくつかのサンプルは硬化を速めるために加熱した。これらの試験の結果を、表1〜3及び図1に表またはグラフの形態で示した。
【0019】
表1〜3及び図1に示した結果から分かるように、DABCOを所定の量で使用した場合はクリープ減少においてある程度の有益な効果があるが、利用できる可能性のある別の触媒材料であるジブチルスズジラウレート(DBTDL)を使用した場合は、クリープ減少においてほとんどあるいは全く効果がない。一般的に、DABCOを0.05〜0.2gの量で追加することが好ましい。別の言い方をすれば、DABCOをプライマーに対して0.01〜0.5重量%の量で追加することが好ましい。表及び図のグラフに表した実験では、0.1及び0.2重量%のDABCOが使用されている。
【0020】
求核塩基触媒を使用することにより、クリープ率を通常は50%、場合によっては80%以上減少させることはできる。クリープ率を大幅に減少させることによりエラストマー性部材とそれがモールドされるガラス窓との間の所定位置での結合を失敗するリスクを最小限に抑えることができるので、製造メーカが車両アセンブリラインにおいて、製造後短時間しか経っていない窓モジュール式アセンブリを車両に取り付けることが可能となる。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
キー
失敗=60(bold)
薄いプライマー(<0.3ミル)はその後15分間空気乾燥させた。
サンプルをIR熱を用いて50℃(180°F)で「短時間硬化」させ、その後、成形した。
30分間冷却した。
クリープ試験は85℃で10分間行った。
【0026】
【表5】

【0027】
【表6】

【0028】
【表7】

【0029】
薄いプライマー(0.3ミル)はその後15分間空気乾燥させた。
サンプルをIR熱を用いて50℃(180°F)で「短時間硬化」させ、その後、成形した。
30分間冷却した。
クリープ試験は85℃で10分間行った。
【0030】
上述の説明を踏まえて本発明の変更及び修正が可能であることは、当業者であれば理解できるであろう。したがって、上述した以外の方法で実施される本発明も、特許請求の範囲に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー性部材のガラス基板への結合を速める方法であって、
少なくとも1つの主面を有するガラス基板を用意するステップと、
熱可塑性樹脂、有機シラン化合物及びイソシアン酸塩化合物を含む接着促進プライマーを用意するステップと、
前記プライマーに求核塩基触媒を混合するステップと、
前記プライマー及び前記求核塩基触媒の混合物を、前記ガラス基板の前記主面の少なくとも一部に塗布するステップと、
前記ガラス基板における前記混合物が塗布された領域に前記エラストマー性部材を配置し、前記エラストマー性部材を前記ガラス基板に結合させるステップとを含み、
前記接着されたエラストマー性部材のクリープ率を50%以上減少させたことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記プライマーに混合させる前記求核塩基触媒の量が、前記プライマーに対して0.01〜0.5重量%の量であることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、
前記プライマー及び前記求核塩基触媒の前記混合物を前記ガラス基板の前記主面に2〜40μm(0.1〜1.5ミル)の厚さで塗布するようにしたことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記ガラス基板が車両窓であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、
前記イソシアン酸塩化合物が、メチレンジフェニルイソシアネートを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、
前記求核塩基触媒が、1,4−ジアゾ−ビシクロ[2.2.2]オクタン、N−メチルモルホリン、テトラメチルブタンジアミン、及びビス(ジメチルアミノエチル)エーテルからなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、
前記求核塩基触媒が、1,4−ジアゾ−ビシクロ[2.2.2]オクタンからなることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、
前記エラストマー性部材が、反応射出成形法または射出成型法により成形されたガスケットであることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、
前記ガスケットが熱硬化性材料を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法であって、
前記ガスケットが熱可塑性材料を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項8に記載の方法であって、
前記ガスケットが二成分型ポリウレタンを含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項8に記載の方法であって、
前記ガスケットがポリ塩化ビニルを含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、
前記プライマー及び前記求核塩基触媒の前記混合物を50℃(120°F)以上まで加熱したことを特徴とする方法。
【請求項14】
車両用ガラスであって、
第1の主面、第2の主面及び周縁部を有するガラス基板
前記ガラス基板の前記第1の主面、前記第2の主面及び前記周縁部の少なくとも一部に配置されたエラストマー性部材とを含み、
前記エラストマー性部材を前記ガラス基板に、熱可塑性樹脂、有機シラン化合物及びイソシアン酸塩化合物を含む接着促進プライマーと求核塩基触媒との混合物によって接着結合させたことを特徴とする車両用ガラス。
【請求項15】
請求項19に記載の車両用ガラスであって、
前記プライマーに混合させる前記求核塩基触媒の量が、前記プライマーに対して0.01〜0.5重量%の量であることを特徴とする車両用ガラス。
【請求項16】
請求項19に記載の車両用ガラスであって、
前記プライマーと前記求核塩基触媒との前記混合物を、前記ガラス基板の前記主面に2〜40μm(0.1〜1.5ミル)の厚さで塗布したことを特徴とする方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−524682(P2012−524682A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507214(P2012−507214)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/001179
【国際公開番号】WO2010/123554
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(591229107)ピルキントン グループ リミテッド (82)
【Fターム(参考)】