説明

有機圧電材料及び超音波探触子

【課題】圧電性や焦電性を持つ有機圧電材料として、特に、配向性が高く、かつ熱的に安定な有機圧電材料及びそれを用いた超音波探触子を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される繰り返し単位を、少なくとも1種類以上含む化合物を含有し、かつそのガラス転移温度が100℃以上、130℃以下であることを特徴とする有機圧電材料。


〔式中、Qは高分子主鎖を表す。Aはアルキレン基、オキシアルキレン基を表し、A、Aはメソゲン基を表す。Yはウレア基、チオウレア基、ウレタン基、チオウレタン基、アミド基、チオアミド基、カーボネート基、スルホンアミド基、スルホンジアミド基から選ばれる2価の連結基を表す。Zは、炭素数1〜25の脂肪族基、芳香族基及び複素環基から選ばれる基を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機圧電材料及び超音波探触子に関し、さらに詳しくは、メソゲン基を有する化合物を含有する有機圧電材料及びそれを用いた超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロホン、スピーカー用の振動板等の音響機器、各種熱センサー、圧力センサー、赤外性検出器等の測定機器、超音波探蝕子、遺伝子やタンパク等の変異を高感度に検出する振動センサー等、熱や機械刺激を電気エネルギーに変換するために用いることができる圧電性や焦電性を持つ有機圧電材料は知られている。
【0003】
圧焦電体としては、水晶、LiNbO、LiTaO、KNbOなどの単結晶、ZnO、AlNなどの薄膜、Pb(Zr,Ti)O系などの焼結体を分極処理した、いわゆる無機圧電材料が広く利用されている。しかしながら、これら無機材質の圧電材料は、弾性スティフネスが高く、機械的損失係数が高い、密度が高く誘電率も高いなどの特徴を持っている。
【0004】
一方でポリフッ化ビニリデン(以下「PVDF」と略す。)、ポリシアノビニリデン(以下「PVDCN」と略す。)等の有機圧電材料も開発されている(例えば、特許文献1参照)。この有機圧電材料は、薄膜化、大面積化等の加工性に優れ、任意の形状、形態の物が作ることができ、弾性率が低い、誘電率が低い等の特徴を持つため、センサーとしての使用を考えたときに、高感度な検出を可能とする特徴を持っている。一方で有機圧電材料は、耐熱性が低く高い温度ではその圧焦電特性を失うほか、弾性スティフネスなどの物性も大きく減じるため使用できる温度域に限界があった。
【0005】
このような限界に対して、ウレア結合から構成されるポリウレア樹脂組成物は、ウレア結の双極子モーメントが大きく、樹脂としての温度特性に優れるため、有機圧電材料として種々の検討が行われてきた。例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)のようなジイソシアネート化合物と4,4′−ジアミノジフェニルメタン(MDA)のようなジアミン化合物を同時に蒸発させてポリ尿素膜を形成する、いわゆる蒸着重合法が開示されている(例えば、特許文献2、3参照)。しかしながら、これらに記載されている蒸着重合法で作製するポリウレア樹脂組成物は、生成するオリゴマー又は高分子量体の分子量が不均一であるため、分極処理を施しながら高分子量化を行った場合、配向が十分でない状態でポリウレア樹脂組成物が形成される。このため、ウレア結合の双極子モーメントを十分に活用できず、有機圧電材料としては、更なる改善が求められていた。
【0006】
強誘電性液晶化合物を圧電材料に利用した報告があるが(例えば、特許文献4、5参照)、これまでの報告では液晶分子内の分極基の種類が限られており、自発分極や圧電性が十分ではなく、圧電材料として要求される性能を満たすものはまだ見つかっていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−216422号公報
【特許文献2】特開平2−284485号公報
【特許文献3】特開平5−311399号公報
【特許文献4】特開平7−115230号公報
【特許文献5】特開平8−254691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧電特性に優れ、熱や機械刺激を電気エネルギーに変換することができる圧電性や焦電性を持つ有機圧電材料として、特に、配向性が高く、かつ熱的に安定な有機圧電材料及びそれを用いた超音波探触子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
1.下記一般式(1)で表される繰り返し単位を、少なくとも1種類以上含む化合物を含有し、かつそのガラス転移温度が100℃以上、130℃以下であることを特徴とする有機圧電材料。
【0010】
【化1】

【0011】
〔式中、Qは高分子主鎖を表す。Aはアルキレン基、オキシアルキレン基またはメソゲン基を表し、Aはメソゲン基を表す。Yはウレア基、チオウレア基、ウレタン基、チオウレタン基、アミド基、チオアミド基、カーボネート基、スルホンアミド基、スルホンジアミド基から選ばれる2価の連結基を表す。Zは、炭素数1〜25の脂肪族基、芳香族基及び複素環基から選ばれる基を表す。〕
2.前記一般式(1)におけるYが、ウレア基、チオウレア基、チオウレタン基、アミド基、チオアミド基、スルホンアミド基、スルホンジアミド基であり、電気機械結合定数が0.2以上、0.4以下であることを特徴とする1に記載の有機圧電材料。
3.前記一般式(1)におけるZが、不斉炭素を含む置換基であることを特徴とする1又は2に記載の有機圧電材料。
4.前記一般式(1)で表される化合物と、低分子液晶化合物を含有することを特徴とする1〜3のいずれか1項に記載の有機圧電材料。
5.前記低分子液晶化合物が下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする4に記載の有機圧電材料。
【0012】
【化2】

【0013】
〔式中、R21は炭素数1から20の脂肪族基を表し、Xは単結合又は酸素原子を表す。A21はメソゲン基を表し、Zは、炭素数1〜25の脂肪族基、芳香族基及び複素環基から選ばれる基を表す。〕
6.前記一般式(2)におけるZが不斉炭素を含む置換基であることを特徴とする5に記載の有機圧電材料。
7.超音波送信用振動子と、1〜6のいずれか1項に記載の有機圧電材料を用いた超音波振動子を超音波受信用振動子として具備した超音波探触子であることを特徴とする超音波探触子。
8.7に記載の超音波探触子を具備することを特徴とする超音波画像検出装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、圧電特性に優れ、熱や機械刺激を電気エネルギーに変換することができる圧電性や焦電性を持つ有機圧電材料として、特に、配向性が高く、かつ熱的に安定な有機圧電材料と、それを用いた超音波探触子を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】超音波医用画像診断装置の主要部の構成を示す概念図である。
【図2】超音波探触子の例の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0017】
本発明は、一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上含む化合物を使用することで、圧電性や焦電性に優れ、従来の課題を改善した有機圧電材料を提供できる。また、一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上含む化合物を含有することを特徴とする本発明の圧電体膜は、配向性が高く、圧電性、焦電性に優れるだけではなく、熱的にも安定であることから、汎用性の高い膜として有効に利用できる。
【0018】
〈一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上含む化合物〉
一般式(1)において、Qは高分子主鎖部を表し、例えば、(Q−1)〜(Q−11)から選ばれる少なくとも1つが挙げられる。尚、*はAとの結合点を表す。
【0019】
【化3】

【0020】
Qとして好ましくは、(Q−1)、(Q−2)、(Q−5)、(Q−6)、(Q−11)であり、より好ましくは、(Q−1)、(Q−5)、(Q−11)である。
【0021】
はアルキレン基、オキシアルキレン基を表す。Aとしては、アルキレン基の場合、炭素数が1〜10の直鎖状もしくは分枝状のアルキレン基が好ましく、オキシアルキレン基の場合、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基が1〜5個連結した基が好ましい。
【0022】
はメソゲン基を表す。本発明におけるメソゲン基とは、液晶性を示す化合物に必須な剛直なユニットであり、環構造を直接或いは結合基で2つ以上連結したものをいう。
【0023】
で表されるメソゲン基は、例えば、次の式(A−1)〜(A−49)で表される基である。なお式中のベンゼン環の炭素の一部が窒素、ハロゲン、水酸基に置き換わっている場合も含む。
【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
【化7】

【0028】
【化8】

【0029】
(A−1)〜(A−49)において、A及びYは前記一般式(1)におけるA及びYと同義である。Wは−COO−、−COS−、−CO−、−O−、−S−、−NHCONH−、−NHCSNH−、−CONH−、−NHCOO−、−NHCOS−、−SO−NH−、−NHSONH−、−OCOO−を表す。なお同一分子内の複数のWは同じでも異なっていてもよい。
【0030】
好ましいメソゲン基としては、次の式(a−1)〜(a−33)である。
【0031】
【化9】

【0032】
【化10】

【0033】
【化11】

【0034】
前記一般式(1)におけるYは、ウレア基、チオウレア基、ウレタン基、チオウレタン基、アミド基、チオアミド基、カーボネート基、スルホンアミド基、スルホンジアミド基から選ばれる2価の連結基を表す。
【0035】
Yとして好ましくは、ウレア基、チオウレア基、スルホンジアミド基であり、より好ましくは、チオウレア基、スルホンジアミド基である。
【0036】
前記一般式(1)におけるZは、脂肪族基、芳香族基、複素環基から選ばれる基を表す。本明細書における「脂肪族基」とは、それぞれ置換または無置換の、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、シクロアルキル基を表す。具体的には、炭素数1〜25のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基等)、ハロゲン化アルキル基(トリフルオロメチル基、パーフルオロオクチル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基等)を挙げることができる。
【0037】
芳香族基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、複素環基の具体例としては、ピリジル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、イミダゾリル基、フリル基、ピロリル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、セレナゾリル基、スリホラニル基、ピペリジニル基、ピラゾリル基、テトラゾリル基等を挙げることができる。
【0038】
これらの基はさらに他の置換基、例えば、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基等)、アルコキシカルボニル基(メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(フェニルオキシカルボニル基等)、アシル基(アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘキサノイル基、シクロヘキサノイル基、ベンゾイル基、ピリジノイル基等)、カルバモイル基(アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、アミド基(アセトアミド基、プロピオンアミド基、ブタンアミド基、ヘキサンアミド基、ベンズアミド基等)、スルホニル基(メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、フェニルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、アニリノ基、2−ピリジルアミノ基等)、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の置換基で置換されていてもよい。
【0039】
Zとして、好ましくは、不斉炭素を含む置換基を表し、不斉炭素を少なくとも一つ以上含む置換基であれば、特に制限はされないが、好ましくは、下記一般式(3)又は一般式(4)で表される置換基である。
【0040】
【化12】

【0041】
一般式(3)において、*は不斉炭素原子を表す。R41、R42、R43はそれぞれ水素原子又は置換基を表すが、それぞれが同一の基になることはない。
【0042】
41、R42、R43で表される置換基の例としては、炭素数1〜25のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、ハロゲン化アルキル基(トリフルオロメチル基、パーフルオロオクチル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基等)、アルキニル基(プロパルギル基等)、グリシジル基、アクリレート基、メタクリレート基、芳香族基(フェニル基等)、複素環基(ピリジル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、イミダゾリル基、フリル基、ピロリル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、セレナゾリル基、スリホラニル基、ピペリジニル基、ピラゾリル基、テトラゾリル基等)、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基等)、アルコキシカルボニル基(メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(フェニルオキシカルボニル基等)、スルホンアミド基(メタンスルホンアミド基、エタンスルホンアミド基、ブタンスルホンアミド基、ヘキサンスルホンアミド基、シクロヘキサンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基等)、スルファモイル基(アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、ウレタン基(メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、フェニルウレイド基、2−ピリジルウレイド基等)、アシル基(アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘキサノイル基、シクロヘキサノイル基、ベンゾイル基、ピリジノイル基等)、カルバモイル基(アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、アミド基(アセトアミド基、プロピオンアミド基、ブタンアミド基、ヘキサンアミド基、ベンズアミド基等)、スルホニル基(メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、フェニルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、アニリノ基、2−ピリジルアミノ基等)、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、オキザモイル基等を挙げることができる。また、これらの基はさらにこれらの基で置換されていてもよい。
【0043】
41として好ましくは炭素数1から6のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はハロゲン原子であり、更に好ましくは、メチル基、トリフルオロメチル基、フッ素原子である。R42として好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基等である。R43として好ましくは水素原子である。
【0044】
【化13】

【0045】
一般式(4)において、*は不斉炭素原子を表す。R51、R52、R53、R54、R55はそれぞれ水素原子又は置換基を表すが、R51とR53、及びR52とR54とR55が同一の基になることはない。R51、R52、R53、R54、R55で表される置換基の例としては、前記一般式(3)におけるR41、R42、R43で表される置換基の具体例として挙げた置換基が挙げられる。
【0046】
51として好ましくは炭素数1から6のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はハロゲン原子であり、更に好ましくは、メチル基、トリフルオロメチル基、フッ素原子である。R53として好ましくは水素原子である。R52として好ましくは、炭素数1から12のアルキル基、または一般式(4)で示される構造である。R54として好ましくは、炭素数1から6のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はハロゲン原子であり、更に好ましくは、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、フッ素原子である。R55として好ましくは、水素原子又はフッ素原子である。
【0047】
以下に一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上含むポリマーの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0048】
【化14】

【0049】
【化15】

【0050】
【化16】

【0051】
【化17】

【0052】
【化18】

【0053】
【化19】

【0054】
【化20】

【0055】
【化21】

【0056】
【化22】

【0057】
【化23】

【0058】
【化24】

【0059】
【化25】

【0060】
【化26】

【0061】
【化27】

【0062】
【化28】

【0063】
【化29】

【0064】
一般式(1)で表される化合物は、公知の手法により合成することができる。具体的な合成例としては、特開平2−124995号明細書、特開平2−232208号明細書、特開平5−132558号明細書、第5版実験化学講座14巻高分子化学;428ページ〜430ページ(丸善)などに記載の方法を参照して合成することができる。
【0065】
〈低分子液晶化合物〉
また、本発明の有機圧電材料は、前記一般式(1)で表される繰り返し単位を1種類以上含む化合物と、低分子液晶化合物とを含有することが好ましい。
【0066】
本発明における低分子液晶化合物とは、一般に高分子液晶と呼ばれる高分子重合体とは異なるものと定義し、好ましくは分子量が、100〜1,000のものをさす。低分子液晶は、いかなるフェーズであってもよいが、好ましくはネマチック相、スメクチック相を示す場合である。
【0067】
液晶性化合物の具体例としては、「分子構造と液晶性」(液晶便覧編集委員会編、液晶便覧、丸善、2000年)の第3章に記載されている液晶や、「液晶デバイスハンドブック」(日本学術振興会第142委員会編、日刊工業新聞社、1989年)の第154〜192頁及び第715〜722頁に記載されているものなどが挙げられる。
【0068】
本発明において、低分子液晶化合物として好ましくは強誘電性分子液晶化合物である。強誘電性低分子液晶化合物の例としては、たとえばシッフ塩基系強誘電性液晶、アゾ系強誘電性液晶、アゾキシ系強誘電性液晶、ビフェニル系強誘電性液晶、エステル系強誘電性液晶、もしくはフェニルピリミジン系強誘電性液晶など、ハロゲン、シアノ基などの環置換基を導入した強誘電性低分子液晶化合物、複素環を有する強誘電性低分子液晶化合物などを挙げることができる。具体的には、特開平5−261180号公報の段落番号0024〜0027に記載されている化合物(1)〜(13)等を挙げることができる。
【0069】
なお、これらの化合物は低分子液晶化合物の代表的なものであり、本発明に用いることのできる低分子液晶化合物はなんらこれらの構造に限定されるものでない。また、これらの低分子液晶化合物は、一種単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0070】
〈一般式(2)で表される化合物〉
本発明に使用する低分子液晶化合物として、更に好ましくは一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0071】
一般式(2)において、R21は炭素数1から20の脂肪族基を表す。本明細書において、脂肪族基とは、それぞれ置換または無置換の、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アラルキル基を意味する。
【0072】
21で表される脂肪族基の具体例としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数5〜10のシクロアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数7〜20のアラルキル基等が挙げられる。これらの基は任意の個所に置換基又はハロゲン原子を有してもよく、該置換基の具体例としては、アルキル基、シアノ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルボオキシ基、芳香族基、ヘテロ環、アリールオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基が挙げられる。
【0073】
21で表される脂肪族基として、好ましくは、炭素数1〜20のアルキル基であり、更に好ましくは、炭素数4〜20のアルキル基である。
【0074】
Xは単結合又は酸素原子を表す。本発明において、単結合とは、R21とA21が直接結合することを表す。
【0075】
21はメソゲン基を表す。A21で表されるメソゲン基としては、前記一般式(1)におけるAで表されるメソゲン基と同義である。(Wも含み、同義である。)
は炭素数1〜25のアルキル基、シクロアルキル基、芳香族基及び複素環基から選ばれる基を表す。炭素数1〜25のアルキル基の例としては、(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基等)、ハロゲン化アルキル基(トリフルオロメチル基、パーフルオロオクチル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基等)、芳香族基(フェニル基、ナフチル基等)、複素環基(ピリジル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、イミダゾリル基、フリル基、ピロリル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、セレナゾリル基、スリホラニル基、ピペリジニル基、ピラゾリル基、テトラゾリル基等)等を挙げることができる。また、これらの基はさらに他の置換基、例えば、ハロゲン原子(塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子等)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基等)、アルコキシカルボニル基(メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(フェニルオキシカルボニル基等)、アシル基(アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘキサノイル基、シクロヘキサノイル基、ベンゾイル基、ピリジノイル基等)、カルバモイル基(アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、アミド基(アセトアミド基、プロピオンアミド基、ブタンアミド基、ヘキサンアミド基、ベンズアミド基等)、スルホニル基(メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、フェニルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、アニリノ基、2−ピリジルアミノ基等)、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の置換基で置換されていてもよい。
【0076】
として、好ましくは不斉炭素を含む置換基である。Zで表される不斉炭素を含む置換基は、不斉炭素を少なくとも一つ以上含む基であれば、特に制限はされないが、好ましくは、下記一般式(5)又は一般式(6)で表される置換基である。
【0077】
【化30】

【0078】
一般式(5)において、*は不斉炭素原子を表す。R61、R62及びR63は水素原子又は置換基を表すが、それぞれが同一の基になることはない。R61、R62及びR63で表される置換基の具体例としては、前記一般式(3)におけるR41、R42及びR43で表される置換基の例として挙げた置換基が挙げられる。
【0079】
61として好ましくは炭素数1から6のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はハロゲン原子であり、更に好ましくは、メチル基、トリフルオロメチル基、フッ素原子である。R62として好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基等である。Rとして好ましくは水素原子である。
【0080】
【化31】

【0081】
一般式(6)において、*は不斉炭素原子を表す。R71、R72、R73、R74及びR75はそれぞれ水素原子又は置換基を表すが、R71とR73、及びR72、R74及びR75が同一の基になることはない。R71、R72、R73、R74及びR75で表される置換基の具体例としては、前記一般式(3)におけるR41、R42及びR43で表される置換基の例として挙げた置換基が挙げられる。
【0082】
71として好ましくは炭素数1から6のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はハロゲン原子であり、更に好ましくは、メチル基、トリフルオロメチル基、フッ素原子である。R72として好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基等である。R73として好ましくは水素原子である。R74として好ましくは、炭素数1から6のアルキル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、又はハロゲン原子であり、更に好ましくは、メチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、フッ素原子である。R75として好ましくは、水素原子又はフッ素原子である。
【0083】
一般式(2)で表される化合物は、公知の手法により合成することができる。例えば、特開昭61−47427号明細書、特開平5−119304号明細書などに記載の方法を参照して合成することができる。
【0084】
以下に一般式(2)で化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0085】
【化32】

【0086】
【化33】

【0087】
本発明において、前記一般式(1)で表される繰り返し単位を1種類以上含む化合物と、低分子液晶化合物又は一般式(2)で表される化合物との混合比率としては、好ましくは、一般式(1)で表される繰り返し単位を1種類以上含む化合物に対する低分子液晶化合物又は一般式(2)で表される化合物の割合が0〜50%、より好ましくは、0〜30%である。50%以上であると製膜性が劣化し、耐熱性にも問題が生じるため好ましくない。
【0088】
〈有機圧電材料〉
本発明の有機圧電材料は、一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上含む化合物を含有する膜を形成することにより、或いは、一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上含む化合物と一般式(2)で表される化合物とを含有する膜を形成することにより、或いは、概膜に対して、更に分極処理を施すことにより、有機圧電体膜を形成することができる。
【0089】
有機圧電体膜は、当該圧電体膜に応力が加わると、それに比例して当該圧電体膜の両端面に反対符号の電荷が現れる、すなわち電気分極という現象を生じ、逆に該圧電材料を伝場に入れる(電界を加える)ことで、それに比例した歪みを生じるという性質(圧電性能)を有する。特に本発明の有機圧電材料よりなる有機圧電体膜にあっては、一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上含む化合物の側鎖の双極子モーメントの配向凍結による分極により大きな圧電効果が生じる。
【0090】
一方、当該圧電体膜にエネルギー(熱)が加わると、それに対応して当該圧電体膜内部の自発分極の大きさが変化する。このとき、当該圧電体膜表面に自発分極を中和するように存在する表面電荷は、上記自発分極ほどにすばやくエネルギー変化に対応できないことから、短時間の間ではあるが、圧電体膜表面には自発分極の変化分だけ電荷が存在することになる。このエネルギー変化に伴う電気の発生を焦電性というが、特に本発明の有機圧電材料よりなる有機圧電体膜にあっては、高分子の主鎖や側鎖の双極子モーメントの配向凍結による分極により大きな焦電性能が生じる。
【0091】
(有機圧電体膜の形成方法)
有機圧電体膜の形成は、塗布によって膜を形成する方法が好ましい。塗布方法として、例えば、スピンコート法、ソルベントキャスト法、メルトキャスト法、メルトプレス法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、バーコート法等が挙げられる。
【0092】
本発明において、好ましくは、一般式(1)で表される化合物が液晶相を示す温度範囲で、又は一般式(2)で表される化合物が液晶相を示す温度範囲で塗布又は成膜することが好ましく、また、形成された膜に後述する分極処理を更に行ってもよい。
【0093】
(分極処理)
本発明に係る分極処理における分極処理方法としては、従来公知の種々の方法が適用され得る。
【0094】
例えば、コロナ放電処理法による場合には、コロナ放電処理は、市販の高電圧電源と電極からなる装置を使用して処理することができる。
【0095】
放電条件は、機器や処理環境により異なるので適宜条件を選択することが好ましいが、高電圧電源の電圧としては−1〜−20kV、電流としては1〜80mA、電極間距離としては、1〜10cmが好ましく、印加電圧は、0.5〜2.0MV/mであることが好ましい。
【0096】
電極としては、従来から用いられている針状電極、線状電極(ワイヤー電極)、網状電極が好ましいが、本発明ではこれらに限定されるものではない。
【0097】
またコロナ放電中に加熱を行うので、本発明により作製した基板が接触している電極の下部に絶縁体を介して、ヒーターを設置する必要がある。
【0098】
なお、本発明において塗布溶液の溶媒が残留している状態で、分極処理としてコロナ放電処理をする場合には、引火爆発などの危険性を避けるために溶媒の揮発成分が除去されるように十分換気しながら行うことが安全上必要である。
【0099】
(基板)
基板としては、本発明の有機圧電体膜の用途・使用方法等により基板の選択は異なる。ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィンポリマーのようなプラスチック板又はフィルムでもよいし、これらの素材の表面をアルミニウム、金、銅、マグネシウム、珪素等で覆ったものでもよい。またアルミニウム、金、銅、マグネシウム、珪素単体、希土類のハロゲン化物の単結晶の板又はフィルムでもかまわない。
【0100】
更に複層圧電素子の上に形成してもよい。圧電素子を積相する複層の使用方法においては、セラミック圧電素子の上に本発明の有機圧電体膜を電極を介して、重畳層する方法がある。セラミック圧電素子としては、PZTが使用されているが、近年は鉛を含まないものが推奨されている。PZTは、Pb(Zr1−XTi)O(0.47≦X≦1)の式の範囲以内であることが好ましく、脱鉛としては、天然又は人工の水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、ニオブサンタンタル酸カリウム[K(Ta,Nb)O]、チタン酸バリウム(BaTiO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、又はチタン酸ストロンチウム(SrTiO)等である。各種セラミック材料はその使用性能において組成を適宜選択することができる。
【0101】
〈超音波振動子〉
本発明に係る超音波振動子は、本発明の有機圧電材料を用いて形成した有機圧電体膜を用いたことを特徴とする。当該超音波振動子は、超音波送信用振動子と超音波送信用振動子を具備する超音波医用画像診断装置用探触子(プローブ)に用いられる超音波受信用振動子とすることが好ましい。
【0102】
なお、一般に、超音波振動子は膜状の圧電材料からなる層(又は膜)(「圧電膜」、「圧電体膜」、又は「圧電体層」ともいう。)を挟んで一対の電極を配設して構成され、複数の振動子を例えば1次元配列して超音波探触子が構成される。
【0103】
そして、複数の振動子が配列された長軸方向の所定数の振動子を口径として設定し、その口径に属する複数の振動子を駆動して被検体内の計測部位に超音波ビームを収束させて照射すると共に、その口径に属する複数の振動子により被検体から発する超音波の反射エコー等を受信して電気信号に変換する機能を有している。
【0104】
以下、本発明に係る超音波受信用振動子と超音波送信用振動子それぞれについて詳細に説明する。
【0105】
〈超音波受信用振動子〉
本発明に係る超音波受信用振動子は、超音波医用画像診断装置用探触子に用いられる振動子であって、それを構成する圧電材料として、本発明の有機圧電材料を用いて形成した有機圧電体膜を用いたことを特徴とする。
【0106】
なお、超音波受信用振動子に用いる有機圧電材料ないし有機圧電体膜は、厚み共振周波数における比誘電率が10〜50であることが好ましい。比誘電率の調整は、当該有機圧電材料を構成する化合物が有する前記置換基R、CF基、CN基のような極性官能基の数量、組成、重合度等の調整、及び上記の分極処理によって行うことができる。
【0107】
〈超音波送信用振動子〉
本発明に係る超音波送信用振動子は、上記受信用振動子との関係で適切な比誘電率を有する圧電体材料により構成されることが好ましい。また、耐熱性・耐電圧性に優れた圧電材料を用いることが好ましい。
【0108】
超音波送信用振動子構成用材料としては、公知の種々の有機圧電材料及び無機圧電材料を用いることができる。
【0109】
有機圧電材料としては、上記超音波受信用振動子構成用有機圧電材料と同様の高分子材料を用いることできる。
【0110】
無機材料としては、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、ニオブ酸タンタル酸カリウム[K(Ta,Nb)O]、チタン酸バリウム(BaTiO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、又はチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸バリウムストロンチウム(BST)等を用いることができる。尚、PZTはPb(Zr1−nTi)O(0.47≦n≦1)が好ましい。
【0111】
〈電極〉
本発明に係る圧電(体)振動子は、圧電体膜(層)の両面上又は片面上に電極を形成し、その圧電体膜を分極処理することによって作製されるものである。当該電極は、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)などを主体とした電極材料を用いて形成する。
【0112】
電極の形成に際しては、まず、チタン(Ti)やクロム(Cr)などの下地金属をスパッタ法により0.02〜1.0μmの厚さに形成した後、上記金属元素を主体とする金属及びそれらの合金からなる金属材料、さらには必要に応じ一部絶縁材料をスパッタ法、その他の適当な方法で1〜10μmの厚さに形成する。これらの電極形成はスパッタ法以外でも微粉末の金属粉末と低融点ガラスを混合した導電ペーストをスクリーン印刷やディッピング法、溶射法で形成することもできる。
【0113】
さらに、圧電体膜の両面に形成した電極間に、所定の電圧を供給し、圧電体膜を分極することで圧電素子が得られる。
【0114】
(超音波探触子)
本発明に係る超音波探触子は、超音波送信用振動子と超音波受信用振動子を具備する超音波画像診断装置用探触子(プローブ)であり、受信用振動子として、本発明に係る上記超音波受信用振動子を用いることを特徴とする。
【0115】
本発明においては、超音波の送受信の両方をひとつの振動子で担ってもよいが、より好ましくは、送信用と受信用で振動子は分けて探触子内に構成される。
【0116】
送信用振動子を構成する圧電材料としては、従来公知のセラミックス無機圧電材料でも、有機圧電材料でもよい。
【0117】
本発明に係る超音波探触子においては、送信用振動子の上もしくは並列に本発明の超音波受信用振動子を配置することができる。
【0118】
より好ましい実施形態としては、超音波送信用振動子の上に本発明の超音波受信用振動子を積層する構造が良く、その際には、本発明の超音波受信用振動子は他の高分子材料(支持体として上記の比誘電率が比較的低い高分子(樹脂)フィルム、例えば、ポリエステルフィルム)の上に添合した形で送信用振動子の上に積層してもよい。その際の受信用振動子と他の高分子材料と合わせた膜厚は、探触子の設計上好ましい受信周波数帯域に合わせることが好ましい。実用的な超音波医用画像診断装置および生体情報収集に現実的な周波数帯から鑑みると、その膜厚は、40〜150μmであることが好ましい。
【0119】
なお、当該探触子には、バッキング層、音響整合層、音響レンズなどを設けても良い。また、多数の圧電材料を有する振動子を2次元に並べた探触子とすることもできる。複数の2次元配列した探触子を順次走査して、画像化するスキャナーとして構成させることもできる。
【0120】
(超音波医用画像診断装置)
本発明に係る上記超音波探触子は、種々の態様の超音波診断装置に用いることができる。例えば、図1に示すような超音波医用画像診断装置において好適に使用することができる。
【0121】
図1は、本発明の実施形態の超音波医用画像診断装置の主要部の構成を示す概念図である。この超音波医用画像診断装置は、患者などの被検体に対して超音波を送信し、被検体で反射した超音波をエコー信号として受信する圧電体振動子が配列されている超音波探触子(プローブ)を備えている。また当該超音波探触子に電気信号を供給して超音波を発生させるとともに、当該超音波探触子の各圧電体振動子が受信したエコー信号を受信する送受信回路と、送受信回路の送受信制御を行う送受信制御回路を備えている。
【0122】
更に、送受信回路が受信したエコー信号を被検体の超音波画像データに変換する画像データ変換回路を備えている。また当該画像データ変換回路によって変換された超音波画像データでモニタを制御して表示する表示制御回路と、超音波医用画像診断装置全体の制御を行う制御回路を備えている。
【0123】
制御回路には、送受信制御回路、画像データ変換回路、表示制御回路が接続されており、制御回路はこれら各部の動作を制御している。そして、超音波探触子の各圧電体振動子に電気信号を印加して被検体に対して超音波を送信し、被検体内部で音響インピーダンスの不整合によって生じる反射波を超音波探触子で受信する。
【0124】
なお、上記送受信回路が「電気信号を発生する手段」に相当し、画像データ変換回路が「画像処理手段」に相当する。
【0125】
上記のような超音波診断装置によれば、本発明の圧電特性及び耐熱性に優れかつ高周波・広帯域に適した超音波受信用振動子の特徴を生かして、従来技術と比較して画質とその再現・安定性が向上した超音波像を得ることができる。
【実施例】
【0126】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0127】
実施例1
(有機圧電体膜の作製)
あらかじめ表面にアルミ蒸着を行った25μmのポリイミドフィルムに、表1に示す、一般式(1)で表される化合物、又は低分子化合物及び一般式(2)で表される化合物を、乾燥膜圧が7μmになるように塗布し、乾燥し、有機圧電体膜−1〜有機圧電体膜−20を得た。
【0128】
同様にして、一般式(1)で表される化合物の代わりに、下記に示す比較−A、比較−B及び、比較−Cを用いて、比較有機圧電体膜A〜Cを作製した。
【0129】
【化34】

【0130】
(有機圧電体膜の評価)
得られた有機圧電体膜について、共振法により室温及び100℃まで加熱した状態で圧電特性の評価を行った。その結果を表1に示す。なお圧電特性は、比較有機圧電体膜−Aについて室温で測定した値を100%とした相対値として示す。
【0131】
【表1】

【0132】
尚、表1において、低分子液晶化合物又は一般式(2)で表される化合物の%表示は、一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも1種類以上含む化合物に対する低分子液晶化合物又は一般式(2)で表される化合物の質量%を表す。
【0133】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の化合物により形成された有機圧電体膜の圧電特性は、比較例に比べ優れていることが分かる。
【0134】
実施例2
(超音波探触子の作製と評価)
〈送信用超音波振動子の作製〉
成分原料であるCaCO、La、BiとTiO、および副成分原料であるMnOを準備し、成分原料については、成分の最終組成が(Ca0.97La0.03)Bi4.01Ti15となるように秤量した。
【0135】
次に、純水を添加し、純水中でジルコニア製メディアを入れたボールミルにて8時間混合し、十分に乾燥を行い、混合粉体を得た。得られた混合粉体を、仮成形し、空気中、800℃で2時間仮焼を行い仮焼物を作製した。
【0136】
次に、得られた仮焼物に純水を添加し、純水中でジルコニア製メディアを入れたボールミルにて微粉砕を行い、乾燥することにより圧電セラミックス原料粉末を作製した。微粉砕においては、微粉砕を行う時間および粉砕条件を変えることにより、それぞれ粒子径100nmの圧電セラミックス原料粉末を得た。
【0137】
それぞれ粒子径の異なる各圧電セラミックス原料粉末にバインダーとして純水を6質量%添加し、プレス成形して、厚み100μmの板状仮成形体とし、この板状仮成形体を真空パックした後、235MPaの圧力でプレスにより成形した。
【0138】
次に、上記の成形体を焼成した。
【0139】
最終焼結体の厚さは20μmの焼結体を得た。
【0140】
なお、焼成温度は、それぞれ1100℃であった。1.5×Ec(MV/m)以上の電界を1分間印加して分極処理を施した。
【0141】
〈受信用超音波振動子の作製〉
前記実施例1において作製した有機圧電体膜−1と厚さ50μmのポリエステルフィルムをエポキシ系接着剤にて貼り合わせた圧電材料1を作製した。
【0142】
その後、上記と同様に電極を設け、分極処理を行い、受信用超音波振動子1を作製した。
【0143】
その他の有機圧電体膜2〜20および比較有機圧電体膜A〜Cについても同様にして、受信用超音波振動子2〜20および比較受信用超音波振動子A〜Cを作製した。
【0144】
(超音波探触子)
次に、常法に従って、上記の送信用超音波振動子の上に基板を設け、基板上に受信用超音波振動子を積層し、図1に示すように、バッキング層と音響整合層を設置し超音波探触子1を作製した。
【0145】
同様にして他の有機圧電体膜2〜20および比較圧電体膜A〜Cを用いて、超音波探触子2〜20および比較超音波探触子A〜Cを作製した。
【0146】
これらの超音波探触子1〜20および比較超音波探触子A〜Cを組み込んだ図2に示す構成を有する超音波画像検出装置を作製した。
【0147】
(受信感度の評価)
下記のようにして、受信感度を測定した。
【0148】
受信感度の測定は、各超音波探触子1〜20を駆動直後の受信感度を100としたとき、30分駆動後の相対受信感度を評価した。相対感度が基準の97%以上のときを○、95%以上97%未満を△、95%未満を×として評価した。
【0149】
なお、受信感度の条件としては、5MHzの基本周波数fを発信させ、受信2次高調波fとして10MHz、3次高調波として15MHz、4次高調波として20MHzの受信相対感度を求めこれを受信感度とした。
【0150】
受信相対感度は、ソノーラメディカルシステム社(Sonora Medical System,Inc:2021Miller Drive Longmont,Colorado(0501 USA))の音響強度測定システムModel805(1〜50MHz)を使用した。
【0151】
得られた結果を上記表1に示す。
【0152】
上記結果から、本発明の超音波振動子を具備した超音波探触子は、高い受信感度特性を有しており、配向性が高く、かつ熱的に安定な有機圧電材料であることが分かる。
【符号の説明】
【0153】
1 有機圧電材料
2 電極
5 送信用圧電材料
6 バッキング層
7 基板
8 音響整合層
9 音響レンズ
10 超音波振動子
11 受信用有機圧電材料
12 送信用超音波振動子
13 受信用超音波振動子
20 超音波探触子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を、少なくとも1種類以上含む化合物を含有し、かつそのガラス転移温度が100℃以上、130℃以下であることを特徴とする有機圧電材料。
【化1】

〔式中、Qは高分子主鎖を表す。Aはアルキレン基、オキシアルキレン基またはメソゲン基を表し、Aはメソゲン基を表す。Yはウレア基、チオウレア基、ウレタン基、チオウレタン基、アミド基、チオアミド基、カーボネート基、スルホンアミド基、スルホンジアミド基から選ばれる2価の連結基を表す。Zは、炭素数1〜25の脂肪族基、芳香族基及び複素環基から選ばれる基を表す。〕
【請求項2】
前記一般式(1)におけるYが、ウレア基、チオウレア基、チオウレタン基、アミド基、チオアミド基、スルホンアミド基、スルホンジアミド基であり、電気機械結合定数が0.2以上、0.4以下であることを特徴とする請求項1に記載の有機圧電材料。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるZが、不斉炭素を含む置換基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機圧電材料。
【請求項4】
前記一般式(1)で表される化合物と、低分子液晶化合物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機圧電材料。
【請求項5】
前記低分子液晶化合物が下記一般式(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項4に記載の有機圧電材料。
【化2】

〔式中、R21は炭素数1から20の脂肪族基を表し、Xは単結合又は酸素原子を表す。A21はメソゲン基を表し、Zは、炭素数1〜25の脂肪族基、芳香族基及び複素環基から選ばれる基を表す。〕
【請求項6】
前記一般式(2)におけるZが不斉炭素を含む置換基であることを特徴とする請求項5に記載の有機圧電材料。
【請求項7】
超音波送信用振動子と、請求項1〜6のいずれか1項に記載の有機圧電材料を用いた超音波振動子を超音波受信用振動子として具備した超音波探触子であることを特徴とする超音波探触子。
【請求項8】
請求項7に記載の超音波探触子を具備することを特徴とする超音波画像検出装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−232278(P2010−232278A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76011(P2009−76011)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】