新規な温度及びpHに感受性のコポリマー
本発明は、少なくとも3つの型のモノマー単位を含むコポリマーに関し、この3つの型のモノマー単位は、温度感受性単位、親水性単位及び少なくとも1つのpH感受性部分を含む疎水性単位からなり、疎水性モノマー単位は共重合可能な不飽和脂肪酸に由来する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なコポリマーに関し、より詳細には、温度及びpHに感受性の両親媒性コポリマーに関する。本発明はまた、薬物送達に有用な新規なコポリマーを含む組成物、並びに選択された治療剤を動物又はヒトに提供するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
治療薬の精密な標的化、タイミング及び用量を提供する高度な製薬組成物及び薬物送達法の開発は、癌、HIV/AIDS、嚢胞性繊維症のような疾病による臓器特異的な治療においては複雑な要求により、一部では必要とされてきた。治療の複雑な要求に関与する幾らかの要素としては、そのような疾病の治療において使用される薬物の毒性、同薬物の治療上における制限された活性、並びに罹患された臓器への到達が不能であること及び同臓器の不均質性が挙げられる。
【0003】
薬物の送達、特に、低毒性であるとともに罹患された細胞への標的化が改善されている薬物担体の開発は進歩を遂げてきた。リポソーム、薬物−ポリマー結合体及びナノ粒子を含む、薬物送達を改善することができる幾らかの型の薬物担体が研究されてきた。
【0004】
ポリマー性のコア−シェル・ナノ粒子が、水に難溶性かつ両親媒性の薬物及び遺伝子を腫瘍部位に標的化するための優れたコロイド性担体として最近報告された(非特許文献1、2及び3)。ポリマー性のコア−シェル・ナノ粒子はサイズが小さく、通常200nm未満であり、疎水性薬物、遺伝子又はタンパク質を、疎水性相互作用、静電作用及び水素結合等によりその内側のコア中にて安定化させることができる一方で、その親水性のシェルが外部環境にさらされている。これは、封入された生物活性化合物を崩壊から効率的に保護し、細網内皮系(RES)による除去を回避することにより全身循環系における持続的な活性を可能にする。ポリマー性のコア−シェル・ナノ粒子を用いることにより、受動的及び能動的のいずれにおいても透過及び保持効果の向上(EPR効果)(非特許文献4)及びミセル表面上の識別信号の組み込み(非特許文献5)により標的化が達成されるか、又は温度及びpHのような生理学的環境における変化に感受性の高いポリマーを導入する標的化が達成され得る。
【0005】
温度感受性ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)から構成されたシェルを有するポリマー性ナノ粒子は、ポリマーの温度反応性ゆえに近年かなり注目されてきた。PNIPAAmは水溶液中にて約32℃という下限臨界溶液温度(LCST)を呈しており、その温度より低い温度ではポリマーは水溶性であり、かつその温度より高い温度では不溶性である(非特許文献6)。ポリマーが温度感受性であることは、薬物担体を熱的に標的化する手段を好適に提供する。
【0006】
オカノ(Okano)らは、PNIPAAm−b−ポリ(ブチルメタクリレート)及びPNIPAAm−b−ポリ(D,L−ラクチド)ブロックコポリマーに由来するアドリアマイシン封入ミセル構造体の合成を報告している(非特許文献7及び非特許文献8)。コア−シェル・ナノ粒子はLCST未満で良好に形成されるが、LCSTより高い温度にて変形される。薬物の放出は局所的な加熱と冷却のサイクルの組み合わせにより調整される。しかしながら、深い組織又は腫瘍の標的化において温度の調整のみでは不十分であることが明らかとなった。
【0007】
温度感受性薬物担体の1つの代替物はpH感受性薬物担体である。例えば、最も固形化した腫瘍の細胞外のpHは5.7乃至7.8の範囲である(非特許文献9)である一方、腫瘍の間質液のpHはまれにしかpH6.5未満とはならない。そのような狭い範囲のpHを備えた薬物担体を提供することは1つの課題である(非特許文献10)。
【0008】
チェン(Chen)及びホフマン(Hoffman)は、NIPAAm及びアクリル酸のコポリマーの合成並びにそのpH依存性LSCTを報告しており、薬物の標的化におけるその可能性の見込まれる用途を提唱している(非特許文献11)。更に最近では、ポリ(L−ヒスチジン)−b−ポリ(エチレングリコール)(PEG)から形成されたコア−シェル・ナノ粒子がpH感受性であり、封入された薬物であるドキソルビシン(DOX)を7.4乃至6.8のpHにて放出したことが報告されている(非特許文献12及び非特許文献13)。酸性の環境はコア−シェル・ナノ粒子の不安定化を誘引し、腫瘍組織にて封入された薬物分子を放出する。
【0009】
特許文献1は、疎水性のコアと親水性のシェルを有するポリマー性ミセルから構成されたコロイド状組成物の使用を開示している。pH及び温度に感受性のミセルはNIPAAm、メタクリル酸及びオクタデシルアクリレートのコポリマーに由来する。温度感受性及びpH感受性の部分は、ミセルのシェルに存在している。
【0010】
そのような開発がなされているにも関わらず、現在の薬物担体には、その性能を改善するための継続的な努力を必要とするような制約が存在している。
【特許文献1】国際公開第01/87227A2号パンフレット
【非特許文献1】カタオカ(Kataoka)ら、Advanced Drug Delivery Rev.、47、2001年、113−131頁
【非特許文献2】ブイ.ピー.トルチリン(V.P.Torchilin)、J.Control.Rel.、73、2001年、137−172頁
【非特許文献3】アレン(Allen)ら、Cool.Surf.B:Biointerfaces、16、1999年、3−27頁
【非特許文献4】マツムラ(Matsumura)ら、Cencer Research、46、1986年、6387−6392頁
【非特許文献5】カバノフ(Kabanov)ら、FEBS Lett.、258、1989年、343−345頁
【非特許文献6】テイラー(Taylor)ら、J.Polym.Sci.:Polym.Chem.Ed.、13、1975年、2551−2570頁
【非特許文献7】チャン(Chung)ら、J.Control.Rel.、62、1999年、115−127頁
【非特許文献8】コホリ(Kohori)ら、Colloids and Surfaces B:Biointerfaces、16、1999年、195−205頁
【非特許文献9】バウペル(Vaupel)ら、Cancer Research、41、1981年、2008−2013頁
【非特許文献10】ドルモンド(Drummond)ら、Progress in Lipid Research、39、2000年、409−460頁
【非特許文献11】チェン及びホフマン、Nature、373、1995年、49−52頁
【非特許文献12】リー(Lee)ら、J.Control.Rel.、90、2003年、363−374頁
【非特許文献13】リーら、J.Control.Rel.、91、2003年、103−113頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、pH及び温度の感受性が改善された薬物担体として使用することのできるポリマー性化合物を提供すること及び薬物送達の性能を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、薬物送達用材料として使用可能なpH及び温度に感受性のコポリマーを提供する。一態様において、本発明は、少なくとも3つの型のモノマー単位からなるコポリマーに関し、同3つの型のモノマー単位は、温度感受性単位、親水性単位及び少なくとも1つのpH感受性の部分を含む疎水性単位を含み、同疎水性モノマー単位は共重合化が可能である不飽和脂肪酸に由来する。
【0013】
別の態様において、本発明は、温度及びpH感受性組成物に関し、同組成物は、治療剤と、少なくとも3つの型のモノマー単位からなるコポリマーを含み、同3つの型のモノマー単位は、温度感受性単位、親水性単位及び少なくとも1つのpH感受性の部分を含む疎水性単位を含み、同疎水性モノマー単位は共重合化が可能である不飽和脂肪酸に由来する。
【0014】
更に別の態様において、本発明は選択された治療剤を動物又はヒトに提供する方法を提供し、同方法は、動物又はヒトに温度及びpH感受性組成物を投与する工程を含み、同組成物は治療剤と、少なくとも3つの型のモノマー単位からなるコポリマーを含み、同3つの型のモノマー単位は、温度感受性単位、親水性単位及び少なくとも1つのpH感受性の部分を含む疎水性単位を含み、同疎水性モノマー単位は共重合化が可能である不飽和脂肪酸に由来し、同コポリマーは疎水性コアと親水性シェルとからなる少なくとも1つのナノ粒子に調製され、かつ同治療剤は同疎水性コアの内部に包含される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のこれらの態様は、以下の詳細な説明、図面及び非限定的な実施例を考慮してより完全に理解されるであろう。
本発明は、疎水性かつpH感受性の官能基として脂肪酸を組み込んだコポリマーから得られたコア−シェル・ナノ粒子が薬物担体として優れた特性を有するという知見に基づくものである。本発明のコポリマーは疎水性のコアを含むコア−シェル構造体に自身でアセンブリ可能であり、同構造体において、脂肪酸のような疎水性の部分がコポリマーの親水性部分からなる親水性のシェルにより包囲されて配置されている。薬物は、コア内に物理的に封入されるか若しくは化学的に結合されて取り込まれる。これらのナノ粒子は、環境のpHの狭い範囲の変化に対応してその物理的な形態を変更することが可能であり、同ナノ粒子の疎水性コアに封入された薬物を結果として解放する。
【0016】
本発明のコポリマーの1つの利点は、これらのコポリマーから形成されたコア−シェル・ナノ粒子の下限臨界溶液温度(LCST)が環境pHに依存していることにあり、それはコア−シェル・ナノ粒子の構造的が変形が環境pHの変化により誘引されることを意味する。この特性は環境が特徴的に酸性である器官又は腫瘍組織の標的化に使用することができる。通常の生理学的なpHにおいて、コア−シェル・ナノ粒子は通常の体温(約37℃)より大きいLCSTを有する。しかしながら、わずかに酸性の環境では、ナノ粒子のLCSTは通常の体温よりも低い。これは、コア−シェル・ナノ粒子が生理学的な環境においては安定であるが酸性環境においては不安定であるか若しくは凝集することを意味する。
【0017】
理論と結びつけるつもりはないが、コポリマーの疎水性かつpH感受性の部分として脂肪酸を使用することにより本発明のコポリマーにより大きなpH感受性を与えることができると考えられる。pH感受性の官能基は脂肪酸の疎水性セグメントと結合され、それらはコア−シェル・ナノ粒子のコアに組み込まれることを意味する。これらのポリマーから形成されたコア−シェル・ナノ粒子はゆるく集合されており(packed)、それによりpH感受性の官能基はナノ粒子のコアに配置されているにもかかわらず外部環境とアクセスすることができる状態となっている。外部環境のpHが変化すると、pH感受性官能基も変化する、即ち、例えばイオン化または脱イオン化される。これにより脂肪酸の疎水性が変化し、よってナノ粒子のLCSTが変化し、薬物分子を放出する。更に、脂肪酸は天然の化合物であるので、それらは生体適合性が非常に高いと考えられ、人体における毒性が非常に低いものであると考えられる。
【0018】
本発明のコポリマーは、少なくとも3つの型のモノマー単位を含む。「モノマー単位(monomeric unit)」なる用語はポリマーに重合化されるモノマーを参照することを本明細書にて明確に記載したい。これは、ポリマーに重合化された特定の分子全体を指す「モノマー(monomer)」なる用語とは区別される。
【0019】
本発明のコポリマーに必要とされる1つの型のモノマー単位は温度感受性/応答性単位である。本発明において、温度感受性のモノマー単位は、コポリマーに対して温度感受性を与えるために使用され、温度感受性コポリマーを形成する。温度感受性コポリマーは典型的には、相転移温度としても知られている固有のLCST又はUCST(上限臨界溶液温度)を呈する。固有のLCSTを有するコポリマー(以下においては「LCSTシステム」として知られる)はLCSTより上では水に不溶性である一方、固有のUCSTを有するコポリマーはUCSTより低い温度にて不溶性である。この特徴は、温度の変化が臨界溶液温度を超えて起こった場合、或いはコポリマーの臨界溶液温度が例えばpH変化に対応して静的環境温度を超えてシフトした場合のいずれかにおける、ポリマーのコンフォーマルな変化により証明されている。一般的に、大部分の薬物送達の用途はLCSTシステムを使用する。環境温度がLCST以上となった場合、突然の収縮及びそれによるLCSTシステムの不溶性は本発明のコポリマーの水相を放出し、疎水性の相とするために、細胞膜との相互作用を容易にする。更に、温度感受性モノマー単位は、アクリルアミド(AAm)のような親水性コモノマー又はその他の型の改質コモノマーと共重合されて、より高い、若しくはより低いLCSTを達成する。そのようなコポリマーは薬物の放出速度を制御するための機能的な薬物送達材料として応用され得る。
【0020】
本発明の使用に適した温度感受性モノマー単位は、例えば、第1級、第2級若しくは第3級アミノ基、アミド基、カルボキシル基、カルボニル基、または水酸基のようなひとつ以上の極性官能基を有しており、それらの全ては本来極性を有する。一般的に、極性官能基が存在することにより、温度感受性のモノマー単位はまた生来的に親水性となる。本発明にて使用され得る温度感受性モノマー単位の例としては、置換されたアクリルアミド、アクリレート、ピロリドン、ピペリジン及びセルロースのようなモノマーに由来するモノマー単位を含む。適切な温度感受性モノマー単位の特殊な例としては、例えば、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)、N−ヒドロキシプロピルアクリレート、N−アクリロイルピロリドン(APy)、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルピペラジン、ヒドロキシ−メチルセルロース、N−t−ブチルアクリルアミド、N−ピペリジル−メタクリルアミド、を含むがそれらに限定されるものではない。本発明の温度感受性モノマー単位として使用される現在好ましいモノマーはNIPAAmである。NIPAAmのモノマー単位を含むポリマーは非常に温度感受性が高く、負の温度感受性を呈し(即ち、LCSTシステム)、それらはそのLCST未満に温度が下がると水溶性となることを意味する。
【0021】
本発明のコポリマーにおいて必要とされる別の型のモノマー単位は親水性単位である。一般的に、親水性のモノマー単位は本発明のコポリマーのLCSTを改質する/シフトするための手段を提供する。親水性単位は温度感受性親水性単位よりも比較的親水性であるので、コポリマーのLCSTは増大する:逆に、比較的親水性単位が少ない場合又は疎水性単位が存在する場合、コポリマーのLCSTは低くなる。本発明に適した親水性モノマー単位は任意の適切な共重合可能なモノマーを含み、同モノマーは、例えば第1級、第2級又は第3級アミノ基、アミド基、スルフヒドリル基、カルボキシル基、カルボニル基又は水酸基のような1つ以上の極性官能基を有する。極性官能基も存在しており、故に生来的に親水性である温度感受性モノマー単位に対して、本発明にて必要とされる親水性モノマー単位は温度感受性である必要はない。
【0022】
ある実施形態において、親水性モノマー単位は温度感受性親水性単位と比較してより親水性である。これは得られたコポリマーのLCSTを増大するために供される。これらの実施形態に存在する親水性モノマー単位は以下のモノマー:アクリル酸、アクリルアミド、アクリレート、ピロリドン、エチレングリコール及びそれらの誘導体、に由来するがこれらに限定されるものではない。特殊な実施形態において、親水性モノマー単位は、アクリルアミド(AAm)、N,N’−ジメチルアクリルアミド(DMAAm)及びN−(ヒドロキシメチル)アクリルアミドを含むアクリルアミド及びN−置換アクリルアミド誘導体モノマーに由来するが、これらに限定されるものではない。本発明のコポリマー中にDMAAmが存在している好ましい実施形態において、熱感受性が高められ、それにより体温におけるより小さな温度変化に応答して、「オン−オフ」薬物放出を可能にする。付随的に、本発明のコポリマー中にNIPAAm及びDMAAmを備えることにより、本発明のコポリマーのLCSTが(37℃よりわずかに高い温度まで)上昇する。生理学的な条件下においてコポリマーのLCSTが体温よりわずかに高いポリマーを使用することが一般的には望ましい。通常の生理学的なpH(典型的には7.4)から7.2以下までの環境pHの変化が、通常体温より高い値から通常体温より低い値までLCSTを移行させることが可能である限り、LCSTの上限は必要ではないと考えられる。
【0023】
本発明のコポリマーにおいて必要とされる第3の型のモノマー単位は、共重合可能な不飽和脂肪酸に由来する疎水性単位であり、少なくとも1つのpH感受性の部分を含む。少なくとも1つのpH感受性官能基を有する任意の適切な不飽和脂肪酸が本発明において使用可能である。適切な不飽和脂肪酸はすべての天然の及び人工的に改質/合成された脂肪酸を含み、かつ1,2,3,4,5,6,7,8又はそれ以上の炭素二重結合及び/又は三重結合を有するすべてのモノ不飽和脂肪酸及びポリ不飽和脂肪酸、並びにそのシス型異性体及びトランス型異性体の全てを含む。脂肪酸の不飽和部分、即ち、炭素−炭素二重結合部分は、同脂肪酸の主たる炭素鎖の任意の位置に存在し得る。
【0024】
不飽和脂肪酸の炭化水素鎖はコポリマーの主たる疎水性部分を構成する。疎水性部分は、本発明のコポリマーに疎水性の性質を与えることに寄与する。疎水性部分はコア−シェル構造体を形成するために必要であり、抗癌剤分子のようなその他の疎水性材料とコポリマーとの相互作用を可能にする。適切な脂肪酸の炭化水素鎖は、典型的には天然の脂肪酸(分岐したアルキル鎖を含む)に見出される直鎖の分岐していないアルキル鎖を含み得る。例えば、カルボン酸、アミン及び水酸基のような官能基で選択的に置換された環状若しくは分岐状アルキル鎖の場合もある。官能基の位置に関してはいかなる制限もない。カルボン酸は特にコポリマーにpH感受性を提供するとともに適切なリガンドと結合することを可能にする。脂肪酸に存在する任意のその他のpH感受性官能基もまたこれらの機能に供され得る。
【0025】
一実施形態において、本発明のコポリマーは以下の構造式(I)を有する:
【0026】
【化1】
上記式において定義されたA、B及びCは、それぞれランダムに、温度感受性単位、親水性単位及び疎水性単位である共重合されるモノマー単位、又はそのポリマーブロックを示している。Xは脂肪酸の疎水性セグメントと直接結合するカルボン酸官能基を示す。
【0027】
別の実施形態において、不飽和脂肪酸は(包含的に)5乃至50以上の主鎖炭素原子を含むものからなる。この実施形態において、脂肪酸は1つの炭素−炭素二重結合を含み、モノ不飽和脂肪酸であることを意味する。疎水性モノマー単位が由来する特殊なモノマーは、例えば、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸及びドデセン酸を含む。脂肪酸の炭素−炭素二重結合の位置に特別な制限はない。
【0028】
現在のところ好ましいモノ不飽和脂肪酸は、(Z)−9−テトラデセン酸、(E)−9−ヘキサデセン酸、(Z)−9−ヘキサデセン酸、(E)−9−オクタデセン酸、(Z)−9−オクタデセン酸、(Z)−11−オクタデセン酸、(Z)−11−エコセン酸(Ecosenoic acid)、(Z)−13−ドコセン酸及び(Z)−15−テトラコセン酸からなる群より選択される脂肪酸を含むが、それらに限定されるものではない。
【0029】
一実施形態において、モノ不飽和脂肪酸はオメガ−1脂肪酸であり、脂肪酸のカルボン酸官能基の位置の反対側にある端部の最初の炭素原子と二番目の炭素原子との間に二重結合が存在しているものを意味する。オメガ−1脂肪酸を使用する利点は、炭素−炭素間の二重結合が嵩高いアルキル鎖に立体的に妨害されないので必要とされる温度感受性モノマー単位及び親水性モノマー単位と同脂肪酸とが容易に共重合される点にある。現在好ましいオメガ−1脂肪酸は、4−ペンテン酸、7−オクテン酸、10−ウンデセン酸、15−ヘキサデセン酸及び19−エコセノン酸からなる群より選択される。
【0030】
別の実施形態において、脂肪酸は少なくとも2つの炭素−炭素二重結合を含み、脂肪酸はポリ不飽和であることを意味する。適切なポリ不飽和脂肪酸はオメガ−3、オメガ−6、及びオメガ−9脂肪酸並びにその他の型の脂肪酸を含む。本発明に使用され得るポリ不飽和脂肪酸の適切な例は、(E,E)−9,12−オクタデカジエン酸、(Z,Z)−9,12−オクタデカジエン酸、(E,E)−9,11−オクタデカジエン酸、(Z、Z,Z)−9,12,15−オクタデカトリエン酸、(Z、Z,Z)−6,9,12−オクタデカトリエン酸、(Z,Z,Z,Z)−6,9,12,15−オクタデカテトラエン酸、(Z,Z)−11,14−エコサジエン酸、(Z,Z,Z)−5,8,11−エイコサトリエン酸、(Z,Z,Z)−11,14,17−エイコサトリエン酸、(Z,Z,Z)−8,11,14−エイコサトリエン酸、(Z,Z,Z,Z)−8,11,14,17−エイコサテトラエン酸、(Z,Z,Z,Z)−5,8,11,14−エイコサテトラエン酸、(Z,Z,Z,Z,Z)−5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸、(Z,Z)−13,16−ドコサジエン酸、(Z,Z,Z)−13,16,19−ドコサトリエン酸、(Z,Z,Z,Z)−7,10,13,16−ドコサテトラエン酸(Ocosatetraenoic acid)、(Z,Z,Z,Z,Z)−4,7,10,13,16−ドコサペンタエン酸、(Z,Z,Z,Z,Z)−7,10,13,16,19−ドコサペンタエン酸、(Z,Z,Z,Z,Z、Z)−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸及び(Z,Z,Z,Z,Z,Z)−6,9,12,15,18,21−テトラコサヘキサエン酸を含む。
【0031】
本発明のコポリマーは上述の3つの型のモノマー単位のみを含むか、あるいは付随的にその他の型のモノマー単位を含み得る。例えば、NIPAAm及びN−t−ブチルアクリルアミド、又はNIPAAm及びN−ピペリジル−メタクリルアミドのような二つ以上の温度感受性モノマー単位を使用することも可能である。同様に、DMAAm及びAAm、又はDMAAm及びAPyのような二つ以上の親水性モノマー単位を使用することも可能である。その他の型のモノマー単位はまた、コポリマーの物理化学的特性を調整するか、若しくは更なるリガンドとの結合のための官能基又はスペーサを導入するためにコポリマー骨格に組み込むことが可能であり、これらのモノマー単位は、例えばN−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド又はヘテロ2官能基PEGを含む。
【0032】
本発明のコポリマーは、3つの主要な型のモノマー単位、即ち、温度感受性モノマー単位、親水性モノマー単位及び疎水性単位がコポリマー内にランダムに分配されているランダムコポリマーであり得る。コポリマーは、ジブロック若しくはトリブロックコポリマーのようなブロックコポリマー並びにブロック−グラフトコポリマーとしても合成され得る。一実施形態において、温度感受性モノマー及び親水性モノマーは1つのブロックのポリマーを形成するために共重合され、かつ親水性モノマーは別のブロックのポリマーを形成するために共重合され、それによりジブロックコポリマーを形成する。
【0033】
一実施形態において、コポリマーは更に少なくとも1つの末端基を含む。末端基は、終端部、リガンド、薬物分子、タグ、ラジオイムノ結合体、コポリマーの物理化学的特性を改質するための部分及びスペーサ(リンカー)からなる群より選択される少なくとも1つの部分を含む。
【0034】
特殊な実施形態において、本発明のコポリマーは以下の式(II)に従う構造を有する終端部を構成する末端基を含む:
【0035】
【化2】
ここでYは終端部である。
【0036】
本実施形態において、末端基は、コポリマーの炭素骨格(即ち、モノマー単位を結合する炭素鎖)の末端炭素原子に結合され得る。典型的には、終端部は、所望の末端構造を含む連鎖移動剤を反応するモノマーの混合物に加えることによりコポリマーに導入されるか、或いはリビング重合法により生成される。連鎖移動剤は「クエンチング」原子を成長する鎖の端部にて活性ラジカルに提供することにより成長するポリマー鎖の同成長を停止することができる。同様に、未反応のモノマーを攻撃し、よって新たな鎖の成長を開始するラジカルとして残される。従って、連鎖移動剤は、本発明においては、適切な反応性官能基をコポリマーに提供するため、及び低分子量のポリマーを得るために使用され得る。連鎖移動剤の例としては、クロロホルム、四塩化炭素、アミノエタンチオール、アルキル−メルカプタン、オクタンチオール、デカンチオール、n−ドデカンチオール又はt−ドデカンチオール、メルカプト−プロピオン酸、メルカプト−コハク酸、チオグリコール酸、そのメルカプトエタノール第2級アルコール、アルキルハライド、酸化数が5未満のリン酸塩、及び当業者に周知のその他の添加物/鎖制限剤を含む。本発明において使用され得るその他の連鎖移動剤の例としては、溶媒、不純物又は適切な改質剤を含む。
【0037】
更なる実施形態において、終端部は水酸基、カルボキシル基、カルボニル基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を含む。アミノ基は現在のところ好ましいものであり、第1級アミノ基及び第2級アミノ基を含む。アミノ基は例えば、コポリマーの末端に結合されるアルキルチオール基、例えば2−アミノエタンチオール又は2,2−ジアミノ−エタンチオール、に存在している。終端部にアミノ基が存在していることによりポリマー及び標的となる官能基の修飾が可能となり、同修飾は例えば、それらに限定されるものではないが、小さな標的分子(例えば、葉酸、その他のビタミン及びアセチルコリン等)、タンパク質(例えば、トランスフェリン及びモノクロナール/ポリクロナール抗体等)、ペプチド(例えばTAT)及び炭水化物(例えばガラクトース及び多糖)を含むリガンドとの結合によりなされ、所望の細胞、組織又は器官において特異的なレセプターにより認識され得る。加えて、アミノ基はまた、薬物又はタグ(例えば、関心のある生物学的な系においてナノ粒子を視認又は精製するための蛍光プローブ)又はラジオイムノ結合体、又は、例えばポリマーの疎水性を増大するために疎水性セグメントを付着するためにポリマーの特性を改質する化学部分と結合され得る。
【0038】
終端部Yは、タンパク質のような、リガンド、タグ、ラジオイムノ結合体、薬物又はその他の化学部分に存在する官能基と反応する官能基となるように適合され得ることは当業者に理解されるであろう。例えば、1つ以上のカルボン酸官能基が選択されたリガンドに存在している場合、アミノ基を有する終端部が結合を容易にするために使用され得る。逆に、アミノ基を含む生物学的な分子はカルボン酸官能基を有する終端部に取り付けられ得る。
【0039】
標的のセレプターの生物学的な認識に適した官能基を提供するために、コポリマーは同コポリマーに存在する官能基と結合することができる1つ以上のリガンドと結合され得る。使用され得るリガンドは、小さな標的分子、タンパク質、ペプチド及び炭水化物を含むがそれらに限定されるものではない。
【0040】
一実施形態において、末端基は終端部及びリガンドから構成されている。リガンドを保持するコポリマーは生体内の所望の組織又は細胞の特異的な型若しくは部分を効率的に標的化するために使用され得る。コポリマーの標的化の効率は本発明のコポリマーのpH感受性により高められる。
【0041】
本発明のコポリマーと結合するために使用され得るリガンドは、小さな標的分子(例えば、葉酸、その他のビタミン及びアセチルコリン等)、タンパク質(例えば、トランスフェリン及びモノクロナール/ポリクロナール抗体等)、ペプチド(例えばTAT)及び炭水化物(例えばガラクトース及び多糖)を含むが、それらに限定されるものではない。1つのコポリマーに存在する生物学的に活性を有するリガンドの数は、1、2、3、4、5、又はそれ以上の数の範囲にある。
【0042】
本発明における使用が意図されている成長因子(タンパク質及びペプチド)の例としては、血管内皮成長因子(VEGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、繊維芽細胞成長因子(FGFs)、形質転換成長因子−b(TGFs−b)、形質転換成長因子−a(TGF−a)、エリスロポエチン(Epo)、インスリン様成長因子−I(IGF−I)、インスリン様成長因子−II(IGF−II)、インターフェロン−g(INF−g)、コロニー刺激因子(CSFs)を含む。使用が意図されているサイトカイン(タンパク質)は、リンフォカイン及びモノカインを含み、例としてはインターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)が含まれる。癌が治療されるべき疾病である場合、選択されたリガンドは、好ましくは癌細胞の特異的レセプターによって認識されるべきである。本発明のコポリマーとともに使用されることが意図されている特異的な型の癌細胞レセプターのリガンドは、葉酸、ターグレチン、アリトレチノイン、大腸菌毒、C3開裂フラグメント(C3d、C3dg及びiC3b)、エプスタイン−バーウィルスgp350/220及びCD23を含み、本発明のコポリマーと結合され得る。抗体もまた癌細胞リガンドとして使用可能であり、当業者に周知の、マウス、ウサギ、ニワトリ、ヤギ及びヒツジから得られるモノクロナール及びポリクロナール免疫グログリン、及びFuフラグメント、scFuフラグメント、Fabフラグメントのような組換え抗体、又は二重特異性抗体を含み得る。使用を意図されているサイトカインは、TNFファミリーのサイトカインを含み、腫瘍壊死因子−a(TNF−a)、腫瘍壊死因子−b(TNF−b)、Fasリガンド(FasL)及びTNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)を含む。その他の適切なリガンドは、トランスフェリン、アセチルコリン、ビオチンラベル及び葉酸を含む。リガンド又は本発明のコポリマーの前修飾(例えば、リガンド上の相補的な官能基と反応する官能基を組み込むことによって)は、必要に応じて実施され得る。
【0043】
別の実施形態において、末端基は、終端部、リガンド、タグ、薬物分子、ラジオイムノ結合体又は任意のその他の化学部分(例えば、コポリマーの物理化学的特性を改質するための部分)から構成される群より選択され得る。
【0044】
リガンド、薬物、タグ、ラジオイムノ結合体又はその他の化学部分を組み込むコポリマーは、式(III)に従う一般的な構造を含み得る:
【0045】
【化3】
終端部Yは、上式に示されるように、Qにより示されるリガンド、タグ、薬物、ラジオイムノ結合体又は化学部分に結合され得る。
【0046】
リガンド、タグ、薬物、ラジオイムノ結合体又は化学部分は終端部に限定的に結合されてはいない。その他の実施形態において、リガンド、タグ、薬物、ラジオイムノ結合体又は化学部分は、温度感受性単位又は親水性単位に配置される官能基に連結又は結合され得る。代替的に末端基は、終端部Yに代えて親水性単位又は温度感受性単位の官能基のようなモノマー単位の任意の1つに結合され得る。そのような実施形態において、終端部は存在しているかもしれないし、していないかもしれない。本実施形態は、以下の式(IV)及び(V)にて示される:
【0047】
【化4】
本実施形態において、Pはリガンド、タグ、薬物、ラジオイムノ結合体又は化学部分であり得る。
【0048】
別の実施形態において、薬物分子(例えば、ドキソルビシン)のような疎水性分子P’又はコポリマーの疎水性を改質するための部分は、Xに結合されている。その際、コポリマーは疎水性分子がコア内に配置されているコア・シェル構造体に配置され得る(式(VI)):
【0049】
【化5】
上記式(III)、(IV)、(V)及び(VI)に示される実施形態において、スペーサ−s−はリガンド、タグ、ラジオイムノ結合体、薬物又は化学部分と終端部との間に選択的に配置され得る(式IIIs):
【0050】
【化6】
或いは、選択的にBとPとの間に配置され得る(式IVsを参照):
【0051】
【化7】
或いは、選択的にAとPとの間に配置され得る(式Vsを参照):
【0052】
【化8】
或いは、選択的にP’とカルボニル基との間に配置され得る(式VIsを参照)。
【0053】
【化9】
P、P’及びQはそれぞれ、以下の式(VII)に例示されているように、単一のコポリマー内の、終端部(Y)及び親水性モノマー単位Bの官能基の両方、又はB及びX、又はX及びY、又はX及びA、又はY及びA、又はA及びB、或いはA、B、X及びYのうちの任意の3つとそれぞれ結合され得る。
【0054】
【化10】
上式(VII)の各スペーサ−s−は同じであるか、又は異なっている。
【0055】
スペーサは、コポリマーのナノ粒子への自己アセンブリの後に、リガンド、タグ又はラジオイムノ結合体が、細胞、組織又は器官に自由にアクセスできるものである限り、任意の適切な長さ又は数の主鎖原子を有し得る。
【0056】
好ましい実施形態において、1つのスペーサが使用され、そのスペーサは10を超える主鎖原子を含む。そのようなスペーサの例は例えば、ポリ(エチレングリコール)及びポリ(プロピレングリコール)のようなポリオキシアルキレン化合物に由来し得る。リガンド、タグ又はラジオイムノ結合体は、スペーサ分子上の任意の位置に存在し得る。一実施形態において、リガンド、タグ又はラジオイムノ結合体は、スペーサ分子の末端主鎖原子に配置された官能基に結合される。その他の実施形態において、リガンド、タグ又はラジオイムノ結合体は、存在する場合はスペーサ分子の側鎖の任意の1つに配置された官能基に結合される。
【0057】
本発明のコポリマーは、薬物送達、特に本来疎水性である薬物の送達のための材料として有利に使用され得る。コポリマーが本来両親媒性であり、かつコポリマーの水に対する溶解性が温度及び/又はpHの変化により操作可能であるので、疎水性の薬物は本発明のコポリマーを使用して、典型的にはコア−シェル・ナノ粒子として周知のコア−シェル構造体内に簡便に包まれる。本発明の組成物は、コポリマーのLCST未満にて水相にて調製される場合、コポリマー及び疎水性薬物はコア−シェル配列に自身にてアセンブリされ、それにより疎水性薬物はコアに配置され、同コアにて脂肪酸モノマー単位の疎水性セグメントと反応する。温度感受性モノマー単位及び親水性モノマー単位はシェル内に配置され、溶媒(水)分子又はその他の極性分子と反応し、それにより疎水性薬物を水相に溶解する。このようにして、疎水性薬物は水に溶けるようになり、血流に運ばれる。疎水性セグメント(即ち、脂肪酸単位)にカルボン酸基が存在しているので、親水性薬物、タンパク質又はペプチドはまた、ナノ粒子のコア内に封入され、封入された薬物、タンパク質及びペプチドを崩壊から保護し、細網内皮系(RES)の除去を回避することによって体循環において長時間にわたる活性を示す。薬物がコア−シェル・ナノ粒子に包み込まれる場合、組成物を形成し、同組成物は、静脈内に、経口にて、筋肉注射にて、局所的に、又は眼の経路により、若しくは吸入により、患者に容易に投与され得る。一般的に、ナノ粒子を形成するために使用されるコポリマーの分子量は制限されない。しかしながら、ポリマーが腎臓から排出されるためにはコポリマーの分子量を40000未満に維持することが好ましい。ポリマーの濃度、薬物の装填量及びナノ粒子の製造条件を含む幾つかのパラメータが本発明のコポリマーを使用して形成されるナノ粒子のサイズに影響を与える。本明細書に開示されているコポリマーから合成されるナノ粒子のサイズは典型的には、血漿内での透過性及び保持性を高める効果(EPR)のため及び長期にわたり循環するためには200nm未満であり得る。
【0058】
少なくとも3つのモノマー単位の各々は任意の適切な比率にて本発明のコポリマー中に存在し得る。一般的に、モノマー単位の比率は、所望のLCST及びpH特性を達成するために変更され得る。同比率はまた、各モノマー単位に存在する官能基の型及び数並びにポリマーのpH感受性及び温度感受性のようなその他の因子に依存する。コポリマーに存在するモノマー単位のモル比は、コポリマーを調製するために使用される各モノマー単位の供給モル比に主として依存する。
【0059】
一実施形態において、本発明のコポリマーに存在する温度感受性モノマー単位のモル量は、最終的なコポリマーの温度感受性に対して親水性単位の希釈効果を避けるために親水性モノマー単位のモル量より大きく、一方、親水性モノマー単位のモル量はコポリマーの疎水性モノマー単位の量よりも大きい。ある実施形態において、本発明のコポリマーを調製するために使用される温度感受性モノマーの供給モル量は、親水性モノマーの供給モル量の約2乃至6倍であり、かつ疎水性モノマーの供給モル量の約4乃至8倍である。有用なコポリマーを形成するために使用される供給モル比の例は、温度感受性モノマーの1乃至4モル比であり、親水性モノマーの0.5乃至1.5モル比であり、疎水性モノマーの0.01乃至0.75モル比である。特に適した実施形態において、供給モル比のこの範囲に従って使用されたそれぞれのモノマーは、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド及び10−ウンデセン酸である。
【0060】
1つの好ましい実施形態において、コア−シェル・ナノ粒子のLCSTは7未満のpH、好ましくは7.2未満のpHにて37℃未満である。別の実施形態において、コア−シェル・ナノ粒子の下限臨界溶液温度は通常の生理学的な条件(pH7.4)下にて37℃よりも高い。コポリマーのLCSTはコポリマーを形成するために使用されるモノマー単位の割合又は親水性モノマー単位の性質を変更することにより、上げたり、下げたりと制御可能であることを明記したい。生理学的なpHにおけるコア−シェル・ナノ粒子のLCSTは通常の体温即ち37℃よりも高く、かつLCSTは酸性環境においては通常の体温未満であるコポリマーを備えることが現在のところ好ましい。可逆性かつpH依存性LCST及び相転移特性は本発明のコポリマーを使用して形成されたナノ粒子により示された。例えば、モル比が3.75:1.25:0.5であるN−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド及び10−ウンデセン酸のコポリマーから水溶液中にコア−シェル・ナノ粒子を自己アセンブリする1つの特殊な実験設定において、この特定の組成物にて形成されたコア−シェル・ナノ粒子のLCSTはリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)中では38.5℃であり、わずかに酸性の環境(例えば、pH6.6未満である場合)においては顕著に減少する(35.5℃)。
【0061】
本発明にて使用されることを意図された薬物は、抗癌剤、抗炎症剤、神経系疾患を治療するための薬物及び免疫抑制剤等を含むがそれらに限定されるものではない。例えば、ドキソルビシン、アナストロゾール、エキセメスタン、シクロホスファミド、エピルビシン、トレミフェン、レトロゾール、トラスツズマブ、メゲストロール、ノルバデックス、パクリタキセル、ドセタキセル、カペシタビン、酢酸ゴセレリン、シクロスポリン、シスプラチン、インドメタシン、ベタメタゾン及びドキシシクリン。
【0062】
効率的な薬物送達のために、病巣の標的化及び細胞内へのアクセスを高めるための薬物担体が有利である。薬物担体のある条件下における標的化及びそれに続く内在化は、薬物担体を、天然のエンドサイトーシス経路を利用して正常に取り込まれたリガンドと結合することにより達成される。この戦略を使用して、本発明のコポリマーは、モノクロナール抗体、成長因子またサイトカインのような種々のリガンドとともに組み込まれ、担体の標的細胞内への取り込みを容易にするために使用され得る。小さな非抗原性のリガンドは、生物学的なバリア、例えば、標的細胞の細胞壁及び免疫原性(immunogenecity)を介して拡散する困難性を回避するために本発明において使用されることを意図されている。
【0063】
一実施形態において、葉酸はリガンドとして使用される。葉酸(MW=441Da)は低分子量かつ非抗原性リガンドであり、腫瘍細胞の標的化シグナルとして良好である。葉酸はそのレセプターがヒト癌細胞の表面に頻繁に発現されるビタミンである。付随的に、それは細胞表面レセプターと非常に高い親和性を示し(Kd〜10−10M)かつ細胞質に移動可能である。葉酸は、リソソームにて終わるよりはむしろカベオラ媒介エンドサイトーシスを追従し、その含量は迅速に分解することが見出された。従って、本明細書に開示されたコポリマーを使用する薬物組成物におけるリガンドとして葉酸を使用することにより、薬物は所望の細胞内の位置に送達され、分解性酵素からも安全である。カベオラ経路を介して到達可能なエンドソームはまた酸性であることが知られている。この酸性であることにより、エンドソームはナノ粒子のLCSTを変更し(体温より高い温度から体温より低い温度まで)、エンドソーム膜を破壊する。従って、細胞質への細胞内薬物送達が達成され得る。
【0064】
本発明に関係する組成物は、コポリマーの疎水性部分との疎水性相互作用によりナノ粒子の疎水性コア内に治療薬が装填されるコア−シェル・ナノ粒子に制限されるものではない。例えば、脂肪酸のカルボキシル基が薬物分子のアミノ基又は水酸基と反応することによるような、薬物分子がコポリマーの任意の部分に配置された適切な官能基と反応することにより、治療薬分子とコポリマーとの共有結合も可能である。薬物分子がコポリマーと結合されている組成物は、コア−シェル構造体又はミセル構造体の両方、或いは薬物送達を容易にするのに適したその他の安定な構造体が想定される。薬物と本発明のコポリマーとの結合体は代替体を提供するが、薬物を標的器官/細胞位置に送達する同様に効果的な手段である。
【0065】
本発明の組成物中における治療薬としてドキソルビシンが使用される別の実施形態において、ドキソルビシンはカルボジイミド化学によりコポリマーと結合される。ドキソルビシンのアミン基は図23及び24に示されているように、本発明のコポリマーのカルボキシル基と結合される。
【0066】
以下の例は、本発明をより完全に示すために提供されており、本発明の範囲を制限するものとして解釈されるものではない。
【実施例1】
【0067】
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N,N−ジメチルアクリルアミド−コ−10−ウンデセン酸)[P(NIPAAm−co−DMAAm−co−UA)]の合成
A)実験の部
i)材料
特に明記されていない限り、全ての試薬及び溶媒は市販のグレードのものであり、入荷されたものとして使用した。N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド及び10−ウンデセン酸(98%)はアルドリッチ(Aldrich)社から購入し、結晶化(n−ヘキサン)及び減圧蒸留にてそれぞれ精製した。連鎖移動剤(CTA)である2−アミノエタンチオール塩酸塩(AET.HCl)はシグマ,アルドリッチ(Sigma,Aldrich)社から購入した。1Mのトリニトロベンゼンスルホネート(TNBS)水溶液は、フルカ(Fluka)社から購入した。塩酸ドキソルビシンは、インドに所在のサン・ファーマシューティカルズ社(Sun Pharmaceuticals)から厚意により譲り受けた。3−[4,5−ジメチルチアゾリル−2−]−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT、ドゥシェファ(Duchefa)社)は、細胞の定量化のために5mg/mLのPBS溶液(pH7.4)中にて使用した。溶液は青色のホルマザン結晶を除去するために0.22μmのフィルタにて濾過した。
ii)合成
種々の組成物を備えたP(NiPAAm−co−DMAAm−co−UA)ポリマーは、レドックス対の過硫酸アンモニウム(APS)及び2−アミノエタンチオール塩酸塩(AET.HCl)を用いてラジカル共重合により合成した(図1)。[ボカイス(Bokias)ら、Macromol.Chem.Phys.、199、1998年、1387−1392頁]。重合化工程を以下に簡単に説明する。N−イソプロピルアクリルアミド(3.965g,34.99mmol)及びN,N−ジメチルアクリルアミド(1.48g,14.99mmol)を10mLの超純水に溶解した。ウンデセン酸(0.921g,5.0mmol)は5mLの4%水酸化ナトリウム溶液と反応させることによりナトリウム塩とし、ナトリウム塩の透明な溶液を、N−イソプロピルアクリルアミド及びN,N−ジメチルアクリルアミドの溶液に加えた。混合物を精製した窒素ガスで15分間浄化した。APS(0.254g,モノマー供給量の4.0モル%)及びAET.HCl(0.244g,2.16mmol,モノマー供給量の4.0モル%)を5.0mLの超純水に溶解した。溶液を、連続して攪拌しながら、ゆっくりとモノマー溶液に加えた。反応は、窒素下にて27℃で48時間実施した。完了後、粗生成物を過剰の塩化ナトリウムを加えることにより沈殿させ、真空にて乾燥した。粗生成物をエタノールに溶解し、分子量カットオフが2000(Spectra/Por)である膜を使用して、超純水、次にエタノールにて透析した。精製品はエタノールを蒸発後に回収した。
【0068】
ポリマーの化学構造は、1HNMR(BrukerAVANCE400)及びフーリエ変換赤外分光法(Perkin Elmer Spectrum 2000,KBr)により特徴付けた。ポリマーの分子量は、25℃にて、THF(溶出速度:1ml/分)におけるゲル透過クロマトグラフィー(GPC,ウォーターズ(Waters)社、ポリスチレン標準品)にて決定した。示差走査熱量測定(DSC)は、3℃/分のランプ速度を用いてTA2920モジュレートDSC装置(CT,アメリカ合衆国)を用いて実施した。熱重量分析は、TGA7(パーキンエルマー(Perkin Elmer)社,アメリカ合衆国)を使用して実施した。
iii)酸−塩基滴定及びアミン基決定
酸−塩基滴定はカルボン酸基及びポリマーのpKaを推定するために実施した。要約すると、100mgのポリマーを10mLの超純水に溶解し、フェノールフタレインを指示薬として0.01NのNaOHにて滴定した。ポリマーの見かけの分配係数pKaも塩基の添加時に連続的にpHを測定しながらこの滴定法により決定した。pH対塩基容量のグラフから、pKaは当量点における塩基の容量の半量におけるpHとして計算した。ポリマー中の遊離アミン基は分光学的決定により推定した。量が既知であるポリマーを、0.01MのTNBSを含む2.0mLの炭酸水素ナトリウム水溶液(2.0w/v%)に溶解した。溶液を40℃にて2時間維持し、その後冷却して、特定の容量にて希釈した。サンプル中のTNBSで誘導体化されたアミン官能基の量は、標準品としてL−アラニンを採用して345nmにおけるUV−VIS分光光度計(UV−2501PC、シマズ社)を使用して決定した。
iv)透過率の測定
異なるpH値の緩衝溶液中のポリマーのLCSTは、温度を関数とした光学透過率の変化を監視することにより決定した。サンプル溶液(0.5wt%)は、中和したフタル酸緩衝液(pH5.0)、PBS(pH6.0、6.6及び7.4)並びにpHが9.0及び10.0であるアルカリ性ホウ酸塩緩衝液のような緩衝液中にて調製した。全ての緩衝液は、154mMのイオン強度にて調製した。ポリマー溶液の光学透過率は、温度コントローラ(TCC−240A、シマズ社)を使用したサーモスタットで制御された、サンプルセルを備えたUV−VIS分光光度計を使用して500nmにて測定した。加熱速度は、0.1℃/分に設定した。ポリマー溶液のLCST値は50%の光学透過率を示す温度に決定した。LCSTにおけるタンパク質の効果は10(w/v)%ウシ血清アルブミン(モデルタンパク質としてのBSA)の存在下においても調べた。
v)蛍光測定
PBS(pH7.4)におけるポリマーのCMC値は、ピレンをプローブとして蛍光分光法にて決定した。ピレン溶液のアリコート(アセトン中に1.54×10−5M,400μl)を10mLの容量フラスコに加え、アセトンを蒸発させた。1.0×10−5乃至1.0g/Lの範囲の濃度のポリマー溶液をPBSにて調製した。次いで、10mLの水溶性ポリマー溶液をピレン残渣が含まれた容量フラスコに加えた。サンプル溶液の全てには6.16×10−7Mである同一の濃度にて過剰のピレン含量が含まれていたことを明記したい。溶液は平衡となるように24時間室温(20℃)にて放置した。次に、ポリマー溶液の蛍光スペクトルを室温にて、LS50B発光分光計(パーキンエルマー社,アメリカ合衆国)にて記録した。放出スペクトルは350乃至500nmにて記録され、340nmに励起波長が存在していた。励起及び放出帯域幅はいずれも5nmに設定した。第3のバンド(391nm,l3)の第1のバンド(371nm,l1)に対する強度(ピーク高さ)比(l3/l1)は、ピレン放出スペクトルからポリマー濃度の関数として分析した。CMC値は、曲線の屈曲部における接線と、低濃度における地点を通る水平方向の接線との交点から求めた。
vi)ブランクの、及び薬物が装填されたコア−シェル・ナノ粒子の調製
ブランクのコア−シェル・ナノ粒子は、同ナノ粒子のサイズに対するpH及び温度の影響を調べるために調製した。ポリマーを0.5(w/v)%の濃度にてジメチルアセタミド(DMAc)に溶解し、次に室温にて2000の分子量カットオフ(Spectra/Por)膜を用いて24時間、0.02wt%HClと0.02wt%NaOHにてそれぞれ透析した。得られたナノ粒子溶液は、0.45μmのシリンジフィルタを用いてろ過した後に凍結乾燥し、更なる分析を行う前に4.0℃にて保存した。エフ.コホリら(前述)により報告されたものと同様のプロトコルを使用して、コア−シェル・ナノ粒子にDOXを装填した。簡単に述べると、7.5mgのDOXを3mLのDMAc中の2モルの過剰量のトリエチルアミンで中和し、薬物を溶解するために溶液を攪拌した。次に、15mgのポリマーを溶液に加えた。混合物を50mLの脱イオン水に対して48時間透析した。DOX装填ナノ粒子をろ過し、凍結乾燥した。DOXの装填量を決定するために、容量が既知のDOX装填ナノ粒子を1mLのメタノールに溶解して、次いでPBSを用いて希釈した。DOX濃度はUV−VIS分光光度計を使用して、485nmにて推定された。薬物の装填は、PBS(pH7.4)中のDOXから得られた標準曲線に基づいて計算した。
vii)動的光散乱(DLS)分析
異なるpHにて製造されたコア−シェル・ナノ粒子のサイズはHe−Neレーザビーム(670nm)が装備されたZetaPals(ブルックヘブンインスツルメンツ社(Brookhaven instruments corporations),アメリカ合衆国カリフォルニア州)を使用して分析した。各測定を5回繰り返して、良好な一致を見出した。5回の測定から平均値を得た。ナノ粒子のサイズはまた、同ナノ粒子の相可逆性を調べるために種々の温度にて測定した。再分散され、かつ凍結乾燥されたナノ粒子の安定性は、10(w/v)%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBS(pH7.4)におけるそれらのサイズを測定することにより監視した。
viii)透過型電子顕微鏡(TEM)試験
コア−シェル・ナノ粒子の形態はTEMにより分析した。0.01(w/v)%のリンタングステン酸を含む新たに調製されたナノ粒子溶液の一滴をポリマーフィルムでコーティングされた銅グリッドにおいて、室温にて風乾した。TEM観察は、200keVの電子運動エネルギーを備えたJEM−2010顕微鏡にて実施した。
ix)細胞毒性試験
ポリマー溶液を原料濃度にて調製した。これらの溶液は、0.22μmのシリンジフィルタを用いて滅菌し、PBS(pH7.4)及び培養基を用いて希釈し、10、100、300及び400μg/mLの最終濃度のポリマーを得た。33.3μg/mLの濃度であるポリ(L−リジン)及びPEG(Mw8000)を陽性及び陰性の対照としてそれぞれ使用した。PBS(pH7.4)はブランクサンプルとして代わりに使用した。
【0069】
L929マウス繊維芽細胞を、補給されたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM,10%仔牛血清,1%L−グルタメート,1%ペニシリン−ストレプトマイシン)(ギブコビーアールエル(GibcoBRL)社)にて培養し、37℃、5%CO2下にてインキュベートした。細胞を96−ウェルプレートにウェル当たり10,000個の細胞を播種した。次にプレートをインキュベータに戻し、細胞をコンフルエンスの状態まで成長させた。試験開始の朝に、ウェル内の培地は150μlの予め調製された培養基−サンプル混合物と置き換えた。プレートを再びインキュベータに戻して、37℃、5%CO2下にて、24、48及び72時間維持した。露出期間の間、各ウェルの混合物は毎朝新たなアリコートに置き換えた。各サンプルはプレート当たり8回繰り返して試験した。3つのプレートが各露出期間において使用され、サンプル当たり合わせて24回繰り返した。
【0070】
新たな培養基及び20μLのMTT溶液のアリコートを所定の露出期間の後に各ウェルにおいて混合物と置換するために使用した。次にプレートをインキュベータに戻して、37℃、5%CO2下にて更に3時間維持した。次に、各ウェルにおける培養基及び過剰のMTTを除去した。次に150μlのDMSOを各ウェルに加えて内在化した紫色のホルマザン結晶を溶解した。100μLのアリコートを各ウェルから取り出して、新たな96ウェルのプレートに移した。次に、プレートを550nm及び690nmにて定量した。ホルマザン結晶の吸収測定値は、550nmの値から690nmの値を引くことにより得られた。結果は、培養基に加えられたブランクであって比較量のPBSを含むブランクの吸光度の百分率で表した。
x)インビトロ薬物放出試験
ナノ粒子からのDOXの放出は、pH6.0、6.6及び7.4にて試験した。所定量のDOX装填凍結乾燥ナノ粒子を200μLの対応する緩衝液に分散し、2000の分子量カットオフ透析膜(Spectra/Por)に配置する前に30分間安定化させた。次に透析バッグをpHが6.0、6.6又は7.4である25mLのPBSに37℃にて浸漬した。サンプルを特定の時間間隔にて採取し、本実施例のパラグラフA(vi)に記載されているように、UV−VIS分光光度計を用いて薬物濃度を分析した。
B)結果及び考察
i)ポリマー合成及び特徴化
コポリマーの合成及び特徴化における概要を表1に示した。これらの反応において、NIPAAmのDMAAmに対する供給モル比は変更したが10−ウンデセン酸の含量は一定とした。CTAをモノマー供給量の0.2及び0.4モル%にて使用した。重合化はチオールラジカルにより開始され、以下の式に従って、AET.HClと過硫酸イオンとの反応から形成された:
【0071】
【化11】
ここで、Rはアミノエチル基を示す。更に、チオール基は有効な連鎖移動剤として周知である(グリーク(Greeg)他、J.Am.Chem.Soc.、70、1948年、3740−3743頁)。従ってこの場合、形成された鎖の長さはAET.HClのモノマー供給量に対するモル比と、重合化を開始し、かつ連鎖移動反応を行う効率と、により制御される。酸化還元系におけるチオールラジカルのこの開始機構は十分に確立されている(クーン(Khune)ら、Polym.Prpr.、22、1981年、76−77頁)。加えて、この開始剤対を用いて調製された我々のポリマーに対して、各ポリマー分子におけるアミン基の平均数は1.3乃至1.7であると推定された。ポリマーの平均分子量が計算により得られているという事実によって結果は僅かに大きく見積られていた。反応媒体のpHにおける更なる減少が観察され、それは酸性であるHSO4−の生成を示している。GPCにより決定された分子量は、CTA含量の増大が分子量の減少を生じたことを示しており、それはジー.ボカイスら(前述)により報告された結果と一致していた。
【0072】
3つのポリマーの全ての1HNMRスペクトルは、類似したパターンを共有していた。CDCl3中のポリマーIII(NIPAAm:DMAAm:UA=3.50:1.50:0.50)の典型的な1HNMRスペクトルを図2に示す。連鎖移動剤の存在下におけるNIPAAmと、DMAAmと、10−ウンデセン酸との共重合が成功したことは、ビニル基のプロトンシグナルがδ5.4−6.6において存在していないことにより証明された。δ1.5−1.8(シグナルa+a’)及びδ2.1−2.4(シグナルb+b’)におけるブロードピークは、NIPAAm部分及びDMAAm部分における−CH2−及び−CH−基のプロトンにそれぞれ帰属している。イソプロピル基(δ4.0における−CHMe2及びδ1.15における−CHMe2−、それぞれシグナルd及びe)及びδ2.9における−NMe2基(シグナルf)からのその他のプロトンシグナルがまた観察され、それらの化学シフトはモノマーのそれに類似している。シグナルeのシグナルfに対する積分比から、m/n比が推定され、その値は二つのモノマーの供給比とほぼ等しいものであった。これは、二つのモノマーが重合化反応において類似した活性を有していたことを意味する。ポリマーIIIのFT−IRスペクトルを図3に示す。NIPPAmセグメント及びDMAAmセグメントから約1647cm−1(νC=O)及び1548cm−1(νC−N)に強い吸収を示した。10−ウンデセン酸セグメントにおけるνC=Oの吸収は約1713cm−1に現れた。UAの含量は酸−塩基滴定の分析により44.2mg/gのポリマーIIとして推定された(表1)。ポリマーIIのpKaは約6.8であった。ポリマーは、水にも共通した有機溶媒(CHCl3、CH2Cl2、アセトン及びTHF等)にも良好な可溶性を示した。
ii)ポリマーのLCST及びpH及びタンパク質の影響
PNIPAAmは水中で32℃の明確なLCSTを示した。LCSTは導入する疎水性又は親水性モノマーを介して調整され得る。この研究において合成されたポリマーは疎水性セグメントとしてポリ(10−ウンデセン酸)を含んでいる。従って、環境pHはカルボン酸基によって10−ウンデセン酸セグメントの疎水性に影響を与え、最終的にはポリマーのLCSTに影響を与える。図4乃至6は、異なるpH値を有する緩衝溶液中の0.5wt%濃度のポリマーの温度の関数とした場合の光学透過率の変化を示す。DLS分析から、緩衝液中のポリマーは0.5wt%の濃度にてコア−シェル・ナノ粒子内に自己アセンブリした。NIPAAm/DMAAm/UA比が4.00:1.00:0.5であるポリマーIから自己アセンブリされたコア−シェル・ナノ粒子のLCSTは、pH6.0、6.6及び7.4において、それぞれ32.5℃、33.0℃及び33.2℃であった(図4)。しかしながら、pH5.0においてLSCTは27.8℃まで急激に減少した、親水性のDMAAmセグメントの長さが増大しているポリマーII(NIPAAm:DMAAm:UA比=3.75:1.25:0.5)の場合、全てのpH値におけるコア−シェル・ナノ粒子のLCSTは、ポリマーIと比較して増大した(図5)。pH値はポリマーIIナノ粒子のLCSTに大きな影響を与えた。例えば、pH9.0及び7.4において、LCSTはそれぞれ40.5℃及び38.5℃であり、通常の体温以上であることがわかった。しかしながら、pH6.6及び5.0において、LCSTは35.5℃及び35.2℃までそれぞれ減少し、それは通常の体温よりはるかに小さい値であった。仮にナノ粒子が十分に分離されたコア−シェル構造体であるか、或いはコアが十分に剛性である場合、ナノ粒子のLCSTは、pH感受性部分が疎水性セグメントにあるので環境のpHにより影響を受けないであろう。これらのポリマーから形成されたコア−シェル・ナノ粒子は、ゆるく集合されているのであろう。従って、ナノ粒子のコアは外部環境に十分にアクセスできるであろう。外部環境のpHが増大すると、10−ウンデセン酸セグメントのカルボン酸基が更に脱プロトン化されるので、10−ウンデセン酸セグメントの疎水性が低減する。これはポリマーのLCSTにおける増大を生じ、よってナノ粒子のLCSTが増大する。ポリマーI及びポリマーIIは類似した含量のカルボン酸基を有しているにも関わらず、ポリマーIIのpH感受性におけるカルボン酸基の脱プロトンの影響はポリマーIに対するものよりもより重要であった。それは、ポリマーIがより大きな分子量を有することによるのかもしれない。LCSTを超える熱力学的な相分離は混合の低エントロピーに起因するので、混合のエントロピーは分子量の増大とともに減少する(スタイル(Stile)ら、Biomacromolecules、3、2002年、591−600頁、レッサード(Lessard)ら、Can.J.Chem.、79、2001年、1870−1874頁)。これは分子量がポリマーのpH感受性に影響を与える重要な因子であることを示している。
【0073】
親水性セグメントの長さが更に増大すると、図6に示されるようにLCSTも大きくなる。ポリマーの中では、NIPAAm/DMAAm/UA比が3.5:1.75:0.5であるポリマーIIIが全てのpH条件下において、最も高いLCSTのコア−シェル・ナノ粒子を提供し、その温度は通常の体温よりも大きい値であった。例えば、pHが11.0、7.4、6.6、6.0及び5.5であるポリマーIIIナノ粒子のLCSTは、それぞれ、43.0、43.0、41.0、40.7及び39.0℃であった。ポリマーIIIナノ粒子のLCSTはまた、pHに依存した。しかしながら、温度感受性は低かった。これは、DMAAmの希釈効果によるものと考えられる、即ち、コポリマー内のPNIPAAmセグメントは高いモル比にて、DMAAmセグメントにより十分に分離かつ希釈されており、それがNIPAAmの近隣のアミド基間の分子内水素結合を低減することによるものであると考えられる。その結果、コポリマーの温度反応性はゆっくりとしている(リウ(Liu)ら、J.App.Poly.Sci.、90、2003年、3563−3568頁、カツモト(Katsumoto)ら、J.Phys.Chem.A.、106、2002年、3429−3435頁)。
【0074】
LCSTにおけるタンパク質の影響は、ポリマーIIを用いて調べた。図7に示されるように、10wt%BSAの存在は、コア−シェル・ナノ粒子のLCSTを変えなかった。
【0075】
これらの結果は、pH環境の変化にてポリマーが通常の体温より上又は下の異なるLCST値を示すことを示している。3つのポリマーの全てから自己アセンブリされたコア−シェル・ナノ粒子は、実際にはpH依存性のLCSTを示し、それはポリマーの疎水性セグメントにおけるカルボン酸基のプロトン化又は脱プロトン化に主として起因しているのであろう。ナノ粒子のLCSTはNIPAAmのDMAAmに対するモル比によって非常に影響を受けていた。特に、ポリマーIIナノ粒子のLCSTは、生理学的な環境(pH7.4)においては通常の体温よりも高かったが、僅かに酸性の環境では通常の体温よりも低くなった。このことは、ナノ粒子は生理学的な環境においては可溶性であり安定であるが、酸性の環境では安定性を欠いている/凝集されていることを意味する。この独特の特性は環境が特徴的に酸性となる腫瘍組織又は細胞内部への薬物の標的化に使用され得る。
iii)ポリマーIIのCMC
CMCはコア−シェル・ナノ粒子の安定性を特徴付ける重要なパラメータである。CMCより上では、両親媒性のポリマー分子はコア−シェル構造化ナノ粒子に自己アセンブリされ得る。ポリマーIIナノ粒子の水中における疎水性微細環境をプローブとしてピレンを使用した蛍光光度法により調べた。I3のI1に対する比率は、ポリマー濃度の関数として監視された。図8はポリマーIIに対するI3/I1のプロットを示す。ピレンがより疎水性の環境に配置されている場合に高い比率が得られる(ドン(Dong)ら、Can.J.Chem.、62、1984年、2560−2565頁)。ピレンのこの特徴は、コア−シェル・ナノ粒子の形成及び変形を研究するために使用され得る。CMC値は約10.0mg/Lであると決定された。コア−シェル・ナノ粒子の形成後のI3/I1における変化は、小さいことを明記する。これは、UAセグメントのカルボキシル基の存在及び/又は不十分な疎水性によりコアがゆるく集合されていることによるものであろう。
iv)pH及び温度変化により誘引されたポリマーIIナノ粒子のサイズの変化
ポリマーIIナノ粒子のサイズは、pH依存性であることがわかった。0.02wt%のHCl溶液において、ポリマーIIナノ粒子の平均粒子径は約319nmであり、0.02wt%のNaOH溶液においては、ナノ粒子のサイズは約240nmまで減少した。酸性溶液において形成されたかなり大きなサイズのナノ粒子は、低pHにてUAの疎水性が大きくなることにより、酸性溶液中のナノ粒子はより多くの凝集体を含んでいたことを示している。一方、高pHにおける脱プロトン化カルボン酸の反発は凝集体の程度を小さくし、より小さなサイズの粒子となる。DOXが装填されたナノ粒子の平均サイズは、約160−200nmであり、図9に示されるように狭い粒度分布を有している。TEMの写真(図10)から、ナノ粒子のサイズは、固体状態では約50−60nmであり、それはポリマーのフリーの親水性セグメントの崩壊及びポリマー鎖の脱水によるものであろう。一方、ナノ粒子は、37℃(LCST未満)でpH7.4の場合に安定であり、かつサイズは約265nmであった。溶液を40℃(LCSTを超える)まで加熱すると、凝集によりサイズは約988nmまで増大した。この凝集体は冷却することにより再分散し、もとの値までサイズが低減した。同様の現象は、pH6.6におけるナノ粒子においても観察された。これらの結果は、コア−シェル・ナノ粒子がpH及び温度の両方に感受性を有していたという事実を更に支持するものである。pH及び温度の反応は可逆的であった。
【0076】
薬物装填コア−シェル・ナノ粒子の安定性は、10(w/v)%BSAを含むPBS(pH7.4)において調べた。BSAを用いて7時間試験した後に、サイズは僅かに増大した(104nmから164nmへ)。この初期のサイズの増大は凍結乾燥ナノ粒子の水和によるものであると考えられる。水和の後、サイズはもとの値に戻り、次の3時間は変化しないままであった。これは、ナノ粒子はBSAの存在下において安定であったことを示す。
v)ポリマーIIの細胞毒性試験
L929細胞は10乃至400mg/L(ppm)の濃度にてポリマーにさらされた。図11から、陰性対照と比較した場合、ポリマーIIサンプルにはいかなる重要な細胞毒性も認められなかった。72時間までは、ポリマーIIのサンプルの全ては陽性対照よりも細胞毒性が小さかった。
vi)インビトロ放出
この試験にて使用された製造条件下において、DOXの実際の装填量は約2.7重量%であった。インビトロ薬物放出試験は腫瘍のpHを刺激する僅かに酸性の環境(pH6.0及び6.6)と、生理学的な環境(PBS,pH7.4)にて実施した。DOXの放出プロファイルを図12に示した。37℃でpH7.4におけるナノ粒子からの薬物放出は、最初の約18%の破裂を伴い、かなりゆっくりであった。この最初の破裂は、ナノ粒子のシェルに存在している薬物分子によるものであろう。しかしながら、薬物の放出は、37℃で、pH6.0及び6.6でははるかに早かった。約70%の薬物が、実験の48時間以内にて放出した。加えて、薬物装填ナノ粒子はpH7.4の緩衝液中では良好に分散されたが、pH6.0及び6.6では透析バッグの底部に凝集し、沈んでいた。これらの結果は、ナノ粒子は実際にはpH感受性であり、7.4のpHから6.6又は6.0のpHへの僅かな変化が薬物装填コア−シェル・ナノ粒子の変形及び沈殿を生じ、それにより封入された薬物成分が放出されたことを示している。加えて、DOXの透析バッグからの放出をpH7.4及び6.0において調べた。pHによる顕著な効果は観察されなかった。そのことは、DOXのナノ粒子からのpH依存性の溶出は、薬物の溶解度よりも、むしろ主としてナノ粒子のpH応答性によるものであることが更に確認できた。
C)結論
種々の組成物を備えた両親媒性の三元共重合体である、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N,N−ジメチルアクリルアミド−コ−10−ウンデセン酸)はフリーのアミン末端基を用いたフリーラジカル溶液の重合化により合成した。NIPAAm/DMAAm/UA比が3.75:1.25:0.5であるポリマーから自己アセンブリされたコア−シェル・ナノ粒子は、pH7.4において通常の体温よりも十分に高いLCSTであり、僅かに酸性の環境においては通常の体温よりもはるかに低いLCSTであった。ポリマーは72時間までの期間においては顕著な細胞毒性は示さなかった。DOX装填ナノ粒子は、37℃かつpH7.4にて安定であり、サイズは約160−200nmであった。しかしながら、pH6.0及び6.6において、ナノ粒子の構造は変形され、それにより封入されていた薬物分子は放出する。これらの特徴は、ナノ粒子の選択的な蓄積と、酸性の腫瘍組織における薬物な選択的な放出とを助けるであろう。合成されたポリマーの更なる1つの利点はポリマーがフリーのアミン官能基を備えていることであり、それにより活性的な標的化に対して生物学的なシグナルを取り付けることによりポリマーの更なる修飾を可能にするであろう。
【実施例2】
【0077】
葉酸塩標的基を有するポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N,N−ジメチルアクリルアミド−コ−10−ウンデセン酸)[P(NIPAAm−co−DMAAm−co−UA)]の合成
A)実験の部
i)材料
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N,N−ジメチルアクリルアミド−コ−10−ウンデセン酸)[P(NIPAAm−co−DMAAm−co−UA),ポリマーII]は実施例1に説明したようにフリーラジカル重合化により合成した。葉酸二水和物、N−ヒドロキシスクシニミド(NHS)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)はシグマアルドリッチ社から購入した。パクリタキセルはメルク(Merck)社から購入した。
ii)葉酸のP(NIPAAm−co−DMAAm−co−UA)への結合及び葉酸のコレステロールでグラフト化されたP(NIPAAm−co−DMAAm−co−UA)への結合
葉酸のNHSエステル(NHS−葉酸塩)は以下の方法にて調製した:葉酸(100mLのDMSO及び2.5mLのトリエチルアミンに5mgを溶解したもの)は、DCC(4.7g)の存在下にて室温にて一晩、N−ヒドロキシスクシニミド(2.6g)と反応させた。副産物であるジシクロヘキシルウレアをろ過にて除去した(図13,スキーム2に示されるように)。葉酸とポリマーIIを結合する(Poly−FA)ために、DMSO中の活性化NHS−葉酸塩をPBS緩衝液(pH7.4)中のポリマーIIに加え、室温にて5時間一定に攪拌した(図14,スキーム3)。葉酸−結合ポリマーはPBS緩衝液(pH7.4)の存在下にて24時間透析することにより精製され、次に2000の分子量カットオフ透析膜(Spectra/Por)を用いて24時間超純水にて精製した。ポリマーを凍結乾燥して、更なる使用のために気密容器に保存した。葉酸はまた、コレステロールでグラフト化されたポリマーIIと結合した(Poly−CH−FA)。コレステロールでグラフト化されたポリマーII(Poly−CH)は、NHSで活性化されたポリマーII(工程は、ポリマーIIとNHSとDCCがそれぞれ1:2:2のモル比のものを使用することによる葉酸の活性化に類似する)を含水アルコール溶液中の等モル濃度のコレステロールと室温にて48時間反応させることにより合成した(図15、スキーム4)。
【0078】
ポリマーの化学構造は、1HNMR(BrukerAVANCE400)及びフーリエ変換赤外分光法(Perkin Elmer Spectrum 2000,KBr)により特徴付けた。示差走査熱量測定試験(DSC)は、3℃/分のランプ速度を用いてTA2920モジュレートDSC装置(CT,アメリカ合衆国)を用いて実施した。
iii)薬物装填ポリマー−CH−FAコア−シェル・ナノ粒子の調製
ドキソルビシンは以下のようにコア−シェル・ナノ粒子に装填した:7.5mg又は5.0mgのDOXを3mLのDMAc又はDMFに攪拌しながら溶解した。次に、15mgのポリマーを溶液中に溶解した。混合物を500mLの脱イオン水にて48時間透析した。DOXの装填量を決定するために、量が既知のDOX装填ナノ粒子を1mLのメタノールに溶解して、PBSにて希釈した。DOXの濃度はUV−VISを用いて推定した。初期の試験はまた、水に不溶性の抗癌剤であるパクリタキセルをコア−シェル・ナノ粒子に装填することによっても実施した。簡単に述べると、15mgのポリマー及び2.5mgのパクリタキセルを3mLのDMFに溶解し、ポリマー薬物溶液を超純水の存在下にて24時間透析した。薬物装填ナノ粒子は0.45μmの孔サイズを有するディスクフィルタにてろ過し、凍結乾燥した。パクリタキセルの装填量を決定するために、1mLのクロロホルム中にナノ粒子に溶解することにより、ポリマー性ナノ粒子からパクリタキセルを抽出し、ポリマーを2mLのジエチルエーテルを加えることにより沈殿させた。遠心分離後、上澄み液を回収し、乾燥し、HPLCで分析した(ウォーターズ(Waters)社,モデル2690、C8 15×4.6cmカラム)。移動相は、20mMの酢酸アンモニウムとアセトニトリルとメタノールとが35:45:20の容積比で構成されている。標準パクリタキセル溶液は5乃至100ppmの範囲の濃度にてメタノール中に調製した。
B)結果及び考察
葉酸はポリマーIIとコレステロールでグラフト化したポリマーIIとの結合に成功した。これはNMR試験により確認した(図16及び17)。葉酸の結合が成功したことは、葉酸分子の芳香性プロトン2,6及び3,5からのδ6.6−6.8及びδ7.5−7.7におけるプロトンシグナルの存在によって証明された(図14、スキーム3)。ポリマーIIへのコレステロールの結合はまた、コレステロールの5つのCH3基からのプロトンシグナル(δ0.6−1.1)から証明された。
【0079】
実施例1から、ポリマーIIのLCSTはpH7.4において38.5℃であり、それはpH6.6では35.5℃に減少した。これは、pHの変化に伴うポリマーのプロトン化及び脱プロトン化、それによりポリマーの疎水性が変化することによるものである。Poly−FAとポリマーIIでは、pH7.4におけるLCSTに顕著な差は認められなかった。しかしながら、pH6.6ではLCSTは増大し、温度感受性は低下した(図18)。これは、葉酸がこのpHにおいてポリマーの親水性を増大させたという事実によるものであろう。しかしながら、pH5.0におけるポリマーの溶解性は低く、溶液は濁っていた。ポリマーのLCSTは36℃まで減少し、温度感受性は高くなった(データは示されていない)。これは葉酸がpH5.4付近にpKaを有し、かつそのカルボキシル基がpH5.0でプロトン化し、ポリマーの疎水性を増大させることによると考えられる。この特性は、pH5.0(エンドソーム内)において、通常の体温より低いLCSTにより薬物の細胞内送達を助け、それはpH5.0がエンドソーム膜の破壊を助けるからであろう。コレステロールがポリマーIIに結合された場合、ポリマーのLCSTは図19に示されるようにpH7.4にて35.7℃であり、その値はポリマーIIよりも低い。これは、コレステロールをグラフト化することによりポリマーの疎水性が増大し、LCSTが減少することによるものである。一方、Poly−CH−FAのLCSTはpH7.4及びpH6.6でそれぞれ39.0℃及び34.5℃であった(図20)。これは、コレステロールの導入に起因するポリマーの疎水性の増大が葉酸分子により等しく相殺されるという事実によるものであろう。
【0080】
ATCCL929細胞を10乃至100mg/L(ppm)の濃度にてポリマーにさらした。図21から、陰性対照[ポリ(エチレングリコール)]と比較した場合、Poly−CH−FAサンプルは顕著な細胞毒性を認めなかった。しかしながら、Poly−CH−FAの全てのサンプルは、陽性対照[ポリ(L−リジン)]よりも細胞毒性が低かった。
【0081】
典型的な透析法は、空の、及び薬物装填されたPoly−CH−FAコア−シェル・ナノ粒子を調製するために使用した。塩酸ドキソルビシン及びパクリタキセル(paclitaxol)を水溶性及び水不溶性薬物として選択した。ドキソルビシンの薬物装填における溶媒の影響を調べた。DMAcの使用により、封入効率は12.9%であり、4.31重量%の薬物が装填されていた。粒子の平均径は約265nmであった。しかしながら、DMFを溶媒として使用した透析法の場合、薬物装填は2.4%の封入効率を伴い0.6%まで減少し、100乃至160nmの平均粒子径であった。後者の処方において薬物装填量が減少したことは、DMFの溶解度(12.1cal/cm3)がDMAcの溶解度(10.8cal/cm3)と比較して高いという事実に起因するものであり、それは封入化される前に薬物の初期の散失を促進するものである。粒子径の減少は薬物装填の減少に起因する。
【0082】
パクリタキセルはコア−シェル・ナノ粒子に装填され、平均粒子径は96nmであり、封入効率は13.0%であり、かつ薬物装填率は1.9%であった。パクリタキセルは融点が220℃である結晶状薬物である(図22)。パクリタキセルの融点はナノ粒子に封入後は消失し、薬物が分子的に分配されたことを示している。
C)結論
腫瘍細胞への活性標的化シグナル(葉酸)を備えたコア−シェル・ナノ粒子を合成した。ナノ粒子はpH感受特性を保持し、細胞毒性は低かった。二つの抗癌剤をコア−シェル・ナノ粒子に装填した。薬物の粒子径及び装填量は製造条件を変更することにより操作可能であった。
【実施例3】
【0083】
ドキソルビシン結合ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N,N−ジメチルアクリルアミド−コ−10−ウンデセン酸)[P(NIPAAm−co−DMAAm−co−UA)]の合成
i)ドキソルビシンのコポリマーへの結合
ポリマーIIを反応性の官能基を有する薬物にも結合した。ドキソルビシン(図23)は、カルボジイミド化学により結合され、ドキソルビシンのアミン基が図24に示されるようにポリマーIIのカルボキシル基に結合されている。簡単に述べると、ドキソルビシン結合ポリマーII(Poly−DOX)は、NHSで活性化されたポリマーII(工程は実施例2に記載された葉酸の活性化に類似する)とリン酸塩緩衝液(pH7.4)中のドキソルビシン(その濃度はポリマーIIの2倍であった)との室温による48時間の反応により合成した。2000の分子量カットオフの透析膜を用いた超純水存在下における48時間の透析と、それに続く凍結乾燥により血のように赤い生成物が得られた。ゲル透過クロマトグラフィーからポリマーIIの分子量はMw:9051,Mn:6781からMw:11129,Mn:9118まで増大し、図25に示されるように保持時間の減少が確認された。更に、結合物の示差走査熱量測定は、ドキソルビシンの202℃の融点が遷移していないことを示しており(図26に示されるように)、それは薬物がポリマー鎖の一部であったことを示す。
ii)ドキソルビシン結合ポリマーIIからのミセルの製造
薬物のポリマー鎖上への結合の後に、ポリマーが水に比較的不溶性であることが観察された。このポリマーを使用して、透析及び溶媒蒸発法によりコア−シェル・ナノ粒子(ミセル)を調製することを試みた。ポリマーがより疎水性である場合、ポリマーの沈殿及び800−1000nmの範囲であるより大きな粒子の形成が起こるので、透析は適切な方法ではなかった。しかしながら、溶媒蒸発法を使用することにより、280nmの平均粒子径を有するミセルを製造することができた。溶媒蒸発法の工程は以下のとおりである:15mgの結合ポリマーを4mLのジメチルアセタミドと1mLのジクロロメタンに溶解し、ポリマー溶液を20mLの超純水中にて乳化し、5分間超音波処理した。溶媒を蒸発し、溶液を遠心分離して、粒子径を測定した。薬物のミセルに対する結合は、ポリマーのpHに誘引された温度感受性により変更できた。38℃を超える(LCSTを超える)と粒子径が減少し、それはpH7.4における温度感受性セグメントの崩壊によるものであると思われる。この現象は可逆的かつ再生可能であることがわかった(図27)。
【実施例4】
【0084】
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N,N−ジメチルアクリルアミド−b−ポリ(10−ウンデセン酸)[P(NIPAAm−co−DMAAm)−b−PUA)]ブロックコポリマーの合成
ポリマーIIのブロックコポリマーの合成は、温度感受性/親水性セグメントと、pH感受性脂肪酸セグメントとを別々に合成することにより実施され、それらは次に図28及び29に示されるようにブロックコポリマーを形成するために結合された(スキーム5及び6)。簡単に述べると、温度感受性セグメントはモノマー比が3.75:1.25である精製したN−イソプロピルアクリルアミド及びN,N’−ジメチルアクリルアミドを、開始剤であるアゾビスイソブチロニトリルの存在下において、40mLのアルコール中の連鎖移動剤,2−アミノエタンチオール塩酸塩(AET.HCl)との、70℃における24時間の反応により合成した。ポリマーはクロロホルム中に溶解して、ジエチルエーテル中にて沈殿することにより、精製した。ポリマーの分子量はGPCにより分析され、Mw11221であることが明らかとなった。一方、ポリ(10−ウンデセン酸)は、過硫酸アンモニウム(0.8g)の存在下においてモノマーのナトリウム塩(0.097mol)を水中にて70℃で24時間反応することにより合成した。ポリマーを冷エタノールの存在下にて沈殿させた。ポリ(10−ウンデセン酸)はDCCの存在下にてNHSにより活性化され、この製品は更に水中にて、アルカリ性のpHにて温度感受性ブロックと結合した。ポリマー分子量はMw29117であった(図30)。ブロックポリマーはLCSTを測定することによりそのpH及び温度に対する感受性を測定した。図31に示されるように、ブロックコポリマーは実際にpH及び温度に感受性であることが確認された。ブロックコポリマーのPBS(pH7.4)におけるLCSTは39.5℃であり、ポリ(10−ウンデセン酸)でブロックされた場合38.5℃まで減少した。ブロックコポリマーはpH6.0では36.7℃のLCSTを示した。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】例示的な目的のためのスキーム1を示し、同スキーム1はN−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド及び10−ウンデセン酸のモノマーと、連鎖移動剤であるアミノエタンチオールと、を使用した本発明のコポリマーの合成を実施するための1つの可能なスキームを示す。表1は例示的な実験において本発明のコポリマーを形成するために使用される種々の供給モル比及び得られたコポリマーの物理的特性、即ち、分子量、ガラス転移温度、親水性単位の温度感受性単位に対する実際のモル比、酸性度、熱劣化温度を示す。アミノエタンチオールは終端部をこれらのコポリマーに導入するための連鎖移動剤として使用した。
【図2】N−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド及び10−ウンデセン酸のモノマーをそれぞれCDCl3中にて3.5:1.5:0.5の供給モル比(ポリマーIII)にて合成して得られたポリマーの典型的な1H NHRスペクトルを示す。
【図3】ポリマーIIIの典型的なFT−IRスペクトルを示す。
【図4】N−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド及び10−ウンデセン酸のモノマーをそれぞれ4.0:1.00:0.5の供給モル比(ポリマーI)にて合成して得られたポリマーの、種々のpHにて温度の関数としての500nmにおける光透過率を示す。
【図5】N−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド及び10−ウンデセン酸のモノマーをそれぞれ3.75:1.25:0.5の供給モル比(ポリマーII)にて合成して得られたポリマーの、種々のpHにて温度の関数としての500nmにおける透過率のプロットを示す。
【図6】ポリマーIIIの、種々のpHにて温度の関数としての500nmにおける透過率のプロットを示す。
【図7】ポリマーIIの、10(w/v)%BSAを有するPBS(pH7.4)における温度の関数としての500nmにおける透過率のプロットを示す。
【図8】ポリマー濃度(ポリマーII)の関数として、I3/I1のプロットを示す。
【図9】DOXが装填されたナノ粒子の粒度分布の典型例を示す。
【図10】薬物が装填されたナノ粒子のTEM写真を示す。
【図11】L929細胞に対するポリマーIIの細胞毒性を示す。
【図12】37℃における種々のpHに対する、ポリマーIIナノ粒子からのDOXの放出プロファイルを示す。
【図13】葉酸のN−ヒドロスクシニミド(NHS)との活性化を図示するスキーム2を示す。
【図14】葉酸のポリマーIIへの結合を図示するスキーム3を示す。
【図15】コレステロールのNHS活性化を介したポリマーIIへの結合を図示するスキーム4を示す。
【図16】葉酸−結合ポリマーIIのNMRスペクトルを示す。
【図17】コレステロールグラフト化ポリマーIIのNMRスペクトルを示す。
【図18】ポリ−葉酸及びポリマーIIの種々のpHにおける温度の関数としての500nmにおける光透過率を示す。
【図19】ポリ−コレステロールのpH7.4における温度の関数としての500nmにおける光透過率を示す。
【図20】ポリ−コレステロール−葉酸の異なるpHにおける温度の関数としての500nmにおける光透過率を示す。
【図21】L929細胞に対するポリ−コレステロール−葉酸の細胞毒性を示す棒グラフである。
【図22】コポリマー、パクリタキセル及びパクリタキセル装填コア−シェル・ナノ粒子のDSC分析を示す。
【図23】塩酸ドキソルビシンの構造式を示す。
【図24】ドキソルビシン結合ポリマーIIの合成を示す。
【図25】ドキソルビシン結合ポリマーIIのゲル透過クロマトグラムを示す。
【図26】ドキソルビシン結合ポリマーIIの示差走査クロマトグラムを示す。
【図27】pH7.4におけるPBS中の薬物結合ミセルの温度感受性可逆粒子径を示す。
【図28】NIPAAm及びDMAAmから構成される温度ブロックの合成及びポリ(10−ウンデセン酸)の合成を図示するスキーム5を示す。
【図29】ブロックコポリマーの合成を図示するスキーム6を示す。
【図30】温度感受性ブロック及びブロックコポリマーのゲル透過クロマトグラムを示す。
【図31】ブロックコポリマーから形成されたLCST測定を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なコポリマーに関し、より詳細には、温度及びpHに感受性の両親媒性コポリマーに関する。本発明はまた、薬物送達に有用な新規なコポリマーを含む組成物、並びに選択された治療剤を動物又はヒトに提供するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
治療薬の精密な標的化、タイミング及び用量を提供する高度な製薬組成物及び薬物送達法の開発は、癌、HIV/AIDS、嚢胞性繊維症のような疾病による臓器特異的な治療においては複雑な要求により、一部では必要とされてきた。治療の複雑な要求に関与する幾らかの要素としては、そのような疾病の治療において使用される薬物の毒性、同薬物の治療上における制限された活性、並びに罹患された臓器への到達が不能であること及び同臓器の不均質性が挙げられる。
【0003】
薬物の送達、特に、低毒性であるとともに罹患された細胞への標的化が改善されている薬物担体の開発は進歩を遂げてきた。リポソーム、薬物−ポリマー結合体及びナノ粒子を含む、薬物送達を改善することができる幾らかの型の薬物担体が研究されてきた。
【0004】
ポリマー性のコア−シェル・ナノ粒子が、水に難溶性かつ両親媒性の薬物及び遺伝子を腫瘍部位に標的化するための優れたコロイド性担体として最近報告された(非特許文献1、2及び3)。ポリマー性のコア−シェル・ナノ粒子はサイズが小さく、通常200nm未満であり、疎水性薬物、遺伝子又はタンパク質を、疎水性相互作用、静電作用及び水素結合等によりその内側のコア中にて安定化させることができる一方で、その親水性のシェルが外部環境にさらされている。これは、封入された生物活性化合物を崩壊から効率的に保護し、細網内皮系(RES)による除去を回避することにより全身循環系における持続的な活性を可能にする。ポリマー性のコア−シェル・ナノ粒子を用いることにより、受動的及び能動的のいずれにおいても透過及び保持効果の向上(EPR効果)(非特許文献4)及びミセル表面上の識別信号の組み込み(非特許文献5)により標的化が達成されるか、又は温度及びpHのような生理学的環境における変化に感受性の高いポリマーを導入する標的化が達成され得る。
【0005】
温度感受性ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)から構成されたシェルを有するポリマー性ナノ粒子は、ポリマーの温度反応性ゆえに近年かなり注目されてきた。PNIPAAmは水溶液中にて約32℃という下限臨界溶液温度(LCST)を呈しており、その温度より低い温度ではポリマーは水溶性であり、かつその温度より高い温度では不溶性である(非特許文献6)。ポリマーが温度感受性であることは、薬物担体を熱的に標的化する手段を好適に提供する。
【0006】
オカノ(Okano)らは、PNIPAAm−b−ポリ(ブチルメタクリレート)及びPNIPAAm−b−ポリ(D,L−ラクチド)ブロックコポリマーに由来するアドリアマイシン封入ミセル構造体の合成を報告している(非特許文献7及び非特許文献8)。コア−シェル・ナノ粒子はLCST未満で良好に形成されるが、LCSTより高い温度にて変形される。薬物の放出は局所的な加熱と冷却のサイクルの組み合わせにより調整される。しかしながら、深い組織又は腫瘍の標的化において温度の調整のみでは不十分であることが明らかとなった。
【0007】
温度感受性薬物担体の1つの代替物はpH感受性薬物担体である。例えば、最も固形化した腫瘍の細胞外のpHは5.7乃至7.8の範囲である(非特許文献9)である一方、腫瘍の間質液のpHはまれにしかpH6.5未満とはならない。そのような狭い範囲のpHを備えた薬物担体を提供することは1つの課題である(非特許文献10)。
【0008】
チェン(Chen)及びホフマン(Hoffman)は、NIPAAm及びアクリル酸のコポリマーの合成並びにそのpH依存性LSCTを報告しており、薬物の標的化におけるその可能性の見込まれる用途を提唱している(非特許文献11)。更に最近では、ポリ(L−ヒスチジン)−b−ポリ(エチレングリコール)(PEG)から形成されたコア−シェル・ナノ粒子がpH感受性であり、封入された薬物であるドキソルビシン(DOX)を7.4乃至6.8のpHにて放出したことが報告されている(非特許文献12及び非特許文献13)。酸性の環境はコア−シェル・ナノ粒子の不安定化を誘引し、腫瘍組織にて封入された薬物分子を放出する。
【0009】
特許文献1は、疎水性のコアと親水性のシェルを有するポリマー性ミセルから構成されたコロイド状組成物の使用を開示している。pH及び温度に感受性のミセルはNIPAAm、メタクリル酸及びオクタデシルアクリレートのコポリマーに由来する。温度感受性及びpH感受性の部分は、ミセルのシェルに存在している。
【0010】
そのような開発がなされているにも関わらず、現在の薬物担体には、その性能を改善するための継続的な努力を必要とするような制約が存在している。
【特許文献1】国際公開第01/87227A2号パンフレット
【非特許文献1】カタオカ(Kataoka)ら、Advanced Drug Delivery Rev.、47、2001年、113−131頁
【非特許文献2】ブイ.ピー.トルチリン(V.P.Torchilin)、J.Control.Rel.、73、2001年、137−172頁
【非特許文献3】アレン(Allen)ら、Cool.Surf.B:Biointerfaces、16、1999年、3−27頁
【非特許文献4】マツムラ(Matsumura)ら、Cencer Research、46、1986年、6387−6392頁
【非特許文献5】カバノフ(Kabanov)ら、FEBS Lett.、258、1989年、343−345頁
【非特許文献6】テイラー(Taylor)ら、J.Polym.Sci.:Polym.Chem.Ed.、13、1975年、2551−2570頁
【非特許文献7】チャン(Chung)ら、J.Control.Rel.、62、1999年、115−127頁
【非特許文献8】コホリ(Kohori)ら、Colloids and Surfaces B:Biointerfaces、16、1999年、195−205頁
【非特許文献9】バウペル(Vaupel)ら、Cancer Research、41、1981年、2008−2013頁
【非特許文献10】ドルモンド(Drummond)ら、Progress in Lipid Research、39、2000年、409−460頁
【非特許文献11】チェン及びホフマン、Nature、373、1995年、49−52頁
【非特許文献12】リー(Lee)ら、J.Control.Rel.、90、2003年、363−374頁
【非特許文献13】リーら、J.Control.Rel.、91、2003年、103−113頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、pH及び温度の感受性が改善された薬物担体として使用することのできるポリマー性化合物を提供すること及び薬物送達の性能を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、薬物送達用材料として使用可能なpH及び温度に感受性のコポリマーを提供する。一態様において、本発明は、少なくとも3つの型のモノマー単位からなるコポリマーに関し、同3つの型のモノマー単位は、温度感受性単位、親水性単位及び少なくとも1つのpH感受性の部分を含む疎水性単位を含み、同疎水性モノマー単位は共重合化が可能である不飽和脂肪酸に由来する。
【0013】
別の態様において、本発明は、温度及びpH感受性組成物に関し、同組成物は、治療剤と、少なくとも3つの型のモノマー単位からなるコポリマーを含み、同3つの型のモノマー単位は、温度感受性単位、親水性単位及び少なくとも1つのpH感受性の部分を含む疎水性単位を含み、同疎水性モノマー単位は共重合化が可能である不飽和脂肪酸に由来する。
【0014】
更に別の態様において、本発明は選択された治療剤を動物又はヒトに提供する方法を提供し、同方法は、動物又はヒトに温度及びpH感受性組成物を投与する工程を含み、同組成物は治療剤と、少なくとも3つの型のモノマー単位からなるコポリマーを含み、同3つの型のモノマー単位は、温度感受性単位、親水性単位及び少なくとも1つのpH感受性の部分を含む疎水性単位を含み、同疎水性モノマー単位は共重合化が可能である不飽和脂肪酸に由来し、同コポリマーは疎水性コアと親水性シェルとからなる少なくとも1つのナノ粒子に調製され、かつ同治療剤は同疎水性コアの内部に包含される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のこれらの態様は、以下の詳細な説明、図面及び非限定的な実施例を考慮してより完全に理解されるであろう。
本発明は、疎水性かつpH感受性の官能基として脂肪酸を組み込んだコポリマーから得られたコア−シェル・ナノ粒子が薬物担体として優れた特性を有するという知見に基づくものである。本発明のコポリマーは疎水性のコアを含むコア−シェル構造体に自身でアセンブリ可能であり、同構造体において、脂肪酸のような疎水性の部分がコポリマーの親水性部分からなる親水性のシェルにより包囲されて配置されている。薬物は、コア内に物理的に封入されるか若しくは化学的に結合されて取り込まれる。これらのナノ粒子は、環境のpHの狭い範囲の変化に対応してその物理的な形態を変更することが可能であり、同ナノ粒子の疎水性コアに封入された薬物を結果として解放する。
【0016】
本発明のコポリマーの1つの利点は、これらのコポリマーから形成されたコア−シェル・ナノ粒子の下限臨界溶液温度(LCST)が環境pHに依存していることにあり、それはコア−シェル・ナノ粒子の構造的が変形が環境pHの変化により誘引されることを意味する。この特性は環境が特徴的に酸性である器官又は腫瘍組織の標的化に使用することができる。通常の生理学的なpHにおいて、コア−シェル・ナノ粒子は通常の体温(約37℃)より大きいLCSTを有する。しかしながら、わずかに酸性の環境では、ナノ粒子のLCSTは通常の体温よりも低い。これは、コア−シェル・ナノ粒子が生理学的な環境においては安定であるが酸性環境においては不安定であるか若しくは凝集することを意味する。
【0017】
理論と結びつけるつもりはないが、コポリマーの疎水性かつpH感受性の部分として脂肪酸を使用することにより本発明のコポリマーにより大きなpH感受性を与えることができると考えられる。pH感受性の官能基は脂肪酸の疎水性セグメントと結合され、それらはコア−シェル・ナノ粒子のコアに組み込まれることを意味する。これらのポリマーから形成されたコア−シェル・ナノ粒子はゆるく集合されており(packed)、それによりpH感受性の官能基はナノ粒子のコアに配置されているにもかかわらず外部環境とアクセスすることができる状態となっている。外部環境のpHが変化すると、pH感受性官能基も変化する、即ち、例えばイオン化または脱イオン化される。これにより脂肪酸の疎水性が変化し、よってナノ粒子のLCSTが変化し、薬物分子を放出する。更に、脂肪酸は天然の化合物であるので、それらは生体適合性が非常に高いと考えられ、人体における毒性が非常に低いものであると考えられる。
【0018】
本発明のコポリマーは、少なくとも3つの型のモノマー単位を含む。「モノマー単位(monomeric unit)」なる用語はポリマーに重合化されるモノマーを参照することを本明細書にて明確に記載したい。これは、ポリマーに重合化された特定の分子全体を指す「モノマー(monomer)」なる用語とは区別される。
【0019】
本発明のコポリマーに必要とされる1つの型のモノマー単位は温度感受性/応答性単位である。本発明において、温度感受性のモノマー単位は、コポリマーに対して温度感受性を与えるために使用され、温度感受性コポリマーを形成する。温度感受性コポリマーは典型的には、相転移温度としても知られている固有のLCST又はUCST(上限臨界溶液温度)を呈する。固有のLCSTを有するコポリマー(以下においては「LCSTシステム」として知られる)はLCSTより上では水に不溶性である一方、固有のUCSTを有するコポリマーはUCSTより低い温度にて不溶性である。この特徴は、温度の変化が臨界溶液温度を超えて起こった場合、或いはコポリマーの臨界溶液温度が例えばpH変化に対応して静的環境温度を超えてシフトした場合のいずれかにおける、ポリマーのコンフォーマルな変化により証明されている。一般的に、大部分の薬物送達の用途はLCSTシステムを使用する。環境温度がLCST以上となった場合、突然の収縮及びそれによるLCSTシステムの不溶性は本発明のコポリマーの水相を放出し、疎水性の相とするために、細胞膜との相互作用を容易にする。更に、温度感受性モノマー単位は、アクリルアミド(AAm)のような親水性コモノマー又はその他の型の改質コモノマーと共重合されて、より高い、若しくはより低いLCSTを達成する。そのようなコポリマーは薬物の放出速度を制御するための機能的な薬物送達材料として応用され得る。
【0020】
本発明の使用に適した温度感受性モノマー単位は、例えば、第1級、第2級若しくは第3級アミノ基、アミド基、カルボキシル基、カルボニル基、または水酸基のようなひとつ以上の極性官能基を有しており、それらの全ては本来極性を有する。一般的に、極性官能基が存在することにより、温度感受性のモノマー単位はまた生来的に親水性となる。本発明にて使用され得る温度感受性モノマー単位の例としては、置換されたアクリルアミド、アクリレート、ピロリドン、ピペリジン及びセルロースのようなモノマーに由来するモノマー単位を含む。適切な温度感受性モノマー単位の特殊な例としては、例えば、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)、N−ヒドロキシプロピルアクリレート、N−アクリロイルピロリドン(APy)、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルピペラジン、ヒドロキシ−メチルセルロース、N−t−ブチルアクリルアミド、N−ピペリジル−メタクリルアミド、を含むがそれらに限定されるものではない。本発明の温度感受性モノマー単位として使用される現在好ましいモノマーはNIPAAmである。NIPAAmのモノマー単位を含むポリマーは非常に温度感受性が高く、負の温度感受性を呈し(即ち、LCSTシステム)、それらはそのLCST未満に温度が下がると水溶性となることを意味する。
【0021】
本発明のコポリマーにおいて必要とされる別の型のモノマー単位は親水性単位である。一般的に、親水性のモノマー単位は本発明のコポリマーのLCSTを改質する/シフトするための手段を提供する。親水性単位は温度感受性親水性単位よりも比較的親水性であるので、コポリマーのLCSTは増大する:逆に、比較的親水性単位が少ない場合又は疎水性単位が存在する場合、コポリマーのLCSTは低くなる。本発明に適した親水性モノマー単位は任意の適切な共重合可能なモノマーを含み、同モノマーは、例えば第1級、第2級又は第3級アミノ基、アミド基、スルフヒドリル基、カルボキシル基、カルボニル基又は水酸基のような1つ以上の極性官能基を有する。極性官能基も存在しており、故に生来的に親水性である温度感受性モノマー単位に対して、本発明にて必要とされる親水性モノマー単位は温度感受性である必要はない。
【0022】
ある実施形態において、親水性モノマー単位は温度感受性親水性単位と比較してより親水性である。これは得られたコポリマーのLCSTを増大するために供される。これらの実施形態に存在する親水性モノマー単位は以下のモノマー:アクリル酸、アクリルアミド、アクリレート、ピロリドン、エチレングリコール及びそれらの誘導体、に由来するがこれらに限定されるものではない。特殊な実施形態において、親水性モノマー単位は、アクリルアミド(AAm)、N,N’−ジメチルアクリルアミド(DMAAm)及びN−(ヒドロキシメチル)アクリルアミドを含むアクリルアミド及びN−置換アクリルアミド誘導体モノマーに由来するが、これらに限定されるものではない。本発明のコポリマー中にDMAAmが存在している好ましい実施形態において、熱感受性が高められ、それにより体温におけるより小さな温度変化に応答して、「オン−オフ」薬物放出を可能にする。付随的に、本発明のコポリマー中にNIPAAm及びDMAAmを備えることにより、本発明のコポリマーのLCSTが(37℃よりわずかに高い温度まで)上昇する。生理学的な条件下においてコポリマーのLCSTが体温よりわずかに高いポリマーを使用することが一般的には望ましい。通常の生理学的なpH(典型的には7.4)から7.2以下までの環境pHの変化が、通常体温より高い値から通常体温より低い値までLCSTを移行させることが可能である限り、LCSTの上限は必要ではないと考えられる。
【0023】
本発明のコポリマーにおいて必要とされる第3の型のモノマー単位は、共重合可能な不飽和脂肪酸に由来する疎水性単位であり、少なくとも1つのpH感受性の部分を含む。少なくとも1つのpH感受性官能基を有する任意の適切な不飽和脂肪酸が本発明において使用可能である。適切な不飽和脂肪酸はすべての天然の及び人工的に改質/合成された脂肪酸を含み、かつ1,2,3,4,5,6,7,8又はそれ以上の炭素二重結合及び/又は三重結合を有するすべてのモノ不飽和脂肪酸及びポリ不飽和脂肪酸、並びにそのシス型異性体及びトランス型異性体の全てを含む。脂肪酸の不飽和部分、即ち、炭素−炭素二重結合部分は、同脂肪酸の主たる炭素鎖の任意の位置に存在し得る。
【0024】
不飽和脂肪酸の炭化水素鎖はコポリマーの主たる疎水性部分を構成する。疎水性部分は、本発明のコポリマーに疎水性の性質を与えることに寄与する。疎水性部分はコア−シェル構造体を形成するために必要であり、抗癌剤分子のようなその他の疎水性材料とコポリマーとの相互作用を可能にする。適切な脂肪酸の炭化水素鎖は、典型的には天然の脂肪酸(分岐したアルキル鎖を含む)に見出される直鎖の分岐していないアルキル鎖を含み得る。例えば、カルボン酸、アミン及び水酸基のような官能基で選択的に置換された環状若しくは分岐状アルキル鎖の場合もある。官能基の位置に関してはいかなる制限もない。カルボン酸は特にコポリマーにpH感受性を提供するとともに適切なリガンドと結合することを可能にする。脂肪酸に存在する任意のその他のpH感受性官能基もまたこれらの機能に供され得る。
【0025】
一実施形態において、本発明のコポリマーは以下の構造式(I)を有する:
【0026】
【化1】
上記式において定義されたA、B及びCは、それぞれランダムに、温度感受性単位、親水性単位及び疎水性単位である共重合されるモノマー単位、又はそのポリマーブロックを示している。Xは脂肪酸の疎水性セグメントと直接結合するカルボン酸官能基を示す。
【0027】
別の実施形態において、不飽和脂肪酸は(包含的に)5乃至50以上の主鎖炭素原子を含むものからなる。この実施形態において、脂肪酸は1つの炭素−炭素二重結合を含み、モノ不飽和脂肪酸であることを意味する。疎水性モノマー単位が由来する特殊なモノマーは、例えば、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸及びドデセン酸を含む。脂肪酸の炭素−炭素二重結合の位置に特別な制限はない。
【0028】
現在のところ好ましいモノ不飽和脂肪酸は、(Z)−9−テトラデセン酸、(E)−9−ヘキサデセン酸、(Z)−9−ヘキサデセン酸、(E)−9−オクタデセン酸、(Z)−9−オクタデセン酸、(Z)−11−オクタデセン酸、(Z)−11−エコセン酸(Ecosenoic acid)、(Z)−13−ドコセン酸及び(Z)−15−テトラコセン酸からなる群より選択される脂肪酸を含むが、それらに限定されるものではない。
【0029】
一実施形態において、モノ不飽和脂肪酸はオメガ−1脂肪酸であり、脂肪酸のカルボン酸官能基の位置の反対側にある端部の最初の炭素原子と二番目の炭素原子との間に二重結合が存在しているものを意味する。オメガ−1脂肪酸を使用する利点は、炭素−炭素間の二重結合が嵩高いアルキル鎖に立体的に妨害されないので必要とされる温度感受性モノマー単位及び親水性モノマー単位と同脂肪酸とが容易に共重合される点にある。現在好ましいオメガ−1脂肪酸は、4−ペンテン酸、7−オクテン酸、10−ウンデセン酸、15−ヘキサデセン酸及び19−エコセノン酸からなる群より選択される。
【0030】
別の実施形態において、脂肪酸は少なくとも2つの炭素−炭素二重結合を含み、脂肪酸はポリ不飽和であることを意味する。適切なポリ不飽和脂肪酸はオメガ−3、オメガ−6、及びオメガ−9脂肪酸並びにその他の型の脂肪酸を含む。本発明に使用され得るポリ不飽和脂肪酸の適切な例は、(E,E)−9,12−オクタデカジエン酸、(Z,Z)−9,12−オクタデカジエン酸、(E,E)−9,11−オクタデカジエン酸、(Z、Z,Z)−9,12,15−オクタデカトリエン酸、(Z、Z,Z)−6,9,12−オクタデカトリエン酸、(Z,Z,Z,Z)−6,9,12,15−オクタデカテトラエン酸、(Z,Z)−11,14−エコサジエン酸、(Z,Z,Z)−5,8,11−エイコサトリエン酸、(Z,Z,Z)−11,14,17−エイコサトリエン酸、(Z,Z,Z)−8,11,14−エイコサトリエン酸、(Z,Z,Z,Z)−8,11,14,17−エイコサテトラエン酸、(Z,Z,Z,Z)−5,8,11,14−エイコサテトラエン酸、(Z,Z,Z,Z,Z)−5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸、(Z,Z)−13,16−ドコサジエン酸、(Z,Z,Z)−13,16,19−ドコサトリエン酸、(Z,Z,Z,Z)−7,10,13,16−ドコサテトラエン酸(Ocosatetraenoic acid)、(Z,Z,Z,Z,Z)−4,7,10,13,16−ドコサペンタエン酸、(Z,Z,Z,Z,Z)−7,10,13,16,19−ドコサペンタエン酸、(Z,Z,Z,Z,Z、Z)−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸及び(Z,Z,Z,Z,Z,Z)−6,9,12,15,18,21−テトラコサヘキサエン酸を含む。
【0031】
本発明のコポリマーは上述の3つの型のモノマー単位のみを含むか、あるいは付随的にその他の型のモノマー単位を含み得る。例えば、NIPAAm及びN−t−ブチルアクリルアミド、又はNIPAAm及びN−ピペリジル−メタクリルアミドのような二つ以上の温度感受性モノマー単位を使用することも可能である。同様に、DMAAm及びAAm、又はDMAAm及びAPyのような二つ以上の親水性モノマー単位を使用することも可能である。その他の型のモノマー単位はまた、コポリマーの物理化学的特性を調整するか、若しくは更なるリガンドとの結合のための官能基又はスペーサを導入するためにコポリマー骨格に組み込むことが可能であり、これらのモノマー単位は、例えばN−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド又はヘテロ2官能基PEGを含む。
【0032】
本発明のコポリマーは、3つの主要な型のモノマー単位、即ち、温度感受性モノマー単位、親水性モノマー単位及び疎水性単位がコポリマー内にランダムに分配されているランダムコポリマーであり得る。コポリマーは、ジブロック若しくはトリブロックコポリマーのようなブロックコポリマー並びにブロック−グラフトコポリマーとしても合成され得る。一実施形態において、温度感受性モノマー及び親水性モノマーは1つのブロックのポリマーを形成するために共重合され、かつ親水性モノマーは別のブロックのポリマーを形成するために共重合され、それによりジブロックコポリマーを形成する。
【0033】
一実施形態において、コポリマーは更に少なくとも1つの末端基を含む。末端基は、終端部、リガンド、薬物分子、タグ、ラジオイムノ結合体、コポリマーの物理化学的特性を改質するための部分及びスペーサ(リンカー)からなる群より選択される少なくとも1つの部分を含む。
【0034】
特殊な実施形態において、本発明のコポリマーは以下の式(II)に従う構造を有する終端部を構成する末端基を含む:
【0035】
【化2】
ここでYは終端部である。
【0036】
本実施形態において、末端基は、コポリマーの炭素骨格(即ち、モノマー単位を結合する炭素鎖)の末端炭素原子に結合され得る。典型的には、終端部は、所望の末端構造を含む連鎖移動剤を反応するモノマーの混合物に加えることによりコポリマーに導入されるか、或いはリビング重合法により生成される。連鎖移動剤は「クエンチング」原子を成長する鎖の端部にて活性ラジカルに提供することにより成長するポリマー鎖の同成長を停止することができる。同様に、未反応のモノマーを攻撃し、よって新たな鎖の成長を開始するラジカルとして残される。従って、連鎖移動剤は、本発明においては、適切な反応性官能基をコポリマーに提供するため、及び低分子量のポリマーを得るために使用され得る。連鎖移動剤の例としては、クロロホルム、四塩化炭素、アミノエタンチオール、アルキル−メルカプタン、オクタンチオール、デカンチオール、n−ドデカンチオール又はt−ドデカンチオール、メルカプト−プロピオン酸、メルカプト−コハク酸、チオグリコール酸、そのメルカプトエタノール第2級アルコール、アルキルハライド、酸化数が5未満のリン酸塩、及び当業者に周知のその他の添加物/鎖制限剤を含む。本発明において使用され得るその他の連鎖移動剤の例としては、溶媒、不純物又は適切な改質剤を含む。
【0037】
更なる実施形態において、終端部は水酸基、カルボキシル基、カルボニル基及びアミノ基からなる群より選択される少なくとも1つの官能基を含む。アミノ基は現在のところ好ましいものであり、第1級アミノ基及び第2級アミノ基を含む。アミノ基は例えば、コポリマーの末端に結合されるアルキルチオール基、例えば2−アミノエタンチオール又は2,2−ジアミノ−エタンチオール、に存在している。終端部にアミノ基が存在していることによりポリマー及び標的となる官能基の修飾が可能となり、同修飾は例えば、それらに限定されるものではないが、小さな標的分子(例えば、葉酸、その他のビタミン及びアセチルコリン等)、タンパク質(例えば、トランスフェリン及びモノクロナール/ポリクロナール抗体等)、ペプチド(例えばTAT)及び炭水化物(例えばガラクトース及び多糖)を含むリガンドとの結合によりなされ、所望の細胞、組織又は器官において特異的なレセプターにより認識され得る。加えて、アミノ基はまた、薬物又はタグ(例えば、関心のある生物学的な系においてナノ粒子を視認又は精製するための蛍光プローブ)又はラジオイムノ結合体、又は、例えばポリマーの疎水性を増大するために疎水性セグメントを付着するためにポリマーの特性を改質する化学部分と結合され得る。
【0038】
終端部Yは、タンパク質のような、リガンド、タグ、ラジオイムノ結合体、薬物又はその他の化学部分に存在する官能基と反応する官能基となるように適合され得ることは当業者に理解されるであろう。例えば、1つ以上のカルボン酸官能基が選択されたリガンドに存在している場合、アミノ基を有する終端部が結合を容易にするために使用され得る。逆に、アミノ基を含む生物学的な分子はカルボン酸官能基を有する終端部に取り付けられ得る。
【0039】
標的のセレプターの生物学的な認識に適した官能基を提供するために、コポリマーは同コポリマーに存在する官能基と結合することができる1つ以上のリガンドと結合され得る。使用され得るリガンドは、小さな標的分子、タンパク質、ペプチド及び炭水化物を含むがそれらに限定されるものではない。
【0040】
一実施形態において、末端基は終端部及びリガンドから構成されている。リガンドを保持するコポリマーは生体内の所望の組織又は細胞の特異的な型若しくは部分を効率的に標的化するために使用され得る。コポリマーの標的化の効率は本発明のコポリマーのpH感受性により高められる。
【0041】
本発明のコポリマーと結合するために使用され得るリガンドは、小さな標的分子(例えば、葉酸、その他のビタミン及びアセチルコリン等)、タンパク質(例えば、トランスフェリン及びモノクロナール/ポリクロナール抗体等)、ペプチド(例えばTAT)及び炭水化物(例えばガラクトース及び多糖)を含むが、それらに限定されるものではない。1つのコポリマーに存在する生物学的に活性を有するリガンドの数は、1、2、3、4、5、又はそれ以上の数の範囲にある。
【0042】
本発明における使用が意図されている成長因子(タンパク質及びペプチド)の例としては、血管内皮成長因子(VEGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、繊維芽細胞成長因子(FGFs)、形質転換成長因子−b(TGFs−b)、形質転換成長因子−a(TGF−a)、エリスロポエチン(Epo)、インスリン様成長因子−I(IGF−I)、インスリン様成長因子−II(IGF−II)、インターフェロン−g(INF−g)、コロニー刺激因子(CSFs)を含む。使用が意図されているサイトカイン(タンパク質)は、リンフォカイン及びモノカインを含み、例としてはインターロイキン−1(IL−1)、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)が含まれる。癌が治療されるべき疾病である場合、選択されたリガンドは、好ましくは癌細胞の特異的レセプターによって認識されるべきである。本発明のコポリマーとともに使用されることが意図されている特異的な型の癌細胞レセプターのリガンドは、葉酸、ターグレチン、アリトレチノイン、大腸菌毒、C3開裂フラグメント(C3d、C3dg及びiC3b)、エプスタイン−バーウィルスgp350/220及びCD23を含み、本発明のコポリマーと結合され得る。抗体もまた癌細胞リガンドとして使用可能であり、当業者に周知の、マウス、ウサギ、ニワトリ、ヤギ及びヒツジから得られるモノクロナール及びポリクロナール免疫グログリン、及びFuフラグメント、scFuフラグメント、Fabフラグメントのような組換え抗体、又は二重特異性抗体を含み得る。使用を意図されているサイトカインは、TNFファミリーのサイトカインを含み、腫瘍壊死因子−a(TNF−a)、腫瘍壊死因子−b(TNF−b)、Fasリガンド(FasL)及びTNF関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)を含む。その他の適切なリガンドは、トランスフェリン、アセチルコリン、ビオチンラベル及び葉酸を含む。リガンド又は本発明のコポリマーの前修飾(例えば、リガンド上の相補的な官能基と反応する官能基を組み込むことによって)は、必要に応じて実施され得る。
【0043】
別の実施形態において、末端基は、終端部、リガンド、タグ、薬物分子、ラジオイムノ結合体又は任意のその他の化学部分(例えば、コポリマーの物理化学的特性を改質するための部分)から構成される群より選択され得る。
【0044】
リガンド、薬物、タグ、ラジオイムノ結合体又はその他の化学部分を組み込むコポリマーは、式(III)に従う一般的な構造を含み得る:
【0045】
【化3】
終端部Yは、上式に示されるように、Qにより示されるリガンド、タグ、薬物、ラジオイムノ結合体又は化学部分に結合され得る。
【0046】
リガンド、タグ、薬物、ラジオイムノ結合体又は化学部分は終端部に限定的に結合されてはいない。その他の実施形態において、リガンド、タグ、薬物、ラジオイムノ結合体又は化学部分は、温度感受性単位又は親水性単位に配置される官能基に連結又は結合され得る。代替的に末端基は、終端部Yに代えて親水性単位又は温度感受性単位の官能基のようなモノマー単位の任意の1つに結合され得る。そのような実施形態において、終端部は存在しているかもしれないし、していないかもしれない。本実施形態は、以下の式(IV)及び(V)にて示される:
【0047】
【化4】
本実施形態において、Pはリガンド、タグ、薬物、ラジオイムノ結合体又は化学部分であり得る。
【0048】
別の実施形態において、薬物分子(例えば、ドキソルビシン)のような疎水性分子P’又はコポリマーの疎水性を改質するための部分は、Xに結合されている。その際、コポリマーは疎水性分子がコア内に配置されているコア・シェル構造体に配置され得る(式(VI)):
【0049】
【化5】
上記式(III)、(IV)、(V)及び(VI)に示される実施形態において、スペーサ−s−はリガンド、タグ、ラジオイムノ結合体、薬物又は化学部分と終端部との間に選択的に配置され得る(式IIIs):
【0050】
【化6】
或いは、選択的にBとPとの間に配置され得る(式IVsを参照):
【0051】
【化7】
或いは、選択的にAとPとの間に配置され得る(式Vsを参照):
【0052】
【化8】
或いは、選択的にP’とカルボニル基との間に配置され得る(式VIsを参照)。
【0053】
【化9】
P、P’及びQはそれぞれ、以下の式(VII)に例示されているように、単一のコポリマー内の、終端部(Y)及び親水性モノマー単位Bの官能基の両方、又はB及びX、又はX及びY、又はX及びA、又はY及びA、又はA及びB、或いはA、B、X及びYのうちの任意の3つとそれぞれ結合され得る。
【0054】
【化10】
上式(VII)の各スペーサ−s−は同じであるか、又は異なっている。
【0055】
スペーサは、コポリマーのナノ粒子への自己アセンブリの後に、リガンド、タグ又はラジオイムノ結合体が、細胞、組織又は器官に自由にアクセスできるものである限り、任意の適切な長さ又は数の主鎖原子を有し得る。
【0056】
好ましい実施形態において、1つのスペーサが使用され、そのスペーサは10を超える主鎖原子を含む。そのようなスペーサの例は例えば、ポリ(エチレングリコール)及びポリ(プロピレングリコール)のようなポリオキシアルキレン化合物に由来し得る。リガンド、タグ又はラジオイムノ結合体は、スペーサ分子上の任意の位置に存在し得る。一実施形態において、リガンド、タグ又はラジオイムノ結合体は、スペーサ分子の末端主鎖原子に配置された官能基に結合される。その他の実施形態において、リガンド、タグ又はラジオイムノ結合体は、存在する場合はスペーサ分子の側鎖の任意の1つに配置された官能基に結合される。
【0057】
本発明のコポリマーは、薬物送達、特に本来疎水性である薬物の送達のための材料として有利に使用され得る。コポリマーが本来両親媒性であり、かつコポリマーの水に対する溶解性が温度及び/又はpHの変化により操作可能であるので、疎水性の薬物は本発明のコポリマーを使用して、典型的にはコア−シェル・ナノ粒子として周知のコア−シェル構造体内に簡便に包まれる。本発明の組成物は、コポリマーのLCST未満にて水相にて調製される場合、コポリマー及び疎水性薬物はコア−シェル配列に自身にてアセンブリされ、それにより疎水性薬物はコアに配置され、同コアにて脂肪酸モノマー単位の疎水性セグメントと反応する。温度感受性モノマー単位及び親水性モノマー単位はシェル内に配置され、溶媒(水)分子又はその他の極性分子と反応し、それにより疎水性薬物を水相に溶解する。このようにして、疎水性薬物は水に溶けるようになり、血流に運ばれる。疎水性セグメント(即ち、脂肪酸単位)にカルボン酸基が存在しているので、親水性薬物、タンパク質又はペプチドはまた、ナノ粒子のコア内に封入され、封入された薬物、タンパク質及びペプチドを崩壊から保護し、細網内皮系(RES)の除去を回避することによって体循環において長時間にわたる活性を示す。薬物がコア−シェル・ナノ粒子に包み込まれる場合、組成物を形成し、同組成物は、静脈内に、経口にて、筋肉注射にて、局所的に、又は眼の経路により、若しくは吸入により、患者に容易に投与され得る。一般的に、ナノ粒子を形成するために使用されるコポリマーの分子量は制限されない。しかしながら、ポリマーが腎臓から排出されるためにはコポリマーの分子量を40000未満に維持することが好ましい。ポリマーの濃度、薬物の装填量及びナノ粒子の製造条件を含む幾つかのパラメータが本発明のコポリマーを使用して形成されるナノ粒子のサイズに影響を与える。本明細書に開示されているコポリマーから合成されるナノ粒子のサイズは典型的には、血漿内での透過性及び保持性を高める効果(EPR)のため及び長期にわたり循環するためには200nm未満であり得る。
【0058】
少なくとも3つのモノマー単位の各々は任意の適切な比率にて本発明のコポリマー中に存在し得る。一般的に、モノマー単位の比率は、所望のLCST及びpH特性を達成するために変更され得る。同比率はまた、各モノマー単位に存在する官能基の型及び数並びにポリマーのpH感受性及び温度感受性のようなその他の因子に依存する。コポリマーに存在するモノマー単位のモル比は、コポリマーを調製するために使用される各モノマー単位の供給モル比に主として依存する。
【0059】
一実施形態において、本発明のコポリマーに存在する温度感受性モノマー単位のモル量は、最終的なコポリマーの温度感受性に対して親水性単位の希釈効果を避けるために親水性モノマー単位のモル量より大きく、一方、親水性モノマー単位のモル量はコポリマーの疎水性モノマー単位の量よりも大きい。ある実施形態において、本発明のコポリマーを調製するために使用される温度感受性モノマーの供給モル量は、親水性モノマーの供給モル量の約2乃至6倍であり、かつ疎水性モノマーの供給モル量の約4乃至8倍である。有用なコポリマーを形成するために使用される供給モル比の例は、温度感受性モノマーの1乃至4モル比であり、親水性モノマーの0.5乃至1.5モル比であり、疎水性モノマーの0.01乃至0.75モル比である。特に適した実施形態において、供給モル比のこの範囲に従って使用されたそれぞれのモノマーは、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド及び10−ウンデセン酸である。
【0060】
1つの好ましい実施形態において、コア−シェル・ナノ粒子のLCSTは7未満のpH、好ましくは7.2未満のpHにて37℃未満である。別の実施形態において、コア−シェル・ナノ粒子の下限臨界溶液温度は通常の生理学的な条件(pH7.4)下にて37℃よりも高い。コポリマーのLCSTはコポリマーを形成するために使用されるモノマー単位の割合又は親水性モノマー単位の性質を変更することにより、上げたり、下げたりと制御可能であることを明記したい。生理学的なpHにおけるコア−シェル・ナノ粒子のLCSTは通常の体温即ち37℃よりも高く、かつLCSTは酸性環境においては通常の体温未満であるコポリマーを備えることが現在のところ好ましい。可逆性かつpH依存性LCST及び相転移特性は本発明のコポリマーを使用して形成されたナノ粒子により示された。例えば、モル比が3.75:1.25:0.5であるN−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド及び10−ウンデセン酸のコポリマーから水溶液中にコア−シェル・ナノ粒子を自己アセンブリする1つの特殊な実験設定において、この特定の組成物にて形成されたコア−シェル・ナノ粒子のLCSTはリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)中では38.5℃であり、わずかに酸性の環境(例えば、pH6.6未満である場合)においては顕著に減少する(35.5℃)。
【0061】
本発明にて使用されることを意図された薬物は、抗癌剤、抗炎症剤、神経系疾患を治療するための薬物及び免疫抑制剤等を含むがそれらに限定されるものではない。例えば、ドキソルビシン、アナストロゾール、エキセメスタン、シクロホスファミド、エピルビシン、トレミフェン、レトロゾール、トラスツズマブ、メゲストロール、ノルバデックス、パクリタキセル、ドセタキセル、カペシタビン、酢酸ゴセレリン、シクロスポリン、シスプラチン、インドメタシン、ベタメタゾン及びドキシシクリン。
【0062】
効率的な薬物送達のために、病巣の標的化及び細胞内へのアクセスを高めるための薬物担体が有利である。薬物担体のある条件下における標的化及びそれに続く内在化は、薬物担体を、天然のエンドサイトーシス経路を利用して正常に取り込まれたリガンドと結合することにより達成される。この戦略を使用して、本発明のコポリマーは、モノクロナール抗体、成長因子またサイトカインのような種々のリガンドとともに組み込まれ、担体の標的細胞内への取り込みを容易にするために使用され得る。小さな非抗原性のリガンドは、生物学的なバリア、例えば、標的細胞の細胞壁及び免疫原性(immunogenecity)を介して拡散する困難性を回避するために本発明において使用されることを意図されている。
【0063】
一実施形態において、葉酸はリガンドとして使用される。葉酸(MW=441Da)は低分子量かつ非抗原性リガンドであり、腫瘍細胞の標的化シグナルとして良好である。葉酸はそのレセプターがヒト癌細胞の表面に頻繁に発現されるビタミンである。付随的に、それは細胞表面レセプターと非常に高い親和性を示し(Kd〜10−10M)かつ細胞質に移動可能である。葉酸は、リソソームにて終わるよりはむしろカベオラ媒介エンドサイトーシスを追従し、その含量は迅速に分解することが見出された。従って、本明細書に開示されたコポリマーを使用する薬物組成物におけるリガンドとして葉酸を使用することにより、薬物は所望の細胞内の位置に送達され、分解性酵素からも安全である。カベオラ経路を介して到達可能なエンドソームはまた酸性であることが知られている。この酸性であることにより、エンドソームはナノ粒子のLCSTを変更し(体温より高い温度から体温より低い温度まで)、エンドソーム膜を破壊する。従って、細胞質への細胞内薬物送達が達成され得る。
【0064】
本発明に関係する組成物は、コポリマーの疎水性部分との疎水性相互作用によりナノ粒子の疎水性コア内に治療薬が装填されるコア−シェル・ナノ粒子に制限されるものではない。例えば、脂肪酸のカルボキシル基が薬物分子のアミノ基又は水酸基と反応することによるような、薬物分子がコポリマーの任意の部分に配置された適切な官能基と反応することにより、治療薬分子とコポリマーとの共有結合も可能である。薬物分子がコポリマーと結合されている組成物は、コア−シェル構造体又はミセル構造体の両方、或いは薬物送達を容易にするのに適したその他の安定な構造体が想定される。薬物と本発明のコポリマーとの結合体は代替体を提供するが、薬物を標的器官/細胞位置に送達する同様に効果的な手段である。
【0065】
本発明の組成物中における治療薬としてドキソルビシンが使用される別の実施形態において、ドキソルビシンはカルボジイミド化学によりコポリマーと結合される。ドキソルビシンのアミン基は図23及び24に示されているように、本発明のコポリマーのカルボキシル基と結合される。
【0066】
以下の例は、本発明をより完全に示すために提供されており、本発明の範囲を制限するものとして解釈されるものではない。
【実施例1】
【0067】
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N,N−ジメチルアクリルアミド−コ−10−ウンデセン酸)[P(NIPAAm−co−DMAAm−co−UA)]の合成
A)実験の部
i)材料
特に明記されていない限り、全ての試薬及び溶媒は市販のグレードのものであり、入荷されたものとして使用した。N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド及び10−ウンデセン酸(98%)はアルドリッチ(Aldrich)社から購入し、結晶化(n−ヘキサン)及び減圧蒸留にてそれぞれ精製した。連鎖移動剤(CTA)である2−アミノエタンチオール塩酸塩(AET.HCl)はシグマ,アルドリッチ(Sigma,Aldrich)社から購入した。1Mのトリニトロベンゼンスルホネート(TNBS)水溶液は、フルカ(Fluka)社から購入した。塩酸ドキソルビシンは、インドに所在のサン・ファーマシューティカルズ社(Sun Pharmaceuticals)から厚意により譲り受けた。3−[4,5−ジメチルチアゾリル−2−]−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロマイド(MTT、ドゥシェファ(Duchefa)社)は、細胞の定量化のために5mg/mLのPBS溶液(pH7.4)中にて使用した。溶液は青色のホルマザン結晶を除去するために0.22μmのフィルタにて濾過した。
ii)合成
種々の組成物を備えたP(NiPAAm−co−DMAAm−co−UA)ポリマーは、レドックス対の過硫酸アンモニウム(APS)及び2−アミノエタンチオール塩酸塩(AET.HCl)を用いてラジカル共重合により合成した(図1)。[ボカイス(Bokias)ら、Macromol.Chem.Phys.、199、1998年、1387−1392頁]。重合化工程を以下に簡単に説明する。N−イソプロピルアクリルアミド(3.965g,34.99mmol)及びN,N−ジメチルアクリルアミド(1.48g,14.99mmol)を10mLの超純水に溶解した。ウンデセン酸(0.921g,5.0mmol)は5mLの4%水酸化ナトリウム溶液と反応させることによりナトリウム塩とし、ナトリウム塩の透明な溶液を、N−イソプロピルアクリルアミド及びN,N−ジメチルアクリルアミドの溶液に加えた。混合物を精製した窒素ガスで15分間浄化した。APS(0.254g,モノマー供給量の4.0モル%)及びAET.HCl(0.244g,2.16mmol,モノマー供給量の4.0モル%)を5.0mLの超純水に溶解した。溶液を、連続して攪拌しながら、ゆっくりとモノマー溶液に加えた。反応は、窒素下にて27℃で48時間実施した。完了後、粗生成物を過剰の塩化ナトリウムを加えることにより沈殿させ、真空にて乾燥した。粗生成物をエタノールに溶解し、分子量カットオフが2000(Spectra/Por)である膜を使用して、超純水、次にエタノールにて透析した。精製品はエタノールを蒸発後に回収した。
【0068】
ポリマーの化学構造は、1HNMR(BrukerAVANCE400)及びフーリエ変換赤外分光法(Perkin Elmer Spectrum 2000,KBr)により特徴付けた。ポリマーの分子量は、25℃にて、THF(溶出速度:1ml/分)におけるゲル透過クロマトグラフィー(GPC,ウォーターズ(Waters)社、ポリスチレン標準品)にて決定した。示差走査熱量測定(DSC)は、3℃/分のランプ速度を用いてTA2920モジュレートDSC装置(CT,アメリカ合衆国)を用いて実施した。熱重量分析は、TGA7(パーキンエルマー(Perkin Elmer)社,アメリカ合衆国)を使用して実施した。
iii)酸−塩基滴定及びアミン基決定
酸−塩基滴定はカルボン酸基及びポリマーのpKaを推定するために実施した。要約すると、100mgのポリマーを10mLの超純水に溶解し、フェノールフタレインを指示薬として0.01NのNaOHにて滴定した。ポリマーの見かけの分配係数pKaも塩基の添加時に連続的にpHを測定しながらこの滴定法により決定した。pH対塩基容量のグラフから、pKaは当量点における塩基の容量の半量におけるpHとして計算した。ポリマー中の遊離アミン基は分光学的決定により推定した。量が既知であるポリマーを、0.01MのTNBSを含む2.0mLの炭酸水素ナトリウム水溶液(2.0w/v%)に溶解した。溶液を40℃にて2時間維持し、その後冷却して、特定の容量にて希釈した。サンプル中のTNBSで誘導体化されたアミン官能基の量は、標準品としてL−アラニンを採用して345nmにおけるUV−VIS分光光度計(UV−2501PC、シマズ社)を使用して決定した。
iv)透過率の測定
異なるpH値の緩衝溶液中のポリマーのLCSTは、温度を関数とした光学透過率の変化を監視することにより決定した。サンプル溶液(0.5wt%)は、中和したフタル酸緩衝液(pH5.0)、PBS(pH6.0、6.6及び7.4)並びにpHが9.0及び10.0であるアルカリ性ホウ酸塩緩衝液のような緩衝液中にて調製した。全ての緩衝液は、154mMのイオン強度にて調製した。ポリマー溶液の光学透過率は、温度コントローラ(TCC−240A、シマズ社)を使用したサーモスタットで制御された、サンプルセルを備えたUV−VIS分光光度計を使用して500nmにて測定した。加熱速度は、0.1℃/分に設定した。ポリマー溶液のLCST値は50%の光学透過率を示す温度に決定した。LCSTにおけるタンパク質の効果は10(w/v)%ウシ血清アルブミン(モデルタンパク質としてのBSA)の存在下においても調べた。
v)蛍光測定
PBS(pH7.4)におけるポリマーのCMC値は、ピレンをプローブとして蛍光分光法にて決定した。ピレン溶液のアリコート(アセトン中に1.54×10−5M,400μl)を10mLの容量フラスコに加え、アセトンを蒸発させた。1.0×10−5乃至1.0g/Lの範囲の濃度のポリマー溶液をPBSにて調製した。次いで、10mLの水溶性ポリマー溶液をピレン残渣が含まれた容量フラスコに加えた。サンプル溶液の全てには6.16×10−7Mである同一の濃度にて過剰のピレン含量が含まれていたことを明記したい。溶液は平衡となるように24時間室温(20℃)にて放置した。次に、ポリマー溶液の蛍光スペクトルを室温にて、LS50B発光分光計(パーキンエルマー社,アメリカ合衆国)にて記録した。放出スペクトルは350乃至500nmにて記録され、340nmに励起波長が存在していた。励起及び放出帯域幅はいずれも5nmに設定した。第3のバンド(391nm,l3)の第1のバンド(371nm,l1)に対する強度(ピーク高さ)比(l3/l1)は、ピレン放出スペクトルからポリマー濃度の関数として分析した。CMC値は、曲線の屈曲部における接線と、低濃度における地点を通る水平方向の接線との交点から求めた。
vi)ブランクの、及び薬物が装填されたコア−シェル・ナノ粒子の調製
ブランクのコア−シェル・ナノ粒子は、同ナノ粒子のサイズに対するpH及び温度の影響を調べるために調製した。ポリマーを0.5(w/v)%の濃度にてジメチルアセタミド(DMAc)に溶解し、次に室温にて2000の分子量カットオフ(Spectra/Por)膜を用いて24時間、0.02wt%HClと0.02wt%NaOHにてそれぞれ透析した。得られたナノ粒子溶液は、0.45μmのシリンジフィルタを用いてろ過した後に凍結乾燥し、更なる分析を行う前に4.0℃にて保存した。エフ.コホリら(前述)により報告されたものと同様のプロトコルを使用して、コア−シェル・ナノ粒子にDOXを装填した。簡単に述べると、7.5mgのDOXを3mLのDMAc中の2モルの過剰量のトリエチルアミンで中和し、薬物を溶解するために溶液を攪拌した。次に、15mgのポリマーを溶液に加えた。混合物を50mLの脱イオン水に対して48時間透析した。DOX装填ナノ粒子をろ過し、凍結乾燥した。DOXの装填量を決定するために、容量が既知のDOX装填ナノ粒子を1mLのメタノールに溶解して、次いでPBSを用いて希釈した。DOX濃度はUV−VIS分光光度計を使用して、485nmにて推定された。薬物の装填は、PBS(pH7.4)中のDOXから得られた標準曲線に基づいて計算した。
vii)動的光散乱(DLS)分析
異なるpHにて製造されたコア−シェル・ナノ粒子のサイズはHe−Neレーザビーム(670nm)が装備されたZetaPals(ブルックヘブンインスツルメンツ社(Brookhaven instruments corporations),アメリカ合衆国カリフォルニア州)を使用して分析した。各測定を5回繰り返して、良好な一致を見出した。5回の測定から平均値を得た。ナノ粒子のサイズはまた、同ナノ粒子の相可逆性を調べるために種々の温度にて測定した。再分散され、かつ凍結乾燥されたナノ粒子の安定性は、10(w/v)%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBS(pH7.4)におけるそれらのサイズを測定することにより監視した。
viii)透過型電子顕微鏡(TEM)試験
コア−シェル・ナノ粒子の形態はTEMにより分析した。0.01(w/v)%のリンタングステン酸を含む新たに調製されたナノ粒子溶液の一滴をポリマーフィルムでコーティングされた銅グリッドにおいて、室温にて風乾した。TEM観察は、200keVの電子運動エネルギーを備えたJEM−2010顕微鏡にて実施した。
ix)細胞毒性試験
ポリマー溶液を原料濃度にて調製した。これらの溶液は、0.22μmのシリンジフィルタを用いて滅菌し、PBS(pH7.4)及び培養基を用いて希釈し、10、100、300及び400μg/mLの最終濃度のポリマーを得た。33.3μg/mLの濃度であるポリ(L−リジン)及びPEG(Mw8000)を陽性及び陰性の対照としてそれぞれ使用した。PBS(pH7.4)はブランクサンプルとして代わりに使用した。
【0069】
L929マウス繊維芽細胞を、補給されたダルベッコ変法イーグル培地(DMEM,10%仔牛血清,1%L−グルタメート,1%ペニシリン−ストレプトマイシン)(ギブコビーアールエル(GibcoBRL)社)にて培養し、37℃、5%CO2下にてインキュベートした。細胞を96−ウェルプレートにウェル当たり10,000個の細胞を播種した。次にプレートをインキュベータに戻し、細胞をコンフルエンスの状態まで成長させた。試験開始の朝に、ウェル内の培地は150μlの予め調製された培養基−サンプル混合物と置き換えた。プレートを再びインキュベータに戻して、37℃、5%CO2下にて、24、48及び72時間維持した。露出期間の間、各ウェルの混合物は毎朝新たなアリコートに置き換えた。各サンプルはプレート当たり8回繰り返して試験した。3つのプレートが各露出期間において使用され、サンプル当たり合わせて24回繰り返した。
【0070】
新たな培養基及び20μLのMTT溶液のアリコートを所定の露出期間の後に各ウェルにおいて混合物と置換するために使用した。次にプレートをインキュベータに戻して、37℃、5%CO2下にて更に3時間維持した。次に、各ウェルにおける培養基及び過剰のMTTを除去した。次に150μlのDMSOを各ウェルに加えて内在化した紫色のホルマザン結晶を溶解した。100μLのアリコートを各ウェルから取り出して、新たな96ウェルのプレートに移した。次に、プレートを550nm及び690nmにて定量した。ホルマザン結晶の吸収測定値は、550nmの値から690nmの値を引くことにより得られた。結果は、培養基に加えられたブランクであって比較量のPBSを含むブランクの吸光度の百分率で表した。
x)インビトロ薬物放出試験
ナノ粒子からのDOXの放出は、pH6.0、6.6及び7.4にて試験した。所定量のDOX装填凍結乾燥ナノ粒子を200μLの対応する緩衝液に分散し、2000の分子量カットオフ透析膜(Spectra/Por)に配置する前に30分間安定化させた。次に透析バッグをpHが6.0、6.6又は7.4である25mLのPBSに37℃にて浸漬した。サンプルを特定の時間間隔にて採取し、本実施例のパラグラフA(vi)に記載されているように、UV−VIS分光光度計を用いて薬物濃度を分析した。
B)結果及び考察
i)ポリマー合成及び特徴化
コポリマーの合成及び特徴化における概要を表1に示した。これらの反応において、NIPAAmのDMAAmに対する供給モル比は変更したが10−ウンデセン酸の含量は一定とした。CTAをモノマー供給量の0.2及び0.4モル%にて使用した。重合化はチオールラジカルにより開始され、以下の式に従って、AET.HClと過硫酸イオンとの反応から形成された:
【0071】
【化11】
ここで、Rはアミノエチル基を示す。更に、チオール基は有効な連鎖移動剤として周知である(グリーク(Greeg)他、J.Am.Chem.Soc.、70、1948年、3740−3743頁)。従ってこの場合、形成された鎖の長さはAET.HClのモノマー供給量に対するモル比と、重合化を開始し、かつ連鎖移動反応を行う効率と、により制御される。酸化還元系におけるチオールラジカルのこの開始機構は十分に確立されている(クーン(Khune)ら、Polym.Prpr.、22、1981年、76−77頁)。加えて、この開始剤対を用いて調製された我々のポリマーに対して、各ポリマー分子におけるアミン基の平均数は1.3乃至1.7であると推定された。ポリマーの平均分子量が計算により得られているという事実によって結果は僅かに大きく見積られていた。反応媒体のpHにおける更なる減少が観察され、それは酸性であるHSO4−の生成を示している。GPCにより決定された分子量は、CTA含量の増大が分子量の減少を生じたことを示しており、それはジー.ボカイスら(前述)により報告された結果と一致していた。
【0072】
3つのポリマーの全ての1HNMRスペクトルは、類似したパターンを共有していた。CDCl3中のポリマーIII(NIPAAm:DMAAm:UA=3.50:1.50:0.50)の典型的な1HNMRスペクトルを図2に示す。連鎖移動剤の存在下におけるNIPAAmと、DMAAmと、10−ウンデセン酸との共重合が成功したことは、ビニル基のプロトンシグナルがδ5.4−6.6において存在していないことにより証明された。δ1.5−1.8(シグナルa+a’)及びδ2.1−2.4(シグナルb+b’)におけるブロードピークは、NIPAAm部分及びDMAAm部分における−CH2−及び−CH−基のプロトンにそれぞれ帰属している。イソプロピル基(δ4.0における−CHMe2及びδ1.15における−CHMe2−、それぞれシグナルd及びe)及びδ2.9における−NMe2基(シグナルf)からのその他のプロトンシグナルがまた観察され、それらの化学シフトはモノマーのそれに類似している。シグナルeのシグナルfに対する積分比から、m/n比が推定され、その値は二つのモノマーの供給比とほぼ等しいものであった。これは、二つのモノマーが重合化反応において類似した活性を有していたことを意味する。ポリマーIIIのFT−IRスペクトルを図3に示す。NIPPAmセグメント及びDMAAmセグメントから約1647cm−1(νC=O)及び1548cm−1(νC−N)に強い吸収を示した。10−ウンデセン酸セグメントにおけるνC=Oの吸収は約1713cm−1に現れた。UAの含量は酸−塩基滴定の分析により44.2mg/gのポリマーIIとして推定された(表1)。ポリマーIIのpKaは約6.8であった。ポリマーは、水にも共通した有機溶媒(CHCl3、CH2Cl2、アセトン及びTHF等)にも良好な可溶性を示した。
ii)ポリマーのLCST及びpH及びタンパク質の影響
PNIPAAmは水中で32℃の明確なLCSTを示した。LCSTは導入する疎水性又は親水性モノマーを介して調整され得る。この研究において合成されたポリマーは疎水性セグメントとしてポリ(10−ウンデセン酸)を含んでいる。従って、環境pHはカルボン酸基によって10−ウンデセン酸セグメントの疎水性に影響を与え、最終的にはポリマーのLCSTに影響を与える。図4乃至6は、異なるpH値を有する緩衝溶液中の0.5wt%濃度のポリマーの温度の関数とした場合の光学透過率の変化を示す。DLS分析から、緩衝液中のポリマーは0.5wt%の濃度にてコア−シェル・ナノ粒子内に自己アセンブリした。NIPAAm/DMAAm/UA比が4.00:1.00:0.5であるポリマーIから自己アセンブリされたコア−シェル・ナノ粒子のLCSTは、pH6.0、6.6及び7.4において、それぞれ32.5℃、33.0℃及び33.2℃であった(図4)。しかしながら、pH5.0においてLSCTは27.8℃まで急激に減少した、親水性のDMAAmセグメントの長さが増大しているポリマーII(NIPAAm:DMAAm:UA比=3.75:1.25:0.5)の場合、全てのpH値におけるコア−シェル・ナノ粒子のLCSTは、ポリマーIと比較して増大した(図5)。pH値はポリマーIIナノ粒子のLCSTに大きな影響を与えた。例えば、pH9.0及び7.4において、LCSTはそれぞれ40.5℃及び38.5℃であり、通常の体温以上であることがわかった。しかしながら、pH6.6及び5.0において、LCSTは35.5℃及び35.2℃までそれぞれ減少し、それは通常の体温よりはるかに小さい値であった。仮にナノ粒子が十分に分離されたコア−シェル構造体であるか、或いはコアが十分に剛性である場合、ナノ粒子のLCSTは、pH感受性部分が疎水性セグメントにあるので環境のpHにより影響を受けないであろう。これらのポリマーから形成されたコア−シェル・ナノ粒子は、ゆるく集合されているのであろう。従って、ナノ粒子のコアは外部環境に十分にアクセスできるであろう。外部環境のpHが増大すると、10−ウンデセン酸セグメントのカルボン酸基が更に脱プロトン化されるので、10−ウンデセン酸セグメントの疎水性が低減する。これはポリマーのLCSTにおける増大を生じ、よってナノ粒子のLCSTが増大する。ポリマーI及びポリマーIIは類似した含量のカルボン酸基を有しているにも関わらず、ポリマーIIのpH感受性におけるカルボン酸基の脱プロトンの影響はポリマーIに対するものよりもより重要であった。それは、ポリマーIがより大きな分子量を有することによるのかもしれない。LCSTを超える熱力学的な相分離は混合の低エントロピーに起因するので、混合のエントロピーは分子量の増大とともに減少する(スタイル(Stile)ら、Biomacromolecules、3、2002年、591−600頁、レッサード(Lessard)ら、Can.J.Chem.、79、2001年、1870−1874頁)。これは分子量がポリマーのpH感受性に影響を与える重要な因子であることを示している。
【0073】
親水性セグメントの長さが更に増大すると、図6に示されるようにLCSTも大きくなる。ポリマーの中では、NIPAAm/DMAAm/UA比が3.5:1.75:0.5であるポリマーIIIが全てのpH条件下において、最も高いLCSTのコア−シェル・ナノ粒子を提供し、その温度は通常の体温よりも大きい値であった。例えば、pHが11.0、7.4、6.6、6.0及び5.5であるポリマーIIIナノ粒子のLCSTは、それぞれ、43.0、43.0、41.0、40.7及び39.0℃であった。ポリマーIIIナノ粒子のLCSTはまた、pHに依存した。しかしながら、温度感受性は低かった。これは、DMAAmの希釈効果によるものと考えられる、即ち、コポリマー内のPNIPAAmセグメントは高いモル比にて、DMAAmセグメントにより十分に分離かつ希釈されており、それがNIPAAmの近隣のアミド基間の分子内水素結合を低減することによるものであると考えられる。その結果、コポリマーの温度反応性はゆっくりとしている(リウ(Liu)ら、J.App.Poly.Sci.、90、2003年、3563−3568頁、カツモト(Katsumoto)ら、J.Phys.Chem.A.、106、2002年、3429−3435頁)。
【0074】
LCSTにおけるタンパク質の影響は、ポリマーIIを用いて調べた。図7に示されるように、10wt%BSAの存在は、コア−シェル・ナノ粒子のLCSTを変えなかった。
【0075】
これらの結果は、pH環境の変化にてポリマーが通常の体温より上又は下の異なるLCST値を示すことを示している。3つのポリマーの全てから自己アセンブリされたコア−シェル・ナノ粒子は、実際にはpH依存性のLCSTを示し、それはポリマーの疎水性セグメントにおけるカルボン酸基のプロトン化又は脱プロトン化に主として起因しているのであろう。ナノ粒子のLCSTはNIPAAmのDMAAmに対するモル比によって非常に影響を受けていた。特に、ポリマーIIナノ粒子のLCSTは、生理学的な環境(pH7.4)においては通常の体温よりも高かったが、僅かに酸性の環境では通常の体温よりも低くなった。このことは、ナノ粒子は生理学的な環境においては可溶性であり安定であるが、酸性の環境では安定性を欠いている/凝集されていることを意味する。この独特の特性は環境が特徴的に酸性となる腫瘍組織又は細胞内部への薬物の標的化に使用され得る。
iii)ポリマーIIのCMC
CMCはコア−シェル・ナノ粒子の安定性を特徴付ける重要なパラメータである。CMCより上では、両親媒性のポリマー分子はコア−シェル構造化ナノ粒子に自己アセンブリされ得る。ポリマーIIナノ粒子の水中における疎水性微細環境をプローブとしてピレンを使用した蛍光光度法により調べた。I3のI1に対する比率は、ポリマー濃度の関数として監視された。図8はポリマーIIに対するI3/I1のプロットを示す。ピレンがより疎水性の環境に配置されている場合に高い比率が得られる(ドン(Dong)ら、Can.J.Chem.、62、1984年、2560−2565頁)。ピレンのこの特徴は、コア−シェル・ナノ粒子の形成及び変形を研究するために使用され得る。CMC値は約10.0mg/Lであると決定された。コア−シェル・ナノ粒子の形成後のI3/I1における変化は、小さいことを明記する。これは、UAセグメントのカルボキシル基の存在及び/又は不十分な疎水性によりコアがゆるく集合されていることによるものであろう。
iv)pH及び温度変化により誘引されたポリマーIIナノ粒子のサイズの変化
ポリマーIIナノ粒子のサイズは、pH依存性であることがわかった。0.02wt%のHCl溶液において、ポリマーIIナノ粒子の平均粒子径は約319nmであり、0.02wt%のNaOH溶液においては、ナノ粒子のサイズは約240nmまで減少した。酸性溶液において形成されたかなり大きなサイズのナノ粒子は、低pHにてUAの疎水性が大きくなることにより、酸性溶液中のナノ粒子はより多くの凝集体を含んでいたことを示している。一方、高pHにおける脱プロトン化カルボン酸の反発は凝集体の程度を小さくし、より小さなサイズの粒子となる。DOXが装填されたナノ粒子の平均サイズは、約160−200nmであり、図9に示されるように狭い粒度分布を有している。TEMの写真(図10)から、ナノ粒子のサイズは、固体状態では約50−60nmであり、それはポリマーのフリーの親水性セグメントの崩壊及びポリマー鎖の脱水によるものであろう。一方、ナノ粒子は、37℃(LCST未満)でpH7.4の場合に安定であり、かつサイズは約265nmであった。溶液を40℃(LCSTを超える)まで加熱すると、凝集によりサイズは約988nmまで増大した。この凝集体は冷却することにより再分散し、もとの値までサイズが低減した。同様の現象は、pH6.6におけるナノ粒子においても観察された。これらの結果は、コア−シェル・ナノ粒子がpH及び温度の両方に感受性を有していたという事実を更に支持するものである。pH及び温度の反応は可逆的であった。
【0076】
薬物装填コア−シェル・ナノ粒子の安定性は、10(w/v)%BSAを含むPBS(pH7.4)において調べた。BSAを用いて7時間試験した後に、サイズは僅かに増大した(104nmから164nmへ)。この初期のサイズの増大は凍結乾燥ナノ粒子の水和によるものであると考えられる。水和の後、サイズはもとの値に戻り、次の3時間は変化しないままであった。これは、ナノ粒子はBSAの存在下において安定であったことを示す。
v)ポリマーIIの細胞毒性試験
L929細胞は10乃至400mg/L(ppm)の濃度にてポリマーにさらされた。図11から、陰性対照と比較した場合、ポリマーIIサンプルにはいかなる重要な細胞毒性も認められなかった。72時間までは、ポリマーIIのサンプルの全ては陽性対照よりも細胞毒性が小さかった。
vi)インビトロ放出
この試験にて使用された製造条件下において、DOXの実際の装填量は約2.7重量%であった。インビトロ薬物放出試験は腫瘍のpHを刺激する僅かに酸性の環境(pH6.0及び6.6)と、生理学的な環境(PBS,pH7.4)にて実施した。DOXの放出プロファイルを図12に示した。37℃でpH7.4におけるナノ粒子からの薬物放出は、最初の約18%の破裂を伴い、かなりゆっくりであった。この最初の破裂は、ナノ粒子のシェルに存在している薬物分子によるものであろう。しかしながら、薬物の放出は、37℃で、pH6.0及び6.6でははるかに早かった。約70%の薬物が、実験の48時間以内にて放出した。加えて、薬物装填ナノ粒子はpH7.4の緩衝液中では良好に分散されたが、pH6.0及び6.6では透析バッグの底部に凝集し、沈んでいた。これらの結果は、ナノ粒子は実際にはpH感受性であり、7.4のpHから6.6又は6.0のpHへの僅かな変化が薬物装填コア−シェル・ナノ粒子の変形及び沈殿を生じ、それにより封入された薬物成分が放出されたことを示している。加えて、DOXの透析バッグからの放出をpH7.4及び6.0において調べた。pHによる顕著な効果は観察されなかった。そのことは、DOXのナノ粒子からのpH依存性の溶出は、薬物の溶解度よりも、むしろ主としてナノ粒子のpH応答性によるものであることが更に確認できた。
C)結論
種々の組成物を備えた両親媒性の三元共重合体である、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N,N−ジメチルアクリルアミド−コ−10−ウンデセン酸)はフリーのアミン末端基を用いたフリーラジカル溶液の重合化により合成した。NIPAAm/DMAAm/UA比が3.75:1.25:0.5であるポリマーから自己アセンブリされたコア−シェル・ナノ粒子は、pH7.4において通常の体温よりも十分に高いLCSTであり、僅かに酸性の環境においては通常の体温よりもはるかに低いLCSTであった。ポリマーは72時間までの期間においては顕著な細胞毒性は示さなかった。DOX装填ナノ粒子は、37℃かつpH7.4にて安定であり、サイズは約160−200nmであった。しかしながら、pH6.0及び6.6において、ナノ粒子の構造は変形され、それにより封入されていた薬物分子は放出する。これらの特徴は、ナノ粒子の選択的な蓄積と、酸性の腫瘍組織における薬物な選択的な放出とを助けるであろう。合成されたポリマーの更なる1つの利点はポリマーがフリーのアミン官能基を備えていることであり、それにより活性的な標的化に対して生物学的なシグナルを取り付けることによりポリマーの更なる修飾を可能にするであろう。
【実施例2】
【0077】
葉酸塩標的基を有するポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N,N−ジメチルアクリルアミド−コ−10−ウンデセン酸)[P(NIPAAm−co−DMAAm−co−UA)]の合成
A)実験の部
i)材料
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N,N−ジメチルアクリルアミド−コ−10−ウンデセン酸)[P(NIPAAm−co−DMAAm−co−UA),ポリマーII]は実施例1に説明したようにフリーラジカル重合化により合成した。葉酸二水和物、N−ヒドロキシスクシニミド(NHS)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)はシグマアルドリッチ社から購入した。パクリタキセルはメルク(Merck)社から購入した。
ii)葉酸のP(NIPAAm−co−DMAAm−co−UA)への結合及び葉酸のコレステロールでグラフト化されたP(NIPAAm−co−DMAAm−co−UA)への結合
葉酸のNHSエステル(NHS−葉酸塩)は以下の方法にて調製した:葉酸(100mLのDMSO及び2.5mLのトリエチルアミンに5mgを溶解したもの)は、DCC(4.7g)の存在下にて室温にて一晩、N−ヒドロキシスクシニミド(2.6g)と反応させた。副産物であるジシクロヘキシルウレアをろ過にて除去した(図13,スキーム2に示されるように)。葉酸とポリマーIIを結合する(Poly−FA)ために、DMSO中の活性化NHS−葉酸塩をPBS緩衝液(pH7.4)中のポリマーIIに加え、室温にて5時間一定に攪拌した(図14,スキーム3)。葉酸−結合ポリマーはPBS緩衝液(pH7.4)の存在下にて24時間透析することにより精製され、次に2000の分子量カットオフ透析膜(Spectra/Por)を用いて24時間超純水にて精製した。ポリマーを凍結乾燥して、更なる使用のために気密容器に保存した。葉酸はまた、コレステロールでグラフト化されたポリマーIIと結合した(Poly−CH−FA)。コレステロールでグラフト化されたポリマーII(Poly−CH)は、NHSで活性化されたポリマーII(工程は、ポリマーIIとNHSとDCCがそれぞれ1:2:2のモル比のものを使用することによる葉酸の活性化に類似する)を含水アルコール溶液中の等モル濃度のコレステロールと室温にて48時間反応させることにより合成した(図15、スキーム4)。
【0078】
ポリマーの化学構造は、1HNMR(BrukerAVANCE400)及びフーリエ変換赤外分光法(Perkin Elmer Spectrum 2000,KBr)により特徴付けた。示差走査熱量測定試験(DSC)は、3℃/分のランプ速度を用いてTA2920モジュレートDSC装置(CT,アメリカ合衆国)を用いて実施した。
iii)薬物装填ポリマー−CH−FAコア−シェル・ナノ粒子の調製
ドキソルビシンは以下のようにコア−シェル・ナノ粒子に装填した:7.5mg又は5.0mgのDOXを3mLのDMAc又はDMFに攪拌しながら溶解した。次に、15mgのポリマーを溶液中に溶解した。混合物を500mLの脱イオン水にて48時間透析した。DOXの装填量を決定するために、量が既知のDOX装填ナノ粒子を1mLのメタノールに溶解して、PBSにて希釈した。DOXの濃度はUV−VISを用いて推定した。初期の試験はまた、水に不溶性の抗癌剤であるパクリタキセルをコア−シェル・ナノ粒子に装填することによっても実施した。簡単に述べると、15mgのポリマー及び2.5mgのパクリタキセルを3mLのDMFに溶解し、ポリマー薬物溶液を超純水の存在下にて24時間透析した。薬物装填ナノ粒子は0.45μmの孔サイズを有するディスクフィルタにてろ過し、凍結乾燥した。パクリタキセルの装填量を決定するために、1mLのクロロホルム中にナノ粒子に溶解することにより、ポリマー性ナノ粒子からパクリタキセルを抽出し、ポリマーを2mLのジエチルエーテルを加えることにより沈殿させた。遠心分離後、上澄み液を回収し、乾燥し、HPLCで分析した(ウォーターズ(Waters)社,モデル2690、C8 15×4.6cmカラム)。移動相は、20mMの酢酸アンモニウムとアセトニトリルとメタノールとが35:45:20の容積比で構成されている。標準パクリタキセル溶液は5乃至100ppmの範囲の濃度にてメタノール中に調製した。
B)結果及び考察
葉酸はポリマーIIとコレステロールでグラフト化したポリマーIIとの結合に成功した。これはNMR試験により確認した(図16及び17)。葉酸の結合が成功したことは、葉酸分子の芳香性プロトン2,6及び3,5からのδ6.6−6.8及びδ7.5−7.7におけるプロトンシグナルの存在によって証明された(図14、スキーム3)。ポリマーIIへのコレステロールの結合はまた、コレステロールの5つのCH3基からのプロトンシグナル(δ0.6−1.1)から証明された。
【0079】
実施例1から、ポリマーIIのLCSTはpH7.4において38.5℃であり、それはpH6.6では35.5℃に減少した。これは、pHの変化に伴うポリマーのプロトン化及び脱プロトン化、それによりポリマーの疎水性が変化することによるものである。Poly−FAとポリマーIIでは、pH7.4におけるLCSTに顕著な差は認められなかった。しかしながら、pH6.6ではLCSTは増大し、温度感受性は低下した(図18)。これは、葉酸がこのpHにおいてポリマーの親水性を増大させたという事実によるものであろう。しかしながら、pH5.0におけるポリマーの溶解性は低く、溶液は濁っていた。ポリマーのLCSTは36℃まで減少し、温度感受性は高くなった(データは示されていない)。これは葉酸がpH5.4付近にpKaを有し、かつそのカルボキシル基がpH5.0でプロトン化し、ポリマーの疎水性を増大させることによると考えられる。この特性は、pH5.0(エンドソーム内)において、通常の体温より低いLCSTにより薬物の細胞内送達を助け、それはpH5.0がエンドソーム膜の破壊を助けるからであろう。コレステロールがポリマーIIに結合された場合、ポリマーのLCSTは図19に示されるようにpH7.4にて35.7℃であり、その値はポリマーIIよりも低い。これは、コレステロールをグラフト化することによりポリマーの疎水性が増大し、LCSTが減少することによるものである。一方、Poly−CH−FAのLCSTはpH7.4及びpH6.6でそれぞれ39.0℃及び34.5℃であった(図20)。これは、コレステロールの導入に起因するポリマーの疎水性の増大が葉酸分子により等しく相殺されるという事実によるものであろう。
【0080】
ATCCL929細胞を10乃至100mg/L(ppm)の濃度にてポリマーにさらした。図21から、陰性対照[ポリ(エチレングリコール)]と比較した場合、Poly−CH−FAサンプルは顕著な細胞毒性を認めなかった。しかしながら、Poly−CH−FAの全てのサンプルは、陽性対照[ポリ(L−リジン)]よりも細胞毒性が低かった。
【0081】
典型的な透析法は、空の、及び薬物装填されたPoly−CH−FAコア−シェル・ナノ粒子を調製するために使用した。塩酸ドキソルビシン及びパクリタキセル(paclitaxol)を水溶性及び水不溶性薬物として選択した。ドキソルビシンの薬物装填における溶媒の影響を調べた。DMAcの使用により、封入効率は12.9%であり、4.31重量%の薬物が装填されていた。粒子の平均径は約265nmであった。しかしながら、DMFを溶媒として使用した透析法の場合、薬物装填は2.4%の封入効率を伴い0.6%まで減少し、100乃至160nmの平均粒子径であった。後者の処方において薬物装填量が減少したことは、DMFの溶解度(12.1cal/cm3)がDMAcの溶解度(10.8cal/cm3)と比較して高いという事実に起因するものであり、それは封入化される前に薬物の初期の散失を促進するものである。粒子径の減少は薬物装填の減少に起因する。
【0082】
パクリタキセルはコア−シェル・ナノ粒子に装填され、平均粒子径は96nmであり、封入効率は13.0%であり、かつ薬物装填率は1.9%であった。パクリタキセルは融点が220℃である結晶状薬物である(図22)。パクリタキセルの融点はナノ粒子に封入後は消失し、薬物が分子的に分配されたことを示している。
C)結論
腫瘍細胞への活性標的化シグナル(葉酸)を備えたコア−シェル・ナノ粒子を合成した。ナノ粒子はpH感受特性を保持し、細胞毒性は低かった。二つの抗癌剤をコア−シェル・ナノ粒子に装填した。薬物の粒子径及び装填量は製造条件を変更することにより操作可能であった。
【実施例3】
【0083】
ドキソルビシン結合ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N,N−ジメチルアクリルアミド−コ−10−ウンデセン酸)[P(NIPAAm−co−DMAAm−co−UA)]の合成
i)ドキソルビシンのコポリマーへの結合
ポリマーIIを反応性の官能基を有する薬物にも結合した。ドキソルビシン(図23)は、カルボジイミド化学により結合され、ドキソルビシンのアミン基が図24に示されるようにポリマーIIのカルボキシル基に結合されている。簡単に述べると、ドキソルビシン結合ポリマーII(Poly−DOX)は、NHSで活性化されたポリマーII(工程は実施例2に記載された葉酸の活性化に類似する)とリン酸塩緩衝液(pH7.4)中のドキソルビシン(その濃度はポリマーIIの2倍であった)との室温による48時間の反応により合成した。2000の分子量カットオフの透析膜を用いた超純水存在下における48時間の透析と、それに続く凍結乾燥により血のように赤い生成物が得られた。ゲル透過クロマトグラフィーからポリマーIIの分子量はMw:9051,Mn:6781からMw:11129,Mn:9118まで増大し、図25に示されるように保持時間の減少が確認された。更に、結合物の示差走査熱量測定は、ドキソルビシンの202℃の融点が遷移していないことを示しており(図26に示されるように)、それは薬物がポリマー鎖の一部であったことを示す。
ii)ドキソルビシン結合ポリマーIIからのミセルの製造
薬物のポリマー鎖上への結合の後に、ポリマーが水に比較的不溶性であることが観察された。このポリマーを使用して、透析及び溶媒蒸発法によりコア−シェル・ナノ粒子(ミセル)を調製することを試みた。ポリマーがより疎水性である場合、ポリマーの沈殿及び800−1000nmの範囲であるより大きな粒子の形成が起こるので、透析は適切な方法ではなかった。しかしながら、溶媒蒸発法を使用することにより、280nmの平均粒子径を有するミセルを製造することができた。溶媒蒸発法の工程は以下のとおりである:15mgの結合ポリマーを4mLのジメチルアセタミドと1mLのジクロロメタンに溶解し、ポリマー溶液を20mLの超純水中にて乳化し、5分間超音波処理した。溶媒を蒸発し、溶液を遠心分離して、粒子径を測定した。薬物のミセルに対する結合は、ポリマーのpHに誘引された温度感受性により変更できた。38℃を超える(LCSTを超える)と粒子径が減少し、それはpH7.4における温度感受性セグメントの崩壊によるものであると思われる。この現象は可逆的かつ再生可能であることがわかった(図27)。
【実施例4】
【0084】
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−コ−N,N−ジメチルアクリルアミド−b−ポリ(10−ウンデセン酸)[P(NIPAAm−co−DMAAm)−b−PUA)]ブロックコポリマーの合成
ポリマーIIのブロックコポリマーの合成は、温度感受性/親水性セグメントと、pH感受性脂肪酸セグメントとを別々に合成することにより実施され、それらは次に図28及び29に示されるようにブロックコポリマーを形成するために結合された(スキーム5及び6)。簡単に述べると、温度感受性セグメントはモノマー比が3.75:1.25である精製したN−イソプロピルアクリルアミド及びN,N’−ジメチルアクリルアミドを、開始剤であるアゾビスイソブチロニトリルの存在下において、40mLのアルコール中の連鎖移動剤,2−アミノエタンチオール塩酸塩(AET.HCl)との、70℃における24時間の反応により合成した。ポリマーはクロロホルム中に溶解して、ジエチルエーテル中にて沈殿することにより、精製した。ポリマーの分子量はGPCにより分析され、Mw11221であることが明らかとなった。一方、ポリ(10−ウンデセン酸)は、過硫酸アンモニウム(0.8g)の存在下においてモノマーのナトリウム塩(0.097mol)を水中にて70℃で24時間反応することにより合成した。ポリマーを冷エタノールの存在下にて沈殿させた。ポリ(10−ウンデセン酸)はDCCの存在下にてNHSにより活性化され、この製品は更に水中にて、アルカリ性のpHにて温度感受性ブロックと結合した。ポリマー分子量はMw29117であった(図30)。ブロックポリマーはLCSTを測定することによりそのpH及び温度に対する感受性を測定した。図31に示されるように、ブロックコポリマーは実際にpH及び温度に感受性であることが確認された。ブロックコポリマーのPBS(pH7.4)におけるLCSTは39.5℃であり、ポリ(10−ウンデセン酸)でブロックされた場合38.5℃まで減少した。ブロックコポリマーはpH6.0では36.7℃のLCSTを示した。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】例示的な目的のためのスキーム1を示し、同スキーム1はN−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド及び10−ウンデセン酸のモノマーと、連鎖移動剤であるアミノエタンチオールと、を使用した本発明のコポリマーの合成を実施するための1つの可能なスキームを示す。表1は例示的な実験において本発明のコポリマーを形成するために使用される種々の供給モル比及び得られたコポリマーの物理的特性、即ち、分子量、ガラス転移温度、親水性単位の温度感受性単位に対する実際のモル比、酸性度、熱劣化温度を示す。アミノエタンチオールは終端部をこれらのコポリマーに導入するための連鎖移動剤として使用した。
【図2】N−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド及び10−ウンデセン酸のモノマーをそれぞれCDCl3中にて3.5:1.5:0.5の供給モル比(ポリマーIII)にて合成して得られたポリマーの典型的な1H NHRスペクトルを示す。
【図3】ポリマーIIIの典型的なFT−IRスペクトルを示す。
【図4】N−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド及び10−ウンデセン酸のモノマーをそれぞれ4.0:1.00:0.5の供給モル比(ポリマーI)にて合成して得られたポリマーの、種々のpHにて温度の関数としての500nmにおける光透過率を示す。
【図5】N−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド及び10−ウンデセン酸のモノマーをそれぞれ3.75:1.25:0.5の供給モル比(ポリマーII)にて合成して得られたポリマーの、種々のpHにて温度の関数としての500nmにおける透過率のプロットを示す。
【図6】ポリマーIIIの、種々のpHにて温度の関数としての500nmにおける透過率のプロットを示す。
【図7】ポリマーIIの、10(w/v)%BSAを有するPBS(pH7.4)における温度の関数としての500nmにおける透過率のプロットを示す。
【図8】ポリマー濃度(ポリマーII)の関数として、I3/I1のプロットを示す。
【図9】DOXが装填されたナノ粒子の粒度分布の典型例を示す。
【図10】薬物が装填されたナノ粒子のTEM写真を示す。
【図11】L929細胞に対するポリマーIIの細胞毒性を示す。
【図12】37℃における種々のpHに対する、ポリマーIIナノ粒子からのDOXの放出プロファイルを示す。
【図13】葉酸のN−ヒドロスクシニミド(NHS)との活性化を図示するスキーム2を示す。
【図14】葉酸のポリマーIIへの結合を図示するスキーム3を示す。
【図15】コレステロールのNHS活性化を介したポリマーIIへの結合を図示するスキーム4を示す。
【図16】葉酸−結合ポリマーIIのNMRスペクトルを示す。
【図17】コレステロールグラフト化ポリマーIIのNMRスペクトルを示す。
【図18】ポリ−葉酸及びポリマーIIの種々のpHにおける温度の関数としての500nmにおける光透過率を示す。
【図19】ポリ−コレステロールのpH7.4における温度の関数としての500nmにおける光透過率を示す。
【図20】ポリ−コレステロール−葉酸の異なるpHにおける温度の関数としての500nmにおける光透過率を示す。
【図21】L929細胞に対するポリ−コレステロール−葉酸の細胞毒性を示す棒グラフである。
【図22】コポリマー、パクリタキセル及びパクリタキセル装填コア−シェル・ナノ粒子のDSC分析を示す。
【図23】塩酸ドキソルビシンの構造式を示す。
【図24】ドキソルビシン結合ポリマーIIの合成を示す。
【図25】ドキソルビシン結合ポリマーIIのゲル透過クロマトグラムを示す。
【図26】ドキソルビシン結合ポリマーIIの示差走査クロマトグラムを示す。
【図27】pH7.4におけるPBS中の薬物結合ミセルの温度感受性可逆粒子径を示す。
【図28】NIPAAm及びDMAAmから構成される温度ブロックの合成及びポリ(10−ウンデセン酸)の合成を図示するスキーム5を示す。
【図29】ブロックコポリマーの合成を図示するスキーム6を示す。
【図30】温度感受性ブロック及びブロックコポリマーのゲル透過クロマトグラムを示す。
【図31】ブロックコポリマーから形成されたLCST測定を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つの型のモノマー単位からなるコポリマーであって、前記3つの型のモノマー単位は、
温度感受性単位と、
親水性単位と、
少なくとも1つのpH−感受性部分を含む疎水性単位と、からなり、
前記疎水性モノマー単位は共重合可能な不飽和脂肪酸に由来する、コポリマー。
【請求項2】
前記脂肪酸は5乃至50又はそれ以上の主鎖炭素原子を含む、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項3】
前記脂肪酸は1つの炭素−炭素二重結合(モノ不飽和)を含む、請求項2に記載のコポリマー。
【請求項4】
前記脂肪酸は、(E)−9−オクタデセン酸、(Z)−9−オクタデセン酸、(Z)−11−オクタデセン酸、(E)−9−ヘキサデセン酸、(Z)−9−ヘキサデセン酸、(Z)−9−テトラデセン酸、(Z)−11−エコセン酸、(Z)−13−ドコセン酸及び(Z)−15−テトラコセン酸からなる群より選択される、請求項3に記載のコポリマー。
【請求項5】
前記脂肪酸はオメガ−1脂肪酸である請求項3に記載のコポリマー。
【請求項6】
前記脂肪酸は、4−ペンテン酸、7−オクテン酸、10−ウンデセン酸、15−ヘキサデセン酸及び19−エコセン酸からなる群より選択される、請求項5に記載のコポリマー。
【請求項7】
前記脂肪酸は少なくとも二つの炭素−炭素二重結合(ポリ不飽和)を含む、請求項2に記載のコポリマー。
【請求項8】
前記脂肪酸は、(E,E)−9,12−オクタデカジエン酸、(Z,Z)−9,12−オクタデカジエン酸、(E,E)−9,11−オクタデカジエン酸、(Z、Z,Z)−9,12,15−オクタデカトリエン酸、(Z、Z,Z)−6,9,12−オクタデカトリエン酸、(Z,Z,Z,Z)−6,9,12,15−オクタデカテトラエン酸、(Z,Z)−11,14−エコサジエン酸、(Z,Z,Z)−5,8,11−エイコサトリエン酸、(Z,Z,Z)−11,14,17−エイコサトリエン酸、(Z,Z,Z)−8,11,14−エイコサトリエン酸、(Z,Z,Z,Z)−8,11,14,17−エイコサテトラエン酸、(Z,Z,Z,Z)−5,8,11,14−エイコサテトラエン酸、(Z,Z,Z,Z,Z)−5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸、(Z,Z)−13,16−ドコサジエン酸、(Z,Z,Z)−13,16,19−ドコサトリエン酸、(Z,Z,Z,Z)−7,10,13,16−ドコサテトラエン酸、(Z,Z,Z,Z,Z)−4,7,10,13,16−ドコサペンタエン酸、(Z,Z,Z,Z,Z)−7,10,13,16,19−ドコサペンタエン酸、(Z,Z,Z,Z,Z、Z)−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸及び(Z,Z,Z,Z,Z,Z)−6,9,12,15,18,21−テトラコサヘキサエン酸からなる群より選択される、請求項7に記載のコポリマー。
【請求項9】
前記温度感受性モノマー単位は、N−アクロイルピペラジン、N−t−ブチルアクリルアミド、N−ピペリジル−メタクリルアミド及びN−イソプロピルアクリルアミドからなる群から由来する、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項10】
前記親水性モノマー単位は、アクリル酸、アクリルアミド、アクリレート、ピロリドン、エチレングリコール及びそれらの置換された誘導体からなる群から由来する、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項11】
前記アクリルアミドは、アクリルアミド(AAm)、N,N’−ジメチルアクリルアミド(DMAAm)及びN−(ヒドロキシメチル)アクリルアミドからなる群より選択される、請求項10に記載のコポリマー。
【請求項12】
終端部、リガンド、薬物、タグ、ラジオイムノ結合体、化学的部分及びスペーサからなる群より選択される少なくとも1つの部分からなる末端基をさらに含む、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項13】
前記終端部は水酸基、カルボキシル基及びアミノ基からなる群より選択される官能基を含む、請求項12に記載のコポリマー。
【請求項14】
前記終端部は、連鎖移動剤又は官能基移動剤により導入される、請求項13に記載のコポリマー。
【請求項15】
前記終端部は、リビング重合法により導入される、請求項13に記載のコポリマー。
【請求項16】
前記終端部は、前記ポリマーのモノマー単位の一部である、請求項13に記載のコポリマー。
【請求項17】
前記連鎖移動剤は、クロロホルム、四塩化炭素、アルキル−メルカプタン、アミノエタンチオール、メルカプト−プロピオン酸、メルカプト−コハク酸、チオグリコール酸、メルカプトエタノール及びその第2級アルコール、アルキルハライド及び5未満の酸化数を有するリン酸塩、からなる群より選択される、請求項14に記載のコポリマー。
【請求項18】
前記アルキル−メルカプタンは、オクタンチオール、デカンチオール、n−ドデカンチオール又はt−ドデカンチオールからなる群より選択される、請求項17に記載のコポリマー。
【請求項19】
前記リガンドは、前記終端部の官能基に直接取り付けられる請求項12に記載のコポリマー。
【請求項20】
前記リガンドは、スペーサにより前記終端部に取り付けられる、請求項12に記載のコポリマー。
【請求項21】
前記スペーサは10を超える主鎖原子を含む、請求項20に記載のコポリマー。
【請求項22】
前記リガンドは、小さな標的分子、タンパク質、ペプチド及び炭水化物からなる群より選択される、請求項21に記載のコポリマー。
【請求項23】
前記スペーサはポリ(エチレングリコール)及びポリ(プロピレングリコール)からなる、請求項21に記載のコポリマー。
【請求項24】
前記コポリマーはランダムコポリマーである、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項25】
前記コポリマーはブロックコポリマーである、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項26】
温度及びpHに感受性の組成物であって、
治療剤と、
コポリマー、とからなり、
前記コポリマーは少なくとも3つの型のモノマー単位からなり、同3つの型のモノマー単位は、
温度感受性単位と、
親水性単位と、
少なくとも1つのpH−感受性部分を含む疎水性単位と、からなり、かつ
前記疎水性モノマー単位は共重合可能な不飽和脂肪酸に由来する組成物。
【請求項27】
前記治療剤は、抗癌剤、抗炎症剤及び神経疾患を治療するための薬物からなる群より選択される、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記抗癌剤は、ドキソルビシン、アナストロゾール、エキセメスタン、シクロホスファミド、エピルビシン、トレミフェン、レトロゾール、トラスツズマブ、メゲストロール、ノルバデックス、パクリタキセル、ドセタキセル、カペシタビン、酢酸ゴセレリン、ヒドロキシウレア、エリスロマイシン、シクロスポリン及びシスプラチンからなる群より選択される、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記コポリマーの分子量は、40000未満である、請求項26に記載の組成物。
【請求項30】
前記コポリマーの下限臨界溶液温度は7.2未満のpHでは37℃よりも小さい、請求項26に記載の組成物。
【請求項31】
前記コポリマーの下限臨界溶液温度は通常の生理学的pHであるpH7.4において37℃よりも大きい、請求項26に記載の組成物。
【請求項32】
前記コポリマーに存在する、温度感受性モノマー単位と親水性モノマー単位と少なくとも1つのpH感受性部分を含む疎水性モノマー単位とのモル比は、約3.75:1.25:0.5である、請求項26に記載の組成物。
【請求項33】
動物又はヒトに選択された治療剤を提供する方法において、
前記動物又はヒトに温度及びpH感受性の組成物を投与する工程を含み、前記組成物は、
治療剤と、
コポリマー、とからなり、
前記コポリマーは少なくとも3つの型のモノマー単位からなるコポリマーであり、同3つの型のモノマー単位は、温度感受性単位と、親水性単位と、少なくとも1つのpH−感受性部分を含む疎水性単位と、からなり、かつ前記疎水性モノマー単位は共重合可能な不飽和脂肪酸に由来し、
前記コポリマーは、疎水性コア及び親水性シェルからなる少なくとも1つのナノ粒子に調製され、かつ前記治療剤は前記疎水性コア内に包含される、方法。
【請求項34】
前記組成物は経口にて送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物は局所的に送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記組成物は静脈内投与にて送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物は局所に送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記組成物は非経口的に送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記組成物は吸入にて送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記組成物は眼を介して送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項1】
少なくとも3つの型のモノマー単位からなるコポリマーであって、前記3つの型のモノマー単位は、
温度感受性単位と、
親水性単位と、
少なくとも1つのpH−感受性部分を含む疎水性単位と、からなり、
前記疎水性モノマー単位は共重合可能な不飽和脂肪酸に由来する、コポリマー。
【請求項2】
前記脂肪酸は5乃至50又はそれ以上の主鎖炭素原子を含む、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項3】
前記脂肪酸は1つの炭素−炭素二重結合(モノ不飽和)を含む、請求項2に記載のコポリマー。
【請求項4】
前記脂肪酸は、(E)−9−オクタデセン酸、(Z)−9−オクタデセン酸、(Z)−11−オクタデセン酸、(E)−9−ヘキサデセン酸、(Z)−9−ヘキサデセン酸、(Z)−9−テトラデセン酸、(Z)−11−エコセン酸、(Z)−13−ドコセン酸及び(Z)−15−テトラコセン酸からなる群より選択される、請求項3に記載のコポリマー。
【請求項5】
前記脂肪酸はオメガ−1脂肪酸である請求項3に記載のコポリマー。
【請求項6】
前記脂肪酸は、4−ペンテン酸、7−オクテン酸、10−ウンデセン酸、15−ヘキサデセン酸及び19−エコセン酸からなる群より選択される、請求項5に記載のコポリマー。
【請求項7】
前記脂肪酸は少なくとも二つの炭素−炭素二重結合(ポリ不飽和)を含む、請求項2に記載のコポリマー。
【請求項8】
前記脂肪酸は、(E,E)−9,12−オクタデカジエン酸、(Z,Z)−9,12−オクタデカジエン酸、(E,E)−9,11−オクタデカジエン酸、(Z、Z,Z)−9,12,15−オクタデカトリエン酸、(Z、Z,Z)−6,9,12−オクタデカトリエン酸、(Z,Z,Z,Z)−6,9,12,15−オクタデカテトラエン酸、(Z,Z)−11,14−エコサジエン酸、(Z,Z,Z)−5,8,11−エイコサトリエン酸、(Z,Z,Z)−11,14,17−エイコサトリエン酸、(Z,Z,Z)−8,11,14−エイコサトリエン酸、(Z,Z,Z,Z)−8,11,14,17−エイコサテトラエン酸、(Z,Z,Z,Z)−5,8,11,14−エイコサテトラエン酸、(Z,Z,Z,Z,Z)−5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸、(Z,Z)−13,16−ドコサジエン酸、(Z,Z,Z)−13,16,19−ドコサトリエン酸、(Z,Z,Z,Z)−7,10,13,16−ドコサテトラエン酸、(Z,Z,Z,Z,Z)−4,7,10,13,16−ドコサペンタエン酸、(Z,Z,Z,Z,Z)−7,10,13,16,19−ドコサペンタエン酸、(Z,Z,Z,Z,Z、Z)−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸及び(Z,Z,Z,Z,Z,Z)−6,9,12,15,18,21−テトラコサヘキサエン酸からなる群より選択される、請求項7に記載のコポリマー。
【請求項9】
前記温度感受性モノマー単位は、N−アクロイルピペラジン、N−t−ブチルアクリルアミド、N−ピペリジル−メタクリルアミド及びN−イソプロピルアクリルアミドからなる群から由来する、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項10】
前記親水性モノマー単位は、アクリル酸、アクリルアミド、アクリレート、ピロリドン、エチレングリコール及びそれらの置換された誘導体からなる群から由来する、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項11】
前記アクリルアミドは、アクリルアミド(AAm)、N,N’−ジメチルアクリルアミド(DMAAm)及びN−(ヒドロキシメチル)アクリルアミドからなる群より選択される、請求項10に記載のコポリマー。
【請求項12】
終端部、リガンド、薬物、タグ、ラジオイムノ結合体、化学的部分及びスペーサからなる群より選択される少なくとも1つの部分からなる末端基をさらに含む、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項13】
前記終端部は水酸基、カルボキシル基及びアミノ基からなる群より選択される官能基を含む、請求項12に記載のコポリマー。
【請求項14】
前記終端部は、連鎖移動剤又は官能基移動剤により導入される、請求項13に記載のコポリマー。
【請求項15】
前記終端部は、リビング重合法により導入される、請求項13に記載のコポリマー。
【請求項16】
前記終端部は、前記ポリマーのモノマー単位の一部である、請求項13に記載のコポリマー。
【請求項17】
前記連鎖移動剤は、クロロホルム、四塩化炭素、アルキル−メルカプタン、アミノエタンチオール、メルカプト−プロピオン酸、メルカプト−コハク酸、チオグリコール酸、メルカプトエタノール及びその第2級アルコール、アルキルハライド及び5未満の酸化数を有するリン酸塩、からなる群より選択される、請求項14に記載のコポリマー。
【請求項18】
前記アルキル−メルカプタンは、オクタンチオール、デカンチオール、n−ドデカンチオール又はt−ドデカンチオールからなる群より選択される、請求項17に記載のコポリマー。
【請求項19】
前記リガンドは、前記終端部の官能基に直接取り付けられる請求項12に記載のコポリマー。
【請求項20】
前記リガンドは、スペーサにより前記終端部に取り付けられる、請求項12に記載のコポリマー。
【請求項21】
前記スペーサは10を超える主鎖原子を含む、請求項20に記載のコポリマー。
【請求項22】
前記リガンドは、小さな標的分子、タンパク質、ペプチド及び炭水化物からなる群より選択される、請求項21に記載のコポリマー。
【請求項23】
前記スペーサはポリ(エチレングリコール)及びポリ(プロピレングリコール)からなる、請求項21に記載のコポリマー。
【請求項24】
前記コポリマーはランダムコポリマーである、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項25】
前記コポリマーはブロックコポリマーである、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項26】
温度及びpHに感受性の組成物であって、
治療剤と、
コポリマー、とからなり、
前記コポリマーは少なくとも3つの型のモノマー単位からなり、同3つの型のモノマー単位は、
温度感受性単位と、
親水性単位と、
少なくとも1つのpH−感受性部分を含む疎水性単位と、からなり、かつ
前記疎水性モノマー単位は共重合可能な不飽和脂肪酸に由来する組成物。
【請求項27】
前記治療剤は、抗癌剤、抗炎症剤及び神経疾患を治療するための薬物からなる群より選択される、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記抗癌剤は、ドキソルビシン、アナストロゾール、エキセメスタン、シクロホスファミド、エピルビシン、トレミフェン、レトロゾール、トラスツズマブ、メゲストロール、ノルバデックス、パクリタキセル、ドセタキセル、カペシタビン、酢酸ゴセレリン、ヒドロキシウレア、エリスロマイシン、シクロスポリン及びシスプラチンからなる群より選択される、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記コポリマーの分子量は、40000未満である、請求項26に記載の組成物。
【請求項30】
前記コポリマーの下限臨界溶液温度は7.2未満のpHでは37℃よりも小さい、請求項26に記載の組成物。
【請求項31】
前記コポリマーの下限臨界溶液温度は通常の生理学的pHであるpH7.4において37℃よりも大きい、請求項26に記載の組成物。
【請求項32】
前記コポリマーに存在する、温度感受性モノマー単位と親水性モノマー単位と少なくとも1つのpH感受性部分を含む疎水性モノマー単位とのモル比は、約3.75:1.25:0.5である、請求項26に記載の組成物。
【請求項33】
動物又はヒトに選択された治療剤を提供する方法において、
前記動物又はヒトに温度及びpH感受性の組成物を投与する工程を含み、前記組成物は、
治療剤と、
コポリマー、とからなり、
前記コポリマーは少なくとも3つの型のモノマー単位からなるコポリマーであり、同3つの型のモノマー単位は、温度感受性単位と、親水性単位と、少なくとも1つのpH−感受性部分を含む疎水性単位と、からなり、かつ前記疎水性モノマー単位は共重合可能な不飽和脂肪酸に由来し、
前記コポリマーは、疎水性コア及び親水性シェルからなる少なくとも1つのナノ粒子に調製され、かつ前記治療剤は前記疎水性コア内に包含される、方法。
【請求項34】
前記組成物は経口にて送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記組成物は局所的に送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記組成物は静脈内投与にて送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物は局所に送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
前記組成物は非経口的に送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
前記組成物は吸入にて送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
前記組成物は眼を介して送達される、請求項33に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公表番号】特表2008−502785(P2008−502785A)
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527146(P2007−527146)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【国際出願番号】PCT/SG2005/000164
【国際公開番号】WO2005/121196
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(506205103)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (26)
【氏名又は名称原語表記】AGENCY FOR SCIENCE,TECHNOLOGY AND RESEARCH
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【国際出願番号】PCT/SG2005/000164
【国際公開番号】WO2005/121196
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(506205103)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (26)
【氏名又は名称原語表記】AGENCY FOR SCIENCE,TECHNOLOGY AND RESEARCH
【Fターム(参考)】
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