説明

有機化合物結晶及び電界効果型トランジスタ

【課題】チャネル形成領域を構成する材料として、一層優れた特性を有する有機化合物結晶を用いた電界効果型トランジスタを提供する。
【解決手段】電界効果型トランジスタは、有機化合物結晶から成るチャネル形成領域を備えており、該有機化合物結晶は、カルコゲン原子を構成要素として含むπ電子共役系分子から成り、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子と、該π電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子との間の距離が短く、該有機化合物結晶は、π電子共役系分子同士が相互に2次元的若しくは3次元的に連結された周期構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物結晶及び電界効果型トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機トランジスタに関する研究が盛んに行われてきており、その性能も実用化レベルまであと一歩というところまで到達している。現在、有機トランジスタのチャネル形成領域を構成する材料として、縮合芳香族化合物である2,3,6,7−ジベンゾアントラセン(ペンタセンとも呼ばれる)が最良の性能を示すことが報告されている(例えば、H. Klauk et al., J. Appl. Phys. 92, 5259 (2002) 参照)。
【0003】
ところで、ペンタセンの電子状態については、第一原理計算によるバンド解析が行われている(例えば、M. L. Tiago et al., Phys. Rev. B67, 115212 (2003) 参照)。そして、ペンタセン分子は、結晶中では、図22に示すような所謂スタック構造をとらず、図23に示すような所謂ヘリングボーン構造をとり、このヘリングボーン構造を有する2次元レイヤーが積層した構造となっている(例えば、R.B. Champbell et al., Acta Cryst. 14, 705 (1961); D. Homes et al., J. Eur. Chem. 5, 3399 (1999) 参照)。そして、この2次元レイヤー内に2次元的な伝導パスが形成されることが、バンド解析の結果によって裏付けされている。
【0004】
ところで、分子がスタック構造をとった際に屡々見られる1次元伝導バンドでは、伝導パスが異方的(1次元的)である。それ故、このような分子は、電界効果型トランジスタのチャネル形成領域を形成する場合、不利である。また、1次元伝導バンドであるが故に、荷電キャリア同士の相関(例えば、荷電キャリア間におけるクーロン斥力)が大きく、荷電キャリアの運動が妨げられるといった問題がある。
【0005】
従って、ペンタセンに見られる2次元伝導バンドは、電界効果型トランジスタのチャネル形成領域を構成するための電子構造として好ましいと云える。ペンタセンはp型物質であるので、HOMOバンドに空孔が集められ、これが伝導に寄与する。
【0006】
ところで、荷電キャリアの運動を表すパラメータの1つに、移動度(易動度,mobility)がある。ここで、移動度とは、単位電場当たりの荷電キャリアの運動速度であり、この移動度の値が大きい程、荷電キャリアは高速運動が可能となり、結果として電界効果型トランジスタの高速動作が可能となる。しかしながら、この移動度を計算により直接評価することは困難であり、この移動度に代わり得るパラメータとしてバンドの有効質量(effective mass)がある。これは該当バンド中の荷電キャリアがどれだけ動き易いかを、その実効的な質量に基づき表現するものであり、より小さな有効質量を有するバンドに存在する荷電キャリアの方が、その移動度が大きいという関係にある。ところで、有効質量を小さくするためには、バンド幅が広いこと、ひいては、分子間の相互作用が大きいことが要件となる。以上から、より高性能なチャネル形成領域を有機材料から構成しようと試みた場合、結晶状態において2次元的あるいは3次元的に強い相互作用が可能であるような分子を設計する必要があると云える。
【0007】
分子間の相互作用は、分子の骨格を形成するσ結合とは垂直な方向に延びるπ電子系によって担われ、また、分子内で自由に荷電キャリアが動けるためには、このπ電子系が共役して、分子間全体に拡がっていることが必要とされる。
【0008】
【特許文献1】特開2000−66233
【非特許文献1】H. Klauk et al., J. Appl. Phys. 92, 5259 (2002)
【非特許文献2】M. L. Tiago et al., Phys. Rev. B67, 115212 (2003)
【非特許文献3】R.B. Champbell et al., Acta Cryst. 14, 705 (1961); D. Homes et al., J. Eur. Chem. 5, 3399 (1999)
【非特許文献4】R. Schulz et al., J. Am. Chem. Soc. 105, 4519 (1983)
【非特許文献5】R. Kato et al., Chem. Lett. 1231 (1985)
【非特許文献6】J.P. Brown and T.B. Gay, J. Chem. Soc. Perkin I, 866 (1974)
【非特許文献7】L.K. Hansen and A. Hordvik, J. Chem. Soc. Chem. Commun., 800 (1974)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ペンタセンに代表されるアセン系炭化水素の骨格は、ベンゼン環が多数縮合したπ電子共役系から構成されており、荷電キャリアは分子間全体を動き回ることができる。ところが、アセン系炭化水素にあっては、分子の外周が水素原子で覆われているため、分子間の伝導パスが形成され難い構造であると云える。それ故、2次元的な伝導バンドを実現するためには、先に説明したように、ヘリングボーン構造を有する2次元レイヤーが積層した構造となっていることが必要とされる。
【0010】
また、炭素原子が作る(2s)(2p)2混成軌道から成るπ電子軌道は、その拡がりが小さく、そのため、強い相互作用を得ることは困難である。
【0011】
それ故、アセン系炭化水素を用いる限り、現状においては、電界効果型トランジスタのチャネル形成領域を構成する材料として、ペンタセンが最良であると考えられる。しかしながら、電界効果型トランジスタのチャネル形成領域を構成する材料として、ペンタセンを越える特性、例えば、高移動度を有する材料への強い要望がある。
【0012】
半導体層に下記一般式(X1,X2,X3,X4のそれぞれはS,Se若しくはTeを表わす。また、R1,R2,R3,R4は水素若しくはアルキル,ハロゲン等の置換基を表わす)で表わされる化合物を用いた電界効果型トランジスタを有する液晶表示装置が、特開2000−66233から周知である。
【0013】

【0014】
しかしながら、この特許公開公報には、上記の一般式で表された物質によって半導体層がどのように構成されているか、具体的な記載は認められない。
【0015】
従って、本発明の目的は、例えば電界効果型トランジスタのチャネル形成領域を構成する材料として、一層優れた特性(例えば、高移動度)を有する材料(有機化合物結晶)、及び、係る材料(有機化合物結晶)を用いた電界効果型トランジスタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するための本発明の有機化合物結晶は、カルコゲン原子を構成要素として含むπ電子共役系分子から成る有機化合物結晶であって、
π電子共役系分子におけるカルコゲン原子と、該π電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子との間の距離が短く、
π電子共役系分子同士が相互に2次元的若しくは3次元的に連結された(即ち、2次元的若しくは3次元的なネットワーク構造が形成された)周期構造を有することを特徴とする。
【0017】
上記の目的を達成するための本発明の第1の態様に係る電界効果型トランジスタは、有機化合物結晶から成るチャネル形成領域を備えており、
該有機化合物結晶は、カルコゲン原子を構成要素として含むπ電子共役系分子から成り、
π電子共役系分子におけるカルコゲン原子と、該π電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子との間の距離が短く、
該有機化合物結晶は、π電子共役系分子同士が相互に2次元的若しくは3次元的に連結された(即ち、2次元的若しくは3次元的なネットワーク構造が形成された)周期構造を有することを特徴とする。
【0018】
本発明の有機化合物結晶あるいは本発明の第1の態様に係る電界効果型トランジスタにおいては、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子のファンデルワールス半径をr1とし、該π電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子のファンデルワールス半径をr2としたとき、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xi)と、該π電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xj)とにおいて、少なくとも1組のカルコゲン原子(Xi,Xj)の間の距離Rijは、
ij≦(r1+r2)×1.1
を満足することが好ましい。
【0019】
あるいは又、本発明の有機化合物結晶あるいは本発明の第1の態様に係る電界効果型トランジスタにおいて、カルコゲン原子はπ電子共役系に含まれる(あるいは、π電子共役系と共役する、あるいは、π電子共役系に参画する、あるいは、π電子共役系に取り込まれている)形態とすることが好ましい。
【0020】
あるいは又、本発明の有機化合物結晶あるいは本発明の第1の態様に係る電界効果型トランジスタにあっては、各π電子共役系分子において、カルコゲン原子はπ電子共役系分子の外周に配置されている形態とすることが好ましい。
【0021】
あるいは又、本発明の有機化合物結晶あるいは本発明の第1の態様に係る電界効果型トランジスタにあっては、1つのπ電子共役系分子中に含まれるカルコゲン原子の数が多い程、π電子共役系分子間における相互作用は強くなることが期待できるため、π電子共役系分子の分子量に対する総カルコゲン原子質量の割合は、例えば40%以上であることが好ましい。
【0022】
一般に、カルコゲン原子とは、O(酸素)、S(硫黄)、Se(セレン)、Te(テルル)、Po(ポロニウム)を指すが、本明細書においては、カルコゲン原子とは、O(酸素)、S(硫黄)、Se(セレン)及びTe(テルル)から成る群から選択された1種類の原子を指す。
【0023】
以下に説明する本発明の第2の態様乃至第7の態様に係る電界効果型トランジスタにあっては、一般式(1)乃至一般式(6)に示すように、π電子共役系分子は、ポリアセン系物質にカルコゲン原子が縮環して外周を構成するような骨格を有する。また、以下に説明する本発明の第8の態様乃至第11の態様に係る電界効果型トランジスタにあっては、一般式(7)乃至一般式(10)に示すように、π電子共役系分子は、構成要素として水素原子を全く含まない構造を有する。更には、以下に説明する本発明の第12の態様に係る電界効果型トランジスタにあっては、π電子共役系分子は、母体として強力な電子供与体であるテトラチアフルバレン(TTF)骨格を有する。
【0024】
上記の目的を達成するための本発明の第2の態様に係る電界効果型トランジスタは、チャネル形成領域が、下記の一般式(1)[但し、X1、X2、X3及びX4は、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする。
【0025】

【0026】
あるいは又、上記の目的を達成するための本発明の第3の態様に係る電界効果型トランジスタは、チャネル形成領域が、下記の一般式(2)[但し、X1、X2、X3及びX4は、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする。
【0027】

【0028】
あるいは又、上記の目的を達成するための本発明の第4の態様に係る電界効果型トランジスタは、チャネル形成領域が、下記の一般式(3)[但し、X1、X2、X3及びX4は、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする。
【0029】

【0030】
あるいは又、上記の目的を達成するための本発明の第5の態様に係る電界効果型トランジスタは、チャネル形成領域が、下記の一般式(4)[但し、X1、X2、X3及びX4は、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする。
【0031】

【0032】
あるいは又、上記の目的を達成するための本発明の第6の態様に係る電界効果型トランジスタは、チャネル形成領域が、下記の一般式(5)[但し、X1、X2、X3及びX4は、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする。
【0033】

【0034】
あるいは又、上記の目的を達成するための本発明の第7の態様に係る電界効果型トランジスタは、チャネル形成領域が、下記の一般式(6)[但し、X1、X2、X3及びX4は、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする。
【0035】

【0036】
あるいは又、上記の目的を達成するための本発明の第8の態様に係る電界効果型トランジスタは、チャネル形成領域が、下記の一般式(7)[但し、X1及びX2は、酸素原子、硫黄原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする。
【0037】

【0038】
あるいは又、上記の目的を達成するための本発明の第9の態様に係る電界効果型トランジスタは、チャネル形成領域が、下記の一般式(8)[但し、X1及びX2は、酸素原子、硫黄原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする。
【0039】

【0040】
あるいは又、上記の目的を達成するための本発明の第10の態様に係る電界効果型トランジスタは、チャネル形成領域が、下記の一般式(9)で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする。
【0041】

【0042】
あるいは又、上記の目的を達成するための本発明の第11の態様に係る電界効果型トランジスタは、チャネル形成領域が、下記の一般式(10)で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする。
【0043】

【0044】
あるいは又、上記の目的を達成するための本発明の第12の態様に係る電界効果型トランジスタは、チャネル形成領域が、下記の一般式(11)[但し、R1、R2、R3及びR4は、水素原子、若しくは、炭素数が10以下のアルキル基のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする。尚、アルキル基には飽和アルキル基及び不飽和アルキル基が包含され、アルキル鎖を、1つ、最大で4つ、分子末端に有する構造を有することによって、溶解性を高めることができる。
【0045】

【0046】
本発明の第1の態様〜第12の態様に係る電界効果型トランジスタ(以下、これらを総称して、単に、本発明の電界効果型トランジスタと呼ぶ場合がある)の構造として、具体的には、以下の4種類の構造を例示することができる。尚、本発明の第1の態様〜第12の態様に係る電界効果型トランジスタにおいて、チャネル形成領域の延在部をチャネル形成領域延在部と呼ぶ場合がある。
【0047】
即ち、第1の構造を有する電界効果型トランジスタは、所謂ボトムゲート/トップコンタクト型であり、
(A)支持体上に形成されたゲート電極、
(B)ゲート電極上に形成されたゲート絶縁層、
(C)ゲート絶縁層上に形成されたチャネル形成領域及びチャネル形成領域延在部、並びに、
(D)チャネル形成領域延在部上に形成されたソース/ドレイン電極、
を備えている。
【0048】
また、第2の構造を有する電界効果型トランジスタは、所謂トップゲート/トップコンタクト型であり、
(A)支持体上に形成されたチャネル形成領域及びチャネル形成領域延在部、
(B)チャネル形成領域延在部上に形成されたソース/ドレイン電極、
(C)ソース/ドレイン電極及びチャネル形成領域上に形成されたゲート絶縁層、並びに、
(D)ゲート絶縁層上に形成されたゲート電極、
を備えている。
【0049】
更には、第3の構造を有する電界効果型トランジスタは、所謂ボトムゲート/ボトムコンタクト型であり、
(A)支持体上に形成されたゲート電極、
(B)ゲート電極上に形成されたゲート絶縁層、
(C)ゲート絶縁層上に形成されたソース/ドレイン電極、並びに、
(D)ゲート絶縁層上に形成されたチャネル形成領域、
を備えている。
【0050】
また、第4の構造を有する電界効果型トランジスタは、所謂トップゲート/ボトムコンタクト型であり、
(A)支持体上に形成されたソース/ドレイン電極、
(B)支持体上に形成されたチャネル形成領域、及び、ソース/ドレイン電極上に形成されたチャネル形成領域延在部、
(C)チャネル形成領域及びチャネル形成領域延在部上に形成されたゲート絶縁層、並びに、
(D)ゲート絶縁層上に形成されたゲート電極、
を備えている。
【0051】
本発明の第1の態様に係る電界効果型トランジスタにおいて有機化合物結晶から成るチャネル形成領域を形成する方法として、また、本発明の第2の態様〜第12の態様に係る電界効果型トランジスタにおいて、一般式(1)〜一般式(11)で表されるπ電子共役系分子から成るチャネル形成領域を形成する方法として、真空蒸着法やスパッタリング法に例示される物理的気相成長法(PVD法);各種の化学的気相成長法(CVD法);スピンコート法;スクリーン印刷法やインクジェット印刷法といった印刷法;エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、ナイフコーター法、スクイズコーター法、リバースロールコーター法、トランスファーロールコーター法、グラビアコーター法、キスコーター法、キャストコーター法、スプレーコーター法、スリットオリフィスコーター法、カレンダーコーター法といった各種コーティング法;及びスプレー法の内のいずれかを挙げることができる。
【0052】
また、本発明の電界効果型トランジスタにおいて、ゲート絶縁層を構成する材料として、SiO2、SiN、スピン・オン・グラス(SOG)、Al23、金属酸化物高誘電絶縁膜にて例示される無機系絶縁材料だけでなく、ポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリビニルフェノール(PVP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリカーボネート(PC)、ポリイミドにて例示される有機系絶縁材料を挙げることができるし、これらの組み合わせを用いることもできる。ゲート絶縁層の形成方法として、真空蒸着法やスパッタリング法に例示されるPVD法;各種のCVD法;スピンコート法;スクリーン印刷法やインクジェット印刷法といった印刷法;上述した各種コーティング法;浸漬法;キャスティング法;及びスプレー法の内のいずれかを挙げることができる。
【0053】
あるいは又、電界効果型トランジスタの構造にも依るが、ゲート絶縁層を、ゲート電極の表面を酸化することによって形成することができる。ゲート電極の表面を酸化する方法として、ゲート電極を構成する材料にも依るが、熱酸化法、O2プラズマを用いた酸化法、陽極酸化法を例示することができる。更には、例えば、金(Au)からゲート電極を構成する場合、一端をメルカプト基で修飾された直鎖状炭化水素のように、ゲート電極と化学的に結合を形成し得る官能基を有する絶縁性分子によって、浸漬法等の方法で自己組織的にゲート電極表面を被覆することで、ゲート電極の表面にゲート絶縁層を形成することもできる。
【0054】
更には、本発明の電界効果型トランジスタにおいて、ゲート電極やソース/ドレイン電極、各種の配線を構成する材料として、白金(Pt)、金(Au)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ネオジム(Nd)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、銅(Cu)、ルビジウム(Rb)、ロジウム(Rh)、チタン(Ti)、インジウム(In)、錫(Sn)等の金属、あるいは、これらの金属元素を含む合金、これらの金属から成る導電性粒子、これらの金属を含む合金の導電性粒子、ポリシリコン、アモルファスシリコン、錫酸化物、酸化インジウム、インジウム・錫酸化物(ITO)を挙げることができるし、これらの元素を含む層の積層構造とすることもできる。更には、ゲート電極やソース/ドレイン電極を構成する材料として、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸[PEDOT/PSS]といった有機材料を挙げることもできる。
【0055】
ソース/ドレイン電極やゲート電極の形成方法として、これらを構成する材料にも依るが、真空蒸着法やスパッタリング法に例示されるPVD法;MOCVD法を含む各種のCVD法;スピンコート法;各種導電性ペーストや各種導電性高分子溶液を用いたスクリーン印刷法やインクジェット印刷法といった印刷法;上述した各種コーティング法;リフトオフ法;シャドウマスク法;電解メッキ法や無電解メッキ法あるいはこれらの組合せといったメッキ法;及び、スプレー法の内のいずれか、あるいは、更には必要に応じてパターニング技術との組合せを挙げることができる。尚、PVD法として、(a)電子ビーム加熱法、抵抗加熱法、フラッシュ蒸着等の各種真空蒸着法、(b)プラズマ蒸着法、(c)2極スパッタリング法、直流スパッタリング法、直流マグネトロンスパッタリング法、高周波スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法、バイアススパッタリング法等の各種スパッタリング法、(d)DC(direct current)法、RF法、多陰極法、活性化反応法、電界蒸着法、高周波イオンプレーティング法、反応性イオンプレーティング法等の各種イオンプレーティング法を挙げることができる。
【0056】
本発明の電界効果型トランジスタにおいて、支持体として、各種のガラス基板や、表面に絶縁層が形成された各種ガラス基板、石英基板、表面に絶縁層が形成された石英基板、表面に絶縁層が形成されたシリコン基板を挙げることができる。更には、支持体として、ポリエーテルスルホン(PES)やポリイミド、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)に例示される高分子材料から構成されたプラスチック・フィルムやプラスチック・シート、プラスチック基板を挙げることができ、このような可撓性を有する高分子材料から構成された支持体を使用すれば、例えば曲面形状を有するディスプレイ装置や電子機器への電界効果型トランジスタの組込みあるいは一体化が可能となる。
【0057】
本発明の電界効果型トランジスタを、ディスプレイ装置や各種の電子機器に適用、使用する場合、支持体に多数の電界効果型トランジスタを集積したモノリシック集積回路としてもよいし、各電界効果型トランジスタを切断して個別化し、ディスクリート部品として使用してもよい。また、電界効果型トランジスタを樹脂にて封止してもよい。
【発明の効果】
【0058】
本発明にあっては、大きな原子軌道を有するカルコゲン原子をπ電子共役系分子内に多数導入することにより、例えば、炭素原子と水素原子とから成るアセン系炭化水素に比べて、π電子共役系分子間の相互作用が強くなる。即ち、カルコゲン原子の軌道の重なりによりバンド幅が拡大し、異方性が緩和され、電界効果型トランジスタのチャネル形成領域における荷電キャリアの輸送性能の向上を図ることができる。更には、カルコゲン原子を、分子骨格が形成するπ電子共役系に参画できるような位置とし、加えて、カルコゲン原子が出来るだけ分子外周に位置するような構造とすれば、即ち、π電子共役系分子の外周に配置すれば、分子間で分子面の横方向のπ電子共役系分子間の相互作用も可能となる。そして、これによって、2次元的あるいは3次元的な伝導パスを有し、且つ、伝導バンド幅の増大を図ることができる。その結果、有機化合物結晶中の荷電キャリアの有効質量が小さくなり、高移動度を有する有機能動素子を構成する材料として用いることができる。即ち、カルコゲン原子を導入した有機化合物結晶をチャネル形成領域を構成する材料として用いることにより、電界効果型トランジスタとしての有機トランジスタの性能を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、図面を参照して、実施例に基づき本発明を説明する。
【実施例1】
【0060】
実施例1は、本発明の有機化合物結晶、本発明の第1の態様に係る電界効果型トランジスタ(以下、FETと呼ぶ)、及び、本発明の第4の態様に係るFETに関する。
【0061】
実施例1における有機化合物結晶は、カルコゲン原子[具体的には、S(硫黄)]を構成要素として含む、以下の構造式(3’)を有するπ電子共役系分子であるヘキサチオペンタセン(HTP)から成る。
【0062】

【0063】
また、実施例1のFETは、その模式的な一部断面図を図3の(A)に示すように、有機化合物結晶から成るチャネル形成領域を備えている。具体的には、実施例1のFETは、第3の構造を有し、所謂ボトムゲート/ボトムコンタクト型であり、
(A)支持体11上に形成されたゲート電極12、
(B)ゲート電極12上に形成されたゲート絶縁層13、
(C)ゲート絶縁層13上に形成されたソース/ドレイン電極14、並びに、
(D)ゲート絶縁層13上に形成されたチャネル形成領域15、
を備えている。
【0064】
更には、全面に絶縁層20が形成され、ソース/ドレイン電極14に接続された配線21が絶縁層20上に形成されている。
【0065】
ここで、チャネル形成領域15を構成する有機化合物結晶は、カルコゲン原子[具体的には、S(硫黄)]を構成要素として含む、上記の構造式(3’)を有するπ電子共役系分子であるヘキサチオペンタセン(HTP)から成る。
【0066】
そして、実施例1においては、π電子共役系分子(HTP)におけるカルコゲン原子(S,硫黄)と、このπ電子共役系分子(HTP)に隣接するπ電子共役系分子(HTP)におけるカルコゲン原子(S,硫黄)との間の距離が短く(即ち、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子と、このπ電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子とが繋がれており、言い換えれば、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子と、このπ電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子とは相互作用を有し)、有機化合物結晶は、π電子共役系分子同士が相互に2次元的に連結された(即ち、2次元的なネットワーク構造が形成された)周期構造を有する。
【0067】
尚、具体的には、実施例1におけるカルコゲン原子であるS(硫黄)のファンデルワールス半径r1=r2は1.80Åであり、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xi)と、このπ電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xj)とにおいて、少なくとも1組のカルコゲン原子(Xi,Xj)の間の距離Rijは、
ij≦(r1+r2)×1.1=3.96Å
を満足している。具体的には、Rijの値として、3.34Å、3.38Å、3.56Å等を挙げることができる。また、カルコゲン原子であるS(硫黄)はπ電子共役系に含まれ、あるいは、π電子共役系と共役しており、あるいは、π電子共役系に参画しており、あるいは、π電子共役系に取り込まれている。更には、各π電子共役系分子において、カルコゲン原子であるS(硫黄)は、π電子共役系分子の外周に配置されている。π電子共役系分子の分子量(HTP:464.64)に対する総カルコゲン原子質量の割合は40%以上(具体的には、41.4%)である。
【0068】
以下、構造式(3’)を有するヘキサチオペンタセン(HTP)の合成例、単結晶構造解析、及び、物性測定用の薄膜トランジスタ(TFT)の試作について説明する。
【0069】
[ヘキサチオペンタセン(HTP)の合成]
先ず、ペンタセン2グラムと硫黄2グラムとを乳鉢で粉砕し、これに、1,2,4−トリクロロベンゼン250ミリリットルを加えて、アルゴンガス雰囲気下で4時間、加熱還流した。得られた結晶を濾別し、10-5Paの真空下、400゜Cで2回、昇華精製を行った。こうして得られたヘキサチオペンタセン(HTP)単結晶を用いて結晶構造解析を行った。
【0070】
[ヘキサチオペンタセン(HTP)の単結晶構造解析]
結晶構造解析を、ブルカー APEX SMART単結晶構造解析装置を用いて行った。以下の表1に、得られた結晶学的データを示す。
【0071】
[表1]ヘキサチオペンタセン(HTP)の結晶学的データ
分子式 :C2286
分子量 :464.64
測定温度:100K
使用X線波長:0.71073[Å]
結晶系 :三斜晶系
空間群 :P−1
単位格子の格子定数:
a軸=14.3371(18)[Å]
α =91.477(2)゜
b軸=16.564(2)[Å]
β =97.320(2)゜
c軸=3.8512(5)[Å]
γ =72.137(2)゜
体積 :863.29(19)[Å3
Z :2
密度(計算に基づく):1.787グラム/cm3
【0072】
ヘキサチオペンタセンの結晶構造を図1の(A)及び(B)に示す。尚、図1の(A)は、c軸投影図であり、紙面垂直方向がc軸であり、図面の上下方向がa軸方向と一致する。一方、図1の(B)は、a軸投影図であり、紙面垂直方向がa軸であり、図面の上下方向がc軸方向と一致する。この結晶構造解析から、このヘキサチオペンタセン分子はc軸方向に沿った積み重なった構造を有しており、c軸方向に沿って最も強い分子間相互作用の存在が予想される。また、[10−1]方向には、外周の硫黄原子を介した相互作用が予想される。即ち、(110)面に平行な、擬2次元的な伝導バンドが期待できる。
【0073】
[物性測定用の薄膜トランジスタ(TFT)の試作]
こうして得られたヘキサチオペンタセンを用いて、薄膜トランジスタ(TFT)から成る電界効果型トランジスタ(FET)を試作した。具体的には、ハイドープ・シリコン基板の裏面に金電極を形成し、ゲート電極とした。また、ハイドープ・シリコン基板の表面を熱酸化して、膜厚100nmのSiO2から成るゲート絶縁層を形成し、このゲート絶縁層上に櫛型電極から成るソース/ドレイン電極を形成し、更に、ゲート絶縁層とソース/ドレイン電極との上にヘキサチオペンタセンを蒸着した。こうして試作したTFTの電気特性を測定した結果(Vd−IdのVg依存性)を、図2に示す。図2からも、良好なトランジスタ特性が認められ、移動度として1.3×10-1cm2/Vsといった値が得られた。尚、ハイドープ・シリコン基板の電気抵抗値ρは約1×10-2Ω・cm、ゲート絶縁層の厚さ100nm、ゲート幅2400μm、ゲート長100μmとした。
【実施例2】
【0074】
実施例2も、本発明の有機化合物結晶、本発明の第1の態様に係るFETに関し、更には、本発明の第12の態様に係るFETに関する。
【0075】
実施例2における有機化合物結晶は、カルコゲン原子[具体的には、S(硫黄)]を構成要素として含む、以下の構造式(11’)を有するπ電子共役系分子であるビス(メチレンジチオ)テトラテトラチアフルバレン(BMDT−TTF)から成る。
【0076】

【0077】
尚、実施例2のFETは、図3の(A)に模式的な一部断面図を示したと同様の構造を有する。
【0078】
そして、実施例2においても、π電子共役系分子(BMDT−TTF)におけるカルコゲン原子(S,硫黄)と、このπ電子共役系分子(BMDT−TTF)に隣接するπ電子共役系分子(BMDT−TTF)におけるカルコゲン原子(S,硫黄)との間の距離が短く(即ち、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子と、このπ電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子とが繋がれており、言い換えれば、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子と、このπ電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子とは相互作用を有し)、有機化合物結晶は、π電子共役系分子同士が相互に2次元的に連結された(即ち、2次元的なネットワーク構造が形成された)周期構造を有する。
【0079】
尚、具体的には、実施例2におけるカルコゲン原子であるS(硫黄)のファンデルワールス半径r1=r2は実施例1にて説明したとおりであり、一方、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xi)と、このπ電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xj)とにおいて、少なくとも1組のカルコゲン原子(Xi,Xj)の間の距離Rijは、
ij≦(r1+r2)×1.1=3.96Å
を満足している。具体的には、Rijの値として、3.56Å、3.60Å等を挙げることができる。また、カルコゲン原子であるS(硫黄)はπ電子共役系に含まれ、あるいは、π電子共役系と共役しており、あるいは、π電子共役系に参画しており、あるいは、π電子共役系に取り込まれている。更には、各π電子共役系分子において、カルコゲン原子であるS(硫黄)は、π電子共役系分子の外周に配置されている。π電子共役系分子の分子量(BMDT−TTF:356.59)に対する総カルコゲン原子質量の割合は40%以上(具体的には、71.9%)である。
【0080】
以下、構造式(11)を有するBMDT−TTFの合成例、単結晶構造解析、及び、物性測定用の薄膜トランジスタ(TFT)の試作について説明する。
【0081】
[BMDT−TTFの合成]
合成は、図4に示すスキーム1に従って行った。尚、化合物(3)[4,5−ビス(ベンゾイルチオ)−1,3−ジチオール−2−オン、4,5-Bis(benzoylthio)-1,3-dithiol-2-one]までは、文献 R. Schulz et al., J. Am. Chem. Soc. 105, 4519 (1983) を参考にして合成した。そして、化合物(3)、1.95グラムをアルゴンガス雰囲気下、12ミリリットルのP(OEt)3と共に約110゜Cに加熱した。その結果、黒赤色の結晶が析出したので、これを濾別し、エタノールで洗浄して真空乾燥すると、0.80グラムのBMDT−TTFが得られた。これをCS2から再結晶すると、数ミリメートル角の薄板単結晶が析出した。BMDT−TTFの結晶構造解析に関しては、R. Kato et al., Chem. Lett. 1231 (1985) に報告があるが、データの精度向上のため、こうして得られたBMDT−TTF単結晶を用いて結晶構造解析を行った。
【0082】
[BMDT−TTFの単結晶構造解析]
結晶構造解析を、実施例1と同じ単結晶構造解析装置を用いて行った。以下の表2に、得られた結晶学的データを示す。
【0083】
[表2]BMDT−TTFの結晶学的データ
分子式 :C848
分子量 :356.59
測定温度:90K
使用X線波長:0.71073[Å]
結晶系 :単斜晶系
空間群 :P21/n
単位格子の格子定数:
a軸=4.0972(5)[Å]
α =90゜
b軸=24.233(3)[Å]
β =105.060(2)゜
c軸=6.2676(8)[Å]
γ =90゜
体積 :600.91(13)[Å3
Z :2
密度(計算に基づく):1.971グラム/cm3
【0084】
BMDT−TTFの結晶構造を図5の(A)及び(B)に示す。尚、図5の(A)は、a軸投影図であり、紙面垂直方向がa軸であり、図面の上下方向がc軸方向と一致する。一方、図5の(B)は、c軸投影図であり、紙面垂直方向がc軸であり、図面の上下方向がa軸方向と一致する。この結晶構造解析から、BMDT−TTF分子はa軸に沿って積み重なった構造を有しており、a軸方向に沿って最も強い分子間相互作用の存在が予想される。また、c軸方向に沿って、外周の硫黄原子を介した相互作用も予想される。即ち、(010)面に平行な、擬2次元的な伝導バンドが期待できる。これを定量的に評価するために、第一原理計算に基づくバンド解析を行った。
【0085】
[BMDT−TTFのバンド解析]
バンド解析には、第一原理電子状態計算プログラムVASP(Vienna Ab-initio Simulation Package)(G. Kresse and J. Furthmuller, Vienna Ab-initio Simulation Package, see at the website, http://cms.mpi.univie.ac.at/vasp/vasp/vasp.html 参照)を用い、一般化勾配近似(GGA)に基づく密度汎関数法(DFT)により計算した。尚、結晶の格子定数及び各原子の座標は、上述の結晶構造解析の結果を用いた。カットオフエネルギーを350eVとし、8×4×4のk点メッシュにてセルフコンシステント計算を行った。バンド解析結果を図6に示す。
【0086】
図6から、BMDT−TTF結晶におけるHOMO(最高被占軌道)から成る伝導帯は、分子のスタック軸であるa軸方向の相互作用が最も強く、バンド幅にして約1eVの分散を有することが判る。また、分子の横方向に配置されている硫黄原子間の相互作用を通じて、c軸方向にも、約0.2eVの分散を有することが判る。従って、HOMOバンドの頂点であるΓポイント近傍の等エネルギー断面を見てみると、擬2次元的な表面を有することが明らかとなった。更に、このBMDT−TTF結晶の伝導帯におけるa軸方向の有効質量m*は、m*=1.0meと評価された。尚、meは自由電子の質量である。従って、このBMDT−TTFから成る有機化合物結晶は、ペンタセン(有効質量:約1.8me)を凌ぐp型チャネル材料としての性能を内在していることが判る。
【0087】
[物性測定用の薄膜トランジスタ(TFT)の試作]
こうして得られたBMDT−TTFを用いて、薄膜トランジスタ(TFT)から成る電界効果型トランジスタ(FET)を試作した。具体的には、ハイドープ・シリコン基板の裏面に金電極を形成し、ゲート電極とした。また、ハイドープ・シリコン基板の表面を熱酸化して、膜厚100nmのSiO2から成るゲート絶縁層を形成し、このゲート絶縁層上に櫛型電極から成るソース/ドレイン電極を形成した。そして、このシリコン基板を、BMDT−TTFの飽和二硫化炭素溶液の中に浸漬した後、取り出し、自然乾燥させて、BMDT−TTF結晶をゲート絶縁層とソース/ドレイン電極との上に析出させた。こうして試作したボトムゲート/ボトムコンタクト型TFTの電気特性を測定した結果(Vd−IdのVg依存性)を、図7に示す。このように、BMDT−TTFも、FETのチャネル形成領域を構成する材料として機能することが確認された。
【実施例3】
【0088】
実施例3も、本発明の有機化合物結晶、本発明の第1の態様に係るFETに関し、更には、本発明の第10の態様に係るFETに関する。
【0089】
実施例3における有機化合物結晶は、カルコゲン原子[具体的には、S(硫黄)]を構成要素として含む、以下の構造式(9)を有するπ電子共役系分子であるベンゾ[1,2−c;3,4−c’;5,6c”]トリス[1,2]ジチオール−1,4,7−トリチオン、Benzo[1,2-c;3,4-c';5,6-c"]tris[1,2]dithiole-1,4,7-trithione(以下、C99と表記する)から成る。
【0090】

【0091】
尚、実施例3のFETは、図3の(A)に模式的な一部断面図を示したと同様の構造を有する。
【0092】
そして、実施例3においても、π電子共役系分子(C99)におけるカルコゲン原子(S,硫黄)と、このπ電子共役系分子(C99)に隣接するπ電子共役系分子(C99)におけるカルコゲン原子(S,硫黄)との間の距離が短く(即ち、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子と、このπ電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子とが繋がれており、言い換えれば、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子と、このπ電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子とは相互作用を有し)、有機化合物結晶は、π電子共役系分子同士が相互に3次元的に連結された(即ち、3次元的なネットワーク構造が形成された)周期構造を有する。
【0093】
尚、具体的には、実施例2におけるカルコゲン原子であるS(硫黄)のファンデルワールス半径r1=r2は実施例1にて説明したとおりであり、一方、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xi)と、このπ電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xj)とにおいて、少なくとも1組のカルコゲン原子(Xi,Xj)の間の距離Rijは、
ij≦(r1+r2)×1.1=3.96Å
を満足している。具体的には、Rijの値として、3.41Å、3.58Å等を挙げることができる。また、カルコゲン原子であるS(硫黄)はπ電子共役系に含まれ、あるいは、π電子共役系と共役しており、あるいは、π電子共役系に参画しており、あるいは、π電子共役系に取り込まれている。更には、各π電子共役系分子において、カルコゲン原子であるS(硫黄)は、π電子共役系分子の外周に配置されている。π電子共役系分子の分子量(C99:356.59)に対する総カルコゲン原子質量の割合は40%以上(具体的には、72.8%)である。
【0094】
以下、構造式(9)を有するC99の合成例、単結晶構造解析、及び、物性測定用の薄膜トランジスタ(TFT)の試作について説明する。
【0095】
[C99の合成]
合成は、文献(J.P. Brown and T.B. Gay, J. Chem. Soc. Perkin I, 866 (1974))を参考にしながら、図8に示すスキーム2に従って行った。
【0096】
具体的には、先ず、トリクロロメシチレン(6)の合成を、以下の方法で行った。即ち、メシチレン3.0グラムを溶解した酢酸溶液180ミリリットルにBTMA−ICl4を37.6グラム加えて、アルゴンガス雰囲気下、70゜Cで一昼夜攪拌を続けた。その後、室温まで放冷した後、析出した固体を濾別し、これにヘキサン300ミリリットルを加えて攪拌し、濾過した。その後、濾液に蒸留水300ミリリットルを加えて振盪し、続いて硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した後、硫酸マグネシウムを加えて乾燥、濃縮した。白色針状のトリクロロメシチレン(6)が5.05グラム、得られた。
【0097】
次いで、1,3,5−トリブロモメチル−2,4,6−トリクロロベンゼン(7)の合成を行った。即ち、23.3グラムのトリクロロメシチレン(6)を四塩化炭素300ミリリットルに溶かし、攪拌しながら紫外線を照射した。そして、これに、臭素50グラムを四塩化炭素100ミリリットルで希釈した液を徐々に滴下した。攪拌・紫外線照射を6時間続け、その後、反応溶液を室温まで放冷した。析出した結晶を濾別し、四塩化炭素に溶解して活性炭処理を行い、再び濃縮して白色針状結晶を得た。濾液に活性炭を加えて処理し、濃縮すると、白色針状結晶を得ることができた。これらを合わせて、42.3グラムの1,3,5−トリブロモメチル−2,4,6−トリクロロベンゼン(7)を得ることができた。
【0098】
次いで、C99を合成した。即ち、2.1グラムの1,3,5−トリブロモメチル−2,4,6−トリクロロベンゼン(7)と硫黄2.1グラムとを乳鉢で粉砕して、精製した1,2,4−トリクロロベンゼン130ミリリットルに加えた後、アルゴンガス雰囲気下、二硫化水素ガスを吹き込みながら、6時間、加熱還流した。得られた固体を10-5Paの真空下、360゜Cで2回、昇華精製して、赤褐色の結晶としてC99(8)を210ミリグラム得ることができた。
【0099】
[C99のマススペクトル]
合成したC99の純度を確かめるため、飛行型質量分析計にてマススペクトルを測定した。測定は、ブルカー オートフレックス質量分析装置にて行った。図9に測定結果を示す。m/z=396はC99に対応し、m/z=396からm/z=401までの同位体パターンもC99の組成と合致する。m/z=320のピークは、C87に対応し、これは、C99からCS2が脱離したものであり、親分子からのフラグメントであることも確認した。このように、合成したC99は非常に純度が高いものであった。
【0100】
[C99の赤外吸収スペクトル]
合成したC99の赤外吸収スペクトルの測定を、ブルカー IFS66v/Sフーリェ変換赤外分光計を用いて行った。試料はKBr錠剤に調製した。997cm-1、1176cm-1、1472cm-1に3本の強い吸収が観測され、その他、492cm-1、647cm-1、815cm-1、1342cm-1に弱い吸収が認められた。これらのバンドはすべて、C99の構造に基づいた第一原理計算で予想されるものと完全に一致した。
【0101】
99については、すでにX線による結晶構造の報告(L. K. Hansen and A. Hordvik, J. Chem. Soc. Chem. Commun., 800 (1974) 参照)がある。尚、この報告を、以下の表3に再掲する。但し、この報告では、各原子の原子座標等のデータが示されていなかった。そこで、この文献にある結合長、結合角を基に原子座標を構成して、更には、これを基に分子構造の最適化、及び、結晶の格子定数と空間群を用いて、最適化した分子を詰めて結晶内での全エネルギーが最小となるような分子配置をVASP及びMOPACを用いて求めた。こうして、得られたC99の結晶構造を図10の(A)及び(B)に示す。尚、図10の(A)は、(−202)面の法線投影図であり、図10の(B)は、[101]投影図である。この結晶構造解析から、C99分子は、最密充填構造で(−202)面に平行なシート状の構造を有し、更に、これが積み重なって結晶を構成している。このように、C99分子の外周全体がカルコゲン原子であるS(硫黄)で覆っているが故に、分子面に平行な方向にも垂直な方向にも、非常に強い相互作用を有することが予想され、3次元的な伝導バンドの存在が期待される。これを定量的に評価するために、第一原理計算に基づくバンド解析を行った。
【0102】
[表3]C99の結晶学的データ
分子式 :C99
分子量 :396.64
使用X線波長:0.71073[Å]
結晶系 :単斜晶系
空間群 :I2/c
単位格子の格子定数:
a軸=7.485(4)[Å]
α =90゜
b軸=10.096(6)[Å]
β =90.87(4)゜
c軸=15.792(5)[Å]
γ =90゜
体積 :1193.2[Å3
Z :4
密度(計算に基づく):2.21グラム/cm3
【0103】
[C99のバンド解析]
バンド解析には、実施例2と同様に、第一原理電子状態計算プログラムVASPを用い、一般化勾配近似(GGA)に基づく密度汎関数法(DFT)により計算した。尚、結晶の格子定数及び各原子の座標は、上述の結晶構造解析の結果を用いた。カットオフエネルギーを360eVとし、8×8×8のk点メッシュにてセルフコンシステント計算を行った。バンド解析結果を図11に示す。
【0104】
図11から、C99結晶におけるHOMO(最高被占軌道)から成る伝導帯は、分子面に平行な方向(b*を含む面)にも、分子面に垂直な方向にも(図では、d*と表している方向)、非常に大きな分散を示し、バンド幅で約1eV程度あることが判る。また、C99結晶において極めて特徴的なことは、HOMOバンドの頂点付近の等エネルギー断面を見てみると、ほぼ球面の形状をしているということであり、等方的な3次元バンドが実現されていると云える。この分子面に平行な方向及び垂直な方向の有効質量を求めると、分子面に平行な方向の有効質量m*(//b*)は0.68meであり、分子面に垂直な方向の有効質量m*(//d*)は0.85meであった。これらの値は、本発明者らがこれまで調べた物質の中で「最も等方的、且つ、最も軽い質量」であると云える。従って、このC99結晶は、FETのチャネル形成領域を構成する材料として極めて好ましい構造を有すると結論できる。
【0105】
こうして得られたC99を用いて、薄膜トランジスタ(TFT)から成る電界効果型トランジスタ(FET)を試作し、電気特性(Vd−IdのVg依存性)を測定したところ、C99も、FETのチャネル形成領域を構成する材料として機能することが確認された。
【実施例4】
【0106】
実施例4も、本発明の有機化合物結晶、本発明の第1の態様に係るFETに関し、更には、本発明の第2の態様、第3の態様、第5の態様〜第9の態様、第11の態様及び第12の態様に係るFETに関する。
【0107】
実施例4における有機化合物結晶は、カルコゲン原子[具体的には、S(硫黄)]を構成要素として含む、以下の構造式(1’)[本発明の第2の態様]、構造式(2’)[本発明の第3の態様]、構造式(4’)[本発明の第5の態様]、構造式(5’)[本発明の第6の態様]、構造式(6’)[本発明の第7の態様]、構造式(7’)[本発明の第8の態様]、構造式(8’)[本発明の第9の態様]、構造式(10)[本発明の第11の態様]、あるいは、構造式(11)[本発明の第12の態様。但し、R1、R2、R3及びR4は、水素原子、若しくは、炭素数が10以下のアルキル基を表す]を有するπ電子共役系分子から成る。
【0108】

【0109】

【0110】

【0111】

【0112】

【0113】

【0114】

【0115】

【0116】

【0117】
尚、実施例4のFETは、図3の(A)に模式的な一部断面図を示したと同様の構造を有する。
【0118】
そして、実施例4においても、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子(S,硫黄)と、このπ電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子(C99)におけるカルコゲン原子(S,硫黄)との間の距離が短く(即ち、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子と、このπ電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子とが繋がれており、言い換えれば、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子と、このπ電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子とは相互作用を有し)、有機化合物結晶は、π電子共役系分子同士が相互に2次元的に連結された(即ち、2次元的なネットワーク構造が形成された)周期構造を有し[構造式(1)〜構造式(6)、及び、構造式(11)参照)、あるいは又、π電子共役系分子同士が相互に3次元的に連結された(即ち、3次元的なネットワーク構造が形成された)周期構造を有する[構造式(7)〜構造式(10)参照)。即ち、基本的には、「水素原子」を含むものによっては高々2次元的なネットワークが形成され、一方、水素原子を含まないものによって3次元的なネットワークが形成されることとなる。
【0119】
尚、具体的には、実施例4におけるカルコゲン原子であるS(硫黄)のファンデルワールス半径r1=r2は実施例1にて説明したとおりであり、一方、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xi)と、このπ電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xj)とにおいて、少なくとも1組のカルコゲン原子(Xi,Xj)の間の距離Rijは、
ij≦(r1+r2)×1.1=3.96Å
を満足するものが存在する。また、カルコゲン原子であるS(硫黄)はπ電子共役系に含まれ、あるいは、π電子共役系と共役しており、あるいは、π電子共役系に参画しており、あるいは、π電子共役系に取り込まれている。更には、各π電子共役系分子において、カルコゲン原子であるS(硫黄)は、π電子共役系分子の外周に配置されている。π電子共役系分子の分子量に対する総カルコゲン原子質量の割合は40%以上である。
【0120】
以下、上述の構造式(1’)、構造式(2’)、構造式(4’)、構造式(5’)、構造式(6’)、構造式(7’)、構造式(8’)、構造式(10)、構造式(11)にて表されるπ電子共役系分子の合成例を説明する。
【0121】
[構造式(1’)にて表されるπ電子共役系分子の合成]
文献(H. Endres et al., Mol. Cryst. Liq. Cryst. 86, 111 (1981))を参考にして、1,5、9,10−テトラクロロアントラキノン[1,5,9,10-tetrachloroanthraquinone]から合成することができる。合成のスキームを図12に示す。
【0122】
[構造式(2’)にて表されるπ電子共役系分子の合成]
文献(S. Davidson et al., J. Chem. Research (S), 221 (1980))を参考にして、1,4,5,8−テトラクロロ−9,10−アントラキノン[1,4,5,8-tetrachloro-9,10-anthraquinone]から合成することができる。合成のスキームを図13に示す。
【0123】
[構造式(4’)にて表されるπ電子共役系分子の合成]
5,12−ナフタセンキノン[5,12-naphthacenequinone]から出発して、発煙硫酸中で塩素ガスにより塩素化して中間体を得る。これを構造式(2’)にて表されるπ電子共役系分子の合成と同様の方法により硫化ナトリウムと反応させて目的物を得る。合成のスキームを図14に示す。
【0124】
[構造式(5’)にて表されるπ電子共役系分子の合成]
5,11−ナフタセンキノン[5,11-naphthacenequinone]から出発して、発煙硫酸中で塩素ガスにより塩素化して中間体を得る。これを構造式(2’)にて表されるπ電子共役系分子の合成と同様の方法により硫化ナトリウムと反応させて目的物を得る。合成のスキームを図15に示す。
【0125】
[構造式(6’)にて表されるπ電子共役系分子の合成]
5,12−ペンタセンキノン[5,12-pentacenequinone]から出発して、発煙硫酸中で塩素ガスにより塩素化して中間体を得る。これを構造式(2’)にて表されるπ電子共役系分子の合成と同様の方法により硫化ナトリウムと反応させて目的物を得る。合成のスキームを図16に示す。尚、5,12−ペンタセンキノンに関しては、文献(E. Clar, Ber. 73B, 409 (1940))を参考にして合成することができる。
【0126】
[構造式(7’)にて表されるπ電子共役系分子の合成]
文献(R.R. Schumaker et al., J. Am. Chem. Soc. 99, 5521 (1977))を参考にして、1,3,4,6−テトラチオペンタレン−2,5−ヂオン[1,3,4,6-tetrathiopentalene-2,5-dione]から合成することができる。合成のスキームを図17に示す。
【0127】
[構造式(8’)にて表されるπ電子共役系分子の合成]
文献(R.R. Schumaker et al., J. Am. Chem. Soc. 99, 5521 (1977))を参考にして、1,3,4,6−テトラチオペンタレン−2,5−ヂオン[1,3,4,6-tetrathiopentalene-2,5-dione]から合成することができる。合成のスキームを図18に示す。
【0128】
[構造式(10)にて表されるπ電子共役系分子の合成]
文献(A.M. Richter et al., Synthesis 1149 (1990))を参考にして、1,3,4,6−テトラチオペンタレン−2,5−ヂオン[1,3,4,6-tetrathiopentalene-2,5-dione]から合成することができる。合成のスキームを図19に示す。
【0129】
[構造式(11)にて表されるπ電子共役系分子の合成]
図4に示したBMDT−TTFの合成スキームと同様の反応で合成することができる。即ち、ジヨードメタン(CH22)の代わりにジヨード炭化水素R1−CI2-R2を用いれば対応するチオン体が得られる。また、別のジヨード炭化水素R3−CI2-R4を用いてもうひとつのチオン体が得られる。そして、酢酸水銀を用いてチオンをケトンに変換した後、これらをカップリングすることにより、目的の物質(11)を合成することができる。合成のスキームを図20に示す。
【0130】
こうして得られた10種類のπ電子共役系分子を用いて、実施例1と同様の構造を有する薄膜トランジスタ(TFT)から成る電界効果型トランジスタ(FET)を試作し、電気特性(Vd−IdのVg依存性)を測定したところ、いずれのπ電子共役系分子においても、FETのチャネル形成領域を構成する材料として機能することが確認された。
【0131】
以上、本発明を、好ましい実施例に基づき説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において説明したπ電子共役系分子の合成方法は例示であり、適宜、変更することができるし、合成における出発物質も例示であり、適宜、変更、選択することができ、これによって、カルコゲン原子として、S(硫黄)以外にも、Se(セレン)、Te(テルル)等をπ電子共役系分子に導入することができる。
【0132】
また、電界効果型トランジスタの構造や構成材料も例示であり、適宜変更することができる。第1の構造を有するFETである、所謂ボトムゲート/トップコンタクト型FETの模式的な一部断面図を、図3の(B)に示す。このFETは、
(A)支持体11上に形成されたゲート電極12、
(B)ゲート電極12上に形成されたゲート絶縁層13、
(C)ゲート絶縁層13上に形成されたチャネル形成領域15及びチャネル形成領域延在部15A、並びに、
(D)チャネル形成領域延在部15A上に形成されたソース/ドレイン電極14、
を備えている。
【0133】
あるいは又、第2の構造を有するFETである、所謂トップゲート/トップコンタクト型FETの模式的な一部断面図を、図21の(A)に示す。このFETは、
(A)支持体11上に形成されたチャネル形成領域15及びチャネル形成領域延在部15A、
(B)チャネル形成領域延在部15A上に形成されたソース/ドレイン電極14、
(C)ソース/ドレイン電極14及びチャネル形成領域15上に形成されたゲート絶縁層13、並びに、
(D)ゲート絶縁層13上に形成されたゲート電極12、
を備えている。
【0134】
あるいは又、第4の構造を有するFETである、所謂トップゲート/ボトムコンタクト型FETの模式的な一部断面図を、図21の(B)に示す。このFETは、
(A)支持体11上に形成されたソース/ドレイン電極14、
(B)支持体11上に形成されたチャネル形成領域15、及び、ソース/ドレイン電極14上に形成されたチャネル形成領域延在部15A、
(C)チャネル形成領域15及びチャネル形成領域延在部15A上に形成されたゲート絶縁層13、並びに、
(D)ゲート絶縁層13上に形成されたゲート電極12、
を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】図1の(A)及び(B)は、ヘキサチオペンタセン(HTP)の結晶構造を示す図であり、図1の(A)はc軸投影図であり、図1の(B)はa軸投影図である。
【図2】図2は、実施例1にて得られたヘキサチオペンタセンに基づきチャネル形成領域を形成した薄膜トランジスタの電気特性を測定した結果を示すグラフである。
【図3】図3の(A)は、実施例1のボトムゲート/ボトムコンタクト型電界効果型トランジスタの模式的な一部断面図であり、図3の(B)は、電界効果型トランジスタの変形例の1つであるボトムゲート/トップコンタクト型電界効果型トランジスタの模式的な一部断面図である。
【図4】図4は、実施例2におけるBMDT−TTFの合成方法におけるスキーム1を示す図である。
【図5】図5の(A)及び(B)は、実施例2にて得られたBMDT−TTFの結晶構造を示す図であり、図5の(A)はa軸投影図であり、図5の(B)はc軸投影図である。
【図6】図6は、実施例2にて得られたBMDT−TTFのバンド解析結果を示す図である。
【図7】図7は、実施例2にて得られたBMDT−TTFに基づきチャネル形成領域を形成した薄膜トランジスタの電気特性を測定した結果を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例3におけるC99の合成方法におけるスキーム2を示す図である。
【図9】図9は、実施例3におけるC99のマススペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図10】図10の(A)及び(B)は、実施例3にて得られたC99の結晶構造を示す図であり、図10の(A)は(−202)面の法線投影図であり、図10の(B)は[101]投影図である。
【図11】図11は、実施例3にて得られたC99のバンド解析結果を示す図である。
【図12】図12は、実施例4における構造式(1’)にて表されるπ電子共役系分子の合成方法におけるスキームを示す図である。
【図13】図13は、実施例4における構造式(2’)にて表されるπ電子共役系分子の合成方法におけるスキームを示す図である。
【図14】図14は、実施例4における構造式(4’)にて表されるπ電子共役系分子の合成方法におけるスキームを示す図である。
【図15】図15は、実施例4における構造式(5’)にて表されるπ電子共役系分子の合成方法におけるスキームを示す図である。
【図16】図16は、実施例4における構造式(6’)にて表されるπ電子共役系分子の合成方法におけるスキームを示す図である。
【図17】図17は、実施例4における構造式(7’)にて表されるπ電子共役系分子の合成方法におけるスキームを示す図である。
【図18】図18は、実施例4における構造式(8’)にて表されるπ電子共役系分子の合成方法におけるスキームを示す図である。
【図19】図19は、実施例4における構造式(10)にて表されるπ電子共役系分子の合成方法におけるスキームを示す図である。
【図20】図19は、実施例4における構造式(11)にて表されるπ電子共役系分子の合成方法におけるスキームを示す図である。
【図21】図21の(A)は、電界効果型トランジスタの別の変形例であるトップゲート/トップコンタクト型電界効果型トランジスタの模式的な一部断面図であり、図21の(B)は、電界効果型トランジスタの更に別の変形例であるトップゲート/ボトムコンタクト型電界効果型トランジスタの模式的な一部断面図である。
【図22】図22は、有機化合物結晶中における分子の積層構造であるスタック構造を示す図である。
【図23】図23は、有機化合物結晶中における分子の積層構造であるヘリングボーン構造を示す図である。
【符号の説明】
【0136】
11・・・支持体、12・・・ゲート電極、13・・・絶縁層、14・・・ソース/ドレイン電極、15・・・チャネル形成領域、15A・・・チャネル形成領域延在部、20・・・絶縁層、21・・・配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルコゲン原子を構成要素として含むπ電子共役系分子から成る有機化合物結晶であって、
π電子共役系分子におけるカルコゲン原子と、該π電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子との間の距離が短く、
π電子共役系分子同士が相互に2次元的若しくは3次元的に連結された周期構造を有することを特徴とする有機化合物結晶。
【請求項2】
π電子共役系分子におけるカルコゲン原子のファンデルワールス半径をr1とし、該π電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子のファンデルワールス半径をr2としたとき、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xi)と、該π電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xj)とにおいて、少なくとも1組のカルコゲン原子(Xi,Xj)の間の距離Rijは、
ij≦(r1+r2)×1.1
を満足することを特徴とする請求項1に記載の有機化合物結晶。
【請求項3】
カルコゲン原子はπ電子共役系に含まれることを特徴とする請求項1に記載の有機化合物結晶。
【請求項4】
各π電子共役系分子において、カルコゲン原子はπ電子共役系分子の外周に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の有機化合物結晶。
【請求項5】
π電子共役系分子の分子量に対する総カルコゲン原子質量の割合は40%以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機化合物結晶。
【請求項6】
有機化合物結晶から成るチャネル形成領域を備えた電界効果型トランジスタであって、
該有機化合物結晶は、カルコゲン原子を構成要素として含むπ電子共役系分子から成り、
π電子共役系分子におけるカルコゲン原子と、該π電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子との間の距離が短く、
該有機化合物結晶は、π電子共役系分子同士が相互に2次元的若しくは3次元的に連結された周期構造を有することを特徴とする電界効果型トランジスタ。
【請求項7】
π電子共役系分子におけるカルコゲン原子のファンデルワールス半径をr1とし、該π電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子のファンデルワールス半径をr2としたとき、π電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xi)と、該π電子共役系分子に隣接するπ電子共役系分子におけるカルコゲン原子(Xj)とにおいて、少なくとも1組のカルコゲン原子(Xi,Xj)の間の距離Rijは、
ij≦(r1+r2)×1.1
を満足することを特徴とする請求項6に記載の電界効果型トランジスタ。
【請求項8】
カルコゲン原子はπ電子共役系に含まれることを特徴とする請求項6に記載の電界効果型トランジスタ。
【請求項9】
各π電子共役系分子において、カルコゲン原子はπ電子共役系分子の外周に配置されていることを特徴とする請求項6に記載の電界効果型トランジスタ。
【請求項10】
π電子共役系分子の分子量に対する総カルコゲン原子質量の割合は40%以上であることを特徴とする請求項6に記載の電界効果型トランジスタ。
【請求項11】
チャネル形成領域が、下記の一般式(1)[但し、X1、X2、X3及びX4は、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする電界効果型トランジスタ。

【請求項12】
チャネル形成領域が、下記の一般式(2)[但し、X1、X2、X3及びX4は、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする電界効果型トランジスタ。

【請求項13】
チャネル形成領域が、下記の一般式(3)[但し、X1、X2、X3及びX4は、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする電界効果型トランジスタ。

【請求項14】
チャネル形成領域が、下記の一般式(4)[但し、X1、X2、X3及びX4は、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする電界効果型トランジスタ。

【請求項15】
チャネル形成領域が、下記の一般式(5)[但し、X1、X2、X3及びX4は、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする電界効果型トランジスタ。

【請求項16】
チャネル形成領域が、下記の一般式(6)[但し、X1、X2、X3及びX4は、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする電界効果型トランジスタ。

【請求項17】
チャネル形成領域が、下記の一般式(7)[但し、X1及びX2は、酸素原子、硫黄原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする電界効果型トランジスタ。

【請求項18】
チャネル形成領域が、下記の一般式(8)[但し、X1及びX2は、酸素原子、硫黄原子のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする電界効果型トランジスタ。

【請求項19】
チャネル形成領域が、下記の一般式(9)で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする電界効果型トランジスタ。

【請求項20】
チャネル形成領域が、下記の一般式(10)で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする電界効果型トランジスタ。

【請求項21】
チャネル形成領域が、下記の一般式(11)[但し、R1、R2、R3及びR4は、水素原子、若しくは、炭素数が10以下のアルキル基のいずれかを表す]で表されるπ電子共役系分子から成ることを特徴とする電界効果型トランジスタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2006−5036(P2006−5036A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−177829(P2004−177829)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】