説明

新規生理活性ペプチド

【課題】細胞増殖促進や免疫賦活等の生理活性を有する新規ペプチド及び該ペプチドの各種用途を提供する。
【解決手段】下記(i)又は(ii)のペプチドには、細胞増殖促進や免疫賦活を初めとする各種の有用生理活性があり、該ペプチドは農園芸用組成物、食品組成物、医薬組成物、飼料組成物の配合成分として有用である:(i)特定のアミノ酸配列を有するペプチド、(ii)特定のアミノ酸配列において1若しくは2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、且つ根毛形成促進活性を有するペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規生理活性ペプチド、より詳細には、植物の根毛形成促進作用等の生理活性を有する新規ペプチドに関する。また、本発明は、該ペプチドを製造するために使用される酵素剤、及び該ペプチドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆から油分を抽出した後に副生する大豆粕(大豆ミール)は、蛋白質成分を豊富に含んでおり、古くは肥料として利用されていた。しかし、大豆粕は、土壌中で分解されにくく、肥料としての速効性に乏しいという欠点があり、また、安価でより効果の高い硫安や尿素などの化学肥料の台頭もあって、今日では肥料としては殆ど使用されていない。現在では、大豆粕は、家畜の飼料として利用される以外は、埋め立てや海洋投棄される場合が多く、有効活用されていないのが現状である。
【0003】
これまでに、本発明者等により、大豆粕をプロテアーゼで分解して得られる大豆粕分解物には、植物の根毛の形成を促進し、植物の成長を促進する作用があることが見出され、大豆粕の新たな有効利用法が提案されている(特許文献1参照)。そして、この大豆粕分解物に含まれる生理活性ペプチドは、細胞増殖促進作用、免疫賦活作用、降コレステロール作用、ファゴサイトーシス促進作用、血圧上昇抑制作用、降酸化作用等の有用生理活性を発揮し得ると考えられており、農園芸の分野に止まらず、食品、医薬品、飼料等の分野においても利用価値が高いと考えられている。
【0004】
しかしながら、大豆粕分解物において如何なる成分が上記有用生理活性に寄与しているかについては明らかにされていない。そのため、大豆粕分解物に含まれる生理活性ペプチドを同定し、これを利用することにより、より高い能力を備える植物成長促進剤の設計や、機能性食品や医薬品等の新たな用途への応用が望まれている。また、大豆粕分解物に含まれる生理活性ペプチドを工業的に利用していく上で、該生理活性成分を効率的に製造する技術を確立することが不可欠である。
【特許文献1】特開2003−73210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、植物の根毛形成促進作用等の生理活性を有する新規ペプチド及び該ペプチドの各種用途を提供することを目的とする。また、本発明は、該ペプチドを製造する方法、及び該ペプチドを生成するために使用される酵素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、大豆粕分解物に含まれる生理活性成分について、鋭意検討した結果、植物の根毛形成促進作用等の生理活性を有する新規ペプチドを見出した。また、該ペプチドは、大豆タンパク質原料にバチルス・サーキュランスHA12株によって産生されるアルカリプロテアーゼを作用させることにより効率的に製造されることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0007】
即ち、本発明は、下記に掲げるペプチド及び該ペプチドの用途を提供する:
項1. 下記(i)又は(ii)のペプチド:
(i)配列番号1に示すアミノ酸配列を有するペプチド、
(ii)配列番号1に示すアミノ酸配列において1若しくは2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、且つ根毛形成促進活性を有するペプチド。
項2. 配列番号1に示すアミノ酸配列からなるペプチド。
項3. 項1又は2に記載のペプチドを含有する、農園芸用組成物。
項4. 植物成長促進剤、根毛形成促進剤、土壌改善剤、又は土壌浄化微生物の活性化剤である、項3に記載の農園芸用組成物。
項5. 項1又は2に記載のペプチドを含有する、食品組成物。
項6. 代謝機能活性化用、免疫増強用、育毛用又は感染症防除用の食品である、項5に記載の食品組成物。
項7. 項1又は2に記載のペプチドを含有する、医薬組成物。
項8. 代謝障害による疾病、高血圧症、脱毛、又は免疫低下による疾病の予防又は治療剤である、項7に記載の医薬組成物。
項9. 項1又は2に記載のペプチドを含有する、飼料組成物。
【0008】
また、本発明は、下記に掲げる酵素剤を提供する:
項10. バチルス・サーキュランスHA12株によって産生されるアルカリプロテアーゼを含む、大豆タンパク質原料から項1又は2に記載のペプチドを生成するための酵素剤。
項11. アルカリプロテアーゼがセリンプロテアーゼである、項10に記載の酵素剤。
項12. アルカリプロテアーゼが下記性質を有するものである、項10又は11に記載の酵素剤:
(a)作用:大豆タンパク質原料を加水分解して項1又は2に記載のペプチドを生成する。
(b-1)作用pH:pH6〜12で活性を示す。
(b-2)至適pH:pH9〜12、最適pHは10である。
(c-1)作用温度:約55〜75℃で活性を示す。
(c-2)作用最適温度:70℃である。
項13. 更に、アルカリプロテアーゼが下記性質を有するものである項12に記載の酵素剤:
(d)分子量:28〜34kDa(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)である。
(e)N末端のアミノ酸配列:配列番号2に示すアミノ酸配列を有する。
項14. アルカリプロテアーゼが下記性質を有するものである、項10又は11に記載の酵素剤:
(a)作用:大豆タンパク質原料を加水分解して項1又は2に記載のペプチドを生成する。
(b)至適pH:pH9〜12
(c)作用最適温度:70℃
(d)分子量:28〜34kDa(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)
(e)N末端のアミノ酸配列:配列番号2に示すアミノ酸配列を有する。
項15.大豆タンパク質原料が大豆粕である、項10乃至14のいずれかに記載の酵素剤。
項16.大豆タンパク質原料がKunitzトリプシンインヒビターを含むものである、項10乃至15のいずれかに記載の酵素剤。
【0009】
更に、本発明は、下記に掲げるペプチドの製造方法を提供する:
項17. 項10乃至16のいずれかに記載の酵素剤を大豆タンパク質原料に作用させることを特徴とする、下記(i)又は(ii)のペプチドの製造方法:
(i)配列番号1に示すアミノ酸配列を有するペプチド、
(ii)配列番号1に示すアミノ酸配列において1若しくは2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、且つ根毛形成促進活性を有するペプチド。
項18. 大豆タンパク質原料が大豆粕である、項17に記載の製造方法。
項19. 大豆タンパク質原料がKunitzトリプシンインヒビターを含むものである、項17又は18に記載の製造方法。
項20. 配列番号1に示すアミノ酸配列からなるペプチドの製造方法である、項17乃至19のいずれかに記載の製造方法。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
I.生理活性ペプチド(以下、「本発明ペプチド」と標記する)
本発明ペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列を含むペプチドである。
【0011】
また、本発明ペプチドは、根毛形成促進活性を有する限り、前記アミノ酸配列において1若しくは2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するペプチドであってもよい。ここで「1若しくは2以上」の範囲については、特に制限されないが、例えば、欠失の場合であれば、通常1若しくは2、好ましくは1であり;置換の場合であれば、通常1若しくは2,好ましくは1であり;付加の場合であれば、通常1〜10、好ましくは1〜5が挙げられる。なお、優れた生理活性を発揮させるという観点から、C末端側の3つのアミノ酸については置換又は欠失していないものが望ましい。また、アミノ酸の置換の具体的態様として、ペプチドの構造保持の観点から、極性、電荷、可溶性、極性等の点で、置換前のアミノ酸と類似した性質を有するアミノ酸に置換されたものが例示される。例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリンは非極性アミノ酸に;セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミンは極性アミノ酸に;リジン、アルギニン、ヒスチジンは塩基性アミノ酸に;アスパラギン酸、グルタミン酸は酸性アミノ酸に分類され、同じ群に分類されたアミノ酸から選択して置換することができる。
【0012】
本発明ペプチドが有する上記根毛形成促進活性は、該ペプチドの各種生理活性の一例であるが、該活性は細胞増殖活性に基づいて発揮されるものであり、本発明ペプチドの範囲を定める際に1つの指標となる生理活性である。該根毛形成促進活性の測定方法については、本明細書の実施例の記載に従って行うことができる。
【0013】
本発明ペプチドとして、好ましくは配列番号1に示すアミノ酸配列を有するペプチドであり、更に好ましくは配列番号1に示すアミノ酸配列からなるペプチドである。
【0014】
本発明ペプチドは、グリコシル化、アミド化、カルボキシル化、リン酸化等により修飾されたものであってもよい。
【0015】
本発明ペプチドは、固相合成法や液相合成法等の公知のペプチド合成法により調製するこができるが、後述するように、大豆タンパク質原料を酵素分解することにより調製することもできる。特に、後者の場合、大豆タンパク原料の有効利用が可能となる点や、化学合成によることなく製造が可能であるので安全性に優れている点においても有用である。
【0016】
本発明ペプチドは、細胞増殖活性や免疫賦活活性を初めとする種々の生理活性を有し、農園芸、食品、医薬品、飼料等の分野において有用であり、農園芸用組成物、食品組成物、医薬組成物、又は飼料組成物の含有成分(有効成分)として使用される。
【0017】
農園芸用組成物
本発明ペプチドを含有する農園芸用組成物は、該ペプチドの作用に基づいて、植物の根毛形成を促進し、植物の成長を促進することができる。故に、当該農園芸用組成物は、植物成長促進剤又は根毛形成促進剤として有用である。当該農園芸用組成物によれば、例えば、野菜・果実等の場合はその収穫量を増大させ、切り花等の場合は長期に亘る生育を可能とし、更にカルス等の場合はその分化・生育を促進することが可能になる。
【0018】
当該農園芸用組成物に含まれる本発明ペプチドの含有量については、該組成物の形態や使用目的等により異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該組成物の総量に対して、本発明ペプチドが通常0.03〜5重量%となる割合が挙げられる。
【0019】
当該農園芸用組成物には、本発明ペプチドの他、農園芸用組成物に通常使用される基剤や添加物が含まれていてもよい。
【0020】
当該農園芸用組成物の形態についても特に限定されず、液剤形態及び固剤形態(粉末形態)のいずれであってもよい。
【0021】
当該農園芸用組成物が適用される植物は、特に限定されるものではなく、栽培用、観賞用、収穫用などに適した各種の植物のいずれでもよい。適用可能な植物の具体例として、ナス科(トマト、ピーマン等)、マメ科(ダイズ、インゲン、エンドウ、モヤシ等)、キク科(キク、レタス等)、ナデシコ科(カーネーション、カスミ草等)が例示される。
【0022】
当該農園芸用組成物の植物への適用方法としては、該組成物の適量を根茎や葉等に、散布、噴霧等する方法が挙げられる。また、植物が切り花、カルス等の場合は、これらを液剤状の当該農園芸用組成物中に浸漬する方法を採用してもよい。
【0023】
更に、当該農園芸用組成物は、植物の栽培に適しない土壌を改善して、作物が良好に生育できる土壌に改善する作用や、土壌中の汚染物質を分解する微生物を活性化する作用を有している。故に、当該農園芸用組成物は、土壌改善剤又は土壌浄化微生物の活性化剤としても有用である。当該農園芸用組成物をかかる用途を目的として使用することにより、農作物の生産性が高めたり、土壌中の汚染物質の浄化を促進したりすることが可能になる。
【0024】
食品組成物
本発明ペプチドを含有する食品組成物は、該ペプチドの作用に基づいて、代謝機能の活性化、免疫増強、育毛及び感染症の防除等といった生理活性を発揮することができる。故に、当該食品組成物は、代謝機能活性化用、免疫増強用、育毛用又は感染症防除用の食品として利用でき、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品(サプリメント)、病者用食品等として有用である。
【0025】
当該食品組成物に含まれる本発明ペプチドの含有量については、該組成物の形態や使用目的等により異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該組成物の総量に対して、本発明ペプチドが通常0.01〜50重量%となる割合が挙げられる。
【0026】
当該食品組成物の形態については、特に制限されない。例えば、飲料(炭酸飲料、清涼飲料、乳飲料、果汁飲料、茶類、栄養飲料等)、菓子類(グミ、ビスケット、ゼリー、ガム、キャンディー、クッキー等)、パン、麺類、シリアル、調味料(ソース、ドレッシング等)等の一般食品の形態であってもよい。また、粉末、顆粒、カプセル等の形態のものであってもよい。
【0027】
当該食品組成物の摂取量については、摂取者の年齢や体重、期待される効果等により異なるが、例えば、成人1日当たりの摂取量として本発明ペプチドが0.05〜100gに相当する量が例示される。
【0028】
医薬組成物
本発明ペプチドを含有する医薬組成物は、該ペプチドの作用に基づいて、代謝改善、血圧降下、育毛及び免疫増強等といった生理活性を発揮することができる。故に、当該医薬組成物は、代謝障害による疾病、高血圧症、脱毛又は免疫低下による疾病等の予防又は治療剤として有用である。
【0029】
当該医薬組成物は、本発明ペプチドと共に、薬学的に許容される基材や担体を含んでいてもよく、更に必要に応じて、崩壊剤、滑沢剤、緩衝剤、結合剤、保存剤、湿潤化剤、香料等の添加剤を含有していてもよい。また、当該医薬組成物は、本発明ペプチドに加えて、他の薬理活性成分を含有していてもよい。
【0030】
当該医薬組成物の形態についても、特に制限されないが、例えば、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤等の形態が例示される。
【0031】
当該医薬組成物の投与量については、投与対象者の年齢や体重、症状の程度、投与形態、投与回数等に応じて適宜設定すればよいが、通常、成人1日当たりの投与量として本発明ペプチドが0.05〜100gに相当する量が挙げられる。
【0032】
飼料組成物
本発明ペプチドを含有する飼料組成物は、該ペプチドの作用に基づいて、免疫増強、消化吸収能の増強、毛並み・毛艶の質向上等といった生理活性を発揮し、家畜・家禽、ペットの健全な生育を促進することができる。故に、当該飼料組成物によれば、家畜や家禽の生産性を高めることができ、またペットの健全な成長や健康増進が図られる。
【0033】
当該飼料組成物は、通常使用されている家畜・家禽用飼料又はペットフードに、本発明ペプチドを配合することにより調製される。
【0034】
当該飼料組成物に含まれる本発明ペプチドの含有量については、給餌対象の種類や使用目的等により異なるが、例えば、該組成物の総量に対して、本発明ペプチドが通常1〜50重量%となる割合が挙げられる。
【0035】
II.本発明ペプチドの製造方法
以下、本発明ペプチドを大豆タンパク原料を酵素分解することにより製造する方法について説明する。
【0036】
本発明ペプチドの原料となる大豆タンパク原料は、大豆に含まれるタンパク質、特に大豆に含まれているKunitzトリプシンインヒビターを含有する限り特に制限されない。該大豆タンパク原料として、例えば、大豆タンパク原料として、大豆から油分を抽出した後に副生する大豆粕、大豆そのもの、大豆の粉砕物、大豆から精製したタンパク質等が挙げられる。特に、本発明では、上記大豆粕、その内でも大豆から油を抽出した後に加熱乾燥させ、粒状に粉砕した大豆ミールを好適に使用でき、これによって、大豆粕の有効利用が可能になる。
【0037】
本発明ペプチドの製造には、バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans) HA12(FERM P-13428)株が産生するアルカリプロテアーゼ含む酵素剤を大豆タンパク質原料に作用させることにより行うことができる。即ち、該酵素剤は、大豆タンパク質原料から本発明ペプチドを生成するための酵素剤として使用することができる。
【0038】
上記のバチルス・サーキュランスHA12株が産生するアルカリプロテアーゼの酵素学的性質として、具体的には、下記性質が挙げられる:
(a)作用:大豆タンパク質原料を加水分解して本発明ペプチドを生成する
(b-1)作用pH:pH6〜12で活性を示す。
(b-2)至適pH:pH9〜12、最適pHは10である。
(c-1)作用温度:約55〜75℃で活性を示す。
(c-2)作用最適温度:70℃である。
【0039】
なお、上記(b-1)〜(c-2)における活性は、カゼインを基質として反応させ、生成した可溶性低分子分解産物のチロシンの量を測定することにより測定したものである。また、上記(b-1)及び(c-1)において「活性を示す」とは、最適pH又は作用最適温度における活性を100%とした場合の相対活性で40%以上を示すことを意味する。
【0040】
また、上記アルカリプロテアーゼの構造上の特性として、下記性質が挙げられる:
(d)分子量:28〜34kDa(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)である。
(e)N末端のアミノ酸配列:配列番号2に示すアミノ酸配列を有する。
【0041】
上記アルカリプロテアーゼは、バチルス・サーキュランスHA12株を培養することにより得ることができ、また上記アルカリプロテアーゼをコードする遺伝子を大腸菌等の適当な宿主微生物に導入し、該組換え微生物を培養することによって獲ることもできる。
【0042】
上記酵素剤には、上記アルカリプロテアーゼ以外に、上記アルカリプロテアーゼを保持する担体(例えば、セルロースゲル、アガロースゲル、シリカゲル、ガラスビーズ等)、賦形剤、安定化剤等が含まれていてもよい。
【0043】
また、上記酵素剤にはバチルス・サーキュランスHA12株由来のアルカリプロテアーゼを精製(粗精製を含む)して使用してもよいが、簡便には、バチルス・サーキュランスHA12株自体、又は該菌株を培養して得られた培養液自体を上記酵素剤として使用することができる。菌株自体を利用する場合、大豆タンパク質原料を含む適当な培地を用いて菌株を培養することによって、該菌株による分泌される上記アルカリプロテアーゼの作用により大豆タンパク質から本発明ペプチドが生成される。
【0044】
上記酵素剤を大豆タンパク質原料に作用させるには、通常の酵素反応と同様、水溶液(反応液)中で大豆タンパク質原料と上記酵素剤とを共存させればよい。
【0045】
大豆タンパク質原料に対する上記酵素剤の使用量は、本発明ペプチドが生成されるように設定される限り、特に制限されない。例えば、上記酵素剤の使用量は、反応液中の上記プロテアーゼの濃度が1,000U/ml以上となるように適宜設定すればよい。ここで、1Uとは、カゼイン含有Tris-HCl緩衝液(pH8.5、カゼイン濃度10mg/ml)2mlにおいて、37℃で、反応初期の1分間に1μgのチロシンに相当する可溶性低分子分解産物を生成するのに必要な酵素量を示す。
【0046】
また、具体的には、上記酵素剤として、バチルス・サーキュランスHA12株の培養液を使用する場合であれば、例えば、10w/v%の大豆粕含有水溶液に対して、該液中に1v/v%となるに培養液を添加する条件が例示される。
【0047】
上記酵素剤を大豆タンパク質原料に作用させる際の条件については、上記プロテアーゼの酵素学的性質に基づいて適宜設定される。
【0048】
上記酵素剤を大豆タンパク質原料に作用させる時間については、使用する酵素剤の種類や量、期待される収率、その他作用条件等に基づいて適宜設定されるが、一般には4〜6時間程度に設定すればよい。
【0049】
斯くして得られるペプチドは、その物理的性質、化学的性質等を利用した各種の分離操作(例えば「生化学データーブックII」、1175-1259 頁、第1版第1刷、1980年 6月23日株式会社東京化学同人発行等参照)により分離・精製を行うことができる。該分離・精製法として、具体的には、遠心分離、塩析法、浸透圧ショック法、超音波破砕、限外濾過、ゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、透析等が挙げられ、これらを適宜組み合わせることによって、本発明ペプチドを分離・精製することができる。
【0050】
尚、本発明者等の研究により、変異型サーモリシン、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)由来のアルカリプロテアーゼ、及び放線菌由来のケラチナーゼを用いて調製した大豆粕分解物は、バチルス・サーキュランスHA12株由来の上記プロテアーゼを用いて調製した大豆粕分解物と同様の生理活性を有していることが明らかにされている。かかる事項に加えて、上記各々のプロテアーゼの酵素学的性質に関する知見から、変異型サーモリシン、バチルス・リケニフォルミス由来のアルカリプロテアーゼ、及び放線菌由来のケラチナーゼは、本発明ペプチドを大豆タンパク質原料から生成し得ることが分かっている。
【0051】
即ち、上記の知見に基づいて、新たに、以下態様の酵素剤が提供される:
(1)バチルス・サーキュランスHA12株由来のアルカリプロテアーゼ;変異型サーモリシン;バチルス・リケニフォルミス由来のアルカリプロテアーゼ;及び放線菌由来のケラチナーゼよりなる群から選択される少なくとも1種の酵素を含有することを特徴とする、大豆タンパク質原料から本発明ペプチドを生成するための酵素剤。
(2)本発明ペプチドが配列番号1に示すアミノ酸配列からなるものである、上記(1)に記載の酵素剤。
(3)大豆タンパク質原料が大豆粕である、上記(1)又は(2)に記載の酵素剤。
(4)大豆タンパク質原料が、Kunitzトリプシンインヒビターを含有するものである、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の酵素剤。
【0052】
ここで、変異型サーモリシンとは、バチルス・サーモプロテオリティカス・ロッコ(Bacillus thermoproteolyticus Rokko, Endo,S., J. Fermentation Tech.,40, 346-353 (1962))由来の中性プロテアーゼであるサーモリシンにおいてN末端側から73番目のアラニン残基がバリン残基に置換されてなるものである。即ち、上記変異型サーモリシンは、配列番号3に示すアミノ酸配列からなるものである。
【0053】
また、上記のバチルス・リケニフォルミス由来のアルカリプロテアーゼとは、バチルス・リケニフォルミスが産生するエンド型アルカリプロテアーゼであり、セリンプロテアーゼに分類される酵素である。
【0054】
また、上記の放線菌由来のケラチナーゼとしては、具体的には、好アルカリ性放線菌(Nocardiopsis sp.)が産生するアルカリ性のプロテアーゼが例示される。
【発明の効果】
【0055】
本発明ペプチドは、細胞増殖促進や免疫賦活を初めとする種々の生理活性を有しており、農園芸、食品、医薬品、飼料等の分野において有用である。例えば、農園芸の分野では、本発明ペプチドは、植物の根毛形成を促進するために、好適に使用される。
【0056】
また、本発明は、当該ペプチドを効率的に製造する方法をも提供するので、当該ペプチドの工業的な利用が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
参考例1.大豆粕分解物(以下、「DSP」と表記する)の作製
LB液体培地5 mlにバチルス・サーキュランスHA12株を一白金耳植菌し、37 ℃で一晩振とう培養した。この前培養液を10 %(w/v)大豆ミール培地(ホーネン、東京)に1 %(v/v)植菌し、50 ℃、120 rpm、48時間培養した。培養液を遠心分離し、得られた上清のpHが9.0をこえたものをDSPとした。かくして得られたDSPを以下に記載の根毛形成促進活性の測定に使用した。
【0058】
実施例1 バチルス・サーキュランスHA12株由来アルカリプロテアーゼ
1.バチルス・サーキュランスHA12株由来アルカリプロテアーゼの製造
10 w/v%大豆ミール含有水溶液をオートクレーブ滅菌(121℃、15 分)し、20℃、10,000 rpm、10 分遠心分離した。上清を凍結乾燥(凍結乾燥機FDU-830、東京理化器械、東京)し、これを大豆ミール上清とした。
【0059】
LB液体培地5 mlにバチルス・サーキュランスHA12株を一白金耳植菌し、37 ℃で一晩振とう培養した。この前培養液を3 %(w/v)大豆ミール上清培地に1 %(v/v)植菌し、37℃、120 rpm、42 時間培養した。培養液を4℃、10,000 rpm、10 分遠心分離し、上清を分取した。得られた上清に40 %飽和になるように硫酸アンモニウムを加え、4℃、10,000 rpm、10 分遠心分離した。得られた上清に60 %飽和になるように硫酸アンモニウムを加え、一晩4℃で静置した。その後、4℃、10,000 rpm、20 分遠心分離し、沈殿を分取した。
【0060】
カラムに疎水樹脂(Phenyl TOYOPEARL-650M、東ソー株式会社、東京)を充填した。硫安塩析で得られたバチルス・サーキュランスHA12株由来アルカリプロテアーゼ沈殿0.1gを100mM Tris-HCl、1mM CaCl2、1.0 M硫安緩衝液 (pH 8.5) 1 mlで溶解させた。その後、樹脂の約3倍量の吸着緩衝液を流し、続いて各溶出緩衝液を流した。吸着緩衝液には100 mM Tris-HCl、1 mM CaCl2、1.0 M硫安緩衝液 (pH 8.5)を、溶出緩衝液には他の条件は同じままで硫安の濃度を1.0 M、0.8 M、0.6 M、0.4 M、0.2 M、0 Mにした緩衝液を用い、硫安濃度0.6 Mの画分を分取し、これをHA12株由来アルカリプロテアーゼとした。
【0061】
2.分子量測定
かくして精製したHA12株由来アルカリプロテアーゼをSDS−PAGEにより分子量分析に供した。得られた結果を図1に示す。この結果、HA12株由来アルカリプロテアーゼは、分子量が約30 kDaであることが明らかとなった。
【0062】
3.N末端側のアミノ酸配列の同定
HA12株由来アルカリプロテアーゼのN末端アミノ酸配列の10残基について、同定した結は、Ala-Gln-Thr-Val-Pro-Tyr-Gly-Ile-Pro-Leuであることが確認された。
【0063】
4.作用pH及び至適pHの測定
HA12株由来アルカリプロテアーゼ1g及びカゼイン(終濃度1.0重量%)を、100mM酢酸緩衝液(pH4.0又は5.0)、100mMリン酸緩衝液(pH5.0、6.0又は7.0)、100mMTris-HCl緩衝液(pH7.0、8.0又は9.0)、及びグリシン−NaOH緩衝液(pH9.0、10.0、11.0又は12.0)の各緩衝液10mlに溶解し、37℃で活性測定を行った。該活性測定において、反応初期の1分間に遊離した可溶性低分子分解物に含まれるチロシンの量を測定することにより、HA12株由来アルカリプロテアーゼ活性のpHによる影響を調べた。
【0064】
得られた結果を図2に示す。この結果から、HA12株由来アルカリプロテアーゼは、pH6〜12で相対活性が約40%以上であり、至適pHは10〜12、最適pHは10であることが分った。
【0065】
5.作用温度及び最適温度の測定
HA12株由来アルカリプロテアーゼ1g及びカゼイン(終濃度1.0重量%)を、100mMTris-HCl緩衝液(pH8.5)10mlに溶解し、10〜100℃の範囲内の各温度で活性測定を行った。当該活性測定において、反応初期の1分間に遊離した可溶性低分子分解物に含まれるチロシンの量を測定することにより、HA12株由来アルカリプロテアーゼ活性の温度による影響を調べた。
【0066】
得られた結果を図3に示す。この結果から、HA12株由来アルカリプロテアーゼは、約55〜75℃で相対活性が約40%以上であり、作用最適温度は70℃であることが明らかとなった。
【0067】
6.阻害剤の影響
プロテアーゼは、その活性中心のアミノ酸残基や活性中心に有している金属イオンによって分類されていることから、HA12株由来アルカリプロテアーゼがどのタイプのプロテアーゼであるかについて調べるために、酵素活性阻害剤を使用することでその確認を行った。本試験では、バチルス属が主に生産するセリンプロテアーゼ、及び金属プロテアーゼの阻害剤を用いて阻害実験を行った。セリンプロテアーゼ阻害剤にはPMSF(フェニルメチルスルホニル=フルオリド)、金属プロテアーゼ阻害剤にはEDTAを使用した。具体的には、HA12株由来アルカリプロテアーゼ1g及びカゼイン(終濃度1.0重量%)と共に、PMSF(終濃度0、1.0、5.0及び10.mM)又はEDTA(終濃度0、1.0、5.0及び10.mM)を100mMTris-HCl緩衝液(pH8.5)10ml中で共存させ、37℃で活性測定を行った。当該活性測定において、反応初期の1分間に遊離した可溶性低分子分解物に含まれるチロシンの量を測定することにより、HA12株由来アルカリプロテアーゼ活性の各種阻害剤による影響を調べた。
【0068】
阻害剤としてPMSFを用いた結果を図4に、また、阻害剤としてEDTAを用いた結果を図5に示す。図4及び5より、HA12株由来アルカリプロテアーゼの活性は0.1 mM以上の濃度のPMSFによって阻害を受け、EDTAによる阻害は受けていないことから、HA12株由来アルカリプロテアーゼは金属プロテアーゼではなく、セリンプロテアーゼであることが明らかとなった。
【0069】
実施例2 根毛形成促進活性を有するペプチドの製造及び該ペプチドのアミノ酸配列の同定
1.Kunitzトリプシンインヒビターの精製
低変性脱脂大豆粉末(不二製油株式会社、大阪)に15倍量の蒸留水を加え、pH 7.5に調節したのち室温で1時間静置した。静置後、9,000×g、30分遠心分離した。得られた上清をpH 4.5調節した後に4 ℃、10,000 rpm、10分で遠心分離した。得られた上清をホエー画分とし、凍結乾燥(凍結乾燥機FDU-830、東京理化器械、東京)した。
【0070】
陰イオン交換樹脂(TOYOPERL DEAE-650C、東ソー株式会社、東京)約50 mlをカラム1.5×20 cm(Ecomo-Colum、BIO-RAD、California、USA)に充填し、陰イオン交換カラムを作製した。これを用いて、上記で得られたホエー画分を、吸着画分と非吸着画分に分離した。緩衝液は20 mM Tris-HCl(pH 8.0)、溶離緩衝液は1 M NaCl + 20 mM Tris-HCl(pH 8.0)を用いた。また、各画分は波長280 nmによる吸光度をUV-160A(島津製作所、京都)で測定した。吸着画分のうち1つのフラクションにKuintzトリプシンインヒビターが含まれていた。
【0071】
2.Kunitzトリプシンインヒビター分解物の作製
100 mM Tris-HCl (pH8.5) 30 mlに、大豆由来トリプシンインヒビター(和光純薬工業株式会社、大阪)0.03 gを加え0.1 %(w/v)Kunitzトリプシンインヒビター培地を作製し、オートクレーブ滅菌(121℃、15 分)した。そこに、上記で得られたバチルス・サーキュランスHA12株由来アルカリプロテアーゼを約30,000 U加え、37 ℃で4 時間振とうした。
【0072】
3.活性炭処理
Darco G-60(活性炭)(和光純薬株式会社、大阪)2 gを蒸留水200 mlで30 分洗浄した。その後、溶液を静置し、上清を除去した。洗浄後の活性炭と上記で得られたKunitzトリプシンインヒビター分解物20 mlを混合し、1 時間撹拌した。その後、8,000 rpm、10 分で遠心分離し、上清と活性炭に分けた。上清をろ紙およびフィルターを用いてろ過した。これを活性炭非吸着画分とした。
【0073】
活性炭を蒸留水1 lで洗浄した。その後、溶液を静置し、上清を除去した。活性炭に50 %(v/v)アセトンを100 ml加え、1 時間撹拌した。その後、8,000 rpm、10 分で遠心分離し、上清と活性炭に分けた。上清をろ紙およびフィルターを用いてろ過した。ろ過した上清中に含まれるアセトンを減圧蒸留(Rotavapor R-114、柴田科学株式会社、東京)によって除去した。得られた活性炭吸着画分及び非吸着画分について、下記方法に従って根毛形成促進活性を評価した。なお、下記の根毛形成促進活性の測定において、サンプルのペプチド・アミノ酸濃度は、DSPについては30μg/mlとし、活性炭予備吸着画分及び非吸着画分については1μg/mlとした。
【0074】
根毛形成促進活性の評価方法
植物生長用培地(表1)に微量栄養素溶液(表2)を0.1 %(v/v)加え、Agarを溶解させ試験管(同径×全長(mm) 18×180)に10 mlずつ分注し、オートクレーブ滅菌(121 ℃、15 分)した。そこに、ろ過滅菌した試験サンプルを加え、ボルテックスで撹拌した。なお、本方法において、試験サンプルとして水を添加したものをコントロールとした。
【0075】
コマツナ(タキイ種苗株式会社、京都)の種子に種子滅菌液(表3)を加え、30 分撹拌した。これらコマツナの種子を滅菌水を用いて5回洗浄した。
【0076】
試験管培地に、種子滅菌後のコマツナの種子を1粒蒔き、25 ℃、15,000 lux(サンヨーグロースキャビネット、サンヨー、東京)で1 週間生育させた。
【0077】
1 週間生育させたコマツナを抜き取り、70 %(v/v)エタノールに溶解させた1 %(w/v)メチレンブルー染色液を用いて染色し(1 分)、水道水を用いて脱色(5 分)した。染色したコマツナの根の先端部分約3 mm付近の部分をデジタルカメラを用いて撮影した。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

各サンプルの根毛密度は、各根毛画像の明るさをPhotoshop 5.0 Adobe(CA、USA)を用いて評価した。まず根毛写真をグレースケール(白黒255段階)で表し、画像のバックグラウンド(根毛が無い部分)をK値=0になるようにした。その後、主根部分を除いた画像のヒストグラムを表示し、この画像全体の明るさを表示した。その後、根毛写真の暗さ(根毛密度)=(255−画像の明るさ)として根毛密度を評価した。このように、Controlを100.0 %とし、各サンプルの根毛密度を数値化して比較を行った。
【0081】
得られた結果(根毛の様子の写真)を図6に示す。図6から分るように、活性炭吸着画分に、DSPと同様に、根毛形成促進活性があることが認められた。
【0082】
4.ゲルろ過クロマトグラフィー
次いで、上記で得られた活性炭吸着画分に、下記の装置、カラム及び条件で、ゲルろ過クロマトグラフィーを行った。
検出器: UV-8020(東ソー株式会社、東京)
ポンプ: CCPS(東ソー株式会社、東京)
カラム: G2000SW(東ソー株式会社、東京)
溶媒: 20 mM Tris-HCl buffer (pH7.0)
検出: UV(220 nm)
流速: 1 ml/min
カラム温度: 35 ℃。
【0083】
得られたクロマトグラムを図7に示す。当該クロマトグラムにおいて、リテンションタイム6.8〜7.6 minをフラクション1、7.6〜8.5 minをフラクション2、8.5〜9.9 minをフラクション3、9.9〜12.6 minをフラクション4とし、各フラクションの根毛形成促進活性を上記方法に従って評価した。なお、根毛形成促進活性の測定において、サンプルのペプチド・アミノ酸濃度は、DSPは30μg/mlとし、各フラクションは30μg/mlとした。各フラクションの根毛形成促進活性の測定結果を図8に示す。図8より、ペプチド・アミノ酸濃度が0.5 μg/mlという低濃度でもフラクション3において、DSPと同様に根毛形成促進効果が確認された。このことから、フラクション3内に根毛形成促進活性を有するペプチドが含まれていることが明らかとなった。
【0084】
5.質料分析
上記で得られたフラクション3について、下記の装置及び条件のMALDI-TOFMSを行い、質量分析を行った。
装置: AXIMA-CFR plus
イオン検出: 正イオン liner mode
引き出し電圧: 20 kV
マトリックス: α-cyano-4-hydroxycinnamic acid (CHCA) 10 mg/ml (0.1%TFA、50%MeCN saturated solution) Pulse Extraction ON。
【0085】
得られた結果を図9に示す。図9から明らかなように、1198 Daの分子量のペプチドが検出され、この分子量1198Daのペプチドが根毛形成促進活性を有するペプチドであると考えられた。
【0086】
6.Kunitzトリプシンインヒビターアミノ酸配列から分子量1198 Daペプチドの検索
次いで、Kunitzトリプシンインヒビターのアミノ酸既知全配列から分子量1198 Daに相当するペプチドを検索した。
【0087】
Kunitzトリプシンインヒビターのアミノ酸配列中には、分子量1198.29 Da GGIRAAPTGNERと分子量1198.32 Da GPAVKIGENKDAの2つの分子量1198 Daのペプチドが存在していた。
【0088】
上記で得られたフラクション3についてアミノ酸分析した結果から該画分にはグリシンが高い割合で含まれていたこと、及びバチルス・サーキュランスHA12株由来アルカリプロテアーゼのN末端アミノ酸配列と相同性の高かったSubutilisinの基質特異性から総合的に考えると、分子量1198 DaのGGIRAAPTGNERが根毛形成促進活性を有するペプチドであると予測された。
【0089】
7.ペプチド(GGIRAAPTGNER)の根毛形成促進活性の測定
根毛形成促進活性を有する予測されたペプチド(GGIRAAPTGNER)を化学合成し、上記方法に従って、根毛形成促進活性を測定した。なお、根毛形成促進活性の測定におけるサンプルについて、DSPはペプチド・アミノ酸濃度30μg/mlとし、上記のペプチドはペプチド濃度0.5又は1μg/mlとした。ペプチドの化学合成は株式会社ベックスに委託し、ペプチドの分子量は1198 Da、Purity>70%であった。
【0090】
根毛密度についての結果を図10に、また根毛の様子について撮影した写真を図11に示す。図10及び11から明らかなように、12残基からなるペプチド(GGIRAAPTGNER)には、根毛の形成を促進する活性を有していることが確認された。以上の結果から、本発明ペプチドは、根毛形成促進作用を発揮しており、細胞増殖や免疫を賦活化する効果を奏し得ることが示唆された。
【0091】
実施例3 錠剤 (重量%)
実施例1で得られたペプチド(GGIRAAPTGNER) 5.0
微結晶セルロース 38.0
ブドウ糖 45.0
カルメロースカルシウム 10.0
ステアリン酸マグネシウム 0.3
香料 1.7
合計 100.0重量%。
【0092】
常法に従って、上記組成の錠剤を調製した。
【0093】
実施例4 ドリンク剤(健康ドリンク)
(重量%)
実施例1で得られたペプチド(GGIRAAPTGNER) 3.0
果糖ブドウ糖液 25.0
蜂蜜 5.0
クエン酸 0.8
アスコルビン酸 0.5
香料 適量
水 残量
合計 100.00重量%。
【0094】
実施例5 飼料
実施例1で得られたペプチド(GGIRAAPTGNER)を、養豚用の配合飼料に5重量%となるように配合し、該ペプチドを含有する飼料を調製した。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】バチルス・サーキュランスHA12株由来アルカリプロテアーゼをSDS−PAGEにより分析した電気泳動図を示す図である。
【図2】各種pHにおけるバチルス・サーキュランスHA12株由来アルカリプロテアーゼの活性を示す図である。
【図3】各温度におけるバチルス・サーキュランスHA12株由来アルカリプロテアーゼの活性を示す図である。
【図4】PMSF存在下でのバチルス・サーキュランスHA12株由来アルカリプロテアーゼの活性を示す図である。
【図5】EDTA存在下でのバチルス・サーキュランスHA12株由来アルカリプロテアーゼの活性を示す図である。
【図6】Kunitzトリプシンインヒビター分解物の活性炭吸着画分を添加して栽培したコマツナの根毛の様子を撮影した写真である。
【図7】Kunitzトリプシンインヒビター分解物の活性炭吸着画分をゲルろ過クロマトグラフィーで分析して得られたクロマトグラムを示す図である。
【図8】Kunitzトリプシンインヒビター分解物の活性炭吸着画分をゲルろ過クロマトグラフィーで分画した各フラクションの根毛形成促進活性の測定結果を示す図である。
【図9】ゲルろ過クロマトグラフィーで分画したフラクション3のMALDI-TOFMS分析結果を示す図である。
【図10】ペプチド(GGIRAAPTGNER)を添加して栽培したコマツナの根毛密度を示す図である。
【図11】ペプチド(GGIRAAPTGNER)を添加して栽培したコマツナの根毛の様子を撮影した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)又は(ii)のペプチド:
(i)配列番号1に示すアミノ酸配列を有するペプチド、
(ii)配列番号1に示すアミノ酸配列において1若しくは2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、且つ根毛形成促進活性を有するペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のペプチドを含有する、農園芸用組成物。
【請求項3】
植物成長促進剤又は根毛形成促進剤である、請求項2に記載の農園芸用組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のペプチドを含有する、食品組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のペプチドを含有する、医薬組成物。
【請求項6】
バチルス・サーキュランスHA12株によって産生されるアルカリプロテアーゼを含む、大豆タンパク質原料から請求項1に記載のペプチドを生成するための酵素剤。
【請求項7】
アルカリプロテアーゼがセリンプロテアーゼである、請求項6に記載の酵素剤。
【請求項8】
アルカリプロテアーゼが下記性質を有するものである、請求項6又は7に記載の酵素剤:
(a)作用:大豆タンパク質原料を加水分解して請求項1に記載のペプチドを生成する。
(b)至適pH:pH9〜12
(c)作用最適温度:70℃
(d)分子量:28〜34kDa(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による)
(e)N末端のアミノ酸配列:配列番号2に示すアミノ酸配列を有する。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれかに記載の酵素剤を大豆タンパク質原料に作用させることを特徴とする、下記(i)又は(ii)のペプチドの製造方法:
(i)配列番号1に示すアミノ酸配列を有するペプチド、
(ii)配列番号1に示すアミノ酸配列において1若しくは2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、且つ根毛形成促進活性を有するペプチド。
【請求項10】
大豆タンパク質原料が大豆粕である、請求項9に記載の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−124323(P2006−124323A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314672(P2004−314672)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(390014889)大和化成株式会社 (6)
【Fターム(参考)】