説明

放熱コンパウンド組成物

【課題】熱伝導率が高く、耐離油性及び耐熱性に優れる放熱コンパウンド組成物を提供する。
【解決手段】1.(A)基油2〜20質量部、及び、(B)表面をカップリング剤により処理した無機充填剤80〜98質量部を含有することを特徴とする放熱コンパウンド組成物。2.(A)基油が、炭化水素系合成油、エーテル系合成油、及びエステル系合成油からなる群から選ばれる少なくとも1種である放熱コンパウンド組成物。3.カップリング剤が、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、及びチタネート系カップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、放熱コンパウンド組成物。4.(B)の無機充填剤が、金属酸化物、金属窒化物、窒化ホウ素、及び金属粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種である放熱コンパウンド組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱伝導率を有する放熱コンパウンド組成物に関し、熱酸化安定性に優れた耐熱型放熱コンパウンド組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に使用されている半導体部品の中には、コンピューターのCPU、ペルチェ素子、LED、インバーター等の電源制御用パワーモジュールなど使用中に発熱をともなう部品がある。
これらの半導体部品を熱から保護し、正常に機能させるためには、発生した熱をヒートスプレッダーやヒートシンク等の放熱部品へ伝導させ放熱する方法がある。放熱コンパウンド組成物は、これら半導体部品と放熱部品を密着させるように両者の間に塗布され、半導体部品の熱を放熱部品に効率よく伝導させるために用いられる。
近年、これら半導体部品を用いる電子機器の性能向上や小型・高密度実装化が急速に進んでおり、半導体の発熱量が増大しているため、このような放熱対策に用いられる放熱コンパウンド組成物には高い熱伝導性が求められるとともに組成物自身の耐熱性も求められている。
【0003】
放熱コンパウンド組成物は、炭化水素系合成油、エステル油、エーテル油、シリコーン油、フッ素油等の基油に、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等の金属酸化物や、窒化ホウ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの無機窒化物や、アルミニウム、銀、銅などの金属粉末等、熱伝導率の高い充填剤が多量に分散されたグリース状の組成物である。例えば、増ちょう剤を含有する潤滑油に熱伝導性充填剤を配合したもの(特許文献1)、炭化水素油やフッ素油に特定の熱伝導性無機充填剤を配合したもの(特許文献2)、特定のオルガノシランで表面処理された窒化アルミニウムをシリコーン油等の基油に配合したもの(特許文献3)、特定の表面改質剤を配合したもの(特許文献4、5)等が知られている。
また、無機充填剤、基油、2価以上の金属イオンと有機酸とからなる金属せっけん、及びアミン系酸化防止剤を配合したもの(特許文献6)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−106996
【特許文献2】特許第2938428号
【特許文献3】特許第2930298号
【特許文献4】特開2006−210437
【特許文献5】特開2006−96973
【特許文献6】特開2009−46639
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
放熱コンパウンド組成物は、コンピューターのCPU等の冷却機構や、ハイブリッド自動車や電気自動車等に搭載される高出力のインバーターに使用されるパワーモジュール等の冷却機構における熱接触界面に使用されている。近年、これらのエレクトロニクス機器における半導体素子は、小型化・高性能化に伴い、発熱密度及び発熱量が増大しており、放熱コンパウンド組成物は以前にも増して高温に曝される環境にある。また、自動車エンジンルーム内においてはさらに高温環境下で使用されることが多い。
このような高温の環境で長期に渡り放熱コンパウンド組成物を使用する場合には、放熱コンパウンド組成物の種類によっては大きくちょう度が低下する場合がある。このように、放熱材料として実装使用時にちょう度が大きく低下した場合にはクラックやボイドの発生や、離油の発生等が起こり、放熱性能が低下するおそれがある。
したがって、半導体ユニットの発熱温度や周囲の環境温度が高温に至る使用状況で長期間に渡り使用される放熱コンパウンド組成物は、高温下でのちょう度変化率が少なく、耐熱性に優れることが求められている。
本発明の目的は、高温における耐熱性に優れる放熱コンパウンド組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、基油と、表面をカップリング剤により処理した無機充填剤を特定の比率で配合した組成物が、熱伝導率が高く、適切なちょう度を持ち、かつ耐離油性及び耐熱性に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、以下に示す放熱コンパウンド組成物を提供するものである。
1.(A)基油2〜20質量部、及び
(B)表面を、カップリング剤により処理した無機充填剤80〜98質量部
を含有することを特徴とする放熱コンパウンド組成物。
2.(A)基油が、炭化水素系合成油、エーテル系合成油、及びエステル系合成油からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1記載の放熱コンパウンド組成物。
3.カップリング剤が、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、及びチタネート系カップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記1又は2記載の放熱コンパウンド組成物。
4.(B)の無機充填剤が、金属酸化物、金属窒化物、窒化ホウ素、及び金属粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1〜3のいずれか1項記載の放熱コンパウンド組成物。
5.(B)の無機充填剤が、平均粒子径が(a)0.8μm以下であるものと、(b)1〜5μmであるものの、質量比率が、2:8〜8:2である混合物であることを特徴とする上記1〜4のいずれか1項記載の放熱コンパウンド組成物。
6.成分(C)として、金属不活性化剤0.01〜2.0質量部を含有することを特徴とする上記1〜5のいずれか1項記載の放熱コンパウンド組成物。
7.(C)の金属不活性化剤が、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ジメルカプトチアゾール誘導体、オキシキノリン誘導体、サリチリデン誘導体、チオカーバメート系化合物、ピペリジン系化合物、サリチル酸系化合物、及びチオホスフェート系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1〜6のいずれか1項記載の放熱コンパウンド組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の放熱コンパウンド組成物は、熱伝導率が高く、適度なちょう度を持ち、かつ耐離油性及び耐熱性に優れている。このため、本発明の放熱コンパウンド組成物は、高熱を発する電子部品の放熱性を向上でき、特に高温環境に曝される自動車用パワーモジュールやLEDの放熱材料として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の組成物に使用する基油としては、種々の基油が使用でき、例えば、鉱油、合成炭化水素油などの炭化水素油、エステル油、エーテル油、リン酸エステル、シリコーン油及びフッ素油などが挙げられ、炭化水素油、エステル油、エーテル油が好ましい。基油は1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
鉱油としては、例えば、鉱油系潤滑油留分を溶剤抽出、溶剤脱ロウ、水素化精製、水素化分解、ワックス異性化などの精製手法を適宜組み合わせて精製したもので、150ニュートラル油、500ニュートラル油、ブライトストック、高粘度指数基油などが挙げられる。鉱油は、高度に水素化精製された高粘度指数基油が好ましい。
合成炭化水素油としては、例えば、エチレンやプロピレン、ブテン、及びこれらの誘導体などを原料として製造されたα−オレフィンを、単独または2種以上混合して重合したものが挙げられる。α−オレフィンとしては、炭素数6〜14のものが好ましく挙げられる。
具体的には、直鎖のα−オレフィンを重合して得られるポリα−オレフィン(PAO)や、イソブチレンの重合体であるポリイソブチレン、エチレンやプロピレンとα−オレフィンの共重合体等が挙げられる。また、アルキルベンゼンやアルキルナフタレン等を用いることもできる。
【0010】
エステル油としては、ジエステルやポリオールエステルが挙げられる。
ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基酸のエステルが挙げられる。二塩基酸としては、炭素数4〜36の脂肪族二塩基酸が好ましい。エステル部を構成するアルコール残基は、炭素数4〜26の一価アルコール残基が好ましい。
ポリオールエステルとしては、β位の炭素上に水素原子が存在していないネオペンチルポリオールのエステルで、具体的にはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のカルボン酸エステルが挙げられる。エステル部を構成するカルボン酸残基は、炭素数4〜26のモノカルボン酸残基が好ましい。
また、上記以外にも、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、2−ブチル−2−エチルプロパンジオール、2,4−ジエチル−ペンタンジオール等の脂肪族二価アルコールと、直鎖または分岐鎖の飽和脂肪酸とのエステルも用いることができる。直鎖または分岐鎖の飽和脂肪酸としては、炭素数4〜30の一価の直鎖または分岐鎖の飽和脂肪酸が好ましい。
さらに、炭酸エステルも用いることができる。
【0011】
エーテル油としては、ポリグリコールや(ポリ)フェニルエーテルなどが挙げられる。
ポリグリコールとしては、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、及びこれらの誘導体などが挙げられる。
(ポリ)フェニルエーテルとしては、アルキル化ジフェニルエーテルや、モノアルキル化テトラフェニルエーテル、ジアルキル化テトラフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテルなどが挙げられる。
リン酸エステルとしては、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート等が挙げられる。
【0012】
放熱コンパウンド組成物は発熱部に塗布されるため、長時間高温にさらされる。このため、基油としては熱酸化安定性に優れることが望ましい。上記基油の中では、合成油が好ましく、合成炭化水素油、エステル油、エーテル油が好ましい。これらの基油のうち、特に熱酸化安定性に優れるものとして、合成炭化水素油では、ポリα−オレフィン、エステル油では、ポリオールエステル、エーテル油ではアルキルジフェニルエーテルが好ましい基油として用いられる。さらにこれらの基油のうち、比較的粘度指数が高く、放熱コンパウンド組成物を調製したときに軟らかく塗布性に優れる放熱コンパウンド組成物が調製できるポリα−オレフィンやポリオールエステルが好ましい基油として用いられる。また、特に優れた塗布性を求めない場合は粘度の高いアルキルジフェニルエーテルや、(ポリ)フェニルエーテルを用いることもできる。
【0013】
基油の動粘度は、40℃で10mm2/s〜600mm2/sであることが好ましい。40℃における動粘度を10mm2/s以上とすることで、高温下での基油の蒸発や離油などが抑制される傾向にあるため好ましい。また、40℃における動粘度を600mm2/s以下とすることで適切なちょう度を得やすくなるため好ましい。
【0014】
特に好ましい基油は、炭化水素系合成油、エーテル系合成油、及びエステル系合成油からなる群から選ばれる少なくとも1種である。さらに具体的には、ポリα−オレフィン、エチレンとα−オレフィンの共重合体、アルキルナフタレン、アルキルベンゼン等の炭化水素系合成油、アルキルジフェニルエーテル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、多価アルコールと脂肪酸を脱水縮合して得られる合成エステル等の合成エステル等が挙げられる。
(A)基油の含有量は本発明の成分(A)、(B)及び(C)の合計量を100質量部としたとき、2〜20質量部、好ましくは3〜15質量部、特に好ましくは3〜10質量部である。20質量部を超える場合には、軟らかくなりすぎ、高温環境に置かれた場合に放熱コンパウンド組成物が流れ出てしまう場合がある。さらに離油を生じたり、目的とする熱伝導性が得られない。また、2質量部未満では、硬くなり十分な塗布性を保てなくなるか、放熱コンパウンド組成物として調製できなくなる。
【0015】
本発明に使用する無機充填剤は、基油より高い熱伝導率を有するものであれば特に限定されないが、金属酸化物、無機窒化物、金属、ケイ素化合物、カーボン材料などの粉末が好適に用いられる。本発明の無機充填剤の種類は1種類であってもよいし、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0016】
上記の無機充填剤は、電気絶縁性を求める場合には、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、シリカ、などの、非導電性物質の粉末が好適に使用でき、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素の粉末がより好ましく、酸化亜鉛、酸化アルミニウムの粉末が特に好ましい。これらの無機充填剤はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。また、電気絶縁性を求めず、より高い熱伝導性を求める場合には、亜鉛、アルミニウム、金、銀、銅などの金属粉末や、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、ダイヤモンドなどの炭素材料粉末が好適に使用でき、金属粉末がより好ましく、亜鉛、またはアルミニウムの粉末が特に好ましい。また、金属粉末や炭素材料粉末を上記の非導電性物質の粉末と組み合わせて用いることもできる。
【0017】
また、上記無機充填剤は、細粒のみを用いる場合は平均粒子径1μm以下の無機粉末を用いることが好ましい。
また、細粒と粗粒を組み合わせる場合には、平均粒子径が(a)0.8μm以下であるものと、(b)1〜5μmであるものの、質量比率が、好ましくは2:8〜8:2、さらに好ましくは35:65〜65:35である混合物であることが好ましい。このように細粒と粗粒を組み合わせることにより、無機充填剤の充填率をあげることができ、熱伝導率を向上させるという効果がある。
【0018】
(B)無機充填剤の含有量は本発明の成分(A)及び(B)の合計量を100質量部としたとき、80〜98質量部、好ましくは85.0〜98質量部である。
無機充填剤の含有率が高いほど熱伝導性に優れ、80質量部未満では熱伝導率が低くなったり、離油しやすくなることがある。一方、98質量部を越えると硬くなり十分な塗布性を保てなくなるか、放熱コンパウンド組成物が調製できなくなる。
本発明に使用する無機充填剤は、予め、表面をカップリング剤により処理したものである。
【0019】
表面処理カップリング剤としては、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、チタネート系カップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
アルミニウム系カップリング剤の具体例としては、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等が、ジルコニウム系カップリング剤の具体例としては、ネオペンチル(ジアリル)オキシトリ(ジオクチル)ホスフェイトジルコネートが、チタネート系カップリング剤の具体例としては、イソプロポキシチタニウムステアレートが挙げられる。
本発明に使用する無機充填剤100質量部に対して、カップリング剤を好ましくは0.1〜3質量部、さらに好ましくは0.3〜2質量部を一般的なカップリング剤処理方法で処理することにより、表面をカップリング剤処理した無機充填剤が得られる。無機充填剤の表面カップリング処理の方法は限定されるものではなく、いかなる方法を用いても良い。例えば、ブレンダー、ミキサーなどでフィラーを強制攪拌しながら、カップリング剤を直接または、有機溶剤で希釈した溶液を乾燥空気や窒素ガスで噴射させて処理していく方法に代表される乾式法や、カップリング剤の希薄溶液中にフィラーを添加し、スラリー化または、直接浸漬したりする湿式法などがある。
【0020】
本発明の組成物に任意成分として使用する(C)金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ジメルカプトチアゾール誘導体、オキシキノリン誘導体、サリチリデン誘導体、チオカーバメート系化合物、ピペリジン系化合物、サリチル酸系化合物、及びチオホスフェート系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。このような金属不活性化剤は、例えば、CMCテクニカルライブラリー177「石油製品添加剤の開発」77〜82頁に記載されている。
(C)金属不活性化剤の含有量は本発明の成分(A)、(B)及び(C)の合計量を100質量部としたとき、好ましくは0.01〜2.0質量部、さらに好ましくは0.02〜0.5質量部である。
金属不活性化剤の含有量が0.01質量部未満では、コンパウンド組成物を塗布する材料を腐食させるおそれがあり、2.0質量部を超えて添加しても効果に顕著な差異は現れない。
【0021】
本発明の組成物には、任意成分として酸化防止剤、例えば、フェノール系の酸化防止剤や、アミン系酸化防止剤等を添加することができる。
フェノール系の酸化防止剤としては、2,6ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3',5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン−3−(3',5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン等が好適に用いられる。アミン系酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、フェニル−β−ナフチルアミン等のナフチルアミン類、p,p’−ジアルキルジフェニルアミン等の(アルキル化)ジフェニルアミン類、ジフェニル−p−フェニレンジアミン、ジピリジルアミン類、フェノチアジン類等が好適に用いられる。これらのうち油溶性が高くスラッジを生成しにくいナフチルアミン類とアルキル化ジフェニルアミン類が好ましく、アルキル化ジフェニルアミン類が特に好ましい。
ナフチルアミン類は、アルキル基を有しなくてもよいし、アルキル基を有してもよい。ナフチルアミン類がアルキル基を有する場合は、フェニル基にアルキル基を有するものが好ましい。この場合、アルキル基の炭素数は、4〜20が好ましく、6〜18がより好ましい。
【0022】
アルキル化ジフェニルアミン類は、モノアルキル化ジフェニルアミン類、ジアルキル化ジフェニルアミン類、トリアルキル化ジフェニルアミン類、テトラアルキル化ジフェニルアミン類などが挙げられるが、ジアルキル化ジフェニルアミン類が好ましい。
また、アルキル化ジフェニルアミン類におけるアルキル基は、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素数3〜14のアルキル基がより好ましく、炭素数4〜12のアルキル基が特に好ましい。
アミン系酸化防止剤は高温におけるラジカル連鎖反応を防止する効果を有し、それ自身の昇華性が低いため、他の酸化防止剤を使用した場合に比較して耐熱性を向上する効果がある。
これらの酸化防止剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせても良い。酸化防止剤の含有量は本発明の組成物100質量部中、好ましくは0.05〜2質量部、さらに好ましくは0.1〜1質量部である。酸化防止剤の含有量が0.05質量部未満では効果が小さく、2質量部より大きくても効果の向上は期待できないばかりか、長期間高温に曝された場合には酸化防止剤自身の劣化物の影響により放熱コンパウンド組成物が硬くなる傾向がある。
【0023】
また、本発明の放熱コンパウンド組成物には必要に応じて、公知の添加剤を適宜配合することができる。これらとしては、例えば、二次酸化防止剤としてはサルファイド、ジサルファイド、トリサルファイド、チオビスフェノールなどのイオウ系酸化防止剤や、アルキルフォスファイト、ZnDTPなどのリン系酸化防止剤等、さび止め剤としてはスルホン酸塩、カルボン酸、カルボン酸塩、コハク酸エステル等、腐食防止剤としてはベンゾトリアゾールおよびその誘導体等の化合物、チアジアゾール系化合物が、増粘剤としてはポリイソブチレン、ポリアルキルメタクリレート、オレフィン共重合体、高粘度のポリα−オレフィン等、増ちょう剤としては金属石けん、ウレア化合物、ナトリウムテレフタラメート、ポリテトラフルオロエチレン、有機化ベントナイト、シリカゲル、石油ワックス、ポリエチレンワックス等が挙げられる。これらの添加剤の配合量は、通常の配合量であればよい。
【0024】
本発明の放熱コンパウンド組成物は、成分(A)及び(B)、あるいは、必要により、任意成分(C)、あるいは他の任意成分を添加し、均一に混合することにより容易に製造することができる。このような方法としては、乳鉢、プラネタリーミキサーなどにより加熱しながら混練りを行い、さらに三本ロールにて均一に混練りする方法がある。
【実施例】
【0025】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳述するが、本発明はこれによって何等限定されるものではない。
表1〜4に示す成分を混合し、放熱コンパウンド組成物を調製し、以下の方法によりその特性を評価した。
評価方法
熱伝導率:熱線法にて測定:京都電子製QTM-500
2.0 (W・m-1・K-1)以上を合格とする。
ちょう度:JIS K 2220に準拠し、不混和時のちょう度で判定
100以上を合格とする。
耐離油性:放熱コンパウンド組成物をガラス板と金属板(アルミニウム板)の間に直径約20mm×厚さ50μmとなるようにスペーサーを用いて挟み、その状態を保持し恒温槽に入れ、熱サイクル試験(150℃×12時間→−30℃×12時間)後、離油の有無を目視で判定
×:離油大
△:離油小
○:離油僅か
◎:離油なし
耐熱性(耐ひび割れ性):放熱コンパウンド組成物をガラス板と金属板(アルミニウム板)の間に直径約20mm×厚さ50μmとなるようにスペーサーを用いて挟み、その状態を保持し恒温槽に入れ、熱サイクル試験(150℃×12時間→−30℃×12時間)後、コンパウンド中の空隙またはひび割れの有無を目視で判定
×:空隙またはひび割れ大
△:空隙またはひび割れ小
○:空隙またはひび割れ僅か
◎:空隙またはひび割れなし
【0026】
【表1】

【0027】
*1:アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート
*2:ネオペンチル(ジアリル)オキシ トリ(ジオクチル)ホスフェイトジルコネート
*3:イソプロポキシ チタニウム ステアレート
評価結果の欄の「−」は測定しなかったことを示す。
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
【表4】

【0031】
*4:アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートによるフィラーへのカップリング剤処理を予め行わず、製造時に基油中に分散して配合した。
*5:製造できないため測定不能
【0032】
(A)基油2〜20質量部と、(B)表面を、カップリング剤により処理した無機充填剤80〜98質量部を含有する本発明の実施例1〜19の放熱コンパウンド組成物は、熱伝導率が高く、適切なちょう度を持ち、耐離油性及び耐熱性(耐ひび割れ性)に優れている。
無機充填剤として、平均粒子径が(a)0.8μm以下である酸化亜鉛と、(b)1〜5μmである酸化亜鉛の、質量比率が、2:8〜8:2である混合物を使用した実施例3〜11及び17は熱伝導率が特に高い。
無機充填剤として、酸化亜鉛と、アルミニウム粉末又は銀粉末を使用した実施例18及び19も熱伝導率が特に高い。
一方、実施例1又は実施例3において、カップリング剤処理をしない無機充填剤を配合した比較例1又は比較例3では、放熱コンパウンド組成物を製造できなかった。
また、実施例2又は実施例4において、カップリング剤処理を予め行わず、製造時に基油中に分散して配合した比較例2又は比較例4では、熱伝導率及びちょう度はほぼ同等であるが、耐離油性及び耐熱性(耐ひび割れ性)が劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)基油2〜20質量部、及び
(B)表面を、カップリング剤により処理した無機充填剤80〜98質量部
を含有することを特徴とする放熱コンパウンド組成物。
【請求項2】
(A)基油が、炭化水素系合成油、エーテル系合成油、及びエステル系合成油からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の放熱コンパウンド組成物。
【請求項3】
カップリング剤が、アルミニウム系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、及びチタネート系カップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2記載の放熱コンパウンド組成物。
【請求項4】
(B)の無機充填剤が、金属酸化物、金属窒化物、窒化ホウ素、及び金属粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項記載の放熱コンパウンド組成物。
【請求項5】
(B)の無機充填剤が、平均粒子径が(a)0.8μm以下であるものと、(b)1〜5μmであるものの、質量比率が、2:8〜8:2である混合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の放熱コンパウンド組成物。
【請求項6】
成分(C)として、金属不活性化剤0.01〜2.0質量部を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の放熱コンパウンド組成物。
【請求項7】
(C)の金属不活性化剤が、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ジメルカプトチアゾール誘導体、オキシキノリン誘導体、サリチリデン誘導体、チオカーバメート系化合物、ピペリジン系化合物、サリチル酸系化合物、及びチオホスフェート系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれか1項記載の放熱コンパウンド組成物。

【公開番号】特開2010−278115(P2010−278115A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127488(P2009−127488)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000162423)協同油脂株式会社 (165)
【Fターム(参考)】