説明

搬送方法およびこの方法を実施する搬送手段の制御システム

【課題】天井走行クレーンによるパワーアシストを得て、作業者が望む方向へ望む速度で搬送物を移動させる搬送方法において、従来まで制御不可能であった搬送物の姿勢を制御することが可能な搬送物の搬送方法を提供する。
【解決手段】上端がワイヤロープの下端に連結されかつ張力検出手段を付設したロープと、上端がワイヤロープの下端に連結されかつ張力検出手段を付設した電動シリンダロープとによって構成された懸吊手段の下端間に、搬送物を装架させて接続して搬送物を吊り下げ、その後、搬送物に作用する操作力と搬送物の重量による負荷を張力検出手段によってそれぞれ検出し、これらの張力検出手段による検出値からヤコビ行列(JT )−1を用いて、 電動シリンダを収縮作動させるとともにサーボモータを同期化制御して搬送物の姿勢を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送方法およびこの方法を実施する搬送手段の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
少子高齢化に伴い産業現場では,労働者の高齢化,労働者の減少などの問題が生じている。また,多品種少量生産の観点から,完全自動化システムは柔軟性に乏しい問題がある。このような背景より近年,作業内容に対する柔軟性と多様性を持ち,作業負担を軽減可能なパワーアシストシステムの研究が盛んに行われている。
【0003】
そこで、本願発明の発明者らは直接荷物に触れ,少ない力で搬送を行うことのできるパワーアシストシステムを提案してきた。本パワーアシストシステムの特徴として,作業者が直接搬送物に触れるため,ペンダント方式と比べ位置決めなどの操作がしやすいことが挙げられる。また,制御対象である天井走行クレーンシステムが社会に数多く普及している点,共振を有する柔軟構造物である点も特徴である。水平方向のパワーアシストシステムでは,作業者が搬送物に直接力を加えた際に生じるロープの振れ角を零にする搬送制御方式を用いることで,水平方向の搬送を可能にした[非特許文献1]。また、垂直方向では,ロードセル(力センサ) により作業者の加えた力を検出することで,すでに搬送物が持ち上がった状態からのパワーアシストを行うことを可能にした[非特許文献2]。
【0004】
【非特許文献1】三好 孝典,鈴木 裕一,寺嶋 一彦,”天井クレーンにおけるパワーアシストシステムの構築”,日本機会学会論文集C編、vol.70-696、pp.2427,2004。
【非特許文献2】T. Miyoshi and K. Terashima, ”Development ofVerticalPower-Assisted Crane System to Reduce the Operators’Burden”, IEEE Int. Conf. on Systems, Man andCybernetics(SMC’04),2004, pp.4420-4425。
【0005】
しかし,このように構成された従来のシステムでは、天井走行クレーンを基に構築されたため,搬送物の姿勢を制御することは不可能であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので,その目的は,搬送物の姿勢を制御することが可能な搬送物の搬送方法およびこの方法を実施する搬送手段の制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の搬送物の搬送方法は、サーボモータの正逆回転駆動によるワイヤロープ巻揚げドラムの正逆回転によって巻上げ・巻下げされるワイヤロープにより上下方向へ昇降されまたは位置が維持され、かつ水平方向へ移動する天井走行クレーンによって水平方向へ移動される搬送物に、作業者が搬送物の移動方向を操作するとともに搬送物の姿勢を制御する操作力を加えながら、前記天井走行クレーンによるパワーアシストを得て、作業者が望む方向へ望む速度で当該搬送物を移動させる搬送方法であって、その上端が前記ワイヤロープの下端に連結されかつ張力検出手段を付設したロープと、その上端が前記ワイヤロープの下端に連結されかつ張力検出手段を付設した電動シリンダロープとによって構成された懸吊手段の下端間に、前記搬送物を装架させて接続して当該搬送物を吊り下げ、その後、前記搬送物に作用する前記操作力と搬送物の重量による負荷を前記張力検出手段によってそれぞれ検出し、これらの張力検出手段による検出値からヤコビ行列(JT )−1を用いて、 前記電動シリンダを収縮作動させるとともに前記サーボモータを同期化制御して前記搬送物の姿勢を制御することを特徴とする。
【0008】
請求項3の搬送手段の制御システムは、サーボモータの正逆回転駆動によるワイヤロープ巻揚げドラムの正逆回転によって巻上げ・巻下げされるワイヤロープにより上下方向へ昇降されまたは位置が維持され、かつ水平方向へ移動する天井走行クレーンによって水平方向へ移動される搬送物に、作業者が搬送物の移動方向を操作するとともに搬送物の姿勢を制御する操作力を加えながら、前記天井走行クレーンによるパワーアシストを得て、作業者が望む方向へ望む速度で当該搬送物を移動させる搬送システムであって、その上端が前記ワイヤロープの下端に連結されかつ張力検出手段を付設したロープと、その上端が前記ワイヤロープの下端に連結されかつ張力検出手段を付設した電動シリンダロープとによって構成される懸吊手段と、前記張力検出手段の検出値からヤコビ行列(JT )−1を用いて前記電動シリンダを収縮作動させるとともに前記サーボモータを同期化制御するコントローラと、を具備していて、前記搬送物に作用する前記操作力と搬送物の重量により前記懸吊手段に作用する負荷の大きさを前記張力検出手段によってそれぞれ検出し、これらの検出値からヤコビ行列(JT )−1を用いて検出結果に基づき前記コントローラにより、前記電動シリンダを収縮作動させるとともに前記サーボモータを同期化制御して前記搬送物の姿勢を制御するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
以上の説明から明らかなように本発明は、その上端がワイヤロープの下端に連結されかつ張力検出手段を付設したロープと、その上端がワイヤロープの下端に連結されかつ張力検出手段を付設した電動シリンダロープとによって構成された懸吊手段の下端間に、搬送物を装架させて接続して当該搬送物を吊り下げ、その後、搬送物に作用する操作力と搬送物の重量による負荷を張力検出手段によってそれぞれ検出し、これらの張力検出手段による検出値からヤコビ行列(JT )−1を用いて、 電動シリンダを収縮作動させるとともにサーボモータを同期化制御して搬送物の姿勢を制御するため、搬送物の姿勢を適確に制御することが可能になるなどの優れた実用的効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を適用した天井走行クレーンの台車に搭載されたワイヤロープ巻揚げドラムには、図1に示すように、このワイヤロープ巻揚げドラムを正逆回転駆動するサーボモータ1が装着してあり、ワイヤロープ巻揚げドラムによって巻上げ・巻下げされるワイヤロープ2の下端には、搬送物Wを懸吊する懸吊手段3が設けてあり、この懸吊手段3は、その上端がワイヤロープ2の下端に連結されたロープ4と、その上端がワイヤロープ2の下端に連結された電動シリンダ5とによって構成してある。そして、この懸吊手段3におけるロープ4および電動シリンダ5の下端間には、棒状の搬送物Wを両端で固着して装架した状態で取り付けてある。また、前記ロープ4および前記電動シリンダ5のそれぞれの下部にはロードセル6・7がそれぞれ装着してある。
【0011】
また、この懸吊手段3においては、図1の(b)に示すように、電動シリンダ5を伸縮作動して電動シリンダ5の長さL2 を制御することにより,搬送物Wの姿勢が水平面とで形成する角度θa [rad] を制御することが可能である。しかし、ロープ4が非伸縮性であるため、電動シリンダ5が伸縮作動すると、図1の(b)における搬送物Wの重心位置Za [m] も同時に移動する。そのため、本懸吊手段3では、段落[0022]に述べる制御方法により、搬送物Wの姿勢の角度θa および搬送物Wの重心位置Zaを独立に制御可能にしている。
【0012】
また、ロープ4および電動シリンダ5の長さと、搬送物Wの座標をそれぞれL = [L1 L2]T
,Xa = [Za θa] T のようにベクトルとして表す。またロープ4および電動シリンダ5にかかる張力を張力ベクトルτ= [τ1 τ2] T として表す。また,搬送物Wの重心に加わる垂直方向の力をfZ [N],搬送物Wに加わる回転力をfθ [Nm] とし,その力ベクトルをF = [fZ fθ]T とする。また、搬送物Wの長さを2L [m] とする。また、初期状態において、Lh =√(L12− L2 )である。
【0013】
搬送物Wの姿勢ベクトルXa からロープ4および電動シリンダ5の長さベクトルL を計算する問題は逆運動学となり,下記の(1) 式,(2) 式で表される。また,非伸縮性のロープ4が存在するため,搬送物Wの姿勢角度θa と搬送物Wの重心位置Za の間には(3) 式の拘束条件が生じる。
L1 = √[(Lh
Za + Lsinθa)2 + (Lcosθa)2 ] (1)
L2 = √[(Lh
Za−Lsinθa)2 + (Lcosθa)2 ] (2)
Za
=
√[L12− (Lcosθa)2]−Lh−Lsinθa (3)
【0014】
(1) 式,(2) 式を時間で微分することにより,ロープ4および電動シリンダ5の長さの変化の速度ベクトルL’(t) = [L1’(t) L2’ (t)] Tと、搬送物Wの姿勢の変化の速度ベクトルXa’(t) = [Za ’(t) θa ’(t)] T の関係式を、ヤコビ行列J を用いて(4) 式として得られる。
【0015】
【数1】

【0016】
また、本懸吊手段3ではロープ4が非伸縮性であるため,(4) 式においてロープ4の長さの変化の速度ベクトルL1’(t)
= 0 とすることにより、下記の(5) 式,(6) 式の関係が得られる。
Za ’(t) = A122’ (t) (5)
θa’(t) = A222’ (t) (6)
(5)式,(6) 式から、電動シリンダ5の伸縮作動によりその長さが伸縮すると、Za ’(t) とθa ’(t)が連動して動作することがわかる。
重力下において,1
本の電動シリンダ5のみを用いた場合は垂直方向のみの姿勢制御となるが,非伸縮性のロープ4を用いることにより選択可能な制御姿勢を増やすことが可能となる。
【0017】
次にパワーアシストシステムの構築について述べる。
搬送物Wの姿勢制御装置である懸吊手段3を用い,搬送物Wの姿勢の垂直方向,回転方向の2 自由度に対するパワーアシストシステムを構築する。このパワーアシストシステムは,工場内での組み付け作業などを想定しているため,制御対象である搬送物Wの形,重量はあらかじめ既知であることとする。そのため,制御の前提として,制御対象ごとにシステム同定が行われ,ヤコビ行列は算出可能とする。
【0018】
図2(a) に本発明を用いた搬送物Wの姿勢制御パワーアシストシステムのブロック線図を示す。図2(a) の破線部がコントローラであり,それ以外が実現象を表す。
図2(a)におけるプラントPa は懸吊手段3を示し,この出力としては、Za ’(t)、θa ’(t)および重力が搬送物Wに加わる際のロードセルの検知する力ベクトルτmgを考える。電動シリンダ5が伸縮作動してこの長さ速度 L2’ (t)が変化することにより、搬送物Wの速度ベクトルX’(t)
= [Za ’(t) θa ’(t)] Tが変化する。また,電動シリンダ5の伸縮作動によるこの長さの変化の速度 L2’ (t) の変化により,重力のみが搬送物Wに加わる際の力ベクトルFmg = [mg 0] T により,ロープ4および電動シリンダ5に生じる張力ベクトルτmg も変化する。そして、人が搬送物Wの中心に加える力ベクトルFh = [fzh fθh]
T により,ロープ4および電動シリンダ5にそれぞれ張力ベクトルτfh が生じる。この張力ベクトルτfhと重力により生じる張力ベクトルτmg を加算した値を,ロープ張力τ としてロードセル6・7のそれぞれは検出する。
【0019】
また,図2(a)におけるプラントPz
はサーボモータ1を示し,懸吊手段3はシリアルに結合され,その座標系を上下動させることが可能である。そのため,サーボモータ1の正逆回転駆動により懸吊手段3を上下動させると,作業座標系での搬送物Wの垂直方向速度Z ’(t) [m/s]は,サーボモータ1により生じる速度Z ’(t) [m/s] と、懸吊手段3により生じる速度 Za ’(t) [m/s] を足し合わせ,Z ’(t)=Z ’(t)+Za ’(t) となる。
【0020】
次に図2(a)における破線部のコントローラについて説明する。設計するシステムの仕様を以下のように定義する。
1. 人が加えた力ベクトルFh の各成分に沿った方向へのみパワーアシストを行う。
2. 人が加えた力ベクトルFhの各成分に比例した大きさの搬送物Wの速度ベクトルX’(t)を制御する。
仕様1.を実現することにより,操作者の意図する方向へのみ搬送物Wの姿勢制御を行うことができる。また,仕様2.は作業者の操作力と搬送物Wの姿勢の変化の速度が比例関係となることが,人間の直感に合致すると考え、設計した。本願発明の発明者らは、力に比例した搬送物Wの速度を用いることでパワーアシストを行っているため,組み合わせに適していることも理由である[非特許文献1][ 非特許文献2]。
【0021】
次に、パワーアシストシステムにおける張力補償,操作力の推定について説明する。
ロードセル6・7のそれぞれは、操作者の操作力と搬送物Wの重量によってロープ4および電動シリンダ5に生じる重力を,張力τ
として検出する。そのため,制御を行なうには張力τ から操作力Fh を推定する必要がある。そのため、ヤコビ行列(JT )−1
を用い、ロードセル6・7のそれぞれによる検出値τにより、Fh
Fmg を推定する。推定された値からFmgを差し引くことにより,操作力F h を検出する。この操作力F h の各成分を比例コントローラKz,Kθ への入力とし,その出力値を搬送物Wの姿勢の変化の速度指令値X’(t)= [Z ’(t) θ ’(t) ] T
とする。計算に用いるヤコビ行列(JT )−1 は,搬送物Wの姿勢と共に変化する。そのため,本コントローラでは電動シリンダ5の電動機のエンコーダから得られる電動シリンダ5の長さL2
[m] から,順運動学を用いてZa 、θa の算出を行い,ヤコビ行列(JT )−1を逐次更新する手法を用いる。図2(a) に示すA12、A22-1も同様に逐次更新を行う。
【0022】
次に軸同期化制御による2 自由度制御について説明する。
電動シリンダ5が伸縮作動してその長さL2
[m] が伸縮すると,(5) 式,(6) 式により、懸吊手段3により生じる速度Za
’(t)と、搬送物Wの回転速度θa ’(t)が連動して動作するため,搬送物Wを回転動作させようとする操作者にとっては懸吊手段3により生じる速度Za
’(t)が違和感となる。そのため、 (5) 式からA12 を用い, 電動シリンダ5の伸縮による違和感の原因であり,Z (上下)方向への干渉成分でもある懸吊手段3により生じる速度Za ’(t) を算出し,それを打ち消すようにサーボモータ1の同期化制御を行う。本制御手法を用いることにより,電動シリンダ5は搬送物Wの姿勢角度θa の制御に特化することが可能となり,制御系の非干渉化が実現され,仕様1.を満たす制御系となる。
【0023】
次に逆モデルを用いたフィードフォワード制御について説明する。
コントローラKθ から出力される搬送物Wの姿勢角速度指令値θ
’(t) [rad/s]に、搬送物Wの姿勢角速度θa ’(t) が追従することで仕様2.は満たされる。そのため,電動シリンダ5への指令として,搬送物Wの姿勢角速度指令値θ
’(t)にシステムの逆モデルとしてA22-1 を乗じたものを用いる。これらの制御系を用いることにより,システムがモデルと等しいとき,システムは図2(b) と書き換えられる。このシステムは2 入力2 出力の,非干渉化された独立したシステムとなる。
【0024】
次に構築したシステムの実装実験について説明する。実験で用いる搬送物は、重量m = 21 [kg],長さL =0.256 [m] とした。比例コントローラを用いKz = 0.002 [(m/s)/N],Kθ = 0.015
[(rad/s)/(Nm)] とし,操作力として10 [N] の重りを付加する実験を行った。搬送物の重心,ロープ4および電動シリンダ5の各下端に重りをそれぞれに付加し,結果を図3の(a),(b),(c) にそれぞれ示す。実験ではノイズを除去するため,推定された操作入力Fh に時定数0.1 [s] のローパスフィルタを用いた。また,シミュレーションでは,ロードセルを時定数0.3[s] の1 次系モデルとして用いた。
【0025】
実験における操作力fzh,fθh の推定値を黒色実線に示し,灰色破線にシミュレーション結果を示す。多少の誤差を含むものの,実験はシミュレーションと近い結果となり,操作力の方向と大きさを推定できている。また垂直方向速度では,回転方向操作時における干渉成分であるZa ’(t) を黒色破線,サーボモータ1により生じる速度Z ’(t) を灰色実線,作業座標上での搬送物の重心の垂直方向速度Z ’(t) を黒色実線,シミュレーション結果を灰色破線に示す。結果より,干渉成分であるZa ’(t) がZ ’(t) により打ち消されていることがわかる。それにより,定常状態において,推定された操作力fzh に比例した速度Z ’(t) で動作しているため,シミュレーション結果と同様の結果を得る。角速度θa ’(t) では実験結果を黒色実線に,シミュレーションを灰色は線で示す。角速度も同様に,推定されたfθh に比例した角速度θa ’(t)で制御されている。ただしfθh の推定値がシミュレーションと誤差を持っているため,角速度θa ’(t) にも誤差が生じている。原因として,今回考慮しなかったモデルの動的要素が影響を与えたと考えられる。
【0026】
同様の実験を重りの重量を変更して行い,定常速度Z ’(t) ,定常角速度θa ’(t) を計測した結果を図4(a) に,システム内で推定された操作力fθh、fz の結果を図4(b) にそれぞれ示す。図4 (b)の結果より,操作力fz は理論値に近い結果を得られたが,操作力fθh の推定結果は理論値との間に誤差が生じた。そのため,角速度の結果にも影響を及ぼしていることがわかる。しかし,角速度に誤差はあるものの,操作者の意図した方向へ,かつ操作入力に比例した速度,角速度による制御が行なわれていることが確認できる。
【0027】
なお、上記の実施例では電動シリンダ5は1個であるが、図5に示すように、電動シリンダ5を2本にするとともに、搬送物が非棒状のものであって、搬送物の重心がロープ4の下端と電動シリンダ5の下端をつなぐ直線上に存在しないときでも同様の効果が得られる(第2実施例)。
【0028】
すなわち、図5に厚みの存在する制御対象のモデル図を示す。2Ln [m] が搬送物高さ,2Lm [m] は搬送物の幅,2Lm [m]が搬送物対角線の距離であり,Lh [m] が初期位置における搬送物高取り付け位置から搬送物上部までの距離である。そしてZa [m] が重心の移動量,θa [rad] が搬送物の回転角度,θo [rad] が搬送物の対角線と水平線とがなす角度である。
逆運動学式は(21) 式,(22) 式となる。
L1 = √[{Lcos(θ0−θ)}2+{Lh+L+Za−Lsin(θ0−θ)}2] (21)
L2 = √[{Lcos(θ0+θ)}2+{Lh+L+Za−Lsin(θ0+θ)}2] (22)
【0029】
この逆運動学式を時間で微分すると,搬送物Wの姿勢の変化の速度ベクトルと、ロープ4および2本の電動シリンダ5の長さの変化の速度ベクトルの関係式を,ヤコビ行列を用いて(23)式として得る。
【0030】
【数2】

この式からヤコビ行列は算出可能であり,搬送物を棒状のものとして構築した上述のシステムをそのまま適用することが可能である.
【0031】
この第2の実施例では、回転姿勢1 自由度のみの制御を行なった。しかし,同様の理論展開を用いることで,ロール,ピッチの姿勢2 自由度までは用意に適応可能であると考える。そのため,図6に示すように,1本のロープ4と2本の電動シリンダ5を用い,サーボモータ1と同期させることで,Z 方向,ロール方向,ピッチ方向の姿勢制御について検討する(第3の実施例)。
【0032】
図6のG が搬送物の重心位置を表し,第2の搬送物の姿勢制御装置により動作する垂直方向移動量をZa
とし,サーボモータ1による移動量をZe とする。すると,この姿勢制御装置の座標系におけるロープ4および2本の電動シリンダ5・5の長さの変化の速度ベクトルL’(t)と、搬送物Wの姿勢の変化の速度ベクトルXa’(t)の関係式は(24) 式となる。
【0033】
【数3】

【0034】
そして,ロープ4
は非伸縮であるためL1’(t)= 0 となり,(25) 式,(26) 式,(27) 式を得る。
Za ’(t) =A12 2’ (t)+A13’(t) (25)
φ’(t) =A222’ (t)+A23 ’(t) (26)
θ’(t) =A322’ (t)+A33’(t) (27)
ここで(26) 式,(27) 式を(28) 式のように定義する。
【0035】
【数4】

【0036】
また,人の操作力により搬送物の重心にかかるロールφ,ピッチθ,垂直Z 方向への力をFh = [fzh fθh fzh] とする。このFh により搬送物の姿勢角速度指令値ベクトルXr を(29) 式のようにする。
【0037】
【数5】

【0038】
これらの数式から,第2の搬送物の姿勢制御装置で用いた制御方式を適応するとシステムのブロック線図は図7
で与えられる。ブロック線図において異なるところは,フィードフォワード入力の生成をJ2×2 を用いて行っているところであるが,実際に行っていることはロープ4を2本を用いたシステムと同じである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明を適用した第1実施例の模式図である。
【図2】本発明を適用した第1実施例のブロック図である。
【図3】本発明を適用した第1実施例の実験結果を(過剰応答)示すグラフである。
【図4】本発明を適用した第1実施例の実験結果を(定常状態)示すグラフである。
【図5】本発明を適用した第2実施例の模式図である。
【図6】本発明を適用した第3実施例の模式図である。
【図7】本発明を適用した第3実施例のブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータの正逆回転駆動によるワイヤロープ巻揚げドラムの正逆回転によって巻上げ・巻下げされるワイヤロープにより上下方向へ昇降されまたは位置が維持され、かつ水平方向へ移動する天井走行クレーンによって水平方向へ移動される搬送物に、作業者が搬送物の移動方向を操作するとともに搬送物の姿勢を制御する操作力を加えながら、前記天井走行クレーンによるパワーアシストを得て、作業者が望む方向へ望む速度で当該搬送物を移動させる搬送方法であって、
その上端が前記ワイヤロープの下端に連結されかつ張力検出手段を付設したロープと、その上端が前記ワイヤロープの下端に連結されかつ張力検出手段を付設した電動シリンダロープとによって構成された懸吊手段の下端間に、前記搬送物を装架させて接続して当該搬送物を吊り下げ、その後、前記搬送物に作用する前記操作力と搬送物の重量による負荷を前記張力検出手段によってそれぞれ検出し、これらの張力検出手段による検出値からヤコビ行列(JT )−1を用いて、 前記電動シリンダを収縮作動させるとともに前記サーボモータを同期化制御して前記搬送物の姿勢を制御することを特徴とする搬送物の搬送方法。
【請求項2】
請求項1に記載の搬送物の搬送方法において、
前記懸吊手段における前記電動シリンダを2本にしたことを特徴とする搬送物の搬送方法。
【請求項3】
サーボモータの正逆回転駆動によるワイヤロープ巻揚げドラムの正逆回転によって巻上げ・巻下げされるワイヤロープにより上下方向へ昇降されまたは位置が維持され、かつ水平方向へ移動する天井走行クレーンによって水平方向へ移動される搬送物に、作業者が搬送物の移動方向を操作するとともに搬送物の姿勢を制御する操作力を加えながら、前記天井走行クレーンによるパワーアシストを得て、作業者が望む方向へ望む速度で当該搬送物を移動させる搬送システムであって、
その上端が前記ワイヤロープの下端に連結されかつ張力検出手段を付設したロープと、その上端が前記ワイヤロープの下端に連結されかつ張力検出手段を付設した電動シリンダロープとによって構成される懸吊手段と、
前記張力検出手段の検出値からヤコビ行列(JT )−1を用いて前記電動シリンダを収縮作動させるとともに前記サーボモータを同期化制御するコントローラと、
を具備していて、
前記搬送物に作用する前記操作力と搬送物の重量により前記懸吊手段に作用する負荷の大きさを前記張力検出手段によってそれぞれ検出し、これらの検出値からヤコビ行列(JT )−1を用いて検出結果に基づき前記コントローラにより、前記電動シリンダを収縮作動させるとともに前記サーボモータを同期化制御して前記搬送物の姿勢を制御するようにしたことを特徴とする搬送手段の制御システム。
【請求項4】
請求項3に記載の搬送手段の制御システムにおいて、
前記懸吊手段における前記電動シリンダを2本にしたことを特徴とする搬送手段の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−273682(P2008−273682A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118339(P2007−118339)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】