撮像装置
【課題】 前面にドーム等透明部材を介した、赤外カットフィルタ切換機能付きカメラにおいて、ドーム自体にピントが合ってしまう問題がある。通常、ドームより至近にピントが合わないようフォーカス移動範囲に制限を設けているが、赤外と可視ではピント位置に違いがあるため、フォーカス制限を一律に掛けると、赤外で被写体にピントが合わない、もしくは可視でドームにピントが合うといった不具合を生じる。
【解決手段】 撮影画面の色の分布より撮影光が赤外か可視光かを判別、それに応じたフォーカス制限を選択することで、撮影光が赤外でも可視であってもドームにピントが合わず、適切にフォーカス制限を掛けられる構成とする。
【解決手段】 撮影画面の色の分布より撮影光が赤外か可視光かを判別、それに応じたフォーカス制限を選択することで、撮影光が赤外でも可視であってもドームにピントが合わず、適切にフォーカス制限を掛けられる構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像信号に基づき赤外成分の割合を算出する手段と、それを用いてフォーカスレンズ制御を行う、赤外カットフィルタの挿脱機能を有した撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外カットフィルタの挿脱機能とそれに伴うレンズ制御装置を有した撮像装置に関する従来例として、特開平11−305107号公報に記載された「レンズ制御装置と撮像装置」がある。これはレンズ制御装置において、フィルタの出し入れにより生じる色収差によるピントずれを解消するものである。
【0003】
撮像素子の出力信号から3原色生成手段が生成した3原色信号R、G、Bを用い、色正規化手段は赤と緑の原色信号の比(R/G)と青と緑の原色信号の比(B/G)とを計算する。双方の比の大きさに応じた補正量を補正量記憶手段は予め記憶する。記憶手段はズームトラッキング曲線データを予め記憶する。補正手段は、位置検出手段のズームレンズの検出位置に対応してズームトラッキング曲線データから求まるフォーカスレンズ位置に前記補正量を加えて補正する。補正されたフォーカスレンズ位置にフォーカスレンズ駆動手段はフォーカスレンズを移動させる。
【特許文献1】特開平11−305107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
撮像光学系の前面にドームや窓等の透明部材を配した撮像装置において、前面の透明部材にピントが合うことを防ぐためには、被写体にピントを合わせるウォブリングの際にフォーカスレンズの移動距離に制限を加えることが有効である。従来の撮像装置では、撮像光学系から前面の透明部材まで合焦するフォーカスレンズ移動範囲は、撮像光源が可視光のみの場合を想定し一定の範囲で表わすことが可能であった。よって、フォーカスレンズの移動距離に対し、前記一定の範囲の移動を禁止するフォーカス制限を行えばよかった。
【0005】
しかし、赤外カットフィルタの挿脱機能を備えた撮像装置においては、可視光及び赤外光が撮像光源となるが、可視光と赤外光では被写体の距離に対して合焦するフォーカスレンズの位置に大きな違いがある。そのため従来の撮像装置のように可視光に合わせてフォーカス制限を掛けた場合、図1に示すように赤外光では至近の被写体にピントが合わなくなる。また赤外光に合わせてフォーカス制限を掛けた場合、図2に示すように可視光では前面の透明部材にピントが合う可能性があるといった問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、撮像光学系と、撮像光学系の前面に配した透明部材と、前面に撮像素子カラーフィルタを配した撮像素子と、前記撮像光学系の光路中で赤外カットフィルタの挿脱を行うフィルタ移動手段を有した撮像装置であって、
前記撮像素子によって撮影された撮影画面中の複数の領域について色差及び輝度信号を平均化して抽出する抽出手段と、前記抽出された色差信号と輝度信号の比の分布に基づいて光源の赤外成分の割合を推定算出する算出手段と、
前記算出された赤外成分の割合に基づいて前記透明部材に対してピントが合わないようにフォーカスレンズの移動範囲を制限する制御手段を有することを特徴とする撮像装置である。
【0007】
光源の赤外成分の割合の算出手段は、色差信号と輝度信号の比で表される座標系において、撮像素子カラーフィルタを透過した赤外領域の波長光が分布する範囲に対して、前記抽出された色差信号と輝度信号の比の分布が近傍に集中している度合いを、位置関係に基づいて評価することで赤外成分割合を算出する。
【0008】
撮像素子カラーフィルタを透過した赤外領域の波長光が分布する範囲は、撮像素子カラーフィルタの赤外領域の分光透過特性より、赤色成分が多く透過される第1の赤外領域、あるいは3色成分がほぼ同量透過される第2の赤外領域の波長光が分布する範囲である。
【0009】
前記位置関係に基づく評価は、色差信号と輝度信号の比で表される座標系において、赤外領域の波長光が分布する範囲と、前記抽出された色差信号と輝度信号の比との最短距離をそれぞれ求め、前記最短距離の乗数を総和した値に基づき、赤外成分の割合を算出する。
【0010】
フォーカスレンズの移動範囲を制限する制御手段は、可視及び赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係データを記憶してある記憶手段と、前記関係データと現在のズームレンズ位置に基づいて、可視及び赤外波長における透明部材から無限遠までの範囲で合焦するフォーカスレンズ移動範囲をそれぞれ算出する算出手段を有し、前記算出された赤外成分の割合に基づいて、前記可視及び赤外波長のフォーカスレンズ移動範囲のどちらかを選択し、フォーカスレンズに制限を掛ける制御手段である。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成すると、赤外カットフィルタを除去した撮影時において、撮像光源に含まれる波長光のうち最も割合の高い波長領域を特定することが可能である。前面に配した透明部材への合焦を防ぐフォーカス制限を設定する際、特定した波長領域に基づきフォーカス制限範囲を算出することで、撮像光源によらない安定したフォーカス制限が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の詳細を実施例の記述に従って説明する。
【0013】
前記第1及び第2の赤外領域は、原色または補色カラーフィルタの赤外領域における分光透過特性に基づいて定義される。図3に原色カラーフィルタの分光透過特性図を示す。図3に示すように原色カラーフィルタの650[nm]〜820[nm]付近の波長帯では、赤色信号Rが最も透過率が高く、緑色信号G及び青色信号Bの透過率は低い。よってこの波長成分の光が、前面に原色カラーフィルタを配した撮像素子に入射した場合、得られる色情報は赤色成分が支配的となる。この赤色成分が支配的となる領域を第1の赤外領域とする。また820[nm]付近〜長波長の波長帯では、3色成分がほぼ同量透過されている。よってこの波長成分の光が、前面に原色カラーフィルタを配した撮像素子に入射した場合、得られる色情報は無彩色となる。この色情報が無彩色を示す領域を第2の赤外領域とする。
【0014】
図4に補色カラーフィルタの分光透過特性図を示す。図4に示すように補色カラーフィルタの650[nm]〜820[nm]付近の波長帯では、イエローYe(R+G)及びマゼンダMg(R+B)の透過特性がほぼ同一であり、透過率が最も高く、シアンCy(G+B)の透過率のみ低い。よってこの波長成分をもつ光が、前面に補色カラーフィルタを配した撮像素子に入射した場合においても、得られる色情報は赤色成分が支配的となる。この赤色成分が支配的となる領域を第1の赤外領域とする。また、図4に示すように820[nm]付近〜長波長の波長帯では、3色成分がほぼ同量透過されている。よってこの波長成分の光が、前面に補色カラーフィルタを配した撮像素子に入射した場合、得られる色情報は無彩色となる。この色情報が無彩色を示す領域を第2の赤外領域とする。
【0015】
第1及び第2の赤外領域の帯域幅は、撮像素子カラーフィルタの分光透過特性によって若干変わるが、一般的な撮像素子カラーフィルタにおける赤外波長領域では、赤色成分が多く透過される第1の赤外領域と、3色成分がほぼ同量透過される第2の赤外領域とに大別することができる。
【0016】
ここで第1及び第2の赤外領域の波長光がどのような色を出力するかを検出するために、原色及び補色カラーフィルタに単波長光を照射し、波長毎に色差信号と輝度信号を取得する。色差信号レベルは輝度信号レベルにほぼ比例関係を有するので、色差信号と輝度信号の比であるR−Y/Y、B−Y/Y軸とからなる直交座標系に色差信号を変換することで、輝度信号のレベルによらない色情報のみを評価することが可能である。以後、色差信号と輝度信号の比であるR−Y/Y、B−Y/Yを色差輝度比と簡略化して呼ぶ。
【0017】
原色及び補色カラーフィルタにおける各波長の色差輝度比の分布例を図5及び図6に示す。原色カラーフィルタの場合、図5に着目すると第1の赤外波長領域の色差輝度比は、650[nm]〜770[nm]付近までは赤色から黄色の直線上に分布しており、770[nm]〜820[nm]付近までは黄色から無彩色の直線上に分布していることがわかる。この第1の赤外領域の波長光の色差輝度比が分布する範囲を、以後第1の赤外色分布範囲と呼ぶ。また第2の赤外領域の色差輝度比は、820[nm]以降すべて無彩色を示す座標中心にのみ分布している。この第2の赤外領域の波長光の色差輝度比が分布する範囲を、以後第2の赤外色分布範囲と呼ぶ。
【0018】
補色カラーフィルタの場合、図6に着目すると原色カラーフィルタにおける第1の赤外色分布範囲に相当する650[nm]〜820[nm]付近までは、赤色から無彩色の直線上に分布していることがわかる。また、第2の赤外色分布範囲に相当する820[nm]以降は、原色カラーフィルタと同様にすべて無彩色を示す座標中心にのみ分布している。
【0019】
本発明における第1の赤外色分布範囲は、使用する原色または補色カラーフィルタの分光透過特性によって形状が変化するため、使用する撮像素子カラーフィルタ毎に分光透過特性より算出、もしくは測定して分布範囲を求めておく必要がある。
【0020】
ここで前記撮影画面中の複数の領域について平均化して抽出した色差輝度比の分布の例を図7に示す。補色カラーフィルタを配した撮像素子において可視光のみでの撮影をした場合に撮影画面中の複数の領域について平均化して抽出された色差輝度比の分布が、図7(A)のようであったとする。この可視光に第1の赤外領域の波長光が加わると、色差輝度比は前記可視光のみでの撮影時の色差輝度比と、前記第1の赤外色分布範囲との混合色差輝度比となる。よって可視成分に第1の赤外領域の波長光が加わった場合、色差輝度比の分布は図7(B)のように第1の赤外色分布範囲の近傍に集中する特性を有する。近傍に集中する度合いは、可視成分に対する第1の赤外領域の波長成分の比率に依存し、第1の赤外領域の波長成分が多いほど第1の赤外色分布範囲の近傍に集中する。
【0021】
可視光に第2の赤外領域の波長光が加わると、色差輝度比は前記可視光のみでの撮影時の色差輝度比と、前記第2の赤外色分布範囲との混合色差輝度比となる。よって可視光に第2の赤外領域の波長光が加わった場合、色差輝度比の分布は図7(C)のように第2の赤外色分布範囲の近傍に集中する特性を有する。近傍に集中する度合いは、可視成分に対する第2の赤外領域の波長成分の比率に依存し、第2の赤外領域の波長成分が多いほど第2の赤外色分布範囲の近傍に集中する。
【0022】
これら第1及び第2の赤外領域の波長成分が色差輝度比に及ぼす影響特性を利用し、前記撮影画面中の複数の領域について平均化して抽出した色差輝度比が、第1及び第2の赤外色分布範囲の近傍に集中している度合いを位置関係に基づいて評価することで光源に含まれる第1及び第2の赤外領域の波長成分の割合を夫々検出することが可能である。
【0023】
前記抽出した色差輝度比が、第1の赤外色分布範囲の近傍に集中している度合いを定量的に評価する方法として、前記抽出した色差輝度比と第1の赤外色分布範囲との最短距離をそれぞれ算出する。前記算出した最短距離の乗数倍をすべて総和したものを、第1の赤外成分評価値として用いるようにする。
【0024】
前記第1の赤外成分評価値と第1の赤外領域の波長成分の割合は、一般的な被写体において図8(A)のような関係がある。よって、前記関係データを予め記憶手段に記憶しておけば、前記第1の赤外成分評価値に基づいて、第1の赤外領域の波長成分の割合を決定することができる。
【0025】
前記抽出した色差輝度比が、第2の赤外色分布範囲の近傍に集中している度合いを定量的に評価する方法として、前記抽出した色差輝度比と第2の赤外色分布範囲との最短距離をそれぞれ算出する。前記算出した最短距離の乗数倍をすべて総和したものを、第2の赤外成分評価値として用いるようにする。
【0026】
前記第2の赤外成分評価値と第2の赤外領域の波長成分の割合は、一般的な被写体において図8(B)のような関係がある。よって、前記関係データを予め記憶手段に記憶しておけば、前記第2の赤外成分評価値に基づいて、第2の赤外領域の波長成分の割合を決定することができる。
【0027】
前記第1及び第2の赤外成分評価値において、最短距離を乗数倍してから総和することで、撮影画面中に含まれる色に依存しない評価が可能となる。例えば、撮影画面の色の大半が、赤R〜シアンCyで形成されていたとする。すると図9のように可視光における撮影画面中から抽出された色差輝度比の大半が、第1及び第2の赤外色分布範囲の近傍に集中する。
【0028】
よって撮影画面中の複数の領域から抽出した色差輝度比の大半は、第1及び第2の赤外色分布範囲との最短距離が小さくなる。しかし、撮影画面中における複数の領域のうち、1つの領域でも第1及び第2の赤外色分布範囲から離れた色差輝度比をもつものがあれば、最短距離の乗数倍を取ることで、離れた色差輝度比に対し重み付けをすることが可能である。結果、最短距離の乗数倍の総和つまり第1及び第2の赤外成分評価値は大きくなる。
【0029】
よって図9のような色差輝度比の分布が偏っている場合であっても、第1及び第2の赤外波長成分の割合を大きく誤ることがない。
【0030】
前記決定した第1及び第2の赤外波長成分の割合を用いれば、撮像光源によらず前面に配された透明部材に合焦しないフォーカス制限を適切にかけることが可能となる。可視及び赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係を図10に示す。前記第1及び第2の赤外波長成分の割合の和が所定の値(例えば50%)を超えた場合、前記赤外波長における透明部材から無限遠で合焦するフォーカスレンズ移動範囲をフォーカス制限として選択する。前記第1及び第2の赤外波長成分の割合の和が所定の値(例えば50%)を下回った場合、前記可視波長における透明部材から無限遠で合焦するフォーカスレンズ移動範囲をフォーカス制限として選択する。
【0031】
前記透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係は、可視及び赤外波長の代表波長における値である。代表波長は撮像光源に含まれる波長そのものではないため、透明部材へ合焦しないようにフォーカス制限かける上で実用上問題ないものを選定する必要がある。被写体へ正確にピントを合わせるフォーカスレンズ位置は、前記選択したフォーカス制限の範囲内でウォブリングを行い決定する。
【0032】
前記決定した第1及び第2の赤外波長成分の割合とその差分である可視波長成分の割合を用いれば、さらに詳細なフォーカス制限をかけることが可能となる。可視及び第1及び第2の赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係を図11に示す。前記第1及び第2の赤外波長成分と可視波長成分の内、最も割合の高い波長成分における、前記赤外波長における透明部材から無限遠で合焦するフォーカスレンズ移動範囲をフォーカス制限として選択する。
【0033】
前記透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係は、可視、第1及び第2の赤外波長の代表波長における値である。代表波長は撮像光源に含まれる波長そのものではないため、透明部材へ合焦しないようにフォーカス制限かける上で実用上問題ないものを選定する必要がある。被写体へ正確にピントを合わせるフォーカスレンズ位置は、前記選択したフォーカス制限の範囲内でウォブリングを行い決定する。
【0034】
上記のように構成すれば、赤外カットフィルタを除去した撮影時において、撮像光源に占める波長光の割合を算出することが可能である。波長光の割合に応じてフォーカス制限を選択すれば、前面に配した透明部材へは合焦することなく、かつ被写体に対して適切に合焦させることが可能となる。
【実施例1】
【0035】
上記撮像信号に基づく赤外成分の割合を算出する手段と、それを用いてフォーカスレンズ制御を行う、赤外カットフィルタの挿脱機能を有した撮像装置の実施形態を説明する。実施形態の構成図を図12に示す。
【0036】
前面に配される透明部材1を透過した被写体からの反射光は、撮像光学系2及び光路長補正フィルタ5または赤外カットフィルタ6を通過し、撮像素子カラーフィルタ7を介して撮像素子8に入射される。撮像素子8からのアナログ撮像信号は撮像信号処理部201によって赤色信号R、青色信号B、緑色信号Gに分解される。
【0037】
WB回路202は撮像信号のRゲイン及びBゲインを調整し、適切なホワイトバランスに調整する処理部である。色分離マトリクス(MTX)203は、適正なホワイトバランスに調整された赤色信号R、青色信号B、緑色信号Gを、色差信号R−Y、B−Y及び、輝度信号Yに変換する処理部である。色差信号R−Y、B−Y及び、輝度信号Yは映像信号合成部204により映像信号として合成され外部へ出力される。
【0038】
映像信号合成部204は、赤外カットフィルタ6が挿入されている状態での撮影では、色分離マトリクス203から得られる色差信号R−Y、B−Y及び輝度信号Yを合成し、カラー映像を出力する。ただし、赤外カットフィルタ6が除去され、光路長補正フィルタ5が挿入されている場合、その映像信号は赤外光の混入により色バランスが崩れてしまう。よって光路長補正フィルタ5が挿入されている状態での撮影では、色分離マトリクス203から得られる色差信号R−Y、B−Yを破棄し、輝度信号Yのみの白黒映像を出力する。
【0039】
WB回路202は、光路長補正フィルタ5が挿入されている場合、映像信号合成部204において色差信号R−Y、B−Yを破棄するため、映像信号としてのホワイトバランスを調整する必要がない。代わりに波長成分割合演算部208において、波長成分の割合を演算するために必要な撮像信号を得るため、3原色信号RGBの出力が等しい場合に無彩色となる所定のRゲイン及びBゲインにて変換をかける。
【0040】
変換された撮像信号である色差信号R−Y、B−Y及び輝度信号Yは、画面分割部205において複数の領域毎に分割される。平均値演算部206において分割された複数の領域毎に平均化され、各領域の平均色差信号、及び平均輝度信号に夫々変換される。変換された平均色差及び輝度信号は、色差輝度比演算部207にてR−Y/Y、B−Y/Yに変換される。
【0041】
波長成分割合演算部208は、色差輝度比演算部207にて変換されたR−Y/Y、B−Y/Yとに基づいて撮像光源に含まれる波長成分の割合を算出する。波長成分割合演算部208における具体的な処理を図13に示す。
【0042】
図13のステップS550において、色差輝度比演算部207から得られる色差信号R−Y/Y、B−Y/Yを画面分割部205で分割した領域の数だけ格納する。次にステップS551において、メモリ209より予め記憶してある第1及び2の赤外色分布範囲を読み出す。
【0043】
ステップS552において、色差輝度比R−Y/Y、B−Y/Yと第1の赤外色分布範囲の最短距離を演算し、ステップS553において、前記最短距離の乗数値を演算する。ステップS554において、撮影画面を分割した領域すべてについてステップS552及びS553の処理がなされたかを確認する。領域すべてについて処理が終了していない場合、ステップS552及びS553までの処理を繰返す。領域すべてについて処理が終了した場合は、ステップS555に進み、これまでの全領域の最短距離の乗数値を総和し第1の赤外成分評価値を算出する。
【0044】
ステップS556では、ステップS555で演算された第1の赤外成分評価値と、予めメモリ209に記憶してある第1の赤外成分評価値と第1の赤外成分の割合との相関データを照合し、撮像光源に含まれる第1の赤外成分の割合PIR1を決定する。
【0045】
ステップS557において、色差輝度比R−Y/Y、B−Y/Yと第2の赤外色分布範囲の最短距離を演算し、ステップS558において、前記最短距離の乗数値を演算する。ステップS559において、撮影画面を分割した領域すべてについてステップS557及びS558の処理がなされたかを確認する。領域すべてについて処理が終了していない場合、ステップS557及びS558までの処理を繰返す。領域すべてについて処理が終了した場合は、ステップS560に進み、これまでの全領域の最短距離の乗数値を総和し第2の赤外成分評価値を算出する。
【0046】
ステップS561では、ステップS560で演算された第2の赤外成分評価値と、予めメモリ209に記憶してある第2の赤外成分評価値と第2の赤外成分の割合との相関データを照合し、撮像光源に含まれる第2の赤外成分の割合PIR2を決定する。
【0047】
第1の赤外長成分の割合PIR1を決定するステップS552からステップS556までの処理と、第2の赤外成分の割合PIR2を決定するステップS557からステップS561までの処理は、どちらを先に行っても良い。
【0048】
ステップS562では、ステップS556及びS561で演算された第1及び2の赤外成分の割合PIR1、PIR2を加算し、撮像光源に含まれる残りの波長成分である可視成分の割合PVを算出する。
【0049】
フォーカス制限範囲演算部210は、波長成分割合演算部208において算出した第1及び2の赤外成分の割合と可視成分の割合に基づいて、フォーカスレンズの移動制限範囲を決定する。フォーカス制限範囲演算部210における具体的な処理を図14に示す。
【0050】
ステップS600では、波長成分割合演算部208において算出した第1及び2の赤外成分の割合と可視成分の割合の内、最も高いものを選択する。メモリ209には可視、第1及び第2の赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係データが予め記憶されている。ステップS601では、ステップS600において選択した波長の関係データをメモリ209から読み出す。
【0051】
ステップS602では、ズームレンズ位置検出部9より現在のズームレンズ位置を読み出す。ステップS603では、ステップS602で読み出したズームレンズ位置と、ステップS601で読み出した関係データを照合し、透明部材から無限遠に合焦するフォーカスレンズの範囲を検出し、フォーカスレンズの移動制限範囲とする。ステップS604では、ステップS603で決定したフォーカス移動制限範囲に基づき、フォーカスレンズ駆動制御部10によりフォーカスレンズ4を移動しウォブリングにより被写体にピントを合わせる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】可視光にフォーカス制限を合わせた場合の合焦範囲図
【図2】赤外光にフォーカス制限を合わせた場合の合焦範囲図
【図3】原色カラーフィルタの分光透過特性図
【図4】補色カラーフィルタの分光透過特性図
【図5】原色カラーフィルタに単波長光を照射した場合における波長別の色差輝度比
【図6】補色カラーフィルタに単波長光を照射した場合における波長別の色差輝度比
【図7】(A)撮像光源が可視光のみの色差輝度比の分布 (B)撮像光源が可視光と第1の赤外成分との混合光の色差輝度比の分布 (C)撮像光源が可視光と第2の赤外成分との混合光の色差輝度比の分布
【図8】(A)第1の赤外色分布範囲との距離と、第1の赤外成分の割合との関係 (B)第2の赤外色分布範囲との距離と、第2の赤外成分の割合との関係
【図9】特定色に偏っている被写体における色差輝度比の分布
【図10】可視及び赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係
【図11】可視、第1及び2の赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係
【図12】赤外成分の割合検出によるフォーカス制限手段を有した撮像装置の実施形態図
【図13】波長成分割合演算部におけるフローチャート
【図14】フォーカス制限範囲演算部におけるフローチャート
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像信号に基づき赤外成分の割合を算出する手段と、それを用いてフォーカスレンズ制御を行う、赤外カットフィルタの挿脱機能を有した撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
赤外カットフィルタの挿脱機能とそれに伴うレンズ制御装置を有した撮像装置に関する従来例として、特開平11−305107号公報に記載された「レンズ制御装置と撮像装置」がある。これはレンズ制御装置において、フィルタの出し入れにより生じる色収差によるピントずれを解消するものである。
【0003】
撮像素子の出力信号から3原色生成手段が生成した3原色信号R、G、Bを用い、色正規化手段は赤と緑の原色信号の比(R/G)と青と緑の原色信号の比(B/G)とを計算する。双方の比の大きさに応じた補正量を補正量記憶手段は予め記憶する。記憶手段はズームトラッキング曲線データを予め記憶する。補正手段は、位置検出手段のズームレンズの検出位置に対応してズームトラッキング曲線データから求まるフォーカスレンズ位置に前記補正量を加えて補正する。補正されたフォーカスレンズ位置にフォーカスレンズ駆動手段はフォーカスレンズを移動させる。
【特許文献1】特開平11−305107号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
撮像光学系の前面にドームや窓等の透明部材を配した撮像装置において、前面の透明部材にピントが合うことを防ぐためには、被写体にピントを合わせるウォブリングの際にフォーカスレンズの移動距離に制限を加えることが有効である。従来の撮像装置では、撮像光学系から前面の透明部材まで合焦するフォーカスレンズ移動範囲は、撮像光源が可視光のみの場合を想定し一定の範囲で表わすことが可能であった。よって、フォーカスレンズの移動距離に対し、前記一定の範囲の移動を禁止するフォーカス制限を行えばよかった。
【0005】
しかし、赤外カットフィルタの挿脱機能を備えた撮像装置においては、可視光及び赤外光が撮像光源となるが、可視光と赤外光では被写体の距離に対して合焦するフォーカスレンズの位置に大きな違いがある。そのため従来の撮像装置のように可視光に合わせてフォーカス制限を掛けた場合、図1に示すように赤外光では至近の被写体にピントが合わなくなる。また赤外光に合わせてフォーカス制限を掛けた場合、図2に示すように可視光では前面の透明部材にピントが合う可能性があるといった問題が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、撮像光学系と、撮像光学系の前面に配した透明部材と、前面に撮像素子カラーフィルタを配した撮像素子と、前記撮像光学系の光路中で赤外カットフィルタの挿脱を行うフィルタ移動手段を有した撮像装置であって、
前記撮像素子によって撮影された撮影画面中の複数の領域について色差及び輝度信号を平均化して抽出する抽出手段と、前記抽出された色差信号と輝度信号の比の分布に基づいて光源の赤外成分の割合を推定算出する算出手段と、
前記算出された赤外成分の割合に基づいて前記透明部材に対してピントが合わないようにフォーカスレンズの移動範囲を制限する制御手段を有することを特徴とする撮像装置である。
【0007】
光源の赤外成分の割合の算出手段は、色差信号と輝度信号の比で表される座標系において、撮像素子カラーフィルタを透過した赤外領域の波長光が分布する範囲に対して、前記抽出された色差信号と輝度信号の比の分布が近傍に集中している度合いを、位置関係に基づいて評価することで赤外成分割合を算出する。
【0008】
撮像素子カラーフィルタを透過した赤外領域の波長光が分布する範囲は、撮像素子カラーフィルタの赤外領域の分光透過特性より、赤色成分が多く透過される第1の赤外領域、あるいは3色成分がほぼ同量透過される第2の赤外領域の波長光が分布する範囲である。
【0009】
前記位置関係に基づく評価は、色差信号と輝度信号の比で表される座標系において、赤外領域の波長光が分布する範囲と、前記抽出された色差信号と輝度信号の比との最短距離をそれぞれ求め、前記最短距離の乗数を総和した値に基づき、赤外成分の割合を算出する。
【0010】
フォーカスレンズの移動範囲を制限する制御手段は、可視及び赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係データを記憶してある記憶手段と、前記関係データと現在のズームレンズ位置に基づいて、可視及び赤外波長における透明部材から無限遠までの範囲で合焦するフォーカスレンズ移動範囲をそれぞれ算出する算出手段を有し、前記算出された赤外成分の割合に基づいて、前記可視及び赤外波長のフォーカスレンズ移動範囲のどちらかを選択し、フォーカスレンズに制限を掛ける制御手段である。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成すると、赤外カットフィルタを除去した撮影時において、撮像光源に含まれる波長光のうち最も割合の高い波長領域を特定することが可能である。前面に配した透明部材への合焦を防ぐフォーカス制限を設定する際、特定した波長領域に基づきフォーカス制限範囲を算出することで、撮像光源によらない安定したフォーカス制限が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の詳細を実施例の記述に従って説明する。
【0013】
前記第1及び第2の赤外領域は、原色または補色カラーフィルタの赤外領域における分光透過特性に基づいて定義される。図3に原色カラーフィルタの分光透過特性図を示す。図3に示すように原色カラーフィルタの650[nm]〜820[nm]付近の波長帯では、赤色信号Rが最も透過率が高く、緑色信号G及び青色信号Bの透過率は低い。よってこの波長成分の光が、前面に原色カラーフィルタを配した撮像素子に入射した場合、得られる色情報は赤色成分が支配的となる。この赤色成分が支配的となる領域を第1の赤外領域とする。また820[nm]付近〜長波長の波長帯では、3色成分がほぼ同量透過されている。よってこの波長成分の光が、前面に原色カラーフィルタを配した撮像素子に入射した場合、得られる色情報は無彩色となる。この色情報が無彩色を示す領域を第2の赤外領域とする。
【0014】
図4に補色カラーフィルタの分光透過特性図を示す。図4に示すように補色カラーフィルタの650[nm]〜820[nm]付近の波長帯では、イエローYe(R+G)及びマゼンダMg(R+B)の透過特性がほぼ同一であり、透過率が最も高く、シアンCy(G+B)の透過率のみ低い。よってこの波長成分をもつ光が、前面に補色カラーフィルタを配した撮像素子に入射した場合においても、得られる色情報は赤色成分が支配的となる。この赤色成分が支配的となる領域を第1の赤外領域とする。また、図4に示すように820[nm]付近〜長波長の波長帯では、3色成分がほぼ同量透過されている。よってこの波長成分の光が、前面に補色カラーフィルタを配した撮像素子に入射した場合、得られる色情報は無彩色となる。この色情報が無彩色を示す領域を第2の赤外領域とする。
【0015】
第1及び第2の赤外領域の帯域幅は、撮像素子カラーフィルタの分光透過特性によって若干変わるが、一般的な撮像素子カラーフィルタにおける赤外波長領域では、赤色成分が多く透過される第1の赤外領域と、3色成分がほぼ同量透過される第2の赤外領域とに大別することができる。
【0016】
ここで第1及び第2の赤外領域の波長光がどのような色を出力するかを検出するために、原色及び補色カラーフィルタに単波長光を照射し、波長毎に色差信号と輝度信号を取得する。色差信号レベルは輝度信号レベルにほぼ比例関係を有するので、色差信号と輝度信号の比であるR−Y/Y、B−Y/Y軸とからなる直交座標系に色差信号を変換することで、輝度信号のレベルによらない色情報のみを評価することが可能である。以後、色差信号と輝度信号の比であるR−Y/Y、B−Y/Yを色差輝度比と簡略化して呼ぶ。
【0017】
原色及び補色カラーフィルタにおける各波長の色差輝度比の分布例を図5及び図6に示す。原色カラーフィルタの場合、図5に着目すると第1の赤外波長領域の色差輝度比は、650[nm]〜770[nm]付近までは赤色から黄色の直線上に分布しており、770[nm]〜820[nm]付近までは黄色から無彩色の直線上に分布していることがわかる。この第1の赤外領域の波長光の色差輝度比が分布する範囲を、以後第1の赤外色分布範囲と呼ぶ。また第2の赤外領域の色差輝度比は、820[nm]以降すべて無彩色を示す座標中心にのみ分布している。この第2の赤外領域の波長光の色差輝度比が分布する範囲を、以後第2の赤外色分布範囲と呼ぶ。
【0018】
補色カラーフィルタの場合、図6に着目すると原色カラーフィルタにおける第1の赤外色分布範囲に相当する650[nm]〜820[nm]付近までは、赤色から無彩色の直線上に分布していることがわかる。また、第2の赤外色分布範囲に相当する820[nm]以降は、原色カラーフィルタと同様にすべて無彩色を示す座標中心にのみ分布している。
【0019】
本発明における第1の赤外色分布範囲は、使用する原色または補色カラーフィルタの分光透過特性によって形状が変化するため、使用する撮像素子カラーフィルタ毎に分光透過特性より算出、もしくは測定して分布範囲を求めておく必要がある。
【0020】
ここで前記撮影画面中の複数の領域について平均化して抽出した色差輝度比の分布の例を図7に示す。補色カラーフィルタを配した撮像素子において可視光のみでの撮影をした場合に撮影画面中の複数の領域について平均化して抽出された色差輝度比の分布が、図7(A)のようであったとする。この可視光に第1の赤外領域の波長光が加わると、色差輝度比は前記可視光のみでの撮影時の色差輝度比と、前記第1の赤外色分布範囲との混合色差輝度比となる。よって可視成分に第1の赤外領域の波長光が加わった場合、色差輝度比の分布は図7(B)のように第1の赤外色分布範囲の近傍に集中する特性を有する。近傍に集中する度合いは、可視成分に対する第1の赤外領域の波長成分の比率に依存し、第1の赤外領域の波長成分が多いほど第1の赤外色分布範囲の近傍に集中する。
【0021】
可視光に第2の赤外領域の波長光が加わると、色差輝度比は前記可視光のみでの撮影時の色差輝度比と、前記第2の赤外色分布範囲との混合色差輝度比となる。よって可視光に第2の赤外領域の波長光が加わった場合、色差輝度比の分布は図7(C)のように第2の赤外色分布範囲の近傍に集中する特性を有する。近傍に集中する度合いは、可視成分に対する第2の赤外領域の波長成分の比率に依存し、第2の赤外領域の波長成分が多いほど第2の赤外色分布範囲の近傍に集中する。
【0022】
これら第1及び第2の赤外領域の波長成分が色差輝度比に及ぼす影響特性を利用し、前記撮影画面中の複数の領域について平均化して抽出した色差輝度比が、第1及び第2の赤外色分布範囲の近傍に集中している度合いを位置関係に基づいて評価することで光源に含まれる第1及び第2の赤外領域の波長成分の割合を夫々検出することが可能である。
【0023】
前記抽出した色差輝度比が、第1の赤外色分布範囲の近傍に集中している度合いを定量的に評価する方法として、前記抽出した色差輝度比と第1の赤外色分布範囲との最短距離をそれぞれ算出する。前記算出した最短距離の乗数倍をすべて総和したものを、第1の赤外成分評価値として用いるようにする。
【0024】
前記第1の赤外成分評価値と第1の赤外領域の波長成分の割合は、一般的な被写体において図8(A)のような関係がある。よって、前記関係データを予め記憶手段に記憶しておけば、前記第1の赤外成分評価値に基づいて、第1の赤外領域の波長成分の割合を決定することができる。
【0025】
前記抽出した色差輝度比が、第2の赤外色分布範囲の近傍に集中している度合いを定量的に評価する方法として、前記抽出した色差輝度比と第2の赤外色分布範囲との最短距離をそれぞれ算出する。前記算出した最短距離の乗数倍をすべて総和したものを、第2の赤外成分評価値として用いるようにする。
【0026】
前記第2の赤外成分評価値と第2の赤外領域の波長成分の割合は、一般的な被写体において図8(B)のような関係がある。よって、前記関係データを予め記憶手段に記憶しておけば、前記第2の赤外成分評価値に基づいて、第2の赤外領域の波長成分の割合を決定することができる。
【0027】
前記第1及び第2の赤外成分評価値において、最短距離を乗数倍してから総和することで、撮影画面中に含まれる色に依存しない評価が可能となる。例えば、撮影画面の色の大半が、赤R〜シアンCyで形成されていたとする。すると図9のように可視光における撮影画面中から抽出された色差輝度比の大半が、第1及び第2の赤外色分布範囲の近傍に集中する。
【0028】
よって撮影画面中の複数の領域から抽出した色差輝度比の大半は、第1及び第2の赤外色分布範囲との最短距離が小さくなる。しかし、撮影画面中における複数の領域のうち、1つの領域でも第1及び第2の赤外色分布範囲から離れた色差輝度比をもつものがあれば、最短距離の乗数倍を取ることで、離れた色差輝度比に対し重み付けをすることが可能である。結果、最短距離の乗数倍の総和つまり第1及び第2の赤外成分評価値は大きくなる。
【0029】
よって図9のような色差輝度比の分布が偏っている場合であっても、第1及び第2の赤外波長成分の割合を大きく誤ることがない。
【0030】
前記決定した第1及び第2の赤外波長成分の割合を用いれば、撮像光源によらず前面に配された透明部材に合焦しないフォーカス制限を適切にかけることが可能となる。可視及び赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係を図10に示す。前記第1及び第2の赤外波長成分の割合の和が所定の値(例えば50%)を超えた場合、前記赤外波長における透明部材から無限遠で合焦するフォーカスレンズ移動範囲をフォーカス制限として選択する。前記第1及び第2の赤外波長成分の割合の和が所定の値(例えば50%)を下回った場合、前記可視波長における透明部材から無限遠で合焦するフォーカスレンズ移動範囲をフォーカス制限として選択する。
【0031】
前記透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係は、可視及び赤外波長の代表波長における値である。代表波長は撮像光源に含まれる波長そのものではないため、透明部材へ合焦しないようにフォーカス制限かける上で実用上問題ないものを選定する必要がある。被写体へ正確にピントを合わせるフォーカスレンズ位置は、前記選択したフォーカス制限の範囲内でウォブリングを行い決定する。
【0032】
前記決定した第1及び第2の赤外波長成分の割合とその差分である可視波長成分の割合を用いれば、さらに詳細なフォーカス制限をかけることが可能となる。可視及び第1及び第2の赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係を図11に示す。前記第1及び第2の赤外波長成分と可視波長成分の内、最も割合の高い波長成分における、前記赤外波長における透明部材から無限遠で合焦するフォーカスレンズ移動範囲をフォーカス制限として選択する。
【0033】
前記透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係は、可視、第1及び第2の赤外波長の代表波長における値である。代表波長は撮像光源に含まれる波長そのものではないため、透明部材へ合焦しないようにフォーカス制限かける上で実用上問題ないものを選定する必要がある。被写体へ正確にピントを合わせるフォーカスレンズ位置は、前記選択したフォーカス制限の範囲内でウォブリングを行い決定する。
【0034】
上記のように構成すれば、赤外カットフィルタを除去した撮影時において、撮像光源に占める波長光の割合を算出することが可能である。波長光の割合に応じてフォーカス制限を選択すれば、前面に配した透明部材へは合焦することなく、かつ被写体に対して適切に合焦させることが可能となる。
【実施例1】
【0035】
上記撮像信号に基づく赤外成分の割合を算出する手段と、それを用いてフォーカスレンズ制御を行う、赤外カットフィルタの挿脱機能を有した撮像装置の実施形態を説明する。実施形態の構成図を図12に示す。
【0036】
前面に配される透明部材1を透過した被写体からの反射光は、撮像光学系2及び光路長補正フィルタ5または赤外カットフィルタ6を通過し、撮像素子カラーフィルタ7を介して撮像素子8に入射される。撮像素子8からのアナログ撮像信号は撮像信号処理部201によって赤色信号R、青色信号B、緑色信号Gに分解される。
【0037】
WB回路202は撮像信号のRゲイン及びBゲインを調整し、適切なホワイトバランスに調整する処理部である。色分離マトリクス(MTX)203は、適正なホワイトバランスに調整された赤色信号R、青色信号B、緑色信号Gを、色差信号R−Y、B−Y及び、輝度信号Yに変換する処理部である。色差信号R−Y、B−Y及び、輝度信号Yは映像信号合成部204により映像信号として合成され外部へ出力される。
【0038】
映像信号合成部204は、赤外カットフィルタ6が挿入されている状態での撮影では、色分離マトリクス203から得られる色差信号R−Y、B−Y及び輝度信号Yを合成し、カラー映像を出力する。ただし、赤外カットフィルタ6が除去され、光路長補正フィルタ5が挿入されている場合、その映像信号は赤外光の混入により色バランスが崩れてしまう。よって光路長補正フィルタ5が挿入されている状態での撮影では、色分離マトリクス203から得られる色差信号R−Y、B−Yを破棄し、輝度信号Yのみの白黒映像を出力する。
【0039】
WB回路202は、光路長補正フィルタ5が挿入されている場合、映像信号合成部204において色差信号R−Y、B−Yを破棄するため、映像信号としてのホワイトバランスを調整する必要がない。代わりに波長成分割合演算部208において、波長成分の割合を演算するために必要な撮像信号を得るため、3原色信号RGBの出力が等しい場合に無彩色となる所定のRゲイン及びBゲインにて変換をかける。
【0040】
変換された撮像信号である色差信号R−Y、B−Y及び輝度信号Yは、画面分割部205において複数の領域毎に分割される。平均値演算部206において分割された複数の領域毎に平均化され、各領域の平均色差信号、及び平均輝度信号に夫々変換される。変換された平均色差及び輝度信号は、色差輝度比演算部207にてR−Y/Y、B−Y/Yに変換される。
【0041】
波長成分割合演算部208は、色差輝度比演算部207にて変換されたR−Y/Y、B−Y/Yとに基づいて撮像光源に含まれる波長成分の割合を算出する。波長成分割合演算部208における具体的な処理を図13に示す。
【0042】
図13のステップS550において、色差輝度比演算部207から得られる色差信号R−Y/Y、B−Y/Yを画面分割部205で分割した領域の数だけ格納する。次にステップS551において、メモリ209より予め記憶してある第1及び2の赤外色分布範囲を読み出す。
【0043】
ステップS552において、色差輝度比R−Y/Y、B−Y/Yと第1の赤外色分布範囲の最短距離を演算し、ステップS553において、前記最短距離の乗数値を演算する。ステップS554において、撮影画面を分割した領域すべてについてステップS552及びS553の処理がなされたかを確認する。領域すべてについて処理が終了していない場合、ステップS552及びS553までの処理を繰返す。領域すべてについて処理が終了した場合は、ステップS555に進み、これまでの全領域の最短距離の乗数値を総和し第1の赤外成分評価値を算出する。
【0044】
ステップS556では、ステップS555で演算された第1の赤外成分評価値と、予めメモリ209に記憶してある第1の赤外成分評価値と第1の赤外成分の割合との相関データを照合し、撮像光源に含まれる第1の赤外成分の割合PIR1を決定する。
【0045】
ステップS557において、色差輝度比R−Y/Y、B−Y/Yと第2の赤外色分布範囲の最短距離を演算し、ステップS558において、前記最短距離の乗数値を演算する。ステップS559において、撮影画面を分割した領域すべてについてステップS557及びS558の処理がなされたかを確認する。領域すべてについて処理が終了していない場合、ステップS557及びS558までの処理を繰返す。領域すべてについて処理が終了した場合は、ステップS560に進み、これまでの全領域の最短距離の乗数値を総和し第2の赤外成分評価値を算出する。
【0046】
ステップS561では、ステップS560で演算された第2の赤外成分評価値と、予めメモリ209に記憶してある第2の赤外成分評価値と第2の赤外成分の割合との相関データを照合し、撮像光源に含まれる第2の赤外成分の割合PIR2を決定する。
【0047】
第1の赤外長成分の割合PIR1を決定するステップS552からステップS556までの処理と、第2の赤外成分の割合PIR2を決定するステップS557からステップS561までの処理は、どちらを先に行っても良い。
【0048】
ステップS562では、ステップS556及びS561で演算された第1及び2の赤外成分の割合PIR1、PIR2を加算し、撮像光源に含まれる残りの波長成分である可視成分の割合PVを算出する。
【0049】
フォーカス制限範囲演算部210は、波長成分割合演算部208において算出した第1及び2の赤外成分の割合と可視成分の割合に基づいて、フォーカスレンズの移動制限範囲を決定する。フォーカス制限範囲演算部210における具体的な処理を図14に示す。
【0050】
ステップS600では、波長成分割合演算部208において算出した第1及び2の赤外成分の割合と可視成分の割合の内、最も高いものを選択する。メモリ209には可視、第1及び第2の赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係データが予め記憶されている。ステップS601では、ステップS600において選択した波長の関係データをメモリ209から読み出す。
【0051】
ステップS602では、ズームレンズ位置検出部9より現在のズームレンズ位置を読み出す。ステップS603では、ステップS602で読み出したズームレンズ位置と、ステップS601で読み出した関係データを照合し、透明部材から無限遠に合焦するフォーカスレンズの範囲を検出し、フォーカスレンズの移動制限範囲とする。ステップS604では、ステップS603で決定したフォーカス移動制限範囲に基づき、フォーカスレンズ駆動制御部10によりフォーカスレンズ4を移動しウォブリングにより被写体にピントを合わせる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】可視光にフォーカス制限を合わせた場合の合焦範囲図
【図2】赤外光にフォーカス制限を合わせた場合の合焦範囲図
【図3】原色カラーフィルタの分光透過特性図
【図4】補色カラーフィルタの分光透過特性図
【図5】原色カラーフィルタに単波長光を照射した場合における波長別の色差輝度比
【図6】補色カラーフィルタに単波長光を照射した場合における波長別の色差輝度比
【図7】(A)撮像光源が可視光のみの色差輝度比の分布 (B)撮像光源が可視光と第1の赤外成分との混合光の色差輝度比の分布 (C)撮像光源が可視光と第2の赤外成分との混合光の色差輝度比の分布
【図8】(A)第1の赤外色分布範囲との距離と、第1の赤外成分の割合との関係 (B)第2の赤外色分布範囲との距離と、第2の赤外成分の割合との関係
【図9】特定色に偏っている被写体における色差輝度比の分布
【図10】可視及び赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係
【図11】可視、第1及び2の赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係
【図12】赤外成分の割合検出によるフォーカス制限手段を有した撮像装置の実施形態図
【図13】波長成分割合演算部におけるフローチャート
【図14】フォーカス制限範囲演算部におけるフローチャート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像光学系と、撮像光学系の前面に配した透明部材と、前面に撮像素子カラーフィルタを配した撮像素子と、前記撮像光学系の光路中で赤外カットフィルタの挿脱を行うフィルタ移動手段を有した撮像装置であって、
前記撮像素子によって撮影された撮影画面中の複数の領域について色差及び輝度信号を平均化して抽出する抽出手段と、前記抽出された色差信号と輝度信号の比の分布に基づいて光源の赤外成分の割合を推定算出する算出手段と、
前記算出された赤外成分の割合に基づいて前記透明部材に対してピントが合わないようにフォーカスレンズの移動範囲を制限する制御手段を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記光源の赤外成分の割合の算出手段は、色差信号と輝度信号の比で表される座標系において、撮像素子カラーフィルタを透過した赤外領域の波長光が分布する範囲に対して、前記抽出された色差信号と輝度信号の比の分布が近傍に集中している度合いを、位置関係に基づいて評価することで赤外成分割合を算出することを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記撮像素子カラーフィルタを透過した赤外領域の波長光が分布する範囲は、撮像素子カラーフィルタの赤外領域の分光透過特性より、赤色成分が多く透過される第1の赤外領域、あるいは3色成分がほぼ同量透過される第2の赤外領域の波長光が分布する範囲であることを特徴とする請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記位置関係に基づく評価は、色差信号と輝度信号の比で表される座標系において、赤外領域の波長光が分布する範囲と、前記抽出された色差信号と輝度信号の比との最短距離をそれぞれ求め、前記最短距離の乗数を総和した値に基づき、赤外成分の割合を算出することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記フォーカスレンズの移動範囲を制限する制御手段は、可視及び赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係データを記憶してある記憶手段と、前記関係データと現在のズームレンズ位置に基づいて、可視及び赤外波長における透明部材から無限遠までの範囲で合焦するフォーカスレンズ移動範囲をそれぞれ算出する算出手段を有し、前記算出された赤外成分の割合に基づいて、前記可視及び赤外波長のフォーカスレンズ移動範囲のどちらかを選択し、フォーカスレンズに制限を掛ける制御手段であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の撮像装置。
【請求項6】
前記フォーカスレンズの移動範囲を制限する制御手段は、可視、第1及び第2の赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係データを記憶してある記憶手段と、前記関係データと現在のズームレンズ位置に基づいて、可視、第1及び第2の赤外波長における透明部材から無限遠までの範囲で合焦するフォーカスレンズ移動範囲をそれぞれ算出する算出手段を有し、前記算出された赤外成分の割合に基づいて、前記可視、第1または第2の赤外波長のフォーカスレンズ移動範囲のいずれかを選択し、フォーカスレンズに制限を掛ける制御手段であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の撮像装置。
【請求項1】
撮像光学系と、撮像光学系の前面に配した透明部材と、前面に撮像素子カラーフィルタを配した撮像素子と、前記撮像光学系の光路中で赤外カットフィルタの挿脱を行うフィルタ移動手段を有した撮像装置であって、
前記撮像素子によって撮影された撮影画面中の複数の領域について色差及び輝度信号を平均化して抽出する抽出手段と、前記抽出された色差信号と輝度信号の比の分布に基づいて光源の赤外成分の割合を推定算出する算出手段と、
前記算出された赤外成分の割合に基づいて前記透明部材に対してピントが合わないようにフォーカスレンズの移動範囲を制限する制御手段を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記光源の赤外成分の割合の算出手段は、色差信号と輝度信号の比で表される座標系において、撮像素子カラーフィルタを透過した赤外領域の波長光が分布する範囲に対して、前記抽出された色差信号と輝度信号の比の分布が近傍に集中している度合いを、位置関係に基づいて評価することで赤外成分割合を算出することを特徴とする請求項1に記載の撮像装置。
【請求項3】
前記撮像素子カラーフィルタを透過した赤外領域の波長光が分布する範囲は、撮像素子カラーフィルタの赤外領域の分光透過特性より、赤色成分が多く透過される第1の赤外領域、あるいは3色成分がほぼ同量透過される第2の赤外領域の波長光が分布する範囲であることを特徴とする請求項2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記位置関係に基づく評価は、色差信号と輝度信号の比で表される座標系において、赤外領域の波長光が分布する範囲と、前記抽出された色差信号と輝度信号の比との最短距離をそれぞれ求め、前記最短距離の乗数を総和した値に基づき、赤外成分の割合を算出することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の撮像装置。
【請求項5】
前記フォーカスレンズの移動範囲を制限する制御手段は、可視及び赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係データを記憶してある記憶手段と、前記関係データと現在のズームレンズ位置に基づいて、可視及び赤外波長における透明部材から無限遠までの範囲で合焦するフォーカスレンズ移動範囲をそれぞれ算出する算出手段を有し、前記算出された赤外成分の割合に基づいて、前記可視及び赤外波長のフォーカスレンズ移動範囲のどちらかを選択し、フォーカスレンズに制限を掛ける制御手段であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の撮像装置。
【請求項6】
前記フォーカスレンズの移動範囲を制限する制御手段は、可視、第1及び第2の赤外波長において、透明部材及び無限遠で合焦するズームレンズとフォーカスレンズ位置の関係データを記憶してある記憶手段と、前記関係データと現在のズームレンズ位置に基づいて、可視、第1及び第2の赤外波長における透明部材から無限遠までの範囲で合焦するフォーカスレンズ移動範囲をそれぞれ算出する算出手段を有し、前記算出された赤外成分の割合に基づいて、前記可視、第1または第2の赤外波長のフォーカスレンズ移動範囲のいずれかを選択し、フォーカスレンズに制限を掛ける制御手段であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の撮像装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−145704(P2010−145704A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322327(P2008−322327)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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