説明

新規生理活性物質RS−K3574とその製造方法

ユビキチン活性化酵素の阻害活性と、細胞内タンパク質のユビキチン化の阻害活性と、抗腫瘍活性とその他の種々な生物学的活性とを示し且つ新しい分子骨格を有する生理活性物質として、次式(I)


〔式中、2位、3位、4位および7位の立体配置はそれぞれS、S、R、Rである〕で表される化合物であるRS−K3574物質がヒラタケ科カワキタケ属アラゲカワキタケ(Panusrudis)・K−3574株(FERM BP−8265)の培養により製造された。RS−K3574物質はユビキチン活性化酵素の阻害活性と細胞内タンパク質のユビキチン化の阻害活性とを有し、また細胞内のタンパク質の生合成を阻害する活性を有し、さらに抗腫瘍活性、抗癌活性および抗炎症活性ならびに抗ウィルス活性を有する生理活性物質である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ユビキチン活性化酵素に対する阻害活性と細胞内タンパク質のユビキチン化に対する阻害活性とを有し、また細胞内のタンパク質の生合成を阻害する活性を有し、さらに抗腫瘍または抗癌活性を示す新規な生理活性物質であるRS−K3574物質に関する。また、本発明は前記の生理活性物質、RS−K3574物質の製造法に関する。さらに本発明は、生理活性物質RS−K3574から成る、ユビキチン活性化酵素の阻害剤、ならびに生理活性物質RS−K3574から成る、細胞内タンパク質のユビキチン化の阻害剤に関し、また生理活性物質RS−K3574を有効成分とする抗腫瘍剤組成物、抗炎症剤組成物および抗ウィルス剤組成物に関する。また、本発明は、新規生理活性物質RS−K3574から成る、癌細胞に対する殺細胞性抗腫瘍剤または抗癌剤または癌治療用放射線のアポトーシス誘発作用の増強剤、および癌細胞内のタンパク質生合成の阻害剤、ならびにNF−B転写因子の活性化に対する阻害剤を包含する。
【背景技術】
種々な多数の酵素阻害剤が知られており、また種々な多数の生理活性物質が知られている。これら酵素阻害剤あるいは生理活性物質を、様々な疾病の治療薬として応用するための取り組みがなされている。また細胞の増殖、分化、生育ならびに細胞死などにおける極めて重要かつ必須の制御機構の一つとして、細胞内のタンパク質のユビキチン化反応があることが知られる。この細胞内タンパク質のユビキチン化反応を抑制できる活性をもつ物質は、疾病の治療と予防に広く応用されることが期待されるので要望されているが、現在まで、その細胞内タンパク質のユビキチン化反応を阻害できる活性をもつ物質は発見されていない。
癌細胞や免疫細胞での細胞増殖や細胞死が起こる際に、急性または慢性の炎症が起こる際に、免疫過敏や免疫不全などの免疫応答が起こる際に、アルツハイマー症を含む神経疾患が起こる際に、ならびにHIVウィルスを含む病原ウィルスの感染や増殖が起こる際に、さらに卵子の受精や発生などでの、正常な分化が起きる際に、極めて重要かつ必須な役割を果たす機構の一つとして、ユビキチンを活性化する酵素が関与するところの細胞内タンパク質のユビキチン化機構があることが知られる。
例えば、HIV−1ウィルスまたはHIV−2ウィルスが感染している細胞内では、これらHIVウイルスの出芽(budding)、成熟化、感染力獲得にタンパク質のユビキチン化が関与することが知られ、また細胞内に在る酵素であるユビキチン活性化酵素がユビキチンの活性化に関与することが知られる。さらにHIVウィルスが感染している細胞内で、プロテアソームを阻害することによって、HIV由来のユビキチン化されたタンパク質の限定的な分解を止めると、HIVウィルスの出芽、成熟化、感染力獲得、増殖を阻害できることが知られる〔PNAS,97巻24号13057〜13062頁(2000年11月)〕。
さらに、急性または慢性の炎症が起こる際には、必らず、炎症性サイトカインによるNF−KB転写因子の活性化が起こることが知られ、このNF−KB転写因子の活性化は、その活性化に伴って、遺伝子MAD−3を発現する〔Cell.vol.65,pp1281−1289頁(1991)〕。
因みに、カワキタケ(Panus)属に属するパヌス・ルジス(Panusrudis)NRRL3821とパヌス・コンシャタス(Panusconchatus)NRRL3253により産生される次式(A)

で表されるパネポキシドン(panepoxydone)が知られる〔Biochemical and Biophysical Research Communications.226号214〜221頁(1996)〕。そして、この文献には、パネポキシドンが炎症の惹起に関与するNF−KB転写因子の活性化を阻害できる活性をもつことが記載されるが、パネポキシドンは細胞内のタンパク質、RNAまたはDNAの生合成を阻害する活性を示さないことが記載される。パネポキシドン分子の立体的化学構造の研究は、Helvetica Chimica Acta,53巻Fasc.7(1970),第186号1577〜1597頁に記載されてあり、この後者の文献1578頁の表2および1579頁の記載によれば、パネポキシドンは比旋光度[α]20−61°(溶媒、ジクロロメタン)を示す淡黄色の粘稠な油状物質である。
前述したように、細胞内のタンパク質のユビキチン化反応は、重要な生化学反応であるが、しかし、細胞内のタンパク質のユビキチン化反応を直接に阻害できる活性をもつ物質は、現在のところ未だ発見されていないので、そのような活性の新しい物質が現在も要望されている。細胞内のタンパク質をユビキチン化する機構を阻害できる活性をもつ新しい物質を提供することができるならば、そのような新しい物質は、従来知られているまたは使用されているところの既知の抗腫瘍性化合物、消炎・鎮痛性化合物、抗リウマチ薬、抗悪疫質剤、免疫抑制物質または免疫活性化物質、抗ウィルス薬、抗痴ほう薬、抗心筋症薬、抗肥満薬、抗糖尿病薬、臓器不全対処薬とは、異なる作用点を有し且つ新規な化学構造を有した化合物として利用できることが期待される。上記のような阻害活性をもつ新しい物質を求めるための研究が行われている。
【発明の開示】
本発明者らは、上記の要望に応えることができる細胞内ユビキチン活性化酵素の阻害活性ならびに細胞内タンパク質のユビキチン化の阻害活性をもつと共に、抗腫瘍活性および抗ウィルス活性を持つ新規な物質を提供することを目的に、有用な生理活性物質の開発と実用化の研究を促進してきた。その研究の結果、ヒラタケ科カワキタケ属に属するアラゲカワキタケの一菌株が新しい構造骨格を有する生理活性物質を生産していることを見い出した。この新規生理活性物質を単離することに成功し、下記の物理化学的性質を有し且つ下記の式(I)で示した立体的化学構造を有することを確認し、生理活性物質RS−K3574と命名した。更に、この新規な生理活性物質RS−K3574がユビキチン活性化酵素に対する阻害活性および細胞内タンパク質のユビキチン化に対する阻害活性、ならびに抗腫瘍活性および抗炎症活性および抗ウィルス活性を有すことを見い出した。
すなわち、第1の本発明においては、このRS−K3574物質が次式(I)

〔式中、2位、3位、4位および7位の立体配置はそれぞれS、S、R、Rである〕で表される化合物であり、しかも比旋光度〔α〕26−62.3°(c1.0,ジクロロメタン)を示す無色粘稠な油状物質であって、またシリカゲル薄層クロマトグラフィーでクロロホルム−メタノール(10:1)よりなる展開溶媒で展開して測定した場合に本RS−K3574物質は0.39のRf値を示し、さらに本RS−K3574物質のメタノール溶液中で測定した紫外線吸収スペクトルにおける主なピークはλmaxnm(ε);209(8300)および241(5700)にあり;赤外線吸収スペクトル(KBr錠剤法)における主な吸収帯はνmax(cm−1);3300〜3500、2979、2911、1681、1446、1379、1043、995、850、817、570にあり;重クロロホルムCDCl溶液(内部標準としてテトラメチルシランを使用)中で125MHzで測定したRS−K3574物質のプロトン核磁気共鳴(H−NMR)スペクトルにおいて、δ値(ppm)は3.47(dd,J=3.9Hz,J=1.0Hz)、3.81(ddd,J=3.9Hz,J=1.2Hz,J=2.5Hz)、4.69(br s,J=1.2Hz,J=5.0Hz,J=1.0Hz)、6.71(ddd,J=5.0Hz,J=1.2Hz,J=2.5Hz)、5.29(br d,J=9.0Hz,J=1.2Hz)、5.02(dt,9.0Hz,J=1.2Hz,J=1.2Hz)、1.72(d,J=1.2Hz)、1.72(d,J=1.2Hz)であり、また重クロロホルムCDCl溶液(内部標準としてテトラメチルシランを使用)中で125MHzで測定したRS−K3574物質の炭素13核磁気共鳴(13C−NMR)スペクトルにおいて、δ値(ppm)は、194.6(s)、53.9(d)、57.7(d)、63.2(d)、137.8(d)、139.0(s)、65.3(s)、123.6(d)、138.4(s)、25.8(q)、18.4(q)であることを特徴とする、生理活性物質RS−K3574が提供される。
次に、第1の本発明の生理活性物質RS−K3574の物理化学的性状を記載する。
A)外観及び性質:無色粘稠な油状物質
B)比旋光度[α]26−62.3°(c1.0、ジクロロメタン)
C)TLCのRf値:0.39
シリカゲル(Art.105715、メルク社製)の薄層クロマトグラフィーでクロロホルム−メタノール(10:1)よりなる展開溶媒で展開して測定した場合
D)FABマススペクトル(m/z):233(M+Na)
なお、Mは観察されず、(M−18)が観察された。
E)分子式:C1114
F)紫外線吸収スペクトル
(i)メタノール溶液中で測定した紫外線吸収スペクトルは添付図面の第1図に示す。主なピークは次のとおりである。
λmaxnm(ε):209(8300)、241(5700)
(ii)メタノール−HCl溶液中で測定した紫外線吸収スペクトルは添付図面の第2図に示す。主なピークは次のとおりである。
λmaxnm(ε):205(14200)、240(sh5500)
(iii)メタノール−NaOH溶液中で測定した紫外線吸収スペクトルは添付図面の第3図に示す。主なピークは次のとおりである。
λmaxnm(ε):206(16400)、240(sh5300)、304(2400)
G)赤外線吸収スペクトル(KBr錠剤法)を添付図面の第4図に示す。主な吸収帯は次のとおりである。
νmax(cm−1):3300〜3500、2979、2911、1681、1446、1379、1043、995、850、817、570
H)H−NMRスペクトル(重クロロホルム中/内部標準テトラメチルシラン)を添付図面の第5図に示す。
重クロロホルムCDCl溶液(内部標準としてテトラメチルシランを使用)中で500MHzで測定したRS−K3574物質のプロトン核磁気共鳴(H−NMR)スペクトルにおいて、δ値(ppm)は3.47(dd,J=3.9Hz,J=1.0Hz)、3.81(ddd,J=3.9Hz,J=1.2Hz,J=2.5Hz)、4.69(br s,J=1.2Hz,J=5.0Hz,J=1.0Hz)、6.71(ddd,J=5.0Hz,J=1.2Hz,J=2.5Hz)、5.29(br d,J=9.0Hz,J=1.2Hz)、5.02(dt,J=9.0Hz,J=1.2Hz,J=1.2Hz)、1.72(d,J=1.2Hz)、1.72(d,J=1.2Hz)である。
I)13C−NMRスペクトル(重クロロホルム中/内部標準テトラメチルシラン)を添付図面の第6図に示す。
重クロロホルムCDCl溶液(内部標準としてテトラメチルシランを使用)中で125MHzで測定したRS−K3574物質の炭素13核磁気共鳴(13C−NMR)スペクトルにおいて、δ値(ppm)は、194.6(s)、53.9(d)、63.2(d)、137.8(d)、139.0(s)、65.3(s)、123.6(d)、138.4(s)、25.8(q)、18.4(q)である。
なお、本発明のRS−K3574物質の立体的化学構造は、上記の式(I)に示すとおりであることは、RS−K3574物質からの或る誘導体の結晶を粉末X線回析法で分析することによって確認できたのである。
前記の式(A)

のパネポキシドン(panepoxydone)の立体的化学構造と比較すると、本発明の生理活性物質RS−K3574は、既知の物質パネポキシドンの新しい立体異性体(7−エピマー)であると認められる。
さらに、本発明の生理活性物質RS−K3574の生物学的性質を次に記載する。
A)ユビキチン活性化酵素に対するRS−K3574物質の阻害活性の測定
本発明による生理活性物質RS−K3574のユビキチン活性化酵素に対する阻害活性は、RS−K3574物質の100μg/ml以上の濃度でユビキチン活性化酵素を完全に阻害する強さをもつ。
ユビキチン活性化酵素に対するRS−K3574物質の阻害活性は、J.Nat.Prod.,65巻,1491−1493頁(2002)に記載の方法に準じて測定した。すなわち、ヒト由来のユビキチン活性化酵素を、組換遺伝子工学法で大腸菌に発現させ、この大腸菌からユビキチン活性化酵素を採取および精製することによってユビキチン活性化酵素試料を調製した。またウシ由来のユビキチンをビオチン化することによって調製されたビオチン化ユビキチンを、基質として用いた。前記のユビキチン活性化酵素と前記の基質をATP(アデノシン−5’−3リン酸)とともに、供試のRS−K3574物質の存在下または非存在下で37℃にて15分間反応させた。
得られた反応液をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけて、ゲル内の分画されたところの、ビチオン化ユビキチンと結合した酵素タンパク質を、エレクトロブロットによりポリビニリデンジフロライド膜に吸着させた。この膜上におけるビオチン化ユビキチンに結合した酵素タンパク質の量をECL法(「Chin.Chem.」25巻、1531〜1546頁(1979年)参照)を用いて検定した。RS−K3574物質の存在下に上記の酵素反応を行った試験区において検出されたビオチン化ユビキチンに結合した酵素タンパク質の量と、RS−K3574物質の非存在下で酵素反応を行った対照試験区において検出されたビオチン化ユビキチンに結合した酵素タンパク質の量との比較によって、ビオチン化ユビキチンに結合したユビキチン活性化酵素の結合生成物の生成量がRS−K3574物質によって抑制される程度を判定した。
B)細胞内タンパク質のユビキチン化に対するRS−K3574物質の阻害活性の測定
細胞内におけるタンパク質ユビキチン化に対する本発明による生理活性物質RS−K3574の阻害活性は、2μg/ml以上の濃度のRS−K3574物質で細胞内に惹起されるユビキチン化タンパク質の生成を完全に阻害する強さをもつ。
この細胞内でのユビキチン化タンパク質の生成は次のようにして検出した。すなわち、ヒト乳癌細胞MCF7を含む培地中にあらかじめRS−K3574物質を各種濃度で添加した。その添加から30分経過後、さらに癌細胞内のプロテアソームに対する阻害物質であるMG−132を1μMの濃度で培地に添加した(MG−132の添加により、プロテアソームを完全に阻害し、このことにより、プロテアソームにより分解されるべきユビキチン化タンパク質が細胞に蓄積できる)。その後、培地で3時間癌細胞を培養した後に、癌細胞を可溶化した。得られた細胞可溶性画分をポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけた。ゲル内の分画されたタンパク質をエレクトロブロットによりポリビニリデンジフロライド膜に吸着させ、この膜上の吸着されてあるユビキチン化されたタンパク質を、抗ユビキチン抗体と反応させることにより選択的に検出した。検出にはECL法(「Clin.Chem.」25巻、1531〜1546頁(1979年)参照)を用いた。
また、ヒト乳癌細胞MCF7を含む培地にRS−K3574物質を添加することなく、上記と同様に試験した。この後者の対照試験のように、RS−K3574物質の非存在下で試験した場合には、ユビキチン化されたタンパク質が蓄積してくるが、前記の培地にRS−K3574物質を添加してその存在下に試験を行った場合に、RS−K3574物質の存在下でその濃度に依存して、ユビキチン化されたタンパク質の蓄積が抑えられたことが確認された。このことから明らかなように、RS−K3574物質は、細胞内でユビキチン化されることによって直接または間接的に制御される性質をもつ機能性の細胞内タンパク質の生成を抑制することに有効である。
C)癌または腫瘍細胞増殖に対するRS−K3574物質の抑制活性
本発明による生理活性物質RS−K3574は癌または腫瘍細胞の増殖を抑制する活性を有する。RS−K3574物質が各種癌細胞の増殖を50%抑制する濃度(IC50値)を、MTT法(「Journal of Immunological Methods」65巻、55〜60頁(1983年)参照)で測定した。その結果を次の第1表に示す。

第1表の結果から明らかなように、本発明による生理活性物質RS−K3574は、各種の癌細胞の増殖を抑制する抗腫瘍活性を有するのであり、このことから抗腫瘍剤として有用である。
D)RS−K3574物質の制癌活性
本発明による生理活性物質RS−K3574は、制癌活性を有する。RS−K3574物質は例えばエーリッヒ(Ehrlich)腹水癌を移植したマウスに対して延命効果を有する。この担癌マウスにRS−K3574物質を1日あたり250μg/mouseの投与量で連続9日間投与した場合、RS−K3574物質を投与しない場合に比べて延命効果が200%に達する。この延命効果は以下のようにして判定した。
すなわち、4週齢のICRマウスにEhrlich癌細胞の2×10個を腹腔に移植し、翌日から生理活性物質RS−K3574を1日あたり250または62.5μg/匹の投与量を腹腔に9日間毎日投与し続けた。無投与群では、腹腔内にEhrlich癌に誘因された腹水が溜まり全例が約2週間後に死亡した。そこでRS−K3574物質を投与した処理群の平均生存日数を、無投与群の平均生存日数で除した商の値で延命効果を評価した。RS−K3574物質による処理群では、腹水の蓄積が顕著に抑制され、その結果、1日あたり250μg/mouseの投与量で9日間投与した場合に200%の延命効果が、また62.5μg/mouseの投与量で9日間投与した場合でも160%以上の延命効果が認められた。
この結果から明らかなように、生理活性物質RS−K3574は生体での癌または腫瘍の悪性化に対する抑制効果を有するのであり、このことから、抗腫瘍剤、抗癌剤、または抗悪疫質剤として有用である。
E)殺細胞性抗腫瘍剤または抗癌剤または癌治療用放射線による癌細胞のアポトーシス感受性に対するRS−K3574物質の増強効果
本発明による生理活性物質RS−K3574は、抗腫瘍剤または抗癌剤または癌治療用放射線が癌細胞に対して有するアポトーシス誘発効果を増強し、抗腫瘍剤または抗癌剤または癌治療用に照射される放射線、例えばγ線、X線、α線の抗腫瘍活性または抗癌活性を増大させる活性を有する。
試験管内でヒト白血病細胞U937を、これに殺細胞性抗癌剤であるTNF(tumor necrosis factor)を10ng/mlの濃度で加えて4時間処理した場合にはU937細胞のアポトーシスは観察されない。他方、生理活性物質RS−K3574の5μg/mlであらかじめU937細胞を処理した上で、TNFの10ng/mlでU937細胞を処理する場合には、4時間後に顕著なアポトーシスがU937細胞で観察される。
このアポトーシスは、アポトーシスに特徴的であるDNAの段階的な分解(ladder formation)をBBRC.vol.209,907−915頁(1995)に用いられた方法で測定することにより確認した。TNFによる癌細胞アポトーシスに対するRS−K3574物質の増強活性は、TNFに代えてTNF様アポトーシス誘導物質(TRAIL;TNF−related apoptosis−inducing ligand)を用いて試験した場合でも、全く同様に認められる。
また、ヒト子宮癌由来HeLa細胞を、殺細胞性抗癌剤として用いられるアドリアマイシンで処理して試験管内でアポトーシスに導く際、RS−K3574物質を同時に加えることによりHeLa細胞の生存細胞数を顕著に減少させることができる。すなわち、HeLa細胞をアドリアマイシンの1μg/mlで24時間処理した場合の生存細胞数が100%であるのに対し、RS−K3574物質の5μg/mlとアドリアマイシンの1μg/mlとで同時にHeLa細胞を処理した場合では、生存細胞数は50%にまで減少する。
これらの結果から明らかなように、生理活性物質RS−K3574は、癌細胞に対する殺細胞性抗腫瘍剤または抗癌剤のアポトーシス誘発作用を増強する活性を有し、このことで抗腫瘍剤または抗癌剤の抗腫瘍効果を増大させる。また、癌治療用に照射される放射線による癌細胞アポトーシスを同様に増強させる作用をRS−K3574物質が有すると期待できる。従って抗腫瘍剤または抗癌剤または癌治療用に照射される放射線の癌細胞アポトーシス誘発作用の増強剤として利用でき、癌治療において抗腫瘍剤または抗癌剤の治療効果を増強するための併用剤として、RS−K3574物質は有用である。
F)RS−K3574物質のタンパク質生合成に対する阻害活性
Biochemical and Biophysical Research Communications 226巻、214−221頁(1996)で述べられる通り、既知物質パネポキシドンはタンパク質、RNA、DNAのいずれの生合成も阻害しない。本発明のRS−K3574物質は細胞内のタンパク質生合成を顕著にかつ特異的に阻害する活性を有する。その阻害活性は、RS−K3574物質の50%阻害濃度が4.5μg/mlである強さのものである。その阻害活性は次のように測定した。
すなわち、ヒト乳癌由来MCF7細胞2×10を、血清含有培地を入れた24穴プレートに撒き、24時間培養した。血清を含まない培地に交換し、各種の濃度のRS−K3574物質を添加した。ここに、トリチウム標識したロイシンを1μCi/mlの濃度で加えた。さらに1時間培養すると、この間にロイシンが細胞に取りこまれ、細胞内でタンパク質の生合成が進む。そののち、培地を除去し、培養されたMCF7細胞に対して氷冷した10%トリフルオロ酢酸水溶液を加えた。培養プレートを氷上で30分間放置した後、氷冷した10%トリフルオロ酢酸水溶液で2回洗浄した。この操作で細胞は破壊された。この洗浄後に、不溶性であったタンパク質を含む画分を集めて、0.1Nの水酸化ナトリウム水で溶解し、得られた溶液の放射活性を測定した。
この得られた溶液の放射活性測定値は、細胞内で生合成されたタンパク質の生成量を指示するものである。添加されたRS−K3574物質の10μg/mlの濃度の存在下にMCF7細胞を培養する上記の試験を行った場合には、放射活性の測定値は180cpmであった。これに比較して、RS−K3574物質の非存在下でMCF7細胞を培養して対照試験を行った場合には、放射活性の測定値は700cpmであった。これらの結果から、MCF7細胞内のタンパク質生合成を50%阻害するRS−K3574物質の濃度(IC50値)は4.5μg/mlであると計算された。
G)NF−B転写因子の活性化に対するRS−K3574物質の阻害効果
生理活性物質RS−K3574は、NF−KB転写因子の活性化を4μg/mlの濃度で完全に阻害する活性を有する。この活性は以下のように判定した。
すなわち、ヒト乳癌細胞MCF7の培養培地中に炎症性サイトカインとして作用するTNFを10ng/mlの濃度で、またはInterleukin−1(IL−1)を2ng/mlの濃度で添加すると、約1時間後にNF−KB転写因子の活性化が観察される。このNF−KB転写因子の活性化は、その活性化に伴って発現するところの遺伝子であるMAD−3(Cell,vol.65,1281−1289頁、1991)のmRNAが特異的に増加していることをRT−PCR法によって測定することで確認できる。この時、RS−K3574物質を4μg/mlの濃度で培養培地中にあらかじめ添加すると、遺伝子MAD−3の発現は全く見られず、NF−KB転写因子の活性化を完全に阻害できた。この結果から、RS−K3574物質は急性および慢性の炎症の惹起に必要であるNF−KB転写因子の活性化を阻害する活性を有することが認められ、抗炎症剤として有用である。
さらに第2の本発明によれば、前記の式(I)で表される生理活性物質RS−K3574を生産するアラゲカワキタケ(Panusrudis)を栄養培地に培養し、培養物から生理活性物質RS−K3574を採取することを特徴とする、生理活性物質RS−K3574の製造法が提供される。
第2の本発明の方法で使用できる生理活性物質RS−K3574の生産菌の一例として、ヒラタケ科カワキタケ属アラゲカワキタケ(Panusrudis)K−3574株がある。尚、本菌株は2001年7月より約10年以上前に、財団法人発酵研究所(IFO)から分譲されたアラゲカワキタケ菌糸を、その分譲から以後約10年間以上にわたりポテト・デキストロース・アガー培地上でタカラアグリ株式会社の研究所にて、継代培養された菌株である。本K−3574株は、前記継代中に変異しており、財団法人発酵研究所(IFO)に寄託されてあるアラゲカワキタケ(Panusudis)IFO8994株に比べると生理活性物質RS−K3574の生産量が多く、また他の代謝物の組成も異なる。このことから、本K−3574株はPanusrudis IFO 8994株とは別異の菌株である。
アラゲカワキタケ(Panusrudis)K−3574株は、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1、中央第6に在る独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに2001年6月26日に寄託申請し、寄託番号FERM P−18397として寄託を受理された。また、2002年12月25日の移管受託日でブダペスト条約の規約下にアラゲカワキタケK−3574株はFERM BP−8265の受託番号で前記の寄託所に寄託された。
なお、アラゲカワキタケは既知のキノコ(担子菌)であり、ほとんど世界中に分布して生えるが、日本ではブナ科の樹木に比較的普通に発生する。アラゲカワキタケのキノコ菌学的性状は次のとおりである。その子実体の傘は径1.5〜5cm、初めは饅頭形、後に開いてやや漏斗形となり、強じんな肉質〜やや革質、表面は粗い毛を密生し、初め褐紫色、ときにやや紫色を帯びる。縁はほぼ平坦であり、柄は一般に短く(0.5〜2cm)、偏心性〜中心性、まれに側性、表面はほぼ傘と同様である。胞子紋は白色である。胞子は4.5〜5.5×2〜2.5μm、挟楕円形であり、担子器は4胞子性である。厚膜シスチジアは53〜70×9.5〜14μm、棍棒形〜円柱形、または紡錘形である。hyphal pegはない。肉組織の菌糸構成はdimiticである(「原色日本新菌類図鑑(1)」)32頁、今関六也、本郷次雄、保育社、昭和62年6月30日発行)。
第2の本発明の方法を実施するに当たっては、ヒラタケ科カワキタケ属に属する生理活性物質RS−K3574の生産株として、前記のアラゲカワキタケK−3574株を栄養培地に接種し、培養する。ここで用いる栄養培地は、前記の生産株が資化できる炭素源と窒素源を栄養成分として含有するものである。
その培地の栄養源としては、担子菌株の栄養源として通常使用されるもの、例えば炭素源、窒素源、無機塩などの同化できる栄養源を使用できる。例えば、ぶどう糖、麦芽糖、糖蜜、デキストリン、グリセリン、澱粉などの炭水化物や、大豆油、落花生油などの油脂のごとき炭素源、ならびにペプトン、肉エキス、綿実粉、大豆粉、酵母エキス、カゼイン、コーン・スチープ・リカー、NZ−アミン、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウムなどの窒素源を使用でき、さらに燐酸二カリウム、燐酸ナトリウム、食塩、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マンガンなどの無機塩が配合できる。必要により微量金属例えばコバルト、鉄などを添加することができる。栄養源としては、その他、生理活性物質RS−K3574を生産するのに、使用されるRS−K3574生産菌株が利用しうるものであれば、いずれの公知の栄養源でも使用できる。
培地における上記のごとき栄養源の配合割合は特に制約されるものでなく、広範囲に亘って変えることができ、使用するRS−K3574物質生産菌株によって、最適の栄養源の組成及び配合割合は、当事者であれば簡単な小規模実験により容易に決定することができる。また、上記の栄養源からなる栄養培地は、培養に先立ち殺菌することができ、この殺菌の前又は後で、培地のpHを5〜7の範囲、特にpH5.5〜6.5の範囲に調節するのが有利である。
かかる栄養培地でのRS−K3574物質生産菌株の培養は、一般のキノコによる生理活性物質の製造において通常使用されている方法に準じて行なうことができる。通常は好気条件下に培養するのが好適であり、通常、攪拌しながら及び/又は通気しながら培養を行なうことができる。また、培養方法としては静置培養、振とう培養、通気攪拌をともなう液体培養のいずれも使用可能であるが、液体培養がRS−K3574物質の大量生産に適している。
使用しうる培養温度はRS−K3574物質生産菌株の発育が実質的に阻害されず、該生理活性物質RS−K3574を生産しうる範囲であれば、特に制限されるものではなく、使用する生産菌株に応じて適宜選択できるが、特に好ましいのは25〜30℃の範囲内の培養温度を使用することができる。培養は通常はRS−K3574物質が十分に蓄積するまで継続することができる。その培養時間は培地の組成や培養温度、使用温度、使用生産菌株などにより異なるが、通常14〜30日間の培養で目的のRS−K3574物質を得ることができる。
培養中の生理活性物質RS−K3574の蓄積量は、上記したユビキチン活性化酵素の阻害活性の測定方法によって定量することができる。
培養により得た培養物中に蓄積されたRS−K3574物質は、これを培養物から採取する。培養後、必要により、濾過、遠心分離などのそれ自体公知の分離方法によって菌体細胞を除去した後、その培養濾液を、有機溶媒、特に酢酸ブチルなどを用いた溶媒抽出や、吸着や、イオン交換能を利用したクロマトグラフィー、ゲルろ過、向流分配を利用したクロマトグラフィーを単独でまたは、組み合わせて処理することにより、RS−K3574物質を単離し、さらに精製して採取することができる。吸着に用いる担体あるいはイオン交換能を有するクロマトグラフィーに用いる担体としては、活性炭、シリカゲル、多孔性ポリスチレン−ジビニルベンゼン樹脂もしくは各種のイオン交換樹脂を用いることができる。かくして、前記した特性を有する新規生理活性物質RS−K3574が得られる。
さらに、第3の本発明では、前記の式(I)で表わされる生理活性物質RS−K3574から成る、ユビキチン活性化酵素の阻害剤が提供される。
さらにまた、第4の本発明では、前記の生理活性物質RS−K3574から成る、細胞内タンパク質のユビキチン化の阻害剤が提供される。
さらに、第5の本発明では、前記の生理活性物質RS−K3574を有効成分として含有し、これに混合されて製薬学的に許容できる担体を含有する抗腫瘍剤組成物が提供される。
さらに、第6の本発明では、前記の生理活性物質RS−K3574を有効成分として含有し、これに混合されて製薬学的に許容できる担体を含有する抗炎症剤組成物が提供される。
また、第7の本発明においては、前記の生理活性物質RS−K3574を有効成分として含有し、これに混合されて製薬学的に許容できる担体を含有する抗ウィルス剤組成物が提供される。
第3の本発明によるユビキチン活性化酵素の阻害剤および第4の本発明による細胞内タンパク質のユビキチン化阻害剤は、それぞれRS−K3574物質の単独から成ることができるものである。さらに、第5の本発明による抗腫瘍剤組成物、第6の本発明による抗炎症剤組成物ならびに第7の本発明による抗ウィルス剤組成物は、それぞれ、その有効成分であるRS−K3574物質を、製薬学的に許容できる常用の固体または液体担体と混合してなる組成物の形であることができる。
さらに、第1の本発明の生理活性物質RS−K3574は、抗リウマチ薬、抗悪疫質剤、免疫抑制または免疫活性化物質、抗痴ほう薬、抗心筋症薬、抗肥満薬または抗糖尿病薬としても利用できることが期待される。
さらに、第8の本発明においては、生理活性物質RS−K3574から成る、癌細胞に対する殺細胞性抗腫瘍剤または抗癌剤または癌治療用放射線の癌細胞アポトーシス誘発作用の増強剤が提供される。第8の本発明に言われる殺細胞性抗腫瘍剤または抗癌剤とは、TNF、TNF様アポトーシス誘導物質、アドリアマイシンおよびその他の臨床用抗癌剤を指す。
また、第9の本発明においては、生理活性物質RS−K3574から成る、癌細胞内のタンパク質生合成の阻害剤が提供される。
さらに、第10の本発明においては、生理活性物質RS−K3574から成る、NF−B転写因子の活性化に対する阻害剤が提供される。
なお、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)と0.5% Tween80(界面活性剤)を含む水にRS−K3574物質を溶解した水溶液を、マウス1匹あたり2mgまたはそれ以上のRS−K3574物質投与量でマウス(4週齢、メス、平均体重21.6g、1群5匹)に尾静脈から静脈注射したが、投与後の2週間目に全例が生存して異常が認められなかった。1mg〜5000mgの投与量でRS−K3574物質をヒト成人(体重60kg)に静脈内投与しても、急性毒性の所見はないと予想される。ヒトに対するRS−K3574物質の投与量は、治療すべき病気の種類、症状、その他の因子に応じて、専門家により予備試験を通じて適当な量に調整することができる。
本発明による抗腫瘍剤組成物、抗炎症剤組成物または抗ウイルス剤組成物のような医薬組成物においては、有効成分としてのRS−K3574物質を、製薬学的に許容できる常用の液状担体、例えばエタノール、含水エタノール、水、生理食塩水、もしくは固体担体、例えば結晶セルロース、でん粉等と混和してRS−K3574物質を含有する組成物の形にすることができる。
本発明により医薬組成物で用いる有効成分であるRS−K3574物質は、経口的に投与できる。あるいは静脈内または筋肉内または皮下内注射、もしくは腹腔内または直腸内投与などにより非経口的にも投与することができる。
経口投与用の場合には、本発明による医薬組成物では、有効成分としてRS−K3574物質を、薬学的に許容できる慣用の固体または液体状の担体と混和して、その得られた混合物を散剤、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、シロップ剤等の形で製剤とすることができる。
本発明による医薬組成物を注射用に製剤する場合には、望ましい注射製剤の形態には、有効成分としてのRS−K3574物質を含む無菌の含水溶液あるいは無菌の凍結乾燥剤がある。注射製剤に用いる液体担体は例えば水、生理食塩水、エタノール、含水エタノール、グリセロール、プロピレングリコール、植物油などであるのが好ましい。
本発明による前記の如き医薬組成物に配合される有効成分としてのRS−K3574物質の割合は、剤形によっても異なるが、例えば、有効成分の含量割合は、投与単位物の重量の約1〜95%の範囲にあることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図はRS−K3574物質のメタノール溶液中の紫外線吸収スペクトルである。
第2図はRS−K3574物質のメタノール−HCl溶液中の紫外線吸収スペクトルである。
第3図はRS−K3574物質のメタノール溶液中−NaOHの紫外線吸収スペクトルである。
第4図はRS−K3574物質のKBr錠剤法で測定した赤外線吸収スペクトルである。
第5図はRS−K3574物質の重クロロホルム溶液(内部標準:テトラメチルシラン)にて500MHzで測定したプロトン核磁気共鳴スペクトルである。
第6図はRS−K3574物質の重クロロホルム溶液(内部標準:テトラメチルシラン)にて125MHzで測定した炭素13核磁気共鳴スペクトルである。
【発明を実施するための最良の形態】
次に実施例により、本発明の生理活性物質RS−K3574の製造例を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
実施例1 生理活性物質RS−K3574の製造
グルコース1%、ポリペプトン0.5%、酵母エキス0.3%、KHPO0.3%、MgSO・7HO 0.1%、を含む液体培地(pH無調整)を振盪フラスコ(500ml容)に200mlずつ分注し、常法により120℃で20分滅菌した。滅菌された該液体培地に対して、寒天斜面培地に培養したヒラタケ科カワキタケ属アラゲカワキタケ(Panusrudis)K−3574株(FERM BP−8265)の菌糸を接種した。その後に、液体培地中で、27℃で3日間静置培養した。その後に、27℃で2日間にわたり回転攪拌下に培養した。ここで得た培養液を種母培養液として次に用いた。
グルコース1%、ポリペプトン0.5%、酵母エキス0.3%、KHPO0.3%、MgSO・7HO 0.1%、を含む液体培地(pH無調整)を振盤フラスコ(500ml容)に200mlずつ分注し、常法により120℃で20分間滅菌した。その後、滅菌された液体培地に、上記で得た種母培養液をそれぞれ7mlずつ接種し、27℃で15日間静置培養した。
このようにして得られた培養液10L(リットル)をろ過し、培養ろ液を分離した。培養ろ液を酢酸エチルで抽出し、その酢酸エチル層を減圧下に濃縮乾固した。得られた残渣をクロロホルムに溶かした溶液を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(80g)に付し、クロロホルム−メタノール(100:0〜50:1、容量比)、により段階的に溶出した。クロロホルム−メタノール(200:1〜100:1)で溶出された画分にRS−K3574物質が含まれた。RS−K3574物質を含む画分を集めて濃縮乾固して粗精製物1.17gを得た。この粗精製物を、さらにクロロホルム−メタノール−水(5:6:4)からなる液相を用いた上昇法による液々遠心分配クロマトグラフィー(250mL容)に付し、溶出液を10ml−画分で集めて、それによって不要な成分と所要な成分とを分離した。RS−K3574物質を含む画分は10mlづつ分画した時に、24〜27番目の画分として得られた。これら活性画分を、減圧下で濃縮乾固して、本発明のRS−K3574物質の精製品の716mgを得た。
【産業上の利用可能性】
前記に説明したとおり、本発明によって新規な生理活性物質、RS−K3574物質が提供された。このRS−K3574物質は、癌細胞または免疫細胞の細胞増殖またはアポトーシス、あるいは炎症の生起に関与するところの、細胞内酵素であるユビキチン活性化酵素を阻害する活性をもつのみならず、抗腫瘍活性、抗癌活性および抗炎症活性をもち、また細胞内のタンパク質の生合成を阻害する活性を示す。本発明によるRS−K3574物質は、抗腫瘍剤、抗癌剤、抗炎症剤あるいは抗ウイルス剤として有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
このRS−K3574物質は次式(I)

〔式中、2位、3位、4位および7位の立体配置はそれぞれS、S、R、Rである〕で表される化合物であり、しかも比旋光度〔α〕26−62.3°(c1.0,ジクロロメタン)を示す無色粘稠な油状物質であって、またシリカゲル薄層クロマトグラフィーでクロロホルム−メタノール(10:1)よりなる展開溶媒で展開して測定した場合に本RS−K3574物質は0.39のRf値を示し、さらに本RS−K3574物質のメタノール溶液中で測定した紫外線吸収スペクトルにおける主なピークはλmaxnm(ε);209(8300)および241(5700)にあり;赤外線吸収スペクトル(KBr錠剤法)における主な吸収帯はνmax(cm−1);3300〜3500、2979、2911、1681、1446、1379、1043、995、850、817、570にあり;重クロロホルムCDCl溶液(内部標準としてテトラメチルシランを使用)中で500MHzで測定したRS−K3574物質のプロトン核磁気共鳴(H−NMR)スペクトルにおいて、δ値(ppm)は3.47(dd,J=3.9Hz,J=1.0Hz)、3.81(ddd,J=3.9Hz,J=1.2Hz,J=2.5Hz)、4.69(br s,J=1.2Hz,J=5.0Hz,J=1.0Hz)、6.71(ddd,J=5.0Hz,J=1.2Hz,J=2.5Hz)、5.29(br d,J=9.0Hz,J=1.2Hz)、5.02(dt,J=9.0Hz,J=1.2Hz,J=1.2Hz)、1.72(d,J=1.2Hz)、1.72(d,J=1.2Hz)であり、また重クロロホルムCDCl溶液(内部標準としてテトラメチルシランを使用)中で125MHzで測定したRS−K3574物質の炭素13核磁気共鳴(13C−NMR)スペクトルにおいて、δ値(ppm)は、194.6(s)、53.9(d)、57.7(d)、63.2(d)、137.8(d)、139.0(s)、65.3(s)、123.6(d)、138.4(s)、25.8(q)、18.4(q)であることを特徴とする、生理活性物質RS−K3574。
【請求項2】
請求の範囲1に記載の生理活性物質RS−K3574を生産するアラゲカワキタケ(Panusrudis)を栄養培地に培養し、その得られた培養物から生理活性物質RS−K3574を採取することを特徴とする、請求の範囲1に記載の生理活性物質RS−K3574の製造法。
【請求項3】
生理活性物質RS−K3574の生産菌として、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターにブダペスト条約の規約下にFERM BP−8265の寄託番号で寄託されてあるアラゲカワキタケ(Panusrudis)・K−3574株を培養する、請求の範囲1に記載の方法。
【請求項4】
請求の範囲1に記載の生理活性物質RS−K3574から成る、ユビキチン活性化酵素の阻害剤。
【請求項5】
請求の範囲1に記載の生理活性物質RS−K3574から成る、細胞内タンパク質のユビキチン化の阻害剤。
【請求項6】
請求の範囲1に記載の生理活性物質RS−K3574を有効成分として含有し、これに混合された製薬学的に許容できる担体を含有する抗腫瘍剤組成物。
【請求項7】
請求の範囲1に記載の生理活性物質RS−K3574を有効成分として含有し、これに混合された製薬学的に許容できる担体を含有する抗炎症剤組成物。
【請求項8】
請求の範囲1に記載の生理活性物質RS−K3574を有効成分として含有し、これに混合された製薬学的に許容できる担体を含有する抗ウィルス剤組成物。
【請求項9】
請求の範囲1に記載の生理活性物質RS−K3574から成る、癌細胞に対する殺細胞性抗腫瘍剤または抗癌剤または癌治療用放射線の癌細胞アポトーシス誘発作用の増強剤。
【請求項10】
請求の範囲1に記載の生理活性物質RS−K3574から成る、癌細胞内のタンパク質生合成の阻害剤。
【請求項11】
請求の範囲1に記載の生理活性物質RS−K3574から成る、NF−B転写因子の活性化に対する阻害剤。

【国際公開番号】WO2004/065607
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−567132(P2004−567132)
【国際出願番号】PCT/JP2003/000532
【国際出願日】平成15年1月22日(2003.1.22)
【出願人】(000173913)財団法人微生物化学研究会 (29)
【Fターム(参考)】