摩擦振動抑制方法およびそれを用いた機械装置
【課題】 2つの部材、たとえば、駆動部と従動部とが摺動することにより生ずる摩擦振動を抑制する方法と装置を提供する。
【解決手段】摺動して相対運動する駆動部110と従動部120の摺動部130に発生する摩擦により励起される振動である摩擦振動について、「駆動部110の駆動面の駆動方向」と「従動部120の支持部が変形する方向」に、駆動部110の駆動方向と従動部120の変形方向とがなす角度として、φ≠0である駆動角度φ、好ましくは、臨界駆動角度φc以上の角度を与えるような「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を設ける。臨界駆動角度φcは駆動部110と従動部120の相対速度Vrelおよびこの相対速度Vrelをパラメータとする摩擦係数μ(Vrel)によって規定される。
【解決手段】摺動して相対運動する駆動部110と従動部120の摺動部130に発生する摩擦により励起される振動である摩擦振動について、「駆動部110の駆動面の駆動方向」と「従動部120の支持部が変形する方向」に、駆動部110の駆動方向と従動部120の変形方向とがなす角度として、φ≠0である駆動角度φ、好ましくは、臨界駆動角度φc以上の角度を与えるような「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を設ける。臨界駆動角度φcは駆動部110と従動部120の相対速度Vrelおよびこの相対速度Vrelをパラメータとする摩擦係数μ(Vrel)によって規定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械装置の摺動部に発生する摩擦振動を抑制する方法と、その方法を利用した機械装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一方が外部復元力を受ける状態で、相対運動する2つの部材が接することにより、その摺動部における摩擦により振動が励起される。
そのような摺動部に発生する摩擦振動は、摩擦係数の相対速度依存性が負を示すシステムに発生する自励振動と理解されている(たとえば、非特許文献1を参照)。
【0003】
そのような摩擦振動は、たとえば、車両のブレーキ装置(制動装置)の「鳴き」などに代表される騒音を発生することもある。
このように、上記摩擦振動は、上記例示に限らず、種々の装置における振動または騒音を発生させる。
【0004】
かかる摩擦振動を抑制する方法としては下記に例示する種々対策が取られ、また検討されている。
対策1、摩擦振動を減衰または吸収する減衰器を機械装置に取り付けて、摩擦振動を受動的に抑制する。
対策2、摩擦振動を打ち消す機能を有するアクチュエータ(駆動装置)を機械装置に取り付けて、摩擦振動を能動的に抑制する。
対策3、機械装置に摩擦振動を発生させない摺動材料(摺動部材)を用いる。または、摩擦振動を低減する潤滑剤を用いる。
しかしながら、上記例示した対策はそれぞれ下記に述べる課題に遭遇する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】田所千治、中野健、「微小動荷重制御による摩擦振動抑制法」、2 005年11月15日発行、「トライボロジスト」、社団法人日本トライボロジー学 会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記対策1は、減衰器を機械装置に取り付ける場所の確保が難しい場合がある。また上記対策1は、減衰器を取り付けることができたとしても機械装置の構成を複雑にする。上記対策1は、さらに、場合によっては減衰器を取り付けることにより機械装置の信頼性を低下させる可能性がある。
【0007】
上記対策2は、対策1と同様、アクチュエータを機械装置に取り付ける場所の確保が難しい場合がある。また上記対策2は、アクチュエータを有効に動作させるためには、摩擦振動を検出するセンサ(振動検出器)とそのセンサの計測結果に基づいてアクチュエータを駆動する制御装置がさらに必要となり、機械装置の構成を複雑にする。さらに上記対策2は、場合によっては、アクチュエータ、センサなどを取り付けることで機械装置の信頼性を低下させる可能性がある。
【0008】
上記対策3は、新規に摺動材料および/または潤滑剤を開発する必要があり、それらを適用すると機械装置の価絡が高騰する可能性がある。また上記対策3は、そのような摺動材料および/または潤滑剤を用いた場合の機械装置全体の信頼性が維持できるか否かの考察がさらに必要になる。
【0009】
以上から摩擦振動を効果的に抑制可能な方法が望まれている。
たとえば、機械装置に、減衰器、アクチュエータなどの外部装置を追加したり、摩擦振動などの発生しない摺動材料および/または潤滑剤を用いたりすることなく、2つの相対運動する部材の摺動部による摩擦振動および/またはそれに付随する騒音を効果的に抑制可能な方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の発明者は、相対運動する2つの部材の摺動部に発生する摩擦により励起される振動である摩擦振動(すなわち、摩擦係数の相対速度依存性が負を示すシステムに発生する自励振動)について、「摩擦は相対速度を減ずる方向に作用する」という物理法則に基づき、摺動部の横滑りが生み出す擬似的な粘性減衰効果を利用して摩擦振動を抑制する手法を見出した。
すなわち、本発明に係る摩擦振動の抑制方法は、
移動対向面と摩擦をしながら外部復元力により摩擦振動を行う物体にあって、物体の振動方向と前記移動対向面の移動方向とが所定角度範囲内で交差するように設定し、それにより摩擦振動を抑制する構成としている。
また、本発明に係る摩擦振動の抑制方法は、
摺動部における摩擦係数の相対速度依存性が負を示すことにより自励摩擦振動を生じる1自由度振動系システムにおいて、摺動部の摺動方向に対して横滑りを起こして、正の疑似的粘性減衰効果を生じさせることにより、自励摩擦振動を抑制する構成としている。
以上の構成を有する摩擦振動の抑制方法によれば、摺動部における摩擦係数の相対速度依存性が負を示す1自由度振動系システムは、仮想的に負の粘性減衰力を生じることから、1自由度の方向に自励摩擦振動を生じるところ、たとえば、摺動部の一方の面の運動方向と他方の面の運動方向とを所定角度で交差させることにより、摺動部の摺動方向に対して横滑りを引き起こし、それにより正の疑似的粘性減衰効果を生じさせることにより、負の粘性減衰効果を打消し、以て自励摩擦振動を抑制することが可能である。
【0011】
本発明の摩擦振動抑制方法は、摺動して相対運動する第1部材と第2部材において、前記摺動方向と、前記第1部材もしくは前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を構成し、前記第1部材と前記第2部材の摺動により発生する摩擦振動を抑制するものである。
さらに、本発明は摩擦振動に起因する騒音を抑制することができる。
【0012】
上記「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を構成する別の手段として、摺動して相対運動する第1部材と第2部材において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、該摺動方向と、前記第1部材との摩擦によって前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を構成することができる。これにより、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第2部材に発生する摩擦振動を抑制することが可能となる。
【0013】
上記「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を構成する更なる手段として、摺動して相対運動する第1部材と第2部材において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、該摺動方向と、前記第2部材との摩擦によって前記第1部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を構成することができる。これにより、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第1部材に発生する摩擦振動を抑制することが可能となる。
【0014】
上記「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を設けるための所定の駆動角度φとしては、φ≠0(φ>0)であれば良いが、少なくとも臨界駆動角度φc以上で90度以下(φc≦φ≦90度)であることが好ましい。
臨界駆動角度φcは、たとえば、式(8)を参照して後述するように、第1部材と第2部材の摺動面に摩擦振動が発生していない場合の第1、第2部材の相対速度(駆動速度)と当該駆動速度を変数とする摩擦係数によって規定される。
上記駆動角度を、臨界駆動角度以上とした場合、完全に摩擦振動を抑制することができる。
他方、実用的観点から、振動をある程度抑制することで十分な場合には、上記駆動角度として、臨界駆動角度φcに近似する所定の範囲の角度、たとえば、臨界駆動角度φcの80〜90%程度の角度以上に設定することができる。
摩擦振動抑制方法の原理は後述する。
【0015】
本発明の機械装置は、上記摩擦振動抑制方法を適用して、摺動して相対運動する第1部材と第2部材を備えた機械装置において、前記摺動方向と、前記第1部材もしくは前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現し、前記第1部材と前記第2部材の摺動により発生する摩擦振動を抑制するものである。
さらに本発明は摩擦振動を抑制した結果として摩擦振動に起因する騒音を抑制する。
【0016】
また、本発明の機械装置は、摺動して相対運動する第1部材と第2部材を備えた機械装置において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、該摺動方向と、前記第1部材との摩擦によって前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現し、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第2部材に発生する摩擦振動を抑制するものである。
【0017】
さらに、本発明の機械装置は、摺動して相対運動する第1部材と第2部材を備えた機械装置において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、前記第2部材との摩擦によって前記第1部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現し、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第1部材に発生する摩擦振動を抑制するものである。
【0018】
この摩擦振動抑制方法およびその方法を用いた機械装置は、上述した減衰器、アクチュエータなどの外部装置、または、新規または特殊な摺動部材および/または潤滑剤などを用いる必要がない。その結果、それらの外部装置または部材を機械装置に取り付ける困難さ、および、それに起因する機械装置の信頼性に影響を及ぼさない。
【0019】
また、本発明の摩擦振動抑制方法およびその方法を用いた機械装置においては、摩擦振動が抑制されるだけでなく、摺動材料(摺動部材)本来の摩擦力を減ずることがない。
【0020】
そのため、本発明の方法とその装置は、摺動材料本来の摩擦力を活用する機械装置、たとえば、車両に用いる制動装置、あるいは、摩擦力測定装置などの広い分野に適用できるという利点がある。
これらの用途については複数の例示を後述する。
本発明に係る摩擦係数を計測する方法は、
一方の面に外部復元力が負荷する状態で、それぞれが面内の運動を生じる形態で2面を摺動させ、外部復元力と2面の間に作用する摩擦力との釣り合いを利用して、2面の間の摩擦係数を計測する方法において、
摺動の際、前記一方の面の摩擦振動を抑制するように、前記一方の面の運動を一方向に拘束しつつ、前記一方の面の運動可能な一方向と前記他方の面の運動方向とを所定角度で交差させる、構成としている。
また、前記所定角度は、前記一方の面の前記他方の面からの垂直効力、および前記一方の面の前記他方の面に対する相対速度に基づいて決定する。
さらにまた、前記他方の面の運動は、往復直線運動であるのがよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、相対運動する2つの部材における摺動部に発生する摩擦振動を抑制することができる。
【0022】
また本発明によれば、摩擦振動が抑制されるだけでなく、摺動部材本来の摩擦力を減ずることがない。
【0023】
本発明によれば、機械装置などの摺動部に、たとえば、減衰器、アクチュエータなどの外部装置を用いる必要がない。
【0024】
さらに本発明によれば、摩擦振動を抑制した結果として摩擦振動に起因する騒音を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1(A)〜(C)は摩擦振動抑制方法の原理を説明するための図である。
【図2】図2は、駆動速度Vで往復運動する駆動部と、駆動部によって駆動される従 動部とを有する機械を図解した図である。
【図3】図3は摩擦振動抑制方法を応用した1例としての往復動滑り摩擦試験機の構 成を図解する図であり、図3(A)は全体外観図であり、図3(B)、(C)は部分 拡大図である。
【図4】図4(A)〜(D)は図2に図解した往復動滑り摩擦試験機の実験結果の例 を示す図である。
【図5】図5は図4(A)〜(D)に示した一連の実験結果から(Fspr/W)対(cos φ)をプロットした結果を示すグラフである。
【図6】図6は図2に図解した往復動滑り摩擦試験機と、演算処理装置としてたとえ ば、コンピュータとを接続した構成図である。
【図7】図7はディスクブレーキ装置の概略斜視図である。
【図8】図8は摩擦振動抑制方法を応用した1例としてのディスクブレーキ装置の概 略構成を示す図である。
【図9】図9(A)、(B)はワイパーの構成と動作を示す図である。図9(A)は 従来のワイパーの構成図であり、(B)は本発明を適用した場合の構成図である。
【図10】図10はワイパーブレードにワイパーゴムを取り付けた状態を示す図であ る。
【図11】図11(A)、(B)は本発明のワイパーブレードの別の実施例を示す図 である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
摩擦振動の抑制原理
本発明の摩擦振動の抑制原理に係る概念を図1を参照して述べる。
ここで、摺動部を生み出す相対運動する2つの第1、第2の部材として、駆動部材と従動部材とを有する機械装置を例示して考察する。
【0027】
図1(A)は駆動部材と従動部材とによる摺動部を有する機械装置を上部から見た図であり、図1(B)はその側面図である。図1(C)は、駆動部材の駆動面の駆動速度V(大文字のV)と、従動部材の従動面の変位速度v(小文字のv)と、従動部材の従動面から見た従動面と駆動面との相対速度Vrelとの関係を示すベクトル図である。
【0028】
静止点x=0において、駆動部材1と、駆動部材1によって駆動される従動部材2とが接して摺動部を形成している場合に付いて述べる。
「摺動部」とは、本明細書において、駆動部材1と従動部材2が接して摺動する部分と定義する。
駆動部材1は駆動速度Vで移動する床(駆動面)で表し、従動部材2は摺動部の従動面を摺動する(変位する、または、移動する)質量mの球で表す。ただし、x軸方向以外の方向(y軸方向、z軸方向)には運動が拘束されている。
図1(C)に図解のとおり、駆動速度Vはx軸に対して角度φをなしている。
この角度φを駆動角度と呼ぶ。
【0029】
任意の時刻tにおいて、従動部材2が摺動によって変位(移動)する従動面の変位をx=x(t)とすると従動面には従動部材2が変位する向きとは逆向きの復元力Fs=−kxが作用する。
従動部材2が変位する従動面の変位速度vを、v=v(t)=dx(t)/dt=1ドットxとすると(ただし、1ドットxは時間tに関するxの微分を表す)。
従動面から見た駆動部材1の駆動面の相対速度Vrelは、図1(C)に図解した相対速度Vrelとなり、その方向はx軸に対して角度θをなす。
このとき、従動部材2の従動面は相対速度Vrelを減ずる方向に摩擦力Ffが作用するので、摩擦力Ffの方向は相対速度Vrelの方向と一致する。したがって、摩擦力Ffの方向もまたx軸に対して角度θをなす。
この角度θを摩擦角度と呼ぶ。
【0030】
駆動速度Vの方向と従動部材2の従動面の支持部が変形する方向(x軸方向)との間に駆動角度φを与えて「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を設けると、従動部材2の従動面は速度Vsinφの横滑りを受けるので、一般にφ≠θとなる。
本発明は、摺動部の横滑りが生み出す擬似的な粘性減衰効果を利用して摩擦振動を抑制する。
【0031】
「横滑りを伴う摺動面を有する構造」について、図1(C)、図2を参照して詳述する。
図1(C)は、駆動部材1の駆動面の駆動速度Vと、従動部材2の従動面の速度vと、従動部材2の従動面から見た従動面と駆動面との相対速度Vrelとの関係を示すベクトル図である。
図2は、図1(A)、(B)の1例として、駆動速度Vで往復運動する駆動部材110と、駆動部材110によって駆動される従動部材120(この例では、球)とを有する機械を図解した図である。たとえば、駆動部材110が、基準位置REFから左方向に移動するときの駆動速度を−Vとし、右方向に移動するときの駆動速度を+Vとしている。ただし、図1(C)においては、右方向に移動するときの駆動速度Vのみ図解している。
本明細書において「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現することとは、駆動部材110の駆動速度V(たとえば、+V)の方向と、駆動部材110によって速度vで駆動される従動部材120の支持部が変位する方向(x軸方向)との間に駆動角度φを与えることによってx軸方向とy軸方向に同時に滑る摺動面を実現することをいう。
【0032】
なお、摺動部に振動が発生しない場合(1ドットx(速度)=2ドットx(加速度)=0)には、図1(C)における駆動速度Vと相対速度Vrelの方向が一致し、φ=θとなる。
また、φ=0の場合には駆動部材110と従動部材120との間に横滑りが存在せず、φ=θとなる。
【0033】
以下、図1に図解の状況を数学的に扱う。
質量mで示した従動部材2の従動面のx軸方向の運動方程式は式(1)で与えられる。
式(1)において、“2ドットx”はx方向の位置xを時間で2階微分した加速度を示し、摩擦力Ffを相対速度Vrelの関数として、Ff=Ff(Vrel)と表記した。
【0034】
【数1】
【0035】
相対速度Vrelは、駆動角度φ、駆動速度Vおよび従動面の速度vである“1ドットx(xを時間で微分したもの)”を用いて下記式(2)で与えられる。
【0036】
【数2】
【0037】
摩擦角度θは、駆動角度φ、駆動速度V、従動面の変位する変位速度v(1ドットx=dx/dt)、および、相対速度Vrelを用いて、下記式(3)で与えられる。
【0038】
【数3】
【0039】
式(2)と式(3)とを用いて、変位速度v(1ドットx=dx/dt)=0の周りで式(1)を線形化すると、式(4)が得られる。
【0040】
【数4】
【0041】
式(4)の左辺第2項(粘性減衰項)、(c1+c2)(1ドットx=dx/dt)に現れる2個の係数c1とc2は、下記式(5)、(6)で与えられる。
【0042】
【数5】
【0043】
【数6】
【0044】
第1係数c1は摩擦力Ffの相対速度依存性に基づく粘性減衰効果を表し、第2係数c2は摺動部における横滑りが生み出す粘性減衰効果を表す。
式(5)における1ダッシュ(1プライム)Ffは相対速度Vrelに関する摩擦力Ffの微分を表す。
【0045】
粘性減衰項における係数(c1+c2)の符号が、下記式(7)に示す平衡点の安定性を決定する。
【0046】
【数7】
【0047】
条件1
(c1+c2)>0のとき、平衡点は安定となり、駆動部材1と従動部材2とを有する機械装置に加わる擾乱は収束して、摩擦振動は発生しない。
【0048】
条件2
(c1+c2)<0のとき、平衡点は不安定となり、駆動部材1と従動部材2とを有する機械装置に加わる擾乱は成長して、摩擦振動が発生する。
【0049】
したがって、相対速度Vrelをパラメータとする摩擦係数μ=μ(Vrel)=Ff(Vrel)/W(ただし、Wは垂直荷重)を用いて、駆動角度φについての臨界的な角度、すなわち、臨界駆動角度φcを下記式(8)で定めるとき、下記式(9)、すなわち、90度≧φ>φcを満たすように臨界駆動角度φcより大きく、90度以下の駆動角度φを与えれば、φ=0では摩擦係数の相対速度依存性により摩擦振動が発生する機械装置(すなわち、c1<0の場合)であっても、摺動部の横滑りが生み出す粘性減衰効果(すなわち、c2>0)により、摩擦振動を消失させることができる。
なお、式(8)における、μプライム(V)は、摩擦係数μ(Vrel)を相対速度Vrelで微分して、Vrel=Vとした値を示す。
また、駆動角度φが上記臨界駆動角度φcに達していない場合でも、φ≠0であれば、上記粘性減衰効果が得られるので、φ=0の場合に比較して、摩擦振動の振幅を軽減することが可能である。
すなわち、本発明において、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現する、好ましい駆動角度φは臨界駆動角度φc以上、90度以下であるが、臨界駆動角度φcに限らず、φ≠0を満足する駆動角度φであればよい。
なお、実用的には、臨界駆動角度φcに近似する駆動角度、たとえば、φcの80〜90%でも、ほぼ「横滑りを伴う摺動面を有する好ましい構造」とすることができる。
【0050】
【数8】
【0051】
【数9】
【0052】
このように、上述した摩擦振動抑制方法においては、機械装置における駆動部材1と従動部材2とによる摺動部の横滑りが生み出す粘性減衰効果(すなわち、c2>0)により、駆動角度φを、好ましくは、少なくとも臨界駆動角度φc以上、90度以下となるように「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現することにより、機械装置における摩擦振動を抑制することができる。
【0053】
すなわち、本発明における「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現することとは、機械装置における駆動部材1と従動部材2とによる摺動部の横滑りが生み出す粘性減衰効果を得るために、たとえば、駆動部材1の駆動速度Vの方向と従動部材2の従動面の支持部が変形する方向(たとえば、x軸方向)とでなす角度を駆動角度φとして、基本的には、φ≠0、好ましくは、少なくとも臨界駆動角度φc以上、または、少なくともほぼ臨界駆動角度に近似した角度以上で、90度以下の角度を与えることによって、x軸方向とy軸方向に同時に滑る摺動面を実現することをいう。
【0054】
なお、上記の説明では、従動部材2の支持部が変形する場合に付いて説明したが、従動部材2は固定されており、駆動部材1側の支持部が変形する場合も、全く同様の効果が得られる。
すなわち、駆動部材1の駆動方向と駆動部材1の支持部が変位(移動)する方向とがなす駆動角度φを0<φ≦90にすることで「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現することができる。また、駆動角度φを、少なくとも臨界駆動角度φc以上、90度以下となるようにすることにより、機械装置における摩擦振動を抑制することができる。
摩擦振動を抑制することができれば、その摩擦振動に起因する騒音も抑制できる。
【0055】
このように、本発明において、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を機械装置に実現する(設ける)1例としては、たとえば、駆動部材1の駆動速度Vの方向と従動部材2(もしくは駆動部材1)の支持部が変形する方向(x軸方向)との間に、φ≠0である駆動角度φを与えることである。
なお、好ましい駆動角度φとしては、式(8)を参照して述べたように、たとえば、相対速度Vrel、相対速度Vrelをパラメータとする摩擦係数μ(Vrel)によって規定される臨界駆動角度φc以上である。この場合、振動を完全に抑制することができる。
【0056】
「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を与える具体的方法の1つは、たとえば、駆動部材1と従動部材2との相対速度Vrelを検出して、要求される軽減する振動の程度に応じて、従動部材2(もしくは駆動部材1)の変位方向を駆動部材1の駆動速度Vの駆動方向に対して傾斜させることである。
なお、上記駆動角度φは0度より大きく(φ>0)、駆動速度Vの方向と直交する角度(すなわち、90度)の範囲である。上述したように、好ましい傾斜角度は、臨界駆動角度φc以上、または、ほぼ臨界駆動角度に近似する角度以上である。
【0057】
このように、本発明の摩擦振動抑制方法によれば、減衰器、アクチュエータなどの付加的な装置、または外部装置などの手段を設ける必要がない。あるいは、本発明の摩擦振動抑制方法によれば、特殊な振動吸収部材、潤滑剤などを用いる必要がない。
【0058】
さらに、本発明の摩擦振動抑制方法によれば、摩擦振動が抑制されるだけでなく、摺動部材本来の摩擦力を減ずることがない。
たとえば、摺動部材の摩擦力を測定する場合に、本発明の摩擦振動抑制方法を適用すると、摩擦振動が抑制されるだけでなく、摺動部本来の摩擦力を減ずることなく、摩擦力を正確に測定可能となる。
【0059】
適用例
以下、本発明の摩擦振動抑制方法の適用例を述べる。
【0060】
第1例、一般的な機械装置
本発明の摩擦振動抑制方法の応用の第1例としての、駆動部材1と従動部材2とによる摺動部を有する機械装置において、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現する方法として駆動部材1の駆動方向に対して、従動部材2(もしくは駆動部材1)の変位方向を駆動部材1の駆動方向に対して上述した角度に傾斜した方向に配設する。
なお、上記駆動角度(傾斜角度)φは、0度より大きく、駆動速度Vの方向と直交する角度(すなわち、90度)の範囲であり、好ましい傾斜角度は、臨界駆動角度φc以上、または、ほぼ臨界駆動角度に近似した角度以上である。
このような「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現することにより、当該機械装置に発生する可能性のある摩擦振動の発生を抑制することができる。ひいては、騒音の発生を抑制することができる。
【0061】
第2例、摩擦係数計測への応用
摩擦振動抑制方法を適用した第2例として摩擦試験機について述べる。
材料の摩擦特性や潤滑剤の性能を評価するためには摩擦係数の計測が必要である。
一般に摩擦係数を計測するためには、2つの部材の2面を接触させて一方の面(動面)を駆動し、摩擦力と釣り合う他方の面(従動面)を支持するばねの復元力を計測して、摩擦力を得る必要がある。しかし、その際に2つの部材に振動が発生すると、復元力に及ぼす慣性力の影響が加わる上に、2つの部材の相対速度が時間変化するので、計測精度を著しく低下させる可能性がある。
【0062】
この問題を回避するために、本願発明者は、上述した摩擦振動抑制方法を応用した往復動滑り摩擦試験機を製作した。
図3は摩擦振動抑制方法を応用した往復動滑り摩擦試験機を図解する図であり、図3(A)は外観図、図3(B)、(C)は部分拡大図である。
【0063】
図3に図解した往復動滑り摩擦試験機は、駆動部が駆動する駆動面として平板11、従動部が変位(移動)する従動面として球12(図3(B)参照)を用い、従動面としての球12をダブルカンチレバー13で支持することにより、従動面(球)12の運動はx軸方向以外の方向を拘束している。
さらにこの往復動滑り摩擦試験機に、駆動面としての平板11を図3(C)の矢印で示した方向に、往復動させる駆動ユニット14を備え、さらにその下部に回転ステージ15を設けることで、平板11を回転させて駆動角度φを0〜180度の範囲で設定可能な構造を有する。
この往復動滑り摩擦試験機には、垂直(z)方向に、リニアスライダ18、コイルスプリング(コイルばね)19が同軸上に配設されており、さらに、従動部の従動面としての球12の上部に変位センサ17と、平板11から球12に垂直方向の荷重を印加するコイルスプリング19の下部にロードセル20が配設されている。
変位センサ17は、従動面としての球12の変位(移動)を計測する。計測された球12の変位(移動)と、ダブルカンチレバーの剛性値との積としての平板11との間に生ずる摩擦力を求める。ロードセル20は駆動面としての平板11と従動面としての球12とに作用する垂直方向の荷重を計測する。
【0064】
図4(A)〜(D)は図3に図解した往復動滑り摩擦試験機の実験結果の例を示す図である。
図4(A)〜(D)は、従動部として軸受鋼製の球(従動面)と、駆動部として平板(駆動面)をグリセリンで潤滑し、たとえば、コイルスプリング19による垂直方向の荷重10N、駆動ユニット14の駆動速度1mm/s、ストローク20mmの往復動の条件下で、かつ、駆動角度φをそれぞれφ=0度、φ=10度、φ=20度、φ=30度と変化させて、計測された復元力を時間の経過に従って変化する状態を図解した図である。
図4(A)〜(D)において、横軸は時間経過を示し、縦軸は変位センサ17で計測した従動面としての球12の変位(移動)とダブルカンチレバー13の剛性値との積を計算することで求めた、ダブルカンチレバー13の復元力を示す。
上下に振れているのは、往復動作したためであり、各上下においてバースト状の波形が摩擦振動の振幅の大きさを意味する。
【0065】
図4(A)に図解した駆動角度φ=0度では振幅の大きな摩擦振動が発生している。
他方、図4(B)、図4(C)と駆動角度の増加とともに摩擦振動の振幅は減少しており、図4(D)に示した駆動角度φ=30度では摩擦振動が完全に抑制されている。
【0066】
振動が発生しないとき(1ドットx(速度)=2ドットx(加速度)=0のとき)、式(2)より、相対速度Vrel=駆動速度Vとなり、さらに式(3)より駆動角度φ=θとなるので、これらの関係と式(1)より式(10)を得る。
【0067】
【数10】
【0068】
基本的には、これにより、相対速度Vrel=駆動速度Vという条件における摩擦係数μ(V)を求めることができる。
【0069】
相対速度Vrel=駆動速度Vという条件における摩擦係数μ(V)をさらに正確に求める方法を述べる。
図5に図解のごとく、縦軸にFspr/W、横軸にcosφを選んだプロットを作成したとき、そこに原点を通る直線が現れれば、相対速度Vrel=駆動速度Vという条件における摩擦係数μ(V)が正しく計測できている証拠となり、さらにその直線の傾きが摩擦係数μ(V)の真値を与える。
図5は、図4(A)〜(D)に示した一連の実験結果から、(Fspr/W)対(cosφ)をプロットした結果を示すグラフである。
【0070】
駆動部材1である平板11と従動部材2である球12との摺動部における横滑りが生み出す擬似的な粘性減衰効果によって摩擦振動が抑制された白丸印(○)は、その全てが原点を通る直線上に位置している。これに対して、図4(A)、(B)、(C)に図解した実験例による摩擦振動が発生した場合の平均値を示した黒丸印(●)は、同直線から比較的大きなずれが生じている。
このことは、上述した本発明に基づく摩擦振動抑制方法を応用した往復動滑り摩擦試験機に基づく摩擦係数計測法の妥当性を示している。
他方、図4(A)の実験例が示す従来の摩擦係数計測法(φ=0)では、必ずしも正確な摩擦係数を求められないことを意味する。
【0071】
図5に図解した直線の傾きを、たとえば、最小自乗法によって求めることにより、図3を参照して述べた往復動滑り摩擦試験機を用いた本摺動条件の摩擦係数μ(V)を、たとえば、0.193と定めることができる。
【0072】
さらに、上記摩擦係数を自動的に求める方法について述べる。
たとえば、図6に図解したように、図3に図解した往復動滑り摩擦試験機に演算処理装置、たとえば、コンピュータを接続する。
図3を参照して述べた往復動滑り摩擦試験機において駆動角度φを変化させ、駆動角度φの値と、変位センサ17の計測値と、ロードセル20の計測値とをコンピュータに入力する。
コンピュータは、上下のバースト状の波形として示される摩擦振動の振幅が小さい時の駆動角度φを検出し、図5に例示した(Fspr/W)対(cosφ)をプロットし、その結果から直線の傾きを摺動条件の摩擦係数として求めることができる。
【0073】
上記往復動滑り摩擦試験機において、好適例として、駆動面としての平板11を水平面に沿って往復動作させ、垂直(z)方向に、リニアスライダ18、コイルスプリング19を同軸上に配設し、変位センサ17が球12の水平方向の変位を計測し、ロードセル20で平板11と球12とに作用する垂直方向の荷重を計測したが、たとえば、平板11はほぼ水平面に沿って往復動し、ほぼ垂直方向にリニアスライダ18、コイルスプリング19を配設し、変位センサ17が球12のほぼ水平方向の変位を計測し、ロードセル20で平板11と球12とに作用するほぼ垂直方向の荷重を計測するようにしてもよい。
すなわち、本明細書においては、垂直方向とは、水平面に直交する方向のみならず、ほぼ直交する方向を意味する。同様に、本明細書において、水平方向とは完全に水平面の方向のみならずほぼ水平面に準じた面の方向を意味する。
以上の摩擦係数計測法によれば、垂直荷重Wと駆動速度Vおよび摩擦特性μ(Vrel)がいかなる条件であっても、臨界駆動角度の存在が理論的に保証されるので、あらゆる摺動条件に対して有効である。
【0074】
第3例、車両の制動装置
車両の制動装置(ブレーキ装置)、たとえば、ディスクブレーキ装置に上述した摩擦振動抑制方法を適用することができる。
図7はディスクブレーキ装置の1例を示す斜視図である。
ディスクブレーキ装置30は、車両、たとえば、乗用車のホイールに平行したディスク(円板)31を置き、このディスク31を、たとえば、両側から摩擦パッド(または、シュー)32を押し当ててディスク31およびホイールの回転を停止させる装置である。
摩擦パッド32は、通常、車両の運転者が足でブレーキペダルを踏むと、摩擦パッド32を作動させる図示しない油圧機構のオイルがピストンを押して摩擦パッド32がディスク31を挟み、その摩擦力でディスク31の回転を減速させ、停止させる。他方、運転者が足をブレーキペダルから離すと、摩擦パッド32はスプリングの力で開き、ディスク31へ係る摩擦力を解除する。
【0075】
制動装置への適用の基本形態
このようなディスクブレーキ装置は、ホイールの回転に応じて回転するディスク31を駆動部材1、摩擦パッド32を従動部材2として扱い、ディスク31と摩擦パッド32とが摺動する機械装置として扱うことができる。
したがって、このディスクブレーキ装置において、ディスク31と摩擦パッド32との間に上述した「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を構築することにより、ディスク31と摩擦パッド32との摺動部に発生する摩擦振動の発生を防止し、さらに、たとえば、「鳴き」と称される騒音の発生を防止することができる。
【0076】
上記「横滑りを伴う摺動面を有する構造」としては、たとえば、ディスク31の回転方向の接線方向をディスク31の駆動方向と、この駆動方向に上述した駆動角度、たとえば、少なくとも臨界駆動角度φc、好ましくは臨界駆動角度φc以上、または、好ましくは臨界駆動角度に近似した角度以上、傾斜した方向から、摩擦パッド32を移動可能に配設する。
【0077】
制動装置への具体例
以下、さらに具体的な構成例を述べる。
【0078】
図8はディスクブレーキ装置に摩擦振動抑制方法を適用した例を示したものであり、駆動部材1としてのディスク31aと、従動部材2としての摩擦パッド32a(摩擦要素)とを摺動可能に配置した場合の概念図である。
制動対象のディスク31aが、点Oを回転中心として、車両のホイールに連動して、制動直前に、回転方向Rに回転数Vで回転する。
ディスクブレーキ装置を作動させるとき、摩擦パッド32aを、回転するディスク31aの回転方向Rの接線方向αに対して、好ましくは、少なくとも臨界駆動角度φcだけ傾斜させた方向βからディスク31aに摺動させながら移動させて、回転するディスク31aを圧着可能とする。
方向βは、摩擦パッド32aの変位する方向を示す。なお、摩擦パッド32aの変位する方向としては、方向βと直交する方向γであってもよく、方向γも方向αに対して好ましくは、少なくとも臨界駆動角度φcだけ傾斜している。
【0079】
このディスクブレーキ装置の動作例を述べる。
摩擦パッド32aを駆動する駆動機構を、車両の減速または停止モードにおいて、(a)第1の段階として、摩擦パッド32aがディスク31aに接しない待機位置から、摩擦パッド32aを、上述したφ≠0である駆動角度φ、たとえば、少なくとも臨界駆動角度φc、好ましくは臨界駆動角度φc以上、または、好ましくは臨界駆動角度に近似した角度以上の角度で、ディスク31aに第1の押圧力でディスク31aに接触させて摺動させ、(b)第2段階として、所定距離移動した状態で第1の押圧力より高い第2の押圧力で摩擦パッド32aがディスク31aを圧着可能とする。また、駆動機構は、車両の停止の解除、または、減速の解除のとき、第2の押圧力で摩擦パッド32aがディスク31aを押圧している状態を解除してディスク31aとの接触、摺動状態を解放し、摩擦パッド32aを待機位置に復帰させる。
【0080】
ディスクブレーキ装置は、好ましくは、摩擦パッド32aを摩擦要素として駆動する駆動機構と、制動制御手段とを有する。
制動制御手段は、前記駆動部としてのディスク31aと前記従動部である摩擦要素としての摩擦パッド32aとの相対速度Vrelを検出し、当該検出した相対速度をパラメータとする摩擦係数μ(Vrel)を算出し、これによって規定される臨界駆動角度φcを算出して、前記駆動機構に指示する。
駆動機構は、制動制御手段から指示された臨界駆動角度φcに基づいて、前記摩擦要素を前記ディスクの回転方向の接線方向と、好ましくは、前記臨界駆動角度φcだけ傾斜して前記ディスクと摺動可能に構成されている。
【0081】
変化する臨界駆動角度に対応する動作
臨界駆動角度φcは、たとえば、式(8)によって規定される。
ディスクブレーキ装置の制動制御手段は、好ましくは、ディスク31aの回転速度に対応する車両の速度を相対速度Vrelとして、さらに相対速度Vrelをパラメータとする摩擦係数μ(Vrel)を求めて、これらから臨界駆動角度φcを求め、上記摩擦パッド32aを駆動する駆動機構を駆動して、摩擦パッド32aを臨界駆動角度φcだけ傾斜させた方向βからディスク31に移動させて、回転するディスク31aを押し当てる。
このため、摩擦パッド32aを駆動する駆動機構は、臨界駆動角度φcに応じて摩擦パッド32aを傾斜させる機能を有することが望ましい。
【0082】
なお、制動制御手段は、相対速度Vrelをパラメータとする摩擦係数μ(Vrel)の算出には、たとえば、事前に相対速度Vrelと摩擦係数μ(Vrel)との関係を求めてメモリに記憶しておき、テーブルルックアップ方式で相対速度Vrelをアドレスとしてメモリから対応する摩擦係数μ(Vrel)を読み出すことにより、迅速に摩擦係数μ(Vrel)を求めることができる。
【0083】
なお、上述した、車両の状態に応じて変化する臨界駆動角度または固定の臨界駆動角度で移動する、摩擦要素としての摩擦パッド32aおよびその駆動機構を、ディスク31aの周方向に沿って複数配設することもできる。
【0084】
図8に例示した摩擦パッド32aと図7に例示した摩擦パッド32の組み合わせ動作、または、単独動作は任意に行うことができる。
その動作に適合するように、ブレーキ装置の制御装置と、摩擦パッド32aの駆動機構を構成する。
【0085】
本発明の摩擦振動抑制方法の制動装置への適用は、上述した例示に限らず、種々の態様をとることができる。
なお、本発明の摩擦振動抑制方法を適用した車両の制動装置(ブレーキ装置)とは、上述した例示のように、少なくとも一部に、所定の角度、好ましくは、臨界駆動角度φc以上の角度(ただし、90度以下)を保って移動するディスクを制動する摩擦パッド32aを有していればよい。
それにより、効果的に制動を行うことができるとともに、ディスク31と摩擦パッド32とによる「鳴き音」を抑制することができる。
ただし、摩擦パッド32aの傾斜角度は、抑制する制動に応じて、φ≠0を満足する駆動角度φであればよく、必ずしも、臨界駆動角度φcに限らない。
また、このような本発明の摩擦振動抑制方法の制動装置への適用においては、摩擦振動を抑制するとしても、摺動材料本体の摩擦力それ自体が減じることがなく、摩擦力を利用する機械システムとして、上述のようなブレーキシステムや、クラッチシステムにおいて、技術的な利点を有する。
【0086】
第4例、ワイパー装置
さらに、本発明の摩擦振動抑制方法は、車両等のワイパー装置にも適用することができる。
図9(A)、(B)は車両用ワイパー装置の概略図である。(A)は従来のワイパー装置であり、(B)は本発明の摩擦振動抑制方法を適用したワイパー装置の例である。図9では、ワイパーがほぼ水平位置の状態と、ほぼ垂直位置の状態を図示している。
図10は、後述するワイパーブレードとワイパーゴムの接合状態を示す断面図である。
【0087】
図9(A)は従来のワイパー装置40aである。ワイパー装置40aはワイパーアーム41a、ワイパーブレード42aと図10に示すワイパーゴム43aで構成されている。
ワイパーアーム41aは回転中心である点Oを中心に、図示したほぼ水平位置とほぼ垂直位置の間を往復回転運動する。ワイパーブレード42aは点Pでワイパーアーム41aに取り付けられている。ワイパーブレード42aは図の平面方向で点Pを中心とした回転動作は拘束されているが、図の垂直方向には若干回転可能となっており、これにより湾曲したウインドー面にもワイパーゴム43aが常に密着可能となる。
また、図10に示すように、ワイパーゴム43aはワイパーブレード42aに嵌合取り付けされている。
図9(A)の45aはワイパーブレード42aの内側でワイパーゴム43aがウインドーと接する点Rの回転軌跡であり、46aはワイパーブレード42aの外側でワイパーゴム43aがウインドーと接する点Qの回転軌跡である。
【0088】
自動車のワイパーの場合は、ワイパーアーム41aとワイパーブレード42aの取り付け角度(ワイパーアーム41aの点Oと点Pを結んだ線と、ワイパーブレード42aの点Rと点Qを結んだ線とのなす角度)は、通常0度から約20度である。この取り付け角度は、もっぱら自動車のデザイン上の理由によるもので、自動車毎に、また同じ自動車でもフロントウインドー側とリアウインドー側でも異なっている。
【0089】
図10に示すように、ワイパーゴム43aはワイパーブレード42aの長手方向に垂直な方向(x−x方向)にしか変位できない。この構造を本発明に当てはめると、ワイパーアーム41a、及びワイパーブレード42aは駆動部、ワイパーゴム43aは駆動部材1、ワイパーゴム43aに接触するウインドーは従動部材2となる。
【0090】
駆動角度φは、ワイパーブレードの外端と内端で異なる。図9(A)に示すようにワイパーブレード42aの外端では線分OQとの垂線QB(外側の軌跡46aの接線)とワイパーブレード42aの長手方向(線分RQ)の垂線QAとのなす角度φ1である。
また、内端では線分ORとの垂線RD(内側の軌跡45aの接線)とワイパーブレード42aの長手方向(線分RQ)の垂線RCとのなす角度φ2である。φ2>φ1となるので、駆動角度φはワイパーブレードの長手方向の位置によって異なることになる。
【0091】
このような構成において、駆動角度φ2が臨界駆動角度φc以下の場合(φ2<φc)はワイパー作動時にワイパーゴムの全体が摩擦振動を起こし、φ1<φc<φ2の場合はワイパーゴムの一部が摩擦振動を起こし、φ1>φcの場合は摩擦振動を抑制できる。
【0092】
図9(B)は本発明の摩擦振動抑制方法を適用したワイパー装置の1例である。各パーツの構成は図9(A)の場合と同様であるが、各パーツの名称に付けた符号の添え字を「b」にしてある。
図9(B)では、ワイパーアーム41bを大きくカーブさせることで、ワイパーアーム41bとワイパーブレード42bの取り付け角度を大きくしている。この結果、ワイパーブレード42bの外端の駆動角度φ1は臨界駆動角度φc以上になっているので、摩擦振動を完全に抑制することができる。
【0093】
図11(A)は本発明の別の実施例を示すものである。図11(A)はワイパーブレード42cを、長手方向のほぼ中心付近から下側に折り曲げた形状としている。
上述したように、ワイパーブレードの駆動角度φは外端行くほど小さくなる。すなわち、内端での駆動角度φ2は十分臨界駆動角度φc以上あっても、外端の駆動角度φ1を臨界駆動角度φc以上に大きくするには、ワイパーアーム41cとワイパーブレード42cの取り付け角度を大きくとらなければならない。しかし、デザイン上や機構上取り付け角度を大きくとれない場合もある。
このような場合、図11(A)に示すようにワイパーブレード42cの先端部分を曲げることで駆動角度φ1を大きくすることができるので、ワイパーブレード42cの外端における駆動角度φ1を容易に臨界駆動角度φc以上にすることができる。
【0094】
図11(B)は本発明の更なる実施例を示すものである。図11(B)はワイパーブレード42dの長手方向を湾曲させることにより図11(A)の場合と同様の効果を得るものである。実施例ではワイパーブレード42dの中央付近から外端までを湾曲させているが、もちろん、長手方向全てを湾曲させても構わない。
【0095】
本発明の摩擦振動抑制方法の適用例を例示したが、本発明の実施に際しては、上述した例示に限らず、種々の態様をとることが可能である。
その基本形態は、種々の機械装置において、駆動部材1と従動部材2とが摺動する場合、上述した「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現することである。
【0096】
以上、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現するため、好ましくは、実施の形態として、臨界駆動角度以上傾斜させる場合を記述したが、本実施の形態の実施に際しては、厳格に、上記式で規定される臨界駆動角度以上でなくても、臨界駆動角度に近似した角度、たとえば、臨界駆動角度より10数%程度小さな角度、以上にしても、上述した本発明の効果と同等の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0097】
12…従動面としての球、11…駆動面としての平板、
30…制動装置、31、31a…ディスク、32、32a…摩擦パッド、
40…ワイパー装置、41a、41b、41c、41d…ワイパーアーム、
42a、42b、42c、42d…ワイパーブレード、43a、43b…ワイパーゴム、
110…駆動部、120…従動部、
φ…駆動角度、φc…臨界駆動角度、θ…摩擦角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械装置の摺動部に発生する摩擦振動を抑制する方法と、その方法を利用した機械装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一方が外部復元力を受ける状態で、相対運動する2つの部材が接することにより、その摺動部における摩擦により振動が励起される。
そのような摺動部に発生する摩擦振動は、摩擦係数の相対速度依存性が負を示すシステムに発生する自励振動と理解されている(たとえば、非特許文献1を参照)。
【0003】
そのような摩擦振動は、たとえば、車両のブレーキ装置(制動装置)の「鳴き」などに代表される騒音を発生することもある。
このように、上記摩擦振動は、上記例示に限らず、種々の装置における振動または騒音を発生させる。
【0004】
かかる摩擦振動を抑制する方法としては下記に例示する種々対策が取られ、また検討されている。
対策1、摩擦振動を減衰または吸収する減衰器を機械装置に取り付けて、摩擦振動を受動的に抑制する。
対策2、摩擦振動を打ち消す機能を有するアクチュエータ(駆動装置)を機械装置に取り付けて、摩擦振動を能動的に抑制する。
対策3、機械装置に摩擦振動を発生させない摺動材料(摺動部材)を用いる。または、摩擦振動を低減する潤滑剤を用いる。
しかしながら、上記例示した対策はそれぞれ下記に述べる課題に遭遇する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】田所千治、中野健、「微小動荷重制御による摩擦振動抑制法」、2 005年11月15日発行、「トライボロジスト」、社団法人日本トライボロジー学 会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記対策1は、減衰器を機械装置に取り付ける場所の確保が難しい場合がある。また上記対策1は、減衰器を取り付けることができたとしても機械装置の構成を複雑にする。上記対策1は、さらに、場合によっては減衰器を取り付けることにより機械装置の信頼性を低下させる可能性がある。
【0007】
上記対策2は、対策1と同様、アクチュエータを機械装置に取り付ける場所の確保が難しい場合がある。また上記対策2は、アクチュエータを有効に動作させるためには、摩擦振動を検出するセンサ(振動検出器)とそのセンサの計測結果に基づいてアクチュエータを駆動する制御装置がさらに必要となり、機械装置の構成を複雑にする。さらに上記対策2は、場合によっては、アクチュエータ、センサなどを取り付けることで機械装置の信頼性を低下させる可能性がある。
【0008】
上記対策3は、新規に摺動材料および/または潤滑剤を開発する必要があり、それらを適用すると機械装置の価絡が高騰する可能性がある。また上記対策3は、そのような摺動材料および/または潤滑剤を用いた場合の機械装置全体の信頼性が維持できるか否かの考察がさらに必要になる。
【0009】
以上から摩擦振動を効果的に抑制可能な方法が望まれている。
たとえば、機械装置に、減衰器、アクチュエータなどの外部装置を追加したり、摩擦振動などの発生しない摺動材料および/または潤滑剤を用いたりすることなく、2つの相対運動する部材の摺動部による摩擦振動および/またはそれに付随する騒音を効果的に抑制可能な方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の発明者は、相対運動する2つの部材の摺動部に発生する摩擦により励起される振動である摩擦振動(すなわち、摩擦係数の相対速度依存性が負を示すシステムに発生する自励振動)について、「摩擦は相対速度を減ずる方向に作用する」という物理法則に基づき、摺動部の横滑りが生み出す擬似的な粘性減衰効果を利用して摩擦振動を抑制する手法を見出した。
すなわち、本発明に係る摩擦振動の抑制方法は、
移動対向面と摩擦をしながら外部復元力により摩擦振動を行う物体にあって、物体の振動方向と前記移動対向面の移動方向とが所定角度範囲内で交差するように設定し、それにより摩擦振動を抑制する構成としている。
また、本発明に係る摩擦振動の抑制方法は、
摺動部における摩擦係数の相対速度依存性が負を示すことにより自励摩擦振動を生じる1自由度振動系システムにおいて、摺動部の摺動方向に対して横滑りを起こして、正の疑似的粘性減衰効果を生じさせることにより、自励摩擦振動を抑制する構成としている。
以上の構成を有する摩擦振動の抑制方法によれば、摺動部における摩擦係数の相対速度依存性が負を示す1自由度振動系システムは、仮想的に負の粘性減衰力を生じることから、1自由度の方向に自励摩擦振動を生じるところ、たとえば、摺動部の一方の面の運動方向と他方の面の運動方向とを所定角度で交差させることにより、摺動部の摺動方向に対して横滑りを引き起こし、それにより正の疑似的粘性減衰効果を生じさせることにより、負の粘性減衰効果を打消し、以て自励摩擦振動を抑制することが可能である。
【0011】
本発明の摩擦振動抑制方法は、摺動して相対運動する第1部材と第2部材において、前記摺動方向と、前記第1部材もしくは前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を構成し、前記第1部材と前記第2部材の摺動により発生する摩擦振動を抑制するものである。
さらに、本発明は摩擦振動に起因する騒音を抑制することができる。
【0012】
上記「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を構成する別の手段として、摺動して相対運動する第1部材と第2部材において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、該摺動方向と、前記第1部材との摩擦によって前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を構成することができる。これにより、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第2部材に発生する摩擦振動を抑制することが可能となる。
【0013】
上記「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を構成する更なる手段として、摺動して相対運動する第1部材と第2部材において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、該摺動方向と、前記第2部材との摩擦によって前記第1部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を構成することができる。これにより、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第1部材に発生する摩擦振動を抑制することが可能となる。
【0014】
上記「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を設けるための所定の駆動角度φとしては、φ≠0(φ>0)であれば良いが、少なくとも臨界駆動角度φc以上で90度以下(φc≦φ≦90度)であることが好ましい。
臨界駆動角度φcは、たとえば、式(8)を参照して後述するように、第1部材と第2部材の摺動面に摩擦振動が発生していない場合の第1、第2部材の相対速度(駆動速度)と当該駆動速度を変数とする摩擦係数によって規定される。
上記駆動角度を、臨界駆動角度以上とした場合、完全に摩擦振動を抑制することができる。
他方、実用的観点から、振動をある程度抑制することで十分な場合には、上記駆動角度として、臨界駆動角度φcに近似する所定の範囲の角度、たとえば、臨界駆動角度φcの80〜90%程度の角度以上に設定することができる。
摩擦振動抑制方法の原理は後述する。
【0015】
本発明の機械装置は、上記摩擦振動抑制方法を適用して、摺動して相対運動する第1部材と第2部材を備えた機械装置において、前記摺動方向と、前記第1部材もしくは前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現し、前記第1部材と前記第2部材の摺動により発生する摩擦振動を抑制するものである。
さらに本発明は摩擦振動を抑制した結果として摩擦振動に起因する騒音を抑制する。
【0016】
また、本発明の機械装置は、摺動して相対運動する第1部材と第2部材を備えた機械装置において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、該摺動方向と、前記第1部材との摩擦によって前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現し、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第2部材に発生する摩擦振動を抑制するものである。
【0017】
さらに、本発明の機械装置は、摺動して相対運動する第1部材と第2部材を備えた機械装置において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、前記第2部材との摩擦によって前記第1部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現し、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第1部材に発生する摩擦振動を抑制するものである。
【0018】
この摩擦振動抑制方法およびその方法を用いた機械装置は、上述した減衰器、アクチュエータなどの外部装置、または、新規または特殊な摺動部材および/または潤滑剤などを用いる必要がない。その結果、それらの外部装置または部材を機械装置に取り付ける困難さ、および、それに起因する機械装置の信頼性に影響を及ぼさない。
【0019】
また、本発明の摩擦振動抑制方法およびその方法を用いた機械装置においては、摩擦振動が抑制されるだけでなく、摺動材料(摺動部材)本来の摩擦力を減ずることがない。
【0020】
そのため、本発明の方法とその装置は、摺動材料本来の摩擦力を活用する機械装置、たとえば、車両に用いる制動装置、あるいは、摩擦力測定装置などの広い分野に適用できるという利点がある。
これらの用途については複数の例示を後述する。
本発明に係る摩擦係数を計測する方法は、
一方の面に外部復元力が負荷する状態で、それぞれが面内の運動を生じる形態で2面を摺動させ、外部復元力と2面の間に作用する摩擦力との釣り合いを利用して、2面の間の摩擦係数を計測する方法において、
摺動の際、前記一方の面の摩擦振動を抑制するように、前記一方の面の運動を一方向に拘束しつつ、前記一方の面の運動可能な一方向と前記他方の面の運動方向とを所定角度で交差させる、構成としている。
また、前記所定角度は、前記一方の面の前記他方の面からの垂直効力、および前記一方の面の前記他方の面に対する相対速度に基づいて決定する。
さらにまた、前記他方の面の運動は、往復直線運動であるのがよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、相対運動する2つの部材における摺動部に発生する摩擦振動を抑制することができる。
【0022】
また本発明によれば、摩擦振動が抑制されるだけでなく、摺動部材本来の摩擦力を減ずることがない。
【0023】
本発明によれば、機械装置などの摺動部に、たとえば、減衰器、アクチュエータなどの外部装置を用いる必要がない。
【0024】
さらに本発明によれば、摩擦振動を抑制した結果として摩擦振動に起因する騒音を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1(A)〜(C)は摩擦振動抑制方法の原理を説明するための図である。
【図2】図2は、駆動速度Vで往復運動する駆動部と、駆動部によって駆動される従 動部とを有する機械を図解した図である。
【図3】図3は摩擦振動抑制方法を応用した1例としての往復動滑り摩擦試験機の構 成を図解する図であり、図3(A)は全体外観図であり、図3(B)、(C)は部分 拡大図である。
【図4】図4(A)〜(D)は図2に図解した往復動滑り摩擦試験機の実験結果の例 を示す図である。
【図5】図5は図4(A)〜(D)に示した一連の実験結果から(Fspr/W)対(cos φ)をプロットした結果を示すグラフである。
【図6】図6は図2に図解した往復動滑り摩擦試験機と、演算処理装置としてたとえ ば、コンピュータとを接続した構成図である。
【図7】図7はディスクブレーキ装置の概略斜視図である。
【図8】図8は摩擦振動抑制方法を応用した1例としてのディスクブレーキ装置の概 略構成を示す図である。
【図9】図9(A)、(B)はワイパーの構成と動作を示す図である。図9(A)は 従来のワイパーの構成図であり、(B)は本発明を適用した場合の構成図である。
【図10】図10はワイパーブレードにワイパーゴムを取り付けた状態を示す図であ る。
【図11】図11(A)、(B)は本発明のワイパーブレードの別の実施例を示す図 である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
摩擦振動の抑制原理
本発明の摩擦振動の抑制原理に係る概念を図1を参照して述べる。
ここで、摺動部を生み出す相対運動する2つの第1、第2の部材として、駆動部材と従動部材とを有する機械装置を例示して考察する。
【0027】
図1(A)は駆動部材と従動部材とによる摺動部を有する機械装置を上部から見た図であり、図1(B)はその側面図である。図1(C)は、駆動部材の駆動面の駆動速度V(大文字のV)と、従動部材の従動面の変位速度v(小文字のv)と、従動部材の従動面から見た従動面と駆動面との相対速度Vrelとの関係を示すベクトル図である。
【0028】
静止点x=0において、駆動部材1と、駆動部材1によって駆動される従動部材2とが接して摺動部を形成している場合に付いて述べる。
「摺動部」とは、本明細書において、駆動部材1と従動部材2が接して摺動する部分と定義する。
駆動部材1は駆動速度Vで移動する床(駆動面)で表し、従動部材2は摺動部の従動面を摺動する(変位する、または、移動する)質量mの球で表す。ただし、x軸方向以外の方向(y軸方向、z軸方向)には運動が拘束されている。
図1(C)に図解のとおり、駆動速度Vはx軸に対して角度φをなしている。
この角度φを駆動角度と呼ぶ。
【0029】
任意の時刻tにおいて、従動部材2が摺動によって変位(移動)する従動面の変位をx=x(t)とすると従動面には従動部材2が変位する向きとは逆向きの復元力Fs=−kxが作用する。
従動部材2が変位する従動面の変位速度vを、v=v(t)=dx(t)/dt=1ドットxとすると(ただし、1ドットxは時間tに関するxの微分を表す)。
従動面から見た駆動部材1の駆動面の相対速度Vrelは、図1(C)に図解した相対速度Vrelとなり、その方向はx軸に対して角度θをなす。
このとき、従動部材2の従動面は相対速度Vrelを減ずる方向に摩擦力Ffが作用するので、摩擦力Ffの方向は相対速度Vrelの方向と一致する。したがって、摩擦力Ffの方向もまたx軸に対して角度θをなす。
この角度θを摩擦角度と呼ぶ。
【0030】
駆動速度Vの方向と従動部材2の従動面の支持部が変形する方向(x軸方向)との間に駆動角度φを与えて「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を設けると、従動部材2の従動面は速度Vsinφの横滑りを受けるので、一般にφ≠θとなる。
本発明は、摺動部の横滑りが生み出す擬似的な粘性減衰効果を利用して摩擦振動を抑制する。
【0031】
「横滑りを伴う摺動面を有する構造」について、図1(C)、図2を参照して詳述する。
図1(C)は、駆動部材1の駆動面の駆動速度Vと、従動部材2の従動面の速度vと、従動部材2の従動面から見た従動面と駆動面との相対速度Vrelとの関係を示すベクトル図である。
図2は、図1(A)、(B)の1例として、駆動速度Vで往復運動する駆動部材110と、駆動部材110によって駆動される従動部材120(この例では、球)とを有する機械を図解した図である。たとえば、駆動部材110が、基準位置REFから左方向に移動するときの駆動速度を−Vとし、右方向に移動するときの駆動速度を+Vとしている。ただし、図1(C)においては、右方向に移動するときの駆動速度Vのみ図解している。
本明細書において「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現することとは、駆動部材110の駆動速度V(たとえば、+V)の方向と、駆動部材110によって速度vで駆動される従動部材120の支持部が変位する方向(x軸方向)との間に駆動角度φを与えることによってx軸方向とy軸方向に同時に滑る摺動面を実現することをいう。
【0032】
なお、摺動部に振動が発生しない場合(1ドットx(速度)=2ドットx(加速度)=0)には、図1(C)における駆動速度Vと相対速度Vrelの方向が一致し、φ=θとなる。
また、φ=0の場合には駆動部材110と従動部材120との間に横滑りが存在せず、φ=θとなる。
【0033】
以下、図1に図解の状況を数学的に扱う。
質量mで示した従動部材2の従動面のx軸方向の運動方程式は式(1)で与えられる。
式(1)において、“2ドットx”はx方向の位置xを時間で2階微分した加速度を示し、摩擦力Ffを相対速度Vrelの関数として、Ff=Ff(Vrel)と表記した。
【0034】
【数1】
【0035】
相対速度Vrelは、駆動角度φ、駆動速度Vおよび従動面の速度vである“1ドットx(xを時間で微分したもの)”を用いて下記式(2)で与えられる。
【0036】
【数2】
【0037】
摩擦角度θは、駆動角度φ、駆動速度V、従動面の変位する変位速度v(1ドットx=dx/dt)、および、相対速度Vrelを用いて、下記式(3)で与えられる。
【0038】
【数3】
【0039】
式(2)と式(3)とを用いて、変位速度v(1ドットx=dx/dt)=0の周りで式(1)を線形化すると、式(4)が得られる。
【0040】
【数4】
【0041】
式(4)の左辺第2項(粘性減衰項)、(c1+c2)(1ドットx=dx/dt)に現れる2個の係数c1とc2は、下記式(5)、(6)で与えられる。
【0042】
【数5】
【0043】
【数6】
【0044】
第1係数c1は摩擦力Ffの相対速度依存性に基づく粘性減衰効果を表し、第2係数c2は摺動部における横滑りが生み出す粘性減衰効果を表す。
式(5)における1ダッシュ(1プライム)Ffは相対速度Vrelに関する摩擦力Ffの微分を表す。
【0045】
粘性減衰項における係数(c1+c2)の符号が、下記式(7)に示す平衡点の安定性を決定する。
【0046】
【数7】
【0047】
条件1
(c1+c2)>0のとき、平衡点は安定となり、駆動部材1と従動部材2とを有する機械装置に加わる擾乱は収束して、摩擦振動は発生しない。
【0048】
条件2
(c1+c2)<0のとき、平衡点は不安定となり、駆動部材1と従動部材2とを有する機械装置に加わる擾乱は成長して、摩擦振動が発生する。
【0049】
したがって、相対速度Vrelをパラメータとする摩擦係数μ=μ(Vrel)=Ff(Vrel)/W(ただし、Wは垂直荷重)を用いて、駆動角度φについての臨界的な角度、すなわち、臨界駆動角度φcを下記式(8)で定めるとき、下記式(9)、すなわち、90度≧φ>φcを満たすように臨界駆動角度φcより大きく、90度以下の駆動角度φを与えれば、φ=0では摩擦係数の相対速度依存性により摩擦振動が発生する機械装置(すなわち、c1<0の場合)であっても、摺動部の横滑りが生み出す粘性減衰効果(すなわち、c2>0)により、摩擦振動を消失させることができる。
なお、式(8)における、μプライム(V)は、摩擦係数μ(Vrel)を相対速度Vrelで微分して、Vrel=Vとした値を示す。
また、駆動角度φが上記臨界駆動角度φcに達していない場合でも、φ≠0であれば、上記粘性減衰効果が得られるので、φ=0の場合に比較して、摩擦振動の振幅を軽減することが可能である。
すなわち、本発明において、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現する、好ましい駆動角度φは臨界駆動角度φc以上、90度以下であるが、臨界駆動角度φcに限らず、φ≠0を満足する駆動角度φであればよい。
なお、実用的には、臨界駆動角度φcに近似する駆動角度、たとえば、φcの80〜90%でも、ほぼ「横滑りを伴う摺動面を有する好ましい構造」とすることができる。
【0050】
【数8】
【0051】
【数9】
【0052】
このように、上述した摩擦振動抑制方法においては、機械装置における駆動部材1と従動部材2とによる摺動部の横滑りが生み出す粘性減衰効果(すなわち、c2>0)により、駆動角度φを、好ましくは、少なくとも臨界駆動角度φc以上、90度以下となるように「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現することにより、機械装置における摩擦振動を抑制することができる。
【0053】
すなわち、本発明における「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現することとは、機械装置における駆動部材1と従動部材2とによる摺動部の横滑りが生み出す粘性減衰効果を得るために、たとえば、駆動部材1の駆動速度Vの方向と従動部材2の従動面の支持部が変形する方向(たとえば、x軸方向)とでなす角度を駆動角度φとして、基本的には、φ≠0、好ましくは、少なくとも臨界駆動角度φc以上、または、少なくともほぼ臨界駆動角度に近似した角度以上で、90度以下の角度を与えることによって、x軸方向とy軸方向に同時に滑る摺動面を実現することをいう。
【0054】
なお、上記の説明では、従動部材2の支持部が変形する場合に付いて説明したが、従動部材2は固定されており、駆動部材1側の支持部が変形する場合も、全く同様の効果が得られる。
すなわち、駆動部材1の駆動方向と駆動部材1の支持部が変位(移動)する方向とがなす駆動角度φを0<φ≦90にすることで「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現することができる。また、駆動角度φを、少なくとも臨界駆動角度φc以上、90度以下となるようにすることにより、機械装置における摩擦振動を抑制することができる。
摩擦振動を抑制することができれば、その摩擦振動に起因する騒音も抑制できる。
【0055】
このように、本発明において、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を機械装置に実現する(設ける)1例としては、たとえば、駆動部材1の駆動速度Vの方向と従動部材2(もしくは駆動部材1)の支持部が変形する方向(x軸方向)との間に、φ≠0である駆動角度φを与えることである。
なお、好ましい駆動角度φとしては、式(8)を参照して述べたように、たとえば、相対速度Vrel、相対速度Vrelをパラメータとする摩擦係数μ(Vrel)によって規定される臨界駆動角度φc以上である。この場合、振動を完全に抑制することができる。
【0056】
「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を与える具体的方法の1つは、たとえば、駆動部材1と従動部材2との相対速度Vrelを検出して、要求される軽減する振動の程度に応じて、従動部材2(もしくは駆動部材1)の変位方向を駆動部材1の駆動速度Vの駆動方向に対して傾斜させることである。
なお、上記駆動角度φは0度より大きく(φ>0)、駆動速度Vの方向と直交する角度(すなわち、90度)の範囲である。上述したように、好ましい傾斜角度は、臨界駆動角度φc以上、または、ほぼ臨界駆動角度に近似する角度以上である。
【0057】
このように、本発明の摩擦振動抑制方法によれば、減衰器、アクチュエータなどの付加的な装置、または外部装置などの手段を設ける必要がない。あるいは、本発明の摩擦振動抑制方法によれば、特殊な振動吸収部材、潤滑剤などを用いる必要がない。
【0058】
さらに、本発明の摩擦振動抑制方法によれば、摩擦振動が抑制されるだけでなく、摺動部材本来の摩擦力を減ずることがない。
たとえば、摺動部材の摩擦力を測定する場合に、本発明の摩擦振動抑制方法を適用すると、摩擦振動が抑制されるだけでなく、摺動部本来の摩擦力を減ずることなく、摩擦力を正確に測定可能となる。
【0059】
適用例
以下、本発明の摩擦振動抑制方法の適用例を述べる。
【0060】
第1例、一般的な機械装置
本発明の摩擦振動抑制方法の応用の第1例としての、駆動部材1と従動部材2とによる摺動部を有する機械装置において、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現する方法として駆動部材1の駆動方向に対して、従動部材2(もしくは駆動部材1)の変位方向を駆動部材1の駆動方向に対して上述した角度に傾斜した方向に配設する。
なお、上記駆動角度(傾斜角度)φは、0度より大きく、駆動速度Vの方向と直交する角度(すなわち、90度)の範囲であり、好ましい傾斜角度は、臨界駆動角度φc以上、または、ほぼ臨界駆動角度に近似した角度以上である。
このような「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現することにより、当該機械装置に発生する可能性のある摩擦振動の発生を抑制することができる。ひいては、騒音の発生を抑制することができる。
【0061】
第2例、摩擦係数計測への応用
摩擦振動抑制方法を適用した第2例として摩擦試験機について述べる。
材料の摩擦特性や潤滑剤の性能を評価するためには摩擦係数の計測が必要である。
一般に摩擦係数を計測するためには、2つの部材の2面を接触させて一方の面(動面)を駆動し、摩擦力と釣り合う他方の面(従動面)を支持するばねの復元力を計測して、摩擦力を得る必要がある。しかし、その際に2つの部材に振動が発生すると、復元力に及ぼす慣性力の影響が加わる上に、2つの部材の相対速度が時間変化するので、計測精度を著しく低下させる可能性がある。
【0062】
この問題を回避するために、本願発明者は、上述した摩擦振動抑制方法を応用した往復動滑り摩擦試験機を製作した。
図3は摩擦振動抑制方法を応用した往復動滑り摩擦試験機を図解する図であり、図3(A)は外観図、図3(B)、(C)は部分拡大図である。
【0063】
図3に図解した往復動滑り摩擦試験機は、駆動部が駆動する駆動面として平板11、従動部が変位(移動)する従動面として球12(図3(B)参照)を用い、従動面としての球12をダブルカンチレバー13で支持することにより、従動面(球)12の運動はx軸方向以外の方向を拘束している。
さらにこの往復動滑り摩擦試験機に、駆動面としての平板11を図3(C)の矢印で示した方向に、往復動させる駆動ユニット14を備え、さらにその下部に回転ステージ15を設けることで、平板11を回転させて駆動角度φを0〜180度の範囲で設定可能な構造を有する。
この往復動滑り摩擦試験機には、垂直(z)方向に、リニアスライダ18、コイルスプリング(コイルばね)19が同軸上に配設されており、さらに、従動部の従動面としての球12の上部に変位センサ17と、平板11から球12に垂直方向の荷重を印加するコイルスプリング19の下部にロードセル20が配設されている。
変位センサ17は、従動面としての球12の変位(移動)を計測する。計測された球12の変位(移動)と、ダブルカンチレバーの剛性値との積としての平板11との間に生ずる摩擦力を求める。ロードセル20は駆動面としての平板11と従動面としての球12とに作用する垂直方向の荷重を計測する。
【0064】
図4(A)〜(D)は図3に図解した往復動滑り摩擦試験機の実験結果の例を示す図である。
図4(A)〜(D)は、従動部として軸受鋼製の球(従動面)と、駆動部として平板(駆動面)をグリセリンで潤滑し、たとえば、コイルスプリング19による垂直方向の荷重10N、駆動ユニット14の駆動速度1mm/s、ストローク20mmの往復動の条件下で、かつ、駆動角度φをそれぞれφ=0度、φ=10度、φ=20度、φ=30度と変化させて、計測された復元力を時間の経過に従って変化する状態を図解した図である。
図4(A)〜(D)において、横軸は時間経過を示し、縦軸は変位センサ17で計測した従動面としての球12の変位(移動)とダブルカンチレバー13の剛性値との積を計算することで求めた、ダブルカンチレバー13の復元力を示す。
上下に振れているのは、往復動作したためであり、各上下においてバースト状の波形が摩擦振動の振幅の大きさを意味する。
【0065】
図4(A)に図解した駆動角度φ=0度では振幅の大きな摩擦振動が発生している。
他方、図4(B)、図4(C)と駆動角度の増加とともに摩擦振動の振幅は減少しており、図4(D)に示した駆動角度φ=30度では摩擦振動が完全に抑制されている。
【0066】
振動が発生しないとき(1ドットx(速度)=2ドットx(加速度)=0のとき)、式(2)より、相対速度Vrel=駆動速度Vとなり、さらに式(3)より駆動角度φ=θとなるので、これらの関係と式(1)より式(10)を得る。
【0067】
【数10】
【0068】
基本的には、これにより、相対速度Vrel=駆動速度Vという条件における摩擦係数μ(V)を求めることができる。
【0069】
相対速度Vrel=駆動速度Vという条件における摩擦係数μ(V)をさらに正確に求める方法を述べる。
図5に図解のごとく、縦軸にFspr/W、横軸にcosφを選んだプロットを作成したとき、そこに原点を通る直線が現れれば、相対速度Vrel=駆動速度Vという条件における摩擦係数μ(V)が正しく計測できている証拠となり、さらにその直線の傾きが摩擦係数μ(V)の真値を与える。
図5は、図4(A)〜(D)に示した一連の実験結果から、(Fspr/W)対(cosφ)をプロットした結果を示すグラフである。
【0070】
駆動部材1である平板11と従動部材2である球12との摺動部における横滑りが生み出す擬似的な粘性減衰効果によって摩擦振動が抑制された白丸印(○)は、その全てが原点を通る直線上に位置している。これに対して、図4(A)、(B)、(C)に図解した実験例による摩擦振動が発生した場合の平均値を示した黒丸印(●)は、同直線から比較的大きなずれが生じている。
このことは、上述した本発明に基づく摩擦振動抑制方法を応用した往復動滑り摩擦試験機に基づく摩擦係数計測法の妥当性を示している。
他方、図4(A)の実験例が示す従来の摩擦係数計測法(φ=0)では、必ずしも正確な摩擦係数を求められないことを意味する。
【0071】
図5に図解した直線の傾きを、たとえば、最小自乗法によって求めることにより、図3を参照して述べた往復動滑り摩擦試験機を用いた本摺動条件の摩擦係数μ(V)を、たとえば、0.193と定めることができる。
【0072】
さらに、上記摩擦係数を自動的に求める方法について述べる。
たとえば、図6に図解したように、図3に図解した往復動滑り摩擦試験機に演算処理装置、たとえば、コンピュータを接続する。
図3を参照して述べた往復動滑り摩擦試験機において駆動角度φを変化させ、駆動角度φの値と、変位センサ17の計測値と、ロードセル20の計測値とをコンピュータに入力する。
コンピュータは、上下のバースト状の波形として示される摩擦振動の振幅が小さい時の駆動角度φを検出し、図5に例示した(Fspr/W)対(cosφ)をプロットし、その結果から直線の傾きを摺動条件の摩擦係数として求めることができる。
【0073】
上記往復動滑り摩擦試験機において、好適例として、駆動面としての平板11を水平面に沿って往復動作させ、垂直(z)方向に、リニアスライダ18、コイルスプリング19を同軸上に配設し、変位センサ17が球12の水平方向の変位を計測し、ロードセル20で平板11と球12とに作用する垂直方向の荷重を計測したが、たとえば、平板11はほぼ水平面に沿って往復動し、ほぼ垂直方向にリニアスライダ18、コイルスプリング19を配設し、変位センサ17が球12のほぼ水平方向の変位を計測し、ロードセル20で平板11と球12とに作用するほぼ垂直方向の荷重を計測するようにしてもよい。
すなわち、本明細書においては、垂直方向とは、水平面に直交する方向のみならず、ほぼ直交する方向を意味する。同様に、本明細書において、水平方向とは完全に水平面の方向のみならずほぼ水平面に準じた面の方向を意味する。
以上の摩擦係数計測法によれば、垂直荷重Wと駆動速度Vおよび摩擦特性μ(Vrel)がいかなる条件であっても、臨界駆動角度の存在が理論的に保証されるので、あらゆる摺動条件に対して有効である。
【0074】
第3例、車両の制動装置
車両の制動装置(ブレーキ装置)、たとえば、ディスクブレーキ装置に上述した摩擦振動抑制方法を適用することができる。
図7はディスクブレーキ装置の1例を示す斜視図である。
ディスクブレーキ装置30は、車両、たとえば、乗用車のホイールに平行したディスク(円板)31を置き、このディスク31を、たとえば、両側から摩擦パッド(または、シュー)32を押し当ててディスク31およびホイールの回転を停止させる装置である。
摩擦パッド32は、通常、車両の運転者が足でブレーキペダルを踏むと、摩擦パッド32を作動させる図示しない油圧機構のオイルがピストンを押して摩擦パッド32がディスク31を挟み、その摩擦力でディスク31の回転を減速させ、停止させる。他方、運転者が足をブレーキペダルから離すと、摩擦パッド32はスプリングの力で開き、ディスク31へ係る摩擦力を解除する。
【0075】
制動装置への適用の基本形態
このようなディスクブレーキ装置は、ホイールの回転に応じて回転するディスク31を駆動部材1、摩擦パッド32を従動部材2として扱い、ディスク31と摩擦パッド32とが摺動する機械装置として扱うことができる。
したがって、このディスクブレーキ装置において、ディスク31と摩擦パッド32との間に上述した「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を構築することにより、ディスク31と摩擦パッド32との摺動部に発生する摩擦振動の発生を防止し、さらに、たとえば、「鳴き」と称される騒音の発生を防止することができる。
【0076】
上記「横滑りを伴う摺動面を有する構造」としては、たとえば、ディスク31の回転方向の接線方向をディスク31の駆動方向と、この駆動方向に上述した駆動角度、たとえば、少なくとも臨界駆動角度φc、好ましくは臨界駆動角度φc以上、または、好ましくは臨界駆動角度に近似した角度以上、傾斜した方向から、摩擦パッド32を移動可能に配設する。
【0077】
制動装置への具体例
以下、さらに具体的な構成例を述べる。
【0078】
図8はディスクブレーキ装置に摩擦振動抑制方法を適用した例を示したものであり、駆動部材1としてのディスク31aと、従動部材2としての摩擦パッド32a(摩擦要素)とを摺動可能に配置した場合の概念図である。
制動対象のディスク31aが、点Oを回転中心として、車両のホイールに連動して、制動直前に、回転方向Rに回転数Vで回転する。
ディスクブレーキ装置を作動させるとき、摩擦パッド32aを、回転するディスク31aの回転方向Rの接線方向αに対して、好ましくは、少なくとも臨界駆動角度φcだけ傾斜させた方向βからディスク31aに摺動させながら移動させて、回転するディスク31aを圧着可能とする。
方向βは、摩擦パッド32aの変位する方向を示す。なお、摩擦パッド32aの変位する方向としては、方向βと直交する方向γであってもよく、方向γも方向αに対して好ましくは、少なくとも臨界駆動角度φcだけ傾斜している。
【0079】
このディスクブレーキ装置の動作例を述べる。
摩擦パッド32aを駆動する駆動機構を、車両の減速または停止モードにおいて、(a)第1の段階として、摩擦パッド32aがディスク31aに接しない待機位置から、摩擦パッド32aを、上述したφ≠0である駆動角度φ、たとえば、少なくとも臨界駆動角度φc、好ましくは臨界駆動角度φc以上、または、好ましくは臨界駆動角度に近似した角度以上の角度で、ディスク31aに第1の押圧力でディスク31aに接触させて摺動させ、(b)第2段階として、所定距離移動した状態で第1の押圧力より高い第2の押圧力で摩擦パッド32aがディスク31aを圧着可能とする。また、駆動機構は、車両の停止の解除、または、減速の解除のとき、第2の押圧力で摩擦パッド32aがディスク31aを押圧している状態を解除してディスク31aとの接触、摺動状態を解放し、摩擦パッド32aを待機位置に復帰させる。
【0080】
ディスクブレーキ装置は、好ましくは、摩擦パッド32aを摩擦要素として駆動する駆動機構と、制動制御手段とを有する。
制動制御手段は、前記駆動部としてのディスク31aと前記従動部である摩擦要素としての摩擦パッド32aとの相対速度Vrelを検出し、当該検出した相対速度をパラメータとする摩擦係数μ(Vrel)を算出し、これによって規定される臨界駆動角度φcを算出して、前記駆動機構に指示する。
駆動機構は、制動制御手段から指示された臨界駆動角度φcに基づいて、前記摩擦要素を前記ディスクの回転方向の接線方向と、好ましくは、前記臨界駆動角度φcだけ傾斜して前記ディスクと摺動可能に構成されている。
【0081】
変化する臨界駆動角度に対応する動作
臨界駆動角度φcは、たとえば、式(8)によって規定される。
ディスクブレーキ装置の制動制御手段は、好ましくは、ディスク31aの回転速度に対応する車両の速度を相対速度Vrelとして、さらに相対速度Vrelをパラメータとする摩擦係数μ(Vrel)を求めて、これらから臨界駆動角度φcを求め、上記摩擦パッド32aを駆動する駆動機構を駆動して、摩擦パッド32aを臨界駆動角度φcだけ傾斜させた方向βからディスク31に移動させて、回転するディスク31aを押し当てる。
このため、摩擦パッド32aを駆動する駆動機構は、臨界駆動角度φcに応じて摩擦パッド32aを傾斜させる機能を有することが望ましい。
【0082】
なお、制動制御手段は、相対速度Vrelをパラメータとする摩擦係数μ(Vrel)の算出には、たとえば、事前に相対速度Vrelと摩擦係数μ(Vrel)との関係を求めてメモリに記憶しておき、テーブルルックアップ方式で相対速度Vrelをアドレスとしてメモリから対応する摩擦係数μ(Vrel)を読み出すことにより、迅速に摩擦係数μ(Vrel)を求めることができる。
【0083】
なお、上述した、車両の状態に応じて変化する臨界駆動角度または固定の臨界駆動角度で移動する、摩擦要素としての摩擦パッド32aおよびその駆動機構を、ディスク31aの周方向に沿って複数配設することもできる。
【0084】
図8に例示した摩擦パッド32aと図7に例示した摩擦パッド32の組み合わせ動作、または、単独動作は任意に行うことができる。
その動作に適合するように、ブレーキ装置の制御装置と、摩擦パッド32aの駆動機構を構成する。
【0085】
本発明の摩擦振動抑制方法の制動装置への適用は、上述した例示に限らず、種々の態様をとることができる。
なお、本発明の摩擦振動抑制方法を適用した車両の制動装置(ブレーキ装置)とは、上述した例示のように、少なくとも一部に、所定の角度、好ましくは、臨界駆動角度φc以上の角度(ただし、90度以下)を保って移動するディスクを制動する摩擦パッド32aを有していればよい。
それにより、効果的に制動を行うことができるとともに、ディスク31と摩擦パッド32とによる「鳴き音」を抑制することができる。
ただし、摩擦パッド32aの傾斜角度は、抑制する制動に応じて、φ≠0を満足する駆動角度φであればよく、必ずしも、臨界駆動角度φcに限らない。
また、このような本発明の摩擦振動抑制方法の制動装置への適用においては、摩擦振動を抑制するとしても、摺動材料本体の摩擦力それ自体が減じることがなく、摩擦力を利用する機械システムとして、上述のようなブレーキシステムや、クラッチシステムにおいて、技術的な利点を有する。
【0086】
第4例、ワイパー装置
さらに、本発明の摩擦振動抑制方法は、車両等のワイパー装置にも適用することができる。
図9(A)、(B)は車両用ワイパー装置の概略図である。(A)は従来のワイパー装置であり、(B)は本発明の摩擦振動抑制方法を適用したワイパー装置の例である。図9では、ワイパーがほぼ水平位置の状態と、ほぼ垂直位置の状態を図示している。
図10は、後述するワイパーブレードとワイパーゴムの接合状態を示す断面図である。
【0087】
図9(A)は従来のワイパー装置40aである。ワイパー装置40aはワイパーアーム41a、ワイパーブレード42aと図10に示すワイパーゴム43aで構成されている。
ワイパーアーム41aは回転中心である点Oを中心に、図示したほぼ水平位置とほぼ垂直位置の間を往復回転運動する。ワイパーブレード42aは点Pでワイパーアーム41aに取り付けられている。ワイパーブレード42aは図の平面方向で点Pを中心とした回転動作は拘束されているが、図の垂直方向には若干回転可能となっており、これにより湾曲したウインドー面にもワイパーゴム43aが常に密着可能となる。
また、図10に示すように、ワイパーゴム43aはワイパーブレード42aに嵌合取り付けされている。
図9(A)の45aはワイパーブレード42aの内側でワイパーゴム43aがウインドーと接する点Rの回転軌跡であり、46aはワイパーブレード42aの外側でワイパーゴム43aがウインドーと接する点Qの回転軌跡である。
【0088】
自動車のワイパーの場合は、ワイパーアーム41aとワイパーブレード42aの取り付け角度(ワイパーアーム41aの点Oと点Pを結んだ線と、ワイパーブレード42aの点Rと点Qを結んだ線とのなす角度)は、通常0度から約20度である。この取り付け角度は、もっぱら自動車のデザイン上の理由によるもので、自動車毎に、また同じ自動車でもフロントウインドー側とリアウインドー側でも異なっている。
【0089】
図10に示すように、ワイパーゴム43aはワイパーブレード42aの長手方向に垂直な方向(x−x方向)にしか変位できない。この構造を本発明に当てはめると、ワイパーアーム41a、及びワイパーブレード42aは駆動部、ワイパーゴム43aは駆動部材1、ワイパーゴム43aに接触するウインドーは従動部材2となる。
【0090】
駆動角度φは、ワイパーブレードの外端と内端で異なる。図9(A)に示すようにワイパーブレード42aの外端では線分OQとの垂線QB(外側の軌跡46aの接線)とワイパーブレード42aの長手方向(線分RQ)の垂線QAとのなす角度φ1である。
また、内端では線分ORとの垂線RD(内側の軌跡45aの接線)とワイパーブレード42aの長手方向(線分RQ)の垂線RCとのなす角度φ2である。φ2>φ1となるので、駆動角度φはワイパーブレードの長手方向の位置によって異なることになる。
【0091】
このような構成において、駆動角度φ2が臨界駆動角度φc以下の場合(φ2<φc)はワイパー作動時にワイパーゴムの全体が摩擦振動を起こし、φ1<φc<φ2の場合はワイパーゴムの一部が摩擦振動を起こし、φ1>φcの場合は摩擦振動を抑制できる。
【0092】
図9(B)は本発明の摩擦振動抑制方法を適用したワイパー装置の1例である。各パーツの構成は図9(A)の場合と同様であるが、各パーツの名称に付けた符号の添え字を「b」にしてある。
図9(B)では、ワイパーアーム41bを大きくカーブさせることで、ワイパーアーム41bとワイパーブレード42bの取り付け角度を大きくしている。この結果、ワイパーブレード42bの外端の駆動角度φ1は臨界駆動角度φc以上になっているので、摩擦振動を完全に抑制することができる。
【0093】
図11(A)は本発明の別の実施例を示すものである。図11(A)はワイパーブレード42cを、長手方向のほぼ中心付近から下側に折り曲げた形状としている。
上述したように、ワイパーブレードの駆動角度φは外端行くほど小さくなる。すなわち、内端での駆動角度φ2は十分臨界駆動角度φc以上あっても、外端の駆動角度φ1を臨界駆動角度φc以上に大きくするには、ワイパーアーム41cとワイパーブレード42cの取り付け角度を大きくとらなければならない。しかし、デザイン上や機構上取り付け角度を大きくとれない場合もある。
このような場合、図11(A)に示すようにワイパーブレード42cの先端部分を曲げることで駆動角度φ1を大きくすることができるので、ワイパーブレード42cの外端における駆動角度φ1を容易に臨界駆動角度φc以上にすることができる。
【0094】
図11(B)は本発明の更なる実施例を示すものである。図11(B)はワイパーブレード42dの長手方向を湾曲させることにより図11(A)の場合と同様の効果を得るものである。実施例ではワイパーブレード42dの中央付近から外端までを湾曲させているが、もちろん、長手方向全てを湾曲させても構わない。
【0095】
本発明の摩擦振動抑制方法の適用例を例示したが、本発明の実施に際しては、上述した例示に限らず、種々の態様をとることが可能である。
その基本形態は、種々の機械装置において、駆動部材1と従動部材2とが摺動する場合、上述した「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現することである。
【0096】
以上、「横滑りを伴う摺動面を有する構造」を実現するため、好ましくは、実施の形態として、臨界駆動角度以上傾斜させる場合を記述したが、本実施の形態の実施に際しては、厳格に、上記式で規定される臨界駆動角度以上でなくても、臨界駆動角度に近似した角度、たとえば、臨界駆動角度より10数%程度小さな角度、以上にしても、上述した本発明の効果と同等の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0097】
12…従動面としての球、11…駆動面としての平板、
30…制動装置、31、31a…ディスク、32、32a…摩擦パッド、
40…ワイパー装置、41a、41b、41c、41d…ワイパーアーム、
42a、42b、42c、42d…ワイパーブレード、43a、43b…ワイパーゴム、
110…駆動部、120…従動部、
φ…駆動角度、φc…臨界駆動角度、θ…摩擦角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動対向面と摩擦をしながら外部復元力により摩擦振動を行う物体にあって、物体の振動方向と前記移動対向面の移動方向とが所定角度範囲内で交差するように設定し、それにより摩擦振動を抑制することを特徴とする摩擦振動の抑制方法。
【請求項2】
摺動部における摩擦係数の相対速度依存性が負を示すことにより自励摩擦振動を生じる1自由度振動系システムにおいて、摺動部の摺動方向に対して横滑りを起こして、正の疑似的粘性減衰効果を生じさせることにより、自励摩擦振動を抑制することを特徴とする摩擦振動抑制方法。
【請求項3】
摺動して相対運動する第1部材と第2部材において、前記摺動方向と、前記第1部材もしくは前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、前記第1部材と前記第2部材の摺動により発生する摩擦振動を抑制する、請求項2に記載の摩擦振動抑制方法。
【請求項4】
摺動して相対運動する第1部材と第2部材において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、該摺動方向と、前記第1部材との摩擦によって前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第2部材に発生する摩擦振動を抑制する、請求項2に記載の摩擦振動抑制方法。
【請求項5】
摺動して相対運動する第1部材と第2部材において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、該摺動方向と、前記第2部材との摩擦によって前記第1部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第1部材に発生する摩擦振動を抑制する、請求項2に記載の摩擦振動抑制方法。
【請求項6】
前記駆動角度として、式(1)で規定される臨界駆動角度φc以上、または、当該臨界駆動角度に近似する角度とする、請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の摩擦振動抑制方法。
φc
=tan−1(α(V)・V)1/2 ・・・・・・・・・・(式1)
α(V)=−μ’(V)/μ(V)
ただし、Vは、前記第1部材と前記第2部材の摺動面における摩擦振動が無い場合の
相対速度(駆動速度)である。
μ(V)は、駆動速度Vにおける摩擦係数である。
μ’(V)は、前記第1部材と前記第2部材との相対速度Vrel=Vにおける
μ(Vrel)の微係数である。
【請求項7】
摺動して相対運動する第1部材と第2部材を備えた機械装置において、前記摺動方向と、前記第1部材もしくは前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、前記第1部材と前記第2部材の摺動により発生する摩擦振動を抑制する摩擦振動抑制構造を有する機械装置。
【請求項8】
摺動して相対運動する第1部材と第2部材を備えた機械装置において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、該摺動方向と、前記第1部材との摩擦によって前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第2部材に発生する摩擦振動を抑制する摩擦振動抑制構造を有する機械装置。
【請求項9】
摺動して相対運動する第1部材と第2部材を備えた機械装置において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、前記第2部材との摩擦によって前記第1部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第1部材に発生する摩擦振動を抑制する摩擦振動抑制構造を有する機械装置。
【請求項10】
前記駆動角度として、式(1)で規定される臨界駆動角度φc以上、または、当該臨界駆動角度に近似する角度とする、請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の摩擦振動抑制構造を有する機械装置。
φc
=tan−1(α(V)・V)1/2 ・・・・・・・・・・(式1)
α(V)=−μ’(V)/μ(V)
ただし、Vは、前記第1部材と前記第2部材の摺動面における摩擦振動が無い場合の
相対速度(駆動速度)である。
μ(V)は、駆動速度Vにおける摩擦係数である。
μ’(V)は、前記第1部材と前記第2部材との相対速度Vrel=Vにおける
μ(Vrel)の微係数である。
【請求項11】
駆動面を備えた駆動部と、従動面を備えた従動部を備え、前記駆動面と前記従動面とを摺動させ、前記従動面の変位を計測することで摩擦係数を測定する摩擦試験機において、
前記駆動面と前記従動面に荷重を印加する荷重印加手段と、
当該印加した荷重を計測する荷重測定手段と、
前記駆動面を所定の範囲で移動させる駆動機構と、
前記従動面の変位を検出する変位測定手段と、
前記従動面を前記駆動部に接して支持することにより前記従動面の運動を一方向に拘束する、従動部支持手段と、
前記従動面の運動可能な一方向と前記駆動面の駆動方向とに所定の駆動角度を設けることができる駆動角度設定手段とを備えた、摩擦試験機。
【請求項12】
前記駆動角度は、0〜90度の範囲で変化される、請求項11に記載の摩擦試験機。
【請求項13】
当該摩擦試験機に接続され、前記変位測定手段により測定した前記従動面の変位の測定値と、前記荷重測定手段により測定した前記駆動面と前記従動面とに印加された荷重の計測値、および、前記変化させた駆動角度を入力して、各駆動角度における変位の変動が少なくなる結果を検出し、入力した結果を統計処理して前記駆動部と前記従動部との摩擦係数を算出する、演算処理装置を有する、請求項11または請求項12に記載の摩擦試験機。
【請求項14】
回転体に接続され、駆動部として機能するディスクと、
当該ディスクと接して前記ディスクの回転を摩擦力によって減速または停止させる、従動部として機能する摩擦手段とを有し、
前記摩擦手段は、少なくとも前記駆動部としての前記ディスクと摺動させられて変位する摩擦要素を含み、
当該摩擦要素は、当該摩擦要素の支持部が変形する方向が、前記ディスクの回転方向の接線方向と、前記駆動部の駆動面の駆動速度および当該駆動速度を変数とする摩擦係数によって規定される、φ≠0である角度φだけ傾斜して前記ディスクと摺動可能に配設されている制動装置。
【請求項15】
当該制動装置は、前記摩擦要素を駆動する駆動機構と、
制動制御手段を有し、
前記制動制御手段は、前記駆動部の駆動面の駆動速度を検出し、
当該駆動速度、および、当該駆動速度を変数とする摩擦係数によって算出される臨界駆動角度を算出し、当該算出した臨界駆動角度を前記駆動機構に指示し、
前記駆動機構は、前記制動制御手段から指示された前記臨界駆動角度に基づいて、前記摩擦要素の支持部が変形する方向を前記ディスクの回転方向の接線方向と、少なくとも前記臨界駆動角度だけ傾斜して前記ディスクと摺動可能に構成されている、請求項14に記載の制動装置。
【請求項16】
前記摩擦手段は、前記摩擦要素と、
前記摩擦要素を保持し、前記ディスクの少なくとも一方の面に固定して配置され、前記制動を行うとき、前記摩擦要素を前記ディスクに押し当てて前記ディスクの回転を制動する、摩擦要素保持部を有する、請求項14または請求項15に記載の制動装置。
【請求項17】
ワイパーアームと、該ワイパーアームにより駆動されるワイパーブレードと、該ワイパーブレードに固定されたワイパーゴムを備えたワイパーであって、
前記ワイパーブレード外端の回転円軌跡の接線と、前記ワイパーブレードの長手方向に垂直な方向とがなす角度が前記臨界駆動角度φc以上になるようにワイパーブレードをワイパーワームに取り付けたワイパー装置。
【請求項18】
請求項17に記載のワイパーブレードにおいて、該ワイパーブレードを長手方向に1乃至複数個所で折り曲げたことを特徴とするワイパー装置。
【請求項19】
請求項17に記載のワイパーブレードにおいて、該ワイパーブレードを長手方向の全体もしくは一部を湾曲させたことを特徴とするワイパー装置。
【請求項20】
一方の面に外部復元力が負荷する状態で、それぞれが面内の運動を生じる形態で2面を摺動させ、外部復元力と2面の間に作用する摩擦力との釣り合いを利用して、2面の間の摩擦係数を計測する方法において、
摺動の際、前記一方の面の摩擦振動を抑制するように、前記一方の面の運動を一方向に拘束しつつ、前記一方の面の運動可能な一方向と前記他方の面の運動方向とを所定角度で交差させる、ことを特徴とする摩擦係数の計測方法。
【請求項21】
前記所定角度は、前記一方の面の前記他方の面からの垂直効力、および前記一方の面の前記他方の面に対する相対速度に基づいて決定する、請求項20に記載の摩擦係数の計測方法。
【請求項22】
前記他方の面の運動は、往復直線運動である、請求項20または請求項21に記載の摩擦係数の計測方法。
【請求項1】
移動対向面と摩擦をしながら外部復元力により摩擦振動を行う物体にあって、物体の振動方向と前記移動対向面の移動方向とが所定角度範囲内で交差するように設定し、それにより摩擦振動を抑制することを特徴とする摩擦振動の抑制方法。
【請求項2】
摺動部における摩擦係数の相対速度依存性が負を示すことにより自励摩擦振動を生じる1自由度振動系システムにおいて、摺動部の摺動方向に対して横滑りを起こして、正の疑似的粘性減衰効果を生じさせることにより、自励摩擦振動を抑制することを特徴とする摩擦振動抑制方法。
【請求項3】
摺動して相対運動する第1部材と第2部材において、前記摺動方向と、前記第1部材もしくは前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、前記第1部材と前記第2部材の摺動により発生する摩擦振動を抑制する、請求項2に記載の摩擦振動抑制方法。
【請求項4】
摺動して相対運動する第1部材と第2部材において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、該摺動方向と、前記第1部材との摩擦によって前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第2部材に発生する摩擦振動を抑制する、請求項2に記載の摩擦振動抑制方法。
【請求項5】
摺動して相対運動する第1部材と第2部材において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、該摺動方向と、前記第2部材との摩擦によって前記第1部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第1部材に発生する摩擦振動を抑制する、請求項2に記載の摩擦振動抑制方法。
【請求項6】
前記駆動角度として、式(1)で規定される臨界駆動角度φc以上、または、当該臨界駆動角度に近似する角度とする、請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の摩擦振動抑制方法。
φc
=tan−1(α(V)・V)1/2 ・・・・・・・・・・(式1)
α(V)=−μ’(V)/μ(V)
ただし、Vは、前記第1部材と前記第2部材の摺動面における摩擦振動が無い場合の
相対速度(駆動速度)である。
μ(V)は、駆動速度Vにおける摩擦係数である。
μ’(V)は、前記第1部材と前記第2部材との相対速度Vrel=Vにおける
μ(Vrel)の微係数である。
【請求項7】
摺動して相対運動する第1部材と第2部材を備えた機械装置において、前記摺動方向と、前記第1部材もしくは前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、前記第1部材と前記第2部材の摺動により発生する摩擦振動を抑制する摩擦振動抑制構造を有する機械装置。
【請求項8】
摺動して相対運動する第1部材と第2部材を備えた機械装置において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、該摺動方向と、前記第1部材との摩擦によって前記第2部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第2部材に発生する摩擦振動を抑制する摩擦振動抑制構造を有する機械装置。
【請求項9】
摺動して相対運動する第1部材と第2部材を備えた機械装置において、前記第1部材を前記摺動方向に駆動し、前記第2部材との摩擦によって前記第1部材の支持部が変位する変位方向とがなす角度を駆動角度φとしたとき、該駆動角度を0<φ≦90にすることで、前記第1部材と前記第2部材の摺動により前記第1部材に発生する摩擦振動を抑制する摩擦振動抑制構造を有する機械装置。
【請求項10】
前記駆動角度として、式(1)で規定される臨界駆動角度φc以上、または、当該臨界駆動角度に近似する角度とする、請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の摩擦振動抑制構造を有する機械装置。
φc
=tan−1(α(V)・V)1/2 ・・・・・・・・・・(式1)
α(V)=−μ’(V)/μ(V)
ただし、Vは、前記第1部材と前記第2部材の摺動面における摩擦振動が無い場合の
相対速度(駆動速度)である。
μ(V)は、駆動速度Vにおける摩擦係数である。
μ’(V)は、前記第1部材と前記第2部材との相対速度Vrel=Vにおける
μ(Vrel)の微係数である。
【請求項11】
駆動面を備えた駆動部と、従動面を備えた従動部を備え、前記駆動面と前記従動面とを摺動させ、前記従動面の変位を計測することで摩擦係数を測定する摩擦試験機において、
前記駆動面と前記従動面に荷重を印加する荷重印加手段と、
当該印加した荷重を計測する荷重測定手段と、
前記駆動面を所定の範囲で移動させる駆動機構と、
前記従動面の変位を検出する変位測定手段と、
前記従動面を前記駆動部に接して支持することにより前記従動面の運動を一方向に拘束する、従動部支持手段と、
前記従動面の運動可能な一方向と前記駆動面の駆動方向とに所定の駆動角度を設けることができる駆動角度設定手段とを備えた、摩擦試験機。
【請求項12】
前記駆動角度は、0〜90度の範囲で変化される、請求項11に記載の摩擦試験機。
【請求項13】
当該摩擦試験機に接続され、前記変位測定手段により測定した前記従動面の変位の測定値と、前記荷重測定手段により測定した前記駆動面と前記従動面とに印加された荷重の計測値、および、前記変化させた駆動角度を入力して、各駆動角度における変位の変動が少なくなる結果を検出し、入力した結果を統計処理して前記駆動部と前記従動部との摩擦係数を算出する、演算処理装置を有する、請求項11または請求項12に記載の摩擦試験機。
【請求項14】
回転体に接続され、駆動部として機能するディスクと、
当該ディスクと接して前記ディスクの回転を摩擦力によって減速または停止させる、従動部として機能する摩擦手段とを有し、
前記摩擦手段は、少なくとも前記駆動部としての前記ディスクと摺動させられて変位する摩擦要素を含み、
当該摩擦要素は、当該摩擦要素の支持部が変形する方向が、前記ディスクの回転方向の接線方向と、前記駆動部の駆動面の駆動速度および当該駆動速度を変数とする摩擦係数によって規定される、φ≠0である角度φだけ傾斜して前記ディスクと摺動可能に配設されている制動装置。
【請求項15】
当該制動装置は、前記摩擦要素を駆動する駆動機構と、
制動制御手段を有し、
前記制動制御手段は、前記駆動部の駆動面の駆動速度を検出し、
当該駆動速度、および、当該駆動速度を変数とする摩擦係数によって算出される臨界駆動角度を算出し、当該算出した臨界駆動角度を前記駆動機構に指示し、
前記駆動機構は、前記制動制御手段から指示された前記臨界駆動角度に基づいて、前記摩擦要素の支持部が変形する方向を前記ディスクの回転方向の接線方向と、少なくとも前記臨界駆動角度だけ傾斜して前記ディスクと摺動可能に構成されている、請求項14に記載の制動装置。
【請求項16】
前記摩擦手段は、前記摩擦要素と、
前記摩擦要素を保持し、前記ディスクの少なくとも一方の面に固定して配置され、前記制動を行うとき、前記摩擦要素を前記ディスクに押し当てて前記ディスクの回転を制動する、摩擦要素保持部を有する、請求項14または請求項15に記載の制動装置。
【請求項17】
ワイパーアームと、該ワイパーアームにより駆動されるワイパーブレードと、該ワイパーブレードに固定されたワイパーゴムを備えたワイパーであって、
前記ワイパーブレード外端の回転円軌跡の接線と、前記ワイパーブレードの長手方向に垂直な方向とがなす角度が前記臨界駆動角度φc以上になるようにワイパーブレードをワイパーワームに取り付けたワイパー装置。
【請求項18】
請求項17に記載のワイパーブレードにおいて、該ワイパーブレードを長手方向に1乃至複数個所で折り曲げたことを特徴とするワイパー装置。
【請求項19】
請求項17に記載のワイパーブレードにおいて、該ワイパーブレードを長手方向の全体もしくは一部を湾曲させたことを特徴とするワイパー装置。
【請求項20】
一方の面に外部復元力が負荷する状態で、それぞれが面内の運動を生じる形態で2面を摺動させ、外部復元力と2面の間に作用する摩擦力との釣り合いを利用して、2面の間の摩擦係数を計測する方法において、
摺動の際、前記一方の面の摩擦振動を抑制するように、前記一方の面の運動を一方向に拘束しつつ、前記一方の面の運動可能な一方向と前記他方の面の運動方向とを所定角度で交差させる、ことを特徴とする摩擦係数の計測方法。
【請求項21】
前記所定角度は、前記一方の面の前記他方の面からの垂直効力、および前記一方の面の前記他方の面に対する相対速度に基づいて決定する、請求項20に記載の摩擦係数の計測方法。
【請求項22】
前記他方の面の運動は、往復直線運動である、請求項20または請求項21に記載の摩擦係数の計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−7737(P2013−7737A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−26716(P2012−26716)
【出願日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年4月22日 社団法人 日本トライボロジー学会発行の「トライボロジー会議予稿集 東京 2011−5」に発表
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年4月22日 社団法人 日本トライボロジー学会発行の「トライボロジー会議予稿集 東京 2011−5」に発表
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
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