説明

撮像素子及び撮像素子の製造方法

【課題】白傷欠陥の発生を抑制することができ、数画素に亘る感度低下を抑えることができる撮像素子を提供する。
【解決手段】基板上方で二次元状に配列された複数の下部電極104と、各下部電極104と対向して配置された上部電極108と、複数の下部電極104と上部電極108との間に配された光電変換層と、上部電極108の上方に配置され、該上部電極を覆う封止膜110と、上部電極108と封止膜110との間に配置された封止補助層109と、を備える撮像素子であって、封止膜110が複数の層で構成され、該封止膜全体の膜応力を緩和する応力緩和層を含み、封止補助層109は、真空蒸着法又はCVDで形成された膜であり、厚さが5nm以上で、内部応力が100MPa以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像素子及び撮像素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話用カメラ、内視鏡用カメラ等に利用されているイメージセンサとして、CCD型やCMOS型の撮像素子が知られている。
【0003】
CCD型やCMOS型の撮像素子は、一般に、半導体基板上の各画素に、フォトダイオード等の光電変換部だけでなく、信号読出し回路とそれに付随する配線が形成されている。画素微細化が進むと、一画素に占める読出し回路/配線領域が相対的に広く光電変換部の受光面積が狭くなって、開口率が低下し、撮像素子の感度が低下する。
【0004】
現在、読出し回路や配線を形成した半導体基板の上方に光電変換層を形成し開口率を向上させた積層型の撮像素子が提案されている。積層型の撮像素子は、一例として、基板の上方に形成された画素電極(下部電極)と、該画素電極の上方に形成された対向電極(上部電極)と、これら電極間に設けられた光電変換層や電荷ブロッキング層を含む構成である。光電変換層及び電荷ブロッキング層は、有機材料を用いて形成することが可能であり、有機材料を用いた光電変換層を備えた積層型の撮像素子としては、特許文献1に記載されたものがある。
【0005】
一般に、有機材料は、酸素や水の浸入によって劣化する。このため、有機材料を用いた積層型の撮像素子は、酸素や水が浸入することを遮る封止膜が必要である。ところで、封止膜はその内部応力が大きいため、対向電極や光電変換層やブロッキング層にダメージが加わることによって白傷欠陥が生じてしまう。このため、封止膜の内部応力を小さくすることが、素子性能を劣化させないために必要である。
【0006】
有機膜と電極とを有する素子としては、撮像素子だけでなく、基板上に、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料を配置した有機EL素子が知られている(特許文献2参照)。特許文献2に記載された有機EL素子は、有機発光材料の表面に封止膜に相当する保護層を有し、保護層が内部に発生する応力の異なる層を積層して構成され、この構成により保護層の内部応力を緩和している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−252004号公報
【特許文献2】特開2001−284042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、積層型の撮像素子において封止膜を、引用文献2の保護層のように複数層で構成してその内部応力を小さくしたとしても、封止膜の製造工程によっては、対向電極にダメージが生じることによって数画素に亘る感度低下(画像にかかわらず、複数の画素からなる領域が黒として信号を出力する、所謂、黒傷欠陥)が発生する。特に、封止膜をスパッタ等の大きいエネルギーを伴う成膜方法によって形成する場合には、対向電極にダメージがかかることが避けられない。
また、封止膜を応力の異なる複数の層で構成することによって、封止膜全体の内部応力を抑えることができるが、対向電極の上方に形成される層の応力が対向電極にダメージを与えるため、白傷欠陥の発生を確実に抑えることができない。
【0009】
本発明は、白傷欠陥の発生を抑制することができ、数画素に亘る感度低下を抑えることができる撮像素子及び撮像素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)基板上方に二次元状に配列された複数の下部電極と、
前記複数の下部電極の上方に、各下部電極と対向して配置された上部電極と、
前記複数の下部電極と前記上部電極との間に配置された光電変換層と、
前記上部電極の上方に配置され、該上部電極を覆う封止膜と、
前記上部電極と前記封止膜との間に配置された封止補助層と、を備える撮像素子であって、
前記封止膜が複数の層で構成され、該封止膜全体の膜応力を緩和する応力緩和層を含み、
前記封止補助層は、真空蒸着法又はCVDで形成された膜であり、厚さが5nm以上で、内部応力が100MPa以下である撮像素子。
(2)基板上方に二次元状に配列された複数の下部電極と、
前記複数の下部電極の上方に、各下部電極と対向して配置された上部電極と、
前記複数の下部電極と前記上部電極との間に配置された光電変換層と、
前記上部電極の上方に配置され、該上部電極を覆う封止膜と、
前記上部電極と前記封止膜との間に配置された厚さが5nm以上であって、内部応力が100MPa以下である封止補助層と、を備え、
前記封止膜が複数の層で構成され、該封止膜全体の膜応力を緩和する応力緩和層を含む撮像素子の製造方法であって、
前記上部電極上に、真空蒸着法又はCVDによって、前記封止補助層を形成し、該封止補助層上に前記封止膜を形成する撮像素子の製造方法。
【0011】
この撮像素子によれば、封止膜を複数の層で構成し、これら層同士の間で応力を相殺する関係となるように複数の層を形成することが可能となり、封止膜全体の膜応力を所定の範囲にとどめることができるよって、光電変換層に加わる物理的なダメージを抑えることができ、白傷欠陥の発生を抑えることができる。封止補助層の内部応力を100MPa以下とすることで、白傷欠陥の発生を実用上十分に抑えることができる。封止補助層の内部応力が100MPaより大きいと、封止補助層自体の内部応力が上部電極及び光電変換部にかかることによって、白傷欠陥が発生してしまう。
また、上部電極と封止膜との間に設けられた封止補助層によって、上部電極の上にスパッタ等で封止膜を成膜する際にスパッタによるダメージが上部電極に直接かかることを防止できる。そして、光電変換層において数画素に亘る感度低下が発生することを抑えることができる。封止補助層の厚さは、その内部応力に比例し、該内部応力が100MPa以下となるように決定される。一方で封止補助層の厚さは、スパッタのダメージから上部電極及び光電変換層を保護するため十分な厚さが必要である。更に、封止補助層の厚さを5nm以上とすることで、上部電極に対して十分な被覆性が得られるため、スパッタのように大きいエネルギーを伴う成膜方法を用いても、ダメージから上部電極及び光電変換層を保護することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、白傷欠陥の発生を抑制することができ、数画素に亘る感度の低下を抑えることができる撮像素子及び撮像素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】積層型撮像素子の一例の構成を示す断面模式図である。
【図2】積層型撮像素子の一例における、有機層、上部電極、封止補助層、封止膜の構成を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先ず、積層型撮像素子の構成例を説明する。図1は、積層型撮像素子の一例の構成を示す断面模式図である。
【0015】
図1に示す撮像素子100は、基板101と、絶縁層102と、複数の画素電極(下部電極)104と、有機膜107と、単一の対向電極(上部電極)108と、封止補助層109と、封止膜110と、カラーフィルタ111と、隔壁112と、接続電極103と、接続部105,106と、遮光層113と、保護層114と、対向電極電圧供給部115と、読出し回路116とを備える。
【0016】
基板101は、ガラス基板又はSi等の半導体基板である。基板101上には絶縁層102が形成されている。絶縁層102には、表面を垂直視した状態で二次元状に配列された複数の画素電極104が形成されている。また、絶縁層102には接続電極103が形成されている。接続電極103及び複数の画素電極104はそれぞれ、絶縁層102の内部に位置し、接続電極103の上面及び各画素電極104の上面は、絶縁層102の表面において露呈し、各画素電極104の上面と略同一平面をなす。画素電極104は、後述する有機膜107の光電変換層で発生した電荷を捕集するための電荷捕集用の電極である。
【0017】
また、基板101には、複数の画素電極104のそれぞれに接続された読出し回路116と、接続電極103に接続された対向電極電圧供給部115とが形成されている。
【0018】
有機膜107は、絶縁層102及び各画素電極104上に形成される。有機膜107は、光電変換層を含む。光電変換層は、入射した光を光電変換することで電荷を生成する層である。有機膜107は、複数の画素電極104の上では一定の膜厚となっているが、複数の画素電極104の上の設けられた部位以外(有効画素領域外)では、その膜厚が変化していてもよい。有機膜107の詳細については後述する。なお、有機膜107は、有機材料のみからなる層で構成されたものだけでなく、無機材料の層を含んでいてもよい。
【0019】
対向電極108は、複数の画素電極104のそれぞれと対向する単一の電極である。対向電極108は、有機膜107上に設けられている。対向電極108は、有機膜107に光を入射させるため、入射光に対して透明な導電性材料で構成されている。
【0020】
また、対向電極108は、有機膜107上に設けられ、更に、絶縁層102上において該有機膜107の外周縁よりも外側に配置された接続電極103の上に至るように形成され、該接続電極103と電気的に接続されている。
【0021】
接続部105,106は、絶縁層102に埋設されている。接続部105は、画素電極104と読出し回路116とを電気的に接続する。接続部106は、接続電極103と対向電極電圧供給部115とを電気的に接続する。接続部105,106は、導電性材料からなる柱状の部材であって、例えばビアプラグである。
【0022】
対向電極電圧供給部115は、基板101に形成され、接続部106及び接続電極103を介して対向電極108に所定の電圧を印加する。対向電極108に印加すべき電圧が撮像素子100の電源電圧よりも高い場合は、図示しないチャージポンプ等の昇圧回路によって電源電圧を昇圧して上記所定の電圧を供給する。
【0023】
読出し回路116は、複数の画素電極104の各々に対応するように基板101に設けられている。読出し回路116は、画素電極104で捕集された電荷に応じた信号を読出す。読出し回路116は、CMOS回路で構成されている。読出し回路116は、絶縁層102に設けられた図示しない遮光層によって遮光されている。一般的なイメージセンサ用途ではCCD又はCMOS回路を採用することが好ましい。また、高速性の観点からは、CMOS回路を採用することが好ましい。なお、読出し回路116は、CCD回路、又はTFT回路等で構成されていてもよい。
【0024】
対向電極108上には封止補助層109が形成されている。封止補助層109上には封止膜110が形成されている。封止膜110は、酸素や水を遮蔽することによって酸素や水が有機膜107に浸入することを抑える。封止膜110は、複数の層で構成され、封止膜110全体の膜応力を緩和する応力緩和層を含む。封止補助層109は、封止膜110を構成する複数の層うち、最も下層(対向電極108に最も近い層)の応力が対向電極108に直接かかることを回避する。なお、封止膜110及び封止補助層109の構成例については、後述する。
【0025】
封止膜110上には二次元状に配列された複数のカラーフィルタ111が形成されている。複数のカラーフィルタ111はそれぞれ、各画素電極104の上方に形成されている。
【0026】
隔壁112は、格子状に形成され、隣り合うカラーフィルタ111同士を隔離し、入射した光が他の画素部のカラーフィルタに進入してしまうことを抑えることができ、各画素部の光透過効率を向上させる。
【0027】
遮光層113は、封止膜110上のカラーフィルタ111及び隔壁112を設けた領域以外に形成されている。こうして、遮光層113は、有機膜107において複数の画素電極104が配列した領域以外の領域を覆う部位に光が入射することを防止する。
【0028】
保護層114は、カラーフィルタ111、隔壁112、及び遮光層113を覆うように形成され、撮像素子における光入射側の面を保護する。
【0029】
カラーフィルタ111、隔壁112、遮光層113、及び保護層114の詳細については後述する。
【0030】
なお、図1の例では、画素電極104及び接続電極103が、絶縁層102の表面部に埋設された形となっているが、これらは絶縁層102の上に形成されてあってもよい。また、接続電極103、接続部106、及び対向電極電圧供給部115がそれぞれ複数設けられていてもよく、1つずつ設けられていてもよい。対向電極電圧供給部115を複数設ける場合、対向電極108の中央に対して対照となるように設けられ、各対向電極電圧供給部115からから対向電極108に電圧を供給することで、対向電極108における電圧降下を抑えられる。
【0031】
また、撮像素子100においては、1つの画素電極104と、有機膜107と、該画素電極104と対向する対向電極108とを少なくとも含む領域を1つ画素部と定義することができる。そして、撮像素子100は、複数の画素部がアレイ状に複数配列されたものである。また、1つ画素電極104と、該画素電極104上方の対向電極108とが一対をなし、この一対の電極間に配された有機膜107とが光電変換素子として機能する。画素部はそれぞれ、この光電変換素子を含む。
【0032】
次に、撮像素子の封止膜及び封止補助層について説明する。
【0033】
図2は、図1の撮像素子における、有機層、対向電極、封止補助層、封止膜の構成を示す模式的な断面図である。
【0034】
封止膜110は、第1の層110A、第2の層110B、第3の層110Cをこの順で封止補助層109上に積層させた構成である。第1の層110A及び第3の層110Cは、封止膜110全体の膜応力を緩和する応力緩和層である。第2の層110Bは、酸素や水を遮蔽する封止機能を主として有する層である。
【0035】
ここで、封止膜110を、酸窒化ケイ素(SiON)を含む第1の層110A、酸化アルミニウム(Al)を含む第2の層110B、SiONを含む第3の層110Cをこの順に積層した構成とする場合の封止膜110全体の膜応力について説明する。SiONからなる第1の層110A及び第3の層110Cには、封止膜110の厚み方向に対して垂直な方向(すなわち、図中の左右方向)に圧縮する応力がかかる。一方で、Alからなる第3の層110Bには、封止膜110の厚み方向に対して垂直な方向に引っ張る応力がかかる。このため、第1の層110Aと第2の層110Bとの間、及び、第2の層110Bと第3の層110Cとの間のそれぞれの界面において、互いの膜応力が相殺される。こうして、封止膜110全体の膜応力を所定の範囲にとどめることができ、有機膜107及び光電変換層に加わる物理的ダメージを抑えることができる。なお、上述した封止膜110の構成は一例であり、封止膜110は、複数の層のうち重なり合う層間で互いの膜応力を相殺することによって封止膜110全体の内部応力を所定の範囲にとどめることができる範囲で、その構成が適宜変更できる。封止膜110は、全体としての内部応力が100MPa以下である。
【0036】
封止補助層109は、その応力が対向電極108及び該対向電極108より下方の層に影響がない程度に十分に小さい層であり、具体的には、内部応力が100MPa以下である。封止補助層109は、封止膜110における応力緩和層である第1の層110Aと対向電極108との間に介入し、第1の層110Aの応力が対向電極108に直接かかることを回避する。
【0037】
また、封止補助層の厚さは5nm以上である。封止補助層の厚さが5nm以上であれば、封止膜を形成する方法として、スパッタによって蒸着した場合であっても、対向電極に加わるダメージを抑えることができる。スパッタは、蒸着等の他の成膜方法と比較して大きなエネルギーを用いるものであるため、封止補助層の厚さが5nm以上であれば、封止膜はスパッタ以外の形成方法で形成する場合にも当然、対向電極に加わるダメージを抑えることができる。なお、封止補助層の厚さとその内部応力には相関があり、厚さが厚いほど、内部応力が大きくなる。このため、封止補助層の厚さの上限値は、内部応力が100MPa以下となるように設定される。
【0038】
封止補助層109の材料は、内部応力が100MPa以下となるように、適宜選択される。
【0039】
封止補助層109を形成する際の成膜温度と封止補助層の内部応力にも相関があり、成膜温度が高いほど封止補助層の内部応力も大きくなる。したがって、成膜温度は、内部応力が100MPa以下であって、厚さが5nm以上の封止補助層が形成可能な温度を選べばよい。
【0040】
また、対向電極108と封止膜110との間の封止補助層109によって、封止膜110における第1の層110Aを形成する際のダメージが対向電極108に直接加わることが回避される。こうして、数画素に亘る感度低下を抑えることができる。なお、対向電極108は、その厚みが通常10nm程度と、封止膜110の厚みに比べて十分に薄いため、該対向電極108自体の内部応力が有機膜107に与える影響については無視することができる。
【0041】
封止補助層109は、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法によって形成されることが好ましい。原子層堆積法は、CVD法の一種で、薄膜材料となる有機金属化合物分子、金属ハロゲン化物分子、金属水素化物分子の基板表面への吸着/反応と、それらに含まれる未反応基の分解を、交互に繰返して薄膜を形成する技術である。基板表面へ薄膜材料が到達する際は上記低分子の状態なので、低分子が入り込めるごくわずかな空間さえあれば薄膜が成長可能である。そのために、従来の薄膜形成法では困難であった段差部分を完全に被覆し(段差部分に成長した薄膜の厚さが平坦部分に成長した薄膜の厚さと同じ)、すなわち段差被覆性が非常に優れる。そのため、基板表面の構造物、基板表面の微小欠陥、基板表面に付着したパーティクルなどによる段差を完全に被覆できるので、そのような段差部分を浸入経路として光電変換材料の劣化因子が浸入してしまうことを抑えられる。封止補助層109の形成を原子層堆積法で行なった場合は厚さを薄くすることが可能になる。また、封止補助層の形成方法としては、スパッタのように対向電極にダメージが生じない範囲で、抵抗加熱蒸着法等を含む真空蒸着法や、原子層堆積法以外のCVD法が適宜選択される。封止補助層を真空蒸着法又はCVDで形成することで、対向電極にかかるダメージを抑えることができる。
【0042】
次に、有機膜107、画素電極104、対向電極108、カラーフィルタ111の詳細について説明する。
【0043】
(有機膜)
有機膜107は、光電変換層の他に電荷ブロッキング層を含んでいてもよい。
【0044】
電荷ブロッキング層は、暗電流を抑制する機能を有する。電荷ブロッキング層は複数の層から構成されていてもよく、例えば、第1ブロッキング層と第2ブロッキング層とから構成されていてもよい。このように、電荷ブロッキング層を複数層にすることにより、積層されたブロッキング層の間に界面が形成され、各層に存在する中間準位に不連続性が生じることで、中間準位を介して電荷担体が移動しにくくなり、暗電流を抑制することができる。なお、電荷ブロッキング層は単層としてもよい。
【0045】
光電変換層は、p型有機半導体とn型有機半導体とを含む。p型有機半導体とn型有機半導体を接合させてドナ‐アクセプタ界面を形成することにより励起子解離効率を増加させることができる。このために、p型有機半導体とn型有機半導体を接合させた構成の光電変換層は高い光電変換効率を発現する。特に、p型有機半導体とn型有機半導体を混合した光電変換層は、接合界面が増大して光電変換効率が向上するので好ましい。
【0046】
p型有機半導体(化合物)は、ドナー性有機半導体であり、主に正孔輸送性有機化合物に代表され、電子を供与しやすい性質がある有機化合物をいう。更に詳しくは2つの有機材料を接触させて用いたときにイオン化ポテンシャルの小さい方の有機化合物をいう。したがって、ドナー性有機化合物は、電子供与性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、カルバゾール化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物、フタロシアニン化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体等を用いることができる。なお、これに限らず、上記したように、n型(アクセプタ性)化合物として用いた有機化合物よりもイオン化ポテンシャルの小さい有機化合物であればドナー性有機半導体として用いてよい。
【0047】
n型有機半導体(化合物)は、アクセプタ性有機半導体であり、主に電子輸送性有機化合物に代表され、電子を受容しやすい性質がある有機化合物をいう。更に詳しくは、n型有機半導体とは、2つの有機化合物を接触させて用いたときに電子親和力の大きい方の有機化合物をいう。したがって、アクセプタ性有機化合物は、電子受容性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。例えば、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を含有する5〜7員のヘテロ環化合物(例えばピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、シンノリン、イソキノリン、プテリジン、アクリジン、フェナジン、フェナントロリン、テトラゾール、ピラゾール、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、インダゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、カルバゾール、プリン、トリアゾロピリダジン、トリアゾロピリミジン、テトラザインデン、オキサジアゾール、イミダゾピリジン、ピラリジン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、ジベンズアゼピン、トリベンズアゼピン等)、ポリアリーレン化合物、フルオレン化合物、シクロペンタジエン化合物、シリル化合物、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体などが挙げられる。なお、これに限らず、上記したように、p型(ドナー性)化合物として用いた有機化合物よりも電子親和力の大きな有機化合物であればアクセプタ性有機半導体として用いてよい。
【0048】
p型有機半導体、又はn型有機半導体としては、いかなる有機色素を用いても良いが、好ましくは、シアニン色素、スチリル色素、ヘミシアニン色素、メロシアニン色素(ゼロメチンメロシアニン(シンプルメロシアニン)を含む)、3核メロシアニン色素、4核メロシアニン色素、ロダシアニン色素、コンプレックスシアニン色素、コンプレックスメロシアニン色素、アロポーラー色素、オキソノール色素、ヘミオキソノール色素、スクアリウム色素、クロコニウム色素、アザメチン色素、クマリン色素、アリーリデン色素、アントラキノン色素、トリフェニルメタン色素、アゾ色素、アゾメチン色素、スピロ化合物、メタロセン色素、フルオレノン色素、フルギド色素、ペリレン色素、ペリノン色素、フェナジン色素、フェノチアジン色素、キノン色素、ジフェニルメタン色素、ポリエン色素、アクリジン色素、アクリジノン色素、ジフェニルアミン色素、キナクリドン色素、キノフタロン色素、フェノキサジン色素、フタロペリレン色素、ジケトピロロピロール色素、ジオキサン色素、ポルフィリン色素、クロロフィル色素、フタロシアニン色素、金属錯体色素、縮合芳香族炭素環系色素(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)が挙げられる。
【0049】
n型有機半導体として、電子輸送性に優れた、フラーレン又はフラーレン誘導体を用いることが特に好ましい。フラーレンとは、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC80、フラーレンC82、フラーレンC84、フラーレンC90、フラーレンC96、フラーレンC240、フラーレン540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブを表し、フラーレン誘導体とはこれらに置換基が付加された化合物のことを表す。
【0050】
フラーレン誘導体の置換基として好ましくは、アルキル基、アリール基、又は複素環基である。アルキル基として更に好ましくは、炭素数1〜12までのアルキル基であり、アリール基、及び複素環基として好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、トリフェニレン環、ナフタセン環、ビフェニル環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドリジン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、イソベンゾフラン環、ベンズイミダゾール環、イミダゾピリジン環、キノリジン環、キノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノキサゾリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、フェナントリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、チアントレン環、クロメン環、キサンテン環、フェノキサチイン環、フェノチアジン環、又はフェナジン環であり、更に好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピリジン環、イミダゾール環、オキサゾール環、又はチアゾール環であり、特に好ましくはベンゼン環、ナフタレン環、又はピリジン環である。これらは更に置換基を有していてもよく、その置換基は可能な限り結合して環を形成してもよい。なお、複数の置換基を有しても良く、それらは同一であっても異なっていても良い。また、複数の置換基は可能な限り結合して環を形成してもよい。
【0051】
光電変換層がフラーレン又はフラーレン誘導体を含むことで、フラーレン分子又はフラーレン誘導体分子を経由して、光電変換により発生した電子及び正孔を画素電極104及び対向電極108まで早く輸送できる。フラーレン分子又はフラーレン誘導体分子が連なった状態になって電子の経路が形成されていると、電子輸送性が向上して光電変換素子の高速応答性が実現可能となる。このためにはフラーレン又はフラーレン誘導体が光電変換層に40%以上含まれていることが好ましい。もっとも、フラーレン又はフラーレン誘導体が多すぎるとp型有機半導体が少なくなって接合界面が小さくなり励起子解離効率が低下してしまう。
【0052】
光電変換層において、フラーレン又はフラーレン誘導体と共に混合されるp型有機半導体として、特許第4213832号公報等に記載されたトリアリールアミン化合物を用いると光電変換素子の高SN比が発現可能になり、特に好ましい。光電変換層内のフラーレン又はフラーレン誘導体の比率が大きすぎると該トリアリールアミン化合物が少なくなって入射光の吸収量が低下する。これにより光電変換効率が減少するので、光電変換層に含まれるフラーレン又はフラーレン誘導体は85%以下の組成であることが好ましい。
【0053】
第1ブロッキング層及び第2ブロッキング層には、電子供与性有機材料を用いることができる。具体的には、低分子材料では、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)や4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等の芳香族ジアミン化合物、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、ポルフィン、テトラフェニルポルフィン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニウムフタロシアニンオキサイド等のポリフィリン化合物、トリアゾール誘導体、オキサジザゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アニールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体などを用いることができ、高分子材料では、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、ジアセチレン等の重合体や、その誘導体を用いることができる。電子供与性化合物でなくとも、充分な正孔輸送性を有する化合物であれば用いることは可能である。
【0054】
電荷ブロッキング層としては無機材料を用いることもできる。一般的に、無機材料は有機材料よりも誘電率が大きいため、電荷ブロッキング層に用いた場合に、光電変換層に電圧が多くかかるようになり、光電変換効率を高くすることができる。電荷ブロッキング層となりうる材料としては、酸化カルシウム、酸化クロム、酸化クロム銅、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ガリウム銅、酸化ストロンチウム銅、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化インジウム銅、酸化インジウム銀、酸化イリジウム等がある。
【0055】
複数層からなる電荷ブロッキング層において、複数層のうち光電変換層と隣接する層が該光電変換層に含まれるp型有機半導体と同じ材料からなる層であることが好ましい。こうすれば、電荷ブロッキング層にも同じp型有機半導体を用いることで、光電変換層と隣接する層の界面に中間準位が形成されるのを抑制し、暗電流を更に抑制することができる。
【0056】
電荷ブロッキング層が単層の場合にはその層を無機材料からなる層とすることができ、又は、複数層の場合には1つ又は2以上の層を無機材料からなる層とすることができる。
【0057】
(画素電極)
画素電極104は、画素電極104上の光電変換層を含む有機膜107で発生した電子又は正孔の電荷を捕集する。各画素電極104で捕集された電荷が、対応する各画素の読出し回路116で信号となり、複数の画素から取得した信号から画像が合成される。
【0058】
画素電極104の端部において、画素電極104の膜厚に相当する段差が急峻だったり、画素電極104の表面に顕著な凹凸が存在したり、画素電極104上に微小な塵埃が付着したりすると、画素電極104上の有機膜107が所望の膜厚より薄くなったり亀裂が生じたりする。そのような状態で有機膜107上に対向電極108を形成すると、欠陥部分における画素電極104と対向電極108の接触や電界集中により、暗電流の増大や短絡などの画素不良が発生する。
【0059】
上記の欠陥を防止して固体撮像装置の信頼性を向上させるため、画素電極104の表面粗さRaが0.6nm以下であることが好ましい。画素電極104の表面粗さRaが小さいほど、表面の凹凸が小さいことを意味し、表面平坦性が良好である。又、画素電極104上のパーティクルを除去するため、有機膜107を形成する前に、半導体製造工程で利用されている一般的な洗浄技術により、基板を洗浄することが特に好ましい。
【0060】
(対向電極)
対向電極108は、光電変換層を含む有機膜107を、画素電極104と共に挟込むことで有機膜107に電界を掛け、又、光電変換層で発生した電荷のうち、画素電極104で捕集する信号電荷と逆の極性を持つ電荷を捕集する。この逆極性電荷の捕集は各画素間で分割する必要がないため、対向電極108は複数の画素で共通にすることができる。そのために共通電極(コモン電極)と呼ばれることもある。
【0061】
対向電極108は、光電変換層を含む有機膜107に光を入射させるため、透明導電膜で構成されることが好ましく、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属硼化物、有機導電性化合物、これらの混合物等が挙げられる。具体例としては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化インジウムタングステン(IWO)、酸化チタン等の導電性金属酸化物、TiN等の金属窒化物、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)等の金属、更にこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性化合物、これらとITOとの積層物、などが挙げられる。透明導電膜の材料として特に好ましいのは、ITO、IZO、酸化錫、アンチモンドープ酸化錫(ATO)、弗素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛、アンチモンドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)のいずれかの材料である。
【0062】
対向電極108の面抵抗は、読出し回路116がCMOS型の場合は10kΩ/□以下が好ましく、より好ましくは、1kΩ/□以下である。読出し回路116がCCD型の場合には1kΩ/□以下が好ましく、より好ましくは、0.1kΩ/□以下である。
【0063】
(カラーフィルタ)
複数の画素部にはそれぞれカラーフィルタ111が設けられている。また複数の画素部のうち隣り合うカラーフィルタ111の間に設けられた隔壁112は、画素部に入射した光を該画素部の光電変換層へ集光させるための集光手段として機能する。第1色から第3色(例えば赤,緑,青の3色)のカラーパターンを有するカラーフィルタを製造する場合には、遮光層形成工程、第1色カラーフィルタ形成工程、第2色カラーフィルタ形成工程、第3色カラーフィルタ形成工程、隔壁形成工程を順次に行う。遮光層113として、第1〜3色カラーフィルタのいずれかを有効画素領域外に形成してもよく、遮光層113のみを形成する工程を省略でき製造コストを抑えられる。隔壁形成工程は、遮光層形成工程後、第1色カラーフィルタ形成工程後、第2色カラーフィルタ形成工程後、第3色カラーフィルタ形成工程後のいずれかで実施でき、利用する製造技術、製造方法の組合せにより適宜選択できる。
【0064】
(実施例)
以下の実施例及び比較例の撮像素子をそれぞれ試料として用いて、封止膜及び封止補助層を設けたことによる効果を実証する。
【0065】
試料となる撮像素子は、以下の手順によって作成されたものを使用した。各例の撮像素子はそれぞれ、封止補助層の材料、成膜するときの温度、厚さのいずれかが他と異なっている以外は、同じ構成である。
【0066】
先ず、CMOS回路が形成された基板を有機蒸着室に移動し、室内を1×10−4Pa以下に減圧した。その後、基板を保持するホルダを回転させながら、画素電極上に、抵抗加熱蒸着法により電子ブロッキング層を蒸着速度10〜12nm/sで厚み100nmとなるように蒸着した。次に、化学式1で示す材料と化学式2で示す材料を、それぞれ蒸着速度16〜18nm/s、25〜28nm/sで、化学式1と化学式2の体積比が1:3になるように共蒸着して光電変換層を形成した。その後、スパッタ室に搬送し、光電変換層上に、RFマグネトロンスパッタによって、対向電極であるITO膜を厚み10nmとなるように形成した。
【0067】
【化1】

【0068】
【化2】

【0069】
次に、ALD成膜室へ搬送し、対向電極であるITO膜上に封止補助層として125℃の成膜条件においてAlをALD法を所定の厚みとなるように成膜した。実施例1−5及び比較例1−4それぞれの封止補助層の厚みは、後述する。
【0070】
その後、スパッタ室に搬送し、封止補助層上に、応力緩和層(第1の層)としてSiONをRFマグネトロンスパッタにより厚み100nmとなるように成膜した。その後、ALD成膜室へ搬送し、主として封止機能を有する層(第2の層)としてAlをALDにより厚み200nmとなるように成膜した。その後、スパッタ室に搬送し、応力緩和層(第3の層)としてSiONをRFマグネトロンスパッタにより厚み100nmとなるように成膜した。
【0071】
以上のように撮像素子を製作し、DC光源から光を照射した状態で光電変換層に対して外部電界を与えた場合の、DC出力画像、暗時出力画像を取得した。DC光源撮像時の撮像レンズは単焦点レンズ、絞りF=5.6とし、この撮像レンズにIRカットフィルタと50%透過NDフィルタを装着したものを使用した。
【0072】
なお、比較例2の撮像素子は、上述した手順と同じ手順及び条件によって作成されたものであるが、対向電極上に封止補助層を設けない点、該対向電極上に封止膜を直接形成している点で、他の試料とは相違する。
【0073】
それぞれの試料の封止補助層の厚さ、内部応力、成膜時の温度は、次の表1のとおりである。
【0074】
【表1】

【0075】
封止補助層の内部応力は、次のように測定することができる。封止補助層を構成する材料を薄膜として所定の厚みで基板に形成する。ここで、薄膜の内部応力は、圧縮応力及び引張り応力によって決定する。圧縮応力及び引張り応力は、基板の反り量に影響を受ける。圧縮応力及び引張り応力は基板の反り量に基づく光てこ法を用いて測定することができる。基板の反り量を測定する装置は、レーザ光を照射するレーザ照射部と、該レーザ照射部から照射された光のうち一部の光を反射するとともに他の光を透過するスプリッタと、該スプリッタを透過した光を反射するミラーとを備えている。下地基板の一方の面には、被測定物である薄膜が成膜されている。スプリッタで反射した光を下地基板の薄膜に照射し、その際に薄膜の表面で反射した光の反射角度を検出部で検出する。ミラーで反射した光を下地基板の薄膜に照射し、その際に薄膜の表面で反射した光の反射角度を検出部で検出する。例えば、下地基板を薄膜が成膜された側の面を突出させるように反らせることで、薄膜に働く圧縮応力を測定する例を示している。ここで、下地基板の厚さをhとし、薄膜の厚さをtとする。
【0076】
次に、応力の測定手順を説明する。
測定に用いる装置としては、例えば、東朋テクノロジー社製、薄膜ストレス測定装置FLX−2320−Sを用いることができる。以下に、この装置を用いた場合の測定条件を示す。
【0077】
(レーザ光)
使用レーザ:KLA−Tencor−2320−S
レーザ出力:4mW
レーザ波長:670nm
走査速度:30mm/s
【0078】
(下地基板)
基板材質:シリコン(Si)
方位:<100>
Type:P型(ドーパント:Boron)
厚み:250±25μm若しくは、280±25μm
【0079】
(測定手順)
予め薄膜を成膜する下地基板の反り量を計測しておき、該下地基板の曲率半径R1を求める。続いて、下地基板の一方の面に薄膜を成膜し、下地基板の反り量を計測し、曲率半径R2を求める。ここで、反り量は、レーザで下地基板の薄膜が形成された側の面を走査し、下地基板から反射してくるレーザ光の反射角度から反り量を算出し、反り量を元に曲率半径R=R1・R2/(R1−R2)を算出している。
【0080】
その後、下記の計算式により薄膜の内部応力が算出される。薄膜の内部応力の単位はPaで表されている。圧縮応力であれば負の値を、引張り応力であれば正の値を示す。なお、薄膜の内部応力を測定する方法は特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0081】
(応力ストレス計算式)
σ=E×h/(1−v)Rt
但し、E/(1−v):下地基板の2軸弾性係数(Pa)、
h:下地基板の厚さ(m)、
t:薄膜の膜厚(m)、
R:下地基板の曲率半径(m)、
σ:薄膜の平均内部応力(Pa)とする。
【0082】
白傷欠陥の判定基準としては、全画素数に対して白傷が発生した割合が0.005%以下のものを良好であるとして「◎」とし、0.005%より大きく、0.008%以下のものを次に良好であるとして「○」とし、0.008%より大きく、0.17%以下のものを良好ではないとして「×」とした。白傷欠陥の判定基準が「◎」又は「○」であれば、撮像素子の使用の際には特に問題を生じない。実施例1,実施例2,実施例3では、白傷欠陥の判定が「○」であった。この理由としては封止補助層の内部応力が大きかったため、この内部応力が対向電極及び光電変換層に影響を与えたためと推測される。
【0083】
数画素に亘る感度低下の判定基準としては、撮像レンズとして単焦点レンズ、絞りF=5.6とし、この撮像レンズにIRカットフィルタと50%透過NDフィルタを装着したものを使用し、DC光源から光を照射した状態で光電変換層に対して外部電界を与え、DC出力画像を取得し、DC光源撮像時の感度が最も高い画素の効率を100%として、感度が99%以下の画素からなる領域を感度劣化画素領域として認識した。そして、数画素に亘る感度低下の判定基準としては、感度劣化画素領域が(1画素)であるものを良好であるとして「◎」とし、感度劣化画素領域が(2画素)であるものを次に良好であるとして「○」とし、感度劣化画素領域が(3画素以上)であるものを良好でないとして「×」とした。数画素に亘る感度低下の判定が「◎」又は「○」であれば、撮像素子の実用上では問題を生じない。
【0084】
比較例1の撮像素子は、封止補助層の厚さが2nmと小さいため、封止補助層が対向電極に対する被覆性が低く、発明者の推測によれば封止膜のスパッタ成膜によるダメージを十分に低減できないことにより、数画素に亘る感度低下が発生した。封止補助層の厚さが薄すぎると、封止補助層が対向電極に対する被覆性が低下し、スパッタ成膜時のダメージによって数画素に亘る感度低下を引き起こす。実施例5と比較例1との比較により、封止補助層の厚さが5nm未満であると数画素に亘る感度低下が生じることがわかった。
【0085】
比較例2の撮像素子は、封止補助層を設けず、対向電極上に封止膜を形成する構成であるため、封止膜をスパッタで成膜する際のダメージが対向電極にかかることによって、数画素に亘る感度低下が顕著に発生した。
【0086】
比較例3の撮像素子は、封止補助層の厚さが150nmであり、その内部応力が200MPaと大きくなることによって、白傷欠陥が発生した。
【0087】
比較例4の撮像素子は、封止補助層の厚さが120nmであり、その内部応力が120MPaと大きくなることによって、白傷欠陥が発生した。
【0088】
実施例1−5の撮像素子は、白傷欠陥の発生を抑えることができ、また、数画素に亘る感度低下の発生を抑えることができた。
【0089】
よって、撮像素子は封止補助層の内部応力を100MPa以下とし、かつ、封止補助層の厚さを5nm以上とすることによって、白傷欠陥の発生を抑えることができ、また、数画素に亘る感度低下の発生を抑えることができることがわかった。
【0090】
次に、封止補助層と対向電極との密着性の観点で、封止補助層を構成する有機材料の分子量の好ましい範囲について説明する。なお、以下の測定の試料とする撮像素子については、特に説明しない限り、上述した実施例と同じ手順及び条件で作成されたものである。
【0091】
封止補助層の材料の分子量が大きい場合にはガラス転移温度(Tg)が上昇し、ダメージ耐性は向上するものの、Grainサイズが大きくなる傾向があり、封止補助層における表面の平坦性が低下し、封止補助層と対向電極との密着性が低下する。また、分子量が小さすぎると十分なダメージ耐性を確保することができない。
【0092】
(実施例6)
対向電極であるITO上に封止補助層として、化学式3で示す材料を抵抗加熱蒸着法によって、厚さ10nm、内部応力9MPaとなるように成膜した。また、封止補助層の材料の分子量は1385である。
【0093】
【化3】

【0094】
(実施例7)
対向電極であるITO上に封止補助層として、化学式4で示す材料を抵抗加熱蒸着法によって、厚さ10nm、内部応力5MPaとなるように成膜した。また、封止補助層の材料の分子量は1284である。
【0095】
【化4】

【0096】
(実施例8)
対向電極であるITO上に封止補助層として、化学式5で示す材料を抵抗加熱蒸着法によって、厚さ10nm、内部応力7MPaとなるように成膜した。また、封止補助層の材料の分子量は940である。
【0097】
【化5】

【0098】
(実施例9)
対向電極であるITO上に封止補助層として、化学式6で示す材料を抵抗加熱蒸着法によって、厚さ10nm、内部応力8MPaとなるように成膜した。また、封止補助層の材料の分子量は798である。
【0099】
【化6】

【0100】
(実施例10)
対向電極であるITO上に封止補助層として、化学式7で示す材料を抵抗加熱蒸着法によって、厚さ10nm、内部応力10MPaとなるように成膜した。また、封止補助層の材料の分子量は360である。
【0101】
【化7】

【0102】
【表2】

【0103】
密着性の判定基準としては、セロテープ(登録商標)による剥離を行い、全く剥離が生じなかったものを「◎」とし、一部剥離が生じたものを「○」とし、完全に剥離したものを「×」とした。
【0104】
この結果、封止補助層の材料の分子量が1284である試料は、封止補助層と対向電極との密着性が良好であることがわかった。一方で、封止補助層の材料の分子量が1385である試料は、Grainサイズが大きすぎるため、封止補助層の平坦性が低下し、対向電極との密着性が低下した。
封止補助層の材料の分子量が360である試料は、分子量が小さく、耐久性が僅かに低下するため、封止補助層の感度低下の判定が「○」であった。
分子量が小さすぎると、一般的にガラス転移温度も低くなり、耐久性が低下することによって数画素に亘る感度低下が生じやすくなる。ガラス転移温度に起因する耐久性の低下を考慮した場合には、封止補助層の材料の分子量は450以上とすることが好ましい。
【0105】
以上のように、封止補助層の材料の分子量は、450以上、1300以下であることが好ましく、より好ましくは800以上、1300以下である。
【0106】
次に、封止補助層と対向電極との密着性の観点で、封止補助層の成膜時の温度(蒸着するときの温度)の好ましい範囲について説明する。なお、以下の測定の試料とする撮像素子については、特に説明しない限り、上述した実施例と同じ手順及び条件で作成されたものである。
【0107】
封止補助層の成膜時の温度が高い場合には、有機膜における光電変換層の結晶化を引き起こし、数画素に亘る感度低下が生じる。封止補助層の成膜時の温度が低い場合には、封止補助層を均一な厚みで成膜することができなくなり、密着性の低下が生じる。
【0108】
(実施例11)
対向電極であるITO上に封止補助層として、酸化アルミニウム(Al)をALD法によって、成膜温度200℃、厚さ10nm、内部応力45MPaとなるように成膜した。
【0109】
(実施例12)
対向電極であるITO上に封止補助層として、AlをALD法によって、成膜温度180℃、厚さ10nm、内部応力40MPaとなるように成膜した。
【0110】
(実施例13)
対向電極であるITO上に封止補助層として、AlをALD法によって、成膜温度150℃、厚さ10nm、内部応力32MPaとなるように成膜した。
【0111】
(実施例14)
対向電極であるITO上に封止補助層として、AlをALD法によって、成膜温度125℃、厚さ10nm、内部応力30MPaとなるように成膜した。
【0112】
(実施例15)
対向電極であるITO上に封止補助層として、AlをALD法によって、成膜温度75℃、厚さ10nm、内部応力10MPaとなるように成膜した。
【0113】
(実施例16)
対向電極であるITO上に封止補助層として、AlをALD法によって、成膜温度45℃、厚さ10nm、内部応力11MPaとなるように成膜した。
【0114】
【表3】

【0115】
この結果、酸化アルミニウムからなる封止補助層を蒸着によって形成する場合に、成膜温度が200℃以下の試料では、数画素に亘る感度低下が生じなかった。成膜温度が75℃以上の試料では、封止補助層と対向電極との密着性が良好であった。成膜温度が75℃未満の試料では、封止補助層を構成する酸化アルミニウムを均一の厚さで成膜することができなくなることによって密着性が低下した。よって、成膜温度は75℃以上、200℃以下とすることが好ましい。
【0116】
なお、実施例11,12の白傷欠陥の判定が「○」である理由は、封止補助層の内部応力が他の実施例に比べて大きいためである。
【0117】
封止補助層の成膜温度は、より好ましくは75℃以上、150℃以下である。
【0118】
本明細書は、以下の事項を開示するものである。
(1)基板上方に二次元状に配列された複数の下部電極と、
前記複数の下部電極の上方に、各下部電極と対向して配置された上部電極と、
前記複数の下部電極と前記上部電極との間に配置された光電変換層と、
前記上部電極の上方に配置され、該上部電極を覆う封止膜と、
前記上部電極と前記封止膜との間に配置された封止補助層と、を備える撮像素子であって、
前記封止膜が複数の層で構成され、該封止膜全体の膜応力を緩和する応力緩和層を含み、
前記封止補助層は、真空蒸着法又はCVDで形成された膜であり、厚さが5nm以上で、内部応力が100MPa以下である撮像素子。
(2)(1)に記載の撮像素子であって、
前記封止補助層が酸化アルミニウムを含む撮像素子。
(3)(1)又は(2)に記載の撮像素子であって、
前記封止補助層を形成するときの成膜温度が75℃以上、200℃以下である撮像素子。
(4)(1)に記載の撮像素子であって、
前記封止補助層が有機材料を含み、該有機材料の分子量が450以上、1300以下である撮像素子。
(5)(1)から(4)のいずれか1つに記載の撮像素子であって
前記封止膜は、前記封止補助層上に第1の層と、第2の層と、第3の層とをこの順で積層したものであり、前記応力緩和層は前記第1の層及び前記第3の層である撮像素子。
(6)(5)に記載の撮像素子であって、
前記封止膜の前記第1の層が酸窒化ケイ素を含む撮像素子。
(7)基板上方に二次元状に配列された複数の下部電極と、
前記複数の下部電極の上方に、各下部電極と対向して配置された上部電極と、
前記複数の下部電極と前記上部電極との間に配置された光電変換層と、
前記上部電極の上方に配置され、該上部電極を覆う封止膜と、
前記上部電極と前記封止膜との間に配置された厚さが5nm以上であって、内部応力が100MPa以下である封止補助層と、を備え、
前記封止膜が複数の層で構成され、該封止膜全体の膜応力を緩和する応力緩和層を含む撮像素子の製造方法であって、
前記上部電極上に、真空蒸着法又はCVDによって、前記封止補助層を形成し、該封止補助層上に前記封止膜を形成する撮像素子の製造方法。
(8)(7)に記載の撮像素子の製造方法であって、
前記封止補助層を酸化アルミニウムの蒸着によって形成するときの成膜温度が75℃以上、200℃以下である撮像素子の製造方法。
(9)(7)又は(8)に記載の撮像素子の製造方法であって、
前記封止補助層を原子層堆積法で形成する撮像素子の製造方法。
【符号の説明】
【0119】
100 撮像素子
101 基板
104 画素電極
107 有機膜
108 対向電極
109 封止補助層
110 封止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上方に二次元状に配列された複数の下部電極と、
前記複数の下部電極の上方に、各下部電極と対向して配置された上部電極と、
前記複数の下部電極と前記上部電極との間に配置された光電変換層と、
前記上部電極の上方に配置され、該上部電極を覆う封止膜と、
前記上部電極と前記封止膜との間に配置された封止補助層と、を備える撮像素子であって、
前記封止膜が複数の層で構成され、該封止膜全体の膜応力を緩和する応力緩和層を含み、
前記封止補助層は、真空蒸着法又はCVDで形成された膜であり、厚さが5nm以上で、内部応力が100MPa以下である撮像素子。
【請求項2】
請求項1に記載の撮像素子であって、
前記封止補助層が酸化アルミニウムを含む撮像素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の撮像素子であって、
前記封止補助層を形成するときの成膜温度が75℃以上、200℃以下である撮像素子。
【請求項4】
請求項1に記載の撮像素子であって、
前記封止補助層が有機材料を含み、該有機材料の分子量が450以上、1300以下である撮像素子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の撮像素子であって
前記封止膜は、前記封止補助層上に第1の層と、第2の層と、第3の層とをこの順で積層したものであり、前記応力緩和層は前記第1の層及び前記第3の層である撮像素子。
【請求項6】
請求項5に記載の撮像素子であって、
前記封止膜の前記第1の層が酸窒化ケイ素を含む撮像素子。
【請求項7】
基板上方に二次元状に配列された複数の下部電極と、
前記複数の下部電極の上方に、各下部電極と対向して配置された上部電極と、
前記複数の下部電極と前記上部電極との間に配置された光電変換層と、
前記上部電極の上方に配置され、該上部電極を覆う封止膜と、
前記上部電極と前記封止膜との間に配置された厚さが5nm以上であって、内部応力が100MPa以下である封止補助層と、を備え、
前記封止膜が複数の層で構成され、該封止膜全体の膜応力を緩和する応力緩和層を含む撮像素子の製造方法であって、
前記上部電極上に、真空蒸着法又はCVDによって、前記封止補助層を形成し、該封止補助層上に前記封止膜を形成する撮像素子の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の撮像素子の製造方法であって、
前記封止補助層を酸化アルミニウムの蒸着によって形成するときの成膜温度が75℃以上、200℃以下である撮像素子の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の撮像素子の製造方法であって、
前記封止補助層を原子層堆積法で形成する撮像素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−124343(P2012−124343A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274144(P2010−274144)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】