説明

方向性電磁鋼板の製造方法

【課題】鉄損特性に優れる方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案する。
【解決手段】方向性電磁鋼板用熱延鋼板を、1回あるいは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延で最終板厚の冷延鋼板とし、その後、一次再結晶焼鈍し、二次再結晶焼鈍する一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、最終冷間圧延における1パス以上を、ロール周方向に対して2°以上90°未満傾斜した研磨目と、上記研磨目とは逆向きに0°以上90°未満傾斜した研磨目とからなるクロス研磨目を有するワークロールを用いて圧延することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、主に変圧器の鉄心材料として使用されており、磁気特性、とくに鉄損特性に優れる(鉄損が低い)ことが必要とされている。
【0003】
一般に、方向性電磁鋼板の鉄損特性は、製品の表面粗さが小さいほど、製品の結晶方位のゴス方位への集積度が高いほど、また、製品の結晶粒径が小さいほど、良好となることが知られている。そして、上記特性は、製品板厚(最終板厚)まで冷間圧延する最終冷間圧延におけるワークロールによって大きな影響を受けることも知られている。
【0004】
たとえば、最終冷間圧延におけるワークロール径が小さいと、ワークロールと被圧延材との接触面圧が上昇し、圧延摩擦係数も大きくなるため、被圧延材が圧延によって受ける塑性変形中に占める剪断変形分が増加する。その結果、一次再結晶焼鈍後の集合組織中のゴス方位粒の数が増加するため、二次再結晶焼鈍で得られる集合組織のゴス方位への集積度が高まるとともに、製品板の結晶粒径も小さくなる。
【0005】
また、最終冷間圧延におけるワークロールの表面粗さが小さいと、圧延時にロールと被圧延材の間に取り込まれる圧延油の量が減少して油膜厚が薄くなるため、ロール表面粗さが被圧延材の表面に転写され易くなり、鋼板表面の粗さも小さくなる。
【0006】
上記のような理由から、方向性電磁鋼板の最終冷間圧延は、一般的に、直径が80mmφ程度で鏡面研磨した小径ワークロールを具備したゼンジミアミルやクラスターミルを用いて行われている。しかし、ゼンジミアミルやクラスターミルは、圧延速度が低く、かつ、リバース圧延であるため、生産性が低く、製造コストが高いという問題点がある。
【0007】
そこで、生産性を高め、製造コストの低減を図るため、最終冷間圧延を、大径ロールのタンデム圧延機を用いて行うことが試みられている。しかし、大径ロールによるタンデム圧延では、圧延速度が大きく、生産性が向上する反面、ロールと被圧延材(鋼板)間に取り込まれる圧延油量が増して、圧延摩擦係数が減少し、その結果、圧延で受ける塑性変形における剪断変形分が減少したり、オイルピットと呼ばれる鋼板表面の凹凸が発生して表面粗さが大きくなったりするため、良好な鉄損特性が得られないという問題点を抱えている。
【0008】
タンデム圧延法における上記問題点に対して、幾つかの改善技術が提案されている。例えば、特許文献1には、2回冷延法によって方向性電磁鋼板を製造するに際して、2回目の冷間圧延における少なくとも第1スタンドを含む前段において、ロール周方向に延びるスクラッチ疵を付与したロール軸方向の表面粗さRaが0.3μm以上のスクラッチダルロールを用いて冷間圧延することにより、最終冷延板の表面粗さを低減して磁気特性を改善する技術が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、2回冷延法によって方向性電磁鋼板を製造するに際して、2回目の冷間圧延における第1スタンドに、表面粗さRaが1.0〜3.0μmのワークロールを用い、第2スタンド以降の1スタンド以上に、表面粗さRaが0.05〜0.5μmの傾斜研磨目ワークロールを用いて圧延することによって表面粗さを低減し、鉄損特性を改善する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平02−175010号公報
【特許文献2】特開平11−199933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の圧延法では、表面粗さの低減には一定の効果が認められるものの、圧延時の摩擦係数を高める効果は小さいため、鉄損改善効果も不十分なレベルでしかない。また、特許文献2の圧延法では、表面粗さを低減し、圧延時の摩擦係数を高めることについては一定の効果が認められるものの、鉄損改善効果は、依然として不十分なレベルでしかない。さらに、特許文献2の圧延法では、ワークロール研磨目の摩耗にともなって摩擦係数が低下し、鉄損改善効果が急激に減少するため、頻繁にロール交換をする必要があり、ロール原単位が高いという問題点があった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、従来技術が抱える上記問題点を解決し、鉄損特性に優れる方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、上記課題を解決するために、圧延方法の違いや圧延ロールの粗さ特性が鉄損特性に及ぼす影響について鋭意検討を重ねた。その結果、タンデム式冷間圧延機等で行う多パス圧延の少なくとも1パス以上において、クロス研磨目を付与したワークロールを用いて圧延することにより、圧延摩擦係数を高め、しかも、鋼板表面粗さを低減することができるので、方向性電磁鋼板の鉄損特性を大きく向上することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、方向性電磁鋼板用熱延鋼板を、1回あるいは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延で最終板厚の冷延鋼板とし、その後、一次再結晶焼鈍し、二次再結晶焼鈍する一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、最終冷間圧延における1パス以上を、ロール周方向に対して2°以上90°未満傾斜した研磨目と、上記研磨目とは逆向きに0°以上90°未満傾斜した研磨目とからなるクロス研磨目を有するワークロールを用いて圧延することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法である。
【0015】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記ワークロールとして、ロール周方向に対して10°以上90°未満傾斜した研磨目と、上記研磨目とは逆向きに0°以上90°未満傾斜した研磨目とからなるクロス研磨目を有するワークロールを用いることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法における上記ワークロールの表面粗さは、算術平均粗さRaが0.05〜1.5μmであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記最終冷間圧延を、タンデム式圧延機を用いて行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、クロス研磨目を付与したワークロールを用いて最終冷間圧延を行うようにしたので、従来技術と比べ、圧延摩擦係数を大きくすることができ、しかも、圧延後の鋼板表面ひいては製品表面の粗さが低減することができるので、方向性電磁鋼板の鉄損特性を大きく改善することができる。また、本発明によれば、最終冷間圧延を、タンデム式圧延機を用いて行うことができるので、鉄損特性の向上に加えて、生産性の向上、製造コストの低減にも大いに寄与することができる。また、本発明のクロス研磨目を付与したワークロールは、研磨目の摩耗にともなう摩擦係数の低下が小さいので、ロール原単位を低減でき、ひいては生産性の向上や製造コストの低減に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】従来の冷間圧延ロールの研磨目方向を説明する図である。
【図2】特許文献2に開示された傾斜研磨目ロールを説明する図である。
【図3】本発明のクロス研磨目ロールを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、方向性電磁鋼板用熱延鋼板を、1回あるいは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚の冷延板と、その後、一次再結晶焼鈍し、二次再結晶焼鈍する一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、最終板厚とする冷間圧延(最終冷間圧延)における1パス以上を、ロール周方向に対して2°以上90°未満傾斜した研磨目と、上記研磨目とは逆向きに0°以上90°未満傾斜した研磨目とからなるクロス研磨目を有するワークロールを用いて圧延することにより、鉄損特性に優れる方向性電磁鋼板を製造する技術である。
【0021】
ここで、本発明の方向性電磁鋼板の製造に用いる素材としての熱延鋼板は、方向性電磁鋼板用として従来公知の成分組成を有する鋼素材(スラブ)を、通常公知の条件で熱間圧延したものであればいずれの鋼種のものでもよく、したがって、インヒビター成分の添加有無や種類に関係なく、本発明に用いることができる。たとえば、インヒビター成分を添加した成分系しては、S:0.01〜0.03mass%および/またはSe:0.01〜0.03mass%、Al:0.01〜0.04mass%、N:0.0050〜0.0200mass%の少なくともいずれかを含有するもの、また、インヒビター成分を含まない成分系しては、S:0.0050mass%未満、Se:0.0050mass%未満、Al:0.01mass%未満、N:0.0050mass%未満を含有するものであれば、好適に用いることができる。
【0022】
また、上記熱延鋼板は、必要に応じて熱延板焼鈍を施したものであってもよく、また、その焼鈍条件も通常公知の条件で施せばよく、特に制限はない。
【0023】
次いで、上記熱延鋼板は、必要に応じて酸洗等で脱スケール後、冷間圧延して最終板厚の冷延板とする。なお、この冷間圧延では、1回で最終板厚としてもよく、あるいは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延で最終板厚としてもよい。ここで、本発明では、最終板厚とする一次再結晶焼鈍直前の圧延を、最終冷間圧延と称するが、この最終冷間圧延における圧下率は50〜95%の範囲で行うのが一般的であり、本発明においても上記範囲で行うのが好ましい。
【0024】
上記冷間圧延で用いるワークロールには、一般に、摩擦係数を低減して圧延性を向上する観点から、図1に示したような、ロールの周方向に研磨目が存在するブライトロール(以降、「通常ロール」とも称する)が用いられている。しかし、上記通常ロールを用いて圧延した場合には、前述したように、被圧延材の表面粗さが大きくなると共に、圧延摩擦係数が減少することによって、二次再結晶組織におけるゴス方位への集積度が低下し、優れた鉄損特性を得ることができない。
【0025】
また、図2は、特許文献2に開示されている、ロール円周方向に対して45°の研磨目を付与した傾斜研磨目ロールを模式的に示したものである。しかし、この傾斜研磨目ロールを用いて圧延を行った場合には、ロールと被圧延材(鋼板)との間のロールバイトに取り込まれた圧延油を完全に排出することができないため、摩擦係数の上昇代が小さく、鉄損特性を改善するには不十分であった。また、研磨目の摩耗にともない、圧延油の排出はますます困難となるため、圧延量の増加とともに摩擦係数が低下し、鉄損改善効果も急激に小さくなってしまう。
【0026】
そこで、本発明では、最終冷間圧延における1パス以上を、ロール周方向に対して2°以上90°未満の傾斜角θで傾斜した研磨目と、上記研磨目とは逆向きに0°以上90°未満の傾斜角θで傾斜した研磨目とからなるクロス研磨目を有するワークロールを用いて行うこととした。このクロス研磨目を付与したワークロールを用いることで、ロールバイトに取り込まれた圧延油を十分に排出することが可能となるので、圧延摩擦係数を高め、かつ鋼板表面粗さを小さくすることができ、ひいては鉄損特性を確実に向上することができる。また、研磨目が多少摩耗しても、圧延油の排出が可能であるため、高い摩擦係数を長時間にわたって確保できるので、圧延量が増加しても、高い鉄損改善効果を維持することができる。
【0027】
図3は、本発明に係るクロス研磨目ロールの例を示したものであり、図3(a)は、上記傾斜角θと傾斜角θの絶対値が等しい場合、即ち、クロス研磨目がロール周方向に対して左右対称である場合、図3(b)は、傾斜角θと傾斜角θの絶対値が等しくない場合、即ち、クロス研磨目がロール周方向に対して左右非対称である場合である。
【0028】
ここで、本発明のクロス研磨目ロールにおける、一方の研磨目の傾斜角θは、ロールの周方向に対して2°以上90°未満であることが必要である。傾斜角θが2°未満では、製品の表面粗さを低減する効果が小さく、圧延時の摩擦係数を高める効果も小さいため、鉄損特性の改善効果が得られない。さらに、θを10°以上とすれば、圧延時の摩擦係数の増加効果がより高められ、鉄損特性を大きく向上することができる。したがって、θは好ましくは10°以上90°未満である。なお、上記θとθの関係は、図3に示したとおりである必要はなく、θとθが逆であってもよいことは勿論である。
【0029】
また、他方の研磨目の傾斜角θは、ロールの周方向に対して上記θとは逆向きの0°以上90°未満であることが必要である。上記傾斜角θの研磨目に加えて、この研磨目付与することにより、圧延油がロールバイト内に封じ込まれることなく排出されるので、圧延時の摩擦係数を確実に高めることができると共に、鋼板表面粗さをより小さくすることができる。
【0030】
また、上記最終冷間圧延に用いるワークロールは、その表面粗さが、JIS B0601(2001)で規定される算術平均粗さRaで0.05〜1.5μmの範囲であることが好ましい。Raが0.05μm未満では、クロス研磨目の効果が得られず、一方、1.5μm超えでは、ロールの表面粗さが大きすぎて、製品の表面粗さが増加し、却って鉄損特性が劣化するからである。ここで、上記Raは、JIS B0601(2001)に準じてワークロールの軸方向に測定した値であり、Ra測定時の評価長さとカットオフ値は、上記JIS記載の基準値を用いる。
【0031】
なお、ワークロールに付与する上記研磨目は、必ずしも連続的である必要はなく、ワークロールを研磨する上では、むしろ断続的である方が好ましいこともある。また、ワークロール表面に研磨目を付与する方法は、いかなる方法でもよく、例えば、回転砥石や遊離砥粒などによる研磨、研削バイトによる研磨あるいはエッチング等で付与してもよい。
【0032】
また、最終冷間圧延では、上記クロス研磨目ロールを全ての圧延パスで用いる必要はなく、少なくとも1パス以上で用いればよい。ただし、クロス研磨目ロールの効果を確実の得るためには、1パスよりも2パス以上で用いるのが好ましい。
【0033】
なお、最終冷間圧延を行う圧延機は、タンデム式冷間圧延機、ゼンジミアミル、プラネタリーミル等いずれでもよいが、生産性を向上し、製造コストを低減する観点からは、タンデム式の冷間圧延機であることが好ましい。
【0034】
次に、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法においては、上述した条件で最終冷間圧延した冷延鋼板を、一次再結晶焼鈍し、次いで、二次再結晶焼鈍し、さらに必要に応じて通常公知の絶縁被膜を被成し、製品(方向性電磁鋼板)とするのが好ましい。
【0035】
上記一次再結晶焼鈍は、通常公知の条件で行えばよく、例えば、湿水素雰囲気中で800℃×2分の脱炭焼鈍を兼ねた焼鈍条件などが好ましく適合する。また、二次再結晶焼鈍についても、通常公知の条件で行えばよく、例えば、水素雰囲気中で1200℃×5時間の焼鈍で、二次再結晶と純化を行う焼鈍条件などが好ましく適合する。なお、一次再結晶焼鈍から二次再結晶焼鈍の間で窒化処理を行ってもよい。
【0036】
また、一次再結晶焼鈍後、焼鈍分離剤を塗布してから二次再結晶焼鈍してもよい。この場合、上記焼鈍分離剤としては、MgOやAlなどを主成分とする従来公知のものであればいずれも用いることができ、二次再結晶焼鈍後、鋼板表面にフォルステライト被膜を形成する、しないに関係されない。
【実施例1】
【0037】
C:0.07mass%、Si:3.2mass%、Mn:0.07mass%、Al:0.02mass%、N:0.01mass%、S:0.02mass%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する板厚2.8mmの方向性電磁鋼板用熱延板に900℃×3分の熱延板焼鈍を施した後、1回目の冷間圧延で中間板厚2.0mmとし、1050℃×3分の中間焼鈍を施した。次いで、4スタンドからなり、#3,#4スタンドのワークロール径が300mmφのタンデム式冷間圧延機を用いて2回目の冷間圧延(最終冷間圧延)を行い、最終板厚が0.3mmの冷延鋼板とした。
なお、上記圧延機の#1,#2スタンドには、円周方向に研磨目を有する通常のワークロール(Ra:1.0μmのブライトロール)を用い、#3,#4スタンドには、表1に示す各種の研磨目と表面粗さを有するワークロールを用い、各条件でそれぞれ500ton以上の圧延を行った。
次いで、最終板厚とした上記冷延鋼板は、湿水素雰囲気中で800℃×2分の脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施し、焼鈍分離剤としてMgOスラリーを塗布・乾燥した後、1200℃×5時間の二次再結晶焼鈍を施して方向性電磁鋼板とした。
かくして得られた方向性電磁鋼板の、各ロール条件におけるロール交換直後に圧延した位置および500ton圧延後の位置から、圧延方向に平行な試験片を採取し、800℃×3hrの歪取焼鈍を施した後、JIS C2550(2000)に準じて鉄損W17/50を測定し、両位置の鉄損を比較することで、鉄損特性の改善効果とワークロールの寿命を評価した。
【0038】
【表1】

【0039】
上記結果を、表1に併記して示した。ここで、表1に示したNo.1の比較例は、円周方向に研磨目(θ=0°)を有する通常ロールを#3,#4スタンドに用いた例、No.2の比較例は、特許文献2に開示された傾斜研磨目ロールを#3,#4スタンドに用いた例、No.3の比較例は、クロス研磨目ではあるが、傾斜角θが本発明外であるロールを#3,#4スタンドに用いた例である。また、表1に示したNo.4〜15の発明例は、本発明に適合する各種クロス研磨目ロールを#3,#4スタンドに用いた例である。
表1の結果から、本発明に適合するクロス研磨目ロールを用いた発明例では、比較例と比較して鉄損特性に優れる方向性電磁鋼板が得られていること、また、圧延量が増加しても鉄損改善効果の低下が傾斜研磨ロールを用いたNo.2の比較例よりも小さく、ワークロール寿命の面でも優れていることがわかる。
【実施例2】
【0040】
C:0.01mass%、Si:3.4mass%、Mn:0.05mass%、Al:0.0025mass%、N:0.0035mass%、S:0.0010mass%、Se:0.0002mass%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する板厚1.8mmの方向性電磁鋼板用熱延板に1000℃×30秒の熱延板焼鈍を施した後、4スタンドからなり、各スタンドのワークロール径が300mmφのタンデム式冷間圧延機を用いて、1回の冷間圧延で最終板厚が0.20mmの冷延鋼板とした。
なお、上記圧延機の各スタンドには、表2に示した種類の研磨目を有するワークロールを用い、各条件でそれぞれ500ton以上の圧延を行った。また、各スタンドのワークロールの表面粗さRaは、通常ロール、クロス研磨目ロールにかかわらず、#1スタンドは1.0μm、#2〜#4スタンドは0.3μmに調整した。
次いで、最終板厚とした上記冷延鋼板は、湿水素雰囲気中で850℃×1分の脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施し、焼鈍分離剤としてMgOスラリーを塗布・乾燥した後、1250℃×12時間の二次再結晶焼鈍を施して方向性電磁鋼板とした。
かくして得られた方向性電磁鋼板の、各ロール条件での圧延量が500tonに相当する位置から、圧延方向に平行な試験片を採取し、800℃×3hrの歪取焼鈍を施した後、JIS C2550(2000)の規定に準じて鉄損W17/50を測定し、鉄損特性を評価した。
【0041】
【表2】

【0042】
上記結果を、表2に併記して示した。ここで、表2に示したNo.1の比較例は、全スタンドに円周方向の研磨目(θ=0°)を有する通常ロールを用いた例、No.2〜8の発明例は、#1〜#4スタンドのいずれか1以上のスタンドにおいて本発明に適合するクロス研磨目(θ=30°、θ=45°)を有するワークロールを用いた例である。
表2の結果から、いずれか1以上のスタンドにおいて本発明に適合するクロス研磨目を有するワークロールを用いて冷間圧延することにより、鉄損特性に優れた方向性電磁鋼板が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性電磁鋼板用熱延鋼板を、1回あるいは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延で最終板厚の冷延鋼板とし、その後、一次再結晶焼鈍し、二次再結晶焼鈍する一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、最終冷間圧延における1パス以上を、ロール周方向に対して2°以上90°未満傾斜した研磨目と、上記研磨目とは逆向きに0°以上90°未満傾斜した研磨目とからなるクロス研磨目を有するワークロールを用いて圧延することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
上記ワークロールとして、ロール周方向に対して10°以上90°未満傾斜した研磨目と、上記研磨目とは逆向きに0°以上90°未満傾斜した研磨目とからなるクロス研磨目を有するワークロールを用いることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
上記ワークロールの表面粗さは、算術平均粗さRaが0.05〜1.5μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
上記最終冷間圧延を、タンデム式圧延機を用いて行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−143440(P2011−143440A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5753(P2010−5753)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】