説明

接近警報装置

【課題】 あらゆる保線現場で、クレーンのブーム先端が高圧架空線から常に一定の距離に接近したことを検知できるように対応し得る接近警報装置を提供する。
【解決手段】 高圧架空線40が発する電界を検知し、高圧架空線40からの距離に比例する電界強度をA/D変換した値を無線送信する充電検知器1と、充電検知器1から無線送信された電界強度のA/D変換値を受信する警報器21とからなり、警報器21は、充電検知器1を高圧架空線40から所望の距離に配置した時に受信したA/D変換値に基づいて警報開始を設定可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば作業用クレーンのブーム先端が高圧架空線に接近したことを報知することにより、そのブーム先端が高圧架空線に接触する事故を未然に防止する接近警報装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道の保線現場などで使用される重機、例えば大型の作業用クレーンを稼動させる場合、その保線現場付近に設置された高圧充電部である高圧架空線にクレーンのブーム先端が接触する事故が発生する可能性がある。この高圧架空線にクレーンのブーム先端が接触する事故を未然に防止するため、保線現場の重機誘導員がクレーンのブーム先端を常に監視し、その誘導員による監視の下、クレーンのブーム先端が高圧架空線に接近した場合、誘導員が警報を発することによりクレーンのオペレータに報知し、ブーム先端が高圧架空線に接触することを未然に防止するようにしていた。
【0003】
従来では、高圧架空線に対するクレーンのブーム先端の接触事故防止を保線現場の誘導員の監視に依存していたため、その誘導員の不注意などによる監視ミスが原因で接触事故が発生することがあり、人手による監視のみではブーム先端の接触事故を確実に防止することが困難であった。
【0004】
そのため、近年では、クレーンのブーム先端にセンサを取り付け、そのセンサによりクレーンのブーム先端が高圧架空線に接近したことを検知し、その検知信号に基づいて警報を自動的に発することによりクレーンのオペレータに報知する接近警報装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−199440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述した特許文献1に開示された接近警報装置では、クレーンのブーム先端が高圧架空線に接近したことを検知するセンサとして、高圧架空線が発する電界を検知し、高圧架空線からの距離に比例する電界強度に基づいて検知信号を出力するものが使用されている(特許文献1の段落番号[0047]参照)。
【0007】
ここで、前述した接近警報装置は、クレーンのブーム先端が高圧架空線から一定の距離に接近した時にセンサが検知信号を出力するものであり、つまり、高圧架空線からの距離に比例する電界強度が一定の値となった時にセンサが検知信号を出力するものである。この接近警報装置の感度を設定することにより、高圧架空線からどのくらいの距離まで接近した時点でセンサが検知信号を出力するかを決めることができる。
【0008】
しかしながら、高圧架空線からの距離に比例する電界強度は、保線現場の周囲状況、例えば高圧架空線付近に他の建築物や構造物があるか否かによってその保線現場ごとに異なるものである。そのため、ある保線現場で使用したクレーンを他の保線現場で使用しようとした場合、高圧架空線からの距離に比例する電界強度が異なることから、ある保線現場で使用した接近警報装置の感度のままで他の保線現場で使用すると、クレーンのブーム先端が高圧架空線から一定の距離に接近したことをセンサで検知することが困難となる。
【0009】
このことから、接近警報装置の感度を保線現場ごとに設定し直す必要があるが、クレーンのブーム先端に取り付けられたセンサを一旦取り外し、そのセンサを調整した後、再度、センサをクレーンのブーム先端に取り付け直さなければならない。この作業が非常に煩雑となることから、あらゆる保線現場で、クレーンのブーム先端が高圧架空線から一定の距離に接近したことをセンサで検知できるように対応することが困難となる。
【0010】
そこで、本発明は前述の問題点に鑑みて提案されたもので、その目的とするところは、あらゆる保線現場で、高圧架空線からの距離に比例する電界強度が異なっていても、クレーンのブーム先端が高圧架空線から常に一定の距離に接近したことを検知できるように対応し得る接近警報装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するための技術的手段として、本発明は、高圧充電部が発する電界を検知し、高圧充電部からの距離に比例する電界強度をA/D変換した値を無線送信する充電検知器と、充電検知器から無線送信された電界強度のA/D変換値を受信する警報器とからなり、警報器は、充電検知器を高圧充電部から所望の距離に配置した時に受信したA/D変換値に基づいて警報開始を設定可能としたことを特徴とする。
【0012】
本発明では、充電検知器から無線送信された電界強度のA/D変換値を受信する警報器が、充電検知器を高圧充電部から所望の距離に配置した時に受信したA/D変換値に基づいて警報開始を設定可能としたことにより、充電検知器側での調整を不要とし、あらゆる場所で、高圧充電部の電界強度が異なる場合であっても、高圧充電部から常に一定の距離に接近したことを検知できるように迅速に対応することができる。
【0013】
本発明における警報器は、充電検知器を高圧充電部から所望の距離に配置した時に受信したA/D変換値を設定スイッチによるワンタッチ操作で警報開始設定値として記憶する記憶部と、充電検知器から無線送信された任意のA/D変換値が警報開始設定値以上となった時点で警報信号を出力する判定部とを備えていることが望ましい。このようにすれば、接近警報装置の感度設定を警報器で簡単な構成および操作により行うことができる。
【0014】
本発明における高圧充電部は高圧架空線であり、かつ、充電検知器はクレーンのブーム先端に取り付けられていることが望ましい。このようにすれば、高圧充電部の電界強度が異なる場所であってもクレーンのブーム先端から充電検知器を取り外すことがなくなるので、煩雑な作業なしで接近警報装置の感度設定を警報器で容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、充電検知器から無線送信された電界強度のA/D変換値を受信する警報器が、充電検知器を高圧充電部から所望の距離に配置した時に受信したA/D変換値に基づいて警報開始を設定可能としたことにより、充電検知器側での調整を不要とし、あらゆる場所で、高圧充電部の電界強度が異なる場合であっても、高圧充電部から常に一定の距離に接近したことを検知できるように迅速に対応することができる。その結果、汎用性があり、信頼性の高い接近警報装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態で、接近警報装置を構成する充電検知器の回路ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態で、接近警報装置を構成する警報器の回路ブロック図である。
【図3】(a)は図1の充電検知器の外観を示す正面図、(b)は(a)の側面図、(c)は(a)の平面図、(d)は(a)の底面図である。
【図4】(a)は図2の警報器の外観を示す正面図、(b)は(a)の側面図、(c)は(a)の背面図、(d)は(a)の平面図である。
【図5】図1の充電検知器と図2の警報器の使用例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る接近警報装置の実施形態を以下に詳述する。なお、以下の実施形態では、高圧充電部である高圧架空線にクレーンのブーム先端が接触する事故を防止する接近警報装置として利用した場合、つまり、接近警報装置を構成する充電検知器を、例えば鉄道の保線現場に設置された大型クレーンのブーム先端に取り付けると共に、接近警報装置を構成する警報器を保線現場の重機誘導員が携帯する場合を例示する。
【0018】
図1は接近警報装置を構成する充電検知器1の回路構成を示し、図3(a)〜(d)はその充電検知器1の外観を示す。充電検知器1は、同図に示すように高圧架空線で発する電界を検知するための電極2をケース3に内蔵し、その高圧架空線からの距離に比例する電界強度を制御回路4でアナログ値からデジタル値へA/D変換し、そのA/D変換値を無線モジュール5で検知信号としてアンテナ6を介して送信する。これら制御回路4および無線モジュール5は電池7を駆動源とする電源回路8により電力が供給される。
【0019】
この充電検知器1のケース3の底面には、クレーンのブーム先端に取り付けるための落下防止フック取付金具9、取付バンド通し穴10およびマグネット11が設けられている。また、ケース3の前面には電源スイッチ12およびテストスイッチ13が配設され、ケース3の側面には電源ランプ14が設けられている。
【0020】
図2は接近警報装置を構成する警報器21の回路構成を示し、図4(a)〜(d)はその警報器21の外観を示す。警報器21は、同図に示すように前述の充電検知器1から無線送信された検知信号をアンテナ22を介して無線モジュール23で受信し、その受信された検知信号に基づいて制御回路24で警報ランプ28、ブザー30、接点端子29および振動モータ31による警報動作を制御すると共に7セグメント表示器32による電界強度のA/D変換値表示を制御する。これら無線モジュール23およびCPU24は電池25を駆動源とする電源回路26により電力が供給される。
【0021】
前述の制御回路24は、充電検知器1を高圧架空線40(図5参照)から一定の距離(警報開始距離)に配置した時に受信したA/D変換値を設定スイッチ35によるワンタッチ操作で警報開始設定値として記憶する記憶部38と、充電検知器1から無線送信された任意のA/D変換値が警報開始設定値以上となった時点で警報信号を出力する判定部39とを備えている。
【0022】
この警報手段としては、ケース27の前面に設けられたLEDの警報ランプ28、ケース27の背面に設けられた接点端子29、ケース27に内蔵されたブザー30および振動モータ31がある。また、表示手段としては、ケース27の前面に設けられた7セグメント表示器32がある。さらに、この警報器21のケース27の背面には、誘導員が携帯できるようにベルトクリップ33がケース27の背面に設けられている。また、ケース27の天面に電源スイッチ34、設定スイッチ35および表示スイッチ36が配設され、ケースの前面に電源ランプ37が設けられている。
【0023】
以上の構成からなる充電検知器1および警報器21の使用例を以下に詳述する。なお、前述したように接近警報装置は、図5に示す高圧架空線40にクレーンのブーム先端が接触する事故を防止することを目的とし、この実施形態では、例えば鉄道の保線現場に設置された大型クレーンのブーム先端(図示せず)に一つの充電検知器1を取り付けると共に、保線現場の重機誘導員およびクレーンのオペレータが警報器21を携帯する場合を例示する。
【0024】
まず、使用前の点検として、充電検知器1および警報器21の電源スイッチ12,34をオンすることによりそれぞれの電源ランプ14,37を点灯させ、充電検知器1のテストスイッチ13を押すことにより、そのテストスイッチ13を押す間だけ、警報器21が警報動作することを確認する。この警報動作としては、警報ランプ28の点滅、ブザー30の鳴動、振動モータ31によるバイブレーション、接点端子29からの出力がある。また、この時、警報器21の表示スイッチ36を押すことにより7セグメント表示器32にテスト数値が表示されることを確認する。
【0025】
この使用前の点検確認後、接近警報装置の感度設定を警報器21で行う。まず、充電検知器1をクレーンのブーム先端に取り付ける。この充電検知器1の取り付けは、ケース3の背面に設けられたマグネット11を利用して充電検知器1をブーム先端に吸着させることにより行われる。充電検知器1の取り付け部位がマグネット使用不可であれば、ケース3の背面に設けられた取付バンド通し穴10を利用してバンドで充電検知器1をブーム先端に締着すればよい。なお、必要に応じて、落下防止フック取付金具9を使用することも可能である。そして、充電検知器1の電源スイッチ12を押すことにより電源ランプ14が点灯していることを確認する。
【0026】
一方、警報器21を重機誘導員およびクレーンのオペレータが携帯する。この警報器21は、ケース27の背面に設けられたベルトクリップ33を利用することで携帯が可能となっている。そして、警報器21の電源スイッチ34を押すことにより電源ランプ37が点灯していることを確認する。この警報器21の表示スイッチ36を押すことにより7セグメント表示器32に数値を表示させる。
【0027】
この状態で接近警報装置の感度設定を開始する。つまり、クレーンのブーム先端を高圧架空線40から一定の距離(警報開始距離)だけ離隔した位置に移動させる。この時、ブーム先端に取り付けられた充電検知器1では、高圧架空線40が発する電界を電極2により検知し、その高圧架空線40からの距離に比例する電界強度を制御回路4でA/D変換し、その電界強度のA/D変換値を接近警報装置の警報開始設定値として無線モジュール5からアンテナ6を介して送信する。このようにして充電検知器1を高圧架空線40に接近させるにつれて電界強度のA/D変換値が大きくなり、警報器21の7セグメント表示器32に表示される数値も大きくなる。
【0028】
一方、誘導員およびオペレータが携帯する警報器21では、接近警報装置の警報開始設定値をアンテナ22を介して無線モジュール23で受信する。これにより、接近警報装置の感度を警報器21で設定する。つまり、クレーンのブーム先端を高圧架空線40から一定の距離だけ離隔した位置に配置した時の電界強度のA/D変換値が接近警報装置の警報開始設定値として7セグメント表示器32に表示される。
【0029】
この時点で、警報器21の設定スイッチ35を押すことによりその電界強度のA/D変換値を記憶部38に記憶させることにより接近警報装置の警報開始設定値として設定する。この警報器21では、設定スイッチ35によるワンタッチ操作で充電検知器1の感度設定が可能となっていることから、接近警報装置の感度設定が簡単な操作で行うことができる。
【0030】
この接近警報装置の感度設定後は、クレーン作業時、充電検知器1から無線送信された任意のA/D変換値と、記憶部38に予め格納された警報開始設定値とを判定部39で比較し、ブーム先端が高圧架空線40から一定の距離だけ離隔した位置に接近して任意のA/D変換値が警報開始設定値以上となった時点で判定部39が警報信号を出力し、警報器21が警報動作する。
【0031】
このように、接近警報装置の感度設定が誘導員およびオペレータが携帯する警報器21で簡単に行うことができることから、保線現場の周囲状況、例えば高圧架空線付近に他の建築物や構造物があるか否かによって、その保線現場ごとに高圧架空線40からの距離に比例する電界強度が異なる場合であっても、あらゆる保線現場で接近警報装置の感度を一定に維持することができる。
【0032】
従って、あらゆる保線現場で、クレーンのブーム先端が高圧架空線40から常に一定の距離だけ離隔した位置に接近した時点で警報器21を警報動作させることができるので、接近警報装置の信頼性を向上させることができると共に現場作業の安全性を確保することができる。また、充電検知器1側での感度設定が不要となることから、保線現場ごとに充電検知器1をクレーンのブーム先端から取り外して感度設定し直す必要がないので、現場作業を迅速に開始することができる。
【0033】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0034】
1 充電検知器
21 警報器
35 設定スイッチ
38 記憶部
39 判定部
40 高圧充電部(高圧架空線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧充電部が発する電界を検知し、前記高圧充電部からの距離に比例する電界強度をA/D変換した値を無線送信する充電検知器と、前記充電検知器から無線送信された電界強度のA/D変換値を受信する警報器とからなり、
前記警報器は、前記充電検知器を高圧充電部から所望の距離に配置した時に受信した前記A/D変換値に基づいて警報開始を設定可能としたことを特徴とする接近警報装置。
【請求項2】
前記警報器は、前記充電検知器を高圧充電部から所望の距離に配置した時に受信した前記A/D変換値を設定スイッチによるワンタッチ操作で警報開始設定値として記憶する記憶部と、前記充電検知器から無線送信された任意のA/D変換値が警報開始設定値以上となった時点で警報信号を出力する判定部とを備えた請求項1に記載の接近警報装置。
【請求項3】
前記高圧充電部は高圧架空線であり、かつ、前記充電検知器はクレーンのブーム先端に取り付けられている請求項1又は2に記載の接近警報装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−150471(P2011−150471A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10010(P2010−10010)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000214560)長谷川電機工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】