説明

最小吸気量によるエンジン始動制御方法

【課題】 燃料節約型車輌やハイブリッド車に於ける如くエンジンが車輌の運行中頻繁に一時停止された後再始動される際のクランキングを可能な限り静粛化する。
【解決手段】 エンジンクランキングに際し、複数の気筒の各々に於けるピストンストローク当りの吸入空気量を着火発生可能な最小量に設定する。この設定はバルブタイミング可変設定機構による吸気弁の閉じ位相やリフトの設定によってなされてよく、またエンジンの一時停止直前に行なわれてよい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車等の車輌のエンジンに係り、特にその始動運転の制御に関する改良に係る。
【0002】
【従来の技術】上記用途のエンジンに於いて、その出力の制御やアイドル安定性の向上を図る目的で、その吸気弁の開閉のタイミングやリフトを可変に調節することは、VVT(Variable Valve Timing)の技術として、既に古くから種々の態様にて実施されている。また、かかるVVTの機構を備えたエンジンに於いて、エンジン始動時にはVVT機構により吸気弁の閉じ位相を最遅角位置に設定し、エンジン始動時の吸気の圧縮比を下げ、エンジン始動用モータによるクランキングを楽にすることも、特開平10−227236号公報に記載されている。
【0003】上記公報に記載のようにエンジン始動時にVVT機構により吸気弁の閉じ位相を最遅角位置に設定することは、確かに気筒内への実効吸入空気量を下げ、それだけモータによるエンジン始動時のクランキングを楽にする。しかし、ここでVVT機構が吸気弁の閉じ位相をその最遅角位置まで遅らせたとき気筒内に装填される空気量は、ピストンストローク当りの吸入空気量として、クランキングによるエンジン着火(或は点火)の発生を可能にする最小量とは限らない。尚、ここで着火或は点火とは、エンジンが完爆(所謂、自爆)して自ら回転可能な状態になることである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】往復動ピストン式のエンジンには、ピストンストローク当りの吸入空気量として、クランキングによるエンジン着火の発生を可能にする最小量が必ずある筈である。その値は、勿論、エンジンの温度状態、吸気の温度および空燃比、燃料の質、点火時期、クランキングの回転数、その他のパラメータによって変化するであろう。しかし、凡そ、上記のエンジンの温度状態、吸気の温度および空燃比、燃料の質、点火時期、クランキングの回転数程度のパラメータに基づけば、クランキングによるエンジン着火の発生を可能にするピストンストローク当り吸入空気量の最小値は、マイクロコンピュータを用いて瞬時に求めることができる。そして、エンジンの各気筒がかかる最小量の空気の装填を以ってクランキングされれば、エンジンは可能な限り最も静粛にクランキングにより始動(クランクアップ)される筈である。可能な限り静粛なエンジンクランクアップは、燃料資源の節約と環境保全の必要から近年急速に注目を集めつつある燃料節約型車輌やハイブリッド車に於いて、車輌の運行中頻繁にエンジンクランキングが行なわれることから、特に有意義である。
【0005】本発明は、エンジンのクランキングによる始動にはピストンストローク当りの吸入空気量として着火の発生を可能にする最小値があり、現在のコンピュータによるエンジン制御技術によればそのような最小値の算出と実行は可能であり、それが燃料節約型車輌やハイブリッド車に於いて多大の意義を有することに着目し、そのような観点からエンジンの始動制御を更に改良することを課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決すべく、本発明は、エンジンの始動運転を制御する方法にして、複数の気筒の各々に於けるピストンストローク当りの吸入空気量を着火発生可能な最小量に設定することを特徴とする方法を提案するものである。
【0007】上記のエンジン始動運転制御方法に於いて、前記の着火発生可能最小ピストンストローク当り吸入空気量の設定は、バルブタイミング可変設定機構による吸気弁閉じ位相の設定により行なわれてよい。
【0008】或いはまた、上記のエンジン始動運転制御方法に於いて、前記の着火発生可能最小ピストンストローク当り吸入空気量の設定は、バルブリフト可変設定機構による吸気弁リフトの設定により行なわれてよい。
【0009】更にまた、上記のエンジン始動運転制御方法に於いて、前記の着火発生可能最小ピストンストローク当り吸入空気量の設定は、該複数の気筒の各々に於けるピストンストローク当り吸入空気量を互いに等しくすることを含んでいてよい。
【0010】更にまた、上記のエンジン始動運転制御方法に於いて、前記の着火発生可能最小ピストンストローク当り吸入空気量の設定はエンジンが停止される直前に行なわれてよい。
【0011】
【発明の作用及び効果】上記の通り、往復動ピストン式のエンジンには、ピストンストローク当りの吸入空気量として、クランキングによるエンジン着火の発生を可能にする最小量が必ずある筈であるから、エンジンの始動に当たって、その都度、複数の気筒の各々に於けるピストンストローク当りの吸入空気量をそのような着火発生可能最小量に設定すれば、エンジンはクランキングに対し着火発生可能な限度にて最小の不均一回転抵抗を呈しつつ可能な限り最も静粛にクランクアップされる。エンジンが一旦着火を開始すれば、その後のエンジン回転の滑らかさの如何は、最早モータによるクランキングの滑らかさとは全く別の問題であり、それについてはそれなりに各種最適の対策がとられればよい。
【0012】上記の如くエンジンクランキング時の各気筒に於けるピストンストローク当りの吸入空気量を着火発生可能な最小量に設定することは、その設定値さえ決まれば、既存のバルブタイミング可変設定機構による吸気弁閉じ位相の設定、または吸気弁リフトの設定、或はこれら両者の併用により容易に行なえる。この場合、設定値の決定は、上記の如くそれを左右するパラメータがエンジンの温度状態、吸気の温度および空燃比、燃料の質、点火時期、クランキングの回転数程度で十分であることから、これらのパラメータを変数とする適当なマップを実験に基づいて作成しておくことにより、設計上の事項として行なえ、またマイクロコンピュータを用いて瞬時に達成される。
【0013】本発明は、上記の通り燃料節約型車輌やハイブリッド車に有意義なものであるが、これらの車輌に於いては、燃料節約のため、エンジン負荷が低いときや車輌の減速時に、複数の気筒の内のいくつかの作動を停止させる気筒数制御が行なわれる場合がある。かかる気筒数制御が行なわれ、作動する気筒の数が減っている状態で車輌が一時停車し、エンジンもまた一時停止されたとき、そのままエンジンが再始動されると、クランキングにより順次生ずる圧縮行程のタイミングに不規則が生じ、それが振動の原因となる。この点に於いて、上記の如く着火発生可能最小ピストンストローク当り吸入空気量の設定は、複数の気筒の各々に於けるピストンストローク当り吸入空気量を互いに等しくすることを含んでいれば、これに基づいて、たとえエンジン停止直前までは作動気筒数が減らされていても、エンジンの再始動に当たっては全ての気筒が等しく作動され、可能な限りの静粛なエンジンクランクアップが達成される。
【0014】更にまた、上記の如く着火発生可能最小ピストンストローク当り吸入空気量の設定がエンジン停止の直前に行なわれれば、燃料節約型車輌やハイブリッド車に於ける如くエンジン一時停止後の再始動は可及的速やかに行なわれるべきときに、迅速にそれに対応することができる。特に、かかる作動気筒数制御が、そのアクチュエータ部に機械式または油圧式構成を含んでいるときには、エンジンが作動しなければその作動が得られないことがあるが、そのような問題も回避される。
【0015】
【発明の実施の形態】以下に添付の図を参照して、本発明を実施例について詳細に説明する。
【0016】本発明によるエンジンの始動制御方法は、近年既に汎用されるに至っているコンピュータを用いた車輌運転制御装置に於て、そのコンピュータによる任意のエンジン制御プログラムに、その一部に追加して組み込まれる形にて実施されてよい。コンピュータを用いた車輌運転制御装置の一般的基本構成は既にこの技術の分野に於ては周知の事項であるので、本発明の方法が実施可能であること裏付けるためのこの種の車輌運転制御装置についての説明は、明細書の記載が冗長になるのを避けるため省略する。
【0017】図1は本発明によるエンジン始動制御方法の一つの実施例を制御作動のフローチャートにて示す図である。尚、このフローチャートより分かる通り、本発明によるエンジン始動制御が行なわれるのは、車輌運行開始の当初に行なわれる運転者の手によるエンジン始動時ではなく、燃料節約型車輌やハイブリッド車に於いてコンピュータ制御の下に行なわれる車輌運行中のエンジン一時停止後のエンジン再始動時である。
【0018】自動車の如き車輌の運行が開始され、任意のエンジン運転制御が開始されると、それと同時に本発明による制御が開始され、ステップ10にて本発明の制御に関連するデータの読込みが行われる。これらのデータには、車輌の走行状態やエンジン負荷を判断する情報、エンジンに対する作動指令の他に、上述のエンジン温度状態、吸気の温度および空燃比、燃料の質、点火時期、クランキングの回転数等が含まれる。次いで制御はステップ20へ進み、フラグFが1であるか否かが判断される。フラグFはエンジンが一時停止されたときステップ90にて1にセットされるものであり、この種の制御の常として制御開始時に0にリセットされている。従って、エンジンが一時停止された状態にない限り、ステップ20の答えはノーであり、制御はステップ30へ進む。
【0019】ステップ30に於いては、エンジン負荷Leが或る所定の低負荷しきい値L1以上であるか否かが判断される。答えがイエスのときには、以下の制御は必要ないので、制御はそのままステップ10の前に戻り、データを読み直しつつ車輌運転状態の変化に備える。答えがノーのときには、制御はステップ40へ進み、しきい値L1以下のエンジン低負荷運転に対してよりよい燃費を達成すべく、エンジンの減筒やVVT機構による吸気弁の閉じ位相やリフトの制御が行なわれる。かかるエンジン減筒やVVT機構によるエンジン低負荷対応制御は、既に数多く提案されており、ここではそれらの内の任意のものが使用されてよい。次いで制御はステップ50へ進む。
【0020】ステップ50に於いては、エンジンを一時停止させるべき条件が成立したか否かが判断される。これは車輌が所定時間以上に亙って減速状態にあること、車輌が所定時間以上に亙って停止状態にあること、その他の条件によって定められてよい。答えがノーのときには制御はステップ10の前に戻り、答えがイエスのとき制御はステップ60へ進む。
【0021】ステップ60に於いては、ステップ40にて設定された減筒や吸気弁の閉じ位相或はリフトの制御による低負荷運転に対する対策が一旦解除され、次いでステップ70にて、全ての気筒を作動状態に戻し、またそのときのエンジン温度状態、吸気の温度および空燃比、燃料の質、点火時期、蓄電装置の充電状態により予想されるクランキング回転数等に基づき、クランキングによりエンジンが着火を起こすことができるピストンストローク当りの最小吸入空気量が計算され、吸気弁の閉じ位相やリフトの調節により、そのようなエンジンクランキングのためのクランキング設定が行なわれる。その上で、制御はステップ80へ進み、エンジンが一時停止される。次いでステップ90にてフラグFが1にセットされる。
【0022】その後制御はステップ100へ進み、エンジン始動の要求が車輌運転制御装置から出されたか否かが判断される。答えがノーである間、制御はステップ10の前に戻る。エンジンを再始動すべくエンジン再始動指令が出されると、制御はステップ110へ進み、エンジンのクランキングが行なわれる。燃料節約型車輌やハイブリッド車に於いてエンジンの一時停止が行なわれるのは通常短時間あり、ステップ70にてクランキング設定が行なわれたときよりエンジンの温度状態が大きく変化することはないと仮定されてよいが、望むならエンジン一時停止時間の経過に伴ってクランキング設定に修正が加えられるようにされてもよい。その他の条件である吸気の温度および空燃比、燃料の質、点火時期、蓄電装置の充電状態等は、エンジン一時停止時間の長さには影響されない。
【0023】かくしてエンジンのクランキングによりエンジンが着火を開始したことがステップ120にて検出されると、制御はステップ130へ進み、ステップ70によるクランキング設定は解除され、エンジンは車輌運転制御装置による制御の下に戻される。そして最後にステップ140にてフラグFが0にリセットされ、図示の過程による本発明のエンジン始動制御は一度終了し、次の作動に備える。
【0024】以上に於いては本発明を一つの実施例について詳細に説明したが、かかる実施例について本発明の範囲内にて種々の修正が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるエンジン始動制御方法の一つの実施例を示すフローチャート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】エンジンの始動運転を制御する方法にして、複数の気筒の各々に於けるピストンストローク当りの吸入空気量を着火発生可能な最小量に設定することを特徴とする方法。
【請求項2】前記の着火発生可能最小ピストンストローク当り吸入空気量の設定はバルブタイミング可変設定機構による吸気弁閉じ位相の設定により行なわれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】前記の着火発生可能最小ピストンストローク当り吸入空気量の設定はバルブリフト可変設定機構による吸気弁リフトの設定により行なわれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】前記の着火発生可能最小ピストンストローク当り吸入空気量の設定は該複数の気筒の各々に於けるピストンストローク当り吸入空気量を互いに等しくすることを含むことを特徴とする請求項1〜3のいづれかに記載の方法。
【請求項5】前記の着火発生可能最小ピストンストローク当り吸入空気量の設定はエンジンが停止される直前に行なわれることを特徴とする請求項1〜4のいづれかに記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2002−213261(P2002−213261A)
【公開日】平成14年7月31日(2002.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−11225(P2001−11225)
【出願日】平成13年1月19日(2001.1.19)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】