説明

改善された溶接性を有する潜水艦船体用鋼

【課題】溶接を使用して組み立てられる、圧延鋼または鍛造鋼部材によって構成される潜水艦船体の製造用の鋼、その使用、および潜水艦船体を提供する。
【解決手段】鋼の化学成分が重量%で、0.03%≦C<0.08%、0.04%≦Si≦0.48%、0.1%≦Mn≦1.4%、2%≦Ni≦4%、Cr≦0.3%、0.3%≦Mo+W/2+3(V+Nb/2+Ta/4)≦0.89%、Mo≧0.15%、V+Nb/2+Ta/4≦0.004%、Nb≦0.004%、Cu≦0.45%、Al≦0.1%、Ti≦0.04%、N≦0.03%を含み、残りは、鉄および製造作業から結果として生じる不純物、含有量が0.0005%未満の不純物であるホウ素、およびP+S≦0.015%を含み、この化学的成分は、410≦540×C0.25+245[Mo+W/2+3(V+Nb/2+Ta/4)]0.30≦460の条件を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接を使用して組み立てられる、圧延鋼または鍛造鋼部材によって構成される潜水艦船体の製造用の鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶を過剰に重くすることなく、深海に潜水するのを可能にするために、潜水艦の船体は、一般に、強烈な動的荷重の場合でさえ十分な程度の信頼性をもたらすことができるように、低温においてさえ非常に良好な衝撃抵抗を有する非常に高強度な鋼によって構成され、かつ高品質の組み立て体を生成することができるように比較的容易に溶接できる、40mmから50mmの間の厚さを有する鋼板、および任意選択で100mmから150mmの厚さを有する鍛造部材によって構成される。
【0003】
従来使用されている鋼は、60HLESまたは80HLESと呼ばれるシリーズの鋼であり、その化学成分は、約0.10%の炭素、2%から4%のニッケル、0.2%から0.4%のシリコン、Mo+3Vが0.3%から0.5%の間であるような含有量のモリブデンおよびバナジウム、0.8%から1.2%の間のMn、0.1%から0.5%のCr、残りは、鉄、不純物、および任意選択で少量の脱酸元素を含む。これらの鋼は、全体的に見てマルテンサイトの、すなわち90%を超えるマルテンサイトを含有し、その降伏強度が550MPaと650MPaの間にあり、引張強度が600MPaと750MPaの間にあり、破断時の伸びが15%と20%の間にあり、シャルピー靭性Kcvが−80℃で80Jより大きい焼き戻し組織を有することができるように、焼入れ焼き戻しされた板または鍛造部材などの部材を製造するために使用される。
【0004】
これらの鋼から製造される部材は、低温状態での亀裂発生問題を防止するために、少なくとも150℃程度の温度に予熱されて、溶接を使用して組み立てられる。
【0005】
これらの溶接条件は、生成されるこの溶接継ぎ目が、非常に高範囲にフランジ加工されかつ弾性限界のほとんど80%の応力を生じさせる可能性のある溶接継ぎ目であり、かつ溶接継ぎ目が、温度が0℃の領域のレベルに落ちる可能性のある現場で行われるので、特に必要とされる。
【0006】
高温度で予熱作業を行うことの必要性は、潜水艦船体の部材を溶接するのを困難にする欠点である。したがって、溶接継ぎ目の非常に広範なフランジ加工にもかかわらず、かつ現場の比較的低温の外部温度にもかかわらず、より厳しくない条件下で、すなわち予熱なしで、または100℃を超えない、または好ましくは50℃を超えない板のベーキング作業のみを少なくとも行うことによって、溶接継ぎ目を作り出すことができる鋼を有することができることが望ましい。
【0007】
この分野で適用される製造標準によって規定される溶接棒と異なる、低炭素ベイナイト組織(LCBS)に結果としてなる溶接棒を使用することによって、60HLESまたは80HLESタイプの鋼から製造される潜水艦船体に対する溶接条件が改善されることが、特に国際公開第93/24269号パンフレットで提案されている。
【0008】
しかしながらこの技術は、欠点を有する。なぜなら、溶着金属の領域でのこのように得られる亀裂発生リスクの低減が、それにもかかわらず、母材自体の、熱影響ゾーンの領域内の溶接作業により引き起こされる亀裂発生リスクの問題を克服しないからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第93/24269号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、溶接を使用して部材を組み立てることによって、潜水艦船体を製造するための高降伏強度を有する溶接可能鋼を提供することによって、これらの欠点を克服することであり、部材は、厚板または鍛造部材によって構成され、かつ480MPaから620MPaの間の降伏強度を有し、シャルピーV Kによって測定される靭性が、−60℃で50Jより大きく、好ましくは−85℃で50Jより大きく、かつ熱影響ゾーンの領域に溶接作業によって引き起こされる、母材における亀裂発生のリスクが低減する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のために、本発明は、潜水艦船体を製造するための鋼に関し、鋼の化学成分が重量で、
0.030%≦C<0.080%
0.040%≦Si≦0.48%
0.1%≦Mn≦1.4%
2%≦Ni≦4%
Cr≦0.3%
0.30%≦Mo+W/2+3(V+Nb/2+Ta/4)≦0.89%
Mo≧0.15%
V+Nb/2+Ta/4≦0.004%
Nb≦0.004%
Cu≦0.45%
Al≦0.1%
Ti≦0.04%
N≦0.0300%
残りは、鉄および製造作業から結果として生じる不純物、含有量が0.0005%未満の不純物であるホウ素、およびP+S≦0.015%を含み、この化学的成分が、
410≦540×C0.25+245[Mo+W/2+3(V+Nb/2+Ta/4)]0.30≦460の条件を満たし、鋼は、実質的にマルテンサイトのまたはより低いベイナイトである組織、またはこれら2つの組織の混合物によって実質的に構成される組織を有し、480MPaと620MPaの間の降伏強度と−60℃で50Jより大きなシャルピー靭性V、Kcvを有する、少なくとも90%のマルテンサイトまたはより低いベイナイトまたはこれら2つの組織の混合物、最大5%の在留オーステナイト、最大5%のフェライトを含む、組織を有することを特徴とする。
【0012】
この化学成分は、以下の条件のうちの1つまたは複数が満たされるようなものであることが好ましい。
Si≦0.19%
Mn≦1%
W≧0.11%
2.5%≦Ni≦3.5%
Cr≦0.2%、および好ましくはCr≦0.09%
425≦540×C0.25+245[Mo+W/2+3(V+Nb/2+Ta/4)]0.30≦450
Ni≧2.7%
Mo≦0.75%
C≦0.055%
【0013】
本発明は、15mmと150mmの間の厚さを有し、本発明により焼き入れおよび焼き戻しされている鍛造されたまたは圧延された鋼の潜水艦船体部材、および溶接を使用して組み立てられる本発明による部材を備える潜水艦船体にも関する。
【0014】
本発明は、最後に、15mmと150mmの間の厚さを有しかつ溶接を使用して組み立てられる部材を備える、潜水艦船体を製造するための本発明による鋼の使用に関し、溶接は、予熱されていない、または25℃を超えない温度に予熱されている部材に対し行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】0.3%の程度のシリコン含有量に対する高炭化物生成元素の含有量の関数として、最小非亀裂温度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明を、溶接中の亀裂発生なしの最小限温度の経路を、高炭化物を生成する元素の含有量の関数として、かつ例として示す単一の図を参照して、より明確に、ただし限定ではなく説明する。
【0017】
発明者らは、潜水艦を製造するために一般に必要とされる特徴に従った特徴を有する潜水艦船体用に、知られている鋼から製造される潜水艦用の部材より容易に溶接することができる部材を製造することが可能であることを、新規なかつ予期しない方法で見出した。この目的のために、一方では実質的に炭素に関する含有量を実質的に低下させることによって、かつ他方では高炭化物生成元素、すなわち、硬化させるが脆化させない微細かつ分散された炭化物の形態で析出することができる元素に関する含有量を増加させることによって、知られている鋼の成分と比較してその成分が改変された鋼を使用する必要があった。この鋼は、実質的にマルテンサイト、すなわち90%を超えるマルテンサイトを含み、残りは、5%未満の残留オーステナイトおよび5%未満のフェライトによって構成される組織を有さなければならない。しかしながら、このマルテンサイト成分は、靭性を過度に害することなく、完全にまたは部分的により低いタイプのベイナイト、すなわち、この観点からはマルテンサイトと類似する顕微鏡的外観を有するラス(lath)の形態のベイナイトと置き換えることができることが見出された。
【0018】
このように改変された鋼の化学成分は、重量%で以下を含む。
【0019】
一方では焼き戻し中に硬化炭化物の生成を可能にするが、溶接作業中の母材の靭性、特に熱影響ゾーンの靭性を害しないようにするための、0.03%より多くの炭素、かつ好ましくは0.035%より多くの炭素、ただし0.080%未満の炭素、かつ好ましくは0.060%未満の炭素、かつさらにより好ましくは0.055%未満の炭素。炭素に関する含有量は、フランジ加工の影響を制限し、したがって溶接作業中に金属が亀裂する感受性を減少させるために必要である、溶接ゾーン内の温度によって影響されるゾーン内のマルテンサイト変態と結びつけられる変形を減少させるために、特に限定されている。
【0020】
液状の鋼の浴を脱酸するための0.04%から0.48%のシリコン。しかしながら、溶接作業中の温度勾配を減少させ、したがって、フランジ加工された溶接継ぎ目の生成中の鋼の亀裂発生する感受性を減少させる、結果として生じる機械的な拘束を減少させる効果を有するであろう鋼の熱伝導率を改善できるように、このシリコン含有量は減らされ、0.29%より少なく、好ましくは0.25%未満、さらに好ましくは0.19%未満に残存させられるであろう。
【0021】
過度に大きく偏析するストリップの形成なしに、焼入れ性を改善するための1.4%までのマンガン。この鋼は、別の焼入れ元素も含有するので、マンガンは、厳密に言えば不可欠ではなく、その含有量は、1.2%に、より好ましくは1.0%に制限することができ、トレースレベルで存在させることもできる。しかしながら、特にこの鋼の製造を容易にするために、マンガン含有量は、少なくとも0.2%に、0.6%にさえ等しいことが好ましいであろう。
【0022】
焼入性を改善するために、少なくとも2.1%のニッケル、より好ましくは2.5%のニッケル、さらにより好ましくは2.7%のニッケル。これは、所望のタイプの顕微鏡組織、すなわちマルテンサイトまたはより低いベイナイトまたはこれらの2つの組織の混合物によって実質的に構成される組織を得ることを確実にするために必要である。ニッケル含有量は、5%までにすることができるが、実際にはかつこの元素のコストを考慮すると、この含有量は、好ましく4%未満、さらにより好ましくは3.5%未満であろう。
【0023】
0.3%未満のクロム、好ましくは0.15%未満のクロム、さらに好ましくは0.09%未満のクロム。この炭化物生成元素は望ましくない。それは、本発明による鋼の特性に特に有利な効果を有さない、比較的硬い炭化物を形成することができる。結果として、その量が多すぎる場合は、炭素を消費してしまい、その結果炭素は、微細かつ分散される硬化炭化物を形成する別の高炭化物生成元素と共に、硬化炭化物を形成するのに最早使用可能ではなくなるであろう。したがって、クロムは、製造作業から結果として生じる残留物であると考えられる。この元素の含有量に関する限度の順守は、この鋼が、注意深く選択される原材料から製造されなければならないことを意味する。これらの事前注意は、原材料が、この種類の鋼に対して一般的な状況であるスクラップ鉄によって主として構成されるとき、より特に重要である。
【0024】
微細かつ硬化性である析出炭化物を形成する高炭化物生成元素。これらの元素は、一方ではモリブデンおよびタングステンであり、他方ではバナジウム、ニオブ、およびタンタルである。これらの元素に対して、[Mo+W/2+3(V+Nb/2+Ta/4)]の重量での合計は、少なくとも0.30%、好ましくは0.35%、さらに好ましくは0.4%でなければならない。この合計は、所望の硬化に対し必要な含有量を超える含有量から結果として生じるであろう、金属の靭性および均質性に対する不利な影響を制限するために高すぎてはならない。結果として、高炭化物生成元素の重量での合計は、0.89%未満、好ましくは0.69%未満、より好ましくは0.59%未満にとどまる。さらに、バナジウム、ニオブ、およびタンタルは、顕著な脆化効果を有するので、モリブデンおよびタングステンが好ましい。したがって、V+Nb/2+Ta/4の重量での合計は、0.004%未満にとどまり、ニオブは、バナジウムより靭性に対してより有害なので、その含有量は0.004%に制限され、元素バナジウム、ニオブ、およびタンタルは、トレースレベルで存在することが好ましい。逆にモリブデンに関する含有量は、最小限0.15%、より好ましくは0.30%、さらにより好ましくは0.45%であろう。モリブデンは、タングステンより一般に使用され、概してより経済的であるので、タングステンより好ましい可能性がある。しかしながら、タングステンは、この金属の靭性に不利な影響を有する偏析ゾーンの形成を減少させる利点を有し、したがって、0.11%より多いタングステンの含有量を有することは依然として好ましい。
【0025】
鍛造性を害さず、かつ引き続く成形に対する板の適合性を促進させることができるように、0.45%未満の銅、より好ましくは0.25%未満の銅。
【0026】
鋼を脱酸し、熱処理作業中に粒成長を制御可能にする窒化アルミニウムを形成させるための、0.10%までのアルミニウム、好ましくは0.040%未満のアルミニウム、ただし好ましくは0.004%より多いアルミニウム、より好ましくは0.010%より多いアルミニウム。
【0027】
窒素の含有量は、粒成長を制御可能にする窒化アルミニウムの形成を容易にするために、0.0010%と0.0150%の間であることが好ましい。窒素に関する含有量は、0.0150%を超えることができるが、冷間状態または温間状態での製品の成形に対する適用性を害さないように、この含有量は、0.0300%を超えない、好ましくは0.0200%を超えないことが望ましい。
【0028】
アルミニウムの効果と似た効果を有する元素である、任意選択で0.04%までのチタン。しかしながら、チタンは、非常に脆化効果を有する析出物を形成する傾向を有するので、この元素の含有量をトレースレベルに制限するのが好ましい。
【0029】
この成分の残りは、鉄、および製造作業から結果として生じる不純物から構成される。これらの不純物の中で、ホウ素は、トレースレベル、すなわち0.0005%未満の含有量にとどまらなければならない。これは、この元素および窒化物および炭化物の形態のその化合物の脆化効果を防止するためである。ホウ素は、高弾性限界を有する鋼の焼入れ性を高めるために一般に使用される元素であるが、この場合に所望される非常に高いレベルの衝撃抵抗値は、ホウ素の寄与の使用を避けることに繋がる。
【0030】
不純物の中では、同様に、燐および硫黄は、鋼の靭性を害さないように、P+Sの合計が、0.015%未満、好ましくは0.012%未満、さらにより好ましくは0.009%以下にとどまるような含有量に制限しなければならない。この制限は、この鋼が、特に厳しい事前注意がとられて製造されるべきことを要求する。今日では、これらの制限に従わなければならないこの分野の技術者は、どのように処理すべきかを知っている。
【0031】
さらに、適切な機械的特性、特に降伏強度および引張り強度を得るために、この鋼の化学成分は、等式R=540×C0.25+245[Mo+W/2+3(V+Nb/2+Ta/4)]0.30が、410と460の間に、好ましくは425と450の間にあるようにしなければならない。
【0032】
潜水艦を製造するためのものである板または部材を製造するために、以下に示すように処理することが可能である。
【0033】
まず第1に、上記で指示された鋼の純度制限に適合させるために、この分野の技術者に知られているすべての必要な事前注意を講じて、この鋼は、知られた方法で、例えば電気炉で製造され、次いでこの鋼は、製造するのに望ましい部材の種類に応じて、バーまたはスラブの形態に鋳込まれる。次いでこのバーまたはスラブは、表面欠陥を制限するために、加熱のときの変態の開始が、1000℃より高い温度、好ましくは1050℃より高い温度、さらにより好ましくは1100℃より高い温度で行われるように、それらをある温度に再加熱することによって、熱間状態で塑性変形を使用して、すなわち圧延または鍛造を使用して成形加工される。しかしながら再加熱温度は、特にこの段階での粒の過剰な成長を制限するために、好ましくは1260℃未満に、より好ましくは1220℃未満にとどめなければならない。熱間状態での塑性変形を使用した成形のための作業の後、製造された部材は、成形加工加熱、または好ましくは、少なくともAC3に等しくかつ一般に約860℃と950℃の間のある温度で再オーステナイト化の後のいずれかから出発する、焼入れ作業を含む品質に関連する熱処理作業を受けさせられる。冷却は、焼入れ後に実質的にマルテンサイトの顕微鏡組織を得るために、当該部材のソリディティに従って、空気、油、または水を使用する手段などの、すべての知られている焼入れ手段に従って行うことができる。この分野の技術者は、ケースバイケースの原則で、どのようにもっとも適した焼入れ手段を選択するかを知っている。
【0034】
焼入れの後に、約550℃と670℃の間のある温度で行うのが好ましい、少なくとも1つの焼き戻し作業が続く。
【0035】
この方法を使用して、厚さ全体にわたる機械的特性が、潜水艦の製造に対し所望される機械的特性、すなわち480MPaと620MPaの間の降伏強度、好ましくは500MPaと600MPaの間の降伏強度、および−60℃で50Jより大きなシャルピー靭性Kcvに合致する、板または鍛造部材を得ることが可能である。
【0036】
化学的成分の溶接に関する適合性に対する影響は、その分析値が、表1および2に提示された例によって示されている。この表の例に対して、ニオブ、タンタル、およびチタンは、トレースレベルであり、その結果、表に示されたMo+W/2+3Vの値は、Mo+3(V+Nb/2+Ta/4)の量と等しく、ホウ素は、0.0005%未満の含有量を有するトレースレベルであり、アルミニウムは、0.015%と0.025%の間である。表1で、P+Sの合計は、10−3%で表現されている。表2では、P+Sの合計は、0.015%未満にとどまる。
【0037】
例1および2は、従来技術によるものであり、例3から9および6aから9aは、本発明による。例10は、比較の目的で与えられている。
【表1】

【表2】

【表3】

【0038】
例1から9は、炭素および高炭化物生成元素に関する含有量の、シリコンの従来の含有量に対する組み合わされた効果を示す。例6a、7a、8aおよび9aは、シリコン特有の効果を示す。
【0039】
溶接性に対する効果は、溶接後、亀裂が現れるのが見えない自動フランジ加工溶接継ぎ手に対する、最小予熱温度を求める試験を使用して、具体的に評価することができる。この試験は、150°、125°、100°、75°、50°、25°、5°の予熱温度で、溶接継ぎ目を作り、得られた継ぎ手を、亀裂の有無を検出するために観察することを含む。
【0040】
表1および2の例に対応するこの評価の結果は、0.3%の程度のシリコン含有量に対する高炭化物生成元素の含有量の関数として、最小非亀裂温度の経路を示す第1の線1を見ることができる単一の図に示されている。
【0041】
この線で、高炭化物生成元素の含有量が増加し、同時に炭素に関連する含有量が減少するとき、0.6%の程度の高炭化物生成元素の含有量まで、最小非亀裂温度が低下することが見出された。約0.6%を超えると、最小非亀裂温度は、再び増加し始める。高炭化物生成元素に関する最高の含有量に対応する、鋳造物9および10の亀裂の領域の顕微鏡検査を使用して、比較的低い炭素含有量にもかかわらず、硬度が特に高いことが見出された偏析ゾーンに亀裂が現れることを確定することができる。偏析ゾーンの硬度のこの高いレベルは、多分、炭素および高炭化物生成元素の共偏析から結果として生じている。
【0042】
この線の検査において、溶接性の最適レベルが、約0.4%と0.65%の間の高炭化物生成元素の含有量に対して得られることが見られる。
【0043】
上記の例と類似するが、上記の例よりずっと低いシリコン含有量を有する成分を有する鋼に対応する線2は、シリコンに関連する含有量が減少するとき、最小非亀裂温度が、20℃から25℃減少することを示す。
【0044】
シリコンのこの効果は、シリコンの熱伝導度に対する影響に帰すことができる。この鋼の熱伝導度を著しく害するシリコンのレベルを減少させることによって、応力のレベルを減少させる効果を有する熱影響ゾーン内で温度勾配が減少する。
【0045】
これは、互いに類似する鋳造物6aから9aと6から9の熱伝導度の測定によって確認することができる。この種類の測定は、鋳造物6aと9aの熱伝導度が、鋳造物6から9の熱伝導度より約10%大きいことを示すであろう。
【0046】
本発明による鋼によって、潜水艦船体用の部材、例えば40mmと60mmの間の厚さを有する板から切断される部材、または大きな厚さが100mmから150mmまでになる可能性のある接続部材などの鍛造部材を製造することが可能である。
【0047】
その特性を上記で示してきたこれらの部材を使用して、外部温度が0℃に達する可能性のある、戸外の現場で溶接を使用して、これらの部材を組み立てることによって潜水艦船体を製造することが可能である。これらの部材は、予熱なしでまたは25℃未満の予熱で満足できるように溶接することができる。
【0048】
この場合に考慮される溶接作業に対し一般に推奨される、「被覆アーク溶接棒」方法が使用されるとき、導入される水素含有量を制限するためのものである使用に対する事前注意は、最大可能範囲すなわち乾燥状態での貯蔵、溶接棒の事前の焼成まで従わなければならない。使用される溶接棒の種類は、例えば規格EN757による型式E55 2NiMoに対応することができる。
【0049】
例えば規格EN12534による型式G55 Mn4Ni2Moのワイヤを使用して、当然のこととして事実上水素をまったく導入しない中実ワイヤMIG方法は、可能な場合にはいつでも優先されるべきである。
【0050】
この例では、溶接方法に関連するこれらの指示は、非限定的な推奨値である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜水艦船体製造用鋼であって、化学成分が重量%で、
0.030%≦C<0.080%
0.040%≦Si≦0.48%
0.1%≦Mn≦1.4%
2%≦Ni≦4%
Cr≦0.3%
0.30%≦Mo+W/2+3(V+Nb/2+Ta/4)≦0.89%
Mo≧0.15%
V+Nb/2+Ta/4≦0.004%
Nb≦0.004%
Cu≦0.45%
Al≦0.1%
Ti≦0.04%
N≦0.0300%
残りは、鉄および製造作業から結果として生じる不純物、含有量が0.0005%未満の不純物であるホウ素、およびP+S≦0.015%を含み、化学成分は、
410≦540×C0.25+245[Mo+W/2+3(V+Nb/2+Ta/4)]0.30≦460の条件を満たし、
鋼は、少なくとも90%のマルテンサイト、最大5%の在留オーステナイト、最大5%のフェライトを含む、実質的にマルテンサイトの組織を有し、かつ480MPaから620MPaの間の降伏強度と、−60℃で50Jより大きなシャルピー靭性V、Kcvを有することを特徴とする、潜水艦船体製造用鋼。
【請求項2】
Si≦0.19%であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼。
【請求項3】
Mn≦1%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の鋼。
【請求項4】
W≧0.11%であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項5】
2.5%≦Ni≦3.5%であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項6】
Cr≦0.15%であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項7】
Cr≦0.09%であることを特徴とする、請求項6に記載の鋼。
【請求項8】
425≦540×C0.25+245[Mo+W/2+3(V+Nb/2+Ta/4)]0.30≦450であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項9】
Ni≧2.7%であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項10】
Mo≦0.75%であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項11】
C≦0.055%であることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の鋼。
【請求項12】
0.030%≦C<0.060%
0.040%≦Si<0.29%
0.6%≦Mn<1.2%
2.5%≦Ni<3.5%
Cr<0.15%
0.40%≦Mo+W/2+3(V+Nb/2+Ta/4)<0.59%
Mo≧0.15%
V+Nb/2+Ta/4≦0.004%
Nb≦0.004%
Cu<0.25%
Al<0.04%
Tiはなしまたはトレースレベル
であることを特徴とする、請求項1に記載の鋼。
【請求項13】
15mmと150mmの間の厚さを有し、焼き入れされかつ焼き戻しされている、請求項1から12のいずれか一項に記載の鍛造または圧延された鋼の潜水艦船体部材。
【請求項14】
溶接を使用して組み立てられる、請求項13に記載の部材を備える潜水艦船体。
【請求項15】
15mmと150mmの間の厚さを有し、かつ溶接を使用して組み立てられる部材を備える潜水艦船体を製造するための、請求項1から12のいずれか一項に記載の鋼の使用。
【請求項16】
外部温度が0℃未満である現場で溶接が行われるときを含み、予熱なしでまたは25℃以下の温度に予熱して、部材が溶接を使用して組み立てられることを特徴とする、請求項15に記載の鋼の使用。

【図1】
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【公開番号】特開2012−87410(P2012−87410A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235036(P2011−235036)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【分割の表示】特願2008−512869(P2008−512869)の分割
【原出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(504369568)アンドウステイール・フランス (4)
【Fターム(参考)】