説明

搬送波位相式測位装置

【課題】測位側が移動している場合であっても高精度な測位を実現できる搬送波位相式測位装置の提供。
【解決手段】移動局及び既知点で衛星信号を受信して取得する衛星データに基づいて移動局の位置を測位する搬送波位相式測位装置34であって、移動局30及び既知点20で受信した衛星信号の搬送波位相の積算値の1重又は2重位相差を観測量とし、移動局の位置と搬送波位相の積算値に含まれる整数値バイアスの1重又は2重位相差とを状態変数とするシステムモデルに、移動局の移動履歴から該移動局の現時刻の状態を予測する移動体モデルを導入して、複数エポックでの衛星データに基づいて前記状態変数を推定して測位を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星信号の搬送波位相の積算値を測定して移動局の測位を行う搬送波位相式測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、測量の分野では、搬送波位相によるGPS測量が広く利用されている。この搬送波位相によるGPS測量では、基準側の受信機と測位側の受信機とが、複数の衛星から送られる衛星信号を同時に受信し、基準側と測位側とで各衛星信号の搬送波位相の積算値をそれぞれ独立に算出する。この搬送波位相の積算値(以下、単に「位相積算値」という)には、搬送波の波長の整数倍に相当する不確定な要素(以下、「整数値バイアス」という)が含まれているが、この整数値バイアスは、時計誤差等とは異なり、位相積算値の一重位相差や二重位相差を取ることによっても消去することができない。このため、GPS測量の分野において、位相積算値の三重位相差を取ることで不確定要素である整数値バイアスを消去することや、整数値バイアスそのものを求める技術が提案されている。
【0003】
ここで、整数値バイアスを確定する技術として、カルマンフィルタを用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術では、測位側の位置と整数値バイアスを状態変数とし、基準側に対する測位側の位相積算値の一重位相差を観測量として、観測を重ねる毎に前記状態変数を更新する追尾フィルタが構成される。また、整数値バイアスを確定するその他の技術として、整数値バイアスを含んだ搬送波の二重位相差を用いて、最小二乗法により所定の条件で二重位相差の整数値バイアスを求める技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−77228号公報
【特許文献2】特開2003−98245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の各従来技術は、測位側が長時間固定されていることを前提とした測量の分野での技術であるため、測位側が移動し得る技術分野(例えば、移動局の位置を測位する分野)では適用できない(即ち、整数値バイアスを高精度に確定できない)という、問題点がある。
【0005】
そこで、本発明は、測位側が移動している場合であっても高精度な測位を実現できる搬送波位相式測位装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一局面によれば、移動局及び既知点で衛星信号を受信して取得する衛星データに基づいて移動局の測位を行う搬送波位相式測位装置であって、
移動局及び既知点で受信した衛星信号の搬送波位相の積算値の1重又は2重位相差を観測量とし、移動局の位置と搬送波位相の積算値に含まれる整数値バイアスの1重又は2重位相差とを状態変数とするシステムモデルに、移動局の移動履歴から該移動局の現時刻の状態を推定する移動体モデルを導入して、複数エポックでの衛星データに基づいて前記状態変数を推定して測位を行うこと特徴とする、搬送波位相式測位装置が提供される。
【0007】
本局面において、前記移動局の移動履歴は、移動局の位置、速度、加速度及び加加速度の少なくとも何れかに関わるものであってよい。前記移動体モデルは、移動局の速度及び加速度の少なくとも何れかを1次のマルコフ過程と仮定して構築されるものであってよい。前記状態変数の推定は、カルマンフィルタ又は最小二乗法若しくはその類の最小二乗原理の適用により実行されるものであってよい。
【0008】
また、本発明の一局面によれば、移動局の位置を状態変数とすると共に、移動局の速度、加速度及び加加速度の少なくとも何れか1つを状態変数とし、移動局と既知点で観測される衛星信号の搬送波位相の積算値を観測データとするシステムモデルを用いて、搬送波位相の積算値に含まれる整数値バイアスを推定し、該推定した整数値バイアスを用いて移動局の位置を測位することを特徴とする、搬送波位相式測位装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、測位側が移動している場合であっても高精度な測位を実現できる搬送波位相式測位装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0011】
図1は、本発明に係る搬送波位相式測位システムの構成図である。図1に示すように、GPS測位システムは、地球周りを周回するGPS衛星10と、地球上の所定位置(既知点)に設置される固定型の基準局20と、地球上に位置し地球上を移動しうる移動局30とから構成される。
【0012】
GPS衛星10は、航法メッセージを地球に向けて常時放送する。航法メッセージには、対応するGPS衛星10に関する軌道情報、時計の補正値、電離層の補正係数が含まれている。航法メッセージは、C/Aコードにより拡散されL1搬送波(周波数:1575.42MHz)に乗せられて、地球に向けて常時放送されている。
【0013】
尚、現在、24個のGPS衛星10が高度約20,000kmの上空で地球を一周しており、各4個のGPS衛星10が55度ずつ傾いた6つの地球周回軌道面に均等に配置されている。従って、天空が開けている場所であれば、地球上のどの場所にいても、常時、少なくとも5個以上のGPS衛星10が観測可能である。
【0014】
図2は、図1の搬送波位相式GPS測位システムのより詳細な構成図である。移動局30は、GPS受信機32を備える。GPS受信機32内には、その周波数がGPS衛星10の搬送周波数と一致する発振器(図示せず)が内蔵されている。GPS受信機32は、GPSアンテナ32aを介してGPS衛星10から受信した電波(衛星信号)を中間周波数に変換後、GPS受信機32内で発生させたC/Aコードを用いてC/Aコード同期を行い、航法メッセージを取り出す。
【0015】
また、GPS受信機32は、各GPS衛星10iからの搬送波に基づいて、搬送波位相の位相積算値Φiuを計測する。尚、位相積算値Φiuについて、添え字i(=1,2,・・・)は、各GPS衛星10iに割り当てられた番号を示し、添え字uは移動局30側での積算値であることを示す。位相積算値Φiuは、次式に示すように、搬送波受信時刻tでの発振器の位相Θiu(t)と、GPS衛星10iでの衛星信号発生時の搬送波位相Θiu(t−τ)との差として得られる。
Φiu(t)=Θiu(t)−Θiu(t−τu)+Niu+εiu(t) 式(1)
ここで、τuは、GPS衛星10からGPS受信機32までのトラベル時間を示し、εiuは、ノイズ(誤差)を表わす。尚、位相差の観測開始時点では、GPS受信機32は、搬送波位相の1波長以内の位相を正確に測定できるが、それが何波長目に相当するかを確定できない。このため、位相積算値Φiu(t)には、上式に示すように、不確定な要素として整数値バイアスNiuが導入される。
【0016】
移動局30は、また、携帯電話等の通信機33を備える。通信機33は、後述する如く、基準局20側の携帯電話基地局等のような通信施設23と双方向通信を行うように構成されている。
【0017】
基準局20は、GPSアンテナ22aを備えるGPS受信機22を有する。GPS受信機22は、移動局30のGPS受信機32と同様に、各GPS衛星10iからの搬送波に基づいて、次式に示すように、搬送波受信時刻tにおける搬送波位相の積算値Φik(t)を計測する。
Φik(t)=Θik(t)−Θik(t−τk)+Nik+εik(t) 式(2)
尚、Nikは、整数値バイアスを示し、εikは、ノイズ(誤差)を表わす。尚、位相積算値Φikについて、添え字kは基準局20側での積算値であることを示す。基準局20は、計測した位相積算値Φikを通信施設23を介して移動局30に送信する。尚、基準局20は、所定領域に複数設置されている。各基準局20と通信施設23(複数も可)とは、図2に示すように、インターネット等のネットワークを介して接続されてよく、若しくは、各基準局20毎に通信施設23が設けられてもよい。前者の構成では、移動局30は、通信施設23との間で通信可能な状態である限り、各基準局20が受信した情報を得ることができる。
【0018】
図3は、移動局30に搭載される本発明による搬送波位相式測位装置34(以下、「測位装置34」という)の一実施例を示す機能ブロック図である。本実施例の測位装置34は、演算器40を中心に構成され、演算器40には、上述のGPS受信機32及び通信機33に接続されている。演算器40には、更に、移動局30に搭載される各種センサ50が接続される。尚、演算器40は、GPS受信機32に内蔵されるものであってもよい。また、移動局30が車両の場合、GPS受信機32及び演算器40及び/又は通信機33は、ナビゲーション装置内に実装されてよい。
【0019】
演算器40は、マイクロコンピューターから構成されてよく、図3に示すように、衛星位置算出部42と、整数値バイアス推定部48とを含む。
【0020】
衛星位置算出部42は、GPS受信機32が受信した航法メッセージの軌道情報に基づいて、観測可能な各GPS衛星10iの、時刻tにおけるワールド座標系での位置(Xi(t)、Yi(t)、Zi(t))を計算する。尚、GPS衛星10は、人工衛星の1つであるので、その運動は、地球重心を含む一定面内(軌道面)に限定される。また、GPS衛星10の軌道は地球重心を1つの焦点とする楕円運動であり、ケプラーの方程式を逐次数値計算することで、軌道面上でのGPS衛星10の位置が計算できる。また、搬送波受信時刻tでの各GPS衛星10iの位置(Xi(t)、Yi(t)、Zi(t))は、GPS衛星10の軌道面とワールド座標系の赤道面が回転関係にあることを考慮して、軌道面上でのGPS衛星10の位置を3次元的な回転座標変換することで得られる。尚、ワールド座標系とは、図4に示すように、地球重心を原点として、赤道面内で互いに直交するX軸及びY軸、並びに、この両軸に直交するZ軸により定義される。
【0021】
整数値バイアス推定部48では、各GPS衛星10iに係る観測データ(特に、移動局30が通信機33を介して受信する基準局20側の位相積算値Φik、及び、移動局30側の位相積算値Φiu)に基づいて整数値バイアスが推定される。以下、その手順を説明する。
【0022】
時刻tにおける2つのGPS衛星10j、10h(i=j、h、但し、j≠h)に関する位相積算値の2重位相差は、次式となる。
Φjhku=(Φjk(t)−Φju(t))−(Φhk(t)−Φhu(t)) 式(7)
一方、位相積算値の2重位相差Φjhkuは、(GPS衛星10iとGPS受信機22若しくは32との距離)=(搬送波の波長L)×(位相積算値)という物理的な意味合いから、次のようになる。
【0023】
【数1】

ここで、式(8)における[Xk(t)、Yk(t)、Zk(t)]は、時刻tにおける基準局20のワールド座標系における座標値(既知)であり、[Xu(t)、Yu(t)、Zu(t)]は、時刻tにおける移動局30の座標値(未知)であり、[Xj(t)、Yj(t)、Zj(t)]及び[Xh(t)、Yh(t)、Zh(t)]は、時刻tにおける各GPS衛星10j、10hの座標値(衛星位置算出部42により算出)である。Njhkuは、整数値バイアスの2重位相差である(即ち、Njhku=(Njk−Nju)−(Nhk−Nhu))。尚、時刻tは、例えばGPS時刻で同期が取られているものとする。
【0024】
整数値バイアス推定部48では、次の状態方程式が設定される。
η(i+1)=F・η(i)+u(i) 式(9)
ここで、η(i)は、観測周期i(=1,2...)での状態変数を表わし、移動局30の位置[Xu(i)、Yu(i)、Zu(i)]、移動局30の速度[Vx(i)、Vy(i)、Vz(i)]及び、nz個のGPS衛星101〜nzが観測可能な場合の整数値バイアスの2重位相差であり、η=[Xu、Yu、Zu、Vx、Vy、Vz、N11ku、N12ku、...、N1nzkuである(は転置を表す)。また、uは、外乱(システム雑音:正規性白色雑音)である。
【0025】
この状態方程式には、移動局30の移動履歴から該移動局30の現時刻の状態を予測する移動体モデルに基づくものとなっている。ここでは、移動局30の速度vを一次のマルコフ過程と仮定すると、速度に関する状態方程式を、次のように表すことができる。
【0026】
【数2】

但し、αは時定数の逆数である。この仮定より、移動局30の状態方程式は、
【0027】
【数3】

と表現でき、これを離散化すると上記の式(9)を得る。
【0028】
式(9)において、
【0029】
【数4】

である。
【0030】
また、システム雑音u(i)の共分散行列は、
【0031】
【数5】

となる。但し、
【0032】
【数6】

であり、σは、移動局30の速度の分散であり、例えばSingerモデルにおける確率分布により導出してもよい。
【0033】
整数値バイアス推定部48では、次の観測方程式が採用される。
Z(i)=H(i)・η(i)+V(i) 式(10)
を用いて、ここで、Z及びVは、それぞれ、観測量及び観測ノイズ(正規性白色雑音)を示す。式(10)の観測量Zは、位相積算値の2重位相差(上記式(7)参照)である。上記式(9)の状態方程式は線形であるが、観測量Zは、状態変数Xu、Yu及びZuに関して非線形であるため、式(8)の各項が状態変数Xu、Yu及びZuのそれぞれで偏微分され、式(10)の観測行列Hが求められる。
【0034】
【数7】

但し、状態変数η=[Xu、Yu、Zu、N11ku、N12ku、...、N1nzku、Vx、Vy、Vz]とし、数8のHは、状態変数η=[Xu、Yu、Zu、N11ku、N12ku、...、N1nzkuとした場合の観測行列である。従って、数8のHは、観測行列Hに、状態変数η=[Vx、Vy、Vz]に対応するゼロ行列を横長に加えたものとなっている。
【0035】
上記式(9)の状態方程式及び上記式(10)の観測方程式にカルマンフィルタを適用すると、以下の式が得られる。
時間更新として、
η(i)(−)=η(i−1)(+) 式(11)
P(i)(−)=P(i−1)(+)+Q(i−1) 式(12)
また、観測更新として、
K(i)=P(i)(−)・H(i)・(H(i)・P(i)(−)・H(i)+R(i))−1 式(13)
η(i)(+)=η(i)(−)+K(i)・(Z(i)−H(i)・η(i)(−)) 式(14)
P(i)(+)=P(i)(−)−K(i)・H(i)・P(i)(−) 式(15)
ここで、Q,Rは、外乱uの共分散行列及び観測ノイズVの共分散行列をそれぞれ表わす。尚、上記式(11)及び式(14)がフィルタ方程式、上記式(13)がフィルタゲイン、上記式(12)及び式(15)が共分散方程式となる。また、上付き文字で示す(−)及び(+)は、更新前後を示す。
【0036】
図5は、本実施例の測位装置34により実行される主要処理を示すフローチャートである。図5に示す処理ルーチンは、GPS受信機22,32による位相積算値の演算周期毎(観測周期毎)に実行される。
【0037】
先ずステップ100において、衛星情報(各GPS衛星10の位置情報、各GPS衛星10に対する基準局20側の位相積算値、及び、各GPS衛星10に対する移動局30側の位相積算値)が観測周期毎に取得される。
【0038】
初回の観測周期i(=1)に対しては、ステップ110及び120の処理が実行される。即ち、ステップ110では、コード2重位相差による初期位置算出処理が実行される。具体的には、衛星信号に含まれるC/AコードやPコードのようなPRNコード(擬似雑音符号)に基づいて基準局20側及び移動局30側の双方で計測される擬似距離ρk、ρuの2重位相差を観測量として、最小二乗法若しくはカルマンフィルタを用いて、移動局30の位置[Xu(i)、Yu(i)、Zu(i)]を推定する。また、ステップ120では、この推定値[Xu(i)、Yu(i)、Zu(i)]に基づいて初期バイアス値(=整数値バイアスの2重位相差の初期値)が推定される。これら推定値は、比較的大きな誤差を含みうるので、専ら状態変数の初期値ηとして、解の収束を早めるために利用されるものであってよい。
【0039】
初回より後の観測周期i(>1)に対しては、ステップ130の処理が観測周期毎に繰り返し実行され、複数の観測周期で得た衛星情報に基づいて、上述の移動体モデルを導入したカルマンフィルタにより状態変数が導出(推定)されていく。即ち、ステップ130では、観測周期毎に上記式(11)乃至式(15)により時間・観測更新が行われ、前回周期の各共分散及び状態変数の推定値を引き継ぎながら測位算出が実行される。
【0040】
ステップ140では、測位解を算出・出力する処理が実行される。上記ステップ130から得られる整数値バイアスの推定値は、実数解として求められる。しかし、整数値バイアスは、実際には整数値であるので、求めた実数解に対して最も近い整数解(即ち、波数)を求める。この手法としては、整数値バイアスの無相関化をはかり、整数解の探索空間を狭めて解を特定するLA
MBDA法等が使用されてよい。また、GPS受信機22、32が、GPS衛星10から発射されるL1波及びL2波の双方を受信可能な2周波受信機である場合には、L1波及びL2波のそれぞれに対して上述と同様の推定を同時・並列的に実行し、双方の周期の和(ワイドレーン)を作成して整数値バイアスの整数解の候補を絞り込んでもよい。また、衛星信号に乗せられるC/AコードやPコード若しくはその類のPRNコード(擬似雑音符号)を用いて導出される擬似距離の1重又は2重位相差を上述の状態変数に組み込んでもよい。
【0041】
このようにして整数値バイアスの整数解が確定されると、以後、サイクルスリップが生じない限り、移動局30の位置は、当該整数値バイアスの整数解を用いた測位により高精度に算出できる。
【0042】
以上のとおり、本実施例によれば、移動局30が移動しながらでも状態変数(測位、整数値バイアス)の算出が可能であり、また、移動局30の過去の移動状態から現在時刻の移動状態を予測する移動体モデルをカルマンフィルタに導入することで、移動局30の移動に起因したモデル推定誤差が減少し(推定誤差のバイアスを取り除くことができ)、状態変数の算出精度が向上する。また、フィードフォワード的にモデル誤差を消去できるので状態変数(測位、整数値バイアス)の算出精度が向上すると共に、測位開始までの時間を短縮できる。
【0043】
尚、上述の本実施例では、移動局30の速度vを一次のマルコフ過程と仮定して移動体モデルを構成しているが、例えば、移動局30の加速度を一次のマルコフ過程と仮定して移動体モデルを構成してもよい。即ち、移動体モデルは、位置、速度、加速度、加加速度(加速度の微分値)のような移動局30の移動状態を表すことができる任意のパラメータを用いて構成されてよい。
【0044】
図6は、本実施例による測位装置34により実現される高い測位精度を実証する試験データである。図6(A)は、本実施例のアルゴリズムが適用された構成(移動体モデルをカルマンフィルタに導入する構成)による測位結果を緯度・経度で示している。図6(B)は、対照として、移動体モデルをカルマンフィルタに導入しない構成による測位結果を示している。
【0045】
移動体モデルをカルマンフィルタに導入しない場合には、図6(B)に示すように、移動体30(車両)がカーブ等を走行する際に、当該移動の大きな変化に追従できず、解の誤差が大きいのに対して、本実施例のアルゴリズムが適用された場合、図6(A)に示すように、良好な精度の解が求めることが可能となっている。
【0046】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0047】
例えば、上述した実施例では、上記式(9)の状態方程式及び上記式(10)の観測方程式にカルマンフィルタを適用するものであったが、本発明は、最小二乗法やベイズ法等の他の推定手法を適用する構成に対しても適用可能である。
【0048】
また、上述した実施例において、上記式(10)の観測方程式に、移動局30の速度vに関する観測量が導入されてもよい。この場合、例えば、衛星信号(電波)のドップラシフトの計算結果に基づいて、移動局30の速度vが観測されてもよく、また、擬似距離の距離変化(擬似距離変化率)の観測結果に基づいて、移動局30の速度vが観測されてもよい。また、移動局30が車両の場合、車速センサ、ヨーレートセンサなどの車載センサの検出値が協働的に用いられてもよい。
【0049】
また、上述した実施例において、上記式(9)の状態方程式に状態変数として移動局30の速度vを入れず、上記式(11)の状態変数[Xu(i)、Yu(i)、Zu(i)]の時間更新する際に、上述のような移動体モデルに基づく動的状態量が考慮されてもよい。
【0050】
また、上述した実施例では、上述の如く2重位相差を取ることでGPS受信機22,32内での発振器の初期位相、及び、時計誤差等の影響を消去しているが、GPS衛星10の初期位相及びGPS時計誤差のみを消去できる一重位相差を取る構成や、位相差を一切取らない構成であってもよい。また、本実施例では、電離層屈折効果、対流圏屈折効果及びマルチパスの影響を無視しているが、これらを考慮するものであってもよい。
【0051】
また、上述の説明では、便宜上、GPS衛星10を参照衛星としている場合があるが、移動局30と基準局20の位置等に依存して、他のGPS衛星10(=2,3・・・)が参照衛星となりえる。
【0052】
また、上述の説明では、移動局30の例として車両を挙げたが、移動局30は、受信機32及び/又は演算器40が実装されたホークリフト、ロボットや、受信機32及び/又は演算器40を内蔵する携帯電話等の情報端末を含む。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る搬送波位相式GPS測位システムの構成図である。
【図2】図1の搬送波位相式GPS測位システムのより詳細な構成図である。
【図3】移動局30に搭載される本発明による測位装置34の一実施例を示す機能ブロック図である。
【図4】ワールド座標系とローカル座標系との関係、及び、ローカル座標系とボディ座標との関係を示す図である。
【図5】本実施例の測位装置34により実現される処理のフローチャートである。
【図6】本実施例による測位装置34により実現される高い測位精度を実証する試験データである。
【符号の説明】
【0054】
10 GPS衛星
20 基準局
22 基準局側GPS受信機
30 移動局
32 移動局側GPS受信機
34 搬送波位相式測位装置
40 演算器
42 衛星位置算出部
48 整数値バイアス推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動局及び既知点で衛星信号を受信して取得する衛星データに基づいて移動局の測位を行う搬送波位相式測位装置であって、
移動局及び既知点で受信した衛星信号の搬送波位相の積算値の1重又は2重位相差を観測量とし、移動局の位置と搬送波位相の積算値に含まれる整数値バイアスの1重又は2重位相差とを状態変数とするシステムモデルに、移動局の移動履歴から該移動局の現時刻の状態を予測する移動体モデルを導入して、複数エポックでの衛星データに基づいて前記状態変数を推定して測位を行うこと特徴とする、搬送波位相式測位装置。
【請求項2】
前記移動局の移動履歴は、移動局の位置、速度、加速度及び加加速度の少なくとも何れかに関わる、請求項1に記載の搬送波位相式測位装置。
【請求項3】
前記移動体モデルは、移動局の速度及び加速度の少なくとも何れかを1次のマルコフ過程と仮定して構築される、請求項1に記載の搬送波位相式測位装置。
【請求項4】
前記状態変数の推定は、カルマンフィルタ又は最小二乗法若しくはその類の最小二乗原理の適用により実行される、請求項1に記載の搬送波位相式測位装置。
【請求項5】
移動局の位置を状態変数とすると共に、移動局の速度、加速度及び加加速度の少なくとも何れか1つを状態変数とし、移動局と既知点で観測される衛星信号の搬送波位相の積算値を観測データとするシステムモデルを用いて、搬送波位相の積算値に含まれる整数値バイアスを推定し、該推定した整数値バイアスを用いて移動局の位置を測位することを特徴とする、搬送波位相式測位装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−39690(P2008−39690A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−217314(P2006−217314)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】