説明

曲面状成形体及びその製造方法並びに車両灯具用前面カバー及びその製造方法

【課題】実質的に透明な面発熱フイルムを曲面上に形成でき、しかも、発熱の均一性の向上、マイグレーションの懸念の解消を実現することができ、曲面成形品に安価に透明性の発熱部を設けることができるようにする。
【解決手段】ランプボディ12と、該ランプボディ12内に設けられた光源14とを有する車両用灯具16の前面開口部に組み付けられる車両灯具用前面カバー10において、光源14と対向した表面の一部の略矩形領域に、発熱体20を具備する。発熱体20は、該発熱体20を延伸する前の電気抵抗値(初期値)をR0、発熱体20を5%延伸したときの電気抵抗値をRaとしたとき、Ra≦(2×R0)を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電体を具備し、例えば表示装置や照明装置等に利用される曲面状成形体とその製造方法、並びに視認性と発熱性に優れた透明性の発熱体を有する車両灯具用前面カバー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、液晶ディスプレイや有機、無機のエレクトロルミネッセンス素子、電子ペーパー等には、光を取り出す側の電極として、透明導電性層を有するフイルムやガラス基板が用いられる(例えば特許文献1〜4参照)。
【0003】
これらの透明導電性層は、インジウム及び錫の酸化物や亜鉛の酸化物、錫の酸化物等を用いて形成されているものが一般的だが、低抵抗を得るためには、厚く均一な膜を形成しなければならず、その結果、光透過率の減少、コストの高価格化、形成プロセスにおいて高温処理が必要になる等の問題があり、特に、フイルム上での低抵抗化には、限界があった。
【0004】
その改善策としては、透明電極層に金属線等の導電性成分を付加する提案(特許文献2)や、透明電極層(透明陽極基板)に導電性金属のバスラインを設ける方法(特許文献1及び3)、あるいは透明電極層(上部電極)上に網目模様の金属線構造を設ける方法(特許文献5)が提案されている。
【0005】
一方、車両用灯具については照度低下が懸念される。照度低下の要因としては、以下のようなことが挙げられる。
(1)前面カバーの外周面への積雪の付着。
(2)前面カバーの外周面に雨水や洗車水が付着したまま凍結。
(3)光源として消費電力(発生熱量)が少ないにも拘わらず、光量が多いHIDランプの使用による上記(1)、(2)の助長。
【0006】
従来、上述した車両用灯具の照度低下を防ぐために、特許文献6及び7記載の構造が提案されている。
【0007】
特許文献6記載の構造は、導通パターンが印刷された透明な電気絶縁性のシート状部材で構成された発熱体を、レンズ成形品にインモールド成形によって固着するものであって、特に、発熱体の導通パターンを貴金属粉及び溶剤可溶な熱可塑性樹脂とを含む組成物で形成するというものである。
【0008】
特許文献7記載の構造は、車両用ランプのレンズ部内に発熱体を付着し、所定の条件下で発熱体に通電し、レンズ部を暖めるようにしている。発熱体はITO(Indium Tin Oxide)のような透明導電膜で構成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−180974号公報
【特許文献2】特開平9−147639号公報
【特許文献3】特開平10−162961号公報
【特許文献4】特開平11−224782号公報
【特許文献5】特開2005−302508号公報
【特許文献6】特開2007−26989号公報
【特許文献7】特開平10−289602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、ITO膜等の導電性金属、透明電極層を蒸着したりスパッタしたりすることで導電性を付与すること(例えば特許文献1及び2参照)は、生産性が低い点でも改善が求められている。また、バスラインを設けることはそれ自体の工程が増えるためにコストが上がる。
【0011】
そのほか、特許文献5ではITO膜を蒸着して導電性を高めているが、材料としてのITO膜は、資源枯渇の懸念があるので代替が求められていることや、また、蒸着工程ではロスが多くなることが弱点である。ITO膜等の導電性金属を蒸着したりスパッタしたりする導電性膜の付与(例えば特許文献2参照)は生産性が低い点でも改善が求められている。
【0012】
一方、車両用灯具について、特許文献6記載の構造は、導通パターンの幅が50〜500μmと広く、特に実施例では、0.3mm幅の印刷導線を使用している。この場合、導線があることが肉眼で見えてしまうため、透明性の点で問題がある。
【0013】
また、このような太い導線を使用する場合は、必要な抵抗値(例えば40オーム前後)を得るために、ヘッドランプの前面カバー上を1本の導線をジグザグに引き回して長い導線を形成することが考えられる。しかし、隣接する導線間に電位差を生じ、マイグレーションの原因になるという問題もある。
【0014】
特許文献7記載の構造は、発熱体としてITOのような透明導電膜を使用しているが、前面カバーが曲面成形品である場合、透明導電膜を曲面成形品の表面に形成する際には、真空中でスパッタする以外に方法がなく、効率やコスト等を考慮すると不利である。
【0015】
また、ITOのような透明導電膜はセラミックであることから、透明導電膜が形成されたフイルムをインモールド成形で曲げると割れるおそれがある。このため、曲面成形品で形成され、且つ、透明ヒータを設けた車両灯具用前面カバー、曲面成形品で形成され、且つ、表示用電極を設けた表示装置や照明装置等を安価に製造することができず、実用化できていないのが現状である。
【0016】
本発明はこのような課題を考慮してなされたものであり、実質的に透明な導電体を断線等を生じることなく曲面状に形成でき、しかも、導電性の良好な曲面状成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明の目的は、実質的に透明な面発熱フイルムを曲面上に形成でき、しかも、発熱の均一性の向上、マイグレーションの懸念の解消を実現することができ、曲面成形品に安価に透明性の発熱部を設けることができる車両灯具用前面カバー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
[1] 第1の本発明に係る曲面状成形体は、三次元曲面を有する透明性の基体に透明導電体が具備された曲面状成形体において、前記透明導電体は、該透明導電体を延伸する前の電気抵抗値(初期値)をR0、前記透明導電体を5%延伸したときの電気抵抗値をRaとしたとき、
Ra≦(2×R0)
を維持することを特徴とする。
[2] 第1の本発明において、前記透明導電体は、該透明導電体を15%延伸したときの電気抵抗値をRbとしたとき、
Rb≦(2×R0)
を満足することを特徴とする。
[3] 第1の本発明において、前記透明導電体は、直径2μm以下の金属ナノ材料がランダムに分散され、互いに交差して導通してなることを特徴とする。
[4] 第1の本発明において、前記透明導電体は、カーボンナノチューブがランダムに分散され、互いに交差して導通してなることを特徴とする。
[5] 第1の本発明において、前記透明導電体は、ハロゲン化銀を含有する銀塩乳剤層を露光し、現像処理することによって形成される多数の連通した金属細線を有し、前記金属細線の幅が1μm以上40μm以下であり、前記金属細線の配置間隔が0.1mm以上50mmであることを特徴とする。
[6] 第1の本発明において、前記銀塩乳剤層への塗布銀量が1〜20g/m2であることを特徴とする。
[7] 第1の本発明において、前記銀塩乳剤層の銀/バインダーの体積比率が2/1以上であることを特徴とする。
[8] 第1の本発明において、前記銀塩乳剤層の銀/バインダーの体積比率が2/1未満であることを特徴とする。
[9] 第1の本発明において、前記透明導電体の表面抵抗が10オーム/sq以上500オーム/sq以下であることを特徴とする。
[10] 第1の本発明において、前記透明導電体の電気抵抗が12オーム以上120オーム以下であることを特徴とする。
[11] 第1の本発明において、前記透明導電体は、最小曲率半径が300mm以下であることを特徴とする。
[12] 第1の本発明において、前記透明導電体は、複数の金属細線を有し、前記金属細線が水平方向及び上下方向に並んでおり、且つ、水平方向の金属細線の配置間隔が上下方向の金属細線の配置間隔の2倍以上であることを特徴とする。
[13] 第1の本発明において、前記透明導電体は、複数の金属細線を有し、前記金属細線が上下方向のみに並んでいることを特徴とする。
[14] 第2の本発明に係る曲面状成形体の製造方法は、三次元曲面を有する透明性の基体に透明導電体が具備された曲面状成形体の製造方法において、前記透明導電体を作製する透明導電体作製工程と、前記透明導電体を金型内に設置し、前記金型内に溶融樹脂を射出する工程とを有し、前記透明導電体作製工程は、絶縁性の透明フイルム上に延伸性を有する導電層を形成する工程と、前記導電層が形成された前記透明フイルムを前記基体の表面形状に合わせて三次元曲面に成形する工程とを有することを特徴とする。
[15] 第3の本発明に係る車両灯具用前面カバーは、ランプボディと、ランプボディ内に設けられた光源とを有する車両用灯具の前面開口部に組み付けられる車両灯具用前面カバーにおいて、前記光源と対向した表面の一部の略矩形領域に、発熱体を具備し、前記発熱体は、該発熱体を延伸する前の電気抵抗値(初期値)をR0、前記発熱体を5%延伸したときの電気抵抗値をRaとしたとき、
Ra≦(2×R0)
を維持することを特徴とする。
[16] 第3の本発明において、前記発熱体は、該発熱体を15%延伸したときの電気抵抗値をRbとしたとき、
Rb≦(2×R0)
を満足することを特徴とする。
[17] 第3の本発明において、前記発熱体は、直径2μm以下の金属ナノ材料がランダムに分散され、互いに交差して導通してなることを特徴とする。
[18] 第3の本発明において、前記発熱体は、カーボンナノチューブがランダムに分散され、互いに交差して導通してなることを特徴とする。
[19] 第3の本発明において、前記発熱体は、ハロゲン化銀を含有する銀塩乳剤層を露光し、現像処理することによって形成される多数の連通した金属細線を有し、前記金属細線の幅が1μm以上40μm以下であり、前記金属細線の配置間隔が0.1mm以上50mmであることを特徴とする。
[20] 第3の本発明において、前記銀塩乳剤層への塗布銀量が1〜20g/m2であることを特徴とする。
[21] 第3の本発明において、前記銀塩乳剤層の銀/バインダーの体積比率が2/1以上であることを特徴とする。
[22] 第3の本発明において、前記銀塩乳剤層の銀/バインダーの体積比率が2/1未満であることを特徴とする。
[23] 第3の本発明において、前記発熱体の表面抵抗が10オーム/sq以上500オーム/sq以下であることを特徴とする。
[24] 第3の本発明において、前記発熱体の電気抵抗が12オーム以上120オーム以下であることを特徴とする。
[25] 第3の本発明において、前記発熱体は、最小曲率半径が300mm以下であることを特徴とする。
[26] 第3の本発明において、前記発熱体は、両端部に第1電極及び第2電極を有し、前記第1電極及び前記第2電極の互いに対向する2点間距離の最小値をLmin、最大値をLmaxとしたとき、
(Lmax−Lmin)/((Lmax+Lmin)/2)≦0.375
を満足することを特徴とする。
[27] 第3の本発明において、前記発熱体は、複数の金属細線を有し、前記金属細線が水平方向及び上下方向に並んでおり、且つ、水平方向の金属細線の配置間隔が上下方向の金属細線の配置間隔の2倍以上であることを特徴とする。
[28] 第3の本発明において、前記透明導電体は、複数の金属細線を有し、前記金属細線が上下方向のみに並んでいることを特徴とする。
[29] 第4の本発明に係る車両灯具用前面カバーの製造方法は、ランプボディと、ランプボディ内に設けられた光源とを有する車両用灯具の前面開口部に組み付けられる車両灯具用前面カバーの製造方法において、前記車両灯具用前面カバーは、前記光源と対向する表面の一部に発熱体を有するものであって、前記発熱体を作製する発熱体作製工程と、前記発熱体を金型内に設置し、前記金型内に溶融樹脂を射出する工程とを有し、前記発熱体作製工程は、絶縁性の透明フイルム上に延伸性を有する導電層を形成する工程と、前記導電層が形成された前記透明フイルムを前記車両灯具用前面カバーの表面形状に合わせて三次元曲面に成形する工程と、前記透明フイルムの対向する両端部に第1電極及び第2電極を形成する電極形成工程と、三次元曲面に成形された前記透明フイルムの一部を切除する切除工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明に係る曲面状成形体及びその製造方法によれば、実質的に透明な導電体を断線等を生じることなく曲面状に形成でき、しかも、導電性の良好な曲面状成形体を得ることができ、表示面が三次元曲面を有する表示装置や照明装置を低コストで実現することができる。
【0020】
また、本発明に係る車両灯具用前面カバーによれば、実質的に透明な面発熱フイルムを曲面上に形成でき、しかも、発熱の均一性の向上、マイグレーションの懸念の解消を実現することができ、曲面成形品に安価に透明性の発熱部を設けることができる。前記発熱体は、車両灯具用前面カバーのほか、ヘルメット用風防カバー、車両リアガラス、熱帯魚用水槽等にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態に係る前面カバーの使用形態を一部省略して示す断面図である。
【図2】本実施の形態に係る発熱体を示す斜視図である。
【図3】図3A〜図3Cはメッシュパターンの全体の外形形状における投影形状の例を示す説明図である。
【図4】第1電極及び第2電極の互いに対向する2点間距離を説明するための図である。
【図5】透明フイルム上にメッシュパターンを形成した状態を示す斜視図である。
【図6】図6Aは透明フイルムを真空成形するための成形用金型を一部省略して示す断面図であり、図6Bは成形用金型に透明フイルムを押し付けた状態を示す断面図である。
【図7】成形用金型にて透明フイルムを真空成形して、曲面形状を有する透明フイルムとした状態を示す斜視図である。
【図8】第1の具体例に係る発熱体の作製過程において、曲面形状を有する透明フイルムに第1電極及び第2電極を形成した状態を示す図である。
【図9】曲面形状を有する透明フイルムの一部を切除して、第1の具体例に係る発熱体を作製した状態を示す斜視図である。
【図10】第2の具体例に係る発熱体の作製過程において、曲面形状を有する透明フイルムの一部を切除した後、第1電極及び第2電極を形成した状態を示す図である。
【図11】第2の具体例に係る発熱体を作製した状態を示す斜視図である。
【図12】第3の具体例に係る発熱体の作製過程において、曲面形状を有する透明フイルムの一部を切除した後、第1電極及び第2電極を形成した状態を示す図である。
【図13】第3の具体例に係る発熱体を作製した状態を示す斜視図である。
【図14】本実施の形態に係る発熱体を射出成形金型に設置した状態を一部省略して示す断面図である。
【図15】図15A〜図15Eは本実施の形態に係るメッシュパターンを形成する方法の一例(第1方法)を示す工程図である。
【図16】図16A及び図16Bは本実施の形態に係るメッシュパターンを形成する方法の他の例(第2方法)を示す工程図である。
【図17】図17A及び図17Bは本実施の形態に係るメッシュパターンを形成する方法のさらに他の例(第3方法)を示す工程図である。
【図18】本実施の形態に係るメッシュパターンを形成する方法のさらに他の例(第4方法)を示す工程図である。
【図19】本実施の形態に係る曲面状成形体(照明装置)の使用形態を一部省略して示す断面図である。
【図20】本実施の形態に係る照明装置を一部省略して示す拡大断面図である。
【図21】本実施の形態に係る導電性フイルムを一部省略して示す斜視図である。
【図22】透明フイルム上にメッシュパターンを形成して導電性フイルムを作製した状態を示す斜視図である。
【図23】導電性フイルム、発光層、背面電極等を積層して平板状のEL素子を作製した状態を一部省略して示す断面図である。
【図24】図24AはEL素子を真空成形するための成形用金型を一部省略して示す断面図であり、図24Bは成形用金型にEL素子を押し付けた状態を示す断面図である。
【図25】成形用金型にてEL素子を真空成形して、曲面形状を有するEL素子とした状態を示す斜視図である。
【図26】本実施の形態に係るEL素子を射出成形金型に設置した状態を一部省略して示す断面図である。
【図27】実施例1に係る前面カバーを示す平面図である。
【図28】参考例1に係る前面カバーを示す平面図である。
【図29】実施例1に係る発熱体の温度分布を示す図である。
【図30】参考例1に係る発熱体の温度分布を示す図である。
【図31】実施例2〜5並びに比較例2に係る前面カバーの作製過程において、曲面形状を有する透明フイルムに第1電極及び第2電極を形成した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る曲面状成形体及びその製造方法並びに車両灯具用前面カバー及びその製造方法の実施の形態例を図1〜図31を参照しながら説明する。
【0023】
先ず、本実施の形態に係る車両灯具用前面カバー(以下、前面カバー10と記す)について図1〜図18を参照しながら説明する。
【0024】
前面カバー10は、図1に一部省略して示すように、ランプボディ12と、ランプボディ12内に設けられた光源14とを有する車両用灯具16の前面開口部に組み付けられるものであって、例えばポリカーボネート樹脂によるカバー本体18と、該カバー本体18の光源14と対向した表面の一部に、曲面形状を有する発熱体20(透明発熱体20とも記す)とを具備する。
【0025】
発熱体20は、図2に示すように、導電層21と、該導電層21の両端部に形成された第1電極26及び第2電極28とを有する。
【0026】
導電層21は、導電性の金属細線22にて構成された多数の格子の交点を有するメッシュパターン24(パターンの一部のみ図示してある)を有し、該メッシュパターン24の対向する両端部に第1電極26及び第2電極28が形成された形状を有する。
【0027】
この場合、導電層21の全体の外形形状は、前面カバー10の外形形状に合わせる必要はなく、図2に示すように、導電層21の全体の外形形状の投影形状30(前面カバー10の開口面に投影させた形状)が、例えば第1電極26と第2電極28間を長手方向とする長方形状や、図3Aに示すように、矩形形状の長辺部分に外方に突出する湾曲形状32が一体に形成された形状等であることが望ましい。もちろん、図3B及び図3Cに示すように、投影形状30がトラック形状や楕円形状でもよい。図2に示すように、導電層21の全体の外形形状で囲まれる領域は、メッシュパターン24が存在し、発熱体20の発熱領域34となる。
【0028】
そして、本実施の形態では、発熱体20を延伸する前の電気抵抗値(初期値)をR0、発熱体20を5%延伸したときの電気抵抗値をRaとしたとき、
Ra≦(2×R0)
を維持するようになっている。
【0029】
また、第1電極26及び第2電極28の互いに対向する2点間距離の最小値をLmin、最大値をLmaxとしたとき、
(Lmax−Lmin)/((Lmax+Lmin)/2)≦0.375
を満足するようにしている。
【0030】
ここで、第1電極26及び第2電極28の互いに対向する2点とは、第1電極26と第2電極28との間に仮想的に設定される中心線(第1電極26の長手方向中間点T1jと第2電極28の長手方向中間点T2jを結ぶ線Mjと直交する線N)を基準に線対称の位置に設定される2点を指す。例えば図4に示すように、上述した第1電極26の長手方向中間点T1jと第2電極の長手方向中間点T2jや、第1電極26の長手方向端部の点T1nと第2電極28の長手方向端部の点T2n等が挙げられる。図4で示すと、点T11と点T21との組み合わせ、点T12とT22との組み合わせ、点T13とT23との組み合わせ等がある。これらの2点の組み合わせのうち、2点間の距離が最も短いのが最小値Lminであり、2点間の距離が最も長いのが最大値Lmaxである。例えば、導電層21の上述した投影形状30を長方形状とせずに、前面カバーの外形形状に沿って円形(二点鎖線mで示す)とした場合は、例えば点T11と点T21との間の距離のうち、円形に沿った二点鎖線kで示す距離が最大値Lmaxになり、中間点T1jと中間点T2jとの間の最短距離が最小値Lminになることが考えられる。
【0031】
上述した最小値Lminと最大値Lmaxの関係を見い出した経緯と、三次元曲面上の特定部位に発熱体を設けた場合の均一な発熱の実現の考え方について以下に説明する。
【0032】
従来、リアガラスやヘッドランプカバーで使用されている面発熱体は、ヘッドランプカバーのような小さなヒーターでは通常1本、ヒーター面積の大きいリアガラスでもせいぜい10本以下の線発熱体を用いて、加熱したい面全体にわたって線発熱体を引き回していた。電流は、線発熱体の一方の端からもう一方の端まで線に沿って流れるため、すべての線発熱体が同じ材料で同じ線幅、線厚さであれば、線の存在密度により発熱量が決まる。つまり、どこでも同じような密度になるように発熱体を設ければ、加熱したい領域がどんな形状であろうとも均一な発熱を得ることができた。
【0033】
しかし、上述のような線発熱体の引き回しでは、肉眼で線発熱体を容易に視認でき、光源の照度低下を招くという問題がある。そこで、本実施の形態では、メッシュパターン24を形成して、透明性の高い発熱体20を構成するようにしている。ところが、このようなメッシュパターン24を有する透明発熱体20では、電流が流れる経路は無数にあり、抵抗が少なく流れやすい経路に電流が集中する。そのため、発熱させたい領域を均一に過熱するには工夫が必要であった。
【0034】
透明発熱体20を均一に加熱する方法、特に、三次元曲面上に設けられた発熱体20を均一に加熱する方法は次のようにして達成できた。
【0035】
すなわち、発熱領域34の投影形状30が略長方形状となるように区画し、その対向する両辺に帯状の電極(第1電極26及び第2電極28)を設け、第1電極26及び第2電極28間に電圧を印加し、電流を流す。三次元曲面上では正確な長方形状にすることはできないが、できるだけ長方形状に近づけることが好ましい。
【0036】
また、線状発熱体をジグザグに引き回す構成の場合は、隣接する導線間で電位差が生じ、マイグレーションの原因になるという問題があったが、本実施の形態では、導電性の金属細線22にて構成された多数の格子の交点を有するメッシュパターン24としており、隣接する金属細線間は初めから短絡状態であるためマイグレーションがあっても問題にならない。
【0037】
さらに、透明発熱体20の場合は、対向する第1電極26及び第2電極28間の距離に比例して電気抵抗が大きくなる。電圧一定の場合は、電気抵抗に反比例して発熱量が変化する。つまり、電気抵抗が大きい程、発熱量は少なくなる。従って、第1電極26と第2電極28が平行に配置されるのが理想である。従って、三次元曲面の特定領域を加熱する場合は、第1電極26と第2電極28の互いに対向する2点間の距離Lnがどこをとってもある狭い範囲(距離)内に収まるように設計することが、面内を均一に発熱させる上で好ましい。
【0038】
雪や霜が問題になるのは、主に環境温度がマイナス10℃からプラス3℃の間と考えている。なぜならマイナス10℃以下では、大気中に水分がほとんど存在しないため霜はもちろんのこと降雪も少なくなる。前面カバー10の表面温度をマイナス10℃から霜や雪を溶かすに好ましい最低温度3℃まで上昇させるために、発熱分布(ばらつき)がゼロならば平均13℃温度上昇させればよいが、発熱分布(ばらつき)が仮にプラスマイナス5℃、つまり、13℃から23℃の範囲に分布しているとすると、平均で13℃温度上昇させたとしても、カバー表面の最低温度が3℃を下回ることから、平均で18℃温度上昇させる必要がある。つまり、発熱分布(ばらつき)を少なくすればするほど省エネに寄与させることができる。
【0039】
透明発熱体20による加熱上昇温度(温度上昇幅)として、最小13℃、最大19℃、平均16℃にできれば、上述した例よりも2℃ほどエネルギを低減でき、その分、省エネに有利であり好ましい。このときの温度分布率は(19℃−13℃)/16℃=0.375となる。第1電極26と第2電極28の互いに対向する2点間の距離の最大値をLmax、最小値をLminとすると、発熱量は、第1電極26と第2電極28の2点間距離の分布に凡そ対応するため、(Lmax−Lmin)/((Lmax+Lmin)/2)=0.375と表すことができる。
【0040】
また、平均加熱上昇温度を14.5℃にするには、最大温度Tmax=14.5−13+14.5=16、温度分布率が(16−13)/14.5=0.207となることから、(Lmax−Lmin)/((Lmax+Lmin)/2)=0.207となるように、第1電極26及び第2電極28を設置すればよい。この場合、平均加熱上昇温度が16℃の場合よりも、さらに1.5℃ほどエネルギを低減でき、その分、省エネに有利であり好ましい。
【0041】
そして、発熱体20の表面抵抗は、10オーム/sq以上、500オーム/sq以下であることが好ましい。また、発熱体20の電気抵抗は、12オーム以上、120オーム以下であることが好ましい。これにより、発熱体20による平均加熱上昇温度を16℃や14.5℃にすることができ、前面カバー10に付着した積雪等を除去することができる。
【0042】
また、本実施の形態においては、メッシュパターン24の金属細線22の幅が1μm以上、40μm以下であることが好ましい。これにより、メッシュパターン24が見えにくくなり、透明性を向上させることができる。これは、光源14の照度低減の抑制につながる。
【0043】
メッシュパターン24の金属細線22のピッチは、0.1mm以上、50mm以下であることが好ましい。これは、メッシュパターン24の金属細線22の幅を1μm以上、40μm以下とし、さらに、発熱体20の表面抵抗を10オーム/sq以上、500オーム/sq以下、発熱体20の電気抵抗を12オーム以上、120オーム以下とする場合の好適な数値範囲である。
【0044】
金属細線22の水平方向成分はヘッドライトの光を上方向に散乱するため、対向車の運転手の目を眩ませるおそれがある。従って、水平方向の金属細線22の数はできるだけ少ないことが好ましい。金属細線22は水平方向及びそれに直交する上下方向に設けることが好ましい。さらに水平方向の金属細線22のピッチは、上下方向の金属細線22のピッチの2倍以上が好ましく、4倍以上がさらに好ましい。水平方向の金属細線22をなくして上下方向だけにすることも好ましい実施態様の一つである。例えば、金属細線22が上下方向のみに並んでいる態様としては、金属細線22の線幅を20μm、ピッチ600μmの態様で発熱体を製造した。かかる態様の場合には、光が上方に拡散せずに、対向車の運転手が眩しくなることもなく、運転中に良好な視界を維持することができた。
【0045】
次に、前面カバー10の製造方法について図5〜図18を参照しながら説明する。
【0046】
先ず、図5に示すように、絶縁性の透明フイルム40上に導電性の金属細線22にて構成された多数の格子の交点を有するメッシュパターン24を形成する。
【0047】
その後、図6Aに示すように、メッシュパターン24が形成された透明フイルム40を、前面カバー10の表面形状に合わせて曲面形状に真空成形する。この場合、前面カバー10を射出成形する際に使用される射出成形金型50(図10参照)とほぼ同じ寸法を有する成形用金型42を用いて真空成形する。図6Aに示すように、前面カバー10が例えば三次元曲面を有する場合、成形用金型42にも同様の曲面、この場合、反転した曲面が形成され、さらに、多数の吸引孔44が形成されている。例えば、前面カバー10に凹状の曲面が形成されている場合は、成形用金型42には凸状の曲面46が形成され、この凸状の曲面46が前面カバー10の凹状の曲面に嵌まり込む寸法関係となっている。
【0048】
そして、成形用金型42を用いた透明フイルム40の真空成形は、図6Aに示すように、例えばメッシュパターン24が形成された透明フイルム40を140〜210℃に予熱した後、図6Bに示すように、透明フイルム40を成形用金型42の凸状の曲面46に押し当て、成形用金型42から吸引孔44を介して真空に引き、透明フイルム40側から0.1〜2MPaの空気圧を付加して行うことができる。この真空成形によって、図7に示すように、前面カバー10と同様の曲面形状を有する透明フイルム40が完成する。
【0049】
その後、図8に示すように、曲面形状に成形された透明フイルム40の所要箇所に第1電極26及び第2電極28を形成する。例えば導電性の第1銅テープ48a(帯状電極となる)を貼着した後、該第1銅テープ48aに対して直角方向に第2銅テープ48b(取出電極となる)を、第1銅テープ48aと一部重なるように貼着して、第1電極26及び第2電極28を形成する。
【0050】
その後、図9に示すように、曲面形状に成形された透明フイルム40の一部を切除する。この場合、一部を切除した後の透明フイルム40における導電層21の外形形状の投影形状30が例えば長方形状となるように、且つ、第1電極26及び第2電極28が残るようにして切除する。この実施の形態では、図8に示すように、曲面形状を有する透明フイルム40の周縁部を、切断線L1に示すように、第1電極26及び第2電極28を残しながら成形形状に沿って切除し、投影形状が円形となるようにし、その後、第1電極26及び第2電極28を残しながら、切断線L2及びL3に沿って両端の湾曲部41を切除した。これによって、図9に示すように、第1の具体例に係る発熱体20Aを得る。
【0051】
もちろん、曲面形状に成形された透明フイルム40の一部を切除した後に、第1電極26及び第2電極28を形成するようにしてもよい。
【0052】
例えば図10に示すように、曲面形状を有する透明フイルム40の周縁部を、切断線L1に示すように、成形形状に沿って切除して、投影形状が円形となるようにし、その後、切断線L2及びL3に沿って両端の湾曲部を切除する。そして、透明フイルムの円周の外側に沿って、例えば導電性の第1銅テープ48a(帯状電極となる)を貼着した後、該第1銅テープ48aに対して直角方向に第2銅テープ48b(取出電極となる)を、第1銅テープ48aと一部重なるように貼着して、第1電極26及び第2電極28を形成する。これによって、図11に示すように、第2の具体例に係る発熱体20Bを得る。
【0053】
あるいは、図12に示すように、曲面形状を有する透明フイルム40の周縁部を、平面部を一部含むようにして、切断線L4に示すように切除して、投影形状が円形となるようにし、その後、切断線L2及びL3に沿って両端の湾曲部を切除する。そして、透明フイルムの平面部の円周の外側に沿って、例えば導電性の第1銅テープ48a(帯状電極となる)を貼着した後、該第1銅テープ48aに対して直角方向に第2銅テープ48b(取出電極となる)を、第1銅テープ48aと一部重なるように貼着して、第1電極26及び第2電極28を形成する。これによって、図13に示すように、第3の具体例に係る発熱体20Cを得る。
【0054】
なお、以下の説明では、図2に示す発熱体20、第1〜第3の具体例に係る発熱体20A〜20Cを総称して発熱体20と記す。
【0055】
その後、図14に示すように、上述のようにして得られた発熱体20を、前面カバー10の射出成形金型50内に設置する。必要によっては、接着性を向上させるために、発熱体20と金型50の間に接着フイルムを挟んだり、発熱体20の表面に接着改良層をオーバーコートしてもよい。
【0056】
その後、射出成形金型50のキャビティ52内に溶融樹脂を注入し、硬化することによって、透明フイルム40による発熱体20が一体成形された前面カバー10が完成する。
【0057】
ここで、透明フイルム40上に金属細線22によるメッシュパターン24を形成するいくつかの方法(第1方法〜第4方法)について図15A〜図18を参照しながら説明する。
【0058】
第1方法は、透明フイルム40上に設けられた銀塩乳剤層を露光し、現像、定着することによって形成された金属銀部にてメッシュパターンを構成する方法である。
【0059】
具体的には、図15Aに示すように、ハロゲン化銀54(例えば臭化銀粒子、塩臭化銀粒子や沃臭化銀粒子)をゼラチン56に混ぜてなる銀塩乳剤層58を透明フイルム40上に塗布する。なお、図15A〜図15Cでは、ハロゲン化銀54を「粒々」として表記してあるが、あくまでも本発明の理解を助けるために誇張して示したものであって、大きさや濃度等を示したものではない。
【0060】
その後、図15Bに示すように、銀塩乳剤層58に対してメッシュパターン24の形成に必要な露光を行う。ハロゲン化銀54は、光エネルギーを受けると感光して「潜像」と称される肉眼では観察できない微小な銀核を生成する。
【0061】
その後、潜像を肉眼で観察できる可視化された画像に増幅するために、図15Cに示すように、現像処理を行う。具体的には、潜像が形成された銀塩乳剤層58を現像液(アルカリ性溶液と酸性溶液のどちらもあるが通常はアルカリ性溶液が多い)にて現像処理する。この現像処理とは、ハロゲン化銀粒子ないし現像液から供給された銀イオンが現像液中の現像主薬と呼ばれる還元剤により潜像銀核を触媒核として金属銀に還元されて、その結果として潜像銀核が増幅されて可視化された銀画像(現像銀60)を形成する。
【0062】
現像処理を終えたあとに銀塩乳剤層58中には光に感光できるハロゲン化銀54が残存するのでこれを除去するために図15Dに示すように定着処理液(酸性溶液とアルカリ性溶液のどちらもあるが通常は酸性溶液が多い)により定着を行う。
【0063】
この定着処理を行うことによって、露光された部位には金属銀部62が形成され、露光されていない部位にはゼラチン56のみが残存し、光透過性部64となる。すなわち、透明フイルム40上に金属銀部62と光透過性部64との組み合わせによるメッシュパターン24が形成されることになる。
【0064】
ハロゲン化銀54として臭化銀を用い、チオ硫酸塩で定着処理した場合の定着処理の反応式を以下に示す。
AgBr(固体)+2個のS23イオン → Ag(S232
(易水溶性錯体)
【0065】
すなわち、2個のチオ硫酸イオンS23とゼラチン56中の銀イオン(AgBrからの銀イオン)が、チオ硫酸銀錯体を生成する。チオ硫酸銀錯体は水溶性が高いのでゼラチン56中から溶出されることになる。その結果、現像銀60が金属銀部62として定着されて残ることになる。この金属銀部62にてメッシュパターン24が構成されることになる。
【0066】
なお、現像工程は、潜像に対し還元剤を反応させて現像銀60を析出させる工程であり、定着工程は、現像銀60にならなかったハロゲン化銀54を水に溶出させる工程である。詳細は、T.H.James, The Theory of the Photographic Process, 4th ed., Macmillian Publishing Co.,Inc, NY,Chapter15, pp.438−442. 1977を参照されたい。
【0067】
現像処理は多くの場合アルカリ性溶液で行われることから、現像処理工程から定着処理工程に入る際に、現像処理にて付着したアルカリ溶液が定着処理溶液(多くの場合は酸性溶液である)に持ち込まれるため、定着処理液の活性が変わるといった問題がある。また、現像処理槽を出た後、膜に残留した現像液により意図しない現像反応が更に進行する懸念もある。そこで、現像処理後で、定着処理工程に入る前に、酢酸(酢)溶液等の停止液で銀塩乳剤層58を中和もしくは酸性化することが好ましい。
【0068】
もちろん、図15Eに示すように、上述のようにして、金属銀部62を形成した後、例えばめっき処理(無電解めっきや電気めっきを単独ないし組み合わせる)を行って、金属銀部62のみに導電性金属66を担持させることによって、金属銀部62と該金属銀部62に担持された導電性金属66にてメッシュパターン24を形成するようにしてもよい。
【0069】
次に、第2方法は、図16Aに示すように、例えば透明フイルム40上に形成された銅箔68上のフォトレジスト膜70を露光、現像処理してレジストパターン72を形成し、図16Bに示すように、レジストパターン72から露出する銅箔68をエッチングすることによって、銅箔68によるメッシュパターン24を形成する。
【0070】
次に、第3方法は、図17Aに示すように、透明フイルム40上に金属微粒子を含むペースト74を印刷することによってメッシュパターン24を形成する方法である。もちろん、図17Bに示すように、印刷されたペースト74に、金属めっき76を行うことによって、ペースト74と金属めっき76によるメッシュパターン24を形成するようにしてもよい。
【0071】
第4方法は、図18に示すように、透明フイルム40に金属薄膜78をスクリーン印刷版又はグラビア印刷版によって印刷してメッシュパターンを形成する方法である。
【0072】
これら第1方法〜第4方法のうち、曲面形状を有する発熱体20を作製する上で有利な方法は、第1方法、すなわち、透明フイルム40上に設けられた銀塩乳剤層58を露光し、現像、定着することによって形成された金属銀部62にてメッシュパターン24を構成する方法である。
【0073】
この第1方法によれば、発熱体20を延伸する前の電気抵抗値(初期値)をR0、発熱体20を15%延伸したときの電気抵抗値をRbとしたとき、
Rb≦(2×R0)
を満足させることができる。
【0074】
このように、本実施の形態に係る発熱体20は、導電層21を5%延伸しても電気抵抗値の関係がRa≦(2×R0)を維持することから、導電層21は、真空成形後に曲面形状を呈することとなっても、局部的に抵抗値が上昇したり、低下するということがなく、ほぼ設計どおりの抵抗値分布を有することとなる。
【0075】
特に、上述した第1方法によって、銀塩乳剤層58を露光、現像してメッシュパターン24を形成した場合は、メッシュパターン24を15%延伸しても、上述した電気抵抗値の関係がRb≦(2×R0)を満足することから、曲率の大きい、例えば最小曲率半径が300mm以下の曲面形状であっても、断線することなく、しかも、局部的に抵抗値が上昇したり、低下するということがなく、ほぼ設計どおりの抵抗値分布を有する発熱体20を得ることができる。
【0076】
従って、本実施の形態に係る発熱体20が設けられた前面カバー10は、実質的に透明な面発熱フイルムを曲面上に形成でき、しかも、発熱の均一性の向上、マイグレーションの懸念の解消を実現することができ、曲面成形品に安価に透明性の発熱部を設けることができる。
【0077】
図1の例では、全体的に曲面形状とされた前面カバー10の一部の表面に発熱体20を設けた例を示したが、前面カバー10としては、一部に曲面形状を有し、その他の部分が平坦とされた形状も存在する。この実施の形態に係る発熱体20のメッシュパターン24は、このような形状にも柔軟に対応させることができ、曲面部分の最小曲率半径が300mm以下の曲面形状に対しても対応させることができる。すなわち、曲面形状を有する発熱体20は、最小曲率半径が300mm以下であってもメッシュパターン24が断線するということはなく、様々な曲面形状を有する前面カバーにも十分に対応させることができる。
【0078】
次に、本実施の形態に係る発熱体20において、特に好ましい態様であるハロゲン化銀写真感光材料を用いてメッシュパターン24の形成方法を中心にして述べる。
【0079】
本実施の形態に係る発熱体20のメッシュパターン24は、上述したように、透明フイルム40上に感光性ハロゲン化銀塩を含有する銀塩乳剤層58を有する感光材料を露光し、現像処理を施すことによって露光部及び未露光部に、それぞれ金属銀部62及び光透過性部64を形成することで形成することができる。必要によっては、さらに金属銀部62に物理現像及び/又はめっき処理を施すことによって金属銀部62に導電性金属66を担持させるようにしてもよい。
【0080】
メッシュパターン24の形成方法は、感光材料と現像処理の形態によって、次の3通りの態様が含まれる。
(1) 物理現像核を含まない感光性ハロゲン化銀黒白感光材料を化学現像又は物理現像して金属銀部62を該感光材料上に形成させる態様。
(2) 物理現像核をハロゲン化銀乳剤層中に含む感光性ハロゲン化銀黒白感光材料を物理現像して金属銀部62を該感光材料上に形成させる態様。
(3) 物理現像核を含まない感光性ハロゲン化銀黒白感光材料と、物理現像核を含む非感光性層を有する受像シートを重ね合わせて拡散転写現像して金属銀部62を非感光性受像シート上に形成させる態様。
【0081】
上記(1)の態様は、一体型黒白現像タイプであり、感光材料上に透光性電磁波シールド膜や光透過性導電膜等の透光性導電膜が形成される。得られる現像銀は化学現像銀又は物理現像銀であり、高比表面のフィラメントである点で後続するめっき又は物理現像過程で活性が高い。
【0082】
上記(2)の態様は、露光部では、物理現像核近縁のハロゲン化銀が溶解されて現像核上に沈積することによって感光材料上に透光性導電膜が形成される。これも一体型黒白現像タイプである。現像作用が、物理現像核上への析出であるので高活性であるが、現像銀の比表面は小さい球形である。
【0083】
上記(3)の態様は、未露光部においてハロゲン化銀が溶解されて拡散して受像シート上の現像核上に沈積することによって受像シート上に透光性導電膜が形成される。いわゆるセパレートタイプであって、受像シートを感光材料から剥離して用いる態様である。
【0084】
いずれの態様もネガ型現像処理及び反転現像処理のいずれの現像を選択することもできる(拡散転写方式の場合は、感光材料としてオートポジ型感光材料を用いることによってネガ型現像処理が可能となる)。
【0085】
ここでいう化学現像、熱現像、溶解物理現像、拡散転写現像は、当業界で通常用いられている用語どおりの意味であり、写真化学の一般教科書、例えば菊地真一著「写真化学」(共立出版社、1955年刊行)、C.E.K.Mees編「The Theory of Photographic Processes, 4th ed.」(Mcmillan社、1977年刊行)に解説されている。本件は液処理に係る発明であるが、その他の現像方式として熱現像方式を適用する技術も参考にすることができる。例えば、特開2004−184693号、同2004−334077号、同2005−010752号の各公報、特願2004−244080号、同2004−085655号の各明細書に記載された技術を適用することができる。
【0086】
(感光材料)
[透明フイルム40]
本実施の形態の製造方法に用いられる透明フイルム40としては、フレキシブルなプラスチックフイルムを用いることができる。
【0087】
本実施の形態においては、透光性、耐熱性、取り扱い易さ及び価格の点から、上記プラスチックフイルムはポリエチレンテレフタレートフイルムが適しているが、耐熱性・熱可塑性等の必要性により、適宜選択される。なお、PETフイルムを曲面形状に加工する場合、通常は、未延伸のPETフイルムが使用される。しかし、本発明の感光材料を製造する場合には、延伸されたPETフイルムを用いる必要がある。この場合、後述する曲面形状への加工が難しくなる。そこで、未延伸PETフイルムを使用する場合には、150℃程度で行う加工を、延伸されたPETフイルムでは170℃以上250℃以下で行うことが好ましく、180℃以上230℃以下で行うことがより好ましい。
【0088】
[保護層]
用いられる感光材料は、後述する乳剤層上に保護層を設けていてもよい。本実施の形態において「保護層」とは、ゼラチンや高分子ポリマーといったバインダーからなる層を意味し、擦り傷防止や力学特性を改良する効果を発現するために感光性を有する乳剤層に形成される。
【0089】
[乳剤層]
本実施の形態の製造方法に用いられる感光材料は、透明フイルム40上に、光センサとして銀塩乳剤層58を有することが好ましい。本実施の形態における乳剤層には、銀塩のほか、必要に応じて、染料、バインダー、溶媒等を含有することができる。
【0090】
<銀塩>
本実施の形態で用いられる銀塩としては、ハロゲン化銀等の無機銀塩が好ましく、特に銀塩がハロゲン化銀写真感光材料用ハロゲン化銀粒子の形で用いられるのが好ましい。ハロゲン化銀は、光センサとしての特性に優れている。
【0091】
ハロゲン化銀写真感光材料の写真乳剤の形で好ましく用いられるハロゲン化銀について説明する。
【0092】
本実施の形態では、光センサとして機能させるためにハロゲン化銀を使用することが好ましく、ハロゲン化銀に関する銀塩写真フイルムや印画紙、印刷製版用フイルム、フォトマスク用エマルジョンマスク等で用いられる技術は、本実施の形態においても用いることができる。
【0093】
上記ハロゲン化銀に含有されるハロゲン元素は、塩素、臭素、ヨウ素及びフッ素のいずれであってもよく、これらの組み合わせでもよい。例えば、AgCl、AgBr、AgIを主体としたハロゲン化銀が好ましく用いられ、さらにAgBrやAgClを主体としたハロゲン化銀が好ましく用いられる。塩臭化銀、沃塩臭化銀、沃臭化銀もまた好ましく用いられる。より好ましくは、塩臭化銀、臭化銀、沃塩臭化銀、沃臭化銀であり、最も好ましくは、塩化銀50モル%以上を含有する塩臭化銀、沃塩臭化銀が用いられる。
【0094】
なお、ここで、「AgBr(臭化銀)を主体としたハロゲン化銀」とは、ハロゲン化銀組成中に占める臭化物イオンのモル分率が50%以上のハロゲン化銀をいう。このAgBrを主体としたハロゲン化銀粒子は、臭化物イオンのほかに沃化物イオン、塩化物イオンを含有していてもよい。
【0095】
<バインダー>
乳剤層には、銀塩粒子を均一に分散させ、且つ、乳剤層と支持体との密着を補助する目的でバインダーを用いることができる。本発明において、上記バインダーとしては、非水溶性ポリマー及び水溶性ポリマーのいずれもバインダーとして用いることができるが、水溶性ポリマーを用いることが好ましい。
【0096】
上記バインダーとしては、例えば、ゼラチン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、澱粉等の多糖類、セルロース及びその誘導体、ポリエチレンオキサイド、ポリサッカライド、ポリビニルアミン、キトサン、ポリリジン、ポリアクリル酸、ポリアルギン酸、ポリヒアルロン酸、カルボキシセルロース等が挙げられる。
【0097】
乳剤層中に含有されるバインダーの含有量は、銀塩乳剤層中の銀/バインダー体積比率が1/4以上になるように調節することが好ましく、1/2以上になるように調節することがさらに好ましい。
【0098】
銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率は、成形体の用途やカレンダー処理の有無によって適宜調整される。
【0099】
銀塩乳剤層を露光・現像処理して得られる金属細線をカレンダー処理する場合、銀/バインダーの体積比率が2/1以上とすることが好ましく、2/1〜6/1とすることがより好ましく、2/1〜4/1とすることがさらに好ましい。このとき、銀塩乳剤層の塗布銀量は8g/m2以上であることが好ましく、8〜20g/m2であることがより好ましい。
【0100】
銀塩乳剤層を露光・現像処理して得られる金属細線をカレンダー処理しない場合、銀/バインダーの体積比率が2/1未満とすることが好ましく、1/2〜1.5/1とすることがより好ましく、1/1.5〜1.5/1とすることがさらに好ましい。このとき、銀塩乳剤層の塗布銀量は20g/m2未満であることが好ましく、6〜15g/m2であることがより好ましく、7.5〜15g/m2であることがさらに好ましい。
【0101】
<溶媒>
上記乳剤層の形成に用いられる溶媒は、特に限定されるものではないが、例えば、水、有機溶媒(例えば、メタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ホルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、酢酸エチル等のエステル類、エーテル類等)、イオン性液体、及びこれらの混合溶媒を挙げることができる。
【0102】
本発明の銀塩乳剤層に用いられる溶媒の含有量は、前記銀塩乳剤層に含まれる銀塩、バインダー等の合計の質量に対して30〜90質量%の範囲であり、50〜80質量%の範囲であることが好ましい。
【0103】
次に、メッシュパターン24を形成するための各工程について説明する。
【0104】
[露光]
本実施の形態では、透明フイルム40上に設けられた銀塩乳剤層58を有する感光材料への露光が行われる。露光は、電磁波を用いて行うことができる。電磁波としては、例えば、可視光線、紫外線等の光、X線等の放射線等が挙げられる。さらに露光には波長分布を有する光源を利用してもよく、特定の波長の光源を用いてもよい。
【0105】
パターン像を形成させる露光方式としては、均一光をマスクパターンを介して感光面に照射してマスクパターンを像様形成させる面露光方式と、レーザ光等のビームを走査してパターン状の照射部を感光性面上に形成させる走査露光方式とがある。コンパクトで、安価、さらに寿命が長く、安定性が高い装置を設計するためには、露光は半導体レーザを用いて行うことが最も好ましい。
【0106】
[現像処理]
本実施の形態では、乳剤層を露光した後、さらに現像処理が行われる。現像処理は、銀塩写真フイルムや印画紙、印刷製版用フイルム、フォトマスク用エマルジョンマスク等に用いられる通常の現像処理の技術を用いることができる。現像液については特に限定はしないが、PQ現像液、MQ現像液、MAA現像液等を用いることもでき、市販品では、例えば、富士フイルム社処方のCN−16、CR−56、CP45X、FD−3、パピトール、KODAK社処方のC−41、E−6、RA−4、D−19、D−72等の現像液、又はそのキットに含まれる現像液を用いることができる。また、リス現像液を用いることもできる。
【0107】
リス現像液としては、KODAK社処方のD85等を用いることができる。本発明では、上記の露光及び現像処理を行うことにより露光部に金属銀部、好ましくはパターン状金属銀部が形成されると共に、未露光部に後述する光透過性部が形成される。
【0108】
現像処理後の露光部に含まれる金属銀の質量は、露光前の露光部に含まれていた銀の質量に対して50質量%以上の含有率であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。露光部に含まれる銀の質量が露光前の露光部に含まれていた銀の質量に対して50質量%以上であれば、高い導電性を得ることができるため好ましい。
【0109】
[物理現像及びめっき処理]
本実施の形態では、上述した露光及び現像処理により形成された金属銀部62の導電性を向上させる目的で、金属銀部62に導電性金属粒子を担持させるための物理現像及び/又はめっき処理を行ってもよい。本実施の形態では物理現像又はめっき処理のいずれか一方のみで導電性金属粒子を金属銀部62に担持させることが可能であるが、さらに物理現像とめっき処理とを組み合わせて導電性金属粒子を金属銀部62に担持させることもできる。
【0110】
[カレンダー処理]
現像処理済みの金属銀部62(全面金属銀部、金属メッシュパターン部又は金属配線パターン部)にカレンダー処理を施して平滑化する。これによって金属銀部62の導電性が顕著に増大する。カレンダー処理は、カレンダーロールにより行うことができる。カレンダーロールは通常一対のロールからなる。
【0111】
カレンダー処理に用いられるロールとしては、エポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等のプラスチックロール又は金属ロールが用いられる。特に、両面に乳剤層を有する場合は、金属ロール同士で処理することが好ましい。片面に乳剤層を有する場合は、シワ防止の点から金属ロールとプラスチックロールの組み合わせとすることもできる。線圧力の上限値は1960N/cm(200kgf/cm)、面圧に換算すると699.4kgf/cm)以上、さらに好ましくは2940N/cm(300kgf/cm、面圧に換算すると935.8kgf/cm2)以上である。線圧力の上限値は、6880N/cm(700kgf/cm)以下である。
【0112】
カレンダーロールで代表される平滑化処理の適用温度は10℃(温調なし)〜100℃が好ましく、より好ましい温度は、金属メッシュパターンや金属配線パターンの画線密度や形状、バインダー種によって異なるが、おおよそ10℃(温調なし)〜50℃の範囲にある。
【0113】
[蒸気接触処理]
カレンダー処理の直前あるいは直後に蒸気に接触させるとカレンダー処理による効果をより引き出すことができる。すなわち、導電性を著しく向上させることができる。使用する蒸気の温度は80℃以上が好ましく、100℃以上140℃以下がさらに好ましい。蒸気への接触時間は10秒から5分程度が好ましく、1分から5分がさらに好ましい。
【0114】
なお、本発明は、以下に記載の公開番号の技術と適宜組合わせて使用することができる。特開2004−221564号公報、特開2004−221565号公報、特開2007−200922号公報、特開2006−352073号公報、国際公開第2006/001461号パンフレット、特開2007−129205号公報、特開2008−251417号公報、特開2007−235115号公報、特開2007−207987号公報、特開2006−012935号公報、特開2006−010795号公報、特開2006−228469号公報、特開2006−332459号公報、特開2007−207987号公報、特開2007−226215号公報、国際公開第2006/088059号パンフレット、特開2006−261315号公報、特開2007−072171号公報、特開2007−102200号公報、特開2006−228473号公報、特開2006−269795号公報、特開2006−267635号公報、特開2006−267627号公報、国際公開第2006/098333号パンフレット、特開2006−324203号公報、特開2006−228478号公報、特開2006−228836号公報、特開2006−228480号公報、国際公開2006/098336号パンフレット、国際公開第2006/098338号パンフレット、特開2007−009326号公報、特開2006−336057号公報、特開2006−339287号公報、特開2006−336090号公報、特開2006−336099号公報、特開2007−039738号公報、特開2007−039739号公報、特開2007−039740号公報、特開2007−002296号公報、特開2007−084886号公報、特開2007−092146号公報、特開2007−162118号公報、特開2007−200872号公報、特開2007−197809号公報、特開2007−270353号公報、特開2007−308761号公報、特開2006−286410号公報、特開2006−283133号公報、特開2006−283137号公報、特開2006−348351号公報、特開2007−270321号公報、特開2007−270322号公報、国際公開第2006/098335号パンフレット、特開2007−088218号公報、特開2007−201378号公報、特開2007−335729号公報、国際公開第2006/098334号パンフレット、特開2007−134439号公報、特開2007−149760号公報、特開2007−208133号公報、特開2007−178915号公報、特開2007−334325号公報、特開2007−310091号公報、特開2007−311646号公報、特開2007−013130号公報、特開2006−339526号公報、特開2007−116137号公報、特開2007−088219号公報、特開2007−207883号公報、特開2007−207893号公報、特開2007−207910号公報、特開2007−013130号公報、国際公開第2007/001008号パンフレット、特開2005−302508号公報、特開2005−197234号公報。
【0115】
[変形例]
次に、本実施の形態に係る前面カバー10に使用される発熱体20の変形例について以下に説明する。
【0116】
第1変形例に係る発熱体は、金属細線22によるメッシュパターン24に代えて、多数のカーボンナノチューブが分散されたカーボンナノチューブ層を形成する。この場合、カーボンナノチューブの添加量や分散率は、発熱体20の表面抵抗が10オーム/sq以上500オーム/sq以下であって、且つ、発熱体20の電気抵抗が12オーム以上120オーム以下となるように調整することが好ましい。
【0117】
カーボンナノチューブとしては、例えば特許第3665969号公報に記載されたカーボンナノチューブの分散体を用いるようにしてもよい。
【0118】
すなわち、カーボンナノチューブは、直線及び湾曲多層カーボンナノチューブ(MWNT)、直線及び湾曲二層カーボンナノチューブ(DWNT)、直線及び湾曲単層カーボンナノチューブ(SWNT)、並びにこれらのカーボンナノチューブ形態の種々の組成物、米国特許第6,333,016号及び国際公開第01/92381号パンフレットに記載されるようなカーボンナノチューブの製造中に含まれる一般的な副産物を含む。カーボンナノチューブの外径は例えば0.5nm以上3.5nm未満を採用することができる。また、アスペクト比は10以上2000以下を採用することができる。
【0119】
上述したカーボンナノチューブの種類のうち、SWNTは、可撓性が高く、自然に凝集してカーボンナノチューブのロープを形成する。カーボンナノチューブ層中にSWNTのロープが形成されることによって、少ない含有量でも導電性が高く、このため優れた透明性が得られ低ヘイズ(曇価)となる。すなわち、少ないカーボンナノチューブ含有量で優れた導電性及び透明性が得られる。カーボンナノチューブ層中のカーボンナノチューブの含有量は、約0.001重量%以上約1重量%以下、好ましくは、約0.01重量%以上約0.1重量%以下である。
【0120】
カーボンナノチューブ層中に、カーボンナノチューブのほか、界面活性剤及び/あるいはポリマー材料を含むようにしてもよい。ポリマー材料は、天然又は合成のポリマー樹脂から選択することができる。ポリマー材料は、所望の用途における強度、構造、及び設計の必要性に応じて選択することができる。例えばポリマー材料は、熱可塑性樹脂、熱硬化性ポリマー、エラストマー、及びそれらの組み合わせからなる群より選択される材料を含むようにしてもよい。あるいはポリマー材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、スチレン樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、セルロース、ゼラチン、キチン、ポリペプチド、多糖類、ポリヌクレオチド、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン及びそれらの混合物からなる群より選択される材料を含むようにしてもよい。あるいはポリマー材料は、セラミック複合ポリマー、ホスフィンオキシド、及びカルコゲニドからなる群より選択される材料を含むようにしてもよい。
【0121】
カーボンナノチューブ層は容易に形成可能であり、アセトン、水、エーテル、及びアルコール等の溶媒中でのカーボンナノチューブ単独の分散体として例えば透明フイルム(40)に形成することができる。溶媒を風乾、加熱、減圧等の通常方法で除去して、所望のカーボンナノチューブ層を形成することができる。カーボンナノチューブ層は、吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パッド印刷、他の種類の印刷、又はロールコーティング等の他の公知の方法で適用することができる。
【0122】
また、カーボンナノチューブフイルム自体を、無機又は有機ポリマー材料でオーバーコーティングするようにしてもよい。もちろん、電荷の分散又は移動を速めるために、例えば酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンスズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(FZO)の層等のように導電性材料でオーバーコーティングした層を積層させてもよい。その他、酸化亜鉛(ZnO)層等のUV吸収性を付与する層や、ドープ酸化層、シリコン等でオーバーコーティングした層等を含めるようにしてもよい。
【0123】
上述したカーボンナノチューブ層は、可塑剤、軟化剤、充填剤、補強剤、加工助剤、安定剤、酸化防止剤、分散剤、バインダー、架橋剤、着色剤、UV吸収剤、又は電荷調整剤等の物質をさらに任意に含むことができる。
【0124】
また、上述したカーボンナノチューブ層は、別の導電性の有機材料、無機材料、あるいははこれらの材料の組み合わせをさらに含むことができる。導電性有機材料としては、バッキーボール、カーボンブラック、フラーレン、外径が約3.5nmを超えるカーボンナノチューブ、並びにそれらの組み合わせ及び混合物を含む粒子を挙げることができる。
【0125】
導電性無機材料としては、アルミニウム、アンチモン、ベリリウム、カドミウム、クロム、コバルト、銅、ドープ金属酸化物、鉄、金、鉛、マンガン、マグネシウム、水銀、金属酸化物、ニッケル、白金、銀、鋼、チタン、亜鉛、ならびにそれらの組み合わせ及び混合物の粒子を挙げることができる。好ましい導電性材料としては、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズ、フッ素ドープ酸化スズ、アルミニウムドープ酸化亜鉛、並びにそれらの組み合わせ及び混合物が挙げられる。その他、流体、ゼラチン、イオン性化合物、半導体、固体、界面活性剤、並びにそれらの組み合わせ及び混合物も含むことができる。
【0126】
第2変形例に係る発熱体は、金属細線22によるメッシュパターン24に代えて、直径2μm以下の多数の金属ナノ材料が分散された金属ナノ材料層を形成する。なお、金属ナノ材料は、直径1μm以下のものが好ましく、直径0.5μm以下のものがより好ましい。この場合も、金属ナノ材料の添加量や分散率は、発熱体の表面抵抗が10オーム/sq以上500オーム/sq以下であって、且つ、発熱体20の電気抵抗が12オーム以上120オーム以下となるように調整することが好ましい。なお、金属ナノ材料としては、金属ナノロッド、金属ナノワイヤ、金属ナノファイバー、金属ナノリボン、金属ナノベルトを含む。
【0127】
次に、本実施の形態に係る曲面状成形体150について図19〜図26を参照しながら説明する。
【0128】
この曲面状成形体150は、図19に一部省略して示すように、三次元曲面を有する透明性の基体152に、同じく三次元曲面を有する透明導電体154が具備されて構成されている。そして、この曲面状成形体150を照明装置156、基体152を透明性の照明カバー158とした場合、透明導電体154は、照明カバー158に埋め込まれた例えばEL素子160(エレクトロルミネッセンス素子)として構成される。
【0129】
このEL素子160は、図20に示すように、導電性フイルム162と、該導電性フイルム162上に誘電体層(図示せず)を介して積層された発光層164(蛍光体層等)と、発光層164上に誘電体層(図示せず)を介して積層されたアルミニウム等による背面電極166とを有する。図19及び図20の例では、導電性フイルム162が照明カバー158の凹部168の底部に対向し、背面電極166が外部に露出するようにして、EL素子160が照明カバー158に埋め込まれた例を示している。
【0130】
導電性フイルム162は、図21に示すように、透明フイルム40の一方の主面に導電性の金属細線22にて構成された多数の格子の交点を有するメッシュパターン24が形成され、さらに、このメッシュパターン24が形成された面(メッシュ面)に透明導電性樹脂(図示せず)が塗布されて構成されている。
【0131】
ここで、照明装置156の製造方法について図22〜図26を参照しながら説明する。
【0132】
先ず、図22に示すように、絶縁性の透明フイルム40上に導電性の金属細線22にて構成された多数の格子の交点を有するメッシュパターン24を形成し、さらに、メッシュ面に透明導電性樹脂を塗布することによって導電性フイルム162を得る。
【0133】
その後、図23に示すように、導電性フイルム162上に誘電体層(図示せず)を介して発光層164を積層し、該発光層164上に誘電体層(図示せず)を介して背面電極166を形成することによって平板状のEL素子160を得る。
【0134】
その後、図24Aに示すように、EL素子160を、照明カバー158の表面形状に合わせて曲面形状に真空成形する。この場合、照明カバー158を射出成形する際に使用される射出成形金型170(図26参照)とほぼ同じ寸法を有する成形用金型172を用いて真空成形する。図24Aに示すように、照明カバー158が例えば三次元曲面を有する場合、成形用金型172にも同様の曲面、この場合、反転した曲面が形成され、さらに、多数の吸引孔174が形成されている。例えば、照明カバー158に凹状の曲面が形成されている場合は、成形用金型172には凸状の曲面176が形成され、この凸状の曲面176が照明カバー158の凹状の曲面に嵌まり込む寸法関係となっている。
【0135】
そして、成形用金型172を用いたEL素子160の真空成形は、図24Aに示すように、例えばEL素子160を140〜210℃に予熱した後、図24Bに示すように、EL素子160を成形用金型172の凸状の曲面176に押し当て、成形用金型172から吸引孔174を介して真空に引き、EL素子160側から0.1〜2MPaの空気圧を付加して行うことができる。この真空成形によって、図25に示すように、照明カバー158と同様の曲面形状を有するEL素子160が完成する。その後、必要があれば、EL素子160の一部不要部分を切除する。
【0136】
その後、図26に示すように、EL素子160を、照明カバー158の射出成形金型170内に設置する。必要によっては、接着性を向上させるために、EL素子160と金型170の間に接着フイルムを挟んだり、EL素子160の表面に接着改良層をオーバーコートしてもよい。
【0137】
その後、射出成形金型170のキャビティ178内に溶融樹脂を注入し、硬化することによって、図19に示すように、照明カバー158にEL素子160が一体成形された照明装置156が完成する。
【0138】
なお、透明フイルム40上に金属細線22によるメッシュパターン24を形成する方法としては、上述した第1方法〜第4方法を好ましく採用することができる。
【0139】
本実施の形態に係る透明導電体154(上述の例ではEL素子160)においても、透明導電体154を5%延伸しても電気抵抗値の関係がRa≦(2×R0)を維持することから、透明導電体154は、真空成形後に曲面形状を呈することとなっても、局部的に抵抗値が上昇したり、低下するということがなく、ほぼ設計どおりの抵抗値分布を有することとなる。
【0140】
例えば上述した第1方法によって、銀塩乳剤層58を露光、現像してメッシュパターン24を形成した場合は、メッシュパターン24を15%延伸しても、上述した電気抵抗値の関係がRb≦(2×R0)を満足することから、曲率の大きい、例えば最小曲率半径が300mm以下の曲面形状であっても、断線することがなく、導電性の良好な曲面状成形体150を得ることができ、表示面が三次元曲面を有する表示装置や照明装置を低コストで実現することができる。
【0141】
図19の例では、全体的に曲面形状とされた照明カバー158の一部にEL素子160を設けた例を示したが、照明カバー158としては、一部に曲面形状を有し、その他の部分が平坦とされた形状も存在する。この実施の形態に係るEL素子160は、このような形状にも柔軟に対応させることができ、曲面部分の最小曲率半径が300mm以下の曲面形状に対しても対応させることができる。すなわち、曲面形状を有するEL素子160は、最小曲率半径が300mm以下であってもメッシュパターン24が断線するということはなく、様々な曲面形状を有する照明カバー158にも十分に対応させることができる。
【0142】
この導電性フイルム162においても、上述した第1変形例に係る発熱体と同様に、金属細線22によるメッシュパターン24に代えて、多数のカーボンナノチューブが分散されたカーボンナノチューブ層を形成するようにしてもよい。この場合、カーボンナノチューブの添加量や分散率は、導電性フイルム162の表面抵抗が10オーム/sq以上500オーム/sq以下であって、且つ、導電性フイルム162の電気抵抗が12オーム以上120オーム以下となるように調整することが好ましい。
【0143】
また、導電性フイルム162は、上述した第2変形例に係る発熱体と同様に、金属細線22によるメッシュパターン24に代えて、多数の金属ナノ材料が分散された金属ナノ材料層を形成する。この場合も、金属ナノ材料の添加量や分散率は、導電性フイルム162の表面抵抗が10オーム/sq以上500オーム/sq以下であって、且つ、導電性フイルム162の電気抵抗が12オーム以上120オーム以下となるように調整することが好ましい。
【実施例】
【0144】
以下に、本発明の実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例に示される材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0145】
〔第1実施例〕
本実施の形態の効果を確認するために、発熱体20を内蔵した実施例1に係る前面カバー及び参考例1に係る前面カバーを作製して、電極間距離と温度分布を測定した。
【0146】
(実施例1)
<メッシュパターン24の形成(銀塩乳剤層の露光・現像)>
水媒体中のAg(銀)60gに対してゼラチン7.5gを含む球相当径平均0.05μmの沃臭化銀粒子(I=2モル%)を含有する乳剤を調製した。この際、Ag/ゼラチンの体積比は1/1とし、ゼラチン種としては平均分子量2万の低分子量ゼラチンを用いた。
【0147】
また、この乳剤中にはK3Rh2Br9及びK2IrCl6を濃度が10-7(モル/モル銀)になるように添加し、臭化銀粒子にRhイオンとIrイオンをドープした。この乳剤にNa2PdCl4を添加し、さらに塩化金酸とチオ硫酸ナトリウムを用いて金硫黄増感を行った後、ゼラチン硬膜剤と共に、銀の塗布量が1g/m2となるようにポリエチレンテレフタレート(PET)上に塗布した。PETは、塗布前に予め親水化処理したものを用いた。乾燥させた塗布膜にライン/スペース=15μm/285μmの現像銀像を与え得る格子状のフォトマスク(ライン/スペース=285μm/15μm(ピッチ300μm)の、スペースが格子状であるフォトマスク)を介して紫外線ランプを用いて露光し、下記の現像液を用いて25℃で45秒間現像し、さらに定着液(スーパーフジフィックス:富士フイルム社製)を用いて現像処理を行った後、純水でリンスした。完成した透明フイルム40(メッシュパターン24が形成された透明フイルム40)の表面抵抗は40オーム/sqであった。
【0148】
[現像液の組成]
現像液1リットル中に、以下の化合物が含まれる。
【0149】
ハイドロキノン 0.037mol/リットル
N−メチルアミノフェノール 0.016mol/リットル
メタホウ酸ナトリウム 0.140mol/リットル
水酸化ナトリウム 0.360mol/リットル
臭化ナトリウム 0.031mol/リットル
メタ重亜硫酸カリウム 0.187mol/リットル
【0150】
<真空成形>
半径100mmの球面の一部を切り取った形状の直径110mmの成形用金型42(図6A及び図6B参照)を用いて、上述のメッシュパターン24が形成された透明フイルム40を真空成形した。この真空成形は、透明フイルム40を、195℃に加熱した熱板で、5秒間予備加熱(予熱)した後、直ちに成形用金型42に押し当て、成形用金型42側からは真空に引き、透明フイルム40側からは0.7MPaの空気圧を付加して行った。これによって、全体的に曲面形状を有する透明フイルム40が完成する。
【0151】
<第1電極26及び第2電極28の形成>
この曲面形状を有する透明フイルム40の対向する端部にそれぞれ幅12.5mm、長さ70mmの導電性銅テープ(第1銅テープ48a。株式会社スリオンテック製No.8701、以下同様。)を互いに凡そ平行になるように貼り、さらにこの第1銅テープ48aに対して直角方向に幅15mm、長さ25mmの導電性銅テープ(第2銅テープ48b)を先に貼った第1銅テープ48aと一部が重なるように貼って、一対の電極(第1電極26及び第2電極28)を形成した。
【0152】
<切除処理:発熱体20の作製>
メッシュパターン24、第1電極26及び第2電極28が形成され、且つ、曲面形状を有する透明フイルム40の周縁部を、図8の切断線L1に示すように、第1電極26及び第2電極28を残しながら成形形状に沿って切除し、投影形状が直径110mmの円形となるようにした。さらに、図8の切断線L2及びL3に示すように、第1電極26及び第2電極28を残しながら、両端の湾曲部41を20mmずつ切除することにより、図9に示すように、投影形状が略長方形状を有し、短辺部に第1電極26及び第2電極28を有する曲面形状の発熱体20Aを作製した。
【0153】
<射出成形:前面カバー10の作製>
図14に示すように、曲面形状を有する発熱体20を前面カバー10の射出成形金型50内に設置し、その後、射出成形金型50のキャビティ52内に、300℃で溶融したポリカーボネートを注入して、図27に示すように、厚さ2mmの実施例1に係る前面カバー10Aを作製した。射出成形金型50の温度は95℃、成形サイクルは60秒とした。
【0154】
(参考例1)
実施例1と同様に曲面形状を有する透明フイルム40を作製し、その後、幅12.5mm、長さ70mmの導電性銅テープ(第1銅テープ48a)を貼る代わりに、対向する円周に沿って導電性銅テープ102を貼って、約80mmずつの円弧状に第1電極26及び第2電極28を形成した。その後、透明フイルム40に対する両端の湾曲部41の切除を行わずに発熱体200A(投影形状が円形)を作製し、さらに、該発熱体200Aをインサート成形することによって、図28に示すように、参考例1に係る前面カバー100Aを作製した。
【0155】
(評価)
先ず、第1電極26と第2電極28間の距離(電極間距離)の最小値Lminと最大値Lmaxを確認し、さらに、以下の関係式から導き出されるパラメータPmを求めた。
Pm=(Lmax−Lmin)/((Lmax+Lmin)/2)
【0156】
ここで、実施例1における電極間距離の最大値Lmaxは、図27において、点Taと点Ta’との間の円弧(一点鎖線で示す線分であって、図面上、手前に向かって円弧を構成している。以下同様である。)の長さであり、70mmであった。電極間距離の最小値Lminは、点Tbと点Tb’との間の円弧の長さであり、66mmであった。また、パラメータPmの値は、上述の関係式から0.059であった。
【0157】
一方、参考例1における電極間距離の最大値Lmaxは、図28において、点Tcと点Tc’との間の円弧の長さであり、105mmであった。電極間距離の最小値Lminは、点Tdと点Td’との間の円弧の長さであり、50mmであった。また、パラメータPmの値は、上述の関係式から0.710であった。
【0158】
そして、実施例1に係る前面カバー10A、参考例1に係る前面カバー100Aの第1電極26及び第2電極28間に直流電圧を印加し、通電10分後のカバー表面温度分布を赤外線温度計で測定することにより、温度分布を確認した。本測定は室温20℃で行った。温度分布の測定結果を図29及び図30に示し、実測温度(最低温度、最高温度)、温度上昇幅(最小、最大、平均)の測定結果を表1に示す。図29は実施例1の温度分布を示し、図30は参考例1の温度分布を示す。
【0159】
【表1】

【0160】
実施例1は、最低温度と最高温度の差が5℃程度であり、また、温度上昇幅として、最小13℃、最大18℃、平均15.5℃が実現できており、平均で18℃温度上昇させる場合よりも、2.5℃ほどエネルギを低減でき、その分、省エネに有利であることがわかる。しかも、図29に示すように、発熱体の全体にわたって均一に発熱していることがわかる。
【0161】
参考例1は、最低温度と最高温度の差が20℃であって、実施例1よりも大きく、温度上昇幅の平均も23.0℃と大きく、最小13℃、最大33℃であり、ばらつきが実施例1よりも大きい。温度分布も図30に示すように、第1電極及び第2電極の端部近辺のみが発熱し、中央部分はほとんど発熱していないことがわかる。
【0162】
このように、Pm≦0.375を満足する実施例1は、満足しない参考例1と異なり、発熱体の全体にわたって均一に発熱することがわかる。
【0163】
[第2実施例]
次に、本実施の形態の効果を確認するために、発熱体を内蔵した実施例2〜5に係る前面カバー及び参考例2に係る前面カバーを作製して、電極間距離及び最低温度と最高温度の差を測定した。
【0164】
次に、実施例2〜5並びに参考例2について、最低温度と最高温度の差を確認した。実施例2〜5並びに参考例2は、いずれも半径100mmの球面の一部を切り取った形状の直径173mmの成形用金型42(図6A及び図6B参照)を用いて、上述した実施例1と同様にして、メッシュパターン24が形成された透明フイルム40を真空成形した。そして、図10に示すように、得られた曲面形状を有する透明フイルム40の周縁部を、切断線L1に示すように、成形形状に沿って切除して、投影形状が円形となるようにし、その後、切断線L2及びL3に沿って両端の湾曲部41を切除して、図31に示すように、実施例2〜5並びに比較例2に係る透明フイルム40を作製した。ここで、実施例2は幅W=60mm、実施例3は幅W=80mm、実施例4は幅W=90mm、実施例5は幅W=110mm、比較例2は幅W=130mmである。
【0165】
その後、図31に示すように、透明フイルム40の円周の外側に沿って幅15mmの導電性銅テープ(第1銅テープ48a)を互いに対向するように貼り付けて、第1電極26及び第2電極28を形成して発熱体とし、上述した実施例1と同様に射出成形して、実施例1〜5並びに比較例2に係るヒータ一体型の前面カバーをそれぞれ作製した。
【0166】
(評価)
この場合も、第1電極26と第2電極28間の距離(電極間距離)の最小値Lminと最大値Lmaxを確認し、さらに、以下の関係式から導き出されるパラメータPmを求めた。
Pm=(Lmax−Lmin)/((Lmax+Lmin)/2)
【0167】
ここで、実施例2〜5並びに比較例2における電極間距離の最大値Lmaxは、図31において、点Teと点Te’との間の円弧(図31上、手前に向かって円弧を構成している。以下同様である。)の長さであり、電極間距離の最小値Lminは、点Tfと点Tf’との間の円弧の長さである。表2の右側に、実施例2〜5並びに参考例2における電極間距離の最大値Lmin、最小値Lmin、パラメータPmの値を示す。
【0168】
そして、実施例2〜5に係る前面カバー、参考例2に係る前面カバーの第1電極26及び第2電極28間に直流電圧を印加し、通電10分後のカバー表面の温度分布を赤外線温度計で測定することにより、温度分布を確認した。本測定は室温20℃で行った。実測温度(最低温度、最高温度、温度差)の測定結果を表2の左側に示す。
【0169】
【表2】

【0170】
実施例2〜4は、最低温度と最高温度の温度差が5℃〜8℃程度であり、実施例5においても、温度差が12℃程度であった。これは、省エネに有利であると共に、発熱体の全体にわたって均一に発熱していることがわかる。これに対して、参考例2は、温度差が16℃となっており、発熱体の全体にわたって均一に発熱していないことがわかる。
【0171】
このように、Pm≦0.375を満足する実施例2〜5は、満足しない参考例2と異なり、発熱体の全体にわたって均一に発熱することがわかる。
【0172】
〔第3実施例〕
次に、本発明の第3実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。この第2実施例では、比較例11及び12、実施例11〜13について、延伸による抵抗値への影響、導電性、断線の有無を評価した。
【0173】
比較例11及び12、実施例11〜13において、真空成形、第1電極26及び第2電極28の形成、切除処理は、上述した実施例1と同じであるため、以下では、導電層21の形成を主体に説明する。なお、第2実施例では、射出成形は行わず、切除処理後の透明フイルム40について評価した。
【0174】
(比較例11)
透明フイルム40の主面に、ITO膜(Indium Tin Oxide)をスパッタにて形成することにより、ITO膜によるメッシュパターンを有する透明フイルム40を得た。
【0175】
(比較例12)
厚さ0.15mmのステンレス板の表面を清浄化した後、市販ネガ型フォトレジスト(東京応化株式会社製、商品名、KOR)を塗布、乾燥し、次いで、予め用意しておいたメッシュパターンを密着露光し、次いで、現像乾燥して、電着基板を作製した。
【0176】
その後、上記電着基板を、銅メッキ浴に入れ、電着基板を陰極とし、銅板を陽極として、電着基板のレジスト不在部分に銅電着した。
【0177】
その後、上記電着物を透明基板に転写するために、厚さ5mmの透明アクリル基板面に、光硬化性の接着剤を予め約1μmの厚さに均一に塗布した。上記光硬化性の接着剤は、アクリレ−トモノマーと光重合開始剤を主成分とし、ここでは、アクリレートモノマーとして、2−エチルヘキシルアクリレ−トや1.4−ブタンジオ−ルアクリレ−トなどを用い、光重合開始剤として、ベンゾイルパ−オキサイドを使用した。
【0178】
次いで、電着済みの基板と、光硬化性接着剤塗布のアクリル基板とを均一に圧着した後、アクリル基板側から紫外線を照射した。この場合、電着銅との接着性は良好であるが、絶縁性レジストとの接着力は弱いことから、ステンレスの電着基板をゆっくり引き剥がすことで、電着銅は全部、透明基板側に転移し、これにより、電着銅によるメッシュパターンが形成された透明フイルム40を得た。
【0179】
(実施例11)
上述した実施例1と同じであるため、ここではその説明を省略する。
【0180】
(実施例12)
導電層21として厚さ10μmの銅箔を用い、該銅箔と、厚さが100μmのPETフイルムA4300(東洋紡績社製、ポリエチレンテレフタレート商品名)とを、ポリウレタン系接着剤でラミネートした後に、56℃で4日間エージングした。接着剤としては主剤タケラックA−310と硬化剤A−10(いずれも武田薬品工業社製、商品名)を用い、塗布量は乾燥後の厚さで7μmとした。
【0181】
フォトリソグラフイ法によるメッシュパターンの形成は、連続した帯状でマスキングからエッチングまでを行う製造ラインを流用した。まず、銅箔の表面全体にカゼインレジストを掛け流し法で塗布した。次に、上述した実施例1と同様のメッシュパターン24に従ったパターン版を用いて、密着露光した。その後、水現像し、硬膜処理し、さらに、100℃でベーキングした。
【0182】
さらに、エッチング液として30℃、42゜ボーメの塩化第二鉄溶液を用いて、スプレイ法で吹きかけてエッチングし、開口部を形成した。その後、水洗し、レジストを剥離し、洗浄し、さらに、100℃で乾燥して、銅箔によるメッシュパターン24が形成された透明フイルム40を得た。
【0183】
(実施例13)
コロナ放電処理したPETフイルム(厚さ100μm)に下記易接着層−1(a)及び易接着層−2(b)を順次形成し、それぞれ180℃、4分間乾燥した。次いで、下記カーボンナノチューブ層(c)を形成した後、水洗して分散剤のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを除去した。この上に下記オーバーコート層(d)を形成し、180℃、40分間乾燥した。このようにして、導電層としてカーボンナノチューブ層を有する透明フイルム40を得た。この導電層の表面抵抗は320オーム/sqであった。
【0184】
(a)易接着層−1
ポリマーラテックス 160mg/m2
(スチレン/ブタジエン/ヒドロキシエチルメタクリレート/ジビニルベンゼン=67/30/2.5/0.5(重量%):Tg=20℃)
2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン 4mg/m2
マット剤(ポリスチレン、平均粒径2.4μm) 3mg/m2
【0185】
(b)易接着層−2
アルカリ処理ゼラチン(Ca++含量30ppm、ゼリー強度230g)
50mg/m2
下記化合物 10mg/m2
【0186】
【化1】

【0187】
(c)カーボンナノチューブ層
カーボンナノチューブ 12mg/m2
(Carbon Nanotechnologies Inc.製SWNT)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 48mg/m2
【0188】
(d)オーバーコート層
ジュリマーET−410(日本純薬(株)製:Tg=52℃)
38mg/m2
マット剤(ポリメチルメタクリレート、平均粒子径5μm)
7mg/m2
デナコールEX−614B(ナガセ化成工業(株)製) 13mg/m2
【0189】
(評価)
評価内容は、延伸率、成形後の導電性、成形後の断線の有無である。
【0190】
延伸率は、透明フイルム40を幅10mm、長さ200mmに切り出し、その両端から20mmの位置に5mmの銅箔をフイルム幅全体にそれぞれ貼りつけ、一対の電極とする。電極間距離は150mmにする。東洋精機製作所製の引っ張り試験機ストログラフVE5Dを用いて、フイルムの両端をチャックでそれぞれ固定する。チャック間距離は170mmである。両電極間の電気抵抗を連続して測定しながら毎分2mmの速度で引っ張り、延伸率と電気抵抗変化を測定した。
【0191】
成形後の導電性は、導電層21の表面抵抗が10オーム/sq以上500オーム/sq以下にある場合を○、この範囲から逸脱している場合を×とした。
【0192】
成形後の断線の有無は、肉眼で確認した。導電層21のほとんどの領域で断線が生じていれば×、一部のみ生じていれば△、まったく生じていなければ○とした。
【0193】
評価結果を表3に示す。
【0194】
【表3】

【0195】
表3から、比較例11及び12は共に、延伸率が5%未満であり、曲面形状に成形することができないことがわかる。また、成形後の導電性も悪く、ほとんどの領域で断線が見られた。
【0196】
一方、実施例11(銀塩乳剤層)及び13(カーボンナノチューブ層)は共に、延伸率が25%以上となっており、成形後の導電性も良好で、成形後の断線もないことから、曲率の大きい、例えば最小曲率半径が300mm以下の曲面形状であっても、断線することなく、しかも、局部的に抵抗値が上昇したり、低下するということがなく、ほぼ設計どおりの抵抗値分布を有する発熱体20を得ることができることがわかる。なお、実施例12(銅箔)は、延伸率が11%で、成形後の導電性も良好であったが、一部において断線が見られた。
【0197】
〔第4実施例〕
次に、本発明の第4実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。この第4実施例では、実施例21〜28、比較例21〜25に係るEL素子について、銀塩乳剤層の銀/バインダーの体積比の違いによる表示状態への影響の有無を評価した。実施例21〜28、比較例21〜25の内訳並びに評価を表4に示す。
【0198】
(実施例21)
[導電性フイルムの作製]
銀塩乳剤層の塗布銀量を10g/m2、銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を2/1とし、バインダーとしてフタル化ゼラチンを使用し、銀塩乳剤層を露光・現像処理して得られる金属細線に対してカレンダー処理及び蒸気接触処理を行ったこと以外は、上述した実施例1と同様にして、透明フイルムにメッシュパターンを形成し、その後、メッシュパターンが形成された面に、ティーエーケミカル株式会社(TA Chemical Co.)製の導電性ポリマーBaytron PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)を平方メートル当たり0.5ml塗布して乾燥することによって、導電性フイルムを作製した。
【0199】
[蛍光体粒子Aの作製]
平均粒子径20nmの硫化亜鉛(ZnS)粒子粉末25gと、硫酸銅をZnSに対し、0.07モル%添加した乾燥粉末に、融剤としてNaCl及びMgClと塩化アンモニウム(NH3Cl)粉末を適量、並びに酸化マグネシウム粉末を蛍光体粉末に対し20質量%、アルミナ製ルツボに入れて1200℃で3.5時間焼成した後、降温した。その後、粉末を取り出し、ボールミルにて粉砕分散し、さらに、ZnCl25gと硫酸銅をZnSに対し0.10モル%添加した後、MgCl2を1g加えて、乾燥粉末を作製し、再度アルミナ製ルツボに入れて700℃で6時間焼成した。このときの雰囲気として、10%の硫化水素ガスをフローさせながら焼成を行った。
【0200】
焼成後の粒子を再度粉砕し、40℃のH2Oに分散・沈殿、上澄み除去を行って洗浄した後、塩酸10%液を加えて分散・沈殿、上澄み除去を行い、不要な塩を除去して乾燥させた。さらに、10%のKCN溶液を70℃に加熱して表面のCuイオン等を除去した。次いで、6モル/リットルの塩酸で粒子全体の10質量%に相当する表面層をエッチング除去した。このようにして得られた粒子をさらに篩いにかけて、小サイズの粒子を取り出した。
【0201】
このようにして得られた蛍光体粒子は、平均粒径が10.3μm、変動係数が20%であった。また、すり鉢で粒子を粉砕し、厚みが0.2μm以下の砕片を取り出して、200kVの加速電圧条件で、その電子顕微鏡観察を行ったところ、砕片粒子の少なくとも80%以上が5nm間隔以下の積層欠陥を10枚以上有する部分を含み、500nmに発光ピークを有する青緑色を示した。
【0202】
[蛍光体粒子Bの作製]
平均粒子径20nmの硫化亜鉛(ZnS)粒子粉末25gと、硫酸銅と炭酸マンガンをZnSに対し、それぞれ0.08モル%と0.2モル%添加した乾燥粉末を用意し、それ以外は、蛍光体粒子Aの作製条件と同様にして、1200℃で3.5時間焼成した。これ以降の工程は、蛍光体粒子Aの作製工程と同様にして蛍光体粒子Bを作製した。
【0203】
このようにして得られた蛍光体粒子Bは、平均粒径が9.3μm、該粒子の砕片の少なくとも85%以上が5nm以下の間隔で10層以上の積層欠陥を有し、オレンジ色の発光を示した。
【0204】
[EL素子の作製]
平均サイズが0.02μmのBaTiO3微粒子を30wt%のシアノレジン液に分散し、誘電体層の厚みが25μmになるように厚み75μmのアルミシート(背面電極)上に塗布し、温風乾燥機を用いて120℃で1時間乾燥した。
【0205】
上記蛍光体粒子A、Bを発光色がCIE色度座標でx=3.3±0.2、y=3.4±0.2となるような割合で混合し、30wt%濃度のシアノレジン液に分散し、先に作製したEL素子用の導電性フイルム(10cm×10cm)の基板上に、蛍光体層の厚みが20μmになるように、誘電体層上に塗布した。その後、温風乾燥機を用いて120℃で1時間乾燥した。この段階で、平板状のEL素子が作製される。
【0206】
そして、導電性フイルムと背面電極からそれぞれ厚み80μmの銅アルミシートを用いて外部接続用の端子を取り出した後、EL素子を、2枚のナイロン6からなる吸水性シートと2枚のSiO2層を有する防湿フイルムで挟んで熱圧着した。
【0207】
[真空成形]
成形用金型172(図24A及び図24B参照)を用いて、上述の平板状のEL素子160を真空成形した。この真空成形は、EL素子160を、195℃に加熱した熱板で、5秒間予備加熱(予熱)した後、直ちに成形用金型172に押し当て、成形用金型172側からは真空に引き、EL素子160側からは0.7MPaの空気圧を付加して行った。これによって、全体的に曲面形状を有するEL素子(実施例21)が完成する。
【0208】
(実施例22)
銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を3/1としたこと以外は、上述の実施例21と同様にして、実施例22に係るEL素子を作製した。
【0209】
(実施例23)
銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を4/1としたこと以外は、上述の実施例21と同様にして、実施例23に係るEL素子を作製した。
【0210】
(実施例24)
銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を6/1としたこと以外は、上述の実施例21と同様にして、実施例24に係るEL素子を作製した。
【0211】
(実施例25)
銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を1/2とし、カレンダー処理及び蒸気接触処理を行わなかったこと以外は、上述の実施例21と同様にして、実施例25に係るEL素子を作製した。
【0212】
(実施例26)
銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を1/1.5とし、カレンダー処理及び蒸気接触処理を行わなかったこと以外は、上述の実施例21と同様にして、実施例26に係るEL素子を作製した。
【0213】
(実施例27)
銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を1/1とし、カレンダー処理及び蒸気接触処理を行わなかったこと以外は、上述の実施例21と同様にして、実施例27に係るEL素子を作製した。
【0214】
(実施例28)
銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を1.5/1とし、カレンダー処理及び蒸気接触処理を行わなかったこと以外は、上述の実施例21と同様にして、実施例28に係るEL素子を作製した。
【0215】
(比較例21)
銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を1/1としたこと以外は、上述の実施例21と同様にして、比較例21に係るEL素子を作製した。
【0216】
(比較例22)
銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を7/1としたこと以外は、上述の実施例21と同様にして、比較例22に係るEL素子を作製した。
【0217】
(比較例23)
銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を1/3とし、カレンダー処理及び蒸気接触処理を行わなかったこと以外は、上述の実施例21と同様にして、比較例23に係るEL素子を作製した。
【0218】
(比較例24)
銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を2/1とし、カレンダー処理及び蒸気接触処理を行わなかったこと以外は、上述の実施例21と同様にして、比較例24に係るEL素子を作製した。
【0219】
(比較例25)
銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を3/1とし、カレンダー処理及び蒸気接触処理を行わなかったこと以外は、上述の実施例21と同様にして銀塩乳剤液を調製したが、凝集物が非常に多く液をろ過できなかった。つまり、導電性フイルムは作製不能であった。
【0220】
[評価]
先ず、真空成形前の平板状のEL素子160の導電性フイルム162と背面電極166間に駆動電圧を印加して、予め設定された最大輝度にて全面を白色発光で表示させ、照度計を用いて平均照度のばらつきを測定した。具体的には、表示面全体に測定点の位置がくまなく配置するように、全体で30点の測定点を設定し、各測定点での照度を照度計を用いて測定し、30点の測定結果から平均照度を算出した。そして、平均照度が、予め設定された最大平均照度に対して5%以内であれば、表示状態が良好(◎)と判定し、5%を超え、10%以下であれば、表示状態がやや良好(○)と判定し、10%を超え、20%以下であれば、表示状態がやや不良(△)と判定し、20%を超えていれば、表示状態が不良(△)と判定した。表示状態の不良は、導電性フイルム162の表面抵抗が高かったり、メッシュパターン24に断線が生じていた場合に生じる。
【0221】
次いで、真空成形によって曲面形状に成形されたEL素子160の導電性フイルム162と背面電極166間に駆動電圧を印加して、予め設定された最大輝度にて全面を白色発光で表示させ、上述と同様にして照度計を用いて平均照度のばらつきを測定して、表示状態を判定した。
【0222】
判定結果を表4に示す。
【0223】
【表4】

【0224】
評価結果から、比較例21は真空成形前のEL素子(平板状)の表示状態は良好であったが、真空成形後のEL素子(曲面状)の表示状態は不良であった。これは、蒸気接触によってバインダーが溶出し銀塩乳剤層がもろくなって曲面成形時に銀線に断線を生じたためと推定される。比較例22は、真空成形前のEL素子(平板状)の表示状態はやや不良で、真空成形後のEL素子(曲面状)の表示状態は不良であった。これは銀/バインダー体積比率を増やしすぎると銀塩乳剤層の分散が難しくなり、分散不良をおこして銀塩乳剤層が柔軟性を失ったためと推定している。
【0225】
一方、カレンダー処理及び蒸気接触を行わない例の評価結果からは、銀/バインダー体積比率の少ない比較例23は、フイルムの導電性が低いため真空成形前のEL素子の表示状態が既にやや不良となった。真空成形した後も表示状態は成形前と同じであった。銀/バインダー体積比率を増やしていくと銀塩乳剤中に凝集物が生成しやすくなるため、比較例24では真空成形前からEL素子の表示はやや不良となり、これを真空成形すると銀線が断線して不良となった。
【0226】
このことから、銀塩乳剤を露光・現像処理して得られる金属細線をカレンダー処理や蒸気接触処理する場合は、銀/バインダー体積比率を2/1以上とすることが好ましく、2/1〜6/1とすることがより好ましく、2/1〜4/1にすることがさらに好ましい。また、銀塩乳剤を露光・現像処理して得られる金属細線をカレンダー処理や蒸気接触処理をしない場合は、銀/バインダー体積比率を2/1未満とすることが好ましく、1/2〜1.5/1とすることがより好ましく、1/1.5〜1.5/1にすることがさらに好ましい。
【0227】
〔第5実施例〕
次に、本発明の第5実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。この第5実施例では、実施例31〜38、比較例31〜35に係るEL素子について、銀塩乳剤層の塗布銀量の違いによる表示状態への影響の有無を評価した。実施例31〜38、比較例31〜35の内訳並びに評価を表5に示す。
【0228】
(実施例31)
銀塩乳剤層の塗布銀量を5g/m2とし、Bytron PEDOTの代わりにアンチモンドープ酸化スズ(石原産業製 SN100P)を0.42g/m2塗布した以外は、上述した実施例21と同様にして、実施例31に係るEL素子を作製した。
【0229】
(実施例32)
銀塩乳剤層の塗布銀量を7.5g/m2としたこと以外は、上述の実施例31と同様にして、実施例32に係るEL素子を作製した。
【0230】
(実施例33)
銀塩乳剤層の塗布銀量を15g/m2としたこと以外は、上述の実施例31と同様にして、実施例33に係るEL素子を作製した。
【0231】
(実施例34)
銀塩乳剤層の塗布銀量を20g/m2としたこと以外は、上述の実施例31と同様にして、実施例34に係るEL素子を作製した。
【0232】
(実施例35)
銀塩乳剤層の塗布銀量を6g/m2、銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を1/1とし、カレンダー処理及び蒸気接触処理を行わなかったこと以外は、上述の実施例31と同様にして、実施例35に係るEL素子を作製した。
【0233】
(実施例36)
銀塩乳剤層の塗布銀量を7.5g/m2、銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を1/1とし、カレンダー処理及び蒸気接触処理を行わなかったこと以外は、上述の実施例31と同様にして、実施例36に係るEL素子を作製した。
【0234】
(実施例37)
銀塩乳剤層の塗布銀量を10g/m2、銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を1/1とし、カレンダー処理及び蒸気接触処理を行わなかったこと以外は、上述の実施例31と同様にして、実施例37に係るEL素子を作製した。
【0235】
(実施例38)
銀塩乳剤層の塗布銀量を15g/m2、銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を1/1とし、カレンダー処理及び蒸気接触処理を行わなかったこと以外は、上述の実施例31と同様にして、実施例38に係るEL素子を作製した。
【0236】
(比較例31)
銀塩乳剤層の塗布銀量を3g/m2としたこと以外は、上述した実施例31と同様にして、比較例31に係るEL素子を作製した。
【0237】
(比較例32)
銀塩乳剤層の塗布銀量を4g/m2としたこと以外は、上述した実施例31と同様にして、比較例32に係るEL素子を作製した。
【0238】
(比較例33)
銀塩乳剤層の塗布銀量を25g/m2としたこと以外は、上述の実施例31と同様にして、比較例33に係るEL素子を作製した。
【0239】
(比較例34)
銀塩乳剤層の塗布銀量を4g/m2、銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を1/1とし、カレンダー処理及び蒸気接触処理を行わなかったこと以外は、上述の実施例31と同様にして、比較例34に係るEL素子を作製した。
【0240】
(比較例35)
銀塩乳剤層の塗布銀量を5g/m2、銀塩乳剤層中の銀/バインダーの体積比率を1/1とし、カレンダー処理及び蒸気接触処理を行わなかったこと以外は、上述の実施例31と同様にして、比較例35に係るEL素子を作製した。
【0241】
[評価]
上述した第3実施例(実施例21等)と同様に、先ず、真空成形前の平板状のEL素子160の導電性フイルム162と背面電極166間に駆動電圧を印加して、予め設定された最大輝度にて全面を白色発光で表示させ、照度計を用いて平均照度のばらつきを測定し、その後、真空成形によって曲面形状に成形されたEL素子160の導電性フイルム162と背面電極166間に駆動電圧を印加して、予め設定された最大輝度にて全面を白色発光で表示させ、上述と同様にして照度計を用いて平均照度のばらつきを測定して、表示状態を判定した。
【0242】
判定結果を表5に示す。
【0243】
【表5】

【0244】
評価結果から、塗布銀量が4g/m2以下と少ない比較例31、32、34、35は導電性が不足しているため、真空成形する前のEL素子の表示状態が既に不良あるいはやや不良であった。塗布銀量を25g/m2まで多くした比較例33では、真空成形前のEL素子の表示状態は良好であるが、銀線が厚くなりすぎて可撓性が損なわれたため、真空成形により断線して表示状態が不良になったと推定される。
【0245】
このことから銀塩乳剤層の塗布銀量は5g/m2以上であることが好ましく、7.5g/m2以上20g/m2以下であることがより好ましい。また、銀は高価であるため、性能が達成できるならばその使用量は少ないほうが好ましいことは言うまでもない。
【0246】
なお、第4実施例及び第5実施例に係るEL素子が、特許請求の範囲の請求項1の要件を満たすことを第1実施例〜第3実施例に係る発熱体と同様の方法で確認した。
【0247】
本発明に係る曲面状成形体及びその製造方法並びに車両灯具用前面カバー及びその製造方法は、上述の実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【符号の説明】
【0248】
10、10A…前面カバー 12…ランプボディ
14…光源 16…車両用灯具
18…カバー本体 20…発熱体
22…金属細線 24…メッシュパターン
26…第1電極 28…第2電極
30…投影形状 40…透明フイルム
42、172…成形用金型 50、170…射出成形金型
58…銀塩乳剤層 62…金属銀部
66…導電性金属 68…銅箔
74…ペースト 150…曲面状成形体
152…基体 154…透明導電体
156…照明装置 158…照明カバー
160…EL素子 162…導電性フイルム
164…発光層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元曲面を有する透明性の基体に透明導電体が具備された曲面状成形体において、
前記透明導電体は、該透明導電体を延伸する前の電気抵抗値(初期値)をR0、前記透明導電体を5%延伸したときの電気抵抗値をRaとしたとき、
Ra≦(2×R0)
を維持することを特徴とする曲面状成形体。
【請求項2】
請求項1記載の曲面状成形体において、
前記透明導電体は、該透明導電体を15%延伸したときの電気抵抗値をRbとしたとき、
Rb≦(2×R0)
を満足することを特徴とする曲面状成形体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の曲面状成形体において、
前記透明導電体は、直径2μm以下の金属ナノ材料がランダムに分散され、互いに交差して導通してなることを特徴とする曲面状成形体。
【請求項4】
請求項1又は2記載の曲面状成形体において、
前記透明導電体は、カーボンナノチューブがランダムに分散され、互いに交差して導通してなることを特徴とする曲面状成形体。
【請求項5】
請求項1又は2記載の曲面状成形体において、
前記透明導電体は、ハロゲン化銀を含有する銀塩乳剤層を露光し、現像処理することによって形成される多数の連通した金属細線を有し、
前記金属細線の幅が1μm以上40μm以下であり、
前記金属細線の配置間隔が0.1mm以上50mmであることを特徴とする曲面状成形体。
【請求項6】
請求項5記載の曲面状成形体において、
前記銀塩乳剤層への塗布銀量が1〜20g/m2であることを特徴とする曲面状成形体。
【請求項7】
請求項5記載の曲面状成形体において、
前記銀塩乳剤層の銀/バインダーの体積比率が2/1以上であることを特徴とする曲面状成形体。
【請求項8】
請求項5記載の曲面状成形体において、
前記銀塩乳剤層の銀/バインダーの体積比率が2/1未満であることを特徴とする曲面状成形体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の曲面状成形体において、
前記透明導電体の表面抵抗が10オーム/sq以上500オーム/sq以下であることを特徴とする曲面状成形体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の曲面状成形体において、
前記透明導電体の電気抵抗が12オーム以上120オーム以下であることを特徴とする曲面状成形体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の曲面状成形体において、
前記透明導電体は、最小曲率半径が300mm以下であることを特徴とする曲面状成形体。
【請求項12】
請求項1記載の曲面状成形体において、
前記透明導電体は、複数の金属細線を有し、前記金属細線が水平方向及び上下方向に並んでおり、且つ、水平方向の金属細線の配置間隔が上下方向の金属細線の配置間隔の2倍以上であることを特徴とする曲面状成形体。
【請求項13】
請求項1記載の曲面状成形体において、
前記透明導電体は、複数の金属細線を有し、前記金属細線が上下方向のみに並んでいることを特徴とする曲面状成形体。
【請求項14】
三次元曲面を有する透明性の基体に透明導電体が具備された曲面状成形体の製造方法において、
前記透明導電体を作製する透明導電体作製工程と、
前記透明導電体を金型内に設置し、前記金型内に溶融樹脂を射出する工程とを有し、
前記透明導電体作製工程は、
絶縁性の透明フイルム上に延伸性を有する導電層を形成する工程と、
前記導電層が形成された前記透明フイルムを前記基体の表面形状に合わせて三次元曲面に成形する工程とを有することを特徴とする曲面状成形体の製造方法。
【請求項15】
ランプボディと、ランプボディ内に設けられた光源とを有する車両用灯具の前面開口部に組み付けられる車両灯具用前面カバーにおいて、
前記光源と対向した表面の一部の略矩形領域に、発熱体を具備し、
前記発熱体は、該発熱体を延伸する前の電気抵抗値(初期値)をR0、前記発熱体を5%延伸したときの電気抵抗値をRaとしたとき、
Ra≦(2×R0)
を維持することを特徴とする車両灯具用前面カバー。
【請求項16】
請求項15に記載の車両灯具用前面カバーにおいて、
前記発熱体は、
両端部に第1電極及び第2電極を有し、
前記第1電極及び前記第2電極の互いに対向する2点間距離の最小値をLmin、最大値をLmaxとしたとき、
(Lmax−Lmin)/((Lmax+Lmin)/2)≦0.375
を満足することを特徴とする車両灯具用前面カバー。
【請求項17】
ランプボディと、ランプボディ内に設けられた光源とを有する車両用灯具の前面開口部に組み付けられる車両灯具用前面カバーの製造方法において、
前記車両灯具用前面カバーは、前記光源と対向する表面の一部に発熱体を有するものであって、
前記発熱体を作製する発熱体作製工程と、
前記発熱体を金型内に設置し、前記金型内に溶融樹脂を射出する工程とを有し、
前記発熱体作製工程は、
絶縁性の透明フイルム上に延伸性を有する導電層を形成する工程と、
前記導電層が形成された前記透明フイルムを前記車両灯具用前面カバーの表面形状に合わせて三次元曲面に成形する工程と、
前記透明フイルムの対向する両端部に第1電極及び第2電極を形成する電極形成工程と、
三次元曲面に成形された前記透明フイルムの一部を切除する切除工程とを有することを特徴とする車両灯具用前面カバーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2010−45014(P2010−45014A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98029(P2009−98029)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】