説明

新規C型肝炎ウイルス阻害剤

【課題】HCVの複製またはHCVタンパク質の翻訳に影響を及ぼす薬剤であるHCV阻害剤を提供する。
【解決手段】以下に示す式(I)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかの化合物を含むC型肝炎ウイルス阻害剤。(式中、R,Rは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基等から選択される任意の基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なC型肝炎ウイルス阻害剤に関する。より詳しくは、C型肝炎ウイルスの感染、細胞への侵入、複製又はC型肝炎ウイルスタンパク質の翻訳、成熟、ウイルス粒子の組み立て、放出過程に影響を及ぼす各種物質を探索して検出された新規C型肝炎ウイルス阻害剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎ウイルス(HCV:hepatitis C virus)は、一本鎖RNAウイルスで、フラビウイルス科ヘパシウイルス属に属する。 HCV1〜6までの6種の遺伝子型に分類される。さらにそれらの遺伝子型がいくつかのサブタイプに分類される(Hepatology, 10: p1321-1324 (1994); Hepatology, 42: p962-973 (2005))。現在では、HCVの複数の遺伝子型についてゲノム全長の塩基配列が決定されている(Science,244: p359-362 (1989); J.Med.Virol., p334-339 (1992); J.Gen Virol.,73: p673-679 (1992); Hepatology, 16, 293-299 (1992))。
【0003】
HCVは、約9.4kbの一本鎖RNAをゲノムとする。ゲノムの両端に存在する非翻訳領域は二次構造にとみ、5’末端には通常のmRNAで観察されるキャップ構造がなく、そのかわりにキャップ非依存的にrRNAがRNAの翻訳を開始可能なIRES(Internal Ribosomal Entry Site)が存在する。ウイルスRNAから約3000アミノ酸からなる巨大な前駆体タンパク質が翻訳され、宿主細胞由来のタンパク質分解酵素によりウイルスの粒子を構成するコアタンパク質と2つのエンベロープタンパク質(E1、E2)に、また粒子には取り込まれないが、複製に必要な非構造タンパク質(NSタンパク質)は、NS2とNS3が有するタンパク質分解酵素によって各タンパク質に切断される。
【0004】
HAART(Highly active antiretroviral therapy)の導入によって、エイズ患者の予後が大幅に改善された結果、わが国を含む先進国では、ヒト免疫不全ウイルス(HIV:Human Immunodeficiency Virus)感染者においてもエイズ以外の病因で死亡するケースが急増している。特に共感染したHCVによる肝障害・肝不全の合併が死因の重要な部分をしめるようになっている。特に、非加熱凝固因子製剤によるHIV感染者では、HIVとHCVの共感染は97%にもおよび、HCV感染症の治療はポストHAART時代の医療課題として重要なものとなっている。現在、HCV感染症に対して、インターフェロンとリバビリン(Ribavirin(1-β-D-ribofuranosyl-1H-1,2,4-tri-azole-3-carboxamide))の併用療法が一般的であるが、患者全体の50%にしか有効ではなく、また、血球減少症・溶血性貧血など重篤な副作用をおこすことが知られている。
【0005】
これまではHCVにはウイルス培養系と実験用の感染小動物が存在しないことがHCVの基礎研究の妨げになってきた。KolyhalovらはHCVと同じフラビウイルス科に属するKunjinウイルスのレプリコンシステムを報告した(非特許文献1)。このシステムはKunjinウイルスの構造領域を取り除き、3'utrを脳心筋炎ウイルス(encephalomyocarditis virus:EMCV)のIRESとネオマイシン耐性遺伝子に置き換えたものであり、この遺伝子構築から作られたRNAを培養細胞に導入し、ネオマイシンで選択培養することにより、KunjinウイルスRNAの持続的な複製とタンパク質発現が観察されるという実験系であった。そして、1999年、LohamannらによりHCVのレプリコンシステムが報告された(非特許文献2)。このシステムはHCVの構造領域の一部(NS2)を取り除き、その部分にEMCVのIRESとネオマイシン耐性遺伝子を挿入したものである。この構造物を鋳型として試験管内でRNAを合成し、Huh7細胞に導入した後にネオマイシン選択培地で選択培養し、この遺伝子構造から作られたRNAを培養細胞に導入し、ネオマイシンで選択培養することにより、複製したHCVレプリコンRNAからネオマイシン耐性遺伝子が発現され、その遺伝子の働きでレプリコンが複製している細胞のみが生存可能となり、増殖したコロニーを形成する。レプリコン複製細胞では、HCVレプリコンRNAが非常に高レベルで複製しており、複製しているRNAや発現しているHCVタンパク質を持続して安定して検出することができる。
【0006】
しかし、それまではレプリコンとして増殖が報告されたHCV株は、全て遺伝子型1の株であった。さらにこれらの株は培養細胞内での増殖時にその複製効率を増強する適応変異を持ち、その適応変異の多くは患者血清から分離されたHCV株では認められない変異であった。また、その適応範囲を感染性クローンに導入し、そのRNAをチンパンジーの肝臓に接種したところ、感染性が失われていることが明らかとなった。
【0007】
遺伝子型が異なるHCVでは、コードされるウイルスタンパク質にも違いがあることが報告されており、遺伝子型1bのHCV由来のサブゲノムレプリコンの解析だけでは、HCVの複製機構を十分に解明することは難しいと考えられる。さらに、インターフェロンの治療効果がHCVの遺伝子型によって異なることから、遺伝子型1bのHCVのサブゲノムレプリコンを含むHCV複製系のみを用いて様々なタイプのHCVに効果を及ぼす抗HCV薬を開発することは特に難しいと考えられる。したがって、数多くの遺伝子型のHCVのレプリコンを作製して、HCV複製機構、及び抗HCV薬の研究を行う必要があると考えられる。
【0008】
その後、他の遺伝子型のHCV株の遺伝子を用いたHCVレプリコンが各種報告されている。特に感染性クローンのRNAをT7RNAポリメラーゼを用いて合成するHCVレプリコンについて報告がある(非特許文献3、4、特許文献1)。しかし、従来のレプリコンシステムでは、HCV感染後の後期過程に作用する阻害剤であれば検出することが可能であったが、増殖環の全過程から選択される何れかの過程を標的とするHCVの阻害剤・治療剤を検出するには不十分であった。そこで、増殖環の全過程の何れかの過程を標的とする新たなHCV阻害剤の開発が望まれていた。
【非特許文献1】J. Virol., 71, 1497-1505 (1997)
【非特許文献2】Science 285, p.110-113 (1999)
【非特許文献3】Nature Medicine 11, Number 7, July p.791-796 (2005)
【非特許文献4】ウイルス第55巻第2号 pp.287-296 (2005)
【特許文献1】国際公開WO2005/028652号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規なHCV阻害剤を提供することを課題とする。より詳しくは、HCVの複製又はHCVタンパク質の翻訳に影響を及ぼす薬剤であるHCV阻害剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ヒト肝癌由来Huh7細胞、試験検体及び感染性HCVを接触させたのちにHCVを測定し、HCVの複製又はHCVタンパク質の翻訳などに影響を及ぼす各物質を探索することにより、新規なHCV阻害剤を検出することができた。
【0011】
すなわち、本発明は以下よりなる。
1.以下の1)〜4)で示されるいずれかの化合物からなる、宿主細胞においてHCVの産生を抑制しうるHCV阻害剤:
1)以下に示す一般式(I)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである;
式(I):
【化1】


(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
2)以下に示す一般式(II)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである;
式(II):
【化2】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
3)以下に示す一般式(III)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである;
式(III):
【化3】

(式中、Rは、式(IV)の(a)又は(b)から選択される。式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
式(IV):
【化4】

4)以下に示す一般式(V)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである;
式(V):
【化5】

(式中、Rは、式(VI)の(a)又は(b)から選択される。式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
式(VI):
【化6】

(式中、R10は、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
2.一般式(I)で示される化合物が、以下の式(VII)又は式(VIII)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである、前項1に記載のHCV阻害剤。
式(VII):
【化7】


式(VIII):
【化8】


3.一般式(II)で示される化合物が、以下の式(IX)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである、前項1に記載のHCV阻害剤。
式(IX):
【化9】


4.一般式(III)で示される化合物が、以下の式(X)又は式(XI)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである、前項1に記載のHCV阻害剤。
式(X):
【化10】

式(XI):
【化11】

5.一般式(V)で示される化合物が、以下の式(XII)又は式(XIII)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである、前項1に記載のHCV阻害剤。
式(XII):
【化12】

式(XIII):
【化13】


6.前項1〜5に示されるいずれかの化合物からなるHCV阻害剤を有効量含み、さらに、薬学的に許容し得る担体を含んでなる医薬組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のHCV阻害剤は、HCV増殖に対する高い阻害活性(IC50=〜70nM、CC50=〜35μM;SI(selective index)=〜500)を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、詳細に本発明の内容を説明する。
(HCV阻害剤)
本発明は、宿主細胞において、HCVの産生を抑制しうるHCV阻害剤であり、以下の1.〜5.で示される化合物から選択されるいずれかの化合物で示すことができる。本発明において、宿主細胞とは、HCVが感染しうる細胞をいい、例えば肝細胞が挙げられる。この宿主細胞は、in vitro又はin vivoの系は、いずれであっても良い。HCVの産生を抑制しうるとは、例えば後述するスクリーニング方法により、細胞におけるHCVの産生、具体的にはコアタンパク質の産生を抑制しうる系でアッセイすることにより、選別することができる。
本発明で化合物としては、具体的に構造式で示す化合物の他、L体、D体又はラセミ体が挙げられ、好ましくはL体が挙げられる。また本発明の化合物をさらに化学修飾して、別の化合物に誘導化することも可能である。
【0014】
1.以下に示す一般式(I)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかの化合物である。
式(I):
【化14】


(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
【0015】
2.以下に示す一般式(II)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかの化合物である。
式(II):
【化15】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
【0016】
4.以下に示す一般式(III)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかの化合物である。
式(III):
【化16】

(式中、Rは、式(IV)の(a)又は(b)から選択される。式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
【0017】
式(IV):
【化17】

【0018】
5.HCV阻害剤が、以下に示す一般式(V)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかの化合物である。
式(V):
【化18】

(式中、Rは、式(VI)の(a)又は(b)から選択される。式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
【0019】
式(VI):
【化19】

(式中、R10は、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
【0020】
上記において、「置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基」における置換基としては、低級アルキル基、低級アルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アミノ基、置換 アミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、カルバモイル基等が挙げられる。
【0021】
「低級アルキル」とは、炭素数1〜8個の直鎖状又は分岐状のアルキル基を意味し、具体的にはメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ぺンチル、イソぺンチル、ネオぺンチル、tert−ぺンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル等が挙げられる。
【0022】
「低級アルコキシ」とは、炭素数1〜6個の直鎖状又は分岐状のアルコキシ基を意味し、具体的にはメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ、n−ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、n−ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシが挙げられる。
【0023】
「アリール」としては、フェニル、ナフチル又は多環芳香族炭化水素基(フェナンスリル等)が挙げられる。
【0024】
「ヘテロアリール」としては、N、O、S、からなる群から選択されるヘテロ原子を1〜4個含む5〜6員の芳香環基(例えば、フラン、チオフェン、ピロール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、トリアジン)であるが、好ましくはN原子を含む環基(ピリジン、ピラジン等)を挙げることができる。
【0025】
「アラルキル」とは、上記の低級アルキル基に上記アリールが置換 して形成される基であり、ベンジル、メチルベンジル、ナフチルメチルが例示される。
【0026】
「アラルキルオキシカルボニル」とは、カルボニル基に上記のアラルキルがO原子を介して結合して形成される基であり、ベンジルオキシカルボニル等が例示される。
【0027】
「ハロゲン」としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
【0028】
「低級アルキルカルボニル」、「アリールカルボニル」又は「ヘテロアリールカルボニル」とは、それぞれ、カルボニル基に上記の低級アルキル、アリール又はヘテロアリールが置換 して形成される基である。アセチル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル等が例示される
【0029】
「低級アルキルスルホニル」、「アリールスルホニル」又は「ヘテロアリールスルホニル」とは、それぞれ、スルホニル基に上記の低級アルキル、アリール又はヘテロアリールが置換 して形成される基である。
【0030】
「脂肪族ヘテロ環」とは、N、O及びSからなる群から選択されるヘテロ原子を1〜4個含む5〜6員の脂肪族環であり、ピロリジニル、チアゾリジニル、オキサゾリジニル、イミダゾリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル、チオモルホリニル、ピロリル、チアゾリル等が例示される。
【0031】
本発明のHCV阻害剤としては、具体的には、以下の化合物1A〜4B(式VII〜XIII)で示される化合物が特に好適である。
【0032】
【化20】

【0033】
本発明において、薬学上許容される塩とは、以下が挙げられる。
塩基性付加塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;例えばカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;例えばアンモニウム塩;例えばトリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩;ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩;たとえばN,N−ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩;例えばピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩;例えばテトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩;リジン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0034】
酸付加塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、りん酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、酒石酸塩、りんご酸塩、くえん酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩;例えばメタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;例えばアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸等を挙げることができる。
【0035】
(HCV阻害剤を含む医薬組成物)
本発明は、上記に示すいずれかの化合物で示されるHCV阻害剤を有効量含み、さらに、薬学的に許容し得る担体を含んでなる医薬組成物も含まれる。かかる医薬組成物は、経口的又は非経口的に投与することができる。経口投与による場合、本発明化合物は通常の製剤、例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤等の固形剤;水剤;油性懸濁剤;又はシロップ剤もしくはエリキシル剤等の液剤のいずれかの剤形としても用いることができる。非経口投与による場合、本発明化合物は、水性又は油性懸濁注射剤、点鼻液として用いることができる。その調製に際しては、慣用の賦形剤、結合剤、滑沢剤、水性溶剤、油性溶剤、乳化剤、懸濁化剤、保存剤、安定剤等を任意に用いることができる。
【0036】
(本発明のHCV阻害剤のスクリーニング方法)
本発明に係るHCV阻害剤をスクリーニングは、ヒト肝癌由来Huh7細胞、試験検体及び感染性HCVを接触させたのち、HCVを測定することにより行うことができる。
【0037】
感染性HCVは、PNAS Vol.102, no.26 p.9294-9299 (2005)に記載の方法に従い、RNA PolIプロモーター/ターミネーター系を利用したJFH1株(genotype 2a)のcDNA発現プラスミド導入細胞株(Huh7.5.1/JFH1 zeo R細胞)を用いて、図1に示す感染性HCVレプリコンゲノムから作製することができる。HCVストック液は、分注した後、−80℃で保存する。
【0038】
より具体的には、以下のようにして行うことができる。
1)ヒト肝癌由来Huh7.5.1細胞を、播種する工程;
2)試験検体を上記播種した細胞を含む培養液に加える工程;
3)さらに感染性HCVを播種する工程;
4)37±1℃で加温する工程;
5)培養上清を採取し、HCVを測定する工程。
【0039】
上記スクリーニング方法について、さらに詳しく説明する。
1)上記ヒト肝癌由来Huh7.5.1細胞を、該細胞培養用培地に懸濁し、例えば96穴のマイクロプレートなどのスクリーニング用容器に播種する。
2)スクリーニング候補化合物を、細胞を含むスクリーニング用容器に加える。
3)さらに上記感染性HCVを播種し、スクリーニング候補化合物と感染性HCVを含む複製細胞を培養し、得られる培養物中の感染性HCVを検出する。
4)感染性HCVを細胞中で培養するために、3〜10日間、37±1℃で加温することができる。
5)上記培養後、培養上清を採取し、HCVを測定することにより本発明のアッセイを行うことができる。HCVの測定は、HCVの複製の促進又は抑制を確認しうる方法であれば良く、特に限定されるものではないが、例えば市販のキットを用いてHCVコアタンパクの産生量をELISA法などにより確認することができる。
【0040】
本発明のHCV阻害剤は、上記のスクリーニング方法に加えて、候補化合物のHCVの複製の促進又は抑制に及ぼす影響をより確実に確認するために、非特異作用を排除するために並行して細胞毒性試験を行い、毒性の低いものを選定して得た。HCVの増殖を抑制する物質としては、例えば、直接的若しくは間接的にHCVの増殖に影響を及ぼす有機化合物、あるいはHCVゲノム若しくはその相補鎖の標的配列にハイブリダイズすることによりHCVの増殖若しくはHCVタンパク質の翻訳に直接的又は間接的に影響を及ぼすアンチセンスオリゴヌクレオチド等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0042】
(実施例及び比較例)
Enamine社(ナミキ商事)が保有する化合物について、本発明のHCV阻害剤のスクリーニング方法に従い、スクリーニングを行い、以下の化合物1A〜4B(式VII〜XIII)で示される化合物及び1C〜3C(式XIV〜XVIII)で示される各化合物を選定した。
【化21】

【0043】
【化22】

【0044】
(実験例1)HCV阻害効果及び細胞毒性試験結果
上記で得られた各化合物(実施例1〜7、比較例1〜5)及びリバビリン(Ribavirin (1-β-D-ribofuranosyl-1H-1,2,4-tri-azole-3-carboxamide))についての、以下に示す方法にて抗HCV作用、毒性、並びにセレクティブインデクス(SI)を測定した。結果を表1に示した。
【0045】
1)抗HCV作用
Huh7.5.1細胞(継代数が第43回目までのものを使用)を、10%FCSを含むDMEM培地に1×104cells/100μl/ウェルとなるように懸濁したものを96ウェルのマイクロプレートに播種し、1日培養後に培地を交換した。この細胞に、各試験化合物を検体として5μMとなるように添加した。リバビリンについても同様の濃度で行った。15分間静置した後に、上記1)により得た感染性HCV(HCVコアタンパク質量として、約0.2fmol/ウェル)をHuh7.5.1細胞に播種して感染させ、37℃、5%CO2にて5〜6日間培養した。培養後、上清中のHCVコアタンパク質量をオーソHCV抗原ELISAテストにより定量し、各化合物のHCV増殖阻害効果を評価した。該HCV増殖阻害効果から、IC50値を求めた。IC50値は、ウイルスの増殖を50%抑制する薬剤の濃度で表す。
表1において、(−)と示しているのは、IC50値及び細胞毒性の結果から判断したものである。
【0046】
2)細胞毒性試験
上記の各化合物について、テトラゾリウム塩WST-8の生成したホルマザンの吸光度を直接測定するWST法により、Huh7.5.1細胞に対する細胞毒性試験を行った。該細胞毒性試験結果から、CC50値を求めた。CC50値は、細胞が50%傷害を受ける薬剤の濃度で表す。
【0047】
3)SI
IC50値は抗ウイルス効果を発揮する薬剤濃度で、CC50値はその薬剤が安全に使える濃度である。CC50値をIC50値で割った値をSIといい、その値が大きいほど、細胞を傷つけずにウイルスの増殖のみを抑える効果が高いとみなせる。
【0048】
4)結果
【表1】

【0049】
上記の試験結果を表1に示した。本発明のHCV阻害剤のうち、上記各実施例に記載の各化合物は、IC50はリバビリンに比べて低値であった。また、CC50(毒性)を測定したものについては、その値は同等又はやや低い値を示した。SI値は、リバビリンでは2.0であったのに対し、実施例1、3、4及び6に記載の化合物については、いずれも30以上の値を示し、HCV阻害剤として優れていることが確認された。特に実施例1に記載の化合物は、HCV増殖に対する高い阻害活性(IC50=〜70nM、CC50=〜35μM;SI=〜500)を示し、抗HCV阻害剤として特に優れていることが考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上詳述したように、本発明の化合物は、優れた抗HCV作用を示すことが確認された。本発明のHCV阻害剤を構成する化合物は、薬学上許容しうる担体とともに医薬用組成物としての利用が可能である他、より優れた効果の抗HCV阻害剤を選別するためのリード化合物としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明におけるスクリーニング方法に使用される感染性HCVのレプリコンゲノムの構造及びプラスミドを示す図である。
【図2】本発明におけるスクリーニング方法に使用されるアッセイ方法を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
a(図2) スクリーニングしようとする試験検体。例えば低分子化合物ライブラリー及び他の試験検体(0.5μM)
b(図2) Huh7.5.1/pHH-JFH1 zeo R細胞の培養上清

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の1)〜4)で示されるいずれかの化合物からなる、宿主細胞においてC型肝炎ウイルスの産生を抑制しうるC型肝炎ウイルス阻害剤:
1)以下に示す一般式(I)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである;
式(I):
【化1】


(式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
2)以下に示す一般式(II)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである;
式(II):
【化2】

(式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
3)以下に示す一般式(III)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである;
式(III):
【化3】

(式中、Rは、式(IV)の(a)又は(b)から選択される。式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
式(IV):
【化4】

4)以下に示す一般式(V)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである;
式(V):
【化5】

(式中、Rは、式(VI)の(a)又は(b)から選択される。式中、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
式(VI):
【化6】

(式中、R10は、水素原子、ハロゲン原子、直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基及びアラルキルオキシ基から選択される任意の基を表す。)
【請求項2】
一般式(I)で示される化合物が、以下の式(VII)又は式(VIII)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである、請求項1に記載のC型肝炎ウイルス阻害剤。
式(VII):
【化7】


式(VIII):
【化8】

【請求項3】
一般式(II)で示される化合物が、以下の式(IX)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである、請求項1に記載のC型肝炎ウイルス阻害剤。
式(IX):
【化9】

【請求項4】
一般式(III)で示される化合物が、以下の式(X)又は式(XI)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである、請求項1に記載のC型肝炎ウイルス阻害剤。
式(X):
【化10】

式(XI):
【化11】

【請求項5】
一般式(V)で示される化合物が、以下の式(XII)又は式(XIII)で示される化合物、その薬学上許容される塩及び溶媒和物から選択されるいずれかである、請求項1に記載のC型肝炎ウイルス阻害剤。
式(XII):
【化12】

式(XIII):
【化13】

【請求項6】
請求項1〜5に示されるいずれかの化合物からなるC型肝炎ウイルス阻害剤を有効量含み、さらに、薬学的に許容し得る担体を含んでなる医薬組成物。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−184403(P2008−184403A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18145(P2007−18145)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】