説明

放射線撮像装置

【課題】放射線撮像装置の2次元放射線検出器において、キャリブレーションデータ作成時に、異物が2次元放射線検出器上に付着していた場合、正確なキャリブレーションデータを作成することができなかった。
【解決手段】
画像処理部にて、前回キャリブレーションを実施した時のキャリブレーション照射データと今回新たに取得したキャリブレーション照射データとを加算平均処理して、閾値で判別することにより、異物が付着した画素を検出し、異物を取り除くようにオペレータに警告する。異物が除去できない場合には、隣接する正常な画素との置き換えなどにて異物が付着した画素を補完する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、医療分野や、非破壊検査,RI(Radio isotope)検査,および光学検査などの工業分野や、原子力分野などに用いられる放射線撮像装置に係り、特に、フラットパネル型放射線検出器の画素についてキャリブレーション(校正)を行う放射線撮像装置および放射線撮像装置のキャリブレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線撮像装置に使われるフラットパネル型X線検出器(以下、FPDという)は、放射線(X線)に感応する感応膜をアクティブマトリックス基板上に積層して構成している。放射線が感応膜に入射すると放射線は電荷に変換され、2次元アレイ状に配置されたキャパシタCaに電荷が蓄積される。蓄積された電荷はアクティブマトリックス基板のスイッチング素子(TFT素子)をONにすることで読み出され、途中で電荷信号から電圧信号へ変換された後、画像処理部へ送られる。しかしながら、同じ放射線量が入射されていても、画素(検出素子)ごとに変換される電荷量にバラツキがあり、その結果、キャパシタCaに蓄積される電荷量にもバラツキが発生する。これより、同じ放射線量が入射されていても、画素ごとに変換された電荷信号についてもバラツキが発生し、正しい放射線量に見合った透過X線画像を表示できない。かかるバラツキをなくすために、画素ごとの電荷信号の増幅(ゲイン)をそれぞれ調節して出力側をそろえるキャリブレーション(校正)を行う(特許文献1参照)。このキャリブレーションは増幅器(アンプ)のゲインを直接調節してもよいが、画像処理部にて調節することもでもできる。画像処理部では、画素ごとの電圧信号を画像データとして処理するので、増幅の調節が簡易に行うことができる。
【0003】
画像処理部でキャリブレーションを行う場合、通常、FPDにより得られた複数枚の画像データを平均化することでキャリブレーション照射データを作成し、このキャリブレーション照射データを基に、各画素ごとに送られてくる画像データのゲイン調節が行われる。この各画素ごとのゲイン値をキャリブレーションデータという。
【0004】
また、FPDには放射線に感応する感応膜としてアモルファスセレン(a−Se)半導体膜が用いられるが、時間が経過するとともにa−Seが結晶化するなどa−Se半導体膜に経時変化が起きる。この経時変化により、a−Se半導体膜中に放射線に感応しない部分が生じ、放射線に感応しないことで画素のX線検出値(画素値)が極端に小さくなる。また、これとは逆に、a−Se半導体膜の導電率が高くなり、増加した暗電流により画素値が極端に大きくなるものもある。このように、画素値が極端に小さい画素と画素値が極端に大きい画素をFPDの欠損画素と呼んでいる。
【0005】
上述したように、a−Seの結晶化および暗電流の増加は経時的に発生するので、当初、FPDの欠損画素の無かった場所に欠損画素が発生することや、また、欠損が1画素分の大きさであったのが周囲に広がり2画素もしくは3画素分の欠損になることがある。これより、FPDのキャリブレーションは定期的に行うことが必要であり、キャリブレーションデータ(ゲイン値)は常に最新の数値に更新されることが望ましい。
【特許文献1】特開2005−204983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、キャリブレーションを行う際に、FPDの面上に異物が存在していた場合、キャリブレーション照射データにこの異物による映り込みが影響し、正確なキャリブレーションデータを取得することができなかった。つまり、キャリブレーション照射データに異物が映り込んでしまった場合でも、この異物に気付かず、新たなキャリブレーションデータを作成してしまい、異物が映り込んでしまった画素の増幅を間違って行う結果、正確な透過X線画像を構成することができなかった。さらには、キャリブレーションデータはキャリブレーションを行う度に更新するので、このキャリブレーションデータを用いてX線の撮像を行う度に、画像劣化を引き起こしていた。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、放射線検出器上にある異物を検出することができる放射線撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、放射線を照射する放射線照射手段と、前記放射線照射手段により照射した放射線を検出する放射線検出手段とを備えた放射線撮像装置において、前記放射線検出手段で検出した複数枚の画像データの平均をとることでキャリブレーション照射データを算出する第1演算部と、前記キャリブレーション照射データと過去に算出したキャリブレーション照射データとの平均をとることでキャリブレーション判定データを算出する第2演算部と、前記放射線検出手段の異物画素および欠損画素を判別する閾値と前記キャリブレーション判定データとを比較することで前記放射線照射手段上の異物を検出する異物検出部とを備えることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、放射線照射手段と放射線検出手段との間に放射線を吸収する異物があった場合、異物の陰となる画素においては他の画素と比べて放射線の検出値が低下するので、閾値と比較して異物の陰となる画素を検出する。これより異物を検出することができる。また、キャリブレーション照射データと過去のキャリブレーション照射データとの平均であるキャリブレーション判定データを閾値との比較対象とすることで、欠損画素と異物画素の経時変化を観測することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の放射線撮像装置において、前記閾値は経験則に基づき予め定められた値であることを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、閾値をオペレータにより設定することができるので、撮像対象によって異物の検出精度を調節することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の放射線撮像装置において、キャリブレーションを実施する度に、前記キャリブレーション照射データの分布関数から前記閾値を算出する閾値算出部を備えることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、キャリブレーションを実施する度に最適な閾値を算出して異物を検出することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1から3のいずれか1つに記載の放射線撮像装置において、前記異物検出部にて検出した前記異物の存在を警告する警告手段を備えることを特徴とする。
【0015】
上記構成によれば、警告手段により異物の存在が警告されるので、オペレータは異物の存在を知ることができる。これより、オペレータは放射線検出手段を確認することで異物を除去することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1から4のいずれか1つに記載の放射線撮像装置において、前記異物より放射線の照射が妨げられている画素の放射線検出値を補完する画素補完部を備えることを特徴とする。
【0017】
上記構成によれば、除去できない異物が存在する場合においても、異物の陰となって放射線の照射が妨げられている画素の放射線検出値を補完することができるので、ノイズのない撮像画像を構成することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1から5のいずれか1つに記載の放射線撮像装置において、前記過去のキャリブレーション照射データは、前回キャリブレーションを実施した時のキャリブレーション照射データであることを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、前回にキャリブレーションを実施した時のキャリブレーション照射データと今回キャリブレーションを実施した時のキャリブレーション照射データとを比較することができるので、前回にキャリブレーションを実施した時の放射線検出器の状態と、現在の放射線検出器の状態とを比較することができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明に係る放射線撮像装置によれば、放射線検出器上にある異物を検出することができる放射線撮像装置を提供することができる。
【実施例】
【0021】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。図1は、実施例に係るX線診断装置のブロック図であり、図2は、X線診断装置に用いられる側面視したFPDの等価回路であり、図3は、平面視したFPDの等価回路であり、図4は実施例に係る画像処理部のブロック図である。本実施例では、放射線撮像装置としてX線診断装置を例に採って説明する。
【0022】
<X線診断装置>
本実施例に係るX線診断装置は、図1に示すように、被検体を載置する天板1と、その被検体に向けてX線を照射するX線管2と、被検体および天板1を透過したX線を検出するFPD3と、天板1の昇降および水平移動を制御する天板制御部4とを備えている。X線管2はこの発明における放射線照射手段に相当し、FPD3はこの発明における放射線検出手段に相当する。
【0023】
X線診断装置は、他に、FPD3の位置を制御するFPD制御部5や、X線管2の管電圧や管電流を発生させる高電圧発生部6を有するX線管制御部7や、FPD3から電圧信号であるX線検出信号に基づいてキャリブレーションおよび種々の画像処理を行う画像処理部8や、これらの各構成部を統括するコントローラ9や、オペレータが入力設定を行う入力部10や、X線診断操作画面および画像処理されたX線透過画像などを表示するモニタ11などを備えている。モニタ11はこの発明における警告手段に相当する。
【0024】
天板制御部4は、天板1を昇降および水平移動させて被検体を所望の位置に設定したり、水平移動させながら撮像を行ったり、撮像終了後に水平移動させて撮像位置から退避させる制御などを行う。FPD制御部5は、FPD3を水平移動させたり、被検体の体軸の軸心周りに回転移動させることに関する制御を行う。高電圧発生部6は、X線を照射させるための管電圧や管電流を発生してX線管2に与え、X線管制御部7は、X線管2を水平移動させたり、被検体の体軸の軸心周りに回転移動させる走査に関する制御や、X線管2内のコリメータ(図示省略)の照視野の設定の制御などを行う。なお、X線管2やFPD3の走査の際には、X線管2から照射されたX線をFPD3が検出できるようにX線管2およびFPD3が互いに対向しながらそれぞれの移動を行う。
【0025】
コントローラ9は、中央演算処理装置(CPU)などで構成されている。また、入力部10は、マウスやキーボードやジョイスティックやトラックボールやタッチパネルなどに代表されるポインティングデバイスで構成されている。
【0026】
<フラットパネル型X線検出器>
FPD3は、図2に示すように、絶縁基板12と、絶縁基板12上に形成された薄膜トランジスタ(以下、TFTという)13とから構成されている。TFT13については、図2、図3に示すように、縦・横式2次元マトリクス状に多数個(例えば、1024個×1024個)配列して形成されており、画素電極14ごとにTFT13がスイッチング素子として互いに分離形成されている。すなわち、FPD3は、2次元アレイ放射線検出器でもある。
【0027】
図2に示すように画素電極14の上にはX線感応型半導体15が積層形成されており、図2、図3に示すように画素電極14は、TFT13のソースSに接続されている。ゲートドライバ16からは複数本のゲートバスライン17が接続されているとともに、各ゲートバスライン17はTFT13のゲートGに接続されている。一方、図3に示すように、電荷信号を収集して1つに出力するマルチプレクサ18には増幅器19を介して複数本のデータバスライン30が接続されているとともに、図2、図3に示すように各データバスライン20はTFT13のドレインDに接続されている。
【0028】
共通電極21にバイアス電圧Vaを印加した状態で、ゲートバスライン17の電圧を印加(または0Vに)することでTFT13のゲートがONされて、画素電極14は、検出面側で入射したX線からX線感応型半導体15を介して変換された電荷信号(キャリア)を、TFT13のソースSとドレインDとを介してデータバスライン20に読み出す。なお、TFT13がONされるまでは、電荷信号はキャパシタCaで暫定的に蓄積されて記憶される。各データバスライン20に読み出された電荷信号を増幅器19で電荷信号から電圧信号へ変換するとともに増幅して、マルチプレクサ18で1つの電圧信号にまとめて出力する。出力された電圧信号をA/D変換器22でディジタル化してX線検出信号として出力する。
【0029】
このとき、X線感応型半導体15内でX線に感応しない部分が生じると、キャパシタCaに蓄積される電荷信号が他のキャパシタCaに蓄積される電荷信号よりも数が少なくなる。また、X線感応型半導体15内で暗電流が増加すると、検出される電荷信号が極端に多くなる。このいずれかの状態にある画素は、正確にX線を検出することができないので欠損画素として検出しなければならない。このように、FPD3の欠損画素を検出することがキャリブレーションを行う理由の1つでもある。
【0030】
<画像処理部>
図4に示すように、画像処理部8はFPD3から送られる電圧信号(画像データ)を保存する第1メモリ部31と、第1メモリ部31に格納された複数枚の画像データを加算平均処理してキャリブレーション照射データを算出する第1演算部34と、キャリブレーション照射データと予め第2メモリ部32に格納されているキャリブレーション基準データとを加算平均処理してキャリブレーション判定データを算出する第2演算部35と、キャリブレーション判定データから異物画素を検出する異物検出部36と、検出された異物画素を補完する画素補完部37と、各画素ごとの増幅率(ゲイン値)を決める増幅率演算部38と、被検体を撮像した際、被検体を透過して得られる画像データをゲイン値で補正して、X線透過画像を構成する画像補正部39とから構成される。画像補正部39にて構成されたX線透過画像はコントローラ9を介してモニタ11に映し出される。ここで異物画素とは、FPD3上に存在する異物によりX線検出値が低下している画素のことをいう。また、第1メモリ部と第2メモリ部とでメモリ部33を構成する。
【0031】
次に、本実施例における一連のキャリブレーションの制御シーケンスについて、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0032】
(ステップS1)キャリブレーション照射データ取得
天板1の上に何も載置していない状態でX線管2よりX線を照射して、画像データをFPD3にて取得する。このとき、数十枚程度の画像データを取得することが望ましい。この画像データはFPD3から画像処理部8内の第1メモリ部31へ送られて格納される。第1メモリ部31へ格納された画像データは、第1演算部に送られて加算平均処理がなされてキャリブレーション照射データが算出される。
【0033】
(ステップS2)キャリブレーション判定データ算出
第1演算部34にて算出されたキャリブレーション照射データと、予め第2メモリ部に格納されているキャリブレーション基準データとを第2演算部35にて加算平均処理をすることでキャリブレーション判定データを算出する。ここで、キャリブレーション照射データからキャリブレーション基準データを減算する差分処理をすると、算出された画像データからは、欠損画素と正常画素と異物画素との区別がつかなくなるので、加算平均処理をするのが好ましい。
【0034】
例えば、図6(a)で示すように、X線検出値が極端に高い欠損画素での画素値を100とし、X線検出値が極端に低い欠損画素での画素値を1とし、異物画素の画素値を40とし、正常画素の画素値を60とする。ここで、第2メモリ部に格納されているキャリブレーション基準データは前回キャリブレーションを実施した時のキャリブレーション照射データであるので、キャリブレーション基準データの中には、欠損画素の極端に低い画素値や、極端に高い画素値と、除去不可能な異物による異物画素の画素値が含まれる。
【0035】
そして、第2演算部35にて減算処理をすると、キャリブレーション照射データおよびキャリブレーション基準データにおいて、欠損画素や除去不可能な異物画素は2次元マトリックス上の同じ画素であることが多いので、欠損画素同士の画素値の減算も、異物画素同士の画素値の減算も、正常画素同士の画素値の減算も結果はすべてゼロになる。これより、次の異物検出部36にて、ゼロの画素値の画素が欠損画素であるか異物画素であるか正常画素であるかを判別することができない。そこで、加算平均処理をすれば、上記の問題を回避することができる。
【0036】
(ステップS3)異物検出
第2演算部35にて算出されたキャリブレーション判定データから、図6(a)および(b)で示すように、予め決められた閾値で正常画素および異物画素並びに欠損画素を検出する。図6(a)および(b)において、閾値Aは暗電流によりX線検出値が極端に高い欠損画素を判別するための閾値であり、閾値Cはa−Seの結晶化によりX線検出値が極端に低い欠損画素を判別するための閾値である。キャリブレーション判定データと閾値Aおよび閾値Cとを比較して、閾値Aよりも高い画素値をもつ画素と閾値Cよりも低い画素値をもつ画素を欠損画素と判定する。閾値Aの値は、一例として70とし、閾値Cの値は、例えば35とする。
【0037】
次に、欠損画素が判定されたキャリブレーション判定データと閾値Bとを比較することで、正常画素と異物画素の判別をする。FPD3の面上に異物が有ると、放射線が照射された時に異物の陰となる異物画素が発生し、他の異物の陰となっていない画素と比べて、異物画素での画素値は低くなる。そこで、予め決められた閾値Bよりも低い画素値を持つ画素は異物画素と判定する。本実施例では閾値Bの値を55とする。尚、閾値A、B、Cの値は経験則に基づいて設定すればよく、適宜、最適な値を設定すればよいので、上記の値にとらわれることはない。
【0038】
図6(b)は、前回キャリブレーションを実施した際、正常画素であったものが、今回のキャリブレーション時には、欠損画素または異物画素としての画素値が検出された場合のキャリブレーション判定データを示している。つまり、キャリブレーション基準データの正常画素である画素値60とキャリブレーション照射データの欠損画素である画素値100および画素値1との加算平均した画素値80および画素値30.5を正常画素→欠損画素として示している。また同様に、キャリブレーション基準データの正常画素である画素値60とキャリブレーション照射データの異物画素である画素値40との加算平均した画素値50を正常画素→異物画素として示している。このように、今回のキャリブレーション時に新たに欠損画素および異物画素が発生したとしても、閾値Aおよび閾値B並びに閾値Cにてそれぞれ判別することができる。また、キャリブレーション基準データとキャリブレーション判定データとをコントローラ4を介してモニタ11に表示すれば、前回キャリブレーション時と比べて新たに発生した欠損画素をモニタ11上で確認することができ、オペレータにFPD3の画素の状態変化を知らすことができる。
【0039】
(ステップS4)異物除去
異物画素が検出された場合、コントローラ4へ異物検出信号が送られる。コントローラ4では異物検出信号を基に、モニタ11で異物検出の警告を画面上に表示してオペレータに異物の存在を知らせる。このときモニタ11上には、FPD3の面上のどこに異物が付着しているか表示されるので、オペレータはFPD3の面上に異物が付着していないか確認することができる。異物が有る場合にはこれを除去して、再度、キャリブレーション照射データを取り直す。
【0040】
異物が無い場合、または異物が除去できない場合などは、このままキャリブレーションを続行する。異物が除去できない場合として、例えば、FPD3の筺体の外カバーと共通電極21との間に異物がある場合など、FPD3を分解しないと異物が除去できない場合などが挙げられる。オペレータが異物を除去できないと判断した場合、入力部10からコントローラ9を介して画像処理部8へキャリブレーション続行の信号が送られる。これより、キャリブレーション判定データは画素補完部36へ送られるとともに、キャリブレーション照射データが第2メモリ部に送られて、キャリブレーション基準データと置き換えられる。異物が無い場合は、自動的に上記の処理がなされる。このようにして、キャリブレーションを行う度に、キャリブレーション基準データが更新される。
【0041】
(ステップS5)画素補完
異物検出部で検出された異物画素ならびに欠損画素を画素補完部37にて補完する。具体的には、異物画素ならびに欠損画素と隣接する複数個の正常画素から中央値の画素で異物画素ならびに欠損画素を置換するメディアンフィルタ処理や、隣接する正常画素に基づいて重み付けするなど適当な補完処理を施して異物画素ならびに欠損画素を補完する。
【0042】
(ステップS6)増幅率算出
異物画素ならびに欠損画素を補完されたキャリブレーション判定データをもとに、各X線検出値が揃うように検出された画素ごとの増幅率(ゲイン値)を増幅率演算部38にて算出する。以上の様にして、各画素ごとのゲイン値、つまりキャリブレーションデータを作成することができる。
【0043】
このキャリブレーションデータを基に画像補正部39では、被検体を撮像して第1メモリ部31に格納された画像データを増幅することで各画素ごとの画素値(放射線検出値)を補正する。これより、最適な透過X線画像を得ることができる。
【0044】
本実施例に係る放射線診断装置によれば、放射線検出器上に付着した異物を正確に検出し、この異物を除去または異物により陰となっている画素を補完することで、異物に影響されないキャリブレーションデータを作成することができる。
【0045】
上述した実施例では、FPD3上に付着した異物を検出していたが、直接FPD3上に異物が付着していなくても、X線管2とFPD3の間に異物が存在する場合でも、キャリブレーション時に画像データの低下が検出されるので異物を検出することができる。また、異物に限らず、例えば、X線管2の視野角がFPD3と一致していないときでも、キャリブレーション時に画像データの低下が検出されるのでX線管2の視野角ズレを検出することができる。
【0046】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0047】
(1)上述した実施例では、キャリブレーション判別データはキャリブレーション照射データとキャリブレーション基準データとの加算平均であったが、相乗平均でもよい。または、加算平均と相乗平均の組み合わせでもよい。この場合の閾値A、B、Cは適宜変更すればよい。
【0048】
(2)上述した実施例では、正常画素と異物画素を判別する閾値は予め決められた固定値であったが、キャリブレーションを行う度に算出する閾値でもよい。この場合、図7に示すように、キャリブレーション照射データから閾値を算出する閾値算出部40を設ければよい。閾値の算出方法は、例えば、キャリブレーション照射データの画素値の分布関数から求めてもよいし、代表的な正常画素の画素値と欠損画素の画素値および異物画素の画素値とのそれぞれの中間値を閾値と算出してもよい。
【0049】
キャリブレーション照射データの画素値の分布関数から閾値を求める一例を、図8を参照して説明する。図8は、キャリブレーション照射データの画素値と画素数の関係を片対数グラフで示したものである。この分布関数の極小点を算出し、画素値の高い方を閾値Aとし、画素値の低い方を閾値Cとする。また、極大点の画素値から画素数の95%を占める範囲dを求めて、この範囲の下限である画素値を閾値Bとする。また、閾値A,B、Cの算出方法はこの方法に限られたものではなく、他の統計的手法を用いてもよい。
【0050】
また、代表的な正常画素の画素値と欠損画素の画素値および異物画素の画素値とのそれぞれの中間値を閾値と算出する場合を説明する。例えば、正常画素の画素値60と欠損画素の画素値1との加算平均した画素値30.5よりも閾値Cを低く設定した場合、新たに発生した欠損画素を異物画素と誤認するので、何度かキャリブレーションを繰り返し、加算平均した画素値を閾値Cより低い画素値へと収束させる必要がある。結晶化したa−Seによる欠損画素を正確に検出するのを優先するか、異物画素の検出レンジを広げるのを優先するかは、適宜設計者が判断すればよい。
【0051】
(3)上述した実施例では、FPD3は、放射線(実施例ではX線)感応型の半導体を備え、入射した放射線を放射線感応型の半導体で直接的に電荷信号に変換する直接変換型の検出器であったが、放射線感応型の替わりに光感応型の半導体を備えるとともにシンチレータを備え、入射した放射線をシンチレータで光に変換し、変換された光を光感応型の半導体で電荷信号に変換する間接変換型の検出器であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例に係るX線診断装置のブロック図である。
【図2】実施例に係るX線診断装置に用いられる側面視したフラットパネル型X線検出器の等価回路である。
【図3】実施例に係る平面視したフラットパネル型X線検出器の等価回路である。
【図4】実施例に係る画像処理部のブロック図である。
【図5】実施例に係るキャリブレーションの一連の制御シーケンスを示すフローチャートである。
【図6】実施例に係る異物画素の判別を示す説明図である。
【図7】本発明の他の実施例に係る画像処理部のブロック図である。
【図8】本発明の他の実施例に係る画像処理部における閾値算出を示す説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1 … 天板
2 … X線管
3 … フラットパネル型X線検出器(FPD)
4 … 天板制御部
5 … FPD制御部
8 … 画像処理部
9 … コントローラ部
31 … 第1メモリ部
32 … 第2メモリ部
33 … メモリ部
34 … 第1演算部
35 … 第2演算部
36 … 異物検出部
37 … 画素補完部
38 … 増幅率算定部
39 … 画像補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線を照射する放射線照射手段と、前記放射線照射手段により照射した放射線を検出する放射線検出手段とを備えた放射線撮像装置において、
前記放射線検出手段で検出した複数枚の画像データの平均をとることでキャリブレーション照射データを算出する第1演算部と、
前記キャリブレーション照射データと過去に算出したキャリブレーション照射データとの平均をとることでキャリブレーション判定データを算出する第2演算部と、
前記放射線検出手段の異物画素および欠損画素を判別する閾値と前記キャリブレーション判定データとを比較することで前記放射線検出手段上の異物を検出する異物検出部と
を備えることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線撮像装置において、
前記閾値は経験則に基づき予め定められた値
であることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項3】
請求項1に記載の放射線撮像装置において、
キャリブレーションを実施する度に、前記キャリブレーション照射データの分布関数から前記閾値を算出する閾値算出部
を備えることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の放射線撮像装置において、
前記異物検出部にて検出した前記異物の存在を警告する警告手段
を備えることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の放射線撮像装置において、
前記異物より放射線の照射が妨げられている画素の放射線検出値を補完する画素補完部
を備えることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の放射線撮像装置において、
前記過去のキャリブレーション照射データは、前回キャリブレーションを実施した時のキャリブレーション照射データである
ことを特徴とする放射線撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−12105(P2010−12105A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176018(P2008−176018)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】