説明

支持体上への材料層の製造方法

本発明は、支持体上に材料のフラグメント化された層を製造する方法に関する。本発明の方法は、支持体上に物質の連続的な薄層を断続的に蒸着させる段階と、前記薄層をドロップ状に変換する段階とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持体上にフラグメント化された材料の薄層を製造する方法に関する。本発明は、特に、カーボンナノチューブやナノファイバーを形成するための触媒を得ることに適用可能である。
【背景技術】
【0002】
触媒は、純粋な熱化学気相蒸着法(熱CVD法)によるカーボンナノチューブの成長、及びプラズマを用いた蒸着法によるカーボンナノチューブの成長のどちらにおいても、重要な要素である。
【0003】
効率の良さが触媒に要求される特性の一つであることは明らかなので、集積技術における問題は、可能な限り低温での成長反応を可能にする触媒を得ることである。
【0004】
他の要求としては、触媒が一定の分離した状態であることが要求される。実際に、直径の小さな触媒粒子を製造する試みが行われている。得られるナノチューブの直径は、触媒粒子の直径を直に反映する。
【0005】
熱に対する安定性も重要なパラメータであり、成長工程の間にナノ粒子同士が凝縮しないように触媒が分離状態を維持する能力に関する。
【0006】
マイクロエレクトロニクス装置へと集積可能な触媒を探し出す試みも行われている。ニッケル薄層、コバルト薄層、または鉄薄層が、このために使われる。
【0007】
この種の触媒は、例えば非特許文献1に開示されている。得られる粒子の大きさが蒸着層の厚さに依存することは周知である。
【0008】
他方、安定性に対する問題は解決されておらず、例えば非特許文献2では、Ni粒子の強い凝集が観察されている。
【0009】
更に、触媒は、600℃のオーダーの温度でのみ、効果的にドロップ状に分離し、または分裂する。つまり、この触媒を用いる工程は、600℃付近の温度で行われなければならない。
【0010】
特にNiまたはFe層について、触媒をエッチングするためにプラズマを使用することが提案されている。プラズマは、600℃から900℃の比較的高温の窒素プラズマ(非特許文献3を参照)か、390℃のアンモニアプラズマ(例えば、非特許文献4を参照)のどちらかである。後者の場合、その目的は触媒をエッチングし、粒子の密度を制御することである。得られる粒子は、1nmのオーダーの蒸着層の厚さを除いては、比較的大きい(直径60から100nm)。
【0011】
従って、上述の4つのパラメータは満たされておらず、得られる粒子の直径を変化させることができる唯一のパラメータが、蒸着層の厚さであるということがわかる。上述の工程に用いられる触媒、より一般的にはよく分離した材料を得ることには問題があり、詳細には、制御が困難である非常に薄い層が必要とされる。
【非特許文献1】M.Yudasaka、Applied Physics Letters、1995年、第67巻、p.2477
【非特許文献2】M.P.Siegal、Applied Physics Letters、2002年、第80巻、第12号、p.2171
【非特許文献3】J.S.Gao、Materials Science and Engineering、2003年、第A352巻、p.308−313
【非特許文献4】J.H.Choi、Thin Solid Films、2003年、第435巻、p.318−323
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、広範な分離状態を得るための分離した材料の製造方法を提供することである。この分離状態は、材料の蒸着層の厚さ以外のパラメータにより制御することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は第一に、第一物質の薄層を断続的に支持体の面上に蒸着させる段階と、熱処理または低温水素プラズマ処理によりドロップへと形成する段階とを備えた方法に関する。
【0014】
断続的な蒸着とは、真空または制御された雰囲気下での待ちフェイズによって間隔が空けられた同一物質の一続きの蒸着を意味する。つまり、蒸着は時間について断続的である。
【0015】
薄層は通常フィルム状であり、その厚さは一から数ナノメートルであり、例えば、1nmから10nmである。また、支持体の表面上の材料の表面張力は、分離される材料の表面張力よりも小さいことが望ましい。形成されるドロップは一様に円形にされ、及び/または、一様に分布される点が有利な点である。これらの材料は、相互作用しない、またはほとんど相互作用しない(拡散現象がほとんどない、化学反応しないまたはほとんどしない)ことが望ましい。
【0016】
蒸着時とプラズマ処理段階において、支持体が分離される材料と過度に相互作用するのであれば、拡散バリア層を前もって形成することが望ましい。例えば、第一材料がニッケルならば、拡散バリア層はTiN層である。このバリア層は、分離した材料の分離特性と安定性をも決定する。
【0017】
第一材料がニッケル、鉄、コバルトといった触媒金属である点は、有利な点である。この場合、ドロップは低温(典型的には300℃)の水素プラズマ処理により形成され、低温成長工程に使用可能な300℃から活性する活性触媒となる。
【0018】
触媒金属層の蒸着段階は、酸素の分圧の下で行われてもよい。酸素の分圧は、触媒粒子の直径についてよりよい制御を与える。
【0019】
本発明はまた、上述のような触媒層の製造段階と、得られた触媒層へのカーボンナノチューブまたはナノファイバーの成長段階を備えたカーボンナノチューブまたはナノファイバーの成長方法に関する。
【0020】
ナノチューブまたはナノファイバーは化学気相蒸着により成長し得る。
【0021】
本発明はまた、上述の方法の一つを用いて支持体上に材料の薄層(例えば、連続的なフィルム)を製造する段階を備えた、粗さが制御された支持体の表面を形成する方法に関する。
【0022】
本発明はまた、支持体表面上に金属/酸化物の混合物を製造する方法であって、上述の方法により支持体上の金属材料のフラグメント化された薄層を製造する段階と、形成された材料層の上に酸化物層を形成する段階と、研磨する段階とを備えた方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、蒸着層の厚さ、特に蒸着層を時間的には断続的であるが表面全体にわたり連続的に蒸着させることを精緻に制御することを可能にする装置を示す。つまり、該装置は、軌道(planetary)システムを備えた電子銃蒸発装置である。
【0024】
例えばニッケルから成るフィラー1は、キャッシュ2を介して、回転する軌道システム5に固定された試料ホルダー3に向けて、環境温で蒸発される。検出器4は試料ホルダー3に蒸着したニッケルの厚さを調べる。
【0025】
測定手段4を用いる測定は基板3上に蒸着した厚さよりも厚い厚さについて行われ、キャッシュ2に設けられた開口7と該キャッシュの外周との比率に依存している。
【0026】
試料ホルダー3は、キャッシュに設けられた開口2の中心線上の蒸着に対してのみ影響を受ける。一方、探知機4は、軌道システムの全回転中の連続的な蒸着に影響を受ける。
【0027】
この装置は制御された断続的な蒸発に使用できる。例えば、開口の大きさがキャッシュの外周の10分の1に相当すれば、1/10の時間は蒸着が行われ、9/10の時間は蒸着が行われない。
【0028】
得られる構造を図2に示す。この構造は、基板10と、断続的な蒸着により得られた典型的には1から10mmの厚さの蒸着材から成るフィルム層14とを備え、拡散バリア層12を備えてもよい。
【0029】
低温熱処理または水素プラズマ処理は、蒸着材をドロップに変化させ、つまり、フィルムが、より一様またはより非一様で、及び/または、形と大きさと分布がより均一またはより不均一な材料のドロップの不連続な集合を形成するようにする。触媒材料の場合、この処理は触媒14を活性化することもできる。低温とは典型的に環境温(略20℃)から500℃を意味し、例えば200℃から500℃の間であり、好ましくは300℃である。
【0030】
次に、本発明により製造される触媒の例を示す。
【0031】
<実施例1>
本実施例では、材料はアニーリングにより処理される。
【0032】
層12は環境温での反応性陰極スパッタリングにより蒸着された60nmの厚さのTiN層である。
【0033】
スパッタリングガスは、アルゴンと窒素の混合物(80%/20%)である。
【0034】
Ni層14は、上述の装置を用い環境温で電子銃を使用することにより断続的に生成される。材料は、水素分圧下、600℃の標準的な熱処理により、ドロップ状にされる。
【0035】
より一般的に、この熱処理は従来使用されている500℃から600℃の間の範囲で行うことができる。
【0036】
これらの条件下では、Niの厚さの関数として表1に示すような直径の平均値と標準偏差を有するニッケル粒子の分布が得られる。
【0037】
標準的なNi層(つまり、連続蒸着)の結果を下記の表2に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
表1と表2を比較すると、本発明では、得られる粒子の直径が、1/1.5から1/3に改善されていることがわかる。
【0041】
図3Aと3Bは各々、同一のTiN層に蒸着され、600℃でドロップにされた3nmのニッケルフィルムのSEM図を示す。
【0042】
図3A(40000倍)は標準的な方法に関し、図3B(100000倍)は本発明による方法に関する。ここでもまた、本発明の方法により、3倍のオーダーの向上が得られたことがわかる。
【0043】
<実施例2(プラズマ)>
本実施例では、材料はプラズマで処理される。
【0044】
蒸着は実施例1と同様で、蒸着物は300℃での水素の無線周波数(RF)プラズマを用いて処理される。
【0045】
RF出力は300Wで、処理時間は10分、水素圧力は150mTorrである。
【0046】
表3は、本発明の方法(つまり、断続的)と、標準的な方法(つまり、連続)とによる、蒸着フィルムへの300℃での水素プラズマ処理の結果を示す。
【0047】
【表3】

【0048】
本発明により生成された層とは異なり、標準的な層は、低温プラズマ処理によりドロップ状にならないことがわかる。
【0049】
<実施例2(O分圧+プラズマ)>
本実施例では、材料は、O分圧下でプラズマにより処理される。
【0050】
TiN層12は、反応性陰極スパッタリングで蒸着された厚さ60nmの層である。
【0051】
スパッタリングガスは、アルゴン/窒素の混合物(80%/20%)である。
【0052】
Ni層14は、上述の装置を用いて、環境温で電子銃により生成される。3×10−15mbarの酸素分圧が、Ni蒸着の間、加えられる。
【0053】
層は、上述の実施例に記載したように、300℃でのHプラズマ工程により分離される。
【0054】
表4は、蒸着の間に酸素分圧が導入された場合の触媒粒子の大きさに関する結果を示す。
【0055】
【表4】

【0056】
表4はNi蒸着間の酸素の役割を示す。触媒粒子の直径は、典型的には10−6から10−4mbarに酸素分圧を調節することにより、制御可能である。
【0057】
従って、本発明により生成される触媒は、650℃に及ぶ高温において極めて良好な安定性を有する。630℃で二時間経過した後にプラズマで処理された3nmのNi層に対して直径分布の平均値は、18nmから23nmに増加した。
【0058】
続けて、Cを反応ガスとする540℃での熱CVD(化学気相蒸着)により、非常に満足の行くようにナノチューブを成長させることができる。
【0059】
図4は、540℃でのCVD工程により、540℃での本発明による触媒上に成長したナノチューブ(略20nmのチューブ)を示す。図4は、100000倍のSEM図である。
【0060】
従って、本発明により生成された触媒が次の基準を満たすことが分かる。
【0061】
・500℃から600℃の温度での強い反応性。
【0062】
・得られる粒子の平均直径が触媒の厚さに依存して10nmから90nm程度である触媒の非常に強い分離。
【0063】
・使用される条件の温度下での、つまり少なくとも650℃までの安定性。
【0064】
・蒸着が環境温で行われ、従って従来の樹脂剥離(resin lift off)ステップと互換があるためのデバイス工学への組み込みやすさ。
【0065】
従って、このステップを使い、触媒蒸着物を局在化させることが容易である。
【0066】
より詳細には、本発明は、支持体の一つの面上に指定の材料の粒子を得ることが可能な方法に関する。該粒子は制御された密度と大きさを有する。前記材料は、金属性(鉄、ニッケル、コバルトや、例えばシリコンといった半導体コンパウンド)であってもよい。このことを達成するため、支持体上に薄膜(典型的には数ナノメートル)が不連続に蒸着され、熱処理またはプラズマ処理によってドロップ状にされる。
【0067】
支持体の面は、分離される材料と僅かにしか相互作用しない(ほとんど拡散しない、ほとんどまたは全く化学反応しない)ように選択される。本実施例は、TiN上のニッケルの場合であったが、一般的に、酸化物上の金属または酸化物上のシリコンであってもよい。(例えばTiNや酸化物等から作られる)拡散バリア層は、必要ならば挿入される。
【0068】
本方法は、ナノチューブの成長用の触媒以外にも応用できる。
【0069】
上述のように分布された粒子は、前記支持体の表面の粗さを制御するために使用可能である。その構造は、例えば20nmといったドロップの大きさを基準とする。この構造を有する表面を、酸化物(例えばシリカ)によって覆い、次に研磨することにより、サーメット(CERMET)型に応用される、酸化物中の粒子(例えば金属粒子)の調整された混合物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の方法を行う装置の図である。
【図2】本発明のコンパウンドの図である。
【図3A】従来技術の方法により得られた3nmの厚さのニッケルフィルムの走査型電子顕微鏡(SEM)図である。
【図3B】本発明の方法により得られた3nmの厚さのニッケルフィルムの走査型電子顕微鏡(SEM)図である。
【図4】本発明の方法を用いた触媒上の成長方法により得られたナノチューブの図である。
【符号の説明】
【0071】
1 フィラー
2 キャッシュ
3 試料ホルダー
4 検出器
5 軌道システム
7 開口
10 基板
12 拡散バリア層
14 フィルム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上へ材料の薄層(14)を断続的に蒸着させる蒸着段階と、
前記薄層をドロップ状にする段階とを備えることを特徴とする、支持体上へのフラグメント化された材料の層(14)の製造方法。
【請求項2】
前記ドロップ状にする段階は熱処理によって実施される請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ドロップ状にする段階は低温水素プラズマ処理によって実施される請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
熱または拡散バリア層(12)を蒸着する前段階を備えた請求項1から4の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記熱または拡散バリア層(12)はTiNから成り、前記材料がニッケルである請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記材料は金属である請求項1から4の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記材料の層の前記蒸着段階は、酸素分圧下で実施される請求項1から6の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載の製造方法により触媒金属層を製造する段階と、
得られた前記触媒層上へカーボンナノチューブまたはナノファイバーを成長させる段階とを備えたカーボンナノチューブまたはナノファイバーの成長方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブまたはナノファイバーを成長させる段階は化学気相蒸着により実施される請求項8に記載の成長方法。
【請求項10】
請求項1から7の何れか一項に記載の製造方法により支持体上にフラグメント化された材料の薄層を製造する段階を備えた、支持体上の粗さの制御された表面の形成方法。
【請求項11】
前記材料の層上に酸化層を形成する段階と、
研磨する段階とを更に備えた請求項10に記載の形成方法。
【請求項12】
請求項1から7の何れか一項に記載の製造方法により支持体上にフラグメント化された金属材料の薄層を製造する段階と、
形成された前記材料の薄層上に酸化物層を形成する段階と、
研磨する段階とを備えた、支持体の表面上の金属/酸化物の混合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−521949(P2007−521949A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551895(P2006−551895)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050073
【国際公開番号】WO2005/075077
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】