説明

撮影レンズ及び撮像装置

【課題】オートフォーカス手段として電気毛細管現象を用いた可変焦点レンズを有しながらも、収差が良好に補正された撮像レンズ及び撮像装置を提供する。
【解決手段】液体光学素子QLの界面Bが最小の曲率半径を持つときの、界面頂点から曲率半径中心の方向と、界面頂点から開口絞りSヘの方向が一致するようにすれば、界面Bは絞りに対してコンセントリックに近い構成となるので、これにより界面Bの屈折力がもっとも大きくなる時の軸外光線の界面Bヘの入射角度(入射光線と界面の法線とのなす角度)を小さくすることができ、界面Bで発生する軸外光線の収差をより低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CCD型イメージセンサあるいはCMOS型イメージセンサ等の固体撮像素子を用いた小型の撮像装置に好適な撮像レンズ及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、CCD(Charged Coupled Device)型イメージセンサあるいはCMOS(Complementary Meta1 Oxide Semiconductor)型イメージセンサ等の固体撮像素子を用いた撮像装置の高性能化、小型化に伴い、撮像装置を備えた携帯電話やPDA(Personal Digital Assistance)が普及しつつあり、さらには、これらの撮像装置にオートフォーカス(合焦)機構を搭載したいという要求も高まりつつある。
【0003】
ここで、一般的に用いられるオートフォーカス機構では、ステッピングモーター等のアクチュエーターを搭載し、撮影する物体距離に応じて撮像レンズの全体または一部を移動させているが、機械的にレンズを駆動させる従来の手法では、携帯電話等に搭載される撮像装置に強く求められている耐衝撃性を十分満足させることができない恐れがある。これに対し、特許文献1には、電気毛細管現象を用いて屈折力を変化させることができる可変焦点レンズが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】W099/18456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、特許文献1に記載の電気毛細管現象を用いた可変焦点レンズは、単独では適切な撮像レンズを構成し得ず、複数の光学素子や絞りと組み合わせることで、初めてオートフォーカス可能な撮像レンズを実現可能となるが、複数のレンズと組み合わせた際に、どのようにして収差を抑えるかという問題がある。これに対し、特許文献1には、電気毛細管現象を用いた可変焦点レンズを用いてオートフォーカス可能な撮像レンズを構成した場合に、光学系全体として収差をどのように抑えるかについて開示も示唆もされていない。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みなされたものであり、オートフォーカス手段として電気毛細管現象を用いた可変焦点レンズを有しながらも、収差が良好に補正された撮像レンズ及び撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の撮影レンズは、導電性または有極性の第1の液体および前記第1の液体とは互いに混合することがない第2の液体を、界面が所定の形状となるように容器内に密閉収容し、前記第1の液体と前記容器に設けられた電極との間に電圧を印加することにより、前記界面の曲率半径を変化させて屈折力を調整するようにした液体光学素子を有し、物体距離に応じて前記界面の曲率半径を変化させることにより合焦する撮像レンズであって、物体距離に応じて変化する前記界面が最小の曲率半径を持つときの、界面頂点から曲率半径中心の方向と、界面頂点から前記撮像レンズ開口絞りヘの方向が一致することを特徴とする。
【0008】
前記液体光学素子を用いることにより、アクチュエーターなどの可動部を有することなくオートフォーカス機構を実現できるため、構成の簡素化、超寿命化、静音化等に効果がある。しかるに、前記液体光学素子を用いて撮像レンズを構成する場合、収差をどのように抑えるかが問題となる。
【0009】
前記界面が最小の曲率半径を持つときの、界面頂点から曲率半径中心の方向と、界面頂点から前記撮像レンズ開口絞りヘの方向が一致するようにすれば、前記界面は絞りに対してコンセントリックに近い構成となるので、これにより前記界面の屈折力がもっとも大きくなる時の軸外光線の前記界面ヘの入射角度(入射光線と界面の法線とのなす角度)を小さくすることができ、前記界面で発生する軸外光線の収差をより低減することができる。
【0010】
請求項2に記載の撮像レンズは、請求項1に記載の発明において、前記液体光学素子の液体を密閉する部材の少なくとも1面を、物体距離に応じて変化する前記界面の最小の曲率半径の符号と同符号の曲面に形成することを特徴とする。
【0011】
前記液体を密閉する部材の少なくとも1面を、物体距離に応じて変化する前記界面の最小の曲率半径の符号と同符号の曲面に形成することにより、前記界面が最小の曲率半径を持った場合の前記液体光学素子で発生する収差を低減することができる。前記液体を密閉する部材曲面の有する屈折力が、前記界面が最小の曲率半径を持ったときに有する屈折力と同符号であれば、前記液体を密閉する部材の曲面が有する屈折力が前記界面の屈折力を分担する働きをするため、前記光学素子全体で発生する収差を低減することができる。一方、前記液体を密閉する部材の曲面が有する屈折力が、前記界面が最小の曲率半径を持ったときに有する屈折力と異符号であれば、前記液体を密閉する部材の曲面で発生する収差が、前記界面で発生する収差を打ち消す働きをするため、前記光学素子全体で発生する収差を低減することができる。
【0012】
請求項3に記載の撮像レンズは、請求項1に記載の発明において、前記液体光学素子の液体を密閉する部材を平行平板とし、前記平行平板に近接もしくは密着する光学素子の少なくとも1面を、物体距離に応じて変化する前記界面の最小の曲率半径の符号と同符号の曲面に形成することを特徴とする。すなわち前記平行平板と前記光学素子との組み合わせで、請求項2に記載の屈折力を持った前記液体を密閉する曲面の部材と同様な機能を発揮させることもできる。
【0013】
請求項4に記載の撮像レンズは、請求項2又は3記載の発明において、前記少なくとも1面は、前記界面が最小の曲率半径を持ったときに有する屈折力と異符号の屈折力を有することを特徴とする。
【0014】
前記少なくとも1面を、前記界面が最小の曲率半径を持ったときに有する屈折力と異符号の屈折力を有するようにすることで、前記界面が最小の曲率半径を持った場合の前記液体光学素子で発生する収差を低減することができる。前記液体を密閉する部材曲面で発生する収差は、最小の曲率半径を持つ前記界面で発生する収差を打ち消す働きをするため、前記液体光学素子で発生する収差を低減することができる。
【0015】
請求項5に記載の撮像レンズは、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記液体光学素子を密閉する2つの部材の空気との境界面を、物体距離に応じて変化する前記界面の最小の曲率半径の符号と同符号の曲面に形成することを特徴とする。
【0016】
前記液体光学素子を密閉する2つの部材の空気との境界面を、物体距離に応じて変化する前記界面の最小の曲率半径の符号と同符号の曲面に形成することにより、前記界面が最小の曲率半径を持った場合の前記液体光学素子で発生する収差を低減することができる。前記界面が最小の曲率半径を持ったときに有する屈折力と同符号である前記液体を密閉する部材曲画の屈折力は、前記界面の屈折力を分担する働きをするため、前記光学素子全体で発生する収差を低減することができる。さらに、前記界面が最小の曲率半径を持ったときに有する屈折力と異符号の屈折力を有する前記液体を密閉するもう一方の部材曲面では、この曲面で発生する収差が、前記界面で発生する収差を打ち消す働きをするため、前記光学素子全体で発生する収差を低減することができる。
【0017】
請求項6に記載の撮像レンズは、請求項1〜5のいずれかに記載の発明において、前記液体光学素子の液体の屈折率を、前記撮像レンズの開口絞りから近い順にni、noとし、遠方距離物体合焦時および近距離物体合焦時の前記界面の曲率半径をそれぞれRf、Rnとするとき、
ni>noならば |Rf|>|Rn| (1)
を満たし、
ni<noならば |Rf|<|Rn| (2)
を満たすことを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、特に最小の曲率半径を持つ前記界面で発生する軸外光線の収差を低減することができる。前記界面に入射する軸外光線の角度は、(1)式を満たす場合、遠方距離物体合焦時より、前記界面の屈折力が最も大きくなる近距離物体合焦時で小さくなり、特に近距離物体合焦時の軸外光線収差を補正することができる。―方、(2)式を満たす場合、近距離物体合焦時より、前記界面の屈折力の絶対値が最も大きくなる遠雌離物体合焦時で小さくなり、特に遠距離物体合焦時の軸外光線収差を補正することができる。
【0019】
請求項7に記載の撮像レンズは、請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記撮影レンズは物体側より順に前記液体光学素子、主レンズからなり、前記撮像レンズの合焦可能物体距離範囲中において、前記液体光学素子の焦点距離の絶対値が最も大きくなるときの値を|f’|とし、主レンズの焦点距離をfとするとき、
|f’|/f>5 (3)
を満たすことを特徴とする。
【0020】
(3)式を満たすことで、前記液体光学素子の各面が光軸から偏芯した揚合に生じる光学性能劣化を低減することができる。尚、|f’|/f’>10がより望ましく、|f’|/fが∞なら最も望ましい。また、主レンズよりも物体側に前記液体光学素子を配置することにより、撮影レンズから簡単に前記液体光学素子を取り除いたり、装着したりすることができる。
【0021】
請求項8に記載の撮像レンズは、請求項1〜7のいずれかに記載の発明において、前記液体光学素子の液体を密閉する部材に、赤外光をカットする機能を持たせたことを特徴とするので、別個に赤外線カットフィルタなどを設ける必要がなくなり、コンパクトな撮影レンズを提供できる。
【0022】
請求項9に記載の撮像装置は、請求項1〜8のいずれかに記載の撮影レンズを有することを特徴とするので、より高性能な画像を撮像可能な撮像装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、オートフォーカス手段として電気毛細管現象を用いた可変焦点レンズを有しながらも、収差が良好に補正された撮像レンズ及び撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施の形態にかかる撮像装置の概略構成図である。
【図2】液体光学素子QLおよびその駆動部の概略構成図である。
【図3】実施例1の撮像レンズの断面図である。
【図4】実施例1の撮像レンズの収差図である。
【図5】比較例の撮像レンズの断面図である。
【図6】比較例の撮像レンズの収差図である。
【図7】実施例2の撮像レンズの断面図である。
【図8】実施例2の撮像レンズの収差図である。
【図9】実施例3の撮像レンズの断面図である。
【図10】実施例3の撮像レンズの収差図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の実施の形態にかかる撮像レンズを含む撮像装置の光軸方向断面図であるが、液体光学素子QLの駆動部その他の電気回路は省略している。図1において、撮像レンズは、物体側から順に、液体光学素子QLと、主レンズL1と、開口絞りSと、主レンズL2と、主レンズL3とを含み、この撮影レンズとイメージセンサCMOSとで、撮像装置が構成される。尚、図1では液体光学素子QLを簡略化して示している。
【0026】
図2は、液体光学素子QLおよびその駆動部の概略構成図である。QLは本実施の形態にかかる液体光学素子を示している。40は不導体で形成された下容器である。この下容器40の底面(図で右内側面)のうち周辺部には第1の凹部41が形成されているとともに、これよりも内径側(中心側)には第1の封止板2を保持する第2の凹部42が形成されている。第1の封止板(液体を密封する部材)2は、透明アクリルあるいはガラスにより形成されている。
【0027】
この下容器40の周辺壁部の内側全周には第2の電極リング43が設けられており、この第2の電極リング43の表面には、電極端面43aもカバーするアクリル樹脂等でできた絶縁層44が密着形成されている。
【0028】
ここで、下容器40の周辺壁部は、光軸Xに対して図で右端側が左端側よりも光軸Xに近づくように傾いている。このため、第1の電極リング43と絶縁層44も共に光軸Xに対して傾いている。
【0029】
また、絶縁層44の厚さは、図で右に向かって徐々に増加している。更に、絶縁層44の内面全周の下側には、撥水処理剤が塗布されて撥水層11が形成されている。さらに、絶縁層44の内面全周の左側には、親水処理剤が塗布されて親水層12が形成されている。
【0030】
50は不導体で形成された上容器であり、その内径側で、透明アクリルあるいはガラスにより形成された第2の封止板(液体を密封する部材)6を保持する。また、上容器50の周辺部右端面には、シート状の第1の電極リング51が密着形成されている。
【0031】
この第1の電極リング51の表面には、絶縁層52が密着形成されているが、後述する第1の液体21に接してこれに電圧を印加するための露出部51aが備わるように、絶縁層52は第1の電極リング51の外縁側のみをカバーするように形成されている。
【0032】
そして、下容器40の周辺壁部と上容器50とを液密に封止することにより、下容器40、上容器50、第1の封止板2および第2の封止板6で囲まれた所定体積の液室を有した筐体としての容器が形成される。
【0033】
この容器は、光軸Xに対して軸対称形状をなしている。そして、液室には、以下のようにして2種類の液体が充填される。
【0034】
まず、第1の封止板2を取り付けた下容器40の光軸Xを鉛直方向に向けた状態で、液室の底面である第1の封止板2の上面および下容器40の周辺側の底面すなわち(これらが界面対向面に相当する)に、第2の液体22が、その液柱の高さが周辺壁部の撥水膜11の中間の高さになる分量だけ滴下される。
【0035】
第2の液体22は無色透明で、比重1.06、室温での屈折率1.45のシリコーンオイルが用いられる。続いて、液室内の残りの空間には、第1の液体21が充填される。第1の液体21は、水とエチルアルコールが所定比率で混合され、更に所定量の食塩が加えられた、比重1.06、室温での屈折率1.35の電解液(導電性又は有極性を有する液体)である。
【0036】
すなわち、第1および第2の液体21,22は、比重が等しく、屈折率が異なり、かつ互いに混ざることのない(不溶な)液体が選定される。そして、両液体21,22は界面24を形成し、混ざり合わずにそれぞれが独立して存在する。
【0037】
この界面24の形状は、液室(容器)の内面、第1の液体21および第2の液体22の3物質が交わる点、すなわち界面24の外縁部に働く3つの界面張力の釣り合いで決まる。その後、第2の封止板6を取り付けた上容器50を、下容器40に取り付けることで、2種類の液体が封止される。
【0038】
31は第1の電極リング25と第2の電極リング3とに接続された給電回路である。
【0039】
給電回路31の2つの増幅器(図示せず)はそれぞれ、第1の電極リング51および第2の電極リング43から上容器50の右端面に沿って光軸直交方向に引き出された端子部51b,43bに接続されている。
【0040】
以上の構成において、第1の液体21に第1の電極リング51および第2の電極リング43を介して電圧が印加されると、いわゆるエレクトロウェッティング効果によって界面24が変形する。
【0041】
次に、液体光学素子QLにおける界面24の変形と、この変形によってもたらされる光学作用について説明する。
【0042】
まず、第1の液体21に電圧が印加されていない場合、図2に示すように、界面24の形状は、両液体21,22間の界面張力、第1の液体21と絶縁層44上の撥水膜11あるいは親水膜12との界面張力、第2の液体22と絶縁層44上の撥水膜11あるいは親水膜12との界面張力、および第2の液体22の体積で決まる。
【0043】
一方、給電回路31より第1の液体21に電圧が印加されると、エレクトロウェッティング効果によって第1の液体21と親水膜12との界面張力が減少し、第1の液体21が親水膜12と撥水膜11との境界を乗り越えて撥水膜11上に入り込む。この結果、第2の液体22の光軸上での高さが増加する。
【0044】
このように第1および第2の電極リング51,43を通じた第1の液体21への電圧印加によって、2種類の液体の界面張力の釣り合いが変化し、両液体21,22間の界面24の形状が変わる。こうして、給電回路31の電圧制御によって界面24の形状を自在に変えられる光学素子が実現できる。
【0045】
また、第1および第2の液体21,22が異なる屈折率を有しているため、光学レンズとしての光学パワー(1/f:fは焦点距離)が付与されることになり、即ち液体光学素子QLは、界面24の形状変化によって焦点距離が変化する。
【0046】
図2に示す装置においてオートフォーカスがなされたとすると、給電回路31は、不図示の測距センサから被写体までの距離を求めて、各倍率における液体光学素子QLに印加する電圧を予め記憶しているテーブルから設定された被写体距離に対応した印加電圧を求め、液体光学素子QLに印加する。このように制御することで、液体光学素子QLは所望のように光学パワーを変化させることができる。なお、光学パワーの変化は他段階であると好ましく、連続的であるとより好ましい。
【0047】
このようにして焦点距離が調整された可変焦点距離光学系を通過することによって撮像面に結像された光学像は、イメージセンサCMOSで電気信号に変換され、更に所定の処理を施されることで画像信号に変換されるようになっている。
【実施例1】
【0048】
以下、上述した撮像装置に好適な撮像レンズの実施例を示す。各実施例に使用する記号は下記の通りである。尚、本明細書中(表のデータ含む)において、10のべき乗数(例えば 2.5×10-3)を、E(例えば 2.5×E―3)を用いて表すものとする。
total:撮像レンズ全系の焦点距離
f’ :液体光学素子の焦点離離
f :主レンズの焦点距離
fB :バックフォーカス
F :Fナンバー
T :物体距離
2Y :固体撮像素子の撮像面対角線長
R :曲率半径
D :軸上面間隔
Nd :レンズ材料のd線に対する屈折率
νd :レンズ材料のアッべ数
【0049】
各実施例において非球面の形状は、面の頂点を原点とし、光軸方向にX軸をとり、光軸と垂直方向の高さをhとして以下の「数1」で表す。
【0050】
【数1】

ただし、
Ai:i次の非球面係数
R :曲率半径
K :円錐定数
【0051】
尚、以下の実施例データに関し、液体光学素子の界面曲率半径が変化した場合に、各液体の中心厚が一定となっているが、これは発明の効果を示すための近似であり、実際は界面曲率半径が変化した場合、各液体の体積が変化しないように各液体中心厚が変化する。
【0052】
[実施例1]
実施例1にかかる撮像レンズに関して、そのレンズデータを表1、表2に示し、更に無限遠物体撮影時の撮像レンズの断面図を図3(a)に、その場合の収差図を図4(a)に示し、また物体距離5cmの物体撮影時(液体光学素子QLの界面Bが最小の曲率半径を有する)の撮像レンズの断面図を図3(b)に、その場合の収差図を図4(b)に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
一方、比較例にかかる撮像レンズに関し、そのレンズデータを表3、表4に示し、更に無限遠物体撮影時の撮像レンズの断面図を図5(a)に、その場合の収差図を図6(a)に示し、また物体距離5cmの物体撮影時(液体光学素子QLの界面Bが最小の曲率半径を有する)の撮像レンズの断面図を図5(b)に、その場合の収差図を図6(b)に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
実施例1と比較例との差異は、液体光学素子QLを、光軸方向逆に取り付けた点のみであり、無限物体撮影時には、界面が光軸と直交するように制御される。
【0059】
図4と図6の非点収差図を比較すると、実施例1の方が軸外での像面湾曲および非点収差を低減していることが分かる。また歪曲収差も小さく抑えられている。このように液体光学素子中の液体界面Bが最小の曲率半径を持つときの、界面頂点から曲率半径中心の方向と、界面頂点から前記撮像レンズ開口絞りへの方向が一致することにより、軸外光線の収差を低減することができる。
【0060】
[実施例2]
実施例2にかかる撮像レンズに関して、そのレンズデータを表5、表6に示し、更に無限遠物体撮影時の撮像レンズの断面図を図7(a)に、その場合の収差図を図8(a)に示し、また物体距離5cmの物体撮影時(液体光学素子QLの界面Bが最小の曲率半径を有する)の撮像レンズの断面図を図7(b)に、その場合の収差図を図8(b)に示す。実施例2では、液体光学素子QLの封止板2,6に屈折力を持たせている。
【0061】
【表5】

【0062】
【表6】

【0063】
図8(実施例2)と図4(比較例)の非点収差図を比較すると、実施例2の方が軸外での非点収差を低減していることが分かる。このように液体光学素子QLを密閉する部材(封止板2,6)の面を、物体距離に応じて変化する界面Bの最小の曲率半径の符号と同符号の曲面に形成することにより、特に軸外光線の収差を低減することができる。
【0064】
[実施例3]
実施例3にかかる撮像レンズに関して、そのレンズデータを表7、表8に示し、更に無限遠物体撮影時(液体光学素子QLの界面Bが最小の曲率半径を有する)の撮像レンズの断面図を図9(a)に、その場合の収差図を図10(a)に示し、また物体距離5cmの物体撮影時の撮像レンズの断面図を図9(b)に、その場合の収差図を図10(b)に示す。実施例3でも、液体光学素子QLの封止板2,6に屈折力を持たせている。
【0065】
【表7】

【0066】
【表8】

【0067】
図10(実施例3)と図4(比較例)の非点収差図を比較すると、実施例3の方が軸外での非点収差を低減していることが分かる。このように液体光学素子QLを密閉する部材(封止板2,6)の面を、物体距離に応じて変化する界面Bの最小の曲率半径の符号と同符号の曲面に形成することにより、特に軸外光線の収差を低減することができる。
【0068】
ここで、実施例1〜3は、主レンズを構成する3枚のレンズL1〜L3をプラスチック材料から形成した例である。したがって、物体距離が固定であっても周囲温度が変化すると、プラスチック材料の屈折率変化や熱膨張が原因となり撮像レンズ全系の像点位置が変動してしまう恐れがあるが、このような場合も、温度に応じて液体光学素子の屈折力を調整することによりピントの合った画像を得ることができる。
【0069】
なお、実施例2では密閉部材曲面が球面形状であるが、非球面形状であっても同様の効果があり、さらに液体と密閉部材境界面が球面または非球面であってもよい。また、封止板2,6の空気との境界面側には、反射防止コーティングが施されていると、撮像レンズ全体の透過率を向上させることができ望ましい。さらに、密閉部材の少なくとも一方が赤外線吸収特性を有する材料から形成されていると、別途赤外線カットフィルタを設ける必要がなく望ましい。
【0070】
以上、本発明を実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定して解釈されるべきではなく、適宜変更・改良が可能であることはもちろんである。本発明の撮像装置は、小型のデジタルスチルカメラや、携帯電話、PDA等の携帯端末に搭載されることが好ましいが、パソコンカメラなど他の用途にも用いることができる。
【符号の説明】
【0071】
QL 液体光学素子
L1 第1レンズ
S 開口絞り
L2 第2レンズ
L3 第3レンズ
CMOS イメージセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性または有極性の第1の液体および前記第1の液体とは互いに混合することがない第2の液体を、界面が所定の形状となるように容器内に密閉収容し、前記第1の液体と前記容器に設けられた電極との間に電圧を印加することにより、前記界面の曲率半径を変化させて屈折力を調整するようにした液体光学素子を有し、物体距離に応じて前記界面の曲率半径を変化させることにより合焦する撮像レンズであって、
物体距離に応じて変化する前記界面が最小の曲率半径を持つときの、界面頂点から曲率半径中心の方向と、界面頂点から前記撮像レンズ開口絞りヘの方向が一致することを特徴とする撮像レンズ。
【請求項2】
前記液体光学素子の液体を密閉する部材の少なくとも1面を、物体距離に応じて変化する前記界面の最小の曲率半径の符号と同符号の曲面に形成することを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項3】
前記液体光学素子の液体を密閉する部材を平行平板とし、前記平行平板に近接もしくは密着する光学素子の少なくとも1面を、物体距離に応じて変化する前記界面の最小の曲率半径の符号と同符号の曲面に形成することを特徴とする請求項1記載の撮像レンズ。
【請求項4】
前記少なくとも1面は、前記界面が最小の曲率半径を持ったときに有する屈折力と異符号の屈折力を有することを特徴とする請求項2又は3記載の撮像レンズ。
【請求項5】
前記液体光学素子を密閉する2つの部材の空気との境界面を、物体距離に応じて変化する前記界面の最小の曲率半径の符号と同符号の曲面に形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の撮像レンズ。
【請求項6】
前記液体光学素子の液体の屈折率を、前記撮像レンズの開口絞りから近い順にni、noとし、遠方距離物体合焦時および近距離物体合焦時の前記界面の曲率半径をそれぞれRf、Rnとするとき、
ni>noならば |Rf|>|Rn| (1)
を満たし、
ni<noならば |Rf|<|Rn| (2)
を満たすことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の撮像レンズ。
【請求項7】
前記撮影レンズは物体側より順に前記液体光学素子、主レンズからなり、前記撮像レンズの合焦可能物体距離範囲中において、前記液体光学素子の焦点距離の絶対値が最も大きくなるときの値を|f’|とし、主レンズの焦点距離をfとするとき、
|f’|/f>5 (3)
を満たすことを特徴とする請求項l〜6のいずれかに記載の撮影レンズ。
【請求項8】
前記液体光学素子の液体を密閉する部材に、赤外光をカットする機能を持たせたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の撮影レンズ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の撮影レンズを有することを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−237679(P2010−237679A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106168(P2010−106168)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【分割の表示】特願2003−316683(P2003−316683)の分割
【原出願日】平成15年9月9日(2003.9.9)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】