説明

摩擦係合装置

【課題】ピストンの先端部が櫛歯状に形成されているものであっても、摩擦材における面圧分布の均等化を図ることが可能な摩擦係合装置を提供する。
【解決手段】摩擦板部20において軸方向の端部に位置するピストン側外摩擦板21Aと、ピストン11の櫛歯状の先端部11cとの間に、スプライン2sにスプライン嵌合するように配置されると共に、摩擦材22aの径方向の中央位置に対向する位置でピストン側外摩擦板21Aに向けて突出する円環状の凸部23aを有する押圧力側均等化プレート23を配設する。ピストン11の先端部11cにより外摩擦板21及び内摩擦板22を押圧する押圧力が、押圧力側均等化プレート23の凸部23aを介して伝達されるので、摩擦材22aにおける面圧分布が均等化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動変速機やハイブリッド駆動装置等の車両用駆動装置に用いられるクラッチやブレーキなどの摩擦係合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両等に搭載される自動変速機(モータと自動変速機とを組合せたハイブリッド駆動装置における自動変速機も含む)には、変速機構の回転状態(回転伝達経路)を変更するためのクラッチやブレーキが備えられている。このようなクラッチやブレーキとしては、複数の外摩擦板及び内摩擦板を軸方向に交互に有し、それら摩擦板をピストンによって押圧することで係合させる、いわゆる多板式のクラッチやブレーキが多く用いられている。
【0003】
このような多板式クラッチや多板式ブレーキにおいて、例えばピストンにより上記摩擦板を押圧する位置が、摩擦板に貼付けられた摩擦材の中央付近からずれると、摩擦板の傾斜や変形に起因して、偏荷重を生じて摩擦材に均等な面圧を付与することができず、摩擦熱の生じる箇所に偏りが生じてしまうという問題がある。そこで、ピストン部材の先端部分に摩擦板の径方向の中央部を押圧する凸部を設けることで、摩擦材における面圧分布の均等化を図ったものが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−151205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のものにあっては、ピストンの摩擦板を押圧する先端部分が円環状となっており、つまり上記凸部により全周に亘って摩擦板を均一に押圧することが想定されている。しかしながら、ピストンの先端部には、例えばコンパクト化のためにリターンスプリングを周方向に重なる位置に配置した場合、回転センサを貫通配置した場合、オイルのドレーン孔を形成する場合、或いは軽量化する場合などのために、切欠を設けることがあり、つまりピストンの先端部が櫛歯状に形成されているものがある。
【0006】
このようにピストンの先端部が櫛歯状に形成されている場合は、ピストンの先端部に上記特許文献1のような凸部を採用したとしても、該凸部が全周に亘って存在しないため、摩擦板に対して周方向に均一な面圧を付与することはできず、摩擦熱の生じる箇所に偏りが生じてしまうという問題がある。
【0007】
そこで本発明は、ピストンの先端部が櫛歯状に形成されているものであっても、摩擦材における面圧分布の均等化を図ることが可能な摩擦係合装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は(例えば図1乃至図3参照)、内外周にて互いに対向配置されると共に軸方向(例えばX1−X2方向)に形成された第1スプライン(2s)及び第2スプライン(3s)をそれぞれ有し、少なくとも一方が回転可能に配置されて互いに相対回転し得る第1部材(2)及び第2部材(3)と、
前記第1スプライン(2s)にスプライン嵌合する複数の第1プレート(21)と、
前記複数の第1プレート(21)の軸方向の間に該第1プレート(21)と交互となるように配置され、前記第2スプライン(3s)にスプライン嵌合する複数の第2プレート(22)と、
前記第1プレート(21)と前記第2プレート(22)との少なくとも一方の側面に環状に配設されて固着され、前記第1プレート(21)と前記第2プレート(22)とを摩擦係合し得る摩擦材(22a)と、
前記複数の第1プレート(21)のうちの軸方向一方側(例えばX1方向側)端部の第1プレート(21A)に向けて延設された先端部(11c)が部分的に切欠かれて櫛歯状に形成されたピストン(11)を有し、該ピストン(11)を軸方向に移動駆動させることで、前記第1プレート(21)と前記第2プレート(22)とを摩擦係合させる油圧サーボ(10)と、を備えた摩擦係合装置(1)において、
前記軸方向一方側端部の第1プレート(21A)と前記ピストン(11)との軸方向の間に、前記第1スプライン(2s)にスプライン嵌合するように配置されると共に、前記摩擦材(22a)の径方向の中央位置に対向する位置で前記軸方向一方側端部の第1プレート(21A)に向けて突出する円環状の凸部(23a)を有する第3プレート(23)を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は(例えば図1参照)、前記複数の第1プレート(21)のうちの軸方向他方側(例えばX2方向側)端部の第1プレート(21C)の軸方向他方側への移動を規制するためのスナップリング(25)と、
前記軸方向他方側端部の第1プレート(21C)と前記スナップリング(25)との軸方向の間に、前記第1スプライン(2s)にスプライン嵌合するように配置されると共に、前記第3プレート(23)の凸部(23a)と径方向の同じ位置で前記軸方向他方側端部の第1プレート(21C)に向けて突出する円環状の凸部(24a)を有する第4プレート(24)と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明は(例えば図1参照)、前記軸方向一方側端部の第1プレート(21A)と前記軸方向他方側端部の第1プレート(21C)とは、他の第1プレート(21B)よりも軸方向の厚みが厚く形成されていることを特徴とする。
【0011】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る本発明によると、ピストンの先端部が櫛歯状に形成されているが、該ピストンの先端部により第1プレート及び第2プレートを押圧する押圧力が、第3プレートの凸部を介して伝達されるので、摩擦材における面圧分布を均等化することができる。これにより、局部的な摩擦熱の発生を防止することができて、摩擦熱の発生を均等化することができ、摩擦材の耐久性向上を図ることができる。
【0013】
請求項2に係る本発明によると、ピストンの先端部により第1プレート及び第2プレートを押圧する際に、スナップリングを介して受ける反力が、第4プレートの凸部を介して第1プレート及び第2プレートに伝達されるので、軸方向他方側端部の第1プレートが傾斜することを防止することができると共に、第3プレートの凸部と第4プレートの凸部とで摩擦材の中央部分を軸方向両側から挟む形となって、摩擦材における面圧分布をより均等化することができる。
【0014】
請求項3に係る本発明によると、軸方向一方側端部の第1プレートと軸方向他方側端部の第1プレートとが、他の第1プレートよりも軸方向の厚みが厚く形成されているので、第3プレートの凸部と第4プレートの凸部とで軸方向両側から挟む形となっても、それら軸方向一方側端部の第1プレートと軸方向他方側端部の第1プレートとにおいて径方向の中央が凹むような変形の防止を図ることができ、それにより、平滑な面状で摩擦材を加圧することができ、摩擦材における面圧分布をより均等化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施の形態に係るブレーキ装置を備えた自動変速機を示す一部省略断面図。
【図2】ピストンを示す正面図。
【図3】押圧力側均等化プレートを示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態を図1乃至図3に沿って説明する。本実施の形態に係る車両用駆動装置は、例えば、図示を省略したエンジンにクラッチを介して接続される入力軸を有するFF(フロントエンジン・フロントドライブ)タイプの多段式の自動変速機100と、該自動変速機100の入力軸に駆動連結されたモータ・ジェネレータ(不図示)とを備えて構成された、いわゆる1モータ型のハイブリッド駆動装置からなる。
【0017】
自動変速機100は、図1に示すように、ミッションケース(第1部材)2内において、図示を省略した中心軸上に配置されたラビニヨ型プラネタリギヤユニットを有しており、そのプラネタリギヤユニットの外周側に、該プラネタリギヤユニットの例えば共通キャリヤ(不図示)に接続されたハブ部材(第2部材)3の回転を該ミッションケース2に対して係止し得るブレーキ装置(摩擦係合装置)1が配置されている。なお、ブレーキ装置1は、例えば前進1速段や後進段でラビニヨ型プラネタリギヤユニットの共通キャリヤを係止するブレーキB−2からなる。
【0018】
本ブレーキ装置1は、大まかに、複数の外摩擦板(第1プレート)21と複数の内摩擦板(第2プレート)22とを有する摩擦板部20と、該摩擦板部20を詳しくは後述するピストン11によって軸方向に押圧する油圧サーボ10と、を備えて構成されている。上記外摩擦板21は、ミッションケース2の内周面において軸方向(X1−X2方向)に向けてスプライン歯が形成されたスプライン(第1スプライン)2sにスプライン嵌合しており、上記内摩擦板22は、ハブ部材3の外周面において軸方向(X1−X2方向)に向けてスプライン歯が形成されたスプライン(第2スプライン)3sにスプライン嵌合している。
【0019】
つまりスプライン2sとスプライン3sとは、内外周にて互いに対向配置されており、それら両スプライン2s,3sの径方向の間に外摩擦板21と内摩擦板22とが配置されていることになる。なお、スプライン3sを有するハブ部材3は、上記共通キャリヤに接続されて回転可能に配置されており、ミッションケース2とハブ部材3は、互い相対回転し得る関係となる。
【0020】
上記外摩擦板21及び内摩擦板22は、軸方向において、後述するピストン11と、ミッションケース2のスプライン2sに固定されたスナップリング25との間に、スプライン2s及びスプライン3sのスプライン歯に沿って軸方向に摺動自在に配置されている。
【0021】
このうちの外摩擦板21は、軸方向におけるピストン11側(X1方向側)の端部のピストン側外摩擦板(軸方向一方側端部の第1プレート)21Aと、軸方向におけるスナップリング25側(X2方向側)の端部のスナップリング側外摩擦板(軸方向他方側端部の第1プレート)21Cと、それらの軸方向の間に配置された複数の外摩擦板21Bと、からなる。このうちのスナップリング側外摩擦板21Cは、後述する反力側均等化プレート24を介してスナップリング25によって、軸方向のX2方向側(他方側)への移動が規制されている。また、ピストン側外摩擦板21Aとスナップリング側外摩擦板21Cとは、それらの間に配置された外摩擦板21Bよりも厚みが厚く形成されている。なお、本明細書中において、これらピストン側外摩擦板21A、スナップリング側外摩擦板21C、外摩擦板21Bを区別しない場合は、単に外摩擦板21という。
【0022】
また、複数の内摩擦板22は、それら内摩擦板22よりも1枚多い外摩擦板21の軸方向の間にそれぞれ配置されており、つまり外摩擦板21と交互となるように配置されている。それら内摩擦板22の両側の側面には、外摩擦板21と対向する部分に、例えば多数の摩擦パットをセグメント貼りすることで構成される摩擦材22aが環状(軸方向視でドーナッツ状)に配設される形で貼付けられて固着されており、この摩擦材22aにより、後述のピストン11によってスナップリング25との間で押圧(挟持)された際に、外摩擦板21と内摩擦板22とがスリップないし摩擦係合される。
【0023】
一方、上記油圧サーボ10は、ミッションケース2の内周面に形成されたシリンダ部2aと、該シリンダ部2aに軸方向摺動自在に嵌合されて配置されたピストン11と、それらシリンダ部2aとピストン11との間に形成された作動油室12と、ピストン11をシリンダ部2a側に付勢するリターンスプリング13と、上記スプライン2sにスプライン嵌合すると共に該リターンスプリング13のX2方向側の端部を位置決め支持するリテーナ14と、該スプライン2sに固定されて該リテーナ14の軸方向位置を規制するスナップリング15と、を備えて構成されている。
【0024】
上記ピストン11は、大まかに、上記シリンダ部2aに嵌合する嵌合部11aと、該嵌合部11aの外周側にドラム状に延設されたドラム部11bと、該ドラム部11bから上記摩擦板部20へ向けて延設された先端部11cとを有して構成されている。
【0025】
該ドラム部11bのX2方向側であって先端部11cの付根となる部分には、図1及び図2に示すように、複数のスプリング設置部11sが形成されている。それらスプリング設置部11sは、それぞれ、上記リターンスプリング13の内径に嵌合して該リターンスプリング13の軸方向の伸縮を案内する円柱状の突起部11dと、該リターンスプリング13のX1方向の端部が当接する当接面11eとを有しており、該当接面11eの外周側には、上記ミッションケース2のスプライン2sのスプライン溝に摺動自在に嵌合する嵌合部11fが形成されている。即ち、該嵌合部11fがスプライン2sにスプライン嵌合することで、ピストン11はミッションケース2に対して回り止めされている。また、ピストン11のドラム部11bには、1箇所の貫通孔11gが形成されており、該貫通孔11gには、図示を省略した内部の回転部材の回転速度を検出する回転数センサ30が挿入されて配置されている。
【0026】
このように、ピストン11にあって、スプリング設置部11sや貫通孔11gが形成される部分は、図1に示すように、先端部11cと同径上に配置されているため、図2に示すように、その部分が複数の切欠部11nとして切欠かれている。つまり先端部11cは、周方向において切欠部11nと交互に配置されることで、周方向不均一な位置に配置されて、周方向に部分的に切欠かれた櫛歯状となるように形成されている。
【0027】
そして、図1及び図3に示すように、上記ピストン11の先端部11cと上記ピストン側外摩擦板21Aとの軸方向の間には、外周側に突出形成された複数の爪部23bが上記ミッションケース2のスプライン2sにスプライン嵌合された押圧力側均等化プレート(第3プレート)23が配置されている。該押圧力側均等化プレート23は、中空円環状(軸方向視でドーナッツ状)からなり、ピストン11側の側面は平滑な平面に形成されている。また、該押圧力側均等化プレート23のピストン側外摩擦板21A側には、上記摩擦材22aの径方向の中央位置(つまり摩擦材22aの内径端と外径端との中央)に対向する位置に、該ピストン側外摩擦板21Aに向けて突出する円環状の凸部23aが形成されている。
【0028】
また、図1に示すように、上記スナップリング25と上記スナップリング側外摩擦板21Cとの軸方向の間には、上記押圧力側均等化プレート23と略々同形状に形成され(図3参照)、外周側に突出形成された複数の爪部(不図示)が上記ミッションケース2のスプライン2sにスプライン嵌合された反力側均等化プレート(第4プレート)24が配置されている。該反力側均等化プレート24も、同様に、中空円環状(軸方向視でドーナッツ状)からなり、スナップリング25側の側面は平滑な平面に形成されている。そして、該反力側均等化プレート24のスナップリング側外摩擦板21C側には、上記摩擦材22aの径方向の中央位置(つまり摩擦材22aの内径端と外径端との中央)に対向する位置、つまり上記押圧力側均等化プレート23の凸部と径方向の同じ位置に、該スナップリング側外摩擦板21Cに向けて突出する円環状の凸部24aが形成されている。
【0029】
つづいて、本ブレーキ装置1の動作について説明する。例えば不図示の制御部において例えば前進1速段や後進段などの所定変速段が判断されると、図示を省略した油圧制御装置から作動油室12に係合圧が徐々に上昇するように供給される。
【0030】
すると、ピストン11は、作動油室12の係合圧に基づきリターンスプリング13の付勢力に抗してX2方向側に移動駆動していき、該ピストン11の先端部11cが押圧力側均等化プレート23を介してピストン側外摩擦板21AをX2方向側に押圧していく。そして、各外摩擦板21と各内摩擦板22との軸方向の隙間が無くなるようにガタ詰めされると、摩擦材22aによって外摩擦板21と内摩擦板22との摩擦係合が開始される。
【0031】
この際、ピストン11の先端部11cが櫛歯状に形成されているため、押圧力側均等化プレート23を周方向の不均等な位置で押圧していくが、中空円環状の押圧力側均等化プレート23によって周方向均等に押圧力が分散され、更に押圧力側均等化プレート23の環状の凸部23aによって、ピストン側外摩擦板21Aにおける摩擦材22aの径方向の中心位置が全周に亘って押圧される。
【0032】
このように、該凸部23aによって摩擦材22aに対する径方向の中心が押圧されたピストン側外摩擦板21Aは、上述のように他の外摩擦板21Bよりも厚さが厚いため、該凸部23aに押圧された部分が凹むように変形することはない。更に、外周側や内周側が押された場合は傾斜することもあるが、該凸部23aによって内外径の略々中央が押されるため傾斜することもない。これにより、ピストン側外摩擦板21Aは、軸方向のX2方向側に向けて略々平行移動する形で、摩擦材22aに均一な面圧分布を付与する。
【0033】
一方、上記スナップリング側外摩擦板21Cは、スナップリング25によって軸方向のX2方向側への移動が規制されることで、つまりピストン11からの押圧力の反力をスナップリング25より受圧することになる。スナップリング25は、スプライン2sに嵌合する製造過程で、内径側に径を縮めるように変形させてから嵌合させるために、軸方向視でCの字状に形成されていると共に、内径側に変形させるために径方向の幅(内径と外径との幅)がある程度小さく形成されている。そのため、例えば反力側均等化プレート24が介在していない場合、スナップリング側外摩擦板21Cは、特に外径側だけが支持されて、内径側がX2方向に傾斜する虞がある。
【0034】
しかしながら、本ブレーキ装置1では、反力側均等化プレート24の環状の凸部24aによって、スナップリング側外摩擦板21Cにおける径方向の略々中心位置が反力によって押圧される。また、スナップリング側外摩擦板21Cは、上述のように他の外摩擦板21Bよりも厚さが厚いため、該凸部24aに押圧された部分が凹むように変形することなはない。これにより、スナップリング側外摩擦板21Cも、軸方向に対して略々平行な位置が維持されて、摩擦材22aに反力に基づく均一な面圧分布を付与する。
【0035】
従って、ピストン11の櫛歯状の先端部11cによって押圧された摩擦板部20においては、押圧力側均等化プレート23の環状の凸部23a及び反力側均等化プレート24の環状の凸部24aによって、ピストン側外摩擦板21Aとスナップリング側外摩擦板21Cとの平行状態が維持される形で、軸方向の両側から、各摩擦材22aに押圧力及び反力を均一な面圧分布で付与することになる。これにより、各摩擦材22aにおける発熱が均一化され、局部的に発熱が集中することを防止することが可能となる。
【0036】
その後、作動油室12に供給される係合圧が高くされ、ピストン11の先端部11cによる摩擦板部20の押圧力が増されると、外摩擦板21と内摩擦板22とがスリップ状態から係合状態(ブレーキB−2の係止状態)になり、摩擦材22aにおける相対回転が無くなって、発熱量も低下することになる。
【0037】
以上説明したように本ブレーキ装置1によると、ピストン11の先端部11cが櫛歯状に形成されているが、該ピストン11の先端部11cにより外摩擦板21及び内摩擦板22を押圧する押圧力が、押圧力側均等化プレート23の凸部23aを介して伝達されるので、摩擦材22aにおける面圧分布を均等化することができる。これにより、局部的な摩擦熱の発生を防止することができ、摩擦熱の発生を均等化することができて、摩擦材22aの耐久性向上を図ることができる。
【0038】
また、ピストン11の先端部11cにより外摩擦板21及び内摩擦板22を押圧する際に、スナップリング25を介して受ける反力が、反力側均等化プレート24の凸部24aを介して外摩擦板21及び内摩擦板22に伝達されるので、スナップリング側外摩擦板21Cが傾斜することを防止することができると共に、押圧力側均等化プレート23の凸部23aと反力側均等化プレート24の凸部24aとで摩擦材22aの中央部分を軸方向両側から挟む形となって、摩擦材22aにおける面圧分布をより均等化することができる。
【0039】
更に、ピストン側外摩擦板21Aとスナップリング側外摩擦板21Cとが、外摩擦板21Bよりも軸方向の厚みが厚く形成されているので、押圧力側均等化プレート23の凸部23aと反力側均等化プレート24の凸部24aとで軸方向両側から挟む形となっても、それらピストン側外摩擦板21Aとスナップリング側外摩擦板21Cとにおいて径方向の中央が凹むような変形の防止を図ることができ、それにより、平滑な面状で摩擦材を加圧することができ、摩擦材22aにおける面圧分布をより均等化することができる。
【0040】
なお、以上説明した本実施の形態においては、摩擦係合装置の一例としてブレーキ装置1を説明したが、勿論、第1部材と第2部材とが互いに相対回転するようなクラッチ装置であってもよい。
【0041】
また、本実施の形態においては、両端のプレートを有する第1プレートを外摩擦板、それらの間に介在する第2プレートを内摩擦板としたものを説明したが、反対に、両端のプレートを有する第1プレートを内摩擦板、それらの間に介在する第2プレートを外摩擦板としてもよい。その場合は、第3プレートや第4プレートが内周側のスプラインにスプライン嵌合する方が相対回転を生じないので好ましい。
【0042】
また、本実施の形態においては、車両用駆動装置として自動変速機100を有するFF(フロントエンジン・フロントドライブ)タイプのハイブリッド駆動装置を一例に説明したが、これに限らず、多板式のクラッチ装置やブレーキ装置を備えるものであれば、どのような変速機や駆動装置であっても本発明を適用し得る。
【0043】
また、本実施の形態においては、ピストン側外摩擦板21Aとスナップリング側外摩擦板21Cとを外摩擦板21Bよりも軸方向の厚みが厚く形成したものを説明したが、ピストン側外摩擦板21Aやスナップリング側外摩擦板21Cを高剛性の部材で形成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 摩擦係合装置(ブレーキ装置)
2 第1部材(ミッションケース)
2s 第1スプライン
3 第2部材(ハブ部材)
3s 第2スプライン
10 油圧サーボ
11 ピストン
11c 先端部
21A 軸方向一方側端部の第1プレート(ピストン側外摩擦板)
21B 他の第1プレート(外摩擦板)
21C 軸方向他方側端部の第1プレート(スナップリング側外摩擦板)
22 第2プレート(内摩擦板)
22a 摩擦材
23 第3プレート(押圧力側均等化プレート)
23a 凸部
24 第4プレート(反力側均等化プレート)
24a 凸部
25 スナップリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外周にて互いに対向配置されると共に軸方向に形成された第1スプライン及び第2スプラインをそれぞれ有し、少なくとも一方が回転可能に配置されて互いに相対回転し得る第1部材及び第2部材と、
前記第1スプラインにスプライン嵌合する複数の第1プレートと、
前記複数の第1プレートの軸方向の間に該第1プレートと交互となるように配置され、前記第2スプラインにスプライン嵌合する複数の第2プレートと、
前記第1プレートと前記第2プレートとの少なくとも一方の側面に環状に配設されて固着され、前記第1プレートと前記第2プレートとを摩擦係合し得る摩擦材と、
前記複数の第1プレートのうちの軸方向一方側端部の第1プレートに向けて延設された先端部が部分的に切欠かれて櫛歯状に形成されたピストンを有し、該ピストンを軸方向に移動駆動させることで、前記第1プレートと前記第2プレートとを摩擦係合させる油圧サーボと、を備えた摩擦係合装置において、
前記軸方向一方側端部の第1プレートと前記ピストンとの軸方向の間に、前記第1スプラインにスプライン嵌合するように配置されると共に、前記摩擦材の径方向の中央位置に対向する位置で前記軸方向一方側端部の第1プレートに向けて突出する円環状の凸部を有する第3プレートを備えた、
ことを特徴とする摩擦係合装置。
【請求項2】
前記複数の第1プレートのうちの軸方向他方側端部の第1プレートの軸方向他方側への移動を規制するためのスナップリングと、
前記軸方向他方側端部の第1プレートと前記スナップリングとの軸方向の間に、前記第1スプラインにスプライン嵌合するように配置されると共に、前記第3プレートの凸部と径方向の同じ位置で前記軸方向他方側端部の第1プレートに向けて突出する円環状の凸部を有する第4プレートと、を備えた、
ことを特徴とする請求項1記載の摩擦係合装置。
【請求項3】
前記軸方向一方側端部の第1プレートと前記軸方向他方側端部の第1プレートとは、他の第1プレートよりも軸方向の厚みが厚く形成されている、
ことを特徴とする請求項2記載の摩擦係合装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−177435(P2012−177435A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40764(P2011−40764)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】