説明

摺動部材

【課題】基材にAg又はAg合金から形成したオーバレイ層を被着した摺動部材において、優れたなじみ性を得ることができる摺動部材を提供する。
【解決手段】基材2にAg又はAg合金から形成したオーバレイ層3を被着する。オーバレイ層のX線回折の強度が、1%≦(200)/{(200)+(111)+(220)+(311)+(222)}≦20%、且つ、1%≦(200)/(111)≦30%を満たすように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材にAg又はAg合金から形成したオーバレイ層を被着した摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部材、例えば自動車や一般産業機械の内燃機関用として使用されるすべり軸受には、優れた非焼付性、なじみ性、耐疲労性、耐摩耗性が要求されている。この内燃機関用のすべり軸受には、裏金層上にアルミニウム合金をライニングしたアルミニウム基軸受、裏金層上に銅合金をライニングした銅基軸受、更に、これらの合金層の表面上にオーバレイ層を設けた軸受があり、使用環境に応じて使い分けをしている。
【0003】
このオーバレイ層としては、例えば特許文献1のものや特許文献2のものがある。特許文献1のオーバレイ層は、非焼付性の向上を図るために、Agを主成分にして形成している。又、この特許文献1には、Agに、Cu,In,Sb,Al及びSnからなる群の少なくとも1種類を総量で5%以下含有させたオーバレイ層も開示されている。特許文献2のオーバレイ層は、非焼付性、耐疲労性及び耐摩耗性の向上を図るために、オーバレイ層の主成分となるAgに、粒径1μm以下の易硫化金属粒子と粒径0.5μm以下の固体潤滑性硬質粒子とを含有させて形成している。又、この特許文献2には、Agに、易硫化金属粒子、固体潤滑性硬質粒子及び炭化物硬質粒子を含有させてなるオーバレイ層も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−269580号公報
【特許文献2】特開2004−307960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近の内燃機関は、高速高出力化及び軽量化の傾向がある。しかし、内燃機関の高速高出力化行われると、油膜が薄くなり、焼付が生じ易くなる。又、軽量化が行われると、軸受ハウジングは変形し易く、疲労が生じ易くなる。そのため、特許文献1及び特許文献2に示すように、耐疲労性及び耐摩耗性に優れるAg又はAg合金からなるオーバレイ層を基材に被着させることが考えられる。
しかしながら、Ag又はAg合金からなるオーバレイ層は、例えばSnからなるオーバレイ層と比較して、硬く、なじみ性に劣る。
【0006】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、基材にAg又はAg合金から形成したオーバレイ層を被着した摺動部材において、優れたなじみ性を得ることができる摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、Ag又はAg合金から形成したオーバレイ層のミラー指数に着目して鋭意実験を重ねた。その結果、発明者は、Ag基オーバレイ層において、ミラー指数(200)面と(111)と(220)と(311)と(222)との合計に占める(200)の割合によって、オーバレイ層のなじみ性の優劣が変わることを解明した。即ち、X線回折強度において(200)と(111)と(220)と(311)と(222)との合計に占める(200)の割合が一定範囲内であると、Ag基オーバレイ層は軟らかくなり、なじみ性が良好になることを、本発明者は解明した。又、(200)のX線回折強度が(111)の一定割合の大きさであると、Ag基オーバレイ層は軟らかくなり、なじみ性が良好になることも、本発明者は解明した。尚、本明細書では、「ミラー指数(200)面」等の表現を単に「(200)」等で示す。
本発明者は、このような事情を基にして、基材にオーバレイ層を被着した摺動部材において、優れたなじみ性を得ることができる摺動部材の本発明をなすに至った。
【0008】
請求項1の発明では、基材にオーバレイ層を被着した摺動部材において、オーバレイ層を、Ag又はAg合金から形成し、オーバレイ層のX線回折の強度は、ミラー指数を用いたとき、1%≦(200)/{(200)+(111)+(220)+(311)+(222)}≦20%、且つ、1%≦(200)/(111)≦30%の強度比の値であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の摺動部材の基本形態の断面の例を、図1に示す。図1に示す摺動部材1は、例えば基材2にオーバレイ層3を被着して構成されている。本発明に言う基材2とは、オーバレイ層3を被着する部材であり、例えばアルミニウム基軸受合金層、銅基軸受合金層、その他の軸受合金層、軸受合金層を設けずに裏金層に相当する部材で相手材を支持する場合には当該裏金層相当部材、又は、軸受合金層若しくは裏金層上に設けた層(部材)である。図1に示す基材2は、鋼裏金層21に銅基軸受合金層22を設けて形成されている。オーバレイ層3は、Ag又はAg合金から形成されている。Ag合金としては、Ag−Sn、Ag−In、Ag−Zn、Ag−C等がある。オーバレイ層3には、その他に不可避な不純物が含有されていても良い。
【0010】
本発明のオーバレイ層3は、X線回折の強度を、1%≦(200)/{(200)+(111)+(220)+(311)+(222)}≦20%、且つ、1%≦(200)/(111)≦30%に設定している。この条件を満たすオーバレイ層3は、なじみ性が良好であることを本発明者は解明している。
【0011】
(220)と(111)と(200)と(311)と(222)との合計に占める(200)の割合(強度比の値)が0.20以下(20%以下)であり、かつ、(111)に占める(200)の割合が0.30以下(30%以下)の場合に、オーバレイ層のなじみ性が優れていた。そして、(200)の存在する割合の下限値として、(220)と(111)と(200)と(311)と(222)の合計に占める(200)の割合が0.01以上(1%以上)、かつ、(111)に占める(200)の割合が0.01以上(1%以上)の場合に、なじみ性が優れていた。
【0012】
(220)と(111)と(200)と(311)と(222)との合計に占める(200)の割合を0.15以下(15%以下)、(111)に占める(200)の割合を0.20以下(20%以下)、(220)と(111)と(200)と(311)と(222)の合計に占める(200)の割合を0.07以上(7%以上)、かつ、(111)に占める(200)の割合を0.10以上(10%以上)とすると、特に優れたなじみ性の摺動部材とすることができた。
【0013】
図2は、図1のオーバレイ層3の断面を顕微鏡(透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、イオン顕微鏡等)で観察し得られる画像に基づいて図示したものの例である。図2に示すように、本発明のAgの結晶粒の形状は、粒状(等軸晶)に近く、柱状の結晶粒、いわゆる柱状晶の割合は少ない。
【0014】
請求項2の発明では、オーバレイ層を構成する結晶粒において、所定面積観察視野において相対的に外接円が大きい10個の結晶粒のうち5個以上の結晶粒は、結晶粒の外周に接する最小の前記外接円の直径が内周に接する最大の内接円の直径の4倍以下の粒状晶であることを特徴とするものである。
【0015】
ここで、所定面積観察視野とは、結晶粒が10個以上入るような面積を持つ視野をいう。例えば、オーバレイ層の厚さ方向略中央位置を中心にした25μmの顕微鏡写真から上記を測定することができる。
【0016】
結晶粒の外周に接する最小の外接円の直径が内周に接する最大の内接円について、図3を参照して説明する。図3は、オーバレイ層3中に存在するAgの結晶粒の例を示している。本発明では、結晶粒の内周に接する最大の内接円の直径をR1と定義し、結晶粒の外周に接する最小の外接円の直径をR2と定義する。この直径R1と直径R2を用いて結晶粒の形状を定義した場合、直径R1と直径R2との差が小さいほど、結晶粒は粒状であることを示している。特に、結晶粒の直径R2が直径R1の4倍以下である場合、この結晶粒は比較的粒状をなしている。一方、本明細書でいう柱状晶とは、基材2の表面側から、ほぼ垂直方向に成長した結晶のことをいい、直径R2が直径R1の4倍超えのものをいう。
【0017】
柱状晶の割合が少ないオーバレイ層3、即ち直径R2が直径R1の4倍以下である粒状の結晶粒、いわゆる粒状晶が多いオーバレイ層3において、オーバレイ層3の上面から荷重が加えられると、この荷重は粒状の結晶粒によって受けられる。結晶粒が粒状であるので、これらの結晶粒は、加えられた荷重によって下方向及び左右方向に移動し易い。そのため、本発明のオーバレイ層3は、オーバレイ層3の上面に加えられた荷重によって変形し易い。よって、オーバレイ層3は、なじみ性に優れる。特に、所定面積観察視野内における相対的に外接円が大きい10個の結晶粒のうち、直径R2が直径R1の4倍以下である粒状晶が5個以上存在すると、なじみ性に有利である。
【0018】
直径R2が直径R1の4倍以下である粒状の結晶粒が7個以上存在することが好ましい。又、直径R2が直径R1の2倍以下である粒状の結晶粒が5個以上存在することが好ましい。
【0019】
尚、オーバレイ層中に存在する柱状晶の割合が多い場合、オーバレイ層中に縦方向に長い柱状晶が配置している確率も高くなる。この場合、オーバレイ層の上面に荷重が加えられると、荷重は多くの柱状晶の上端面で受けられる。そのため、柱状晶の上端面から縦方向(平面に対して垂直方向)に荷重が加わると、柱状晶は縦方向において縮まろうとする。しかし、柱状晶はその縦方向に強度を有しているので、縦方向に変形し難い。
【0020】
請求項3の発明では、オーバレイ層のX線回折の強度は、ミラー指数(200)面の強度比の値が、5%以上、且つ、15%以下であることを特徴としている。
(200)の強度比の値とは、全ミラー指数の各面のX線回折強度の値の合計に占める(200)のX線回折強度の値の割合の値である。即ち、オーバレイ層3のAg又はAg合金の結晶の各面のX線回折強度をR(h,k,l)としたとき、強度比の値はR(h,k,l)÷ΣR(h,k,l)で表される。分子のR(h、k、l)は強度比の値を求める面のX線回折強度であり、ΣR(h,k,l)は、各面のX線回折強度の総和である。尚、上記式で得られた強度比の値は、百分率で表すこともある。
【0021】
この(200)の強度比の値が、0.05以上(5%以上)、且つ、0.15以下(15%以下)であるときに、より良好ななじみ性を得ることができる。
オーバレイ層3中の(200)の割合は、例えばオーバレイ層3の形成に行われるめっきのめっき条件によって変わる。このめっき条件において、沃素及びシアンを実質含ませないめっき液を用いることによって、オーバレイ層3中の(200)の割合を少なくした。
摺動部材1のなじみ性を更に向上させる方法として、オーバレイ層3になじみ性に優れる被覆層を被着することが考えられる。
【0022】
請求項4の発明では、オーバレイ層に該オーバレイ層よりも硬さが低い被覆層を被着したことを特徴とするとするものである。
図4に、オーバレイ層3に被着層4を被着した摺動部材1の例を示す。被覆層4は、Agよりも硬さが低い材料、例えばBi、Bi合金、Sn、Sn合金等で形成されている。オーバレイ層3に、このオーバレイ層3よりも硬さが低い被覆層4を被着した場合、被覆層4の上面に加えられた荷重は、被覆層4及びオーバレイ層3で受けられる。オーバレイ層3及び被覆層4は、硬さが低いので、容易に変形する。これによって、なじみ性が更に向上する。
【0023】
請求項5の発明では、被覆層を、Bi又はBi合金から形成したことを特徴とするとするものである。
Bi又はBi合金から形成された被覆層は、Ag又はAg合金から形成されたオーバレイ層との接着性を高くすることができ、優れたなじみ性を有する内燃機関用すべり軸受として用いる場合に非常に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の摺動部材の断面図
【図2】図1中のオーバレイ層を拡大して示す図
【図3】オーバレイ層中の結晶粒を示す図
【図4】摺動部材のオーバレイ層に被覆層を被着した断面図
【図5】なじみ試験(シム噛み試験)に用いられる試料片を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明の実施形態の摺動部材1は、図1に示すように鋼からなる裏金層21上に銅基軸受合金層22が設けられ、この銅基軸受合金層22上にAgからなるオーバレイ層3が設けられた構造である。オーバレイ層3上には、図4に示すようにBi基からなる被覆層4或いはSn基からなる被覆層4が設けられる場合もある。そして、本発明のオーバレイ層3の効果を確認するために、表1に示す試料(実施例1〜11及び比較例1〜6)を製作し、なじみ性及び接着性を確認する試験を行った。
【0026】
【表1】

【0027】
試料の製法を述べると、まず、鋼裏金上に銅合金層をライニングしてバイメタルを製造し、このバイメタルを半円筒状又は円筒状に成形した後、軸受合金層の表面をボーリング加工して表面仕上げした。次に、半円筒状の成形物を電界脱脂及び酸による表面洗浄を行った。
【0028】
その後、実施例1〜実施例11では、表2に示すAgめっき工程1を実行し、Ag単体金属からなるオーバレイ層を形成した。
実施例6〜10では、Agめっき工程1後、表6に示すBiめっき工程を実行し、オーバレイ層上にBi単体金属(実施例6〜9)及び2質量%のSnを含むBi合金(実施例10)からなる被覆層を形成した。
実施例11は、Agめっき工程1後、表7に示すSnめっき行程を実行し、オーバレイ層上にSn単体金属からなる被覆層を形成した。
【0029】
比較例1及び比較例4では、半円筒状の成形物を電界脱脂及び酸による表面洗浄を行った後、表3に示すAgめっき工程2を実行し、Ag単体金属からなるオーバレイ層を形成した。比較例4では、Agめっき工程2後、表6に示すBiめっき工程を実行し、オーバレイ層上にBi単体金属からなる被覆層を形成した。
【0030】
比較例2及び比較例5では、半円筒状の成形物を電界脱脂及び酸による表面洗浄を行った後、表4に示すAgめっき工程3を実行し、Ag単体金属からなるオーバレイ層を形成した。比較例5では、Agめっき工程3後、表6に示すBiめっき工程を実行し、オーバレイ層上にBi単体金属からなる被覆層を形成した。
【0031】
比較例3及び比較例6では、半円筒状の成形物を電界脱脂及び酸による表面洗浄を行った後、表5に示すAgめっき工程4を実行し、Ag単体金属からなるオーバレイ層を形成した。比較例6では、Agめっき工程4後、表6に示すBiめっき工程を実行し、オーバレイ層上にBi単体金属からなる被覆層を形成した。
【0032】
【表2】

【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
【表7】

【0038】
このようにして得た試料(実施例1〜11及び比較例1〜6)のオーバレイ層について、X線回折を行い、ミラー指数の各面の強度を得た。表1中の「強度比の値」の「A」は、(200)/{(200)+(111)+(220)+(311)+(222)}の値を、百分率で表している。表1中の「B」は、(200)/(111)の値を、百分率で表している。表1中の「C」は、全ミラー指数の各面のX線回折強度の値の合計に占める(200)のX線回折強度の値の割合の値を、百分率で表している。
【0039】
得られた試料のオーバレイ層は、顕微鏡、例えば透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、FIB−SIM(Foucs Ion Beam−走査イオン顕微鏡)、又はEBSP(電子後方散乱解析像法)等で観察できる。本実施の形態では、結晶粒の大きさは、オーバレイ層の周方向及び厚さ方向略中央位置近辺での5μm×5μmの顕微鏡写真を測定した。表1中の「層厚」は、得られた試料の断面を上記の顕微鏡で撮影し、撮影した断面の画像から層の厚さを測定した。
【0040】
(1)なじみ性試験(シム噛み試験)
以上のようにして得た実施例1〜11及び比較例1〜6に対して行ったなじみ性を確認するために、シム噛み試験を行った。シム噛み試験の試験条件を表8に示し、試料の形状を図5に示す。シム噛み試験では、各試料(実施例1〜11及び比較例1〜6)の外周面の中央に図5に示すように2mm×所定のシム厚(10μm及び30μm)の金属製の板(シム)を取付け、シム噛み試験用試料を製作した。そして、各シム噛み試験用試料を回転荷重試験機の台に取付けた。シム噛み試験用試料を台に取付けると、シム噛み試験用試料の内周面のうちシムが取付けられている部分に対応する領域が内周側に突出する。突出する量は、シム厚に比例する。そして、表8に示す試験条件で回転荷重試験機の試験軸を回転させ、このときのシム噛み試験用試料の外周面でシムの中心から20°周方向にずれた位置の温度を測定した。本実施形態のシム噛み試験では、30MPa、7000rpmまで荷重と回転数を上げ、その時点(試験開始)から試料背面温度の変動が2℃/秒を超えるようになる時点(試験終了)までの時間を測定している。
【0041】
このシム噛み試験では、シムを取付けた部分に対応する領域が内周側に突出するので、突出している部分が試験軸に接触し易くなる。なじみ性が良好な試料であれば、シム噛み試験用試料の表面が試験軸の表面に倣って変形する。そのため、シム噛み試験用試料の表面に供給されたオイルはシム噛み試験用試料の表面に広がり易くなる。これにより、シム噛み試験用試料と試験軸との接触による摩擦熱の発生は抑制され、シム噛み試験用試料の外周面の温度は上昇し難くなる。
【0042】
【表8】

【0043】
(2)接着性試験
接着性試験では、まず、各試料(実施例6〜11及び比較例4〜6)と同一の構成であり、且つ大きさを20mm×50mmにした試料片を用意した。次に、エポキシ樹脂系接着剤で試験片の被覆層表面と円柱状の鉄棒(直径8〜10mm)とを接着し、硬化させる。硬化後、接着部からはみ出た接着剤を除去し、この後、5mm/minで引っ張り試験を行う。この剥がれた時の引っ張り力を、円柱状鉄棒の断面積で割る。これにより、被覆層とオーバレイ層との接着性の効果を確認した。
【0044】
表1から理解されるように、実施例1〜11は、比較例1〜6に比べ、なじみ性に優れると共に、良好な接着性を有している。
まず、なじみ性試験(シム噛み試験)の結果について説明する。
【0045】
実施例1〜11は、「強度比の値」の「A」の値が1〜20%内の5.0〜19.5%であり、かつ、「B」の値が1〜30%内の7.5〜28.7%であることから判るように、オーバレイ層中の(200)の割合が適切であることが理解される。その結果、実施例1〜11のオーバレイ層は、なじみ性に優れていた。尚、被覆層を被着させていないオーバレイ層について更に観察したところ、実施例2〜5は、直径R2が直径R1の2倍以下である粒状の結晶粒が5個以上存在していた。オーバレイ層よりも硬さが低い被覆層をオーバレイ層上に被着した実施例6〜11は、なじみ性に特に優れていた。
【0046】
これに対し、比較例2,3,5,6は、「強度比の値」の「A」「B」「C」の値が大きいことから判るように、オーバレイ層中の(200)の割合が多いことが理解される。その結果、比較例2,3,5,6のオーバレイ層は、なじみ性に劣る結果となった。
実施例1と比較例1との比較から、又、実施例6と比較例4との比較から、オーバレイ層中に(200)が1%以上存在するとき、なじみ性が良好であることが判る。
【0047】
次に、接着性試験の結果について説明する。
実施例6〜実施例10と実施例11との比較から、Sn基被覆層よりもBi基被覆層の方が接着性が高いことが理解される。
本実施形態ではAg単体金属からなるオーバレイ層での試験結果を示したが、例えばSnを含むAg合金からなるオーバレイ層でも同様の結果を得ることができた。
【0048】
本発明の適用は、自動車用エンジンのすべり軸受に限られず、摺動部材に広く適用できる。
【符号の説明】
【0049】
図面中、1は摺動部材、2は基材、3はオーバレイ層、4は被覆層を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材にオーバレイ層を被着した摺動部材において、
前記オーバレイ層を、Ag又はAg合金から形成し、
前記オーバレイ層のX線回折の強度は、
1%≦(200)/{(200)+(111)+(220)+(311)+(222)}≦20%、
且つ、
1%≦(200)/(111)≦30%
であることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記オーバレイ層を構成する結晶粒において、所定面積観察視野において相対的に外接円が大きい10個の結晶粒のうち5個以上の結晶粒は、該結晶粒の外周に接する最小の前記外接円の直径が内周に接する最大の内接円の直径の4倍以下の粒状晶であることを特徴とする請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
前記オーバレイ層のX線回折の強度は、ミラー指数(200)面の強度比の値が、5%以上、且つ、15%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の摺動部材。
【請求項4】
前記オーバレイ層上に該オーバレイ層よりも硬さが低い被覆層を被着したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の摺動部材。
【請求項5】
前記被覆層を、Bi又はBi合金から形成したことを特徴とする請求項4記載の摺動部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−222647(P2010−222647A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71900(P2009−71900)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】