説明

放電灯点灯制御装置

【課題】 発電機の変動にかかわらず出力電力を一定に保持する。
【解決手段】 発電機Gの交流出力をこれよりも高い周波数の交流出力にインバータINVで変換してメタルハライドランプ(放電灯)Lに印加点灯する。発電機Gの交流電力の電圧Vinと周波数finを検出手段DIV,DIFで検出し、Vin,finによりテーブルCROMを参照して適正変調度を求め、これと設定変調度とを比較し(CMP),設定変調度が適正変調度に近づくように設定変調度を修正し(AJ),その設定変調度に、インバータINVに対する制御信号のPWM変調度がなるようにし、放電灯Lに印加される電力が一定に保持される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は漁船などの魚を集めるための集魚灯として用いられるメタルハライドランプなどの放電灯の点灯状態を制御する放電灯点灯制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、漁場では白熱ランプ式の集魚灯に対して、高輝度で発光効率が高いメタルハライドランプ(放電灯)が多く用いられている。例えば、ある漁船では100灯近いメタルハライドランプを用いているため、その点灯装置の重量が問題となる。この点から交流発電機の出力をインバータにより高い周波数の交流電力に変換して放電灯に印加することが行われている。このようにすれば昇圧用トランスを小形、軽量なものとすることができ、全体の構成も、小形、軽量化することができる。
【0003】この場合、発電機にも高い周波数の電流が流れることになり、発電機の力率が低下し、実効出力容量が下がる。更にロータコイル等に局部的な発熱を招くため大幅に負荷率を低減させる必要がある。つまり、みかけの負荷容量より電力容量の大きい発電機を用いなくてはならなくなる。このような点から、次のようにすることが提案されている。即ち、図4に示すように、交流発電機Gの出力が印加される受電端子TI ,TI と、これら端子TI ,TI から受電した商用周波数を持つ交流電力を整流する整流回路RECと、この整流回路RECで整流した整流電力を平滑する平滑回路Wと、この平滑回路Wの平滑出力電力を商用周波数より高い周波数の交流電力に変換するインバータINVと、このインバータINVが出力する交流電力の電圧を昇圧する昇圧トランスTと、この昇圧された電力の波形を正弦波形に近づけるフィルタFと、負荷となる放電灯(メタルハライドランプ)Lを起動させるための起動回路STと、負荷となる放電灯LにインバータINVで発生した交流電力を供給するための送電端子TO と、インバータINVに駆動信号を与える駆動信号発生手段OSとによってインバータ電子ユニット10が構成される。このインバータ電子ユニット10を並列運転させるため、端子T1 に波形整形回路WFOが接続され、これより発生した同期信号が駆動信号発生手段OSに印加される。
【0004】インバータINVは周知のように、例えば絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(以下IGBTと称す)Q1,Q2,Q3,Q4を2本ずつ直列接続した直列回路を並列接続し、その直列接続したIGBT Q1とQ2及びQ3とQ4の各接続点間に昇圧トランスTの一次コイルを接続し、IGBT Q1とQ4を導通させる状態と、Q2とQ3を導通させる状態を交互に繰り返して昇圧トランスTに交流電力を印加するように動作する。
【0005】IGBTは、例えば正極性のパルスをゲート電極に印加している間だけオンの状態となる。従って、インバータINVを構成する各IGBT Q1〜Q4の各ゲート電極G1〜G4に図5に示す駆動信号SG1〜SG4を供給する。つまり、駆動信号SG1とSG4を同位相でIGBT Q1とQ4のゲート電極G1とG4に与え、駆動信号SG2とSG3をIGBT Q2とQ3のゲート電極G2とG3に与える。駆動信号SG1,SG4とSG2,SG3の発生時間T1とT2によって負荷となる放電灯Lに印加される交流電力の周波数f0 が決定される。この例では交流電力源(この例では発電機G)が発生する交流電力の周波数を60Hz とし、その6倍の周波数360Hz を負荷に供給される交流電力の周波数f0 とした場合を説明する。各駆動信号SG1〜SG4は時間T1とT2の間にパルス幅変調(PWM)された複数のパルスを発生して構成される。パルス幅変調は出力電流が正弦波に近づくように時間T1とT2の各中央部分で最大パルス幅となるように正弦波形に従ってパルス幅変調する。
【0006】駆動信号発生手段OSには、例えば図5Aに示した駆動信号SG1〜SG4が1周期分(T1+T2)だけアドレス順に記憶した波形メモリが設けられ、この波形メモリが、リングカウンタにより先頭アドレスから最終アドレスまで繰り返し読み出される。例えば発電機Gの交流電力の周波数が60Hz ,放電灯Lに図5Cに示す正弦波状出力電流IO が流れ、この電流IO の周波数は周期T1+T2で決まり、例えばf0 =360Hz とすると、インバータINVの入力側には図5Dに示すように出力電流IO を両波整流した脈流電流IDCが流れ、整流回路RECの入力側、つまり発電機Gにはその発生交流電力AC(図6A)の正の半サイクルと、負の半サイクルの双方で2f0 の周波数の電流IAC(図6B)が流れる。
【0007】発電機Gにこのように高い周波数2f0 の電流IACが流れるため、力率が低下し、また負荷率を低減させる必要がある。この問題を解決するため、図4では二つのインバータ電源ユニット10を設けて、発電機Gでこれらを並列駆動しているが、その一方のインバータ電源ユニット10には発電機Gの分岐出力を遅延回路DY1を通じて駆動信号発生手段OSへ入力し、これら2台のインバータ電源ユニット10を約90°の位相差を持たせて動作させる。これにより両インバータ電源ユニット10の負荷放電灯Lに流れる電流は位相が90°異なり、平滑回路Wに流れる整流電流は半周期位相がずれ、共通の発電機Gに流れる合成電流は相互に谷の部分が埋め合ってリップル分が小さい電流となる。
【0008】なお、発電機Gの周波数が変動した場合に、その周波数変動にかかわらず、これにインバータINVの出力周波数が同期するように、つまり図6A,Bに示す関係が保持されるように、駆動信号発生手段OS内のCPUで、発電機Gの周期を求め、これに応じたf0 が得られるように波形メモリの読み出しクロック周波数を演算している。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】発電機Gから供給される交流電力の電圧(以後入力電圧と記す)や周波数は商用電源の電圧及び周波数ほど安定していなく、比較的大きく変動している。このため、例えば入力電圧225Vで出力電力が1.8Kwとなるようにインバータ電源ユニット10が設定されていても、入力電圧が225Vに変動すると、出力電力は2.0Kwに増加する。また発電機Gの出力交流電力の周波数が高くなると、その周期が短くなるが、インバータINVのスイッチング素子のON時間の長さが一定であるため、ON時間がOFF時間に対して相対的に長くなり、それに比例する電流Iが増加し、出力電力が増加する。インバータのスイッチング素子のON時間の長さの割合を、PWM変調度または単に変調度と呼ぶ。
【0010】このように出力電力が増加すると、インバータ電源ユニット10からの発熱量も増加するため、インバータ電源ユニット10の温度が上がり、インバータ電源ユニット10を構成する素子に負担がかかり、寿命が短くなる。特にイカ釣り漁船などは多数の放電灯を点灯させる必要があり、それらに対するインバータ電源ユニット10は全て密閉されたエンジンルーム内に配置されるため、その室内温度が50度以上にもなる。そのような環境で、インバータ電源ユニット10が用いられるため、その構成素子の寿命は多少の温度上昇によっても、大きく影響を受ける。
【0011】また逆に、入力電圧、周波数の変動で出力電力が低下すると、放電灯の発光輝度が低下するという問題が生じる。
【0012】
【課題を解決するための手段】この発明によれば、発電機よりの交流電力の電圧と周波数が検出され、これら検出された電圧と周波数から適正な変調度が求められる。インバータの制御信号に対する設定PWM変調度と、求められた適正変調度とが比較され、その比較結果にもとづき、設定PWM変調度が適正変調度に近づくように修正される。
【0013】
【発明の実施の形態】図1にこの発明の実施例を示し、図4と対応する部分に同一符号を付けてある。この発明では入力端子TI に電圧検出手段DIVと、周波数検出手段DIFが接続され、これらにより発電機Gの出力交流電力の電圧Vinと周波数finが検出される。これら検出電圧Vinと周波数finにもとづき、適正変調度検出手段CROMにて、電圧、周波数の各値にかかわらず、インバータ電源ユニット10からほぼ一定な出力電力が得られるような適正変調度が求められる。この適正変調度検出手段CROMは、例えば図2に示すように、入力電圧Vinと周波数finをアドレスとして変調度が読み出されるメモリとして構成される。このメモリの内容から理解されるように、例えば入力電圧Vinが増加すると、変調度を小さくしてON時間を短くして電流を小とし、出力電力の上昇を押さえ、一定出力電力となり、また周波数finが高くなると、ON信号を出すタイミングが速くなるが、ON時間が一定であるため、出力電力が大きくなるが、変調度を小さくしてその出力電力上昇を押さえ、一定出力電力となるように、入力電圧Vin,周波数finと変調度の関係が決められる。これは計算によっても求めることができるが、実測により求めた方が確実なものとなる。
【0014】駆動信号発生手段OS内のPWM制御手段CONに対する設定器Rに設定された変調度と、先のようにして得られた適正変調度とが比較手段CMPで比較され、その比較結果にもどつき、修正手段AJにより設定器R内の設定変調度に対する修正が行われる。以下に、この修正の手順の例を図3を参照して説明する。
【0015】まず、入力電圧Vinと周波数finが検知され(S1),これらVinとfinを用いて適正変調度が求められる(S2)。この適正変調度と設定変調度が比較され(S3),等しい場合はタイマーをリセットし(S4),変更フラグを0とし(S5),そのときの設定変調度を設定器Rに設定してステップS1に戻る(S6)。この場合は設定変調度の変更は行われない。
【0016】ステップS3で適正変調度が設定変調度より小さい場合は、変更フラグが1か0,または2かを調べ(S7),変更フラグが0または2であれば、タイマーをリセットした後(S8),タイマーをセットし(S9),変更フラグを1としてステップS6に移る(S10)。この場合は設定変調度は変更されないでステップS1に戻ることになる。同様のことが行われ、このときも適正変調度の方が小さい場合はステップS7で変更フラグが1であるから、ステップS11に移り、タイマーがタイムアップしたかがチェックされる。タイムアップしなければステップS6に移り、再び設定変調度は変更されないで、更にステップS1に戻る。
【0017】ステップS11でタイマーがタイムアップしていると、設定変調度が一段階下げられる(S12),例えば現在の設定変調度が0.95で、入力電圧Vinが232V,入力周波数finが63.0Hz に変動したとすると、図2から適正変調度は0.70が求まる。図2から、0.95より一段階低い変調度0.93が新たな設定変調度として求められ、その後タイマーがリセットされて(S13)、新たな設定変調度が設定器Rに設定(出力)される(S6)。つまり、ステップS9,S11の処理により、この適正変調度の方が小さい状態がタイマーの設定時間、例えば5秒間継続すると、タイムアップして設定変調度に対する修正更新が行われることになる。
【0018】ステップS3で適正変調度の方が大きい場合は、変更フラグが2か0または1かが調べられ(S14),0か1であればタイマーがリセットされた後(S15),タイマーがセットされ(S16),変更フラグが2とされ(S17),ステップS6に移る。この場合も設定変調度の変更は行われない。ステップS14で変更フラグが2であれば、タイマーがタイムアップしたかが調べられ(S18),タイムアップしてなければステップS6を経てステップS1へ戻り、ステップS18でタイムアップしていれば、現在の設定変調度が一段階上昇され(S19),タイマーがリセットされてステップS6に移る(S20)。つまり、適正変調度の方が大きく、かつその状態が所定時間継続すれば、設定変調度が一段階上げられる。
【0019】また、先の数値例と、上記処理手順から理解されるように、適正変調度の方が小さく、設定変調度が一段階下げられ、0.93とされ、その後においても適正変調度の方が小さいことが所定時間継続すると、設定変調度が図2の例では、0.93から0.90に修正変更され、以下同様に一段階ずつの修正変更が行われ、適正変調度0.70に近づくようにされる。このような処理の過程において、適正変調度はその都度求められているため、設定変調度が0.70になる前に適正変調度と等しくなることもある。なお、一段階ずつの修正ではなく、一挙に設定変調度を適正変調度に変更してもよい。
【0020】上述したように、適正変調度と設定変調度との大小関係の状態が一定時間継続すると、設定変調度を修正する場合は、短時間の突発的変動にそのまま追従して誤った変調度の修正を行うおそれはない。
【0021】
【発明の効果】以上述べたように、入力電圧、入力周波数を検出し、これらに応じた適正変調度を求め、設定変調度が適正変調度になるように設定変調度を修正するため、出力電力がほぼ一定に保持され、インバータ電源ユニットの温度が異常に高くなるおそれがなく、各素子の負担が軽く、長寿命のものとなる。また出力電力がほぼ一定に保持されるため、放電灯Lの発光輝度が低下するおそれもない。
【0022】また、突発的な入力変動に対しても、それが継続するか否かを確認して設定変調度を変更する場合は、突発的な変動の影響を受けない。更に段階的に設定変調度を適正変調度に近づけることにより、ハンチングが生じるおそれがない。また素子に過大な負担がかからず、素子の寿命が長くなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例を示す図。
【図2】図1中の適正変調度検出手段の具体例を示す図。
【図3】この発明の動作手順の例を示す流れ図。
【図4】提案されている放電灯点灯装置を示す図。
【図5】図4の装置における動作の各部の波形を示す図。
【図6】図4の動作説明に用いる波形図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 発電機よりの交流電力をインバータで高い周波数の交流電力に変換し、その変換された交流電力を放電灯に印加して点灯する放電灯点灯制御装置において、上記発電機よりの交流電力の電圧を検出する手段と、上記発電機の交流電力の周波数を検出する手段と、上記検出した電圧と上記検出した周波数とから適正な変調度を求める手段と、上記求めた適正変調度と、上記インバータの制御信号に対する設定PWM変調度とを比較する手段と、その比較結果にもとづき、上記設定PWM変調度を修正する手段と、を具備する放電灯点灯制御装置。
【請求項2】 上記設定PWM変調度の修正は、上記適正変調度との設定PWM変調度の差が所定値以上の状態が所定時間継続したことを検出して行う手段であることを特徴とする請求項1記載の放電灯点灯制御装置。
【請求項3】 上記設定PWM変調度の修正は段階的に適正変調度に近づける手段であることを特徴とする請求項1または2記載の放電灯点灯制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2000−182790(P2000−182790A)
【公開日】平成12年6月30日(2000.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−354077
【出願日】平成10年12月14日(1998.12.14)
【出願人】(000144544)株式会社三陽電機製作所 (179)
【Fターム(参考)】