説明

断熱シートの製造方法及び断熱シート

【課題】断熱効果が低下することなく、すぐに巻いたり折畳んだりすることが可能な断熱シートの製造方法及び断熱シートの提供。
【解決手段】不織布からなるシート状基材2、シート状基材2の少なくとも一方の面に形成された断熱層3、シート状基材2の他方の面、または、断熱層3の上面に設けられ、粘着材4aと粘着材4aから離脱可能に貼着された粘着材保護シート4bを有する接着層4とから構成された断熱シート1及びその製造方法であって、断熱層3は、シート状基材2に塗布される中空ビーズとアクリル系樹脂の混合物からなる断熱塗材6をシート状基材2に塗布して、遠赤外線もしくはマイクロ波の照射により抜水乾燥して断熱塗膜を形成したものであり、接着層4は、シート状基材2または断熱層3に粘着材4aを塗布し、粘着材保護シート4bを覆ったものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱シートの製造方法及び断熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建造物の屋根や外壁等に断熱処理を施す場合、塗装業者が、直接、断熱処理を必要とする箇所に、断熱塗材の塗装作業を行なう。しかし、このような塗装作業を行なった場合、塗装後に断熱塗材が乾燥するまでに時間がかかり、この間、次の作業が出来ないという問題があった。また、塗装作業時に塗料がタレ落ちたり、乾燥中に塵埃が付着して、塗装品質が悪化したり、断熱効果が低下するという問題があった。
【0003】
これらの問題を解決すべく、特許文献1に記載されているように、断熱塗材を予め、柔軟なシートの一面全面に塗布した断熱シートを用いることで、塗装作業を不要とし簡単な施工で断熱を行なうことが出来るようになった。
【0004】
しかし、このような断熱シートには、以下に説明する課題があった。
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3046167号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の断熱シートは、シートに断熱塗材を塗布した後、断熱塗材を硬化させるため、自然乾燥または空気を吹付けること(送風)により乾燥させる。
【0007】
しかし、自然乾燥の場合にはおよそ24時間もかかり、空気を吹付けることによる強制乾燥の場合でも、1時間〜2時間はかかる。この間、完全に乾燥するまでは、断熱シートを広げたまま放置しなければならず、断熱シートを巻き取ったり折畳んだりすることが出来ないため、断熱シートの製造場所の確保が必要となり、断熱シートの大量生産ができない。
【0008】
また、強制乾燥の場合には、空気を吹付けるので、乾燥過程で塗装ムラが生じたり、表面に気泡が発生してしまい、塗装品質が劣化し、ひいては、断熱効果の低下につながる。
【0009】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、断熱効果が低下することなく、すぐに巻いたり折畳んだりすることが可能な断熱シートの製造方法及び断熱シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の断熱シートの製造方法は、不織布からなるシート状基材と、前記シート状基材の少なくとも一方の面に形成された断熱層と、前記シート状基材の他方の面、または、前記断熱層の上面に設けられ、粘着材と前記粘着材から離脱可能な粘着材保護シートを有する接着層とから構成される断熱シートの製造方法であって、中空ビーズとアクリル系樹脂との混合物からなる断熱塗材を、前記シート状基材に塗布し、遠赤外線もしくはマイクロ波を照射して抜水により断熱塗膜を形成し、前記断熱層とする断熱層形成工程と、前記断熱層形成工程の前に、前記シート状基材に前記粘着材を塗布し、または、前記断熱層形成工程の後に、前記シート状基材もしくは前記断熱層に前記粘着材を塗布し、前記粘着材を前記粘着材保護シートで覆い、前記接着層とする接着層形成工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の断熱シートは、不織布からなるシート状基材と、前記シート状基材の少なくとも一方の面に形成された断熱層と、前記シート状基材の他方の面、または、前記断熱層の上面に設けられ、粘着材と前記粘着材から離脱可能な粘着材保護シートを有する接着層とから構成される断熱シートであって、前記断熱層は、前記シート状基材に塗布される中空ビーズとアクリル系樹脂との混合物からなる断熱塗材を、遠赤外線もしくはマイクロ波の照射により抜水し、断熱塗膜を形成したものであり、前記接着層は、前記シート状基材もしくは前記断熱層に前記粘着材を塗布し、前記粘着材保護シートで覆ったものであることを特徴とする。
【0012】
このように、シート状基材に断熱塗材を塗布後、当該塗布面に、遠赤外線もしくはマイクロ波を照射して抜水し、断熱層を形成するようにしたので、遠赤外線やマイクロ波の特性により、塗布された断熱塗材の内部から水分が蒸発し、塗装ムラや気泡の発生なく、しかも、早期に乾燥させることができる。つまり、品質の維持された断熱シートが製造されるとともに、断熱シートの製造効率を向上させられる。
【0013】
また、断熱塗材は、アクリル系樹脂をバインダーとしているので、弾力性、伸縮性に富み、塗装しやすく、断熱層は、弾力性・柔軟性に優れる。更に、断熱塗材をシート状基材に塗布した場合、不織布であるシート状基材がつなぎの役割を果たすので、断熱層がシート状基材に形成されても劣化がしにくく、耐久性に優れ、折り曲げや巻き取りをしても、シート状基材から断熱層が剥離することがない。
【0014】
また、前記中空ビーズは、アクリルビーズであり、前記アクリル系樹脂は、スチレンアクリル酸アルキルエステル共重合物エマルジョンであってもよい。
【0015】
その際、前記断熱層に含まれる中空ビーズの重量比率は、30〜70%とすることが望ましい。
【0016】
このように、同じアクリル系材料同士を混合することで、バインダーとしてのアクリル系エマルジョンが、中空ビーズを抱き込みやすい状態が生まれ、中空ビーズの重量比率の大きい、すなわち、断熱効果の高い断熱層が形成される。
【0017】
また、前記断熱層形成工程では、前記断熱塗材が所定厚みに塗布された前記シート状基材を、前記マイクロ波もしくは遠赤外線の照射炉内に通過させた後、前記断熱層が形成されたシート状基材を巻き取ってもよい。
【0018】
このように、断熱塗材の乾燥時間を待たず、次々に断熱シートを製造して、巻き取ることが出来るので、製造された断熱シートの保管場所をとらない。
【0019】
また、前記断熱シートの接着材側の面は、建築物の内外壁、自動車・航空機・列車等の車体の内外表面、カーテンウォールの内外壁のいずれかに、貼着されてもよい。
【0020】
上述したように本発明の断熱シートは、耐久性・柔軟性を有するので、建築物の内外壁や車体の内外表面やカーテンウォールの内外壁といった、平面のみならず曲面をも有する部分の断熱に好適である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の断熱シートの製造方法及び断熱シートによれば、シート状基材に断熱塗材を塗布後、当該塗布面に、遠赤外線もしくはマイクロ波を照射して、断熱層を形成するようにしたので、遠赤外線やマイクロ波の特性により、塗布された断熱塗材の内部から水分が蒸発し、塗装ムラや気泡の発生なく、しかも、早期に乾燥させることができる。つまり、品質の維持された断熱シートが製造されるとともに、断熱シートの製造効率を向上させられる。
【0022】
また、断熱塗材は、アクリル系樹脂をバインダーとしているので、弾力性、伸縮性に富み、塗装しやすく、断熱層は、弾力性・柔軟性に優れる。更に、断熱塗材をシート状基材に塗布した場合、不織布であるシート状基材がつなぎの役割を果たすので、断熱層がシート状基材に形成されても劣化がしにくく、耐久性に優れ、折り曲げや巻き取りをしても、シート状基材から断熱層が剥離することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の断熱シートの製造方法及び当該製造方法により製造された断熱シートの実施例について説明する。
【0024】
図1は、本発明の断熱シートの構造の一実施例を示す部分断面図である。図1(a)に示す断熱シート1aの構造は、不織布からなるシート状基材2、シート状基材2の一方の面に形成された断熱層3、シート状基材2の他方の面に設けられ、粘着材4aと粘着材4aから離脱可能な粘着材保護シート4bを有する接着層4とから構成されている。尚、本実施例のシート状基材2は約100μm、断熱層3は約600μm、粘着材4aは約100μm、粘着材保護シート4bは約100μmとなっている。
【0025】
断熱層3は、セラミックビーズ、アクリルビーズ等の中空ビーズと、バインダー(結合材)としてアクリル系樹脂を混ぜて得られた断熱塗材を、シート状基材2の一方の面に塗布して抜水乾燥させて、断熱塗材の塗膜を形成することで得られる。尚、本実施例の断熱層3は、断熱塗材中の水分を抜くだけで塗膜が形成されるようになっている。
【0026】
かかる断熱層3は、アクリル系樹脂中に中空ビーズが抱き込まれた状態となるので、断熱効果を有するようになる。また、断熱塗材は、アクリル系樹脂をバインダーとしているので、弾力性、伸縮性があって、塗装しやすく、断熱層3は、弾力性・柔軟性に優れる。更に、断熱塗材をシート状基材2に塗布した場合、不織布であるシート状基材2がつなぎの役割を果たすので、断熱層3がシート状基材2に形成されても劣化がしにくく、耐久性に優れ、折り曲げや巻き取りをしても、シート状基材2から断熱層3が剥離することがない。
【0027】
接着層4は、シート状基材2の他方の面に、粘着材4aを塗布し、その上を粘着材保護シート4bで覆うことで形成される。
【0028】
そして、このような構造の断熱シート1aは、断熱対象物の形状に合わせて、切断等の加工を行い、粘着材保護シート4bを粘着材4aから剥離して、粘着材4aの面を断熱対象物に直接、貼着するだけで、断熱対象物への断熱施工が完了するので、施工の簡略化が実現され、コストの低減に繋がる。
【0029】
しかも、シート状基材2は約100μmという薄さの不織布であり、断熱層3は、アクリル系樹脂をバインダーとして、約600μmの薄さに形成されていることから、断熱シート1aは、全体として薄く、弾力性・柔軟性に優れ、折り曲げ加工しても劣化しない。
【0030】
よって、この断熱シート1aは、建築物の内外壁や、平板のみならず、曲面を有する自動車・航空機・列車等の車体の内外表面や、カーテンウォールの内外壁の断熱施工に好適である。尚、本明細書において、パネルには、平板のみならず、上記自動車・航空機・列車等の車体の曲面を有するものも含まれる。
【0031】
ここで、本実施例の断熱シート1aは、断熱層3の形成工程、すなわち、シート状基材2に断熱塗材を塗布後、断熱塗材から抜水して断熱塗膜を形成する断熱層形成工程において、遠赤外線もしくはマイクロ波を照射して、断熱層3の断熱効果を低下させることなく、断熱塗材中の水分を早期に抜き断熱塗膜を形成することに特徴がある。
【0032】
従来、断熱層3の形成に際しては、自然乾燥か、空気を吹付けることによる強制乾燥が行なわれていた。しかし、自然乾燥方法の場合は、完全に固化するまでには24時間かかり、断熱シート1aの製造工程において大きな時間ロスが発生する。また、強制乾燥方法を採用した場合でも、最低1〜2時間かかる上に、送風により断熱層3に塗装ムラが生じる。また、乾燥工程で水分蒸発する際に、内部からではなく表面から水分が蒸発するため、断熱層3に気泡が発生する。このように、自然乾燥や強制乾燥の場合には、断熱効果が低下しやすく、断熱シート1aの品質劣化を招く。
【0033】
そこで、本実施例の断熱シート1aの製造方法では、シート状基材2に断熱塗材を塗布後、当該塗布面に、遠赤外線もしくはマイクロ波を照射して抜水し、断熱塗膜を形成するようにしたので、遠赤外線やマイクロ波の特性により、塗布された断熱塗材の内部から水分が蒸発し、塗装ムラや気泡の発生なく、しかも、早期に乾燥させることができる。つまり、品質の維持された断熱シート1aが製造されるとともに、断熱シート1aの製造効率を向上させられる。
【0034】
例えば、所定速度で走行しているベルトコンベヤ上に、シート状のシート状基材2を広げて、ベルトコンベヤの始端に設けられたポンプや漏斗等の塗材押し出し機から、シート状基材2上に断熱塗材を塗布し、ベルトコンベヤの途中経路に設けられた所定長さの照射炉内を、断熱塗材が塗布されたシート状基材2が通過するようにし、照射炉を通過後、シート状基材2上に断熱層3が形成された断熱シート1aを、ベルトコンベヤの終端に設置されたローラーによって順次、巻き取れば、断熱塗材の乾燥時間を待たず、次々に断熱シート1aを製造して、ロール状にまとめることが出来、製造された断熱シート1aの保管場所をとらない。
【0035】
しかも、遠赤外線もしくはマイクロ波の照射によって抜水し、断熱塗膜を形成するので、塗装ムラが発生せず、また内部から水分を蒸発させるので気泡ができず、断熱層3の断熱効果は低下しない。
【0036】
つまり、本発明の断熱シートの製造方法によれば、断熱シートの断熱効果が低下することなく、断熱シートの製造効率を向上させ、大量生産が可能になるとともに、製造された断熱シートの保管の省スペース化が図られる。
【0037】
尚、断熱シート1aを製造する場合、接着層4の形成工程は、断熱層3の形成前でもよいし、形成後でもよい。
【0038】
また、先の実施例では、断熱層3が、シート状基材2の一方の面に形成された場合について説明したが、図1(b)の断熱シート1bに示すように、断熱層3が、シート状基材2の両面に形成されていてもよく、その場合、一方の面に形成された場合と比較して、断熱効果がより高まる。
【0039】
所定の同一厚みの断熱層3を、一方の面に形成させた場合と、両面に分けて形成させた場合とでは、基本的に断熱効果は変わらないはずであるが、一方の面のみに厚く、断熱塗材を塗布した場合は、その分、断熱塗膜が形成されるまでの時間がかかり、断熱シートの製造上、現実的ではない。
【0040】
従って、図1(a)に示した断熱シート1aよりも断熱効果を向上させた断熱シートを製造したい場合には、図1(b)の断熱シート1bの構造を採用するのが好適である。この場合、接着層4は、断熱層3の形成後、一方の断熱層3の上面に形成されることになる。
【0041】
また、断熱シートの構造は、図1(c)の断熱シート1cに示すように、シート状基材2の一方の面に断熱層3が形成され、更に、当該断熱層3の上面に、接着層4が形成されていてもよい。この場合、不織布からなるシート状基材2が、表側に現われるので、シート状基材2に予め着色したり、模様を印刷することで、断熱効果を有する壁紙として使用することが可能となる。尚、この場合も、接着層4は、断熱層3の形成後に形成される。
【実施例】
【0042】
次に、図2を参照しながら、本発明による断熱シートの製造方法の一実施例について説明する。尚、本実施例で製造される断熱シートの構造は、図1(a)に示した断熱シート1aの構造と同様である。また、図2には、本実施例で断熱シート1aを製造するための製造装置10が示されている。
【0043】
この断熱シート1aの製造方法は、不織布からなるシート状基材2をボビンから繰り出す繰り出し工程、セラミックビーズ、アクリルビーズ等の中空ビーズと、バインダー(結合材)としてアクリル系樹脂を混ぜて作製された断熱塗材6をシート状基材2の少なくとも一方の全面に所定の略均一厚さとなるように塗布し、これを遠赤外線もしくはマイクロ波照射炉内に通過させて抜水により断熱塗膜を形成し、断熱層3とする断熱層形成工程、断熱層形成工程の前または後に、シート状基材2に粘着材4aを塗布し、粘着材4aを粘着材保護シート4bで覆い接着層4とする接着層形成工程と、から構成される。
【0044】
尚、シート状基材2に接着層4を形成する場合には、接着層形成工程は、断熱層形成工程の前でも後でもよいが、図1(b),(c)の断熱シート1b,cのように、断熱層3の上面に接着層4を形成する場合には、接着層形成工程は、必然的に断熱層形成工程の後となる。
【0045】
以下、図2の製造装置10を用いて断熱シート1aを製造する際の具体的実施例を説明する。
【0046】
まず、断熱塗材6を作製する。本実施例の断熱塗材6は、表1に示すように、アクリル系樹脂エマルジョン、中空ビーズ、成膜助剤・チタン・体質顔料・着色顔料・消泡剤・粘性調整剤・可塑剤等の添加剤、及び、水を、同表に示す重量比率割合で混合し、均一になるまで撹拌して得た。尚、このとき、撹拌しやすいように、場合によっては加熱により所定の温度で撹拌してもよい。
【0047】
【表1】

【0048】
本実施例では、表1におけるアクリル系樹脂エマルジョンは、スチレンアクリル酸アルキルエステル共重合物エマルジョン(BASFジャパン株式会社製)を用いた。また、成膜助剤は、テキサノールを用いた。
【0049】
また、断熱機能の実現のために混合される中空ビーズは、平均粒子径20〜50μmのマイクロビーズ(松本油脂製薬株式会社)を用いた。また、チタンは、二酸化チタンルチル型を、体質顔料は、タルクを用いた。尚、チタン及び体質顔料は、中空ビーズを固めるために加えられるものである。
【0050】
また、消泡剤は、カルシウム炭酸塩を、粘性調整剤は、高沸点オイルを、可塑剤は、防腐剤をそれぞれ用いた。尚、これらはいずれも、環境問題に配慮し、非ホルムアルデヒド系の材料を使用している。
【0051】
そして、本実施例では、最終的に中空ビーズの重量比率が50%となるように各成分を配合し、粘度を、シート状基材2に塗布しやすい、2000〜80
00cpsに調整して作製された断熱塗材6を、原料タンク11に投入する。尚、この原料タンク内に直接、上記の材料が投入され、撹拌が行なわれることで断熱塗材6が作製されてもよい。
【0052】
一方、シート状基材2は、予め、断熱塗材6の塗布面とは反対側の面に、粘着材4aを塗布し、更に粘着材保護シート4bで覆って接着層4を形成した状態のものが用意され、断熱塗材6の塗布面を上にして、ボビン12からガイドロール13に案内されて、所定速度で走行するベルトコンベア(図示せず)のコンベア面上に繰り出される。
【0053】
本実施例のシート状基材2は、リンテック(株)製の、厚さ100μm、巾1〜1.2mmのロール状の不織布を使用している。また、粘着材4aは、リンテック(株)製の粘着材をシート状基材2に塗布して得られたものであり、厚さは100μmである。また、粘着材保護シート4bは、粘着材4aの乾燥防止・保護のため、粘着材4aに貼着される剥離材付きシートであり、厚さ100μmのものである。
【0054】
断熱塗材6は、原料タンク11から圧縮により下方に繰り出され、シート状基材2の上に載置するように供給される。尚、本実施例のように断熱塗材6を載置する場合も、本明細書の「塗布」に含むものとする。
【0055】
本実施例の断熱塗材6は、上記のように、アクリル系樹脂エマルジョンをバインダーとして、水分が断熱塗材6の約1/3を占めるので、弾力性・伸縮性があり、シート状基材2上に塗布しやすい。
【0056】
シート状基材2上に載置された断熱塗材6は、スクレーパ14によって、所定の均一厚さになるように平坦化され、その後、断熱塗材6が塗布されたシート状基材2は、照射炉15へ送り込まれる。
【0057】
本実施例の照射炉15は、遠赤外線ヒーターであり、断熱塗材6の塗布面から所定距離離間した位置から、遠赤外線が照射される。また、照射炉15の長さは、40mであり、照射炉15の始点から終点までの通過時間は、ベルトコンベアを0.5m/分の速度で走行させた場合、約3分となっている。
【0058】
照射炉15の通過時間と照射炉15の長さは、照射炉15内の温度と、遠赤外線の照射量と、ベルトコンベアの走行速度と、断熱塗材6の塗布厚との関係で決められることになる。例えば、照射炉15内の温度が高いほど、照射量が多いほど、通過時間は短く、照射炉15の長さは短くて済む。逆に、走行速度が遅いほど、塗布厚が厚いほど、通過時間は長く、照射炉15の長さは長くなる。
【0059】
尚、遠赤外線ヒータに代えて、電子レンジの仕組みを利用したマイクロ波ヒーターが用いられてもよい。
【0060】
シート状基材2に載置された断熱塗材6に含まれる全体の約1/3の水分が、照射炉15内で抜水されることによって、シート状基材2に、断熱塗膜からなる断熱層3が固着形成され、断熱シート1aが作製される。このようにして作製された断熱シート1aは、順次、ガイドロール16に案内されて、巻き取り機17によって巻き取られる。尚、本実施例の断熱層3の厚さは、600μmである。
【0061】
尚、本実施例では、先に、接着層4がシート状基材2に形成されていたが、シート状基材2に断熱層3が固着形成されて巻き取り機17によって巻き取られたものを、再度、ボビン12に通し、ベルトコンベア上に繰り出して、粘着材4aを塗布し、その上に粘着材保護シート4bを覆うことで、接着層4が形成されてもよい。
【0062】
以上説明した製造装置10によって断熱シート1aを製造した場合、シート状基材2に断熱塗材6を塗布した後、断熱塗材6の抜水、すなわち、乾燥を、遠赤外線もしくはマイクロ波を照射することによって行なうようにしたので、自然乾燥や送風による強制乾燥と比較して、早期に断熱層3を形成することができる。
【0063】
また更に、自然乾燥の場合には、表面から水分が蒸発するため、気泡ができやすいが、遠赤外線もしくはマイクロ波の照射により抜水乾燥させる場合には、遠赤外線やマイクロ波の特性上、断熱塗材6の内部から水分が蒸発するので、気泡ができにくく、品質の維持された断熱シート1aが製造される。
【0064】
本実施例の製造装置10によれば、自然乾燥で24時間かかるところを、3分で抜水乾燥させることができるので、製造装置10のベルトコンベアを所定速度で駆動させながら、照射炉15を通過して作製された断熱シート1aを順次、巻き取り機17で巻き取ることができる。従って、断熱シート1aの製造効率が向上し、大量生産が可能になるとともに、製造された断熱シート1aの保管の省スペース化が図られる。
【0065】
次に、作製された断熱シート1aの断熱層3の断熱効果を確認するため、以下の実験を行なった。まず、先に作製された断熱塗材6(以下、試料Sという)の塗膜について、日射反射率を求めた。その得られた日射反射率を表2に示す。尚、試料Sを乾燥させ、塗膜が形成された後の、断熱塗材成分の重量比率は、アクリル系樹脂エマルジョンが44%であり、中空ビーズが50%であり、その他の添加剤が6%となる。
【0066】
【表2】

【0067】
これより、0.6mm厚の試料Sの膜で、特に近赤外領域で隠ぺい率試験紙の白地上と黒地上での反射率に差異が認められた。すなわち、黒地上の反射率が低下している。このことは、試料Sの0.6mm膜厚では近赤外領域の光は通過しており、素地の黒地に吸収されていることを意味している。また、試料Sの日光反射率は90%以上であり、紫外線を含む太陽光の90%以上を反射させるので、建物等の構造物の外壁に塗布した場合、当該構造物の劣化を防止することが出来る。
【0068】
本実施例の断熱塗材6は、アクリル系樹脂エマルジョン(スチレンアクリル酸アルキルエステル共重合物エマルジョン)と、アクリルビーズという、同じアクリル系材料同士を混合していることにより、親和性が高くなるので、バインダーとしてのアクリル系樹脂エマルジョンに、中空ビーズをより多く抱き込み、含有させることが出来、本実施例のように、抜水乾燥後の断熱塗材の中空ビーズの重量比率を50%以上とすることが出来る。これにより、より断熱効果の高い断熱層3を形成することが出来る。
【0069】
尚、本実施例では、最終的に中空ビーズの重量比率が50%となるように、各成分を配合したが、断熱性の向上のためには、中空ビーズの重量比率が30〜70%となるように、各成分の調整が行なわれることが望ましい。当該比率が30%未満である場合には、断熱効果が十分に得られない。また70%より高い場合には、バインダーとの親和性が低くなり、均一な断熱塗材が作製されず、基材への付着性が弱くなる。
【0070】
更に、試料Sの塗膜について、熱伝導率を測定し、遮断効果の程度を確認した。表3は、試料Sの熱伝導率の測定結果を示す。
【0071】
【表3】

【0072】
ちなみに、「漆喰」の熱伝導率は「0.6」、「石膏プラスター」の熱伝導率は「0.5」、「石膏ボード」の熱伝導率は「0.71〜0.1」、「コンクリート」の熱伝導率は「1.40」であるのに対し、試料Sの熱伝導率は表3より「0.121(Kcal/h・m・℃)」である。また、断熱性の高い「保温レンガ」の熱伝導率は「0.12」である。したがって、この試料Sは、熱伝導率が比較的低い部類の塗装材料と言える。
【0073】
次に、亜鉛めっき銅板及びコンクリート板に対する試料Sの接着強度を評価した、その結果を表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
表4によれば、試料Sの接着強度は、対鋼板が1.7N/mm、対コンクリートが1.5N/mmである(JIS規格は、0.5N/mm以上である)。このことから、この試料Sは、JIS規格を十分に満足する接着強度を有する。
【0076】
本実施例の断熱塗材6の塗膜は、更に、以下の効果も有している。すなわち、この断熱塗材によれば、スチレンアクリル酸アルキルエステル共重合物エマルジョンをバインダーとして用いることで、元々、本材料に備わっている防水性、接着性が発揮されるとともに、被膜性、弾力性も有するので、より亀裂の出来にくい衝撃、振動に強い断熱層3が形成される。また、塗膜を劣化させるあらゆる障害に対して驚異的に対抗し、抜群の耐久性を発揮することができる。
【0077】
また、本実施例の断熱塗材6を壁に0.9mm厚塗布すると、屋根・天井・壁を通過する音が約10デシベル低下し、静かな環境が確保できる。また、本実施例の断熱塗材6は環境にやさしい水溶性で、シックハウス症候群の原因物質を含まない。また、当該断熱塗材6の塗膜は3層〜4層(0.6mm〜0.9mm)形成されることで、水の浸入を防ぐことができる。
【0078】
また、当該断熱塗材6は、幅広い塗装適性を持っているので、当然、不織布への塗布も容易である。また、刷毛ローラー・吹付け・鏝など幅広い塗布方法にも対応することができる。
【0079】
そして、このような断熱塗材6をシート状基材2に塗布して、抜水乾燥させ、断熱層3を形成して出来た断熱シート1aの施工対象は、例えば、工場、一般倉庫、保冷倉庫、研究所、学校、集会所、体育館等の大きな建物の屋根の外装及び内装であったり、冷凍コンテナ、ドライコンテナ、保冷車、穀物サイロ、冷凍冷蔵倉庫、貯蔵タンク、畜産舎、車両(自動車・航空機・電車等)の内外装、カーテンウォール、プラントの配管(LPガス・蒸気)であったり、鉄、コンクリート、発泡コンクリート、木材、瓦、スレート、サイデング、レンガ、タイル、アルミ、ステンレス、ブロック、石膏ボード等、幅広く、平面、曲面を問わず、利用できる。
【0080】
次に、本実施例で作製された断熱シート1aの断熱層3の断熱効果を確認するため、以下の実験を行なった。まず、シーラー(下地用塗料)に中空ビーズを添加した断熱塗材を作製する。尚、後述する試料aを除き、先に作製された断熱塗材6と同様である。
【0081】
図3(a)の見取り図及び(b)の平面図に示す実験装置18は、1.0mm厚のアルミニウム板製の直方体状の箱体19と、箱体19の開口部を覆う図示しないアルミニウム製の蓋体と、箱体19の内部を2つの略等しい250mm×250mm×250mmの空間イ、ロに2分する位置(中央部)に設けられ、1.0mm厚のアルミニウム板製の仕切板20a,bと、空間イの中央部にセットされる熱源21と、A,B,C,Dの位置(いずれも底面からの高さは125mm)に設置される、温度計等の温度検出器とから構成される。尚、熱源21は、40Wの白熱電球を使用した。
【0082】
仕切板20a,bは、互いに25mmの空隙Sを設けて設置され、仕切板20a,bの両方又は片方の、仕切板同士が対向する面(内側面)全面に渡り、断熱塗材を塗布し、塗膜が形成される。
【0083】
塗布される断熱塗材は、表5に示されるように、シーラーに添加される中空ビーズの重量比率(対シーラー)を50%に調整したものを仕切板20aにのみ1.0mm厚塗布した試料a,bと、仕切板20a,bの両方にそれぞれ1.0mmずつ塗布した試料cと、仕切板20aに3.0mm、仕切板20bに2.5mm塗布した試料dと、仕切板20a,bの両方にそれぞれ5.0mmずつ塗布した試料eである。尚、本実験に使用した中空ビーズは、試料aがセラミックビーズ、試料b〜eがアクリルビーズである。
【0084】
【表5】

【0085】
また、比較参考のために、グラスウールを仕切板20a,bの両方に貼り付けた試料Iと、アルミニウム製の仕切板20a,bに替えて、3mm厚のガラス板を空隙を25mm設けて2枚合わせた試料IIも用意する。
【0086】
各試料につき、実験装置18を密閉した状態で、熱源21を駆動させ、A〜Dの温度検出器の値を測定する。
【0087】
熱源を駆動させると同時に測定を開始し、測定開始から15分経過するまでは5分おき、15分〜60分経過するまでは15分おき、60分〜180分経過するまでは40分おきに各温度を測定した。各試料での測定結果を表す表とグラフを図4〜図10に示す。
【0088】
そして、測定結果及び以下の数式に基づいて、各試料の断熱効果δを算出した。尚、このδ(%)の数値が高いほど、断熱効果が高いと言える。
【0089】
(数1)
δ=1−(D−α)/(A−α)
A:空間イの温度
D:空間ロの温度
α:実験時の平均温度
【0090】
各試料について求めたA−D,B−C,α,δを表す表とグラフを図11に示す。
【0091】
図11の表とグラフにより、以下のことが考察される。まず、試料aと試料IIを比較すると、試料aのほうが断熱効果が高い(δの数値が大きい)ことが分かる。次に、試料aと試料bとを比較すると、セラミックビーズを中空ビーズとして使用した試料aよりも、アクリルビーズを中空ビーズとして使用した試料bのほうが、断熱効果が高い。つまり、中空ビーズとしては、アクリルビーズを断熱塗材に使用するほうが、断熱層3の断熱効果が高く、本発明の断熱シートの製造方法及び当該製造方法を用いた断熱シートに好適である。
【0092】
次に、試料bと試料cとを比較すると、仕切板20aの一面にのみアクリルビーズを塗布している試料bよりも、仕切板20a,bの二面にアクリルビーズを塗布した試料cのほうが、断熱効果が高く、δが約7%も向上している。
【0093】
更に、試料d,eと、膜厚を大きくしていくに従って、δの数値は大きくなり、膜厚が5mm−5mmの試料eでは、δが90%以上となり、試料Iのグラスウール並みの断熱効果が得られる結果となった。本実施例のアクリルビーズによって作製された断熱塗材を仕切板の両面に5mmずつ塗布した時と塗布しなかった時の断熱効果の差を温度差に換算すると、約50℃となる。
【0094】
このように、本実施例の断熱塗材により形成される断熱層3は、合計厚みが大きくなればなるほど、絶大な断熱効果が発揮されると言える。
【0095】
従って、断熱効果の高い断熱シートを製造したい場合には、シート状基材2の一方の面に断熱塗材を塗布するよりは、両面に塗布したほうが合計厚みが稼げるので、図1(b)のような構造を採用するのが好適である。また、一方の面に同じ厚さを塗布するよりは、両面に分けて塗布したほうが、一面当たりの塗布厚が薄くて済むので、その分、抜水乾燥する時間が早まり、断熱シートの製造効率アップにつながる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明にかかる断熱シートの構造の一実施例を示す部分断面図である。
【図2】本発明にかかる断熱シートの製造方法の一実施例を示す図である。
【図3】断熱効果を確認するための実験装置の見取り図と平面図である。
【図4】試料aの実験結果を表す表とグラフである。
【図5】試料bの実験結果を表す表とグラフである。
【図6】試料cの実験結果を表す表とグラフである。
【図7】試料dの実験結果を表す表とグラフである。
【図8】試料eの実験結果を表す表とグラフである。
【図9】試料Iの実験結果を表す表とグラフである。
【図10】試料IIの実験結果を表す表とグラフである。
【図11】試料a〜e,I,IIの実験結果をまとめて表す表とグラフである。
【符号の説明】
【0097】
1:断熱シート
2:シート状基材
3:断熱層
4:接着層
4a:粘着材
4b:粘着材保護シート
10:製造装置
11:原料タンク
12:ボビン
13:ロール
14:スクレーパ
15:照射炉
16:ガイドロール
17:巻き取り機
18:実験装置
19:箱体
20:仕切板
21:熱源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布からなるシート状基材と、前記シート状基材の少なくとも一方の面に形成された断熱層と、前記シート状基材の他方の面、または、前記断熱層の上面に設けられ、粘着材と前記粘着材から離脱可能な粘着材保護シートを有する接着層とから構成される断熱シートの製造方法であって、
中空ビーズとアクリル系樹脂との混合物からなる断熱塗材を、前記シート状基材に塗布し、遠赤外線もしくはマイクロ波を照射して抜水により断熱塗膜を形成し、前記断熱層とする断熱層形成工程と、
前記断熱層形成工程の前に、前記シート状基材に前記粘着材を塗布し、または、前記断熱層形成工程の後に、前記シート状基材もしくは前記断熱層に前記粘着材を塗布し、前記粘着材を前記粘着材保護シートで覆い、前記接着層とする接着層形成工程と、
を含むことを特徴とする断熱シートの製造方法。
【請求項2】
前記中空ビーズは、アクリルビーズであり、
前記アクリル系樹脂は、スチレンアクリル酸アルキルエステル共重合物エマルジョンである
ことを特徴とする請求項1に記載の断熱シートの製造方法。
【請求項3】
前記断熱層に含まれる中空ビーズの重量比率を、30〜70%とする
ことを特徴とする請求項2に記載の断熱シートの製造方法。
【請求項4】
前記断熱層形成工程では、
前記断熱塗材が所定厚みに塗布された前記シート状基材を、前記マイクロ波もしくは遠赤外線の照射炉内に通過させた後、前記断熱層が形成されたシート状基材を巻き取る
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の断熱シートの製造方法。

【請求項5】
不織布からなるシート状基材と、前記シート状基材の少なくとも一方の面に形成された断熱層と、前記シート状基材の他方の面、または、前記断熱層の上面に設けられ、粘着材と前記粘着材から離脱可能な粘着材保護シートを有する接着層とから構成される断熱シートであって、
前記断熱層は、
前記シート状基材に塗布される中空ビーズとアクリル系樹脂との混合物からなる断熱塗材を、遠赤外線もしくはマイクロ波の照射により抜水し、断熱塗膜を形成したものであり、
前記接着層は、
前記シート状基材もしくは前記断熱層に前記粘着材を塗布し、前記粘着材保護シートで覆ったものである
ことを特徴とする断熱シート。
【請求項6】
前記中空ビーズは、アクリルビーズであり、
前記アクリル系樹脂は、スチレンアクリル酸アルキルエステル共重合物エマルジョンである
ことを特徴とする請求項5に記載の断熱シート。
【請求項7】
前記断熱層に含まれる中空ビーズの重量比率は、30〜70%である
ことを特徴とする請求項6に記載の断熱シート。
【請求項8】
前記断熱シートの接着材側の面は、
建築物の内外壁、自動車・航空機・列車等の車体の内外表面、カーテンウォールの内外壁のいずれかに、貼着される
ことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれかに記載の断熱シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−73600(P2008−73600A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254750(P2006−254750)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(305032287)
【Fターム(参考)】