説明

摩擦材用バインダー樹脂組成物、それを含む熱硬化性樹脂複合材料および摩擦材

【課題】 耐熱性が向上すると共に、摩耗量の急激な増大を抑制することができ、また、これらの特性に加え、良好な力学的特性を有し、かつ高温短時間で熱成形が可能な摩擦材用のバインダー樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)(a)アミノフェノール化合物とホルムアルデヒド類との縮合反応物および/または(b)2官能性フェノール化合物と2官能性アミン化合物とホルムアルデヒド類との縮合反応物から選ばれる1種または2種以上のポリベンゾオキサジン樹脂と、(B)無機粒子および無機・有機複合粒子から選ばれる1種または2種以上の粒子とを含むことを特徴とする摩擦材用バインダー樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材用バインダー樹脂組成物、それを含む熱硬化性樹脂複合材料および摩擦材に関する。さらに詳しくは、本発明は、耐熱性が向上すると共に、摩耗量の急激な増大を抑制することができ、また、これらの特性に加え、良好な力学的特性を有し、かつ高温短時間で熱成形が可能な摩擦材用バインダー樹脂組成物、それを含む熱硬化性樹脂複合材料および該複合材料を用いて得られた摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等のブレーキパッドに用いられるノンアスベスト系ブレーキ用摩擦材は、例えば、スチール、銅等の金属繊維、セラミック、カーボン等の無機繊維、アラミド繊維等の有機繊維等からなる基材に、黒鉛、硫化アンチモン、二硫化モリブデン等の潤滑材、膨潤性粘土鉱物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等の充填材、およびカシューダスト、セラミック粉、金属粉末等の摩擦調整材を配合し、かつこれらの成分にバインダー樹脂(結合材)を配合して十分攪拌混合後、加熱しつつ圧縮成形を行うことにより作製されている。
【0003】
そして、上記バインダー樹脂として、これまでフェノール樹脂やエポキシ樹脂が多用されてきた。しかしながら、フェノール樹脂を使用した摩擦材では、熱成形工程において、硬化剤のヘキサメチレンテトラミンに起因して発生するガスにより、ヒビ、フクレなどの成形不良が発生し、生産歩留まりが低下すると共に、ガスの主成分であるアンモニアによる環境汚染も懸念されている。また、エポキシ樹脂は、耐熱性が不十分であるという問題を有している。
【0004】
そこで、フェノール樹脂やエポキシ樹脂に変わる摩擦材のバインダー樹脂として、熱硬化過程でガスが発生せず、耐熱性、強度に優れる摩擦材を与えることのできるポリベンゾオキサジン樹脂の使用が試みられている。例えば耐熱性樹脂を結合材とし、補強繊維を基材、そして黒鉛、金属粉、無機充填材等よりなる摩擦材において、前記耐熱性樹脂がジヒドロベンゾオキサジン環を含む樹脂(ポリベンゾオキサジン樹脂)からなる摩擦材が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、ポリベンゾオキサジン樹脂は、高温における長時間成形が必要であり、生産性などの観点から、その硬化特性の改良が必要とされていた。この改良手段として、例えばジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂(ポリベンゾオキサジン樹脂)5〜30質量%及びノボラック型フェノール樹脂70〜95質量%からなることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、このような熱硬化性樹脂組成物は、硬化特性は改良されているものの、該組成物を用いた摩擦材においては、ポリベンゾオキサジン樹脂が本来有する耐熱性が十分に発揮されず、600℃の高温に置いた場合、熱分解が急激に進行するために摩擦材の摩耗量が急激に増大する。
【特許文献1】特開平8−74896号公報
【特許文献2】特開2003−206390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情のもとで耐熱性が向上すると共に、摩耗量の急激な増大を抑制することかでき、また、これらの特性に加え、良好な力学的特性を有し、かつ高温短時間で熱成形が可能な摩擦材用バインダー樹脂組成物、それを含む熱硬化性樹脂複合材料および該複合材料を用いて得られた摩擦材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、バインダー樹脂として、特定の構造を有する高分子量のポリベンゾオキサジン樹脂を含み、かつ無機粒子および無機・有機複合粒子から選ばれる1種または2種以上の粒子、好ましくはゾル−ゲル反応により得られた粒子を含む樹脂組成物により、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1) (A)(a)アミノフェノール化合物とホルムアルデヒド類との縮合反応物および(b)2官能性フェノール化合物と2官能性アミン化合物とホルムアルデヒド類との縮合反応物から選ばれる1種または2種以上のポリベンゾオキサジン樹脂と、(B)無機粒子および無機・有機複合粒子から選ばれる1種または2種以上の粒子とを含むことを特徴とする摩擦材用バインダー樹脂組成物、
(2) (B)成分が、ゾル−ゲル反応により得られた粒子である上記(1)項に記載の摩擦材用バインダー樹脂組成物、
(3) (B)成分が、一般式(1)
M(ORx−y …(1)
(式中、Rは炭素数1〜10の炭化水素基、Rは炭素数1〜6のアルキル基、MはSi、Ti、ZrまたはAlを示す。xはMの価数で、3または4を示し、yはMがSi、TiまたはZrの場合は0〜2の整数であり、Alの場合は0または1である。Rが複数ある場合、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のORは同一でも異なっていてもよい。)
で表される金属アルコキシド化合物の加水分解縮合物である上記(2)項に記載の摩擦材用バインダー樹脂組成物、
(4) (B)成分の平均粒径が10〜300nmである上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の摩擦材用バインダー樹脂組成物、
(5) (B)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計量に基づき、金属原子として1〜30質量%である上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の摩擦材用バインダー樹脂組成物、
(6) (A)ポリベンゾオキサジン樹脂の合成時、または合成反応終了時に、反応系に(B)成分を存在させる上記(1)〜(5)項のいずれか1項に記載の摩擦材用バインダー樹脂組成物、
(7) 上記(1)〜(6)項のいずれか1項に記載のバインダー樹脂組成物、繊維状補強材、潤滑材および摩擦調整材を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂複合材料、および
(8) 上記(7)項に記載の熱硬化性樹脂複合材料を用いて得られたことを特徴とする摩擦材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性が向上すると共に、摩耗量の急激な増大を抑制することかでき、また、これらの特性に加え、良好な力学的特性を有し、かつ高温短時間で熱成形が可能な摩擦材用バインダー樹脂組成物、それを含む熱硬化性樹脂複合材料および該複合材料を用いて得られた摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、本発明の摩擦材用バインダー樹脂組成物について説明する。
[摩擦材用バインダー樹脂組成物]
本発明の摩擦材用バインダー樹脂(以下、単にバインダー樹脂組成物と称することがある。)は、以下に示す(A)ポリベンゾオキサジン樹脂と、(B)無機粒子および無機・有機複合粒子から選ばれる1種または2種以上の粒子とを含む組成物である。
1.(A)ポリベンゾオキサジン樹脂
本発明のバインダー樹脂組成物において、(A)成分として用いられるポリベンゾオキサジン樹脂は、(a)アミノフェノール化合物とホルムアルデヒド類との縮合反応物(以下、ポリベンゾオキサジン樹脂Iと称する。)、および(b)2官能性フェノール化合物と2官能性アミン化合物とホルムアルデヒド類との縮合反応物(以下、ポリベンゾオキサジン樹脂IIと称する。)から選ばれる1種または2種以上からなる。
1−1.(a)ポリベンゾオキサジン樹脂
本発明における(a)ポリベンゾオキサジン樹脂Iは、アミノフェノール化合物とホルムアルデヒド類との縮合反応物である。
この縮合反応に用いるアミノフェノール化合物としては、例えば一般式(2)
【0011】
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基またはアルコキシ基、Rは単結合、メチレン基、エチレン基又はトリメチレン基を示し、mは0〜3の整数である。)
で表される化合物を挙げることができる。
【0012】
上記一般式(2)において、Rで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基を挙げることができ、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基を挙げることができる。
【0013】
は単結合、メチレン基、エチレン基またはトリメチレン基を示すが、これらの中で、反応性、耐熱性などの観点から、単結合、メチレン基およびエチレン基が好ましく、単結合がより好ましい。mは0〜3の整数を示すが、反応性および耐熱性などの観点から、mは0であることが好ましい。
【0014】
このアミノフェノール化合物において、ヒドロキシ基と、アミノ基またはアミノアルキル基の位置については、反応性の観点から、m−位またはp−位が好ましく、特にp−位が好ましい。
【0015】
ヒドロキシ基と、アミノ基またはアミノアルキル基がp−位にあるアミノフェノール化合物としては、例えばp−アミノフェノール、4−アミノ−3−メチルフェノール、4−アミノ−3−エチルフェノール、4−アミノ−3−n−プロピルフェノール、4−アミノ−3−イソプロピルフェノール、4−アミノ−3−メトキシフェノール、4−アミノ−3−エトキシフェノール、4−アミノ−3−n−プロポキシフェノール、4−アミノ−3−イソプロポキシフェノール、4−ヒドロキシベンジルアミン、4−ヒドロキシ−2−メチルベンジルアミン、2−エチル−4−ヒドロキシベンジルアミン、4−ヒドロキシ−2−n−プロピルベンジルアミン、4−ヒドロキシ−2−イソプロピルベンジルアミン、4−ヒドロキシ−2−メトキシベンジルアミン、2−エトキシ−4−ヒドロキシベンジルアミン、4−ヒドロキシ−2−n−プロポキシベンジルアミン、4−ヒドロキシ−2−イソプロポキシベンジルアミン、4−ヒドロキシフェネチルアミン、4−ヒドロキシ−2−メチルフェネチルアミン、2−エチル−4−ヒドロキシフェネチルアミン、4−ヒドロキシ−2−n−プロピルフェネチルアミン、4−ヒドロキシ−2−イソプロピルフェネチルアミン、4−ヒドロキシ−2−メトキシフェネチルアミン、2−エトキシ−4−ヒドロキシフェネチルアミン、4−ヒドロキシ−2−n−プロポキシフェネチルアミン、4−ヒドロキシ−2−イソプロポキシフェネチルアミンなどが挙げられる。
【0016】
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、反応性や耐熱性などの観点から、p−アミノフェノール、4−ヒドロキシベンジルアミンおよび4−ヒドロキシフェネチルアミンが好ましく、特にp−アミノフェノールが好適である。
【0017】
前記アミノフェノール化合物との縮合反応に用いるホルムアルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサンなどを挙げることができる。
【0018】
ヒドロキシ基とアミノ基またはアミノアルキル基がp−位にあるアミノフェノール化合物を1種用い、ホルムアルデヒド類と反応させた場合、下記一般式(3)で表される構造のポリベンゾオキサジン樹脂I−aが得られる。
【0019】
【化2】

(式中、R、Rおよびmは前記と同じであり、nは重合度を示す。)
また、前記アミノフェノール化合物を2種以上を用いた場合、例えばp−アミノフェノールと4−ヒドロキシフェネチルアミンとを用いた場合、下記一般式(4)で表される構造のポリベンゾオキサジン樹脂I−bが得られる。
【0020】
【化3】

(式中、pおよびqは、それぞれ重合度を示す。)
本発明のバインダー樹脂組成物においては、前記ポリベンゾオキサジン樹脂Iを1種用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
1−2.(b)ポリベンゾオキサジン樹脂II
本発明における(b)ポリベンゾオキサジン樹脂IIは、2官能性フェノール化合物と2官能性アミン化合物とホルムアルデヒド類との縮合反応物である。
【0021】
縮合反応に用いる2官能性フェノール化合物としては、例えば下記一般式(5)で表される化合物を挙げることができる。
【0022】
【化4】

上記一般式(5)において、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基またはアルコキシ基を示し、aおよびbは、それぞれ0〜3の整数を示す。炭素数1〜4のアルキル基およびアルコキシ基については、前記一般式(2)におけるRの説明で示したとおりである。また、反応性や耐熱性の観点から、aおよびbはいずれも0であることが好ましい。
【0023】
は単結合、−SO−、−SO−、−S−、−O−、−CO−、メチレン基、エチレン基またはイソプロピリデン基を示す。
【0024】
この一般式(5)で表される2官能性フェノール化合物としては、入手性、反応性および耐熱性などの観点から、例えばaおよびbが0で、Zが単結合、メチレン基またはイソプロピリデン基であるビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)などを好ましく挙げることができる。これらの中で、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが好適である。また、前記一般式(5)以外の2官能性フェノール化合物として、例えばハイドロキノンなどを用いることができる。
【0025】
これらの2官能性フェノール化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
縮合反応に用いる2官能性アミン化合物は、耐熱性の観点から、芳香族系のものが好ましい。
【0027】
この芳香族系2官能性アミン化合物としては、例えば、下記一般式(6)で表される化合物を挙げることができる。
【0028】
【化5】

上記一般式(6)において、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基またはアルコキシ基を示し、cおよびdは、それぞれ0〜4の整数を示す。炭素数1〜4のアルキル基およびアルコキシ基については、前記一般式(2)におけるRの説明で示したとおりである。また、反応性や耐熱性の観点から、cおよびdはいずれも0であることが好ましい。
【0029】
は単結合、−SO−、−SO−、−S−、−O−、−CO−、メチレン基、エチレン基またはイソプロピリデン基を示す。
【0030】
この一般式(6)で表される芳香族系2官能性アミン化合物としては、入手性、反応性および耐熱性などの観点から、例えばcおよびdが0で、Zが単結合、メチレン基またはイソプロピリデン基である4,4’−ジアミノジフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパンなどを好ましく挙げることができる。これらの中で、4,4’−ジアミノジフェニルメタンが好適である。また、その他芳香族系2官能性アミン化合物として、例えばp−フェニレンジアミンなどを用いることができる。
【0031】
前記の2官能性フェノール化合物および2官能性アミン化合物との縮合反応に用いるホルムアルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサンなどを用いることができる。
【0032】
2官能性フェノール化合物として、前記一般式(5)で表される化合物1種と、2官能性アミン化合物として、前記一般式(6)で表される芳香族系アミン化合物1種とを用い、ホルムアルデヒド類と反応させた場合、下記一般式(7)で表される構造のポリベンゾオキサジン樹脂IIが得られる。
【0033】
【化6】

(式中、Rは、下記一般式
【0034】
【化7】

で表される2価の基を示し、kは重合度を示す。R、R、R、R、Z、Z、a、b、cおよびdは前記と同じである。)
本発明のバインダー樹脂組成物においては、前記ポリベンゾオキサジン樹脂IIを1種用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
1−3.(A)ポリベンゾオキサジン樹脂の製造
<(a)ポリベンゾオキサジン樹脂I>
本発明における(a)成分のポリベンゾオキサジン樹脂Iは、前記一般式(2)で表されるアミノフェノール化合物とホルムアルデヒド類とを縮合反応させることにより製造することができる。
【0035】
この際、用いられるホルムアルデヒド類としては、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサンなどを挙げることができる。
【0036】
縮合反応は、前記一般式(2)で表されるアミノフェノール化合物1モルに対し、ホルムアルデヒド類を、好ましくは1.5〜2モルの割合で反応させるのがよい。
【0037】
反応は、適当な溶媒、例えばメタノールやエタノールなどの低級アルコール、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフランやジオキサンなどのエーテル類、塩化メチレンやクロロホルムなどの塩素化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、およびこれらの混合溶媒等を用い、50〜120℃程度、好ましくは60〜80℃の温度で加熱処理することにより行うことができる。反応終了後、固液分離し、乾燥することにより、あるいは減圧下で溶媒を留去させることにより、前記一般式(3)で表されるポリベンゾオキサジン樹脂Iが得られる。
<(b)ポリベンゾオキサジン樹脂II>
本発明における(b)成分のポリベンゾオキサジン樹脂IIは、例えば前記一般式(5)で表される2官能性フェノール化合物と、一般式(6)で表される芳香族系2官能性アミン化合物と、ホルムアルデヒド類とを縮合反応させることにより製造することができる。上記ホルムアルデヒド類については、前述したポリベンゾオキサジン樹脂Iの製造において、説明したとおりである。
【0038】
縮合反応は、例えば前記一般式(5)で表される2官能性フェノール化合物1モルに対して、前記一般式(6)で表される芳香族系2官能性アミン化合物を、好ましくは0.5〜1モルの割合で用い、さらにホルムアルデヒド類を、好ましくは2〜4モルの割合で用いて反応させるのがよい。
【0039】
反応は、適当な溶媒中において、50〜120℃程度、好ましくは60〜80℃の温度で加熱処理することにより、行うことができる。上記溶媒としては、前記ポリベンゾオキサジン樹脂Iの製造において説明したものを用いることができる。
【0040】
反応終了後、固液分離し、乾燥することにより、あるいは減圧下で溶媒を留去させることにより、前記一般式(7)で表されるポリベンゾオキサジン樹脂IIが得られる。
【0041】
このようにして得られたポリベンゾオキサジン樹脂IまたはIIは、下記の性状を有している。
【0042】
本発明で用いるポリベンゾオキサジン樹脂I、IIは、高温短時間でジヒドロベンゾオキサジン環を開環して自己架橋するため、熱硬化時間が短縮され、成形が容易である。
【0043】
また、従来のポリベンゾオキサジン樹脂は、180℃以上の高温で成形しようとすると、ポリベンゾオキサジン樹脂の分子鎖が熱分解してアニリンなどが放出されるが、本発明で用いるポリベンゾオキサジン樹脂は、180℃を超える高温成形、例えば250〜300℃程度の温度で成形してもアニリンなどの放出が認められない。また、このような高温成形することにより後硬化工程を省略することもできる。
2.(B)無機粒子および無機・有機複合粒子から選ばれる1種または2種以上の粒子
本発明のバインダー樹脂組成物において、(B)成分として用いられる無機粒子や無機・有機複合粒子は、前述したポリベンゾオキサジン樹脂I、II中に微分散して、該ポリベンゾオキサジン樹脂I、IIの耐熱性を向上させ、かつ摩耗量の急激な増大を抑制し得るものであればよく、特に制限はないが、以下に示す金属アルコキシド化合物のゾル−ゲル反応により得られた無機微粒子や無機・有機複合粒子が、粒子径、分散性およびポリベンゾオキサジン樹脂に対する相互作用などの観点から好ましい。
2−1.金属アルコキシド化合物
本発明において、金属アルコキシドとしては、例えば一般式(1)
M(ORx−y …(1)
で表される化合物を挙げることができる。
【0044】
前記一般式(1)において、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を示し、該炭化水素基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基またはビニル基が挙げられる。
【0045】
前記炭素数1〜10のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。このアルキル基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基などを挙げることができる。
【0046】
また、炭素数6〜10のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などが挙げられ、炭素数7〜10のアラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基などが挙げられる。
【0047】
は、炭素数1〜6のアルキル基を示し、この炭素数1〜6のアルキル基としては、前記Rの説明において示したものを挙げることができる。MはSi、Ti、ZrまたはAlを示す。xはMの価数で、3または4を示し、yはMがSi、TiまたはZrの場合は0〜2の整数であり、Alの場合は0または1である。Rが複数ある場合、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のORは同一でも異なっていてもよい。
【0048】
前記前記一般式(1)で表される金属アルコキシド化合物としてはy=0の場合、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン、並びにこれらに対応するテトラアルコキシチタンおよびテトラアルコキシジルコニウム、さらにはトリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリイソブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム、トリ−tert−ブトキシアルミニウムなどが挙げられる。
【0049】
y=1の場合、例えばメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのヒドロカルビルトリアルコキシシラン、並びにこれらに対応するヒドロカルビルトリアルコキシチタンおよびヒドロカルビルトリアルコキシジルコニウム、さらにはメチルジメトキシアルミニウム、メチルジエトキシアルミニウム、メチルジプロポキシアルミニウム、メチルジイソプロポキシアルミニウム、エチルジメトキシアルミニウム、エチルジエトキシアルミニウム、プロピルジエトキシアルミニウム、ブチルジメトキシアルミニウム、フェニルジメトキシアルミニウム、フェニルジエトキシアルミニウム、ビニルジメトキシアルミニウム、ビニルジエトキシアルミニウムなどが挙げられる。
【0050】
y=2の場合、ジメチルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、エチルフェニルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、エチルフェニルジエトキシシランなどのジヒドロカルビルジアルコキシシラン、並びにこれらに対応するジヒドロカルビルジアルコキシチタンおよびジヒドロカルビルジアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。
【0051】
本発明においては、これらの金属アルコキシド化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
1−2.ゾル−ゲル反応
前記金属アルコキシド化合物を用い、ゾル−ゲル反応により無機粒子または無機・有機複合粒子を形成させる。前記一般式(1)において、nが0の場合、ゾル−ゲル反応により無機粒子が形成され、nが1または2(Alではn=1;Si、Ti、Zrではn=1、2)の場合、ゾル−ゲル反応により、無機・有機複合粒子が形成される。
【0052】
このゾル−ゲル反応は、以下に示す方法により行うことができる。
【0053】
適当な極性溶媒中に、前記一般式(1)で表される金属アルコキシド化合物と水を加え、10〜100℃程度、好ましくは20〜60℃の温度にて、1〜50時間程度、好ましくは3〜12時間加水分解縮合反応を行う。金属アルコキシド化合物と水との使用割合については、金属アルコキシド化合物中のアルコキシ基1モルに対し、水を好ましくは1〜8モル、より好ましくは2〜4モルの割合で用いるのがよい。
【0054】
前記極性溶媒としては、例えばテトラヒドロフランや1,4−ジオキサンなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなどのエステル等を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0055】
なお、加水分解縮合反応時に、酸性触媒として酢酸、塩酸、シュウ酸、硝酸などを、アルカリ触媒として水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いてもよい。
【0056】
このようにして得られた無機粒子および無機・有機複合粒子から選ばれる1種または2種以上の粒子を、ポリベンゾオキサジン樹脂I、II中に微分散させるには、該ポリベンゾオキサジン樹脂I、IIの合成時に、反応系に前記無機粒子および無機・有機複合粒子から選ばれる1種または2種以上の粒子を存在させることが好ましい。
1−3.(B)成分の粒径、含有量
本発明のバインダー樹脂組成物において、(B)成分として含有する前述の無機粒子や無機・有機複合粒子の平均粒径は、分散性および効果の観点から、10〜300nmであることが好ましく、20〜100nmであることがより好ましい。
【0057】
また、当該(B)成分の含有量は、前述した(A)成分のポリベンゾオキサジン樹脂と当該(B)成分との合計量に基づき、金属原子として1〜30質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがより好ましい。この含有量が1質量%未満では、当該(B)成分を含む効果が十分に発揮されず、また30質量%を超えると、バインダー樹脂組成物の溶融粘度が高くなりすぎて成形性が低下する。
【0058】
次に、本発明の熱硬化性樹脂複合材料について説明する。
[熱硬化性樹脂複合材料]
本発明の熱硬化性樹脂複合材料(以下、単に複合材料と称することがある。)は、前述した摩擦材用バインダー樹脂組成物、繊維状補強材、潤滑材および摩擦調整材を含むことを特徴とし、摩擦材の成形材料として用いられる。
1.繊維状補強材
本発明の複合材料における繊維状補強材としては、有機繊維および無機繊維のいずれも用いることができる。有機繊維としては、高強度の芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維;デュポン社製、商品名「ケブラー」など)、耐炎化アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリレート繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができる。一方、無機繊維としては、チタン酸カリウム繊維、バサルト繊維、炭化珪素繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイトなどの他、アルミナシリカ系繊維などのセラミック繊維、ステンレス繊維、銅繊維、黄銅繊維、ニッケル繊維、鉄繊維などの金属繊維等を挙げることができる。これらの繊維状物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
2.潤滑材、摩擦調整材、その他フィラー
本発明の複合材料における潤滑材としては、特に制限はなく、従来摩擦材に潤滑材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この潤滑材の具体例としては、黒鉛、フッ化黒鉛、カーボンブラックや、硫化スズ、二硫化タングステン等の金属硫化物、さらにはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、窒化硼素などを挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
また、本発明の複合材料における摩擦調整材としては、特に制限はなく、従来摩擦材に摩擦調整材として使用されている公知のものの中から、任意のものを適宜選択することができる。この摩擦調整材の具体例としては、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化鉄などの金属酸化物;ケイ酸ジルコニウム;炭化ケイ素;銅、黄銅、亜鉛、鉄などの金属粉末類やチタン酸塩粉末等の無機摩擦調整材、NBR、SBR、タイヤトレッドなどのゴムダストや、カシューダストなど有機ダスト等の有機摩擦調整材を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
本発明の複合材料においては、補強材や摩擦調整材などのその他フィラーとして、膨潤性粘土鉱物を含有させることができる。この膨潤性粘土鉱物としては、例えばカオリン、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、雲母などが挙げられる。
【0061】
また、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウムなどを含有させることができる。
【0062】
なお、本発明の複合材料においては、前記の潤滑材、摩擦調整材およびその他フィラーの中で無機系フィラーは、当該複合材料中への分散性を良好なものとするために、有機化合物で処理されたフィラーを用いることができる。
【0063】
有機化合物で処理されたフィラーとしては、例えば膨潤性粘土鉱物を始め、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、アルミナ、ジルコニア、シリカ、アルミニウム粉、銅粉、亜鉛粉、黒鉛あるいは硫化スズ、二硫化タングステンなどの、有機化合物による処理物を挙げることができる。
【0064】
膨潤性粘土鉱物は層状構造を有し、有機化合物による処理によって、層間化合物を形成すると共に、層間が拡大し、層剥離が生じやすくなり、本発明の複合材料中への分散性が向上する。
【0065】
前記膨潤性粘土鉱物の処理に用いられる有機化合物としては、アミン類や4級アンモニウム塩などが挙げられる。ここで、アミン類としては、例えば炭素数1〜18の脂肪族アミンや芳香族アミンなどを用いることができる。脂肪族アミンの具体例としてはジエチルアミン、アミルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、ジドデシルメチルアミンの塩酸塩や臭酸塩などが挙げられ、芳香族アミンの具体例としては、アニリン、トルイジン、キシリジン、フェニレンジアミンなどが挙げられる。これらのアミン類の中では、特にアニリンが好適である。一方、4級アンモニウム塩としては、例えばジメチルジオクタデシルアンモニウムクロリド、オレイルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムクロリドなどを好ましく挙げることができる。
【0066】
前記の膨潤性粘土鉱物以外のフィラー、例えば炭酸カルシウム、硫酸バリウム、マグネシア、アルミナ、ジルコニア、シリカ、アルミニウム粉、銅粉、亜鉛粉、黒鉛あるいは硫化スズ、二硫化タングステンなどのフィラーの有機化合物による処理は、有機化合物として、炭素数10〜35程度の脂肪族または芳香族1級アミン、あるいは末端に1級アミン基を有するシランカップリング剤などを用いて行うことが好ましい。
【0067】
脂肪族または芳香族1級アミンとしては、例えばn−ドデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、n−オクタデシルアミン、n−ノナデシルアミン、p−tert−ブチルアニリン、p−オクチルアニリン、p−ドデシルアニリンなどが挙げられ、シランカップリング剤としては、例えば3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。これらの中で、特にn−ドデシルアミンが好適である。
【0068】
前記有機化合物によるフィラーの処理方法に特に制限はなく、当該有機化合物を融液の状態で、そのまま用いて処理する方法、あるいは適当な有機溶媒に当該有機化合物を溶解し、溶液の状態で処理する方法などを用いることができる。
【0069】
このようにして有機化合物により処理されたフィラーを当該複合材料中に含有させる方法に特に制限はなく、他の成分と共に溶融混練する方法を用いることができ、また分散性の観点から、ポリベンゾオキサジン樹脂の製造過程において混入することもできる。
【0070】
次に、本発明の摩擦材について説明する。
[摩擦材]
本発明の摩擦材は、前述の熱硬化性樹脂複合材料を用いて得られたことを特徴とする。
【0071】
本発明の摩擦材の成形材料として用いられる熱硬化性樹脂複合材料は、前述したように、高分子量のポリベンゾオキサジン樹脂IおよびIIから選ばれる1種または2種以上と、好ましくはゾル−ゲル反応により形成された無機粒子および無機・有機複合粒子から選ばれる1種または2種以上の粒子とを含むバインダー樹脂組成物を含有することから、熱分解特性が向上すると共に、摩耗量の急激な増大を抑制することができ、また、これらの特性に加え、良好な力学的特性を有する摩擦材を、高温短時間で熱成形することができる。
【0072】
本発明においては、前記熱硬化性樹脂複合材料を金型などに充填し、通常常温にて5〜30MPa程度の圧力で予備成形し、次いで温度150〜300℃、好ましくは230〜300℃、圧力10〜100MPa程度の条件で2〜10分間程度圧縮成形することにより、所望の摩擦材を製造することができる。
【0073】
本発明によれば、このように高温成形することにより、後加熱操作を省略することができる上、短時間で成形が完了するので、生産効率が高く、製造コストを下げることができ、かつ成形時に熱分解成分の放出が抑制される。
【実施例】
【0074】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0075】
なお、各例におけるバインダー樹脂組成物および摩擦材の諸特性は、以下の方法により求めた。
<バインダー樹脂組成物>
(1)耐熱性
各バインダー樹脂組成物を180℃で1時間、250℃で3時間加熱処理したのち、粉砕して作製した測定試料を、示差熱天秤[エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、機種名「TG/DTA6300」]にて、空気流量100mL、温度25〜800℃の条件で測定し、600℃の質量保持率を求め、フェノールノボラック樹脂の質量保持率を1として、指数表示した。
(2)ケイ素(Si)含有量
上記(1)と同様にして作製した各測定試料を、蛍光X線分析装置[リガク社製、機種名「ZSX PrimusII」]に付し、ケイ素含有量を測定した。なお、ケイ素含有量は、ポリベンゾオキサジン樹脂とフェニルトリエトキシシランの加水分解縮合物(固形分として)との合計量に基づく質量%である。
(3)バインダー樹脂組成物におけるフェニルトリエトキシシラン加水分解縮合物の平均粒径
各バインダー樹脂0.5gをS45C製の鉄板に挟み、200℃、荷重5tで4分間圧縮成形し、樹脂フィルムを作製した。
【0076】
樹脂フィルムより切片を切り出し、日立ハイテク(株)製HD−2300A走査透過電子顕微鏡でフェニルトリエトキシシラン加水分解縮合物を観察し、測定した粒径の分布から平均粒径を求めた。
<摩擦材>
(4)ロックウェル硬さ
熱成形後、および後加熱処理後の各試料について、JIS D 4421に準拠して、ロックウェル硬さを測定した。
(5)摩擦試験
各摩擦材について、フルサイズダイナモ試験機を用い、下記の条件で高負荷摩擦試験を行い、平均摩擦係数と摩擦材摩耗量を測定した。
【0077】
摩擦試験条件
初速度: 150km/h
終速度: 3km/h
減速度: 5m/s
制動開始ローター温度: 500℃
制動回数: 200回
なお、この[実施例]において用いるフェノールノボラック樹脂は、カシュー社製、商品名「2075」である。
比較例1
4つ口フラスコに、p−アミノフェノール300g、パラホルムアルデヒド176g、およびテトラヒドロフラン900gを投入し、還流下で6時間反応させた。次いで、反応液を真空オーブン中にて、100℃で10時間減圧乾燥したのち、粉砕処理して、バインダー樹脂Aを得た。
実施例1
ビーカーに、フェニルトリエトキシシラン80gと酢酸16gと蒸留水12gを投入し、40℃にて5時間攪拌したのち、蒸留水500mLで洗浄した。
【0078】
4つ口フラスコに、上記洗浄物とp−アミノフェノール300g、パラホルムアルデヒド176gおよびテトラヒドロフラン900gを投入し、還流下で6時間反応させた。次いで、反応液を真空オーブン中にて、100℃で10時間減圧乾燥したのち、粉砕処理して、バインダー樹脂組成物Bを得た。
実施例2
ビーカーに、フェニルトリエトキシシラン310gと酢酸64gと蒸留水48gを投入し、40℃にて5時間攪拌したのち、蒸留水1000mLで洗浄した。
【0079】
4つ口フラスコに、上記洗浄物とp−アミノフェノール300g、パラホルムアルデヒド176gおよびテトラヒドロフラン900gを投入し、還流下で6時間反応させた。次いで、反応液を真空オーブン中にて、100℃で10時間減圧乾燥したのち、粉砕処理して、バインダー樹脂組成物Cを得た。
比較例2
4つ口フラスコに、2,2−ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)200g、4,4’−ジアミノジフェニルメタン174g、パラホルムアルデヒド53gおよびテトラヒドロフラン900gを投入し、還流下で6時間反応させた。次いで、反応液を真空オーブン中にて100℃で10時間減圧乾燥したのち、粉砕処理してバインダー樹脂Dを得た。
実施例3
ビーカーに、フェニルトリエトキシシラン79gと酢酸16gと蒸留水12gを投入し、40℃にて5時間攪拌したのち、蒸留水500mLで洗浄した。
【0080】
4つ口フラスコに、上記洗浄物とビスフェノールA 200g、4,4’−ジアミノジフェニルメタン174g、パラホルムアルデヒド56gおよびテトラヒドロフラン900gを投入し、還流下で6時間反応させた。次いで、反応液を真空オーブン中にて、100℃で10時間減圧乾燥したのち、粉砕処理してバインダー樹脂組成物Eを得た。
実施例4
ビーカーに、フェニルトリエトキシシラン305gと酢酸63gと蒸留水47gを投入し、40℃にて5時間攪拌したのち、蒸留水1000mLで洗浄した。
【0081】
4つ口フラスコに、上記洗浄物とビスフェノールA 200g、4,4’−ジアミノジフェニルメタン174g、パラホルムアルデヒド56gおよびテトラヒドロフラン900gを投入し、還流下で6時間反応させた。次いで、反応液を真空オーブン中にて、100℃で10時間減圧乾燥したのち、粉砕処理して、バインダー樹脂組成物Fを得た。
比較例3
4つ口フラスコに、ビスフェノールA 200g、アニリン163g、パラホルムアルデヒド105gおよびメチルエチルケトン200gを投入し、40℃で1時間、50℃で1時間加熱攪拌したのち、還流下で4時間反応させた。次いで、0.06MPaで1時間減圧脱溶媒したのち、冷却・粉砕処理してバインダー樹脂Gを得た。
比較例4
ビーカーに、フェニルトリエトキシシラン83gと酢酸17gと蒸留水13gを投入し、40℃にて5時間攪拌したのち、蒸留水500mLで洗浄した。
【0082】
4つ口フラスコに、上記洗浄物とビスフェノールA 200g、アニリン163g、パラホルムアルデヒド105gおよびメチルエチルケトン200gを投入し、40℃で1時間、50℃で1時間加熱攪拌したのち、還流下で4時間反応させた。次いで、0.06MPaで1時間減圧脱溶媒したのち、冷却/粉砕処理してバインダー樹脂組成物Hを得た。
比較例5
ビーカーに、フェニルトリエトキシシラン323gと酢酸66gと蒸留水50gを投入し、40℃にて5時間攪拌したのち、蒸留水1000mLで洗浄した。
【0083】
4つ口フラスコに、上記洗浄物とビスフェノールA 200g、アニリン163g、パラホルムアルデヒド105gおよびメチルエチルケトン200gを投入し、40℃で1時間、50℃で1時間加熱攪拌したのち、還流下で4時間反応させた。次いで、0.06MPaで1時間減圧脱溶媒したのち、冷却・粉砕処理してバインダー樹脂Iを得た。
【0084】
以上、実施例1〜4のバインダー樹脂組成物、比較例1〜3のバインダー樹脂および比較例4〜5のバインダー樹脂組成物について、諸特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

実施例5〜8および比較例6〜11
表2に示す配合組成の各成分をミキサーで混合して、熱硬化性樹脂複合材料を調製した。この複合材料を予備成形型に投入し、常温、30MPaで圧縮して予備成形を行い、各予備成形体を作製した。
【0086】
次いで、各予備成形体と、予め接着剤を塗布したプレッシャープレートとを熱成形型にセットし、加熱圧縮成形を行い、各摩擦材を製造した。なお、成形条件は、次のとおりである。
・実施例5〜8および比較例6〜10
成形圧力: 50MPa
成形温度: 200℃
成形時間: 300秒
・比較例11
成形圧力: 50MPa
成形温度: 150℃
成形時間: 300秒
各摩擦材についての諸特性を表2に示す。
【0087】
【表2】

表2から、以下に示すことが分かる。
【0088】
高負荷摩擦試験において、実施例5および6の摩擦材は、対応する比較例6の摩擦材に比べて摩耗量が大幅に減少している。また実施例7および8の摩擦材は対応する比較例7の摩擦材に比べて摩耗量が大幅に減少している。
【0089】
一方、比較例6および7の摩擦材は、摩擦係数は実施例5、6および実施例7、8の摩擦材とほぼ同等であるが、摩耗量に改善は見られない。比較例6、7には、実施例5、6および実施例7、8と異なり、無機・有機複合粒子であるフェニルトリエトキシシランの加水分解縮合物が含まれておらず、補強効果および耐熱性向上効果がないためと思われる。
【0090】
また、比較例8、9、10は、バインダー樹脂が低分子量ポリベンゾオキサジン樹脂であって、成形性に劣り、摩擦材の硬度が低下したために、高温時の負荷に耐えられず、摩耗量が増加している。
【0091】
比較例11は、バインダー樹脂が従来のフェノールノボラック樹脂であり、耐熱性に劣るために摩耗量が大きい。
【0092】
以上の結果より、実施例5〜8の摩擦材は、高負荷摩擦時の耐摩耗性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の摩擦材用バインダー樹脂組成物は、熱分解特性が向上すると共に、摩耗量の急激な増大を抑制することができ、また、これらの特性に加え、良好な力学的特性を有する摩擦材を、高温短時間で熱成形することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)(a)アミノフェノール化合物とホルムアルデヒド類との縮合反応物および(b)2官能性フェノール化合物と2官能性アミン化合物とホルムアルデヒド類との縮合反応物から選ばれる1種または2種以上のポリベンゾオキサジン樹脂と、(B)無機粒子および無機・有機複合粒子から選ばれる1種または2種以上の粒子とを含むことを特徴とする摩擦材用バインダー樹脂組成物。
【請求項2】
(B)成分が、ゾル−ゲル反応により得られた粒子である請求項1に記載の摩擦材用バインダー樹脂組成物。
【請求項3】
(B)成分が、一般式(1)
M(ORx−y …(1)
(式中、Rは炭素数1〜10の炭化水素基、Rは炭素数1〜6のアルキル基、MはSi、Ti、ZrまたはAlを示す。xはMの価数で、3または4を示し、yはMがSi、TiまたはZrの場合は0〜2の整数であり、Alの場合は0または1である。Rが複数ある場合、複数のRは同一でも異なっていてもよく、複数のORは同一でも異なっていてもよい。)
で表される金属アルコキシド化合物の加水分解縮合物である請求項2に記載の摩擦材用バインダー樹脂組成物。
【請求項4】
(B)成分の平均粒径が10〜300nmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦材用バインダー樹脂組成物。
【請求項5】
(B)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計量に基づき、金属原子として1〜30質量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦材用バインダー樹脂組成物。
【請求項6】
(A)ポリベンゾオキサジン樹脂の合成時、または合成反応終了時に、反応系に(B)成分を存在させる請求項1〜5のいずれか1項に記載の摩擦材用バインダー樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のバインダー樹脂組成物、繊維状補強材、潤滑材および摩擦調整材を含むことを特徴とする熱硬化性樹脂複合材料。
【請求項8】
請求項7に記載の熱硬化性樹脂複合材料を用いて得られたことを特徴とする摩擦材。

【公開番号】特開2009−242530(P2009−242530A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89777(P2008−89777)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】