説明

摺動バルブ及びその製造方法、人体局部洗浄装置

【課題】引けが少なくなり、第1摺動部材の第1摺動部と第2摺動部材の第2摺動部との高い平面度を確保するのに有利な摺動バルブ及び摺動バルブの製造方法、人体局部洗浄装置を提供する。
【解決手段】摺動バルブ2は、第1摺動部21をもつ第1摺動部材20と、第1摺動部材20の前記第1摺動部21に対して摺動する第2摺動部26をもつ第2摺動部材25とを具備する。第1摺動部材20及び第2摺動部材25のうちの少なくとも一方は、ポリフェニレンサルファイド樹脂と充填材と複数の発泡細孔とを含む樹脂材料を基材として形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水等の液状物に触れる雰囲気で使用される摺動バルブ及びその製造方法、摺動バルブを搭載する人体局部洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体局部洗浄装置において、第1摺動部をもつ第1摺動部材と、第1摺動部材の第1摺動部に対して摺動する第2摺動部をもつ第2摺動部材とを具備する摺動バルブが使用されている。第1摺動部材の第1摺動部、第2摺動部材の第2摺動部は、水リークを抑制するために平面度が高いことが要請されている。このため従来、材料としては一般的にはセラミックスが採用され、研磨処理を施しているのが実情である。しかし大量生産を前提とする摺動バルブには不向きである。
【0003】
そこで、近年、アスペクト比が3以下または球状の充填材を含むポリフェニレンサルファイド樹脂を基材とする樹脂で形成された摺動バルブが開発されている(特許文献1)。ポリフェニレンサルファイド樹脂は熱収縮が少ないため、成形後の温度低下に起因する引けが発生しにくく、高い平面度を確保するのに有利である。
【0004】
更に、ガラス転移点が250℃以上の温度に、摺動面に分子量10000以下の4フッ化エチレンの薄膜を形成した水栓用弁装置が知られている(特許文献2)。また、ポリフェニレンサルファイド樹脂に充填材としてガラス状カーボン及び4フッ化エチレンを含有させることにより成形収縮時における異方性を無くした水栓用ディスクバルブが知られている。
【特許文献1】特開2001−152515号公報
【特許文献2】特許第2703040号
【特許文献3】特開平9−286916号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
産業界では、高い平面度を得るのに更に有利な摺動バルブが要請されている。
【0006】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、引けが少なくなり、第1摺動部材の第1摺動部と第2摺動部材の第2摺動部との高い平面度を確保するのに有利なポリフェニレンサルファイド樹脂を基材とする樹脂で形成された摺動バルブ及びその製造方法、人体局部洗浄装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)第1様相に係る摺動バルブは、第1摺動部をもつ第1摺動部材と、前記第1摺動部材の前記第1摺動部に対して摺動する第2摺動部をもつ第2摺動部材とを具備する摺動バルブにおいて、第1摺動部材及び第2摺動部材のうちの少なくとも一方は、ポリフェニレンサルファイド樹脂で形成されたベース樹脂と充填材と複数の発泡細孔とを含む樹脂材料で形成されているものである。
【0008】
第1摺動部材と第2摺動部材は、その第1摺動部と第2摺動部とが互いに摺動することによりバルブ流路を切り替えるものであり、その形状及び構造は特に限定されない。
【0009】
ベース樹脂を構成するポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)は、結晶性樹脂であり、機械的強度、耐衝撃性、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性、疲れ特性、耐クリープ性等が良好であり、摺動バルブの上記特性を向上させることができる。ポリフェニレンサルファイド樹脂は本来的に熱収縮が小さく、引けが少ない樹脂であるため、第1摺動部材の第1摺動部と第2摺動部材の第2摺動部との平面度を維持するのに有利である。更に、樹脂材料には充填材が配合されているため、引けが更に少なくなり、第1摺動部材の第1摺動部と第2摺動部材の第2摺動部との平面度を維持するのに一層有利である。更に樹脂材料には発泡細孔が含まれており、引けが更に一層少なくなり、第1摺動部材の第1摺動部と第2摺動部材の第2摺動部との平面度を維持するのに尚一層有利である。
【0010】
(2)第2様相に係る摺動バルブの製造方法は、第1摺動部をもつ第1摺動部材と、第1摺動部材の第1摺動部に対して摺動する第2摺動部をもつ第2摺動部材とを具備する摺動バルブの製造方法において、第1摺動部材及び第2摺動部材のうちの少なくとも一方は、ポリフェニレンサルファイド樹脂で形成されたベース樹脂と、充填材と、発泡剤とを含む混合物を形成する混合工程と、混合物を成形型のキャビティに注入固化させて固化の途中において発泡剤を発泡させる成形工程とを順に実施して形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
ベース樹脂を構成するポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)は、機械的強度、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、疲れ特性、耐クリープ性等が良好であり、摺動バルブの上記特性を向上させることができる。ポリフェニレンサルファイド樹脂は本来的に熱収縮が小さく、引けが少ない樹脂であるため、第1摺動部材の第1摺動部と第2摺動部材の第2摺動部との平面度を維持するのに有利である。更に混合物には充填材が配合されているため、引けが更に少なくなり、第1摺動部材の第1摺動部と第2摺動部材の第2摺動部との平面度を維持するのに一層有利である。更に混合物には発泡剤が含まれており、混合物を成形型のキャビティに注入固化させて固化の途中において発泡剤を発泡させるため、引けが更に少なくなり、第1摺動部材の第1摺動部と第2摺動部材の第2摺動部との平面度を維持するのに尚一層有利である。
【0012】
(3)第3様相に係る人体局部洗浄装置は、便器に取り付けられる基部と、基部に上下方向に揺動可能に枢支された便座と、基部に上下方向に揺動可能に枢支された便蓋と、基部に設けられお尻洗浄用の第1ノズルと、基部に設けられビデ洗浄用の第2ノズルと、基部に設けられお尻洗浄用の第1ノズルに洗浄水を供給するお尻洗浄形態とビデ洗浄用の第2ノズルに洗浄水を供給するビデ洗浄形態とを切り替える摺動バルブとを具備する人体局部洗浄装置において、摺動バルブは、第1摺動部をもつ第1摺動部材と、前記第1摺動部材の前記第1摺動部に対して摺動する第2摺動部をもつ第2摺動部材とを具備しており、第1摺動部材及び前記第2摺動部材のうちの少なくとも一方は、ポリフェニレンサルファイド樹脂で形成されたベース樹脂と充填材と複数の発泡細孔とを含む樹脂材料で形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
ベース樹脂を構成するポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)は、機械的強度、耐衝撃性、寸法安定性、耐熱性、耐薬品性、疲れ特性、耐クリープ性等が良好であり、摺動バルブの上記特性を向上させることができる。ポリフェニレンサルファイド樹脂は本来的に熱収縮が小さく、引けが少ない樹脂であるため、第1摺動部材の第1摺動部と第2摺動部材の第2摺動部との平面度を維持するのに有利である。更に、樹脂材料には充填材が配合されているため、引けが更に少なくなり、第1摺動部材の第1摺動部と第2摺動部材の第2摺動部との平面度を維持するのに一層有利である。更に樹脂材料には発泡細孔が含まれており、引けが更に一層少なくなり、第1摺動部材の第1摺動部と第2摺動部材の第2摺動部との平面度を維持するのに尚一層有利である。従って、摺動バルブは、水リークを抑制しつつ、お尻洗浄形態とビデ洗浄形態とを長期にわたり良好に切り替えることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、引けが少なくなり、摺動バルブを構成する第1摺動部材の第1摺動部の平面度と、摺動バルブを構成する第2摺動部材の第2摺動部との平面度とを維持するのに有利である。従って、第1摺動部材の第1摺動部および/または第2摺動部材の第2摺動部とを研磨する研磨処理を廃止または簡略化したとしても、第1摺動部材と第2摺動部材との間における水等の液状物のリークを抑えるのに有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
第1様相に係る摺動バルブは、第1摺動部をもつ第1摺動部材と、第1摺動部材の第1摺動部に対して摺動する第2摺動部をもつ第2摺動部材とを具備する。ここで、第1摺動部材及び第2摺動部材のうちの一方または双方は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)と充填材と複数の発泡細孔とを含む樹脂材料を基材として形成されている。なお、発泡細孔はリーク低減のためには連続気泡状であるよりも、独立気泡状であることが好ましい。
【0016】
第2様相に係る摺動バルブの製造方法によれば、第1摺動部をもつ第1摺動部材と、第1摺動部材の第1摺動部に対して摺動する第2摺動部をもつ第2摺動部材とを具備する。第1摺動部材及び第2摺動部材のうちの一方または双方は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)で形成されたベース樹脂と充填材と発泡剤とを含む混合物を形成する混合工程と、混合物を成形型のキャビティに注入固化させて固化の途中において発泡剤を発泡させる成形工程とを順に実施して形成されている。
【0017】
本発明に係るポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)としては架橋型でも良いし、直鎖型でも良い。好ましくは、混合物は摺動性に富む固体潤滑剤を含む。これにより摺動性が更に向上する。固体潤滑剤としては、フッ素樹脂、カーボン材料、二硫化モリブデンなどを例示できる。フッ素樹脂としては、4フッ化エチレン樹脂、4フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合樹脂等を例示できる。成形工程としては、射出成形、押出成形、圧縮成形等が採用されるが、一般的には射出成形が好ましい。
【0018】
本発明に係る製造方法によれば、好ましくは、成形工程後に、第1摺動部材と第2摺動部材とを一体的に組み付けて摺動バルブを形成する組付工程を実施する。この場合、引けが少なくなり、第1摺動部材の第1摺動部と第2摺動部材の第2摺動部との平面度を維持することができるため、第1摺動部材の第1摺動部、第2摺動部材の第2摺動部の平面度を向上させるために施す研磨処理を廃止することができる。場合によっては研磨処理を施したとしても、研磨処理を簡略化することができる。
【0019】
発泡剤としては粉末状で混合物に配合しても良いし、ペレット化して混合物に配合しても良い。好ましくは、発泡剤はペレット母材樹脂と共にペレット化されている。発泡剤のペレット母材樹脂としては、ポリエチレン樹脂等のように固体潤滑性に富む樹脂を主要成分とすることが好ましい。本発明に係る充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、合成繊維、無機フィラー等のうちの1種または2種以上を採用できる。無機フィラーとしてはタルク、カオリンクレー、マイカ、ケイ酸カルシウム、焼成クレー、アルミナ水和物、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等のうちの1種または2種以上が例示される。
【0020】
本発明に係る製造方法において、混合物の配合割合は、第1摺動部材及び第2摺動部材に要請される平面度等の特性に応じて適宜選択することができる。混合物の配合割合としては、混合物を100%としたときには、重量比で、充填材を5〜75%、7〜70%、殊に10〜65%にでき、ポリフェニレンサルファイド樹脂を10〜60%、12〜50%、殊に15〜40%にでき、フッ素樹脂等の固体潤滑剤を0%または0.01〜10%、殊に0.1〜5%にでき、発泡剤を0.1〜5%、殊に1〜3%にできる。この場合、発泡剤をペレット母材樹脂で固形粒化したペレットを用いたときには、混合物を100%としたときには、重量比で、当該ペレットは0.5〜10%、殊に1〜6%とすることができる。
【0021】
なお、製造方法における混合物の配合割合は、摺動バルブを構成する樹脂材料の組成割合に基本的には対応すると推察される。従って、本発明に係る摺動バルブを形成する樹脂材料によれば、重量比で、充填材を5〜75%、7〜70%、殊に10〜65%にでき、ポリフェニレンサルファイド樹脂を10〜60%、12〜50%、殊に15〜40%にでき、固体潤滑剤を0%または0.01〜10%、殊に0.1〜5%にできる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例は人体局部洗浄装置に使用される摺動バルブについて適用したものである。人体局部洗浄装置1は便器100の後部に搭載されるものであり、図1に示すように、操作盤10aを有する箱形状をなす基部10と、基部10に上下方向に揺動可能に枢支された便座11と、基部10に上下方向に揺動可能に枢支された便蓋12とを備えている。図2に示すように、人体局部洗浄装置1は、洗浄水で便座11に着座している人体の局部を洗浄するものであり、水道管に繋がるメインバルブ13と、水道の圧力を調整する圧力調整バルブ14と、洗浄水を収容するタンク15と、温水を生成するヒータ16と、お尻洗浄用の第1ノズルとして機能する伸縮可能な第1ノズルシリンダ17と、ビデ洗浄用の第2ノズルとして機能する伸縮可能な第2ノズルシリンダ18と、摺動バルブ2とを備えている。
【0023】
摺動バルブ2は、第1ノズルシリンダ17及び第2ノズルシリンダ18と、タンク15との間に配設されている。摺動バルブ2はハウジング2aをもち、お尻洗浄用の第1ノズルシリンダ17にタンク15の洗浄水を供給するお尻洗浄形態と、ビデ洗浄用の第2ノズルシリンダ18にタンク15の洗浄水を供給するビデ洗浄形態とを切り替える。
【0024】
図3は、第1摺動部21をもつディスク状の第1摺動部材20(平均厚み3ミリメートル)を示す。第1摺動部材20は複数の第1透孔22a〜22gを有する。図4は、第1摺動部材20の第1摺動部21に対して摺動する第2摺動部26をもつディスク状の第2摺動部材25(平均厚み3〜5ミリメートル)を示す。第2摺動部材25は複数の第2透孔27a,27bを有する。そして、第1摺動部材20と第2摺動部材25とを同軸的に且つ回転可能に積層させて組み付けることにより、摺動バルブ2を形成する。第1摺動部材20に対して第2摺動部材25が相対的に回動することにより、第1透孔22a〜22gと第2透孔27a,27bとの連通開口面積が調整される。これにより単位時間当たりの摺動バルブ2の給水流量が調整される。尚、操作盤10aのビデ洗浄スイッチ10bが操作されるときには、メインバルブ13が開放し、摺動バルブ2はビデ洗浄水路に切り替わる。操作盤10aのお尻洗浄スイッチ10cが操作されるときには、メインバルブ13が開放し、摺動バルブ2はお尻洗浄水路に切り替わる。ビデ洗浄スイッチ10b、お尻洗浄スイッチ10cの操作が終了すると、摺動バルブ2は初期位置にセットされる。
【0025】
第1摺動部材20及び第2摺動部材25の双方は、次のようにして形成されている。まず、混合工程において、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)で形成されたベース樹脂と、充填材としてのガラス繊維および無機フィラーと、発泡剤とを含む液状の混合物を形成した。更に成形工程では、図7にその概念を示す射出成形機300を用い、この液状の混合物を射出成形により成形型400のキャビティ401内に注入固化させ、固化の途中において発泡剤を発泡させつつ成形を行った。図7に示すように、射出成型機300は、シリンダ孔301及び吐出口302をもつシリンダ303と、シリンダ孔301内に回転可能に設けられた樹脂可塑化用のスクリュー304とを備えている。
【0026】
具体的には、混合工程では、ポリフェニレンサルファイド樹脂で形成されたベース樹脂と、充填材としてのガラス繊維及び無機フィラーと、固体潤滑剤(4フッ化エチレン樹脂)とを含む固形化された粒状の第1ペレット101(図6参照)を用いた。第1ペレット101は、径が2〜4ミリメートル程度、長さが4〜6ミリメートル程度とされている。第1ペレット101を100%としたとき、重量比で、充填材としてのガラス繊維及び無機フィラーは50〜70%を占める。更に、混合工程では、発泡剤をペレット母材樹脂と共にペレット化した固形化された粒状の第2ペレット102(図6参照)を用いた。第2ペレット102は、第1ペレット101と基本的には同じ程度のサイズを有しており、径が2〜4ミリメートル程度、長さが4〜6ミリメートル程度とされている。そして第1ペレット101及び第2ペレット102を所定の配合とした状態で、射出成型機300のホッパー305に装入し、射出成型機300のスクリュー304の回転により樹脂材料をシリンダ孔301内で可塑化させて溶融状態とし、その溶融物を成形型400のキャビティ401内に射出成形した。第1ペレット101及び第2ペレット102は、射出成形機300のシリンダ孔301内で内で可塑化され、均一分散される。なお、射出成形圧は約60MPa、射出成形温度は約335℃、成形型400の温度は約150℃とした。ポリフェニレンサルファイド樹脂の融点は一般的には280℃付近である。
【0027】
前記した発泡剤としては、ポリフェニレンサルファイド樹脂の融点付近で発泡温度を示すことを考慮し、ビステトラゾール・ジアンモニウムを用いた。第2ペレット102のペレット母材樹脂としては固体潤滑性に富む樹脂であるポリエチレン樹脂を採用した。混合物を100%としたときには、重量比で、第2ペレット102は4%とした。即ち、第1ペレット101は約96%、第2ペレット102は約4%配合した。
【0028】
上記したように第1摺動部材20及び第2摺動部材25を製造したら、成形工程後に、第1摺動部材20と第2摺動部材25とを積層させてハウジング2a内に組み付ける組付工程を実施する。これにより摺動バルブ2(図5参照)が完成される。なお、組付工程の前には、第1摺動部材20及び第2摺動部材25を研磨する研磨処理は行われていないため、製造コストの低減に有利となる。
【0029】
以上説明したように本実施例によれば、ベース樹脂を構成するポリフェニレンサルファイド樹脂は熱収縮が少なく、本来的に引けが少ない樹脂であるため、第1摺動部材20及び第2摺動部材25は引けが少ない。従って、第1摺動部材20の第1摺動部21、第2摺動部材25の第2摺動部26は本来的に引けが少ない。
【0030】
更に本実施例によれば、上記した混合物には充填材としてのガラス繊維及び無機フィラーが配合されているため、更に引けが少なくなり、故に、第1摺動部材20の第1摺動部21と第2摺動部材25の第2摺動部26との平面度を維持するのに有利である。
【0031】
更に本実施例によれば、上記した混合物には発泡剤が含まれており、混合物を成形型400のキャビティ401に注入固化させて固化の途中において発泡剤を発泡させて樹脂材料の内部に複数の発泡細孔を形成するため、更に引けが少なくなり、第1摺動部材20の第1摺動部21と第2摺動部材25の第2摺動部26との平面度を維持するのに一層有利である。
【0032】
本実施例によれば、上記したように第1摺動部材20の第1摺動部21と第2摺動部材25の第2摺動部26との平面度を維持することができるため、第1摺動部材20の第1摺動部21、第2摺動部材25の第2摺動部26に施す研磨処理を廃止することができる。
【0033】
研磨処理はコストアップを誘発するので、研磨処理の廃止または簡略化はコスト低減を図り得る。この結果、上記した研磨処理を廃止したとしても、第1摺動部材20の第1摺動部21と第2摺動部材25の第2摺動部26と平面度が高く確保され、第1摺動部材20の第1摺動部21と第2摺動部材25の第2摺動部26の間における水リークが抑制される。
【0034】
ところで発泡剤を第2ペレット102の形態として配合するのではなく、発泡剤を粉末の形態で混合物に添加することも考えられる。この場合、発泡剤を射出成形用の混合物内に配合することができるものの、粉末状の発泡剤の取り扱い性が必ずしも良好ではない。例えば、静電気等の影響を受けて粉末状の発泡剤の均一分散化には限界がある。この場合、上記した樹脂材料の平面度の改善には限界がある。この点について本実施例によれば、発泡剤をペレット母材樹脂と共にペレット化(マスターバッチ化)することにより固形化された粒状の第2ペレット102(図6参照)を用いているので、粉末粒子状の発泡剤が静電気等の影響で凝集化されて偏ってしまうことが抑制され、発泡剤を樹脂材料中に均一的に分散させ易くなり、第1摺動部材20及び第2摺動部材25の厚肉部における引けが抑制され、第1摺動部材20及び第2摺動部材25の平面度の改善に有利となる。
【0035】
図8は、摺動バルブ2を構成する樹脂材料の断面の概念を模式的に示す。図8に示すように、この樹脂材料は、発泡細孔を有しない厚み1〜30μm程度の表面層200と、発泡細孔201を有する内層202とを備えている。樹脂材料にはガラス繊維等の充填材が含有されている。更に、樹脂材料を顕微鏡観察したところ、発泡剤に起因する複数の微小な発泡細孔201(一般的には径が1〜4μm)が内層202に分散して形成されていることが確認された。これにより樹脂材料の表面における引けの低減に一層有利となると考えられる。発泡細孔201は独立気泡状である。なお、樹脂材料の表面層200には発泡細孔201は認められなかった。表面層200において内層202よりも発泡細孔が存在しにくいは、樹脂材料の表面層200を構成する樹脂が固化するときには、当該樹脂中の発泡ガスが早期に抜けるものの、樹脂材料の内層202を構成する樹脂が固化するときには、表面層200の固化が進行しているため、当該樹脂中の発泡ガスが抜けにくいためと推察される。
【0036】
(試験例)
試験例No.1〜No.4に係る樹脂材料を用いて第1摺動部材20及び第2摺動部材25を作製して試験を行った。試験例No.1及び試験例No.2は本発明品に相当する。試験例No.3は発泡剤ペレットを含まず、本発明品である試験例No.1に対する比較例に相当する。試験例No.4は発泡剤ペレットを含まず、本発明品である試験例No.2に対する比較例に相当する。第2ペレット102である発泡剤ペレットは、重量比で、発泡剤約5%、ポリエチレン約95%の配合比のものを用いた。
【0037】
射出成形する混合物の配合割合としては、混合物を100%としたときには、重量比で、試験例No.1では、基本的には、充填材を約60%、ポリフェニレンサルファイド樹脂を約31%、固体潤滑剤を約5%、発泡剤ペレットを4%にした。試験例No.3は試験例No.1と基本的には同様であり、但し発泡剤を含んでいない。試験例No.2では、基本的には、充填材を約30%、ポリフェニレンサルファイド樹脂を約61%、固体潤滑剤を約5%、発泡剤ペレットを4%にした。試験例No.4は試験例No.2と基本的には同様であり、但し発泡剤を含んでいない。
【0038】
平面度については、3次元測定器を用い、第1摺動部材20の第1摺動部21について4点測定して基準面を定義し、その4点を含む合計21ポイントを測定し、その平均値に基づいて平面度を算出した。第2摺動部材25の第2摺動部26についても同様に合計21ポイントを測定し、その平面度を測定した。図3及び図4に測定した21ポイントを符号を付して示す。
【0039】
更に、摺動試験を行い、モデル試験片について動摩擦係数を測定した。この場合、鈴木式摩擦摩耗試験機を用い、摺動荷重を40Nとし、摺動速度を55m/secとし、摺動環境温度を常温(23℃)とし、摺動雰囲気を水中とし、摺動時間を4時間とした。
【0040】
試験結果を表1に示す。表1から理解できるように、本発明品に相当する試験例No.1は、比較例である試験例No.3よりも平面度が向上しており、また動摩擦係数も小さくなっており、摺動円滑性が改善されていた。同様に、本発明品に相当する試験例No.2は、比較例である試験例No.4よりも平面度が向上していた。
【0041】
【表1】

【0042】
(他の実施例)
上記した実施例によれば、人体局部洗浄装置1の摺動バルブ2に適用したものであるが、これに限らず、水密性等の液密性が要請される環境で使用される摺動バルブ2に適用しても良いものである。上記した実施例によれば、第1摺動部材20及び第2摺動部材25の双方は、ポリフェニレンサルファイド樹脂と充填材と複数の発泡細孔とを含む樹脂材料を基材として形成されているが、これに限らず、第1摺動部材20及び第2摺動部材25のうちのいずれか一方のみは、ポリフェニレンサルファイド樹脂と充填材と複数の発泡細孔とを含む樹脂材料を基材として形成し、他方は、ポリフェニレンサルファイド樹脂と充填材とを含むものの、発泡細孔を含まない樹脂材料を基材として形成しても良いものである。そのほか、本発明は上記しかつ図面に示した実施例のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は人体局部洗浄装置等のように液密性が要請される環境で使用される摺動バルブに利用できる。更に摺動バルブを有する人体局部洗浄装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】人体局部洗浄装置を搭載している便器の側面図である。
【図2】人体局部洗浄装置の要部を示す斜視図である。
【図3】第1摺動部材の平面図である。
【図4】第2摺動部材の平面図である。
【図5】第2摺動部材を第1摺動部材に組み付けた摺動バルブを模式的に示す断面図である。
【図6】第1ペレット及び第2ペレットを模式的に示す概念図である。
【図7】射出成形装置の概念図である。
【図8】摺動バルブを構成する樹脂材料の内部の概念を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0045】
図中、1は人体局部洗浄装置、10は基部、11は便座、12は便蓋、17は第1ノズルシリンダ(第1ノズル)、18は第2ノズルシリンダ(第2ノズル)、2は摺動バルブ、20は第1摺動部材、21は第1摺動部、25は第2摺動部材、26は第2摺動部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1摺動部をもつ第1摺動部材と、前記第1摺動部材の前記第1摺動部に対して摺動する第2摺動部をもつ第2摺動部材とを具備する摺動バルブにおいて、
前記第1摺動部材及び前記第2摺動部材のうちの少なくとも一方は、
ポリフェニレンサルファイド樹脂で形成されたベース樹脂と充填材と複数の発泡細孔とを含む樹脂材料で形成されていることを特徴とする摺動バルブ。
【請求項2】
請求項1において、前記樹脂材料は固体潤滑剤を含むことを特徴とする摺動バルブ。
【請求項3】
第1摺動部をもつ第1摺動部材と、前記第1摺動部材の前記第1摺動部に対して摺動する第2摺動部をもつ第2摺動部材とを具備する摺動バルブの製造方法において、
前記第1摺動部材及び前記第2摺動部材のうちの少なくとも一方は、
ポリフェニレンサルファイド樹脂で形成されたベース樹脂と充填材と発泡剤とを含む混合物を形成する混合工程と、
前記混合物を成形型のキャビティに注入固化させて固化の途中において発泡剤を発泡させる成形工程とを順に実施して形成されていることを特徴とする摺動バルブの製造方法。
【請求項4】
請求項3において、前記混合物は固体潤滑剤を含むことを特徴とする摺動バルブの製造方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、前記成形工程後に、前記第1摺動部材及び前記第2摺動部材に対して研磨処理を行うことなく、前記第1摺動部材と前記第2摺動部材とを一体的に組み付ける組付工程を実施することを特徴とする摺動バルブの製造方法。
【請求項6】
請求項3〜請求項5のうちのいずれか一項において、前記発泡剤はペレット母材樹脂と共にペレット化されていることを特徴とする摺動バルブの製造方法。
【請求項7】
請求項6において、前記発泡剤のペレット母材樹脂はポリエチレン樹脂を主要成分とすることを特徴とする摺動バルブの製造方法。
【請求項8】
請求項3〜請求項7のうちのいずれか一項において、前記充填材はガラス繊維を含むことを特徴とする摺動バルブの製造方法。
【請求項9】
便器に取り付けられる基部と、前記基部に上下方向に揺動可能に枢支された便座と、前記基部に上下方向に揺動可能に枢支された便蓋と、前記基部に設けられお尻洗浄用の第1ノズルと、前記基部に設けられビデ洗浄用の第2ノズルと、前記基部に設けられお尻洗浄用の第1ノズルに洗浄水を供給するお尻洗浄形態とビデ洗浄用の第2ノズルに洗浄水を供給するビデ洗浄形態とを切り替える摺動バルブとを具備する人体局部洗浄装置において、
前記摺動バルブは、第1摺動部をもつ第1摺動部材と、前記第1摺動部材の前記第1摺動部に対して摺動する第2摺動部をもつ第2摺動部材とを具備しており、
前記第1摺動部材及び前記第2摺動部材のうちの少なくとも一方は、
ポリフェニレンサルファイド樹脂で形成されたベース樹脂と充填材と複数の発泡細孔とを含む樹脂材料で形成されていることを特徴とする人体局部洗浄装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−132091(P2006−132091A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319063(P2004−319063)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】