説明

有機アルミニウム化合物及び該化合物を用いたアルミニウム含有膜の製造方法

【課題】高い成膜速度で安定してアルミニウム含有膜を形成し得る有機アルミニウム化合物及び該化合物を用いたアルミニウム含有膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の有機アルミニウム化合物はAl(R1NH)n(R23N)3-nで示される化合物である。但し、式中のR1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R2及びR3はそれぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、R2とR3は互いに同一であっても異なっていてもよく、nは1又は2の整数を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition、以下、MOCVD法という。)により成膜される半導体絶縁膜やLCD向けの用途として用いられるAlN、Al23等のアルミニウム含有膜を作製するための原料として好適な有機アルミニウム化合物及び該化合物を用いたアルミニウム含有膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体絶縁膜として用いられるAlN薄膜は、トリメチルアルミニウム(TMA)やトリエチルアルミニウム(TEA)等のアルキルアルミニウムを原料とし、MOCVD法により作製していた。しかしながらこれらの化合物は発火性、禁水性物質であり、自然発火性が高く、空気中に含まれる水分により容易に加水分解を起こしてAl23となり、分解した副生物のメタンやエタンに発熱により引火、爆発性の発火が起こるという問題があった。そのような加水分解を引き起こす水分量は30ppmレベルでも自然発火の火花が確認でき、これ以上の水分の影響が出ないように実験されてきたが、このような化合物では、工場での管理が厳しく、通常の使用では完全に環境からの水分の混入を抑えることは困難である。このようなことから環境からの水分に安定でかつ、高い成膜速度が得られる化合物の提案が期待されてきた。
【0003】
従来より知られている有機アルミニウム化合物に代わる新たな材料として次の式(2)で表されるアルミニウム化合物を含有してなる化学気相成長用原料が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
【化1】

【0005】
式中、R1及びR2は、一方が炭素数1〜4のアルキル基を表し、他方が水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表し、Aは、炭素数1〜4のアルキレン基を表し、R3は、鎖中に酸素原子を有してもよい炭素数1〜8のアルキル基を表す。
【0006】
この特許文献1に示される化合物を用いることで、従来知られている有機アルミニウム化合物に比べて各種CVD法に適するに十分な安定性を有する。
【特許文献1】特開2003−34868号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に示される化合物は、気相中で化合物中のアルキル基を介して化合物間において重合が起こり易く、また蒸気圧の安定性が悪いため、CVD原料として必ずしも十分な材料とはいえなかった。
【0008】
本発明の目的は、高い成膜速度で安定してアルミニウム含有膜を形成し得る有機アルミニウム化合物及び該化合物を用いたアルミニウム含有膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、次の式(1)で示される有機アルミニウム化合物である。
Al(R1NH)n(R23N)3-n ……(1)
但し、式中のR1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R2及びR3はそれぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、R2とR3は互いに同一であっても異なっていてもよく、nは1又は2の整数を示す。
【0010】
請求項1に係る発明では、上記式(1)に示される化合物を用いてMOCVD法によりアルミニウム含有膜を作製することで、高い成膜速度で安定してアルミニウム含有膜を形成することができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の有機アルミニウム化合物を用いて有機金属化学気相成長法によりアルミニウム含有膜を製造する方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の有機アルミニウム化合物は、前述した式(1)で示され、高い成膜速度で安定してアルミニウム含有膜を形成することができるという優れた利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の有機アルミニウム化合物は、次の式(1)に示される化合物である。
【0014】
Al(R1NH)n(R23N)3-n ……(1)
但し、式中のR1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R2及びR3はそれぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、R2とR3は互いに同一であっても異なっていてもよく、nは1又は2の整数を示す。
【0015】
上記式(1)に示される化合物では、Al原子に直鎖若しくは分岐状アルキルを有するアルキルアミノ基がσ結合した構造をとるため、従来の有機アルミニウム化合物に比べて安定性が高く、取扱いに優れる。この化合物を用いてアルミニウム含有膜を成膜する場合、従来の有機アルミニウム化合物を用いた場合よりも安定性が高く、かつ高い成膜速度でアルミニウム含有膜を形成することができる。
【0016】
本発明の上記式(1)に示される有機アルミニウム化合物のR1、R2及びR3の炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基(Me)、エチル基(Et)、ノルマルプロピル基(n-Pr)、イソプロピル基(i-Pr)、ノルマルブチル基(n-Bu)、イソブチル基(i-Bu)、セカンダリーブチル基(s-Bu)、ターシャリーブチル基(t-Bu)、ノルマルペンチル基(n-Pent)、イソペンチル基(i-Pent)、ネオペンチル基(neo-Pent)等が挙げられる。
【0017】
次に本発明の有機アルミニウム化合物のうち、上記式(1)中のR1がt-Bu基、R2及びR3はMe基、nが2の整数で示されるAl[(t-Bu)NH]2(Me2N)の製造方法について説明する。
先ず、三塩化アルミニウムを無水テトラヒドロフランに添加し、30分間程度室温で攪拌して懸濁させ、懸濁液を調製する。次いで、この懸濁液にジメチルアミノリチウムを加えて更に1時間程度攪拌して反応させる。次に、反応液を氷冷下に保持し、攪拌モーターでよく攪拌しながらt-ブチルアミノブロマイドを塩化アルミニウムの2倍モル等量、ジメチルアミノブロマイドを塩化アルミニウムの1倍モル等量をそれぞれゆっくりと添加する。次に、添加液を氷冷下で24時間程度攪拌し、液を60℃にまで加熱したのち更に30分間攪拌して反応させる。次に、反応液をろ過し、得られたろ液を2Torr(約266Pa)、30℃の条件で減圧濃縮することにより、目的物である橙色液体のAl[(t-Bu)NH]2(Me2N)が得られる。
【0018】
なお、塩化アルミニウムに対して添加するt-ブチルアミノブロマイドの添加量を塩化アルミニウムの1倍モル等量、ジメチルアミノブロマイドを塩化アルミニウムの2倍モル等量と添加割合を代えることで上記式(1)のnが1の整数で示されるAl[(t-Bu)NH](Me2N)2が得られる。また、塩化アルミニウムに対して添加するt-ブチルアミノブロマイドを例えばi-プロピルアミノブロマイドに代えるとAl[(i-Pr)NH]2(Me2N)が得られ、n-ペンチルアミノブロマイドに代えるとAl[(n-Pent)NH]2(Me2N)が得られる。同様に、塩化アルミニウムに対して添加するジメチルアミノブロマイドを例えばジエチルアミノブロマイドに代えるとAl[(t-Bu)NH](Et2N)2が得られ、メチルエチルアミノブロマイドに代えるとAl[(t-Bu)NH](MeEtN)2が得られる。
【0019】
次に、本発明の有機アルミニウム化合物を用いて溶液気化CVD法によりAlN薄膜を成膜する例を説明する。溶液気化CVD法とは、各溶液を加熱された気化器に供給し、ここで各溶液原料を瞬時に気化させ、成膜室に送って基材上に成膜する方法である。
図1に示すように、MOCVD装置は、成膜室10と蒸気発生装置11を備える。成膜室10の内部にはヒータ12が設けられ、ヒータ12上には基板13が保持される。この成膜室10の内部は圧力センサー14、コールドトラップ15及びニードルバルブ16を備える配管17により真空引きされる。成膜室10にはニードルバルブ36、ガス流量調節装置34を介してNH3ガス導入管37が接続される。なお、ここで成膜される薄膜がAl23薄膜である場合、ガス導入管37からはH2Oガスが導入される。蒸気発生装置11は原料容器18を備え、この原料容器18は本発明の有機アルミニウム化合物を貯蔵する。原料容器18にはガス流量調節装置19を介してキャリアガス導入管21が接続され、また原料容器18には供給管22が接続される。供給管22にはニードルバルブ23及び溶液流量調節装置24が設けられ、供給管22は気化器26に接続される。気化器26にはニードルバルブ31、ガス流量調節装置28を介してキャリアガス導入管29が接続される。気化器26は更に配管27により成膜室10に接続される。また気化器26には、ガスドレイン32及びドレイン33がそれぞれ接続される。
この装置では、N2、He、Ar等の不活性ガスからなるキャリアガスがキャリアガス導入管21から原料容器18内に導入され、原料容器18に貯蔵されている溶液原料を供給管22により気化器26に搬送する。気化器26で気化されて蒸気となった有機アルミニウム化合物は、更にキャリアガス導入管28から気化器26へ導入されたキャリアガスにより配管27を経て成膜室10内に供給される。成膜室10内において、有機アルミニウム化合物の蒸気を熱分解させ、NH3ガス導入管37より成膜室10内に導入されたNH3ガスと反応させることにより、生成したAlNを加熱された基板13上に堆積させてAlN薄膜を形成する。本発明の有機アルミニウム化合物は従来の有機アルミニウム化合物よりも低温で熱分解するため、低温での膜成長が可能である。また本発明の有機アルミニウム化合物は、気化安定性に優れており、高い成膜速度を有する。
【実施例】
【0020】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
先ず、市販されている三塩化アルミニウム10gを無水テトラヒドロフラン500mlに添加し、30分間室温で攪拌して懸濁させ、懸濁液を調製した。次いで、この懸濁液にジメチルアミノリチウム30gを加えて更に1時間攪拌して反応させた。次に、反応液を氷冷下に保持し、攪拌モーターでよく攪拌しながらt-ブチルアミノブロマイドを塩化アルミニウムの2倍モル等量、ジメチルアミノブロマイドを塩化アルミニウムの1倍モル等量をそれぞれゆっくりと添加した。次に、添加液を氷冷下で24時間攪拌し、液を60℃にまで加熱したのち更に30分間攪拌して反応させた。次に、反応液をろ過し、得られたろ液を2Torr(約266Pa)、30℃の条件で減圧濃縮して、橙色液体の化合物を得た。得られた化合物を1H-NMRにより測定した結果、次の表1に示すデータが得られた。上記分析結果より得られた液体は上述した式(1)で示される構造を有し、R1がt-Bu、R2及びR3がMeであり、nが2の整数を示すAl[(t-Bu)NH]2(Me2N)であると同定された。
<実施例2〜35>
三塩化アルミニウムに添加するアミン化合物の種類と、添加モル量を変化させた以外は実施例1と同様にして次の表1に示す有機アルミニウム化合物をそれぞれ合成した。合成した有機アルミニウム化合物の1H-NMR同定データを次の表1及び表2にそれぞれ示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
<比較例1>
有機アルミニウム化合物としてAlMe3を用意した。
<比較例2>
有機アルミニウム化合物としてAlEt3を用意した。
<比較例3>
有機アルミニウム化合物としてAl(H)(Me)2を用意した。
【0024】
<比較試験1>
実施例1〜35及び比較例1〜3の有機アルミニウム化合物を用いて成膜時間当たりの膜厚試験を行った。
先ず、基板として表面にSiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を5枚ずつ用意し、この基板を図1に示す溶液気化CVD法を用いたMOCVD装置の成膜室に設置した。次いで、基板温度を250℃、気化温度を100℃、圧力を約266Pa(2Torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてNH3ガスを用い、その分圧を500ccmとした。次に、キャリアガスとしてHeガスを用い、溶液原料を0.1cc/分の割合でそれぞれ供給し、成膜時間が1分、5分、10分、20分及び30分となったときにそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。成膜を終えた基板上のAlN薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から膜厚を測定した。また、成膜時間が10分の基板上のAlN薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から段差被覆性を測定した。
【0025】
<評価>
得られた成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果を表3及び表4にそれぞれ示す。
【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
表1より明らかなように、比較例1〜3の有機アルミニウム化合物を用いて成膜したAlN薄膜は、時間が経過しても膜厚が厚くならず、また均等な厚さに成膜されていないことから成膜の安定性及び段差被覆性が悪い結果が得られた。これに対して実施例1〜35の有機アルミニウム化合物を用いて成膜したAlN薄膜は、成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果から、成膜時間あたりの膜厚が厚く、かつ均等になっており、実施例1〜35の有機アルミニウム化合物は高い成膜速度で安定してAlN薄膜を形成することができる化合物であることが判った。
【0029】
<比較試験2>
実施例4の有機アルミニウム化合物を用いて5秒ごとに1000ccmの割合で水蒸気を供給した以外は比較試験1と同様にして製膜し、基板上にAl23薄膜を形成した。また実施例14の化合物を用いて500ccmの割合で水蒸気を供給した以外は比較試験1と同様にして製膜し、基板上にAl23薄膜を形成した。更に実施例21の化合物を用いて100ccmの割合で水蒸気を供給した以外は比較試験1と同様にして製膜し、基板上にAl23薄膜を形成した。成膜を終えた基板上のAl23薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から膜厚を測定した。また、成膜時間が10分の基板上のAl23薄膜を断面SEM(走査型電子顕微鏡)像から段差被覆性を測定した。
【0030】
<評価>
得られた成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果を表5にそれぞれ示す。
【0031】
【表5】

【0032】
表5より明らかなように、実施例4、14及び21の有機アルミニウム化合物を用いて成膜したAl23薄膜は、成膜時間あたりの膜厚及び段差被覆性の結果から、成膜時間あたりの膜厚が厚く、かつ均等になっており、本発明の有機アルミニウム化合物は高い成膜速度で安定してAl23薄膜を形成することができる化合物であることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】溶液気化CVD法を用いたMOCVD装置の概略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(1)で示される有機アルミニウム化合物。
Al(R1NH)n(R23N)3-n ……(1)
但し、式中のR1は炭素数1〜5のアルキル基であり、R2及びR3はそれぞれ炭素数1〜5のアルキル基であり、R2とR3は互いに同一であっても異なっていてもよく、nは1又は2の整数を示す。
【請求項2】
請求項1記載の有機アルミニウム化合物を用いて有機金属化学気相成長法によりアルミニウム含有膜を製造する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−31367(P2007−31367A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−218312(P2005−218312)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】