説明

新規なα−ジケトン化合物、及び有機半導体デバイス

【課題】蒸着法よりも一般に容易な溶液法を用いて、縮合多環芳香族化合物からなる有機半導体層の形成を可能にする新規なα−ジケトン化合物を提供する。
【解決手段】ジナフトチエノチオフェン等の化合物に、ヘキサクロロシクロペンタジエン等の二重結合を有する化合物が脱離可能に付加されてなる構造を有する新規なα−ジケトン化合物を提供する。また、このような新規なα−ジケトン化合物を用いて、有機半導体膜、及び有機半導体デバイスを製造する方法を提供する。また更に、このような新規なα−ジケトン化合物の合成方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なα−ジケトン化合物及び有機半導体デバイス、並びにそれらの製造方法に関する。また本発明は、このような新規なα−ジケトン化合物のための中間体、並びにこのような新規なα−ジケトン化合物を含有する溶液及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体化合物は、有機薄膜トランジスタ(TFT)、有機キャリア輸送層、有機発光デバイス等のための有機半導体層への利用に関して、様々な研究がなされている。特に、有機半導体化合物からなる有機半導体層を有する薄膜トランジスタは、低コスト且つ軽量のデバイスとして、現在のシリコンベーストランジスタを代替することが期待されている。また、有機半導体層は、軽量で且つフレキシブルであること等、有機材料に特有の利点を活用することで、スマートタグ、軽量ディスプレイ等への応用も期待されている。
【0003】
したがって、有機半導体層を形成するための有機半導体化合物に関しては多くの研究がなされている(特許文献1〜5、並びに非特許文献1及び4)。これらの有機半導体化合物のなかでも、縮合多環芳香族化合物が、材料の安定性、キャリアの移動度等に関して好ましいことが分かってきている。
【0004】
なお、ディールス−アルダー(Diels−Alder)反応と呼ばれる反応が、有機合成の分野で知られている。この反応は、共役二重結合をもった化合物の1位及び4位に、二重結合又は三重結合を有する化合物を付加して、6員環の環式化合物を生成するものである。また、このディールス−アルダー反応を用いて、ナフタレンに対してヘキサクロロシクロペンタジエンを付加させることが提案されている(非特許文献2及び3)。
【0005】
また、有機半導体化合物の例であるペンタセンの可溶性前駆体であって、光照射によって分解してペンタセンを得ることができる前駆体が知られている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−89413号公報
【特許文献2】特開2008−290963号公報
【特許文献3】国際公開WO2006/077888号公報
【特許文献4】特開2008−290963号公報
【特許文献5】国際公開第2008/050726号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】“Facile Synthesis of Highly π−Extended Heteroarenes, Dinaphtho[2,3−b:2‘,3‘−f]chalcogenopheno[3,2−b]chalcogenophenes, and Their Application to Field−Effect Transistors”, Tatsuya Yamamoto, and Kazuo Takimiya, J. Am. Chem. Soc., 2007, 129 (8), pp 2224−2225
【非特許文献2】“Dienophilic Reactions of Aromatic Double Bonds in the Synthesis of β−Substituted Naphthalenes”, A. A. Danish, M. Silverman, Y. A. Tajima, J. Am. Chem. Soc., 1954, 76 (23), pp 6144−6150
【非特許文献3】“Tandem Diels−Alder−Diels−Alder Reaction Displaying High Stereoselectivity: Reaction of Hexachlorocyclopentadiene with Naphthalene.”, Lacourcelle, Claire; Poite, Jean Claude; Baldy, Andre; Jaud, Joel; Negrel, Jean Claude; Chanon, Michel, Acta Chemica Scandinavica 47, 0092−0094
【非特許文献4】“Photo Precursor for Pentacene”, Hidemitsu Uno, et al., Elsevier, Tetrahedron Letters 46 (2005) 1981−1983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
有機半導体層の形成においては、有機半導体化合物を含有する溶液を基材に塗布し、そして溶媒を除去する溶液法(キャスト、スピンコート、プリント等)、及び有機半導体化合物を基材に蒸着させる蒸着法が知られている。溶液法は一般に、製造コスト、製造速度等に関して好ましいことが知られている。
【0009】
しかしながら、有機半導体化合物として好ましいことが知られている縮合多環芳香族化合物は、非極性で且つ結晶性が高いことから、溶液に溶解させることが難しい。したがって、縮合多環芳香族化合物による有機半導体層の形成、特に低分子の縮合多環芳香族化合物による有機半導体層の形成では、蒸着法を用いることが一般的であった。
【0010】
そこで本発明では、溶液法を用いて縮合多環芳香族化合物からなる有機半導体層を形成することを可能にする新規なα−ジケトン化合物、及び新規なα−ジケトン化合物含有溶液を提供する。また、本発明では、このような新規なα−ジケトン化合物を用いて得られる有機半導体膜(有機半導体層)及び有機半導体デバイスを提供する。また更に本発明では、このような新規なα−ジケトン化合物の合成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者は、特定の構造を有するα−ジケトン化合物が、上記の課題を解決できることを見出して、本発明に想到した。
【0012】
本発明のα−ジケトン化合物は、下記の式(I(a)−X)を有する:
Ar1XAr2(a)Ar3X (I(a)−X)
(Ar1X、Ar2(a)、及びAr3Xは、下記に記載のとおり)。
【0013】
本発明のα−ジケトン化合物含有溶液は、本発明のα−ジケトン化合物が有機溶媒に溶解されている溶液である。
【0014】
有機半導体膜を製造する本発明の方法は、本発明のα−ジケトン化合物含有溶液を、基材に塗布して、膜を作製するステップ、そしてこの膜に光を照射して、α−ジケトン化合物のビシクロα−ジケトン部分を分解してベンゼン環部分にし、それによって縮合多環芳香族化合物からなる有機半導体膜を得るステップを含む。
【0015】
有機半導体デバイスを製造する本発明の方法は、有機半導体膜を製造する本発明の方法によって有機半導体膜を生成するステップを含む。
【0016】
本発明の有機半導体デバイスは、有機半導体膜を有し、この有機半導体膜が、縮合多環芳香族化合物で作られており、且つこの有機半導体膜が、本発明のα−ジケトン化合物を更に含有している。
【0017】
本発明の他の新規なα−ジケトン化合物(中間体α−ジケトン化合物)は、本発明のα−ジケトン化合物を合成するための中間体として用いることができる化合物である。
【0018】
本発明のα−ジケトン化合物を合成する本発明の方法は、炭酸ビニレン付加縮合多環芳香族化合物を加水分解及び酸化するステップを含む。また、本発明のα−ジケトン化合物を合成する本発明の他の方法は、本発明の中間体α−ジケトン化合物2分子を反応させるステップ、又は本発明の中間体α−ジケトン化合物1分子とこの中間体α−ジケトン化合物のビシクロα−ジケトン部分を分解して得られる構造を有する化合物1分子とを反応させるステップを含む。
【0019】
なお、本発明のα−ジケトン化合物は、芳香族環のうちの1つがビシクロα−ジケトン部分で置換されているものに限らず、芳香族環のうちの2又はそれよりも多くがビシクロα−ジケトン部分で置換されているものであってもよい。
【0020】
本発明に関して、「芳香族環」は、ベンゼン環と同様に共役している環を意味するものとし、例えばベンゼン環と並んで、フラン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環のような複素芳香族環を挙げることができる。また本発明に関して、「立体異性体」は、同一の構造式を有する化合物がその中の原子又は原子団の立体配置を異にすることによっておこる異性を意味し、光学異性体、幾何異性体、及び回転異性体等を包含する。また更に本発明に関して、芳香族環等に関して「置換又は非置換の」は、芳香族環等が環上に置換基を有する又は有さないことを意味する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の新規なα−ジケトン化合物は、そのビシクロα−ジケトン部分によって生じる極性の増加及び/又は結晶性の低下によって、溶媒に対して比較的大きい溶解性を有することができる。また、この本発明の新規なα−ジケトン化合物は、光照射によってそのビシクロα−ジケトン部分を分解してベンゼン環部分にすること、特に光照射によってそのビシクロα−ジケトン部分をベンゼン環部分と一酸化炭素とに分解してベンゼン環部分を得ることによって、縮合多環芳香族化合物、特に有機半導体化合物として用いられる縮合多環芳香族化合物を得ることができる。
【0022】
したがってこの本発明の新規なα−ジケトン化合物によれば、蒸着法よりも一般に容易な溶液法を用いて、縮合多環芳香族化合物からなる有機半導体層を形成することが可能となる。また、この本発明の新規なα−ジケトン化合物によれば、分解によって縮合多環芳香族化合物を得る際の加熱の必要性を減らす又はなくすことができ、したがって比較的低温のプロセスを必要とする有機基材上での有機半導体層の形成を促進できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、参考例1Aで用いた電界効果トランジスタ(FET)の構造の概略図である。
【図2】図2は、参考例1Aの付加化合物の熱脱離特性を示す図である。
【図3】図3は、参考例1Aで得られた電界効果トランジスタの出力特性を示す図である。
【図4】図4は、参考例1Aで得られた電界効果トランジスタの伝達特性を示す図である。
【図5】図5は、参考例1Aで得られた有機半導体膜中の残留付加化合物についてのNMR結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
《α−ジケトン化合物》
本発明のα−ジケトン化合物は、下記の式(I(a)−X)を有する:
Ar1XAr2(a)Ar3X (I(a)−X)
(Ar1X及びAr3Xはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、且つこれらの芳香族環のうちの少なくとも1つが、下記の式(X)のビシクロα−ジケトン部分で置換されており:
【0025】
【化1】

Ar2(a)は、1個の複素芳香族環からなる置換又は非置換の複素芳香族環部分、及び2〜5個の複素芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合複素芳香族環部分から選択され、
Ar1XとAr2(a)は、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成しており、且つ
Ar2(a)とAr3Xは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成している}。
【0026】
本発明のα−ジケトン化合物に関し、Ar1X及びAr3Xはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環、特に2〜4個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、且つこれらの芳香族環のうちの少なくとも1つが、下記の式(X)のビシクロα−ジケトン部分で置換されている:
【0027】
【化2】

【0028】
また例えば、Ar1X及びAr3Xがそれぞれ独立に、置換又は非置換の2〜5個のベンゼン環、特に置換又は非置換の2〜4個のベンゼン環が縮合している縮合ベンゼン環部分から選択され、且つこれらベンゼン環のうちの少なくとも1つが、上記のビシクロα−ジケトン部分で置換されている。なお、ArとArは同じであっても異なっていてもよい。
【0029】
したがってAr1X及びAr3Xはそれぞれ独立に、置換又は非置換の下記の(b1)〜(b4)の縮合ベンゼン環部分からなる群より選択され、且つこれらのベンゼン環のうちの少なくとも1つが、上記のビシクロα−ジケトン部分で置換されている:
【0030】
【化3】

【0031】
本発明のα−ジケトン化合物に関し、Ar2(a)は、1個の複素芳香族環からなる置換又は非置換の複素芳香族環部分、又は2〜5個、特に2〜3個の複素芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合複素芳香族環部分から選択される。ここで、この複素芳香族環は例えば、下記の構造を有する複素芳香族環であってよい:
【0032】
【化4】

(Yはそれぞれ、カルコゲン、特に酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)及びテルル(Te)から選択される元素、より特に硫黄)。
【0033】
したがって、Ar2(a)は、置換又は非置換の下記の(a1)、(a3)及び(a4)からなる群より選択される縮合複素芳香族環部分であってよい:
【0034】
【化5】

(Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択される元素であって、全て同じでも一部が異なっていてもよい)。
【0035】
本発明のα−ジケトン化合物は、光照射によってビシクロα−ジケトン部分が分解してベンゼン環部分になり、それによって下記の式(I(a))の縮合多環芳香族化合物を生成する:
ArAr2(a)Ar (I(a))
(Ar及びArはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
Ar2(a)は、1個の複素芳香族環からなる置換又は非置換の複素芳香族環部分、及び2〜5個の複素芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合複素芳香族環部分から選択され、
ArとAr2(a)は、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成しており、且つ
Ar2(a)とArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成している)。
【0036】
式(I(a))の縮合多環芳香族化合物に関し、Ar及びArはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環、特に2〜4個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択される。ここでは、芳香族環は特に、置換又は非置換のベンゼン環である。また、ArとArは同じであっても異なっていてもよい。
【0037】
したがってAr及びArはそれぞれ独立に、置換又は非置換の上記の(b1)〜(b4)からなる群より選択されるベンゼン環部分であってよい。
【0038】
式(I)の縮合多環芳香族化合物に関し、Ar2(a)は、1個の複素芳香族環からなる置換又は非置換の複素芳香族環部分、又は2〜5個、特に2〜3個の複素芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合複素芳香族環部分である。
【0039】
したがって、Ar2(a)は、置換又は非置換の上記の(a1)、(a3)及び(a4)からなる群より選択される複素芳香族環部分又は縮合複素芳香族環部分であってよい。
【0040】
好ましくは式(I(a))の縮合多環芳香族化合物は、有機半導体化合物、すなわち半導体としての性質を示す有機物化合物である。また、式(I(a))の縮合多環芳香族化合物は、置換又は非置換の下記の式(I−1)〜(I−5)の縮合多環芳香族化合物からなる群より選択できる。これらの縮合多環芳香族化合物は安定性が高く、したがって本発明のα−ジケトン化合物からの式(I(a))の縮合多環芳香族化合物の生成の際に、式(I(a))の縮合多環芳香族化合物を安定に維持することができる。すなわち、この場合には、式(I(a))の縮合多環芳香族化合物の生成の際に加熱を行う場合であっても、式(I(a))の縮合多環芳香族化合物を安定に維持することができる。したがって、この場合、本発明のα−ジケトン化合物からの式(I(a))の縮合多環芳香族化合物の生成を高い割合で行うことができる。
【0041】
【化6】

(Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択される元素)。
【0042】
式(I(a))の縮合多環芳香族化合物、及びその合成に関しては、特に限定されないが、特許文献1〜5及び非特許文献1を参照することができる。
【0043】
具体的には例えば、本発明のα−ジケトン化合物は、下記の式(I(a)−X1)〜(I(a)−X5)の化合物、又はその立体異性体である:
【0044】
【化7】

(Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択される元素であり、且つ
縮合ベンゼン環部分は、置換又は非置換である)。
【0045】
ここで、これら式(I(a)−X1)〜(I(a)−X5)の化合物、又はその立体異性体は、光の照射によってそのビシクロα−ジケトン部分が分解してベンゼン環部分になり、それによって縮合多環芳香族化合物の例である下記の式(I−4)の化合物を生成することができる:
【0046】
【化8】

(Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択される元素あり、且つ
縮合ベンゼン環部分は、置換又は非置換である)
【0047】
なお、上記の芳香族環等の置換は例えば、ハロゲン、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のエステル基、炭素原子数1〜20のエーテル基、炭素原子数1〜20のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、及び炭素原子数1〜20のスルフィド基からなる群より選択される置換基によってなされている。
【0048】
《α−ジケトン化合物の第1の合成方法》
本発明のα−ジケトン化合物は、下記のステップ(a)〜(c)を含む方法によって合成することができる:
(a)下記の式(I(a))の縮合多環芳香族化合物に、炭酸ビニレンがその二重結合を介して脱離可能に付加されてなる構造を有する、炭酸ビニレン付加縮合多環芳香族化合物を提供するステップ:
ArAr2(a)Ar (I(a))
(Ar及びArはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
Ar2(a)は、1個の複素芳香族環からなる置換又は非置換の複素芳香族環部分、及び2〜5個の複素芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合複素芳香族環部分から選択され、
ArとAr2(a)は、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成しており、且つ
Ar2(a)とArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成している);
(b)炭酸ビニレン付加縮合多環芳香族化合物を加水分解して、炭酸ビニレンに対応する部分がα−ジオール部分に転化されたα−ジオール化合物を得るステップ:
(c)α−ジオール化合物を酸化して、α−ジオール部分をα−ジケトン部分に転化するステップ。
【0049】
この方法のステップ(a)において原料として用いられる炭酸ビニレン付加縮合多環芳香族化合物は、式(I(a))の縮合多環芳香族化合物に炭酸ビニレンを付加させるステップ、特にこれらの化合物の混合によってこれらの化合物を付加するステップを含む方法によって製造できる。このとき、炭酸ビニレンは、溶媒中に溶解して用いることもできるが、単独で用いることもできる。ここで、この溶媒としては、炭酸ビニレンを溶解できる任意の溶媒を用いることができる。例えば使用可能な溶媒としては、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、酢酸エチル等の非プロトン性極性溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1、4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン(すなわち1,3,5‐トリメチルベンゼン)等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;及びジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の含ハロゲン溶媒を考慮することができる。
【0050】
炭酸ビニレン付加縮合多環芳香族化合物の合成においては、式(I(a))の縮合多環芳香族化合物と炭酸ビニレンとの混合の際に、加熱及び/又は光照射によって、反応を促進することもできる。炭酸ビニレン付加縮合多環芳香族化合物の合成の際の反応温度は、生成速度、成分の安定性、成分の沸点等を考慮して決定することができ例えば、20℃以上、50℃以上、100℃以上であって、180℃以下、200℃以下、又は220℃以下の温度にすることができる。また反応時間は例えば、1分以上、10分以上、30分以上、1時間以上であって、1日以下、3日以下、5日以下、又は10日以下にすることができる。
【0051】
具体的には例えば、縮合多環芳香族化合物としてのジナフトチエノチオフェン(DNTT)及び炭酸ビニレンをメシチレン溶媒中に混合し、窒素下において加熱しながら撹拌して、ディールス−アルダー付加反応によって炭酸ビニレンをDNTTに付加させ、炭酸ビニレン付加縮合多環芳香族化合物としての炭酸ビニレン付加ジナフトチエノチオフェン(下記の式(1)の化合物)を得る。その後、ろ過によって炭酸ビニレン付加ジナフトチエノチオフェンを固形物として取得し、そしてクロロホルムで洗浄する。
【0052】
【化9】

【0053】
この方法のステップ(b)における加水分解のためには例えば、ステップ(b)で提供した炭酸ビニレン付加ジナフトチエノチオフェン(上記の式(1)の化合物)をエタノール中に入れ、更に水酸化ナトリウムを加え、還流を行って、炭酸ビニレンに対応する部分がα−ジオール部分に転化されたα−ジオール化合物(下記の式(2)の化合物)を得る。なお、このステップ(b)の加水分解反応に関しては、非特許文献4を参照することができる。
【0054】
【化10】

【0055】
この方法のステップ(c)における酸化のためには例えば、ステップ(b)で得られたα−ジオール化合物を、ジメチルスルホオキシド、トリフルオロ酢酸無水物、トリエチルアミン、塩化メチレンの混合溶液中において、冷却しながら反応させて、α−ジオール化合物を酸化して、α−ジオール部分をα−ジケトン部分に転化して、α−ジケトン化合物(下記の式(3)の化合物)を得る。なお、このステップ(c)の酸化反応に関しては、非特許文献4を参照することができる。
【0056】
【化11】

【0057】
また、この方法の他の態様では、ステップ(a)において原料として用いられる炭酸ビニレン付加縮合多環芳香族化合物の例である炭酸ビニレン付加ジナフトチエノチオフェンを提供するために、特許文献5で示されるようにして得られる2−メチルチオ−3−ナフトアルデヒドを、窒素気流下において、テトロヒドロフラン溶媒に入れ、そしてそこに炭酸ビニレンを添加し、そして還流温度にて反応を行わせて、2−メチルチオ−3−ナフトアルデヒドに炭酸ビニレンが付加した付加体(下記の式(4)及び(5)の化合物)を得る。この付加体に対して、特許文献5の実施例1に示される手順を行って、この付加体2分子を結合させて、炭酸ビニレン付加ジナフトチエノチオフェンを得る。
【0058】
【化12】

【0059】
《中間体α−ジケトン化合物、及びα−ジケトン化合物の第2の合成方法》
本発明の中間体α−ジケトン化合物は、下記の式(I(a)’)を有する:
Ar1XQ (I(a)’)
{Ar1Xは、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、且つこれらの芳香族環のうちの少なくとも1つが、下記の式(X)のビシクロα−ジケトン部分で置換されており、且つ:
【0060】
【化13】

Qは、下記の式を有し、且つAr1Xの縮合環の一部を構成している:
【0061】
【化14】

(Yは、カルコゲンから選択される元素である)}。
【0062】
具体的には例えば、式(I(a)’)の化合物は、下記の式のいずれかの化合物又はその立体異性体であってよい:
【0063】
【化15】

(Yは、カルコゲンから選択される元素であり、且つ
ベンゼン環部分は、置換又は非置換である)。
【0064】
本発明のこの中間体α−ジケトン化合物は、下記の式(I’)の化合物に炭酸ビニレンを付加させ、そして得られた化合物を加水分解及び酸化して得ることができる:
ArQ (I’)
{Arは、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、且つ
Qは、下記の式を有し、且つArの縮合芳香環の一部を構成している:
【0065】
【化16】

(Yは、カルコゲンから選択される元素)}
【0066】
この中間体α−ジケトン化合物を得るための付加反応、加水分解反応、及び酸化反応については、上記のα−ジケトン化合物の第1の合成方法に関する記載を参照できる。
【0067】
具体的には、本発明の中間体α−ジケトン化合物を得るためには例えば、2−メチルチオ−3−ナフトアルデヒドに炭酸ビニレンが付加した付加体(上記の式(4)及び(5)の化合物)を、エタノール中に入れ、更に水酸化ナトリウムを加え、還流を行って、炭酸ビニレンに対応する部分がα−ジオール部分に転化されたα−ジオール化合物(下記の式(6)及び(7)の化合物)を得る。なお、この加水分解反応に関しては、非特許文献4を参照することができる。
【0068】
【化17】

【0069】
その後、α−ジオール化合物(上記の式(6)及び(7)の化合物)を、ジメチルスルホオキシド、トリフルオロ酢酸無水物、トリエチルアミン、塩化メチレンの混合溶液中において、冷却しながら反応させて、このα−ジオール化合物を酸化して、α−ジオール部分をα−ジケトン部分に転化して、本発明の中間体α−ジケトン化合物(式(8)及び(9)の化合物)を得る。なお、この酸化反応に関しては、非特許文献4を参照することができる。
【0070】
【化18】

【0071】
本発明のα−ジケトン化合物を、上記の中間体α−ジケトン化合物から合成する方法は、下記のステップ(a)及び(b)を含む:
(a)本発明の中間体α−ジケトン化合物2分子を反応させ、又は本発明の中間体α−ジケトン化合物1分子と本発明の中間体α−ジケトン化合物のビシクロα−ジケトン部分を分解してベンゼン環部分にした構造を有する化合物1分子とを反応させて、下記の式の化合物を得るステップ:
Ar1XQ=QAr1X
{Q=Qは、下記の構造を示す:
【0072】
【化19】

(Yは、カルコゲンから選択される元素)};及び
(b)式Ar1XQ=QAr1Xの得られた化合物をヨウ素と反応させるステップ。
【0073】
この方法によれば、下記の式(I(a1)−X)の本発明のα−ジケトン化合物が合成される:
Ar1XAr2(a1)Ar1X (I(a1)−X)
(Ar1Xは、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、且つこれらの芳香族環のうちの少なくとも1つが、下記の式(X)のビシクロα−ジケトン部分で置換されており:
【0074】
【化20】

Ar2(a1)は、下記の式(a1)の縮合複素芳香族環部分(Yは、カルコゲンから選択される元素)であり、且つ
【0075】
【化21】

Ar1XとAr2(a1)は、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成している)。
【0076】
なお、上記の本発明のα−ジケトン化合物を上記の中間体α−ジケトン化合物から合成する方法の条件等に関しては、非特許文献1の記載を参照することができる。すなわち例えば、ステップ(a)における中間体α−ジケトン化合物2分子の反応は、テトラヒドロフラン中において、テトラクロロチタン/亜鉛(TiCl/Zn)触媒を用いて行う。また、ステップ(b)における式Ar(Q=Q)Arとヨウ素との反応は、トリクロロメタン(すなわちクロロホルム)(CHCl)中において行う。
【0077】
またこの方法では例えば、本発明の中間体α−ジケトン化合物(上記の式(8)及び(9)の化合物)に対して、特許文献5の実施例1に示される手順を行って、この付加体2分子を結合させて、炭酸ビニレン付加ジナフトチエノチオフェン(下記の式(3−1)〜(3−5)のいずれかの化合物)を得る。
【0078】
【化22】

【0079】
《α−ジケトン化合物含有溶液》
本発明のα−ジケトン化合物含有溶液は、本発明のα−ジケトン化合物が、溶媒、特に有機溶媒に溶解されてなる。
【0080】
このα−ジケトン化合物含有溶液は、任意の濃度で本発明のα−ジケトン化合物を含有することができ、例えば本発明のα−ジケトン化合物を、0.01〜20質量%、0.05〜10質量%、0.1〜5質量%の濃度で含有することができる。
【0081】
このα−ジケトン化合物含有溶液において使用可能な溶媒としては、本発明のα−ジケトン化合物を溶解できる任意の溶媒を用いることができる。例えば使用可能な溶媒としては、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、酢酸エチル等の非プロトン性極性溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1、4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン(すなわち1,3,5‐トリメチルベンゼン)等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;及びジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等の含ハロゲン溶媒を考慮することができる。
【0082】
《有機半導体膜の生成方法》
有機半導体膜を生成する本発明の方法は、下記のステップ(a)及び(b)を含む:
(a)本発明のα−ジケトン化合物含有溶液を、基材に塗布して、膜を作製するステップ、及び
(b)この膜に光を照射して、α−ジケトン化合物のビシクロα−ジケトン部分を分解してベンゼン環部分にし、それによって下記の式(I(a))の縮合多環芳香族化合物からなる有機半導体膜を得るステップ:
ArAr2(a)Ar (I(a))
(Ar及びArはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
Ar2(a)は、1個の複素芳香族環からなる置換又は非置換の複素芳香族環部分、及び2〜5個の複素芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合複素芳香族環部分から選択され、
ArとAr2(a)は、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成しており、且つ
Ar2(a)とArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成している)。
【0083】
この溶液の基材への塗布は、任意の様式で行うことができ、例えばキャスト法、スピンコート法、プリント法等によって行うこと等ができる。この溶液の基材への塗布は、単に溶液を基材に滴下して行うこともできる。
【0084】
α−ジケトン化合物から式(I(a))の縮合多環芳香族化合物を得るための光の照射においては、このような分解を達成することができる任意の波長及び/又は強度の光を照射することができる。ただし、一般的には、可視光〜紫外波長の光を用いて分解を達成することができる。
【0085】
なお、光照射と併せて又は光照射の後で、減圧及び/又は加熱を行って、式(I(a))の縮合多環芳香族化合物以外の不純物を除去するステップを更に含むことができる。この場合には、式(I(a))の縮合多環芳香族化合物を実質的に分解させない任意の条件を用いることができる。したがって例えば、40℃以上、60℃以上、80℃以上、100℃以上、120℃以上、又は140℃以上であって、200℃以下、220℃以下、240℃以下、260℃以下の温度で加熱を行うことができる。また、本発明のα−ジケトン化合物の分解及び/又は不純物の除去は例えば、真空下又は大気圧下において行うことができる。また更に、本発明のα−ジケトン化合物の分解及び/又は不純物の除去は例えば、窒素雰囲気下又は大気雰囲気下において行うことができる。特に、本発明のα−ジケトン化合物の分解及び/又は不純物の除去を、大気圧の大気雰囲気下において行うことは、プロセスを容易にするために好ましい。
【0086】
《有機半導体デバイスの製造方法》
有機半導体デバイスを製造する本発明の方法は、有機半導体膜を生成する本発明の方法によって有機半導体膜を生成するステップを含む。またこの方法は随意に、有機半導体膜の上側又は下側に、電極層及び/又は誘電体層を形成するステップを更に含むことができる。
【0087】
《有機半導体デバイス》
本発明の有機半導体デバイスは、有機半導体膜を有する有機半導体デバイスであって、有機半導体膜が、下記の式(I(a))の縮合多環芳香族化合物で作られており、且つ有機半導体膜が、本発明のα−ジケトン化合物を更に含有している:
ArAr2(a)Ar (I(a))
(Ar及びArはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
Ar2(a)は、1個の複素芳香族環からなる置換又は非置換の複素芳香族環部分、及び2〜5個の複素芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合複素芳香族環部分から選択され、
ArとAr2(a)は、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成しており、且つ
Ar2(a)とArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成している)。
【0088】
ここで、有機半導体膜が本発明のα−ジケトン化合物を含有していることは、有機半導体膜が検知可能な量で本発明のα−ジケトン化合物を含有していることを意味する。したがって例えば本発明のα−ジケトン化合物のモル比は、1ppm超、10ppm超、100ppm超、1,000ppm超、又は10,000ppm(1%)超であってよい。また、本発明のα−ジケトン化合物の割合は、10mol%以下、5mol%以下、3mol%以下、1mol%以下、0.1mol%以下、又は0.01mol%以下であってよい。
【0089】
このような本発明の有機半導体デバイスは、式(I)の縮合多環芳香族化合物と並んで本発明のα−ジケトン化合物を含有しているにもかかわらず、有機半導体デバイスとしての特性を有する。すなわち、本発明の有機半導体デバイスの有機半導体膜を本発明のα−ジケトン化合物から製造する場合、本発明のα−ジケトン化合物の熱脱離反応が完全には進行しなくても、本発明の有機半導体デバイスは半導体デバイスとしての特性を有する。これは、本発明の有機半導体デバイス又はその有機半導体膜の製造を容易にするために好ましい。
【0090】
特に本発明の有機半導体デバイスは、ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極、ゲート絶縁膜、及び有機半導体膜を有する薄膜トランジスタであって、ゲート絶縁膜によってソース電極及びドレイン電極とゲート電極とを絶縁し、且つゲート電極に印加される電圧によってソース電極からドレイン電極へと有機半導体を通って流れる電流を制御する薄膜トランジスタである。また特に本発明の有機半導体デバイスは、有機半導体膜を活性層として有する太陽電池である。
【実施例】
【0091】
目的化合物の構造は、必要に応じて1H−NMR(1H−核磁気共鳴スペクトル)、MS(質量分析スペクトル)、及び元素分析により決定した。使用した機器は以下のとおりである。
H−NMR :JEOL ECA−500 (500MHz)
MS :Shimazu QP−5050A
元素分析 :Parkin Elmer2400 CHN型元素分析計
【0092】
また、付加反応について行ったコンピュータシュミレーションでの条件は、下記の通りである。
【0093】
〈半経験手法〉
プログラム: MOPAC3.0
ハミルトニアン: AM1
構造最適化: EF法で構造最適化
【0094】
〈非経験手法〉
プログラム: Gaussian03
相関交換関数: B3LYP
基底関数系: 6−31G(d)
構造最適化: Bernyアルゴリズム
【0095】
このコンピュータシュミレーションでは、原料化合物の生成熱、及びこれらの化合物の付加生成物の生成熱を求め、それによってこの付加生成物を生成する反応の実現可能性を評価した。ここでは、原料化合物の生成熱の合計と、これらの化合物の付加生成物の生成熱との差(相対生成熱)の値が、−20kcal/mol(吸熱)よりも大きい場合、すなわち付加反応が発熱反応であるか又はわずかに吸熱反応である場合には、この付加生成物を生成する反応が実現可能であると考えられる。また、この相対生成熱の値が比較的小さく、例えば相対生成熱の値が−20kcal/molよりも大きい吸熱反応又は20kcal/mol以下の発熱反応である場合には、この付加反応が可逆的であると考えられる。なお、MOPACは炭素及び水素のみを考慮した場合には非常に信頼性が高いものの、それ以外の元素が含まれる場合には、Gaussianの信頼性が高い。
【0096】
《実施例1》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT)と炭酸ビニレン(VC(ビニレンカーボネート)、構造式を下記に示す)との付加反応を、上記の半経験手法(MOPAC)及び非経験手法(Gaussian)を用いるコンピュータシュミレーションによって確認した。
【0097】
【化23】

【0098】
結果を下記の表に示す。なお、上記の半経験手法(MOPAC)において、DNTTの生成熱は117.56kcal/molとし、VCの生成熱は−59.30kcal/molであるとした。
【0099】
【表1】

【0100】
表1の付加反応の反応条件における「光」及び「熱」はそれぞれ、光及び熱によって付加反応を進行させられることを意味している。
【0101】
表1の付加位置については、下記の化学式で示すとおりである。
【0102】
【化24】

M位:2−7
L位:4−5
Z位:3−6
T位:3−4、又は5−6
C位:7b−14b
【0103】
表1の結果からは、DNTTにVCを付加する付加反応が、実現可能であることが理解される。
【0104】
《参考例1A》
特許文献2に示される手法により合成したジナフトチエノチオフェン(DNTT、MW=340.46)500mg(1.47mmol)、N−フェニルマレイミド(PMI、MW=173.16、構造式を下記に示す)2.54g(14.7mmol、1000mol%DNTT基準)、ラジカル補足剤としてのヒドロキノン(MW110.1)16.2mg(N−フェニルマレイミド基準で1mol%)を、メシチレン溶媒中で混合し、窒素下において160℃で2時間にわたって撹拌した。これにより、DNTTとPMIとのディールス−アルダー付加反応を行った。
【0105】
【化25】

【0106】
反応後、ろ過により固形物を取得し、これをクロロホルムで洗浄した。この固形物は、NMRによりDNTT(原料)であることが確認された(収量422.3mg、収率84.5mol%)。
【0107】
ろ過液を、HPLC(高速液体クロマトグラフィ、Agilent 1100 Series HPLC:High Performance Liquid Chromatography, SHISEIDO CAPCELL PAK C18 TYPE UG120、溶媒:アセトニトリル/水)により分取し、DNTTにPMI1分子が付加した付加化合物113.2mg(DNTT−1PMI、Mw=513.63、収率15.0mol%)を得た。
【0108】
得られたDNTT−1PMIは、2種の立体異性体(それぞれ「立体異性体A」及び「立体異性体B」とする)の混合物であった。これらの立体異性体についての分析結果を下記に示す。なお、NMRの結果から、立体異性体Aがendo体であり、且つ立体異性体Bがexo体であると推定される。
【0109】
DNTT−1PMI(立体異性体A)
H−NMR(600MHz,CDCl): δ8.30 (S、1H )、8.23(S、1H)、7.95(m、1H)、7.89(m、1H)、7.50(m、2H)、7.47(m、2H)、7.25(m、2H)、7.12(t、J=7.3Hz,1H)、7.07(dd、J=7.3Hz、7.7Hz,2H)、6.50(d、J=7.7Hz、2H)、5.30(d、J=3.3Hz,1H)、5.22(d、J=3.3Hz,1H)、3.54(dd、J=3.3Hz,8.1Hz,1H)、3.51(dd、J=3.3Hz、8.1Hz、1H)
MS(70eV、DI): 514.10m/z
【0110】
DNTT−1PMI(立体異性体B)
H−NMR(600MHz,CDCl): δ8.33(s、1H)、8.25(s、1H)、7.97(m、1H)、7.90(m、1H)、7.49(m、2H)、7.42(m、1H)、7.40(m、1H)、7.31(m、1H)、7.30(m、2H)、7.26(m、2H)、6.53(m、2H)、5.22(d、J=3.3Hz、1H)、5.18 (d、J=3.3Hz、1H)、3.59(dd、J=3.3Hz,8.4Hz,1H)、3.56(dd、J=3.3Hz、8.4Hz、1H)
MS(70eV、DI): 513.05m/z
【0111】
質量分析(MS)の検出値はいずれも、DNTT−1PMI(Mw=513.63)と実質的に一致している。
【0112】
示差熱天秤分析(Rigaku TG−DTA TG8120)を用いて、窒素下において1℃/minの昇温分析を行って、DNTT−1PMI(立体異性体A及びB)の熱脱離特性を評価した。これによれば、DNTT−1PMI(立体異性体A)では、195℃から260℃の温度範囲において、重量減少が31.9wt%であった。また、DNTT−1PMI(立体異性体B)では、155℃から260℃の温度範囲において、重量減少が32.7wt%であった。結果を図4に示す。DNTT−1PMI(MW=513.63)から、PMIが逆ディールス−アルダー反応により熱脱離した場合、重量減少は−33.7wt%(計算値)であるので、DNTT−1PMI(立体異性体A及びB)での分析結果は、加熱によってPMIが脱離したことを示している。また、NMRによれば、熱脱離後の試料がDNTTと一致することが確認された。
【0113】
DNTT−1PMI(立体異性体A及びB)をそれぞれ用いて、下記のようにして、ボトムコンタクトボトムゲート型FET(Field effect Transistor)素子を作製した。得られた有機半導体素子の概略を図1に示す。この図1で示す有機半導体素子では、シリコンウェハーである基材(ゲート電極)7上に、酸化ケイ素である誘電体層5が形成されており、この誘電体層5上に、ソース及びドレイン電極2及び3、そして有機半導体1が積層されている。
【0114】
基材は、300nmのSiO酸化膜付nドープシリコンウェハー(面抵抗0.005Ω・cm)のSiO酸化膜上に、チャネル長50μm及びチャネル幅1.5mmのソース/ドレイン金電極を作製して得た(ボトムコンタクト)。
【0115】
この基材を50℃に加熱しながら、DNTT−1PMI(立体異性体A及びB)のクロロホルム3wt%溶液を、基材のチャネル部に滴下し、速やかに揮発させて膜を得、そしてこの膜を加熱して有機半導体膜を得た。ここで、DNTT−1PMI(立体異性体A)ついては、窒素下において、200℃で2時間の加熱を行った。また、DNTT−1PMI(立体異性体B)については、窒素下又は大気下において、160℃で2時間の加熱を行った。
【0116】
得られた有機半導体膜の特性を評価すると、p型半導体特性を示した。また、キャリア移動度は0.01〜0.0001cm/Vsであり、且つオン/オフ比は10〜10であった。すなわち、DNTT−1PMI(立体異性体B)については、窒素下において加熱を行った場合だけでなく、大気下において加熱を行った場合にも、半導体特性が得られた。電界効果トタンジスタ(FET)としての出力特性及び伝達特性をそれぞれ、図5及び6に示す。ここで、図5は、縦軸がドレイン電流(I(A))を示しており、横軸がドレイン電圧(V(V))を示している。また図6は、縦軸がドレイン電流(I(A))を示しており、横軸がゲート電圧(V(V))を示している。
【0117】
また、偏光顕微鏡によるチャネル部の観察によれば、加熱して有機半導体膜を得た後では、有機半導体膜の全面に微小な結晶が形成されていることが確認された。したがって、加熱によってDNTT−1PMIからPMIが脱離して、DNTTの結晶が生成していることが確認された。
【0118】
DNTT−1PMI(立体異性体B)から得られた有機半導体膜を有する上記のFET素子に関して、有機半導体膜中における残留DNTT−1PMI(立体異性体A及びB)の有無について、NMRにより確認した。結果を図7に示す。なお、この図7において、「DNTT」、「DNTT−1PMI(A)」、「DNTT−1PMI(B)」、及び「FET DNTT−1PMI(B)」はそれぞれ、DNTT、DNTT−1PMI(立体異性体A)、DNTT−1PMI(立体異性体B)、及びDNTT−1PMI(立体異性体B)から得られた有機半導体膜についての分析結果を示している。
【0119】
図5によれば、DNTT−1PMI(立体異性体B)から得られた有機半導体膜では、DNTTに相当するNMRピークのみでなく、DNTT−1PMI(立体異性体A及びB)両方に相当するNMRピークが観測される。すなわち、有機半導体膜中にDNTT−1PMI(立体異性体A及びB)が残留している場合であっても、十分な半導体特性を提供できることが確認された。ここで、DNTTは溶解性が低く、したがってNMRによってピークが観察されにくい。一方で、DNTT−1PMI(立体異性体A及びB)は溶解性が高いため、溶解分に相当したNMRピークが観測されている。このため、このNMR結果からは、有機半導体膜におけるDNTT−1PMIとDNTTとの比は判断できない。なお、図5の「DNTT」のピークは、ノイズが大きくなっていることから理解されるように、他のピークと比較して倍率を大きくしている。また、有機半導体膜での検出されているDNTT−1PMI(立体異性体A及びB)のNMRピークの大きさが、DNTTのピークと相対してほぼ同程度であることより、残留成分のDNTT−1PMI(立体異性体A及びB)は、微少量であることが分かる。
【0120】
《参考比較例1A》
単独のDNTTを0.2質量%の濃度でトルエンに加えたが、ほとんど溶解しなかった。したがって、単独のDNTTは、溶液法で用いることができなかった。
【0121】
《参考例1B》
ジナフトチエノチオフェン(DNTT)とN−フェニルマレイミドとの付加反応を、上記の半経験手法(MOPAC)及び非経験手法(Gaussian)を用いるコンピュータシュミレーションによって確認した。
【0122】
結果を下記の表に示す。なお、上記の半経験手法(MOPAC)において、DNTTの生成熱は117.56kcal/molとし、PMIの生成熱は5.83kcal/molであるとした。
【0123】
【表2】

【0124】
表2の付加位置については、下記の化学式で示すとおりである。
【0125】
【化26】

M位:2−7
C位:7b−14b
Z位:3−6
MM位:2−7及び9−14
ZZ位:3−6及び10−13
MZ位及びZM位:2−7及び10−13
【0126】
表2の結果からは、1分子のDNTTに1分子のPMIを付加する付加反応、及び1分子のDNTTに2分子のPMIを付加する付加反応が、実現可能であることが理解される。
【0127】
また、参考例1A及び1Bからは、ディールス−アルダー反応におけるコンピュータシュミレーションの適用の妥当性が理解される。
【0128】
《参考例2》
ナフトアルデヒド(NAL、構造式を下記に示す)とN−フェニルマレイミド(PMI、構造式を下記に示す)との付加反応を、上記の半経験手法(MOPAC)及び非経験手法(Gaussian)を用いるコンピュータシュミレーションによって確認した。
【0129】
【化27】

【0130】
同様にして、3−メチルチオ−2−ナフトアルデヒド(MTNAL、構造式を下記に示す)とN−フェニルマレイミド(PMI、構造式を下記に示す)との付加反応を、コンピュータシュミレーションによって確認した。
【0131】
【化28】

【0132】
結果を下記の表に示す。なお、上記の半経験手法(MOPAC)において、NALの生成熱は9.58kcal/molとし、MTNALの生成熱は12.28kcal/molとし、PMIの生成熱は5.83kcal/molであるとした。
【0133】
【表3】

【0134】
表3の付加反応の反応条件における「熱」は、熱によって付加反応を進行させられることを意味している。
【0135】
表3の付加位置は、下記のとおりである:
M位:1−4
Z位:8−5
【0136】
表3の結果からは、NALにPMIを付加する付加反応、及びMTNALにPMIを付加する付加反応が、実現可能であることが理解される。また、表3の結果からは、下記のEndo体及びExo体が、いずれも形成されることが理解される。
【0137】
【化29】

【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明によれば、溶液法を用いて、縮合多環芳香族化合物からなる有機半導体層及び有機半導体デバイスを形成することが可能になる。このような溶液法は一般に、製造コスト、製造速度等に関して好ましく、したがって本発明によれば、効率的に有機半導体層及び有機半導体デバイスを形成することが可能になる。
【符号の説明】
【0139】
1 有機半導体
2 ソース電極
3 ドレイン電極
5 誘電体層(酸化ケイ素)
7 シリコンウェハー基材(ゲート電極)
10 有機半導体素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I(a)−X)のα−ジケトン化合物:
Ar1XAr2(a)Ar3X (I(a)−X)
(Ar1X及びAr3Xはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、且つ前記芳香族環のうちの少なくとも1つが、下記の式(X)のビシクロα−ジケトン部分で置換されており:
【化1】

Ar2(a)は、1個の複素芳香族環からなる置換又は非置換の複素芳香族環部分、及び2〜5個の複素芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合複素芳香族環部分から選択され、
Ar1XとAr2(a)は、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成しており、且つ
Ar2(a)とAr3Xは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成している}。
【請求項2】
Ar2(a)が、置換又は非置換の下記の(a1)、(a3)及び(a4)からなる群より選択される縮合複素芳香族環部分である、請求項1に記載のα−ジケトン化合物:
【化2】

(Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択される元素)。
【請求項3】
Ar1X及びAr3Xがそれぞれ独立に、置換又は非置換の2〜4個のベンゼン環が縮合している縮合ベンゼン環部分から選択され、且つ前記ベンゼン環のうちの少なくとも1つが、前記ビシクロα−ジケトン部分で置換されている、請求項1又は2に記載のα−ジケトン化合物。
【請求項4】
Ar1X及びAr3Xがそれぞれ独立に、置換又は非置換の下記の(b1)〜(b4)の縮合ベンゼン環部分からなる群より選択され、且つ前記ベンゼン環のうちの少なくとも1つが、前記ビシクロα−ジケトン部分で置換されている、請求項3に記載のα−ジケトン化合物:
【化3】

【請求項5】
光照射によって前記ビシクロα−ジケトン部分を分解してベンゼン環部分にし、それによって下記の式(I(a))の縮合多環芳香族化合物を得ることができる、請求項1〜4のいずれかに記載のα−ジケトン化合物:
ArAr2(a)Ar (I(a))
(Ar及びArはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
Ar2(a)は、1個の複素芳香族環からなる置換又は非置換の複素芳香族環部分、及び2〜5個の複素芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合複素芳香族環部分から選択され、
ArとAr2(a)は、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成しており、且つ
Ar2(a)とArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成している)。
【請求項6】
前記式(I(a))の縮合多環芳香族化合物が有機半導体化合物である、請求項5に記載のα−ジケトン化合物。
【請求項7】
前記式(I(a))の縮合多環芳香族化合物が、置換又は非置換の下記の式(I−1)〜(I−5)の化合物からなる群より選択される、請求項6に記載のα−ジケトン化合物:
【化4】

(Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択される元素)。
【請求項8】
下記の式(I(a)−X1)〜(I(a)−X5)の化合物、又はその立体異性体である、請求項1に記載のα−ジケトン化合物:
【化5】

(Yはそれぞれ独立に、カルコゲンから選択される元素であり、且つ
縮合ベンゼン環部分は、置換又は非置換である)。
【請求項9】
前記置換が、それぞれ独立に、ハロゲン、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数2〜20のアルキニル基、炭素原子数4〜20の置換又は非置換の芳香族基、炭素原子数2〜10のエステル基、炭素原子数1〜20のエーテル基、炭素原子数1〜20のケトン基、炭素原子数1〜20のアミノ基、炭素原子数1〜20のアミド基、炭素原子数1〜20のイミド基、及び炭素原子数1〜20のスルフィド基からなる群より選択される置換基によってなされている、請求項1〜8のいずれかに記載のα−ジケトン化合物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のα−ジケトン化合物が有機溶媒に溶解されている、α−ジケトン化合物含有溶液。
【請求項11】
下記のステップ(a)及び(b)を含む、有機半導体膜の生成方法:
(a)請求項10に記載の前記α−ジケトン化合物含有溶液を、基材に塗布して、膜を作製するステップ、そして
(b)前記膜に光を照射して、前記α−ジケトン化合物の前記ビシクロα−ジケトン部分を分解してベンゼン環部分にし、それによって下記の式(I(a))の縮合多環芳香族化合物からなる有機半導体膜を得るステップ:
ArAr2(a)Ar (I(a))
(Ar及びArはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
Ar2(a)は、1個の複素芳香族環からなる置換又は非置換の複素芳香族環部分、及び2〜5個の複素芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合複素芳香族環部分から選択され、
ArとAr2(a)は、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成しており、且つ
Ar2(a)とArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成している)。
【請求項12】
(c)前記光照射と併せて又は前記光照射の後で、減圧及び/又は加熱を行って、前記式(I(a))の縮合多環芳香族化合物以外の不純物を除去するステップ、を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記分解及び/又は不純物の除去を大気下で行う、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれかに記載の方法によって有機半導体膜を生成するステップを含む、有機半導体デバイスの製造方法。
【請求項15】
有機半導体膜を有する有機半導体デバイスであって、前記有機半導体膜が、下記の式(I(a))の縮合多環芳香族化合物で作られており、且つ前記有機半導体膜が、請求項1〜9のいずれかに記載の前記α−ジケトン化合物を更に含有している、有機半導体デバイス:
ArAr2(a)Ar (I(a))
(Ar及びArはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
Ar2(a)は、1個の複素芳香族環からなる置換又は非置換の複素芳香族環部分、及び2〜5個の複素芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合複素芳香族環部分から選択され、
ArとAr2(a)は、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成しており、且つ
Ar2(a)とArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成している)。
【請求項16】
ソース電極、ドレイン電極、ゲート電極、ゲート絶縁膜、及び前記有機半導体膜を有する薄膜トランジスタであって、前記ゲート絶縁膜によって前記ソース電極及び前記ドレイン電極と前記ゲート電極とを絶縁し、且つ前記ゲート電極に印加される電圧によって前記ソース電極から前記ドレイン電極へと前記有機半導体を通って流れる電流を制御する薄膜トランジスタである、請求項15に記載の有機半導体デバイス。
【請求項17】
下記のステップ(a)〜(c)を含む、請求項1〜9のいずれかに記載のα−ジケトン化合物の合成方法:
(a)下記の式(I(a))の縮合多環芳香族化合物に、炭酸ビニレンがその二重結合を介して脱離可能に付加されてなる構造を有する、炭酸ビニレン付加縮合多環芳香族化合物を提供するステップ:
ArAr2(a)Ar (I(a))
(Ar及びArはそれぞれ独立に、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、
Ar2(a)は、1個の複素芳香族環からなる置換又は非置換の複素芳香族環部分、及び2〜5個の複素芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合複素芳香族環部分から選択され、
ArとAr2(a)は、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成しており、且つ
Ar2(a)とArは、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成している);
(b)前記炭酸ビニレン付加縮合多環芳香族化合物を加水分解して、前記炭酸ビニレンに対応する部分がα−ジオール部分に転化されたα−ジオール化合物を得るステップ:
(c)前記α−ジオール化合物を酸化して、前記α−ジオール部分をα−ジケトン部分に転化するステップ。
【請求項18】
ステップ(a)の前記炭酸ビニレン付加縮合多環芳香族化合物を、前記式(I(a))の縮合多環芳香族化合物に炭酸ビニレンを付加させることを含む方法によって製造する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ステップ(a)の前記炭酸ビニレン付加縮合多環芳香族化合物を、下記のステップ(a−1)〜(a−3)を含む方法によって製造する、請求項17に記載の方法:
(a−1)下記の式(I’)の化合物を提供すること:
ArQ (I’)
{Arは、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、且つ
Qは、下記の式を有し、且つArの縮合環の一部を構成している:
【化6】

(Yは、カルコゲンから選択される元素)};
(a−2)前記式(I’)の化合物に炭酸ビニレンを付加させて、炭酸ビニレン付加化合物を得るステップ;
(a−3)前記炭酸ビニレン付加化合物2分子を反応させ、又は前記炭酸ビニレン付加化合物1分子と前記式(I’)の化合物1分子とを反応させて、下記の式の化合物に1又は2つの炭酸ビニレンが付加した構造を有する化合物を得るステップ:
ArQ=QAr
{(Q=Qは、下記の構造を示す:
【化7】

(Yは、カルコゲンから選択される元素)};及び
(b)前記式ArQ=QArの化合物に1又は2つの炭酸ビニレンが付加した構造を有する化合物を、ヨウ素と反応させるステップ。
【請求項20】
下記の式(I(a)’)のα−ジケトン化合物:
Ar1XQ (I(a)’)
{Ar1Xは、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、且つ前記芳香族環のうちの少なくとも1つが、下記の式(X)のビシクロα−ジケトン部分で置換されており、且つ:
【化8】

Qは、下記の式を有し、且つAr1Xの縮合環の一部を構成している:
【化9】

(Yは、カルコゲンから選択される元素である)}。
【請求項21】
下記の式のいずれかの化合物、又はその立体異性体である、請求項20に記載のα−ジケトン化合物:
【化10】

(Yは、カルコゲンから選択される元素であり、且つ
ベンゼン環部分は、置換又は非置換である)。
【請求項22】
下記のステップ(a)及び(b)を含む、下記の式(I(a1)−X)のα−ジケトン化合物の製造方法:
Ar1XAr2(a1)Ar1X (I(a1)−X)
(Ar1Xは、2〜5個の芳香族環が縮合している置換又は非置換の縮合芳香族環部分から選択され、且つ前記芳香族環のうちの少なくとも1つが、下記の式(X)のビシクロα−ジケトン部分で置換されており:
【化11】

Ar2(a1)は、下記の式(a1)の縮合複素芳香族環部分(Yは、カルコゲンから選択される元素)であり、且つ
【化12】

Ar1XとAr2(a1)は、少なくとも2つの炭素原子を共有して縮合環を形成している);
(a)請求項20若しくは21に記載のα−ジケトン化合物2分子を反応させ、又は前記α−ジケトン化合物1分子と前記α−ジケトン化合物のビシクロα−ジケトン部分を分解してベンゼン環部分にした構造を有する化合物1分子とを反応させて、下記の式の化合物を得るステップ:
Ar1XQ=QAr1X
{(Q=Qは、下記の構造を示す:
【化13】

(Yは、カルコゲンから選択される元素)};及び
(b)前記式Ar1XQ=QAr1Xの得られた化合物をヨウ素と反応させるステップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−162510(P2011−162510A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29163(P2010−29163)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】