説明

有機エレクトロルミネッセンス素子

【課題】有機EL素子への電子注入性を向上させることにより駆動電圧を低下させ、また有機層及び電子注入層に欠陥が生じることを防ぎ、信頼性を向上させ、その結果として消費電力が小さく長期駆動が可能である有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【解決手段】陽極と、発光層を含む有機層と、電子注入層と、陰極とがこの順に積層された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、上記有機エレクトロルミネッセンス素子は、陰極が島状構造を有し、陰極の電子注入層と面しない側に電子注入補助層が設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。より詳しくは、有機エレクトロルミネッセンス表示装置等の表示装置に用いられる発光素子に好適な有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下「有機EL素子」ともいう)は、近年、有機エレクトロルミネッセンス表示装置(以下「有機ELディスプレイ」ともいう)等の発光体として用いられ、広く応用が期待されている。有機EL素子は、有機発光層を含む自発光性の全固体素子であり、ブラウン管、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ等に用いられる発光素子に比べて、素子自身の厚みが小さい。また、有機EL素子は、熱をほとんど出さないため、駆動電力も小さい。したがって、有機EL素子を用いた有機ELディスプレイは、高輝度・広視野角が得られるため視認性に優れた画像表示が可能であり、また、バックライトを使用する必要がなく、ディスプレイの薄型軽量化・低消費電力化が可能となる。このように、様々な優れた特性を有する有機ELディスプレイは、次世代の薄型表示装置として有望であり、その本格的な実用化、普及に向けて、有機EL素子の研究開発も盛んに行われている。
【0003】
有機EL素子は、エレクトロルミネッセンス(EL;electroluminescence)という、熱をほとんど出さずに電気を光に変える現象を利用している。ここで、図8を用いて、有機EL素子の発光原理について説明する。図8は従来の有機EL素子の断面模式図である。
図8に示すように、従来の有機EL素子は、基板1と、基板1の上に設けられた有機層5と、有機層5を狭持するように設けられた陽極2及び陰極7と、陰極7及び有機層5の間に設けられた電子注入層6とで構成されている。また、有機層5は、正孔輸送層3と発光層4とにより構成されている。
ここで、陽極2は、有機層5に正孔を注入する機能を有する。また、正孔輸送層3は、陽極2から注入された正孔の発光層4への輸送効率を向上する機能を有する。更に、陰極7は、電子注入層6に電子を輸送する機能を有する。そして、電子注入層6は、有機層5への電子注入性がよいものが選択され、陰極7から輸送された電子の発光層4への注入効率を向上する機能を有する。
このように有機EL素子では、陽極2から注入された正孔と、陰極7から注入された電子とを発光層4において再結合させることにより励起子(エキシントン)を生成させ、その励起子が失活する際の光の放出を利用して発光する仕組みになっている。
【0004】
また、有機EL素子を用いた表示装置は、その駆動方法の違いにより、単純マトリクス方式とアクティブマトリクス方式とに区別される。単純マトリクス方式ではデューティー比の増加に応じて、各画素の瞬間輝度を高くする必要があるため、画素数が多い大型のパネルでは消費電力の増大を招く。このため、特に大型の有機ELディスプレイではアクティブマトリクス方式が主流になりつつある。アクティブマトリクス方式はマトリクス状に配置された各画素に設けられた薄膜トランジスタ(以下「TFT」ともいう)を制御信号によりON、OFFすることにより有機EL素子の発光状態を制御し、画像を表示する方式である。そのため、レスポンス時間が短く、動画表示が鮮明で、高精細な画像表示を可能にしている。しかしながら、アクティブマトリクス方式で用いられるアクティブマトリクス基板に必須のTFTは、光を透過しないポリシリコンやアモルファスシリコン等で形成され、また、基板配線等も光を透過しない金属等で形成されるため、従来の基板側から光を取り出す方式(ボトムエミッション方式)では画素面積に対する発光面積の割合、すなわち開口率が小さくなってしまう。とりわけ、有機EL素子の駆動方式として、画素毎の表示性能のばらつきが小さく、有機EL材料の劣化によるパネル表示輝度の変化をより少なくするのに適しているとされる電流駆動方式を採用した場合、画素毎のトランジスタの数は、よりシンプルだが画素毎の表示ばらつき等の表示特性で劣る電圧駆動方式に必要なトランジスタ数の2つに比べて、倍の4つ程度必要となり、更に開口率が小さくなるという点で工夫の余地があった。
【0005】
そこで、開口率が小さくなるという問題を解決するため、有機EL素子の発光を基板とは反対の側から取り出す方式(トップエミッション方式)が考案されている。トップエミッション方式では、アクティブマトリクス基板上のトランジスタの数が増えても、発光は基板と反対の方向から取り出されるので、開口率が小さくなることはない。しかしながら、発光面側の電極に透明電極等を用いて陰極とした場合、透明電極の形成方法に、スパッタリング法、イオンプレーティング等の比較的高エネルギーの粒子を発生させる方法を使用するため、先に形成した有機層や電子注入層にダメージを与え、有機EL素子特性が劣化するという点で更に改善の余地があった。
【0006】
これに対して、発光面側の電極に金属薄膜等を用いて陰極とすることで、陰極形成時における有機層や電子注入層へのダメージを低減する試みがなされている(例えば、特許文献1、2。)。しかしながら、陰極から有機層や電子注入層への電子輸送性は充分には発揮されず、また、電子注入層や有機層に欠陥が生じやすくなっていた。
したがって、従来の陰極が発光面側にあるトップエミッション構造の有機EL素子においては、有機層への電子注入が困難であり、電子注入層や有機層に欠陥が生じやすいという点で未だ改善の余地があった。
【特許文献1】特開平8−185984号公報
【特許文献2】特開平10−294182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、陰極が発光面側にあるトップエミッション構造を有する有機EL素子において、有機EL素子への電子注入性を向上させることにより駆動電圧を低下させ、また有機層及び電子注入層に欠陥が生じることを防ぎ、信頼性を向上させ、その結果として消費電力が小さく長期駆動が可能である有機エレクトロルミネッセンス素子、及び、それを用いて得られる有機エレクトロルミネッセンス表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、陰極が発光面側にあるトップエミッション構造の有機EL素子において、有機層及び電子注入層に生じる欠陥を低減させるための素子形態について種々検討したところ、陰極の形態に着目した。そして、陰極が透光性を有する必要性から膜厚が1〜10nmと薄いため、島状の部分が存在しており、有機層や電子注入層を不完全にしか覆っておらず、陰極から電子注入層や有機層への電子注入性が不十分であることと、電子注入層や有機層が直に雰囲気にさらされてしまい、雰囲気中の酸素や水分と反応してしまうこととを見いだすとともに、島状構造を有する陰極の電子注入層と面しない側に電子注入補助層を新たに設けることにより、陰極から電子注入層や有機層への電子注入性を充分にし、有機層や電子注入層に欠陥が生じることを防ぎ、その結果として有機EL素子の低電圧駆動、信頼性向上及び長期駆動が可能であることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、陽極と、発光層を含む有機層と、電子注入層と、陰極とがこの順に積層された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、上記有機エレクトロルミネッセンス素子は、陰極が島状構造を有し、陰極の電子注入層と面しない側に電子注入補助層が設けられた有機エレクトロルミネッセンス素子である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と、発光層を含む有機層と、電子注入層と、陰極とがこの順に積層されたものである。これにより、陽極から注入された正孔と、陰極から注入され電子注入層を経た電子とを、有機層中の発光層において効率的に再結合させ、発光を取り出すことができる。
【0011】
上記有機エレクトロルミネッセンス素子は、陰極が島状構造を有し、陰極の電子注入層と面しない側に電子注入補助層が設けられている。ここで、島状構造とは、薄膜(例えば、陰極)が下層(例えば、有機層)よりも基板法線方向から見て小さい2以上の多数の部分(島状部)から構成され、該島状部が連続的に又は不連続に配置されて、薄膜に開口部が形成された構造を有する。また、島状部の形状は特に限定されず、例えば、電子注入層とは面しない側が平坦であっても曲面状であってよい。
更に、本発明においては、陰極が島状構造を有するとともに、電子注入層も島状構造を有していてもよい。したがって、本発明において、陰極の電子注入層と面しない側、すなわち素子の最上層に配置された電子注入補助層は、陰極及び/又は電子注入層の開口部において下層の一部を被覆することになる。すなわち、本発明の陽極/有機層/電子注入層/陰極/電子注入補助層がこの順に積層された構成の一部は、下記(1)〜(3)で示すような層構成であってもよい。
(1)陽極/有機層/電子注入層/電子注入補助層(例えば、図1(b)の断面参照)
(2)陽極/有機層/陰極/電子注入補助層
(3)陽極/有機層/電子注入補助層(例えば、図2(d)の断面参照)
このように素子の最上層に電子注入補助層があることにより、有機層への電子注入性向上による低駆動電圧化や、有機層及び電子注入層が直接的に雰囲気にさらされるのを防ぐことが可能となり、有機層及び電子注入層の劣化を防ぐことができる。その結果、有機EL素子の低消費電力化、信頼性向上及び長期間駆動が可能となる。
ここで、電子注入補助層は、陰極から輸送された電子を発光層へと注入する機能を有するものであることが好ましく、電子注入層と同様に、有機層への電子注入性のよい材料で形成されることが好ましい。
なお、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の構成としては、このような構成要素を必須として形成されるものである限り、その他の構成要素を含んでいても含んでいなくてもよく、特に限定されるものではない。
【0012】
本発明において、上記有機層は、発光層のみの単層構造でも、発光層と他の機能を有する層との複数の層で構成された積層構造でも良く、例えば下記(1)〜(5)の構成が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)発光層
(2)正孔輸送層/発光層
(3)発光層/電子輸送層
(4)正孔輸送層/発光層/電子輸送層
(5)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層
【0013】
上記発光層は、公知の方法で成膜することが可能であり、例えば、真空蒸着装置を用いた抵抗加熱蒸着法や電子ビーム蒸着法等により、また、発光層形成用塗液を用いたスピンコート法、ドクターブレード法、吐出コート法、スプレーコート法、インクジェット法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、マイクログラビアコート法等のウェットプロセス等により成膜することが可能である。
【0014】
上記発光層の材質としては、特に限定されず、公知の発光材料により形成することができる。発光材料としては、例えば、蛍光性有機材料、蛍光性有機金属化合物等の低分子発光材料、高分子発光材料等が挙げられる。
蛍光性有機材料としては、例えば、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)等の芳香族ジメチリデェン化合物、5−メチル−2−[2−[4−(5−メチル−2−ベンゾオキサゾリル)フェニル]ビニル]ベンゾオキサゾール等のオキサジアゾール化合物、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン等のスチリルベンゼン化合物、チオピラジンジオキシド誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、アントラキノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、フルオレノン誘導体等が挙げられる。
蛍光性有機金属化合物としては、例えば、アゾメチン亜鉛錯体、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq3)等が挙げられる。
高分子発光材料としては、例えば、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)(DO−PPP)、ポリ[2,5−ビス−[2−(N,N,N−トリエチルアンモニウム)エトキシ]−1,4−フェニル−アルト−1,4−フェニルレン]ジブロマイド(PPP−NEt3+)、ポリ[2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン](MEH−PPV)、ポリ[5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン](MPS−PPV)、ポリ[2,5−ビス−(ヘキシルオキシ)−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)](CN−PPV)、ポリ(9,9−ジオクチルフルオレン)(PDAF)、ポリスピロ(PS)等が挙げられる。
また発光層は、上記の発光材料のうち1種の発光材料により形成したり、上記の発光材料のうち複数の発光材料を複合して形成したりすることが可能である。
更に発光層は、上記の発光材料の他に、例えば、発光アシスト剤、電荷輸送材料、ドナー及びアクセプター等の添加剤、発光性のドーパント、レベリング剤、電荷注入材料、結着用の樹脂等を含有させることも可能である。結着用の樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル等が挙げられるが、何らこれに限定されるものではない。
【0015】
上記正孔輸送層は、発光層と同様の公知の方法で成膜が可能である。また、正孔輸送層の材質としては、特に限定されず、公知のものが使用可能であり、例えば、芳香族第3級アミン化合物、低分子材料、高分子材料、高分子材料前駆体等が挙げられる。
芳香族第3級アミン化合物としては、例えば、ポルフィリン化合物、N,N’−ビス−(3−メチルフェニル)−N,N’−ビス−(フェニル)−ベンジジン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)N−,N’−ジフェニル−ベンジジン(NPD)等が挙げられる。
低分子材料としては、例えば、ヒドラゾン化合物、キナクリドン化合物、スチルアミン化合物等が挙げられる。
高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、3,4−ポリエチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンサルフォネート(PEDOT/PSS)、ポリ(トリフェニルアミン誘導体)、ポリビニルカルバゾール(PVCz)等が挙げられる。
高分子材料前駆体としては、例えば、ポリ(P−フェニレンビニレン)前駆体、ポリ(P−ナフタレンビニレン)前駆体等が挙げられる。
また、正孔輸送層は上記の正孔輸送材料のうち1種の正孔輸送材料により形成したり、上記の正孔輸送材料のうち複数の正孔輸送材料を複合して形成したりすることが可能である。
更に、正孔輸送層は上記の正孔輸送材料の他に、例えば、ドナー及びアクセプター等の添加剤、レベリング剤、結着用の樹脂等を含有させることも可能である。結着用の樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル等が挙げられるが、何らこれに限定されるものではない。
【0016】
上記電子輸送層は、陰極から注入された電子の発光層への輸送効率を向上する機能を有するものであり、発光層と同様の公知の方法で成膜が可能である。また、電子輸送層の材質としては、特に限定されず、公知の材料が使用可能である。例えば、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ベンゾキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、フルオレノン誘導体等の低分子材料、ポリ[オキサジアゾール]等の高分子材料等が挙げられる。
また、電子輸送層は上記の電子輸送材料のうち1種の電子輸送材料により形成したり、上記の電子輸送材料のうち複数の電子輸送材料を複合して形成することが可能である。
更に、電子輸送層は上記の電子輸送材料の他に、例えば、ドナー及びアクセプター等の添加剤、レベリング剤、結着用の樹脂等を含有させることが可能である。結着用の樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエステル等が挙げられるが、何らこれに限定されるものではない。
【0017】
本発明において、上記陽極の材質としては、特に限定されないが、有機層に正孔を注入しやすいように、仕事関数が大きい材料により形成されていることが好ましい。仕事関数が大きく陽極に好適な材料としては、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)(仕事関数φ=5.0eV)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)(φ=5.0eV)等の透明導電性酸化物、金(Au)(φ=5.1eV)、プラチナ(Pt)(φ=5.65eV)、ニッケル(Ni)(φ=5.15eV)等の金属材料が挙げられる。これらの材料は公知の方法にて成膜することが可能である。例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、スパッタリング法等が挙げられる。
また、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)等のような光反射率が大きい材料の上に、有機層への正孔の注入を行ないやすい透明導電性酸化物であるITOやIZO等を積層することも可能である。このような積層構造の陽極は、有機層への正孔の注入効率の向上に加えて、陰極側のみから発光を取り出す場合、光取り出し効率の向上という点でメリットがある。
【0018】
本発明において、上記電子注入層は、島状構造を有し、電子注入補助層は有機層、電子注入層及び陰極を被覆するものであることが好ましい。すなわち、図2で示すように、陰極と電子注入層とが共に島状構造を有することによって、電子注入補助層が有機層と電子注入層とに接することが好ましい。これにより、電子注入補助層は電子注入性を有するため、電子注入層と同様に有機層への電子注入を行なうことが可能となり、電子注入層を薄膜化し島状構造とした場合にも、有機層への電子注入量が増加する。また、素子の最上層に電子注入補助層があることにより、有機層及び電子注入層が直接的に雰囲気にさらされるのを防ぐことが可能となり、有機層及び電子注入層の劣化を防ぐことができる。これらの効果により、有機EL素子の長期間における低電圧駆動が可能となる。更に、電子注入層の薄膜化により、有機EL素子の生産処理能力の向上が可能となる。
なお、上記電子注入層が島状構造を有する形態においては、島状構造を有する陰極は電子注入層の全部を覆っていてもよし、一部を覆ってもよい。
【0019】
上記電子注入層は、有機層に電子を注入するのに好適な材料を選ぶことが好ましい。有機層に電子を注入しやすい好適な材料としては、特に限定されないが、仕事関数が低い材料が好ましい。例えば、リチウム(Li)(仕事関数φ=2.4eV)、ナトリウム(Na)(φ=2.4eV)、カリウム(K)(φ=2.3eV)、ルビジウム(Rb)(φ=2.2eV)、セシウム(Cs)(φ=2.0eV)等のアルカリ金属、マグネシウム(Mg)(φ=3.6eV)、カルシウム(Ca)(φ=2.8eV)、ストロンチウム(Sr)(φ=2.4eV)、バリウム(Ba)(φ=2.5eV)等のアルカリ土類金属、スカンジウム(Sc)(φ=3.3eV)、イットリウム(Y)(φ=3.3eV)、ランタン(La)(φ=3.5eV)、セリウム(Ce)(φ=3.3eV)、プラセオジム(Pr)(φ=2.7eV)、ネオジム(Nd)(φ=3.2eV)、ガドリニウム(Gd)(φ=3.1eV)等の希土類金属、アルミニウム−リチウム合金(Al−Li)、マグネシウム−銀合金(Mg−Ag)等の低仕事関数材料を含む合金等が好ましい。
また、上記元素の化合物も電子注入材料として好ましく、特に酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物が好ましく、なかでも、フッ化リチウム(LiF)、酸化リチウム(LiO)、フッ化セシウム(CsF)、炭酸セシウム(CsCO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、フッ化ストロンチウム(SrF)、酸化バリウム(BaO)、フッ化バリウム(BaF)、炭酸カルシウム(CaCO)、フッ化スカンジウム(ScF)等の化合物が好ましい。
また、電子注入層は上記の材料の積層体又は混合体とすることも可能である。
なお、電子注入層の膜厚としては、特に限定されるものではないが、好ましくは0.5nm以上、50nm以下である。
【0020】
本発明において、上記陰極は、平均膜厚が1nm以上、10nm以下であることが好ましい。本発明の有機EL素子は陰極側から発光を取り出すトップエミッション構造であるため、その陰極は透光性を有する必要がある。そのため、陰極は多くの開口部分を備えた島状構造を有する必要がある。そして、このように陰極が島状に形成されるためには、陰極の平均膜厚は10nm以下であることが好ましい。一方、陰極は電子注入層に電子を輸送する機能を有する必要もある。そのため、充分に電子を有機EL素子に供給するためには1nm以上の平均膜厚であることが好ましい。上記の理由により、陰極の平均膜厚は1nm以上、10nm以下であることが好ましい。
【0021】
上記陰極は、電子注入層に電子を輸送することが可能な導電性材料により形成される。導電性材料としては、特に限定されず、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、プラチナ(Pt)等の金属材料、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明導電性酸化物等が挙げられる。また、これらの材料は公知の方法にて成膜することが可能である。例えば、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、スパッタリング法等が挙げられる。これらの中でも、陰極形成よりも先に形成される有機層及び電子注入層への熱的影響の少ない抵抗加熱蒸着法が好ましい。
【0022】
本発明において、上記電子注入補助層は、電子注入層と略同一の材質からなることが好ましい。このように、電子注入層と電子注入補助層とに同じ材料を利用することにより、有機EL素子の発光面において、電子注入層からの電子注入効率と、電子注入補助層からの電子注入効率とを同一にすることが可能となる。その結果、発光面における発光ムラを低減することが可能となる。また、これにより電子注入層と電子注入補助層との形成に同じ成膜装置を使うことが可能となり、有機EL素子の製造ラインのコストを削減することが可能となる。
【0023】
上記電子注入補助層は、平均膜厚が10nm以上であることが好ましい。上述したように、電子注入補助層は発光部を含む有機層や電子注入層を覆うことで、電子注入の機能を有する。上記の機能を充分に発揮させるためには、電子注入補助層は発光部を含む有機層、電子注入層及び陰極の全面を覆っていることが好ましい。そのため、電子注入補助層の平均膜厚は、電子注入補助層が島状にならない10nm以上であることが好ましい。
【0024】
上記電子注入補助層は、電気陰性度が1.5以下の金属の化合物を含むものであることが好ましい。一般的に、電気陰性度の低い金属の単体及び化合物は電子注入性を有していることが知られている。電気陰性度が1.5以下の金属としては、特に限定されず、リチウム(Li)(電気陰性度x=1.0)、ナトリウム(Na)(x=0.9)、カリウム(K)(x=0.8)、ルビジウム(Rb)(x=0.8)、セシウム(Cs)(x=0.7)等のアルカリ金属、マグネシウム(Mg)(x=1.2)、カルシウム(Ca)(x=1.0)、ストロンチウム(Sr)(x=1.0)、バリウム(Ba)(x=0.9)等のアルカリ土類金属、スカンジウム(Sc)(x=1.3)、イットリウム(Y)(x=1.2)、ランタン(La)(x=1.1)、セリウム(Ce)(x=1.1)、プラセオジム(Pr)(x=1.1)、ネオジム(Nd)(x=1.1)、ガドリニウム(Gd)(x=1.2)等の希土類金属等等が挙げられる。これらの金属の化合物を電子注入補助層とすることにより、有機層への電子注入効率が向上する。
また、上記金属の化合物は透明性を有しており、有機EL素子で発光した光を効率よく素子から光を取り出すことが可能である。金属の化合物としては、特に限定されないが、酸化物、ハロゲン化物、炭酸化物が好ましい。
酸化物では、特に酸化リチウム(LiO)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、酸化ルビジウム(RbO)、酸化セシウム(CsO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)、酸化スカンジウム(Sc)、酸化ランタン(La)、酸化セリウム(Ce)等が挙げられる。
ハロゲン化物では、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物が特に好ましい。
フッ化物では、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化ルビジウム(RbF)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化ストロンチウム(SrF)、フッ化バリウム(BaF)、フッ化スカンジウム(ScF)、フッ化ランタン(LaF)、フッ化セリウム(CeF)等が挙げられる。
塩化物では、塩化リチウム(LiCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ルビジウム(RbCl)、塩化セシウム(CsCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化ストロンチウム(SrCl)、塩化バリウム(BaCl)、塩化スカンジウム(ScCl)、塩化ランタン(LaCl)、塩化セリウム(CeCl)等が挙げられる。
臭化物では、臭化リチウム(LiBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化ルビジウム(RbBr)、臭化セシウム(CsBr)、臭化マグネシウム(MgBr)、臭化カルシウム(CaBr)、臭化ストロンチウム(SrBr)、臭化バリウム(BaBr)、臭化スカンジウム(ScBr)、臭化ランタン(LaBr)、臭化セリウム(CeBr)等が挙げられる。
ヨウ化物では、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化ルビジウム(RbI)、ヨウ化セシウム(CsI)、ヨウ化マグネシウム(MgI)、ヨウ化カルシウム(CaI)、ヨウ化ストロンチウム(SrI)、ヨウ化バリウム(BaI)、ヨウ化スカンジウム(ScI)、ヨウ化ランタン(LaI)、ヨウ化セリウム(CeI)等が挙げられる。
炭酸化物では、特に炭酸リチウム(LiCO)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸ルビジウム(RbCO)、炭酸セシウム(CsCO)、炭酸マグネシウム(MgCO)、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、炭酸バリウム(BaCO)等が挙げられる。
【0025】
なお、本発明の有機EL素子を基板上に形成する場合、基板の材質としては、例えば、ガラス、石英、シリコン等の無機材料、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂、アルミナ等のセラミックス等の絶縁性材料からなる基板、アルミニウムや鉄等の金属基板にSiOや有機絶縁性材料等の絶縁材料をコートした基板、アルミニウムや鉄等の金属基板の表面を陽極酸化等の方法で絶縁化処理を施した基板等により構成することができるが、何らこれに限定されるものではない。
【0026】
ここで、本発明のトップエミッション構造の有機EL素子における電子注入補助層の効果について図1を用いて説明する。図1は本発明の有機EL素子の断面模式図である。図1では電子注入層6は有機層5上に一様に形成されている。図1の(a)の断面では陽極2/有機層5/電子注入層6/陰極7/電子注入補助層8の積層構造となっている。上記の積層構造では従来の素子構造と同様に、電子は陰極7から電子注入層6に輸送され、電子注入層6から有機層5に注入される。
図1の(b)の断面では陽極2/有機層5/電子注入層6/電子注入補助層8の積層構造となっており、この断面では電子注入層6は陰極7と接しておらず、電子注入層6と電子注入補助層8が接している。本発明における電子注入補助層8は電子注入性を有するため、このような積層構造では、電子注入補助層8があることにより、隣り合って接している陰極7から電子を受けた電子注入補助層8は電子を電子注入層6へ注入することが可能となる。そのため、電子注入層6から有機層5への電子注入量を増加させることが可能となる。これにより、有機EL素子の低電圧駆動が可能となる。また、電子注入層6が雰囲気にさらされるのを防ぐことが可能となり、すなわち電子注入層6が雰囲気により劣化して有機層5への電子注入効率が低下することを防ぐことが可能となる。
【0027】
また図2も本発明におけるトップエミッション構造の有機EL素子の断面図である。図2では電子注入層6が島状に形成されている。図2の(c)の断面では図1の(a)の断面と同様に陽極2/有機層5/電子注入層6/陰極7/電子注入補助層8の積層構造となっている。上記の積層構造では従来の素子構造と同様に、電子は陰極7から電子注入層6に輸送され、電子注入層6から有機層5に注入される。
図2の(d)の断面では陽極2/有機層5/電子注入補助層8の積層構造となっており、この断面では有機層5は電子注入層6とは接しておらず、電子注入補助層8に接している。本発明における電子注入補助層8は電子注入性を有するため、隣り合って接している陰極7から電子を受けた電子注入補助層8は電子を有機層5へ注入することが可能となる。そのため、有機層5への電子注入量を増加させることが可能となる。また、電子注入補助層8があることにより、有機層5が雰囲気にさらされるのを防ぐことが可能となり、すなわち有機層5が雰囲気により劣化することを防ぐことが可能となる。
図2の(e)の断面では図1の(b)の断面と同様に陽極2/有機層5/電子注入層6/電子注入補助層8の積層構造となっており、この断面では電子注入層8は陰極7と接しておらず、電子注入層6と電子注入補助層8が接している。したがってこのような積層構造では、図1の(b)で述べた積層構造と同等の作用効果を奏することが可能となる。
上記のように電子注入補助層8を形成することにより、有機層5への電子注入量を大きくすることが可能になる。また、電子注入補助層8があることにより、電子注入層6及び有機層5の雰囲気による劣化を防ぐことができる。その結果として、長期間の低電圧駆動が可能なトップエミッション構造の有機EL素子を実現することができる。
【0028】
本発明はまた、上記有機エレクトロルミネッセンス素子を備えた有機エレクトロルミネッセンス表示装置でもある。本発明の有機EL素子は、電子注入補助層が設けられており、雰囲気による有機層及び電子注入層の劣化を防ぐことが可能であり、その結果、信頼性が向上し、長期駆動が可能であるため、有機ELディスプレイ等の発光素子として好適である。
なお、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は有機ELディスプレイに限らず、照明用等のその他の発光素子としても利用できる。
【0029】
上記有機エレクトロルミネッセンス表示装置は、有機エレクトロルミネッセンス素子の陰極と接続された補助電極を備えることが好ましい。有機EL素子をマトリクス状に複数個並べて有機ELディスプレイとする場合、陰極の抵抗が大きくなり、ディスプレイの各々の画素に流れる電流量にムラができ、表示ムラが起こる可能性がある。その問題を解決するため、ディスプレイに補助電極を設け、陰極と補助電極とを接続し、補助電極を介して陰極に補助電流を供給することで、電流量のムラをなくし、ディスプレイの表示ムラを低減することができる。補助電極の材質としては、導電性を有するものであればよく、例えば、アルミニウム、銀、ニッケル、パラジウム、プラチナ等の金属材料、インジウム錫酸化物、インジウム亜鉛酸化物、酸化亜鉛等の透明導電性酸化物等が挙げられる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子によれば、島状構造を有する陰極の電子注入層と面しない側に電子注入補助層が設けられているため、電子注入補助層が有機層又は電子注入層に接することで、有機EL素子への電子注入を効率的に行なうことができる。その結果、有機EL素子への電子注入量が増加するため、有機EL素子の長期間における低電圧駆動が可能となる。また、有機層及び電子注入層が直接的に雰囲気にさらされるのを防ぐことができ、有機層及び電子注入層の劣化を防ぐことが可能となる。この結果、陰極が発光面側にあるトップエミッション構造を有する有機EL素子において、信頼性が向上し、長期駆動が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に実施例を掲げ、本発明を図面を参照して更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
図1を用いて、本発明の実施例1について説明する。図1は本発明の有機EL素子の断面模式図である。
本実施例はまず、基板1として25mm角のガラス板を用い、基板1上に銀(Ag)を、スパッタリング装置を用いて酸素とアルゴンの混合雰囲気中で100nmの膜厚で形成した。次に、透明導電膜であるインジウムスズ酸化物(ITO)をAg膜上に、スパッタリング装置を用いて酸素とアルゴンの混合雰囲気中で150nmの膜厚で形成し、ITOとAgとの積層膜とした。次に、AgとITOとの積層膜を、フォトリソグラフィー技術を用いて幅2mm、長さ25mmのストライプ状にパターニングを行ない、AgとITOとの積層膜を陽極2とした。
この陽極2上にPEDOT/PSS溶液をスピンコート法により塗布し、200℃で60分間乾燥して、正孔輸送層3を形成した。膜厚は溶液の濃度、スピンコート時の回転数を制御することにより約70nmの厚さにした。次に、ポリスピロ系発光材料の溶液を同様にスピンコート法で塗布し120℃で60分間乾燥することにより発光層4を形成した。膜厚は溶液の濃度、スピンコート時の回転数を制御することにより約70nmの厚さにした。
次に、発光層4上に、電子注入層6であるフッ化カルシウム(CaF)膜を抵抗加熱蒸着法にて、陽極1のストライプと直交するように、幅2mm、長さ25mmのストライプ状に12nmの膜厚で形成した。これにより、発光層4上に電子注入層6を一様に形成した。次に、陰極7であるアルミニウム(Al)膜を抵抗加熱蒸着法にて、CaF膜上にCaFと同じ形状になるように、幅2mm、長さ25mmのストライプ状に5nmの膜厚で形成した。これにより、電子注入層6上に陰極7を島状に形成した。最後に電子注入補助層8としてCaFを抵抗加熱蒸着法により、Al薄膜上に同じ形状になるように、幅2mm、長さ25mmのストライプ状に100nmの膜厚で形成した。これにより、発光面が2mm×2mmの有機EL素子を得た。
【0033】
(比較例1)
本比較例は、電子注入補助層の形成工程を行わなかったこと以外は実施例1と同様の方法で作製し、電子注入補助層8が形成されていないことを除いては、実施例1と同様の構成を有する有機EL素子を得た。
【0034】
ここで、本発明の実施例1の有機EL素子と、比較例1の有機EL素子との特性評価を行った。
図3及び図4は、実施例1と比較例1との素子特性を表したグラフである。作製した各有機EL素子の素子構成は以下に示すものになっている。
実施例1:陽極/有機層/CaF(電子注入層)/Al(島状の陰極)/CaF2(電子注入補助層):(本発明の素子構成)
比較例1:陽極/有機層/CaF(電子注入層)/Al(島状の陰極):(電子注入補助層なしの素子構成)
それぞれの有機EL素子は、電子注入補助層又は陰極を形成した後、大気中には曝露せずに酸素濃度0.1ppm以下及び水分濃度0.1ppm以下のグローブボックス中に移動させ、グローブボックス中で有機EL素子の特性を測定した。
【0035】
図3は上記各素子の駆動電圧に対する、素子に流れる電流の電流密度の関係を表したグラフである。図3において、本発明の構成である電子注入補助層を形成した有機EL素子(実施例1)の電圧−電流密度特性は、電圧8Vにおいて電流密度51.1mA/cmであった。それに対し、電子注入補助層を形成していない有機EL素子(比較例1)は、電圧8Vにおいて電流密度は8.6mA/cmとなっている。これにより、本発明における電子注入補助層を形成した素子は、電子注入補助層を形成していない有機EL素子よりも、同じ電圧で大きな電流を流すことが可能、すなわち、より低い電圧で所望の電流を流すことが可能であることが分かった。
【0036】
図4は上記各素子の駆動電圧に対する、素子の発光輝度の関係を表したグラフである。図4において、本発明の構成である電子注入補助層を形成した有機EL素子(実施例1)の電圧−発光輝度特性は、電圧8Vにおいて発光輝度3600cd/mであった。それに対し、電子注入補助層を形成していない有機EL素子(比較例1)は、電圧8Vにおいて発光輝度290cd/mと低かった。これにより、本発明における電子注入補助層を形成した素子は、電子注入補助層を形成していない有機EL素子よりも、同じ電圧で高い発光輝度を得ることが可能、すなわち、より低い電圧で所望の輝度を得ることが可能であることが分かった。これは、図3について説明したように、本発明の有機EL素子では非常に効率よく有機層に電子を注入することが可能となっているためである。
また、上述したように、これらの有機EL素子は、酸素濃度0.1ppm以下及び水分濃度0.1ppm以下のグローブボックス中で測定を行っている。そのため電子注入補助層の有無にかかわらず、どちらの有機EL素子も酸素や水分によって有機層及び電子注入層にダメージは受けておらず、このようなダメージによる有機層への電子の注入量の低下はないと考えられる。したがって、電子注入補助層を設けることにより電圧に対する電流密度が向上したのは、本発明の有機EL素子は電子注入補助層を有することにより、有機層への電子注入効率が向上したためであると考えられる。
【0037】
(実施例2)
本実施例2は、実施例1と同様の方法で有機EL素子を作製し、ただし電子注入層は膜厚3nmのCaを形成し、電子注入補助層は膜厚150nmのLiFを形成したこと以外を除いては、実施例1と同様の構成を有する有機EL素子を得た。これにより本実施例では、電子注入層6は発光層4上に島状に形成され、電子注入層6及び陰極7がともに島状構造を有する。
【0038】
(比較例2)
本比較例2は、電子注入補助層の形成工程を行わなかったこと以外は実施例2と同様の方法で作製し、電子注入補助層8が形成されていないことを除いては、実施例2と同様の構成を有する有機EL素子を得た。
【0039】
ここで、本発明の実施例2の有機EL素子と、比較例2の有機EL素子との特性評価を行った。
図5及び図6は、実施例2と比較例2との素子特性を表したグラフである。作製した各有機EL素子の素子構成は以下に示すものになっている。
実施例2:陽極/有機層/Ca(島状の電子注入層)/Al(島状の陰極)/LiF(電子注入補助層):(本発明の素子構成)
比較例2:陽極/有機層/Ca(島状の電子注入層)/Al(島状の陰極):(電子注入補助層なしの素子構成)
それぞれの有機EL素子は、電子注入補助層又は陰極を形成した後、大気中には曝露せずに酸素濃度0.1ppm以下及び水分濃度0.1ppm以下のグローブボックス中に移動させ、グローブボックス中で有機EL素子の特性を測定した。
【0040】
図5は上記各素子の駆動電圧に対する、素子に流れる電流の電流密度の関係を表したグラフである。図5において、本発明の構成である電子注入補助層を形成した有機EL素子(実施例2)の電圧−電流密度特性は、電圧8Vにおいて電流密度23.2mA/cmであった。それに対し、電子注入補助層を形成していない有機EL素子(比較例2)は、電圧8Vにおいて電流密度は6.9mA/cmとなっている。これにより、本発明における電子注入補助層を形成した素子は、電子注入補助層を形成していない有機EL素子よりも、同じ電圧で大きな電流を流すことが可能、すなわち、より低い電圧で所望の電流を流すことが可能であることが分かった。
【0041】
図6は上記各素子の駆動電圧に対する、素子の発光輝度の関係を表したグラフである。図6において、本発明の構成である電子注入補助層を形成した有機EL素子(実施例2)の電圧−発光輝度特性は、電圧8Vにおいて発光輝度1680cd/mであった。それに対し、電子注入補助層を形成していない有機EL素子(比較例2)は、電圧8Vにおいて発光輝度240cd/mと低かった。これにより、本発明における電子注入補助層を形成した素子は、電子注入補助層を形成していない有機EL素子よりも、同じ電圧で高い発光輝度を得ることが可能、すなわち、より低い電圧で所望の輝度を得ることが可能であることが分かった。これは、図5について説明したように、本発明の有機EL素子では非常に効率よく有機層に電子を注入することが可能となっているためである。
また、上述したように、これらの有機EL素子は、酸素濃度0.1ppm以下及び水分濃度0.1ppm以下のグローブボックス中で測定を行っている。そのため電子注入補助層の有無にかかわらず、どちらの有機EL素子も酸素や水分によって有機層及び電子注入層にダメージは受けておらず、このようなダメージによる有機層への電子の注入量の低下はないと考えられる。したがって、電気注入層が島状構造を有する形態においても、電子注入補助層を設けることにより電圧に対する電流密度が向上したのは、本発明の有機EL素子は電子注入補助層を有することにより、有機層への電子注入効率が向上したためであると考えられる。
【0042】
(実施例3)
図7を参照して、本発明の実施例3における有機ELディスプレイの構成について説明する。図7は、本実施例の有機ELディスプレイの構成を示した断面模式図である。本実施例の有機ELディスプレイは、陰極7に補助電極28が接続されたアクティブマトリックス駆動方式によるトップエミッション構造を有する。本実施例では、アクティブマトリクス基板上に有機EL素子が形成されている。アクティブマトリクス基板は、基板1と、基板の上に画素ごとに形成された複数の薄膜トランジスタ20(以下「TFT」ともいう)と、補助電極28とこれらのTFT20を覆う平坦化膜30とを有している。各TFT20は、ゲート電極21と、ゲート電極21上にゲート絶縁膜22を介して形成された島状半導体層23と、島状半導体層23の両端部をそれぞれ覆うように設けられたTFT電極(ソース電極24及びドレイン電極25)とを有する、いわゆるボトムゲート構造を有する。また、各TFT20のソース電極24は、ゲート絶縁膜22上に形成されたソース配線26と、ゲート電極21は、基板1上に形成されたゲート配線27とに接続されている。平坦化膜30には、補助電極28に達するスルーホール31aと各TFT20のドレイン電極25に達するスルーホール31bとが設けられている。そして、平坦化膜30の上には、有機EL素子が形成されている。有機EL素子の陽極2は、透明導電膜10及び金属膜9の積層構造からなり、平坦化膜30の上及びスルーホール31bの内部に堆積された積層膜をパターニングすることにより、画素ごとに形成されている。各陽極2は、スルーホール31bを介して対応するTFT20のドレイン電極25と接続されている。これらの陽極2は、各陽極2のそれぞれのエッジ部およびスルーホール31bを覆うように形成された絶縁膜32によって互いに絶縁されている。また、絶縁膜32には、平坦化膜30に設けられた補助電極28に達するスルーホール31aと同じ位置にスルーホール31cが設けられ、補助電極28に達するようになっている。陽極2の上には正孔輸送層3、発光層4、電子注入層6が形成されている。その上層に陰極7が、発光面、絶縁膜32並びにスルーホール31a及びスルーホール31cを介して補助電極28を覆うように形成されており、陰極8と補助電極28とが接続された構造になっている。更にその上層に電子注入補助層8が陰極7の全面を覆うように形成されている。
上記のように陰極7に補助電極28が接している構造にすることにより、各画素への電子の輸送がムラなく行なうことが可能となり、表示ムラの少ないトップエミッション構造の有機ELディスプレイを得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の有機EL素子の断面の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の有機EL素子の断面の別の一例を示す模式図である。
【図3】実施例1と比較例1の有機EL素子について、駆動電圧と素子に流れる電流密度との関係を表したグラフである。
【図4】実施例1と比較例1の有機EL素子について、駆動電圧と素子の発光輝度との関係を表したグラフである。
【図5】実施例2と比較例2の有機EL素子について、駆動電圧と素子に流れる電流密度との関係を表したグラフである。
【図6】実施例2と比較例2の有機EL素子について、駆動電圧と素子の発光輝度との関係を表したグラフである。
【図7】実施例2の有機ELディスプレイの構成を示した断面模式図である。
【図8】従来の有機EL素子の断面の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0044】
1:基板
2:陽極
3:正孔輸送層
4:発光層
5:有機層
6:電子注入層
7:陰極
8:電子注入補助層
9:金属膜
10:透明導電膜
20:薄膜トランジスタ
21:ゲート電極
22:ゲート絶縁膜
23:島状半導体層
24:ソース電極
25:ドレイン電極
26:ソース配線
27:ゲート配線
28:補助電極
30:平坦化膜
31a,31b,31c:スルーホール
32:絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、発光層を含む有機層と、電子注入層と、陰極とがこの順に積層された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
該有機エレクトロルミネッセンス素子は、陰極が島状構造を有し、陰極の電子注入層と面しない側に電子注入補助層が設けられたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記電子注入層は、島状構造を有し、電子注入補助層は有機層、電子注入層及び陰極を被覆するものであることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記陰極は、平均膜厚が1nm以上、10nm以下であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記電子注入補助層は、電子注入層と略同一の材質からなることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
前記電子注入補助層は、電気陰性度が1.5以下の金属の化合物を含むものであることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記電子注入補助層は、平均膜厚が10nm以上であることを特徴とする請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
請求項1記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス表示装置。
【請求項8】
前記有機エレクトロルミネッセンス表示装置は、有機エレクトロルミネッセンス素子の陰極と接続された補助電極を備えることを特徴とする請求項7記載の有機エレクトロルミネッセンス表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−123124(P2007−123124A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−315266(P2005−315266)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】