説明

有機シリカ複合材料の製造方法

【課題】 蒸留に比べて手間とコストがかからないカラムクロマトグラフィにより原料を精製することが可能となり、そのため有機シリカ複合材料の製造に要する手間とコストを低減することができ、しかも従来は製造が困難であった比較的高分子量の有機基を含む有機シリカ複合材料であっても効率良く製造することが可能となる、有機シリカ複合材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】 溶媒中で有機シラン化合物を加水分解及び重縮合反応せしめて有機シリカ複合材料を得る方法であって、前記有機シラン化合物が、下記一般式(1):
【化1】


[式中、R1はケイ素原子に結合した炭素原子を1以上有する有機基、R〜Rはそれぞれ水素原子、低級アルキル基等、Xは水素原子、水酸基、低級アルコキシ基、低級アルキル基等、mは1以上の整数、nは1〜3の整数をそれぞれ示す。]
で表されるアリルシラン化合物であることを特徴とする、有機シリカ複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ素原子と酸素原子と有機基とを主成分として骨格が形成されている有機シリカ複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な物質を吸着、貯蔵等するための材料として、孔径1〜30nm程度のメソサイズの細孔(メソ孔)が非常に規則的に配列したシリカ系メソ多孔体が注目されており、このようなシリカ系メソ多孔体の合成及び機能開発に関する研究が積極的に行われてきた。そのような研究の一つとして、本発明と発明者の一部が重複する特開2000−219770号公報(特許文献1)及び特開2001−114790号公報(特許文献2)においては、有機無機の両方の表面特性を有しており、吸着剤としての性能が高く、更に触媒、センサー、電子デバイス等の分野に適用できるシリカ系メソ多孔体として、ケイ素原子と酸素原子と有機基とを主成分として骨格が形成されている有機シリカ複合材料からなるメソ多孔体が開示されている。そして、これらの公報に記載されているように有機基とシリカが共有結合のネットワーク構造を形成している有機シリカ複合材料はいずれも、従来は、加水分解性基としてアルコキシ基を主として有するアルコキシシラン類を原料として用いて製造されてきた。
【0003】
しかしながら、このようなアルコキシシラン類は反応性が高く、容易に加水分解するため、かかるアルコキシシラン類を得るための精製手法は厳密な禁水条件下における蒸留に限定される。そのため、アルコキシシラン類を原料として用いた従来の有機シリカ複合材料の製造方法においては、蒸留での精製が困難である比較的高分子量の有機基を含むアルコキシシラン類を原料として用いることができず、このような高分子量の有機基を含む有機シリカ複合材料を製造することが困難であるという問題があった。また、蒸留による精製手法は、カラムクロマトグラフィによる精製手法に比べて手間とコストがかかるため、従来の有機シリカ複合材料の製造方法においては、蒸留による原料の精製に手間とコストがかかり、結果として有機シリカ複合材料の製造に要する手間とコストの低減に限界があるという問題もあった。
【特許文献1】特開2000−219770号公報
【特許文献2】特開2001−114790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、蒸留に比べて手間とコストがかからないカラムクロマトグラフィにより原料を精製することが可能となり、そのため有機シリカ複合材料の製造に要する手間とコストを低減することができ、しかも従来は製造が困難であった比較的高分子量の有機基を含む有機シリカ複合材料であっても効率良く製造することが可能となる、有機シリカ複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有するアリルシラン化合物は加水分解に対して安定なためカラムクロマトグラフィによる精製が可能であり、しかもかかるアリルシラン化合物を原料として用いても有機シリカ複合材料を製造することが可能であるため、このようなアリルシラン化合物を原料として用いることによって上記目的が達成可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の有機シリカ複合材料の製造方法は、溶媒中で有機シラン化合物を加水分解及び重縮合反応せしめて有機シリカ複合材料を得る方法であって、前記有機シラン化合物が、下記一般式(1):
【0007】
【化1】

【0008】
[式中、R1はケイ素原子に結合した炭素原子を1以上有する有機基を示し、R〜Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、及び第一の置換基を有していてもよいフェニル基(前記第一の置換基は、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、イソプロピル基及びフェニル基からなる群から選択される少なくとも一つである。)からなる群から選択されるいずれかを示し、Xは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、第二の置換基を有していてもよいアルコキシ基、第二の置換基を有していてもよいアシルオキシ基、第二の置換基を有していてもよいアルキル基、第二の置換基を有していてもよいアルケニル基(アリル基は除く)、及び第二の置換基を有していてもよいアリール基(前記第二の置換基は、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基からなる群から選択される少なくとも一つである。)からなる群から選択されるいずれかを示し、mは1以上の整数を示し、nは1〜3の整数を示す。]
で表されるアリルシラン化合物であることを特徴とする方法である。
【0009】
また、上記本発明の有機シリカ複合材料の製造方法においては、界面活性剤を含有する溶媒中で前記アリルシラン化合物を加水分解及び重縮合反応せしめて有機シリカ複合材料中に前記界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体を得た後、前記多孔体前駆体に含まれる前記界面活性剤を除去するようにしてもよく、それによって多孔体である有機シリカ複合材料を得ることが可能となる。このようにすれば、前記多孔体である有機シリカ複合材料として、中心細孔直径が1〜30nmのメソ多孔体が好適に得られる。
【0010】
さらに、上記本発明の有機シリカ複合材料の製造方法においては、前記有機シリカ複合材料として、前記有機基の規則的な配列に起因する5nm以下の周期構造を有するものが好適に得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蒸留に比べて手間とコストがかからないカラムクロマトグラフィにより原料を精製することが可能となり、そのため有機シリカ複合材料の製造に要する手間とコストを低減することができ、しかも従来は製造が困難であった比較的高分子量の有機基を含む有機シリカ複合材料であっても効率良く製造することが可能となる、有機シリカ複合材料の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0013】
本発明の有機シリカ複合材料の製造方法においては、原料としての有機シラン化合物として、下記一般式(1)で表されるアリルシラン化合物を用いる。
【0014】
【化2】

【0015】
上記一般式(1)中、R1はケイ素原子に結合した炭素原子を1以上有する有機基を示す。本発明にかかるR1で表される有機基は、ケイ素原子に結合した炭素原子を1以上有していればよく、1個のケイ素原子に結合する1価のもの、或いは2個以上のケイ素原子に結合する2価以上の価数を有するものが挙げられる。このような1価又は2価以上の有機基としては、例えば、アルカン、アルケン、アルキン、ベンゼン、シクロアルカン等の炭化水素から1個の水素がとれて生じる1価の有機基又は2個以上の水素がとれて生じる2価以上の有機基が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、このような有機基は、その水素原子の一部が、アミド基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、スルフォン基、カルボキシル基、エーテル基、アシル基、ビニル基等の置換基で置換されたものであってもよい。また、本発明の有機シリカ複合材料は、上記の有機基を1種類のみ含むものであっても、2種以上含むものであってもよい。
【0016】
本発明にかかるR1で表される有機基は、上記の通り、1価の有機基でも、2価以上の有機基でもよく、好適な1価の有機基としては、アルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基等の炭素数1〜10の低級アルキル基)、アルケニル基(好ましくは、アリル基、ビニル基等の炭素数1〜10の低級アルケニル基)、アリール基(好ましくは、フェニル基、ビフェニル基等)等が挙げられ、中でも、更なる誘導化が容易であるという観点から、アリル基、フェニル基等が好ましい。
【0017】
また、本発明にかかるR1で表される有機基としては、適度な架橋度の有機シリカ複合材料が得られるという観点から、有機基の価数は2価であることが好ましい。このような2価の有機基としては、メチレン基(−CH2−)、エチレン基(−CH2CH2−)、トリメチレン基(−CH2CH2CH2−)、テトラメチレン基(−CH2CH2CH2CH2−)、1,2−ブチレン基(−CH(C25)CH−)、1,3−ブチレン基(−CH(CH3)CH2CH2−)、フェニレン基(−C64−)、ビフェニレン基(−C64−C64−)、ジエチルフェニレン基(−C24−C64−C24−)、ビニレン基(−CH=CH−)、プロペニレン基(−CH2−CH=CH2−)、ブテニレン基(−CH2−CH=CH−CH2−)、アミド基(−CO−NH−)、ジメチルアミノ基(−CH2−NH−CH2−)、トリメチルアミン基(−CH2−N(CH3)−CH2−)等が挙げられる。中でも、結晶性の高い有機シリカ複合材料を得ることが可能であるという観点から、R1で表される有機基としては、メチレン基、エチレン基、フェニレン基、ビフェニレン基が好ましい。
【0018】
上記の有機基における同一若しくは異なる炭素原子にはケイ素原子が結合する。そして、本発明の有機シリカ複合材料においては、上述の有機基とケイ素原子と酸素原子とが共有結合等によって結合して骨格が形成され、有機基に結合するケイ素原子の数やケイ素原子に結合する酸素原子の数によって、異なった骨格(直鎖状、梯子状、網目状、分岐状等)の有機シリカ複合材料が生じる。
【0019】
本発明においては、有機基は1以上のケイ素原子と結合し(前記一般式(1)中のmは1以上の整数)、そのケイ素原子は1以上の酸素原子と結合するため、有機基はケイ素酸化物の骨格中に取り込まれる。この結果、本発明の有機シリカ複合材料は有機無機の両方の表面特性を示すようになる。また、ケイ素酸化物の表面に単に有機基が付加した表面修飾型の複合材料とは異なり、本発明の有機シリカ複合材料は加熱等による有機基の脱離が低減され、例えば吸着剤や触媒用担体として用いたときに性能劣化が十分に抑えられる。
【0020】
また、本発明にかかる前記一般式(1)で表されるアリルシラン化合物においては、ケイ素原子に1〜3個(前記一般式(1)中のnは1〜3の整数)のアリル基(−CH−CH=CH)又はR〜Rの置換基を有するアリル基が結合しており、1個のケイ素原子に結合するこのようなアリル基(置換基を有するアリル基を含む)の数は2〜3個であることが好ましく、2個であることがより好ましい。
【0021】
前記一般式(1)中のR〜Rは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、及び第一の置換基を有していてもよいフェニル基からなる群から選択されるいずれかである。なお、前記第一の置換基は、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、イソプロピル基及びフェニル基からなる群から選択される少なくとも一つである。また、前記第一の置換基の位置は、オルト位、メタ位、パラ位のいずれでもよく、第一の置換基の数は単数でも複数でもよいが、単数であることが好ましい。R〜Rがこれら以外の場合には、後述する反応工程において上記アリル基(置換基を有するアリル基を含む)が脱離し難くなり、安定なシロキサン結合(Si−O−Si)が十分に形成され難くなる傾向にある。
【0022】
このようなアリル基(置換基を有するアリル基を含む)としては、ケイ素原子への求核性を高めるという観点から、アリル基(−CH−CH=CH)、置換基としてフェニル基を有するアリル基が好ましい。
【0023】
さらに、本発明にかかる前記一般式(1)で表されるアリルシラン化合物においては、ケイ素原子に0〜2個のXで表される基が結合しており、1個のケイ素原子に結合するXで表される基の数は0〜1個であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0024】
このようなXで表される基は、水素原子、ハロゲン原子(塩素原子、フッ素原子、臭素原子、沃素原子)、水酸基、第二の置換基を有していてもよいアルコキシ基(好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、フェノキシ基等の炭素数1〜10の低級アルコキシ基)、第二の置換基を有していてもよいアシルオキシ基(好ましくは、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等の炭素数1〜10の低級アルコキシ基)、第二の置換基を有していてもよいアルキル基(好ましくは、メチル基、エチル基等の炭素数1〜10の低級アルキル基)、第二の置換基を有していてもよいアルケニル基(好ましくは、ビニル基等の炭素数1〜10の低級アルケニル基。ただし、アリル基は除く。)、及び第二の置換基を有していてもよいアリール基(好ましくは、フェニル基、ビフェニル基等)からなる群から選択されるいずれかである。なお、前記第二の置換基は、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基からなる群から選択される少なくとも一つである。
【0025】
このようなXで表される基としては、高次シロキサン結合形成の容易さという観点から、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソプロポキシ基、フェノキシ基が好ましい。
【0026】
前記一般式(1)で表されるアリルシラン化合物の合成方法は特に制限されず、公知の合成方法を適宜用いて種々のアリルシラン化合物を合成することが可能である。例えば、好適なアリルシラン化合物の一種である1,4位架橋シリルベンゼンに関し、1,4-Bis(diallylethoxysilyl)benzene(BDAEB)及び1,4-Bis(triallylsilyl)benezene(BTAB)は、以下のようにして合成することができる。すなわち、先ず、出発物質である1,4-Bis(triehoxysilyl)benzene(BTEB)は、1,4-ジブロモベンゼンに対するBarbier Grignard反応により調製することができる。次に、BTEBに対してアリルグリニヤール試薬を加えることでシリル上のエトキシ基が2つアリル基に置換したBDAEBが良好な単離収率で得らる。また、上記の反応直前にアリルリチウム試薬を加えると、全てのエトキシ基がアリル基に置換されたBTABが得られる。
【0027】
以上説明した前記一般式(1)で表されるアリルシラン化合物は、カラムクロマトグラフィ(例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィ)により簡易にかつ低コストで十分に精製することが可能であり、従来のアルコキシシラン類に比べて格段の加水分解に対する安定性を示すものである。
【0028】
本発明の有機シリカ複合材料の製造方法においては、原料としての前記一般式(1)で表されるアリルシラン化合物を用い、溶媒中でかかるアリルシラン化合物を加水分解及び重縮合反応せしめて有機シリカ複合材料を得る。
【0029】
上記一般式(1)で表されるアリルシラン化合物を重合(加水分解及び重縮合反応)せしめると、基本的に前記一般式(1)中のアリル基(置換基を有するアリル基を含む)が脱離し、その部分において加水分解とその後の縮合反応によりシロキサン結合(Si−O−Si)が形成される。また、用いるアリルシラン化合物が、Xで表される基としてアルコキシ基、水酸基、ハロゲン原子、アシルオキシ基のような加水分解性基を有している場合は、これらの加水分解性基も脱離し、その部分においても加水分解とその後の縮合反応によりシロキサン結合(Si−O−Si)が形成される。
【0030】
このように上記アリルシラン化合物を重合せしめて得られる有機シリカ複合材料は、有機基(R)とケイ素原子(Si)と酸素原子(O)とを主成分として骨格が形成されており、高度に架橋した網目構造を有している。
【0031】
前記アリルシラン化合物を重合せしめる方法は特に制限されないが、水又は水と有機溶媒との混合溶媒を溶媒として使用し、酸又は塩基触媒の存在下で前記アリルシラン化合物を加水分解及び重縮合反応せしめることが好ましい。ここで好適に用いられる有機溶媒としてはアルコール、アセトン等が挙げられ、混合溶媒とする場合の有機溶媒の含有量は5〜50重量%程度であることが好ましい。また、使用される酸触媒としては、塩酸、硝酸、硫酸といった鉱酸等が挙げられ、酸触媒を使用する場合の溶液はpHが6以下(より好ましくは2〜5)の酸性であることが好ましい。さらに、使用される塩基触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム等が挙げられ、塩基触媒を使用する場合の溶液はpHが8以上(より好ましくは9〜11)の塩基性であることが好ましい。
【0032】
このような重合工程における前記アリルシラン化合物の含有量は、ケイ素濃度換算で0.0055〜0.33mol/L程度であることが好ましい。また、上記重合工程における諸条件(温度、時間、等)は特に制限されず、用いるアリルシラン化合物や目的とする有機シリカ複合材料等に応じて適宜選択されるが、一般的には0〜100℃程度の温度で1〜48時間程度の時間前記アリルシラン化合物を加水分解及び縮合反応せしめることが好ましい。
【0033】
前記アリルシラン化合物を重合せしめてなる有機シリカ複合材料は、通常はアモルファス構造であるが、合成条件により前記有機基(R)の規則的な配列に起因する周期構造を有することが可能である。このような周期性は使用するアリルシラン化合物の分子長に依存するが、5nm以下の周期構造であることが好ましい。この周期構造はアリルシラン化合物が重合した後も保持される。そして、この周期構造の形成は、X線回折(XRD)測定によりd=5nm以下の領域にピークが出現することにより確認することができる。なお、X線回折測定においてこのようなピークが確認されない場合であっても、部分的に周期構造が形成されている場合がある。このような周期構造は、後述する層状構造に伴って形成されるのが一般的であるが、その場合に限定されるものではない。
【0034】
このような有機基の規則的な配列に起因する周期構造を形成するための好適な合成条件としては、以下の諸条件が挙げられる。
(i)前記周期構造はアリルシラン化合物間に働く相互作用により形成されるため、アリルシラン化合物間の相互作用が大きくなる有機基(R)、すなわちベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセンを用いることが好ましい。
(ii)溶液のpHが1〜3(酸性)又は10〜12(塩基性)であることが好ましく、10〜12(塩基性)であることがより好ましい。
【0035】
さらに、本発明の有機シリカ複合材料の製造方法においては、前記アリルシラン化合物を重合(加水分解及び重縮合反応)せしめる際に界面活性剤を混合することにより、得られる有機シリカ複合材料に細孔を形成させることが可能である。すなわち、界面活性剤のミセル又は液晶構造が鋳型となり、細孔を有する多孔体が形成される。
【0036】
このように前記アリルシラン化合物と共に界面活性剤を用いると、細孔径分布曲線における中心細孔直径が1〜30nmのメソ孔を有するメソ多孔体が得られるので好ましい。なお、前記中心細孔直径とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線(細孔径分布曲線)の最大ピークにおける細孔直径であり、次に述べる方法により求めることができる。すなわち、多孔体を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法あるいは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。この吸着等温線を用い、Cranston−Inklay法、Pollimore−Heal法、BJH法等の計算法により細孔径分布曲線を求めることができる。
【0037】
このようなメソ多孔体は、細孔径分布曲線における中心細孔直径の±40%の範囲に全細孔容積の60%以上が含まれることが好ましい。この条件を満たすメソ多孔体は、細孔の直径が非常に均一であることを意味する。また、メソ多孔体の比表面積については特に制限はないが、700m2/g以上であることが好ましい。比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。
【0038】
さらに、このようなメソ多孔体は、そのX線回折(XRD)パターンにおいて1.5〜30.5nmのd値に相当する回折角度に1本以上のピークを有することが好ましい。X線回折ピークはそのピーク角度に相当するd値の周期構造が試料中にあることを意味する。したがって、1.5〜30.5nmのd値に相当する回折角度に1本以上のピークがあることは、細孔が1.5〜30.5nmの間隔で規則的に配列していることを意味する。
【0039】
また、このようなメソ多孔体が有する細孔は、多孔体の表面のみならず内部にも形成される。かかる多孔体における細孔の配列状態(細孔配列構造又は構造)は特に制限されないが、2d−ヘキサゴナル構造、3d−ヘキサゴナル構造又はキュービック構造であることが好ましい。また、このような細孔配列構造は、ディスオーダの細孔配列構造を有するものであってもよい。
【0040】
ここで、多孔体がヘキサゴナルの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が六方構造であることを意味する(S.Inagaki et al., J.Chem.Soc.,Chem.Commun., p.680(1993)、S.Inagaki et al., Bull.Chem.Soc.Jpn., 69,p.1449(1996)、Q.Huo et al., Science, 268,p.1324(1995)参照)。また、多孔体がキュービックの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が立方構造であることを意味する(J.C.Vartuli et al., Chem.Mater., 6,p.2317(1994)、Q.Huo et al., Nature, 368,p.317(1994)参照)。また、多孔体がディスオーダの細孔配列構造を有するとは、細孔の配置が不規則であることを意味する(P.T.Tanev et al., Science, 267,p.865(1995)、S.A.Bagshaw et al., Science, 269,p.1242(1995)、R.Ryoo et al., J.Phys.Chem., 100,p.17718(1996)参照)。また、前記キュービック構造は、Pm−3n、Ia−3d、Im−3m又はFm−3m対称性であることが好ましい。前記対称性とは、空間群の表記法に基づいて決定されるものである。
【0041】
このように本発明の有機シリカ複合材料中に細孔がある場合、その多孔体に触媒作用を奏する他の金属や、発光性化合物等の機能性成分を吸着(物理的吸着及び/又は化学的結合)させることが可能となる。
【0042】
前記メソ多孔体を得る際に用いられる界面活性剤は、特に限定されるものではなく、陽イオン性、陰イオン性、非イオン性のうちのいずれであってもよく、具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム、アルキルトリエチルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム等の塩化物、臭化物、ヨウ化物あるいは水酸化物;脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤、一級アルキルアミン等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で又は二種以上混合して用いられる。
【0043】
上記の界面活性剤のうち、ポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤としては、疎水性成分として炭化水素基、親水性部分としてポリエチレンオキサイドをそれぞれ有するポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤等が挙げられる。このような界面活性剤としては、例えば、一般式Cn2n+1(OCH2CH2mOHで表され、nが10〜30、mが1〜30であるものが好適に使用できる。また、このような界面活性剤としては、オレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸とソルビタンとのエステル、あるいはこれらのエステルにポリエチレンオキサイドが付加した化合物を用いることもできる。
【0044】
さらに、このような界面活性剤としては、トリブロックコポリマー型のポリアルキレンオキサイドを用いることもできる。このような界面活性剤としては、ポリエチレンオキサイド(EO)とポリプロピレンオキサイド(PO)からなり、一般式(EO)x(PO)y(EO)xで表されるものが挙げられる。x、yはそれぞれEO、POの繰り返し数を表すが、xは5〜110、yは15〜70であることが好ましく、xは13〜106、yは29〜70であることがより好ましい。上記のトリブロックコポリマーとしては、(EO)19(PO)29(EO)19、(EO)13(PO)70(EO)13、(EO)5(PO)70(EO)5、(EO)13(PO)30(EO)13、(EO)20(PO)30(EO)20、(EO)26(PO)39(EO)26、(EO)17(PO)56(EO)17、(EO)17(PO)58(EO)17、(EO)20(PO)70(EO)20、(EO)80(PO)30(EO)80、(EO)106(PO)70(EO)106、(EO)100(PO)39(EO)100、(EO)19(PO)33(EO)19、(EO)26(PO)36(EO)26が挙げられる。これらのトリブロックコポリマーはBASF社、アルドリッチ社等から入手可能であり、また、小規模製造レベルで所望のx値とy値を有するトリブロックコポリマーを得ることができる。
【0045】
また、エチレンジアミンの2個の窒素原子にそれぞれ2本のポリエチレンオキサイド(EO)鎖−ポリプロピレンオキサイド(PO)鎖が結合したスターダイブロックコポリマーも使用することができる。このようなスターダイブロックコポリマーとしては、一般式((EO)x(PO)y2NCH2CH2N((PO)y(EO)x2で表されるものが挙げられる。ここでx、yはそれぞれEO、POの繰り返し数を表すが、xは5〜110、yは15〜70であることが好ましく、xは13〜106、yは29〜70であることがより好ましい。
【0046】
このような界面活性剤の中では、結晶性の高いメソ多孔体を得ることができることから、アルキルトリメチルアンモニウム[Cp2p+1N(CH33]の塩(好ましくはハロゲン化物塩)を用いることが好ましい。また、その場合は、アルキルトリメチルアンモニウム中のアルキル基の炭素数は8〜22であることがより好ましい。このようなものとしては、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化テトラデシルトリメチルアンモニウム、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化デシルトリメチルアンモニウム、臭化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化ドコシルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0047】
本発明の有機シリカ複合材料の製造方法においては、前記界面活性剤を含有する前記溶媒中で前記アリルシラン化合物を加水分解及び重縮合反応せしめて有機シリカ複合材料中に前記界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体を得るが、その場合、前記溶液中の界面活性剤の濃度は0.05〜1mol/Lであることが好ましい。この濃度が前記下限未満であると細孔の形成が不完全となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると未反応で溶液中に残留する界面活性剤の量が増大して細孔の均一性が低下する傾向にある。
【0048】
さらに、本発明の有機シリカ複合材料の製造方法においては、このようにして得られた多孔体前駆体に含まれる界面活性剤を除去することによって多孔体である有機シリカ複合材料を得るが、このように界面活性剤を除去する方法としては以下の方法が挙げられる。すなわち、例えば、(i)界面活性剤に対する溶解度が高い有機溶媒(例えば、エタノール)中に前記多孔体前駆体を浸漬して界面活性剤を除去する方法、(ii)前記多孔体前駆体を300〜1000℃で焼成して界面活性剤を除去する方法、(iii)前記多孔体前駆体を酸性溶液に浸漬して加熱し、界面活性剤を水素イオンに交換せしめるイオン交換法、等を挙げることができる。
【0049】
本発明により得られる有機シリカ複合材料は、粉末のまま使用してもよいが、必要に応じて成形して使用してもよい。成形する手段はどのようなものでも良いが、押出成形、打錠成形、転動造粒、圧縮成形、CIP等が好ましい。その形状は使用箇所、方法に応じて決めることができ、例えば円柱状、破砕状、球状、ハニカム状、凹凸状、波板状等が挙げられる。
【0050】
また、本発明の有機シリカ複合材料の製造方法においては、例えば以下の方法により、薄膜状である有機シリカ複合材料を得ることも可能である。
【0051】
すなわち、薄膜状の有機シリカ複合材料を得る場合、先ず、前記アリルシラン化合物を酸性溶液(塩酸、硝酸等の水溶液又はアルコール溶液等)中で攪拌することにより反応(部分加水分解及び部分縮合反応)せしめてその部分重合体を含むゾル溶液を得る。このようなアリルシラン化合物の加水分解反応はpHが低い領域で起こりやすいことから、系のpHを低くすることにより部分重合を促進することができる。このとき、pHは2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。また、その際の反応温度は15〜25℃程度とすることができ、反応時間は30〜90分程度とすることができる。
【0052】
次に、このゾル溶液を各種のコーティング方法で基板に塗布することにより、薄膜状の有機シリカ複合材料を作製することができる。なお、各種のコーティング方法としては、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター等を用いて塗布することができ、また、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレーコーティング等も可能である。さらに、ゾル溶液をインクジェット法により塗布することにより、基板にパターン状の有機シリカ複合材料を形成することも可能である。
【0053】
次いで、得られた薄膜を70〜150℃程度に加熱して乾燥せしめ、前記部分重合体の重縮合反応を進めて三次元的な架橋構造を形成させることが好ましい。なお、前記ゾル溶液に前述の界面活性剤を添加することにより、薄膜状の有機シリカ複合材料中に規則的な細孔構造を形成することが可能となる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例、比較例及び合成例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
(合成例1:1,4-Bis(triethoxysilyl)benzene(BTEB)の合成)
以下の合成方法により、1,4-Bis(triethoxysilyl)benzene(BTEB)を合成した。その際の反応スキームを以下に示す。
【0056】
【化3】

【0057】
すなわち、先ず、還流冷却器、窒素ガス導入管及び側管付滴下漏斗を備えた三口フラスコ(容量2リットル)に回転子を入れ、系内を窒素雰囲気に置換した。次に、マグネシウム(Mg)片15g(0.62mol)と乾燥テトラヒドロフラン(THF)300ml及び乾燥テトラエトキシシラン(TEOS)450mlを加えた。続いて、滴下漏斗に1,4-ジブロモベンゼン48g(0.20mol)のTHF溶液100mlを加え、反応が開始するまで80℃に加熱、撹拌しながらゆっくりと滴下した。そして、反応が開始したら残りのハロゲン化合物を穏やかな還流が続く程度の速度で滴下した。約5時間かけて滴下を終了した後、さらに1時間還流させ、室温まで冷却した後、乾燥ヘキサン500mlを加えてマグネシウム塩を析出させた。得られた上澄みを窒素ガス雰囲気下でろ過し、溶媒を留去した後に減圧蒸留(0.2mmHg,-140℃)することによって目的とする1,4-Bis(triethoxysilyl)benzeneが得られた。なお、収量は41.1g(収率50%)であった。また、得られた化合物のスペクトルデータを以下に示す。
【0058】
1H-NMR(500MHz,CDCl3)δ1.16(t,J=7.0Hz,18H),3.79(q,J=7.0Hz,12H),7.60(s,4H).13C-NMR(125MHz,CDCl3)δ18.1,58.6,133.0,134.0.29Si-NMR(99MHz,CDCl3)δ-57.5.Elemental Anal. Calcd. for C18H34O6Si2:C,53.70;H,8.51.Found:C,53.67;H,8.56。
【0059】
(合成例2:1,4-Bis(diallylethoxysilyl)benzene(BDAEB)の合成)
以下の合成方法により、1,4-Bis(diallylethoxysilyl)benzene(BDAEB)を合成した。その際の反応スキームを以下に示す。
【0060】
【化4】

【0061】
すなわち、先ず、ラバーセプタム及び窒素ガス導入管を付けた三口フラスコ(容量500ml)に1,4-Bis(triethoxysilyl)benzene 13.4g(33.3mmol)を加え、0℃に冷却した。次に、1.0Mアリルマグネシウムブロマイドのエーテル溶液200ml(0.20mol)をゆっくりと滴下した後、冷水浴をはずし、室温で9時間撹拌した。続いて、5%塩酸水溶液150mlを加えた後、エーテルで3回抽出した。得られた有機層を合わせ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=40:1)で精製することによって目的とする1,4-Bis(diallylethoxysilyl)benzeneが得られた。収量は11.8g(収率92%)であった。また、得られた化合物のスペクトルデータを以下に示す。
【0062】
1H-NMR(500MHz,CDCl3)δ1.12(t,J=7.0Hz,6H),1.83-1.89(m,8H),3.69(q,J=7.0Hz,4H),4.81-4.89(m,8H),5.70-5.79(m,4H),7.50(s,4H).13C-NMR(125MHz,CDCl3)δ18.3,21.1,59.2,114.7,132.8,133.1,136.8.29Si-NMR(99MHz,CDCl3)δ-1.78.Elemental Anal. Calcd. for C22H34O2Si2:C,68.34;H,8.86.Found:C,68.61;H,8.99。
【0063】
(合成例3:1,4-Bis(triallylsilyl)benezene(BTAB)の合成)
以下の合成方法により、1,4-Bis(triallylsilyl)benezene(BTAB)を合成した。その際の反応スキームを以下に示す。
【0064】
【化5】

【0065】
すなわち、先ず、還流冷却器及び側管付滴下漏斗を備えた三口フラスコ(容量500ml)を窒素雰囲気に置換し、乾燥THF100mlとリチウム片8.4g(1.20mol)を加えた。次に、フラスコを塩-氷浴で-10℃に冷却し、アリルフェニルエーテル13.7ml(0.10mol)のTHF溶液50mlを急速に撹拌しながら滴下した。反応がはじまると溶液は淡い緑色になった。そして、約2時間かけて滴下を終了し、さらに-10℃で1時間撹拌した。続いて、0℃に冷却した1,4-Bis(triethoxysilyl)benzene 3.2g(8.0mmol)の無水THF溶液100mlに調製したアリルリチウム溶液の上澄みをカニューラを用いて加え、0℃で1時間撹拌した。その後、水100mlを加え、有機層を分液し、水層をエーテルで2回抽出した。得られた有機層を合わせ、無水硫酸マグネシウムで乾燥、ろ過、濃縮した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=40:1)で精製することによって目的とする1,4-Bis(triallylsilyl)benezeneが透明な溶液として得られた。収量は2.29g(収率76%)であった。また、得られた化合物のスペクトルデータを以下に示す。
【0066】
1H-NMR(500MHz,CDCl3)δ1.78-1.79(m,12H),4.80-4.86(m,12H),5.69-5.74(m,6H),7.41(s,4H).13C-NMR(125MHz,CDCl3)δ19.4,114.3,133.3,133.7,136.4.29Si-NMR(CDCl3)δ-7.60.Elemental Anal. Calcd. for C24H34Si2:C,76.12;H,9.05.Found:C,76.05;H,9.09。
【0067】
(合成例4:Phenyldiallylethoxysilaneの合成)
以下の合成方法により、Phenyldiallylethoxysilaneを合成した。その際の反応スキームを以下に示す。
【0068】
【化6】

【0069】
すなわち、先ず、1,4-ジブロモベンゼンに代えてブロモベンゼン75gを用いるようにした以外は合成例1と同様にして、テトラエトキシシラン(TEOS)溶液中おけるブロモベンゼンのBarbier Grignard反応によりPhenytriethoxysilaneを得た。その際の収量は84.2g(収率72%)であった。
【0070】
次に、1,4-Bis(triethoxysilyl)benzene(BTEB)に代えてPhenytriethoxysilane 15gを用いるようにした以外は合成例2と同様にして、Phenytriethoxysilaneに対して2等量のアリルグリニヤール試薬を加えることによってPhenyldiallylethoxysilaneを調製した。その際の収量は10.6g(収率73%)であった。
【0071】
(実施例1)
合成例4で得られたPhenyldiallylethoxysilaneを原料として用いて以下のようにして有機シリカ複合材料を得た。その際の反応スキームを以下に示す。
【0072】
【化7】

【0073】
すなわち、先ず、80gのイオン交換水中にOctadecyltrimethylammonium chloride(ODTMA)1.5g及び6M NaOH水溶液2.86mlを含有する水溶液中にPhenyldiallylethoxysilane 1.0gを加え、95℃で加熱撹拌を続けたところ、7日後に白色の固体が析出を始めた。さらに7日間加熱撹拌を続けた。析出した固体を遠心分離(3600rpm)により分離し、蒸留水による洗浄後、オーブン(100℃)内で乾燥させることによって白色固体(1.7g)が得られた。
【0074】
次に、エタノール溶液400ml中、得られた固体に35% HCl水溶液15gを加え、70℃で3日間撹拌することによって固体中の界面活性剤を除去した。得られた固体を遠心分離により分離し、エタノールと蒸留水により洗浄した後、加熱乾燥することによって白色の粉末体(90mg)を得た。
【0075】
(比較例1)
Phenyldiallylethoxysilaneに代えてPhenyltriethoxysilane 1.0gを用いるようにした以外は実施例1と同様にして、白色の粉末体(172mg)を得た。その際の反応スキームを以下に示す。
【0076】
【化8】

【0077】
<IRスペクトルの確認試験>
実施例1で得られた白色の粉末体のIRスペクトルと比較例1で得られた白色の粉末体のIRスペクトルとを測定して比較したとこと、両者は一致していた。したがって、実施例1で得られた白色の粉末体と比較例1で得られた白色の粉末体とは同一の組成を有する有機シリカ複合材料であることが確認された。
【0078】
(実施例2)
合成例2で得られた1,4-Bis(diallylethoxysilyl)benzene(BDAEB)を原料として用いて以下のようにして有機シリカ複合材料を得た。その際の反応スキームを以下に示す。
【0079】
【化9】

【0080】
すなわち、先ず、33gのイオン交換水中にOctadecyltrimethylammonium chloride(ODTMA)0.72g及び6M NaOH水溶液0.5gを含有する水溶液中にBDAEB 0.75gを加え、95℃で加熱撹拌を続けたところ、20時間後に白色の固体が析出を始めた。さらに20時間加熱撹拌を続けた。析出した固体を遠心分離(3600rpm)により分離し、蒸留水による洗浄後、オーブン(100℃)内で乾燥させることによって白色固体が得られた。
【0081】
次に、エタノール溶液中、得られた固体に35% HCl水溶液を加え、70℃で3日間撹拌することによって固体中の界面活性剤を除去した。得られた固体を遠心分離により分離し、エタノールと蒸留水により洗浄した後、加熱乾燥することによって白色の粉末体を得た。
【0082】
<X線回折パターンの確認試験>
実施例2で得られた有機シリカ複合材料(ベンゼン−シリカハイブリッドメソ多孔体)における界面活性剤を除去する前のもののX線回折パターンを図1に、界面活性剤を除去した後のもののX線回折パターンを図2に示す。
【0083】
実施例2で得られた有機シリカ複合材料においては、界面活性剤除去前のものは41.6オングストローム、界面活性剤除去後のものは45.7オングストロームにd100値のピークを有しており、さらに2θ=10〜40°においてd=7.6、3.8及び2.5オングストロームに鋭いピークを有していた。このX線回折パターンから、7.6オングストロームの間隔で細孔が配列しており、細孔壁内に構造的な周期性を有する結晶状の細孔壁を有していることが確認された。
【0084】
このようなX線回折パターンは、1,4-Bis(triethoxysilyl)benzeneを原料として用いて塩基性条件下で同様にして得られた従来の有機シリカ複合材料のX線回折パターンと同様のものであった。
【0085】
また、実施例2で得られた有機シリカ複合材料においては、界面活性剤除去前のものはa=48.1オングストロームの格子定数を有していたのに対して、界面活性剤除去後のものはa=52.8オングストロームの格子定数を有する二次元ヘキサゴナル構造(p6mn)を有しており、分子レベルの周期性は界面活性剤除去後も完全に維持されていることが確認された。
【0086】
<吸着等温線の確認試験>
実施例2で得られた有機シリカ複合材料の細孔構造を調べるために、N吸着等温線を測定した。得られたN吸着等温線を図3に示す。また、得られた細孔径分布曲線を図4に示す。得られた吸着等温線はIV型(IUPAC規格)であり、ヒステリシスはなく、典型的なメソ多孔体構造を有していることが確認され、BJH法による細孔径は23.5オングストローム、BET法による比表面積は744m2/g、細孔容積は0.53cm/gであった。
【0087】
<NMRスペクトルの確認試験>
実施例2で得られた有機シリカ複合材料の細孔壁の構造を調べるために、13C及び29Si NMRスペクトルを測定した。得られた結果をそれぞれ図5及び図6に示す。
【0088】
得られたNMRスペクトルから、実施例2で得られた有機シリカ複合材料(ベンゼン−シリカハイブリッドメソ多孔体)は、O1.5Si−C−SiO1.5ユニットが三次元的に結合したネットワーク構造からなる細孔壁を有しており、合成の間にSi−C結合の分裂は起こっていないことが確認された。
【0089】
29Si NMRスペクトルにおける-71.6及び-81.9ppmの2つの鋭い共鳴はTシリカ種(T[SiC(OH)(OSi)]及びT[SiC(OH)(OSi)])に相当しており、このことから、アリル基は完全に脱離、すなわち加水分解して完全に脱アリル化が起こったことが確認された。13C NMRスペクトルにおいてもアリル基を構成する炭素原子に対応するシグナルは観察されず、このことからも合成の間にアリル基が完全に脱離したことが確認された。
【0090】
(実施例3)
合成例3で得られた1,4-Bis(triallylsilyl)benezene(BTAB)を原料として用いて以下のようにして有機シリカ複合材料を得た。その際の反応スキームを以下に示す。
【0091】
【化10】

【0092】
すなわち、先ず、15gのイオン交換水中にOctadecyltrimethylammonium chloride(ODTMA)0.24g及び6M NaOH水溶液0.17gを含有する水溶液中にBTAB 0.22gを加え、92±3℃で加熱撹拌を続けたところ、白色の固体が析出を始めた。さらに20時間加熱撹拌を続けた。析出した固体を遠心分離(3600rpm)により分離し、蒸留水による洗浄後、オーブン(100℃)内で乾燥させることによって白色固体が得られた。
【0093】
次に、エタノール溶液中、得られた固体に35% HCl水溶液を加え、70℃で3日間撹拌することによって固体中の界面活性剤を除去した。得られた固体を遠心分離により分離し、エタノールと蒸留水により洗浄した後、加熱乾燥することによって白色の粉末体を得た。
【0094】
<X線回折パターンの確認試験>
実施例3で得られた有機シリカ複合材料(ベンゼン−シリカハイブリッドメソ多孔体)における界面活性剤を除去する前のもののX線回折パターンを図7に、界面活性剤を除去した後のもののX線回折パターンを図8に示す。
【0095】
実施例3で得られた有機シリカ複合材料においては、界面活性剤除去前のものは35.5オングストローム、界面活性剤除去後のものは40.7オングストロームにd100値のピークを有しており、さらにd=9.2〜9.5及び4.2〜4.5オングストロームにピークを有していた。このX線回折パターンから、d100値が35.5〜40.7オングストロームであるメソ構造が十分に形成されており、細孔壁内に分子レベルの構造的な周期性を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上説明したように、本発明の有機シリカ複合材料の製造方法によれば、蒸留に比べて手間とコストがかからないカラムクロマトグラフィにより原料を精製することが可能となる。そのため、本発明の方法により有機シリカ複合材料を製造するようにすれば、その製造に要する手間とコストを低減することができ、しかも従来は製造が困難であった比較的高分子量の有機基を含む有機シリカ複合材料であっても効率良く製造することが可能となる。
【0097】
従って、本発明によれば、様々な有機基を有するアリルシラン化合物を原料として用いて有機無機の両方の表面特性を有する多種の有機シリカ複合材料を得ることが可能となるため、本発明は、吸着剤、触媒、センサー、電子デバイス等の分野に適用できる有機シリカ複合材料からなるメソ多孔体を得るための方法として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】実施例2で得られた有機シリカ複合材料における界面活性剤を除去する前のもののX線回折パターンを示すグラフである。
【図2】実施例2で得られた有機シリカ複合材料における界面活性剤を除去した後のもののX線回折パターンを示すグラフである。
【図3】実施例2で得られた有機シリカ複合材料のN吸着等温線を示すグラフである。
【図4】実施例2で得られた有機シリカ複合材料の細孔径分布曲線を示すグラフである。
【図5】実施例2で得られた有機シリカ複合材料の13C NMRスペクトルを示すグラフである。
【図6】実施例2で得られた有機シリカ複合材料の29Si NMRスペクトルを示すグラフである。
【図7】実施例3で得られた有機シリカ複合材料における界面活性剤を除去する前のもののX線回折パターンを示すグラフである。
【図8】実施例3で得られた有機シリカ複合材料における界面活性剤を除去した後のもののX線回折パターンを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中で有機シラン化合物を加水分解及び重縮合反応せしめて有機シリカ複合材料を得る方法であって、前記有機シラン化合物が、下記一般式(1):
【化1】

[式中、R1はケイ素原子に結合した炭素原子を1以上有する有機基を示し、R〜Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、及び第一の置換基を有していてもよいフェニル基(前記第一の置換基は、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、イソプロピル基及びフェニル基からなる群から選択される少なくとも一つである。)からなる群から選択されるいずれかを示し、Xは水素原子、ハロゲン原子、水酸基、第二の置換基を有していてもよいアルコキシ基、第二の置換基を有していてもよいアシルオキシ基、第二の置換基を有していてもよいアルキル基、第二の置換基を有していてもよいアルケニル基(アリル基は除く)、及び第二の置換基を有していてもよいアリール基(前記第二の置換基は、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基からなる群から選択される少なくとも一つである。)からなる群から選択されるいずれかを示し、mは1以上の整数を示し、nは1〜3の整数を示す。]
で表されるアリルシラン化合物であることを特徴とする、有機シリカ複合材料の製造方法。
【請求項2】
界面活性剤を含有する溶媒中で前記アリルシラン化合物を加水分解及び重縮合反応せしめて有機シリカ複合材料中に前記界面活性剤が導入されてなる多孔体前駆体を得た後、前記多孔体前駆体に含まれる前記界面活性剤を除去することによって多孔体である有機シリカ複合材料を得ることを特徴とする、請求項1に記載の有機シリカ複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記多孔体である有機シリカ複合材料が、中心細孔直径が1〜30nmのメソ多孔体であることを特徴とする、請求項2に記載の有機シリカ複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記有機シリカ複合材料が、前記有機基の規則的な配列に起因する5nm以下の周期構造を有するものであることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の有機シリカ複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−89588(P2006−89588A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276605(P2004−276605)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月25日 奈良先端科学技術大学院大学発行の「ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー 平成15年度年報」に発表
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】