説明

放熱構造体

【課題】放熱構造体の外寸法(外観)を顕著に変化させることなく、高い放熱性能を実現すること。
【解決手段】熱伝導層1と、この内側に設けられ、最内面側に3次元形状賦型層を有する内皮層2とを含む放熱構造体であって、熱伝導層1は、層内の少なくとも一方向における熱伝導率が2W/m・K以上、平均厚みが0.2〜5mmであって、熱伝導率と平均厚みの積が0.01W/K以上であり、3次元形状賦型層は、内皮層の10%以上の領域に複数の凹凸部が、平均谷幅1〜20mm、平均山幅が0.5〜5mm、平均高さが平均谷幅の1〜10倍であり、かつ、発熱体の少なくとも一部と接触するように配され、3次元形状賦型層の設けられた領域の表面積が、凹凸部が無い平坦面である場合に比べ1.2倍以上である放熱構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子(LED素子、レーザーダイオード、EL素子等)、能動受光素子(CCD等)、中央演算装置(CPU)、画像演算装置(MPU)、インバータ素子(IGBT、FET等)、モーター類、ヒーター素子等、発熱を伴うデバイス類の実装された機器、器具等の放熱対策として用いられる放熱構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子/電気機器の中には発熱密度の高いデバイス(LED素子、レーザーダイオード、CPU、MPU等)が多数実装されており、これらデバイス駆動に高い信頼性を確保するための温度コントロール、すなわち放熱対策が極めて重要になってきている。
【0003】
これらの放熱対策としては、熱伝導率の高い金属(銅、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金等)を押出成形法やダイキャスト成形法等を用いて成形してなる放熱構造体(フィン型ヒートシンク等)を発熱源近傍に配して、外界空気に効率的に熱放散する経路設計を行うことが一般的であった。(例えば特許文献1〜3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−159012号公報
【特許文献2】特開平10−092986号公報
【特許文献3】特開2004−071599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これら従来の放熱対策は、高い放熱性能を実現する上で、放熱構造体の外表面への凸部配置等により、外寸法及び容積が増大してしまうため、機器、器具の小型化や軽量化、及びデザイン性等の市場要求に応えるためには、さらに高い放熱性能が求められている。本発明はこれらの事情に鑑み、放熱体の外寸法(外観)を顕著に変化させることなく、極めて高い放熱性能を実現することを課題として、為されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、熱伝導層と、この内側に設けられ、その最内面側に3次元形状賦型層を有する内皮層とを含む放熱構造体であって、熱伝導層は、層内の少なくとも一方向における熱伝導率が2W/m・K以上、平均厚みが0.2〜5mmであって、熱伝導率と平均厚みの積が0.01W/K以上であり、3次元形状賦型層は、内皮層の10%以上の領域に複数の凹凸部が存在し、凹凸部の平均谷幅1〜20mm、平均山幅が0.5〜5mm、平均高さが平均谷幅の1〜10倍であり、かつ、発熱体の少なくとも一部と接触するように配され、3次元形状賦型層の設けられた領域の表面積が、凹凸部が無い平坦面である場合に比べ1.2倍以上であることを特徴とする放熱構造体である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の放熱構造体は、放熱構造体の外寸法及び外観の顕著な変化なく、極めて高い放熱性能を実現することができ、寸法制限のある機器類の放熱対策に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の放熱構造体の一例(上面・正面から見た断面図)
【図2】本発明の放熱構造体中の3次元形状賦型層の凹凸部形状の各部寸法に関する説明図(上面からみた断面図)
【図3】本発明の放熱構造体と発熱体の接触部の一例(正面からみた断面図)
【図4】本発明の放熱構造体のLED照明具(照明具内部が空気層の場合)への応用例(正面からみた断面図)
【図5】本発明の放熱構造体のLED照明具(照明具内部に電気絶縁層部品がある場合)への応用例(正面からみた断面図)
【図6】本発明の放熱構造体中の3次元形状賦型層の凹凸部形状の一例(断面〜斜視図)
【図7】本発明の放熱構造体中の3次元形状賦型層の凹凸部形状の一例(上面・正面・側面から見た断面図)
【図8】本発明の放熱構造体中の3次元形状賦型層の凹凸部形状の一例(断面〜斜視図)
【図9】本発明の放熱構造体中の3次元形状賦型層の凹凸部形状の一例(上面・正面・側面から見た断面図)
【図10】本発明の放熱構造体中の3次元形状賦型層の凹凸部形状の一例(上面・正面から見た断面図)
【図11】本発明の放熱構造体中の3次元形状賦型層の凹凸部形状の一例(上面・正面から見た断面図)
【図12】本発明の放熱構造体中の3次元形状賦型層の凹凸部形状の一例(上面・正面・側面から見た断面図)
【図13】本発明の放熱構造体中の3次元形状賦型層の凹凸部形状の一例(上面・正面・側面から見た断面図)
【図14】本発明の放熱構造体中の3次元形状賦型層の凹凸部形状の一例(上面・正面・側面から見た断面図)
【図15】本発明の放熱構造体の一例(上面・正面から見た断面図)
【図16】本発明の放熱構造体の一例(上面・正面から見た断面図)
【図17】本発明の放熱構造体の一例(上面・正面から見た断面図)
【図18】本発明の放熱構造体の各部寸法に関する説明図(正面からみた断面図)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は熱伝導層と、この内側に設けられ、最内面側に3次元形状賦型層を有する内皮層とを含む放熱構造体である。以下、本発明の実施の形態について順次詳述する。
【0010】
[放熱構造体]
本発明の放熱構造体は少なくともその一部が発熱体近傍に配置され、その接触面から発熱体の熱が伝達された後、放熱構造体を通じて熱を輸送し、最終的に放熱構造体の最外層から外部空気等に熱を放散する機能を有する構造体である。本発明の放熱構造体の好ましい態様であるLED素子の放熱部品に用いるケースで説明すると、LED基板側から一旦筺体内部へ放熱された熱量、及び、内部電源基板から筺体内部へ放熱された熱量を、本発明の放熱構造体を介して、放熱筺体への伝熱し放熱を促進する。
【0011】
本発明の放熱構造体は熱伝導層とこの内側に設けられた内皮層とを含み、内皮層は最内面側に3次元形状賦型層を有する。熱伝導層は、層内の少なくとも一方向における熱伝導率が2W/m・K以上、平均厚みが0.2〜5mmであって、熱伝導率と平均厚みの積が0.01W/K以上である。3次元形状賦型層は、内皮層の10%以上の領域に複数の凹凸部が存在し、凹凸部の平均谷幅1〜20mm、平均山幅が0.5〜5mm、平均高さが平均谷幅の1〜10倍であり、かつ、発熱体の少なくとも一部と接触するように配される。3次元形状賦型層の設けられた領域の表面積が、凹凸部が無い平坦面である場合に比べ1.2倍以上である。
【0012】
[3次元形状賦型層]
本発明の放熱構造体における3次元形状賦型層は放熱構造体最内面の表面積を増やし、放熱構造体内部の空気層または機器構成部品、さらには発熱体との接触面積を増やすことにより、放熱構造体最内面と内部空気層または機器構成部品、さらには発熱体との界面の伝熱性を高める目的で形成される。一例として、LED照明具におけるLED素子の放熱部品として、本発明の放熱構造体を用いるケースで説明すると、LED素子の放熱促進の観点では、LED照明具内の熱抵抗をできるだけ小さくすべく、LED照明具内部の空気層または電気絶縁層等の機器構成部品、さらには発熱体となるLED素子実装基板と放熱構造体間の伝熱性を高めることが重要である。これらの伝熱性は伝熱面間の接触面積に大きく依存するので、接触面積をできる限り大きくすることが好ましい。
【0013】
3次元形状賦型層の形成により、内皮層の表面積は、平坦面である場合に対比して、1.2倍以上であり、好ましくは2倍以上、さらに好ましくは3倍以上であって、上限は可能な形状であればとくには無い。
【0014】
内皮層の表面積の増加割合は、3次元形状賦型層として形成される凹凸部の形状、サイズ、形成密度等によって決定される。すなわち、凹部の谷幅、凸部の山幅、凸部の高さ、凹凸部の曲率(全体もしくは部分的に曲面が配される場合)等が主な支配要因となる。
【0015】
本発明における3次元表面賦型層とは複数の凹凸部を有しているものであるが、凹凸部の形状としては凹凸部が1次元的に連続的に形成されるもの、あるいは凹凸部が不連続に形成されるものが挙げられる。凹凸部のピッチは一定でも可変でも構わず、得ようとする放熱構造体の形状に合わせて選択してよい。凸部の高さ、大きさ等は一定でも可変でも構わず、得ようとする放熱構造体の形状に合わせて選択することができる。
【0016】
本発明は、放熱構造体の外寸法(外観)の顕著な変化がないように、放熱構造体の内部の形状コントロールによって放熱性を高めることを特徴としており、放熱構造体内部の形状制約の許す範囲内である程度自由に凹凸部の形状を選定することができるが、発熱体の少なくとも一部と接触するように配する。
【0017】
3次元形状賦型層は、内皮層の10%以上の領域に複数の凹凸部が存在し、凹凸部の平均谷幅1〜20mm、平均山幅が0.5〜5mm、平均高さが平均谷幅の1〜10倍である。
【0018】
高い放熱性能を実現するためには、凹部の平均谷幅は1〜20mmであるが、好ましくは2〜10mm、さらに好ましくは3〜5mmである。凹部の平均谷幅が1mm未満では、内部空気層との伝熱においては、凹部が狭すぎるために十分な空気の対流が起こらないために、また、機器構成部品との伝熱においては、接触界面の十分な接触が困難なために、放熱効率が悪くなる。逆に20mmを超える場合は、放熱構造体の内皮層の表面積が十分な大きさとならず、空気層または機器構成部品との伝熱が不十分となる。なお、後述するが、凹部の形状パターンは特に限定はなく、多種の形状が可能である。その際、例えば凹凸の断面形状が三角形や半円形の連続であり最下部に平坦部分がない場合など、凹部の谷幅が連続的に変化する場合は、その凹部の谷幅の平均値を平均谷幅とする。
【0019】
本発明の3次元形状賦型層において、凸部の平均山幅は0.5〜5mmであるが、好ましくは0.8〜4mm、さらに好ましくは1〜3mmである。凸部の平均山幅が0.5mm未満では、凸部の先端まで十分に伝熱が為されず、また、発熱体との接触面積も十分な大きさとならず、放熱効率が悪くなる。逆に5mmを超える場合は、放熱構造体の内皮層の表面積が十分な大きさとならず、空気層または機器構成部品との伝熱が不十分となる。
【0020】
本発明の3次元形状賦型層において、凸部の平均高さは凹部の平均谷幅の1〜10倍であるが、好ましくは2〜8倍、さらに好ましくは3〜6倍である。凸部の平均高さが凹部平均谷幅の1倍未満では、放熱構造体の内皮層の表面積が十分な大きさとならず、空気層または機器構成部品との伝熱が不十分となることがある。また、発熱体との接触面積も十分な大きさとならず、放熱効率が悪くなる。逆に10倍を超える場合は、凹部で十分な空気の対流が起こりにくいために、放熱効率が悪くなる。なお、後述するが、凸部の形状パターンは特に限定はなく、多種の形状が可能である。その際、例えば突起断面形状が三角形や半円形といった凸部の山幅が連続的に変化する場合は、その凸部の山幅の平均値を平均山幅とする。
【0021】
3次元形状賦型層を形成する凹凸部の形状や配列パターンは特に限定はなく、多種の形状、配列が可能である。凹凸部は連続的に連なった形でも、単独突起状でも良いが、発熱体との接触面積を増大させる形状及び配列パターンが好ましい。前者の場合、その配列方向は放熱構造体表面のいずれの方向でもよく、直線状に配列しても、曲線状に配列しても構わない。後者の場合、円柱形状、半球形状、多角形状等の一定の規則性を持って配列しても良いし、また規則性を持たずランダムに配列されても良い。さらに、凹凸部の高さ、山幅、谷幅の寸法は連続的に変化させても良い。
【0022】
より具体的に幾つかの例を挙げると、図6、7、8、9、10、11は、3次元形状賦型を形成する凹凸部の形状が、連続的に連なる凹凸部であって、各凹凸部が円柱状もしくは円錐状の放熱構造体の軸方向と平行な向きに伸びた形で配列している例である。なお、これらの中で図6、7、10は凹凸部の高さを一定にした例であり、図8、9は凹凸部が内皮層の一部に配列された例であり、図11は凹凸部の高さを連続的に変化させた例である。
また、図12、13、14は単独突起状の凹凸部が円柱形状、半球形状、多角形状に配列された例である。
【0023】
3次元形状賦型層は、内皮層の最内面側の10%以上の領域に形成される。10%未満では放熱構造体の表面積増加の効果が不十分となりやすい。最内面の30%以上、さらに好ましくは50%以上の領域に形成されることが好ましい。
3次元形状賦型層は詳しく後述する内皮層の一部であるので、好ましい材質等については内皮層の欄に述べる。
【0024】
3次元形状賦型層を設ける好ましい方法としては、生産効率を鑑みて、射出成形、ダイキャスト成形等の金型内面に形状刻印を施すことによる、成形段階での実施が好ましいが、成形後の後処理による実施も可能であり、例えば、成形品に表面賦型用の形状刻印を施した金型面を押し付けて、熱プレスにより表面賦型を行う方法や、予め表面賦型の為された樹脂を成形品表面に接着する方法、あるいは、予め大きめに作製した成形品を切削する方法等が挙げられる。
【0025】
[内皮層]
本発明の放熱構造体における内皮層は、3次元形状賦型層を含み、3次元形状を構成する突起部分を除いた部分、および3次元形状を有さない部位はベース層とする。内皮層は、放熱構造体の内部空気層、機器構成部品及び発熱体から受け取った熱を外部空気等へ効率的に逃がすために、熱伝導率の高い層であることがより好ましく、好ましくは層内の少なくとも一方向における熱伝導率は2W/m・K以上であることが好ましい。より好ましくは5W/m・K以上、更に好ましくは15W/m・K以上である。図15の例のように、内皮層が、熱伝導層と同一材料とすることも好ましい。その場合は内皮層と熱伝導層とが一体成形されることが好ましい。
【0026】
ベース層厚みは放熱構造体において一定であることが成形の簡便さ等より好ましい。内皮層のベース層厚みが小さい場合、具体的にはベース層厚みが2mm以下である場合には、伝熱ロス(温度差発生)が比較的少なくて済むため、熱伝導率が2W/m・K未満の層でも内皮層として利用できる場合がある。なお、ベース層厚みはより好ましくは1.5mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下である。
【0027】
特に内皮層を電気絶縁性の高い材料(特に体積抵抗が10cm・Ω以上の層、より好ましくは体積抵抗が1012cm・Ω以上の層)で形成することによって、放熱構造体の電気的安全性が高まる(絶縁耐圧や静電耐圧の増大、漏れ電流低減等)ので用途に応じて好ましく用いられる。
【0028】
内皮層は、熱伝導性フィラーを含有し、層内の少なくとも一方向における熱伝導率が2W/m・K以上の熱伝導性樹脂組成物からなることが好ましい。熱伝導性フィラーおよび熱伝導性樹脂組成物の好ましい態様については後述する。
【0029】
[放熱構造体ならびに3次元形状賦型層]
本発明の放熱構造体は少なくともその一部が発熱体近傍に配置され、その接触面から発熱体の熱が伝達された後、放熱構造体を通じて熱を輸送し、最終的に放熱構造体の最外層から外部空気等に熱を放散する機能を有する構造体である。
【0030】
図1、15、16、17に放熱構造体の一例を例示した。図中、記号2で3次元形状賦型層を含む内皮層を示す。これらの例ではいずれも円柱構造をベースとした形状となっているが、本発明の放熱構造体はこれら例示の形状に限定されるものではなく、また多角柱、円錐、多角錐、もしくはさらに複雑な3次立体形状をベースとしたものでも構わない。
【0031】
放熱構造体の熱輸送能力は、その平均厚み(熱の流れる方向に対して垂直方向の平均肉厚、単位m)と熱伝導率(単位W/m・K)との積によって概ね表現でき、その値が0.01W/K以上であることが好ましく、それ未満では多くの用途において、発熱体の熱輸送が不十分になりやすい。熱伝導率と平均厚みの積は、より好ましくは0.03W/K以上、更に好ましくは0.05W/K以上である。なお、放熱構造体の熱伝導層と内皮層内のベース層の材質が異なる場合には、熱伝導率は厚みを考慮した並列合成値、平均厚みは両層の平均厚みの合計値として、積を計算する。
【0032】
放熱構造体の一部を放熱すべき発熱体と接触するように配し、発熱体から伝達された熱を最外層に輸送する機能を求める場合、放熱構造体は層の少なくとも一方向に対する熱伝導率が2W/m・K以上であって、平均厚みが0.2〜5mmの層であることが好ましい。熱伝導率は2W/m・K未満であると、放熱構造体の厚みを増加させる必要が生じ、無用な全体寸法の増加を招くので好ましくない。熱伝導率は、より好ましくは5W/m・K以上、さらに好ましくは15W/m・K以上である。放熱構造体の平均厚みは各用途において必要とされる熱輸送量を勘案した上でできる限り小さくすることが全体寸法低減の観点で好ましい。ただし0.2mm未満では機械的強度が低下する場合も多く、より好ましくは0.5〜4mm、さらに好ましくは1〜3mmである。
【0033】
本発明の放熱構造体は単一材料により一体成形することが好ましく、特に3次元形状を内面に刻印した金型を用いた金型成形(特に射出成形、ダイキャスト成形)により、生産性良く作製することが好ましいが、必要に応じて、3次元形状賦型層を含む内皮層のみ異なる材料で成形した上で一体化させることも可能である。一体化させる方法としては、インサート成形、熱伝導接着剤による接着等による方法が好ましい。
【0034】
また、放熱構造体の最外層には、図16に例示するように必要に応じて、電気絶縁層を設けたり、図17に例示するように凹凸部を設けたりすることもできる。最外層を電気絶縁性の高い材料(特に体積抵抗が1011cm・Ω以上の層、より好ましくは体積抵抗が1013cm・Ω以上の層)で形成することによって、放熱構造体の電気的安全性が高まる(絶縁耐圧や静電耐圧の増大、漏れ電流低減等)ので用途に応じて好ましく用いられる。また、電気絶縁層は、より好ましくは熱伝導率の高い層であることが好ましく、少なくとも層内の一方向に対する熱伝導率が0.5W/m・K以上であることが好ましく、より好ましくは1W/m・K以上である。
【0035】
放熱構造体の最外層に本発明の内皮層と同様の凹凸部を形成することによって、さらに放熱構造体の放熱性能を高めることもできる。なおこの際、内皮層とは異なり、放熱構造体の外寸法(外観)が変化するので、外観形状制約の許容範囲内で実施することが好ましい。
【0036】
[熱伝導層]
熱伝導層は、放熱構造体の一部を放熱すべき発熱体(発熱源)と接触するように配して発熱体から伝達された熱を最外層に輸送する機能を司る為、前述のように高い熱輸送能力が必要とされ、熱伝導層は、層内の少なくとも一方向に対する熱伝導率が2W/m・K以上、平均厚みが0.2〜5mmであって、熱伝導率と平均厚みの積が0.01W/K以上である。
【0037】
熱伝導層の熱伝導率は、より好ましくは5W/m・K以上、さらに好ましくは15W/m・K以上であり、平均厚みは、より好ましくは0.5〜4mm、さらに好ましくは1〜3mmである。
【0038】
熱伝導層として好適な材料としては、具体的には例えば、銅、銀、アルミニウム、鉄、ステンレス、亜鉛、チタン、珪素、クロム等の金属、もしくはこれら金属の合金類が挙げられる。これら金属もしくは合金類による熱伝導層は、鋳造法、鍛造法、ブロック状の金属塊の切削加工などにより成形が可能である。なお、鋳造法としては金型内で圧縮力を与えながら成形するダイキャスト法、単に型内に流し込み、自然冷却で成形する方法などが挙げられる。また鍛造法としては加熱した金属層にズリ応力を与えて延性加工を行う冷間鍛造法などが好ましく挙げられる。
【0039】
特に、銅、銀、アルミニウム、珪素とそれらをベースとする金属合金類には50W/m・K以上の熱伝導率を有するものが多く、熱伝導層として求められる高い熱輸送能力を満足する場合が多く、好ましく用いることができる。尚、金属合金類による熱伝導層の熱伝導率はより好ましくは75W/m・K以上、さらに好ましくは100W/m・K以上である。
【0040】
ただし熱伝導層に、これら金属、金属合金類を用いた場合には放熱構造体の全体重量が大きくなり、用途においては好ましくない場合もある。また高導電率である金属を熱伝導層に用いた場合には、機器、器具に実装される各種デバイスや電源配線ラインからの漏洩電流、誘起電流が増加する場合もあり、また熱伝導層と電源配線ラインの不慮の短絡が発生した場合等に多量の電流が熱伝導層に流れ込むため、機器、器具としての安全性に懸念が生じる場合がある。
【0041】
これら軽量性や電気的安全性の確保を重視する用途においては、熱伝導層は電気抵抗(体積抵抗)のなるべく大きい層を用いることが好ましく、層の体積抵抗として、1×10−2Ω・cm以上であることがより好ましく、より好ましくは1×10Ω・cm以上、さらに好ましくは1×10Ω・cm以上である。
【0042】
これら要件を満足する熱伝導層としては、各種熱伝導性フィラーを複合してなり、層内の少なくとも一方向における熱伝導率が2W/m・K以上の熱伝導性樹脂組成物を成形してなる層が特に好ましく用いられる。熱伝導率はより好ましくは5W/m・K以上、さらに好ましくは15W/m・K以上である。
【0043】
なお、このように熱伝導率が高く、かつ3次元形状の成形性(精密転写性)に優れる層としては後述のピッチ系黒鉛化炭素短繊維を含む熱伝導性樹脂組成物を成形してなる層が好ましく挙げられる。
【0044】
これら熱伝導性樹脂組成物を用いて成形した熱伝導層は、前記の金属、金属合金類を用いた場合に比べ、低比重で軽量になること、細かく高精度な成形が可能であること、金属、金属合金類よりも電気抵抗が大きく、前記の好適な体積抵抗を実現できること等から、機器、器具の軽量性、落下安全性、意匠性、他の構成部品との勘合性、電気的安全性等の特徴を有する。
【0045】
[熱伝導性樹脂組成物]
本発明の放熱構造体の熱伝導層もしくは内皮層の成形に好適な熱伝導性樹脂組成物としては、マトリクス樹脂100体積部に対し、熱伝導性フィラーの含有量が10〜200体積部である樹脂組成物が好ましい。熱伝導性フィラーの含有量が10体積部未満だと高い熱伝導性が得られ難い。逆に熱伝導性フィラーの含有量が200体積部を超えると、熱伝導性フィラーを樹脂に分散させ、均一な熱伝導性樹脂組成物を得るのが困難になりやすく、また樹脂の流動性が不十分となりやすい。熱伝導フィラーの含有量は好ましくは20〜100体積部である。
【0046】
熱伝導性フィラーとマトリクス樹脂との混合は、単軸型の溶融混練装置、二軸型の溶融混練装置等の公知の溶融混練装置を用いて実施できる。
熱伝導性フィラーとしては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛などの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、酸化窒化アルミニウムなどの金属酸窒化物、炭化珪素などの金属炭化物、金、銀、銅、アルミニウムなどの金属もしくは金属合金、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、ダイヤモンドなどの炭素材料などが挙げられ、2種類以上併用することも可能である。
【0047】
熱伝導樹脂組成物の熱伝導率を高めるにはピッチ系黒鉛化短繊維を用いるのが好ましく、その中でもメソフェーズピッチを出発材料とした黒鉛結晶構造の非常に発達したピッチ系黒鉛化短繊維を用いることが特に好ましい。すなわち黒鉛化短繊維の熱伝導性は黒鉛結晶の格子構造を伝播するフォノン振動に主に由来するため、熱伝導性を高めるには黒鉛結晶の結晶性を高めること、すなわち黒鉛結晶の格子構造ができるだけ欠陥少なく、かつ大きく広がるようにすることが好ましい。
【0048】
本発明に用いられるピッチ系黒鉛化短繊維はいわゆるミルドファイバーに該当し、その平均繊維長(L1)は、より好ましくは20〜500μmであることが好ましい。ここで、平均繊維長は個数平均繊維長とし、顕微鏡下で所定本数を測定し、その平均値から求めることができる。L1が20μmより小さい場合、当該短繊維同士が接触しにくくなり、高い熱伝導率を有する熱伝導性組成物を得にくくなることがある。逆にL1が500μmより大きくなる場合、マトリクス樹脂とピッチ系黒鉛化短繊維を混練する際の粘度が高くなり、ハンドリングが困難になることがある。より好ましくは、30〜300μmの範囲である。この様なピッチ系黒鉛化短繊維を得る手法として特に制限はないが、切断式、衝突式、衝撃式、気流式等の粉砕機が好適に用いられ、回転数、滞留時間、気流噴出圧、供給量等の条件を調節することにより平均繊維長を制御することができる。また、粉砕処理後のピッチ系炭素短繊維から、振動、スクリーン等による篩分け、遠心分離等の分級操作を行って、短い繊維長、または長い繊維長のピッチ系炭素短繊維を除去することにより、平均繊維長をさらに精密制御することができる。
【0049】
本発明に用いられるピッチ系黒鉛化短繊維は、黒鉛結晶からなり、六角網面の成長方向に由来する結晶子サイズが少なくとも20nm以上であることが好ましく、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは40nm以上である。結晶子サイズは六角網面の成長方向のいずれも、黒鉛化度(黒鉛結晶の結晶性)の高低に対応するものであり、熱物性を発現するためには、一定サイズ以上が必要である。六角網面の成長方向の結晶子サイズは、X線回折法で求めることができる。測定手法は集中法とし、解析手法としては学振法が好適に用いられる。六角網面の成長方向の結晶子サイズは、(110)面からの回折線を用いて求めることができる。
【0050】
また黒鉛化度を示す他のパラメータとして、黒鉛結晶の層間隔があり、層間隔が小さいほど結晶性が高い。黒鉛結晶の層間隔は、例えばd002のX線回折線に基づく計算値として、少なくとも0.3420nm以下であることが好ましく、より好ましくは0.3395nm以下、さらに好ましくは0.3370nm以下であることが好ましい。
【0051】
またグラフェンシート端面構造は、黒鉛化の前に粉砕を実施するか、黒鉛化の後に粉砕を実施するかにより、大きく異なる。すなわち、黒鉛化後に粉砕処理を行った場合、黒鉛化で成長したグラフェンシートが切断破断され、グラフェンシート端面が開いた状態になり易い。一方、黒鉛化前に粉砕処理を行った場合、黒鉛の成長過程でグラフェンシート端面がU字上に湾曲し、湾曲部分がピッチ系黒鉛化短繊維端部に露出した構造になり易い。このため、グラフェンシート端面閉鎖率が80%を超えるようなピッチ系黒鉛化短繊維を得るためには、粉砕を行った後に黒鉛化処理することが好ましい。
【0052】
本発明に用いられるピッチ系黒鉛化短繊維は走査型電子顕微鏡での側面の観察表面が実質的に平坦であることが好ましい。ここで、実質的に平坦であるとは、フィブリル構造のような激しい凹凸をピッチ系黒鉛化短繊維に有しないことを意味する。ピッチ系黒鉛化短繊維の表面に激しい凹凸のような欠陥が存在する場合には、マトリクスとの混練に際して表面積の増大に伴う粘度の増大を引き起こし、成形性を悪化させる。よって、表面凹凸のような欠陥はできるだけ小さい状態が望ましい。より具体的には、走査型電子顕微鏡において1000倍で観察した像での観察視野に、凹凸のような欠陥が10箇所以下であることとする。この様なピッチ系黒鉛化短繊維を得る手法としては、粉砕処理を行った後に黒鉛化処理を実施することによって、好ましく得ることができる。
【0053】
熱伝導性樹脂組成物には、熱伝導性フィラー以外に、さらに、成形性、機械物性、難燃性、その他の特性をより高めるために、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼化アルミニウムウィスカ、窒化ホウ素ウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、アスベスト繊維、石膏繊維、金属繊維などの繊維状フィラー、ならびに、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスビーズ、ガラスフレーク及びセラミックビーズ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの非繊維状フィラーも必要に応じて適宜添加することが可能である。これらは中空のものであってもよく、さらにはこれらを2種類以上併用することも可能である。ただ、上記化合物は、密度がピッチ系黒鉛化短繊維より大きなものが多く、軽量化を目的とするときには、添加量や添加比率に気を配る必要がある。
【0054】
マトリクスとする樹脂については、例えばポリエステル類及びその共重合体(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート)、ポリスチレン類(ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレンなど)及びその共重合体(スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂、AES樹脂など)、ポリメチルメタクリレート類及びその共重合体(特にシクロ環およびその誘導体からなる構造を含むもの)、ポリ乳酸樹脂およびその共重合体、ポリアクリロニトリル類及びその共重合体、環状ポリオレフィン類およびその共重合体(特にシクロ環を含む樹脂、例えばJSR製 商標名「アートン」、三井化学製 商標名「アペル」、日本ゼオン製 登録商標「ゼオネックス」等)、ポリメチルペンテン類およびその共重合体(例えば三井化学製 登録商標「TPX」等)、ポリフェニレンエーテル(PPE)類及びその共重合体(変性PPE樹脂なども含む)、脂肪族ポリアミド類及びその共重合体、ポリイミド類及びその共重合体、ポリアミドイミド類及びその共重合体、ポリカーボネート類及びその共重合体、ポリフェニレンスルフィド類及びその共重合体、ポリサルホン類及びその共重合体、ポリエーテルサルホン類及びその共重合体、ポリエーテルニトリル類及びその共重合体、ポリエーテルケトン類及びその共重合体、ポリエーテルエーテルケトン類及びその共重合体、ポリケトン類及びその共重合体、エラストマー、液晶性ポリエステル類などの液晶性ポリマー等が挙げられる。これらから一種を単独で用いても、二種以上を適宜組み合わせて用いても良い。
【0055】
また熱伝導樹脂組成物には必要に応じ、輻射率(赤外線放射率)を向上する添加剤や、各種着色剤、難燃剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤等の添加物を添加しても良い。
【0056】
なお、熱伝導樹脂層を前述の熱伝導性炭素繊維(特にピッチ系黒鉛化短繊維)を含む熱伝導樹脂組成物を用いて射出成形する場合には、樹脂射出金型におけるゲート部を、放熱の対象となる発熱体(発熱デバイス等)近傍に配置することが好ましい。すなわち熱伝導性炭素繊維の配向方向は熱伝導樹脂組成物の流動方向と一致する為、発熱体近傍にゲートを設けることで、発熱体の放熱方向と熱伝導性炭素繊維の配向方向(熱伝導樹脂の熱伝導率が最大となる方向)をほぼ一致させることができ、より効率的な放熱が可能となる場合がある。
【0057】
[放熱構造体の応用用途]
本発明の放熱構造体の具体的用途として、図3、4にLED照明具への応用例を例示した。なお、放熱構造体の用途はこれら例示以外のシステム、構造を有するLED照明具にも応用可能であるし、またLED照明具のみに限定されるものではなく、発熱体、発熱デバイス類の放熱を必要とする機器、器具において広く応用できるものである。
【0058】
LED素子の実装されたLED実装基板は熱伝導接着層もしくは放熱シート等を介して、放熱構造体の一部に接着固定されており、この接触面でLED素子から放熱構造体への伝熱が行われる他、LED素子から一旦、放熱構造体の内部空気層または電気絶縁層等の機器構成部品を経由して放熱構造体へ伝熱され、その後、放熱構造体の中を熱が移動していき、放熱構造体の最外層から外部空気に放熱される。また、電源部を内部に持つLED照明具においては、LED素子だけではなく、電源部も発熱体となり、放熱構造体を介して、外部空気へ放熱されることとなる。本発明では、LED素子から直接の放熱構造体への熱輸送、及び、LED素子から一旦、放熱構造体の内部空気層または機器構成部品を経由してからの放熱構造体への熱輸送を効率的に実施することが特徴である。
【0059】
一方で、LED照明具の全体寸法、形状は各用途での要求に従い、おのずと制約がある為、放熱構造体にはできるだけサイズが小さくコンパクトなもの、そしてできるだけ軽量なものが求められるが、放熱構造体の最外層の表面積がLED素子の発熱量に対して小さ過ぎると、放熱構造体単独での熱伝達能力(熱輸送能力)が十分高いものであったとしても、最外層と外部空気間の熱伝達のロス(温度差)が多く発生し、この熱伝達効率の悪さが律速となって、LED素子の発熱は放熱構造体内に溜め込まれてしまい、放熱構造体全体の温度が上昇する結果となる。すなわちLED素子の十分な放熱が為されないので注意が必要である。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
なお、本実施例における各値は、以下の方法に従って求めた。
(1)ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は、JIS R7607に準じ、光学顕微鏡下でスケールを用いて60本測定し、その平均値から求めた。
(2)ピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維長は、粒度・形状測定器(株式会社セイシン企業製PITA−1)を用いて1500本測定し、その平均値から求めた。
(3)ピッチ系黒鉛化短繊維の成長方向の結晶子サイズは、X線回折に現れる(110)面からの反射を測定し、学振法にて求めた。
(4)ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は、透過型電子顕微鏡で100万倍の倍率で観察し、400万倍に写真上で拡大し、グラフェンシートを確認した。
(5)ピッチ系黒鉛化短繊維の表面は走査型電子顕微鏡で1000倍の倍率で観察し、凹凸を確認した。
(6)熱伝導性樹脂組成物の熱伝導率は、4mm厚の熱伝導性組成物の成形体から3mm×10mmの短冊状にサンプルを切り出し、横に並べて一体化させ、ネッチ製LFA−447を用いて面内方向の熱伝導率を求めた。
【0061】
[参考例1]メソフェーズ系ピッチ黒鉛化短繊維の製造
縮合多環炭化水素化合物よりなるピッチを主原料とした。光学的異方性割合は100%、軟化点が283℃であった。直径0.2mmの孔を持つ口金を使用し、孔の両横のスリットから加熱空気を毎分5500mの線速度で噴出させて、溶融ピッチを牽引して平均直径11.1μmのピッチ系短繊維を作製した。この時の紡糸温度は328℃であり、溶融粘度は13.5Pa・sであった。紡出された繊維をベルト上に捕集してマットとし、さらにクロスラッピングで目付350g/mのピッチ系炭素繊維前駆体からなるピッチ系炭素繊維前駆体ウェブとした。
【0062】
このピッチ系炭素繊維前駆体ウェブを空気中で170℃から300℃まで平均昇温速度5℃/分で昇温して不融化処理し、さらに800℃で焼成処理を行った。このピッチ系炭素繊維ウェブを一軸回転式粉砕機で粉砕し、3000℃で黒鉛化処理を施した。
得られたピッチ系黒鉛化短繊維の平均繊維径は8.2μmであった。六角網面の積層厚み方向に由来する結晶子サイズは70nm、平均繊維長は140μmであった。また、ピッチ系黒鉛化短繊維の端面は透過型顕微鏡の観察によりグラフェンシートが閉じていることを確認した。さらに、表面は走査型電子顕微鏡の観察により、凹凸は1個であり実質的に平坦であった。
【0063】
[参考例2]熱伝導性樹脂組成物
参考例1で得たピッチ系黒鉛化短繊維50体積部、ポリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製パンライト(登録商標)L−1250WP)100体積部を二軸混練装置を用いて溶融混練し、熱伝導性樹脂のペレットを得た。このペレットを用いて射出成形機(東芝機械製EC40NII)を用いて厚み4mmの熱伝導性成形品を得た。熱伝導性成形品の熱伝導率は15.3W/(m・K)であった。
【0064】
[実施例1]
参考例2の熱伝導性樹脂組成物(熱伝導率15.3W/m・K)を用いて射出成形を行い、図15に図示する熱伝導層(記号1)と3次元形状賦型層を含む内皮層(記号2)が連続層として一体形成された放熱構造体を作製した。全体形状は円柱形であり、円柱軸と平行に凹凸の筋を有する。なお、図15の放熱構造体における外径(図18における記号26)は50mm、長さ(図18における記号24)は50mm、突き出し部長さ(図18における記号25)は5mm、突き出し部幅(図18における記号23)は2mmである。
内皮層のベース層と熱伝導層とを合わせた層の平均厚みは3mmで、熱伝導率と平均厚みとの積は0.046W/Kである。3次元形状賦型層を含む内皮層は熱伝導層の内面側に直接形成されており、図6に模式的に図示する規則的な凹凸部を有している。凹凸部の仕様(各位置の説明は図2に図示)については、平均谷幅(記号9)3mm、平均山幅(記号8)1mm、平均高さは平均谷幅(記号7)の3.3倍の10mmであり、3次元形状賦型層の形成された領域の表面積は平坦面に比べて約5倍であった。
【0065】
次にこの放熱構造体をLED素子の放熱用部品として組み込んだLED照明具を作製した。すなわち図4に図示する要領で、LED素子(記号14)としては日亜化学工業製の電球色チップタイプLED NS9L153MT−H3(定格出力約3W)を4素子使用し、投入電力は2.0W/素子(4素子で計8W)とした。またLED実装基板(記号13)としては厚み約1mm、直径45mmのALベース基板を用いた。
LED素子を実装したALベース基板は市販の熱伝導シーリング剤(記号10、信越化学工業製、縮合型RTVシリコーンゴム KE−3466、熱伝導率1.9W/m・K)を介して前記放熱構造体に固定した。接着層の厚みは平均約50μmとした。
光透過性カバー(記号15)はアクリル樹脂のブロー成形により作製し、口金にはJIS規格のE26口金を用いた。なお、このLED照明具の放熱構造体内部は空気層である。
本LED照明具の点灯試験を周囲温度25℃に調整された室内で行い、LED素子のカソード側ハンダ接合部の近傍にK型熱電対を固定し、LED素子の発熱状態を測定した。この結果、電力投入60分後のLED素子のカソード部温度は約74℃であった。
【0066】
[実施例2]
内皮層と熱伝導層とを合わせたものをアルミニウム合金(ADC12、熱伝導率約96W/m・K、比重約2.7)のダイキャスト成形で作製した以外は、実施例1と同様の放熱構造体を作製した。熱伝導率と平均厚みとの積は0.29W/Kであった。また、放熱構造体以外は実施例1と同様の方法でLED照明具を作製した。
本LED照明具の点灯試験を周囲温度25℃に調整された室内で行い、LED素子のカソード側ハンダ接合部の近傍にK型熱電対を固定し、LED素子の発熱状態を測定した。この結果、電力投入60分後のLED素子のカソード部温度は約69℃であった。
【0067】
[実施例3]
実施例1で作製したものと同様の放熱構造体を用いて、図5に図示する要領でLED照明具を作製した。また、放熱構造体内部には市販の熱伝導シーリング剤(記号19、信越化学工業製、縮合型RTVシリコーンゴム KE−3466、熱伝導率1.9W/m・K)を充填し、それ以外は実施例1と同様の方法でLED照明具を作製した。
本LED照明具の点灯試験を周囲温度25℃に調整された室内で行い、LED素子のカソード側ハンダ接合部の近傍にK型熱電対を固定し、LED素子の発熱状態を測定した。この結果、電力投入60分後のLED素子のカソード部温度は約66℃であった。
【0068】
[実施例4]
図1に図示する放熱構造体を作製した。放熱層は、参考例2の熱伝導性樹脂組成物(熱伝導率15.3W/m・K)を用いて射出成形を行い、内皮層はアルミニウム合金(ADC12、熱伝導率約96W/m・K、比重約2.7)のダイキャスト成形で作製し、両者を熱伝導シーリング剤(記号10、信越化学工業製、縮合型RTVシリコーンゴム KE−3466、熱伝導率1.9W/m・K)で接着一体化することで放熱構造体を作製した。図1の放熱構造体における外径(図18における記号26)は50mm、長さ(図18における記号24)は50mm、突き出し部長さ(図18における記号25)は5mm、突き出し部幅(図18における記号23)は2mm、熱伝導層の平均厚みは2mmである。3次元形状賦型層を含む内皮層は、図6に模式的に図示する規則的な凹凸部を有しており、ベース層の厚みは1mmである。凹凸部の仕様(各位置の説明は図2に図示)については、平均谷幅(記号9)3mm、平均山幅(記号8)1mm、平均高さ(記号7)は平均谷幅の3.3倍の10mmであり、3次元形状賦型層の形成された領域の表面積は平坦面に比べて約5倍であった。なお、本実施例における放熱構造体の合成熱伝導率と平均厚みとの積は0.13W/Kである。また、その放熱構造体以外は、実施例1と同様の方法でLED照明具を作製した。
本LED照明具の点灯試験を周囲温度25℃に調整された室内で行い、LED素子のカソード側ハンダ接合部の近傍にK型熱電対を固定し、LED素子の発熱状態を測定した。この結果、電力投入60分後のLED素子のカソード部温度は約71℃であった。
【0069】
[実施例5]
図1に図示する放熱構造体を作製した。放熱層は、参考例2の熱伝導性樹脂組成物(熱伝導率15.3W/m・K)を用いて射出成形を行い、内皮層は絶縁性樹脂(ポリカーボネート樹脂(帝人化成製「パンライト」(登録商標)LN3010RZ、熱伝導率約0.2W/m・K)を用いて射出成形で作製し、両者を熱伝導シーリング剤(記号10、信越化学工業製、縮合型RTVシリコーンゴム KE−3466、熱伝導率1.9W/m・K)で接着一体化することで放熱構造体を作製した。図1の放熱構造体における外径(図18における記号26)は50mm、長さ(図18における記号24)は50mm、突き出し部長さ(図18における記号25)は5mm、突き出し部幅(図18における記号23)は2mm、熱伝導層の平均厚みは2mmである。3次元形状賦型層を含む内皮層は、図6に模式的に図示する規則的な凹凸部を有しており、ベース層の厚みは1mmである。凹凸部の仕様(各位置の説明は図2に図示)については、平均谷幅(記号9)3mm、平均山幅(記号8)1mm、平均高さ(記号7)は平均谷幅の3.3倍の10mmであり、3次元形状賦型層の形成された領域の表面積は平坦面に比べて約5倍であった。なお、本実施例における放熱構造体の合成熱伝導率と平均厚みとの積は0.031W/Kである。また、その放熱構造体以外は、実施例1と同様の方法でLED照明具を作製した。
本LED照明具の点灯試験を周囲温度25℃に調整された室内で行い、LED素子のカソード側ハンダ接合部の近傍にK型熱電対を固定し、LED素子の発熱状態を測定した。この結果、電力投入60分後のLED素子のカソード部温度は約85℃であった。
【0070】
[実施例6]
凹凸部の仕様(各位置の説明は図2に図示)が、平均谷幅(記号9)1mm、平均山幅(記号8)約1mm、平均高さ(記号7)は平均谷幅の1倍の1mmであり、3次元形状賦型層の形成された領域の表面積は平坦面に比べて約2倍であること以外は、実施例1と同様の放熱構造体を作製した。また、その放熱構造体以外は、実施例1と同様の方法でLED照明具を作製した。
本LED照明具の点灯試験を周囲温度25℃に調整された室内で行い、LED素子のカソード側ハンダ接合部の近傍にK型熱電対を固定し、LED素子の発熱状態を測定した。この結果、電力投入60分後のLED素子のカソード部温度は約85℃であった。
【0071】
[比較例1]
図15に図示した放熱構造体について、内皮層に3次元形状賦型層を設けないこと以外は実施例1と同様の形状とし、その放熱構造体以外は実施例1と同様の方法でLED照明具を作製した。
本LED照明具の点灯試験を周囲温度25℃に調整された室内で行い、LED素子のカソード側ハンダ接合部の近傍にK型熱電対を固定し、LED素子の発熱状態を測定した。この結果、電力投入60分後のLED素子のカソード部温度は約94℃であった。
【0072】
[比較例2]
図15に図示した放熱構造体について、内皮層に3次元形状賦型層を設けないこと以外は実施例3と同様の形状とし、その放熱構造体以外は実施例3と同様の方法でLED照明具を作製した。
本LED照明具の点灯試験を周囲温度25℃に調整された室内で行い、LED素子のカソード側ハンダ接合部の近傍にK型熱電対を固定し、LED素子の発熱状態を測定した。この結果、電力投入60分後のLED素子のカソード部温度は約87℃であった。
【0073】
[比較例3]
図1に図示した放熱構造体について、内皮層に3次元形状賦型層を設けないこと以外は実施例4と同様の形状とし、その放熱構造体以外は実施例4と同様の方法でLED照明具を作製した。
本LED照明具の点灯試験を周囲温度25℃に調整された室内で行い、LED素子のカソード側ハンダ接合部の近傍にK型熱電対を固定し、LED素子の発熱状態を測定した。この結果、電力投入60分後のLED素子のカソード部温度は約91℃であった。
【0074】
[比較例4]
図1に図示した放熱構造体について、内皮層に3次元形状賦型層を設けないこと以外は実施例5と同様の形状とし、その放熱構造体以外は実施例5と同様の方法でLED照明具を作製した。
本LED照明具の点灯試験を周囲温度25℃に調整された室内で行い、LED素子のカソード側ハンダ接合部の近傍にK型熱電対を固定し、LED素子の発熱状態を測定した。この結果、電力投入60分後のLED素子のカソード部温度は約109℃であった。
【0075】
[比較例5]
凹凸部の仕様(各位置の説明は図2に図示)が、平均谷幅(記号9)0.3mm、平均山幅(記号8)約0.3mm、平均高さ(記号7)は平均谷幅の1倍の0.3mmであり、3次元形状賦型層の形成された領域の表面積は平坦面に比べて約2倍であること以外は、実施例1と同様の放熱構造体を作製した。また、その放熱構造体以外は、実施例1と同様の方法でLED照明具を作製した。
本LED照明具の点灯試験を周囲温度25℃に調整された室内で行い、LED素子のカソード側ハンダ接合部の近傍にK型熱電対を固定し、LED素子の発熱状態を測定した。この結果、電力投入60分後のLED素子のカソード部温度は約94℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の放熱構造体は、発光素子(LED素子、レーザーダイオード、EL素子等)、能動受光素子(CCD等)、中央演算装置(CPU)、画像演算装置(MPU)、インバータ素子(IGBT、FET等)、モーター類、ヒーター素子等、発熱を伴うデバイス類の実装された機器、器具等の放熱対策として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0077】
1 熱伝導層
2 3次元形状賦型層を含む内皮層
3 凸部
4 凹部
5 内皮層のベース層
6 内皮層のベース層厚み
7 凸部の高さ
8 凸部の山幅
9 凹部の谷幅
10 熱伝導接着層(熱伝導シーリング剤等)
11 発熱体(LED素子実装基板等)
12 天板
13 LED実装基板
14 LED素子
15 光透過性カバー
16 電源基板
17 電気絶縁ケース
18 口金(電源ソケット接続用)
19 電気絶縁層(熱伝導シーリング剤等)
20 電気絶縁層(樹脂フィルム、樹脂板、塗装膜等)
21 外部凹凸層
22 熱伝導層厚み
23 突き出し部の幅
24 放熱構造体の長さ
25 突き出し部の長さ
26 放熱構造体の外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導層と、この内側に設けられ、最内面側に3次元形状賦型層を有する内皮層とを含む放熱構造体であって、熱伝導層は、層内の少なくとも一方向における熱伝導率が2W/m・K以上、平均厚みが0.2〜5mmであって、熱伝導率と平均厚みの積が0.01W/K以上であり、3次元形状賦型層は、内皮層の10%以上の領域に複数の凹凸部が存在し、凹凸部の平均谷幅1〜20mm、平均山幅が0.5〜5mm、平均高さが平均谷幅の1〜10倍であり、かつ、発熱体の少なくとも一部と接触するように配され、3次元形状賦型層の設けられた領域の表面積が、凹凸部が無い平坦面である場合に比べ1.2倍以上であることを特徴とする放熱構造体。
【請求項2】
内皮層の層内の少なくとも一方向における熱伝導率が、2W/m・K以上である請求項1に記載の放熱構造体。
【請求項3】
内皮層が、熱伝導層と同一材料からなる請求項1または2に記載の放熱構造体。
【請求項4】
内皮層と熱伝導層とが一体成形されてなる請求項3に記載の放熱構造体。
【請求項5】
内皮層は、熱伝導性フィラーを含有し、層内の少なくとも一方向における熱伝導率が2W/m・K以上の熱伝導性樹脂組成物からなる請求項1〜4のいずれかに記載の放熱構造体。
【請求項6】
熱伝導層は、熱伝導性フィラーを含有する熱伝導性樹脂組成物からなる請求項1〜5のいずれかに記載の放熱構造体。
【請求項7】
熱伝導性樹脂組成物は、マトリクス樹脂100体積部に対して10〜200体積部の熱伝導性フィラーを含有する請求項5または6に記載の放熱構造体。
【請求項8】
熱伝導性フィラーとして、主として、メソフェーズピッチを原料としたピッチ系黒鉛化短繊維を用いる請求項5〜7のいずれかに記載の放熱構造体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の放熱構造体をLED素子の放熱部品に用いたLED照明具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−228585(P2011−228585A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98943(P2010−98943)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】