説明

摺動性改質剤、その製造方法および熱可塑性樹脂組成物

【課題】 取扱いが容易で、熱可塑性樹脂への分散性が高く、熱可塑性樹脂の摺動性、成形性を高めることができる摺動性改質剤およびその製造方法を提供すること。摺動性に優れ、表面の外観が良好な成形体を効率よく成形することができる熱可塑性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 粒子径が10μm以下でかつ分子量が100万未満であるポリテトラフルオロエチレン粒子と、ガラス転移温度が50℃以上80℃以下でかつ分子量が100万未満の重合体とを含有し、ポリテトラフルオロエチレン粒子の含量が重合体の含量に対して40質量%〜80質量%であり、粒子径が0.05μm〜1.0μmでかつ分子量が100万未満であるポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液と、粒子径が0.05μm〜1.0μmの重合体粒子の水性分散液との混合物を凝固して粉体化することによって得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂に摺動性を付与する摺動性改質剤およびその製造方法や、これを用いて、種々の分野に利用できる摺動性を有する熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
VTR等のAV機器、プリンタ等のOA機器をはじめとする種々の分野において、熱可塑性樹脂からなる部材や筐体などの成形体が広く用いられており、それらの成形体において要求される物性の一つとして摺動性が挙げられる。
【0003】
従来、熱可塑性樹脂の摺動性を付与する改質剤として、低分子量のポリテトラフルオロエチレンパウダー等が用いられていた。しかし、ポリテトラフルオロエチレンは一般的に熱可塑性樹脂との相溶性に欠けるために均一に分散しにくく、成形品の表面外観を損なうなどの問題があった。また、用いられるポリテトラフルオロエチレンパウダーは数μm〜数十μmであり、取扱性に難点があった。
【0004】
なお、数μmの微粒子状で低分子量のポリテトラフルオロエチレンファインパウダーは市販されており、例えば、ダイキン工業(株)製の「ルブロンL−2、L−4、L−5」、三井デュポンフロロポリマーズ(株)製の「TLP−10、TLP−10F−1」、旭硝子(株)製の「フルオンL−169、L−170」、住友スリーエム(株)製の「ダイニオンTF−9201、TF−9205、TF−9207」等が代表例として挙げられる。
【0005】
そこで、上記問題を解決することを目的とした摺動性改質剤として、フィブリル化能を有するポリテトラフルオロエチレンと有機重合体とを含有するものが開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−313783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された摺動性改質剤粉体は、フィブリル化したポリテトラフルオロエチレンを用いるため取扱性に問題があった。また、十分な摺動性を発揮するまで摺動性改質剤を熱可塑性樹脂に添加した場合、摺動性改質剤の分散性が低下し、得られる熱可塑性樹脂組成物の成形性が低くなるという欠点があった。
【0007】
本発明の課題は、取扱いが容易で、熱可塑性樹脂への分散性が高く、熱可塑性樹脂の摺動性、成形性を高めることができる摺動性改質剤およびその製造方法を提供することにある。また、摺動性に優れ、表面の外観が良好な成形体を効率よく成形することができる熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、小粒子径で低分子量のポリテトラフルオロエチレン粒子と特定の範囲のガラス転移点と特定の分子量とを有する重合体とを含み、ポリテトラフルオロエチレンの含有量が特定の範囲のものは、取扱いが容易であり熱可塑性樹脂に対する分散性に優れ、熱可塑性樹脂の成形性や表面外観を損なうことなく、かかる熱可塑性樹脂の成形体の摺動性を向上することができることの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、粒子径が10μm以下でかつ示差走査熱量計(DSC法)によって測定された分子量が100万未満であるポリテトラフルオロエチレン粒子と、ガラス転移温度が50℃以上80℃以下でかつ分子量が100万未満の有機重合体とを含有し、ポリテトラフルオロエチレン粒子の含量が全量中40質量%〜80質量%であることを特徴とする摺動性改質剤に関する。
【0010】
また、本発明は、粒子径が0.05μm〜1.0μmでかつ示差走査熱量計(DSC法)によって測定された分子量が100万未満であるポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液と、粒子径が0.05μm〜1.0μmの有機重合体粒子の水性分散液との混合物を凝固して粉体化することを特徴とする摺動性改質剤の製造方法や、粒子径が0.05μm〜1.0μmでかつ示差走査熱量計(DSC法)によって測定された分子量が100万未満であるポリテトラフルオロエチレン粒子を含む水性分散液の存在下で、単量体の重合により有機重合体を生成した後、凝固して粉体化することを特徴とする摺動性改質剤の製造方法に関する。
【0011】
また、本発明は、熱可塑性樹脂(A)と、請求項1記載の摺動性改質剤とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、摺動性改質剤が、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対してポリテトラフルオロエチレン粒子が0.5質量部〜50質量部となる範囲で含有されていることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の摺動性改質剤は、取扱いが容易であり、熱可塑性樹脂に対する分散性に優れるため、熱可塑性樹脂に均一に分散させることが容易であり、熱可塑性樹脂に優れた摺動性を付与することができる。
【0013】
また、本発明の摺動性改質剤の製造方法は、取扱いが容易で、分散性に優れ、熱可塑性樹脂に均一に分散させることが容易な摺動性改質剤を効率よく製造することができる。
【0014】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリテトラフルオロエチレンが熱可塑性樹脂中に均一に分散しているため、得られる成形品が優れた摺動性を有し、また、このように摺動性を十分に発揮するように熱可塑性樹脂に摺動性改質剤が添加されても、成形体の成形において成形性が損なわれることがなく、摺動性と成形性とがともに優れ、表面外観性が優れた成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の摺動性改質剤は、粒子径が10μm以下でかつ示差走査熱量計(DSC法)によって測定された分子量が100万未満であるポリテトラフルオロエチレン粒子と、ガラス転移温度が50℃以上80℃以下かつ分子量が100万未満の有機重合体とを含有し、ポリテトラフルオロエチレン粒子の含量が全量中40質量%〜80質量%であれば、特に限定されるものではない。
【0016】
本発明の摺動性改質剤に用いられるポリテトラフルオロエチレン粒子は粒子径が10μm以下である。ポリテトラフルオロエチレンの粒子径が10μm以下であると、本発明の摺動性改質剤が熱可塑性樹脂に添加されたとき凝集せず均一に分散でき、これを用いた熱可塑性樹脂組成物から成形される成形体において、外観がきわめて優れると同時に、摺動性が安定して発現する。ここで粒子径は、質量平均粒子径を示す。
【0017】
かかるポリテトラフルオロエチレン粒子を構成するポリテトラフルオロエチレンは、示差走査熱量計(DSC法)によって測定した分子量が100万未満である。DSC法によって測定された分子量が100万未満であることで、摺動性を十分に発揮することができる。
【0018】
ここで示すポリテトラフルオロエチレンの分子量は、示差走査熱量計による測定値から求めるDSC法により得られた値である。DSC法により得られる分子量は示差走査熱量計によりポリテトラフルオロエチレンの結晶化熱の測定を行い、下式に基づいて算出した数平均分子量である。
【0019】
Mn=2.1×1010×ΔHc-5.16
(ΔHc:DSC結晶化熱(cal/g))
ポリテトラフルオロエチレンの結晶化熱の測定に当たり、ポリテトラフルオロエチレン粒子が分散液中に存在する場合は、ポリテトラフルオロエチレン粒子の分散液を120℃で加熱し分散媒を除去した後に測定することができる。
【0020】
上記ポリテトラフルオロエチレンには、ポリテトラフルオロエチレンの特性を損なわない範囲で、共重合成分としてヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィンや、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレートなどの存在下で重合を行ない得られた共重合体が含まれていてもよい。共重合成分の含量は、テトラフルオロエチレンに対して10質量%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の摺動性改質剤に用いる有機重合体は、ガラス転移温度が50℃以上80℃以下である。有機重合体のガラス転移温度が50℃以上であれば、摺動性改質剤粒子が固結することがなく、貯蔵安定性に優れたものとなる。また、ガラス転移温度が80℃以下であれば、摺動性改質剤を製造する際に、ポリテトラフルオロエチレン単体の凝集物の生成を抑制することができ、取扱性および分散性に優れたものとなる。
【0022】
かかる有機重合体の分子量は、100万未満である。分子量が100万未満であれば、本発明の摺動性改質剤を熱可塑性樹脂に添加する際に分散性が低下するおそれがない。また、有機重合体の分子量は、1万以上が好ましい。1万以上であれば熱可塑性樹脂の成形性およびこれから得られる成形品の機械物性を低下させるおそれがない。ここで、有機重合体の分子量の測定はGPC法による値である。
【0023】
このような有機重合体の組成としては、有機重合体をホモポリマーとする単独モノマーからなる組成、また、有機重合体を共重合体とする複数単量体からなる組成のいずれであってもよい。かかる有機重合体を構成する単量体としては、具体例に、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、メタクリル酸トリデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体等を挙げることができる。これらの単量体は、単独であるいは2種以上選択して用いることができる。これらの単量体の中では、本発明の摺動性改質剤を熱可塑性樹脂に配合する際の分散性の観点から、熱可塑性樹脂に対して親和性を有する摺動性改質剤とすることができる有機重合体の単量体として、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体などが好ましい。
また、上記有機重合体として、本発明の摺動性改質剤をポリオレフィン樹脂などのSp値が低い熱可塑性樹脂に適用する場合には、親和性の観点から、炭素数5〜30のアルキル基または脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を30質量%以上含むものが好ましい。かかる(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、メタクリル酸トリデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシルなどを挙げることができる。
【0024】
本発明の摺動性改質剤において、ポリテトラフルオロエチレン粒子の含量は、摺動性改質剤中40質量%〜80質量%である。摺動性改質剤中のポリテトラフルオロエチレン粒子の含量が40質量%以上であれば、熱可塑性樹脂に十分な摺動性を付与することができる量の摺動性改質剤を含んでも、熱可塑性樹脂の成形性や他の物性を低下させるおそれが少ない。また、80質量%以下であれば、ポリテトラフルオロエチレン単体の凝集物の形成が抑制され、取扱性や分散性に優れ、熱可塑性樹脂組成物の他の物性を損ねることが抑制される。
【0025】
本発明の摺動性改質剤は、上記ポリテトラフルオロエチレンの機能を阻害しない範囲で、適宜、界面活性剤、紫外線劣化防止剤、酸化防止剤などを含有していてもよい。
【0026】
以上説明した摺動性改質剤は、ポリテトラフルオロエチレン粒子の粒子径が10μmを超えるドメインを形成していないため、取扱性に優れ、熱可塑性樹脂に適用されたとき分散性に優れ、熱可塑性樹脂中に均一に分散させることができ、これを用いて成形された成形体において優れた摺動性、外観性を備えたものとすることができる。
【0027】
次に、本発明の摺動性改質剤の製造方法について説明する。
【0028】
本発明の摺動性改質剤の製造方法は、粒子径が0.05μm〜1.0μmであるポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液と、粒子径が0.05μm〜1.0μmの有機重合体粒子の水性分散液との混合物を凝固して粉体化する方法(第1の製造方法)である。この本発明の摺動性改質剤の第1の製造方法によれば、比較的簡便な設備により、摺動性改質剤を得ることができる。
【0029】
本発明の摺動性改質剤の製造方法(第1の製造方法)において使用する、粒子径が0.05μm〜1.0μmでかつ示差走査熱量計(DSC法)によって測定された分子量が100万未満であるポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液は、粒子径が0.05μm〜1.0μmでかつ示差走査熱量計(DSC法)によって測定された分子量が100万未満であるポリテトラフルオロエチレン粒子が水などの媒体に分散されたものであれば、特に限定されるものではない。ポリテトラフルオロエチレン粒子の分子量は上述の示差走査熱量計を用いたDSC法により得られた値である。このようなポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液としては、テトラフルオロエチレンモノマーを含フッ素界面活性剤を用いた乳化重合あるいは懸濁重合して得られた反応系をそのまま適用することができるが、市販のもの、例えばダイキン工業(株)製の「ルブロンLD−6E、LDW−40E」等を利用することもできる。テトラフルオロエチレンの重合により得られるポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液には、その重合の際、得られるポリテトラフルオロエチレンの特性を損なわない範囲で、共重合成分として存在するヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレン、フルオロアルキルエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル等の含フッ素オレフィンや、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート等の含フッ素アルキル(メタ)アクリレートなどとの共重合体が含まれていてもよい。かかる共重合成分の含量は、テトラフルオロエチレンに対して10質量%以下であることが好ましい。
【0030】
また、ポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液中のポリテトラフルオロエチレン粒子として、粒子径が0.05μm〜1.0μmのものを使用することにより、得られる摺動性改質剤中のポリテトラフルオロエチレン粒子が10μm以下の粒子径を有するものとできる。粒子径が0.05μm以上のポリテトラフルオロエチレン粒子は容易に製造することができ、ポリテトラフルオロエチレン粒子の粒子径が1.0μm以下であれば、得られる摺動性改質剤中のポリテトラフルオロエチレン粒子の粒子径を10μm以下とすることが可能である。
【0031】
本発明の摺動性改質剤の製造方法において使用する有機重合体粒子の水性分散液としては、粒子径が0.05μm〜1.0μmの重合体の水性分散液であれば特に限定されるものではない。このような有機重合体粒子を含む分散液としては、上述の有機重合体の構成単位の単量体の1種または2種以上を組み合わせて、乳化剤の存在下で乳化重合や、ソープフリー乳化重合することにより得ることができる。かかる乳化重合に使用する乳化剤としては、アルキル硫酸(塩)、アルキルベンゼンスルホン酸(塩)、アルケニルスルホコハク酸(塩)、アルキルリン酸(塩)、アルケニルコハク酸(塩)等を挙げることができる。特に、ポリテトラフルオロエチレン含量の高い粉体が得られる点で、アルキルリン酸(塩)、アルケニルコハク酸(塩)が好ましく、アルケニルコハク酸塩がさらに好ましい。
【0032】
このような単量体の乳化重合により得られる有機重合体はガラス転移温度が50℃以上80℃以下でかつ分子量が100万未満のものである。かかる重合体を構成する単量体としては上述に例示の単量体の1種または2種以上を組み合わせたものを例示することができる。
【0033】
有機重合体粒子の水性分散液中における有機重合体粒子の粒子径は、0.05μm〜1.0μmとする。粒子径が0.05μm以上であれば、乳化重合の際に乳化剤の必要量を少量にすることができ、廃液処理の面で、工業的に有利である。また、凝固条件によっても摺動性改質剤中に残存する乳化剤が多量となることを抑制することができ、他の物性を低下させるおそれがない。粒子径が1.0μm以下であれば、有機重合体粒子によりポリテトラフルオロエチレン粒子を被覆することができる表面積を確保することができ、摺動性改質剤中のポリテトラフルオロエチレン含量を高くすることができる。
【0034】
上記ポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液と有機重合体粒子の水性分散液との混合物は、両者を混合することにより得ることができ、その混合割合は、目的物の摺動性改質剤中のポリテトラフルオロエチレンと有機重合体との含有割合に相当する割合となるような割合とすることができる。得られたこれらの分散液の混合物を凝固して粉体化する方法としては、混合物を塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等の金属塩や、硫酸等の強酸を含む熱水中に投入し電気二重層を破壊して凝固させ、その後に乾燥する方法を挙げることができる。
【0035】
また、本発明の摺動性改質剤の製造方法は、粒子径が0.05μm〜1.0μmでかつ示差走査熱量計(DSC法)によって測定された分子量が100万未満であるポリテトラフルオロエチレン粒子を含む水性分散液の存在下で、単量体の重合により有機重合体を生成した後、凝固して粉体化する方法(第2の製造方法)である。本発明の摺動性改質剤の第2の製造方法によれば、工程数を少なくできるので生産効率が高く、取扱性に優れた粉体を得ることができる。
【0036】
本発明の摺動性改質剤の製造方法(第2の製造方法)において使用する粒子径が0.05μm〜1.0μmでかつ示差走査熱量計(DSC法)によって測定された分子量が100万未満であるポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液は、上記本発明の摺動性改質剤の第1の製造方法において使用するポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液と同じものを使用することができる。また、第2の製造方法において用いる単量体としては、上記有機重合体を構成する単量体として例示したものと同様の単量体を使用することができる。これらの単量体を、ポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液存在下で重合して有機重合体を生成する方法としては、ポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液の存在下で行なう以外は上記第1の製造方法において重合体粒子の分散液を得る方法と同様の方法を挙げることができ、これらの方法によりガラス転移温度が50℃以上80℃以下でかつ分子量が100万未満の有機重合体を得ることができる。生成物の有機重合体とポリテトラフルオロエチレン粒子が存在する分散液を凝固してこれらの粉体を得る方法としては、上記第1の製造方法における凝固、粉体化と同じ方法を挙げることができる。
【0037】
次に、本発明の熱可塑性樹脂組成物について説明する。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、本発明の摺動性改質剤とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、摺動性改質剤を、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対してポリテトラフルオロエチレン粒子が0.5質量部〜50質量部となる範囲で含有する。
【0038】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に用いられる熱可塑性樹脂(A)としては、一般に知られている殆ど全ての熱可塑性樹脂が挙げられる。例えば、ポリスチレン(PS)、スチレン/アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN)等のスチレン系樹脂、ポリメチルメチクリレート(PMMA)などのアクリル系ビニル重合体、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)及びその変性品、芳香族ポリエステル樹脂(PET、PBT)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)などポリアミド樹脂(PA)等を挙げることができる。
【0039】
これらは2種以上の成分を併せて使用することもできる。更に、グラフトコポリマーのような相溶化剤を併用することもできる。
【0040】
上記熱可塑性樹脂組成物には、上述した熱可塑性樹脂(A)に加えて、ゴム成分(B)を配合することができる。
【0041】
このゴム成分(B)としては、コア−シェル型、もしくはエラストマー等のゴム質重合体が挙げられ、具体的には、メチルメタクリレート/ブタジエン/スチレン共重合体樹脂(MBS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)等のジエン系コアシェル型ゴム質重合体、アクリレート/スチレン/アクリロニトリル共重合体樹脂(ASA樹脂)、アクリレート/メチルメタクリレート共重合体樹脂等のアクリル系コアシェル型ゴム質重合体、シリコーン/アクリレート/メチルメタクリレート共重合体樹脂、シリコーン/アクリレート/アクリロニトリル/スチレン共重合体樹脂等のシリコーン系コアシェル型ゴム質重合体、エチレン/プロピレン共重合体(EPR)、エチレン/ブテン−1共重合体、エチレン/プロピレン/非共役ジエン共重合体(EPDM)、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン/アクリル酸エチル共重合体(EEA)などのオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン/エチレン/プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン/イソプレン/スチレン共重合体(SIS)等のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPE)、及びこれらの無水マレイン酸やグリシジルメタクリレート等による変性品、熱可塑性ポリエステル(TPEs)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、イソブテン/イソプレンゴム(IIR)、ポリイソプレン(IR)、天然ゴム(NR)、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体(NBR)、ブタジエン/スチレン共重合体(SBR)等が挙げられる。これらは2種以上併せて使用することもできる。
【0042】
このゴム成分(B)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して0〜100質量部が好ましい。100質量部以下であれば熱可塑性樹脂組成物が適度な硬度を有し密着性が過大となるのを抑制することができる。
【0043】
かかる熱可塑性樹脂組成物においては、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、ポリテトラフルオロエチレン粒子量が0.5〜50質量部になるように、摺動性改質剤を含有する。ポリテトラフルオロエチレン粒子量が0.5質量部以上であれば摺動性付与効果を得ることができ、ポリテトラフルオロエチレン粒子量が50質量部以下であれば得られる成形体の表面外観が良好である。
【0044】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本来の目的を損なわない範囲で、顔料や染料、ガラス繊維、金属繊維、金属フレーク、炭素繊維などの補強剤や充填剤、2,6−ジ−ブチル−4−メチルフェノール、4,4´−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)などのフェノール系酸化防止剤、トリス(ミックスド、モノおよびジニルフェニル)ホスファイト、ジフェニル・イソデシルホスファイトなどのホスファイト系酸化防止剤、ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネートジアステリアルチオジプロピオネートなどの硫黄系酸化防止剤、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ビス(2,2,6,6)−テトラメチル−4−ピペリジニル)などの光安定剤、ヒドロキシルアルキルアミン、スルホン酸塩などの帯電防止剤、エチレンビスステアリルアミド、金属石鹸などの滑剤、およびテトラブロムフェノールA、デカブロモフェノールオキサイド、TBAエポキシオリゴマー、TBAポリカーボネートオリゴマー、三酸化アンチモン、TPP、リン酸エステルなどの難燃剤などの各種添加剤を適宜配合することができる。このような各種添加剤を配合することにより、さらに望ましい物性、特性に調節することができる。
【0045】
このような熱可塑性樹脂組成物を製造する方法としては、摺動性改質剤と熱可塑性樹脂(A)と必要に応じてゴム成分(B)や添加剤を所定量配合し、ロール、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機等の通常の混練機で混練する方法を挙げることができる。その際、ペレット状にするのが好ましい。また、摺動性改質剤を高濃度に含むマスターペレットを作成し、そのマスターペレットを熱可塑性樹脂(A)と必要に応じてゴム成分(B)とで希釈して熱可塑性樹脂組成物を製造してもよい。
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形体の成形にはいずれの方法も使用することができ、例えば、射出成形、カレンダー成形、ブロー成形、押出成形、熱成形、発泡成形、溶融紡糸などの方法を使用して、射出成形品、シート、フィルム、中空成形体、パイプ、角棒、異形品、熱成形体、発泡体、繊維などの成形体を得ることができる。
【0047】
以上説明した本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に摺動性改質剤を容易に分散させることができ、ポリテトラフルオロエチレンが熱可塑性樹脂中で均一に分散しているため、成形時の滑性が高い上に、得られる成形体の摺動性に優れる。また、摺動性が十分得られるまで摺動性改質剤が添加されたものでも、成形性が損なわれない。したがって、摺動性と成形性とがともに優れる。さらに、摺動性改質剤によってポリテトラフルオロエチレンのマクロな凝集物の形成が抑制されているから、この熱可塑性樹脂組成物の成形品は表面外観性に優れる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。なお、以下の例において、「部」は質量部を示す。また、諸物性の測定は下記の方法による。
(1)固形分濃度
粒子分散液を170℃で30分乾燥して求めた。
(2)平均粒子径
粒子の分散液を蒸留水で希釈したものを試料として、米国MATEC社製CHDF2000型粒度分布計を用いて測定した。測定条件は、MATEC社が推奨する標準条件で行った。すなわち、専用の粒子分離用キャピラリー式カートリッジおよびキャリア液を用い、液性はほぼ中性、流速1.4ml/min、圧力約4000psi(2600KPa)および温度35℃を保った状態で、濃度約3%の希釈ラテックス試料0.1mlを測定に用いた。標準粒子径物質としては、米国DUKE社製の粒子径既知の単分散ポリスチレンを0.02μmから0.8μmの範囲内で合計12点用いた。
(3)分子量
ゲルパーミェーションクロマトグラフィー(島津製作所(株)製、LC−10Aシステム)において、カラム(昭和電工(株)製、K−806L)を用いて測定を行った。
(4)ガラス転移温度
DSC測定装置〔セイコー電子(株)製、DSC6200〕によって、昇温速度10℃/分で測定を行った。
(5−1)摺動性
75t射出成形機を用いて、外径25.6mm、内径20.0mmの中空円筒形の試験片を成形し、JIS K7218A法に基づきスラスト式摩擦摩耗試験を使用して測定した。相手材としては試験片と同じものを用いた。
【0049】
動摩擦係数の測定条件は室温23℃、湿度50%雰囲気中で荷重2kg、走行速度10cm/秒で測定した。
【0050】
動摩擦係数は次式で求められる。
【0051】
μ=f×r/L×R (−)
μ:動摩擦係数
f:ロードセルで検出した摩擦力
R:試料平均半径
r:軸中心ロードセル長さ
L:荷重
比摩耗量の測定条件は、室温23℃、湿度50%雰囲気中で荷重2kg、走行速度10cm/秒、走行距離8.64kmで測定した。
【0052】
比摩耗量は次式で求められる。
【0053】
A=△W/P×l×α (mm3/N・m)
A:比摩耗量
△W:サンプルの質量変化
P:荷重
l:走行距離
α:サンプルの密度
(5−2)摺動性
また、実施例3、比較例3のポリオレフィンエラストマーについては、60t射出成形機により100mm角、厚さ2mmの平板試験片を成形し、これをガラスと擦り合わせたときのビビリ音の発生のし易さにより、以下の2段階で評価した。
○:ビビリ音が発生しない
×:ビビリ音が発生する
(6)分散性
75t射出成形機を用いて試験片を成形し、その試験片の表面外観を下記の基準で評価し、分散性とした。
【0054】
○:平滑で外観が良好
△:少し表面の肌荒れが見られる
×:表面の肌荒れがひどく外観が悪い
(7)粉体の流動性測定:
JIS K6721に準拠した嵩比重計(筒井理化学器械(株)製)を用いて測定を行った。この測定においては、嵩比重計の漏斗に粉体を充填したのち、漏斗から粉体を10秒間流して、流れ出た粉体を計量して、粉体の流動性(g/10sec)の指標とした。10秒間に流れ出る粉体の量が多いほど、粉体の流動性が良好であることを意味している。実作業においても、流動性の良好な粉体は取扱性も良好であることを意味する。
(8)粉体の貯蔵安定性測定:
アクリル樹脂製の容器に粉体20gを充填して、5kgの重りを容器上に載せた状態で、オーブン内を50℃としたギヤオーブン(タバイ(株)製、GHPS−222)に入れて6時間放置し、その後取り出して室温にて冷却して、粉体のブロックを作製した。この粉体のブロックを目開きが12メッシュの篩に載せて、振動ふるい機(筒井理化学器械(株)製、ミクロ形電磁振動ふるい機M−2)で破砕し、破砕量が60%に到達した時点の時間を測定した。この破砕量が60%に到達する時間が短いほど、実際に粉体を貯蔵しておいた際に粉体が固まりにくく、固まった場合でも容易に粉体の塊を崩すことができることを意味する。その時間から、下記の基準で評価した。
【0055】
○:10秒未満
△:10秒以上、60秒未満
×:60秒以上
[実施例1−1]:摺動性改質剤(C−1)
攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに、蒸留水290部、ラテムルASK(花王製乳化剤、アルケニルコハク酸ナトリウム)2部、メタクリル酸メチル80部、アクリル酸ブチル20部、オクタンチオール0.1部を仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。次いで、過硫酸カリウム0.2部、蒸留水10部の混合液を加えラジカル重合を開始させた。発熱が終了した後、系内の温度を60℃で1時間保持して重合を完了させ、重合体粒子分散液(P−1)を得た。この重合体粒子分散液(P−1)は、固形分濃度が25.0質量%であり、粒子径分布は単一のピークを示し、質量平均粒子径は90nmであった。また、分子量は24万、ガラス転移温度は61℃であった。
【0056】
また、ポリテトラフルオロエチレン系粒子分散液としてダイキン社製「ルブロンLDW−40E」を用いた。「ルブロンLDW−40E」は、固形分濃度が40質量%であり、粒子径分布は単一のピークを示し、質量平均粒子径は200nmであり、DSC法による分子量は40万であった。
【0057】
重合体粒子分散液(P−1)280部(重合体70部)と「ルブロンLDW−40E」75部(ポリテトラフルオロエチレン粒子30部)とを攪拌機を備えたセパラブルフラスコに仕込み、室温で10分間攪拌した。一連の操作を通じて固形物の分離は見られず、均一な粒子分散液を得た。この粒子分散液を、塩化カルシウム5部を含む90℃の熱水700部に投入し、固形物を凝固し、分離させた後、濾布で濾過、乾燥して摺動性改質剤(C−1)100部を得た。粉体特性測定結果は、表1に記載した。
[実施例1−2]:摺動性改質剤(C−2)
アクリル酸ブチルの代わりにアクリル酸エチルを用いる点を除いては実施例1−1と同様に行い、重合体粒子分散液(P−2)を得た。固形分濃度は24.9質量%であり、粒子径分布は単一のピークを示し、質量平均粒子径は90nmであった。また、分子量は25万、ガラス転移温度は71℃であった。
【0058】
重合体粒子分散液(P−1)を用いる代わりに、重合体粒子分散液(P−2)を用いる点を除いては、実施例1−1と同様に摺動性改質剤(C−2)99部を得た。
[実施例1−3]:摺動性改質剤(C−3)
メタクリル酸メチルの代わりにスチレンを用いる点を除いては実施例1−1と同様に行い、重合体粒子分散液(P−3)を得た。固形分濃度は24.6質量%であり、粒子径分布は単一のピークを示し、質量平均粒子径は100nmであった。また、分子量は15万、ガラス転移温度は58℃であった。
【0059】
重合体粒子分散液(P−1)を用いる代わりに、重合体粒子分散液(P−3)を用いる点を除いては、実施例1−1と同様に摺動性改質剤(C−3)98部を得た。
[実施例1−4]:摺動性改質剤(C−4)
オクタンチオールを1部とする点を除いては実施例1−1と同様に行い、重合体粒子分散液(P−4)を得た。固形分濃度は25.0質量%であり、粒子径分布は単一のピークを示し、質量平均粒子径は90nmであった。また、分子量は3万、ガラス転移温度は61℃であった。
【0060】
重合体粒子分散液(P−1)を用いる代わりに、重合体粒子分散液(P−4)を用いる点を除いては、実施例1−1と同様に摺動性改質剤(C−4)99部を得た。
[実施例1−5]:摺動性改質剤(C−5)
攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに、蒸留水200部、ラテムルASK(花王製乳化剤、アルケニルコハク酸ナトリウム)1.4部、「ルブロンLDW−40E」75部(ポリテトラフルオロエチレン粒子30部)、メタクリル酸メチル56部、アクリル酸ブチル14部、オクタンチオール0.07部を仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。次いで、過硫酸カリウム0.14部、蒸留水10部の混合液を加えラジカル重合を開始させた。発熱が終了した後、系内の温度を60℃で1時間保持して重合を完了させた。固形分濃度が28.1質量%であった。重合体由来のガラス転移温度は61℃であった。この粒子分散液を、塩化カルシウム5部を含む90℃の熱水700部に投入し、固形物を凝固し、分離させた後、濾布で濾過、乾燥して摺動性改質剤(C−5)100部を得た。クロロホルム可溶分の分子量は24万であった。
[実施例1−6]:摺動性改質剤(C−6)
重合体粒子分散液(P−1)200部(重合体50部)と「ルブロンLDW−40E」125部(ポリテトラフルオロエチレン粒子50部)とを用いる点を除いては、実施例1
−1と同様に摺動性改質剤(C−6)100部を得た。
[比較例1−1]:摺動性改質剤(C−7)
重合体粒子分散液(P−1)360部(重合体90部)と「ルブロンLDW−40E」25部(ポリテトラフルオロエチレン粒子10部)とを用いる点を除いては、実施例1−1と同様に摺動性改質剤(C−7)100部を得た。
[比較例1−2]:摺動性改質剤(C−8)
重合体粒子分散液(P−1)40部(重合体10部)と「ルブロンLDW−40E」225部(ポリテトラフルオロエチレン粒子90部)とを用いる点を除いては、実施例1−1と同様に摺動性改質剤(C−8)92部を得た。
[比較例1−3]:摺動性改質剤(C−9)
メタクリル酸メチル98部、アクリル酸エチル2部とする点を除いては実施例2と同様に行い、重合体粒子分散液(P−5)を得た。固形分濃度は24.9質量%であり、粒子径分布は単一のピークを示し、質量平均粒子径は90nmであった。また、分子量は22万、ガラス転移温度は101℃であった。
【0061】
重合体粒子分散液(P−1)を用いる代わりに、重合体粒子分散液(P−5)を用いる点を除いては、実施例1−1と同様に摺動性改質剤(C−9)95部を得た。
[比較例1−4]:摺動性改質剤(C−10)
メタクリル酸メチル70部、アクリル酸ブチル30部とする点を除いては実施例1−1と同様に行い、重合体粒子分散液(P−6)を得た。固形分濃度は24.8質量%であり、粒子径分布は単一のピークを示し、質量平均粒子径は90nmであった。また、分子量は28万、ガラス転移温度は42℃であった。
【0062】
重合体粒子分散液(P−1)を用いる代わりに、重合体粒子分散液(P−6)を用いる点を除いては、実施例1−1と同様に摺動性改質剤(C−10)100部を得た。
[比較例1−5]:摺動性改質剤(C−11)
オクタンチオールを0.001部とする点を除いては実施例1−1と同様に行い、重合体粒子分散液(P−7)を得た。固形分濃度は25.0質量%であり、粒子径分布は単一のピークを示し、質量平均粒子径は90nmであった。また、分子量は200万、ガラス転移温度は61℃であった。
【0063】
重合体粒子分散液(P−1)を用いる代わりに、重合体粒子分散液(P−7)を用いる点を除いては、実施例1−1と同様に摺動性改質剤(C−11)100部を得た。
[比較例1−6]:摺動性改質剤(C−12)
ポリテトラフルオロエチレン系粒子分散液としてダイキン社製「D−30E(固形分濃度60質量%、分子量600万)」を50部(ポリテトラフルオロエチレン粒子30部)用いる以外は、実施例1−1と同様に行い、摺動性改質剤(C−12)100部を得た。
[実施例1−7]:摺動性改質剤(C−13)
攪拌翼、コンデンサー、熱電対、窒素導入口を備えたセパラブルフラスコに、蒸留水280部、ラテムルASK(花王製乳化剤、アルケニルコハク酸ナトリウム)2部、メタクリル酸2−エチルヘキシル65部、アクリル酸エチル5部、オクタンチオール0.07部
を仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。次いで、過硫酸カリウム0.14部、蒸留水10部の混合液を加えラジカル重合を開始させた。発熱終了後、80℃まで昇温し、過硫酸カリウム0.06部、蒸留水10部の混合液を加え、メタクリル酸メチル24部、アクリル酸エチル6部、オクタンチオール0.03部を仕込み、2段目のラジカル重合を行った。発熱が終了した後、系内の温度を80℃で1時間保持して重合を完了させ、重合体粒子分散液(P−8)を得た。この重合体粒子分散液(P−8)は、固形分濃度が25.0質量%であり、粒子径分布は単一のピークを示し、質量平均粒子径は100nmであった。また、分子量は30万、高い方のガラス転移温度は71℃であった。重合体粒子分散液(P−8)200部(重合体50部)と「ルブロンLDW−40E」125部(ポリテトラフルオロエチレン粒子50部)とを用いる点を除いては、実施例1−1と同様に摺動性改質剤(C−13)100部を得た。
【0064】
【表1】

【0065】
[実施例2]
表2、3に示すように熱可塑性樹脂(A)100質量部に対して、ゴム成分(B)及び上記摺動性改質剤を配合し、押出機により押し出して(ダイス温度は表中に記載)、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを、75t射出成形機を用いて成形(実施例2−1〜2−12)し(シリンダ温度は表中に記載)、スラスト式摩擦摩耗試験、表面傷付き性、表面外観を評価した。結果を表2、3に示す。
【0066】
[比較例2]
また、比較例2−1〜2−13として、表2、3に示すように、改質剤比較例1−1〜1−5、市販のポリテトラフルオロエチレンパウダー(ダイキン工業(株)製「ルブロン L−5F」:DSC法による分子量は50万)を添加したものを、実施例2−1〜2−12と同様に評価した。なお、「ルブロン L−5F」は、有機系重合体を含まない低分子量ポリテトラフルオロエチエン粒子である。評価結果を表2、3に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
表2、3中、熱可塑性樹脂(A)の略称は以下を示す。
PS:住友化学(株)「スミブライトM140」
PMMA:三菱レイヨン(株)「アクリペットVH」
PP:日本ポリケム(株)「ノバテックFY−6H」
PC:三菱エンプラ(株)「ユーピロンS2000F」
PBT:三菱レイヨン(株)「タフペットN1000」
ゴム質重合体(B)の略称は以下を示す。
SiR:三菱レイヨン(株)「メタブレンS2001」
EPR:三井化学(株)「タフマーP0680」
【0070】
〔実施例3〕
表4に示すようにポリオレフィンエラストマー(A)100質量部に対して、上記摺動性改質剤を配合し、押出機により押し出して(ダイス温度は表中に記載)、ポリオレフィンエラストマー組成物のペレットを得た。このペレットを60t射出成形機を用いて190℃で成形(実施例3−1〜3−2)し、表面傷付き性、表面外観を評価した。結果を表4に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
表4中、TPOはアドバンスドエラストマーシステムズ社「サントプレン123−40」を示す。
【0073】
結果から明らかなように、実施例1−1〜1−7の摺動性改質剤は粉体取り扱い性、貯蔵安定性に優れる。一方、比較例1−2〜1−5の摺動性改質剤は、粉体取り扱い性、貯蔵安定性の何れかが劣った。実施例2−1〜2−12の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の摺動性改質剤を含有しているので、摺動性に優れ、表面外観も良好であった。一方、比較例2−1では、PTFE含量の少ない摺動性改質剤を用いているために、十分な摺動性が発揮されない。比較例2−2、2−3では、PTFEが十分に被覆されていないために、分散性が低い。比較例2−5では、重合体の分子量の高い改質剤を用いているために、分散性にやや劣る。比較例2−5〜2−13では、重合体に被覆されていないPTFEを用いているために、分散性に劣ることがわかった。
また、実施例3−1〜3−2の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の摺動性改質剤を含有しているので、摺動性に優れ、表面外観も良好であった。特に比較例3−2では、炭素数5〜30のアルキル基を有するメタアクリル酸エステル単量体単位を含む有機重合体を用いているために、特に表面外観が良好であった。比較例3−1では、重合体に被覆されていないPTFEを用いているために、分散性に劣ることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が10μm以下でかつ示差走査熱量計(DSC法)によって測定された分子量が100万未満であるポリテトラフルオロエチレン粒子と、ガラス転移温度が50℃以上80℃以下でかつ分子量が100万未満の有機重合体とを含有し、ポリテトラフルオロエチレン粒子の含量が全量中40質量%〜80質量%であることを特徴とする摺動性改質剤。
【請求項2】
粒子径が0.05μm〜1.0μmでかつ示差走査熱量計(DSC法)によって測定された分子量が100万未満であるポリテトラフルオロエチレン粒子の水性分散液と、粒子径が0.05μm〜1.0μmの有機重合体粒子の水性分散液との混合物を凝固して粉体化することを特徴とする請求項1記載の摺動性改質剤の製造方法。
【請求項3】
粒子径が0.05μm〜1.0μmでかつ示差走査熱量計(DSC法)によって測定された分子量が100万未満であるポリテトラフルオロエチレン粒子を含む水性分散液の存在下で、単量体の重合により有機重合体を生成した後、凝固して粉体化することを特徴とする請求項1記載の摺動性改質剤の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(A)と、請求項1記載の摺動性改質剤とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、摺動性改質剤が、熱可塑性樹脂(A)100質量部に対してポリテトラフルオロエチレン粒子が0.5質量部〜50質量部となる範囲で含有されていることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−183019(P2006−183019A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116010(P2005−116010)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】