説明

放射線撮影装置およびその動作方法

【課題】立体視可能なサブトラクト画像を設備コストの増大を回避しつつ、効率良く取得する。
【解決手段】互いに異なる3つの撮影方向から放射線を順次照射する1つの放射線源17と、照射された各放射線を検出して各画像データDL,DM,DRを取得する放射線検出器15とを備え、3つの撮影方向のうち、1つの撮影方向の放射線のエネルギーが他の2つの撮影方向の放射線のエネルギーよりも低くなるように制御し、他の2つの撮影方向のうちの一方の撮影方向の照射が最後となるように照射順序を制御する。他の2つの撮影方向の各画像データDL,DRと1つの撮影方向の画像データDMにサブトラクト処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに異なる3つの撮影方向から放射線を順次照射して得られた画像データに対してエネルギーサブトラクション処理を施す放射線撮影装置およびその動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医用画像処理の分野において、同一の被写体に対して相異なるエネルギー分布を有する放射線を照射して2つの放射線画像を得、これら2つの放射線画像の各画素を対応させて、画像信号間で適当な重みづけ係数を乗算した上で減算(以下、サブトラクト処理という)を行って、特定の診断部分の放射線画像を表す差分信号を得るエネルギーサブトラクション撮影が知られており、この技術を用いれば、骨成分を除去した軟部画像や、軟部成分を除去した骨部画像を取得することができるので、診断部分ではない部分が除去された放射線画像(以下、サブトラクト画像という)を読影することが可能となり、診断がし易くなる。
【0003】
ところで、近年では被写体に互いに異なる2つ以上の方向から放射線を照射して被写体を透過した放射線を検出して互いに視差のある放射線画像を得、これら2つの放射線画像を表示して診断対象部分の放射線画像を立体視させる撮影(以下、ステレオ撮影という)が行われている。この技術を用いれば、奥行感を有する放射線画像を読影することが可能となり、診断がし易くなる。そして、これら2つの技術を組み合わせることにより、サブトラクト画像を立体視させることができる。
【0004】
特許文献1には、被写体を挟んで対向する放射線源および放射線検出器による対を3対備え、各対が互いに異なる方向を有するものであり、この3対のうちの外側の2対によって高エネルギーの放射線画像、中間の対によって低エネルギーの放射線画像を取得し、これらの放射線画像に対してサブトラクト処理を行う放射線撮影装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−273672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に提案されている技術では、放射線源および放射線検出器の対を複数備える必要があるため、設備コストが増大する虞がある。これに対し、1つの放射線源を順次移動させて各撮影方向から放射線撮影をした後、サブトラクト処理を行うと、立体視可能なサブトラクト画像を取得するまでに時間を要する虞がある。
【0007】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、設備コストを抑えつつ、効率良く立体視可能なサブトラクト画像を取得できる放射線撮影装置およびその動作方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の放射線撮影装置は、互いに異なる3つの撮影方向から被写体に向けて放射線を順次照射する1つの放射線源と、3つの撮影方向から照射される放射線のうち、1つの撮影方向から照射される放射線のエネルギーが他の2つの撮影方向から照射される放射線のエネルギーよりも低くなるように、放射線源のエネルギー分布を制御する照射エネルギー制御部と、他の2つの撮影方向のうちの一方の撮影方向からの照射が最後となるように、3つの撮影方向からの照射順序を制御する照射順序制御部と、各撮影方向から照射された放射線を検出して撮影方向毎の画像データを取得する放射線検出器と、他の2つの撮影方向における各画像データと1つの撮影方向における画像データとに対し、サブトラクト処理を施すサブトラクト処理部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の放射線撮影装置は、1つの撮影方向が3つの撮影方向の中間の方向となるように、放射線源の撮影方向を制御する撮影方向制御部を備えてもよい。
【0010】
また、本発明の放射線撮影装置は、撮影方向制御部が、1つの撮影方向が他の2つの撮影方向の真ん中の方向となるように、各撮影方向を制御するものであってもよい。ここで、本発明の放射線撮影装置における「真ん中の方向」とは、1つの撮影方向と他の2つの撮影方向とのなす角度が互いに等しくなる方向を意味する。
【0011】
また、本発明の放射線撮影装置は、照射順序制御部が、他の2つの撮影方向のうちの他方の撮影方向からの照射が最初となるように、照射順序を制御するものであってもよい。
【0012】
また、本発明の放射線撮影装置は、サブトラクト処理部が、1つの撮影方向における画像データに含まれる被写体の像を他の2つの撮影方向における各画像データに含まれる被写体の各像に位置合わせを行うものであってもよい。
【0013】
また、本発明の放射線撮影装置は、他の2つの撮影方向のなす角度に関するユーザ指示を受け付ける指示受付部を備え、撮影方向設定部が、他の2つの撮影方向のなす角度が指示された角度となるように、各撮影方向を制御するものであってもよい。
【0014】
また、本発明の放射線撮影装置は、撮影方向制御部が、他の2つの撮影方向のうちのいずれかの撮影方向が放射線検出器の検出面と垂直な方向となるように、各撮影方向を制御するものであってもよい。
【0015】
また、本発明の放射線撮影装置は、撮影方向制御部が、他の2つの撮影方向のなす角度が2°〜8°の範囲となるように、各撮影方向を制御するものであってもよい。
【0016】
本発明の放射線撮影装置の動作方法は、互いに異なる3つの撮影方向から被写体に向けて放射線を順次照射する1つの放射線源と、各撮影方向から照射された放射線を検出して撮影方向毎の画像データを取得する放射線検出器とを備えた放射線撮影装置の動作方法であって、3つの撮影方向から照射される放射線のうち、1つの撮影方向から照射される放射線のエネルギーが他の2つの撮影方向から照射される放射線のエネルギーよりも低くなるように、放射線源を制御し、他の2つの撮影方向のうちの一方の撮影方向からの照射が最後となるように、3つの撮影方向における照射順序を制御し、他の2つの撮影方向における各画像データと1つの撮影方向における画像データとに対し、サブトラクト処理を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の放射線撮影装置およびその動作方法によれば、3つの撮影方向から照射される放射線のうち、1つの撮影方向から照射される放射線のエネルギーが他の2つの撮影方向から照射される放射線のエネルギーよりも低くなるように放射線源を制御し、他の2つの撮影方向のうちの一方の撮影方向からの照射が最後となるように、3つの撮影方向における照射順序を制御し、他の2つの撮影方向における各画像データと1つの撮影方向における画像データとに対し、サブトラクト処理を施すため、1つの放射線源で設備コストを抑えつつ、且つ最後の撮影の際に最初および次に取得された画像データにサブトラクト処理施すことを可能にすることで立体視可能なサブトラクト画像を効率良く取得できる。
【0018】
また、本発明の放射線撮影装置によれば、1つの撮影方向が3つの撮影方向の中間の方向となるように、放射線源の撮影方向を制御する撮影方向制御部を備えるため、各撮影方向がなす角度のうち、最も大きな角度をなす撮影方向の組み合わせによって取得された画像データにサブトラクト処理を施すことを回避でき、立体視し易いサブトラクト画像を取得できる。
【0019】
また、本発明の放射線撮影装置によれば、撮影方向制御部が、1つの撮影方向が他の2つの撮影方向の真ん中の方向となるように、各撮影方向を制御するため、1つの撮影方向が他の2つの撮影方向となす角度が等しくなり、より立体視し易いサブトラクト画像を取得できる。
【0020】
また、本発明の放射線撮影装置によれば、照射順序制御部が、他の2つの撮影方向のうちの他方の撮影方向からの照射が最初となるように、照射順序を制御するため、放射線源の移動距離が短くなり、より効率良く立体視可能なサブトラクト画像を取得できる。
【0021】
また、本発明の放射線撮影装置によれば、サブトラクト処理部が、1つの撮影方向における画像データに含まれる被写体の像を他の2つの撮影方向における各画像データに含まれる被写体の各像に位置合わせを行うため、サブトラクト画像の精度が向上して立体視し易いサブトラクト画像を取得できる。
【0022】
また、本発明の放射線撮影装置によれば、他の2つの撮影方向のなす角度に関するユーザ指示を受け付ける指示受付部を備え、撮影方向設定部が、他の2つの撮影方向のなす角度が指示された角度となるように、各撮影方向を制御するため、所望の奥行感を有する立体視可能なサブトラクト画像を取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】放射線撮影装置の概略構成図
【図2】放射線撮影装置の一部側面図
【図3】コンピュータの構成を示すブロック図
【図4】放射線撮影装置による一連の処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の放射線撮影装置の一実施形態について説明する。図1は、放射線撮影装置100の概略構成図、図2は放射線撮影装置の一部側面図である。放射線撮影装置100は、図1に示すように、撮影装置本体1、撮影装置本体1で撮影された放射線画像を表示するモニタ2、指示受付部としての入力部3、および撮影装置本体1、モニタ2および入力部3に接続されたコンピュータ4を備えている。
【0025】
放射線撮影装置100は、撮影装置本体1によって互いに異なる3つの撮影方向から被写体である乳房Mを放射線撮影し、2回の高エネルギー放射線HRの照射によって画像データDL,DR、1回の低エネルギー放射線LRの照射によって画像データDMを取得し、コンピュータ4によって画像データDL,DRと画像データDMとサブトラクト処理を施してサブトラクト画像データSDL,SDRを取得する。そして、モニタ2が、これらのサブトラクト画像データSDL,SDRに基づいて、サブトラクト画像SGL,SGRを表示することにより、ユーザに乳房Mのサブトラクト画像を立体視させるものである。
【0026】
最初に、撮影装置本体1について説明する。撮影装置本体1は、図1に示すように、基台11、基台11に対し上下方向(Z方向)に移動可能であり、かつ回転可能な回転軸12および回転軸12により基台11と連結されたアーム部13を備えている。
【0027】
アーム部13はアルファベットのCの形をしており、その一端には撮影台14が、その他端には撮影台14と対向するように放射線照射部16が取り付けられている。アーム部13の回転および上下方向の移動は、基台11に組み込まれたアームコントローラ31により制御される。
【0028】
撮影台14の内部には、フラットパネルディテクタ等の放射線検出器15と、放射線検出器15からの画像データの読み出しを制御する検出器コントローラ33とを備えている。そして、撮影台14の内部には、放射線検出器15から読み出された電荷信号を電圧信号に変換するチャージアンプや、チャージアンプから出力された電圧信号をサンプリングする相関2重サンプリング回路や、電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換部などが設けられた回路基板なども設置されている。また、撮影台14はアーム部13に対し回転可能に構成されており、基台11に対してアーム部13が回転したときでも、撮影台14の向きは基台11に対し固定された向きとすることができる。
【0029】
放射線検出器15は、各撮影方向から検出面15aに照射された放射線を検出して画像データDL,DM,DRを出力するものである。ここで、撮影方向は、図2に示すように、アーム部13が放射線検出器15の検出面15aに垂直な方向に対してなす角度である撮影角度θに基づくものである。また、撮影角度θは、図2において時計回りが正、反時計回りが負の値とする。そして、画像データDL,DRは、図2において放射線源17が左側、右側に位置するときの高エネルギー放射線HRの照射によって出力されるものである。
【0030】
放射線検出器15には、放射線の照射を直接受けて電荷を発生する、いわゆる直接型の放射線検出器を用いてもよいし、放射線を一旦可視光に変換し、その可視光を電荷信号に変換する、いわゆる間接型の放射線検出器を用いるようにしてもよい。また、電荷信号の読出方式としては、TFT(thin film transistor)スイッチをオン・オフされることによって読み出される、いわゆるTFT読出方式のものや、読取光を照射することによって画像データが読み出される、いわゆる光読出方式のものを用いることが望ましいが、これに限らずその他のものを用いるようにしてもよい。
【0031】
放射線照射部16の内部には放射線源17と、放射線源コントローラ32が格納されている。放射線源コントローラ32は、放射線源17から放射線を照射するタイミングと、放射線源17における放射線発生条件(管電流(mA)、照射時間(ms)、管電圧(kV)等)を制御するものである。
【0032】
放射線源17は、放射線管と、放射線管に管電圧を印加する放射線高電圧発生器を備えている。そして、放射線源17は、エネルギーサブトラクション撮影を行うために、放射線源コントローラ32の制御によってエネルギー分布の異なる放射線を照射できるものである。放射線源17は、たとえば、管電圧を100〜140kVp程度に印加して高エネルギー放射線HR、管電圧を50〜80kVp程度に印加して低エネルギー放射線LRを照射することができる。
【0033】
ここで、エネルギー分布の異なる放射線は、照射毎に管電圧を変更して、放射線のスペクトル分布上の最大値、ピーク値、平均値等を変化させることによって発生させることができる。また、同一のエネルギー分布で放射線を発射させ、照射毎に異なるフィルタを透過させることによって発生させるようにしてもよい。また、照射毎に管電流や照射時間を変更して、放射線の線量を変化させるようにしてもよい。
【0034】
また、アーム部13の中央部には、撮影台14の上方に配置されて乳房Mを押さえつけて圧迫する圧迫板18と、その圧迫板18を支持する支持部20と、支持部20を上下方向(Z方向)に移動させる移動機構19が設けられている。圧迫板18の位置、圧迫圧は、圧迫板コントローラ34により制御される。
【0035】
モニタ2は、コンピュータ4から出力されたサブトラクト画像データSDL,SDRに基づいて、サブトラクト画像SGL,SGRを表示することにより、ユーザに乳房Mのサブトラクト画像を立体視させるように構成されたものである。なお、モニタ2は、画像データDL,DM,DRに基づいて各画像を表示することもできる。さらに、モニタ2は、必要に応じて診断レポート等を表示することもできる。
【0036】
立体視させる構成としては、たとえば、2つの画面を用いてサブトラクト画像SGL,SGRを互いに直交する偏光によって表示させて、これら2つのサブトラクト画像SGL,SGRをハーフミラー等によって光学的に結合し、ユーザに右眼用および左眼用の偏光レンズを備えた立体視眼鏡を装着させて立体視させてもよい。
【0037】
また、パララックスバリア方式およびレンチキュラー方式を用いてユーザに立体視させてもよく、サブトラクト画像SGL,SGRを所定の周期で交互に切り替えて表示し、ユーザに所定の周期に同期して開閉する液晶シャッタ等を有する立体視眼鏡を装着させて立体視させてもよい。
【0038】
入力部3は、キーボードやマウスなどのポインティングデバイス等から構成されるものである。入力部3は、ユーザによる撮影条件等の入力や操作指示を受け付けるものである。
【0039】
図3はコンピュータ4の構成を示すブロック図である。コンピュータ4は、中央処理装置(CPU)および半導体メモリやハードディスクやSSD等のストレージデバイスを備えており、これらのハードウェアによって、図3に示すような制御部41、照射エネルギー制御部42、照射順序制御部43、撮影方向制御部44、画像データ記憶部45、サブトラクト処理部46および表示制御部47を構成している。
【0040】
制御部41は、放射線撮影装置100の全体の制御を行うものである。照射エネルギー制御部42は、放射線源17が互いに異なる3つの撮影方向から放射線を照射する際の放射線のエネルギーを制御するものである。そして、照射エネルギー制御部42は、3回の照射のうちの1回が低エネルギー放射線LR、2回が高エネルギー放射線HRで照射するように放射線源17を制御するものである。
【0041】
照射順序制御部43は照射順序を制御するものである。そして、照射順序制御部43は、サブトラクション処理を最後の放射線撮影と並行して行うために、2回の高エネルギー放射線HRによる照射のうち、いずれか1回が最後の照射となるように照射順序を制御する。すなわち照射順序制御部43は、1回目と3回目が高エネルギー放射線HRによる照射、2回目が低エネルギー放射線LRによる照射となる照射順序、もしくは、1回目が低エネルギー放射線LRによる照射、2回目と3回目が高エネルギー放射線HRによる照射に制御する。これにより、3回目の高エネルギー放射線HRによる撮影の際にサブトラクト処理を並行化できる。本実施形態では、照射順序制御部43は、1回目と3回目が高エネルギー放射線HRによる照射、2回目が低エネルギー放射線LRによる照射となる照射順序に制御する。
【0042】
撮影方向制御部44は、各回における撮影方向を制御するものである。そして、撮影方向制御部44は、低エネルギー放射線LRの撮影方向と高エネルギー放射線HRの撮影方向とのなす角度が3つの撮影方向同士がなす角度の中で最も大きくなることを回避し、後のサブトラクト処理の精度が向上するように、低エネルギー放射線LRの撮影方向を高エネルギー放射線HRの各撮影方向との中間の方向に制御する。これにより、本実施形態では、1回目が高エネルギー放射線HR、2回目が中間方向の低エネルギー放射線LR、3回目が再び高エネルギー放射線HRによる放射線撮影を行うため、放射線源17の移動距離を最も短くすることができる。なお、サブトラクト処理の精度が向上することにより、サブトラクト画像が立体視し易くなることは言うまでもない。
【0043】
そして、本実施形態では、撮影方向制御部44は、低エネルギー放射線LRの撮影方向と高エネルギー放射線HRの各撮影方向とのなす角度を等しくし、後のサブトラクト処理の精度をより向上させるために、低エネルギー放射線LRの撮影方向が高エネルギー放射線HRの各撮影方向との真ん中となるように制御する。また、本実施形態では、放射線源17が図2において1回目が左側、3回目が右側に位置するものとする。
【0044】
また、撮影方向制御部44は、ユーザが所望する奥行感を有するサブトラクト画像を表示するため、高エネルギー放射線HRの各撮影方向のなす角度が入力部15によって受け付けた角度に制御することもできる。
【0045】
また、撮影方向制御部44は、ユーザが立体視し易いサブトラクト画像を表示するため、高エネルギー放射線HRの撮影方向のなす角度を2°〜8°の範囲に制御することもできる。また、撮影方向制御部44は、画像データDMに基づく画像を平面視用画像として利用するため、低エネルギー放射線LRの撮影方向を放射線検出器15の検出面15aに垂直な方向に制御することもできる。
【0046】
画像データ記憶部45は、互いに異なる3つの撮影方向からの放射線撮影によって放射線検出器15から読み出された3つの画像データDL,DM,DRを記憶するとともに、サブトラクト処理部46が、これらの画像データDL,DM,DRにサブトラクト処理を施すことで生成されるサブトラクト画像データSDL,SDRを記憶するものである。
【0047】
サブトラクト処理部46は、前述のエネルギー分布の異なる放射線の照射によって取得された画像データDL,DRと画像データDMとに対し、サブトラクト処理を施すものである。ここで、サブトラクト処理とは、複数の画像データにおける各画素を対応させ、その複数の画像データ間で所定の重み付け係数を乗算した上で減算処理を行うことにより特定の構造物の像を示す差分信号を取得する処理である。
【0048】
本実施形態においては、被写体が乳房Mであるため、たとえば、乳腺のコントラストが強調されるように重み付け係数を予め設定することで乳腺の像が強調されたサブトラクト画像データSDL,SDRや、腫瘍のコントラストが強調されるような重み付け係数を予め設定することで腫瘍の像が強調されたサブトラクト画像データSDL,SDRを取得することができる。
【0049】
サブトラクト処理部46は、前述の通り、サブトラクト画像データSDL,SDRを効率良く取得するため、画像データDMが取得された後、最後の高エネルギー放射線HRによる放射線撮影と並行して画像データDLと画像データDMとのサブトラクト処理を施すものである。なお、低エネルギー放射線LRによる放射線撮影が最初に行われる場合、サブトラクト処理部46は、画像データDLが記憶された後、画像データDRを取得するための最後の高エネルギー放射線HRによる放射線撮影と並行して画像データDLと画像データDMとのサブトラクト処理を施すものである。
【0050】
サブトラクト処理部46は、精度を向上させるために、画像データDMを非線形に歪曲変形させる等の公知の位置合わせ手法によって画像データDLと画像データDMに含まれる乳房Mの像の同士の位置合わせを行ってサブトラクト処理を施すことができる。
【0051】
表示制御部47は、画像データ記憶部45に記憶されている2つのサブトラクト画像データSDL,SDRに基づいて、モニタ2に乳房Mの左眼用のサブトラクト画像SGLおよび右眼用のサブトラクト画像SGRを表示させるものである。表示制御部47は、画像データ記憶部45に記憶されている画像データDL,DM,DRに基づいて、各画像を個別に表示させることもできるし、左眼用画像および右眼用画像として表示することもできる。なお、表示制御部47は、必要に応じて診断レポートや撮影条件をモニタ2に表示させることもできる。
【0052】
次に放射線撮影装置100の作用について説明する。図4は放射線撮影装置100による一連の処理を示すフローチャートである。まず、撮影台14の上に乳房Mが設置され、圧迫板18により乳房Mが所定の圧力によって圧迫される。
【0053】
そして、照射エネルギー制御部42および照射順序制御部43が、1回目および3回目の照射に高エネルギー放射線HR、2回目の照射に低エネルギー放射線LRを照射する旨の情報を放射線源コントローラ32に出力し、撮影方向制御部44が、1回目の照射における撮影角度θ=−4°,2回目の照射における撮影角度θ=0°および3回目の照射における撮影角度θ=+4°の情報をアームコントローラ31に出力する。
【0054】
制御部41が、アームコントローラ31に対して1回目の照射を行う制御信号を出力する。アームコントローラ31が、この制御信号および撮影方向制御部44から受け取った1回目の撮影角度θ=−4°の情報に基づいて、アーム部13が検出面15aに対して−4°傾く制御信号を出力する。アーム部13が、制御信号に基づいて、検出面15aに対して−4°傾いた姿勢となる。
【0055】
制御部41は、放射線源コントローラ32および検出器コントローラ33に対して1回目の放射線の照射と画像データDLの読出を行う制御信号を出力する。放射線源17が、この制御信号および照射エネルギー制御部42から受け取った情報に基づいて、高エネルギー放射線HRを乳房Mに照射し(ST1)、放射線検出器15が検出面15aに入射した放射線を検出して高エネルギーの画像データDLを出力する。画像データ記憶部45が出力された画像データDLを記憶する(ST2)。
【0056】
制御部41が、アームコントローラ31に対して2回目の照射を行う制御信号を出力する。アームコントローラ31が、この制御信号および撮影方向制御部44から受け取った1回目の撮影角度θ=0°の情報に基づいて、アーム部13が検出面15aに対して垂直になる制御信号を出力する。アーム部13が、制御信号に基づいて、検出面15aに対して垂直な姿勢となる。
【0057】
制御部41は、放射線源コントローラ32および検出器コントローラ33に対して2回目の放射線の照射と画像データDMの読出を行う制御信号を出力する。放射線源17が、この制御信号および照射エネルギー制御部42から受け取った情報に基づいて、低エネルギー放射線LRを乳房Mに照射し(ST3)、放射線検出器15が検出面15aに入射した放射線を検出して低エネルギーの画像データDMを出力する。画像データ記憶部45が出力された画像データDMを記憶する(ST4)。
【0058】
制御部41が、アームコントローラ31に対して3回目の照射を行う制御信号を出力する。アームコントローラ31が、この制御信号および撮影方向制御部44から受け取った1回目の撮影角度θ=+4°の情報に基づいて、アーム部13が検出面15aに対して+4°傾いた姿勢となる制御信号を出力する。アーム部13が、制御信号に基づいて、検出面15aに対して+4°姿勢となる。
【0059】
制御部41は、放射線源コントローラ32および検出器コントローラ33に対して3回目の放射線の照射と画像データDRの読出を行う制御信号を出力する。放射線源17が、この制御信号および照射エネルギー制御部42から受け取った情報に基づいて、高エネルギー放射線HRを乳房Mに照射し(ST5)、放射線検出器15が検出面15aに入射した放射線を検出して高エネルギーの画像データDRを出力する。画像データ記憶部45が出力された画像データDRを記憶する(ST6)。
【0060】
サブトラクト処理部46は、3回目の高エネルギーの画像データDRの撮影と並行して画像データDLと画像データDMとに対してサブトラクト処理を施し、左眼用のサブトラクト画像データSDLを生成する。画像データ記憶部45が左眼用のサブトラクト画像データSDLを記憶する(ST7)。
【0061】
サブトラクト処理部46は、画像データ記憶部45が出力された画像データDRを記憶した後、画像データDRと画像データDMとに対してサブトラクト処理を施し、右眼用のサブトラクト画像データSDRを生成する。画像データ記憶部45が左眼用のサブトラクト画像データSDLを記憶する(ST8)。表示制御部47が、左右各眼用のサブトラクト画像データSDL,SDRに基づいて、サブトラクト画像SGL,SGRをモニタ2に表示させ(ST9)、ユーザに乳房Mのサブトラクト画像を立体視させて処理を終了する。
【0062】
上記の実施形態によれば、照射エネルギー制御部42および照射順序制御部43が3回目に高エネルギー放射線HRを照射させるため、サブトラクト処理部46が、3回目の撮影の際、画像データDLと画像データDMとのサブトラクト処理を並行化して行うことができ、設備コストを抑えた1つの放射線源17によって立体視可能なサブトラクト画像を効率良く取得できる。
【0063】
また、上記の実施形態によれば、撮影方向制御部44が、低エネルギー放射線LRの撮影方向が中間の方向となるように制御するため、低エネルギー放射線LRの撮影方向と高エネルギー放射線HRの撮影方向とが大きくならず、サブトラクト処理における精度が向上する。
【0064】
また、上記の実施形態によれば、撮影方向制御部44が、低エネルギー放射線LRの撮影方向を高エネルギー放射線HRの撮影方向の真ん中の方向となるように制御するため、サブトラクト処理における精度がより向上する。
【0065】
また、上記の実施形態によれば、照射順序制御部43が1回目および3回目に高エネルギー放射線HRの照射、2回目に低エネルギー放射線LRを放射線源17から照射させるため、放射線源17の移動距離が短くなりより効率良く立体視可能なサブトラクト画像を取得できる。
【0066】
また、上記の実施形態によれば、サブトラクト処理部46が、画像データDMに含まれる乳房Mの像を画像データDL,DRに含まれる乳房Mの各像に位置合わせしてサブトラクト処理を施すため、サブトラクト画像の精度が向上する。
【0067】
また、上記の実施形態によれば、入力部3が高エネルギー放射線HRの撮影方向のなす角度を受け付け、撮影方向制御部44が、高エネルギー放射線HRの撮影方向のなす角度が受け付けた角度となるように制御できるため、所望の奥行感を有する立体視可能なサブトラクト画像を取得できる。
【0068】
なお、上記の実施形態においては、入力部3が高エネルギー放射線HRの撮影方向のなす角度を受け付け、撮影方向制御部44が、高エネルギー放射線HRの撮影方向のなす角度が受け付けた角度となるように制御するとして説明したが、特に限定されるものではなく、撮影方向制御部44が高エネルギー放射線HRの撮影方向と低エネルギー放射線LRの撮影方向のなす角度を測定できるものとし、その測定された角度に基づいて、低エネルギー放射線LRの撮影方向と高エネルギー放射線HRの撮影方向のなす角度を調整するようにしてもよい。
【0069】
なお、上記の実施形態においては、サブトラクト画像データSDLが左眼用、サブトラクト画像データSDRが右眼用として説明したが、特に限定されるものではなく、サブトラクト画像データSDLが右眼用、サブトラクト画像データSDRが左眼用であってもよい。
【0070】
なお、上記の実施系形態において、被写体を乳房Mとして説明したが、特に限定されるものではなく、頭部、頸部、胸部、腹部、脚部、肺または胃等の部位を撮影するものであってもよく、放射線撮影装置は、これらの撮影部位を撮影する放射線撮影装置であってもよい。さらに、放射線撮影装置は、これらの部位のうち、骨成分を除去した軟部画像や、軟部成分を除去した骨部画像をサブトラクト画像として取得するものであってもよい。
【符号の説明】
【0071】
DL,DM,DR 画像データ
M 乳房(被写体)
1 放射線撮影装置
3 入力部(指示受付部)
15 放射線検出器
17 放射線源
42 照射エネルギー制御部
43 照射順序制御部
46 サブトラクト処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる3つの撮影方向から被写体に向けて放射線を順次照射する1つの放射線源と、
前記3つの撮影方向から照射される放射線のうち、1つの撮影方向から照射される放射線のエネルギーが他の2つの撮影方向から照射される放射線のエネルギーよりも低くなるように、前記放射線源のエネルギー分布を制御する照射エネルギー制御部と、
前記他の2つの撮影方向のうちの一方の撮影方向からの照射が最後となるように、前記3つの撮影方向からの照射順序を制御する照射順序制御部と、
前記各撮影方向から照射された放射線を検出して前記撮影方向毎の画像データを取得する放射線検出器と、
前記他の2つの撮影方向における各画像データと前記1つの撮影方向における画像データとに対し、サブトラクト処理を施すサブトラクト処理部とを備えたことを特徴とする放射線撮影装置。
【請求項2】
前記1つの撮影方向が前記3つの撮影方向の中間の方向となるように、前記放射線源の撮影方向を制御する撮影方向制御部を備えることを特徴とする請求項1に記載の放射線撮影装置。
【請求項3】
前記撮影方向制御部が、前記1つの撮影方向が前記他の2つの撮影方向の真ん中の方向となるように、前記各撮影方向を制御するものであることを特徴とする請求項2に記載の放射線撮影装置。
【請求項4】
前記照射順序制御部が、前記他の2つの撮影方向のうちの他方の撮影方向からの照射が最初となるように、前記照射順序を制御するものであることを特徴とする請求項2または3に記載の放射線撮影装置。
【請求項5】
前記サブトラクト処理部が、前記1つの撮影方向における画像データに含まれる前記被写体の像を前記他の2つの撮影方向における各画像データに含まれる前記被写体の各像に位置合わせを行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項6】
前記他の2つの撮影方向のなす角度に関するユーザ指示を受け付ける指示受付部を備え、
前記撮影方向設定部が、前記他の2つの撮影方向のなす角度が前記指示された角度となるように、前記各撮影方向を制御するものであることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項7】
前記撮影方向制御部が、前記1つの撮影方向が前記放射線検出器の検出面に垂直な方向となるように、前記各撮影方向を制御するものであることを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項8】
前記撮影方向制御部が、前記他の2つの撮影方向のなす角度が2°〜8°の範囲となるように、前記各撮影方向を制御するものであることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載の放射線撮影装置。
【請求項9】
互いに異なる3つの撮影方向から被写体に向けて放射線を順次照射する1つの放射線源と、前記各撮影方向から照射された放射線を検出して前記撮影方向毎の画像データを取得する放射線検出器とを備えた放射線撮影装置の動作方法であって、
前記3つの撮影方向から照射される放射線のうち、1つの撮影方向から照射される放射線のエネルギーが他の2つの撮影方向から照射される放射線のエネルギーよりも低くなるように、前記放射線源を制御し、
前記他の2つの撮影方向のうちの一方の撮影方向からの照射が最後となるように、前記3つの撮影方向における照射順序を制御し、
前記他の2つの撮影方向における各画像データと前記1つの撮影方向における画像データとに対し、サブトラクト処理を施すことを特徴とする放射線撮影装置の動作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−585(P2013−585A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−130425(P2012−130425)
【出願日】平成24年6月8日(2012.6.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】